以下に本発明を、必要に応じて、添付の図面を参照して例示の実施例により説明する。
本明細書において、「約」とは、後に続く数字の±10%の範囲内をいう。
本発明は、上記の荷物や人を載せたままで階段などの段差を省力で昇降することが可能な運搬具を提供することを課題とし、
段差を昇降可能な運搬具であって、
背部フレームと、
座面フレームと、
前記座面フレームの下部に設けた延長フレームと
を有し、
前記背部フレームの下部には、少なくとも1つの第1の車輪を有し、
前記座面フレームの下部には、少なくとも1つの第2の車輪を有し、
前記延長フレームの下部には、少なくとも1つの第3の車輪を有する、運搬具を提供することにより、上記課題を解決したものである。
従って、本発明の運搬具は、少なくとも1つの第1の車輪、少なくとも1つの第2の車輪、少なくとも1つの第3の車輪を有し、背部フレームの下部、座面フレームの下部、延長フレームの下部にこれらの車輪が設けられているものであれば、特に限定されるものではない。
また、本発明の運搬具の使用方法は、
段差を昇降可能な運搬具を使用する方法であって、
前記運搬具は、
背部フレームと、
座面フレームと、
前記座面フレームの下部に設けた延長フレームと
を有し、
前記背部フレームの下部には、少なくとも1つの第1の車輪を有し、
前記座面フレームの下部には、少なくとも1つの第2の車輪を有し、
前記延長フレームの下部には、少なくとも1つの第3の車輪を有し、
前記方法は、
前記第1の車輪と前記第3の車輪とが接地する第1の姿勢と、前記第1の車輪と前記第2の車輪とが接地する第2の姿勢とを切り替えることと、
前記第1の姿勢で前記運搬具を平行移動させることと、
前記第2の姿勢で前記運搬具を、前記第1の車輪および前記第2の車輪の一方を支点として前記フレームを回動させることにより、他方の車輪を前記段差の上に上らせる、あるいは前記段差の下に下ろすことと
を含む方法を提供することにより、上記課題を解決したものである。
従って、本発明の運搬具の使用方法は、第1の車輪および第2の車輪の一方を支点として背面フレームを回動させることにより、他方の車輪を段差の上に上らせる、あるいは段差の下に下ろすものであれば、特に限定されるものではない。
第1の車輪、第2の車輪および第3の車輪の数は任意であり得る。車輪の数を増やすことによって安定した走行および昇降が可能となる。1つの好ましい形態として、第1の車輪、第2の車輪および第3の車輪はそれぞれ各フレームの左右方向両側に一対設けるものであるが、本発明はこれに限定されない。
1つの実施形態において、平面を移動する際は、第1の車輪と第3の車輪とを接地させ、段差を昇降する際は、第1の車輪と第2の車輪とを接地させる。このように、平面を移動する場合と段差を移動する場合とに合わせて、接地する車輪を変更することにより、運搬具を適切な姿勢の状態とすることが可能である。しかし、本発明はこれに限定されない。例えば、第3の車輪を設けず、第2の車輪で平面の移動および段差を昇降の両方を行ってもよい。
また、段差を昇降する際は、第1の車輪および第2の車輪のうちの一方の車輪を支点としてもよい。このようにすることで、背部フレームあるいは座面フレームの一部を力点として他方の車輪をてこの原理で簡単に持ち上げることができ、それにより運搬具の昇降を省力で簡単に行うことが可能となる。
また、延長フレームは、左右方向の軸周りに枢動可能に座面フレームに取り付けられていることが好ましい。このようにすることで、延長フレームの下部に設けられている第3の車輪の状態を、座面フレームの下部に取り付けられている第2の車輪が接地する状態と、第3の車輪が第2の車輪に代わって接地させる状態との間で、延長フレームの回動により簡単に切り替えることが可能となる。しかし、接地させる車輪を第3の車輪か第2の車輪かで切り替え可能であれば、接地させる車輪を切り替える手段は、任意の手段であり得る。例えば、この手段は、延長フレームを座面フレームに対して進退可能にするスライド機構であってもよいし、あるいは延長フレームを座面フレームに対して着脱可能にする着脱機構であってもよい。
さらに、1つの実施形態において、座面フレームは、左右方向の軸周りに枢動可能に背部フレームに取り付けられる。このようにすることで、背部フレームに対して座面フレームを両者がほぼ平行になる位置まで回動させることで、運搬具をコンパクトに折り畳むことが可能となる。
さらに、1つの実施形態において、運搬具は、第1の車輪の前進方向および後退方向のうちの一方向の回転のみに制動がかかる制動状態と、第1の車輪の回転に対して制動がかからない非制動状態とを切り替える第1の制動切り替え手段と、第2の車輪の前進方向および後退方向のうちの一方向の回転のみに制動がかかる制動状態と、第2の車輪の回転に対して制動がかからない非制動状態とを切り替える第2の制動切り替え手段とを備えている。この場合、運搬具で段差を上る際に、下る方向への車輪の回転にのみ制動がかかるようにすることで、段差を落ちる方向への運搬具の移動を回避しつつ、運搬具で安全に段差を上ることができる。また、運搬具で段差を下りる際には車輪に対する制動がかからない状態にすることでスムーズに移動することができる。
さらに、1つの実施形態において、第1の制動切り替え手段は、第1の車輪を支持する第1の車軸と、第1の車軸にブレーキをかける第1のブレーキ手段とを含み、第2の制動切り替え手段は、第2の車輪を支持する第2の車軸と、第2の車軸にブレーキをかける第2のブレーキ手段とを含み、さらに、背部フレームの上部は第1のグリップを含み、第1のグリップは、第1の制動切り替え手段および第2の制動切り替え手段(第1および第2のブレーキ手段)を操作する複数のレバーを有する。この場合、第1のグリップに設けられた、第1の制動切り替え手段および第2の制動切り替え手段(第1および第2のブレーキ手段)を操作する複数のレバーを扱うことにより、第1の車軸および第2の車軸のブレーキ操作を簡単に行うことが可能となる。さらに、第1の車軸および第2の車軸にブレーキをかけることが可能であることで、第1の車輪および第2の車輪の一方を支点としてその他方を持ち上げる操作を行う際には、支点となる車輪を安定させることができ、てこを利用した車輪の持上げを安定して行うことができる。
ここで、ブレーキ手段は任意の形態であり得る。例えば、一般に自転車に採用されているバンドブレーキ、サーボブレーキ、ディスクブレーキや自動車に採用されているドラムブレーキなどの機械的なブレーキを採用し得るが、本発明はこれに限定されない。
また、1つの実施形態において、第1および第2の制動切り替え手段は、それぞれ第1の車軸および第2の車軸にブレーキがかかった状態で、第1の車輪および第2の車輪を後退方向には回転可能とし、かつ前進方向には回転不能とする一方向クラッチ機構を備える。この場合、運搬具が背面側から階段を上るように運搬具を後退方向に移動させるときにブレーキをかけておくと、運搬具の段差を下りる方向(前進方向)の移動が規制される一方で、一方向クラッチ機構の働きにより、運搬具の段差を上る方向の移動は規制されない。したがって、運搬具が段差を上るように後退させるときにブレーキをかけておけば、例えば、意に反して運搬具が前進して階段から落下するのを回避でき、安全に上り下りの昇降が可能となる。この場合、運搬具が少しずつ階段を上るように運搬具を移動させることができ、運搬具に階段を上らせるための移動を少しずつ確実に行うことが可能となる。
さらに、1つの実施形態において、背部フレームおよび座面フレームの少なくとも一方には、前進方向に突出する第2のグリップが設けられる。第2のグリップを用いることにより、運搬具は、背部フレームに第1のグリップが設けられている運搬具の背面側からだけでなく、第2のグリップが突出する運搬具の前面側からも操作者が運搬具を操作可能となり、2人の操作者により運搬具の操作が可能となり、重量のある被運搬体を運搬具に乗せて作業性よく、階段を昇降したり平面を移動したりすることが可能となる。ここで、運搬具に載せる被運搬体は荷物や人のいずれでもあってもよい。また、第1のグリップを設けず、第2のグリップだけ設ける場合であってもよく、その場合は、第2のグリップは後退方向に突出させる。
第2のグリップは、前進方向または後退方向に対する突出する長さを調節可能であってもよい。第2のグリップは、背部フレームおよび座面フレームの少なくとも一方に着脱可能に取り付けられるものでもよいし、あるいは固定されたものでもよい。第2のグリップが着脱可能に取り付けられている場合は、不要な時は邪魔にならないように第2のグリップを外しておくことができる。また、第2のグリップが固定されている場合は、第2のグリップを紛失する恐れをなくすことができる。
さらに、第2のグリップは、背部フレームあるいは座面フレームに対して相対移動(直線移動あるいは回転移動)が可能となるように取り付けられていてもよいし、相対移動しないように取り付けられていてもよい。第2のグリップが相対移動可能である場合は、第2のグリップを使いやすい位置に合わせることができ、第2のグリップが相対移動しない場合は、第2のグリップを背部フレームなどに取り付ける構造を簡単な構造とすることが可能となる。
ただし、以下の実施形態では、本発明の運搬具の必須の構成である背部フレーム、座面フレーム第1の車輪および第2の車輪に加えて、上述した好ましい構成を有する運搬具を挙げる。すなわち、実施形態の運搬具は、上記の必須の構成に加えて、延長フレームおよび第3の車輪を設け、座面フレームに対して延長フレームが枢動可能に取り付けられ、背部フレームに対して座面フレームが枢動可能に取り付けられた構造と、第1、第2の車軸にブレーキをかける第1、第2のブレーキ手段と、第1、第2の車輪に設けられたクラッチ機構と、第2のグリップを着脱可能な機構とを有している。また、以下の実施形態では、運搬具は、歩行困難な人(被介護者という。)を介護者が運ぶ態様であるが、本発明の運搬具は運ぶ対象が人に限らず、荷物などであってもよい。例えば、運搬具の乗り心地などを考慮する必要がない荷物などを運搬する場合には、運搬具は延長フレームおよび第3の車輪を設けなくてもよい。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1による運搬具100を説明するための斜視図であり、運搬具100の外観を示す。図2は、図1に示す運搬具100の一部を透視して示す斜視図であり、図3は、図1に示す運搬具100をA方向から見た構造を示す平面図である。
この実施形態1の運搬具100は、段差を昇降可能な運搬具であって、背部フレーム110と、座面フレーム120と、座面フレーム120の下部に設けた延長フレーム130とを有している。背部フレーム110の下部には、少なくとも1つの第1の車輪10が設けられ、座面フレーム120の下部には、少なくとも1つの第2の車輪20が設けられ、延長フレーム130の下部には、少なくとも1つの第3の車輪30が設けられている。
ここでは、少なくとも1つの第1の車輪10は、背部フレーム110の下部の左右両側に設けた一対の前輪10a、10b(右前輪10a、左前輪10bともいう。)である。少なくとも1つの第2の車輪20は、座面フレーム120の下部の左右両側に設けられた一対の昇降用後輪20a、20b(昇降用右後輪20a、昇降用左後輪20bともいう。)である。少なくとも1つの第3の車輪30は、延長フレーム130の左右両側に設けられた一対の平面移動用後輪30a、30b(平面移動用右後輪30a、平面移動用左後輪30bともいう。)である。運搬具100は、第1の車輪10を支持する第1の車軸11と、第2の車輪20を支持する第2の車軸21と、第1の車軸11にブレーキをかける第1のブレーキ手段40と、第2の車軸21にブレーキをかける第2のブレーキ手段50とを有する。
さらに、背部フレーム110には、座面フレーム120が運搬具100の左右方向の軸(111e)周りに枢動可能に取り付けられ、座面フレーム120には、運搬具100の左右方向の軸周りに枢動可能に延長フレーム130が取り付けられている。
この運搬具100では、背部フレーム110および座面フレーム120に跨がって、被介護者Cr(図11参照)が座る座面を形成する座面シートSsが取り付けられており、背部フレーム110の上部には、被介護者Cr(図11参照)の背凭れとなる背面シートBsが取り付けられている。
なお、被介護者Crの安全面から背部フレーム110の上部には被介護者Crの頭部を固定するためのヘッドバンドが設けられていてもよいし、また、座面フレーム120あるいは背部フレーム110には、被介護者Crの腰を固定するウエストバンドが設けられていてもよい。
座面フレーム120と背面フレーム110を枢動可能にする軸111eから第1の車輪10aの中心までの距離および軸111eから第2の車輪20aの中心までの距離は、任意の長さであり得るが、軸111eから第1の車輪10aの中心までの距離の方が軸111eから第2の車輪20aまでの距離よりも長いという関係は維持される。1つの実施形態において、例えば、軸111eから第1の車輪10aの中心までの距離は約370mm~約470mm、軸111eから第2の車輪20aの中心までの距離は約200mm~約300mmである。
1つの実施形態において、例えば、軸111eから第1の車輪10aの中心までの距離と軸111eから第2の車輪20aの中心までの距離の関係は、約1.2:1~約2.4:1である。
また、運搬具100は、背部フレーム110に対して座面フレーム120を広げたときに背部フレーム110の側部フレーム片111a、111bと座面フレーム120の側部フレーム片121a、121bとがなす角度(フレーム交差角)は約90°である。しかし、本発明はこれに限定されない。運搬される人の乗り心地や荷物の安定性などを考慮して適切なフレーム交差角度に調整され得る。
また、図11に示す実施形態において、運搬の対象物は被介護者(人)であるが、本発明はこれに限定されない。物体であってもよい。
図1~図3では、運搬具100が平面を移動する際の運搬具100の状態が示されており、前輪10a、10bおよび平面移動用右後輪30a、30bが地面、床などの接地面GLに接地した状態が示されている。
以下、この運搬具100における背部フレーム110、座面フレーム120、および延長フレーム130について詳しく説明する。
図4は、図1に示す運搬具100を詳しく説明するための斜視図であり、図4(a)は背部フレーム110を示し、図4(b)は座面フレーム120を示し、図4(c)は延長フレーム130を示し、図4(d)は座部フレーム120と延長フレーム130とが組み合わせられた状態を示す。
〔背部フレーム110〕
図4(a)に示すように、背部フレーム110は、一対の側部フレーム片111a、111bと、上部フレーム片112と、中間フレーム片113と、下部フレーム片114とを含む。図4に示す実施形態においては、背部フレーム110は、各フレーム片が別々な部品で構成されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、背部フレーム110は、各フレーム片の全部または一部が1つの部材で構成されていてもよい。
上部フレーム片112は、背部フレーム110のグリップ部(第1のグリップ部)となっており、上部フレーム片112の両端は、左右の接続部材112a、112bにより一対の側部フレーム片111a、111bの上端に接続されている。上部フレーム片112には、ブレーキレバー116a、116bが取り付けられている。
下部フレーム片114は、左右一対の側部フレーム片111a、111bの下端部同士をつなぐ部材であり、下部フレーム片114の両端は、左右の部品固定具114a、114bにより左右一対の側部フレーム片111a、111bの下端部に固定されている。
中間フレーム片113は、右側の側部フレーム片111aの上端と下端との間の中間部と左側の側部フレーム片111bの上端と下端との間の中間部とをつなぐ部材であり、中間フレーム片113の両端は、左右の部品固定具113a、113bにより一対の側部フレーム片111a、111bの中間部に固定されている。この中間フレーム片113は、座面シートSsの一端側が取り付けられる部分である。
側部フレーム片111aにおける部品固定具113aと部品固定具114aとの間の部分には、側部フレーム片111aを、座面フレーム120を構成する側部フレーム片121aに回動可能に支持するための支持ピン111eを挿入するピン挿入穴111cが形成されており、側部フレーム片111bにおける部品固定具113bと部品固定具114bとの間の部分にも、側部フレーム片111bを、座面フレーム120を構成する側部フレーム片121bに回動可能に支持するための支持ピン111fを挿入するピン挿入穴111dが形成されている。
さらに、側部フレーム片111a、111bにおけるピン挿入穴111c、111dと部品固定具113a、113bとの間の部分にはそれぞれ、座面フレーム120を背部フレーム110に対する所定の相対位置で支持する筒状のフレーム支持部材115a、115bの一端が回動可能に取り付けられている。ここでは、フレーム支持部材115a、115bは第2のグリップ118a、118bを装着可能な構造となっている。
さらに、左右一対の側部フレーム片111a、111bの下端にはそれぞれ一対の前軸受け11a、11bが取り付けられている。前軸受け11a、11bには、前車軸(第1の車軸)11が回転可能に支持され、前車軸11の両端には右前輪10aおよび左前輪10bがベアリングを介して固定されている。
ここで、下部フレーム片114には、前輪ブレーキ40が取り付けられており、前輪ブレーキ(第1のブレーキ手段)40には、上部フレーム片112に取り付けられたブレーキレバー116bからのブレーキワイヤー116dが接続されており、前輪ブレーキ40は、ブレーキレバー116bの操作に応じて、右前輪10aおよび左前輪10bを支持する前車軸11にブレーキをかけるように構成されている。また、右前輪10aおよび左前輪10bは、前車軸11に対してブレーキを掛けた状態で、運搬具100が後退する方向の右前輪10aおよび左前輪10bの回転を許容する一方向クラッチ機構12を有している。
従って、前輪ブレーキ40により前車軸11に対して制動がかかるようにブレーキレバー116bの制動操作をしたときは、運搬具100が前進する方向の右前輪10aおよび左前輪10bの回転に対しては制動がかかり、運搬具100が後退する方向の右前輪10aおよび左前輪10bの回転に対しては、一方向クラッチ機構が働いて制動がかからない制動状態となる。また、ブレーキレバー116bの制動操作の解除により前輪ブレーキ40による前車軸11に対する制動が解除されたとき、右前輪10aおよび左前輪10bに対していずれの回転方向に対する制動もかからない非制動状態となる。
ブレーキレバー116bが操作されないときは、前輪ブレーキ40がかかっていない状態である。この状態では、前輪軸11は自由に回転可能であり、従って、前輪軸11に一方向クラッチ機構12を介して接続されている前輪10bも自由に回転可能である。
一方、ブレーキレバー116bが操作されると、前輪軸11にブレーキがかかり、前輪軸11は回らない状態になる。ただし、前輪10bは一方向クラッチ機構12の機能により前輪軸11に対して運搬具100が後退する方向には回転可能である。従って、運搬具100は、前輪軸11にブレーキをかけた状態でも後退する方向へは自由に移動可能である。
さらに、ブレーキレバー116bは、前輪軸11にブレーキがかかった制動状態をロックするロック機能、さらに、ロックされた制動状態でのブレーキの強さを調整する機能を有していてもよい。
図4Aは、ブレーキレバー116bを説明するための模式図であり、ブレーキレバー116b(図1のD部分)の詳細な構造を示している。
ブレーキレバー116bは、人が操作するための操作レバー片61と、操作レバー片61を支持するレバー片支持体62と、レバー片支持部材62に対する操作レバー片61の相対位置をロックするロック部材63とを有する。
レバー片支持体62は、支持体本体621と、支持体本体621を上部フレーム片112に固定する固定バンド622および固定ねじ623と、支持体本体621に取り付けられた固定カム624とを有する。ここで、支持体本体621には接続ピン625により操作レバー片61が回動可能に取り付けられており、固定カム624のうちの操作レバー片61に対向する部分には、円弧の外周縁に沿って複数の鋸刃状凸部624aが並ぶ鋸刃状部分が含まれている。
なお、ブレーキワイヤー116cを構成するアウターワイヤ116d2の端部は、支持体本体621のワイヤー受け部621aに装着され、ブレーキワイヤー116cを構成するインナーワイヤ116d1の端部は、ワイヤー連結ピン116d3により操作レバー片61に連結されている。
ロック部材63は、操作レバー片61に接続ピン61aにより回動可能に取り付けられた回動片631と、回動片631に固定され、固定カム624の鋸刃状部分の鋸刃状凸部624aに係合する係合片632とを有する。
このような構成のブレーキレバー116bでは、ロック部材63の係合片632が固定カム624のいずれかの鋸刃状凸部624aに係合することにより、前輪軸11にブレーキがかかった制動状態でブレーキレバー116bがロックされることとなる。このロックされた状態では、操作者がブレーキレバー116bから手を放しても前輪軸11にブレーキがかかった制動状態が維持される。また、ブレーキレバー116bをロックする位置を変えることでロック状態でのブレーキ力の強さを調整することができる。
なお、前輪10a、10bの一方向クラッチ機構12は、ブレーキレバー116bを操作したときに必ず働くものである必要はなく、前輪10a、10bの一方向クラッチ機構12は、ブレーキレバー116bを操作したときに働かないように設定することが可能なものでもよい。さらに、前輪10a、10bは、一方向クラッチ機構12を有していないものでもよい。
〔座面フレーム120〕
図4(b)、(d)に示すように、座面フレーム120は、一対の側部フレーム片121a、121bと、上部フレーム片122と、下部フレーム片123とを含む。図4に示す実施形態においては、座面フレーム120は、背部フレーム110と同様に、各フレーム片は別々な部品で構成されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、各フレーム片の全部または一部を1つの部材で構成されていてもよい。
ここで、側部フレーム片121a、121bにはスライド保持具70a、70bが回動可能に取り付けられており、スライド保持具70a、70bは、フレーム支持部材115a、115bの他端をスライド保持具70a、70bに対してスライド可能に保持するように構成されている。さらに、スライド保持具70aは図示しないロックピンを有し、背部フレーム110の側部フレーム片111aと座面フレーム120の側部フレーム片121aとが所定の角度をなす位置(所定の相対位置)でフレーム支持部材115aをロックピンによりスライド保持具70aに対して固定するロック機能を有する。同様に、スライド保持具70bも図示しないロックピンを有し、背部フレーム110の側部フレーム片111bと座面フレーム120の側部フレーム片121bとが所定の角度をなす位置(所定の相対位置)でフレーム支持部材115bをロックピンによりスライド保持具70bに対して固定するロック機能を有する。なお、背部フレーム110の側部フレーム片と座面フレーム120の側部フレーム片とを所定の角度をなす位置でロックする手段は、上述したフレーム支持部材およびスライド保持具によるものに限定されるものではない。
ここで、背部フレーム110の側部フレーム片111a、111bと座面フレーム120の側部フレーム片121a、121bとが所定の角度をなす位置は、例えば、運搬具100に被介護者Crが乗れる状態になるように背部フレーム110に対して座面フレーム120を広げた第1の位置と、運搬具100がコンパクトに収納されるように背部フレーム110に対して座面フレーム120を重ね合わせた第2の位置とを含む。
上部フレーム片122は、左右一対の側部フレーム片121a、121bの上端部をつなぐ部材であり、上部フレーム片122の両端は、左右の接続部材122a、122bにより一対の側部フレーム片121a、121bの上端に接続されている。この上部フレーム片122は、座面フレーム120のうちの座面シートSsの他端側が取り付けられる部分となっている。
下部フレーム片123は、左右一対の側部フレーム片121a、121bの下端部同士をつなぐ部材であり、下部フレーム片123の両端は、左右の部品固定具123a、123bにより左右一対の側部フレーム片121a、121bの場所に固定されている。
さらに、左右一対の側部フレーム片121a、121bの下端にはそれぞれ一対の後軸受け21a、21bが取り付けられ、後軸受け21a、21bには、第2の車軸(昇降用車軸21)が回転可能に支持されており、第2の車軸(昇降用車軸21)の両端には昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20bが取り付けられている。ここで、昇降用後輪20a、20bにはそれぞれ、前輪10a、10bと同様、圧入などにより一方向クラッチ機構(図示せず)が取り付けられており、昇降用車軸21の両端は、昇降用後輪20a、20bの一方向クラッチ機構(図示せず)に接続されている。
ここで、下部フレーム片123には、後輪ブレーキ50が取り付けられており、後輪ブレーキ50には、背部フレーム110の上部フレーム片112に取り付けられたブレーキレバー116aからのブレーキワイヤー116cが接続されており、後輪ブレーキ50は、ブレーキレバー116aの操作に応じて昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20bを支持する昇降用車軸21にブレーキをかけるように構成されている。また、昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20bは、右前輪10aおよび左前輪10bと同様、昇降用車軸21に対してブレーキを掛けた状態で、運搬具100が後退する方向の昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20bの回転を許容する一方向クラッチ機構を有している。
従って、後輪ブレーキ50により昇降用車軸21に対して制動がかかるようにブレーキレバー116aを操作したとき、運搬具100が前進する方向の昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20bの回転に対しては制動がかかり、運搬具100が後退する方向の昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20bの回転に対しては、一方向クラッチ機構が働いて制動がかからない非制動状態となる。また、ブレーキレバー116aの制動操作の解除により後輪ブレーキ50による昇降用車軸21に対する制動が解除されたとき、昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20bに対していずれの回転方向に対する制動もかからない非制動状態となる。
このように、運搬具100では、昇降用車軸21、後輪ブレーキ50、および一方向クラッチ機構(図示せず)は、昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20bの前進方向および後退方向のうちの前進方向の回転のみに制動がかかる制動状態と、昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20bの回転に対して制動がかからない非制動状態とを切り替える第2の制動切り替え手段を構成している。
なお、昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20bの一方向クラッチ機構は、ブレーキレバー116aを操作したときに必ず働くものである必要はなく、昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20bの一方向クラッチ機構は、ブレーキレバー116aを操作したときに働かないように設定することが可能なものでもよい。さらに、昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20bは、一方向クラッチ機構を有していないものでもよい。
さらに、下部フレーム片123には、左右一対のフレーム保持板60a、60bが取り付けられており、フレーム保持板60a、60bには、昇降用車軸21が回転可能に貫通している。フレーム保持板60aは、延長フレーム130を構成する車軸支持プレート131aを一定の姿勢で保持するものである。フレーム保持板60bも同様に、延長フレーム130を構成する車軸支持プレート131bを一定の姿勢で保持するものである。
昇降用車軸21には、延長フレーム130を構成する車軸支持プレート131a、131bが回動可能に取り付けられており、車軸支持プレート131a、131bがフレーム保持板60a、60bにより一定の姿勢(平面移動時の姿勢)で保持されることにより、延長フレーム130は、接地面に対して起立した状態に保持され、延長フレーム130に支持された平面移動用後輪30a、30bが接地した状態となる。車軸支持プレート131a、131bがフレーム保持板60a、60bにより別の一定の姿勢(段差昇降時の姿勢)で保持されることにより、延長フレーム130は座面フレーム120に対して格納された状態となる。
〔延長フレーム130〕
図4(c)、(d)に示すように、延長フレーム130は、一対の車軸支持プレート131a、131bと、平面移動用車軸31とを有する。ここで、一対の車軸支持プレート131a、131bは、昇降用車軸21に回動可能に取り付けられている。すなわち、一対の車軸支持プレート131a、131bの根元部分には、昇降用車軸21を貫通させるための車軸貫通穴32a、32bが形成されており、一対の車軸支持プレート131a、131bは、車軸貫通穴32a、32bに挿入された昇降用車軸21により回動可能に支持されている。一対の車軸支持プレート131a、131bの先端には、車軸貫通穴31a、31bが形成されている。平面移動用車軸31はその両端がそれぞれ、一対の車軸支持プレート131a、131bの車軸貫通穴31a、31bに挿入されて回転可能に支持されている。平面移動用車軸31の両端には、第3の車輪30を構成する平面移動用右後輪30aおよび平面移動用左後輪30bが取付けられている。
従って、このような構造の延長フレーム130は、昇降用車軸21の周りの位置を、第3の車輪30が第1の車輪10とともに接地する平面移動時の位置と、第3の車輪30が退避して第3の車輪30の代わりに第2の車輪20が第1の車輪10とともに接地する段差昇降時の位置との間で移動可能となっている。
ここでは、延長フレーム130は、座面フレーム120から取り外し不可能な構造となっているが、延長フレーム130は、第3の車輪30とともに座面フレーム120に対して着脱可能な構造としてもよい。
なお、この実施形態1の運搬具100では、上述した各フレーム片、各プレート、各車軸、接続部材112a、112b、部品固定具113a、113b、114a、114bを構成する部材は、任意の材料で形成され得る。例えば、スティールやステンレスなどの金属部材であってもよいし、樹脂部材や木製部材であってもよいし、金属部材、樹脂部材、木製部材などの複合部材であってもよい。
〔運搬具100の変形〕
このような構造の実施形態1の運搬具100は、平面を移動する場合、段差を昇降する場合、および収納する場合に合わせて、それぞれの場合に適した形に変形することができる。
図5は、図1に示す運搬具100を図3に示す状態から変形させた状態を説明するための図であり、図5(a)は昇降時の状態を示し、図5(b)は折り畳み状態を示す。
運搬具100は、平面を移動する場合は、図3に示すように第1の車輪10と第3の車輪30とが接地する状態とされ、段差を昇降する場合は、図5(a)に示すように第1の車輪10と第2の車輪20とが接地する状態とされ、収納する場合は、図5(b)に示すように、コンパクトに折り畳んだ状態とされる。
次に、運搬具100を平面移動するときの状態から段差を昇降するときの状態に変化させる手順を説明する。
図6は、運搬具100を平面移動時の状態から昇降時の状態に変形させる手順を示す平面図であり、図6(a)および図6(b)は、延長フレーム130を退避させる様子、および第2の車輪20が接地する様子を示す。
運搬具100を平面移動させる状態では、延長フレーム130は起立して第3の車輪30が接地するように、延長フレーム130を構成する左右の車軸支持プレート131a、131bが左右のフレーム保持板60a、60bにより保持された状態となっている。
そこで、運搬具100を、段差を昇降させる状態に変形する場合、まず、図6(a)に示すように、フレーム保持板60a、60bによる車軸支持プレート131a、131bの保持状態を解除し、延長フレーム130を起立状態から傾倒させて、図6(b)に示すように第2の車輪20を接地させる。その後、左右の車軸支持プレート131a、131bを退避位置へ回動させて退避位置で左右のフレーム保持板60a、60bにより保持することで、延長フレーム130は、運搬具100の段差昇降に邪魔にならない位置に保持される。ここで、退避位置は、図5(a)に示すように、左右の車軸支持プレート131a、131bが座面フレーム120の側部フレーム片121a、121bに実質的に重なる位置である。
次に、運搬具100を段差昇降状態から折り畳み状態に変化させる手順を説明する。
図7は、運搬具100を折り畳む手順を示す平面図であり、図7(a)は、図5(a)に示す運搬具100の背部フレーム110を立てた状態を示し、図7(b)は、座面フレーム120を背部フレーム110に重なるように回動させる様子を示す。
運搬具100を折り畳み状態にするには、運搬具100が図3に示すように平面移動時の状態である場合は、まず、運搬具100を図6(a)、(b)に示すように延長フレーム130を回動させて昇降時の状態に変形した後、スライド支持部材70a、70bのロックピン(図示せず)による背部フレーム110に対する座面フレーム120のロックを解除し、例えば、図7(a)に示すように運搬具100の背部フレーム110を立てた状態で、座面フレーム120の下端部(第2の車輪20側の部分)を下方に押さえ付ける。これにより座面フレーム120が背部フレーム110に重なるように座面フレーム120と背部フレーム110とが軸支されている部分(ボルト挿入穴111c、111d、121c、121dに挿入された支持ピン111e)を中心として回動して、運搬具100は図5(b)に示す折り畳み状態となる。
なお、運搬具100が図5(a)に示すように段差昇降時の状態である場合は、図7(a)、(b)に示すように座面フレーム120を背部フレーム110に対して回動させるだけで、運搬具100を折り畳み状態にすることが可能となる。
また、運搬具100は、第1の車輪10と第2の車輪20との間隔を調整する調整手段を有し得る。
このような調整手段を備えることにより、階段の寸法、具体的には、踏面寸法(階段の各段の足を載せる部分の奥行方向の寸法)および蹴上げ寸法(階段一段の高さ)によっては、運搬具100の第1の車輪10および第2の車輪20を同時に階段の段上に持ち上げたり段下に下ろしたりせざるを得ない場合が生じるのを回避することが可能となる。
第1の車輪10と第2の車輪20との間隔を調整する調整手段は任意の形態であり得る。
1つの実施形態において、運搬具100は、背部フレーム110を構成する側部フレーム片111a、111bのうちの座面フレーム120の側部フレーム片121a、121bを軸支する位置(ピン挿入穴111c、111dの位置)よりも車輪側に近い部分(車輪側部分)を伸縮可能に構成したものでもよい。このような構成の運搬具100においても、第1の車輪10と第2の車輪20との間隔を調整可能となる。
また別の実施形態において、運搬具100は、座面フレーム120を構成する側部フレーム片121a、121bのうちの背部フレーム110の側部フレーム片111a、111bを軸支する位置(ピン挿入穴121c、121dの位置)よりも車輪側に近い部分(車輪側部分)を伸縮可能に構成したものでもよい。このような構成の運搬具100においても、第1の車輪10と第2の車輪20との間隔を調整可能となる。
また、別の実施形態において、運搬具100は、背部フレーム110に対して座面フレーム120を広げたときに背部フレーム110の側部フレーム片111a、111bと座面フレーム120の側部フレーム片121a、121bとがなす角度(フレーム交差角)を所望の角度に固定可能に構成されたものでもよい。このような構成とすることにより、第1の車輪10と第2の車輪20との間隔を変えることが可能となる。例えば、1つの実施形態において、フレーム交差角を少なくとも約90°±2~5°の範囲で任意の角度に固定可能である。しかし、本発明はこれに限定されない。
なお、さらに他の実施形態においては、運搬具100は、上述した背部フレーム110の車輪側部分が伸縮可能な構成、座面フレーム120の車輪側部分が伸縮可能な構成、およびフレーム交差角を調整可能な構成のうちの少なくとも2つを備えたものでもよい。
〔てこを利用した段差昇降の原理〕
次に、本発明の運搬具100が段差を昇降する原理を説明する。
図8~図10は、運搬具の昇降原理を説明するための図である。
この運搬具100は、段差を上る場合は第2の車輪が第1の車輪よりも進行方向前側となって移動する状態(以下、後ろ向けという)で段差を上り、段差を降りる場合は第1の車輪が第2の車輪よりも進行方向前側となって移動する状態(以下、前向け)で段差を下りるように設計されている。また、運搬具100は、第1の車輪10(右前輪10aおよび左前輪10b)および第2の車輪20(昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20b)の一方を支点として他方を階段の上の段に引き上げたり階段の下の段に引き下ろしたりするように構成されている。
図8(a)~図8(d)は、運搬具100の第1の車輪10(右前輪10a)を支点として第2の車輪20(昇降用右後輪20a)を階段Stの1つ目の段の上に移動させる様子を示している。なお、以下説明では、図8~図10には第1の車輪10として右前輪10aのみが示され、第2の車輪20として昇降用右後輪20aのみが示されているので、第1の車輪10としての右前輪10aおよび左前輪10bは前輪10aとして言及し、第2の車輪20としての昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20bは、昇降用後輪20aとして言及する。ただし、左前輪10bおよび昇降用左後輪20bは右前輪10aおよび昇降用右後輪20aと同じ動きをすることは言うまでもない。
図8(a)に示すように、操作者が階段Stに向けて運搬具100を後ろ向けに移動させて階段Stを上る場合、図4Bに示すようにブレーキレバー116bの操作により前輪軸11にブレーキをかけ、同様に、ブレーキレバー116aの操作により昇降用車軸21にブレーキをかけ、さらに、図4Cに示すようにロック部材63の操作により固定カム624の所定の鋸刃状凸部624aに係合片632を係合させる。
これにより、図4A(d)に示すように、前輪軸11に固定されているブレーキドラム41にブレーキシュー42a、42bが圧接し、ブレーキドラム41は回転できない状態となる。この状態では、前輪軸11にはブレーキがかかっているが、前輪10a、10bは、その内部の一方向クラッチ機構12の働きにより前輪軸11に対して運搬具100が後ろ向けに移動する方向には回転する。同様に昇降用車軸21にはブレーキがかかっているが、昇降用後輪20a、20bは、その内部の一方向クラッチ機構(図示せず)の働きにより昇降用車軸21に対して運搬具100が後ろ向けに移動する方向には回転する。
従って、ブレーキレバー116b、116aの操作により、運搬具100は、階段Stを上る方向には移動可能であるが、階段Stを下る方向には移動不可能な状態となっている。
ここで、前車軸11、昇降用車軸21にブレーキをかけた状態でブレーキレバー116b、116aをロックするときのブレーキ力の強さは、図4Cに示すように操作レバー片61のロック部材63の操作によりロック部材63の係合片632を、レバー片支持体62の固定カム624の複数の鋸刃状凸部624aのうちのいずれのものに係合させるかにより調整可能である。その際、ブレーキ力の強さは、操作レバー片61によるインナーワイヤ116d1の引張り量に応じた大中小など複数段階の強さの間で調整可能である。
運搬具100が階段を上る動作は、上記のようにブレーキレバー116a、116bのロックを維持したままで行われる。このような操作により、前車軸11および昇降用車軸21にブレーキをかけたままにしておくことができ、運搬具100が階段を下り落ちる方向へ移動するのを阻止することが可能となる。
操作者が運搬具100を後ろ向けに移動させることにより、図8(b)に示すように運搬具100の昇降用後輪20aが階段Stの手前まで来ると、操作者が背部フレーム110の上端の握り部分112を上方に持ち上げる。これにより、図8(c)に示すように、前輪10aが支点(中心)となって運搬具100を回転させる力が運搬具100に作用することで昇降用後輪20aが浮き上がり、さらに、操作者が背部フレーム110の上端の握り部分112を階段側に引くことで、支点(中心)となる前輪10aが後ろ向けに移動しつつ図8(d)に示すように昇降用後輪20aが階段Stの1つの段(段差)上に載る。続いて、昇降用後輪20aをさらにもう一段上の段に載せる動作が行われる。
図9(e)~図9(h)は、運搬具100の第1の車輪10(右前輪10a)を支点として第2の車輪20(昇降用右後輪20a)を2つ目の段の上に移動させる様子を示している。
ブレーキレバー116a、116bのロック状態を維持したままで、図9(e)~図9(f)に示すように、操作者が階段Stに向けて運搬具100をさらに後ろ向けに移動させ、昇降用後輪20aが階段Stの2段目の段差の手前まで来ると、図9(f)に示すように、操作者が背部フレーム110の上端の握り部分(第1のグリップ)112を上方に持ち上げる。このとき、前車軸11および昇降用車軸21はブレーキをかけた状態となっているので、意に反して運搬具100が前進移動して階段Stを落下することはない。これにより、本発明の運搬具100は安全・安心に階段を昇降することが可能となる。
昇降用後輪20aが2段目の段差の高さまで持ち上げられた状態で、図9(g)に示すように操作者が運搬具100を階段側に引っ張ることで、図9(h)に示すように昇降用後輪20aが階段Stのもう1つ上の段上に載る。続いて、前輪10aを階段の1つ目の段上に載せる動作が行われる。
図10(i)~図10(l)は、運搬具100の第2の車輪20(昇降用後輪20a)を支点として第1の車輪10(前輪10a)を階段Stの1つ目の段上に移動させる様子を示している。
ブレーキレバー116a、116bのロック状態を維持したままで、図9(h)に示すように、運搬具100の昇降用後輪20aが2段目の段上に載った状態で操作者が運搬具100を後ろ向けに移動させることにより、前輪10aが階段Stの1つ目の段の手前まで来ると、図10(i)に示すように、操作者が背部フレーム110の握り部分112を後方に引くことで、昇降用後輪20aを支点(中心)として、てこの原理で運搬具100を回転させる力が運搬具100に作用することで前輪10aが浮き上がる。そして、さらに、操作者が背部フレーム110の上端の握り部分112を後方に引くことで、図10(j)に示すように前輪10aが階段Stの1つ目の段上に載る。このように昇降用後輪20aを支点(中心)として、てこの原理で運搬具100を回転させる力が運搬具100に作用するために、省力で運搬具を上らせることが可能となる。
その後、操作者が運搬具100を後ろ向けに移動させ、昇降用後輪20aが階段Stの3段目の段の手前まで来ると、図10(k)に示すように、操作者が背部フレーム110の上端の握り部分112を上方に持ち上げる。これにより、前輪10aが支点となって運搬具100を回転させる力が運搬具100に作用することで昇降用後輪20aが浮き上がり、さらに、図10(l)に示すように、操作者が背部フレーム110の上端の握り部分112を後方に引くことで、支点となる前輪10aが後方に移動して昇降用後輪20aが階段Stの3つ目の段上に載る。
このような動作を繰り返すことで、前輪10aおよび昇降用後輪20aのブレーキをかけたままで安全に運搬具100に階段Stを昇らせることができる。
また、運搬具100に階段Stを下る動作をさせるには、前車軸11および昇降用車軸21のブレーキを解除した状態で、操作者が図8(a)~図8(d)、図9(e)~図9(h)、図10(i)~図10(l)に示す操作とは逆の操作を行うことで運搬具100に階段Stに下降させることができる。
すなわち、図10(l)に示すように運搬具100の前輪10aが階段の1段目の上に位置し、昇降用後輪20aが階段の3段目に位置する状態で、操作者が運搬具100を前進(第2の車輪よりも第1の車輪が進行方向前側となるように移動させる状態であって、図8~図10の紙面における右方向に移動)させると、昇降用後輪20aが階段の2段目に着地し(図10(k))、さらに、操作者が運搬具100を前進させると、前輪10aが図10(j)、図10(i)に示すように階段Stの下の接地面に降りてくる。そして、さらに操作者が運搬具100を前進させることにより、図9(h)~図9(e)に示すように昇降用後輪20aが階段Stの2段目から1段目に降り、さらに運搬具100を前進させることにより、図8(d)~図8(a)に示すように昇降用後輪20aが階段Stの1段目から階段St下の接地面に降りてくる。
運搬具100に階段Stを降りる動作は、基本的には前軸受け11aおよび昇降用車軸21に対するブレーキを解除した状態で行われるが、第1の車輪または第2の車輪を階段の段差の上段から下段に下ろすときにはブレーキを作動させ、不用意に運搬具が階段を勢いよく下りないようにしてもよい。
例えば、ブレーキレバー116b、116aの操作により前軸受け11aおよび昇降用車軸21に対して半ブレーキ(弱いブレーキ力のブレーキ)の状態でブレーキレバー116a、116bをロックし、前軸受け11aおよび昇降用車軸21の回転に抵抗を与えながら運搬具を階段で下すようにしてもよい。このようにすることでより安全に運搬具を下すことが可能となる。
なお、上述した運搬具100の使用方法では、運搬具100に階段Stを上らせる際には、第1の車軸11、第2の車軸21にブレーキを掛けた状態でブレーキレバー116b、116aをロックしたままとしているが、本発明はこれに限定されない。ブレーキレバー116b、116aをロックしない状態で昇降する場合であってもよい。
以下、実際に被介護者Crを運搬具100に載せて水平移動および階段の昇降を行う場合を説明する。
図11は、運搬具100に被介護者Crを載せて平面移動する動作を説明するための図であり、図11(a)および図11(b)は、運搬具100の第1の車輪10と第3の車輪30とが接地した状態を示す側面図および正面図である。
まず、運搬具100の平面の移動は、図11(a)、図11(b)に示すように、第1の車輪10としての右前輪10aおよび左前輪10bと第3の車輪30としての平面移動用右後輪30aおよび平面移動用左後輪30bとが接地した状態で行われる。
実際には、被介護者Crを乗せた運搬具100は、図11(a)に示すように運搬具100の背後に位置する介護者Cp1が運搬具100を押すことにより前進し、介護者Cp1が引くことにより後退する。
次に、図11(a)に示すように運搬具100が平面移動した後、その前方に位置する階段Stの昇降を行う場合は、図6(a)および図6(b)に示すように、運搬具100において、延長フレーム130がフレーム保持板60a、60bにより保持されている状態を解除して延長フレーム130を退避位置まで移動させて、第3の車輪30としての平面移動用右後輪30aおよび平面移動用左後輪30bに代えて、第2の車輪20としての昇降用右後輪20aおよび昇降用左後輪20bが接地する状態にする。
その後、被介護者Crを運搬具100に載せて階段Stを昇降する操作を行う。ここでは、運搬具100を階段Stで下ろす際に、被介護者Crに伝わる衝撃が小さくなって運搬具100の操作がスムーズに行われるように2人の介護者Cp1、Cp2が共同して操作を行うものとする。一人の介護者Cp1は運搬具100の後に位置し、もう一人の介護者Cp2は運搬具100の前に位置し、共同で運搬具100を操作する。そのため、運搬具100の前に位置する介護者Cp2は、運搬具100のフレーム支持部材115a、115bに装着された第2のグリップ118a、118bを用いて運搬具100の操作を行う。
以下、2人の介護者Cp1およびCp2の共同作業で運搬具100が階段を上る動作を具体的に説明する。
図12~図14は、運搬具100に被介護者Crを載せて2人の介護者Cp1、Cp2が階段を上るときの運搬具100の操作方法を説明するための図である。ここで、図12(a)および図12(b)は、運搬具100を第2の車輪20(昇降用後輪20a)を支点として第1の車輪10(右前輪10a)を階段の接地面から持ち上げる様子を示し、図13(c)および図13(d)は、運搬具100の第2の車輪20(昇降用後輪20a)を支点として第1の車輪10(前輪10a)を階段の1つ上の段に引き上げる様子を示している。
運搬具100に被介護者Crを載せて2人の介護者Cp1、Cp2により運ぶ場合も、階段を上るときには、ブレーキレバー116b、116aの操作により運搬具100の前車軸11および昇降用車軸21にブレーキを掛けてブレーキレバー116b、116aをロックしたままにする。この場合、ブレーキ力は、運搬具100を前方方向に押しても車輪が回転しない程度の大きなブレーキ力とする。
図12(a)に示すように、運搬具100の昇降用後輪20aが階段Stの上から2段目の段上に位置し、運搬具100の前輪10aが階段Stの上から4段目の段上に位置する状態で、運搬具100の後にいる第1の介護者Cp1が背部フレーム110の上端のグリップ(上部フレーム片)112を手前に引き、かつ、運搬具100の前にいる第2の介護者Cp2が第2のグリップ118aの先端を持ち上げることにより、昇降用後輪20aを支点として、てこの原理で被介護者Crを載せた状態の運搬具100の重心に運搬具100を持ち上げる力が働く。これにより支点の周りに左回りのモーメントが働き、図12(b)および図13(c)に示すように前輪10aが浮き上がる。
そして、前輪10aが階段Stの上から3段目の高さまで到達すると、第1の介護者Cp1が背部フレーム110のグリップを引っ張る力および第2の介護者Cp2が第2のグリップ118aを押し上げる力により運搬具100がブレーキレバー116a、116bがロックされた状態で前輪10aおよび昇降用後輪20aが一方向クラッチ機構12の作用により回転することで図13(d)に示すように後方に移動して前輪10aが階段Stの上から3段目の段上に載り上げる。
その後、図14(e)に示すように、運搬具100の後にいる第1の介護者Cp1が背部フレーム110の上端のグリップを持ち上げ、かつ、運搬具100の前にいる第2の介護者Cp2が第2のグリップ118aの先端を押し下げることにより、前輪10aを支点として、てこの原理で被介護者Crを載せた状態の運搬具100の重心に運搬具100を持ち上げる力が働く。これにより支点である前輪10aの周りに右回りのモーメントが働き、図14(e)に示すように昇降用後輪20aが階段Stの段上から浮き上がる。
そして、昇降用後輪20aが階段Stの上から1段目の高さまで到達すると、第1の介護者Cp1が背部フレーム110のグリップを後方に引く力および第2の介護者Cp2が第2のグリップ118aを押す力により、ブレーキレバー116a、116bがロックされた状態で一方向クラッチ機構12の作用により、図14(f)に示すように、支点である前輪10aが前進方向への移動を回避した状態で後退方向に移動して昇降用後輪20aが階段Stの上から1段目の段上に載り上げる。
このような一連の動作により、運搬具100の前輪10aが階段Stの上から4段目の段上に位置する状態から、運搬具100の前輪10aが1つ段差を乗り越えて階段Stの上から3段目の段上に位置する状態となり、運搬具100が階段Stを一段上ったこととなる。
次に、2人の介護者Cp1およびCp2の共同作業で運搬具100が階段を下る動作を具体的に説明する。
図15~図17は、運搬具100に被介護者Crを載せて2人の介護者Cp1、Cp2が階段を下るときの運搬具100の操作方法を説明するための図である。
ここで、図15(a)および図15(b)は、運搬具100を第1の車輪10(前輪10a)を支点として第2の車輪20(昇降用後輪20a)を階段の所定の段上から1つ下の段上に下ろす様子を示す。図16(c)、図16(d)は、運搬具100の第2の車輪20(昇降用後輪20a)を支点として第1の車輪10(前輪10a)を階段の1つ下の段上に下ろす様子を示す。図17(e)、図17(f)は、運搬具100の第2の車輪20(昇降用後輪20a)を支点として第1の車輪10(前輪10a)を階段の1つ下の段上に下ろす様子を示す。
運搬具100で階段Stを下りる場合は、運搬具100は前進させることになるので、前車軸11および昇降用車軸21に対するブレーキは解除した状態にしておく。ただし、必要に応じて運搬具100の背後に位置する第1の介護者Cp1がブレーキレバー116a、116bを操作して運搬具100の前方移動の速度を調節してもよい。また、前車軸11および昇降用車軸21に対するブレーキは解除するのではなく、弱いブレーキ力が前輪軸11および昇降用車軸21に働くようにブレーキは半ブレーキの状態とし、前軸受け11aおよび昇降用車軸21の前進方向の回転に抵抗が生ずるようにしておいてもよい。
図15(a)に示すように、運搬具100の昇降用後輪20aが階段Stの上から1段目の段上に位置し、運搬具100の前輪10aが階段Stの上から3段目の段上に位置する状態で、運搬具100の後にいる第1の介護者Cp1が背部フレーム110の上端のグリップを前方に押し、かつ、運搬具100の前にいる第2の介護者Cp2が第2のグリップ118aを手前に引くことにより、運搬具100が前方に移動する。そして運搬具100が前方にさらに移動して昇降用後輪20aが階段Stの上から1段目の段の端を超えると、昇降用後輪20aは、図15(b)に示すように階段Stの上から2段目の段上に向かって下降し、図16(c)に示すように、昇降用後輪20aは、階段Stの上から2段目の段上に着地する。
その後、第1の介護者Cp1が背部フレーム110の上端のグリップを前方に押し、かつ、第2の介護者Cp2が第2のグリップ118aを手前に引くことにより前輪10aが階段Stの上から3段目の段の端を超えると、前輪10aは、図16(d)および図17(e)に示すように階段Stの上から4段目の段上に向かって下降し、図17(f)に示すように、前輪10aは、階段Stの上から4段目の段上に着地する。
このような一連の動作により、運搬具100の前輪10aが階段Stの上から3段目の段上に位置する状態から、運搬具100の前輪10aが1つ段差を乗り越えて階段Stの上から4段目の段上に位置する状態となり、運搬具100が階段Stを一段下ったこととなる。
このように、本実施形態1の運搬具100では、第1の車輪10、第2の車輪20、第3の車輪30を有し、これらの車輪がそれぞれ、背部フレーム110、座面フレーム120、延長フレーム130の下部に設けられているので、平面を移動する際は、第1の車輪10と第3の車輪30とが接地し、段差を昇降する際は、第1の車輪10と第2の車輪20とが接地することが可能である。
第1の車輪10と第3の車輪30とが接地するときの姿勢を、第1の車輪10と第2の車輪20とが接地するときの姿勢とは異なる姿勢とすることができ、平面を移動するときと段差を昇降するときとで、運搬具の姿勢を適切な姿勢とすることが可能である。
さらに、第1の車輪10と第2の車輪20とが接地する場合は、段差を昇降する際には、第1の車輪10および第2の車輪20のうちの一方の車輪を支点とすることで、背部フレーム110あるいは座面フレーム120の一部を力点として他方の車輪をてこの原理で簡単に持ち上げることができ、運搬具の昇降を省力で行うことが可能となる。
また、延長フレーム130は、左右方向の軸周りに枢動可能に座面フレーム120に取り付けられているので、座面フレーム120の下部に取り付けられている第2の車輪20が接地する状態と、延長フレーム130の下部に設けられている第3の車輪30が第2の車輪20に代わって接地させる状態とを、延長フレームの回動により簡単に切り替えることができる。
座面フレーム120は、左右方向の軸周りに枢動可能に背部フレーム110に取り付けられているので、背部フレーム110に対して座面フレーム120を両者がほぼ平行になる位置まで回動させることで、運搬具100をコンパクトに折り畳むことが可能である。
また、運搬具100は、第1の車輪10の前車軸11にブレーキをかける第1のブレーキ手段40と、第2の車輪20の昇降用車軸21にブレーキをかける第2のブレーキ手段50とを有し、背部フレーム110の上部がグリップ112を含み、グリップ112が、第1および第2のブレーキ手段を操作する複数のブレーキレバー116a、116bを有するので、前車軸11および昇降用車軸21のブレーキ操作を簡単に行うことができ、しかも、前車軸11および昇降用車軸21にブレーキをかけることが可能であることで、第1の車輪10および第2の車輪20の一方を支点としてその他方を持ち上げる操作を行う際には、支点となる車輪を安定に固定させることができ、てこを利用した車輪の持上げを安定に行うことができる。
また、第1の車輪10および第2の車輪20は、第1、第2のブレーキ手段40、50により前車軸11、昇降用車軸21にブレーキを掛けた状態で、第1の車輪10、第2の車輪20を後退方向に回転させる一方向クラッチ機構を備えているので、後退方向に移動しながら階段を上る運搬具では、前車軸11および昇降用車軸21にブレーキをかけておけば、ブレーキの作用により前進移動(段差の下り)が阻止され、一方向クラッチの作用により後退移動(段差の上り)については阻止されない。このため、運搬具100を後退させて階段を上る際に運搬具が前進して階段から落下するのを回避でき、しかも、運搬具に階段を上らせるための運搬具100の移動を、運搬具100を少しずつ後退させることにより確実に行うことができる。
さらに、背部フレーム110には、前進方向に突出する第2のグリップ118a、118bが設けられているので、運搬具100は、背部フレーム110に第1のグリップ(上部フレーム片)112が設けられている運搬具の背面側からだけでなく、第2のグリップ118a、118bが突出する運搬具の前面側からも運搬具を操作可能となり、2人の操作者(介護者Cp1、Cp2)により運搬具の操作が可能となり、重量のある被介護者Crなどの被運搬体を運搬具に乗せて作業性よく、階段を昇降したり水平な地面を移動したりすることができる。
なお、実施形態1の運搬具100では、前進方向に突出する第2のグリップ118a、118bは、背部フレーム110に装着されているが、前進方向に突出する第2のグリップ118a、118bは、背部フレーム110に代えて座面フレーム120に装着されてもよいし、あるいは背部フレーム110に加えて座面フレーム120に装着されてもよい。
また、第2のグリップ118a、118bは、運搬具100の後退方向(第2の車輪20側)に突出するものでもよいし、さらに、第2のグリップ118a、118bは、運搬具100の前進方向(第1の車輪10側)に突出させるか、後退方向(第2の車輪20側)に突出させるかを選択可能なものでもよい。
図18は、第2のグリップの他の例(U字型のグリップ119)およびこれを用いた運搬具200を説明するための斜視図であり、U字型のグリップ119の構造(図18(a))、運搬具200にてU字型のグリップ119を前進方向に突出させた状態(図18(b))および運搬具200にてU字型のグリップ119を後退方向に突出させた状態(図18(c))を示す。
図18(b)、(c)に示す運搬具200は、図2に示す実施形態1の運搬具100におけるフレーム支持部材115a、115bに代えて、U字型のグリップ119をスライド可能に支持するフレーム支持部材215a、215bを備えたものであり、その他の構成は、実施形態1の運搬具100と同一である。
ここで、フレーム支持部材215a、215bは、具体的には、U字型の第2のグリップ119の両側辺部をスライド可能に収容する筒状体で構成されており、この筒状体に対してU字型の第2のグリップ119の側辺部を両者の任意の相対位置で固定するロック機構(図示せず)を有している。
このような構成の運搬具200では、U字型の第2のグリップ119を図18(a)に示すように運搬具200の前進方向あるいは後退方向に所定長さだけ突出させることが可能である。そのため、運搬具200として、被運搬物の大きさや重さに応じて第2のグリップ119の長さあるいは突出させる方向を調整することにより、第2のグリップ119だけで人や荷物を運搬可能とできるものを実現でき、この場合、背部フレーム110や座面フレーム120を簡略な構造とすることが可能となる。
さらに、この運搬具200では、フレーム支持部材215a、215bはU字型の第2のグリップ119を着脱可能に支持する構造としてもよいが、U字型の第2のグリップ119を取り外しできないように支持する構造でもよく、その場合、第2のグリップ119を紛失するおそれはなくなる。図18に示す実施形態において、U字型の第2のグリップ119は開口部が前進方向を向くように配置されているが、U字型の第2のグリップ119は開口部が後退方向を向くように配置する場合であってもよい。また、図18に示す実施形態において、第2のグリップ119はU字型であるが、本発明はこれに限定されず、V字型、ロ字型、凹字型などであってもよい。
(実施形態2)
実施形態1では、運搬具100として、延長フレーム130が座面フレーム120に回動可能に取り付けられたものあるいは着脱可能に取り付けられたものを示したが、本発明の運搬具は、延長フレーム130および第3の車輪を有しておらず、段差昇降時に後輪として用いられる第2の車輪20を平面移動時にも後輪として用いるものでもよい。
図19は、このような構成の運搬具300を示す平面図であり、図19(a)は平面移動時の運搬具の状態を示し、図19(b)は昇降時の運搬具の状態を示す。
この運搬具300は、実施形態1の運搬具100の変形例であり、この運搬具100における第3の車輪30、延長フレーム130などを取り除いたものである。それ以外の構造は実施形態1の運搬具100と同一である。したがって、図1~図18に示される構成要素と同一の構成要素には同一の参照番号を付し、その説明を省略する。
このような運搬具300では、平面移動時(図19(a))には、段差昇降時に後輪として用いられる第2の車輪20が後輪として用いられる。図19(a)に示されるように、実施形態1に比べて第3の車輪がないため、平面移動時における背面フレーム110および座面フレーム120は、実施形態1における状態に比べて後方に大きく傾斜している。そして、昇降時の運搬具の状態(図19(b))は、実施形態1における運搬具の状態と同じである。したがって、平面移動時から昇降時または昇降時から平面移動時に移る際に、運搬具に載る対象物の姿勢が大きく変化することになり、乗り心地の点で実施形態1の運搬具の方が優れている。しかしながら、実施形態2の運搬具は、延長フレーム130、第3の車輪30およびこれを支持するための部材が不要であり、構造を簡単にできる点で優れており、乗り心地などを考慮する必要のない荷物などを運搬するのに適している。
なお、このような構成の運搬具300では、背部フレーム110の側部フレーム片111a、111bのうちの座面フレーム120の側部フレーム片121a、121bを軸支する位置よりも車輪側に近い部分を伸縮可能に構成したり、座面フレーム120の側部フレーム片121a、121bのうちの背部フレーム110の側部フレーム片111a、111bを軸支する位置よりも車輪側に近い部分を伸縮可能に構成することで、運搬具300の姿勢を段差昇降時には段差昇降に適した姿勢とし、平面移動時には平面移動に適した姿勢とすることが可能となる。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。