(実施の形態)
[装置構成]
以下、本発明の実施の一形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示す。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、動作の順序等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明する。
はじめに図1を用いて、本実施の形態における磁界空間分布検出装置100の概観図について説明する。
なお、以降の説明においては、互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸の3軸によって規定される3次元空間のXY平面に、磁界空間分布検出装置100の基板20の板面が配置されるものとして説明する。たとえばこの場合、基板20の厚み方向とZ軸方向とが一致するものと理解できる。
図1は本実施の形態における磁界空間分布検出装置100の概観図である。図1には基板20が図示されており、基板20のZ軸プラス側の面において、複数のループが周期的に配置(言い換えると、配列)されていることがわかる。ここで、複数のループのそれぞれは導体ループ(言い換えると、金属ループ)の一例である。複数のループは、それぞれの配向から3種類に分類でき、それぞれ第1ループ31、第2ループ32、および第3ループ33として示している。
なお、図1では磁界空間分布検出装置100のX軸方向における中央部、およびY軸方向における中央部が便宜的に破断、省略されているが、省略箇所においても各方向における周期的な構造が繰り返されている。
また、繰り返し構造の最小単位として、近接する3種類のループを各1個組み合わせた基本構造を、概念的にセル10として2点鎖線の領域により示した。なお、図1に示すセル10はX軸マイナス側最端部、およびY軸マイナス側最端部における一例であり、いずれの箇所においても近接する3種類のループ組み合わせたものはセル10として扱う。セル10の詳細については、図2を用いて後述する。
基板20は矩形状の誘電体基板であり、たとえばFR-4(Flame Retardant Type4)基板等の樹脂基板である。なお、基板20の形状、および材質はこれに限定されず、六角形もしくは三角形などの多角形状であってもよく、ガラスやフッ素樹脂など他の材質の基板であってもよい。基板20はたとえばX軸方向に310mm、Y軸方向に310mmの長さをもつ正方形基板である。
また、基板20のうち、前述の第1ループ31、第2ループ32および第3ループ33が実装されるZ軸プラス側の面(つまり表面)を計測面21、計測面21と背向するZ軸マイナス側の面を裏面22と定義する。
第1ループ31は、Z軸方向のベクトルを有する磁界成分を検出するために用いられる、基板20に平行な面に形成された金属パターンである。具体的には計測面21においてX軸方向に平行な2配線と、Y軸方向に平行な2配線とによって構成された矩形状のプリント配線であり、銅などの導体配線によって構成される。
第1ループ31は以上のような敷設型であるため、基板20と同一のXY平面に配置されたループ面を形成する。なお、第1ループ31を構成するプリント配線は、適切な絶縁性の塗料等によって絶縁処理がなされている。なお、第1ループ31は、このような絶縁処理がなされていなくてもよく、後述する第2ループ32、および第3ループ33と電気的に接続されていなければ、どのような形態であってもよい。
なお、第1ループ31はプリント配線としたが、計測面21上に同様の配向をなす配線材によって形成されてもよい。
第1ループ31によって形成される矩形は、たとえば一辺が10mmの正方形である。なお、第1ループ31はこのような形状に限定されず、円形や、三角形、および六角形等であってもよい。
第2ループ32は、Y軸方向のベクトルを有する磁界成分を検出するために用いられる、基板20上に実装される導体による配線であり、計測面21においてX軸方向に平行な2配線と、Z軸方向に平行な2配線とによって構成される矩形状の配線材である。より具体的には、基板20において、X軸方向に平行なプリント配線と、その両端部からZ軸プラス方向に延びる配線材と、基板20上におけるZ軸方向の所定の位置において、Z軸方向に延びた2本の配線材を接続する、X軸方向に平行な配線材とによって形成される、矩形状の配線である。
なお、第2ループ32を構成する配線材は基板20上の空間において、所定の形状を維持できる剛性を備えた導体であり、たとえば錫めっき銅などによって実現される。したがって第2ループ32は基板20に対する立設型であり、XZ平面と平行なループ面を形成する。なお、第2ループ32のうちプリント配線箇所は、適切な絶縁性の塗料等によって絶縁処理がなされている。なお、第2ループ32は、第1ループ31と同様にこのような絶縁処理がなされていなくてもよい。
第2ループ32によって形成される矩形は、たとえばX軸方向に平行な辺が10mm、Z軸方向に平行な辺が5mmの長方形である。なお、第1ループ31と同様に、第2ループ32もこのような形状に限定されない。
第3ループ33は、X軸方向のベクトルを有する磁界成分を検出するために用いられる、基板20上に実装される導体による配線であり、計測面21においてY軸方向に平行な2配線と、Z軸方向に平行な2配線とによって構成される矩形状の配線材である。より具体的には、基板20において、Y軸方向に平行なプリント配線と、その両端部からZ軸プラス方向に延びる配線材と、基板20上におけるZ軸方向の所定の位置において、Z軸方向に延びた2本の配線材を接続するY軸方向に平行な配線材とによって形成される、矩形状の配線である。
第3ループ33によって形成される矩形は、たとえばY軸方向に平行な辺が10mm、Z軸方向に平行な辺が5mmの長方形である。なお、第1ループ31、および第2ループ32と同様に、第3ループ33もこのような形状に限定されない。
また、第3ループ33は、基板20上の空間において所定の形状を維持できる剛性を備えた配線であり、たとえば錫めっき銅などによって実現される。したがって第3ループ33は基板20に対する直立型であり、YZ平面と平行なループ面を形成する。
以下、ループの周期的配置についてより具体的に説明する。
まず、X軸方向マイナス側からプラス側にかけて、基板20の端部15mmの位置からX軸方向に10mmの長さをもって、1個目の第1ループ31が配置され、さらに20mmの間隔をあけて2個目の第1ループ31が配置される。以降20mm間隔でX軸方向に10mmの長さの第1ループ31が順次配置され、10個目の第1ループ31が配置された後、15mmの間隔をあけて基板20の端部に至る。
Y軸方向マイナス側からプラス側にかけても、同様に第1ループ31が10個配置される。つまり、基板20上には省略された箇所も含め、合計10×10=100個の第1ループ31が配置されている。
次に、X軸方向マイナス側からプラス側にかけて、基板20の端部15mmの地点からX軸方向に10mmの長さをもって、1個目の第2ループ32が配置され、さらに20mm間隔をあけて2個目の第2ループ32が配置される。以降20mm間隔でX軸方向に10mmの長さの第2ループ32が順次配置され、10個目の第2ループ32が配置された後、15mmの間隔をあけて基板20の端部に至る。
Y軸方向においては、マイナス側からプラス側にかけて基板20の端部5mmの地点に、1個目の第2ループ32が配置され、さらに30mmの間隔をあけて2個目の第2ループ32が配置される。以降30mm間隔で第2ループ32が順次配置され、11個目の第2ループ32が配置された後、5mmの間隔をあけて基板20の端部に至る。
つまり、基板20上には省略された箇所も含め、合計10×11=110個の第2ループ32が配置されている。
次に、X軸方向マイナス側からプラス側にかけて、基板20の端部5mmの地点に、1個目の第3ループ33が配置され、さらに30mm間隔をあけて2個目の第3ループ33が配置される。以降30mm間隔で第3ループ33が順次配置され、11個目の第3ループ33が配置された後、5mmの間隔をあけて基板20の端部に至る。
Y軸方向においては、マイナス側からプラス側にかけて基板20の端部15mmの地点からY軸方向に10mmの長さをもって、1個目の第3ループ33が配置され、さらに20mmの間隔をあけて2個目の第3ループ33が配置される。以降20mm間隔でY軸方向に10mmの長さの第3ループ33が順次配置され、10個目の第3ループ33が配置された後、15mmの間隔をあけて基板20の端部に至る。
つまり、基板20上には省略された箇所も含め、合計11×10=110個の第3ループ33が配置されている。
以上のように磁界空間分布検出装置100は、セル10の構成をX軸方向、およびY軸方向にそれぞれ10周期配列した後、基板中心から点対称になるように、基板のX軸方向端部に第3ループ33、Y軸方向端部に第2ループ32を追加で配列した構成となっている。
ここで第1ループ31と、第2ループ32、および第3ループ33とは、基板20上に実装されたループの個数がそれぞれ100個と、110個、および110個とであり、実装数が異なっている。
本実施の形態における磁界空間分布検出装置100は、ある地点のセル10において3次元方向の磁界の強度、および位相が検出できる。一方で図1に示すように空間内に複数のセル10を配置した場合には、磁界の各ベクトル成分に関する空間内の分布として解釈することもできる。つまり、本実施の形態において、磁界空間分布検出装置100は空間内のZ軸方向のベクトルをもった磁界成分の、100地点における分布、Y軸方向のベクトルをもった磁界成分の、110地点における分布、およびX軸方向のベクトルをもった磁界成分の、110地点における分布のように磁界の各方向成分それぞれの分布として検出できる装置でもある。
よって磁界空間分布検出装置100は、第1ループ31、第2ループ32、および第3ループ33の実装数がそれぞれで異なっていてもよい。
なお、基板20上のループの配置はこのような位置関係に限定されない。たとえば、磁界空間分布検出装置100は、30mm周期で規則的に配列された配置としたが、さらに周期を短くしてもよく、長くしてもよい。だたし、磁界空間分布検出装置100の効果を均質に得られるようにするためには、検出したい対象の電磁波が有する波長よりも十分に細かい周期で配列されたループ配置が必要となる。たとえば、後述する試験的な実施例において、検出する対象となる電磁波の波長を150mmに設定したが、これに対して磁界空間分布検出装置100における30mmの周期的構造は十分に細かいといえる。
本実施の形態における磁界空間分布検出装置100は、このように対象の波長よりも十分に細かい繰り返し構造を有するため、磁界空間分布検出可能なメタマテリアル、もしくは面状の配置をとることから磁界空間分布検出可能なメタサーフェスとみなすことができる。
また、本実施の形態における磁界空間分布検出装置100においては、平面状にセル10が配列されたが、たとえば基板20を積層することで、3次元的に配置したセル10によって、磁界ベクトルの3次元空間分布を一挙に検出できる構成としてもよい。
次に図2、および図3を用いて本実施の形態における磁界空間分布検出装置100を構成する最小単位のセル10について説明する。
図2は本実施の形態における磁界空間分布検出装置100のセル10を説明する図である。図2には磁界空間分布検出装置100を構成する、複数のうちの一つのセル10、基板20、第1ループ31、第2ループ32、および第3ループ33が図示されている。
セル10は、前述のように3次元方向の磁界の強度、および位相を検出するための構造概念であり、磁界空間分布検出装置100を構成する複数のセル10のうちの一つである。セル10は、互いに直交する3方向の磁界を検出する3つの導体ループを有する。つまり、第1ループ31、第2ループ32、第3ループ33、およびこれらのループを実装する基板20によって構成される。すなわち、セル10は磁界空間分布検出装置100において、一つの面を構成するように配置される。言い換えると、磁界空間分布検出装置100において、セル10は二次元面状に周期的に配列されている。
第1ループ31は基板20の計測面21においてXY平面上に配置される。
第1ループ31を構成する基板20上のプリント配線の厚み、および幅はどのような値であってもよい。たとえば0.036mmの厚み、および1mmの幅であってもよく、これ以上、またはこれ以下の厚みと幅であってもよい。また厚みと幅は一致していてもよい。ただし、後述するが、第1ループ31によって形成される第1ループ面31sの内部面積(つまり表面積)は、大きければ大きいほど、磁界による誘導起電力が大きくなるため、計測の精度が増す。よって第1ループ31の配線の厚み、および幅は、計測したい磁界が十分計測可能な表面積を確保できるような値であることが望ましい。
また、第1ループ31は、Y軸方向に平行な2配線の略中央部においてそれぞれ破断されており、破断箇所の両端がそれぞれ、所定の抵抗値を有する抵抗素子41、および42の両端に電気的に接続されている。本実施の形態において抵抗素子41、および42は、基板20上に実装可能なチップ抵抗を採用しているが、これに限定されるものでない。
なお、破断箇所もこの位置に限定されるものでなく、Y軸方向に平行な2配線の略中央部であってもよく、各配線の端部であってもよい。また、第1ループ31に接続される抵抗素子は1つであってもよい。
本実施の形態においては、計測器を用いて第1ループ31に発生した電圧を計測することで、第1ループ面31sに垂直なベクトル(つまりZ軸方向のベクトル)を有する磁界成分の強度、および位相を検出する。
ここで、前述の抵抗素子41、および42が示す所定の抵抗値は、計測に用いる計測器の入力インピーダンスと同じ値である。
図1に示したように、本実施の形態における磁界空間分布検出装置100は、セル10を複数配置した繰り返し構造を有する。これら複数のセル10のうち、計測に用いるセル10に実装されたループには計測器が接続されるが、その他のループについては接続されない。つまり計測に用いないセル10と計測に用いるセル10とでは計測器の有する、入力インピーダンス(つまり抵抗成分)が存在するという点で回路特性に差異が生じてしまう。このような差異を軽減するため、測定に用いないセル10に関しては、抵抗素子41、および42が接続される。したがって、計測に用いるセル10においては、計測器の入力インピーダンスが接続されるため(抵抗成分を有するため)抵抗素子41、および42は接続されない。
なお、以上の抵抗値についての記載は後述の抵抗素子43、および44においても同様である。
第2ループ32は、第1ループ31からY軸方向マイナス側(およびプラス側)に10mm離間して設置される。
第2ループ32を構成する基板20上のプリント配線、および基板20上の空間に配置された配線材の厚み、および幅は、どのような値であってもよい。プリント配線箇所は、たとえば0.036mmの厚み、および1mmの幅である。また、配線材箇所は、たとえば0.7mmの厚み、および0.7mmの幅である。なお、プリント配線箇所、および配線材箇所のいずれにおいても、これ以上、またはこれ以下の厚みと幅であってもよい。また、厚みと幅は一致していてもよく、一致していなくてもよい。ただし、第1ループ31と同様に第2ループ32によって形成される第2ループ面32sの表面積は、大きければ大きいほど、磁界による誘導起電力が大きくなるため、計測の精度が増す。よって第2ループ32の配線の厚み、および幅は、計測したい磁界が十分計測可能な表面積を確保できるような値であることが望ましい。
以上のような構成の第2ループ32に発生した電圧を計測することで、第2ループ面32sに垂直なベクトル(つまりY軸方向のベクトル)を有する磁界成分の強度、および位相を検出する。
また、第2ループ32は、X軸方向に平行な2配線のうち、基板20上にプリントされた配線の略中央部において破断されており、破断箇所の両端がそれぞれ、所定の抵抗値を有する抵抗素子43の両端に電気的に接続されている。抵抗素子43は抵抗素子41、および42と同様に、基板20上に実装可能なチップ抵抗を採用しているが、これに限定されるものでない。
なお、破断箇所はこの位置に限定されず、いずれの箇所で破断されていてもよい。
第3ループ33は、第1ループ31からX軸方向マイナス側(およびプラス側)に10mm離間して設置され、XZ平面に配置された第2ループ32と同様の配線が、YZ平面に配置されたものである。第3ループ33の構造については第2ループ32と同様であり、詳細な説明は省略する。
つまり、第3ループ33において、所定の表面積を有する第3ループ面33sによって、磁界に基づき発生した電圧を計測することで、第3ループ面33sに垂直なベクトル(つまりX軸方向のベクトル)を有する磁界成分の強度、および位相を検出する。なお、第2ループ32と同様に第3ループ33には、抵抗素子44が電気的に接続されている。
また、図2において説明したように第1ループ31、第2ループ32、および第3ループ33は少しずつ位置をずらして構成したが、これらが重なるように構成されてもよい。たとえば少しずつ配線長の異なる(言い換えると、矩形の長さや高さが異なる、または円形であれば半径が異なる)金属ループを、適切な絶縁処理によって相互に電気的な接続が生じないようにして重ねることで構成したセルを、平面基板上に周期的に配列してもよい。
また磁界空間分布検出装置100が純粋に「検出」のための装置として振る舞うためには、計測によって周囲の磁場を乱さないことが望ましい。たとえば、アンテナなどの共振機器は共振現象に伴い周囲の電場や磁場を乱す。本実施の形態における磁界空間分布検出装置100はこのような共振現象を避けることが好ましい。
つまり磁界空間分布検出装置100を用いて測定したい、対象の電磁波が有する波長に対して、第1ループ31、第2ループ32、および第3ループ33はループそれぞれの配線長を、4分の1波長の長さよりも十分短くして構成することが望ましい。したがって、ループの大きさは使用状況に合わせ、このような配線長の制限に干渉しないように、適宜設計されるべきである。
ここで図3を用いてセル10の断面構造について説明する。
図3は本実施の形態における磁界空間分布検出装置100のセル10を説明する断面図である。図3には、計測面21に実装された導体34、および35が図示されている。また裏面22を被覆する銅箔36、および誘電体層37を貫通して計測面21の導体34、および35を裏面22まで電気的に導くビア38も図示されている。
図3の(a)は第1ループ31の断面図が、図3の(b)には第2ループ32断面図がそれぞれ図示されている。なお、図3の(b)に関して、第2ループ32と第3ループ33とは、配向が異なるのみで同一の構成であるため、図3の(b)は第3ループ33の断面図と解釈することもできる。
なお、図3においては計測器が接続されるセル10を図示しているため、抵抗素子41~43は図示されていない。
図3の(a)は第1ループ31の矩形配線のうち、Y軸方向に平行な一辺に沿って切断したYZ平面の断面図である。第1ループ31は、図3の(a)に示すように誘電体層37を含む基板20上に構成される。
上記で説明したように、本実施の形態における第1ループ31は、プリント配線によって基板20に「埋め込まれた」形態で実現される。図3の(a)においても第1ループ31を構成する導体34が、誘電体層37に埋め込まれた形態であることが示されている。
なお、第1ループ31のY軸方向における配線の長さをW1と定義する。図1において説明したように、本実施の形態においてW1は10mmである。また図示しないが第1ループ31は正方形の配線であるためX軸方向における配線の長さも10mmである。つまり、図3の(a)において、第1ループ31のループ1周分の長さは、4×W1によって規定される40mmの配線長である。
ここで、基板20上にパターン配線として第1ループ31を形成した後、たとえばエポキシ樹脂などの適切な塗料等によって、ループは絶縁処理され「埋め込まれた」形状となる。絶縁処理によって形成された絶縁層は、厳密には基板20の誘電体層とは異なる材質である場合も考えられるが、図3では便宜的に絶縁層、および誘電体層をあわせて誘電体層37として図示している。以上の絶縁処理についての記述は、第2ループ32、および第3ループ33に関して、埋め込まれた配線箇所において同様である。なお、本実施の形態においては、第1ループ31、第2ループ32、および第3ループ33の「埋め込まれた」箇所について、塗料等によって絶縁処理される構成を説明したが、これに限られるものではない。たとえば第1ループ31、第2ループ32、および第3ループ33が十分に離間された配置であれば、これらループどうしは電気的に絶縁されているため別途絶縁処理を行う必要はない。
計測面21に形成された導体34によって構成される第1ループ31は、ビア38によって裏面22へと電気的に接続される。ビア38は、導体34と同一、または異なる導電性材料によって構成され、たとえば基板20に設けられた穿孔に銅などが充填されることで形成される。ビア38の長さは層間距離T、および裏面22をグランドとして被覆する銅箔36の厚みによって規定される。本実施の形態においてTはたとえば1.6mmである。なお、銅箔36はビア38の貫通箇所に対応して開口しており、ビア38がグランドと電気的に接続されないよう構成されている。
以上のようにして、第1ループ31はビア38を介して裏面22に電気的に接続され、さらに裏面22において計測器に接続されることで、裏面22側から計測を行う。
図3の(b)は、第2ループ32の矩形配線をループ面と平行な面で切断したXZ平面の断面図である。第2ループ32も、第1ループ31と同様に誘電体層37を含む基板20上に構成されるが、第1ループ31が「埋め込まれた」形態であるのに対し、第2ループ32は「立設された」形態である点で異なる。
このため図3の(b)には、第2ループ32を構成する導体35は、Z軸方向に延びる配線材を有していることが示されている。また、第2ループ32を構成するX軸方向に平行な配線のうち一方は、Z軸方向に延びる2配線をそれぞれのZ軸プラス側端部において接続する。また他方は、プリント配線によって基板20に埋め込まれる。このようにして第2ループ32の「立設された」形態が実現される。
なお、第2ループ32のX軸方向における配線の長さをW2、Z軸方向における配線の長さをH2と定義する。図1において説明したように、本実施の形態においては第2ループ32のH2は5mmであり、W2は10mmである。つまり図3の(b)において、第2ループ32のループ1周分の長さは、2×W2+2×H2によって規定される30mmの配線長である。
ここで、第2ループ32に関しても、X軸方向に平行な配線のうち基板20に埋め込まれた一方において、ビア38によって裏面22へと電気的に接続される。
したがって磁界空間分布検出装置100によって検出される磁界のうち、Y軸方向のベクトルを有する磁界成分は、ビア38を介して裏面22において第2ループ32と電気的に接続された計測器によって検出される。
また図示を省略したが、Z軸方向に平行な2配線と、Y軸方向に平行な2配線とによって構成される他は、第2ループ32と同様の構成である第3ループ33が、ビア38を介し、裏面22において計測器に接続される。第3ループ33は計測器によってX軸方向のベクトルを有する磁界成分を検出する際に使用される。
以上のように、複数配置されたセル10のうち、単一のセル10によってX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向の3方向のベクトルをもつ磁界成分を、それぞれ検出することができる。つまり、セル10が配置された空間内の一箇所において、これら3方向の磁界の強度、および位相が検出でき、3方向の磁界成分を合成することで磁界のベクトルを計測することができる。
[装置の動作]
次に、以上のように構成された本実施の形態における磁界空間分布検出装置100の動作について、実施例を用いて詳細に説明する。
まず、試験的に行った実施例の実施条件について説明する。基板20の中心からZ軸プラス方向に100mm離間した位置より、標準ダイポールアンテナを用いて周波数2GHz、強度0dBmのX軸方向偏波の電磁波を放射した。この放射された電磁波によって発生する磁界の、各セル10の配置された地点における強度(つまり、実測値)をそれぞれ取得した。つまり、各セル10が備える第1ループ31、第2ループ32、および第3ループ33それぞれの抵抗素子41~44において、ファラデーの電磁誘導の法則に従って生じる誘導起電力を測定し、以下の式1を用いて磁界の強度を計算した。
ここで、Hは磁界の強度、ωは角周波数、μは透磁率、Sは第1ループ面31s、第2ループ面32s、または第3ループ面33sの表面積、VRは抵抗素子41~44に生じた誘導起電力をそれぞれ示している。前述で述べたループ面の表面積の大きさは、式1の中でSとして記述されるが、測定対象である磁界の強度が一定とすれば、表面積Sが大きければ大きいほど、発生する誘導起電力VRが大きくなることがわかる。よって、精度よく磁界の強度Hを計算するために、VRを大きくするように、可能な限りループ面の表面積が大きなループを実装することが望ましい。
一方で、コンピュータ上で実行されるアプリケーションソフトウェアにおいて、同様の構成を仮想的に構築し、仮想の磁界空間分布検出装置における複数のセルそれぞれによって、取得される仮想の磁界の強度(つまり、シミュレーション値)を計算科学的に取得した。
なお、実装した10×10=100個のセル10と、追加配列したループとで、100個の第1ループ31、110個の第2ループ32、および110個の第3ループ33が基板20上に実装されている。上記の実測値を得る際は、これらのループから第1ループ31を6×6=36個、第2ループ32を6×5=30個、第3ループを5×6=30個選択して、このそれぞれについて計測器を接続して磁界により発生する誘導起電力を取得した。
また、一方で上記のシミュレーション値を得る際は、構築した仮想の磁界空間分布検出装置における複数のセル全てにおいて磁界により発生する誘導起電力を取得した。このため、以下の図4に示す実測値と、シミュレーション値とでは計測点数が異なり、マトリックスの格子サイズが異なっている。
このようにして、以上の条件において得られた実測値、およびシミュレーション値について、図4を用いて結果をもとに説明する。
図4は本実施の形態における磁界空間分布検出装置100による磁界分布の検出例とシミュレーション結果とを説明する図である。図4には、XY平面に配置された各セル10それぞれにおいて、計測された磁界の強度がマトリックス状に示されている。つまり図4は、磁界成分の2次元磁界分布を示す図である。なお、図4の値は一例として、X軸方向偏波の電磁波が持つY軸方向の磁界成分を検出するため、第2ループ32に着目している。
図4の(a)は実測値を、図4の(b)はシミュレーション値を示している。先に述べたように、実測値は全ループ点110点のうち、計測点30点を選択して検出した結果を示し、シミュレーション値は全ループ点110点の全ての点において計算された結果を示している。つまりこれらの結果は、互いに解像度の異なるマトリックスを示している。
図4は縦軸に、Y軸方向における基板の長さ310mm(-155mm~+155mm)のうち、いずれの位置におけるセル10の第2ループ32において得られた磁界強度であるかを示している。また同様に横軸には、X軸方向における基板の長さ310mm(-155mm~+155mm)のうち、いずれの位置におけるセル10の第2ループ32において得られた磁界強度であるかを示している。また、図4の(a)、および図4の(b)それぞれの右側に付したグレースケールバーにより、各計測点における磁界の強さを示している。図4の(a)ではX軸方向、およびY軸方向のいずれにおいても中央部が最も磁界強度が大きく、各軸の両端に至るにつれて磁界強度が小さくなる「山なり」の形状を示している。一方、図4の(b)でもX軸方向、およびY軸方向のいずれにおいても中央部が最も磁界強度が大きく、各軸の両端に至るにつれて磁界強度が小さくなる、同様の「山なり」の形状を示している。つまり計測によって得られた実測値は、計算されたシミュレーション値を正確に反映した、同様の磁界強度の分布を示している。
次に、図5を用いて、試験的に行った実施例において得られた結果について、考察を踏まえて説明する。
図5は本実施の形態における磁界空間分布検出装置100の動作の妥当性を説明する図である。図5は、横軸に、X軸方向における基板の長さ310mm(-155mm~+155mm)のうち、いずれの位置におけるセル10の第2ループ32において得られた磁界強度であるかを示している。なお、横軸のうち両端の5mmずつは、ループが配置されない箇所であるため、図5においては省略している。また縦軸には、図4に破線で示した(つまりY軸方向における中央部の)X軸方向に沿った磁界分布として、各セル10において検出された磁界強度をプロットしている。
また図5には、先に述べた図4と同様に実測値とシミュレーション値を示した。また標準ダイポールアンテナから100mmの距離において、磁界の強度がどのように分布するかを、計算によって求めた理論磁界分布を作成した。図5には、作成した理論磁界分布のうち、実施例における計測点に対応する、Y軸方向0mm、X軸方向-155mm~+155mmにおける理論値のプロットも併せて示した。なお、図5においては実測値、およびシミュレーション値は、各セルの備えるループで得られた離散した数値であるのに対し、理論値は理論上の磁界の強度分布であるため連続した数値であり、図5において曲線として示されている。
なお、実測値の計測点としてX軸方向におけるマイナス側からプラス側にかけて2個目、4個目、7個目、9個目の第2ループ32は、計測には使用しなかったため、これらに対応するプロットは図示されていない。すなわち、計測に用いられたのは基板20のX軸マイナス側端部から15mm、75mm、135mm、165mm、225mm、および285mmの位置から、それぞれX軸方向に10mmの長さをもって設置されたループ6点である。
図5に示すように、実測値とシミュレーション値とはやはり一致しており、その誤差は25%以内である。一方で、理論値と比較した場合は、実測値、およびシミュレーション値は非常に大きいことがわかる。この要因として、理論値は直接波のみを観測しているのに対して、本実施の形態における磁界空間分布検出装置100は図1、および図2に示すように、基板20や各ループなどの構造物が存在する点が考えられる。理論値はこのような構造物については考慮されないが、実測値、およびシミュレーション値は構造物による反射があったために、これらは理論値と比べて磁界強度に大きな差が生じたと予測される。
しかしながら、本実施の形態においては、磁界ベクトルの空間内における分布を一挙に検出できる装置を提供することを目的としており、以上に説明した通り、上記目的は実現されている。
なお、必要に応じて構造や材質パラメータを調整することで、電磁波吸収性能を高め、反射波を抑制する構成としてもよい。
以上のように、本実施の形態における磁界空間分布検出装置100は、磁界の空間分布を検出する磁界空間分布検出装置100であって、3次元で磁界ベクトルを検出するセル10を複数備える。
このような構成により、本実施の形態における磁界空間分布検出装置100によれば、磁界ベクトルの空間内における分布を一挙に検出できる。
また、複数のセル10は、一つの面を構成するように配置されてもよい。これにより、2次元面上における磁界ベクトルの分布を一挙に検出できる。
また、複数のセル10のそれぞれは、互いに直交する3方向の磁界を検出する3つの導体ループを有してもよい。これにより、ファラデーの電磁誘導の法則に従い、複数のセル10のうち、単一のセル10ごとに磁界ベクトルを検出できる。
また、さらに、基板20を備え、複数のセル10が有する3つの導体ループは、いずれも、基板20に配置されてもよい。これにより、3つの導体ループである第1ループ31、第2ループ32、および第3ループ33を基板に実装するのみで磁界空間分布検出装置100が実現できる。
また、複数のセル10のそれぞれが有する3つの導体ループの一つは、基板20に平行な面に形成された金属パターンであり、複数のセル10のそれぞれが有する3つの導体ループの他の二つは、基板20に立設された金属ループであってもよい。これにより、第1ループ31を基板20に「埋め込まれた」形態で実現し、第2ループ32、および第3ループ33を基板20に「立設された」形態で実現できる。
また、複数のセル10のそれぞれが有する3つの導体ループは、抵抗素子41~44が挿入されたループ構造を有してもよい。これにより、形成されたループ内を貫通する磁束によって生じる誘導起電力を、抵抗素子41~44において計測することができる。
(その他の実施の形態)
以上、例示的な各実施の形態について説明したが、本願の請求の範囲は、これらの実施の形態に限定されるものではない。添付の請求の範囲に記載された主題の新規な教示および利点から逸脱することなく、上記各実施の形態においてさまざまな変形を施してもよく、上記各実施の形態の構成要素を任意に組み合わせて他の実施の形態を得てもよいことを、当業者であれば容易に理解するであろう。したがって、そのような変形例や他の実施の形態も本開示に含まれる。
たとえば、本実施の形態における磁界空間分布検出装置100は平面の基板20上に実装される、3つの導体ループによって構成されたが、たとえば曲面状等の基板であってもよく、波板などの形状の基板であってもよい。つまり本実施の形態における磁界空間分布検出装置100は、このような基板の形状に限定されない。
さらに本実施の形態において磁界空間分布検出装置100は二次元面状に配置されたセル10によって実現されたが、1次元の直線状に配列されてもよく、複数のセルは2個であってもよい。このような最小構成の磁界空間分布検出装置を用いても、セル10の配列位置における磁界ベクトルが得られ、波源の推定が可能である。
また、本開示において実施例として磁界空間分布検出装置100による磁界の強度分布の計測について説明したが、磁界の強度および位相を計測できる計測器を接続し、磁界の強度とともに磁界の位相も計測できる構成としてもよい。
またたとえば、本実施の形態における磁界空間分布検出装置100は、一つの基板20上に複数のセル10が実装されたが、個々のセル10がそれぞれ個別の基板に実装されてもよい。
またさらに、本実施の形態においてセル10の第1ループ31は、基板20に平行な面に形成された金属パターンであり、第2ループ32、および第3ループ33は基板20に立設された金属ループであったがこれに限らない。たとえば個別の基板に、形成された金属パターンのループを3つ用意し、それぞれ直交するよう配置してセルを構成してもよい。もしくは、基板20を備えず、直交するループどうしを固定する樹脂担体などによってセルを実現してもよい。
また、本実施の形態におけるセル10の有する3つの導体ループは、抵抗素子41~44が挿入されたループ構造を有したが、抵抗素子41~44を有しなくてもよい。
また上記で説明した実施例においては、複数のセル10のうちから計測に用いる点を選択して構成したが、複数のセル10全てに計測器を接続してもよく、もしくは適切なスイッチなどによって計測器が接続される計測点を、切り替え可能な構成としてもよい。このようにして全てのセル10を用いることで、磁界空間分布検出の空間分解能を向上させてもよい。なお、複数のセルをさらに短い周期で配列するなどによって空間分解能を向上させてもよい。
さらに、配置するセル10の個数を増やすことで検出エリアを拡大してもよい。
また、電波吸収体としてのパラメータを調整することにより反射波の発生を抑制し、理論値と実測値が一致するような構成を実現してもよい。
なお、さらに磁界空間分布検出装置100を、適切なプログラム、およびこれを実行するためのプロセッサ、メモリ、記憶装置等を備えるコンピュータに接続し、当該コンピュータを用いて検出された磁界ベクトルの分布を解析することで、磁界ノイズのノイズ源を特定する構成としてもよい。