本発明の静電荷像現像用トナーは、トナー母体粒子を含有する静電荷像現像用トナーであって、前記トナー母体粒子が、少なくとも離型剤と、結着樹脂として非晶性ビニル樹脂と、イエロー色又は非イエロー色着色剤と、o-アセトアセトアニシジドとを含有し、前記o-アセトアセトアニシジドの含有量が、50質量ppm超、150質量ppm以下であり、前記結着樹脂が、スチレン・アクリル樹脂ユニットを有する非晶性ポリエステル樹脂又は結晶性ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を、50質量%未満の比率で、含有することを特徴とする。この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記o-アセトアセトアニシジドの含有量が、50質量ppm超、105質量ppm以下であることが、定着温度許
容幅をより広げ、定着分離性と耐光沢ムラに優れる観点から、好ましい範囲である。
前記非晶性ビニル樹脂として、スチレン系樹脂を含有することが、前述のとおり、o-アセトアセトアニシジドの芳香環部位との相互作用が働くために、離型剤の安定分散と相分離が実現できるため、好ましい。中でも、スチレン・アクリル樹脂が特に好ましい。理由は定かではないが、線形性の高いスチレン・アクリル樹脂とワックスの間でo-アセトアセトアニシジドが核剤として作用することで、適度に離型剤が分散して存在しより相分離状態を形成できるためと考えられる。
前記トナー母体粒子が含有する結着樹脂のうち、50質量%未満の割合で、スチレン・アクリル樹脂ユニットを有する非晶性ポリエステル樹脂又は結晶性ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することが、低温定着性の観点から、好ましい。
非晶性ポリエステル樹脂は、ビニル樹脂に比べ分子鎖同士のエステル間相互作用が働きo-アセトアセトアニシジドの核剤作用が働きにくいために離型剤の分散性に効果が得られにくいと考えられる。しかしながら、スチレン・アクリル樹脂ユニットを有する非晶性ポリエステル樹脂を用いる場合は、低温定着性とo-アセトアセトアニシジドの核剤作用をバランスさせることができ、好ましい。その場合は、トナー中の当該樹脂含有率としては50質量%以下であることが、好ましい。
また、結晶性ポリエステル樹脂を用いることは、近年トナーの低温定着性を向上する観点から好ましく用いられるが、ビニル樹脂に比べ分子鎖同士のエステル間相互作用が働く点と離型剤との親和性が比較的高い点から、o-アセトアセトアニシジドの核剤作用が働きにくい為に離型剤の分散性に効果が得られにくいと考えられる。しかしながら、スチレン・アクリル樹脂ユニットを有する結晶性ポリエステル樹脂を用いる場合は、低温定着性とo-アセトアセトアニシジドの核剤作用をバランスさせることができ、好ましい。その場合、トナー中の当該樹脂含有率としては50質量%以下であることが、好ましい。
前記離型剤の融点が、前記o-アセトアセトアニシジドよりも低いことが、幅広い定着温度で離型剤の染み出し効果が得られる観点から、好ましい。
前記トナー母体粒子が着色剤を含有し、当該着色剤がC.I.ピグメントイエロー74であることが、定着温度許容幅をより広げる観点から、好ましい。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
≪本発明の静電荷像現像用トナーの概要≫
本発明の静電荷像現像用トナーは、トナー母体粒子を含有する静電荷像現像用トナーであって、前記トナー母体粒子が、少なくとも離型剤と、結着樹脂として非晶性ビニル樹脂と、イエロー色又は非イエロー色着色剤と、o-アセトアセトアニシジドとを含有し、前記o-アセトアセトアニシジドの含有量が、50質量ppm超、150質量ppm以下であり、前記結着樹脂が、スチレン・アクリル樹脂ユニットを有する非晶性ポリエステル樹脂又は結晶性ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を、50質量%未満の比率で、含有することを特徴とする。
〔1〕o-アセトアセトアニシジド
本発明に係るo-アセトアセトアニシジド(以下、AAOAという場合がある。)は以下の構造を有する化合物である。
トナー母体粒子に含有されるo-アセトアセトアニシジドは、トナー母体粒子中において上述の離型剤の結晶核剤(融点:85~87℃)として作用する。
一般的に結晶は、結晶核ができた後に結晶成長して結晶部位が形成される。すなわち、離型剤の結晶化の促進や、離型剤の分散性を向上させるためには、結晶核を速やかに、かつ、均一に生成することが求められる。このため、結晶核剤は離型剤が溶融状態から結晶化する際に、「(1)既に結晶核(固体/結晶)として存在している」、「(2)トナー粒子の中で均一に分散している」、及び、「(3)離型剤と相互作用できる構造を保持している」ことが望まれる。
結晶核剤は、離型剤よりも融点が高いことが好ましい。結晶性核剤の融点が離型剤の融点がよりも高いことにより、離型剤が溶融状態から結晶化する際に、結晶核剤が離型剤よりも早く結晶核(固体/結晶)として存在しやすい。このため、結晶核(固体/結晶)として存在する結晶核剤を起点に離型剤が結晶成長し、離型剤が均一に分散及び結晶化されやすい。即ち、トナー母体粒子の作製において、o-アセトアセトアニシジドの融点がトナー母体粒子に含まれる離型剤の融点よりも高いことにより、離型剤の分散と結晶化が促進されやすい。すなわち、トナー母体粒子を構成する離型剤の融点が、o-アセトアセトアニシジドよりも融点が低いことが好ましい。
前記o-アセトアセトアニシジドは、低分子量化合物のためトナーバインダーの樹脂中でより分散されやすく、非晶性ビニル樹脂との親和性も高い。このため、非晶性ビニル樹脂は、o-アセトアセトアニシジドを起点として速やかに良好な分散状態になることができる。これにより、非晶性ビニル樹脂を用いたトナー粒子において、優れた低温定着性を確保することができる。
また、o-アセトアセトアニシジドは構造上、有機顔料、特にC.I.ピグメントイエロー74との親和性が高い。このため、C.I.ピグメントイエロー74等のo-アセトアセトアニシジドとの親和性が高い着色剤を用いることにより、トナー中での着色剤の分散性が向上し、画像濃度が向上する効果もある。
(o-アセトアセトアニシジドの含有量)
トナー母体粒子中のo-アセトアセトアニシジドの含有量は、50質量ppm超、150質量ppm以下であり、50質量ppm超、105質量ppm以下が好ましい。o-アセトアセトアニシジドの含有量が50質量ppmより少ない場合、離型剤の結晶化度を十分に高めることが難しく、耐熱保管性を十分に保持することが難しい。また、着色剤の分散性も向上しにくく、画像濃度が向上しにくい。o-アセトアセトアニシジドの含有量が150質量ppmより大きい場合、o-アセトアセトアニシジドが離型剤の結晶化を過度に促進させるため、離型剤の結晶ドメインが大きくなり、離型剤の分散性が劣化する。また、着色剤の分散性も同時に劣化するため、低温定着性や画像濃度の向上の効果が得られにくくなる。
トナー母体粒子中のo-アセトアセトアニシジドの含有量は、o-アセトアセトアニシジドを添加することにより調整することができる。
また、トナーの着色剤として使用されるC.I.ピグメントイエロー74のような市販されている着色剤には、もともとo-アセトアセトアニシジドが含まれている場合がある。この場合は、着色剤中の含有量をあらかじめ特定しておき、トナー母体粒子中のo-アセトアセトアニシジドの含有量が、50質量ppm超、150質量ppm以下となるように、o-アセトアセトアニシジドを添加して不足分のo-アセトアセトアニシジドを増加させればよい。
トナー母体粒子中のo-アセトアセトアニシジドの含有量は、以下の方法で測定することができる。トナー母体粒子10mgを20mLガラス容器に精秤し、メタノールを1mL添加し、超音波照射を数秒実施する。次に、ジメチルスルホキシド(DMSO)を4mL添加し、超音波を20分照射後、メンブランフィルターでろ過し、HPLC測定溶液とする。このHPLC測定溶液を、超高速HPLCを用いて下記条件で検出する。
〈測定条件〉
<測定条件>
カラム:Waters社HSST3 2.1mmi.d.*100mmL、1.8μm 温度:40℃、
流速:0.3mL/min、
溶離液;メタノール/0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.0)、
グラジエント:メタノールを溶離液(A)、0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.0)を溶離液(B)とし、0~5minの間は溶離液(A)と溶離液(B)との比率(A/B)を40/60とし、5~15minの間は比率(A/B)を40/60から100/0に変化させ、15~30minの間は比率(A/B)を100/0として測定
注入量:2μL、
検出: UV280nm
定量はo-アセトアセトアニシジド標品を用いて絶対検量線法により行う。
〔2〕静電荷像現像用トナー
なお、本発明の静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)は、少なくとも、結着樹脂を含有するトナー母体粒子と外添剤と着色剤とからなるトナー粒子を含む。
本発明に係るトナー母体粒子は、結着樹脂のほか、必要に応じて離型剤、帯電制御剤、界面活性剤などの種々の内添剤を含有してもよい。
なお、本発明において、「トナー」とは、「トナー粒子」の集合体のことをいい、トナー粒子とは、上述のトナー母体粒子に外添剤を添加したものをいう。また、以下の説明においては、トナー母体粒子とトナー粒子とを特に区別する必要がない場合、単に「トナー粒子」ともいう。
〔2.1〕結着樹脂
本発明に係る結着樹脂は、少なくとも非晶性ビニル樹脂を含有する。前記非晶性ビニル樹脂として、スチレン系樹脂を含有することが好ましい。
また、前記トナー母体粒子が含有する結着樹脂のうち、50質量%未満の割合で非晶性ポリエステル樹脂又は結晶性ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することが、好ましい。
なお、特に区別の必要がない場合、非晶性ビニル樹脂及び非晶性ポリエステル樹脂をまとめて単に「非晶性樹脂」ともいう。
また、本発明において、「結着樹脂が非晶性樹脂を含む」とは、結着樹脂が、非晶性ビニル樹脂や非晶性ポリエステル樹脂など非晶性樹脂そのものを含む態様であってもよいし、後述のハイブリッド結晶性樹脂における非晶性樹脂セグメントのように、他の樹脂中に含まれるセグメントとして含有されていてもよい。
同様に、「結着樹脂が結晶性樹脂を含有する」とは、結着樹脂が結晶性樹脂そのものを含む態様であってもよいし、後述のハイブリッド結晶性樹脂における結晶性ポリエステル重合セグメントのように、他の樹脂中に含まれるセグメントとして含有されていてもよい。
(非晶性樹脂)
本発明に係るトナー母体粒子は、非晶性樹脂として、非晶性ビニル樹脂を含有し、さらに非晶性ポリエステル樹脂又はその一部が変性された変性ポリエステル樹脂(ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂)を含むことが、好ましい。
非晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)により得られる吸熱曲線において、ガラス転移点Tgを有するが、融点すなわち昇温時の前述の明確な吸熱ピークがない非結晶性を示す樹脂をいう。
上記非晶性樹脂は、上記結晶性樹脂とともに結着樹脂として用いられ、上記トナー母体粒子を構成する。なお、非晶性樹脂は、非晶性ポリエステル樹脂及び非晶性ビニル樹脂のほか、ウレタン系樹脂やウレア系樹脂を含んでいてもよい。上記非晶性樹脂は、例えば公知の合成法によって入手可能である。
(非晶性ビニル樹脂)
非晶性ビニル樹脂としては、スチレン系樹脂が好ましい。理由は定かではないが、o-アセトアセトアニシジドの芳香環部位との相互作用が働く為に安定に離型剤の安定分散と相分離が実現できるためと考えられる。
上記非晶性ビニル樹脂としては、ビニル化合物を重合した非晶性ビニル樹脂であれば特に制限されないが、例えば、アクリル酸エステル樹脂、スチレン・アクリル酸エステル樹脂、エチレン・酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、熱定着時の可塑性を考慮すると、スチレン・アクリル酸エステル樹脂(スチレン・アクリル樹脂)が好ましい。
上記非晶性ビニル樹脂の重量平均分子量は、20000~150000の範囲内にあり、数平均分子量は、5000~20000の範囲内にあることが、定着性と耐ホットオフセット性の両立の観点から好ましい。本発明において、重量平均分子量及び数平均分子量は、以下のようにゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した分子量分布から求めることができる。
試料を濃度1mg/mLとなるようにテトラヒドロフラン中に添加し、室温において超音波分散機を用いて5分間分散処理した後、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して、試料液を調製する。GPC装置HLC-8120GPC(東ソー株式会社製)及びカラムTSKguardcolum+TSKgelSuperHZ-33連(東ソー株式会社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフランを流速0.2mL/分で流す。キャリア溶媒とともに、調製した試料液10μLをGPC装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて試料を検出し、単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて、試料の分子量分布を算出する。検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いる。
上記非晶性ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)は、定着性と耐熱保管性の両立の観点から、20~70℃の範囲内にあることが好ましい。ガラス転移点は、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418-82に規定された方法(DSC法)に従って測定することができる。測定には、DSC-7示差走査カロリメーター(パーキンエルマー社製)、TAC7/DX熱分析装置コントローラー(パーキンエルマー社製)などを用いることができる。
上記非晶性ビニル樹脂は、単一の単量体のみの重合体であってもよいし、当該単量体と他の単量体との共重合体であってもよい。他の単量体としては、スチレン、スチレンの誘導体などのスチレン系単量体などを使用できる。
前記結着樹脂における前記非晶性ビニル樹脂の含有量が、50質量%以上であることが好ましい。結着樹脂において、非晶性ビニル樹脂が主成分である(結着樹脂における非晶性ビニル樹脂の含有量が50質量%以上である。)ことにより、結晶性樹脂との相溶・非相溶の調整がしやすくなる。特に、結着樹脂と非晶性ビニル樹脂との構造が互いに異なるために非相溶化させることが容易であるため、より低温のアニーリングで結晶化を飽和させることができる。このため、前記結着樹脂における前記非晶性ビニル樹脂の含有量が、50質量%以上であると、高温で長期間保管した場合の低温定着性の変動及び結晶性材料のブリードアウトを好適に抑えることができるため好ましい。
(非晶性ポリエステル樹脂)
上記非晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、2価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応によって得られるポリエステル樹脂のうち、非晶性を示すポリエステル樹脂である。コア・シェル構造のトナーを形成する場合、シェルの材料として非晶性ポリエステル樹脂を使用することもできる。
上記多価カルボン酸及び多価アルコールとしては、上述した結晶性ポリエステル樹脂と同様の材料を使用することができるほか、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール類及びこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物などのビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物なども使用できる。これらの中でも、特にトナーの帯電均一性を向上させるという観点から、多価アルコール成分としてはビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物とプロピレンオキサイド付加物を用いることが好ましい。これらの多価アルコール成分は1種単独で用いても良く2種以上併用しても良い。
多価カルボン酸と多価アルコールの比率は、多価アルコールのヒドロキシ基と多価カルボン酸のカルボキシ基との当量比[OH]/[COOH]が、1.5/1~1/1.5の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは1.2/1~1/1.2の範囲内である。
上記非晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量は、2000~10000の範囲内にあることが好ましい。数平均分子量は、上記非晶性ビニル樹脂の場合と同様にして測定することができる。
上記非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点は、20~70℃の範囲内にあることが好ましい。ガラス転移点は、上記非晶性ビニル樹脂の場合と同様にして測定することができる。
上記非晶性ポリエステル樹脂は、後述する結晶性ポリエステル樹脂と同様、スチレン・アクリル樹脂により変性されたハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂(以下、単に「ハイブリッド非晶性樹脂」ともいう)であることができる。
上記ハイブリッド非晶性樹脂は、スチレン・アクリル樹脂部分が非晶性ビニル樹脂との相溶性が高く、トナー母体粒子中に非晶性ポリエステル樹脂を均一に分散させることができる。トナー母体粒子がコア・シェル構造を有し、シェルが非晶性ポリエステル樹脂を含有する場合は、非晶性ビニル樹脂を含有するコア粒子の表面に凝集しやすく、表面全体を被覆しやすくなる。
本発明において「非晶性ポリエステル樹脂がスチレン・アクリル樹脂により変性された」とは、非晶性ポリエステル重合セグメントとスチレン・アクリル重合セグメントが化学結合していることをいう。非晶性ポリエステル重合セグメントとは、ハイブリッド樹脂のうち、非晶性ポエリステル樹脂に由来する樹脂部分、すなわち非晶性ポリエステル樹脂と化学構造が同じ分子鎖をいう。スチレン・アクリル重合セグメントとは、ハイブリッド樹脂のうち、スチレン・アクリル樹脂に由来する樹脂部分、すなわちスチレン・アクリル樹脂と化学構造が同じ分子鎖をいう。上記スチレン・アクリル樹脂は、上述のハイブリッド結晶性樹脂と同様の材料を用いて同様に製造することができる。
上記ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、2000~10000の範囲内にあることが、定着性の観点からより好ましい。
トナー母体粒子中の非晶性ポリエステル樹脂の含有量は、定着性と帯電の環境安定性の観点から、1質量%以上50質量%未満の範囲内にあることが好ましい。
(結晶性樹脂)
上記結晶性樹脂は、トナーの示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、DSCにおいて、昇温速度10℃/分で測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。このような結晶性樹脂の含有量としては、トナー母体粒子を構成する樹脂(すなわち、結着樹脂と離型剤。)に対して5~20質量%の範囲内であることが好ましい。これにより、結着樹脂のシャープメルト性を向上させて、トナーの低温定着性を向上させるという効果を得つつ、結晶性樹脂を含有させることによる耐熱保管性の低下を抑制することができる。
上記結晶性樹脂としては、結晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリアミド樹脂、結晶性ポリウレタン樹脂、結晶性ポリアセタール樹脂、結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂、結晶性ポリブチレンテレフタレート樹脂、結晶性ポリフェニレンサルファイド樹脂、結晶性ポリエーテルエーテルケトン樹脂、結晶性ポリテトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられる。
中でも、結晶性樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂を含有することが、熱定着時に結晶性ポリエステル樹脂が融解して非晶性樹脂の可塑化剤として働くために低温定着性をより向上させることができるため好ましい。当該結晶性ポリエステル樹脂は、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールとの脱水縮合反応による公知の合成法により得ることができる。上記結晶性ポリエステル樹脂は、1種でもそれ以上の種類を用いてもよい。
なお、結晶性ポリエステル樹脂を構成するモノマーは、直鎖脂肪族モノマーを50質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することが好ましい。芳香族モノマーを用いた場合には、結晶性ポリエステル樹脂の融点が高いものとなることが多く、分岐型の脂肪族モノマーを用いた場合には結晶性が低くなることが多いことから直鎖脂肪族モノマーを用いることが好ましい。また、直鎖脂肪族モノマーが50%以上とすることで、トナー中において結晶性を維持することができる。80%以上にすることで十分な結晶性を維持することが可能になる。
上記多価カルボン酸の例には、コハク酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸;それらの酸無水物;及びそれらの炭素数1~3のアルキルエステル;が含まれる。上記多価カルボン酸は、脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。
上記多価アルコールの例には、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオールなどの脂肪族ジオール;及びグリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上のアルコール;が含まれる。上記多価アルコールは、脂肪族ジオールであることが好ましい。
上記結晶性ポリエステル樹脂として、少なくとも結晶性ポリエステル重合セグメントと、他種構造の重合セグメントとが化学結合してなるハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。すなわち、他種構造の樹脂(例えば、スチレン・アクリル樹脂、以下、「St・Ac樹脂」ともいう。)により変性されたハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(以下、単に「ハイブリッド結晶性樹脂」ともいう)であることが好ましい。ハイブリッド結晶性樹脂は、例えば、他種構造の樹脂がスチレン・アクリル樹脂であれば、当該スチレン・アクリル樹脂部分が非晶性樹脂との相溶性が高く、トナー母体粒子中に結晶性ポリエステル樹脂を均一に分散させることができる。また、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を含有させることで、トナー母体粒子に含有される結着樹脂や離型剤の相溶及び非相溶並びに結晶化の調整を好適にでき、ひいては、本発明の効果をより好適に発現できる。さらには、トナー母体粒子が後述のコア・シェル構造を有し、シェルがハイブリッド結晶性樹脂を含有する場合、スチレン・アクリル樹脂部分が非晶性樹脂を含有するコア粒子の表面に凝集しやすく、コア粒子の表面全体を被覆しやすくなる。
なお、ここで、他種構造の樹脂とは、樹脂種が異なるものを異なる種類の樹脂と定義し、単量体組成比が異なるもの、後述のスチレン・アクリル変性ポリエステル樹脂などの変性の有無のみの違いは異なる種類の樹脂とは呼ばない。
また、上述のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂において、結晶性ポエリステル樹脂に由来の構造を有する樹脂部分を「結晶性ポリエステル重合セグメント」といい、他種構造の樹脂に由来する構造を有する樹脂部分を「他種構造の重合」セグメントという。
他種構造の樹脂としては、例えば、スチレン・アクリル樹脂などのビニル樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂などがあげられる。他種構造の重合セグメントとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記スチレン・アクリル樹脂は、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸系単量体の重合体である。
上記スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレン、p-クロロスチレン、p-エチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、3,4-ジクロロスチレン、これらの誘導体等が挙げられる。これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
上記(メタ)アクリル酸系単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、6-ヒドロキシアクリル酸エチル、γ-アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
上記スチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸系単量体に加えて、他の単量体を使用することもできる。使用できる他の単量体としては、例えばマレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等が挙げられる。
上記スチレン・アクリル樹脂は、上述した単量体の重合に過酸化物、過硫化物、アゾ化合物などの通常用いられる任意の重合開始剤を添加し、塊状重合、溶液重合、乳化重合法、ミニエマルション法、懸濁重合法、分散重合法などの公知の重合手法により重合することにより得ることができる。重合時、分子量を調整することを目的として、アルキルメルカプタン、メルカプト脂肪酸エステルなどの通常用いられる連鎖移動剤を用いることができる。
上記ハイブリッド結晶性樹脂中の他種構造の重合セグメントの含有量は、10質量%以下であることが低温定着性の観点から好ましい。
以下に、ハイブリッド結晶性樹脂の製造方法の具体例として、他種構造の重合セグメントとして、スチレン・アクリル重合セグメントを有する(すなわち、スチレン・アクリル樹脂により変性された)ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の製造方法について述べる。
上記ハイブリッド結晶性樹脂の製造方法の例としては、まず、それぞれ個別に用意した結晶性ポリエステル樹脂とスチレン・アクリル樹脂とを反応させて化学結合させることにより得る製造方法があげられる。結合を容易にする観点からは、結晶性ポリエステル樹脂かスチレン・アクリル樹脂に、結晶性ポリエステル樹脂とスチレン・アクリル樹脂の両方と反応可能な置換基を組み込むことが好ましい。例えば、スチレン・アクリル樹脂の生成時、原料であるスチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸系単量体とともに、結晶性ポリエステル樹脂が有するカルボキシ基[COOH]又はヒドロキシ基[OH]と反応可能な置換基と、スチレン・アクリル樹脂と反応可能な置換基とを有する化合物を添加する。これにより、結晶性ポリエステル樹脂中のカルボキシ基又はヒドロキシ基と反応可能な置換基を有するスチレン・アクリル樹脂を得ることができる。
また、上記ハイブリッド結晶性樹脂の製造方法の、その他の例としては、あらかじめ用意した結晶性ポリエステル樹脂の存在下でスチレン・アクリル樹脂を生成する重合反応を行うか、あらかじめ用意したスチレン・アクリル樹脂の存在下で結晶性ポリエステル樹脂を生成する重合反応を行うことによって得る方法があげられる。いずれの場合も重合反応時に、上述したような結晶性ポリエステル樹脂及びスチレン・アクリル樹脂の両方と反応可能な置換基を有する化合物を添加すればよい。なお、このような化合物としては、具体的には、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸などが挙げられる。
なお、上記ハイブリッド結晶性樹脂の数平均分子量(Mn)は、8500~12500であることが好ましく。9000~11000の範囲内であることが更に好ましい。この範囲内にあることが、低温定着性の観点からより好ましい。
結晶性樹脂の融点(Tm℃)は、55~80℃の範囲内にあることが、低温定着性及び耐熱保管性をより良好にできるため好ましい。
上記結晶性樹脂の融点は、結晶性樹脂を試料とするほかは、上述の結晶性樹脂由来の融点(Tm)の測定と同様にして計測できる。
上記結着樹脂中の結晶性ポリエステル樹脂の含有量は5質量%以上50質量%未満であることが好ましい。結着樹脂中の結晶性ポリエステル樹脂の含有量が5質量%以上であると、低温定着の効果を十分に発揮でき、50質量%未満であれば耐熱保管性をより好適にできる。また、トナー母体粒子中の結晶性樹脂の含有量は、5~20質量%が好ましく、7~15質量%がより好ましい。5質量%以上であれば十分な可塑化効果を得られ、より好適な低温定着性を得られる。また、20質量%以下であれば、トナーとしての耐熱保管性や物理的なストレスに対する安定性をより良好にできる。また、7~15質量%の範囲内であれば、非晶性樹脂の構成や適切な製造法を選択することにより、好ましい貯蔵弾性率に制御することが容易になる。
また、非晶性ポリエステル樹脂と前記結晶性樹脂との合計量に占める当該結晶性樹脂の割合が、40質量%より大きく60質量%以下であることが好ましい。
この範囲内であれば、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性樹脂とが相溶しやすく低温定着性に優れる。また、結晶性樹脂が40質量%より大きいと、完全に非晶性樹脂に相溶することを回避でき、アニーリングにより好適に結晶化させることができるため、ひいては良好な耐熱性をえることができる。また、60質量%以下であれば、十分に相溶できるため、良好な低温定着性をえることができる。
本発明に係る結晶性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、5000~50000の範囲内にあり、数平均分子量は2000~10000の範囲内にあることが、低温定着性及び光沢度安定性の観点から好ましい。
〔2.2〕離型剤
本発明に係るトナー母体粒子は、少なくとも離型剤を含有する。離型剤としては、公知の種々のワックスを用いることができる。
具体的には、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス;マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス;パラフィンワックス、サゾールワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス;ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス;カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘニル、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18-オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエートなどのエステル系ワックス;エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックスなどが挙げられる。上記離型剤は1種でもそれ以上でもよい。
離型剤としては、結着樹脂を構成する樹脂と相溶するなどの相互作用を有さないものを用いることが好ましい。
これらのうちでも、低温定着時の離型性の観点から、融点の低いもの、具体的には、融点が60~100℃の範囲内のものを用いることが好ましいが、離型剤の融点としては、o-アセトアセトアニシジドの融点近傍(約87℃)より低いことが好ましい。これは、o-アセトアセトアニシジドが樹脂と離型剤の界面に存在し相分離状態や離型剤の分散状態に影響するため、トナー粒子製造時にo-アセトアセトアニシジドが結晶核剤の様に働き球晶の生成速度やドメインサイズ形成を安定かつ適度な分散状態にしているためと考えられる。
離型剤の含有割合は、トナー母体粒子中に1~20質量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは5~20質量%の範囲内である。トナーにおける離型剤の含有割合が上記範囲であることにより、分離性及び定着性が確実に両立して得られる。
離型剤のトナーへの導入方法としては、後述のトナーの製造方法の凝集、融着工程において、離型剤のみよりなる粒子を非晶性樹脂粒子、結晶性ポリエステル樹脂粒子などとともに水系媒体中で凝集、融着する方法が挙げられる。離型剤粒子は、離型剤を水系媒体に分散させた分散液として得ることができる。離型剤粒子の分散液は、界面活性剤を含有する水系媒体を離型剤の融点より高い温度に加熱し、溶融した離型剤溶液を加えて機械的撹拌などの機械的エネルギーや超音波エネルギーなどを付与して微分散させた後、冷却することによって調製することができる。
また、非晶性樹脂が例えばスチレン・アクリル樹脂である場合には、凝集、融着工程に供される非晶性樹脂粒子(スチレン・アクリル樹脂粒子)に離型剤をあらかじめ混合させておくことによって、当該離型剤をトナーへ導入することもできる。
具体的には、スチレン・アクリル樹脂を形成するための重合性単量体の溶液に離型剤を溶解させる。この溶液を、界面活性剤を含有する水系媒体中に加え、上記と同様に機械的撹拌などの機械的エネルギーや超音波エネルギーなどを付与して微分散させた後、重合開始剤を加えて所望の重合温度で重合を行う、いわゆるミニエマルション重合法によって、離型剤を含有する非晶性樹脂粒子の分散液を調製することができる。
〔2.3〕着色剤
上記着色剤には、カラートナーの着色剤に用いられる公知の無機又は有機着色剤が用いられる。当該着色剤の例には、カーボンブラック、磁性体、顔料及び染料が含まれる。上記着色剤は1種でもそれ以上でもよい。
上記カーボンブラックの例には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びランプブラックが含まれる。上記磁性体の例には、鉄やニッケル、コバルトなどの強磁性金属、これらの金属を含む合金及びフェライトやマグネタイトなどの強磁性金属の化合物、が含まれる。
上記顔料の例には、C.I.ピグメントレッド2、同3、同5、同7、同15、同16、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同123、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同208、同209、同222、同238、同269、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー3、同9、同14、同17、同35、同36、同65、同74、同83、同93、同94、同98、同110、同111、同138、同139、同153、同155、同180、同181、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同15:4、同60及び中心金属が亜鉛やチタン、マグネシウムなどであるフタロシアニン顔料、が含まれる。中でも、着色剤がC.I.ピグメントイエロー74であることが、定着温度許容幅をより広げる観点から、好ましく使用される。
上記染料の例には、C.I.ソルベントレッド1、同3、同14、同17、同18、同22、同23、同49、同51、同52、同58、同63、同87、同111、同122、同127、同128、同131、同145、同146、同149、同150、同151、同152、同153、同154、同155、同156、同157、同158、同176、同179、ピラゾロトリアゾールアゾ染料、ピラゾロトリアゾールアゾメチン染料、ピラゾロンアゾ染料、ピラゾロンアゾメチン染料、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93及び同95が含まれる。
〔2.4〕その他の添加剤
[帯電制御剤]
上記帯電制御剤の例には、ニグロシン系染料、ナフテン酸又は高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、アゾ系金属錯体及びサリチル酸金属塩又はその金属錯体が含まれる。上記帯電制御剤は1種でもそれ以上でもよい。
[界面活性剤]
上記界面活性剤の例には、硫酸エステル塩系、スルホン酸塩系、リン酸エステル系などのアニオン系界面活性剤;アミン塩型、4級アンモニウム塩型などのカチオン系界面活性剤;ポリエチレングリコール系、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物系、多価アルコール系などの非イオン系界面活性剤が含まれる。上記界面活性剤は、1種でもそれ以上でもよい。
上記アニオン系界面活性剤の具体例には、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムが含まれる。上記カチオン系界面活性剤の具体例には、アルキルベンゼンジメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルアンモニウムクロライドが含まれる。非イオン系界面活性剤の例には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルが含まれる。
〔2.5〕外添剤
トナーの流動性、帯電性、クリーニング性等を改良するために、トナー母体粒子表面に、いわゆる後処理剤である流動化剤、クリーニング助剤等の外添剤を添加する。
本発明に係る外添剤は、1種でもそれ以上でもよい。当該外添剤としては、特に限定されず、公知のものを使用でき、例えば、シリカ粒子、チタニア粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、酸化亜鉛粒子、酸化クロム粒子、酸化セリウム粒子、酸化アンチモン粒子、酸化タングステン粒子、酸化スズ粒子、酸化テルル粒子、酸化マンガン粒子及び酸化ホウ素粒子を使用できる。
上記外添剤は、ゾル・ゲル法で作製されたシリカ粒子を含むことがより好ましい。ゾル・ゲル法で作製されたシリカ粒子は、粒子径分布が狭いという特徴を有しているので、トナー母体粒子に対する外添剤の付着強度のバラツキを抑制する観点から好ましい。
また、上記シリカ粒子の個数平均一次粒子径は、70~200nmであることが好ましい。個数平均一次粒子径が上記範囲内にあるシリカ粒子は、他の外添剤に比べて大きい。したがって、二成分現像剤においてスペーサーとしての役割を有する。よって、二成分現像剤が現像装置中で撹拌されているときに、より小さな他の外添剤がトナー母体粒子に埋め込まれることを防止する観点から好ましい。また、トナー母体粒子同士の融着を防止する観点からも好ましい。
上記外添剤の個数平均一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡で撮影した画像の画像処理によって求めることが可能であり、例えば、分級や分級品の混合などによって調整することが可能である。
上記外添剤は、その表面が疎水化処理されていることが好ましい。当該疎水化処理には、公知の表面処理剤が用いられる。当該表面処理剤は、1種でもそれ以上でもよく、その例には、シランカップリング剤、シリコーンオイル、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、脂肪酸、脂肪酸金属塩、そのエステル化物及びロジン酸が含まれる。
上記シランカップリング剤の例には、ジメチルジメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、メチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン及びデシルトリメトキシシランが含まれる。上記シリコーンオイルの例には、環状化合物や、直鎖状又は分岐状のオルガノシロキサンなどが含まれ、より具体的には、オルガノシロキサンオリゴマー、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン及びテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、が含まれる。
また、上記シリコーンオイルの例には、側鎖又は片末端や両末端、側鎖片末端、側鎖両末端などに変性基を導入した反応性の高い、少なくとも末端を変性したシリコーンオイルが含まれる。上記変性基の種類は、1種でもそれ以上でもよく、その例には、アルコキシ、カルボキシル、カルビノール、高級脂肪酸変性、フェノール、エポキシ、メタクリル及びアミノが含まれる。
上記外添剤の添加量は、トナー粒子全体に対して0.1~10.0質量%が好ましい。より好ましくは1.0~3.0質量%である。
〔2.6〕トナー粒子の物性
[トナー粒子の構造]
本発明に係るトナー母体粒子は、トナー粒子のみの単層構造であってもよいが、コア・シェル構造を有することが好ましい。これにより、低温定着性及び耐熱保管性をより良好にできる。
コア・シェル構造を有するトナー母体粒子とは、コア粒子として当該コア粒子とその表面を被覆するシェルとを備える多層構造を有するトナー母体粒子をいう。シェルは、コア粒子の全表面を被覆していなくてもよく、部分的にコア粒子が露出していてもよい。コア・シェル構造の断面は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)などの公知の観察手段によって、確認することができる。
コア・シェル構造の場合は、コア粒子とシェルでガラス転移点、融点、硬度などの特性を異ならせることができ、目的に応じたトナー粒子の設計が可能である。例えば、結着樹脂、着色剤、離型剤などを含有し、ガラス転移点が比較的低いコア粒子の表面に、ガラス転移点が比較的高い樹脂を凝集、融着させて、シェルを形成することができる。シェルには、上述したように非晶性ポリエステル樹脂を使用することができ、中でもスチレン・アクリル樹脂により変性された非晶性ポリエステル樹脂を好ましく使用することができる。
[トナー粒子の平均粒径]
トナー粒子の平均粒径としては、体積基準のメジアン径(d50)が3~15μmの範囲内にあることが好ましく、4~8μmの範囲内にあることがより好ましい。
上記範囲内にあれば、1200dpiレベルの非常に微小なドット画像であっても高い再現性が得られる。
なお、トナー粒子の平均粒径は、製造時に使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、結着樹脂の組成等によって制御することができる。
トナー粒子の体積基準のメジアン径(d50)の測定には、マルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフトSoftware V3.51を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いることができる。
具体的には、測定試料(トナー)を、界面活性剤溶液(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を行い、トナー粒子分散液を調製する。このトナー粒子分散液を、サンプルスタンド内のISOTONII(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を100μmとし、測定範囲である2~60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径を体積基準のメジアン径(d50)として得る。
[トナー粒子の平均円形度]
本発明の静電荷像現像用トナーは、トナー粒子の平均円形度が、0.930~1.000の範囲内であることが好ましく、0.945~0.985の範囲内であることがより好ましい。平均円形度が上記範囲内にあれば、トナー粒子の破砕を抑えることができ、摩擦帯電付与部材の汚染を抑制してトナーの帯電性を安定させることができる。また、トナーにより形成される画像が高画質となる。
上記平均円形度は、次のようにして測定することができる。メジアン径を測定する場合と同様にして、トナーの分散液を調製する。FPIA-2100、FPIA-3000(いずれもシスメックス株式会社製)等によって、HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3000~10000個の適正濃度範囲でトナーの分散液の撮影を行い、個々のトナー粒子の円形度を下記式(y)によって算出する。各トナー粒子の円形度を加算し、円形度の和を各トナー粒子の数で除することにより、平均円形度を算出する。HPF検出数が上記適正濃度範囲であれば、十分な再現性が得られる。下記式(y)中、L1は、粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長(μm)を表し、L2は、粒子投影像の周囲長(μm)を表す。
式(y) 円形度=L1/L2
前述のように本発明に係るトナー粒子は、角がないトナー粒子の割合が50個数%以上であることが好ましい。角が存在するトナーの割合が多すぎる場合にはニップ部での流動性が不足し、同一のトナーがストレスを受け続けることになり、外添剤の埋没が進むことによるトルクの上昇や感光体へのフィルミングが発生しやすくなる。また角に過度のストレスがかかりその部分が摩耗しやすいことも感光体へのフィルミングの発生の原因になっているため、角がないトナー粒子が好ましい。
本発明の静電荷現像用トナーを構成するトナー粒子中、角がないトナー粒子の割合は50個数%以上であることが好ましく、更に好ましくは70個数%以上100個数%以下とである。
〔2.7〕静電荷現像用トナーの製造方法
本発明の静電荷現像用トナーの製造方法は、特に限定されず、公知の方法を採用できるが、特に、乳化重合凝集法や乳化凝集法を好適に採用できる。
また、本発明の静電荷現像用トナーの製造方法として好ましく用いられる乳化凝集法は、溶媒に溶解した結着樹脂溶液に貧溶媒を滴下して転相乳化を行ったのちに脱溶媒することで、樹脂粒子分散液とし、この樹脂粒子分散液と着色剤分散液及びワックスなどの離型剤分散液とを混合し、所望のトナー粒子の径となるまで凝集させ、更に結着樹脂微粒子間の融着を行うことにより形状制御を行って、トナー粒子を製造する方法である。
本発明の静電荷現像用トナーの製造方法として、乳化凝集法を用いる場合の一例を以下に示す。
(1)水系媒体中に着色剤の微粒子及びo-アセトアセトアニシジドが分散されてなる分散液を調製する工程
(2)水系媒体中に、必要に応じて内添剤を含有した結着樹脂微粒子が分散されてなる分散液を調製する工程
(3)着色剤の微粒子の分散液と、結着樹脂微粒子の分散液とを混合して、着色剤の微粒子と結着樹脂微粒子とを凝集、会合、融着させてトナー母体粒子を形成する工程
(4)トナー母体粒子の分散系(水系媒体)からトナー母体粒子を濾別し、界面活性剤などを除去する工程
(5)トナー母体粒子を乾燥する工程
(6)トナー母体粒子に外添剤を添加する工程
本発明の静電荷現像用トナーの製造方法においては、上記(3)の工程において、熱処理工程(アニーリング)があることが好ましい。トナー製造工程においてアニーリングを経ることで、実際のトナー使用条件で高温を含む様々な温度で保管した場合であっても低温定着性と耐熱保管性とを良好にするという効果を好適に発現できる。
以下に、上記(3)の工程の一例について、具体的に記載する。
撹拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、結晶性ポリエステル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂や非晶性ビニル樹脂などの結着樹脂の粒子の分散液と、着色剤粒子分散液を投入し、凝集剤(例えば、塩化マグネシウム。)の溶液を、撹拌下、添加し、上記結着樹脂の粒子や着色剤の粒子を凝集、会合、融着させ、粒子を成長させる。所望のタイミングで、塩化ナトリウムの水溶液を添加して、粒子径の成長を停止させる。次いで、昇温して撹拌し、トナー粒子の平均円形度が所望の値になるまで粒子の融着を進行させ、冷却し、液温を下げる。
その後、熱処理工程(アニーリング)として、撹拌しつつ、例えば、30分ほどかけて50℃まで昇温し、3時間ほど前記温度を維持する。その後冷却し30℃以下まで液温を下げる。その後、工程(4)~(6)を経ることで本発明の静電荷現像用トナーを製造することができる。
また、上記の(3)の工程以外の工程、すなわち、上記の(1)、(2)及び(4)~(6)の工程は、特に限定されず、公知の方法を好適に採用することができる。また、本願発明の効果発現を阻害しない範囲であれば、上記(1)~(6)の工程以外の公知の工程を採用することができる。
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
〔2.8〕静電荷像現像用現像剤
上記トナーは、一成分現像剤であれば上記トナー粒子そのものにより構成され、二成分現像剤であれば上記トナー粒子及びキャリア粒子により構成される。当該二成分現像剤におけるトナー粒子の含有量(トナー濃度)は、通常の二成分現像剤と同様でよく、例えば4.0~8.0質量%である。
上記キャリア粒子は、磁性体により構成される。当該キャリア粒子の例には、当該磁性体からなる芯材粒子と、その表面を被覆する被覆材の層とを有する被覆型キャリア粒子及び樹脂中に磁性体の微粉末が分散されてなる樹脂分散型のキャリア粒子、が含まれる。上記キャリア粒子は、感光体へのキャリア粒子の付着を抑制する観点から、上記被覆型キャリア粒子であることが好ましい。
上記芯材粒子は、磁性体、例えば、磁場によってその方向に強く磁化する物質、によって構成される。当該磁性体は、1種でもそれ以上でもよく、その例には、鉄、ニッケル及びコバルトなどの強磁性を示す金属、これらの金属を含む合金又は化合物及び熱処理することにより強磁性を示す合金、が含まれる。
上記強磁性を示す金属又はそれを含む化合物の例には、鉄、下記式(a)で表されるフェライト及び下記式(b)で表されるマグネタイト、が含まれる。式(a)、式(b)中のMは、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Mg、Zn、Cd及びLiの群から選ばれる一以上の1価又は2価の金属を表す。
式(a):MO・Fe2O3
式(b):MFe2O4
また、上記熱処理することにより強磁性を示す合金又は金属酸化物の例には、マンガン-銅-アルミニウム及びマンガン-銅-スズなどのホイスラー合金及び二酸化クロム、が含まれる。
上記芯材粒子は、上記フェライトであることが好ましい。これは、被覆型キャリア粒子の比重は、芯材粒子を構成する金属の比重よりも小さくなることから、現像装置内における撹拌の衝撃力をより小さくすることができるためである。
上記被覆材は、1種でもそれ以上でもよい。被覆材には、キャリア粒子の芯材粒子の被覆に利用される公知の樹脂を用いることができる。当該被覆材は、シクロアルキル基を有する樹脂であることが、キャリア粒子の水分吸着性を低減させる観点及び被覆層の芯材粒子との密着性を高める観点、から好ましい。当該シクロアルキル基の例には、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基及びシクロデシル基が含まれる。中でも、シクロヘキシル基又はシクロペンチル基が好ましく、被覆層とフェライト粒子との密着性の観点からシクロヘキシル基がより好ましい。
上記シクロアルキル基を有する樹脂の重量平均分子量は、例えば10000~800000であり、より好ましくは100000~750000である。当該樹脂における上記シクロアルキル基の含有量は、例えば10~90質量%である。上記樹脂中の当該シクロアルキル基の含有量は、例えば、P-GC/MSや1H-NMRなどの公知の機器分析法を利用して求めることが可能である。
上記二成分現像剤は、上記トナー粒子と上記キャリア粒子とを適量混合することによって製造することができる。当該混合に用いられる混合装置の例には、ナウターミキサー、Wコーン及びV型混合機が含まれる。
また、上記キャリア粒子の大きさ及び形状も、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることが可能である。例えば、上記キャリア粒子の体積平均粒径は、15~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは20~60μmの範囲内である。当該キャリア粒子の体積平均粒径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置「HELOS KA」(Sympatec社製)を用いて湿式にて測定することができる。また、上記キャリア粒子の体積平均粒径は、例えば、芯材粒子の製造条件による芯材粒子の粒径を制御する方法や、キャリア粒子の分級、キャリア粒子の分級品の混合などによって調整することが可能である。
〔3〕電子写真画像形成方法及び装置
本発明に用いられる電子写真画像形成方法は、少なくとも、潜像形成工程、現像工程、中間転写工程、転写工程、定着工程、及びクリーニング工程を有する画像形成方法であって、本発明の静電荷像現像用トナーを用いることを特徴とする。
すなわち、本発明の電子写真画像形成方法は以下の各工程を有する。
1)静電荷像担持体の表面を帯電する帯電工程と、
2)当該静電荷像担持体の表面を露光することにより、静電潜像を静電荷像担持体上に形成する潜像形成工程と
3)当該静電潜像を静電荷像現像用トナーを含む現像剤により顕像化しトナー像を形成する現像工程と、
4)当該トナー像を中間転写体上に転写する中間転写工程及び画像形成支持体に転写する転写工程と、
5)当該画像形成支持体上に形成されたトナー像の定着工程と、
6)残存静電荷像現像用トナーをクリーニングブレードを用いて除去するクリーニング工程と、
を有する。
静電荷像担持体(電子写真感光体、単に感光体ともいう。)は、電子写真方式の公知の種々の画像形成方法において用いることができる。例えば、モノクロの画像形成方法やフルカラーの画像形成方法に用いることができる。フルカラーの画像形成方法では、イエロー、マゼンタ、シアン、及びブラックの各々に係る4種類のカラー現像装置と、一つの感光体とにより構成される4サイクル方式の画像形成方法や、各色に係るカラー現像装置及び感光体を有する画像形成ユニットを、それぞれ色別に搭載するタンデム方式の画像形成方法など、いずれの画像形成方法も用いることができる。
本発明の電子写真画像形成方法としては、具体的には、前記感光体を使用して、感光体上に帯電装置にて帯電(帯電工程)し、像露光(露光工程)することにより形成された静電潜像を、現像装置を用いて現像(現像工程)することにより顕像化させてトナー画像を得る。このトナー画像をコピー用紙又は転写ベルト等の転写媒体上に転写(転写工程)し、その後、除電工程を経て、次の画像形成のサイクルが行われる。転写ベルト等の転写媒体上に転写されたトナー画像は、コピー用紙上に転写され、コピー用紙上に転写されたトナー画像を接触加熱方式等の定着処理によってコピー用紙に定着(定着工程)させることにより、可視画像を得る。転写工程の後、感光体上に残留したトナー(転写残トナー)は、クリーニングブレード(ゴムブレード)等により除去(クリーニング工程)される。このクリーニング工程は、除電工程の前でも後であってもよいが、除電工程が光照射による除電の場合は、クリー ニング工程の後の方が、感光体上に残留するトナーが除電光の吸収を妨げることがないので、効果的に除電が行えるので好ましい。
なお、前記感光体が硬化型表面層を有することで、感光体の耐久性が向上するなどの利点がある反面、感光体の表面層が削れにくいために、感光体の表面にフィルミングなどが発生しやすい現像剤を用いた場合には、画像不良が発生することがある。本発明の静電荷像現像用トナーを用いることで感光体のフィルミングなどの発生を抑制することが可能となり、フィルミングやブレードの摩耗などに起因する感光体ユニットの交換を行う頻度も下げることが可能になり、硬化型表面層の感光体を用いる利点を最大化することが可能となる。
硬化型表面層は、前記感光体の外周面上の外周面上に形成され、アンチモンドープの酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、ニッケル、銅、銀、ゲルマニウム等の金属酸化物微粒子と、(メタ)アクリレートモノマー、及び、当該(メタ)アクリレートモノマー以外の多官能(メタ)アクリレートを含有する活性エネルギー線硬化性組成物とを含有する表面層形成用塗布液の塗膜に活性エネルギー線を照射して硬化することによって得られることが好ましい。
前記金属酸化物微粒子が、表面処理を施された金属酸化物微粒子からなることが好ましい。
《電子写真画像形成装置》
次いで、具体的な電子写真画像形成方法について、電子写真画像形成装置を用いて説明する。
電子写真画像形成装置は、前記感光体を使用して、感光体上に帯電装置にて帯電する帯電手段、像露光することにより形成された静電潜像を形成する露光手段、現像装置を用いて現像することにより顕像化させてトナー画像を得る現像手段、このトナー画像を用紙又は転写ベルト等の転写媒体上に転写する転写手段、及び除電手段を有している。コピー用紙上に直接転写されたトナー画像及び転写ベルト等の転写媒体を経て用紙上に転写されたトナー画像は接触加熱方式等の定着処理によってコピー用紙に定着する定着手段により可視画像を得る。転写の後、感光体上に残留したトナー(転写残トナー)は、クリーニングブレード等のクリーニング手段によりにより除去される。
図1は、本発明の電子写真感光体を備えるタンデム型の電子写真画像形成装置の構造を示す断面模式図である。
図1に示す画像形成装置300は、タンデム型カラー画像形成装置と称せられるもので、4組の画像形成部(画像形成ユニット)10Y、10M、10C、10Kと、中間転写体ユニット70と、給紙手段21及び定着手段24とからなる。電子写真画像形成装置の本体Aの上部には、原稿画像読み取り装置SCが配置されている。
4つの画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kは、感光体1Y、1M、1C、1Kを中心に、帯電手段2Y、2M、2C、2Kと、露光手段3Y、3M、3C、3Kと、回転する現像手段4Y、4M、4C、4K、一次転写手段としての一次転写ローラー5Y、5M、5C、5K、及び感光体1Y、1M、1C、1Kをクリーニングするクリーニング手段6Y、6M、6C、6Kより構成されている。
なお、電子写真画像形成装置は、感光体1Y、1M、1C、1Kとして、各々感光体を用いる。感光体は、表面層が硬化型表面層であることが、感光体の耐久性が向上するなどの利点がある反面、感光体の表面層が削れにくいために、感光体の表面にフィルミングなどが発生しやすい現像剤を用いた場合には、画像不良が発生することがあるが、本願の静電荷像現像用トナー及び現像剤とすることで感光体のフィルミングなどの発生を抑制することが可能となり、フィルミングやブレードの摩耗などに起因する感光体ユニットの交換を行う頻度も下げることが可能になり、硬化型表面層の感光体を用いる利点を最大化することが可能となる。
画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kは、備えるトナーの色がそれぞれイエロー(Y)色、マゼンタ(M)色、シアン(C)色、黒(K)色というように異なることを除き同じ構成である。よって、以下では、画像形成ユニット10Yを例にして詳細に説明する。
画像形成ユニット10Yは、像形成体である感光体1Yの周囲に、帯電手段2Y、露光手段3Y、現像手段4Y、クリーニング手段6Yを有し、感光体1Y上にイエロー(Y)のトナー像を形成するものである。
帯電手段2Yは、感光体1Yの表面を一様に負極性に帯電させる手段である。本実施形態の電子写真画像形成装置においては、帯電手段2Yとして帯電ローラーを用いることが好ましい。
露光手段3Yは、帯電手段2Yによって一様な電位を与えられた感光体1Y上に、画像信号(イエロー)に基づいて露光を行い、イエローの画像に対応する静電潜像を形成する手段である。この露光手段3Yとしては、感光体1Yの軸方向にアレイ状に発光素子を配列したLEDと結像素子とから構成されるもの、又は、レーザー光学系などが用いられる。
現像手段4Yは、例えばマグネットを内蔵し現像剤を保持して回転する現像スリーブ41Y及び感光体と、この現像スリーブとの間に直流及び/又は交流バイアス電圧を印加する電圧印加装置よりなるものである。
現像手段4Yは、例えばマグネットを内蔵し現像剤を保持して回転する現像スリーブ、及び当該現像スリーブと感光体との間に直流及び/又は交流バイアス電圧を印加する電圧印加装置よりなるものである。
定着手段24は、例えば、内部に加熱源を備えた加熱ローラーと、この加熱ローラーに定着ニップ部が形成されるよう圧接された状態で設けられた加圧ローラーとにより構成されてなる熱ローラー定着方式のものが挙げられる。
クリーニング手段6Yは、クリーニングブレードと、このクリーニングブレードより上流側に設けられたブラシローラーとにより構成される。
画像形成装置300としては、感光体と、現像手段、クリーニング手段などの構成要素をプロセスカートリッジ(画像形成ユニット)として一体に結合して構成し、この画像形成ユニットを装置本体に対して着脱自在に構成してもよい。また、帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段及びクリーニング手段の少なくとも一つを感光体とともに一体に支持してプロセスカートリッジ(画像形成ユニット)を形成し、装置本体に着脱自在の単一画像形成ユニットとし、装置本体のレールなどの案内手段を用いて着脱自在の構成としてもよい。
中間転写体ユニット70は、複数のローラーにより巻回され、回動可能に支持された半導電性エンドレスベルト状の第2の像担持体としての無端ベルト状中間転写体77を有する。
画像形成ユニット10Y、10M、10C及び10Kより形成された各色の画像は、一次転写手段としての一次転写ローラー5Y、5M、5C及び5Kにより、回動する無端ベルト状中間転写体77上に逐次転写されて、合成されたカラー画像が形成される。給紙カセット20内に収容された転写材(定着された最終画像を担持する画像支持体:例えば普通紙、透明シートなど)Pは、給紙手段21により給紙され、複数の中間ローラー22A、22B、22C、22D、及びレジストローラー23を経て、二次転写手段としての二次転写ローラー5bに搬送され、転写材P上に二次転写してカラー画像が一括転写される。カラー画像が転写された転写材Pは、定着手段24により定着処理され、排紙ローラー25に挟持されて機外の排紙トレイ26上に載置される。ここで、中間転写体や転写材などの感光体上に形成されたトナー画像の転写支持体を総称して転写媒体という。
一方、二次転写手段としての二次転写ローラー5bにより転写材Pにカラー画像を転写した後、転写材Pを曲率分離した無端ベルト状中間転写体77は、クリーニング手段6bにより残留トナーが除去される。
画像形成処理中、一次転写ローラー5Kは常時、感光体1Kに当接している。他の一次転写ローラー5Y、5M及び5Cはカラー画像形成時にのみ、それぞれ対応する感光体1Y、1M及び1Cに当接する。
二次転写ローラー5bは、ここを転写材Pが通過して二次転写が行われる時にのみ、無端ベルト状中間転写体77に当接する。
また、装置本体Aから筐体80を支持レール82L、82Rを介して引き出し可能にしてある。
筐体80は、画像形成部10Y、10M、10C及び10Bkと、中間転写体ユニット70とからなる。
画像形成部10Y、10M、10C及び10Kは、垂直方向に縦列配置されている。感光体1Y、1M、1C及び1Kの図示左側方には中間転写体ユニット70が配置されている。中間転写体ユニット70は、ローラー71、72、73及び74を巻回して回動可能な無端ベルト状中間転写体77、一次転写ローラー5Y、5M、5C及び5K、並びにクリーニング手段6bとからなる。
以上のような画像形成装置において使用されるトナーとして、本発明の静電荷像現像用トナーを用いることで、低温定着性実現しながら、高転写効率・高画質性、クリーニング性を向上させ、かつ、感光体のフィルミングや傷の発生を低減させることができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
〔実施例1〕
<非晶性ビニル樹脂1粒子分散液の調製>
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素ガス導入装置を備えた反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム4質量部及びイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃にして、下記単量体の混合液を2時間かけて滴下した。
スチレン(St) 570.0質量部
n-ブチルアクリレート 165.0質量部
メタクリル酸 68.0質量部
上記混合液の滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、非晶性ビニル樹脂(CP)粒子分散液(1-a)を調製した。
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム3質量部をイオン交換水1210質量部に溶解させた溶液を仕込み80℃に加熱した。加熱後、上記第1段重合により調製した非晶性ビニル樹脂(CP)粒子分散液(1-a)を固形分換算で60質量部と、下記単量体、連鎖移動剤及び離型剤(W-1)を80℃にて溶解させた混合液と、を添加した。
スチレン(St) 245.0質量部
2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA) 97.0質量部
メタクリル酸(MAA) 30.0質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 4.0質量部
HNP-0190:日本精鑞(株)製、融点83℃(表中、離型剤W-1と表記。)
100.0質量部
循環経路を有する機械式分散機CLEARMIX(登録商標)(エム・テクニック株式会社製)により、1時間の混合分散処理を行い、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。この分散液に、過硫酸カリウム5.2質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた重合開始剤の溶液、及びイオン交換水1000質量部を添加し、この系を84℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行って、非晶性ビニル樹脂(SP2)粒子分散液(1-b)を調製した。
(第3段重合)
上記第2段重合により得られた非晶性ビニル樹脂(SP2)粒子分散液(1-b)に、過硫酸カリウム7質量部をイオン交換水130質量部に溶解させた溶液を添加した。さらに、82℃の温度条件下で、下記単量体及び連鎖移動剤の混合液を1時間かけて滴下した。
スチレン(St) 350質量部
メタクリル酸メチル(MMA) 50質量部
アクリル酸n-ブチル(BA) 170質量部
メタクリル酸(MAA) 35質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 8.0質量部
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、非晶性ビニル樹脂1粒子分散液を調製した。当該分散液中の非晶性ビニル樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が145nmであった。また、得られた非晶性ビニル樹脂(SP2)の重量平均分子量は35000であり、ガラス転移温度(Tg)は37℃であった。
<非晶性ビニル樹脂2~4粒子分散液の調製>
第2段重合項のHNP-0190(離型剤W-1)を、下記の通りにそれぞれ変更した以外は非晶性ビニル樹脂1粒子分散液と同様に調製した。
〈非晶性ビニル樹脂2粒子分散液〉
ベヘン酸ベヘニル:融点;73℃(表中、離型剤W-2と表記。)
125.0質量部
〈非晶性ビニル樹脂3粒子分散液〉
HNP-0190(離型剤W-1) 34.0質量部
ベヘン酸ベヘニル(離型剤W-2) 136.0質量部
(混合物の融点は76℃)
〈非晶性ビニル樹脂4粒子分散液〉
Hi-Mic-1090(日本精鑞(株)製):融点;88℃(離型剤W-3)
100.0質量部
<非晶性ポリエステル樹脂(APES1)の製造方法>
両反応性モノマーを含む、下記の付加重合系樹脂(スチレン・アクリル樹脂:StAc)ユニットの原料モノマー及びラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
スチレン 40.0質量部
n-ブチルアクリレート 10.0質量部
アクリル酸 7.0質量部
ジ-t-ブチルパーオキサイド(重合開始剤) 10.0質量部
また、下記非晶性ポリエステル樹脂の単量体を、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を備えた四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 285.7質量部
テレフタル酸 66.9質量部
フマル酸 47.4質量部
攪拌下で、滴下ロートに入れた混合液を四つ口フラスコへ90分かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応の単量体を除去した。その後、エステル化触媒としてチタンテトラブトキサイド(Ti(OBu)4)を0.4質量部投入し、235℃まで昇温して、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間、反応を行った。次いで200℃まで冷却し、減圧下(20kPa)にて反応を行った後、脱溶剤を行い、ハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂を得た。
上記で得られた非晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は21000であり、ガラス転移点は56℃であった。
<非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製>
上記で得られた非晶性ポリエステル樹脂100質量部を、100質量部のメチルエチルケトンに溶解し、あらかじめ調製しておいた0.26質量%濃度のドデシル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合した。得られた混合液を攪拌しながら、超音波ホモジナイザーUS-150T(株式会社日本精機製作所製)によりV-LEVEL 300μAで30分間の超音波分散処理を行った。その後、40℃に加温した状態で、ダイヤフラム真空ポンプV-700(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間攪拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、固形分量が25.0質量%のハイブリッド非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を調製した。当該分散液中の非晶性ポリエステル樹脂粒子の体積平均粒径は、レーザー回式粒度分布測定器「UPA-EX150(日機装製)」にて測定した結果、120nmであった。
<結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製>
<結晶性ポリエステル樹脂(CPES1)の作製>
両反応性モノマーを含む、下記の付加重合系樹脂(スチレン・アクリル樹脂:StAc)ユニットの原料モノマー及びラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
スチレン 34質量部
n-ブチルアクリレート 12質量部
アクリル酸 3質量部
重合開始剤(ジ-t-ブチルパーオキサイド) 8質量部
また、下記の重縮合系樹脂(結晶性ポリエステル樹脂:CPEs)ユニットの原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
ドデカン二酸 250質量部
1,6-ヘキサンジオール 128質量部
次いで、攪拌下で付加重合系樹脂(StAc)の原料モノマーを60分かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応の付加重合モノマーを除去した。なお、このとき除去されたモノマー量は、上記の樹脂の原料モノマー比に対してごく微量であった。
その後、エステル化触媒としてTi(OBu)4を0.8質量部投入し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、更に減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次いで、200℃まで冷却したのち、減圧下(20kPa)にて1時間反応させることによりハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(CPES1)を得た。
得られた結晶性ポリエステル樹脂(CPES1)は、重量平均分子量(Mw)が20000、融点(Tmc)が72℃であった。
<結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製>
結晶性ポリエステル樹脂(CPES1)72質量部を2-ブタノン72質量部に、70℃で30分撹拌し溶解させた。次に、この溶液を撹拌しながら、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液2.3質量部を添加した。次いで、イオン交換水250質量部にポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを濃度が2質量%になるよう溶解させた水溶液を70分にわたり滴下した。
次いで、この乳化液を70℃で保温したまま、ダイヤフラム式真空ポンプ「V-700」(BUCHI社製)を使用し、15kPa(150mbar)の減圧下で3時間撹拌することで、メチルエチルケトンを蒸留除去し、結晶性ポリエステル樹脂(CPES1)の微粒子が分散された結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(C1)を調製した。
結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(C1)に含まれる粒子の体積平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定器「UPA-EX150(日機装製)」にて測定した結果、150nmであった。
<離型剤分散液の調製>
ベヘン酸ベヘニル(融点73℃) 270質量部
アニオン性界面活性剤(第一工業製薬社製、ネオゲンRK、有効成分量60質量%)
13.5質量部(有効成分として、離型剤に対して3.0質量%)
イオン交換水 100質量部
上記成分を混合し、圧力吐出型ホモジナイザー(ゴーリン社製、ゴーリンホモジナイザー)で、内液温度110℃で離型剤としてのパラフィンワックスを溶解した。その後、分散圧力5MPaで120分間、続いて40MPaで360分間分散処理した後、冷却して離型剤分散液を得た。この離型剤分散液中の粒子の体積基準のメジアン径は225nmであった。その後、イオン交換水を加えて固形分濃度が20.0質量%になるように調製した。
<着色剤粒子分散液(PD-1)の調製>
ラウリル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した溶液を作製した。そして、この溶液を撹拌しながら、着色剤として顔料であるC.I.ピグメントイエロー74を220質量部加え、撹拌装置クレアミックス(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子分散液(P1)を調製した。この分散液(P1)に含まれる着色剤粒子の固形分は13.0%、体積基準のメジアン径は160nmであった。
なお、C.I.ピグメントイエロー74(PY74)中のo-アセトアセトアニシジド(AAOA)の含有量を測定したところ、776質量ppmであった。
<着色剤粒子分散液(PD-2)~(PD-10)の調製>
実施例表の通り着色剤とo-アセトアセトアニシジド(AAOA)の分散液中含有量を変更した以外はPD-1と同様に調製した。
具体的には、(PD-2)、(PD-5)、及び(PD-9)はo-アセトアセトアニシジド(AAOA)の分散液中含有量が表Iの記載のとおりとなるように着色剤を予めエタノールで洗浄し、乾燥したものを用いて分散調製した。この操作を前処理洗浄とする。(PD-3)、(PD-4)、(PD-6)~(PD-8)、及び(PD-10)については、分散液の調製時にo-アセトアセトアニシジド(AAOA)を表Iに示す質量部を添加して調製した。
なお、着色剤粒子分散液(PD-7)及び(PD-8)は、C.I.ピグメントイエローPY74の代わりにC.I.ピグメントブルーPC15:3及びC.I.ピグメントイエローPY155をそれぞれ用いて着色剤粒子分散液を調製し用いた。
≪トナー作製方法≫
<トナー1の作製>
撹拌装置、温度センサー、冷却管を取り付けた反応容器に、非晶性ビニル樹脂微粒子の水系分散液(ビニル樹脂1)1149質量部(離型剤を100質量部含む固形分換算)、イオン交換水2000質量部を投入した後、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH(25℃換算)を10に調整した。
その後、着色剤粒子の水系分散液(PD-1)84質量部(固形分換算)を投入し、次いで、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。その後、3分間放置した後に昇温を開始し、この系を60分間かけて85℃まで昇温し、85℃を保持したまま粒子成長反応を行った。この状態で「コールターマルチサイザー3」(コールター・ベックマン社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準のメジアン径(d50)が5.7μmになった時点で、塩化ナトリウム100質量部をイオン交換水450質量部に溶解した水溶液を添加して粒子成長を停止させた。さらに、昇温を行い、90℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、トナー粒子の平均円形度が0.965になった時点で2.5℃/minの冷却速度で30℃に冷却した。トナー粒子の平均円形度は、測定装置「FPIA-3000」(Sysmex社製)を用いて、HPF検出数を4000個として測定した。
次いで、固液分離し、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄した後、35℃で24時間以上乾燥させることにより、トナー粒子を得た。
得られたトナー粒子100質量部に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm、疎水化度=68)1.6質量部及び疎水性酸化チタン(数平均一次粒子径=20nm、疎水化度=63)0.6質量部を添加し、「ヘンシェルミキサー」(三井三池化工機社製)により回転翼周速35mm/secで15分間混合し、体積平均粒径が5.9μmであるトナー1を得た。
<トナー2~6及び9~14の作製>
表Iに示すように材料構成を変えた以外は同様の方法で、トナー2~6及び9~14を作製した。
<トナー7の作製>
攪拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、非晶性ビニル樹脂微粒子の水系分散液(ビニル樹脂1)939.2質量部(離型剤を100質量部含む固形分換算)、非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液 209.8質量部(固形分換算)、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩 3.25質量部(固形分換算)及びイオン交換水2000質量部を投入した。
以降の処理はトナー1と同様に作製し、体積平均粒径は5.7μmでトナー7を作製した。
<トナー8の作製>
攪拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、非晶性ビニル樹脂微粒子の水系分散液(ビニル樹脂1) 729.4質量部(離型剤を100質量部含む固形分換算)、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液 209.8質量部(固形分換算)、離型剤分散液 100質量部(固形分換算)、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩 3.25質量部(固形分換算)及びイオン交換水2000質量部を投入した。室温下、5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを9に調整した。さらに、上記で調製した着色剤粒子分散液30質量部(固形分換算)を投入し、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解させた溶液を、攪拌しながら、30℃において10分間かけて添加した。3分間放置した後、60分間かけて80℃まで昇温させ、80℃を保持した状態で粒径成長を行い、コールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)により測定した体積基準のメジアン径が5.5μmになるまで成長させた。
次いで、非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液 209.8質量部(固形分換算)を30分間かけて投入し、反応液の上澄みが透明になった時点で、塩化ナトリウム100質量部をイオン交換水760質量部に溶解させた水溶液を添加した。さらに、80℃を保持した状態で平均円形度が0.965になるまで粒子の融着を進行させ、到達した時点から2.5℃/minの冷却速度で30℃に冷却した。以降の処理はトナー1と同様に作製し、体積平均粒径は5.7μmでトナー8を作製した。
<トナー15の作製>
攪拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、上記で調製した非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液 620質量部(固形分換算)、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液 209.8質量部(固形分換算)、離型剤分散液 100質量部(固形分換算)、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩 3.25質量部(固形分換算)及びイオン交換水2000質量部を投入した。室温下、5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを9に調整した。さらに、上記で調製した着色剤粒子分散液30質量部(固形分換算)を投入し、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解させた溶液を、攪拌しながら、30℃において10分間かけて添加した。3分間放置した後、60分間かけて80℃まで昇温させ、80℃を保持した状態で粒径成長を行い、コールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)により測定した体積基準のメジアン径が5.5μmになるまで成長させた。
次いで、非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液 219.2質量部(固形分換算)を30分間かけて投入し、反応液の上澄みが透明になった時点で、塩化ナトリウム100質量部をイオン交換水760質量部に溶解させた水溶液を添加した。さらに、80℃を保持した状態で平均円形度が0.965になるまで粒子の融着を進行させ、到達した時点から2.5℃/minの冷却速度で30℃に冷却した。以降の処理はトナー1と同様に作製し、体積平均粒径は5.7μmでトナー15を作製した。
<現像剤の作製>
トナー1~15に対して、シリコーン樹脂を被覆した体積平均粒径45μmのフェライトキャリアを、トナー粒子濃度が6質量%となるように添加して混合することにより、現像剤1~15をそれぞれ製造した。
≪評価≫
<低温定着性、及び高温時耐オフセット性>
フルカラーデジタル印刷機「bizhab PRESS(登録商標) C1085」(コニカミノルタ株式会社製)において、定着装置を定着用ベルトの表面温度を任意に100~220℃の範囲で変更することができるように改造したものに、上記の現像剤1~15をそれぞれ現像機に充填した。評価紙として、「NPI上質紙(128g/m2)」(日本製紙社製)を用い、常温常湿環境(温度23℃、相対湿度50%)において、トナー付着量8mg/cm2のベタ画像を定着させる定着実験を、定着温度を5℃刻みで振って行った。各温度でのプリント物について、下記の基準で評価した。
最低定着温度[℃];プリント物の画像部にアンダーオフセットと見られる画像剥がれが起きない設定温度(設定値)とした。5℃範囲で差異が不明瞭な場合、2~3℃刻みの定着実験を追加して判定した。
高温時オフセット温度[℃];プリント物の画像部にホットオフセットと見られる画像荒れや定着部材汚染が起きない設定温度(設定値)とした。5℃範囲で差異が不明瞭な場合、2~3℃刻みの定着実験を追加して判定した。
許容温度幅は「高温オフセット温度-最低定着温度」として算出し、その差が大きい程定着ウィンドウが広く良好な現像剤と判定した。
◎:許容温度幅が78℃以上
○:許容温度幅が70℃以上77℃以下
△:許容温度幅が63℃以上69℃以下
×:許容温度幅が62℃以下
△(63℃以上)を合格とした。
<薄紙定着分離性>
フルカラーデジタル印刷機「bizhab PRESS(登録商標) C1085」(コニカミノルタ株式会社製)において、一晩常温常湿環境(NN環境:23℃、50%RH)で調湿した金藤85g/m2T目(王子製紙社製)を用いて、トナー付着量8mg/cm2のベタ画像を先端余白を1mm単位で変更しながら出力し、紙詰まり(ジャム)の発生した直前の先端余白可能距離を評価した。
定着温度に関しては上側加熱加圧部材の温度を155℃、下側加熱加圧部材の温度を100℃に設定して画像出力した。
先端余白可能距離を定着分離性能の尺度とし、以下の判定基準で評価した。
なお、評価は常温常湿環境(NN環境:23℃、50%RH)で実施した。
◎:先端余白可能距離:1mm以下
○:先端余白可能距離:2mm以上4mm以下
△:先端余白可能距離:5mm以上7mm以下
×:先端余白可能距離:8mm以上
△(7mm以下)を合格とした。
<耐光沢ムラ>
フルカラーデジタル印刷機「bizhab PRESS(登録商標) C1085」(コニカミノルタ株式会社製)において、定着装置を、定着用ヒートローラーの表面温度を100~210℃の範囲内で変更することができるように改造したものに上記の現像剤1~15をそれぞれ装填した。定着装置を加熱ローラーの表面温度を190℃に設定し、常温常温(温度20℃、相対湿度55%)において、「PODグロスコート紙(128g/m2)(王子製紙社製)」上に、トナー付着量8mg/10cm2のベタ画像を定着させ、そのベタ画像の最大光沢度と最小光沢度との差(Gloss差)を算出し、下記評価基準に従って評価した。
◎:Gloss差≦3(最高光沢度と最低光沢度の差がほとんどわからない)
○:3<Gloss差≦8(最高光沢度と最低光沢度の差が少しあるが実用上問題ない)
△:8<Gloss差≦15(最高光沢度と最低光沢度の差があるが実用上問題ない)
×:15<Gloss差(最高光沢度と最低光沢度の差がはっきりしており、実用上問題がある)
△(Gloss差が15以下)を合格とした。
以上のトナー構成と評価結果を、下記表I及び表IIに示した。
表I及び表IIから、本発明の構成のトナーは、比較例に対して、低温定着性、高温時の耐オフセット性、定着分離性及び耐光沢ムラに優れる、定着温度許容幅の広い(定着ウィンドウが広い)静電荷像現像用トナーを提供することができることが分かる。
また、実施例10では、イエロー色着色剤としてPY74の代わりに、C.I.ピグメントイエローPY155を用いた。PY155は、PY74に比べ、分子骨格にエステル部が多く樹脂との親和性が高いため、o-アセトアセトアニシジド(AAOA)の核剤作用が働きにくくなって離型剤が合一し易く、かつ内部に留まり易くなるため、実施例4に比較して、定着分離性の効果が得られづらく光沢ムラも生じやすくなることが分かった。