本発明の一態様は、目的の分子を単離および/または精製するための本明細書中に提供される光切替可能ポリペプチド(すなわち光反応性要素を含むポリペプチド)の使用に関する。
用語「目的の分子を単離する」および「目的の分子を精製する」並びにそれらの文法的変形は、互いに交換可能に用いられ、目的の分子以外の分子の量が減少されることを意味する。それらの用語には、目的の分子以外の多数の、大部分のまたは全ての物質が低減され、最小化され、または除去されることが含まれる。下記に記載するように、目的の分子は任意の分子であることができる。例えば、目的の分子はペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体またはその断片(フラグメント)、免疫グロブリンまたはその断片、酵素、ホルモン、サイトカイン、複合体、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸、炭水化物、リポソーム、ナノ粒子、細胞、生体高分子、生体分子および小分子から成る群より選択され得る。ここで「目的の分子を単離する」、「目的の分子を分離する」、「目的の分子を精製する」という用語には、目的の分子以外の細胞物質、例えば細胞抽出物または培地の成分が低減され、最小化されまたは除去されることが含まれる。よって、「目的の分子を単離/精製する」という用語には、目的の分子がそれの生来の環境での1または複数の成分(例えば、他のタンパク質、核酸、炭水化物、補因子、代謝産物など)から分離されることを意味する。本発明によれば、目的の分子を、例えば電気泳動(例えばアガロースゲル電気泳動、でんぷんゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)、クロマトグラフィー(例えばイオン交換、サイズ排除または逆相HPLC)または他の方法(例えば質量分析法(MS)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、FACSなどのフローサイトメトリー)により測定した時に、少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%純度にまで精製することができる。目的の分子の純度を測定するそのような方法は、当業界で一般に周知である。好ましくは、特定の目的の分子の単離/精製は、その目的の分子を実質的に純粋にすることを意味する。
本明細書に提供される光切替可能ポリペプチドは、固相の一部である(すなわち固相の中に含まれる)ことができる。例えば、光切替可能ポリペプチドがアフィニティークロマトグラフィー系の固相の一部であることができ、目的の分子が対応する液相の一部であることができる。
本発明の別の態様は、目的の分子を単離および/または精製する方法であって、
(i) 目的の分子を含む液相を本発明の光切替可能ポリペプチドと接触させ、
ここで前記光切替可能ポリペプチドが固相の一部であり(すなわち固相の中に含まれ)、そして前記ポリペプチド(すなわち光切替可能ポリペプチド)が目的の分子に対して高親和性を有するように光応答性要素が第一の立体配置にあり;そして
(ii) 前記光切替可能ポリペプチドに、前記ポリペプチド(すなわち光切替可能ポリペプチド)が工程(i)の親和性に比較して目的の分子に対する親和性が減少されるように前記光応答性要素を第二の立体構造に変化させる1または複数の波長を照射し、そして前記目的の分子を溶出させる
工程を含む方法に関する。
上記方法の工程(ii)において、目的の分子の溶出は、好ましくは1または複数の特定の波長を光切替可能ポリペプチドに照射しながら実施される。しかしながら、光応答性要素の緩和(relaxation)が遅いために、工程(ii)を漸次方式で、すなわちより特異的に実施することができ、第一の工程で光切替可能ポリペプチドに照射し;そして第二の工程で、目的の分子の溶出を例えば遮光下で実施することができる。
本発明の状況では、既知のストレプトアビジン変異タンパク質の光切替可能変異体(特にStrep-Tactin(登録商標))を設計し、組換えタンパク質として作製した。従って、本発明の光切替可能ポリペプチドは、光応答性要素を含むストレプトアビジン、または光応答性要素を含むストレプトアビジンの変異体もしくは変異タンパク質であることができる。従って、本発明の一態様は、本明細書にて提供される光切替可能ポリペプチド、使用または方法に関し、ここで前記光切替可能ポリペプチドは、光応答性要素を含むストレプトアビジン、または光応答性要素を含むストレプトアビジンの変異体もしくは変異タンパク質である。
本明細書に提供される光制御可能なストレプトアビジン変異タンパク質は、別のタンパク質ベースの親和性分子を用いる光制御クロマトグラフィーの道も開拓する。よって、本発明の状況下では、限定されたリガンド(目的の分子、例えばタンパク質または免疫グロブリン)、例えばプロテインA、プロテインG、プロテインLまたは抗myc-tag抗体(例えば抗体フラグメントFab 9E10)を結合することのできる別のタンパク質に、光応答性要素(例えば光応答性アミノ酸側鎖)を合体すると想定される。従って、本発明の光切替可能ポリペプチドは、
(i) 光応答性要素を含むストレプトアビジンまたはそれの変異体もしくは変異タンパク質;
(ii) 光応答性要素を含むプロテインAまたはそれの断片、変異体もしくは変異タンパク質;
(iii) 光応答性要素を含むプロテインGまたはそれの断片、変異体もしくは変異タンパク質;
(iv) 光応答性要素を含むプロテインLまたはそれの断片、変異体もしくは変異タンパク質;または
(v) 光応答性要素を含む抗myc-tag抗体またはそれの断片、変異体もしくは変異タンパク質
から選択された任意のタンパク質であることができる。
ストレプトアビジンはストレプトマイセス・アビジニ(Streptomyces avidinii)により生産される、D-ビオチンを強固に結合する細胞外タンパク質である。プロセシング前のタンパク質は159アミノ酸から成り、約16 kDaの分子量を有する。プロセシングされたタンパク質(すなわちコアのストレプトアビジン)は、約127アミノ酸から成る。機能的ストレプトアビジンは4つのストレプトアビジンサブユニットを含む四量体構造を有する。ストレプトアビジンのビオチンへの高親和性は、多くの生物学および生物工学(バイオテクノロジー)的な標識および結合実験の基礎である。実際、10-14モル/LのKd値を有する、ビオチンへのストレプトアビジンの結合は、既知のものの中でも最強の非共有結合親和力の1つである(Green 1975 Adv. Protein Chem. 29: 85-133)。用語「Kd」(「KD」とも称される)は平衡解離定数(平衡結合定数の逆数)を指し、本明細書中では技術の現状で与えられる定義に従って用いられる。
Strep-tag(登録商標)およびStrep-tag IIは、ストレプトアビジンの合成ペプチドリガンドである(Schmidt & Skerra 1993 Protein Eng 6: 109-122)。Strep-tagおよびStrep-tag IIは、ストレプトアビジンを目当てにビオチンと競合的に結合する。ストレプトアビジン並びにその変異体および変異タンパク質は、Strep-tagタグ、Strep-tag IIまたはビオチンを含む分子を単離および/または精製するために汎用されている。ストレプトアビジンの既知の変異タンパク質はStrep-Tactin(登録商標)である。コアストレプトアビジンおよびStrep-Tactinのアミノ酸配列はそれぞれ本明細書中の配列番号10と8に与えられる。
プロテインG、プロテインAおよびプロテインLは、免疫グロブリンまたは抗体を単離および/または精製するために用いることができる免疫グロブリン結合性細菌タンパク質である。
プロテインAは、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)の細胞壁において最初に発見された42 kDaの表面タンパク質である。プロテインAは、抗体(例えばモノクローナル抗体、Mab)およびその断片を含む、免疫グロブリン(Ig)を結合する能力を有する。プロテインAは、各々が3重らせん束構造に折りたたまれる5個の相同なIg結合ドメインを含む。それらの5つのドメインの各々が多数の哺乳動物種由来の抗体を結合することができ、最も顕著には免疫グロブリンG(IgG)のクラスに属する抗体を結合することができる。アフィニティー精製目的には、しばしばプロテインAの残基212~269(UniProtデータベースエントリP38507)を含む組換え断片が用いられる。この断片はプロテインAのドメインBを含むまたはそれから成る。より詳しくは、プロテインAは大部分の免疫グロブリンからのFc領域の中の重鎖、および特にヒトVH3ファミリーの場合にはFab領域の中の重鎖にも結合する。ヒドロキシルアミンを使った融合タンパク質の部位特異的化学開裂に対するドメインBの耐性を増加させるために、それの残基28-29の所の感受性Asn-Glyジペプチドを部位特異的突然変異誘発によりAsn-Alaに変更し、いわゆる改変された(engineered)Zドメインを生成させる(Hober 2008 J. Chromatogr. B 848: 40-47)。クロマトグラフィー支持体に結合させたプロテインAのこのZドメインは、抗体のアフィニティー精製に利用することができる。プロテインAのドメインZのアミノ酸配列は本明細書中に配列番号16として与えられる。光応答性要素、例えば4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンの組み込みに適当であるこの配列中のアミノ酸位置は、配列番号16のPhe5, Gln9, Phe13, Tyr14, Glu25, Gln26, Arg27, Asn28 Ala29, Phe30, Ile31, Gln32, Lys35, Asp36, Asp37, Gln40, Asn43, Leu45, Glu47, Leu51, および/またはAsn52(それぞれUniProtデータベースエントリP38507の216位, 220位, 224位, 225位, 236位, 237位, 238位, 239位, 240位, 241位, 242位, 243位, 246位, 247位, 248位, 251位, 254位, 256位, 258位, 262位および263位に相当する)である。光応答性要素はそれらのアミノ酸位置のうちの1つまたは複数の位置にプロテインAを組み込むことができる。Ala29はプロテインAの野生型Bドメイン中のGly29に相当する。
よって、本明細書に提供される光切替可能ポリペプチドが、光応答性要素を含むプロテインA(またはそれの変異体、変異タンパク質、融合タンパク質もしくはその断片、特にZドメインを含むもの)である場合、目的の分子(リガンド)は好ましくは抗体またはその断片、より好ましくはIgG(例えはヒトIgG、例えばヒトIgG1、IgG2もしくはIgG4;またはマウスIgG、例えばマウスIgG2a、IgG2もしくはIgG3)またはその断片である。そのような場合、目的の分子(リガンド)は、ヒトIgG3またはマウスIgG1;またはその断片であってもよい。従って、本明細書に提供される光切替可能ポリペプチドが光応答性要素を含むプロテインA(またはそれの変異体、変異タンパク質、融合タンパク質もしくはその断片、好ましくはZドメインを含む断片)である場合、目的の分子(リガンド)は好ましくは抗体またはその断片、より好ましくはIgG(例えばヒトIgG、例えばIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4;またはマウスIgG、例えばマウスIgG1、IgG2a、IgG2もしくはIgG3)またはその断片である。この点に関して、目的の分子がIgG抗体であるならば、該断片は好ましくはFc領域および/またはFab領域を含む。同様に、目的の分子がヒトVH3ファミリーに属する抗体の断片であるならば、それは好ましくはFab領域を含む。
プロテインGはストレプトコッカス属G群に見つかる別の免疫グロブリン結合タンパク質である。それは3つのFc結合ドメイン(C1, C2およびC3)並びにアルブミン結合部分から成り、抗体、特にIgGのFc領域(Cao 2013, Biotechnol. Lett. 35: 1441-1447)だけでなくFab断片にも結合する。生来のプロテインGはアルブミンを結合するが、血清アルブミンが抗体源の主な混入物であるため、プロテインGの幾つかの組換え形ではアルブミン結合部位が削除されている。プロテインGのドメインC1、C2およびC3のアミノ酸配列は本明細書中にそれぞれ配列番号17、18および19として与えられる。配列番号17、18および19の配列は、それぞれUniProtデータベースエントリP19909中の223~357位、373~427位および443~497位に該当する。光応答性要素、例えば4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンの組み込みに適当な各ドメインC1、C2およびC3の配列中のアミノ酸位置は、配列番号18のLys3, Val5もしくはIle5, Thr10, Thr16, Val28もしくはAla28, Tyr32, および/またはAsp35(それぞれUniProtデータベースエントリP19909中の第375位, 377位, 382位, 388位, 400位, 404位および407位に該当する)である。光応答性要素はそれらのアミノ酸位置の1つまたは複数の位置においてプロテインGに組み込むことができる。
ここで、本明細書に記載の光切替可能ポリペプチドが、光応答性要素を含むプロテインG(またはそれの変異体、変異タンパク質、融合タンパク質または断片)である場合、目的の分子は好ましくは抗体またはその断片、例えばFabまたはFc、より好ましくはIgGまたはその断片である。これに関して、目的の分子がIgG抗体であるならば、断片は好ましくはFcおよび/またはFab領域を含む。
プロテインLはぺプトストレプトコッカス・マグナス(Peptostreptocuccus magnus)の表面上に発現され、免疫グロブリン軽鎖に結合することが分かっている。全長プロテインLは719アミノ酸から成る。プロテインLの遺伝子は5つの領域をコードする:18アミノ酸を有するシグナル配列;79残基を有するアミノ末端領域「A」;各々72~76アミノ酸を有する5つの相同「B]リピート;各々52アミノ酸の2つの追加の「C」リピートを含むカルボキシ末端領域;親水性のプロリンに富む推定細胞壁貫通領域「W」;疎水性膜アンカー「M」。Bリピート領域(36 kDa)はIg軽鎖との相互作用を担う。抗体精製に用いられるプロテインLの断片はドメインB1と称され、78アミノ酸残基を含む(Wikstroem 1995 J. Mol. Biol. 250: 128-133)。ドメインB1の78アミノ酸は、UniProtデータベースエントリ51918中の位置324~389に相当する。免疫グロブリン重鎖のどの部分も結合相互作用に関与しないので、プロテインLはプロテインAやGよりも広範囲のクラスの抗体、例えばIgG、IgM、IgA、IgEおよびIgD並びにそれらのサブクラスを結合する。プロテインLは抗体の一本鎖可変断片(scFv)およびFab断片も結合する。特に、プロテインLはκ軽鎖を含む抗体に結合する。プロテインLのドメインB1のアミノ酸配列は本明細書中に配列番号20として提供される。光応答性要素、例えば4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンの組み込みに適当なドメインB1の配列中のアミノ酸位置は、配列番号20のThr5, Asn9, Ile11, Phe12, Lys16, Phe26, Lys32, Ala35, Glu43, および/またはTyr47(UniProtデータベースエントリQ51918中のそれぞれ第330位, 334位, 336位, 337位, 341位, 351位, 357位, 360位, 368位および372位に該当する)である。追加の位置は、配列番号20のPhe22, Leu39および/またはAsn44(UniProtデータベースエントリQ51918中のそれぞれ第347位, 364位および369位に該当する)である。光応答性要素、例えば4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンの組み込みに適当なドメインB1の配列中の更なるアミノ酸位置は、配列番号20のPhe22, Leu39および/またはAsn44(UniProtデータベースエントリQ51918中のそれぞれ347位, 364位および369に該当する)である。プロテインLのドメインB1中に光応答性要素、例えば4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニン(Caf)を導入するために考慮されるそれらの位置のうち、Phe22, Ala35, Leu39, Glu43およびAsn44は優先性が低い。
光応答性要素は上記アミノ酸位置の1つまたは複数の位置でプロテインL中に組み込むことができる。好ましくは、本明細書に提供される光切替可能ポリペプチドはプロテインLのドメインB1(配列番号20)を含み、ここで光応答性要素、例えば4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニン(Caf)は配列番号20のPhe12の位置に相当する位置に組み込まれる。そのような光切替可能ポリペプチドは配列番号20の第36位に変異を有することもでき、配列番号20の第40位に追加の変異を有することもできる。例えば、配列番号20のTyr36は、Ala, Arg, Asn, Asp, Cys, Glu, Gln, Gly, His, Ile, Leu, Lys, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, TrpまたはValに変異させることができる。好ましくは、配列番号20のTyr36は、Asnに変異させることができる。配列番号20のLeu40はAla, Arg, Asn, Asp, Cys, Glu, Gln, Gly, His, Ile, Lys, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, Trp, Tyr またはValに変異させることができる。好ましくは、配列番号20のLeu40はSerに変異させることができる。
従って、本開示の光切替可能ポリペプチドがプロテインLまたはそれの変異体もしくは変異タンパク質もしくは断片もしくは融合タンパク質である場合、目的の分子は好ましくば抗体またはその断片、より好ましくはヒトもしくはマウス抗体またはその断片であり、更により好ましくはIgGであり、更により好ましくはκ軽鎖を含む抗体またはその断片(例えばFabまたはscFv)であり、更により好ましくはヒトVκI, VκIIIおよび/またはVκIV軽鎖および/またはマウスVκI軽鎖を含む抗体またはその断片である。
上述したように、本開示の光切替可能ポリペプチドはプロテインLの融合タンパク質またはその断片であることができる。例えば、融合タンパク質は、短鎖リンカー配列を介してヒトアルブミン結合ドメイン(ABD;配列番号59)に融合されているコドン最適化プロテインLドメインB1(本明細書中ではProtLと称される;配列番号20)を含んでもよい。そのようなプロテインL-ABD融合タンパク質は配列番号61として本明細書に示される(本明細書中ProtL-ABDとも称される)。好ましくは、そのような融合タンパク質は光応答性要素、例えば4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニン、好ましくは4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニン(Caf)を配列番号61の第13位に担持している。そのような融合タンパク質は配列番号61の第37位に変異を有することもでき、そして配列番号61の第41位に別の変異を有することもできる。例えば、配列番号61のTyr37をAla, Arg, Asn, Asp, Cys, Glu, Gln, Gly, His, Ile, Leu, Lys, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, Trp またはValに変異させることができる。好ましくは、配列番号61のTyr37をAsnに変異させることができる。配列番号61のLeu41をAla, Arg, Asn, Asp, Cys, Glu, Gln, Gly, His, Ile, Lys, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, Trp, TyrまたはValに変異させることができる。好ましくは、配列番号61のLeu41がSerに変異される。例えば、本開示の光切替可能ポリペプチドは配列番号86のアミノ酸配列を含むまたはから成ってもよい。
プロテインA、プロテインGおよびプロテインLまたはそれの断片もしくは融合タンパク質は、ヒトと動物からの抗体の多様なサブクラスに結合し、それによりバイオテクノロジーによって生産された抗体を対応するアフィニティー支持体上に捕捉可能にするため、抗体の精製に汎用されているツールである(例えば、Nilsson他、1997 Protein Expr. Purif. 11: 1-16)。しかしながら、カオトロピック塩または低pH条件を使った通常の溶出は、標的タンパク質の化学的修飾や変性を引き起こすことがあり、そのため機能性に影響を及ぼす場合がある。抗体に対して感光性結合活性を示しかつそれらをアフィニティー支持体の創製に適用できるようにプロテインA、プロテインGまたはプロテインLを改変することは、この従来の精製技術の欠点を取り除くだろう。
抗myc-tag抗体は当業界で公知である。例えば、抗MYC抗体クローン9E10(DrMAB-150)は、myc-tag、すなわちヒトc-MYCのC末端領域中のアミノ酸の連続鎖に相当するペプチド(配列番号15)に選択的に結合するモノクローナルマウス抗体である(Schiweck他. 1997 FEBS Lett. 414: 33-38)。従って、この抗体は、分子、特にmyc-tagを含む組換えタンパク質の単離および/または精製に用いられる。9E10抗体の組換えFab断片は、大腸菌(Escherichia coli)中で容易に生産することができる。しかしながら、アフィニティークロマトグラフィーにおいて固体支持体に固定化された従来型の抗myc-tag抗体またはそのFabまたはその変異体もしくは変異タンパク質を使う時には、目的の分子が低pH条件で溶出されるので、標的分子の性質を害する恐れがある。この欠点は、本発明に従って光切替可能抗myc-tag抗体(または抗myc-tag抗体断片、例えばFab 9E10)を製造することにより克服することができる。光切替可能抗myc-tag抗体または抗myc-tag Fab 断片のクロマトグラフィーマトリックスへの化学的カップリングは、myc-tagを担持している分子の光制御溶出を可能にする。抗MYC抗体クローン9E10並びにそれのFab断片(Fab 9E10)は、例えばKrauss(2008 Proteins 73: 552-565)中に記載されている。マウスIgG1/κ抗体9E10の成熟(シグナル配列を欠く)重鎖および軽鎖のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号21と22に与えられる。抗体9E10のFab断片は同じ軽鎖と重鎖のアミノ末端領域とを含み、それは配列番号21の残基19~228である(場合によりHis6-tagが付けられる)。本発明の光切替可能ポリペプチドが光切替可能抗myc-tag抗体(またはその変異体、例えば光切替可能Fab 9E10)である場合、光応答性要素は、好ましくは少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)中の1つの位置に導入される。光応答性要素、例えば4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンの組み込みに適当である9E10重鎖の配列中のアミノ酸位置は、配列番号21のTyr76, Phe121, Tyr122, Tyr123, Tyr124, Tyr128, および/またはTyr129である。更に他の位置は配列番号21のTyr130である。光応答性要素はそれらのアミノ酸位置の1つまたは複数の位置で9E10重鎖の配列中に組み込むことができる。
上述した通り、本開示の光切替可能ポリペプチドは、光応答性要素を含むストレプトアビジン、光応答性要素を含むプロテインA、光応答性要素を含むプロテインG、光応答性要素を含むプロテインL、または光応答性要素を含む抗myc-tag抗体またはFab 9E10であることができる。しかしながら、本開示の光切替可能ポリペプチドは、上述した任意のポリペプチドの「変異体(variant)」(例えば断片)または「変異タンパク質」または「融合タンパク質」であってもよい。ここで、所定のポリペプチドの変異体または変異タンパク質は、該ポリペプチドが機能的なままであることを前提としてポリペプチドの任意の改変変異体(例えば断片)である。好ましくは、そのような光切替可能ポリペプチドの変異タンパク質は、光応答性要素を担持している位置とは異なる位置に1以上のアミノ酸置換を含むことができ、それは前記ポリペプチドのコンホメーション(立体構造)に対する光切替可能配置の効果とリガンドへの前記ポリペプチドの結合活性に対する効果を変更または増強する。
例えば、配列番号61の第13位のアミノ酸位置に光応答性要素としてCafを有するプロテインLの光切替可能ドメインB1において、配列番号61の第37位のTyrからAsnへの突然変異および配列番号61の第41位のLeuからSerへの変異は、免疫グロブリンリガンドへの前記ポリペプチドのコンホメーションと結合活性に対するCafの光切替可能配置の効果を増強する。よって、本発明の光切替可能ポリペプチドは、(光応答性要素に加えて)リガンド(例えば目的の分子)への光切替可能ポリペプチドの結合活性に対する光の効果を増強する1、2またはそれより多くの(例えば1~10、1~5、好ましくは2)追加の突然変異を含むことができる。
例えば、基底状態(例えば遮光下または約400~530 nmの波長を有する可視光の下)では、光切替可能ポリペプチドは目的の分子に対して一定の結合活性を有しうる。前記光切替可能ポリペプチドに1または複数の様々な波長を有する光(例えば300~390 nmの波長を有するUV光)を照射すると、前記目的の分子への前記光切替可能ポリペプチドの結合活性の減少または増加(好ましくは減少)をもたらす。光切替可能ポリペプチドの結合活性に対する1または複数の様々な波長を有する前記光の効果は、光切替可能ポリペプチド中の突然変異により増強することができる。従って、本発明の光切替可能ポリペプチドは、光応答性要素に加えて、光切替可能ポリペプチドが光によって制御可能である程度を増大させる突然変異を含むことができる。
従って、本発明は、本発明の光切替可能ポリペプチドが光によって制御可能な程度を増大させる突然変異を同定する方法を提供し、該方法は:
(a) 光切替可能ポリペプチドの三次元(3D)構造または三次構造もしくは立体構造を分析し(例えばPyMOLまたはChimeraなどの当技術分野で知られているグラフィック表示用のコンピュータープログラムを使用することにより;Jarasch 2016 Protein Eng. Des. Sel. 29: 263-270を参照);そして
(b) リガンドへの高い結合親和性に関連付けられる光切替可能ポリペプチドのコンホメーションに相当する光応答性要素(例えばCaf)の配置状態(例えばトランス配置)を有する、立体的に重複する(例えばファンデルワールス半径の総和よりも近接した距離で少なくとも1つの原子対を共有する)光応答性要素の周辺(例えば該要素から15オングストローム(Å)、好ましくは10Å、より好ましくは5Åの距離以内)のアミノ酸側鎖を選択し;そして
(c) 選択されたアミノ酸側鎖に対応するアミノ酸を別のアミノ酸で置換することにより、変異形の光切替可能ポリペプチドを調製し;そして
(c) 光応答性要素の全ての可能な立体配置(例えばシス配置とトランス配置)について変異形の光切替可能タンパク質の結合活性を分析する
ことを含む。
上記の工程(c)において、選択されたアミノ酸側鎖に対応するアミノ酸は、好ましくは、光応答性要素との立体的重なりを減少させるアミノ酸(例えばより小さい側鎖を有するアミノ酸)で置換され、または好ましい相互作用をもたらすアミノ酸(例えば1以上の水素結合、塩橋またはファンデルワールス相互作用をもたらすアミノ酸)で置換される。
例えば、光切替可能ポリペプチドが光によって制御可能である程度を増大させる突然変異は(i) 非変異型の光切替可能ポリペプチドの対応する結合活性に比較して、結合コンホメーション(例えば遮光下または約400~530 nmの波長を有する可視光の下)でのリガンドへの変異型の光切替可能ポリペプチドの結合活性の増加;
(ii) 非変異形の光切替可能ポリペプチドの対応する結合活性に比較して、非結合性コンホメーションでのリガンドへの変異型の光切替可能ポリペプチドの結合活性の減少;または
(iii) (i)と(ii)の組み合わせ
をもたらす突然変異によることができる。
従って、上述したように、本発明の光切替可能ポリペプチド内部の程度を増大させる増追加の突然変異は、例えば当業界で既知のグラフィック表示用のコンピュータープログラムを使うことにより、光切替可能ポリペプチドの高親和性コンホメーションに相当する光応答性要素(例えばCaf)の立体配置状態と立体的に重なり合うであろう光応答性要素の周辺(例えば該要素から15Å、好ましくは10Å、より好ましくは5Åの距離以内)のアミノ酸側鎖について探索することにより同定することができる。次に、立体的な重複が回避されるような位置(例えばより小さな側鎖を使用することによる)、または好ましい相互作用(例えば1または複数の水素結合、塩橋、またはファンデルワールス相互作用)も生じ得るような位置でアミノ酸置換が選択される。
本開示の光切替可能ポリペプチドは、特定波長の光をポリペプチドに照射することによりその光応答性要素の立体配置を切り替えることができ、かつその立体配置の切り替えが結合活性(好ましくはリガンド(例えば目的の分子)に対するポリペプチドの親和性)を変化させる場合、それは機能的であるといえる。ある特定のポリペプチドの変異体または変異タンパク質は、1~数個のアミノ酸が置換、付加または削除されているが該ポリペプチドがまだ機能的なままである所定のポリペプチドでありうる。例えば、所定のポリペプチドの変異体または変異タンパク質は、変異体または変異タンパク質が機能的であることを前提として、特定のポリペプチドに対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも96%、更により好ましくは少なくとも97%、更により好ましくは少なくとも98%、または最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドであってもよい。本発明の範囲において好ましく適用されるストレプトアビジンの既知変異タンパク質はStrep-Tactin(登録商標)である。
所定のポリペプチドの変異体は、断片が機能的なままである限り該ポリペプチドの断片であってもよい。抗myc-tag抗体クローン9E10の変異体は本明細書中に記載のようなFab 9E10である。
所定のポリペプチドの変異体は、該ポリペプチドと別のタンパク質を含む融合タンパク質であってもよい。別のタンパク質は例えば、マーカータンパク質、例えば緑蛍光タンパク質(GFP)、高感度GFP(eGFP)、または黄色蛍光タンパク質(YFP)であることができる。本開示の光切替可能ポリペプチドに対する別の融合相手は、酵素、溶解度を高めるタンパク質、オリゴマー形成ドメイン、またはABDのような別の結合機能を有するタンパク質であってよい。所定のポリペプチドの変異体はそのポリペプチドと非タンパク化合物、例えばDNAとを含む結合体であってもよい。
従って、本発明の1つの態様は、本開示の光切替可能ポリペプチド、使用または方法であって、前記光切替可能ポリペプチドが
(i) 配列番号2のアミノ酸配列;
(ii) 配列番号4のアミノ酸配列;
(iii) 配列番号6のアミノ酸配列;または
(iv) 上記(i)~(iii)のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも96%、更により好ましくは少なくとも97%、更により好ましくは少なくとも98%、または最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列
を含むかまたはそれから成り、ここで
前記ポリペプチドが光応答性要素を含み、該ポリペプチドに1または複数の特定波長の光を照射することにより、前記光応答性要素の立体配置を切替えることができ、そして前記立体配置の切り替えがリガンドへの該ポリペプチドの結合活性(好ましくは親和性)を変化させることを特徴とする
前記ポリペプチド、使用または方法に関する。
本発明の別の態様は、本開示の光切替可能ポリペプチド、使用または方法であって、前記光切替可能ポリペプチドが
(i) 配列番号20のアミノ酸配列、ここで配列番号20の第12位の残基が光応答性要素により置き換えられている配列;
(ii) 配列番号86のアミノ酸配列;
(iii) 配列番号61のアミノ酸配列であって、ここで配列番号61の第13位の残基が光応答性要素により置き換えられている配列;
(iv) 前記(i)~(iii)のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも97%、更により好ましくは少なくとも98%、または最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列
を含むかまたはそれから成り、ここで
前記ポリペプチドが光応答性要素を含み、前記ポリペプチドに1または複数の特定波長の光を照射することにより、前記光応答性要素の立体配置を切替えることができ、そして前記立体配置の切り替えがリガンドへの該ポリペプチドの結合活性を変化させることを特徴とする
前記ポリペプチド、使用または方法に関する。
上記(i)に定義されるような光切替可能ポリペプチドは、配列番号20の第36位に突然変異を有しそして配列番号20の第40位に突然変異を有してもよい。例えば、配列番号20のTyr36をAla, Arg, Asn, Asp, Cys, Glu, Gln, Gly, His, Ile, Leu, Lys, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, TrpまたはValに変異させてもよい。好ましくは、配列番号20のTyr36がAsnに変異される。配列番号20のLeu40をAla, Arg, Asn, Asp, Cys, Glu, Gln, Gly, His, Ile, Lys, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, Trp, TyrまたはValに変異させてもよい。好ましくは、配列番号20のLeu40がSerに変異される。
上記(iii)で定義される光切替可能ポリペプチドはまた、配列番号61の第37位に突然変異および配列番号61の第41位に突然変異を有することができる。例えば、配列番号61のTyr37は、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Glu、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、TrpまたはValに変異していてもよい。好ましくは、配列番号61のTyr37はAsnに変異される。配列番号61のLeu41は、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Glu、Gln、Gly、His、Ile、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValに変異していてもよい。好ましくは、配列番号61のLeu41はSerに変異される。例えば、本開示の光切替可能ポリペプチドは、配列番号86のアミノ酸配列を含むかまたはそれから成ってもよい。
上記(iv)で定義される光切替可能ポリペプチドは、(i)に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有し、配列番号20の第36位に相同である(すなわち対応する)位置に突然変異を有してよく、そして配列番号20の第40位に相同である(すなわち対応する)位置に突然変異を有してもよい。例えば、配列番号20の第36位に相同である(すなわち対応する)位置が、Ala、Arg, Asn, Asp, Cys, Glu, Gln, Gly, His, Ile, Leu, Lys, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, TrpまたはValに変異されていてよく、好ましくはAsnに変異されている。配列番号20の第40位に相同である(すなわち対応する)位置が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Glu、Gln、Gly、His、Ile、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValに変異されていてよく、好ましくはSerに変異されている。
上記(iv)で定義される光切替可能ポリペプチドは、上記(iii)に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有し、配列番号61の第37位に相同である(すなわち対応する)位置に突然変異を有してよく、および配列番号61の第41位に相同である(すなわち対応する)位置に突然変異を有してもよい。例えば、配列番号61の第37位に相同である(すなわち対応する)位置は、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Glu、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、TrpまたはValに変異されていてよく、好ましくはAsnに変異されている。配列番号61の第41位に相同である(すなわち対応する)位置は、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Glu、Gln、Gly、His、Ile、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはVal、好ましくはSerに変異されていてよい。
従って、本開示の光切替可能ポリペプチドは、例えば配列番号86のアミノ酸配列;または配列番号86のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列;および配列番号86の第13位に相同である位置に光応答性要素を含む、プロテインLのドメインB1とABDとを含む融合タンパク質を含むまたはから成ってもよい。しかしながら、後述する通り、アフィニティーマトリックスにおける用途には、プロテインLの光切替可能ドメインB1は、特にアルブミンの同時精製を回避すべき場合に、好ましくはABD融合相手を使用せずに適用される。従って、好ましい態様では、本開示の光切替可能ポリペプチドは、例えば配列番号20のアミノ酸配列を有する、プロテインLのドメインB1を含むまたはから成り、ここで残基12がCafのような光応答性要素により置き換えられており;または配列番号20に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、ここで配列番号20の残基12に相同である残基がCafのような光応答性要素により置き換えられている。
上述した通り、本発明の光切替可能ポリペプチドが、光応答性要素を含むプロテインA(またはそれの変異体、変異タンパク質、融合タンパク質または断片)、光応答性要素を含むプロテインG(またはそれの変異体、変異タンパク質、融合タンパク質または断片)、光応答性要素を含むプロテインL(またはそれの変異体、変異タンパク質、融合タンパク質または断片)、または光応答性要素を含む抗myc-tag抗体(またはそれの変異体、変異タンパク質、融合タンパク質または断片)であることも想定される。光応答性要素(例えば4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニン)の組み込みに適当である、プロテインA、プロテインG、プロテインLおよび抗myc-tag抗体のアミノ酸配列、並びにそれらの配列中のアミノ酸位置は、上記および下記に提供される。
添付の実施例では、光応答性要素(すなわち光応答性アミノ酸側鎖)は例示的にストレプトアビジンの変異タンパク質中に導入される。従って、本発明の一態様では、光切替可能ポリペプチドは
(i) 配列番号2のアミノ酸配列;
(ii) 配列番号4のアミノ酸配列;または
(iii) 配列番号6のアミノ酸配列
を含むまたはそれから成る。
本発明の1つの特定例では、光切替可能ポリペプチドが配列番号2のアミノ酸配列を含むまたはから成る。
添付の実施例では、光応答性要素(すなわち光応答性アミノ酸側鎖)は、アルブミン結合ドメイン(ABD)に融合されているプロテインLのコドン最適化ドメインB1を含む融合タンパク質中にも導入される。従って、本発明の一態様では、光切替可能ポリペプチドは配列番号61のアミノ酸配列を含むまたはから成り、ここで配列番号61の第13位の残基が光応答性要素(例えばCaf)により置き換えられている。そのような融合タンパク質は、配列番号61の第37位に突然変異(例えばTyrからAsnへの突然変異)および配列番号61の第41位に突然変異(例えばLeuからSerへの突然変異)を有してもよい。例えば、本発明の光切替可能ポリペプチドは配列番号86のアミノ酸配列を含むまたはから成る。
しかしながら、本明細書中に提供する理論は、アフィニティークロマトグラフィーにおける親和性分子として使用される任意のタンパク質に適用することができる。汎用されるタグ(tag)および対応する親和性分子の概要が下記の表1に与えられる。本発明によれば、本明細書中に記載の親和性分子のいずれも、光制御可能であるような形で改変することができる。例えば、光切替可能抗HA抗体、抗FLAG-tag抗体、または抗T7-tag抗体の作製と使用も本発明に含まれる。
本発明の一態様は、本開示の光切替可能ポリペプチド、使用または方法に関し、ここで光応答性要素の1つの立体構造(configuration)(すなわち、配置状態(configurational state))から他の立体構造(配置状態)への切り替えが、前記ポリペプチドの(すなわち光切替可能ポリペプチドの)リガンド結合ポケットまたは部位の立体構造または形状を変化させることを特徴とする。本明細書では、「コンホメーション(conformation)を変化させる」という用語またはその文法的変形は、「形状を変化させる」という用語またはその文法的変形と同義的に使用される。特に、本明細書では、リガンド結合ポケットのコンホメーション変化は、リガンド結合ポケットまたはリガンド結合部位の形状の変化である。本明細書で定義されるように、リガンド結合ポケットの可能な各形状は、リガンド結合ポケットの「コンホメーション」である。本明細書において、異なるコンホメーション間の遷移は立体構造の変化である。
本発明によれば、本明細書で提供される光切替可能ポリペプチドの光応答要素の立体配置の切り替えは、光切替可能なポリペプチドのリガンドへの結合活性を変化させる。または、言い換えれば、光応答要素の立体配置は、本明細書で提供される光切替可能なポリペプチドがそのリガンドに対する結合活性を有するかどうかを決定する。光応答性要素は、リガンド結合ポケットまたは光切替可能可能なポリペプチドの部位の形状に寄与することが想定される。従って、本発明の一態様は、光応答性要素がポリペプチドのリガンド結合ポケットまたは部位の内部またはその周辺にある、本明細書で提供される光切替可能ポリペプチド、使用または方法に関する。前記リガンドが本発明の光切替可能ポリペプチドに結合する場合、光応答性要素は、好ましくは25Å(オングストローム)未満、より好ましくは20Å未満、更により好ましくは15Å未満、更により好ましくは10Å未満、最も好ましくは5Å未満である前記リガンドに対する距離を有する。また、光応答性要素は、前記リガンドの親和性分子(すなわち光切替可能ポリペプチド)への結合に関与している可能性がある。
成熟(シグナル配列を欠く)野生型ストレプトアビジン(UniProt Entry:P22629)のアミノ酸配列中のStrep-TactinのTrp108の位置は、Strep-Tactinの結合ポケット(空洞)の底部に位置している。Trp108は、アミノ末端シグナル配列(配列番号12)を有する全長ストレプトアビジンを含むプレ-ストレプトアビジン中の第132位、そして組換えコアストレプトアビジン(配列番号10)中の第96位に相当する。その変異タンパク質(ミューテイン9および変異体を含む組換えコアストレプトアビジン(配列番号2、4、8および10)は、シグナル配列を欠いており、アミノ末端とカルボキシ末端のところで切断され、公開されているように追加の開始メチオニン残基を随意に担持している(Schmidt&Skerra 1994 J. Chromatogr. A 676:337-345)。本発明において、驚くべきことに、この位置に導入された光応答性要素の配置状態の変化は、そのリガンド(すなわちStrept-tagまたはStrept-tag II)に対するStrep-Tactinの親和性に影響を及ぼすことが見出された。従って、この位置は、本発明の光切替可能ポリペプチド内の光応答性要素のための位置として特に適している。従って、本発明の一態様は、本明細書で提供される光切替可能ポリペプチド、使用、または方法であって、ここで光応答性要素が
(i)配列番号2、4、8、および10のいずれか1つのアミノ酸位置96;
(ii)配列番号6および12のいずれか1つのアミノ酸位置132;
(iii)配列番号2、4、8および10のいずれか1つのアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも96%、更により好ましくは少なくとも97%、更により好ましくは少なくとも98%、または最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2、4、8および10それぞれのアミノ酸位置96に相同であるアミノ酸位置;または
(iv)配列番号6と12のいずれか1つのアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも96%、更により好ましくは少なくとも97%、更により好ましくは少なくとも98%、または最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号6または12のそれぞれのアミノ酸位置132に相同であるアミノ酸位置
のところに存在する、前記ポリペプチド、使用または方法に関する。
本発明において、光応答性要素が配列番号20の位置Phe12に相当する位置のところでプロテインLのドメインB1中に導入されると、そのリガンド(例えば免疫グロブリンまたは抗体)に対する親和性を光の照射により調節することができる。より具体的には、本発明において、プロテインLのドメインB1とアルブミン結合ドメインとを含む融合タンパク質が調製され、そして光応答要素が配列番号61の第13位に相当する位置のところでこの融合タンパク質中に組み込まれた。得られたプロテインLドメインB1融合タンパク質のそのリガンドに対する親和性は、光の照射により調節することができる。従って、本発明の一態様は、本明細書で提供される光切替可能ポリペプチド、使用、または方法であって、光応答性要素が
(i)配列番号20の第12位;
(ii)配列番号61と86のいずれか1つの第13位;
(iii)配列番号20のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも96%、更により好ましくは少なくとも97%、更により好ましくは少なくとも98%、または最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号20のアミノ酸第12位と相同であるアミノ酸位置;または
(iv)配列番号61と86のいずれか1つのアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも96%、更により好ましくは少なくとも97%、更により好ましくは少なくとも98%、または最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号61のアミノ酸第13位に相同であるアミノ酸位置
のところに存在する、前記ポリペプチド、使用または方法に関する。
(i)による光切替可能ポリペプチドは、上記で定義された配列番号20の第36位に突然変異(例えばTyrからAsnへ)および/または配列番号20の第40位に突然変異(例えばLeuからSerへ)を有することができ;好ましくは前記光可能ポリペプチドはその両方の突然変異を有する。(ii)による光切替可能ポリペプチドは、上記で定義された配列番号61の第37位に突然変異(例えばTyrからAsnへ)および/または配列番号61の第41位に突然変異(例えばLeuからSerへ)を有することができ;好ましくは前記光切替可能ポリペプチドはその両方の突然変異を有する。一態様では、(iii)による光切替可能ポリペプチドは、配列番号20の第36位に相同である(すなわち対応する)位置に変異(例えばTyrからAsnへ)および/または配列番号20の第40位に相同である(すなわち対応する)位置に変異(例えばLeuからSerへ)を有し;好ましくは前記光切替可能ポリペプチドはその両方の変異を有する。別の態様では、(iii)による光切替可能ポリペプチドは、配列番号61の第37位に相同である(すなわち対応する)位置に突然変異(例えばTyrからAsnへ)および/または配列番号61の第41位に相同である(すなわち対応する)位置に突然変異(例えばLeuからSerへ)を有し;好ましくは前記光切替可能ポリペプチドはその両方の突然変異を有する。
当業者は、配列番号2, 4, 6, 8, 10, 12, 20または61のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有する、所定の配列の特定のアミノ酸位置が、それぞれ配列番号2, 4, 6, 8, 10, 12, 20または61のアミノ酸配列のアミノ酸位置96、132、12または13に相同である(すなわち相当するまたは等価である)かどうかを容易に評価することができる。例えば、そのような相同位置は、その所定の配列と配列番号2, 4, 6, 8, 10, 12, 20または61のアミノ酸配列との間の配列アラインメント(整列)を実施することにより容易に同定することができる。整列されたアミノ酸配列は典型的にはマトリックス内で列として示される。それらの列の中で、相同アミノ酸(すなわち対応アミノ酸)は互いに真下に位置する。連続した縦列(カラム)において同一または類似の文字(アミノ酸符号)が整列されるように残基の間にギャップが挿入される。多様な計算アルゴリズム(演算法)が存在し、別の配列のアミノ酸位置に相同であるアミノ酸位置を同定するために配列アラインメントを実施するのに利用することができる。例えば、NCBI BLASTアルゴリズム(Altschul他、1997 Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402)またはCLUSTALWソフトウェア(Sievers & Higgins 2014 Methods Mol. Biol. 1079: 105-116)を利用することにより、配列アラインメントを実施することができる。しかしながら、配列は手動で整列することもできる。
本発明の一態様は、第一の立体配置の光応答性要素を含むポリペプチドが、第二の立体配置の該光応答性要素を含むポリペプチドと比較して、リガンドに対する親和性が高い本開示の光切替可能ポリペプチド、使用または方法に関する。好ましくは、第一の立体配置の光応答性要素を含むポリペプチドはリガンドに対して高い親和性を有し、第二の立体配置の光応答性要素を含むポリペプチドは前記リガンドに対して低い親和性を有する。
用語「親和性(アフィニティー)」は当業界で周知であり、1つの分子の別の分子への固有結合強度を指す。また、言い換えれば、親和性は、ある分子が別の分子と会合する性質である。特に、本明細書中では、アフィニティークロマトグラフィーカラムの中でポリペプチドが目的の分子の少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%を保持することができる場合、ポリペプチドがリガンドに対して「高親和性」を有する。リガンドに対して「高親和性」を有するポリペプチドは、アフィニティーカラムを適当なバッファー、例えばリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)またはトリス緩衝生理食塩水(TBS)で洗浄した場合でも、目的の分子の少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%をアフィニティーカラム内に保持することができると想定される。
他方で、ポリペプチドは、適当な溶出バッファー(例えばPBSまたはTBS)を使うことにより、目的の分子の少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%がアフィニティークロマトグラフィーカラムから溶出される場合、そのポリペプチドは「低親和性」を有する。
例えば、本明細書中、「高親和性」は、<10μM、好ましくは≦1μM、より好ましくは≦100 nM、更により好ましくは≦10 nM、最も好ましくは≦1nMの解離定数(Kd)値を有する親和性を含む。他方で、「低親和性」は、>10μM、好ましくは≧100μM、より好ましくは≧1 mM、更により好ましくは≧10 mM、最も好ましくは≧100 mMのKd値を有する親和性を含む。
よって、本発明において、リガンドに対して「低親和性」を有するポリペプチドには、該リガンドに対して「高親和性」を有するポリペプチドのKd値よりも≧10倍、好ましくは≧100倍、より好ましくは≧1000倍、最も好ましくは≧10,000倍大きいKd値の親和性を有するポリペプチドが含まれる。あるいは、言い換えれば、本明細書では、第二の立体配置の光応答性要素を含む光切替可能ポリペプチドは、第一の立体配置の光応答性要素を含む光切替可能ポリペプチドのKd値よりも≧10倍、好ましくは≧100倍、より好ましくは≧1000倍、最も好ましくは≧10,000倍高いKd値の親和性を有する。
ポリペプチドが所定のリガンドに結合するKd値は、限定されないが、蛍光滴定、ELISAまたは競合ELISA、等温滴定熱量測定(ITC)などの熱量測定法、フローサイトメトリー滴定分析(FACS滴定)および表面プラズモン共鳴(BIAcore)をはじめとする公知の方法により決定することができる。好ましくは、ポリペプチドが所定のリガンドに結合するKd値はELISAで決定される。そのような方法は、当技術分野で周知であり、例えば以下に記載されている(De Jong 2005 J. Chromatogr. B 829:1-25; Heinrich 2010 J. Immunol. Methods 352:13-22; Williams&Daviter編 2013 Protein-Ligand Interactions、Methods and Applications, Springer, New York, NY)。
添付の実施例に記載される通り、光異性化可能基を親和性分子(例えばストレプトアビジン、プロテインA、プロテインG、プロテインL、抗myc-tag抗体、またはそれらの変異体、融合タンパク質、変異タンパク質または断片)に組み込むことにより、光切替可能ポリペプチドを得ることができる。例えば、本発明の一態様は、光応答性要素がアゾ基を含む親水性化合物または分子部分を含む本開示の光切替可能ポリペプチド、使用、または方法に関する。従って、本明細書で提供される光切替可能ポリペプチド、使用、または方法の光応答性要素は、アゾ基を含んでもよい。「アゾ基」という用語は、当技術分野で一般的に知られており、N=N基を指す。本発明によれば、光応答性要素はアゾ化合物を含むことができる。アゾ化合物は、ジアゼン(ジイミド)すなわちHN=NHの任意誘導体であり、ここで2つの水素原子の両方がヒドロカルビル基により置換され、例えばPhN=NPhアゾベンゼンまたはジフェニルジアゼンであり、それらは自身が置換基を担持していてもよい。従って、本明細書において、アゾ化合物は、官能基R-N=N-R′を有する任意化合物であり、ここでRとR′はアリールまたはアルキルのいずれであってよい。好ましいのは、親水性または極性置換基、例えば-COOH、-SO3H、-B(OH)2、-CONH2、-CONR″R′″、-NH2、-NR″R′″を有するヒドロカルビル基であり、ここでR″とR′″はアリールまたはアルキルのいずれであってよい。
アゾベンゼンなどの光活性リガンドによるタンパク質の化学修飾は、当技術分野で記載されている(Kramer他、2005 Nat. Chem. Biol. 1:360-365)。アゾベンゼンのフォトクロミック(光発色性)特性は、光源により容易にトリガーされるN=N二重結合の立体化学的シス/トランス異性化のために大きな関心を集めている(Merino&Ribagorda 2012 Beilstein J. Org. Chem. 8: 1071-1090)。基底状態ではエネルギー的に優先されるトランス型アゾベンゼン(trans-アゾベンゼン)は、300~390 nmの波長での照射によりシス(cis)異性体へと異性化する。この光反応は可逆的であり、シス異性体に400~530 nmの光を照射するとまたは熱緩和によってトランス異性体が再生される(Merino&Ribagorda 2012 Beilstein J. Org. Chem. 8: 1071-1090)。
多くのアゾベンゼンでは、両方のタイプの光化学変換(トランスからシスへおよびシスからトランスへ)がピコ秒以内に発生するが、シス異性体からトランス異性体(基底状態)への熱緩和はかなり遅い(周囲温度でミリ秒から数日、加熱するとそれよりも速い)。アゾベンゼンの光誘起異性化は、それらの物理的特性、特に分子構造、双極子モーメントおよび光吸収の変化をもたらす(Henzl他、2006 Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 45:603-606)。アゾベンゼンとその誘導体の異性化プロセスは、アゾ基の両側にある芳香環の2個のパラ位炭素原子間の距離に、トランス型の9.0Åからシス型の5.5Åへの著しい減少を伴う(Koshima他、2009 J. Am. Chem. Soc. 131:6890-6891)。
アゾベンゼン部分をタンパク質に生合成的方法で組み込むために、従来技術ではdubbedAzoPheと呼ばれる非天然アミノ酸が作製され、アンバー抑制技術を用いる組換えタンパク質への遺伝子組み込みが記載されている(Bose他、2006 J. Am. Chem. Soc. 128:388-389)。しかし、この光応答性アミノ酸は、水だけでなく培地への溶解度が非常に低いため、生合成目的での使用に制限される。後に、テトラ-о-フルオロ置換アゾベンゼンに基づいた光切替可能アミノ酸も研究された(John他、2015 Org. Lett. 17:6258-6261)が、トランスからシスへの光切替特性が劣っていた。
アゾベンゼンの他の誘導体は、非天然アミノ酸の4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニン(すなわち4-〔(4-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン)および3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニン(すなわち4-〔(3-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン)である。これらの非天然アミノ酸は、特定の波長の光でシス配置とトランス配置の異性体を切り替えることができる能力をまだ保持している。更に、これらの合成アミノ酸はポリペプチドに組み込むことができ、それにより光切替可能ポリペプチドを生成することができる。驚くべきことに、本発明において、4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンおよび3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンが生理学的pHで水およびLB培地への優れた溶解性を有することが発見され、これは相当な利点となる。更に、これらの化合物は、毒性や免疫原性のリスクを減少させる生理学的構造(フッ素原子の代わりに生化学的カルボキシレート部分)を有するという追加の利点をもつ。従って、本発明の一態様は、本開示の光切替可能ポリペプチド、使用または方法であって、光応答性要素が
(i)3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンもしくはその誘導体;または
(ii)4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンもしくはその誘導体
を含む前記ポリペプチド、使用または方法に関する。
3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンおよび4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンの化学式はそれぞれ図3および図2に示される。
本発明の光切替可能ポリペプチドの光応答性要素が4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニン(略称:Caf)を含むことが最も好ましい。
後続の実施例に示されるように、本発明の光切替可能ポリペプチドの結合特性の光誘起性変化は、例えば、非天然の(特に、非タンパク質原性の)光切替可能アミノ酸の部位特異的組み込みにより達成することができる。この非天然アミノ酸は光切替可能側鎖を有する。または、言い換えれば、非天然アミノ酸の側鎖の立体配置を、1または複数の特定波長の光を照射することにより変化させることができる。この立体配置の変化は、対応するポリペプチド(親和性分子)のコンホメーションおよび/または結合活性の変化を有利にもたらす。従って、本発明によれば、光応答性要素は、光切替可能なアミノ酸側鎖を含むことができる。例えば、光応答性要素は、非天然の(すなわち非タンパク質原性の)アミノ酸を含むかまたはそれから構成されてもよく、その非天然アミノ酸の2つの立体異性体は特定の波長を適用することにより切り替えることができる。
非天然の(すなわち非タンパク質原性の)アミノ酸を含むタンパク質の生合成は数年前から確立されており、生物物理学、構造研究および生化学研究並びに生物工学および生物医薬品用途のための新規な生体分子試薬への道を開いた(Wals&Ovaa 2014 Front. Chem. 2:15)。非天然(すなわち非タンパク質原性)アミノ酸の部位特異的組み込みのための多目的方法は、宿主細胞の遺伝暗号により頻繁に使用されていない核酸コドンを利用する。従って、天然のナンセンス抑制メカニズムにも課せられるアンバー終止コドン(UAG)は、組換えタンパク質の新規側鎖化学を提供するために、新規アミノ酸のための追加のトリプレット暗号として採用されている。合成アミノアシル-tRNAを使用したin vitro翻訳システム用に最初に開発されたこの一般的なアプローチは、所望のアミノ酸基質特異性を有する人工アミノアシル-tRNAシンテターゼ(aaRS)を用いることにより、生存細胞中での異種タンパク質過剰発現に応用されている(Young & Schultz 2010 J. Biol. Chem. 285:11039-11044)。重要なのは、そのようなaaRSはどの内因性細胞tRNAもアミノアシル化しないのに対し、in vivoで同時過剰発現される同族のサプレッサーtRNAは内因性アミノアシルtRNAシンテターゼにより天然アミノ酸でアミノアシル化されてはならない。言い換えれば、サプレッサーtRNAと外来のまたは改変されたaaRSは、選択した宿主細胞に内在するそれらの相当物と直交していなければならない。
大腸菌でのin vivo翻訳に適したtRNAとaaRSの最初の効率的直交ペアは、古細菌Methanococcus jannaschii(Mj)由来のチロシル-tRNAシンテターゼ(TyrRS)およびアンバー終止コドンを特異的に認識し抑制するように突然変異させたその同族のtRNATyrにおいて見出された(Wang&Schultz 2001 Chem. Biol. 8:883-890)。その後、非天然アミノ酸の組み込みのためのツールボックスが、22番目のタンパク質原性アミノ酸であるL-ピロリジン(Pyl)に基づいたシステムにより拡張された。これは、ピロリジル-tRNAシンテターゼ(PylRS)とその同族の天然サプレッサーtRNAPylの作用によりアンバー終止コドンに反応して翻訳される(Fekner&Chan 2011 Curr. Opin. Chem. Biol. 15:387-391)。このシステムは、メタン生成古細菌Methanosarcina barkeri(Mb)およびMethanosarcina mazei(James他、2001 J. Biol. Chem. 276:34252-34258)において初めに発見され、現在、遺伝暗号拡張ツールとして利用されている(Wan他、2014 Biochem. Biophys. Acta 1844:1059-1070)。天然基質Pylに対する選択性がかなり低いため、PylRS(部分的にタンパク質改変後)の中に100を超える非天然アミノ酸の遺伝子組み込みが可能になった(Wan他、2014 Biochem. Biophys. Acta 1844:1059-1070)。
このように、非タンパク質原性アミノ酸によるタンパク質の生合成を実現するためのいくつかの確立されたシステムが存在する。後述の実施例に記載されているように、これらの方法により、本明細書で提供される光切替可能ポリペプチドの生産が明らかに可能になる。より具体的には、本発明の光切替可能ポリペプチドは、光異性化可能なアミノ酸をタンパク質(例えばストレプトアビジン、プロテインA、プロテインG、プロテインL、抗myc-tag抗体、またはそれの変異体、融合タンパク質、変異タンパク質もしくは断片)中に組み込むことにより調製され、それは次いでアフィニティークロマトグラフィーにおいて親和性分子として使用される。
新たに設計されたポリペプチドがリガンドに対する親和性の光誘起変化を示すかどうかを調べるため(すなわち、それが本発明にかかる光切替可能ポリペプチドであるかどうかを試験するため)、酵素免疫吸着測定法(ELISA)を実施することができる。これに関して使用できるELISAが図7(A)に例示される。より具体的には、図7(A)は、リガンド(例えば、適切な親和性タグを含む目的のタンパク質)と所定のポリペプチド(親和性分子)の間の相互作用の検出に使用できるELISAの概略を示す。そのようなELISA構成は、原則として、アフィニティークロマトグラフィー手順の簡易版に相当する。これに関して好ましく使用できる別のELISAは、図11に例示される。
特に、そのようなELISAは以下のように実行できる。プレート(例えばマイクロタイタープレート)を候補の光切替可能ポリペプチドでコーティングする。続いて、候補の光切替可能ポリペプチドのペプチドリガンド(例えば、Strep-tagまたはStrep-tag IIのような親和性タグ)と融合されたレポーター酵素(例えばアルカリホスファターゼ)を添加する。次いで、1または複数の特定波長を有する光(例えば300~390 nmの波長を有するUV光)への曝露の有無の下で洗浄工程を実施することができる。その後、残存している結合した酵素を、発色性基質(例えばp-ニトロフェニルリン酸)の生体触媒変換を介して検出し、そして例えば光度計で吸光度として定量することができる。
このELISAでは、候補の光切替可能ポリペプチドは、次の場合に本発明による光切替可能ポリペプチドであると見なすことができる:
(1) 候補の光切替可能ポリペプチドを1または複数の特定波長の光(例えば300~390 nmの波長のUV光)に曝露した時に残存酵素活性の減少が検出される場合;
(2) 候補の光切替可能ポリペプチドを1または複数の別の特定波長の光(例えば約400~530 nmの波長、例えば400~500 nmの波長を有する可視光)に暴露した時または遮光下に維持した時に残存酵素活性の低下が全く(またはほとんど)検出されない場合。
上述のように、本発明は、光応答性要素(例えば、3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニン)を含むポリペプチドであって、光応答性要素の立体配置の切り替えがリガンドへの該ポリペプチドの結合活性を変化させる前記ポリペプチドに関する。当該技術分野で一般的に知られているように、「異性体」は、同じ分子式または組成を有するが構造が異なる化合物である。「立体異性体」は、その構成原子の空間的配向のみが異なる。従って、立体異性体では、空間的な方向を示すために、IUPAC名に追加の命名法接頭辞を付記する必要がある。立体異性体を区別するために使用される一般的に使用される接頭辞は、シス(ラテン語で「手前側に」を意味する)とトランス(ラテン語で「向こう側に」を意味する)である。より具体的には、有機化学において「シス(cis)」は、置換基が一対の原子(しばしば炭素だけでなく窒素も;例えば回転できない結合によって連結されているアゾ化合物の場合のように)が同じ側に位置することを意味する。一方、「トランス(trans)」は、置換基(例えば官能基)が前記一対の原子の反対側にあることを意味する。そのような異性体状態は、一般に立体配置または配置異性体または配置状態と呼ばれる。
一部の化合物については、どの異性体をシスと呼び、どの異性体をトランスと呼ぶかが明確でない。従って、そのような立体異性体を定義するための明確な規則体系が、国際純正および応用化学連合(IUPAC)によって提案されている。この体系は、Z(ドイツ語で「一緒に」の意味の「zusammen」)またはE(ドイツ語で「反対の」の意味の「entgegen」)を割り当てる、置換基に関する一連の基の優先順位則(カーン・インゴルド・プレローグ(Cahn-Ingold-Prelog)またはCIP順位則として知られる)に基づいている。しばしば、シス-トランス表記が適切である異性体については、Zはシスと同等であり、Eはトランスと同等である。
本発明によれば、光応答性要素の異性体は、トランス異性体とシス異性体であり得る。それに加えて、またはその代わりに、光応答性要素の異性体は、E異性体とZ異性体であってもよい。従って、本明細書では、光応答性要素の立体配置の切り替えは、光応答性要素のトランス(またはE)異性体から対応するシス(またはZ)異性体への変換、またはその逆であってよい。3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンおよび4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンのシス異性体とトランス異性体は、それぞれ図3および図2に示される。
本発明の一態様は、3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンのトランス異性体を含むポリペプチドが、それぞれ3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンのシス異性体を含むポリペプチドに比較して、リガンドに対する親和性が増加している、本開示の光切替可能ポリペプチド、使用または方法に関する。例えば、3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンのトランス異性体を含むポリペプチドは、リガンドに対して「高親和性」を有し;そして3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンのシス異性体を含むポリペプチドは、同じリガンドに対して「低親和性」を有し得る。用語「高親和性」と「低親和性」は、上記において定義されている。
しかしながら、本発明の光切替可能ポリペプチドは、そのシス異性体がトランス異性体と比較してリガンドに対するより高い親和性を有するように構築することもできる。従って、本発明の一実施形態では、3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンのシス異性体を含むポリペプチドが、それぞれ3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンのトランス異性体を含むポリペプチドと比較して、リガンドに対する親和性が増加している、本開示の光切替可能ポリペプチド、使用または方法に関する。この実施形態では、3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンのシス異性体を含むポリペプチドは、リガンドに対して「高親和性」を有し;そして3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンのトランス異性体を含むポリペプチドは、同じリガンドに対して「低親和性」を有し得る。上述の通り、「高親和性」と「低親和性」という用語の明確な定義は、上記に与えられている。
有力候補の光切替可能可能ポリペプチド一例として、光切替可能ストレプトアビジン変異体が調製され後続の実施例において特徴付けられる。波長が400~530 nm付近の可視光では、この光切替可能ストレプトアビジン変異体の80~90%が、光応答性要素のトランス異性体(例えば3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンのトランス異性体)を含む。波長が約300~390 nm付近のUV光では、例示的な光切替可能ストレプトアビジン変異体の80~90%が、光応答性要素のシス異性体(すなわち3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンのシス異性体)を含む。
通常、可視光は400~780 nmの波長に及ぶ。この光は一般に日光とも称される。
添付の実施例は、本発明の光切替可能ポリペプチドがアフィニティークロマトグラフィー手順に適用される場合、目的の分子の最高度の結合と最高度の溶出がそれぞれ約430 nm付近と330 nm付近で起こる。従って、430 nm付近(可視光)と330 nm付近(UV光)の波長を有する光を本発明では適用することができる。しかしながら、従来の光源は通常、530 nm付近(可視光)と365 nm付近(UV光)の波長を持つ光を発生する。従って、これらの波長(すなわち530 nm付近および/または365 nm付近)を提供する光も、本発明に従って使用することができる。
従って、本発明の一態様は、約400~530 nm、例えば400~500 nm、好ましくは405~470nm、より好ましくは410~450 nm、最も好ましくは約430 nmを有する可視光で、本開示の光切替可能ポリペプチドの少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、更により好ましくは少なくとも80%、更により好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%がトランス異性体の光応答性要素を含む、本開示の光切替可能ポリペプチド、使用、または方法に関する。
本発明の別の態様は、300~390 nm、好ましくは310~370 nm、更により好ましくは320~350 nm、最も好ましくは約330 nmを有するUV光で、光切替可能ポリペプチドの少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、更により好ましくは少なくとも80%、更により好ましくは少なくとも85%、更により好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%がシス異性体の光応答性要素を含む、本開示の光切替可能ポリペプチド、使用、または方法に関する。上述した通り、常用の光源は通常、365 nm付近の波長を持つUV光を提供する。従って、本発明の代替の態様は、約365 nmのUV光で、光切替可能ポリペプチドの少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、更により好ましくは少なくとも80%、更により好ましくは少なくとも85%、更により好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%がシス異性体の光応答性要素を含む、本開示の光切替可能ポリペプチド、使用、または方法に関する。
当業者は、光応答性要素の異性化または立体配置の切替えの程度(例えば比率、割合または収率)が照射に使用される光の波長だけでなく強度にも依存することを知っている。本発明にかかる有用な光強度は、少なくとも0.1 mW、好ましくは少なくとも1 mW、より好ましくは少なくとも10 mW、より好ましくは少なくとも100 mW、最も好ましくは少なくとも1000 mWの複合電力を有する1または複数のLEDなどの常用の光源が、光切替可能ポリペプチド(親和性分子)を担持している1 mL(湿潤)容積のアフィニティーマトリックスまたはクロマトグラフィーマトリックスに照射するために適用され、そして前記マトリックスに対して1 m未満、好ましくは10 cm未満、より好ましくは2 cm未満、最も好ましくは1 cm未満の距離に置かれる。より大容量のアフィニティーマトリックスまたはクロマトグラフィーマトリックスには、それに比例してより大きな電力が適用される。あるいは、前記LEDと同じような光強度と波長を提供する別の光源、例えば1または複数の管状蛍光ランプを使用してもよい。大容量のアフィニティーマトリックスの場合、光源を、クロマトグラフィーカラムベッドの中に、例えば光ファイバーを使用して配置してもよい。
本発明によるUV光は、一般に近紫外(UV)光と呼ばれる電磁放射線のスペクトルの領域に入る。本発明によるUV光の波長は、タンパク質、核酸および炭水化物をはじめとする目的の多くの生体分子により本質的に吸収されない。従って、例えば、より短い波長と高いエネルギーを有する遠紫外線の使用と比較すると、放射線損傷のリスクが低いため、前記紫外線は穏和であると考えることができる。
上述したように、本発明の光切替可能ポリペプチドは、例えばアフィニティークロマトグラフィー手順の間に、目的の分子を分離および/または精製するために使用することができる。従って、光切替可能ポリペプチドは、好ましくは固相中に含められる(固体担体、または固体表面もしくは膨潤したポリマーゲルに吸着される)。
前記固相は好ましくは親水性である。 「固相」および「液相」という用語は、当技術分野で一般的に知られており、それぞれ固体材料および液体材料を指す。液相は、任意の溶液、溶液の混合物または懸濁液であり得る。例えば、液相は、場合により緩衝液と混合された細胞抽出物または培養上清を含むことができる。本発明によれば、固相は任意の適切な担体であることができる。例えば、固相は、マトリックス(例えば、潜在的に架橋を含む有機または生体分子材料のポリマー)、ヒドロゲル(通常、水性微小環境内の親水性ポリマー鎖の架橋により形成される)、ビーズ、磁気ビーズ、チップ、ガラス表面、プラスチック表面、金表面、銀表面またはプレートであることができる。マトリックス、ヒドロゲル、ビーズ、チップ、ガラス表面、プラスチック表面、またはプレートは、好ましくは光透過性である。マトリックス、ヒドロゲルまたはビーズは、アフィニティークロマトグラフィーカラムの固相であってもよい。マトリックスは、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)で活性化されたCH-セファロースであってもよい。プレートは、マイクロタイターウェルプレートであってよい。本発明の光切替可能ポリペプチドのカップリングに適した幾つかの活性化済クロマトグラフィー材料の概要を下表2に示す。
本発明によれば、光切替可能ポリペプチドは、固相に共有結合または非共有結合することができる。光切替可能ポリペプチドが固相に共有結合していることが最も好ましい。これは、光切替可能ポリペプチドが固相上に固定されているため、それが目的の分子と一緒に溶出しないという利点がある。従って、固相(例えばアフィニティークロマトグラフィーマトリックス)に光切替可能ポリペプチドを共有結合により取り付けることにより、溶出される目的の分子の汚染が回避される。
しかしながら、本発明は、固相への光切替可能ポリペプチドの非共有結合も含む。例えば、光切替可能ポリペプチドは融合タンパク質の一部であることができる。融合タンパク質の他の部分は、共有結合的または非共有結合的に、固相(例えば、アフィニティークロマトグラフィーカラムのマトリックス)に結合させることができる。
本発明の一実施形態では、担体に、ビオチン、ビオチン化タンパク質または分子、および/または光切替可能ポリペプチドのペプチドリガンド(例えばStrep-tag)が共有結合または非共有結合される。この実施形態では、光切替可能ポリペプチドは、ビオチン、ビオチン化タンパク質または分子および/またはポリペプチドのペプチドリガンドへの非共有結合を介して担体に付着し得る。本発明の別の実施形態では、担体に、アルブミン、例えばヒト血清アルブミン(HSA)が共有結合または非共有結合される。この実施形態では、光切替可能ポリペプチドは、ABDとの融合タンパク質の一部として、HSAへの非共有結合を介して担体に結合することができる。例えば、添付の実施例に示されるように、光応答性要素を担持しているプロテインLの光切替可能ドメインB1は、ABDとの融合タンパク質として好都合に産生させることができ、ELISAにおいて免疫グロブリンに対する光制御可能な親和性について試験することができる。しかし、本明細書で定義される光切替可能ポリペプチドを含む親和性支持体での適用のために、光応答性要素を担持するタンパク質Lの光切替可能ドメインB1は、特にアルブミンの同時精製が起こる場合にはABD融合相手を伴わずに、例えば細胞培養液から精製する場合には、ABD融合相手を避けるべきである。
本明細書で提供される光切替可能ポリペプチドは、光切替可能ポリペプチドに1または複数の特定波長の光を照射することにより簡単にその結合活性を制御できるという利点を有する。従って、本発明において、使用される固相(例えば担体)は耐光性であることが望ましい。好ましくは、担体は少なくとも300 nm~500 nm、好ましくは330 nm~450 nmの波長範囲内で耐光性である。
光応答性要素の立体配置の切り替えは、光切替可能ポリペプチドのリガンドへの結合活性を変化させる。ここで、「リガンド」は、その配置状態の1つ(例えば、基底状態)で本開示の光切替可能ポリペプチドに対して親和性を有する任意の分子であることができる。目的の分子がそれ自体光切替可能ポリペプチドに対して親和性を有する場合、リガンドは目的の分子自体であることができ、すなわちそれ以上の修飾を伴わなくてよい。例えば、光切替可能ポリペプチドが光切替可能プロテインA、プロテインGまたはプロテインL(または光切替可能変異体、変異タンパク質、融合タンパク質またはその断片)である場合、免疫グロブリン、抗体または抗体断片が、リガンドでかつ目的の分子であり得る。しかし、目的の分子がそれ自体光切替可能ポリペプチドに対して親和性を持たない場合、リガンドは好ましくは目的の分子と親和性タグとを含む融合分子である。例えば、光切替可能ポリペプチドが光切替可能ストレプトアビジンまたは抗myc-tag抗体(または光切替可能変異体、変異タンパク質、融合タンパク質またはその断片)である場合、リガンドは好ましくはそれぞれStrep-tag/Strep-tag IIまたはmyc-tagと融合されている目的の分子である。
好ましくは、リガンドは、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体もしくはその断片、免疫グロブリンもしくはその断片、酵素、ホルモン、サイトカイン、複合体、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸、炭水化物、リポソーム、ナノ粒子、細胞、生体高分子、生体分子、および小分子から成る群より選択された分子を含む生体分子リガンドである。例えば、リガンドは、ポリペプチド、複合体、ポリヌクレオチド、核酸、炭水化物、リポソーム、ナノ粒子、細胞または小分子であることができる。上記のように、リガンドは、上記の分子のいずれか1つ(目的の分子)と親和性タグ(Strep-tag、Strep-tag II、またはmyc-tagなど)を含む融合分子であってもよい。リガンドがタンパク質またはペプチドであることが最も好ましい。光切替可能ポリペプチドが光応答性要素を含むストレプトアビジン(またはStrep-Tactin(登録商標)のようなそれの変異タンパク質または変異体)である場合、リガンドはStrep-tag(すなわちStrep-tagまたはStrep-tag II)またはビオチン、好ましくはStrep-tagであることができる。従って、本発明の一態様は、ペプチドリガンドが以下を含むまたはから成る、本開示の光切替可能ポリペプチド、使用、または方法に関する:
(i)配列番号13のアミノ酸配列[Strep-tag];
(ii)配列番号14のアミノ酸配列[Strep-tag II];または
(iii)配列番号13または14に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも96%、更により好ましくは少なくとも97%、更により好ましくは98%、または最も好ましくは少なくとも99%同一性であり、かつストレプトアビジンまたはその突然変異体もしくは変異体(バリアント)に対して親和性を有するアミノ酸配列。上記のように、研究および産業で広範に使用されているストレプトアビジンの既知変異体は、Strep-Tactinである。従って、本発明において、ストレプトアビジン変異体は、配列番号8のアミノ酸配列を有するタンパク質の四量体であることができる。
光切替可能ポリペプチドが光応答性要素を含む抗myc-tag抗体(例えばクローン9E10)またはそれの断片、変異タンパク質もしくは変異体(例えばFab 9E10)である場合、リガンドはmyc-tagであってよい。myc-tagのアミノ酸配列は、本明細書中に配列番号15として示される。
上述のように、プロテインAおよびプロテインGは、抗体のFc領域、特にヒトおよびマウスIgG並びに他の種からのIgのFc領域に結合する。プロテインLも同様に、Igまたは抗体に結合し、例えばκ軽鎖を含む抗体またはその断片に結合する。従って、光切替可能ポリペプチドが光応答性要素を含むプロテインA、または光応答性要素を含むプロテインGである場合、リガンドは好ましくは抗体またはその断片、好ましくはIgGまたはそれの変異体、変異タンパク質もしくは断片であり、ここで前記変異体、変異タンパク質または断片はIgG抗体のFc領域および/またはIgG抗体のFab領域を含む。光切替可能ポリペプチドが光応答性要素を含むプロテインLである場合、リガンドは好ましくは、κ軽鎖、例えばヒトVκI、VκIIIおよび/またはVκIV軽鎖;および/またはマウスVκI軽鎖を含む抗体(またはそれの断片、例えばFab断片、Fv断片、scFv断片または単一ドメイン断片)である。従って、本発明に従って光切替可能プロテインA、プロテインGまたはプロテインLを使うことによって様々な抗体を精製することができる。例えば、他のものの中でも、Reichert 2017 mAbs 9:167-181に記載されている治療用抗体を、本明細書に記載の手段および方法を適用することにより単離または精製することができる。
本発明によれば、「%配列同一性」または「%同一性」という用語は、全長アミノ酸配列(または比較に用いられるその全部分)を構成しているアミノ酸残基の数に比較した、2以上の整列したアミノ酸配列の同一アミノ酸の一致(「ヒット」)数を意味する。同一性の割合は、同一残基の数を、比較に用いた最長配列の残基の総数により割り算し、その結果に100を乗じることにより決定される。換言すると、アライメントを使用して、同一アミノ酸残基の割合(例えば80%同一性)は、当業界で既知のような配列比較アルゴリズムを使って測定されるように、または手動でアラインしそして目視検査した時に、2以上の配列または部分配列が、比較に使用される配列ウィンドウ全体に渡りまたは指定の領域に渡り、最大の一致となるよう比較・整列された時に、それらの(部分)配列について決定される。
当業者は、例えば、NCBI BLASTアルゴリズム(Altschul 1997 Nucleic Acids Res. 25:3389-3402)、CLUSTALWコンピュータープログラム(Tompson 1994 Nucleic Acids Res. 22: 4673-4680)またはFASTA(Pearson 1988 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85: 2444-2448)に基づいたもの等のアルゴリズムを使用して、配列同士/配列間の配列同一性%を決定する方法を知っている。好ましくはNCBI BLASTアルゴリズムが本発明に従って使用される。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムはデフォルトとして3の語長(W)と10の期待値(E)を使用する。従って、NCBI BLASTまたはBLASTPプログラムを使って決定した時に少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも96%、更により好ましくは少なくとも97%、更により好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を持つ全ての(ポリ)ペプチドが本発明の範囲に含まれる。
上記のように、本発明の一実施形態は、本明細書で提供される光切替可能ポリペプチドを使用することにより、目的の分子を単離および/または精製する方法に関する。この方法の工程(i)で、目的の分子が本発明の光切替可能ポリペプチドに結合する。従って、この工程中に、光応答性要素(例えば3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンなど)は、目的の分子に対して高結合親和性を有するポリペプチドをもたらす配置状態になる。これは、光切替可能ポリペプチドに1または複数の特定波長の光を照射することにより達成できる。例えば、本明細書に提供される方法では、工程(i)の前および/または最中に、光切替可能なポリペプチドに、約400~530 nm、例えば400~500 nm、好ましくは405~470 nm、より好ましくは410~450 nm、最も好ましくは約430 nmの波長を有する可視光が照射される。
目的の分子を光切替可能ポリペプチドに結合させた後、カラムから未結合物質を除去するために、固相(例えばアフィニティークロマトグラフィーマトリックス)を洗浄することができる。従って、本発明の一態様では、本開示の方法は、
(i′) 適切なバッファーで固相を洗浄する工程
を更に含む。
目的の分子はこの洗浄工程の間にカラム内に留まるかまたは固相に結合した状態に留まると想定される。従って、この洗浄工程中、本開示の光切替可能ポリペプチドの光応答性要素は、好ましくは、目的の分子に対する光切替可能ポリペプチドの結合活性をもたらす配置状態にある。本明細書に提供される方法の工程(i′)中(すなわち洗浄工程中)、光切替可能ポリペプチドに、約400~530 nm、例えば400~500 nm、好ましくは405 nm~470 nm、より好ましくは410 nm~450 nm、最も好ましくは約430 nmを有する可視光を照射してもよい。
後述の実施例で作製されている例示的な光切替可能Strep-Tactinは、光応答性要素のトランス配置、すなわちtrans-3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたはtrans-4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンでそれのリガンドに対する結合活性を有する。この光応答性要素の場合、トランス配置が最も有利な(すなわち最低の)エネルギーを持つ状態である。従ってこの例示的光切替可能Strep-Tactinは遮光下でまたは500 nmより長い波長での照射下でもそのリガンドに結合する。従って、本開示の光切替可能ポリペプチドが最低エネルギーを有するコンホメーションまたは立体配置でリガンドに結合するならば、工程(i)(例えばカラムへのロード(loading))および工程(i′)(例えばカラムの洗浄)は遮光下でまたは500 nmより長い波長での照射下で実施することも可能である。
目的の分子を溶出するために、光切替可能ポリペプチドを、目的の分子への結合活性が低いコンフォメーションに変換させなければならない。本明細書中で例示的に設計された光切替可能Strep-Tactinは、それの光応答性要素(すなわち3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたは4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニン)がシス配置にある場合に低結合活性を有する。この光応答性要素のシス配置(すなわちcis-3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたはcis-4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニン)は、UV光の照射により得ることができる。よって、本発明の一態様は、工程(ii)(すなわち溶出工程)中に、光切替可能ポリペプチドに300~390 nm、好ましくは310~370 nm、より好ましくは320~350 nm、最も好ましくは軛330 nmのUV光が照射される、本開示の方法に関する。あるいは、この工程中に、光切替可能ポリペプチドに約365 nmのUV光を照射してもよい。
ただし、必要であれば、光応答性要素のトランス配置(例えばtrans-3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンまたはtrans-4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニン)をシス配置に変換するために、近紫外光よりも短い波長を有する光も使用することができる。よって、本明細書に提供される方法の工程(ii)(すなわち溶出工程)中に、光切替可能ポリペプチドに、300 nmよりも短い波長を有する光、例えば、300 nmと200 nmの間の1または複数の波長を持つ光を照射してもよい。しかしながら、上述のように、本発明の状況では、300~390 nmの波長を有する穏やかなUV光を使用することが好ましい。
溶出後、光切替可能ポリペプチドは通常、リガンドへの結合活性を有するコンホメーションに戻される。従って、本発明の一態様は、以下:
(iii)光切替可能ポリペプチドを、目的の分子に対し親和性を有する第一のコンホメーションに再生する工程
を更に含む。
この工程(iii)の間、光応答性要素は、約400~530 nm、例えば400~500 nm、好ましくは405~470 nm、より好ましくは410~450 nm、最も好ましくは約430 nmを有する可視光で光切替可能ポリペプチドを照射することにより再生することができる。また、工程(iii)の間に、固相を適切な緩衝液、例えばPBSまたはTBSで洗浄してもよい。
本開示の方法において、目的の分子を含む液相は、細胞抽出物または培養上清であってよい。例えば、細胞抽出物は、ペリプラズムの抽出物または全細胞抽出物であり得る。目的の分子を含む液相を光切替可能ポリペプチドと接触させる前に、液相を透析するかまたは緩衝液で希釈してもよい。
本発明によれば、本開示の光切替可能ポリペプチドを使用することにより、目的の任意の分子を単離(および/または分離または精製)することができる。好ましくは、目的の分子は、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体またはその断片、免疫グロブリンまたはその断片、酵素、ホルモン、サイトカイン、複合体、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸、炭水化物、リポソーム、ナノ粒子、細胞、生体高分子、生体分子および小分子から成る群より選択された分子である。例えば、目的の分子は、ポリペプチド、複合体、ポリヌクレオチド、炭水化物、リポソーム、ナノ粒子、細胞、または小分子であることができる。目的の分子は、天然(すなわち生来/内因性)タンパク質または組換え生産されたタンパク質であることが好ましい。例えば、目的の分子は治療用タンパク質であり得る。
特に好ましい目的の分子は抗体または抗体断片であり;例えば本発明の光切替可能ポリペプチドがプロテインA、プロテインGまたはプロテインLの光切替可能型である場合そうである。抗体はモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。抗体断片は、例えば、ナノボディ、Fab断片、Fab'断片、Fab'-SH断片、F(ab')2断片、Fd断片、Fv断片、scFv断片、単一ドメイン抗体または単離された相補性決定領域(CDR)であることができる。好ましくは、抗体断片はFab断片、F(ab')2断片、Fd断片、Fv断片、scFv断片、または単一ドメイン抗体である。抗体または抗体断片は、ヒト、またはマウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ヤギ、モルモット、フェレット、ネコ、イヌ、ニワトリ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ラクダ、ラマ、サルなどの他の種に由来することができる。抗体または抗体断片はヒト化されているか、完全にヒトであることが優先される。抗体はキメラおよび/または二重特異性抗体であってもよい。抗体は例えば、トラスツズマブであることができる。
本明細書において、用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」および「タンパク質」は互換的に使用され、少なくとも1本のアミノ酸鎖を包含する分子に関し、ここでアミノ酸残基はペプチド(アミド)結合により連結されている。本明細書において、用語「ペプチド」、「オリゴペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」には、リン酸化、ユビキチン化、SUMO化、アミド化、アセチル化、アシル化、脂肪酸(例えばC6-C18)の共有結合、アルブミンなどのタンパク質の付着、グリコシル化、ビオチン化、PEG化、アセトミドメチル(Acm)基の付加、ADP-リボシル化、アルキル化、カルバモイル化、カルボキシエチル化、エステル化、フラビンの共有結合、ヘム成分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、薬物または毒素の共有結合、マーカー(例えば、蛍光または放射性マーカー)の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、脱メチル化、共有結合架橋の形成、シスチンの形成、ジスルフィド結合の形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、γ-カルボキシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解プロセシング、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、または硫酸化が含まれる。
本明細書において、用語「ペプチド」、「オリゴペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、「ペプチド類似体」(「ペプチド模倣薬」または「ペプチド模倣体」とも呼ばれる)も含む。 ペプチド類似体/ペプチド模倣体は、生物学的に活性なペプチドの骨格構造と物理化学的特性を複製する。一般的に、ペプチド類似体は、構造的に鋳型ペプチド、すなわち生物学的または薬理学的活性を有しかつ天然アミノ酸を含むペプチドに構造的に類似しているが、-CH2NH-、-CH2S-、-CH2-CH2-、-CH=CH-(シスおよびトランス)、-CH2SO-、-CH(OH)CH2-、-COCH2-等の結合により任意に置換される1つ以上のペプチド結合を有するペプチドである。このようなペプチド類似体は、当技術分野で周知の方法により調製することができる。
本明細書で使用される「アミノ酸」または「残基」という用語は、核酸配列並びに他のアミノ酸(例えば非天然アミノ酸、核酸配列によりコードされないアミノ酸、合成アミノ酸、非タンパク質原性アミノ酸など)によりコードされる天然アミノ酸のL-異性体とD-異性体の両方を包含する。天然アミノ酸の例は、アラニン(Ala;A)、アルギニン(Arg;R)、アスパラギン(Asn;N)、アスパラギン酸(Asp;D)、システイン(Cys;C)、グルタミン(Gln;Q)、グルタミン酸(Glu;E)、グリシン(Gly;G)、ヒスチジン(His;H)、イソロイシン(Ile;I)、ロイシン(Leu;L)、リジン(Lys;K)、メチオニン(Met;M)、フェニルアラニン(Phe;F)、プロリン(Pro;P)、セリン(Ser;S)、スレオニン(Thr;T)、トリプトファン(Trp;W)、チロシン(Tyr;Y)およびバリン(Val;V)である。遺伝的にコードされない天然アミノ酸および合成アミノ酸としては、例えば、セレノシステイン、3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニン、4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニン、β-アラニン、3-アミノプロピオン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、α-アミノイソ酪酸(Aib)、4-アミノ酪酸、N-メチルグリシン(サルコシン)、ヒドロキシプロリン、オルニチン、シトルリン、t-ブチルアラニン、t-ブチルグリシン、N-メチルイソロイシン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、ノルロイシン(Nle)、ノルバリン、2-ナフチルアラニン、ピリジルアラニン、3-ベンゾチエニルアラニン、4-クロロフェニルアラニン、2-フルオロフェニルアラニン、3-フルオロフェニルアラニン、4-フルオロフェニルアラニン、ペニシラミン、1,2,3,4-テトラヒドロ-イソキノリン-3-カルボン酸、β-2-チエニルアラニン、メチオニンスルホキシド、L-ホモアルギニン(Harg)、N-アセチルリジン、2-アミノ酪酸、2-アミノ酪酸、2,4-ジアミノ酪酸、p-アミノフェニルアラニン、p-アセチルフェニルアラニン、N-メチルバリン、ホモシステイン、ホモセリン、システイン酸、ε-アミノヘキサン酸、δ-アミノ吉草酸、2,3-ジアミノ酪酸などが挙げられる。更に非天然アミノ酸は、β-アミノ酸(β3とβ2)、ホモアミノ酸、3β-置換アラニン誘導体、環置換フェニルアラニンおよびチロシン誘導体、直鎖コアアミノ酸、並びにN-メチルアミノ酸が含まれる。
本発明によれば、用語「核酸分子」、「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」は互換的に使用され、DNA、例えばcDNA、ゲノムDNA、プラスミドDNA、ウイルスDNA、制限消化により調製されたDNAの断片、例えば自動DNA合成によりまたはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅により調製された合成DNA、並びにRNAが含まれる。本明細書で使用される用語「RNA」は、mRNA、rRNA、tRNA、siRNA、muRNA、ウイルスRNA、合成RNAなどを含むあらゆる形態のRNAを含むことが理解される。一本鎖と二本鎖の両方の核酸分子が、用語「核酸分子」、「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」に含まれる。更にDNAまたはRNAの合成または半合成誘導体および混合ポリマーなどの当技術分野で知られている核酸模倣分子も含まれる。本発明にかかるそのような核酸模倣分子または核酸誘導体としては、ホスホロチオエート核酸、ホスホルアミデート核酸、2′-О-メトキシエチルリボ核酸、モルホリノ核酸、ヘキシトール核酸(HNA)、ペプチド核酸(PNA)およびロックド核酸(LNA)が挙げられる。
本明細書において、用語「小分子」は、2000ダルトン以下、好ましくは900ダルトン以下、より好ましくは500ダルトン以下の分子量を有する任意分子に関する。ここで小分子は有機または無機、好ましくは有機分子であってよい。小分子が細胞膜を貫通して拡散し、細胞内の作用部位に到達できることが更に好ましい。更に、本明細書で定義される小分子は、経口バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)を有することができる。
「複合体」という用語は、生化学の分野で一般的に知られており、その構成成分がそれらの化学的同一性の大部分を維持している分子で構成される存在物に関する。例えば、典型的な複合体は、抗体/抗原複合体、受容体/ホルモン複合体、受容体/サイトカイン複合体、酵素/基質複合体、金属/キレート複合体ス、トレプトアビジン/ビオチン複合体またはStrep-Tactin/Strep-tag複合体である。
本発明によれば、目的の分子が免疫グロブリン(すなわち抗体)またはその断片である場合、プロテインA、プロテインGまたはプロテインLの光切替可能形を使用することによって簡単に単離および/または精製することができる。しかしながら、目的の分子の光切替可能ポリペプチドへの結合は、目的の分子を親和性タグと融合せしめることによって達成することもできる。例えば、目的の分子は、Strep-tag、Strep-tag II、および/またはmyc-tagと融合させることができる。
本発明の更なる態様は、本明細書中に定義されるような光切替可能ポリペプチドを含むアフィニティーマトリックスに関する。例えば、本発明のアフィニティークロマトグラフィーマトリックスは、本開示の光切替可能ポリペプチドを従来のアフィニティークロマトグラフィーマトリックス(例えば、NHS活性化セファロース4B)に結合することにより調製することができる。例えば、膨潤ゲル1 mL当たり0.1~50 mg、好ましくは0.5~40 mg、より好ましくは1~25 mg、更により好ましくは2.5~10 mg、最も好ましくは約5 mgまたは約10 mgの光切替可能ポリペプチドが適用されうる。従来のアフィニティークロマトグラフィーマトリックスの調製は、当該技術分野で一般的に知られており、例えば、Schmidt&Skerra 1994 J. Chromatogr. A 676:337-345中に記載されている。
本発明の別の態様は、本発明のアフィニティーマトリックスを含むアフィニティークロマトグラフィーカラムに関する。このアフィニティークロマトグラフィーカラムでは、マトリックスを光透過性チューブもしくは容器中におよび/または少なくとも1つの光ファイバーを含むチューブもしくは容器中に充填することができる。従って、光は、光透過性チューブもしくは容器の壁を通過することにより、または少なくとも1つの光ファイバーを介することによりマトリックスに到達する。光透過性チューブまたは容器は、ガラスまたはプラスチック製であってよい。本発明のアフィニティークロマトグラフィーカラムは、例えば、場合により一端または両端にフリットガラスまたはプラスチックベースを備えたガラス毛細管(例えば内径0.7 mm)中のUV透過カラムにクロマトグラフィーマトリックス(例:20μL)をパッキングすることにより調製することができる。また、本発明のアフィニティークロマトグラフィーカラムは、より大きなガラスまたはプラスチック製チューブ、例えば、5 mm~50 mm(例えば7 mmまたは約10 mmまたは約25 mmなど)の内径を有するチューブ中にUV透過性カラムをパッキングすることにより調製することができる。
本発明の光切替可能ポリペプチドを含む本開示のアフィニティークロマトグラフィーカラムは、アフィニティークロマトグラフィー装置の一部を構成することができる。従って、本発明の更なる態様は、以下を含むアフィニティークロマトグラフィー装置に関する:
(i)本発明のアフィニティークロマトグラフィーカラム;
(ii)光源;
(iii)ハウジング;および
(iv)電子インターフェース。
更に、アフィニティークロマトグラフィー装置は、制御可能なポンプ、チューブ、随意にUV検出器(または例えば、光散乱検出器もしくは屈折率検出器)およびフラクションコレクターなどの市販のクロマトグラフィーシステムに一般的に見られる構成要素を備えている。
このアフィニティークロマトグラフィー装置は、実験室規模で使用するために、または目的の所望の分子の自動化された高処理量の単離および/または精製のために構成され得る。例えば、そのような自動化された高処理量のプロセスは、組換え生産された生物学的薬物候補または治療用タンパク質の単離に特に適している。また、研究または生物医学的用途を目的とした生体分子、特にタンパク質、核酸、炭水化物、および生存細胞の分離が想定される。
本開示のアフィニティークロマトグラフィー装置の光源は、所望の波長の光での光切替可能ポリペプチドの照射を可能にする。例えば、光源は、1つ、2つまたはそれ以上の発光ダイオード、LED、蛍光管および/またはレーザーを含むかまたはそれらから成ってもよい。光源から放射される光の波長は電子的に制御可能である。本発明のアフィニティークロマトグラフィー装置の関連において、光源から放出される光の波長は切替可能であると想定される。例えば、同一または第二セットのLED、蛍光管、レーザーのいずれかまたは両方を使用して、波長を容易に変更することができる。
本発明の一態様は、本開示のアフィニティークロマトグラフィー装置であって、1つ、2つまたはそれ以上の光源から放射される光の波長が、可視光(約400~530 nm、例えば400~500 nm、好ましくは405~470 nm、より好ましくは410~450 nm、最も好ましくは約430 nmを有する)からUV光(300~390 nm、好ましくは310~370 nm、より好ましくは320~350 nm、最も好ましくは約330 nm;あるいは約365 nmを有する)に、またはその逆に切り替え可能である。
本発明のアフィニティークロマトグラフィー手順は、例えば、次のように実施することができる。まず最初に、カラムをUV放射線(例えば300~390 nm、例えば約365 nm)下で1回、そして可視光(例えば400~500 nm、または>500 nmまたは日光;トランス配置をトリガーするため)下で1回照射しながら、ランニングバッファー、例えばPBSまたはTBS(100 mM Tris-HCl pH 8.0、100 mM NaCl)で平衡化する(場合により、以前の適用からの残存する結合リガンドを溶出させるため)。次いで、目的の分子(例えば細胞抽出物または培養上清)を含む液相をカラムに適用し、カラムをランニングバッファーで洗浄する。サンプル(すなわち液相)の適用と洗浄工程は、可視光(例えば400~500 nmまたは>500 nmまたは日光)の照射下で行うことが好ましい。結合した目的の分子の溶出は、好ましくは、UV光の照射により誘発される(例えば、シス配置を誘発するために、300~390 nm、例えば約365 nm)。このため、UV光を当てている間、バッファーの流れを一定時間(例えば0~60分間)停止し;次いで目的の分子をランニングバッファーで溶出させることができる。あるいは、UV光の連続照射下で目的の分子をランニングバッファーで溶出させてもよい。
本発明の別の態様において、アフィニティークロマトグラフィー手順は、次のように実施することができる。まず最初に、カラムを可視光(例えば400~500 nmまたは>500 nmまたは日光)で1回そしてUV放射線(例えば300~390 nm、例えば約365 nm;シス配置をトリガーするため)で1回照射しながら、ランニングバッファー、例えばPBSまたはTBSで平衡化する(場合により、以前の適用からの残存する結合リガンドを溶出させるため)。次いで、目的の分子(例えば細胞抽出物または培養上清)を含む液相をカラムに適用し、カラムをランニングバッファーで洗浄する。サンプル(すなわち液相)の適用と洗浄工程は、UV光(例えば300~390 nm、例えば約365 nm)の照射下で実施される。結合した目的の分子の溶出は、可視光の照射(例えば、トランス配置を誘発するため、400~500 nmまたは>500 nmまたは日光)により触発することができる。このため、可視光を当てている間、バッファーの流れを一定時間(例えば0~60分間)停止し;次いで目的の分子をランニングバッファーで溶出させることができる(可視光下または遮光下で)。あるいは、目的の分子をランニングバッファーで溶出させてもよい。これに関して、溶出は可視光の連続照射下で実施してもよく、または、溶出は可視光下で開始し(トランス配置をトリガーするため)、その後遮光下で実施してもよい。
本明細書の上記および下記に記載されるように後述の実施例においてアフィニティークロマトグラフィーに本開示の光切替可能ポリペプチドを使用することは、目的の単離分子の純度を高めながらコストと時間を削減するので、さまざまな利点が伴う。
ただし、本発明の光切替可能ポリペプチドの他の適用領域もある。例えば、光切替可能ポリペプチドは、分析試験、例えばELISAで、または光切替可能ポリペプチドでコーティングされた(常)磁性ビーズもしくはプラスチック粒子に関連して使用することができる。更に、本発明の光切替可能ポリペプチドは、目的の化合物(例えば、新設計の薬剤)のそれの標的に対する(またはその逆)結合特性を試験するために、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイで利用することができる。従って、(例えばマトリックス内に)光切替可能ポリペプチドを含むSPRチップを使用してもよい。このようなSPRチップは数回使用でき、目的の化合物および/または標的物質の脱着にUV光を使用すると、再生時間を短縮することができる。
本明細書中に引用される科学文献と特許文献を含む全ての刊行物は、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる。
実施例は本発明を説明するものである。
実施例1:4-〔(4-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン(Caf)の合成
4-〔(4-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン(Caf; 7)(4′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンとも称する)の調製は以前に報告されている(Nakayama他、2005 Bioconjug. Chem. 16:1360-1366)。しかしながら、図2Aに示されるより便利なCafの合成プロトコルを以下に提供する。市販のFmocまたはBoc保護4-アミノ-L-フェニルアラニン(3および4)を4-ニトロソ安息香酸(2)と反応させた。4-ニトロソ安息香酸(2)はオキソンでの酸化により4-アミノ安息香酸(1)から調製した(2 KHSO5+KHSO4+K2SO4)。生成したジアゾ中間体5をピペリジンで脱保護し、一方でもう1つの中間体6はジオキサン中HClで脱保護した。どちらの場合も所望のアミノ酸7を与えた。
工程1:4-ニトロソ安息香酸(2)の合成
化合物2は公表された手順に従って調製した(Priewisch&Ruck-Braun 2005 J. Org. Chem. 70:2350-2352)。4-アミノ安息香酸(15 g、109ミリモル)を180 mLのジクロロメタンに懸濁した。675 mL H2O中のオキソン(134.5 g、219ミリモル)の溶液を添加し、混合物を室温で1.5時間攪拌した。沈澱を濾別し、H2Oで徹底的に洗浄し、風乾し、次いでP2O5上で乾燥した。4-ニトロソ安息香酸(2)が黄色固体(16 g、106ミリモル)として得られ、それは少量の4-ニトロ安息香酸を含んでいたが、精製せずにそのまま使用した。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ = 13.50 (s, 1H, COOH), 8.29 - 8.22 (m, 2H, 芳香族), 8.05 - 8.00 (m, 2H, 芳香族)。
13C NMR (101 MHz, DMSO) δ = 166.19 (CO), 165.00 (C 芳香族), 136.53 (C 芳香族), 131.02 (2×C 芳香族), 120.62 (2×C 芳香族)。
分析用HPLC: カラム:Purospher RP-8e 250×3 mm (Merck KgaA, Darmstadt, ドイツ), 勾配:30分間で10-100% ACN/水+0.1%TFA;流速:0.6 mL/分;tR =14.43分。
工程2a:N-Fmoc-4-〔(4-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン(5)の合成
化合物5は公表された手順と同様に調製した(Priewisch&Ruck-Braun 2005 J. Org. Chem. 70:2350-2352)。4-ニトロソ安息香酸(2)(3 g、19.9ミリモル)を超音波処理しながら320 mL DMSO/AcOH 1:1(v/v)に懸濁した後、Fmoc-Phe(4-NH2)-OH(3)(4 g、9.94ミリモル;Iris Biotech、Marktredwitz、ドイツ)を加えた。その混合物を室温で2日間撹拌した。次に、700mLのH2Oを添加し、生じた沈殿物を濾過し、H2Oで洗浄し、風乾し、次いでP2O5上で乾燥した。所望の生成物(5)が褐色固体として得られ、それを精製することなくそのまま使用した。
1H NMR(400 MHz、DMSO-d6)δ=13.16 (s, 2H, 2×COOH), 8.17-8.13 (m, 2H, 芳香族), 7.97-7.90 (m, 2H, 芳香族), 7.88-7.81 (m, 5H, 芳香族, NH), 7.68-7.58 (m, 2H, 芳香族), 7.56-7.48 (m, 2H, 芳香族), 7.42-7.33 (m, 2H, 芳香族), 7.33-7.23 (m, 2H, 芳香族), 4.30(ddd, J = 10.6, 8.5, 4.5 Hz, 1H、CαH), 4.25-4.19 (m, 2H, Fmoc-CH2), 4.19-4.12 (m, 1H, Fmoc-CH), 3.23 (dd, J = 13.9, 4.4 Hz, 1H, CβH), 3.01(dd, J = 13.8, 10.7 Hz, 1H, CβH)。
13C NMR (101 MHz, DMSO) δ=173.14 (CO), 166.75 (CO), 155.99 (CO), 154.37 (C 芳香族), 150.69 (C 芳香族), 143.78 (C 芳香族), 143.73(C 芳香族), 142.83 (C 芳香族), 140.71 (C 芳香族), 140.69 (C 芳香族), 132.71 (C 芳香族), 131.03 (2×C 芳香族), 130.66 (2×C 芳香族), 130.35 (2×C 芳香族), 127.61 (2×C 芳香族), 127.05 (2×C 芳香族), 122.79 (2×C 芳香族), 122.47 (2×C 芳香族)、120.09 (2×C 芳香族), 65.64 (Fmoc-CH2), 55.19 (Cα), 46.61 (Fmoc-CH), 36.42(Cβ)。
MS分析:計算値 [M-H+]-=534.16706;実測値 [M-H+]-=534.15320。
分析用HPLC:カラム:Purospher RP-8e 250×3 mm(Merck KgaA、ダルムシュタット、ドイツ)、勾配:30分間に渡り10-100%ACN+0.1%TFA、流速:0.6 mL/分;tR =21.16分。
工程2b:N-Boc-4-〔(4-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン(6)の合成
化合物6は、公表された手順に従って調製した(Bose他 2006 J. Am. Chem. Soc. 128:388-389)。Boc-Phe(4-NH2)-OH(4)(1 g、3.6ミリモル; Bachem、ブベンドルフ、スイス)を50 mL AcOHに溶解した。4-ニトロソ安息香酸(2)(0.8 g、5.4ミリモル)の添加後、混合物を24時間攪拌した。溶媒を減圧下で留去し、残留物質を各100 mLの1 M HCl(水性)と酢酸エチルに溶解した。水相を50 mLの酢酸エチルで4回抽出した。合わせた有機相をブラインで1回洗浄し、MgSO4上で乾燥した。溶媒の蒸発後、褐色固体として化合物6が得られ(638 mg、1.54ミリモル、43%)、これを精製せずに更に使用した。
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6) δ=8.14 (d, J = 8.3 Hz, 2H, 芳香族), 7.94 (d, J = 8.4 Hz, 2H, 芳香族), 7.85 (d, J = 7.9 Hz, 2H, 芳香族), 7.49 (d, J = 8.1 Hz, 2H, 芳香族), 7.11 (d, J = 8.4 Hz, 1H, NH), 4.22 - 4.13 (m, 1H, CαH), 3.15 (dd, J = 13.9, 4.6 Hz, 1H, CβH), 2.95 (dd, J = 13.8, 10.2 Hz, 1H, CβH), 1.31 (s, 9H, C(CCH3)3)。
分析用HPLC:カラム:Purospher RP-8e 250×3 mm(Merck KgaA、ダルムシュタット、ドイツ)、勾配:30分間に渡り10-100%ACN+0.1%TFA、流速:0.6 mL/分;tR=18.33分。
工程3a:4-〔(4-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン(7)の合成(Fmoc開裂)
化合物 5(5 g、9.34ミリモル)を40 mLのDMFに溶解し、次いで10 mLのピペリジンを滴下添加し、その混合物を室温で30分間撹拌した。450 mLの0.5 M NaHCO3(水性)を添加して無色沈殿物を形成させ、それをろ過により除去した。ろ液を6 M HCl(水性)の添加によりpH 1~2に酸性化した。沈殿物を濾別し、風乾した後、P2O5上で乾燥させた。化合物 7が褐色固体として得られ(2.42 g、7.72 ミリモル、二段階で98%)、これを更に精製することなく実施例3と6に記載の生物物理学的および生化学的実験に使用した。
1H NMR (400 MHz、D2O) δ=7.86 - 7.80 (m, 2H, 芳香族), 7.59 - 7.53 (m, 2H, 芳香族), 7.53 - 7.47 (m, 2H, 芳香族), 7.24 - 7.18 (m, 2H, 芳香族), 3.42 (dd, J = 7.5, 5.6 Hz, 1H, CαH), 2.90 (dd, J = 13.5, 5.6 Hz, 1H, CβH), 2.73 (dd, J = 13.4, 7.6 Hz, 1H, CβH)。
13C NMR (101 MHz、D2O)δ= 181.94 (CO), 174.43 (CO), 153.16 (C 芳香族), 150.42 (C芳香族), 142.79 (C 芳香族), 138.45 (C 芳香族), 130.23 (2×C 芳香族), 129.81 (2×C 芳香族), 122.55 (2×C 芳香族), 121.93 (2×C 芳香族), 57.28 (Cα), 40.80 (Cβ)。
MS分析:計算値[M-H+]-=312.09898;実測値[M-H+]-=312.09380。
分析用HPLC:カラム:Purospher RP-8e 250×3 mm(Merck KgaA、ダルムシュタット、ドイツ);勾配:30分間に渡り10-100%ACN+0.1%TFA;流速0.6 mL/分;tR=10.7分。
工程3b:4-〔(4-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン(7)の合成(Boc開裂)
化合物 6(638 mg、1.5ミリモル)を20 mLの約2M HCl/ジオキサン中に溶解し、次いで室温で一晩攪拌した。沈澱をろ過し、ジエチルエーテルで洗浄し、真空乾燥した。化合物7が褐色固体として得られ(236 mg、0.67 ミリモル、44%)、これを更に精製することなく実施例3と6に記載の生物物理学的および生化学的実験に使用した。分析データは、工程3aに記載のものと一致した。
実施例2:4-〔(3-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン(11)の合成
4-〔(3-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン(11)(本明細書中3′-カルボキシフェニルアゾフェニルアラニンとも称する)は、図3Aに示される3工程において合成した。Fmocで保護した4-アミノフェニルアラニン(3)を、オキソンでの酸化により3-アミノ安息香酸(8)から調製した3-ニトロソ安息香酸(9)と反応させた。中間体(10)をピペリジンで脱保護し、4-〔(3-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン(11)を得た。
工程1:3-ニトロソ安息香酸(9)の合成
化合物9は公表された手順に従って調製した(Priewisch & Ruck-Braun 2005 J. Org. Chem. 70:2350-2352)。3-アミノ安息香酸(8)(5 g、36.5ミリモル)を100 mLのDCM中に懸濁した。400 mL H2O中のオキソン(44.9 g、73ミリモル)の溶液を添加した後、混合物を室温で1時間攪拌した。沈澱を濾別し、H2Oで徹底的に洗浄し、P2O5上で乾燥した。褐色固体として3-ニトロソ安息香酸(9)(4.1 g、27ミリモル、76%)が得られ、それは少量の3-ニトロ安息香酸を含んでいたが、精製せずに次の工程に使用した。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ=13.52 (s, 1H, COOH), 8.41 - 8.35 (m, 1H, 芳香族), 8.35 - 8.33 (m, 1H, 芳香族), 8.19 - 8.11 (m, 1H, 芳香族), 7.91 - 7.84 (m, 1H, 芳香族)。
13C NMR (101 MHz, DMSO) δ=166.08, 165.19, 136.26, 132.45, 130.47, 124.25, 120.98。
分析用HPLC:カラム:Purospher RP-8e 250×3 mm (Merck KgaA, ダルムシュタット, ドイツ), 勾配:30分間で10-100%ACN/水+0.1%TFA;流速:0.6 mL/分;tR =14.05分。
工程2:N-Fmoc-4-〔(3-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン(10)の合成
化合物10は公表された手順と同様に調製した(Priewisch&Ruck-Braun 2005 J. Org. Chem. 70:2350-2352)。3-ニトロソ安息香酸(9)(378 mg、2.5ミリモル)を超音波処理しながら40 mL DMSO/AcOH 1:1(v/v)に懸濁した後、Fmoc-Phe(4-NH2)-OH(3)(500 mg、1.24ミリモル)を加えた。その混合物を室温で2日間撹拌し、次いで200 mLのH2Oを添加した。生じた沈殿物を濾過し、H2Oで洗浄し、P2O5上で乾燥した。褐色固体としてFmoc-保護アミノ酸(10)が得られ、それを精製することなく更に使用した。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ=13.15 (s, 2H, 2×COOH), 8.38 - 8.33 (m, 1H, 芳香族), 8.11 (dd, J = 7.8, 1.8 Hz, 2H, 芳香族), 7.93 - 7.79 (m, 5H, 芳香族, NH), 7.77 - 7.69 (m, 1H, 芳香族), 7.63 (t, 2H, 芳香族), 7.54 - 7.48 (m, 2H, 芳香族), 7.43 - 7.33 (m, 2H, 芳香族), 7.33 - 7.22 (m, 2H, 芳香族), 4.28 (ddd, J = 10.8, 8.5, 4.5 Hz, 1H, CαH), 4.24 - 4.10 (m, 3H, Fmoc-CH, CH2), 3.26 - 3.17 (m, 1H, CβH), 3.00 (dd, J = 13.8, 10.7 Hz, 1H, CβH)。
13C NMR (101 MHz, DMSO) δ = 173.11 (CO), 166.72 (CO), 155.96 (C 芳香族), 151.94 (CO), 150.55 (C 芳香族), 143.77 (2×C 芳香族), 143.71 (2x C 芳香族), 142.51 (C 芳香族), 140.67 (C 芳香族.), 136.26 (C 芳香族), 132.15 (C 芳香族), 130.48 (C 芳香族), 130.30 (2×C 芳香族), 129.95 (C 芳香族), 127.59 (C 芳香族), 127.04 (2×C 芳香族), 125.23 (C 芳香族), 125.18 (C 芳香族), 122.67 (2x C 芳香族), 122.22 (C 芳香族), 120.08 (2×C 芳香族), 65.62 (Fmoc-CH2), 55.18 (Fmoc-CH), 46.57 (Cα), 36.36 (Cβ)。
MS分析:計算値[M-H+]-=534.16706;実測値[M-H+]- =534.15493。
分析用HPLC:カラム:Purospher RP-8e 250×3 mm (Merck KgaA、ダルムシュタット、ドイツ)、勾配:30分間に渡り10-100%ACN/水+0.1%TFA;流速 0.6 mL/分;tR=21.6分。
工程3:4-〔(3-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン(11)の合成
Fmoc保護アミノ酸(10)(650 mg、1.21ミリモル)を12 mLのDMFに溶かした。3 mLのピペリジンを滴下添加した後、混合物を室温で30分間攪拌した。35 mLの0.5 M NaOHの添加により無色沈澱が形成し、それをろ過により除去した。ろ液を6 M HCl(水性)を使ってpH 1-2に酸性化した。生じた沈澱を濾別し、風乾し、次いでP2O5上で乾燥した。褐色固体としてアミノ酸(11)(361 mg、1.15ミリモル、2ステップで83%)が得られ、それを更に精製することなく実施例3に記載の生物物理学的実験に使用した。
1H NMR (400 MHz, D2O) δ=8.14 - 8.08 (m, 1H, 芳香族), 7.94 - 7.89 (m, 1H, 芳香族), 7.76 - 7.70 (m, 1H, 芳香族), 7.67 - 7.60 (m, 2H, 芳香族), 7.55 - 7.47 (m, 1H, 芳香族), 7.34 - 7.27 (m, 2H, 芳香族), 3.48 (dd, J = 7.4, 5.6 Hz, 1H, CαH), 2.97 (dd, J = 13.5, 5.6 Hz, 1H, CβH2), 2.81 (dd, J = 13.5, 7.5 Hz, 1H, CβH2)。
13C NMR (101 MHz, D2O) δ=182.01 (CO), 174.34 (CO), 151.76 (C 芳香族), 150.50 (C 芳香族), 142.60 (C 芳香族), 137.59 (C 芳香族), 131.49 (C 芳香族), 130.28 (2×C 芳香族), 129.26 (C 芳香族), 123.84 (C 芳香族), 123.29 (C 芳香族), 122.52 (2×C 芳香族), 57.32 (Cα), 40.78 (Cβ)。
MS分析:計算値[M-H+]-=312.09898;実測値[M-H+]-=312.09760。
分析用HPLC:カラム:Purospher RP-8e 250×3 mm (Merck、ダルムシュタット、ドイツ), 勾配:30分間に渡り10~100%ACN/水+0.1%TFA;流速0.6 mL/分;tR=11.3分。
実施例3:4-〔(4-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン(Caf)の光誘起異性化
分光法による分析
アゾベンゼンのUV-VIS吸収スペクトルは、トランス配置とシス配置についてのπ-π*とn-π*電子遷移(それらは最大吸収(λ)の振幅と正確な位置が異なる)に相当する特徴的な吸収帯を示す。電子遷移π-π*は通常340 nm付近の近紫外領域にあり(Sension他、1993 J. Chem. Phys. 98: 6291-6315)、一方電子遷移n-π*は通常420 nm付近の可視(VIS)領域にあり、窒素原子の非共有電子対の存在によるものである(Naegele他、1997 Chem. Phys. Lett. 272: 489-495)。合成した非天然アミノ酸Caf(7)がUV光により誘導される光切り替えに反応するかどうかを調べるために、該化合物を交互の照射サイクルに供した。典型的な実験では、0.5 mLの30μM水溶液を、1cmの光路長を有する石英キュベット中に入れた。次いで353 nmの波長を有するUV LED(NS355L-5RLO;Nitride Semiconductors、徳島県、日本)を使ってまたは520 nmの波長を有する緑色LED(LL-504PGC2E-G5-2CC; Lucky Light Electronics, 香港, 中国)を使って上方から30分間サンプルを照射した。トランス/シス異性化に相当する340 nm付近のπ-π*帯の強度の変化(図4A)を、コンピュータ制御光度計(Ultrospec 2100 pro, Amersham Biosciences)を用いてモニタリングした。鋭意研究により、3サイクルに渡る約340 nmでの吸光度の変化が明らかになり、それはアゾ化合物のトランス配置(高い340 nm吸光度)とシス配置(低い340 nm吸光度)間の可逆的光切り替えと一致する(図4B)。
HPLCによる分析
水中のCaf(7)の60μM溶液500μLを、1.5 mLのHPLCバイアル(スクリューネックバイアルN9、褐色ガラス製、11.6×32 mm;Macherey Nagel, デューレン、ドイツ)中に入れ、それにUV LED(λ=353 nm、NS355L-5RLO;Nitride Semiconductors, 徳島県、日本)を上方から30分間直接照射した。照射の前後に、該溶液の20μLサンプルを取り出し、Purospher RP-8e 250×3 mmカラム(Merck)上でのHPLCにより分析し、50 mM NH4OAc緩衝液 pH 8中の10-12%アセトニトリル(ACN)の濃度勾配を10分間に渡り適用した(流速0.6 mL/分)。緑色LED光(λ=520 nm、LL-504PGC2E-G5-2CC、Lucky Light Electronics、香港、中国)での照射後に同様な方法で別のサンプルを分析した。図4は、λ=286 nm(trans-(7)とcis-(7)が同じモル吸光係数を示す波長、ピーク積分の直接比較が可能である)に吸収を有する対応するクロマトグラムを示す。このクロマトグラムは、化合物(7)のシス異性体とトランス異性体がHPLCにより分離できることを示す(cis-(7) tR=3.6分、trans-(7) tR=4.6分)。照射前の基底状態では、エネルギー的に優先されるtrans-(7)のみが生じる(図4C)。UV光(365 nm)での照射は、cis-(7)の比率を増大させ、ここでは86%まで増加させ(図4D)、これは緑色光(λ=520 nm)での照射により逆転させて、光化学的再異性化により基底状態を回復することができる(図4E)。しかしながら、HPLC分析中にもcis-(7)からtrans-(7)への再異性化が起こるので、UV光の照射後のcis-(7)の比率がHPLCクロマトグラムにより示されるものよりも事実上高いかもしれない。よって、本発明の光切替可能ポリペプチドをアフィニティークロマトグラフィー手順に適用すると、トランス配置が高親和性状態に相当しそして一方でシス配置が低親和性状態に相当する場合には、目的の分子の最大結合および最大溶出がそれぞれ430 nmおよび330 nmで起こる。しかしながら、従来の光源は一般に530 nm付近(可視光)および365 nm付近(UV光)にある波長の光を提供する。従って、それらの波長を提供する光(すなわち530 nm付近および/または365 nm付近)も本発明に従って使用することが可能である。
実施例4:4-〔(4-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン(Caf)に特異的なPylRS変異体の選択
4-〔(4-カルボキシフェニル)アゾ〕-L-フェニルアラニン(Caf)のような光切替可能な非天然アミノ酸を含むタンパク質の生合成は、生物物理学、構造学または生化学的研究並びに生物工学(バイオテクノロジー)および生物医薬品用途のための新規の光制御可能な生体分子試薬への道を切り開いた。大腸菌E. coli中で生産される組換えタンパク質中へのCafの共翻訳部位特異的組み込みのためのサプレッサーtRNAおよびアミノ-アシルtRNAシンテターゼ(aaRS)の直交ペア(orthogonal pair)を開発するために、メタン生成古細菌Methanosarcina barkeri(Mb)からのピロリジル-tRNAシンテターゼ(James他、2001 J. Biol. Chem. 276: 34252-34258)およびアンバー終止コドンを特異的に認識して抑制するそれの同族体tRNAPyl(Fekner & Chan 2011 Curr. Opin. Chem. Biol. 15:387-91)を使用した。
非天然アミノ酸基質Cafに特異的な変異体aaRSを選択するために、aaRSと同族tRNAの両方をコードする以前に記載された1プラスミド系(Kuhn et al. 2010 J. Mol. Biol. 404: 70-87) をPylRSに適用した。改変プラスミドpSBX8.101d58(配列番号23)は、Mb由来のPylRSおよび同族体のサプレッサーtRNAPylをコードする(図5A)。同一プラスミド上でクローニングすると、アンバー終止コドンを備えたクロラムフェニコール耐性レポーター遺伝子(catUAG112;配列番号24)は高度に活性なaaRS変異体(Cam耐性を付与する)を選択する機能を果たし、そして別のアンバー終止コドンを備えた蛍光レポーター遺伝子(eGFPUAG39;配列番号25)を蛍光活性化細胞選別(FACS)と組み合わせて、所望のアミノ酸特異性を示す変異体についてスクリーニングするのに使用した。外来アミノ酸の存在下または非存在下でCamが補足されたLB寒天プレート上での生死判別と組み合わせた、陽性と陰性FACSの交互のサイクルを適用することにより、Caf取り込みについて高特異性を有する変異型aaRS(吹き替え型CafRS)が選択された。
突然変異Tyr349Fは、非天然アミノ酸に対するMb PylRSの生体内抑制活性を増加させると記載されており(Yanagisawa他、2008 Chem. Biol. 15: 1187-1197)、従ってこの位置を全てのライブラリーにおいてPheに固定した。突然変異はQuikChange部位特異的変異誘発キット(Agilent, Waldbronn, ドイツ)を使って一対の適当なPCRプライマー(配列番号27と28)を用いてPylRS野生型遺伝子(配列番号26)中に導入し、変異型PylRS#1(配列番号29)を生成した。
非天然アミノ酸Cafに特異的な変異型シンテターゼを創製するため、2段階構築PCRアプローチにおいて、NNS縮重プライマーを使って活性部位中に5箇所の位置(M309、Asn311、Cys313、Met315およびTrp382)を完全にランダム化することにより、PylRS#1に基づいた第一のシンテターゼライブラリー(CafRS#0-R5)を作製した。鋳型としてPylRS#1遺伝子(配列番号29)を用いてQ5 DNAポリメラーゼPCRキット(New England Biolabs, Ipswich, MA, USA)を使って部位特異的飽和変異誘発を実施した。第一に、各々一対のフォワード(正方向)・リバース(逆方向)プライマー(フォワードプライマー1:配列番号30;フォワードプライマー2:配列番号31;リバースプライマー1:配列番号32;リバースプライマー2:配列番号33)を用いて2つの重複するPCR断片を調製した。全てのプライマーはMWG Eurofins (Ebersberg、ドイツ)により供給された。
2種のランダム化反応を、1×Q5緩衝液、200μMの各dNTPおよび0.5 UのQ5 DNAポリメラーゼを含む50μL反応混合物中で同一条件下で実施した。その混合物を98℃で10秒間変性させ、64℃で30秒間アニールし、そして72℃で30秒間ポリメラーゼ連鎖反応を実施した。35サイクル後、DpnIでの酵素消化を37℃で2時間実施して細菌鋳型を除去した。2つの増幅されたDNA断片をGel Extraction Kit(Qiagen, Hilden, ドイツ)を用いるアガロースゲル精製によって精製し、そして第二のPCR反応において集成した。このために、各200 ngの両断片を、1×Q5緩衝液、200μMの各dNTPおよび0.5 UのQ5 DNAポリメラーゼを含む50μLのQ5 DNAポリメラーゼ反応混合物中で混合した。混合物を98℃で10秒間変性し、64℃で30秒間アニールし、そして72℃で30秒間PCR反応を実施した。10サイクル後、隣接プライマー(配列番号30と34)を添加し、次いで98℃で10秒、64℃で30秒、および72℃で30秒の30回の熱循環、最後に72℃で5分間のインキュベーションを行った。
Qiagenゲル抽出キットを使ったPCR生成物のアガロースゲル精製の後、配列番号30と34のプライマーを用いて上述の熱循環工程を適用することにより、100μLのQ5 DNAポリメラーゼ反応混合物中で再増幅反応を実施した。前の集成工程において使用した隣接プライマー(配列番号30と34)中の一対の相互に非互換型のIIS制限部位(BsaI)は、pSBX8.101d58(配列番号23)中に中心のコード領域の一方向挿入を可能にした。Qiagen PCR精製キットの適用後、標的領域中にランダム突然変異を担持している生成DNA断片をBsaIで2回切断し、再びQiagen PCR精製キットを使って精製し、そしてプラスミドpSBX8.101d58上でクローニングした。電子受容能のある(electrocompetent)大腸菌NEB10beta細胞(New England Biolabs)の形質転換(Dower他、1988 Nucleic Acids Res. 16: 6127-6145) は、3×109個の形質転換体(サンプル画分のコロニー計数による)を産生した。それを100 mg/Lのアンピシリンが補足された10枚の正方形LB寒天プレート(114 cm2)上で平板培養した。
コロニーをプレートから掻き取り、各々5 mLのLB培地中に再懸濁し(Sambrook & Russell 2001 Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第三版. Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, NY)、次いで新鮮な培地で1 Lの容量になるよう調整した。30℃で振盪しながら30分間インキュベートした後、このプールした培養物から、Qiagen Plasmid Midi キットを使ってプラスミドDNAを調製し、その後電子受容能のある大腸菌BL21(Studier & Moffatt 1986 J. Mol. Biol. 189: 113-130)の形質転換に使用した。pSBX8.101d58上にクローニングしたPylRS#1遺伝子中の標的位置のランダム化を、DNAシーケンシングによって確認した。
上記で調製したCafRS#0-R5ライブラリーによる、電気受容能のある大腸菌BL21の形質転換直後(Dower他、1988 Nucleic Acids Res. 16: 6127-6145)、リン酸緩衝液(17 mM KH2PO4, 72 mM K2HPO4)と1 mM Caf(300 mM NaOH中の100 mM原液)が補足された4 mLのトランスフェクト細胞懸濁液を、50 mLのLB培地中に希釈した。37℃で2時間インキュベーション後、細胞を遠心分離により沈降させ、10 mLの添加剤不含有の新鮮なLB培地で洗浄した。別の遠心分離工程の後、細胞を2 mLのLB培地中に再懸濁し、そして100 mg/Lのアンピシリン、60 mg/Lのクロラムフェニコールおよび1 mM Cafが補足された4枚の平板LB寒天プレート(114 cm2)上に塗布した。37℃で48時間インキュベーション後に得られたコロニーをプレートから掻き取り、各々5 mLのLB培地中に再懸濁し、次いで100 mg/Lアンピシリンを含む1 LのLB培地中に混合し希釈し、そして3 Lの振盪フラスコ中でOD550=0.4にまで37℃で増殖させた。この培養から、3通りの2 mL培養物をプラスチックチューブに移し、並行して1 mM Cafを含むものと含まないものに補足し、新しく300 mM NaOH中の100 mM溶液として溶解した。細菌を37℃で30分間振盪培養し、次いでDMF中2 mg/mL濃度に溶解させた200 ng/mLのアンヒドロテトラサイクリン(aTc;Acros Organics, Geel, ベルギー)の添加によりeGFPの発現を誘導し、次いで37℃で更に9~12時間振盪した。各培養物1 mLを1.5 mLのエッペンドルフチューブ中で3分間遠心分離し、細菌ペレットを注意深く1 mLのろ過滅菌済みのPBS(4 mM KH2PO4, 16 mM Na2HPO4, 115 mM NaCl)で繰り返しピペッティングすることにより再懸濁した。この手順に従って2回洗浄した後、細菌を最終的に同容量のPBS中に再懸濁した。
フローサイトメトリー分析並びに細菌細胞選別を、ろ過滅菌済のPBSをシース液としてFACSAria装置(BD Biosciences, Heidelberg, ドイツ)上で、励起に488 nmのレーザー光を使用しそしてeGFP蛍光の特異的検出のために530/30帯域通過フィルターを有する502 nmのロングパスフィルターを使って実施した。適当なFSC/SSCゲートを介した完全な細菌細胞の選択後、Cafの存在下での「ポジティブ選択(正の選択)」サイクルには、各集団の最終選別ゲートを、最高のeGFPシグナル強度を有する全細胞の1~5%の画分に属するそれらの細胞を選択するように動的に設定した。「ネガティブ選択(負の選択)」には、未誘導の細菌のものに匹敵する低eGFPシグナルを有する細胞を選別した。100 mg/mLのアンピシリンが補足されたLB培地中に直接細胞を収集した。再増幅には、選別した細胞を100 mg/Lアンピシリン含有のLB寒天上に塗布し、37℃で一晩インキュベートした。コロニーの芝をまとめて上述した通りにLB培地中に再懸濁した。この濃厚な細菌細胞懸濁液の2 mLアリコートを、100 mg/mLアンピシリンが補足された100 mLの調製した直後の新鮮なLB培地に接種し、それを次の選択サイクルにそのまま使用した。
高忠実度を有するCafRSを濃縮するため、および任意の天然アミノ酸を受け入れているものを除去するため、2回の連続したネガティブFACS選択工程を最初に実施した。ポジティブ(すなわち、1 mM Cafの添加を伴う)選択とネガティブ(すなわちCafの欠損下での)選択のFACSラウンドを交互に5回行った後、レポータータンパク質eGFP中へのCafの特異的取り込みを示す蛍光応答が明らかに発生した。最終ポジティブ選択サイクル後、細菌をLB寒天上に塗布し、そしてQiagen Plasmid Midiキットを使って回収された細胞からプラスミドDNAを調製した。カルシウム受容能のある大腸菌BL21細胞の形質転換後、長方形のプラスチック皿(Nunc, Langenselbold, ドイツ)中100 mg/Lアンピシリンが補足されたLB寒天上にそれを塗布し、そして以前に詳細に記載されたようなロボットプラットフォームを使って(Reichert他 2015 Protein Eng. Des. Sel. 28: 553-565)、生成した細菌集団を96ウェルのミクロ培養中での単一クローン分析にかけた。このアッセイでは、190個のランダムに選択されたコロニーを増殖させ、eGFP蛍光について個別に分析した。
37℃で一晩インキュベーション後、コロニーを自動選別し、96ウェルの丸底マイクロタイタープレート(Sarstedt, Nurnbrecht, ドイツ)中で100 mg/mLのアンピシリンが補足された100μLのTB培地(Sambrook & Russell 2001 Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, NY)に接種するのに用いた。そのマイクロタイタープレートをガス透過性のBreathseal 80/140 mm膜(Greiner Bio-One, Frickenhausen, ドイツ)で密封し、37℃で一晩インキュベートし、25 mmの振幅で軌道振盪型Minitronインキュベーター(Infors, Eisenbach, ドイツ)を使って300 rpmの攪拌速度で静止期まで培養した。次いで、100 mg/Lアンピシリンを含むTB培地中の新鮮1 mL培養物を、各々20μLの前培養物を含むMasterblock 2 mL V形深型ウェルマイクロタイタープレート(Greiner Bio-One)中に接種し、そしてSynergy 2 SLFA マイクロプレートリーダー(BioTek Instruments, Bad Friedrichshall, ドイツ)でモニタリングしながらOD550≒0.5に達するまで37℃で約2時間インキュベートした。この接種工程は、2枚の同等の96深型ウェルプレート、すなわち1枚は1 mM Cafが補足されそしてもう1枚は非天然アミノ酸を含まないプレート、を使って正副二通りに実施した。更に30分間振盪した後、細胞を200 ng/mLのaTcで誘導した(LB培地中の10μg/mL原液から20μLを添加することにより)。細菌増殖を37℃で12時間続け;次いで培養物を遠心分離し(3857×g;15分間)そしてロボットプラットフォーム上での繰り返しピペッティングにより、1 mL PBS中に再懸濁した。PBS中での洗浄をもう1度繰り返した。最後に、100μLアリコートのeGFPCaf39 蛍光を、Maxisorb 黒色96-ウェルアッセイプレート(Nunc)を使って395 nmでの励起の下で測定し、495 nmカットオフで510 nmでの発光を検出した。各ウェルの蛍光の読みを、96ウェルのミクロテストプレートF(Mikrotest plate F;Sarstedt)中で1:5希釈(20μLアリコート+80μL PBS)した同細胞懸濁液のOD550 に対して正規化した。空のpSBX8.100d骨格のみを収容する(eGFPをコードしない)細胞を含む、2つのウェルの正規化されたバックグラウンド蛍光を平均化し、そして全ての他の蛍光読み値より差し引いた。各クローンについての最終値は蛍光比aaRS+Caf/aaRS-Caf として決定された。
効率と忠実度の点から最良のクローン、dubbed CafRS#7(配列番号35)は、既に平均eGFP蛍光にいくらかの増加を示し、これは更なる位置のランダム化の必要性を指摘する。CafRS#7の配列分析は、PylRS#1に比較して3アミノ酸置換(Met309Gln, Asn311Ser および Cys313Gly)を示した。
CafRS#7 (配列番号35)を、6つの完全にランダム化された位置(Ala267, Leu270, Tyr271, Leu274, Ile285 および Ile287)を有する第二の集中ssRSライブラリー(CafRS#7-R6; 配列番号36)のための出発点として使用した。2セットの縮重NNSプライマーを使って2つのPCR断片を作製し、会合させた。第一のPCR断片は、フォワードプライマー(配列番号30)とNNSリバースプライマー(配列番号37)を使って作製し、目的の残基に突然変異を導入して該遺伝子の上流部分を作製した。第二のPCR断片は、第一のPCR生成物の3'末端に対しフォワードプライマーの重複を有する、別のNNS縮重フォワードプライマー(配列番号38)とリバースプライマー(配列番号34)を使って作製し、該遺伝子の下流部分を提供した。それらの2つのPCR断片は、上記の実験手順に従って、鋳型としてCafRS#7遺伝子を用いて作製した。アガロースゲル精製後、200 ngの各断片を、BsaI制限部位を更に含む該遺伝子の5′末端(配列番号30)と3′末端(配列番号34)のためのプライマーとの集成PCR反応に使用した。該ライブラリーをpSBX8.101.d58上でクローニングし、1×1010 個の形質転換体を得、それを100 mg/mLアンピシリン並びに30 mg/mLクロラムフェニコールと1 mM Cafが補足されたLB寒天プレート上で、生存能のあるコロニーについての最初の生死判別試験にかけ、次いでFACSを使って2回のネガティブ選別を実施した。5回の交互のFACS選別(3回のポジティブ選択と2回のネガティブ選択)の後、細菌細胞を100 mg/Lのアンピシリンが補足されたLB寒天上で回収し、続いて96ウェルの上記のマイクロカルチャー形式での189コロニーの単クローン分析を実施した。変異型aaRS遺伝子カセットの配列分析は、最高の特異性の蛍光比を有するクローン、dubbed CafRS#29 (配列番号39)が、CafRS#7に比較して4つの追加のアミノ酸置換(Ala267Thr, Leu274Ala, Ile285Asn, Ile287Ser)を担持していることを示した。
メタン生成古細菌Methanosarcina mazei (Mz) PylRS (PBDエントリ 2ZCE) からの結晶構造からおよび2回の事前ライブラリースクリーニングの結果から判断すると、第一のライブラリーにおいて既に標的とされた、入り口部分に位置する2残基(Gln309およびSer311)と、第二のライブラリーにおいて標的とされた、活性部位の背面部分に位置する3残基(Ala274、Asn285 および Ser287)が、第三のCafRSライブラリーを構成するための有力な候補であるように思われた。CafRS#29に基づくライブラリー CafRS#29-R5(配列番号40)は、同じく縮重NNSプライマーを使った集成PCRによって作製した。
1セットのフォワード(正方向)とリバース(逆方向)プライマーを使って3つのPCR断片を作製し、集成した。遺伝子のランダム化上流部分を提供する第一のPCR断片は、フォワードプライマー(配列番号30)とNNS縮重リバースプライマー(配列番号41)を使って作製した。第一のPCR断片の3'末端と第三のPCR断片の5'末端との重複を有する、遺伝子の中央部分を提供する第二のPCR断片は、2つのNNSプライマー(配列番号38と配列番号42)のセットを使って作製した。該遺伝子の下流部分を提供する第三のPCR断片は、NNS フォワードプライマー(配列番号31)とリバースプライマー(配列番号34)を使って作製した。それらのPCR断片は、鋳型としてCafRS#29遺伝子を使って、上記実験手順に従って作製し集成した。遺伝子ライブラリーを制限酵素BsaIで消化し、ゲル精製し、そしてBsaIで消化後のpSBX8.101d58ベクターと連結せしめ、CafRS#29-R5ライブラリー(配列番号40)を得た。10μgの連結生成物を大腸菌NEB10beta細胞中にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションした細胞を回収し、100 mg/mLアンピシリンを含むLB寒天プレート上に塗布し、1×1010 個の独立形質転換体を得た。CafRS#20-R5 ライブラリーからの選択は、第一および第二のCafRSライブラリーからの選択について上述した手順に従った。最終的に選択された変異体シンターゼ CafRS#30(配列番号43)は、野生型Mb PylRSと比較して合計7つのアミノ酸置換(Ala276Thr, Leu274Ser, Ile285Ser, Ille287Val, Asn311Val, Met315GlyおよびTyr349Phe)を担持している。
実施例5:SAm1Caf 変異体の作製
概念実証のため、ストレプトアビジン変異体1のSAm1 (“Strep-Tactin”とも称される) (Voss & Skerra 1997 Protein Eng. 10:975-82) (配列番号7および8)を、位置V44、W108またはW120のところでCafにより修飾した。このために、それらの配列位置の各々の所に、Quik Change部位特異的変異誘発キットと、下記の適当な正および逆PCRプライマーを使用し、鋳型としてプラスミドpSAm1(配列番号44)を使った部位特異的変異誘発により、アンバー終止コドン(TAG)を導入した:プライマーとして配列番号45と46を使用してSAm1UAG44 (配列番号47)を生成し、配列番号48と49を使用してSAm1UAG108 (配列番号1と2)を生成し、そして配列番号50と51を使用してSAm1UAG120 (配列番号52)を生成した(Fig 5B)。カルシウム受容能のある(コンピテント)大腸菌XL1-blue細胞の形質転換、プラスミド調製(Plasmid Miniprep Kit, Qiagen)およびシーケンシング(Mix2Seq, MWG Eurofins, Ebersberg, ドイツ)の後、SAm1変異体をベクター pSBX8.CafRS#30d58(配列番号53)上のXbaIとHindIII 部位を介してサブクローニングし、pSBX8.CafRS#30d47(V44TAG; 配列番号54)、pSBX8.CafRS#30d53(W108TAG; 配列番号55)およびpSBX8.CafRS#30d51(W120TAG; 配列番号56)をそれぞれ得た。
Cafで置換される全ての位置は、側鎖がシス配置を取ると(すなわち、340または365 nmでの照射後)Strep-tagの結合を阻害するが、トランス配置では結合活性を保持するように企図された(図5A)。位置Val44は、位置44~53を含むフレキシブルループ領域のN末端側に位置する。Caf異性化は、そのループ構造を変化させると推定された。位置Trp108はビオチンのための結合ポケットの底に位置し、従ってcis-Cafは、隣接の側鎖とぶつかり合うと推定された。位置Trp120は、隣接の四量体サブユニットから伸びている結合部位の頂部に位置し、よってCafがシス状態に異性化すると全体的な幾何学を変更する位置である。
実施例6:SAm1変異体の発現と精製
SAm1(配列番号7と8)およびSAm1Caf変異体を大腸菌中の細胞質内封入体として作製し、可溶化し、リフォールディングし、アニオン交換クロマトグラフィー(AEX)により精製し、そしてSDS-PAGEにより分析した。
SAm1Caf108をコードするプラスミドpSBX8.CafRS#30d53(配列番号1と2)を用いて形質転換された大腸菌BL21の単一コロニー(図6A)を用いて、100 mg/Lアンピシリンが補足された50 mLのLB培地に接種した。30℃で一晩インキュベーション後、20 mLの培養物を、バッフル付き振盪フラスコに入った2 LのLB培地に移し、再び100 mg/Lのアンピシリンとリン酸塩緩衝液(17 mM KH2PO4, 72 mM K2HPO4)および1 mM Caf(300 mM NaOH中の100 mM原液から)を補足した。培養物を37℃でOD550=0.5にまでインキュベートした。次いで、SAm1Caf108遺伝子発現(tetp/o の調節下;Skerra 1994 Gene 151: 131-135)を200 ng/mL aTc で誘導し、37℃で12時間増殖を続けた。CafRS 遺伝子は大腸菌proSプロモーターとproMターミネーターの調節下に置かれた。遠心分離(10,000×g、20分、4℃)により細胞を収得し、100 mLの100 mM ホウ酸Na pH 9.0, 150 mM NaCl で2回洗浄し、沈澱したCafを取り除いた。得られた細菌を3 mL/mg湿重量の冷100 mM Tris-HCl pH 8.0, 150 mM NaCl, 1 mM EDTA 中に懸濁し、そしてFrench Pressureホモジナイザー(SLM Aminco, Urbana, IL, USA)を使って3回細胞を破壊させた。ホモジネートを遠心分離し(20,000×g, 30分, 4℃)、ストレプトアビジン封入体を沈降させた。タンパク質ペレットを50 mM Tris-HCl pH 8.0, 2 M 尿素, 2% v/v Triton X-100 (3 mL/g 細胞の湿重量)で2回洗浄して不純物を取り除き、次いで50 mM Tris-HClを用いた洗浄工程を行い、残留のTriton X-100を枯渇させた。封入体を8 M 尿素 pH 2.5 (3 mL/g 細胞の湿重量)に再懸濁した。遠心分離(20,000×g, 30分, 4℃)後、清澄な上清をリフォールディング過程に供した。これは急速な希釈により達成された。フォールディングしなかったタンパク質は、パスツールピペットを使って、4℃にて25倍容の50 mM Tris-HCl中にピペットで滴下添加した。その混合物を4℃で一晩インキュベートし、遠心分離により清澄化し(10,000×g, 20分, 4℃)そして20mM Tris-HCl pH 8.0で平衡化した6 mL Resource Qカラム(GE Healthcare, Freiburg, ドイツ)上でのAEXにより精製した。タンパク質画分は、クマシーブリリアントブルーR-250での染色を用いるSDS-PAGE(Fling & Gregerson 1986 Anal. Biochem. 155: 83-88)により分析すると、0~500 mM NaClの直線塩濃度勾配において、約80 mM NaClのところで純粋状態で溶出した(図6B)。
実施例7:アルカリホスファターゼ/Strep-tag II融合タンパク質の調製
プラスミドpASK75-PhoA-strepII(配列番号57)で形質転換された大腸菌JM83を用いたPhoA/Strep-tag II融合タンパク質の予備タンパク質発現は、100 mg/mLのアンピシリンを添加した2 L 必須LB培地中で達成された。Voss&Skerra 1997 Protein Eng. 10:975-982。培養物を22℃でOD550=0.5まで増殖させた後、200 ng/mLのaTcの添加によりphoA遺伝子発現を誘導した。インキュベーションを22℃で4時間続けた。遠心分離により細胞を回収し、100μg/mLのリゾチームを含む20 mLの氷冷ペリプラズム分画緩衝液(0.5 Mショ糖、2 mg/mL硫酸ポリミキシンBおよび100 mM Tris-HCl、pH 8.0)中に再懸濁し、30分間インキュベートした。酵素の活性部位に金属イオンが存在するため、ペリプラズムタンパク質の調製は、EDTAの代わりに2 mg/mLの硫酸ポリミキシンBの存在下で実施した。遠心分離を繰り返してスフェロプラストを除去し(Skerra&Schmidt 2000 Methods Enzymol. 326:271-304)、上清をペリプラズム細胞画分として回収した。PhoA/Strep-tag II融合タンパク質は、公表された手順(Schmidt&Skerra 2007 Nat. Protoc. 2:1528-1535)により調製した。PhoAの活性部位にある金属イオンの損失を避けるため、クロマトグラフィー緩衝液(150 mM NaCl、100 mM Tris-HCl pH 8.0)からEDTAを削除した。最後に、PhoA/Strep-tag II融合タンパク質を2 Lの緩衝液(1 mM ZnSO4、5 mM MgCl2、100 mM Tris-HCl、pH 8.0)に対して2回透析し、ELISA測定または結合実験の前に、クロマトグラフィーマトリックスに固定化されたCaf修飾ストレプトアビジン変異体を用いてD-デスチオビオチンを除去した。
実施例8:ELISAにおけるPhoA/Strep-tag II融合タンパク質の可逆的結合の検出
特定の位置に光切替可能アミノ酸Cafを担持しているストレプトアビジン変異体の光誘起可逆的結合は、モデルリガンドとして精製済PhoA/Strep-tag II融合酵素を使用して、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)で最初に試験した(図7)。
ELISAは96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc、Langenselbold、ドイツ)上で周囲温度にて実施した。各ウェルを、1 mg/mLの濃度のPBS(4 mM KH2PO4、16 mM Na2HPO4、115 mM NaCl)中のビオチン化ウシ血清アルブミン(BSA)100μLで一晩コーティングした(図7A)。 2 mL BSA(PBS中10 mg/mL)のビオチン化は、20倍モル過剰のビオチンNHSエステルを使用して実施した。室温で2時間インキュベートした後、2 mLの100 mM NaCl、100 mM Tris-HCl pH 8.0を加えて反応を停止させ、同じ緩衝液で平衡化したPD-10脱塩カラム(GE Healthcare)を使用して精製した。ウェルを、PBS中の3%w/v BSA、0.5%v/v Tweenで2.5時間ブロックし、PBS-Tweenで3回洗浄した。100μLのSAm1またはそのCaf変異体をPBS中100μg/mLで適用し、予め吸着されたビオチン-BSA複合体の形成を介して固定化した。1時間インキュベートした後、ウェルをPBS-Tweenで3回洗浄した。次に、1 mM ZnSO4、5 mM MgCl2、100 mM Tris-HCl pH 8.0中のPhoA/Strep-tag II 100μLを各ウェルに加えた。1時間のインキュベーション後、液体を除去し、ウェルをPBS-Tweenで2回、PBSで2回洗浄した。これらの各洗浄工程の間に、マイクロタイタープレートに波長365 nmのUV光(UVハンドランプ、NU-6 KL、Benda Laborgerate、Wiesloch、ドイツ;図7A、下のパネル)を2 mmの距離から照射し、または、可視光(日光;図7A、上のパネル)で5分間照射し、バッファー交換は遮光下で行った。最後に、1 mM ZnSO4、5 mM MgCl2、1 M Tris-HCl、pH 8.0中の100μLの0.5 mg/mL p-ニトロフェニルリン酸を各ウェルに添加し、Synergy 2 SLFAマイクロプレートリーダーを使用して、410 nmでの吸光度の変化として残存酵素PhoA活性を測定した。
その結果として、試験したすべてのストレプトアビジン変異体が、PhoA/Strep-tag II融合タンパク質に対して良好な親和性を示し、可視光で照射されたサンプルについてSAm1で得られたものに匹敵するシグナルを生じるように見えた(図7B)。対照的に、ストレプトアビジン変異体SAm1Caf108では、365 nmのUV光を照射した後、残存酵素活性の明らかな減少が観察された。SAm1並びに変異体SAm1Caf44およびSAm1Caf120は、これらの状況下で、それぞれシグナルの減少を全く示さないかまたははるかに少なく示した。従って、ストレプトアビジン変異体SAm1Caf108は、親和性タグを備えた標的タンパク質の光誘起(光切替可能な)可逆的結合を示す。
実施例9:光制御可能な親和性マトリックスの試験
ベクターpSBX8CAFRS#30の対応する誘導体上にコードされた精製SAm1またはそのCaf変異体(実施例4および5を参照)を、記載されている通りに(Schmidt&Skerra 1994 J. Chromatogr. A 676:337-345)、膨潤ゲル1 mLあたり5 mgのタンパク質でNHS活性化セファロース4B(Pharmacia、スウェーデン、ストックホルム)に結合させた。このために、NHS活性化CH-セファロース4Bを膨潤させ、製造業者の推奨に従って氷冷1 mM HCl中で洗浄した。上清を流出させ、ゲルを100 mM NaHCO3 pH 8.0、500 mM NaClに対して透析したストレプトアビジン変異体の2.5 mg/mL溶液の2倍量と混合した。室温で2時間穏やかに振盪した後、上清をデカントし、ゲルを5容の100 mM Tris-HCl pH 8.0と混合して残存活性化基のブロッキングを行い、その後4℃で一晩振盪した。
UV透過性カラムは、それぞれSam1Caf44、SAm1Caf108、SAm1Caf120、SAm1用のクロマトグラフィーマトリックス20μLを、ガラス毛細管(内径0.7 mm)中に充填した。最初に、シリンジポンプ(kdScientific、Holliston、MA、USA)を使用して、12 mL/hの一定流量で2 mLのランニングバッファー(100 mM Tris-HCl pH 8.0、100 mM NaCl)によりカラムを2回平衡化した。365 nmのUV照射1回(UVハンドランプ、NU-6 KL、BendaLaborgerate、Wiesloch、ドイツ)および>530 nmの放射波長を有するLEDライトテーブルを使って1回(FG-08、Nippon Genetics、Duren、ドイツ)照射した(図8A)。次に、100 mM Tris-HCl pH 8.0、100 mM NaCl中の0.1 mg/mLの濃度の精製済PhoA/Strep-tag II融合タンパク質25μLをカラムに適用し、未結合タンパク質を2 mLのランニングバッファーで洗浄した。ここで未結合タンパク質は素通り画分に収集される。サンプルの注入と洗浄の工程は、LEDライトテーブルを使用した可視光の照射下で行われた。続いて、UVハンドランプを使用して365 nmのUV光を照射することにより、結合タンパク質の溶出を引き起こした。最初に、UV光を当てながら緩衝液の流れを10分間停止させた。その後、流量を再び12 mL/hに設定し、3つの溶出画分(各25μL)を収集した。SAm1Caf108に基づいたクロマトグラフィーマトリックスの溶出画分におけるPhoA/Strep-tag II融合タンパク質に対応するクマシー染色ゲル上に見えるタンパク質バンドは、該タンパク質が365 nmの照射によって特異的に溶出されたことを示している(図8B)。ストレプトアビジン(図8C)またはその変異体SAm1Caf44およびSAm1Caf120の場合、バンドは全く観察されなかった(データは示していない)。
溶出画分のアフィニティ精製タンパク質の検出限界を高めるために、PhoA酵素活性を測定した。そのため、各画分10μL(サンプル注入画分、素通り画分、洗浄画分、溶出画分1~3)を96ウェルプレート(Nunc)の単一ウェルに適用した。1 mM ZnSO4、5 mM MgCl2、1 M Tris-HCl、pH 8.0中の90μLの0.5 mg/mL p-ニトロフェニルリン酸を添加した。室温(RT)で30分間インキュベートした後、Synergy 2 SLFAマイクロプレートリーダーを使用して、410 nmでの時間依存性吸光度を測定することにより、酵素活性を決定した。SDS-PAGE分析と一致して、SAm1Caf108に基づくクロマトグラフィーマトリックスの溶出画分は、UV照射下で溶出される最高のタンパク質濃度(酵素活性)を示した(図8D)。
実施例10:ProtLCaf-ABD変異体の作製
プロテインLは、元々フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)(以前はペプトストレプトコッカス・マグナス(Peptostreptococcus magnus)として知られていた)の細胞壁に発見された表面タンパク質で、多くの哺乳動物種由来の免疫グロブリン、特にIgGに対し高い親和性と特異性を持つため、抗体精製に使用されている(Rodrigo他、2015 Antibodies 4:259-277)。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)およびグループG連鎖球菌属(Group G Streotococci)由来のプロテインAやプロテインGなどの他のIgG結合タンパク質は、IgのFc領域に結合するが、プロテインLは抗原結合部位に干渉することなくκ軽鎖可変領域に結合する。天然プロテインL(UniProt 受入番号Q51918)は本質的に次のドメインを含む(Kaster他 1992 J. Biol. Chem. 267:12820-12825と同様):シグナルペプチド(1-26);3つのプロテインG関連アルブミン結合ドメイン(77-116;129-177;190-238);4つの相同B1ドメイン(254-317;326-389;399-436;474-538);2つのCリピート(610-660;668-722)および膜貫通領域(969-991)。
抗体並びにフラグメントまたは関連形態(抗体融合タンパク質、二重特異性抗体など)の精製のために光切替可能アフィニティーマトリックスを設計するために、非必須ドメインを持たない単一ドメインを含む組換えプロテインLを設計した。コドン最適化プロテインLドメインB1(本明細書ではProtLと称する;配列番号20)は、短いリンカー配列を介してプロテインG由来のヒトアルブミン結合ドメイン(ABD;配列番号59)に融合された。プロテインL-ABD融合タンパク質(ProtL-ABD;配列番号61)は、337、347、360、364、368または369のいずれかの位置(UniProtアクセション番号Q51918の番号付け方法に関連して)においてCafで修飾された。位置337、347、360、364、368および369は、配列番号61の位置13、23、36、40、44、および45にそれぞれ対応する。
このために、プラスミドpASK75-ProtL-ABD(配列番号62)を鋳型として使用し、QuikChange部位特異的変異誘発キットの助けを借りて、そして以下のフォワードプライマーとリバースプライマーの適切なペア:ProtLUAG337-ABD(配列番号67)の場合には配列番号63と66、ProtLUAG347-ABD(配列番号72)の場合には配列番号68と69、ProtLUAG360-ABD(配列番号75)の場合は配列番号73と74、ProtLUAG364-ABD(配列番号78)の場合には配列番号76と77、ProtLUAG368-ABD(配列番号81)の場合には配列番号79と80、ProtLUAG369-ABD(配列番号84)の場合には配列番号82と83を使用して、部位特異的変異誘発により、それらの配置の各々においてコード領域中にアンバー終止コドン(TAG)を導入した(元のアミノ酸コドンの置換によって)(図9)。
カルシウム受容能のある大腸菌XL1-blue(Bullock他、1987 Biotechniques 5:376-378)細胞の形質転換、プラスミドの調製および配列決定の後、未修飾のProtL-ABDおよびProtLUAG-ABD変異体をベクターpSBX8.CafRS#30d58(配列番号53)上の制限部位XbaIとHindIIIを介してサブクローニングし、プラスミドpSBX8.CafRS#30d70(アンバー終止コドンなし)、pSBX8.CafRS#30d71(337TAG)、pSBX8.CafRS#30d72(347TAG)、pSBX8.CafRS#30d73(360TAG)、pSBX8.CafRS#30d74(364TAG)、pSBX8.CafRS#30d75(368TAG)およびpSBX8.CafRS#30d76(369TAG)をそれぞれ得た。
Cafで置換された位置337と347は、側鎖がシス配置をとる場合(すなわち約340または約365 nmでの照射後)にはIgの結合を妨害するが、トランス配置では結合活性を保持するように企図された。Cafで置換された位置360、364、368および369は、側鎖がトランス配置をとる場合(すなわち>420 nmの照射後)にはIg結合を妨害するが、シス配置では結合活性を保持するように企図された。異性化後、Caf側鎖はプロテインL内の隣接する側鎖(よってその結合部位のコンフォメーションを変更する)および/またはIgリガンド(よってタンパク質/タンパク質界面の幾何学を変更する)と衝突し合うので、結合を妨害すると推定される。
プロテインLの結合界面内で立体的に重複することなく(特に伸長されたトランス配置で)大きなCaf側鎖に十分なスペースを提供し、かつIgG結合活性を維持するために、必要に応じて追加のアミノ酸置換を変異ProtL-ABDに導入した。例えば、QuikChange部位特異的変異誘発キットと配列番号70および73のフォワードとリバースプライマーを使用して、Tyr361Ala変異をProtLCaf347-ABDのコード領域中に導入した。2つの追加の変異Tyr361AsnおよびLeu365Serを、配列番号65と68のプライマーを使ってProtLCaf337-ABD中に同時に導入した。これらの位置361と365は、配列番号61と86中の位置37と41にそれぞれ対応する。
実施例11:ProtLCaf-ABD変異体の発現および精製
ProtL(配列番号60)およびProtLCaf変異体(配列番号69、74、77、80、83および86)を、大腸菌の細胞質中ABD融合タンパク質として産生させ、ヒト血清アルブミン(HSA)アフィニティークロマトグラフィーおよびアニオン交換クロマトグラフィー(AEX)により精製した。
例えば、ProtLCaf337-ABD(配列番号85)をコードするプラスミドpSBX8.CafRS#30d71で形質転換された大腸菌MG1655(Guyer他、1981 Cold Spring Harb Symp Quant Biol 45:135-40)の単一コロニーを、100 mg/Lのアンピシリンが補足された50 mL LB培地への接種に使用した。30℃で一晩インキュベートした後、20 mLの培養物をバッフル付振盪フラスコ中で100 mg/Lアンピシリン並びにリン酸緩衝液(17 mM KH2PO4、72 mM K2HPO4)および1 mM Caf(300 mM NaOH中の100 mM原液から)が補足された2 LのLB培地に移した。培養物を37℃で攪拌しながらOD550=0.5になるまでインキュベートした。次に、ProtLCaf337-ABD遺伝子発現(tetP/Oの制御下)を200 ng/mLのaTcで誘導し、37℃で12~16時間増殖を続けた。CafRS遺伝子は、proMターミネーターと組み合わせた大腸菌proSプロモーターの構成的制御下にあった。細胞を遠心分離(10,000×g、20分、4℃)により回収し、湿重量1 gあたり3 mLの冷50 mM Tris-HCl pH 8.0、100 mM NaCl、5 mM EDTAに再懸濁し、フレンチプレス用ホモジナイザーを使用して細胞を破壊した。ホモジネートを遠心分離(20,000 g、30分、4℃)して細胞片を沈降させ、透明な上清をHSAアフィニティーカラムを使用したアフィニティークロマトグラフィーにかけた。
HSAアフィニティーマトリックスは、公表されているプロトコル(Schmidt & Skerra 1994 J. Chromatogr. A 676: 337-345)に従って、NHS活性化セファロース4B(GE Healthcare, Freiburg, ドイツ)を使って調製した。このために、まず最初にNHS活性化CH-セファロース4Bを膨潤させ、メーカーの推奨に従って氷冷1 mM HClで洗浄した。上清を排出し、ゲルを100 mM NaHCO3 pH 8.0、500 mM NaCl中のイネ(米)から生産された組換えHSA(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州、米国)の2倍容の5 mg/mL溶液と混合した。室温で2時間穏やかに振盪した後、上清をデカントし、ゲルを5容の100 mM Tris-HCl pH 8.0と混合し、4℃で一晩振盪して残存活性化基をブロックした。HSAアフィニティーマトリックスは、AKTA Purifierクロマトグラフィーシステムに接続された2 mlのカラムハウジングに充填された。
HSAカラムをランニングバッファー(50 mM Tris-HCl pH 8.0、100 mM NaCl)で平衡化した後、ProtLCaf337-ABDを含む大腸菌の透明上清をカラムにロードした。次に、カラムを5容(10 mL)のランニングバッファーで洗浄し、結合したタンパク質を150 mMグリシン-HCl pH 2.8、100 mM NaClで溶出させた。ピーク画分を中和バッファー(1 mL画分あたり100μLの1 M Tris-HCl pH 9.0)中に収集し、画分の最終pHがほぼ中性になるようにした。プールした画分を、20 mM Tris-HCl pH 8.0に対して4℃にて一晩透析した。 ProtLCaf337-ABDは、20 mM Tris-HCl pH 8.0で平衡化した1 mL Resource Qカラム(GE Healthcare)上でのAEXにより更に精製した。SDS-PAGE(Fling&Gregerson 1986 Anal. Biochem. 155:83-88)で分析し、クマシーブリリアントブルーR250で染色することにより可視化すると、タンパク質画分は0~200 mM NaClの直線塩濃度勾配において約100 mM NaClの所で純粋状態で溶出した(図10)。他のCaf変異体および未修飾のProtL-ABD融合タンパク質も同じ方法で調製した。
実施例12:ELISAにおけるProtLCaf-ABD融合タンパク質の可逆的結合の検出
特定の位置に光切替可能アミノ酸Cafを担持しているProtLCaf-ABD突然変異体の光誘起可逆的結合を、マウス抗6xHis抗体-アルカリホスファターゼ(AP)複合体(Arigo Biolaboratories、Hsinchu City、台湾)をモデルIgリガンドとして使用してELISAにより試験した(図11A)。ELISAは96ウェルMaxisorbマイクロタイタープレート(Nunc、Langenselbold、ドイツ)中で周囲温度にて実施した。
このために、各ウェルをまず、PBS(4 mM KH2PO4、16 mM Na2HPO4、115 mM NaCl)中10μg/mL濃度でイネから生産された50μLの組換えHSA(Sigma-Aldrich)により室温で1時間コーティングした。次に、ddH2Oで1:10希釈した200 mLのRoti-Block(Carl Roth, Karlsruhe, ドイツ)でウェルを1時間ブロックし、0.1%(v/v) Tween 20を含むPBS(PBS/T)で3回洗浄した。その後、実施例11からの精製済ProtLCaf-ABD融合タンパク質をPBS/T中の系列希釈において適用し、1時間インキュベートして、ABD部分と事前吸着させたHSAとの間の複合体形成を確立した。次に、ウェルをPBS/Tで3回洗浄し、PBS/Tで1:1000希釈した前記マウス抗-6xHis Ig-AP複合体50μLと共にインキュベートした。
1時間後、マイクロタイタープレートを日光から保護し、波長365 nmのUV光(UVハンドランプNU-6 KL)を2 mmの距離から5分間照射した。その後の全ての洗浄工程は、遮光下で実施した。マイクロタイタープレートをPBS/Tで2回、PBSで2回洗浄した後、発色基質としてp-ニトロフェニルリン酸(5 mM MgCl2中0.5 mg/mL、1 M Tris-HCl pH 8.0)を使用して酵素活性を検出し、残存している結合したレポーター酵素を定量した。25℃で5分後、SpectraMaxTM 250マイクロタイタープレートリーダー(Molecular Devices、Sunnyvale、CA、USA)を使用して405 nmでの吸光度を測定した。
その結果、可視光を照射したProtLCaf337変異体(配列番号86)は、Cafを持たないProtLで観察されるよりも低いシグナルであったが、IgGに対する親和性を示した(図11B)。対照的に、ProtLCaf337変異体の場合には365 nmの紫外線照射後に酵素活性の明らかな減少が観察され、一方で未修飾のProtL-ABD融合タンパク質は異なる照明条件下で結合活性の変化を全く示さなかった。変異体ProtLCaf347、ProtLCaf360、ProtLCaf364、ProtLCaf368、およびProtLCaf369は、これらの状況下でシグナルの減少がかなり低かった。このように、ProtLCaf337は、IgGの光切替可能な可逆的結合を示す。
これらの実験は、ポリペプチド配列の適切な位置に組み込まれた非天然アミノ酸Cafを含む固定化された結合タンパク質(改変ストレプトアビジンまたはプロテインL)を担持しているクロマトグラフィーマトリックスが、アフィニティークロマトグラフィーの典型的な条件下であるが競合するリガンドの適用やバッファー置換の必要なく、標的タンパク質(本開示では親和性タグが取り付けられているかまたは含まない)の可逆的結合および光誘起溶出に利用できることを証明した。
本発明は、以下のヌクレオチドおよびアミノ酸配列に関する:
配列番号1:Cafを含むStrep-Tactinの核酸配列。Cafのコドンは太字であり下線が付けられている。
配列番号2:Cafを含むStrep-Tactinのアミノ酸配列。Cafの位置は太字であり下線が付けられている。
下記において、例示目的で、Cafを含むStrep-Tactinのアミノ酸配列(配列番号2)が対応する核酸配列(配列番号1)の下に示される。Cafの位置は太字であり下線が付けられている。
配列番号3:Cafを含むコアストレプトアビジンの核酸配列。Cafのコドンは太字であり下線が付けられている。
配列番号4:Cafを含むコアストレプトアビジンのアミノ酸配列。Cafの位置は太字であり下線が付けられている。
下記において、例示目的で、Cafを含むコアストレプトアビジンのアミノ酸配列(配列番号4)が対応する核酸配列(配列番号3)の下に示される。Cafの位置は太字であり下線が付けられている。
配列番号5:Cafを含む未プロセシング形のストレプトアビジン(すなわちプレ-ストレプトアビジン)の核酸配列。Cafのコドンは太字であり下線が付けられている。
配列番号6:Cafを含む未プロセシング形のストレプトアビジン(すなわちプレ-ストレプトアビジン)のアミノ酸配列。ストレプトアビジンの分泌を指令するシグナル配列に下線が付けられている。Cafの位置は太字であり下線が付けられている。
下記において、例示目的で、Cafを含む未プロセシング形のストレプトアビジン(すなわちプレ-ストレプトアビジン)のアミノ酸配列(配列番号6)が対応する核酸配列(配列番号5)の下に示される。ストレプトアビジンの分泌を指令するシグナル配列に下線が付けられている。Cafの位置は太字であり下線が付けられている。コアストレプトアビジンの配列はGlu25 で始まりSer163で終わる。
配列番号7:Strep-Tactinの核酸配列。
配列番号8:Strep-Tactinのアミノ酸配列。Trp96は太字であり下線が引かれている。
下記において、例示目的で、ストレプタクチン(streptactin)のアミノ酸配列(配列番号8)が対応する核酸配列(配列番号7)の下に示される。Trpの位置は太字であり下線が引かれている。
配列番号9:コアストレプトアビジンの核酸配列
配列番号10:コアストレプトアビジンのアミノ酸配列(残基2~127はUniProtデータベースエントリP22629中の残基38~163に該当する;残基1は開始メチオニンである)。Trp96は太字で示され下線が付けられている。
下記において、例示目的で、コアストレプトアビジンのアミノ酸配列(配列番号10)が対応する核酸配列(配列番号9)の下に示される。Trp96の位置が太字で示され下線が付けられている。
配列番号11:未プロセシング形のストレプトアビジン(プレ-ストレプトアビジン)の核酸配列。
配列番号12:プレ-ストレプトアビジンのアミノ酸配列。Trp132が太字で示され下線が付けられている。
下記において、例示目的で、プレ-ストレプトアビジンのアミノ酸配列(配列番号12)が対応する核酸配列(配列番号11)の下に示される。Trp132の位置が太字で示され下線が付けられている。
配列番号13:Strep-tagのアミノ酸配列
AWRHPQFGG
配列番号14:Strep-tag IIのアミノ酸配列
WSHPQFEK
配列番号15:myc-tagのアミノ酸配列(UniProtデータベースエントリP01106中の残基410~419に該当する)。
EQKLISEEDL
配列番号16:プロテインAのドメインZのアミノ酸配列(UniProtデータベースエントリP38507中の残基212~269に該当する)。Caf取り込みに適当な位置は、太字で示され下線が付けられた、Phe5, Gln9, Phe13, Tyr14, Glu25, Gln26, Arg27, Asn28 Ala29, Phe30, Ile31, Gln32, Lys35, Asp36, Asp37, Gln40, Asn43, Leu45, Glu47, Leu51, Asn52である。
配列番号17:プロテインGのC1ドメインのアミノ酸配列(UniProtデータベースエントリP19909中の残基303~357に該当する)。Caf組み込みに適当な位置は、太字で示され下線が付けられた、Lys3, Ile5, Thr10, Thr16, Val28, Tyr32, Asp35である。
配列番号18:プロテインGのC2ドメインのアミノ酸配列(UniProtデータベースエントリP19909中の残基373~427に該当する)。Caf組み込みに適当な位置は、太字で示され下線が付けられた、Lys3, Val5, Thr10, Thr16, Val28, Tyr32, Asp35 である。
配列番号19:プロテインGのC3ドメインのアミノ酸配列(UniProtデータベースエントリP19909中の残基443~497に該当する)。Caf取り込みに適当な位置は、太字で示され下線が付けられた、Lys3, Val5, Thr10, Thr16, Ala28, Tyr32, Asp35 である。
配列番号20:プロテインLのドメインB1のアミノ酸配列(UniProtデータベースエントリQ51918中の残基326~389に該当する)。Caf組み込みに適当な位置は、太字で示され下線が付けられている、Thr5 (330), Asn9 (334), Ile11 (336), Phe12 (337), Lys16 (341), Phe 22 (347) Phe26 (351), Lys32 (357), Ala35 (360), Leu39 (364), Glu43 (368), Asn44 (369) Tyr47 (372)である。
配列番号21:anti-myc-tagモノクローナル抗体クローン9E10の重鎖のアミノ酸配列(GenBankエントリCAN87018中の残基20~470に該当する)。Caf組み込みに適当な位置は、GenBankデータベースエントリCAN87018のTyr76, Phe121, Tyr122, Tyr123, Tyr124, Tyr128, Tyr129およびTyr130に該当する残基であり、太字で示され下線が付けられている。より詳しくは、該配列はGenBankデータベースエントリCAN87018の残基20で始まり、Tyr76, Phe121, Tyr122, Tyr123, Tyr124, Tyr128, Tyr129およびTyr130に該当する位置は、下記に示す配列中の位置Tyr76, Phe121, Tyr122, Tyr123, Tyr124, Tyr128, Tyr129およびTyr130に該当する。
配列番号22:anti-myc-tagモノクローナル抗体クローン9E10の軽鎖のアミノ酸配列(GenBankエントリCAN87019中の残基21~238に該当する)。
配列番号23:pSBX8.101d58の核酸配列。
配列番号24:catUAG119の核酸配列。
配列番号25:GFPUAG39の核酸配列。
配列番号26:wt PylRSの核酸配列
配列番号27:
TAGCTGCATGGTTTTTGGTGATACCCTGG
配列番号28:
CCAGGGTATCACCAAAAACCATGCAGCTA
配列番号29:PylRS#1の核酸配列(Y349F)
配列番号30:
GAGCTTAACCCGGTCTCAGTTAGATCG
配列番号31:
GGTAGCGGTTGTACCCGTG
配列番号32:
配列番号33:
配列番号34:
CTTTCAGCAGACGTTCGAGAC
配列番号35:CafRS#7の核酸配列
配列番号36:CafRS#7-R6の核酸配列
配列番号37:
配列番号38:
配列番号39:Caf39RS#29の核酸配列
配列番号40:CafRS#29-R5の核酸配列
配列番号41:
配列番号42:
配列番号43:CafRS#30の核酸配列
配列番号44:pSAm1の核酸配列
配列番号45:
配列番号46:
配列番号47:核酸配列SAm1UAG44
配列番号48:
GATCAACACCCAGTAGCTGCTGACCTCC
配列番号49:
GGAGGTCAGCAGCTACTGGGTGTTGATC
配列番号50:
GAGGCCAACGCCTAGAAGTCCACGCTGG
配列番号51:
CCAGCGTGGACTTCTAGGCGTTGGCCTC
配列番号52:核酸配列SAm1UAG120
配列番号53:pSBX8.CafRS#30.d58の核酸配列
配列番号54:pSBX8.CafRS#30.d47の核酸配列
配列番号55:pSBX8.CafRS#30.d53の核酸配列
配列番号56:pSBX8.CafRS#30.d51の核酸配列
配列番号57:pAKS75-PhoA-strepIIの核酸配列
配列番号58:ヒトアルブミン結合ドメイン(ABD)の核酸配列
CTGGCAGAAGCAAAAGTTCTGGCAAATCGTGAACTGGATAAATATGGTGTGAGCGACTATTACAAGAACCTGATTAATAACGCGAAAACCGTGGAAGGTGTTAAAGCACTGATTGATGAAATTCTGGCAGCACTGCCG
配列番号59:ヒトアルブミン結合ドメイン(ABD)のアミノ酸配列
LAEAKVLANRELDKYGVSDYYKNLINNAKTVEGVKALIDEILAALP
配列番号60:ProtL-ABD融合タンパク質の核酸配列
配列番号61:ProtL-ABD融合タンパク質のアミノ酸配列。メチオニン(下線付き)を出発コドンとして追加した。
下記において、例示目的で、ProtL-ABDのアミノ酸配列(配列番号61)が対応する核酸配列(配列番号60)の下に示される。プロテインLドメインB1の配列はLys326で始まりそGly389で終わる(UniProt Q51918)。337,347,360,364,368および369の位置が太字で示され下線が付けられている。
配列番号62:pASK75-ProtL-ABDの核酸配列
配列番号85:pSBX8.CafRS#30d71の核酸配列
配列番号86:ProtLUAG337-ABDのアミノ酸配列。Cafの位置が太字で示され下線が付けられている。