まず、本発明の完成に至った経緯を述べる。本発明者らは、窒素含有量が相対的に多い高窒化層と窒素含有量が相対的に少ない低窒化層の積層構造を含む位相シフト膜において、透過率および位相差の面内均一性が良好であり、膜応力が許容範囲内となる位相シフト膜を備えたマスクブランクについて、鋭意研究を行った。
一般に、スパッタ法で金属化合物の薄膜を成膜する場合、大きく分けて以下の2つの方法がある。
1つ目の方法は、スパッターゲットを予めその薄膜と同組成の金属化合物で形成するものである。この場合、貴ガスのみをスパッタガスとするスパッタリングで基板上にスパッタ粒子を積層させ、金属化合物の薄膜を基板上に形成する。
また、2つ目の方法は、スパッターゲットを、その薄膜の金属成分と同じ金属で形成するものである。この場合、その薄膜の非金属元素を含むガス(例えば、N2ガス)と貴ガスの混合ガスをスパッタガスとする反応性スパッタリングで基板上にスパッタ粒子と非金属元素の化合物を積層させ、金属化合物の薄膜を基板上に形成する。
窒素含有量が相対的に多い高窒化層と窒素含有量が相対的に少ない低窒化層の積層構造を含む位相シフト膜において、上述した2つ目の方法で成膜する場合には、Siターゲットを用い、N2ガス(反応性ガス)とKrガスおよびHeガス(貴ガス)の混合ガスをスパッタガスとする反応性スパッタリングを用いて、スパッタガス中の窒素ガスの流量比を増減させることで、基板上に形成される各層の窒化度合いを調整することが行われている。本発明者らは、まず、スパッタガス中の各ガスの流量比、スパッタ室内のガス圧、スパッタ電力等の成膜条件を調整することを検討したが、十分に改善させることはできなかった。
次に、本発明者らは、スパッタガスの貴ガスからHeガスを除いて成膜する(すなわち、スパッタガスは、N2ガスとKrガスのみ。)ことを試みた。その結果、この位相シフト膜の面内での位相差の均一性と透過率の均一性は、所望の範囲内に高めることができた。しかし、この位相シフト膜の膜応力がさらに大きくなっており(基板が凸方向に大きく変形する応力を有していた。応力の絶対値は、変更前よりも大きい。)、この膜応力も同時に低減する成膜方法を見つけ出す必要があった。
本発明者がさらなる研究を重ねた結果、スパッタガスの貴ガスをKrガスとXeガスを含む混合ガスとし、反応性スパッタリングで位相シフト膜を成膜することを見出した。その成膜方法で形成した位相シフト膜は、ArF露光光に対する面内の位相差の均一性、および透過率の均一性が所定の基準を満たす高さになり、アニール処理後の膜応力も問題ない範囲になることが判明した。また、スパッターゲットを予め位相シフト膜と同組成の金属化合物で形成する方法で成膜する場合にも、スパッタガスの貴ガスをKrガスとXeガスを含む混合ガスとすることで、ArF露光光に対する面内の位相差の均一性、および透過率の均一性が所定の基準を満たす高さになり、アニール処理後の膜応力も問題ない範囲になることが判明した。
本発明者らは、スパッタガスの貴ガスをKrガスとXeガスを含む混合ガスとすることで、成膜時の成膜室内における混合ガスのプラズマ分布の拡がりが良好になり、これにより、上述した効果が得られるものと推察している。ただし、この推察は、出願時点における本発明者らの推測に基づくものであり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
このように、本発明のマスクブランクは、透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、位相シフト膜は、高窒化層と低窒化層を含み、高窒化層と低窒化層は、ケイ素、窒素、クリプトンおよびキセノンを含むことを特徴とするものである。
次に、本発明の各実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るマスクブランク100の構成を示す断面図である。図1に示すマスクブランク100は、透光性基板1上に、位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4がこの順に積層した構造を有する。
透光性基板1は、合成石英ガラスのほか、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO2-TiO2ガラス等)などで形成することができる。これらの中でも、合成石英ガラスは、ArFエキシマレーザー光(波長193nm)に対する透過率が高く、マスクブランクの透光性基板を形成する材料として特に好ましい。
位相シフト膜2は、位相シフト効果を有効に機能させるためには、ArFエキシマレーザーの露光光(以下、ArF露光光という。)に対する透過率が1%以上であることが好ましく、2%以上であるとより好ましい。また、位相シフト膜2は、ArF露光光に対する透過率が30%以下になるように調整されていることが好ましく、20%以下であるとより好ましく、18%以下であるとさらに好ましい。
また、位相シフト膜2は、ArF露光光に対する透過率の面内分布(面内均一性)が目標値に対して絶対値で0.2%以下(±0.2%以内)であると好ましく、絶対値で0.18%以下(±0.18%以内)であるとより好ましい。
位相シフト膜2は、適切な位相シフト効果を得るために、透過するArF露光光に対し、この位相シフト膜2の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した光との間で所定の位相差を生じさせる機能を有することが求められる。また、その位相差は、150度以上210度以下の範囲になるように調整されていることが好ましい。位相シフト膜2における前記位相差の下限値は、160度以上であることがより好ましく、170度以上であるとさらに好ましい。他方、位相シフト膜2における前記位相差の上限値は、200度以下であることがより好ましく、190度以下であるとさらに好ましい。
また、位相シフト膜2は、ArF露光光に対する位相差の面内分布(面内均一性)が目標値に対して絶対値で1.0度以下(±1.0度以内)であると好ましい。
本発明の位相シフト膜2は、高窒化層22と低窒化層21とからなる1組の積層構造を有する構造(2層構造)が少なくとも含まれる。そして、本発明の位相シフト膜2は、2以上の高窒化層22と2以上の低窒化層21が交互に積層した構造を含むことが、エッチングで位相シフト膜2をパターニングする際のパターン側壁の制御性の観点から、好ましい。図1の位相シフト膜2は、高窒化層22と低窒化層21とからなる1組の積層構造を5組備えるものである。この位相シフト膜2は、透光性基板1側から高窒化層22と低窒化層21がこの順に積層した1組の積層構造を5組備え、最上の低窒化層21の上に最上層23がさらに積層した構造を有している。
高窒化層22および低窒化層21は、ケイ素、窒素、クリプトンおよびキセノンを含有する材料で形成される。クリプトンおよびキセノンを含む貴ガスは、反応性スパッタリングで薄膜を成膜する際に成膜室内に存在することによって成膜速度を大きくし、生産性を向上させることができる元素である。この貴ガスがプラズマ化し、ターゲットに衝突することでターゲットからターゲット構成元素が飛び出し、途中、反応性ガスを取りこみつつ、透光性基板1上に積層されて薄膜が形成される。このターゲット構成元素がターゲットから飛び出し、透光性基板に付着するまでの間に成膜室中の貴ガスがわずかに取り込まれる。上述のように、この反応性スパッタリングで必要とされる貴ガスとしてクリプトンおよびキセノンを用いることにより、透過率および位相差の面内均一性が良好であり、膜応力が許容範囲内となるように位相シフト膜2を成膜することができる。
低窒化層21および高窒化層22には、ArF露光光に対する耐光性の観点から、遷移金属の含有量が1原子%未満であることが好ましく、遷移金属は含有しないようにすることがより好ましい。また、高窒化層22および低窒化層21には、遷移金属を除く金属元素についても、ArF露光光に対する耐光性の観点から、含有させないことが望ましい。高窒化層22および低窒化層21は、ケイ素、窒素、クリプトンおよびキセノンからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素、窒素、クリプトンおよびキセノンとからなる材料で形成することが好ましい。高窒化層22および低窒化層21は、ケイ素に加え、いずれの半金属元素を含有してもよい。この半金属元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる1以上の元素を含有させると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。
高窒化層22および低窒化層21は、ケイ素、窒素、クリプトンおよびキセノンに加え、いずれの非金属元素を含有してもよい。ここで、本発明における非金属元素は、狭義の非金属元素(窒素、炭素、酸素、リン、硫黄、セレン)、ハロゲンおよびクリプトンおよびキセノン以外の貴ガスを含むものをいう。この非金属元素の中でも、炭素、フッ素及び水素から選ばれる1以上の元素を含有させると好ましい。高窒化層22および低窒化層21は、酸素の含有量を10原子%以下に抑えることが好ましく、5原子%以下とすることがより好ましく、積極的に酸素を含有させることをしない(X線光電子分光法等による組成分析を行ったときに検出下限値以下。)ことがさらに好ましい。窒化ケイ素系材料膜に酸素を含有させると、消衰係数kが大きく低下する傾向があり、位相シフト膜2の全体の厚さが厚くなってしまう。
高窒化層22および低窒化層21は、ケイ素、窒素、クリプトンおよびキセノンの合計含有量が90原子%以上であることが好ましく、95原子%以上であるとより好ましく、98原子%以上であるとさらに好ましく、99原子%以上であるとより一層好ましい。
透光性基板は、合成石英ガラス等のSiO2を主成分とする材料で形成されていることが一般的である。高窒化層22および低窒化層21のいずれかが透光性基板1の表面に接して形成される場合、その層が酸素を含有すると、酸素を含む窒化ケイ素系材料膜の組成とガラスの組成との差が小さくなり、位相シフト膜2にパターンを形成するときに行われるフッ素系ガスによるドライエッチングにおいて、透光性基板1に接する層(高窒化層22または低窒化層21)と透光性基板1との間でエッチング選択性が得られにくくなるという問題が生じることがある。
高窒化層22および低窒化層21は、クリプトンおよびキセノン以外の貴ガスを含有してもよい。しかしながら、膜応力の緩和やの面内均一性の観点からは、クリプトンおよびキセノン以外の貴ガスは積極的に含有させないことが好ましい。すなわち、貴ガスは、クリプトンおよびキセノンのみとすることが好ましい。
高窒化層22の窒素含有量は、50原子%以上であることが好ましい。ケイ素系膜はArF露光光に対する屈折率nが非常に小さく、ArF露光光に対する消衰係数kが大きい(以降、単に屈折率nと表記されている場合、ArF露光光に対する屈折率nのことをいい、単に消衰係数kと表記されている場合、ArF露光光に対する消衰係数kのことをいう。)。ケイ素系膜中の窒素含有量が多くなるに従い、屈折率nが大きくなっていき、消衰係数kが小さくなっていく傾向がある。位相シフト膜2に求められる透過率を確保しつつ、より薄い厚さで求められる位相差も確保するには、高窒化層22の窒素含有量を50原子%以上とすることが望まれる。高窒化層22の窒素含有量は、52原子%以上であると好ましい。また、高窒化層22の窒素含有量は、57原子%以下であると好ましく、55原子%以下であるとより好ましい。
低窒化層21の窒素含有量は、50原子%未満であることが好ましい。低窒化層21の窒素含有量は、48原子%以下であると好ましく、45原子%以下であるとより好ましい。また、低窒化層21の窒素含有量は、20原子%以上であると好ましく、25原子%以上であるとより好ましい。位相シフト膜2に求められる透過率を確保しつつ、より薄い厚さで求められる位相差も確保するには、低窒化層21の窒素含有量を20原子%以上とすることが望まれる。
高窒化層22および低窒化層21は、同じ構成元素からなることが好ましい。高窒化層22および低窒化層21のいずれかが異なる構成元素を含んでおり、これらが接して積層している状態で加熱処理または光照射処理が行われた場合やArF露光光の照射が行われた場合、その異なる構成元素がその構成元素を含んでいない側の層に移動して拡散するおそれがある。そして、高窒化層22および低窒化層21の光学特性が、成膜当初から大きく変わってしまうおそれがある。また、特にその異なる構成元素が半金属元素である場合、高窒化層22および低窒化層21を異なるターゲットを用いて成膜する必要が生じる。
本実施形態における高窒化層22は、低窒化層21よりもArF露光光に対する透過率が高いものであることが好ましい。この場合において、高窒化層22は高透過層と、低窒化層21は低透過層として機能することになる。
高窒化層22および低窒化層21は、ケイ素、窒素、クリプトンおよびキセノンからなる材料で形成することが好ましい。なお、クリプトンおよびキセノンといった貴ガスは、薄膜に対してRBS(Rutherford Back-Scattering Spectrometry)やXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)のような組成分析を行っても検出することが困難な元素である。高窒化層22および低窒化層21は、クリプトンおよびキセノンがHR-RBS(高分解能ラザフォード後方散乱分析法)によって検出されるレベルで含有されていることが好ましい。さらに、高窒化層22および低窒化層21は、クリプトンおよびキセノンが通常のRBSまたはXPSの組成分析によって検出されるレベルで含有されていることがより好ましい。
高窒化層22は、エッチングで高窒化層22をパターニングする際のパターン側壁の制御性等の観点から、厚さが20nm以下であることが好ましい。高窒化層22の厚さは、15nm以下であると好ましく、10nm以下であるとより好ましい。一方、高窒化層22の厚さは、3nm以上であることが好ましく、4nm以上であるとより好ましく、5nm以上であるとさらに好ましい。高窒化層22の厚さが3nm未満であると、後述の通り、低窒化層21はそれよりも薄くする必要が生じる。そのような薄い低窒化層21は、低透過層の構成元素と高透過層の構成元素が混在する混合領域(0.1~2nm程度)のみになってしまい、低窒化層21に求められる所望の光学特性が得られなくなる恐れがある。なお、ここでの高窒化層22の厚さには上記の混合領域が含まれるものとする。
低窒化層21は、その厚さが高窒化層22の厚さよりも薄いことが好ましい。低窒化層21の厚さが高窒化層22の厚さ以上であると、そのような位相シフト膜2は求められる透過率と位相差が得られにくくなくなる。低窒化層21は、厚さが15nm以下であると好ましく、10nm以下であるとより好ましい。また、低窒化層21は、厚さが2nm以上であると好ましく、3nm以上であるとより好ましい。
低窒化層21は、その厚さが高窒化層22の厚さの1/2以下であると好ましい。低窒化層21は、高窒化層22よりもArF露光光に対する屈折率nが小さく、かつArF露光光に対する消衰係数kが大きい。このため、低窒化層の合計膜厚が、高窒化層の合計膜厚の1/2よりも大きくなると、位相シフト膜2を所望の透過率と位相差に調整することが難しくなる。
位相シフト膜2における高窒化層22と低窒化層21とからなる積層構造の組数は、2組(合計4層)以上であることが好ましく、4組(合計8層)以上であるとより好ましい。また、位相シフト膜2における高窒化層22と低窒化層21とからなる積層構造の組数は、10組(合計20層)以下であると好ましく、9組(合計18層)以下であるとより好ましく、8組(合計16層)以下であるとさらに好ましい。位相シフト膜2における高窒化層22と低窒化層21は、他の膜を介さずに、直接互いに接して積層する構造であることが好ましい。
位相シフト膜2に対するEB欠陥修正(この「EB欠陥修正」は、薄膜パターンの黒欠陥部分に対し、XeF2等のフッ素を含有するガスを供給しつつ電子線を照射して黒欠陥を除去する欠陥修正のことをいう。)の終点検出精度の観点からは、高窒化層22と低窒化層21とからなる積層構造は、透光性基板1側から高窒化層22と低窒化層21がこの順に積層していることが好ましい。
透光性基板1は、酸化ケイ素を主成分とする材料で形成されている。位相シフト膜2の透光性基板1と接する側の層は、窒素含有量が多い高窒化層22を配置したほうが、EB欠陥修正時の終点検出に有利である。
一方、窒化ケイ素系材料の位相シフト膜2にドライエッチングでパターンを形成する際、SF6のような透光性基板1に対するドライエッチングのエッチングレートが比較的小さいフッ素系ガスが用いられるのが一般的である。SF6のようなフッ素系ガスによるドライエッチングに対しては、窒素含有量が少ない低窒化層21の方が透光性基板1との間でのエッチング選択性を高くすることができる。位相シフト膜2に対するドライエッチングの観点では、高窒化層22と低窒化層21とからなる積層構造は、透光性基板1側から低窒化層21と高窒化層22がこの順に積層していることが好ましい。
高窒化層22は、ArF露光光に対する屈折率nが2.5以上(好ましくは2.6以上)であり、消衰係数kが1.0未満(好ましくは0.9以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.5以下)である材料で形成されていることが好ましい。また、低窒化層21は、屈折率nが2.5未満(好ましくは2.4以下、より好ましくは2.2以下)であり、かつ消衰係数kが1.0以上(好ましくは1.1以上、より好ましくは1.4以上)である材料で形成されていることが好ましい。6層以上の積層構造で位相シフト膜2を構成した場合に、位相シフト膜2として求められる光学特性であるArF露光光に対する所定の位相差と所定の透過率を満たすには、高窒化層22および低窒化層21は、それぞれ上記の屈折率nと消衰係数kの範囲になければ実現が困難であるためである。
薄膜の屈折率nおよび消衰係数kは、その薄膜の組成だけで決まるものではない。その薄膜の膜密度および結晶状態なども、屈折率nおよび消衰係数kを左右する要素である。このため、反応性スパッタリングで薄膜を成膜するときの諸条件を調整して、その薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kとなるように成膜する。高窒化層22および低窒化層21を、上記の屈折率nおよび消衰係数kの範囲にするには、反応性スパッタリングで成膜する際に、貴ガスと反応性ガスの混合ガスの比率を調整することだけに限られない。反応性スパッタリングで成膜する際における成膜室内の圧力、ターゲットに印加する電力、ターゲットと透光性基板との間の距離等の位置関係など多岐にわたる。また、これらの成膜条件は成膜装置に固有のものであり、形成される薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kになるように適宜調整されるものである。
高窒化層22および低窒化層21は、スパッタリングによって形成されるが、DCスパッタリング、RFスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリングも適用可能である。導電性が低いターゲット(ケイ素ターゲット、半金属元素を含有しないあるいは含有量の少ないケイ素化合物ターゲットなど)を用いる場合においては、RFスパッタリングやイオンビームスパッタリングを適用することが好ましいが、成膜レートを考慮すると、RFスパッタリングを適用することがより好ましい。
高窒化層22の厚さと低窒化層21の厚さの合計の厚さは、位相シフト膜2の厚さの70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。また、高窒化層22の厚さと低窒化層21の厚さの合計の厚さは、後述の最上層を設けることを考慮すると、位相シフト膜2の厚さの95%以下であることが好ましい。なお、位相シフト膜2中に高窒化層22および/または低窒化層21が複数層ある場合、上記の高窒化層22の厚さと低窒化層21の厚さの合計の厚さは、位相シフト膜2中の全ての高窒化層22の厚さを合わせた厚さと、位相シフト膜2中の全ての低窒化層21の厚さを合わせた厚さとの合計の厚さとして算出するものとする。一方、位相シフト膜2の厚さは、50nm以上であることが好ましい。また、位相シフト膜2の厚さは、90nm以下であることが好ましく、80nm以下であるとより好ましく、70nm以下であるとさらに好ましい。
マスクブランク100を製造する方法は、ケイ素ターゲットまたは半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素とからなるターゲットを用い、窒素系ガスと貴ガスを含むスパッタリングガス中での反応性スパッタリングによって、透光性基板1上に高窒化層22を形成する高窒化層形成工程と、ケイ素ターゲットまたは半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素とからなるターゲットを用い、窒素系ガスと貴ガスを含むスパッタリングガスであり、高窒化層形成工程のときよりも窒素系ガスの混合比率が低いスパッタリングガス中での反応性スパッタリングによって、透光性基板1上に低窒化層21を形成する低窒化層形成工程と、を有することが好ましい。
また、このマスクブランク100の製造方法は、高窒化層形成工程で使用されるスパッタリングガスが、成膜が不安定になる傾向を有する遷移モードとなる窒素ガスの混合比率の範囲よりも多い窒素ガスの混合比率、いわゆるポイズンモード(反応モード)に選定され、低窒化層形成工程で使用されるスパッタリングガスが、遷移モードとなる窒素系ガスの混合比率の範囲よりも少ない窒素系ガスの混合比率、いわゆるメタルモードに選定されることが好ましい。
高窒化層形成工程および低窒化層形成工程で用いられる窒素系ガスは、窒素を含有するガスであればいずれのガスも適用可能である。上記の通り、高窒化層22および低窒化層21は、酸素含有量を低く抑えることが好ましいため、酸素を含有しない窒素系ガスを適用することが好ましく、窒素ガス(N2ガス)を適用することがより好ましい。また、高窒化層形成工程および低窒化層形成工程で用いられる貴ガスは、クリプトンおよびキセノンを含むものであることが好ましく、クリプトンおよびキセノンのみであることがより好ましい。
位相シフト膜2は、透光性基板1から最も離れた位置に、ケイ素および酸素を含有する材料で形成された最上層23を備えることが好ましい。酸素を積極的に含有させず、かつ窒素を含有させたケイ素系材料膜は、ArF露光光に対する耐光性は高いが、酸素を積極的に含有させたケイ素系材料膜に比べて耐薬性が低い傾向にある。また、位相シフト膜2の透光性基板1側とは反対側の最上層23として、酸素を積極的に含有させず、かつ窒素を含有させた高窒化層22または低窒化層21を配置したマスクブランク100の場合、そのマスクブランク100から作製した位相シフトマスク200に対してマスク洗浄を行うことや大気中での保管を行うことによって、位相シフト膜2の表層が酸化していくことを回避することは難しい。そのような構成の位相シフト膜2の場合、その表層が酸化すると、薄膜の成膜時の光学特性から大きく変わってしまう。特に、位相シフト膜2の最上層23として低窒化層21を設けた構成の場合には、低窒化層21が酸化することによる透過率の上昇幅は大きくなってしまう。位相シフト膜2を、高窒化層22および低窒化層21の積層構造の上に、さらに、ケイ素および酸素を含有する材料で形成された最上層23を設けることで、高窒化層22および低窒化層21の表面酸化を抑制することができる。
一方、最上層23は、ケイ素、酸素、クリプトンおよびキセノンを含有する材料で形成してもよい。最上層23は、ArF露光光に対する耐光性の観点から、遷移金属の含有量が1原子%未満であることが好ましく、遷移金属は含有しないようにすることがより好ましい。また、最上層23は、遷移金属を除く金属元素についても、ArF露光光に対する耐光性の観点から、含有しないことが望ましい。最上層23は、さらに窒素を含有するとより好ましい。このような構成とすることにより、高窒化層22および低窒化層21の表面酸化を抑制しつつ、位相シフト膜2の全体の厚さを薄くすることができる。
最上層23は、ケイ素、窒素、酸素、クリプトンおよびキセノンからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素、窒素、酸素、クリプトンおよびキセノンとからなる材料で形成することが好ましい。最上層23は、ケイ素に加え、いずれの半金属元素を含有してもよい。半金属元素および非金属元素の事項については、上記の高窒化層22および低窒化層21の場合と同様である。最上層23は、ケイ素、窒素、酸素、クリプトンおよびキセノンの合計含有量が90原子%以上であることが好ましく、95原子%以上であるとより好ましく、98原子%以上であるとさらに好ましく、99原子%以上であるとより一層好ましい。
最上層23の厚さは、15nm以下であると好ましく、10nm以下であるとより好ましい。一方、最上層23の厚さは、2nm以上であることが好ましく、3nm以上であるとより好ましく、4nm以上であるとさらに好ましい。最上層23は、スパッタリングによって形成されるが、DCスパッタリング、RFスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリングも適用可能である。導電性が低いターゲット(ケイ素ターゲット、半金属元素を含有しないあるいは含有量の少ないケイ素化合物ターゲットなど)を用いる場合においては、RFスパッタリングやイオンビームスパッタリングを適用することが好ましいが、成膜レートを考慮すると、RFスパッタリングを適用することがより好ましい。
位相シフト膜2は、位相シフト膜2が形成される前の透光性基板1の主表面の表面形状と、その透光性基板1上に位相シフト膜2が形成され、さらにアニール処理(加熱処理)が行われた後の位相シフト膜2の表面形状との間の差分形状から算出される平坦度変化量の絶対値が、0.2μm以下になるような膜応力に収まっていることが好ましく、0.15μm以下になるような膜応力に収まっていることがより好ましい。
マスクブランク100において、位相シフト膜2上に遮光膜3を備えることが好ましい。一般に、位相シフトマスク200(図2参照)では、転写パターンが形成される領域(転写パターン形成領域)の外周領域は、露光装置を用いて半導体ウェハ上のレジスト膜に露光転写した際に外周領域を透過した露光光による影響をレジスト膜が受けないように、所定値以上の光学濃度(OD)を確保することが求められている。位相シフトマスク200の外周領域では、光学濃度が2.0よりも大きいことが少なくとも求められている。上記の通り、位相シフト膜2は所定の透過率で露光光を透過する機能を有しており、位相シフト膜2だけでは上記の光学濃度を確保することは困難である。このため、マスクブランク100を製造する段階で位相シフト膜2の上に、不足する光学濃度を確保するために遮光膜3を積層しておくことが望まれる。このようなマスクブランク100の構成とすることで、位相シフト膜2を製造する途上で、位相シフト効果を使用する領域(基本的に転写パターン形成領域)の遮光膜3を除去すれば、外周領域に上記の光学濃度が確保された位相シフトマスク200を製造することができる。なお、マスクブランク100は、位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における光学濃度が2.5以上であると好ましく、2.8以上であるとより好ましい。また、遮光膜3の薄膜化のため、位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における光学濃度は4.0以下であると好ましい。
遮光膜3は、単層構造および2層以上の積層構造のいずれも適用可能である。また、単層構造の遮光膜3および2層以上の積層構造の遮光膜3の各層は、膜または層の厚さ方向でほぼ同じ組成である構成であってもよく、層の厚さ方向で組成傾斜した構成であってもよい。
遮光膜3は、位相シフト膜2との間に別の膜を介さない場合においては、位相シフト膜2にパターンを形成する際に用いられるエッチングガスに対して十分なエッチング選択性を有する材料を適用する必要がある。この場合、遮光膜3は、クロムを含有する材料で形成することが好ましい。この遮光膜3を形成するクロムを含有する材料としては、クロム金属のほか、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる1以上の元素を含有する材料が挙げられる。
一般に、クロム系材料は、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスでエッチングされるが、クロム金属はこのエッチングガスに対するエッチングレートがあまり高くない。塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスのエッチングガスに対するエッチングレートを高める点を考慮すると、遮光膜3を形成する材料としては、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる1以上の元素を含有する材料を用いることが好ましい。また、遮光膜3を形成するクロムを含有する材料に、モリブデンおよびスズのうち1以上の元素を含有させてもよい。モリブデンおよびスズのうち1以上の元素を含有させることで、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスに対するエッチングレートをより高くすることができる。
一方、マスクブランク100において、遮光膜3と位相シフト膜2との間に別の膜を介する構成とする場合においては、前記のクロムを含有する材料でその別の膜(エッチングストッパ兼エッチングマスク膜)を形成し、ケイ素を含有する材料で遮光膜3を形成する構成とすることが好ましい。クロムを含有する材料は、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによってエッチングされるが、有機系材料で形成されるレジスト膜は、この混合ガスでエッチングされやすい。ケイ素を含有する材料は、一般にフッ素系ガスや塩素系ガスでエッチングされる。これらのエッチングガスは基本的に酸素を含有しないため、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによってエッチングする場合よりも、有機系材料で形成されるレジスト膜の減膜量が低減できる。このため、レジスト膜の膜厚を低減することができる。
遮光膜3を形成するケイ素を含有する材料には、遷移金属を含有させてもよく、遷移金属以外の金属元素を含有させてもよい。これは、このマスクブランク100から位相シフトマスク200を作製した場合、遮光膜3で形成されるパターンは、基本的に外周領域の遮光帯パターンであり、転写パターン形成領域に比べてArF露光光が照射される積算量が少ないことや、この遮光膜3が微細パターンで残っていることは稀であり、ArF耐光性が低くても実質的な問題は生じにくいためである。また、遮光膜3に遷移金属を含有させると、含有させない場合に比べて遮光性能が大きく向上し、遮光膜の厚さを薄くすることが可能となるためである。遮光膜3に含有させる遷移金属としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)等のいずれか1つの金属またはこれらの金属の合金が挙げられる。
一方、遮光膜3を形成するケイ素を含有する材料として、ケイ素及び窒素からなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と窒素とからなる材料を適用してもよい。
上記の位相シフト膜2に積層して遮光膜3を備えるマスクブランク100において、遮光膜3の上に遮光膜3をエッチングするときに用いられるエッチングガスに対してエッチング選択性を有する材料で形成されたハードマスク膜4をさらに積層させた構成とするとより好ましい。遮光膜3は、所定の光学濃度を確保する機能が必須であるため、その厚さを低減するには限界がある。ハードマスク膜4は、その直下の遮光膜3にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能することができるだけの膜の厚さがあれば十分であり、基本的に光学の制限を受けない。このため、ハードマスク膜4の厚さは遮光膜3の厚さに比べて大幅に薄くすることができる。そして、有機系材料のレジスト膜は、このハードマスク膜4にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能するだけの膜の厚さがあれば十分であるので、従来よりも大幅にレジスト膜の厚さを薄くすることができる。
このハードマスク膜4は、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合は、前記のケイ素を含有する材料で形成されることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、有機系材料のレジスト膜との密着性が低い傾向があるため、ハードマスク膜4の表面をHMDS(Hexamethyldisilazane)処理を施し、表面の密着性を向上させることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、SiO2、SiN、SiON等で形成されることがより好ましい。また、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合におけるハードマスク膜4の材料として、前記のほか、タンタルを含有する材料も適用可能である。この場合におけるタンタルを含有する材料としては、タンタル金属のほか、タンタルに窒素、酸素、ホウ素および炭素から選ばれる1以上の元素を含有させた材料などが挙げられる。その材料として、たとえば、Ta、TaN、TaON、TaBN、TaBON、TaCN、TaCON、TaBCN、TaBOCNなどが挙げられる。一方、このハードマスク膜4は、遮光膜3がケイ素を含有する材料で形成されている場合は、上記のクロムを含有する材料で形成されることが好ましい。
マスクブランク100において、透光性基板1と位相シフト膜2との間に、透光性基板1および位相シフト膜2ともにエッチング選択性を有する材料(上記のクロムを含有する材料、たとえば、Cr、CrN、CrC、CrO、CrON、CrC等)からなるエッチングストッパー膜を形成してよい。なお、このエッチングストッパー膜はアルミニウムを含有する材料で形成してもよい。
マスクブランク100において、上記ハードマスク膜4の表面に接して、有機系材料のレジスト膜が100nm以下の膜厚で形成されていることが好ましい。DRAM hp32nm世代に対応する微細パターンの場合、ハードマスク膜4に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)に、線幅が40nmのSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)が設けられることがある。しかし、この場合でも、レジストパターンの断面アスペクト比が1:2.5と低くすることができるので、レジスト膜の現像時、リンス時等にレジストパターンが倒壊や脱離することを抑制することができる。なお、レジスト膜は、膜厚が80nm以下であることがより好ましい。
図2に、本発明の実施形態であるマスクブランク100から位相シフトマスク200を製造する工程の断面模式図を示す。
本発明の位相シフトマスク200は、透光性基板1上に、転写パターンを有する位相シフト膜2(位相シフトパターン2a)を備えた位相シフトマスク200であって、位相シフト膜2は、高窒化層22と低窒化層21を含み、高窒化層22と低窒化層21は、ケイ素、窒素、クリプトンおよびキセノンを含むことを特徴とするものである。
この位相シフトマスク200は、マスクブランク100と同様の技術的特徴を有している。位相シフトマスク200における透光性基板1、位相シフト膜2の高窒化層22および低窒化層21並びに遮光膜3に関する事項については、マスクブランク100と同様である。このため、透過率および位相差の面内均一性が良好であり、膜応力が許容範囲内となる転写パターンを有する位相シフト膜2(位相シフトパターン2a)を備えた位相シフトマスク200を提供することができる。
また、本発明の位相シフトマスク200の製造方法は、上記のマスクブランク100を用いるものであって、後工程で位相シフト膜2に形成する転写パターンをドライエッチングにより遮光膜3に形成する工程と、転写パターンを有する遮光膜3(遮光パターン3a)をマスクとするドライエッチングにより位相シフト膜2に転写パターンを形成する工程と、遮光帯を含むパターンを有するレジスト膜(レジストパターン6b)をマスクとするドライエッチングにより遮光膜3(遮光パターン3a)に遮光帯を含むパターン(遮光パターン3b)を形成する工程とを備えることを特徴とするものである。
以下、図2に示す製造工程にしたがって、位相シフトマスク200の製造方法の一例を説明する。なお、この例では、遮光膜3にはクロムを含有する材料を適用し、ハードマスク膜4にはケイ素を含有する材料を適用している。
まず、マスクブランク100におけるハードマスク膜4に接して、レジスト膜をスピン塗布法によって形成した。次に、レジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)である第1のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、位相シフトパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図2(a)参照)。続いて、第1のレジストパターン5aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2(b)参照)。
次に、レジストパターン5aを除去してから、ハードマスクパターン4aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成する(図2(c)参照)。続いて、遮光パターン3aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつ同時にハードマスクパターン4aも除去した(図2(d)参照)。
次に、マスクブランク100上にレジスト膜をスピン塗布法によって形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜3に形成すべきパターン(遮光パターン)である第2のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図2(e)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図2(f)参照)。
上記のドライエッチングで使用される塩素系ガスとしては、Clが含まれていれば特に制限はない。たとえば、塩素系ガスとして、Cl2、SiCl2、CHCl3、CH2Cl2、CCl4、BCl3等が挙げられる。また、上記のドライエッチングで使用されるフッ素系ガスとしては、Fが含まれていれば特に制限はない。たとえば、フッ素系ガスとして、CHF3、CF4、C2F6、C4F8、SF6等が挙げられる。特に、Cを含まないフッ素系ガスは、ガラス材料の透光性基板1に対するエッチングレートが比較的低いため、透光性基板1へのダメージをより小さくすることができる。
さらに、本発明の半導体デバイスの製造方法は、前記の位相シフトマスク200または前記のマスクブランク100を用いて製造された位相シフトマスク200を用い、半導体基板上のレジスト膜にパターンを露光転写することを特徴としている。本発明の位相シフトマスク200やマスクブランク100は、上記の通りの効果を有するため、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージに、本発明の位相シフトマスク200をセットし、半導体基板上のレジスト膜に位相シフトパターン2aを露光転写する際も、半導体基板上のレジスト膜に設計仕様を十分に満たす精度でパターンを転写することができる。このため、このレジスト膜のパターンをマスクとして、その下層膜をドライエッチングして回路パターンを形成した場合、精度不足に起因する配線短絡や断線のない高精度の回路パターンを形成することができる。
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
[マスクブランクの製造]
主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.25mmの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表面が所定の表面粗さに研磨され、その後、所定の洗浄処理および乾燥処理を施されたものであった。
次に、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、および窒素(N2)の混合ガス(流量比 Kr:Xe:N2=4:3:10,圧力=0.13Pa)をスパッタリングガスとし、RF電源の電力を2.8kWとし、反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板1上に、ケイ素および窒素からなる高窒化層22(Si:N=44原子%:56原子%)を8.0nmの厚さで形成した。別の透光性基板の主表面に対して、同条件で高窒化層22のみを形成し、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000D)を用いてこの高窒化層22の光学特性を測定したところ、波長193nmにおける屈折率nが2.64、消衰係数kが0.36であった。
次に、枚葉式RFスパッタ装置内に、高窒化層22が積層された透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、および窒素(N2)の混合ガス(流量比 Kr:Xe:N2=5:4:4,圧力=0.11Pa)をスパッタリングガスとし、RF電源の電力を2.8kWとし、反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、高窒化層22上に、ケイ素および窒素からなる低窒化層21(Si:N=62原子%:38原子%)を3.5nmの厚さで形成した。別の透光性基板の主表面に対して、同条件で低窒化層21のみを形成し、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000D)を用いてこの低窒化層21の光学特性を測定したところ、波長193nmにおける屈折率nが2.20、消衰係数kが1.54であった。
以上の手順により、透光性基板1の表面に接して、高窒化層22と低窒化層21がこの順に積層した1組の積層構造を形成した。次に、この1組の積層構造が形成された透光性基板1の低窒化層21の表面に接して、同様の手順で高窒化層22と低窒化層21の積層構造をさらに4組形成した。さらに、高窒化層22を形成するときと同じ成膜条件で、透光性基板1側から最も遠い低窒化層21の表面に接して最上層23を8.0nmの厚さで形成した。以上の手順により、合計11層の積層構造を備える位相シフト膜2を形成した。
次に、この位相シフト膜2に対し、位相シフト量および透過率の面内分布をそれぞれ測定した。また、別の透光性基板上に、実施例1における位相シフト膜中の全ての高窒化層と最上層との合計膜厚に相当する厚さで高窒化SiN単層膜を成膜したものと、実施例1における位相シフト膜中の全ての低窒化層の合計膜厚に相当する厚さで構成される低窒化SiN単層膜を成膜したものを用意した。そして、高窒化SiN単層膜および低窒化SiN単層膜のそれぞれに対しても、位相シフト量および透過率の面内分布をそれぞれ測定した。その結果を図3および図4に示す。
図3に示されるように、実施例1における、高窒化SiN単層膜のみ、そして、低窒化SiN単層膜のみを成膜したものについて、位相シフト量の面内分布は、いずれも目標値の基準に対して絶対値で1.0度を上回っていた。しかしながら、高窒化層22と低窒化層21を積層した実施例1における位相シフト膜2について、位相シフト量の面内分布は、目標値に対して0.91度であり、絶対値で1.0度以下の基準を満たしていた。
また、図4に示されるように、実施例1における、高窒化SiN単層膜のみ、そして、低窒化SiN単層膜のみを成膜したものについて、透過率の面内分布は、いずれも目標値に対して絶対値で0.2%を上回っていた。しかしながら、高窒化層22と低窒化層21を積層した実施例1における位相シフト膜2について、透過率の面内分布は、目標値に対して0.16%であり、絶対値で0.2%以下の基準を満たしていた。
このように、実施例1における位相シフト膜2は、透過率および位相差の面内均一性が良好なものであった。この結果は、高窒化層22と低窒化層21との積層構造により、高窒化層22の部分と低窒化層21の部分とのそれぞれの面内分布が互いに相殺し合い、全体として改善されものと推察される。また、高窒化層22と低窒化層21との多重反射も良好に作用したためであると推察される。
また、実施例1における位相シフト膜2について、あらかじめ測定しておいた位相シフト膜2が形成される前の透光性基板1の主表面の表面形状と、位相シフト膜2が形成された後の位相シフト膜2の表面形状との差分形状を導出し、さらに平坦度変化量を算出したところ、0.241μmであった(算出領域:基板の中心から142mm×142mm。以下の実施例2、比較例1、2においても同じ)。そして、この位相シフト膜2について、大気中において加熱温度500℃、処理時間1時間の条件で加熱処理を行った。この加熱処理後の位相シフト膜2に対し、上記の位相シフト膜2が形成される前の透光性基板1の主表面の表面形状と、加熱処理後の位相シフト膜2の表面形状との差分形状を導出し、さらに平坦度変化量を算出したところ、0.103μmであり、0.15μm以内の基準を満たす良好なものとなった。
また、加熱処理後の位相シフト膜2に対し、位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM-193)でArFエキシマレーザーの光の波長(約193nm)における透過率および位相差を測定したところ、透過率は6.19%、位相差が180.98度であった。
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に加熱処理後の位相シフト膜2が形成された透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Ar:CO2:N2:He=22:39:6:33,圧力=0.2Pa)をスパッタリングガスとし、DC電源の電力を1.9kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、位相シフト膜2の表面に接して、CrOCNからなる遮光膜3の最下層を30nmの厚さで形成した。
次に、同じクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N2)の混合ガス(流量比 Ar:N2=83:17,圧力=0.1Pa)をスパッタリングガスとし、DC電源の電力を1.4kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、遮光膜3の最下層上に、CrNからなる遮光膜3の下層を4nmの厚さで形成した。
次に、同じクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Ar:CO2:N2:He=21:37:11:31,圧力=0.2Pa)をスパッタリングガスとし、DC電源の電力を1.9kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、遮光膜3の下層上に、CrOCNからなる遮光膜3の上層を14nmの厚さで形成した。以上の手順により、位相シフト膜2側からCrOCNからなる最下層、CrNからなる下層、CrOCNからなる上層の3層構造からなるクロム系材料の遮光膜3を合計膜厚48nmで形成した。
さらに、枚葉式RFスパッタ装置内に、位相シフト膜2および遮光膜3が積層された透光性基板1を設置し、二酸化ケイ素(SiO2)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガス(圧力=0.03Pa)をスパッタリングガスとし、RF電源の電力を1.5kWとし、RFスパッタリングにより遮光膜3上に、ケイ素および酸素からなるハードマスク膜4を5nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1上に、11層構造の位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例1のマスクブランク100を製造した。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例1のマスクブランク100を用い、以下の手順で実施例1の位相シフトマスク200を作製した。最初に、ハードマスク膜4の表面にHMDS処理を施した。続いて、スピン塗布法によって、ハードマスク膜4の表面に接して、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚80nmで形成した。次に、このレジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき位相シフトパターンである第1のパターンを電子線描画し、所定の現像処理および洗浄処理を行い、第1のパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図2(a)参照)。
次に、第1のレジストパターン5aをマスクとし、CF4ガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2(b)参照)。
次に、第1のレジストパターン5aを除去した。続いて、ハードマスクパターン4aをマスクとし、塩素と酸素との混合ガス(ガス流量比 Cl2:O2=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成した(図2(c)参照)。
次に、遮光パターン3aをマスクとし、フッ素系ガス(SF6とHeの混合ガス)を用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつ同時にハードマスクパターン4aを除去した(図2(d)参照)。
次に、遮光パターン3a上に、スピン塗布法によって、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚150nmで形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜3に形成すべきパターン(遮光パターン)である第2のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素と酸素との混合ガス(ガス流量比 Cl2:O2=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図2(e)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図2(f)参照)。
次に、この実施例1の位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体基板上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。
このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。この結果から、実施例1の位相シフトマスク200を露光装置のマスクステージをセットし、半導体基板上のレジスト膜に露光転写した場合でも、最終的に半導体基板上に形成される回路パターンは高精度で形成できるといえる。
(実施例2)
[マスクブランクの製造]
実施例2のマスクブランク100は、位相シフト膜2を変更した以外は、実施例1のマスクブランク100と同様の手順で製造された。具体的には、実施例2の位相シフト膜2は、以下のように製造された。
枚葉式RFスパッタ装置内に実施例1と同様の透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、および窒素(N2)の混合ガス(流量比 Kr:Xe:N2=2:1:4,圧力=0.13Pa)をスパッタリングガスとし、RF電源の電力を2.8kWとし、反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板1上に、ケイ素および窒素からなる高窒化層22(Si:N=44原子%:56原子%)を8.0nmの厚さで形成した。別の透光性基板の主表面に対して、同条件で高窒化層22のみを形成し、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000D)を用いてこの高窒化層22の光学特性を測定したところ、波長193nmにおける屈折率nが2.64、消衰係数kが0.36であった。
次に、枚葉式RFスパッタ装置内に、高窒化層22が積層された透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、および窒素(N2)の混合ガス(流量比 Kr:Xe:N2=7:3:4,圧力=0.11Pa)をスパッタリングガスとし、RF電源の電力を2.8kWとし、反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、高窒化層22上に、ケイ素および窒素からなる低窒化層21(Si:N=62原子%:38原子%)を3.5nmの厚さで形成した。別の透光性基板の主表面に対して、同条件で低窒化層21のみを形成し、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000D)を用いてこの低窒化層21の光学特性を測定したところ、波長193nmにおける屈折率nが2.20、消衰係数kが1.54であった。
以上の手順により、透光性基板1の表面に接して、高窒化層22と低窒化層21がこの順に積層した1組の積層構造を形成した。次に、この1組の積層構造が形成された透光性基板1の低窒化層21の表面に接して、同様の手順で高窒化層22と低窒化層21の積層構造をさらに4組形成した。さらに、高窒化層22を形成するときと同じ成膜条件で、透光性基板1側から最も遠い低窒化層21の表面に接して最上層23を8.0nmの厚さで形成した。以上の手順により、合計11層の積層構造を備える実施例2における位相シフト膜2を形成した。
次に、この位相シフト膜2に対し、位相シフト量および透過率の面内分布をそれぞれ測定した。また、別の透光性基板上に、実施例2における位相シフト膜中の全ての高窒化層と最上層との合計膜厚に相当する厚さで高窒化SiN単層膜を成膜したものと、実施例2における位相シフト膜中の全ての低窒化層の合計膜厚に相当する厚さで低窒化SiN単層膜を成膜したものを用意した。そして、高窒化SiN単層膜および低窒化SiN単層膜のそれぞれに対しても、位相シフト量および透過率の面内分布をそれぞれ測定した。その結果を図3および図4に示す。
図3に示されるように、実施例2における、高窒化SiN単層膜のみ、そして、低窒化SiN単層膜のみを成膜したものについて、位相シフト量の面内分布は、いずれも目標値に対して絶対値で1.0度を上回っていた。しかしながら、高窒化層22と低窒化層21を積層した実施例2における位相シフト膜2について、位相シフト量の面内分布は、目標値に対して0.92度であり、絶対値で1.0度以下の基準を満たしていた。
また、図4に示されるように、実施例2における、高窒化SiN単層膜のみ、そして、低窒化SiN単層膜のみを成膜したものについて、透過率の面内分布は、いずれも目標値に対して絶対値で0.2%を上回っていた。しかしながら、高窒化層22と低窒化層21を積層した実施例2における位相シフト膜2について、透過率の面内分布は、目標値に対して0.12%であり、絶対値で0.2%以下の基準を満たしていた。
このように、実施例2における位相シフト膜2は、透過率および位相差の面内均一性が良好なものであった。この結果は、高窒化層22と低窒化層21との積層構造により、高窒化層22の部分と低窒化層21の部分とのそれぞれの面内分布が相殺し合い、全体として改善されものと推察される。また、高窒化層22と低窒化層21との多重反射も良好に作用したためであると推察される。
また、実施例2における位相シフト膜2について、あらかじめ測定しておいた位相シフト膜2が形成される前の透光性基板1の主表面の表面形状と、位相シフト膜2が形成された後の位相シフト膜2の表面形状との差分形状を導出し、さらに平坦度変化量を算出したところ、0.324μmであった。そして、この位相シフト膜2について、大気中において加熱温度500℃、処理時間1時間の条件で加熱処理を行った。この加熱処理後の位相シフト膜2に対し、上記の位相シフト膜2が形成される前の透光性基板1の主表面の表面形状と、加熱処理後の位相シフト膜2の表面形状との差分形状を導出し、さらに平坦度変化量を算出したところ、0.128μmであり、0.15μm以内の基準を満たす良好なものとなった。
また、加熱処理後の位相シフト膜2に対し、位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM-193)でArFエキシマレーザーの光の波長(約193nm)における透過率および位相差を測定したところ、透過率は6.19%、位相差が181.82度であった。
また、別の透光性基板1に対し、実施例2における位相シフト膜2を形成し、HR-RBS分析法(高分解能ラザフォード後方散乱分析法)により測定した。図5は、本発明の実施例2における、HR-RBSの観測結果を示すグラフである。より具体的には、図5は、観測データと、この観測データに対してシミュレーションフィッティングを行った結果を示すグラフである。図5に示されるように、実施例2における位相シフト膜2において、シリコンおよび窒素に加えて、クリプトンおよびキセノンが検出された。また、この実施例2における位相シフト膜2について、デプスプロファイルを調べたところ、高窒化層22と低窒化層21のいずれにおいても、クリプトンおよびキセノンの存在が確認された。
また、この結果により、キセノンガスの流量が実施例2よりも多く、そのキセノンガスの流量よりもクリプトンガスの流量が多い実施例1の位相シフト膜2においても、クリプトンおよびキセノンが存在していることが推定される。
そして、実施例1と同様の手順により、透光性基板1上に、位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例2のマスクブランク100を製造した。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例2のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例2の位相シフトマスク200を製造した。
次に、この実施例2の位相シフトマスク200の位相シフトパターン2aに対して、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体基板上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。
このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。この結果から、実施例2の位相シフトマスク200を露光装置のマスクステージをセットし、半導体基板上のレジスト膜に露光転写した場合でも、最終的に半導体基板上に形成される回路パターンは高精度で形成できるといえる。
(比較例1)
[マスクブランクの製造]
比較例1のマスクブランクは、位相シフト膜を変更した以外は、実施例1のマスクブランク100と同様の手順で製造された。具体的には、比較例1の位相シフト膜は、以下のように製造された。
枚葉式RFスパッタ装置内に実施例1と同様の透光性基板を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)、窒素(N2)およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Kr:N2:He=3:4:20,圧力=0.29Pa)をスパッタリングガスとし、RF電源の電力を2.8kWとし、反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板上に、ケイ素および窒素からなる高窒化層(Si:N=44原子%:56原子%)を8.0nmの厚さで形成した。別の透光性基板の主表面に対して、同条件で高窒化層のみを形成し、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000D)を用いてこの高窒化層の光学特性を測定したところ、波長193nmにおける屈折率nが2.64、消衰係数kが0.36であった。
次に、枚葉式RFスパッタ装置内に、高窒化層が積層された透光性基板を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)、窒素(N2)およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Kr:N2:He=5:2:25,圧力=0.27Pa)をスパッタリングガスとし、RF電源の電力を2.8kWとし、反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、高窒化層上に、ケイ素および窒素からなる低窒化層(Si:N=62原子%:38原子%)を3.5nmの厚さで形成した。別の透光性基板の主表面に対して、同条件で低窒化層のみを形成し、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000D)を用いてこの低窒化層の光学特性を測定したところ、波長193nmにおける屈折率nが2.20、消衰係数kが1.54であった。
以上の手順により、透光性基板の表面に接して、高窒化層と低窒化層がこの順に積層した1組の積層構造を形成した。次に、この1組の積層構造が形成された透光性基板の低窒化層の表面に接して、同様の手順で高窒化層と低窒化層の積層構造をさらに4組形成した。さらに、高窒化層を形成するときと同じ成膜条件で、透光性基板側から最も遠い低窒化層の表面に接して最上層を8.0nmの厚さで形成した。以上の手順により、合計11層の積層構造を備える比較例1における位相シフト膜を形成した。
次に、この比較例1における位相シフト膜に対し、位相シフト量および透過率の面内分布をそれぞれ測定した。また、別の透光性基板上に、比較例1における位相シフト膜中の全ての高窒化層と最上層との合計膜厚に相当する厚さで高窒化SiN単層膜を成膜したものと、比較例1における位相シフト膜中の全ての低窒化層の合計膜厚に相当する厚さで低窒化SiN単層膜を成膜したものを用意した。そして、高窒化SiN単層膜および低窒化SiN単層膜のそれぞれに対しても、位相シフト量および透過率の面内分布をそれぞれ測定した。その結果を図3および図4に示す。
図3に示されるように、比較例1における、高窒化SiN単層膜のみ、そして、低窒化SiN単層膜のみを成膜したものについて、位相シフト量の面内分布は、いずれも目標値に対して絶対値で1.0度を上回っていた。そして、高窒化層と低窒化層を積層した比較例1における位相シフト膜2について、位相シフト量の面内分布は、目標値に対して2.59度であり、絶対値で1.0度以下の基準を満たすものではなかった。
また、図4に示されるように、比較例1における、高窒化SiN単層膜のみ、そして、低窒化SiN単層膜のみを成膜したものについて、透過率の面内分布は、いずれも目標値に対して絶対値で0.2%を上回っていた。そして、高窒化層と低窒化層を積層した比較例1における位相シフト膜について、透過率の面内分布は、目標値に対して0.21%であり、絶対値で0.2%以下の基準を満たすものではなかった。
このように、比較例1における位相シフト膜2は、透過率および位相差の面内均一性のいずれについても、基準を満たすものではなかった。
また、比較例1における位相シフト膜について、あらかじめ測定しておいた位相シフト膜が形成される前の透光性基板1の主表面の表面形状と、位相シフト膜が形成された後の位相シフト膜の表面形状との差分形状を導出し、さらに平坦度変化量を算出したところ、0.169μmであった。そして、この位相シフト膜について、大気中において加熱温度500℃、処理時間1時間の条件で加熱処理を行った。この加熱処理後の位相シフト膜に対し、上記の位相シフト膜が形成される前の透光性基板1の主表面の表面形状と、加熱処理後の位相シフト膜の表面形状との差分形状を導出し、さらに平坦度変化量を算出したところ、-0.181μmであり、0.2μm以内の基準は満たすものの、0.15μm以内の基準を満たすものではなかった。
また、加熱処理後の比較例1の位相シフト膜に対し、位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM-193)でArFエキシマレーザーの光の波長(約193nm)における透過率および位相差を測定したところ、透過率は6.35%、位相差が179.54度であった。
そして、実施例1と同様の手順により、透光性基板上に、位相シフト膜、遮光膜およびハードマスク膜が積層した構造を備える比較例1のマスクブランクを製造した。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例1のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、比較例1の位相シフトマスクを製造した。
次に、この比較例1の位相シフトマスクの位相シフトパターンに対して、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体基板上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。
このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たすものではなく、転写不良が発生するレベルのものであった。この結果から、比較例1の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージをセットし、半導体基板上のレジスト膜に露光転写した場合、最終的に半導体基板上に形成される回路パターンには、回路パターンの断線や短絡が発生することが予想される。
(比較例2)
[マスクブランクの製造]
比較例2のマスクブランクは、位相シフト膜を変更した以外は、実施例1のマスクブランク100と同様の手順で製造された。具体的には、比較例2の位相シフト膜は、以下のように製造された。
枚葉式RFスパッタ装置内に実施例1と同様の透光性基板を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)および窒素(N2)の混合ガス(流量比 Kr:N2=3:4,圧力=0.13Pa)をスパッタリングガスとし、RF電源の電力を2.8kWとし、反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板1上に、ケイ素および窒素からなる高窒化層(Si:N=44原子%:56原子%)を8.0nmの厚さで形成した。別の透光性基板の主表面に対して、同条件で高窒化層のみを形成し、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000D)を用いてこの高窒化層の光学特性を測定したところ、波長193nmにおける屈折率nが2.64、消衰係数kが0.36であった。
次に、枚葉式RFスパッタ装置内に、高窒化層が積層された透光性基板を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)および窒素(N2)の混合ガス(流量比 Kr:N2=20:7,圧力=0.11Pa)をスパッタリングガスとし、RF電源の電力を2.8kWとし、反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、高窒化層上に、ケイ素および窒素からなる低窒化層(Si:N=62原子%:38原子%)を3.5nmの厚さで形成した。別の透光性基板の主表面に対して、同条件で低窒化層のみを形成し、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M-2000D)を用いてこの低窒化層の光学特性を測定したところ、波長193nmにおける屈折率nが2.20、消衰係数kが1.54であった。
以上の手順により、透光性基板の表面に接して、高窒化層と低窒化層がこの順に積層した1組の積層構造を形成した。次に、この1組の積層構造が形成された透光性基板の低窒化層の表面に接して、同様の手順で高窒化層と低窒化層の積層構造をさらに4組形成した。さらに、高窒化層を形成するときと同じ成膜条件で、透光性基板側から最も遠い低窒化層の表面に接して最上層を8.0nmの厚さで形成した。以上の手順により、合計11層の積層構造を備える比較例2の位相シフト膜を形成した。
次に、この比較例2の位相シフト膜に対し、位相シフト量および透過率の面内分布をそれぞれ測定した。また、別の透光性基板上に、比較例2における位相シフト膜中の全ての高窒化層と最上層との合計膜厚に相当する厚さで高窒化SiN単層膜を成膜したものと、比較例2における位相シフト膜中の全ての低窒化層の合計膜厚に相当する厚さで低窒化SiN単層膜を成膜したものを用意した。そして、高窒化SiN単層膜および低窒化SiN単層膜のそれぞれに対しても、位相シフト量および透過率の面内分布をそれぞれ測定した。その結果を図3および図4に示す。
図3に示されるように、比較例2における、高窒化SiN単層膜のみ、そして、低窒化SiN単層膜のみを成膜したものについて、位相シフト量の面内分布は、いずれも目標値に対して絶対値で1.0度の基準を上回っていた。ただし、高窒化層と低窒化層を積層した比較例2における位相シフト膜について、位相シフト量の面内分布は、目標値に対して0.64度であり、絶対値で1.0度以下の基準を満たすものではあった。
また、図4に示されるように、比較例2における、高窒化SiN単層膜のみ、そして、低窒化SiN単層膜のみを成膜したものについて、透過率の面内分布は、いずれも目標値に対して絶対値で0.2%の基準を上回っていた。ただし、高窒化層と低窒化層を積層した比較例2における位相シフト膜について、透過率の面内分布は、目標値に対して0.18%であり、絶対値で0.2%以下の基準を満たすものではあった。
しかしながら、比較例2における位相シフト膜について、あらかじめ測定しておいた位相シフト膜が形成される前の透光性基板1の主表面の表面形状と、位相シフト膜が形成された後の位相シフト膜の表面形状との差分形状を導出し、さらに平坦度変化量を算出したところ、0.490μmであった。そして、この位相シフト膜について、大気中において加熱温度500℃、処理時間1時間の条件で加熱処理を行った。この加熱処理後の位相シフト膜に対し、上記の位相シフト膜が形成される前の透光性基板1の主表面の表面形状と、加熱処理後の位相シフト膜の表面形状との差分形状を導出し、さらに平坦度変化量を算出したところ、0.246μmであり、0.15μm以内の基準はもとより、0.2μm以内の基準を満たすものではなかった。
また、加熱処理後の比較例2の位相シフト膜に対し、位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM-193)でArFエキシマレーザーの光の波長(約193nm)における透過率および位相差を測定したところ、透過率は6.25%、位相差が180.77度であった。
また、別の透光性基板に対し、比較例2における位相シフト膜を形成し、HR-RBS分析法(高分解能ラザフォード後方散乱分析法)により測定した。図6は、本発明の比較例2における、HR-RBSの観測結果を示すグラフである。より具体的には、図6は、観測データと、この観測データに対してシミュレーションフィッティングを行った結果を示すグラフである。図6に示されるように、比較例2における位相シフト膜において、シリコンおよび窒素に加えて、クリプトンが検出されたが、キセノンは検出されていないことが確認された。
そして、実施例1と同様の手順により、透光性基板上に、位相シフト膜、遮光膜およびハードマスク膜が積層した構造を備える比較例2のマスクブランクを製造した。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例2のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、比較例2の位相シフトマスクを製造した。
次に、この比較例2の位相シフトマスクの位相シフトパターンに対して、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体基板上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。
このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、位相シフト膜の膜応力に起因するものとみられるパターンの位置ずれが発生しており、設計仕様を十分に満たすものではなく、転写不良が発生するレベルのものであった。この結果から、比較例2の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージをセットし、半導体基板上のレジスト膜に露光転写した場合、最終的に半導体基板上に形成される回路パターンには、回路パターンの断線や短絡が発生することが予想される。