以下に、本発明の実施の形態に係る充放電制御装置及び列車交通システムを図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態
図1は本発明の実施の形態に係る列車交通システムの構成例を示す図である。列車交通システム100は、列車5へ商用電力を供給する電力系統300と、列車5の運行を管理する運行管理システム2と、運行管理システム2と連携して電力貯蔵装置14を充放電する電力需給システム1とを備える。
まず、電力系統300について説明する。電力系統300は、列車5へ商用電力を供給するための電力供給設備である。商用電力は、電力事業者から購入することで得られる電力である。電力系統300は、交流電源3及び変電所4を備える。交流電源3から変電所4に交流電力が供給され、変電所4に供給された交流電力の電圧は、変電所4が備える変圧器41により、所望の値の電圧の交流電力に変換された後、変電所4が備える整流器42により整流されて、き電線6に供給される。これにより、き電線6とレール7との間には、例えば1500[V]の直流電圧が発生する。
続いて、運行管理システム2について説明する。運行管理システム2は、列車5の運行計画にあたる計画ダイヤと、列車5の現在の位置である列車在線位置と、外部から入力し、入力した計画ダイヤと列車在線位置とのズレを監視することによって、列車や現場設備に列車運行指示を行うことで、列車5の運行を制御するシステムである。
このように列車5の運行を制御するため、運行管理システム2は、ダイヤ管理部21、過去ダイヤDB(DataBase)22、乗車率推定部23、予測ダイヤ計算部24、及び画面表示部25を備える。
ダイヤ管理部21は、計画ダイヤDBを参照して得られる計画ダイヤと列車在線位置とを入力し、入力した計画ダイヤ及び列車在線位置に基づき、列車運行指示を生成して、列車5に対して列車運行指示を送信する。計画ダイヤDBは、運行管理システム2の外部に設けられるサーバなどで管理される。計画ダイヤは、列車運行計画に基づくダイヤである。
列車在線位置は、列車5から通知された列車在線位置を示す情報である。具体的には、例えば列車5に搭載される列車在線位置推定部が自列車の現在位置を推定し、推定された位置情報が、当該列車5に搭載される車上無線局を介して、地上側の地上無線局で受信されて、地上無線局で受信された位置情報が、列車在線位置として、運行管理システム2に入力される。列車在線位置推定部は、絶対位置を起点にして、列車5の速度発電機から得られる速度情報を積算して得られる走行距離から、列車在線位置を推定する。絶対位置は、例えば駅の設置位置を示す位置情報、地上トランスポンダから得られる位置情報などである。
またダイヤ管理部21は、管理する計画ダイヤと実績ダイヤを、予測ダイヤ計算部24に入力する。またダイヤ管理部21は、管理する実績ダイヤを、過去ダイヤDB22に入力する。
なお、ダイヤ管理部21から出力される列車運行指示の種類は、列車5を制御する設備により異なってもよい。列車制御設備が自動進路制御機能を備えている場合にはダイヤ自体を運行指示とすればよい。また、ダイヤ管理部21が、連動装置と接続される場合には、列車5の進路が列車運行指示となる。連動装置は、信号機、転てつ器等の地上設備を制御する装置である。また、ダイヤ管理部21は、直接列車に対する指示が可能な場合には、列車運行指示には、列車5の運転の抑止や走行速度等の指示を含めてもよい。
なお、図1に示される運行管理システム2では、列車在線位置がダイヤ管理部21に入力されて、ダイヤ管理部21が実績ダイヤを生成しているが、実績ダイヤが運行管理システム2の外部の装置で生成され、この実績ダイヤが列車在線位置とともに運行管理システム2に入力されてもよい。
ここで、ダイヤ管理部21が扱うダイヤの種類と、そのデータフォーマットについて説明する。
ダイヤの種類は、計画ダイヤ、実績ダイヤ、予測ダイヤなどである。計画ダイヤは、列車運行計画に基づくダイヤであり、計画ダイヤDBを参照することにより得られる。障害による遅延等の乱れが発生していない通常時は、基本的にこの計画ダイヤに従って列車5が運行する。実績ダイヤは、列車5の走行実績である列車在線位置を元にダイヤのデータフォーマットに変換したものである。予測ダイヤは、実績ダイヤを元に現時刻以降の列車運行を予測したダイヤである。
次にダイヤ管理部21が扱うダイヤのデータフォーマットについて説明する。図2は図1に示されるダイヤ管理部が扱うデータフォーマットの一例を説明するための図である。
図2(A)に示すダイヤフォーマット200は、計画ダイヤ、実績ダイヤ、予測ダイヤで共通である(項目の有無は異なっていてもよい)。ダイヤフォーマット200には、縦方向に進行方向順の通番(「1」、「2」、「3」・・・)が記述される。そして、ダイヤフォーマット200には、進行方向順に、駅の到着時刻や駅の出発時刻などが管理される。さらに、ダイヤフォーマット200には、複数の列車5のそれぞれを識別するために列車番号201(例えば「A701」、「A702」など)が管理される。また列車5の通過駅が存在する場合には、通過駅への列車5の到着時刻と通過駅からの列車5の出発時刻との代わりに、通過時刻などが管理される。図2では、例えば列車番号A702の列車が、C駅を通過する場合の例として、通過時刻「-」が示される。
図1に戻り、過去ダイヤDB22は、ダイヤ管理部21が管理する実績ダイヤを蓄積した情報を収集するシステムである。
乗車率推定部23は、実績ダイヤ(駅、方面、日付、時刻、先行列車との時隔等)と、過去ダイヤDB22で管理される過去の実績ダイヤ情報とを突き合わせることによって、駅での客扱い時間を推定する。客扱い時間と乗車率は相関性があるため、乗車率推定部23は、推定された客扱い時間に基づき列車5の乗車率を推定する。推定した乗車率は予測ダイヤ計算部24に入力される。
なお、乗車率には、実績ダイヤなどによって推定された乗車率以外にも、例えば列車5に設けられる乗車率検知装置で算出された乗車率を用いてもよい。この場合、乗車率検知装置で算出された乗車率を示す情報は、列車5に搭載される車上無線局を介して、地上側の地上無線局で受信されて、地上無線局で受信された乗車率を示す情報が、目標SOC算出部12に入力される。
予測ダイヤ計算部24は、ダイヤ管理部21から入力した実績ダイヤと、乗車率推定部23から入力した乗車率とを考慮して、予測ダイヤを作成する。具体的には、乗車率とダイヤとは相関性を有しており、乗車率が高くなるほど、所定の駅に到着した列車5からの旅客の降車時間が長くなり、また当該列車5への旅客の乗り入れ時間が長くなる傾向がある。そのため、乗車率が高くなるほど、実績ダイヤに対して予測されるダイヤは遅延する傾向が高くなる。乗車率が高くなるほど、列車5を運行させるために必要な負荷が大きくなるため、負荷が増加した列車5を駆動するためには、電線電圧を高める必要がある。換言すると、き電線電圧(き電線6とレール7との間に印加される電圧)が一定の場合、乗車率が高くなると、列車5を力行させるために必要となる電力が低下してしまう。このように予測ダイヤ計算部24は、乗車率とダイヤとの相関性に基づき予測ダイヤを作成し、予測ダイヤの内容を示す予測ダイヤ情報を電力需給システム1に入力する。また、予測ダイヤ計算部24は、入力した計画ダイヤと、実績ダイヤと、予測ダイヤとを、画面表示部25に入力する。
画面表示部25は、各種ダイヤをオペレータに提示するための表示装置である。ダイヤ乱れ時には、オペレータが、画面表示部25を見ながら、必要に応じて運転整理の対策案を指示する。
次に、電力需給システム1について説明する。電力需給システム1は、電力貯蔵装置14、電力変換装置15及び充放電制御装置16を備える。
電力貯蔵装置14は、リチウムイオン電池、鉛蓄電池、ニッケル水素電池などである。電力貯蔵装置14は、列車5が回生動作したとき、き電線6を介して列車5から出力される回生電力を蓄える。また、電力貯蔵装置14は、電力系統300が停電したとき、あるいは、き電線6に印加される電圧が設定値よりも低いとき、列車5の力行に必要な力行電力を供給する。なお、前述したように鉄道では短時間で大きな電力が扱われるため、鉄道用の電力貯蔵装置14には、短時間で多くの電力が扱えるリチウムイオン電池が有効である。但し、リチウムイオン電池は、高いSOCで劣化の進行が早まり、電力貯蔵装置14の交換サイクルが短期間となり、電力貯蔵装置14の導入コスト(製品コスト、設置コストなどを含む)を低下させたいというニーズに対応することができない。本実施の形態に係る充放電制御装置16は、この点に鑑みて、目標SOCを制御することで、リチウムイオン電池が電力貯蔵装置14として利用される場合でも、電力貯蔵装置14の劣化の進行を遅くする点に特徴がある。
電力変換装置15は、列車5が回生動作したときには、降圧チョッパとして動作することによって、き電線6から供給される高圧の直流電力を、電力貯蔵装置14に入力可能な電圧の直流電力に変換して電力貯蔵装置14へ供給する。
また、電力変換装置15は、電力系統300が停電したとき、又は複数の列車5が同時に力行することによって、き電線6に印加される電圧が低下したときには、昇圧チョッパとして動作することによって、電力貯蔵装置14から供給される直流電力を、所定の電圧値まで増加させて電線6へ供給する。
電力変換装置15は、き電線6とレール7との間に印加される電圧である、き電線電圧を計測する。具体的には、電力変換装置15は、不図示の直流電圧検出器を有しており、当該直流電圧検出器に電流が流れることで発生する電圧が、電線6とレール7との間に印加される電圧として計測される。計測されたき電圧は、き電線電圧の値を示す情報として、充放電制御部13と、目標SOC算出部12とに入力される。
また電力変換装置15は、電力貯蔵装置14の電圧の値(端子間に発生する電圧値)を計測して、計測した電圧を、電力貯蔵装置14の電圧の値を示すバッテリ電圧情報として、充放電制御部13に入力する。
また電力変換装置15は、電力貯蔵装置14の充放電電流の値を計測して、計測した電流を、電力貯蔵装置14の充放電電流の値を示す充放電電流情報として、充放電制御部13に入力する。
充放電制御装置16は、記憶部18及び演算処理部17を備える。記憶部18には、列車走行パタンDB11が記憶される。列車走行パタンDB11には、駅間を走行する列車5の走行パタン(加速走行パタン、減速走行パタン)などが記憶されている。
演算処理部17は、目標SOC算出部12及び充放電制御部13を備える。目標SOC算出部12及び充放電制御部13は、例えば記憶部18に記憶されたプログラムを演算処理部17が実行することにより実現される機能である。
図3を用いて、目標SOC算出部12の構成例を説明する。図3は、図1に示される目標SOC算出部の構成図である。
目標SOC算出部12は、列車5毎の負荷を推定する負荷推定部121と、き電線6の抵抗を推定する抵抗推定部122と、入力したき電線電圧、負荷、抵抗などに基づき、必要電力を算出する必要電力算出部123とを備える。また、目標SOC算出部12は、列車在線位置に基づき、列車5の最寄りの駅までの残走距離を算出する必要電力量算出部124と、電力貯蔵装置14を充電する際の目標となる充電率である目標SOCを生成する目標SOC生成部125とを備える。
図4~図6を用いて、列車交通システム100の動作を説明する。図4は、本発明の実施の形態に係る列車交通システムの動作を説明するためのフローチャートである。
ステップS1において、負荷推定部121は、列車走行パタンDB11から読み出した列車走行パタンと、乗車率推定部23からの複数の列車5のそれぞれの乗車率と、予測ダイヤ計算部24からの複数の列車5の予測ダイヤと、列車在線位置とを入力して、列車5毎の負荷を推定する。
例えば、A駅からB駅に向かって列車5が走行している場合、列車在線位置と列車走行パタンにより、列車5の現在の在線位置から一定距離先までの区間が、上り勾配の区間であることを予測できる場合、当該区間では、主電動機が発生する出力が増加する傾向にある。
また、A駅からB駅に向かって列車5が走行している場合、列車在線位置と列車走行パタンにより、列車5の現在の在線位置から一定距離先までの区間が、下り勾配の区間であることを予測できる場合、当該区間では、主電動機が発生する出力が減少する傾向にある。
また、A駅からB駅に向かって列車5が走行している場合、列車在線位置と列車走行パタンにより、列車5の現在の在線位置から一定距離先までの区間が、カーブが連続する区間であることが予測できる場合、当該区間では、列車5は加減速を繰り返すため、主電動機が発生する出力が増加する傾向にある。
また、A駅からB駅に向かって列車5が走行している場合、列車在線位置と列車走行パタンにより、列車5の現在の在線位置から一定距離先までの区間が、加速区間であることが予測できる場合、加速運転が行われるため、主電動機が発生する出力が増加する傾向にある。
また、例えばA駅、B駅、C駅の順で運行する列車(第1列車)がB駅に到着したとき、当該B駅への他の列車5(第2列車)の乗り入れが遅延したため、第1列車の運転調整が行われることがある。予測ダイヤにより、第2列車の乗り入れによる遅延が予測できる場合、第1列車がC駅へ向かう際の遅延を回復するために回復運転を行うときに、主電動機が発生する出力が増加する傾向にある。
また、例えばA駅、B駅、C駅の順で運行する列車(第1列車)がB駅に到着した際、当日のB駅付近でイベント(大勢の人が集まるコンサートや催しものなど)が開催されたために、通常のダイヤでは予測できないような旅客がB駅に到着した第1列車に多くの旅客が乗車する場合がある。この場合、第1列車の乗車率が増加するために、第1列車がC駅へ向かう際、主電動機が発生する出力が増加する傾向にある。
このように、負荷推定部121は、列車走行パタン、乗車率、予測ダイヤ、列車在線位置などを利用することで、複数の列車5のそれぞれの運行状況を考慮して、列車5の走行に必要となる負荷を推定する。負荷推定部121は、列車5毎に負荷を推定し、推定した負荷の大きさを表す負荷情報を、必要電力算出部123に入力する。
ステップS2において、抵抗推定部122は、入力した列車在線位置に基づき、き電線6の抵抗を推定する。抵抗推定部122は、推定した抵抗の値を示す抵抗情報を必要電力算出部123に入力する。図5を用いて抵抗推定部122の動作を説明する。
図5は、必要電力量の算出動作を説明するための第1図である。図5では、隣接するA駅とB駅との間に設けられるき電線6の抵抗モデルが示される。き電線6は、列車5に直接接する架線(電車線)に電力を供給するための電線である。図5において、例えば隣接するA駅とB駅との間に走行中の列車5が、B駅に向かって走行しているとする。X0は、図1に示される電力変換装置15と、き電線6との接続位置を表す。図5では、電力変換装置15の代わりに、電力貯蔵装置14がき電線6に接続されているものと仮定している。電力変換装置15は、電力貯蔵装置14の近傍に設けられているためである。X1は、A駅に隣接するB駅の設置位置を表す。X2は、列車5の現在位置である。
図5では、列車5がA駅からB駅に向かって走行中であり、また列車5がX0とX1との間の区間に存在する。抵抗推定部122には、予めX0の位置、X1の位置などが設定されている。このように、B駅に向かって走行中の列車5が、X0とX1との間の区間に存在する場合、まず、抵抗推定部122は、一定周期(例えば数100msec~数sec)毎に受信する在線位置情報に基づき、列車5の在線位置の時系列的な変化の傾向から、列車5の進行方向を推定する。次に、抵抗推定部122は、列車5の列車在線位置に基づき、L1、L2及びL3を算出する。L1は、X0からX2までの距離である。X0、X1は絶対位置であるため、列車5の列車在線位置に基づき、X0、X1からの列車5の相対位置を求めることで、L1を推定できる。L2は、X0からX1までの距離である。L3は、L2からL1を減じた距離である。続いて、抵抗推定部122は、算出したL1に対応するき電線6の抵抗を推定する。例えば、列車5の在線位置が駅Bに近づく程、X0からX2の距離が長くなるため、推定される抵抗の値(X0からX2までのき電線6の抵抗値)が大きくなる。これとは逆に、例えばB駅を出発してA駅に向かう列車5が、X1とX0との間の区間に存在する場合、列車5の在線位置がX0に近づく程、X0からX2までの距離が短くなるため、推定される抵抗の値(X0からX2までのき電線6の抵抗値)が小さくくなる。
このように、抵抗推定部122は、列車5の進行方向と、列車5の在線位置と、き電線6への電力貯蔵装置14の接続位置と、駅の設置位置との関係性を利用して、L1に対応するき電線6の抵抗値を推定する。き電線6の抵抗値を推定する理由は、き電線6の抵抗値が変動すると、必要電力量も変動するためである。必要電力は、例えば、電力系統300の停電などによって停止した列車5を力行させるために最低限必要となる電力である。必要電力の具体的な算出方法は後述する。必要電力量は、電力系統300の停電などによって停止した列車5を、最寄り駅まで移動させる際に最低限必要な電力量である。必要電力量の具体的な算出方法は後述する。
なお、必要電力量は、例えば、主電動機の駆動系が故障して自走できなくなった列車5を、牽引車を利用して、最寄り駅まで移動させる際に最低限必要な電力量であってもよい。この場合、牽引車が、内燃機関を備えた車両ではなく、き電線6からの電力の供給により走行する形式のものであるとする。必要電力量は、当該牽引車と被牽引車とを、最寄り駅まで移動させる際に必要な電力量となる。
なお、図5では、A駅とB駅との間に、1台の列車5が存在する場合の、き電線6の抵抗値の推定方法について説明したが、図6に示すように、A駅とB駅との間に、複数の列車5が存在する場合でも、き電線6の抵抗値を推定することが可能である。
図6は、必要電力量の算出動作を説明するための第2図である。図6において、例えば隣接するA駅とB駅との間に、列車5と列車5Aが走行している。
列車5Aは、B駅からA駅に向かって走行中であり、また列車5AがX0とX3との間の区間に存在する列車である。X0、X1、X2の定義は図5で説明した通りである。X3は、A駅の設置位置を表す。X4は、列車5Aの現在位置である。抵抗推定部122には、予め、X0、X1、X3などが設定されている。このように、B駅に向かって走行中の列車5と、A駅に向かって走行中の列車5Aとが存在する場合、抵抗推定部122は、前述した方法により、L1に対応するき電線6の抵抗を推定し、さらに、L11に対応するき電線6の抵抗を推定する。L1に対応するき電線6の抵抗を推定する方法は前述した通りであるため、以下では、L11に対応するき電線6の抵抗を推定する方法について説明する。抵抗推定部122は、一定周期(例えば数100msec~数sec)毎に受信する在線位置情報に基づき、列車5Aの在線位置の時系列的な変化の傾向から、列車5Aの進行方向を推定する。次に、抵抗推定部122は、列車5Aの列車在線位置に基づき、L11、L21及びL23を算出する。L11は、X0からX4までの距離である。X0、X3は絶対位置であるため、列車5Aの列車在線位置に基づき、X0、X3からの列車5Aの相対位置を求めることで、L11を推定できる。L21は、X0からX3までの距離である。L31は、L21からL11を減じた距離である。続いて、抵抗推定部122は、算出したL11に対応する長さのき電線6の抵抗を推定する。例えば、列車5Aの在線位置が駅Aに近づく程、X0からX4の距離が長くなるため、推定される抵抗の値(X0からX4までのき電線6の抵抗値)が大きくなる。
これとは逆に、例えばA駅を出発してB駅に向かう列車5Aが、X3とX0との間の区間に存在する場合、列車5Aの在線位置がX0に近づく程、X0からX4の距離が短くなるため、推定される抵抗の値(X0からX4までのき電線6の抵抗値)が小さくなる。
このように、抵抗推定部122は、列車5Aの進行方向と、列車5Aの在線位置と、き電線6への電力貯蔵装置14の接続位置と、駅の設置位置との関係性を利用して、L11に対応するき電線6の抵抗値を推定する。
図4に戻り、ステップS3において、電力変換装置15では、き電線電圧(き電線6とレール7との間に印加される電圧)が計測される。計測されたき電線電圧は、き電線電圧の値を示す情報として、必要電力算出部123に入力される。必要電力算出部123による必要電力の算出方法については後述する。
ステップS4において、必要電力量算出部124は、列車在線位置に基づき、列車5の最寄りの駅までの残走距離を算出する。例えば、図5に示すように、L2からL1を減じて得られた距離(L3)を、残走距離とすることができる。残走距離は、後述する必要電力量の演算に利用される。
ステップS5において、き電線電圧、負荷、及び抵抗を入力した必要電力算出部123は、下記(1)式を用いて、必要電力Pを算出する。
必要電力P=V2/(RL+R)(kW)・・・(1)
(1)式のVはき電線電圧である。(1)式のRLは列車5の負荷である。(1)式のRは抵抗である。
必要電力は、例えば、電力系統300の停電によって停止した列車5を力行させるために最低限必要となる電力である。必要電力算出部123は、入力したき電線電圧、負荷、抵抗などに基づき、必要電力を算出する。算出した必要電力の値を示す電力情報は、必要電力量算出部124に入力される。
なお、必要電力は、列車5の乗車率、き電線6の抵抗、き電線6に印加されるき電線電圧などによって変動する他、列車5の主電動機の種類、列車5の編成数、列車5を構成する複数の車両のそれぞれの車体重量、列車5が走行する区間の勾配(上り勾配、下り勾配など)の値、列車5の非常走行速度の値、列車5の走行時の天候状況(暴風、降雪、晴天など)によっても、変動する。このように、必要電力は、様々な変動要素で変化するわけであるが、ここでは説明を簡単化するため、列車5の乗車率、き電線6の抵抗、き電線6に印加されるき電線電圧を用いた、必要電力の演算例を説明している。
なお、停電により停止した列車5を最寄り駅まで走行させるためには、残量距離の分、当該列車5を走行させるエネルギーが必要になるため、必要電力に走行時間を掛け合わせることで、必要電力量算出部124では必要電力量が算出される。次に、必要電力量の算出方法について説明する。
ステップS6において、電力情報を入力した必要電力量算出部124は、ステップS4で算出した残走距離を、所定の速度で除算することによって、列車5が最寄りの駅Aに到着するまでの走行時間を算出する。所定の速度は、停電時の列車5を、最寄りの駅Aまで移動できる速度であればよく、例えば時速5~15km/hなどである。
走行時間を算出した必要電力量算出部124は、ステップS7の処理を行う。必要電力量算出部124は、下記(2)式を用いて、非常時の必要電力量P(kWh)を算出する(ステップS7)。
必要電力量P=ΣV2/(RL+R)(kWh)・・・(2)
(2)式のVはき電線電圧である。(2)式のRLは負荷である。(2)式のRは抵抗である。
必要電力量算出部124は、ステップS5で算出された必要電力に、ステップS6で算出された走行時間を乗算することにより、必要電力量を算出する。必要電力量算出部124は、必要電力量の値を示す電力量情報を、目標SOC生成部125に入力する。
ステップS8において、必要電力量を入力した目標SOC生成部125は、下記(3)式を用いて、目標SOCを算出する。
目標SOC=SOC下限値+(必要電力量/電力貯蔵装置の容量100%値)×100(%)・・・(3)
(3)式の目標SOCは、電力貯蔵装置14を充電する際の目標となる充電率である。(3)式のSOC下限値は、電力貯蔵装置14の過放電劣化を防止するために設定され、例えば10(%)などである。なお、目標SOC生成部125は、必要電力量を加味して目標SOCを算出することができればよく、目標SOCの算出式は、上記(3)式に限定されるものではない。例えば、上記(3)式の必要電力量には、マージンとなる電力量を加算してもよい。マージンとなる電力量とは、列車5の運転条件(天候、モータ効率、電力変換効率、SOC計測誤差など)を考慮して列車5の走行に必要な余剰電力である。
算出した目標SOCの値を示す目標SOC情報は、充放電制御部13に入力される。
ステップS9において、充放電制御部13は、入力した目標SOCに基づき、電力変換装置15が備える複数のスイッチング素子を駆動する駆動信号を制御する。これにより、電力貯蔵装置14の充放電制御が行われる。充放電制御には、電力貯蔵装置14の充電制御と放電制御とが含まれる。以下では、電力変換装置15の充放電制御の具体例を説明する。
図7は、必要電力算出部で算出される必要電力量と目標SOC生成部で生成される目標SOCとをグラフ表示した図である。ここでは、説明を簡単化するため、1台の列車に対する必要電力量、目標SOCの算出例について説明する。
図7には、A駅からB駅に向かって走行中の列車5が示される。図7では、X2に存在する列車5がさらにB駅に向かって進行して、X2よりも一定距離先の位置X5に到達した状況が示される。
また図7には、必要電力量がグラフ表示される。必要電力量のグラフは、A駅からB駅に向かって走行中の列車5の各在線位置で推定された必要電力量をプロットしたものである。
また図7には、列車5の各位置で算出される目標SOCがグラフ表示される。目標SOCのグラフは、A駅からB駅に向かって走行中の列車5の各在線位置で推定された目標SOCをプロットしたものである。
また図7には、SOC下限値が示される。SOC下限値は、目標SOC生成部125、記憶部18などに予め設定されている。
図7に示すように、X1からX5までの距離は、X1からX2までの距離よりも短い。そのため、列車5がB駅に近づく程、電力貯蔵装置14から見たき電線6の見かけ上の抵抗値は大きくなる。
前述した(1)式を用いて算出される、X5付近での必要電力量P3は、X2付近での必要電力量P2よりも、小さくなる傾向がある。仮に停電によって、X5付近で列車5が停車した場合でも、必要電力量P2よりも小さい必要電力量P3が、電力貯蔵装置14に蓄電されていれば、少なくとも1台の列車5を最寄り駅であるB駅まで、非常運転させることができる。このように、非常時必要電力量である必要電力量P3の値が小さくなれば、電力貯蔵装置14の目標SOCを小さくすることができる。
図7に示すように、X5付近の目標SOCを、X2付近の目標SOCよりも小さくすることができれば、X2付近の目標SOCの値(SOC100%付近の値)が維持される場合に比べて、電力貯蔵装置14の劣化の進行を遅くできる。本実施の形態に係る目標SOC算出部12は、電力貯蔵装置14の劣化の進行を抑制するため、列車5の在線位置、負荷などを考慮して、必要電力量がリアルタイムに変化するように構成されている。
なお、必要電力算出部123は、算出済みの必要電力量P2、P3を列車5毎に記憶し、さらに、列車5の位置と、必要電力量P2、P3の差分(ΔP)とを、対応付けて記憶することで、例えばB駅に向かって走行している列車5がX2に到達したときに、X2の一定距離先のX5における必要電力量P3を推定できる。
このように必要電力量を推定することによって、例えば図7に示される列車5以外の他の複数の列車が、同時に回生動作した場合、この回生動作によって、必要電力量P3に対応する目標SOCを超えるような充電制御が抑制される。このように複雑の列車5で回生動作が行われた場合に、充電制御を抑制する構成とするためには、例えば、複数の電力貯蔵装置14を用意しておき、本実施の形態の目標SOC制御により、一部の電力貯蔵装置14に対して、必要電力量がリアルタイムに変化するように制御され、残りの電力貯蔵装置14に対しては、本実施の形態の目標SOC制御を行わずに、回生電力を充電すればよい。これにより、一部の電力貯蔵装置14の充電率が100%付近まで高くなることが抑制され、一部の電力貯蔵装置14の寿命を大幅に伸ばすことができる。この場合、一部の電力貯蔵装置14と、残りの電力貯蔵装置14とを、定期的に(例えば数ヶ月毎)切り換えることで、残りの電力貯蔵装置14が本実施の形態の目標SOC制御の対象となるため、当該電力貯蔵装置14の寿命も伸ばすことができる。
また、図7に示すように、例えばB駅に向かって走行している列車5がX2に到達したときに、X2の一定距離先のX5における必要電力量P3を推定した結果、列車5が実際にX5に到達したときの目標SOCに対して、充電が不足している場合には、例えば他の列車5の回生電力で電力貯蔵装置14を充電させてもよいし、電力系統300から供給される電力で電力貯蔵装置14を充電させてもよい。
なお、前述した列車走行パタンや、乗車率、予測ダイヤなどの変動要素を考慮した場合、必要電力量の推移は、必ず図7に示すように直線的に推移するとは限らないが、図7では説明を簡単化するため、必要電力量の推移を抽象化している。
図8には、一般的な充放電制御の動作マップが示される。図8は、充放電制御の動作マップを示す図である。図8に示される動作マップは、例えば図1に示す記憶部18に記憶されている。
縦軸は、き電線電圧Vsを表す。き電線電圧Vsは、図1に示される電力変換装置15から充放電制御部13に入力される「き電線電圧」に等しい。横軸は電力貯蔵装置14の充電率(SOC)である。
縦軸の上側に示される破線は、充電運転開始電圧Vabsを表す。以下では、充電運転開始電圧Vabsを単に「Vabs」と称する場合がある。縦軸の下側に示される破線は、放電運転開始電圧Vdiscを表す。以下では、放電運転開始電圧Vdiscを単に「Vdisc」と称する場合がある。縦軸の中段に示されるVss0は、無負荷時の整流器42の出力電圧を表す。横軸には、ステップS8で算出される目標SOCが示される。
充放電制御部13は、き電線電圧Vsが充電運転開始電圧Vabsより大きい場合、電力貯蔵装置14への充電制御を行う。電力貯蔵装置14への充電制御は、電力変換装置15を降圧チョッパとして動作させる制御である。これにより、例えば回生運転で発生した直流電力が、電力貯蔵装置14に入力可能な電圧の直流電力に変換されて、電力貯蔵装置14が充電される。こうすることで、複数の列車5が同時に回生動作したこと、でき電線電圧Vsが急激に増加した場合でも、充電制御によって電力貯蔵装置14が充電されることで、き電線電圧Vsの上昇が抑制される。電力貯蔵装置14への充電制御では、回生電力が充電に利用されるだけでなく、電力系統300による商用電力が充電に利用されてもよい。例えば、列車5の走行数が少ない時間帯(深夜や早朝など)では、発生する回生電力量がラッシュアワーなどに発生する回生電力量に比べて少ないため、深夜や早朝などの時間帯では、回生電力だけでは電力貯蔵装置14を十分に充電できない場合があるからである。
また、充放電制御部13は、き電線電圧Vsが放電運転開始電圧Vdiscより小さい場合、電力貯蔵装置14の放電制御を行う。電力貯蔵装置14の放電制御は、電力変換装置15を昇圧チョッパとして動作させる制御である。例えば、複数の列車5が同時に力行動作したことで、き電線電圧Vsが急激に降下した場合でも、放電制御によって電力貯蔵装置14が放電されると、電力貯蔵装置14からの電力によって、き電線電圧Vsがアシストされ、き電線電圧Vsの低下が抑制されると共に、回生動作で蓄えられた電力を有効に利用することができる。
充放電制御部13は、き電線電圧Vsが充電運転開始電圧Vabs以下、且つ、放電運転開始電圧Vdisc以上の場合、電力貯蔵装置14の充電率制御を行う。充電率制御では、電力貯蔵装置14の充電率が、図3に示される目標SOC生成部125で生成される目標SOCと一致するように、充放電制御が行われる。これにより、電力貯蔵装置14の充電率が目標SOCより大きい場合、放電が行われ、電力貯蔵装置14の充電率が目標SOCより小さい場合、充電が行われる。また、電力系統300が停電した場合、放電制御によって電力貯蔵装置14の電力が、駅間に停車した列車5に供給されるため、当該列車5を最寄り駅まで走行させることができる。
充電運転開始電圧Vabsは、無負荷時の整流器42の出力電圧Vss0より高い値に設定される。もし、充電運転開始電圧Vabsが、無負荷時の整流器42の出力電圧Vss0より低い値に設定された場合、回生動作中の列車5が、レール7上に存在しないときでも、電力系統300からの電力が、整流器42を介して、電力貯蔵装置14へ供給されて、電力貯蔵装置14が充電されてしまう。
充電運転開始電圧Vabsを、無負荷時の整流器42の出力電圧Vss0より高くすることにより、回生動作中の列車5が、レール7上に存在しているときのみ、電力貯蔵装置14の充電が行われる。
一方、充電運転開始電圧Vabsが高すぎると、回生電力の吸収が遅れる。そのため、充電運転開始電圧Vabsは、無負荷時の整流器42の出力電圧Vss0よりも、例えば数十[V]程度高い電圧に設定するのが望ましい。
なお、本実施の形態では、SOCに対してVabsが一定の事例を説明しているが、VabsはSOCに応じて変化させてもよい。例えば、SOCが所定値以上のときのVabsを、SOCが所定値未満のVabsより高くするように設定することで、SOCが大きくなったときに、充電を開始する電圧が高くなり、電力貯蔵装置14の過充電を防ぐことが可能である。
放電運転開始電圧Vdiscは、無負荷時の整流器42の出力電圧Vss0より低い値に設定される。このように設定することで、き電線6への電力が不足したときのみ、電力貯蔵装置14の放電が行われる。放電運転開始電圧Vdiscが低すぎると、き電線電圧の低下を抑制する効果が十分に得られない。そのため、放電運転開始電圧Vdiscは、無負荷時の整流器42の出力電圧Vss0よりも、例えば数十[V]程度低い値に設定するのが望ましい。
なお、本実施の形態では、SOCに対してVdiscが一定の事例を説明しているが、VdiscはSOCに応じて変化させてもよい。例えば、SOCが所定値以下のときのVdiscを、SOCが所定値を超えるときのVdiscよりも低くするように設定することで、SOCが小さくなったときに、放電を開始する電圧が低くなる。これによる、電力貯蔵装置14の過放電を防ぐことが可能である。図8の例では、目標SOCは、35%付近に設定されている。これは、電力貯蔵装置14によって多くの回生電力を吸収することを重視していることを意味する。
なお、電力貯蔵装置14で回生電力を吸収することよりも、き電線6へ不足電力を供給することを重視するために、例えば目標SOCを100%近く(例えばSOCが95~100%など)に設定し、かつ、充電率が高い状態が継続すると、電力貯蔵装置14の劣化の進行が早まる。
また、充電率が100%近くに設定されると、回生動作時に発生した回生電力を電力貯蔵装置14に蓄えることができず、省エネ運転の妨げになる。
従来技術では、非常走行時に必要な電力に基づいて目標SOCが算出してないため、目標SOCが一定の高い値に設定されているのが一般的である。そのため、電力貯蔵装置14の劣化の進行が早まり、電力貯蔵装置14の交換サイクルが短期間となり、電力貯蔵装置14の導入コスト(製品コスト、設置コストなどを含む)を低下させたいというニーズに対応することができないという課題があった。また、目標SOCが一定の高い値に設定されると、電力貯蔵装置14への回生電力の充電量が少なくなり、力行時の電力として回生電力を有効利用することができない。
本実施の形態では、少なくとも列車在線位置に基づき、電力系統300の停電などによって停止した列車5を力行させるために最低限必要となる必要電力量を確保するように、目標SOCが変化するため、列車5の在線位置に関わらず目標SOCが一定の高い値に設定される場合に比べて、目標SOCの値を相対的に低い値にすることができる。そのため、目標SOCを超えるような充電制御が抑制されて、電力貯蔵装置14の劣化の進行を遅くできる。
ステップS10において、充放電制御部13は、計測されたき電線電圧の値が、停電を判定するための停電判定値よりも低いか否かにより、電力系統300が停電したか否かを判定する。き電線電圧が、停電判定値よりも低い値ではない場合(ステップS10,No)、ステップS1~ステップS10の処理が繰り返される。き電線電圧が、停電判定値よりも低い値となったとき(ステップS10,Yes)、充放電制御部13は、電力系統300が停電したと判定してステップS11の処理を行う。
ステップS11において、充放電制御部13は、放電制御を開始し、ステップS12において、電力系統300が復旧したか否かを判定する。
充放電制御部13は、計測されたき電線電圧の値が停電判定値よりも高い場合、電力系統300が復旧したと判定し(ステップS12,Yes)、ステップS14の処理を行う。
充放電制御部13は、計測されたき電線電圧の値が停電判定値よりも低い場合、電力系統300が復旧していないと判定し(ステップS12,No)、ステップS13の処理を行う。
ステップS13において、充放電制御部13は、列車5が最寄り駅に到着したか否かを判定する。例えば、例えば充放電制御部13は、列車在線位置を入力して、予め記憶した最寄り駅の位置と一致するか否かを基準にして、列車5が最寄り駅に到着したか否かを判定する。列車5が最寄り駅に到着していない場合(ステップS13,No)、ステップS11~ステップS13の処理が繰り返される。列車5が最寄り駅に到着した場合(ステップS13,Yes)、充放電制御部13は、放電制御を終了する(ステップS14)。
なお、本実施の形態の列車交通システム100は、き電線6に直流電圧が発生する直流き電方式のシステムであるが、後述する目標SOC算出部12は、交流き電方式のシステムに適用してもよい。
また、図1に示される目標SOC算出部12の機能は、地上側の電力需給システム1に設ける以外にも、例えば列車5に搭載される列車情報管理装置、車上制御装置などの車上制御装置に設けられていてもよい。
この場合、列車5には、電力貯蔵装置14が設けられ、さらに車上制御装置は、地上側で計算された予想ダイヤを、無線装置を介して入力する。また車上制御装置は、乗車率検知装置で算出された乗車率と、列車走行パタンDB11から無線装置を介して送信される列車走行パタンと、車上で計測されたき電電圧と、電力貯蔵装置14の電圧(端子電圧)を計測して得られたバッテリ電圧とを入力する。
このように、車上制御装置に目標SOC算出部12の機能を設けることによって、地上設備を改修しなくても(車上制御装置の機能を改修するだけで)、車上搭載の電力貯蔵装置14の目標SOCが高い状態が維持されることを抑制できる。従って、地上設備を改修する大規模な作業が不要になり、車上搭載の電力貯蔵装置14の寿命を伸ばすための対策に要するコストを低減できる。また、車上に電力貯蔵装置14が搭載された時点で、即座に目標SOCの制御が可能となるため、電力貯蔵装置14の寿命を伸ばすことによる効果(電力貯蔵装置14の導入コスト、設置コストなどの低減)を最大限に高めることができる。
以上に説明したように本実施の形態に係る充放電制御装置は、少なくとも、き電線電圧と、駅間の列車の位置と、列車の負荷とに基づき、商用電源の停電時に前記電力貯蔵装置から供給される電力で前記列車を所定の駅まで移動させるのに必要な電力量である非常時必要電力量を算出し、算出した前記非常時必要電力量に基づき、前記電力貯蔵装置を充電する際の目標となる充電率である目標SOC(State Of Charge)を算出する目標SOC算出部を備える。この構成により、列車在線位置などが変化すると、電力系統300の停電などによって停止した列車5を力行させるために最低限必要となる必要電力量を確保するための目標SOCが変化する。そのため、列車5の在線位置に関わらず目標SOCが一定の高い値に設定される場合に比べて、目標SOCの値を相対的に低い値にすることができる。その結果、目標SOCを超えるような充電制御が抑制されて、電力貯蔵装置14の劣化の進行を遅くでき、電力貯蔵装置14の寿命を伸ばすための対策に要するコストを低減できる。
また、本実施の形態に係る目標SOC算出部は、前記き電線電圧と、前記駅間の列車の位置と、前記列車の負荷とに加えて、き電線の抵抗に基づき、地上側に設置される前記電力貯蔵装置の前記目標SOCを算出するように構成してもよい。
この構成により、地上側に設置される電力貯蔵装置の寿命を大幅に伸ばすことができる。地上側に設置される電力貯蔵装置は、複数の列車から回生された電力を蓄電でき、また複数の列車に供給される力行用の電力を賄うことができるように、大きな蓄電容量を要する。このような地上側に設置される電力貯蔵装置を交換する場合、多大なコストが必要になるだけでなく、旅客への影響を最小限にするため作業時間が深夜から早朝までの時間体に制限される。従って、地上側に設置される電力貯蔵装置の交換は用意ではない。本実施の形態によれば、電力貯蔵装置の延命が可能になるため、電力貯蔵装置を交換するためのコストを大幅に低減できるだけでなく、電力貯蔵装置の寿命が延びることで、非常走行時間を長くすることが可能となり、列車の運行時への影響を最小限に留めることができる。
また、本実施の形態に係る目標SOC算出部は、前記列車に搭載される前記電力貯蔵装置の前記目標SOCを算出するように構成してもよい。
この構成により、車上搭載の電力貯蔵装置の寿命を大幅に伸ばすことができる。特に電力貯蔵装置を搭載する列車の数が増える程、その電力貯蔵装置の交換に伴う影響(コスト上昇、非常走行時間の短縮)を抑える効果が期待できる。
また、本実施の形態に係る目標SOC算出部は、前記非常時必要電力量が第1設定値よりも大きいとき、前記目標SOCを第1SOC設定値よりも高くし、前記非常時必要電力量が第2設定値よりも小さいとき、前記目標SOCを第2SOC設定値よりも低くするように構成してもよい。第1設定値は、第2設定値よりも高い値であり、第1SOC設定値は例えば70%、第2SOC設定値は例えば50%である。
例えば朝の7時~9時、夜の18時~21時などの通勤時間帯では、多くの列車が運行するため、このような時間体で停電が発生すると、非常時必要電力量が大きくなることが予測される。このように、非常時必要電力量が大きくなることが予測される場合、本実施の形態に係る目標SOC算出部では、例えば目標SOCに1.1、1.2などの定数を乗算することで、目標SOCが、第1SOC設定値(例えば70%)よりも高い80%などに設定される。これにより、通勤時間帯での非常時必要電力量を確保できる。
これとは逆に、通勤時間帯以外の時間端では、非常時必要電力量を小さくして、少しでも電力貯蔵装置14の負担を低減した方が望ましいため、本実施の形態に係る目標SOC算出部では、例えば目標SOCに0.9、0.8などの定数を乗算することで、目標SOCが、第2SOC設定値(例えば50%)よりも低い40%などに設定される。これにより、通勤時間帯以外の時間帯での非常時必要電力量を確保しながら、電力貯蔵装置14の延命を図ることができる。
また、本実施の形態に係る目標SOC算出部は、ダイヤ情報に基づき、前記列車の現在位置よりも一定距離先の位置を推定し、推定した位置における前記非常時必要電力量を算出するように構成してもよい。これにより、列車の現在位置よりも一定距離先の位置で列車5が停車した場合に、必要になる非常時必要電力量を予測して、その位置に到着するまので走行時間を利用して、非常時必要電力量を確保することができる。従って、電力貯蔵装置14の延命を図りながら、非常走行時に必要な電力を精度よく推定することができる。
また、本実施の形態に係る目標SOC算出部は、列車交通システムの管理対象範囲内の駅間に存在する前記列車の台数に関する情報を用いて、前記非常時必要電力量を算出するように構成してもよい。この構成により、2以上の列車の非常走行時における電力を確保することができる。なお、複数の列車を同時に走行させた場合、各列車の力行に必要なき電線電圧が不足する可能性があるため、例えば、複数の列車を同時に最寄り駅まで走行させるのではなく、1台ずつ走行させることが望ましい。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。