[概要説明]
初めに、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の概要について説明する。本鉛蓄電池は、開口及び当該開口に連続する収容室を有し、当該収容室内に電極群及び電解液を収容した複数のセル室が区画された電槽と、排気口と、上記開口を封口する中蓋と、当該中蓋に設けられた上蓋と、上記中蓋と上記上蓋との間に形成され上記収容室と上記排気口とを接続する排気通路と、を有する蓋部材と、を備える。上記排気通路は、上記各セル室と連通する複数の個別通路及び当該各個別通路に連通して上記排気口に接続する共通通路を有し、当該共通通路に配置されたフィルタと、同じく当該共通通路に配置された通路開閉弁と、を有する。
本発明者は、電解液の減少を抑制するために、排気通路の通気抵抗を増大させることを検討した。通気抵抗を増大させると、排気通路を通って外部に排出される気体の量が減少し、これに伴って外部に放出される水蒸気や電解液ミストが減少する。通気抵抗を増大させる手段として、外部スパークの侵入防止のために排気通路に配置される多孔質フィルタの目を細かくすることが考えられる。
ここで、複数のセルで生じたガスを集合させて一括排気部から排気する、いわゆる集中排気方式の鉛蓄電池では、セルごとに個別に排気する方式に比べて、一括排気部のフィルタを通って排気されるガスの量が多くなる。また、鉛蓄電池の温度が低下したときに、フィルタを通って吸い込まれる気体の量も多くなる。そうすると、吸気に伴って外部から排気通路に進入する塵芥等も多くなるので、フィルタが目詰まりする可能性が高くなる。そして、集中排気方式の鉛蓄電池においてフィルタの目詰まりが発生すると、セルで生じたガスの排気が滞って、セルの内圧が上昇する可能性がある。このような集中排気方式特有の問題点により、排気通路の通気抵抗を増大させて電解液の減少を抑制することは困難であった。
本発明者は、鋭意検討の末、共通通路に通路開閉弁を配置することにより、排気通路の通気抵抗を増大させることに思い至った。本鉛蓄電池によれば、排気通路の通気抵抗を増大させて電解液の減少を抑制し、且つ、セルの内圧が上昇したときには通路開閉弁により圧力を低下させることができる。
本鉛蓄電池の実施形態として、以下の構成が望ましい。上記共通通路において、上記フィルタは上記通路開閉弁よりも上記排気口側に配置されている。通路開閉弁により通気抵抗が増大するので、共通通路内の湿度が高くなり、結露が発生しやすくなる。上記構成によれば、結露で生じた液滴がフィルタに接触してフィルタを目詰まりさせることを抑制できる。
上記通路開閉弁は、上記共通通路と連通する連通路及び弁座が形成された筒状ケーシングと、当該筒状ケーシング内に配置され、上記連通路を開閉する板状弁本体とを備える。上記板状弁本体は、上記弁座に当接して上記連通路を閉じる姿勢と、上記弁座から離間して上記連通路を開く姿勢との間で姿勢変化可能に上記弁座に支持されている。通路開閉弁を備えない従来の鉛蓄電池では、振動によって電槽から流出した電解液が排気通路を流れてフィルタに到達して、フィルタを目詰まりさせたり、フィルタを通過して排気口から流出することがあった。上記構成によれば、電槽から排気通路を通って電解液が流れてきたとしても、電解液は通路開閉弁の板状弁本体に接触するので、電解液がフィルタに到達することが抑制されて、フィルタの目詰まりや電解液の流出を抑制することができる。
[詳細説明]
以下、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池について、適宜図面を参照しながら説明する。
1.全体の構成
鉛蓄電池1は、流動可能な電解液を備える液式蓄電池である。鉛蓄電池1は、図1から図3に示されるように、電槽17と、電極群30と、電解液14と、端子部38及び39と、蓋部材45とを備える。なお、鉛蓄電池1が設置面に対して傾きなく水平に置かれたときの使用姿勢を基準として上下方向11が定義される。端子部38及び39の並び方向であって電槽17の横幅方向を左右方向13とし、電槽17の奥行方向を前後方向12とする。端子部38及び39が配置された前後方向12の一方を後方とする。
電槽17は、4枚の外壁27と、底壁28とを備えており、上面が開放された合成樹脂製の箱型の部材である。電槽17は、開口18及び当該開口18に連続する収容室19を有する。電槽17は、図2に示されるように、左右方向13に等間隔に配置された5枚の隔壁29を備える。隔壁29は、電槽17の収容室19を6つのセル室21~26に仕切る。すなわち、隔壁29により、電槽17の収容室19に6つのセル室21~26が、右方から左方へ順番に、左右方向13に並んで形成されている。各セル室21~26に、希硫酸からなる電解液14と、電極群30とが収容されている。すなわち、収容室19内に、電極群30及び電解液14を収容した複数のセル室21~26が、隔壁29及び外壁27により区画されている。複数のセル室21~26が、収容室19内に並設されている。本実施形態では、セル室21~25は、前後方向12(長手方向)の大きさが、左右方向13(短手方向)の大きさよりも大きい。セル室21~25の前後方向12の大きさは、左右方向13の大きさの2.5倍以上であると好ましく、6.3倍以下であると好ましい。図2に例示されるように、セル室21~25の前後方向12の大きさが、左右方向13の大きさの4.1倍であると更に好ましい。
電極群30は、図3に示されるように、正極板31と、負極板32と、セパレータ33とから構成されている。セパレータ33は、正極板31と負極板32との間に配置され、正極板31と負極板32とを仕切る。正極板31と負極板32とは、格子体に活物質が充填されて構成されている。正極板31の活物質の主成分は二酸化鉛であり、負極板32の活物質の主成分は鉛である。
図3に示すように、正極板31の上部に耳部34が設けられ、負極板32の上部に耳部35が設けられている。セル室21~26の内部において、耳部34は正極用のストラップ36に接続され、耳部35は負極用のストラップ36に接続されている。ストラップ36は、左右方向13に延びる板状の部材である。これにより、セル室内の正極板31が正極用のストラップ36によって電気的に接続され、セル室内の負極板32が負極用のストラップ36によって電気的に接続されている。そして、隣接するセル室の正負のストラップ36同士が、ストラップ36に形成された接続部37を介して電気的に接続されている。これにより、6つのセル室21~26の電極群30が、電気的に直列に接続されている。
蓋部材45は、排気口201と、電槽17の開口18を封口する中蓋50と、中蓋50に設けられた上蓋100とを備える。図4は、上蓋100を外した状態で中蓋50を上方から見た平面図であり、図5は、中蓋50を下方から見た底面図である。中蓋50は、合成樹脂製であって、図4及び図5に示されるように、蓋板51とフランジ部52とを備える。本実施形態では、排気口201は、図1に示されるように、上蓋100の右方の側面に形成されている。
蓋板51は、電槽17の上方の開口を封口可能な大きさの部材である。蓋板51は、図5に示すように、その下面に、フランジ部52に沿った形状の周壁53と、周壁53に連なって形成された複数の蓋側隔壁54とを備える。
周壁53は、蓋板51の下面から下方へ突出している。周壁53は、電槽17の開口縁部に対応するように略矩形状に形成されている。蓋側隔壁54は、蓋板51の下面から下方へ突出している。各蓋側隔壁54は、電槽17の各隔壁29に対応するように、周壁53の内側を仕切る。そして、周壁53を電槽17の開口縁部に重ね、蓋側隔壁54を電槽17の隔壁29に重ね、これらを熱溶着により接合する。これにより、周壁53と電槽17との間、及び、蓋側隔壁54と隔壁29との間の気密性が確保されている。
また、蓋板51は、図1及び図3に示されるように、高面部55と低面部56とを備える。高面部55は、蓋板51の前方と後方とに設けられている。後方の高面部55の左右方向13の両端には、一対の端子部が配置されている。詳しくは、後方の高面部55の左方の端部に、正極側端子部38が配置され、右方の端部に、負極側端子部39が配置されている。正極側端子部38と負極側端子部39とはほぼ同じ形状であるため、以下、負極側端子部39を例として説明し、正極側端子部38の説明を省略する。
負極側端子部39は、図3に示されるように、ブッシング41と、極柱42とを備える。ブッシング41は、鉛合金等の金属製であり、中空の円筒状の部材である。ブッシング41は、図3に示されるように、高面部55に形成された筒型の装着部67に装着されている。ブッシング41は、装着部67を貫通しており、ブッシング41の上部が、高面部55の上面から突出している。ブッシング41のうち、高面部55から突出する部位は、端子接続部であり、ハーネス端子などの接続端子(図示なし)が組み付けられる。
極柱42は、鉛合金等の金属製の部材であり、円柱形状である。極柱42は、ブッシング41の内側に位置している。極柱42はブッシング41に比べて長く、極柱42の上部はブッシング41の内側に位置し、極柱42の下部はブッシング41の下面から下方に突出している。極柱42の上端部(先端)は、ブッシング41に溶接により接合され、極柱42の基端部43は、電極群30のストラップ36に接合されている。
中蓋50の低面部56は、蓋板51の前方寄りに形成されている。低面部56は、電槽17に設けられた6つのセル室21~26を横断して左右方向13に延びて設けられている。低面部56の上面は、高面部55の上面よりも低い位置にある。
図4及び図5に示されるように、中蓋50の低面部56の上面壁57は、左右方向13に並ぶ6つの注液孔68を備える。これら6つの注液孔68は、低面部56の上面壁57を上下方向11に貫通しており、6つのセル室21~26にそれぞれ連通している。
また、低面部56は、図4に示されるように、上面壁57の上面から上方へ突出した下側筒壁69、下側外周壁70、及び下側隔壁71を備える。下側筒壁69は、注液孔68を囲む円筒状の隔壁であり、6つの注液孔68のそれぞれに設けられている。下側外周壁70は、低面部56の外縁に沿って設けられ、低面部56を囲む略矩形状の隔壁である。下側隔壁71は、後方の下側外周壁70から前方へ延びる隔壁であって、電槽17の各隔壁29に対応して設けられている。
上蓋100は、合成樹脂製である。図6は、上蓋100を上方から見た平面図であり、図7は、上蓋100を下方から見た底面図である。上蓋100は、図6及び図7に示されるように、蓋本体101と、フランジ部103とを備える。蓋本体101は、中蓋50の低面部56に倣う長方形の部材であり、中蓋50の低面部56に対して重ねて取り付けられる。フランジ部103は、蓋本体101の左方と右方の外周縁に形成されている。フランジ部103は、蓋本体101から下方に突出しており、中蓋50の低面部56の左方及び右方の端部の外側に位置する。
図6及び図7に示されるように、蓋本体101の上面壁102は、左右方向13に並ぶ6つの注液孔104を備える。これら6つの注液孔104は、中蓋50の注液孔68に対応する位置に形成され、蓋本体101の上面壁102を上下方向11に貫通しており、6つのセル室21~26にそれぞれ連通している。各注液孔104及び各注液孔68を通して、電槽17の各セル室21~26に電解液14が注液される。なお、図1に示されるように、各注液孔104に、液口栓105が取り付けられて、注液孔104が閉じられる。
また、蓋本体101は、上面壁102の下面から下方へ突出した上側筒壁106、上側外周壁107、及び上側隔壁108を備える。上側筒壁106は、注液孔104を囲む円筒状の隔壁であり、6つの注液孔104のそれぞれに設けられている。上側外周壁107は、蓋本体101の外縁に沿ってフランジ部103の内側に設けられた、略矩形状の隔壁である。上側隔壁108は、後方の上側外周壁107から前方へ延びる隔壁であって、電槽17の各隔壁29に対応して設けられている。
各上側筒壁106は、各下側筒壁69に対応している。上蓋100が中蓋50の低面部56に配置されるとき、各上側筒壁106は、各下側筒壁69の上方に重なって配置される。各上側筒壁106と各下側筒壁69とは熱溶着により接合され、各上側筒壁106と各下側筒壁69との間の気密性が確保されている。
上側外周壁107は、下側外周壁に対応している。上蓋100が中蓋50の低面部56に配置されるとき、上側外周壁107は、下側外周壁70の上方に重なって配置される。上側外周壁107と下側外周壁70とは熱溶着により接合され、上側外周壁107と下側外周壁70との間の気密性が確保されている。
各上側隔壁108は、各下側隔壁71に対応している。上蓋100が中蓋50の低面部56に配置されるとき、各上側隔壁108は、各下側隔壁71の上方に重なって配置される。各上側隔壁108と各下側隔壁71とは熱溶着により接合され、各上側隔壁108と各下側隔壁71との間の気密性が確保されている。
2.排気通路
図4及び図7に示されるように、蓋部材45は、中蓋50と上蓋100との間に、排気通路2を備えている。排気通路2は、電槽17の収容室19、及び、蓋部材45に設けられた排気口201を接続する通路である。排気通路2は、電槽17のセル室21~26で発生するガスを、排気口201へ導き、鉛蓄電池1の外部へ排出する通路である。排気通路2は、複数の個別通路81~86及び共通通路9を含む。
本実施形態では、蓋部材45は、6つの個別通路81~86を備えている。個別通路81~86は、6つのセル室21~26にそれぞれ連通する。
共通通路9は、個別通路81~86と連通し、排気口201に接続する通路である。共通通路9は、7つの通路91~97により構成されている。
図4及び図7に示されるように、個別通路81及び通路91と、個別通路86及び通路96とは、法線が左右方向13に平行で蓋部材45の左右方向13の中央を通る平面15に関して対称な形状である。同様に、個別通路82及び通路92と、個別通路85及び通路95とは、平面15に関して対称な形状である。個別通路83及び通路93と、個別通路84及び通路94とは、平面15に関して対称な形状である。そして個別通路82及び通路92と、個別通路83及び通路93とは、概ね同じ形状である。
3.個別通路
個別通路81~86は、中蓋50と上蓋100との間において、電槽17のセル室21~26ごとに設けられている。個別通路81~86は、共通通路9に連通しており、セル室21~26から流出するガスを共通通路9へ流す機能を果たす。個別通路81~86は、セル室側の末端に設けられた排気部6と、後述する下側通路壁61~66及び上側通路壁111~116により形成される通路とを含む。排気部6は、概ね筒型であり、内部がガスの通り道である。
まず、排気部6について具体的に説明する。図4に示されるように、中蓋50の低面部56は、左右方向13に並ぶ6つの下側筒部78を備える。下側筒部78は、図4及び図8に示されるように、角筒形状であり、下側外周壁70の一部と、下側隔壁71の一部と、2つの下側周壁72、73とから構成されている。2つの下側周壁72、73は、低面部56の上面壁57の上面から上方に突出している。
また、図4に示されるように、低面部56の上面壁57は、左右方向13に並ぶ6つの連通孔74を備える。各連通孔74は、各下側筒部78の内側に位置している。各連通孔74は、低面部56の上面壁57を上下方向11に貫通し、電槽17の各セル室21~26に連通する。
上蓋100の蓋本体101は、図7に示されるように、左右方向13に並ぶ6つの上側筒部118を備える。上側筒部118は、図7及び図9に示されるように、角筒形状であり、上側外周壁107の一部と、上側隔壁108の一部と、2つの上側周壁109、110とから構成されている。2つの上側周壁109、110は、蓋本体101の上面壁102の下面から下方に突出している。
各下側筒部78と各上側筒部118とは、上下に重なって一つの排気部6を構成する。詳しくは、上側周壁109は、下側周壁72に対応しており、対応する下側周壁72の上に重なって、熱溶着により接合される。一方、上側周壁110は、下側周壁73の上に重ならず、下側周壁73よりも右方に位置する(なお、右端の排気部6においては、上側周壁110は下側周壁73よりも左方に位置する)。上述の通り、上側外周壁107及び上側隔壁108は、対応する下側外周壁70及び下側隔壁71の上に重なって、熱溶着により接合される。
以上のように構成された各排気部6は、各連通孔74を通じて各セル室21~26に連通する。そのため、電槽17の各セル室21~26にて発生したガスは、連通孔74を通って各排気部6の内部に流入し、左右方向13に離間した上側周壁110と下側周壁73との間から流出し、個別通路81~86を排気口201へ向けて流れる。
次に、下側通路壁61~66及び上側通路壁111~116により形成される通路について具体的に説明する。図8に示されるように、中蓋50の低面部56は、電槽17のセル室21~26ごとに、複数の下側通路壁61~66を有している。下側通路壁61~66は、低面部56の上面壁57の上面から上方に突出している。
下側通路壁61は、下側筒部78の下側周壁72を左方に延長した壁であり、下側周壁72と連続して形成されている。下側通路壁61の左方の先端は、下側隔壁71の近傍で右斜め後方へ折れ曲がり、下側外周壁70の近傍まで延びている。
下側通路壁62は、下側隔壁71から突出して右斜め後方へ延びる壁である。下側通路壁62の右方の先端は、下側通路壁65の近傍で後方へ折れ曲がり、下側通路壁61の近傍まで延びている。
下側通路壁63は、下側通路壁62から突出して後方へ延びる壁であり、その先端は下側通路壁61の近傍に位置する。
下側通路壁64は、下側隔壁71から突出して左方へ延び、途中から左斜め後方へ延びる壁である。下側通路壁64の先端は、左方の下側隔壁71の近傍で後方へ折れ曲がり、下側通路壁62の近傍まで延びている。
下側通路壁65は、下側通路壁64から突出して後方へ延びる壁であり、その先端は下側通路壁61の近傍に位置する。
下側通路壁66は、下側隔壁71から突出して右方へ延びる壁であり、その先端は、右方の下側隔壁71の近傍に位置する。
以上説明した下側通路壁61~66は、図8に示されるように、向きの異なる壁の集合体である。上述の通り、下側通路壁61~66は、他の下側通路壁61~66や下側隔壁71と連結されており、これらの壁が屈曲した形状となっている。これにより、個別通路81~86の経路が、非直線の迷路形状となる。すなわち、蓋部材45は、個別通路81~86を屈曲させる下側通路壁61~66を有する。下側通路壁61~66は、通路壁の一例である。
図9に示されるように、上蓋100の蓋本体101は、電槽17のセル室21~26ごとに、複数の上側通路壁111~116を有している。上側通路壁111~116は、蓋本体101の上面壁102の下面から下方に突出している。
上側通路壁111は、上側筒部118の上側周壁109を左方に延長した壁であり、上側周壁109と連続して形成されている。上側通路壁111の左方の先端は、上側隔壁108の近傍で右斜め後方へ折れ曲がり、上側外周壁107の近傍まで延びている。
上側通路壁112は、上側隔壁108から突出して右斜め後方へ延びる壁である。上側通路壁112の右方の先端は、上側通路壁115の近傍で後方へ折れ曲がり、上側通路壁111の近傍まで延びている。
上側通路壁113は、上側通路壁112から突出して後方へ延びる壁であり、その先端は上側通路壁111の近傍に位置する。
上側通路壁114は、上側隔壁108から突出して左方へ延び、途中から左斜め後方へ延びる壁である。上側通路壁114の先端は、左方の上側隔壁108の近傍で後方へ折れ曲がり、上側通路壁112の近傍まで延びている。
上側通路壁115は、上側通路壁114から突出して後方へ延びる壁であり、その先端は上側通路壁111の近傍に位置する。
上側通路壁116は、上側隔壁108から突出して右方へ延びる壁であり、その先端は、右方の上側隔壁108の近傍に位置する。
以上説明した上側通路壁111~116は、図9に示されるように、向きの異なる壁の集合体である。上述の通り、上側通路壁111~116は、他の上側通路壁111~116や上側隔壁108と連結されており、これらの壁が屈曲した形状となっている。これにより、個別通路81~86の経路が、非直線の迷路形状となる。すなわち、蓋部材45は、個別通路81~86を屈曲させる上側通路壁111~116を有する。上側通路壁111~116は、通路壁の一例である。
上側通路壁111~116と下側通路壁61~66とは、上下に重なって通路壁を形成する。詳しくは、上側通路壁111~116は、下側通路壁61~66に対応しており、対応する下側通路壁61~66の上に重なって、熱溶着により接合される。このようにして形成された通路壁、下側隔壁71、上側隔壁108、下側外周壁70、及び上側外周壁107の間に、個別通路81~86が設けられている。
図8に示されるように、個別通路82及び83の経路は、連通孔74を始点として、下側通路壁61と下側外周壁70との間を左方へ進み、下側通路壁61と下側隔壁71との間を下方へ進む。次に、経路は、下側通路壁61と下側通路壁62との間を右方へ進み、下側通路壁62と下側通路壁65との間を下方へ進む。次に、経路は、下側通路壁62と下側通路壁64との間を左方へ進み、下側通路壁64と下側隔壁71との間を下方へ進む。そして、経路は、下側通路壁64と下側通路壁66との間を右方へ進み、下側通路壁66と下側隔壁71との隙間を終点とする。終点において、個別通路82及び83は、共通通路9へ合流する。
図8に示されるように、個別通路81の経路は、連通孔74を始点として、下側通路壁61と下側外周壁70との間を右方へ進み、下側通路壁61と下側外周壁70との間を下方へ進む。次に、経路は、下側通路壁61と下側通路壁62との間を左方へ進み、下側通路壁62と下側通路壁65との間を下方へ進む。次に、経路は、下側通路壁62と下側通路壁64との間を右方へ進み、下側通路壁64と下側筒部79との間を下方へ進む。そして、経路は、下側通路壁64と下側筒部79との隙間を終点とする。終点において、個別通路81は、共通通路9へ合流する。
なお、ここでは、図8に示される中蓋50の側について説明を行ったが、図9に示される上蓋100の側についても同様の経路である。また、個別通路84~86については、上記の個別通路81~83と平面15に関して対称な形状であるから、説明を省略する。
4.共通通路
共通通路9は、中蓋50と上蓋100との間に設けられている。共通通路9は、各個別通路81~86に連通して排気口201に接続する。共通通路9は、6つの個別通路81~86から流入するガスを集合させ、排気口201から鉛蓄電池1の外部へ排出する。本実施形態では、図4及び図7に示されるように、共通通路9は、7つの通路91~97により構成されている。通路97の排気口201側の末端に、一括排気部3が設けられている。
まず、一括排気部3について説明する。一括排気部3は、中蓋50と上蓋100との間に設けられており、セル室21~26で発生したガスを鉛蓄電池1の外部へ一括して排気する機能を果たす。本実施形態では、一括排気部3は、図7に示されるように、蓋部材45の右方の端に配置されている。なお、一括排気部3は他の位置に配置されてもよく、例えば、蓋部材45の左方の端に配置されてもよい。
詳しくは、図8に示されるように、中蓋50の低面部56は、下側筒部79を備える。下側筒部79は、低面部56の上面壁57の上面から上方に突出している。下側筒部79は、右端の下側筒壁69及び下側外周壁70に連結している。
図9に示されるように、上蓋100の蓋本体101は、上側筒部119と、排気ダクト200とを備える。上側筒部119は、蓋本体101の上面壁102の下面から下方に突出している。上側筒部119は、右端の上側筒壁106及び上側外周壁107に連結している。排気ダクト200の左方の端部は、上側筒部119の内部の空間に接続されている。排気ダクト200の右方の端部は、上蓋100の右方の側面に形成された排気口201に接続されている。
5.フィルタ及び弁
図10に示されるように、上側筒部119の内部の空間に、フィルタ331及び通路開閉弁332が収納されている。
フィルタ331は、外部スパークが鉛蓄電池1の内部に侵入するのを抑制する。フィルタ331は、図11に示されるように、円板状の部材であって、例えば連続した空孔を有する多孔質体である。多孔質体は、例えば、アルミナ等のセラミックスや、ポリプロピレン等の樹脂粒子の焼結体である。フィルタ331の孔径は、例えば、平均径が数十~数百μmである。
通路開閉弁332は、共通通路9と連通する連通路335及び弁座337が形成された筒状ケーシング334と、当該筒状ケーシング334内に配置され、連通路335を開閉する板状弁本体333とを備える。
板状弁本体333は、図11に示されるように、円板状の部材である。板状弁本体333は、例えば、ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂、あるいはこれらの共重合体といった合成樹脂製である。
筒状ケーシング334は、図11~13に示されるように、概ね円筒状のケーシングである。筒状ケーシング334は、例えば、ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂、あるいはこれらの共重合体といった合成樹脂製である。筒状ケーシング334は、筒状の周壁336と、周壁336の下端に連続する弁座337とによって構成されている。弁座337は、弁座337を上下方向11に貫通する貫通孔338と、弁座337の上面から上方へ突出する3つの突起339とを備える。突起339は、貫通孔338の周囲に配置されている。筒状の周壁336の内部の空間と、貫通孔338により、連通路335が形成されている。
図10に示されるように、板状弁本体333が、貫通孔338を覆う状態で、弁座337の上面に載置される。板状弁本体333は、連通路335において上下方向に移動可能である。セル室内の圧力が低いとき、板状弁本体333は、弁座337に当接し、貫通孔338を覆う。この状態では、連通路335は、閉じられている。セル室内の圧力が高くなると、板状弁本体333は、その全部又は一部が弁座337から離間し、貫通孔338の全部又は一部が開放され、連通路335が開かれる。すなわち、板状弁本体333は、弁座337に当接して連通路335を閉じる第1姿勢と、弁座337から離間して連通路335を開く第2姿勢との間で姿勢変化可能に弁座337に支持されている。
なお、弁座337の上面に突起339が形成されていることにより、板状弁本体333が弁座337に当接して連通路335が閉じられているとき(第1姿勢)、板状弁本体333と弁座337との間には、間隙340が存在する。この間隙340により、通路開閉弁332は、不完全な逆止弁となっており、排気通路2及びセル室21~25の内部の圧力が大気圧より低くならないように、鉛蓄電池1が構成されている。通路開閉弁332が完全な逆止弁である場合、すなわち、板状弁本体333が弁座337に当接して連通路335が閉じられているときに間隙340が存在せず気体の通流を許容しない構成である場合、鉛蓄電池1の温度が低下した際に、気体が通路開閉弁332を通過できず、排気通路2及びセル室21~25の内部の圧力が低下して、大気圧よりも低くなる。そうすると、電槽17の外壁27が内側へ湾曲し、電槽17の内部の電解液14の液面が上昇して、溢液が発生し易くなる。一方、本実施形態では、間隙340が存在することにより、鉛蓄電池1の温度が低下したときの電槽17の内圧の低下が抑制され、電解液14の液面上昇が抑制され、電解液14の溢液が抑制される。
図10及び図11に示されるように、フィルタ331が、筒状ケーシング334の周壁336の上部に挿入される。つまり、フィルタ331は、板状弁本体333の上方に位置する。このように、本実施形態では、フィルタ331と通路開閉弁332とが一体化されている。そして、一体化されたフィルタ331と通路開閉弁332とが、図10に示されるように、上側筒部119の内部の空間に収容されている。
上側筒部119と下側筒部79とは、上下に重なって熱溶着されて、一括排気部3を形成する。つまり、一体化されたフィルタ331及び通路開閉弁332は、図10に示されるように、一括排気部3の内部に収容される。フィルタ331は、共通通路9の排気口201の側に配置される。通路開閉弁332は、フィルタ331に対して排気口201の側と反対側に配置される。換言すれば、通路開閉弁332は、共通通路9においてフィルタ331からみてセル室21~26が位置する側に配置される。更に換言すれば、共通通路9において、フィルタ331は、通路開閉弁332よりも排気口201の側に配置される。
図10に示されるように、通路開閉弁332の連通路335は、フィルタ331を介して、上側筒部119の内部の空間に連通する。連通路335は、貫通孔338を介して、上側筒部119の内部の空間に連通する。すなわち、連通路335は、共通通路9の通路97と連通する。以上述べた構成により、通路97からのガスが、下側筒部79の前方の開口から下側筒部79の内部の空間に流入し、通路開閉弁332及びフィルタ331を通過する。フィルタ331を通過したガスは、上側筒部119の上方の空間から排気ダクト200に流入し、排気口201を通って鉛蓄電池1の外部へ放出される。
続いて、通路91~97について説明する。通路91~97は、下側連結壁76と、上側連結壁117と、上述した下側筒壁69、下側外周壁70、下側隔壁71、下側筒部79、上側筒壁106、上側外周壁107、上側隔壁108、及び上側筒部119により形成される。
図8に示されるように、中蓋50の低面部56は、下側連結壁76を備える。下側連結壁76は、低面部56の上面壁57の上面から上方に突出している。下側連結壁76は、右方の下側筒壁69、左方の下側筒壁69、及び下側隔壁71と連結している。
図9に示されるように、上蓋100の蓋本体101は、上側連結壁117を備える。上側連結壁117は、蓋本体101の上面壁102の下面から下方に突出している。上側連結壁117は、右方の上側筒壁106及び左方の上側筒壁106と連結している。
上側連結壁117と下側連結壁76とは、上下に重なって通路壁を形成する。詳しくは、上側連結壁117は下側連結壁76に対応しており、対応する下側連結壁76の上に重なって、熱溶着により接合される。このようにして形成された通路壁、下側筒壁69、下側外周壁70、下側隔壁71、下側筒部79、上側筒壁106、上側外周壁107、上側隔壁108、及び上側筒部119の間に、通路91~97が設けられている。
図9に示されるように、通路91の経路は、個別通路81の終点(上側通路壁114と上側筒部119との隙間)を始点として、上側筒部119及び上側筒壁106と、上側通路壁114及び上側隔壁108との間を左斜め前方へ進む。次に、経路は、上側隔壁108と上側連結壁117との隙間を通り、上側隔壁108と上側筒壁106との間を通って下方へ進み、個別通路82の終点(上側通路壁116と上側隔壁108との隙間)を終点とする。
図9に示されるように、通路92の経路は、個別通路82及び通路91の終点(上側通路壁116と上側隔壁108との隙間)を始点として、上側通路壁116及び上側隔壁108と上側筒壁106との間を左方へ進む。次に、経路は、上側隔壁108と上側連結壁117との隙間を通り、上側隔壁108と上側筒壁106との間を通って下方へ進み、個別通路83の終点(上側通路壁116と上側隔壁108との隙間)を終点とする。
図9に示されるように、通路93の経路は、個別通路83及び通路92の終点(上側通路壁116と上側隔壁108との隙間)を始点として、上側通路壁116と上側筒壁106との間を左方へ進む。次に、経路は、上側隔壁108と上側筒壁106との間を左斜め前方へ進み、上側隔壁108と上側外周壁107との隙間を終点とする。
図9に示されるように、通路97の経路は、通路93の終点(上側隔壁108と上側外周壁107との隙間)を始点として、上側筒壁106及び上側連結壁117と、上側外周壁107との間を右方へ、次いで後方へ進み、一括排気部3を終点とする。
なお、ここでは、図9に示される上蓋100の側について説明を行ったが、図8に示される中蓋50の側についても同様の経路である。また、通路94~96については、上記の通路91~93と平面15に関して対称な形状であるから、説明を省略する。
以上説明した排気通路2による、各セル室21~26で発生したガスの排気について、図4を参照して説明する。
左右方向13の右方の端に位置するセル室21で発生したガスは、個別通路81と、通路91と、通路92と、通路93と、通路97と、一括排気部3を通って、排気口201から鉛蓄電池1の外部へ排出される。セル室21の左方に隣接して位置するセル室22で発生したガスは、個別通路82と、通路92と、通路93と、通路97と、一括排気部3を通って、排気口201から鉛蓄電池1の外部へ排出される。セル室22の左方に隣接して位置するセル室23で発生したガスは、個別通路83と、通路93と、通路97と、一括排気部3を通って、排気口201から鉛蓄電池1の外部へ排出される。
セル室21~23から一括排気部3までの排気通路2の長さ(通路長)を比較する。セル室21の通路長は、個別通路81と、通路91と、通路92と、通路93と、通路97の長さの合計である。セル室22の通路長は、個別通路82と、通路92と、通路93と、通路97の長さの合計である。従って、セル室21の通路長はセル室22の通路長よりも長い。セル室23の通路長は、個別通路83と、通路93と、通路97の長さの合計である。従って、セル室22の通路長はセル室23の通路長よりも長い。
左右方向13の左方の端に位置するセル室26で発生したガスは、個別通路86と、通路96と、通路95と、通路94と、通路97と、一括排気部3を通って、排気口201から鉛蓄電池1の外部へ排出される。セル室26の右方に隣接して位置するセル室25で発生したガスは、個別通路85と、通路95と、通路94と、通路97と、一括排気部3を通って、排気口201から鉛蓄電池1の外部へ排出される。セル室25の右方に隣接して位置するセル室24で発生したガスは、個別通路84と、通路94と、通路97と、一括排気部3を通って、排気口201から鉛蓄電池1の外部へ排出される。
セル室24~26から一括排気部3までの排気通路2の長さ(通路長)を比較する。セル室26の通路長は、個別通路86と、通路96と、通路95と、通路94と、通路97の長さの合計である。セル室25の通路長は、個別通路85と、通路95と、通路94と、通路97の長さの合計である。従って、セル室26の通路長はセル室25の通路長よりも長い。セル室24の通路長は、個別通路84と、通路94と、通路97の長さの合計である。従って、セル室25の通路長はセル室24の通路長よりも長い。
すなわち、左右方向13の端に位置するセル室21及びセル室26から一括排気部3(通路開閉弁332)までの排気通路2の長さは、その余のセル室22、23、24、及び25から一括排気部3(通路開閉弁332)までの排気通路2の長さよりも長い。
図4に示されるように、中蓋50の低面部56は、左右方向13に並ぶ6つの還流孔77を備える。各還流孔77は、図8に示されるように、下側外周壁70、下側隔壁71、下側周壁73、及び下側通路壁61に囲まれた領域に位置している。各還流孔77は、低面部56の上面壁57を上下方向11に貫通し、電槽17の各セル室21~26に連通する。本実施形態では、還流孔77は、図4及び図5に示されるように、電槽17の各セル室21~26を上下方向11に見た中央部に配置されている。すなわち、還流孔77は、電槽17の各セル室21~26の中央部に配置されている。これにより、鉛蓄電池1が左方、右方、前方、後方のいずれの方向に倒れた場合でも、還流孔77からの電解液14の流出が抑制される。
そして、個別通路81~86の底面である低面部56の上面壁57の上面は、還流孔77に近いほど上下方向11に関して低くなるように、傾斜している。これにより、セル室21~26からのガスに含まれる水蒸気による水滴や、電解液等の液滴を、還流孔77を通じてセル室21~26へ還流することができる。すなわち、セル室21~26で発生したガスに含まれる水蒸気は、ガスが個別通路81~86を通過する際に、個別通路81~86内にて結露する。結露した液滴は、上面壁57の上面の傾斜によって、還流孔77に向かって流れていく。そのため、ガスに含まれる水蒸気等の液滴を、各セル室21~26に還流することができる。
[実施例]
以下の実施例、及び比較例1~4に対して、目詰まりの発生し易さの評価、通気抵抗の測定、減液量の評価試験、及び内圧上昇の評価試験を行い、表1に示す結果を得た。また、実施例及び比較例1に対して、セル室ごとの液面高さの低下量を評価する試験を行い、表2に示す結果を得た。
実施例は、目の細かさが標準的なフィルタをフィルタ331として用いる。通路開閉弁332及びその余の構成は、上記実施形態と同様である。
比較例1は、実施例と同じフィルタをフィルタ331として用い、通路開閉弁332を備えない。その余の構成は実施例と同様である。
比較例2は、実施例及び比較例1のフィルタよりも目の細かいフィルタをフィルタ331として用い、通路開閉弁332を備えない。その余の構成は実施例と同様である。
比較例3は、比較例2のフィルタよりも更に目の細かいフィルタをフィルタ331として用い、通路開閉弁332を備えない。その余の構成は実施例と同様である。
比較例4は、比較例3のフィルタよりも更に目の細かいフィルタをフィルタ331として用い、通路開閉弁332を備えない。その余の構成は実施例と同様である。
用いられるフィルタの目詰まりの発生し易さについて、過去の実験結果や製品での実績に基づいて評価した。実施例及び比較例1に用いられる標準的なフィルタは、目詰まりが発生し難い。一方、比較例2~4に用いられる目の細かいフィルタは、目詰まりが発生し易い。
フィルタ及び通路開閉弁の通気抵抗を次のようにして測定した。フィルタを円筒の内部に配置して、円筒の一方の開口から流量1リットル/分の空気を供給し、フィルタを通過する前の空気の圧力を測定する。測定された圧力から、大気圧を差し引いた値を、フィルタの通気抵抗とする。実施例については、フィルタと通路開閉弁の両方を円筒の内部に配置して測定した。結果は、実施例が0.6kPa、比較例1が0.3kPa、比較例2が0.6kPa、比較例3が1.2kPa、比較例4が1.8kPaであった。比較例1~4の結果から、フィルタの目が細かくなるにつれて、通気抵抗が大きくなっていることが分かる。また、実施例の通気抵抗は、比較例1よりも大きい。このことから、実施例では、通路開閉弁が存在することにより通気抵抗が大きくなっていることが確認された。実施例の通気抵抗と比較例1の通気抵抗の差から、通路開閉弁による通気抵抗への寄与は0.3kPaであると推測される。
減液量の評価試験を次のようにして行った。鉛蓄電池1を60℃の環境下におき、13.8Vでの定電圧充電を行いながら、上下方向の振動を加える。振動の周波数は10Hz~55Hzでスイープ、加速度は9.8m/s2とする。試験時間は120時間とする。試験開始前の鉛蓄電池1の重量と、試験終了後の鉛蓄電池1の重量との差を、試験時間(120時間)で除して、単位時間当たりの減液量[g/h]を求める。結果は、実施例が0.38g/h、比較例1が0.54g/h、比較例2が0.47g/h、比較例3が0.41g/h、比較例4が0.35g/hであった。比較例1~4の結果から、通気抵抗が大きくなるにつれて、減液量が小さくなっていると認められる。ここで、実施例の通気抵抗は比較例2と同じ0.6kPaであるが、実施例の減液量は、比較例2の減液量よりも小さい。実施例は、通路開閉弁を備えることにより、通路開閉弁を備えない比較例1~4に比べて減液量が特異的に小さくなっている。
内圧上昇の評価試験を次のようにして行った。蓋部材45に上下方向11の貫通孔を設け、当該貫通孔を通じてセル室23へ所定の流量の空気を供給し、セル室23の内圧を測定する。セル室23の内圧が所定の基準値以下である場合、合格とし、内圧が基準値より大きい場合、不合格とする。結果は、実施例、比較例1及び2は合格、比較例3及び4は不合格となった。
セル室ごとの液面高さの低下量を評価する試験を次のようにして行った。鉛蓄電池1を車両に搭載して、所定の走行パターンで車両を走行させた。試験開始前の液面高さを基準として、試験終了時の液面高さの低下量を測定した。走行パターンは、2時間の速度60km/hでの走行と2時間のアイドリングとを3回繰り返した後、12時間エンジンを停止する。このパターンを40回繰り返す。なお、鉛蓄電池1は、前面が車両の前方を向く姿勢にて、車両を前方から見てエンジンの右方に配置される。セル室21~26のうち、セル室26がエンジンの最も近い位置に配置される。表2に示されるように、実施例の液面高さの低下量は、全てのセル室21~26において、比較例1より小さくなった。実施例の全体の減液量(液面高さの低下量の合計)は、比較例1の全体の減液量の91%であった。実施例の液面高さのバラツキ幅(液面高さの低下量の最大値と最小値との差)は、比較例1よりも0.4mm小さくなった。実施例の鉛蓄電池1と比較例1の鉛蓄電池1との構成上の差異は、通路開閉弁の有無のみである。従って、鉛蓄電池1が通路開閉弁を備えることにより、電解液の減液量が減少するだけでなく、セル室21~26の減液量のバラツキの減少という予期せぬ効果が生じている。
以上の試験結果から、鉛蓄電池1が通路開閉弁を備えることによって、電解液の減少量と、複数のセル室の間の減液量のバラツキとを減少できることが確認された。電解液の減少量を、通路開閉弁を用いずに、実施例と同程度まで減少させるには、比較例3又は4に用いた目の細かいフィルタを使用する必要がある。しかし、比較例3及び4は、フィルタに目詰まりが発生し易く、内圧上昇の試験も不合格である。従って、実施例のように通路開閉弁を用いて電解液の減少を抑制することが好ましい。
[変形例]
上記実施形態では、フィルタ331が筒状ケーシング334に挿入され、フィルタ331と通路開閉弁332とが一体化されている例が説明されたが、フィルタ331と通路開閉弁332とは共通通路9において離れて配置されてもよい。
上記実施形態では、板状弁本体333が弁座337の上面に接触しているとき、板状弁本体333と弁座337との間に間隙340が存在する例が説明されたが、間隙340が存在しない形態も可能である。この形態では、板状弁本体333が弁座337の上面に接触しているとき、気体は通路開閉弁332を通過しない。セル室21~26及び排気通路2の内部の圧力が大きくなると、板状弁本体333が連通路335の中で上方に移動し、板状弁本体333の全部又は一部が弁座337から離間し、板状弁本体333と弁座337との間に間隙が生じる。セル室21~26で発生し排気通路2を通ったガスは、板状弁本体333と弁座337との間に生じた間隙を通ってフィルタ331に達する。
上記実施形態では、筒状ケーシング334の弁座337が突起339を備えることにより、間隙340が形成される例が説明された。板状弁本体333の下面に突起が設けられてもよい。また、突起に代えて、溝が、弁座337又は板状弁本体333に設けられることにより、間隙340が形成されてもよい。
上記実施形態では、共通通路9においてフィルタ331が通路開閉弁332よりも排気口201の側に配置される例が説明されたが、フィルタ331が通路開閉弁332よりも電槽17の側に配置されてもよい。換言すれば、通路開閉弁332がフィルタ331よりも排気口201の側に配置されてもよい。
なお、本発明は、以下の形で実施することができる。
(1)
開口及び当該開口に連続する収容室を有し、当該収容室内に電極群及び電解液を収容した複数のセル室が区画された電槽と、
排気口と、上記開口を封口する中蓋と、当該中蓋に設けられた上蓋と、上記中蓋と上記上蓋との間に形成され上記収容室と上記排気口とを接続する排気通路と、を有する蓋部材と、を備え、
上記排気通路は、上記各セル室と連通する複数の個別通路及び当該各個別通路に連通して上記排気口に接続する共通通路を有し、
当該共通通路に配置されたフィルタと、
同じく当該共通通路に配置された通路開閉弁と、を有する鉛蓄電池。
(2)
上記共通通路において、上記フィルタは上記通路開閉弁よりも上記排気口側に配置されている、(1)に記載の鉛蓄電池。
(3)
上記通路開閉弁は、
上記共通通路と連通する連通路及び弁座が形成された筒状ケーシングと、
当該筒状ケーシング内に配置され、上記連通路を開閉する板状弁本体とを備え、
上記板状弁本体は、上記弁座に当接して上記連通路を閉じる姿勢と、上記弁座から離間して上記連通路を開く姿勢との間で姿勢変化可能に上記弁座に支持されている、(2)に記載の鉛蓄電池。