JP7223967B2 - タングステン線及びソーワイヤー - Google Patents

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Description

本発明は、タングステン線及びソーワイヤーに関する。
従来、タングステンに対する合金比率を上げた高い引張強度を有するタングステン合金線からなる医療用針が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1には、線径が0.10mmのタングステン合金線で、引張強度が最大で4459.0N/mm(=MPa)になることが開示されている。
特開2014-169499号公報
医療用針に限らず、ソーワイヤー又はスクリーン印刷メッシュ用等、様々な分野での有効活用のためには、細径化が実現された従来よりも引張強度の高いタングステンが求められている。金属線として最大強度を持つピアノ線よりも、化学的に安定であり、かつ、高い弾性率及び高い融点を有するタングステンに工業的な期待が大きい。
そこで、本発明は、ピアノ線の一般的な引張強度よりも高い引張強度を有し、かつ、細径化が実現されたタングステン線及びソーワイヤーを提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係るタングステン線は、タングステン又はタングステン合金からなるタングステン線であって、前記タングステン線の線軸に垂直な方向における表面結晶粒の幅の平均値は、76nm以下であり、前記タングステン線の引張強度は、4800MPa以上であり、前記タングステン線の線径は、100μm以下である。
また、本発明の一態様に係るタングステン線は、タングステン又はタングステン合金からなるタングステン線であって、前記タングステン線の線軸に直交する断面における平均結晶粒度は、0.16μm以下であり、前記断面における中央部より外側の外周部の平均結晶粒度は、前記断面における中央部の平均結晶粒度より5%以上小さく、前記タングステン線の引張強度は、4800MPa以上であり、前記タングステン線の線径は、100μm以下である。
また、本発明の一態様に係るソーワイヤーは、上記タングステン線を備える。
本発明によれば、ピアノ線の一般的な引張強度よりも高い引張強度を有し、かつ、細径化が実現されたタングステン線及びソーワイヤーを提供することができる。
図1は、実施の形態に係るタングステンの模式的な斜視図である。 図2Aは、比較例1に係る引張強度が4320MPaのタングステン線の表面を拡大して示す図である。 図2Bは、実施例1に係る引張強度が4800MPaのタングステン線の表面を拡大して示す図である。 図2Cは、実施例2に係る引張強度が5040MPaのタングステン線の表面を拡大して示す図である。 図2Dは、実施例3に係る引張強度が5430MPaのタングステン線の表面を拡大して示す図である。 図2Eは、実施例4に係る引張強度が4800MPaのタングステン線(純度99.9%)の表面を拡大して示す図である。 図3は、タングステン線の表面結晶粒の幅の平均値と引張強度との関係を示す図である。 図4Aは、実施例1に係る引張強度が4800MPaのタングステン線の断面を拡大して示す図である。 図4Bは、実施例2に係る引張強度が5040MPaのタングステン線の断面を拡大して示す図である。 図4Cは、実施例3に係る引張強度が5430MPaのタングステン線の断面を拡大して示す図である。 図5は、タングステン線の断面の平均結晶粒度と引張強度との関係を示す図である。 図6は、タングステン線の引張強度と二次再結晶温度との関係を示す図である。 図7は、実施の形態に係るタングステン線の製造方法を示すフローチャートである。 図8は、実施の形態に係る切断装置を示す斜視図である。
以下では、本発明の実施の形態に係るタングステン線について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
また、本明細書において、垂直又は一致などの要素間の関係性を示す用語、及び、円形又は長方形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
(実施の形態)
[タングステン線]
まず、実施の形態に係るタングステン線の構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係るタングステン線10の模式的な斜視図である。図1では、タングステン線10が巻取り用の芯材に巻きつけられている例を示しており、さらに、タングステン線10の一部を拡大して模式的に示している。
本実施の形態に係るタングステン線10は、タングステン(W)又はタングステン合金からなる。タングステン線10におけるタングステンの含有率は、例えば90mass%以上である。タングステンの含有率は、95mass%以上でもよく、99mass%以上でもよく、99.9mass%以上でもよい。なお、タングステンの含有率は、タングステン線10の重さに対するタングステンの重さの割合である。後述するレニウム(Re)及びカリウム(K)などの他の金属元素等の含有率についても同様である。
タングステン合金は、例えば、レニウムとタングステンとの合金(ReW合金)である。レニウムの含有率が高い程、タングステン線10の強度を高めることができる。なお、レニウムの含有率が高すぎる場合には、タングステン線10の加工性が悪化し、タングステン線10の細線化が難しくなる。
本実施の形態では、タングステン線10におけるレニウムの含有率は、0.1mass%以上10mass%以下である。例えば、レニウムの含有率は、0.5mass%以上5mass%以下であってもよい。一例として、レニウムの含有率は1mass%であるが、3mass%であってもよい。なお、レニウムの含有率は、10mass%より大きくてもよい。
タングステン線10の線径は、100μm以下である。例えば、タングステン線10の線径は、60μm以下であってもよく、40μm以下であってもよい。タングステン線10の線径は、30μm以下でもよく、20μm以下でもよい。例えば、タングステン線10の線径は、10μmであってもよい。
本実施の形態では、タングステン線10の線径は、均一である。なお、完全に均一でなくてもよく、線軸方向に辿った場合に部位によって例えば1%などの数%程度の差が含まれていてもよい。タングステン線10は、図1に示されるように、例えば、線軸Pに直交する断面における断面形状が円形である。断面形状は、正方形、長方形又は楕円形などであってもよい。
タングステン又はタングステン合金からなるタングステン線10の引張強度は、4800MPa以上である。また、タングステン線10の引張強度は、5000MPa以上であってもよく、5300MPa以上であってもよい。タングステン線10の引張強度は、線径と、表面結晶粒の幅の平均値及び平均結晶粒度の少なくとも1つと、タングステンの含有率とを適宜調整することで、所望の値にすることができる。例えば、約5500MPaの引張強度を有するタングステン線10を実現することができる。
また、タングステン線10の弾性率は、350GPa以上450GPa以下である。ここで、弾性率は、縦弾性係数である。なお、ピアノ線の弾性率は、一般的に150GPaから250GPaの範囲である。つまり、タングステン線10は、ピアノ線の約2倍の弾性率を有する。
弾性率が350GPa以上であることで、タングステン線10が変形しにくくなる。すなわち、タングステン線10が伸びにくくなる。一方で、弾性率が450GPa以下であることで、ある程度の強さの力を加えた場合にタングステン線10を変形させることが可能になる。具体的には、タングステン線10を屈曲させることができるので、例えば、ソーワイヤーとして利用する場合にガイドローラーなどへの巻き付けを容易に行うことができる。
本実施の形態に係るタングステン線10は、結晶性に関する3つの特徴の少なくとも1つを有する。以下では、結晶性の特徴について詳細に説明する。
[表面結晶粒の幅]
まず、タングステン線10の表面結晶粒の幅について説明する。
表面結晶粒は、タングステン線10の表面20におけるタングステン又はタングステン合金の結晶粒である。タングステン線10では、線軸Pに直交する方向における表面結晶粒の幅が76nm以下である。線軸Pに直交する方向における表面結晶粒の幅とは、線軸Pに直交する方向に沿った長さである。
以下では、発明者らが製造した複数のタングステン線のサンプルの引張強度と表面結晶粒の幅との関係について説明する。
図2A~図2Eはそれぞれ、比較例1及び実施例1~4に係るタングステン線の表面を拡大して示す図である。比較例1及び実施例1~3に係るタングステン線は、1mass%のレニウムを含むレニウムタングステン合金からなる。実施例4に係るタングステン線は、99.9mass%のタングステンからなる。
比較例1に係るタングステン線の引張強度は、4320MPaである。実施例1~3に係るタングステン線の引張強度はそれぞれ、4800MPa、5040MPa及び5430MPaである。実施例4に係るタングステン線の引張強度は、4800MPaである。なお、比較例1及び実施例1~4のいずれにおいても、タングステン線の線径は、50μmである。
なお、実施例1~4に係るタングステン線は、後述する製造方法を用いて製造されたタングステン線のサンプルである。一方で、比較例1に係るタングステン線は、後述する製造方法において常温線引き(図7のステップS20)を行わずに、加熱線引き(図7のステップS16)によって線径が50μmになるまで細線化したサンプルである。後述する比較例2及び3についても同様である。
図2A~図2Eはそれぞれ、図1に示されるタングステン線10の表面20の一部を拡大して示している。各図は、タングステン線10のサンプルの表面20のSEM(Scanning Electron Microscope)像を示している。各図において、同一の濃さ(色)の範囲が1つの結晶粒を表している。各図の紙面左右方向が線軸Pに平行な方向であり、表面結晶粒は、線軸Pに沿った方向に長尺に延びている。
各図において、中央に引かれた実線Lは、線軸Pに垂直な方向に延びる直線である。表面結晶粒の幅の平均値は、各図に示される範囲内において、実線Lに沿って結晶粒と結晶粒との境界(すなわち、粒界)の数を計数することで算出される。具体的には、計数範囲の長さ、すなわち、各図の縦方向の長さを粒界数+1で割ることにより、表面結晶粒の幅の平均値が算出される。なお、各図において、実線Lに直交する短い複数の線分はそれぞれ、粒界を示している。
粒界数の計数結果に基づいて算出された表面結晶粒の幅の平均値と引張強度との関係を表1に表す。
Figure 0007223967000001
図3は、本実施の形態に係るタングステン線10の表面結晶粒の幅の平均値と引張強度との関係を示す図である。図3において、横軸は表面結晶粒の幅の平均値[nm]を表し、縦軸は引張強度[MPa]を表している。
表1及び図3に示されるように、表面結晶粒の幅の平均値と引張強度とには負の相関関係が存在する。つまり、表面結晶粒の幅の平均値が小さい程、引張強度は高くなる。本実施の形態に係るタングステン線10では、表面結晶粒の幅の平均値が76nm以下である。これにより、4800MPa以上の高い引張強度を有するタングステン線が実現される。また、例えば、表面結晶粒の幅の平均値を56nm以下にすることで、5430MPa以上の高い引張強度を有するタングステン線を実現することができる。
なお、タングステンの含有率が高い実施例4とレニウムタングステン合金の実施例1とを比較すると、実施例1では、同一の引張強度を実現するのに、表面結晶粒の幅の平均値が実施例4の場合よりも大きくなっている。これは、純タングステンの結晶粒よりも、レニウムタングステン合金の結晶粒の強度が高いためである。言い換えると、レニウムの含有率を高めることで、表面結晶粒の幅が76nmより大きくても引張強度を4800MPaよりも高めることができる。つまり、必ずしも表面結晶粒の幅の平均値が76nm以下でなくてもよい。例えば、レニウムの含有率が大きくなる程、引張強度が4800MPaであるタングステン線10の表面結晶粒の幅が大きくなる。
以上のように、本実施の形態に係るタングステン線10は、タングステン又はタングステン合金からなるタングステン線であって、タングステン線10の線軸Pに垂直な方向における表面結晶粒の幅の平均値は、76nm以下である。
これにより、高い引張強度を有するタングステン線10を実現することができる。
また、例えば、タングステン線10におけるタングステンの含有率は、90mass%以上である。
これにより、タングステン線10がタングステン合金からなる場合でも、例えば、レニウムの含有率を10mass%未満にすることができる。このため、タングステン線10の加工性を良くすることができる。
[平均結晶粒度]
次に、タングステン線10の平均結晶粒度について説明する。
平均結晶粒度は、タングステン線10の断面30における単位面積当たりの結晶数に基づいて算出される数値である。平均結晶粒度が小さい程、各結晶の大きさが小さくなる、すなわち、結晶数が多いことを意味する。
平均結晶粒度は、複数の対象範囲における結晶粒度を平均化することで算出される。結晶粒度は、例えば、断面30において600nm×600nmの面積の範囲を対象として、面積計量法で計測することができる。具体的には、結晶粒度は、以下の式(1)で算出される。
(1) 結晶粒度=(対象面積/結晶数)^(1/2)
なお、式(1)において、“X^(1/2)”はXの平方根を表している。
本実施の形態では、断面30におけるタングステン線10の平均結晶粒度は、0.16μm以下である。また、本実施の形態では、図1に示されるように、タングステン線10の線軸Pに直交する断面30において、中央部31と外周部32とで平均結晶粒度が異なっている。具体的には、外周部32の平均結晶粒度は、中央部31の平均結晶粒度より5%以上小さい。
中央部31は、例えば線軸Pを通る所定の範囲である。図1に示される例では、中央部31の中心を線軸Pが通っている。外周部32は、中央部31よりも外側に位置する部分である。例えば、外周部32は、タングステン線10の断面30において、線軸P(すなわち、中心)と表面20の一点とを結ぶ半径の中点よりも表面20側に位置している。
以下では、発明者らが製造した複数のタングステン線のサンプルの引張強度と平均結晶粒度との関係について説明する。
以下に示す比較例1及び実施例1~3に係るタングステン線の引張強度はそれぞれ、4320MPa、4800MPa、5040MPa及び5430MPaであり、図2A~図2Dの場合と同じである。また、比較例2及び3として、引張強度がそれぞれ3800MPa及び4000MPaのタングステン線についても平均結晶粒度を算出した。
図4A~図4Cはそれぞれ、実施例1~3に係るタングステン線10の断面30を拡大して示す図である。各図の(a)は、タングステン線10のサンプルの断面30の外周部32のSEM像を示しており、(b)は、中央部31のSEM像を示している。また、各図には、600nm×600nmの正方形の5つの対象範囲を実線で示し、その近傍に対象範囲の各々に含まれる結晶数を計数した結果を示している。なお、結晶数の計数の際には、対象範囲内に完全に入っているものを1個とし、少なくとも一部が対象範囲からはみ出ているものを1/2個として計数している。
5つの対象範囲の各々で算出した結晶粒度を平均化することで、中央部31及び外周部32の各々の平均結晶粒度が算出される。なお、断面30の全体の平均結晶粒度は、例えば、中央部31と外周部32との合計10個の対象範囲の平均結晶粒度を平均化することで算出される。
まず、断面30の全体の平均結晶粒度と引張強度との関係を表2に示す。
Figure 0007223967000002
図5は、本実施の形態に係るタングステン線10の断面30の平均結晶粒度と引張強度との関係を示す図である。図5において、横軸は断面30の平均結晶粒度[μm]を表し、縦軸は引張強度[MPa]を表している。
表2及び図5に示されるように、平均結晶粒度が小さい程、引張強度が高くなっていることが分かる。特に、平均結晶粒度が0.20μmを下回ったあたりから引張強度が大きく上昇し、0.16μm以下になると、引張強度が更に大きく上昇している。本実施の形態に係るタングステン線10では、断面30の平均結晶粒度が0.160μm以下である。これにより、4800MPa以上の高い引張強度を有するタングステン線が実現される。また、例えば、表面結晶粒の幅の平均値を0.146μm以下にすることで、5430MPa以上の高い引張強度を有するタングステン線を実現することができる。
次に、中央部31と外周部32との各々の平均結晶粒度と引張強度との関係を表3に示す。
Figure 0007223967000003
表3に示されるように、実施例1~3に係るタングステン線10では、外周部32の平均結晶粒度は、中央部31の平均結晶粒度よりも5%以上小さくなっている。例えば、実施例1~3に係るタングステン線10では、外周部32の平均結晶粒度は、中央部31の平均結晶粒度よりも10%以上小さくなっている。比較例1~3においては、このような5%以上の差異が確認されなかった。例えば、比較例3では、外周部32の平均結晶粒度が0.17μmであり、中央部31の平均結晶粒度が0.17μmであった。つまり、比較例3では、外周部32の平均結晶粒度は、中央部31の平均結晶粒度の約3%小さくなっているにすぎない。
以上のように、本実施の形態に係るタングステン線10は、タングステン又はタングステン合金からなるタングステン線であって、タングステン線10の線軸Pに直交する断面における平均結晶粒度は、0.16μm以下である。断面30における中央部31より外側の外周部32の平均結晶粒度は、断面30における中央部31の平均結晶粒度より5%以上小さい。
このように、本実施の形態に係るタングステン線10では、断面30の中央部31よりも外周部32の方がタングステンの結晶粒が小さくなっている。タングステン線10の結晶粒が小さくなることで、タングステン線10の引張強度を高めることができる。つまり、高い引張強度を有するタングステン線10を実現することができる。
[二次再結晶温度]
次に、タングステン線10の二次再結晶温度について説明する。
本実施の形態に係るタングステン線10は、後述する製造方法によって製造されることにより、小さい一次再結晶粒によって構成されている。タングステン線10を高温で加熱した場合には、一次再結晶粒が再び再結晶化されて、サイズが大きい二次再結晶粒が形成される。二次再結晶粒が形成されるときの温度が二次再結晶温度である。本実施の形態に係るタングステン線10の二次再結晶温度は、2200℃以上である。
以下では、発明者らが製造した複数のタングステン線のサンプルの引張強度と二次再結晶温度との関係について説明する。
図6は、タングステン線の引張強度と二次再結晶温度との関係を示す図である。図6は、比較例1と実施例1との各々のタングステン線を熱処理した後の表面20のSEM像を示している。熱処理の温度は、2200℃と2300℃とである。ここでの熱処理は、タングステン線を通電させながら行った。
図6に示されるように、比較例1では、2200℃の熱処理によってタングステン線10の一部に、一次再結晶粒よりもサイズが大きい二次再結晶粒が発生したことが確認できた。2300℃の熱処理を行った場合には、タングステン線10のほぼ全てが二次再結晶粒となった。
一方で、実施例1では、2200℃の熱処理では、タングステン線10の二次再結晶が起きずに、ほぼ全てが一次再結晶粒であることが確認された。2300℃の熱処理を行った場合には、タングステン線10の一部に、二次再結晶粒が発生したことが確認できた。
以上のように、本実施の形態に係るタングステン線10は、タングステン又はタングステン合金からなるタングステン線であって、前記タングステン線の二次再結晶温度は、2200℃以上である。また、例えば、タングステン線10の二次再結晶温度は、2300℃未満であってもよい。
これにより、高い引張強度を有するタングステン線10を実現することができる。また、二次再結晶粒が生じた場合には引張強度が低くなる。タングステン線10の二次再結晶温度が2200℃以上であるので、タングステン線10は、2200℃以上で二次再結晶温度以下の高温環境下でも高い引張強度を維持することができる。このため、タングステン線10は、様々な高温環境下での利用が期待される。
[タングステン線の製造方法]
続いて、本実施の形態に係るタングステン線10の製造方法について、図7を用いて説明する。図7は、本実施の形態に係るタングステン線10の製造方法を示すフローチャートである。
図7に示されるように、まず、タングステンインゴットを準備する(S10)。具体的には、タングステン粉末の集合物を準備し、準備した集合物に対してプレス及び焼結(シンター)を行うことで、タングステンインゴットを作製する。
なお、タングステン合金からなるタングステン線10を製造する場合には、タングステン粉末と金属粉末(例えば、レニウム粉末)とを所定の割合で混合した混合物を、タングステン粉末の集合物の代わりに準備する。タングステン粉末及びレニウム粉末の平均粒径は、例えば3μm以上4μm以下の範囲であるが、これに限らない。
次に、作製したタングステンインゴットに対してスエージング加工を行う(S12)。具体的には、タングステンインゴットを周囲から鍛造圧縮して伸展させることで、ワイヤー状のタングステン線に成形する。スエージング加工の代わりに圧延加工でもよい。例えば、スエージング加工を繰り返し行うことで、直径が約15mmのタングステンインゴットを、線径が約3mmのタングステン線に成形する。スエージング加工の途中の工程において、アニール処理を実施することにより以降の加工性を確保する。例えば、径が8mm以上10mm以下の範囲で、2400℃のアニール処理を実施する。ただし、結晶粒微細化による引張強度の確保のため、径が8mm未満のスエージング工程では、アニール処理を実施しない。
次に、加熱線引きの前にタングステン線を900℃で加熱する(S14)。具体的には、バーナーなどで直接的にタングステン線を加熱する。タングステン線を加熱することで、以降の加熱線引きで加工中に断線しないようにタングステン線の表面に酸化物層を形成させる。
次に、加熱線引きを行う(S16)。具体的には、1つの伸線ダイスを用いてタングステン線の線引き、すなわち、タングステン線の伸線(細線化)を、加熱しながら行う。加熱温度は、例えば1000℃である。なお、加熱温度が高い程、タングステン線の加工性が高められるので、容易に線引きを行うことができる。1つの伸線ダイスを用いた1回の線引きによるタングステン線の断面減少率は、例えば10%以上40%以下である。線引き工程において、黒鉛を水に分散させた潤滑剤を用いてもよい。
線引き工程後には、電解研磨を行うことで、タングステン線の表面を滑らかにしてもよい。電解研磨は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液などの電解液に、タングステン線と対向電極とを浸した状態で、タングステン線と対向電極との間に電位差が生じることで電解研磨が行われる。
所望の線径のタングステン線が得られるまで(S18でNo)、加熱線引き(S16)が繰り返される。ここでの所望の線径は、最後の線引き工程(S20)を行う直前の段階の線径であり、例えば250μm以下である。
加熱線引きの繰り返しにおいては、直前の線引きで用いた伸線ダイスよりも孔径が小さい伸線ダイスが用いられる。また、加熱線引きの繰り返しにおいて、直前の線引き時の加熱温度よりも低い加熱温度でタングステン線は加熱される。例えば、最後の線引き工程の直前の線引き工程での加熱温度は、それまでの加熱温度より低く、例えば400℃であり、結晶粒の微細化に寄与させる。なお、加熱線引きでの加熱温度は、タングステン線の表面に付着する酸化物の量は、例えばタングステン線の0.8mass%以上1.6mass%以下の範囲となるように調整される。加熱線引きの繰り返しにおいて、電解研磨は省略されてもよい。
所望の線径のタングステン線が得られ、次の線引き工程が最後である場合(S18でYes)、常温線引きを行う(S20)。つまり、加熱をせずにタングステン線の線引きを行うことで、さらなる結晶粒の微細化を実現する。また、常温線引きにより結晶方位を加工軸方向(具体的には、線軸Pに平行な方向)に揃える効果もある。常温とは、例えば0℃以上50℃以下の範囲の温度であり、一例として30℃である。具体的には、孔径が異なる複数の伸線ダイスを用いてタングステン線の線引きを行う。常温線引きでは、水溶性などの液体潤滑剤を用いる。常温線引きでは加熱を行わないため、液体の蒸発が抑制される。したがって、潤滑剤として十分な機能を発揮させることができる。従来の伝統的なタングステン線の加工方法である600℃以上の加熱線引きに対し、タングステン線への加熱を行わず、また、液体潤滑剤で冷却しながら加工することで、動的回復及び動的再結晶を抑制し、断線することなく、結晶粒の微細化に寄与させ、高い引張強度を得ることができる。
最後に、常温線引きを行うことで形成された所望の線径のタングステン線に対して、電解研磨を行う(S22)。電解研磨は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液などの電解液に、タングステン線と対向電極とを浸した状態で、タングステン線と対向電極との間に電位差が生じることで電解研磨が行われる。
以上の工程を経て、本実施の形態に係るタングステン線10が製造される。上記製造工程を経ることで製造直後のタングステン線10の長さは、例えば50km以上の長さであり工業的に利用できる。タングステン線10は、使用される態様に応じて適切な長さに切断され、針又は棒の形状として使用することもできる。このように、本実施の形態では、タングステン線10の工業的に大量生産が可能であり、医療用針、ソーワイヤー、スクリーン印刷用メッシュなどの各種分野に利用することが可能になる。
実施例1~4に係るタングステン線10は、以上の工程を経て製造したタングステン線である。実施例1~3の引張強度の差異は、例えば、スエージング加工の途中で実施する、径が8mm以上10mm以下の範囲のタングステン棒に対するアニール温度を低下させることで実現する。例えば、通常のアニール温度に対して、200℃低下させることで3%の引張強度の向上が実現される。同様に、400℃低下させることで5%の引張強度の向上が実現される。また常温線引き(S20)の開始サイズをより太いサイズから実施することで、さらなる引張強度の向上が実現される。これらの方法、及び、その組合せにより引張強度が高いタングステン線(例えば実施例3)を製造することができる。
また、タングステン線10の製造方法に示される各工程は、例えばインラインで行われる。具体的には、ステップS16で使用される複数の伸線ダイスは、生産ライン上で孔径が小さくなる順で配置される。また、各伸線ダイス間にはバーナーなどの加熱装置が配置されている。また、各伸線ダイス間には電解研磨装置が配置されていてもよい。ステップS16で使用される伸線ダイスの下流側(後工程側)に、ステップS20で使用される複数の伸線ダイスが、孔径が小さくなる順で配置され、最も孔径が小さい伸線ダイスの下流側に電解研磨装置が配置される。なお、各工程は、個別に行われてもよい。
[ソーワイヤー]
本実施の形態に係るタングステン線10は、例えば、図8に示されるように、シリコンインゴット又はコンクリートなどの物体を切断する切断装置1のソーワイヤー2として利用することができる。図8は、本実施の形態に係る切断装置1を示す斜視図である。
図8に示されるように、切断装置1は、ソーワイヤー2を備えるマルチワイヤーソーである。切断装置1は、例えば、インゴット50を薄板状に切断することで、ウェハを製造する。インゴット50は、例えば、単結晶シリコンから構成されるシリコンインゴットである。具体的には、切断装置1は、複数のソーワイヤー2によってインゴット50をスライスすることで、複数のシリコンウェハを同時に製造する。
なお、インゴット50は、シリコンインゴットに限らず、シリコンカーバイド又はサファイアなどの他のインゴットでもよい。あるいは、切断装置1による切断対象物は、コンクリート又はガラスなどでもよい。
本実施の形態では、ソーワイヤー2は、タングステン線10を備える。具体的には、ソーワイヤー2は、本実施の形態に係るタングステン線10そのものである。あるいは、ソーワイヤー2は、タングステン線10と、タングステン線10の表面に付着された複数の砥粒とを備えてもよい。
図8に示されるように、切断装置1は、さらに、2つのガイドローラー3と、支持部4と、張力緩和装置5とを備える。
2つのガイドローラー3には、1本のソーワイヤー2が複数回、巻きつけられている。ここでは、説明の都合上、ソーワイヤー2の1周分を1つのソーワイヤー2とみなして、複数のソーワイヤー2が2つのガイドローラー3に巻きつけられているものとして説明する。つまり、以下の説明において、複数のソーワイヤー2は、1本の連続するソーワイヤー2を形成している。なお、複数のソーワイヤー2は、個々に分離した複数のソーワイヤーであってもよい。
2つのガイドローラー3は、複数のソーワイヤー2を所定の張力でまっすぐに張った状態で、各々が回転することで、複数のソーワイヤー2を所定の速度で回転させる。複数のソーワイヤー2は、互いに平行で、かつ、等間隔で配置されている。具体的には、2つのガイドローラー3にはそれぞれ、ソーワイヤー2が入れられる溝が所定のピッチで複数設けられている。溝のピッチは、切り出したいウェハの厚みに応じて決定される。溝の幅は、ソーワイヤー2の線径と略同じである。
なお、切断装置1は、3つ以上のガイドローラー3を備えてもよい。3つ以上のガイドローラー3の周りに複数のソーワイヤー2が巻きつけられていてもよい。
支持部4は、切断対象物であるインゴット50を支持する。支持部4は、インゴット50を複数のソーワイヤー2に向けて押し出すことにより、インゴット50が複数のソーワイヤー2によってスライスされる。
張力緩和装置5は、ソーワイヤー2にかかる張力を緩和する装置である。例えば、張力緩和装置5は、つるまきバネ又は板バネなどの弾性体である。図8に示されるように、例えばつるまきバネである張力緩和装置5は、一端がガイドローラー3に接続され、他端が所定の壁面に固定されている。張力緩和装置5がガイドローラー3の位置を調整することで、ソーワイヤー2にかかる張力を緩和することができる。
なお、図示しないが、切断装置1は、遊離砥粒方式の切断装置であって、ソーワイヤー2にスラリーを供給する供給装置を備えていてもよい。スラリーは、クーラントなどの切削液に砥粒が分散されたものである。スラリーに含まれる砥粒がソーワイヤー2に付着することで、インゴット50の切断を容易に行うことができる。
引張強度が高いタングステン線10を備えるソーワイヤー2は、ガイドローラー3に強い張力で張ることができる。これにより、インゴット50の切断時のソーワイヤー2の振動が抑制されるので、インゴット50のロスを少なくすることができる。
なお、タングステン線10は、スクリーン印刷に用いられるスクリーンメッシュなどの金属製のメッシュとして利用することもできる。例えば、スクリーンメッシュは、タテ糸及びヨコ糸として製織された複数のタングステン線10を備える。
また、タングステン線10は、医療用針又は検査用のプローブ針に利用することもできる。また、タングステン線10は、例えば、タイヤ、コンベアベルト又はカテーテルなどの弾性部材の補強用のワイヤーとして利用することもできる。例えば、タイヤは、層状に束ねられた複数のタングステン線10をベルト又はカーカスプライとして備える。
(その他)
以上、本発明に係るタングステン線及びソーワイヤーについて、上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
例えば、タングステン合金に含まれる金属は、レニウムでなくてもよい。つまり、タングステン合金は、タングステンと、タングステンとは異なる1種類以上の金属との合金であってもよい。タングステンとは異なる金属は、例えば遷移金属であり、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)又はオスミウム(Os)などである。タングステンとは異なる金属の含有率は、例えば、0.1mass%以上10mass%以下であるが、これに限らない。例えば、タングステンとは異なる金属の含有率も0.1mass%より小さくてもよく、10mass%より大きくてもよい。レニウムについても同様である。
また、例えば、タングステン線10は、カリウム(K)がドープされたタングステンからなってもよい。ドープされたカリウムは、タングステンの結晶粒界に存在する。タングステン線10におけるタングステンの含有率は、例えば、99mass%以上である。
タングステン線10におけるカリウムの含有率は、0.01mass%以下であるが、これに限らない。例えば、タングステン線10におけるカリウムの含有率は、0.005mass%以上0.010mass%以下であってもよい。
カリウムがドープされたタングステンからなるタングステン線(カリウムドープタングステン線)の線径、弾性率及び引張強度は、上述した実施の形態と同様である。また、カリウムドープタングステン線の表面結晶粒の幅の平均値、平均結晶粒度及び二次再結晶温度の少なくとも1つも、上述した実施の形態と同様である。カリウムドープタングステン線の線軸Pに直交する断面における外周部32の結晶粒度は、中央部31の結晶粒度よりも5%以上大きい。
このように、タングステン線が微量のカリウムを含有することで、タングステン線の半径方向の結晶粒の成長が抑制される。つまり、表面結晶粒の幅を小さくすることができるので、引張強度を高めることができる。
カリウムドープタングステン線は、タングステン粉末の代わりに、カリウムがドープされたドープタングステン粉末を利用することで、実施の形態と同様の製造方法により製造することができる。
また、例えば、タングステン線10の表面には、酸化膜又は窒化膜などが被覆されていてもよい。
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
2 ソーワイヤー
10 タングステン線
30 断面
31 中央部
32 外周部

Claims (4)

  1. タングステン又はタングステン合金からなるタングステン線であって、
    前記タングステン線の線軸に垂直な方向における表面結晶粒の幅の平均値は、76nm以下であり、
    前記タングステン線の引張強度は、4800MPa以上であり、
    前記タングステン線の線径は、100μm以下であり、
    前記タングステン線におけるタングステンの含有率は、90mass%以上である
    タングステン線。
  2. タングステン又はタングステン合金からなるタングステン線であって、
    前記タングステン線の線軸に直交する断面における平均結晶粒度は、0.16μm以下であり、
    前記断面における中央部より外側の外周部の平均結晶粒度は、前記断面における中央部の平均結晶粒度より5%以上小さく、
    前記タングステン線の引張強度は、4800MPa以上であり、
    前記タングステン線の線径は、100μm以下であり、
    前記タングステン線におけるタングステンの含有率は、90mass%以上である
    タングステン線。
  3. 前記タングステン線の二次再結晶温度は、2200℃以上である
    請求項1又は2に記載のタングステン線。
  4. 請求項1~のいずれか1項に記載のタングステン線を備えるソーワイヤー。
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