図1~図11は、本発明の第1の実施形態を例示している。図において1が角度可変歯ブラシである。
図1(a)の正面図が示すように、角度可変歯ブラシ1は、長手方向の一端であり、図の左側端である先端T側にブラシ部2を備え、かつ、長手方向の他端であり、図の右側端である基端B側に棒状のハンドル部3を備える。符号Lを付した矢印は、ハンドル部3の軸方向を表わす。
角度可変歯ブラシ1は、図1(a)に示すように、ブラシ部2に植毛される複数の刷毛41~4nを有する。複数の刷毛41~4nを総称して符号4によって表わす。角度可変歯ブラシ1の使用者は、ハンドル部3を片方の手で把持するとともに、ブラシ部2を自らの口腔内に挿入して複数の刷毛4を歯牙や舌に当接させる。その状態で前記使用者は、ハンドル部3を略軸方向Lに往復動させ、または、略軸心を中心に回転させて歯牙や舌を清掃する。
角度可変歯ブラシ1は、ハンドル部3が先端T側に一対のブラケット3a,3aを有し、ブラシ部2は一対のブラケット3a,3aによって回転自在に軸支される。すなわち、ブラシ部2はハンドル部3の一端部に回転自在に枢着している。ブラシ部2の回転中心線C1は図1(a)(b)に直立する。これらにより、角度可変歯ブラシ1は、ハンドル部3の軸方向Lに対するブラシ部2の屈曲角度θ1を調整することができる。
図1(a)は屈曲していない状態を示す。また、図1(b)はブラシ部2が軸方向Lに対して、回転中心線C1を中心に図の時計回りCLに30度回転して屈曲した状態の正面断面における端面図を示す。すなわち、このときの屈曲角度θ1は30度である。
このとき、図1(b)の状態のようにブラシ部2を正面図の時計回りCLに屈曲させる回転を正回転とよび、他方で、正面図の反時計回りUCに屈曲させる回転を逆回転とよぶ。ブラシ部2は正逆両方の向きに回転することができる。よって、例えば屈曲角度θ1が30度を成すまで正回転することにより時計回りCLに屈曲した後、屈曲角度θ1が0度を成すまで逆回転することにより元の位置に復原することができる。
角度可変歯ブラシ1は、ブラシ部2から軸方向Lに沿って基端B向きに延伸するとともに、ブラシ部2と一体に形成される杆状の連結杆部材5を備える。そして、ブラシ部2が正回転した後、連結杆部材5の先端部5aが図1(b)のように屈曲角度θ1が30度を成す位置においてハンドル部3側に係着することにより、角度可変歯ブラシ1は屈曲角度30度を成す姿勢を保持することができる。
すなわち、所定の屈曲角度θ1が30度であるとき、角度可変歯ブラシ1はこの所定の屈曲角度を成す姿勢を保持することができる。
また、角度可変歯ブラシ1は、ハンドル部3に沿って軸方向Lに摺動可能なスライド部材6を備える。これにより、連結杆部材5は先端部5aにおいてスライド部材6を介してハンドル部3側に係着することができる。すなわち、連結杆部材5は、先端部5aがスライド部材6の先端T側端に軸着し、かつ、スライド部材6が以下で述べる手段によってハンドル部3に係止されることによってハンドル部3側に係着することができる。
このように、角度可変歯ブラシ1は構造が簡素であり、屈曲角度θ1の調整に関わる機構が簡素である。
図2(a)の正面図が示すように、ブラシ部2と連結杆部材5とは、図の左右に並ぶように一体に形成される。
ブラシ部2からは、図2(b)の平面図が示すように、それぞれ円柱状の一対の回転軸2a,2aが、角度可変歯ブラシ1の基端B寄りの位置から図の上下方向の上向き及び下向きに突出する。一対の回転軸2a,2aは、双方の軸心線が一致するとともに、ブラシ部2と一体に形成される。また、各回転軸2a,2aの軸心線はブラシ部2の回転中心線C1を構成する。
ブラシ部2は、図2(a)が示すような正面視上向きの平面に、複数の刷毛4が植毛される植毛面2bを有する。そして、ブラシ部2は図1(b)のように時計回りCLに回転する。すなわち、ブラシ部2は軸方向Lに対して植毛面2bの垂線方向上向きに屈曲する。
ブラシ部2はこのように屈曲することにより、使用者が角度可変歯ブラシ1を軸方向Lに動かすとき、複数の刷毛4が口腔の内部に軸方向Lに当接し、口腔の内部を擦って清掃することができる。例えば、使用者の奥歯の裏のように奥まった磨き難い箇所を清掃することができる。奥歯の裏のような奥まった箇所を複数の刷毛4で擦るため、屈曲角度θ1は15度以上30度以下が好ましい。15度未満のときは奥まった箇所に複数の刷毛4が届き難く、かつ、30度を超すときは曲がり過ぎて角度可変歯ブラシ1を動かし難い。
ブラシ部2は、図2(b)の平面図が示すように、複数の刷毛4が植毛されるスペースを広くとるために、図の左右方向に対して中央部が図の上下方向へ張出した形状を成している。
連結杆部材5は、角度可変歯ブラシ1の先端T向きの一端にヒンジ7を有する。連結杆部材5は、ブラシ部2との間に、図の下向きに開口し、かつ、ブラシ部2の基端B向きの外壁と、連結杆部材5の斜め下向きの外壁とに挟まれた形状の三角柱状の切り欠きを有する。この切り欠きの最深部が谷線7aを成す。その結果、連結杆部材5には先端T向きほど上下の高さが小さくなるようなネック部分が形成され、このネック部分がヒンジ7を構成する。
連結杆部材5は略長方形の横断面を有し、立方体の図2(a)において上を向く頂面5bが植毛面2bと面一に形成される。また、連結杆部材5の軸心及びその延長線によって構成される軸心線C2は、図が示すようにヒンジ7の谷線7aと略交差する。
その一方で、図2(a)の上下方向において回転中心線C1は、距離d1だけ軸心線C2の下に位置する。すなわち、図に直立する方向の回転中心線C1と、図の左右方向の軸心線C2とは、上下に離隔するため互いに交差しない。このように、連結杆部材5は回転中心線C1に対して偏心して配置されている。そのため、各回転軸2a,2aが回転自在であり、かつ、図の左右上下に移動しないように支持されているのに対して、連結杆部材5が軸心線C2方向に変位することによって、ブラシ部2は回転中心線C1を中心に回転することができる。
また、ブラシ部2及び連結杆部材5の材質は、ポリプロピレン樹脂である。ポリプロピレン樹脂は容易に撓むことのできる可撓性材料であるため、ブラシ部2と連結杆部材5とは、一体の状態を保ったまま柔軟に変形し、ヒンジ7において谷線7aを中心に折れ曲がることができる。
しかも、ヒンジ7において必要な角度だけ変形するため、応力が他の特定の箇所に集中することが少ない。
連結杆部材5の図2(a)における右向きの先端に位置する先端部5aは、図の上向きに開口する正面視略C字形状に形成される。このC字形状部分が後で述べるスライド部材6の一部に回転自在に係着し、先端部5aがスライド部材6に軸着する。
以上の構成により、図1(a)の状態から図1(b)の状態へとブラシ部2が正回転する場合、および、図1(b)の状態から図1(a)の状態へとブラシ部2が逆回転する場合でも、ヒンジ7は、ブラシ部2及び連結杆部材5の相対的な位置関係に追従して変形することができる。そのため、ブラシ部2がこれらのような回転をする場合でも、ブラシ部2及び連結杆部材5が破壊して分離してしまうことがない。このように、角度可変歯ブラシ1は、簡素な構造や機構であっても、ブラシ部2及び連結杆部材5の破損を低減することができる。
さらに、ブラシ部2並びに回転軸2a,2a、および、ブラシ部2並びに連結杆部材5はいずれも一体に形成される。例えば、ポリプロピレン樹脂を射出成形機により成形してもよい。そのため、こうしたブラシ部、回転軸及び連結杆部材をそれぞれ別体に加工した後に組み立てる必要がなく、製造工程を簡略化することが可能となる。
なお、ブラシ部2及び連結杆部材5の材質は、例えばエラストマーのようなポリプロピレン樹脂よりも可撓性の高い材質でもよい。また、ブラシ部2と連結杆部材5とが一体の状態を保ったまま柔軟に変形し、ヒンジ7において谷線7aを中心に折れ曲がることができれば、これら以外でもよい。こうした一定の柔軟性を有していれば、例えば飽和ポリエステル樹脂のようにポリプロピレン樹脂よりも可撓性の低い材質であってもよい。
また、ブラシ部2と連結杆部材5とが一体の状態を保ったまま柔軟に変形し、これらの相対的な位置関係に十分に追従して変形することができれば、ヒンジ7を設けなくともよい。すなわち、連結杆部材5はブラシ部2との間に前記三角柱状の切り欠きを有しなくともよい。このときは、例えばエラストマーのようなポリプロピレン樹脂よりも可撓性の高い材質を用いる。
ハンドル部3は、図3(a)の平面図が示すように、平面視において上下に一対のブラケット3a,3aを有する。各ブラケット3a,3aは角度可変歯ブラシ1の先端T向きに突出する。また、各ブラケット3a,3aは、図3(b)の正面図が示すように、底面を向いて開口する軸受凹部3b,3bを有する。
ハンドル部3は上向きに開口する中央溝3cを有する。一方のブラケット3aとその基端B向きの延長縁、および、他方のブラケット3aとその基端B向きの延長縁は、中央溝3cの相対する一対の内壁を構成する。
これらにより、図2(a)(b)に示す回転軸2aは、軸受凹部3bにその下方から嵌まることができる。各回転軸2aの外径寸法が各軸受凹部3bの内径寸法よりもわずかに小さいため、各回転軸2aは各軸受凹部3bの内側で自在に回転することができる。また、各軸受凹部3bの開口部分がわずかに窄んでいるため、各回転軸2aはハンドル部3から抜け落ちにくい。
一方で、図2(a)(b)に示す連結杆部材5は、中央溝3cにその上方から嵌まることができる。連結杆部材5の図2(b)の上下方向における幅が中央溝3cの幅よりもわずかに小さいため、連結杆部材5は中央溝3cの内側で自在に縦方向に往復動することができる。
さらに、ハンドル部3は、図3(b)に示す正面側の外壁とその反対側の背面側の外壁との両方に、軸方向Lに長い直方体形状であり、かつ、それぞれ正面向き及び背面向きに開口する案内溝3d,3dを有する。後で詳述するスライド部材6の摺動部がこれらの案内溝3d,3dに嵌まることができる。
また、各案内溝3d,3dは、それぞれの開口側と反対側の内壁に2カ所ずつの係止凹部3e,3e,3e,3eを有する。後に詳述するスライド部材6の被係止凸部がこれらの係止凹部3e,3e,3e,3eによって係止される。
各係止凹部3e,3e,3e,3eにおいては、図4の拡大平面図が示すように、それぞれ一対の係止穴3f,3fが軸方向Lに連なって配設されている。
それぞれの一対の係止穴3f,3fは、平面視において部分円弧状の断面を有し、各係止穴3f,3fの中心が軸方向Lにおいて一定の穴ピッチd2を空けるように配置される。ここに例示した実施形態において、穴ピッチd2は1.5mmである。
また、一方の案内溝3dの2カ所の係止凹部3e,3eと他方の案内溝3dの2カ所の係止凹部3e,3eとは、一定の凹部間隔d3を空けるように配置される。すなわち、それぞれの角度可変歯ブラシ1の先端T側の係止穴3f,3f同士が一定の凹部間隔d3を空けるように配置されている。また、基端B側の係止穴3f,3f同士も一定の凹部間隔d3を空けるように配置されている。
ハンドル部3の材質はポリプロピレン樹脂である。また、これらの構造や機構を可能とする程度の強度を有していれば、例えば飽和ポリエステル樹脂のようなポリプロピレン樹脂以外の材質でもよい。
スライド部材6は、図5(a)の左側面図が示すように、側面視における幅方向Wに扁平な形状を成し、上向きに平面状の操作面6aを有する。使用者は角度可変歯ブラシ1を把持する手の手指を操作面6aに当て、軸方向Lに押すことにより、ハンドル部3に対してスライド部材6を軸方向Lに移動させることができる。
スライド部材6は、幅方向Wの両端からそれぞれ下向きに垂れ下がる形状の一対の側面部6b,6bを有し、かつ、各側面部6b,6bの下端からお互いに向き合うように突出する摺動部6c,6cを有する。
スライド部材6は、図3(b)の正面図に示すハンドル部3の上側から覆いかぶさるように取り付けられる。このとき、図5(b)の平面図、図5(c)の正面図及び図5(d)の底面図の左向きが角度可変歯ブラシ1の先端T向きであり、右向きが角度可変歯ブラシ1の基端B向きとなるように取り付けられる。これらの結果、スライド部材6は、図1(a)に示すハンドル部3の、回転中心線C1と交差する軸方向Lの直線である軸方向線C3に対して植毛面2bが向く側である正面図の上側に操作面6aを有する。
各摺動部6c,6cは、スライド部材6がハンドル部3に取り付けられるとき、案内溝3d,3dに嵌まる。このとき、各摺動部6c,6cがハンドル部3を跨ぐことができるように、側面部6b,6bが弾性変形して幅方向Wの外向きに広がる。また、各摺動部6c,6cがハンドル部3を跨ぎやすいように、ハンドル部3には、図4が示すような段部3g,3gが設けられている。そして、双方の側面部6b,6bを広げてスライド部材6を取り付けるため、各側面部6b,6bには、各摺動部6c,6cをそれぞれ対応する各案内溝3d,3dの底向きに押し付けようとする力が付勢される。
各摺動部6c,6cの正面視における高さは、案内溝3d,3dの正面視における高さよりもわずかに小さい。そのため、スライド部材6がハンドル部3に取り付けられた状態において、各摺動部6c,6cは、対応する各案内溝3d,3dに沿って自在に摺動することができる。
スライド部材6の材質はポリプロピレン樹脂である。また、これらの構造や機構を可能とする程度の強度を有していれば、例えば飽和ポリエステル樹脂のようなポリプロピレン樹脂以外の材質でもよい。
各摺動部6c,6cは、図5(d)が示すように摺動部6c同士が相対する向きに突出する4つの被係止突起6d、6d,6d,6dを有する。一方の摺動部6c,6cの各被係止突起6d,6d及び他方の摺動部6c,6cの各被係止突起6d,6dは、平面視において、それぞれ凹部間隔d3の距離を空けて配置される
各被係止突起6d、6d,6d,6dは、平面視において摺動部6c同士が相対する向きに膨らんだ部分円弧状の断面を有する。そして、先述の通り係止穴3f,3f同士が凹部間隔d3を空けて配置されているため、スライド部材6がハンドル部3に取り付けられた状態において、各係止凹部3e,3e,3e,3eにおける先端T側の各係止穴3f,3f,3f,3fに同時に嵌まることができる。または、各係止凹部3e,3e,3e,3eにおける基端B側の各係止穴3f,3f,3f,3fに同時に嵌まることができる。
上で述べた各被係止突起6d、6d,6d,6dが先端T側の各係止穴3f,3f,3f,3fに嵌まった状態を先端T側係止状態といい、基端B側の各係止穴3f,3f,3f,3fに嵌まった状態を基端B側係止状態という。また、これらの係止凹部3e,係止穴3f及び被係止突起6dを総称して係止手段Sという。
これらにより、スライド部材6は、使用者が例えば操作面6aを軸方向Lに押すことによって、前記の付勢力によって働く各摺動部6c,6cとそれぞれに対応する各案内溝3d,3dとの間の摩擦力に抗して移動させることが可能であるとともに、係止手段Sによって、先端T側係止状態又は基端B側係止状態に留まるようにハンドル部材3に係止させることが可能である。また、使用者は操作面6aを押すだけでなく、スライド部材6の他の部分をつまんで軸方向Lに移動させてもよい。
スライド部材6は、角度可変歯ブラシ1の先端T向きに突出する平面視又は底面視逆コ字状の連結杆部材支持部6eを有する。
連結杆部材支持部6eは幅方向Wの略円柱形を成す支持軸6fを有する。そして、ブラシ部2の回転軸2aがハンドル部3の軸受凹部3bに嵌まり、かつ、連結杆部材5がハンドル部3の中央溝3に嵌まるとともに、連結杆部材5の先端部5aは、そのC字形状部分が支持軸6fに巻き付くように嵌まり、連結杆部材支持部6eに軸着する。このとき、前記C字形状部分の中心線と支持軸6fの中心線とが一致するため、先端部5aは連結杆部材支持部6eに対して回転自在に支持される。
これらにより、連結杆部材5はスライド部材6に枢着する。また、連結杆部材5はスライド部材6に対して回転自在に連結する。そのため、スライド部材6がハンドル部材3に対して軸方向Lに移動して、図1(a)及び図1(b)のように連結する連結杆部材5のスライド部材6に対する角度が変化しても、連結杆部材5はスライド部材6との連結状態を維持することができる。
なお、スライド部材6は、使用者が軸方向Lに押しやすいように、操作面6a上に軸方向Lと直交する方向の溝を複数有していてもよい。
以上の構成により、連結杆部材5はスライド部材6を介してハンドル部3側に係着する。すなわち、スライド部材6が先端T側係止状態又は基端B側係止状態に留まるようにハンドル部材3に係止され、連結杆部材5がスライド部材6との連結状態を維持することにより、連結部材5は、スライド部材6を介して先端T側係止状態又は基端B側係止状態に留まるようにハンドル部3側に係着する。
なお、連結杆部材5は、ハンドル部3に対して先端T側係止状態及び基端B側係止状態に相当するそれぞれの係止状態に留まることができれば、スライド部材6を介さずに、直接にハンドル部3に係着してもよい。
例えば、連結杆部材5の先端部が被係止爪を有し、かつ、ハンドル部3の中央溝3cが係止爪を有し、連結杆部材5が前記係止状態に留まることのできる位置に前記係止爪及び前記被係止爪を配置してもよい。これにより、前記被係止爪によって前記係止爪が係止されるとき、連結杆部材5は、直接にハンドル部3に係着することができる。
図6はブラシ部2並びに連結杆部材5、および、スライド部材6をハンドル部3に取り付けた状態の平面図を表わす。また、図7は同じく底面図を表わす。さらに、図8(a)は図6においてA-Aの符号によって示される断面の正面断面における端面図を表わす。
図6~図8において、スライド部材6はハンドル部3によって先端T側係止状態において係止されている。すなわち、スライド部材6の各被係止突起6d、6d,6d,6dが先端T側の各係止穴3f,3f,3f,3fに嵌まった状態において係止されている。
そして、この状態において、ブラシ部2は軸方向Lに対して屈曲しておらず、植毛面2bが軸方向Lに対して成す角度は0度である。すなわち、ヒンジ7が折れ曲がらず、かつ、ブラシ部2及び連結杆部材5の何れもが変形していない。さらに、ブラシ部2の植毛面2bと連結杆部材5の頂面5bとが面一に形成されたままの状態である。
このように、スライド部材6の各被係止突起6d、6d,6d,6dと先端T側の各係止穴3f,3f,3f,3fとの相対的な位置を、ブラシ部2が軸方向Lに対して屈曲していない位置に設定すれば、角度可変歯ブラシ1は、屈曲していない姿勢を保持することができる。
図8(a)が示す、平面視において回転中心線C1と谷線7aとの距離rは3.77mmである。また、この先端T側係止状態において、回転中心線C1と先端部5aとの距離は37.1mmであり、軸方向Lに対して回転中心線C1と谷線7aとを結ぶ半径rが成す角度θ2は58度である。
次に、図9において、図8(a)の状態からスライド部材6が軸方向Lにおいて基端B向きに移動した状態を示す。例えば、使用者が操作面6aに手指を押し当て、操作面6aと手指との間の摩擦力を生じさせたままで基端B向きにその手指をずらすことによってスライド部材6を移動させることができる。
このとき、各被係止突起6d,6d,6d,6dは、前記の付勢力に抗して先端T側に嵌まった状態から脱し、軸方向Lの基端B向きに移動した後に、各係止凹部3e,3e,3e,3eにおける基端B側の各係止穴3f,3f,3f,3fに嵌まる。これによって、スライド部材6は軸方向Lの基端B向きに移動した後に、ハンドル部3によって、今度は基端B側係止状態において係止される。
図8(b)は、図4で示した穴ピッチd2を角度可変歯ブラシ1の正面図において表した図である。
そのため、図9の基端B側係止状態に至ることにより、スライド部材6は先端T側係止状態と比べて軸方向Lにおいて1.5mm基端B向きに移動する。また、スライド部材6と連結したままの連結杆部材5も、スライド部材6に追従して基端B向きに移動する。ただし、連結杆部材5は先端T側係止状態に比べて多少軸方向Lに対して傾くため、移動距離は1.5mmよりも小さい。
このとき、回転中心線C1と、連結杆部材5の軸心及びその延長線によって構成される軸心線C2とが上下に離隔して互いに交差せず、かつ、連結杆部材5が軸方向線C3よりも図の上側で延在するため、ブラシ部2は、連結杆部材5から基端B向きに引っ張る力を受け、回転中心線C1周りにおける図の時計回りCLの回転力を受ける。このように、連結杆部材5のハンドル部3に対する軸方向Lの位置が変わることによってブラシ部2が正回転する。
これらの結果、回転中心線C1と谷線7aとの距離rである3.77mmを保ったまま、ブラシ部2が頭を擡げるようにヒンジ7が変形し、軸方向Lに対する半径rが成す角度θ3は28度に変化する。すわなち、先端T側係止状態と比べてブラシ部2は30度正回転する。また、先端T側係止状態においてブラシ部2の植毛面2bが軸方向Lに対して成していた角度が0度のため、基端B側係止状態において、植毛面2bは軸方向Lに対して時計回りCLに30度を成す位置に変位する。
これらと逆に、図9のようにブラシ部2が頭を擡げた状態から、図8(a)のような元の状態へ戻すため、使用者は、操作面6aに手指を押し当て、先端T向きにその手指をずらすことによってスライド部材6を移動させることができる。また、スライド部材6の別の部分を掴んで移動させてもよい。
このとき、各被係止突起6d,6d,6d,6dは、前記の付勢力に抗して基端B側に嵌まった状態から脱し、軸方向Lの先端T向きに移動した後に、各係止凹部3e,3e,3e,3eにおける先端T側の各係止穴3f,3f,3f,3fに嵌まる。これによって、スライド部材6は軸方向Lの先端T向きに移動した後に、ハンドル部3によって、元の先端T側係止状態において係止される。
そして、図8(a)の先端T側係止状態に戻ることにより、スライド部材6は基端B側係止状態と比べて軸方向Lにおいて穴ピッチd2である1.5mmの距離を先端T向きに移動する。また、スライド部材6と連結したままの連結杆部材5も、スライド部材6に追従して先端T向きに移動する。
このとき、回転中心線C1と軸心線C2とが上下に離隔して互いに交差せず、かつ、連結杆部材5が軸方向線C3よりも図の上側で延在するため、ブラシ部2は、連結杆部材5から先端T向きに押す力を受け、回転中心線C1周りにおける図の反時計回りUCの回転力を受ける。このように、連結杆部材5のハンドル部3に対する軸方向Lの位置が変わることによってブラシ部2が逆回転する。
これらの結果、回転中心線C1と谷線7aとの距離rである3.77mmを保ったまま、ブラシ部2が頭を寝かせるようにヒンジ7が変形し、軸方向Lに対する半径rが成す角度は58度に変化する。すわなち、基端B側係止状態と比べてブラシ部2は30度逆回転する。そして、ブラシ部2の植毛面2bと連結杆部材5の頂面5bとが面一な元の状態に復元する。
これまでに述べたような、先端T側係止状態と、基端B側係止状態との何れの場合においても、使用者がスライド部材6を軸方向Lに移動させるために前記の付勢力に抗する力を加えない限り、各被係止突起6d,6d,6d,6dは各係止穴3f,3f,3f,3fから抜脱することがない。そのため、スライド部材6を移動させようとしないとき、角度可変歯ブラシ1は、ブラシ部2が軸方向Lに対して屈曲していない姿勢、または、所定の角度を成して屈曲する姿勢、例えば、時計回りCLに30度の角度を成す姿勢の何れかを保持することができる。
このように、角度可変歯ブラシ1は、構造が簡素であるとともに、屈曲角度の調整に関わる機構が簡素である。
図10は、使用者がパームグリップと呼ばれる手を握る要領で角度可変歯ブラシ1を把持した状態を示す。このとき、使用者の親指F1は操作面6aに当接する。また、使用者の人差し指F2はハンドル部3の底面に当接する。ハンドル部3の底面は、ハンドル部3の軸方向線C3に対して操作面6aの反対側に位置する。
図11は、使用者がペングリップと呼ばれる鉛筆を持つ要領で角度可変歯ブラシ1を把持した状態を示す。このとき、使用者の親指F1は操作面6aに当接する。また、使用者の人差し指F2はハンドル部3の底面に当接する。
使用者がパームグリップ及びペングリップの何れの持ち方によって角度可変歯ブラシ1を把持する場合においても、ブラシ部2がこれらの図のように植毛面2bの垂線方向に屈曲することにより、使用者は、角度可変歯ブラシ1を軸方向Lに動かすとき、複数の刷毛4が使用者の口腔の内部に軸方向Lに当接し、口腔の内部を擦って清掃することができる。例えば、使用者の奥歯の裏のような、奥まった磨き難い箇所を清掃することができる。
また、スライド部材6がハンドル部3の軸方向線C3に対して植毛面2bが向く側に操作面6aを有するため、使用者は、パームグリップ及びペングリップの何れの持ち方によって角度可変歯ブラシ1を把持する場合においても、それぞれの刷毛41~4nの先端を図10及び図11の手前に向けた状態で、親指F1を操作面6aに当てることができる。
このとき、使用者は、角度可変歯ブラシ1を一方の手で把持した状態で、その一方の手の親指F1によって操作面6aを軸方向Lに押すことができる。
その結果、使用者は、操作面6aを親指F1で操作する時と、口腔内の清掃をする時との間で角度可変歯ブラシ1を持ち替える必要がなく、しかも、屈曲させるための操作と清掃のための動作とを同時に行うことができる。これらのように、角度可変歯ブラシ1は、簡素な構造や機構であっても、効率よく口腔内を清掃することができる。
図12は、本発明の第2の実施形態を例示している。図において11が角度可変歯ブラシである。図12は、図9と反対向きに、図8(a)の状態からスライド部材16が軸方向Lにおいて先端T向きに移動する状態の正面断面における端面図を示す。例えば、使用者が操作面16aに手指を押し当て、操作面16aと手指との間の摩擦力を生じさせたままで先端T向きにその手指をずらすことによってスライド部材16を移動させることができる。スライド部材16が軸方向Lの先端T向きに移動することにより、スライド部材16と連結する連結杆部材15も軸方向Lの先端T向きに移動する。
このとき、回転中心線C1と、連結杆部材15の軸心及びその延長線によって構成される軸心線C2とが図の上下に離隔して互いに交差せず、かつ、連結杆部材15が軸方向線C3よりも図の上側で延在するため、ブラシ部12は、連結杆部材15から先端T向きに押す力を受け、回転中心線C1周りにおける図の反時計回りUCの回転力を受ける。そのため、ヒンジ17が谷線17aを内側にして変形し、ブラシ部12は逆回転して首を図の下向きに反らす。本実施形態の例においては、軸方向Lに対する反時計回りの角度である逆屈曲角度θ4が30度に至る。
このように、角度可変歯ブラシ11は構造が簡素であり、逆屈曲角度の調整に関わる機構が簡素である。
ブラシ部12はこのように逆屈曲することにより、使用者が角度可変歯ブラシ11を軸方向Lに動かすとき、複数の刷毛14が口腔の内部に軸方向Lに当接し、口腔の内部を擦って清掃することができる。例えば、使用者の臼歯の咬合面や奥歯のように奥まった磨き難い箇所、一部の歯の側面のようにブラシ部12が反っている方が複数の刷毛14が当たり易い箇所などを清掃することができる。これらの箇所を複数の刷毛14で擦るため、逆屈曲角度θ4は15度以上30度以下が好ましい。15度未満のときは奥まった箇所に複数の刷毛14が届き難く、かつ、30度を超すときは曲がり過ぎて角度可変歯ブラシ11を動かし難い。
第1の実施形態と同様に、各被係止突起16d、16d,16d,16dが先端T側の各係止穴13f,13f,13f,13fに嵌まった状態を先端T側係止状態といい、基端B側の各係止穴13f,13f,13f,13fに嵌まった状態を基端B側係止状態という。ただし、本実施形態においては、先端T側係止状態においてブラシ部12が軸方向Lに対して逆屈曲し、かつ、基端B側係止状態においてブラシ部12が軸方向Lに対して屈曲又は逆屈曲しないように係止手段Sが配置される。基端B側係止状態においては、ブラシ部12の植毛面12bと連結杆部材15の頂面15bとが面一に形成された状態である。
その他の構成は、第1の実施形態と共通する。
図13(a)(b)は、本発明の第3の実施形態を例示している。図において22が角度可変歯ブラシ21のブラシ部である。図13(a)の正面図が示すように、ブラシ部22は連結杆部材25と図の左右に並ぶように一体に形成される。
ブラシ部22は、図13(a)(b)が示すように、軸方向Lに長い円柱状に形成される。また、ブラシ部22は、軸方向Lにおける先端Tから回転軸22a,22aの近くにかけて、円柱形状の全周に曲面状の植毛曲面22cを有する。複数の刷毛24は、植毛曲面22cに植毛される。その結果、図13(b)の左側面が示すように、複数の刷毛24は先端Tから視ると円環状を成すように植毛される。
そして、ブラシ部22は、第1の実施形態と同様に各回転軸22a,22aの軸心線である回転中心線C1を中心に時計回りCL及び反時計回りUCに回転し、軸方向Lに対して屈曲する。
その他の構成は、第1の実施形態と共通する。
これらの結果、角度可変歯ブラシ21は、構造が簡素であるとともに、屈曲角度の調整に関わる機構が簡素でありながら、ブラシ部22の全周に植毛された複数の刷毛24によって口腔内の広い範囲を効率よく清掃することができる。
図14(a)(b)は、本発明の第4の実施形態を例示している。図において32が角度可変歯ブラシ31のブラシ部である。図14(a)の正面図が示すように、ブラシ部32は連結杆部材35と図の左右に並ぶように一体に形成される。
ブラシ部32は、図14(a)(b)が示すように、軸方向Lに長い直方体状に形成される。また、ブラシ部32は、軸方向Lにおける先端Tから回転軸32a,32aの近くにかけて、複数の突起毛38が立設される正面視上向きの平面である上向きの植設面32d及び正面視下向きの平面である下向きの植設面32dを有する。
複数の突起毛38は、それぞれの先端が半球状に丸められた円柱状に形成される。複数の突起毛38は、主に子供の歯に液状歯磨き剤を塗布するための歯ブラシに用いられるため、第1~第3の実施形態で例示された、口腔の内部を擦って清掃するための複数の刷毛4,14,24ほどに細長く形成される必要がない。
また、複数の突起毛38は、子供の歯や歯茎を傷めないように、エラストマーやシリコーンゴムのような低反発弾性材料を用いて形成される。このとき、ブラシ部32の表皮部分及び複数の突起毛38をこれらの低反発弾性材料を用いて一体に成形し、他方でブラシ部32の芯部分をポリプロピレンなどの合成樹脂によって成形してもよい。
そして、ブラシ部32は、第1の実施形態と同様に各回転軸32a,32aの軸心線である回転中心線C1を中心に時計回りCL及び反統計周りUCに回転し、軸方向Lに対して各植設面32d,32dの垂線方向に屈曲する。ブラシ部32は、時計回りCLに回転して屈曲した後、反時計回りUCに逆回転して元の姿勢に戻ることができる。
その他の構成は、第1の実施形態と共通する。
このように、本実施形態の角度可変歯ブラシ31は、前記垂線方向に屈曲することにより、使用者が軸方向Lに動かすとき、複数の突起毛38が口腔の内部に軸方向Lに当接し、この口腔の内部に効率良く歯磨き剤を塗布することができる。また、複数の突起毛38によって口腔の内部を清掃するときでも、前記垂線方向に屈曲することにより、使用者は、口腔の奥の磨き難い箇所を清掃することができる。
よって、角度可変歯ブラシ31は、簡素な構造や機構でありながら、前記垂線方向に屈曲し、口腔内に効率良く薬効成分を適用することができ、また、奥まった磨き難い箇所を清掃することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、ブラシ部2,12,22,32がハンドル部3,13に軸着する際、ハンドル部3,13側が回転軸を有し、ブラシ部2,12,22,32側が軸受部を有していてもよい。
連結杆部材5,15,25,35は、中央溝3cにその上方から嵌まっていなくともよく、例えば、ハンドル部3,13の外側で、ブラシ部2,12,22,32から軸方向Lに沿って基端B向きに延伸していてもよい。
また、連結杆部材5,15,25,35は、図2(a)における回転軸2a,12a,22a,32aよりも上側のブラシ部2,12,22,32から基端B向きに延伸するだけでなく、回転軸2a,12a,22a,32aよりも下側のブラシ部2,12,22,32から基端B向きに延伸してもよい。このとき、連結杆部材5,15,25,35は、例えばハンドル部3,13に軸方向Lに設けられるスリットなどを貫通して延伸することによって、先端部5aがスライド部材6,16の連結杆部材支持部6eに到達すればよい。
連結杆部材5,15,25,35のヒンジ7,17,27,37は、切り欠きが三角柱状でなくともよく、ブラシ部2,12,22,32の回転に応じて変形するのであれば、例えば逆U字形状であってもよい。あるいは、切り欠きが図2(a)の下向きに開口するだけでなく、上向きに開口してもよい。さらに、上向きと下向きとの両向きに開口してもよい。
連結杆部材5,15,25,35の先端部5aがスライド部材6,16の支持軸6fに巻き付くだけでなく、連結杆部材5,15,25,35がスライド部材6,16に対して回転自在に連結するのであれば、例えば、逆に連結杆部材支持部6eの一部が先端部5aに巻き付くような構造でもよい。
回転中心線C1と谷線7a,17aとの距離rや回転中心線C1と先端部5aとの距離、穴ピッチ2などの寸法は、例示した実施形態について示した寸法に限られるものではなく、ブラシ部2,12,22,32が所定の屈曲角度まで回転し、かつ、その所定の屈曲角度を保持するように連結杆部材5,15,25,35がハンドル部3,13側に係着することができれば、これら以外の寸法であってもよい。
スライド部材6,16は、図5(b)に示すように平面視において長方形である必要はなく、使用者が手指で操作することができれば、例えば、円形、長円形、楕円形などの形状であってもよい。
係止手段Sは、例示した実施形態のような数や配置の係止凹部3e,係止穴3f,被係止突起6dに限られるものではなく、先端T側係止状態及び基端B側係止状態をそれぞれ維持することができれば、異なる数や配置のものであってもよい。また、ハンドル部3,13とスライド部材6,16との間において、穴と突起との関係が逆であってもよい。
また、係止手段Sは、ブラシ部2,12,22,32が軸方向Lに対して屈曲又は逆屈曲しない状態と、屈曲角度θ1又は逆屈曲角度θ4屈曲する状態との二態様だけの位置で係止するのではなく、これらの位置に加えて、例えば、屈曲角度θ1又は逆屈曲角度θ4が30度の場合に、22.5度のような中間値の屈曲又は逆屈曲状態の位置でも係止するような構成であってもよい。本発明の角度可変歯ブラシ1,11,21,31は、これらの構造や機構が簡素なため、係止穴3fを増やすだけで中間値の屈曲又は逆屈曲状態の位置での係止を可能とする。
第1の実施形態でブラシ部2が図の時計回りCLに屈曲する場合を示し、第2の実施形態でブラシ部12が図の反時計回りUCに逆屈曲する場合を示したが、本発明の角度可変歯ブラシは、一つの角度可変歯ブラシが、これらの時計回りCLの屈曲と反時計回りUCの逆屈曲とを併せて行うことができる構成でもよい。このときは、屈曲前の状態から、屈曲時にスライド部材が第1の実施形態のように基端B向きに移動するとともに、逆屈曲時にスライド部材が第2の実施形態のように先端T向きに移動するような構造を有していればよい。
一つの角度可変歯ブラシが屈曲と逆屈曲とを併せて行うことにより、使用者は、擦ろうとする歯の位置や向きによって屈曲と逆屈曲とを容易に使い分けることができる。このように、本発明の角度可変歯ブラシは、簡素な構造や機構であっても、口腔内の高い清掃力を発揮することができる。