JP7208949B2 - アンモニア態窒素含有希釈対象物の希釈処理方法及び希釈処理装置 - Google Patents

アンモニア態窒素含有希釈対象物の希釈処理方法及び希釈処理装置 Download PDF

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Description

本発明は、少なくともアンモニア態窒素を含有する流体である希釈対象物を希釈処理後に下水処理施設に放流する希釈処理装置及び希釈処理方法に関し、特にし尿等の希釈処理方法及び希釈処理装置に関する。
し尿又は浄化槽汚泥並びにこれらを処理した処理水(本明細書において「し尿等」ともいう)。)は希釈された後、下水道放流処理システムに導入されて、更なる処理に供された後に公共水域に放流される。例えば、特開2019-107593号公報(特許文献1)には、有機性排水及び/又は有機性汚泥に高分子凝集剤を加えて凝集汚泥を生成し、凝集汚泥に無機凝集剤を加えて脱水処理し、脱水汚泥と脱水分離液とを得て、脱水分離液を貯留した後、放流水槽において放流基準を満たすように所定の希釈処理を施し、ポンプ等を介して下水道へ放流する処理フローが記載されている。特許文献1には、希釈水量すなわち希釈倍率に関して何ら詳細な説明はないが、通常は、放流水質基準を満たす希釈倍率に安全率をかけた大量の希釈水を必要とする。
し尿等は、搬入物由来の変動があると共に、希釈する前のし尿等を貯留する貯留槽内では、貯留槽底部に沈殿する不溶性成分を含むため、し尿等に含まれる全窒素濃度は、搬入物の性状や貯留状態によって刻々と変動する。
全窒素濃度が下水道放流の律速となる場合は、希釈前のし尿等の全窒素濃度を測定したり、あるいは、希釈後のし尿等に含まれる全窒素濃度を測定した上で希釈前のし尿等に含まれる全窒素濃度を推定することで、全窒素濃度が放流水質基準未満となるように希釈倍率を決定して希釈するのであるが、し尿等に含まれる全窒素濃度は上述のとおり変動するため、安全をみて最大濃度を基準として固定された過剰の希釈水を放流水槽に投入して放流水質基準濃度未満とした後に下水道放流されている。このような方法では、大量の希釈水を含む大量の下水道放流水を揚水し放流するためにポンプを稼働させるための電力及び下水道放流料金が増大し、大量の希釈水を取水するための動力が増大する、などの問題がある。
特開2019-107593号公報
本発明は、し尿等の少なくともアンモニア態窒素を含む希釈対象物に含まれる全窒素濃度の変動に追随して希釈水の投与量を適量に制御することにより、運転費用の削減を図る希釈装置及び希釈方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、少なくともアンモニア態窒素を含む希釈対象物を貯留する貯留槽内の希釈対象物の液位によって、当該希釈対象物中の全窒素濃度が大きく変動する一方、アンモニア態窒素濃度、硝酸態窒素濃度及び亜硝酸態窒素濃度の無機態窒素濃度はあまり変動せずほぼ一定範囲となることから、希釈前の希釈対象物中のアンモニア態窒素濃度と希釈後の全窒素濃度を測定して、希釈前の希釈対象物中の全窒素濃度を推定し、適切な希釈倍率を求め、適量の希釈水量に制御できることを知見し、本発明を完成するに至った。
貯留槽に貯留中のし尿等は不溶性成分を含むため、貯留中に不溶性成分が沈降しやすく、貯留槽内のし尿等の性状が不均質となる。し尿等の貯留中に、有機態窒素のほとんどはアンモニア態窒素へ微生物分解される。貯留槽内雰囲気の酸素が多くなると、アンモニア態窒素が硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素となる硝化反応が進行しやすい。従来、貯留槽内のし尿等を撹拌することでし尿等の性状を均質に維持することができ、し尿等の希釈対象物中の全窒素濃度は一定になると考えられていた。ここで、全窒素濃度とは、無機態窒素濃度と有機態窒素濃度との総和濃度であり、無機態窒素濃度とは、アンモニア態窒素濃度、硝酸態窒素濃度及び亜硝酸態窒素濃度の総和濃度である。しかし、本発明者らがこれらの窒素濃度を実測して検討したところ、貯留槽内の希釈対象物の液位によって、希釈対象物中に含まれる全窒素濃度が大きく変動する一方、アンモニア態窒素濃度、硝酸態窒素濃度及び亜硝酸態窒素濃度は大きな変動がなく、ほぼ一定範囲となることが判明した。また、貯留槽内の希釈対象物の液位にかかわらず、希釈対象物中のアンモニア態窒素濃度と、硝酸態窒素濃度及び亜硝酸態窒素濃度との間に一定の関係が存在することも判明した。さらに、希釈対象物の液位と全窒素濃度の変動は比例関係ではなく、全窒素濃度が大きく変動する変曲点が存在することも判明した。ここで、全窒素濃度は、無機態窒素濃度と有機態窒素濃度との総和であるから、有機態窒素濃度が希釈対象物の液位によって変動するといえる。
以上から、本発明者らは、簡易に測定できる希釈対象物中のアンモニア態窒素濃度に基づいて硝酸態窒素濃度及び亜硝酸態窒素濃度を推定することができること、及び全窒素濃度が大きく変動する液位の変曲点を求めておくことにより、簡易に測定できる貯留槽内の希釈対象物の液位に基づいて、測定が困難な有機態窒素濃度を推定することができることを見出した。すなわち、簡易に測定できる貯留槽内の希釈対象物の液位とアンモニア態窒素濃度とに基づいて希釈対象物中の全窒素濃度を推定することができ、より正確な希釈倍率を算出することができる。
本発明によれば、少なくともアンモニア態窒素を含有する流体である希釈対象物を希釈処理後に下水処理施設に放流する希釈処理装置であって、
希釈対象物を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽内の希釈対象物の液位を測定する液位測定手段と、
希釈対象物を希釈する希釈手段と、
前記希釈手段の上流に設けた第1の水質測定手段と、
前記希釈手段の下流に設けた第2の水質測定手段と、
前記希釈手段へ希釈水を供給する希釈水供給手段と、
前記希釈手段からの放流対象物を放流する放流手段と、
前記希釈水供給手段及び前記放流手段を制御する制御手段と、
を具備し、
前記制御手段は、
(A)貯留槽内の希釈対象物の液位Lに対応するアンモニア態窒素濃度[NH4-N]、硝酸態・亜硝酸態窒素濃度[NOx-N]及び全窒素濃度[T-N]を予め測定して、下記式(1)及び(2)により算出した無機態窒素濃度を求める補正係数k1及び液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]:
k1=([NH4-N]+[NOx-N])/[NH4-N] (1)
[Org-N]=[T-N]-([NH4-N]+[NOx-N]) (2)
並びに、希釈水中の全窒素濃度Cn、放流水質基準C0、日上限放流水量W1、希釈対象物移送量W2を設定しておき、
(B)希釈運転時には、
(B-0)前記第2の水質測定手段により周期T1にて測定した放流対象物の全窒素濃度C1から、放流水質基準C0に対する希釈補正係数k2を算出し、
k2=(C1-Cn)/(C0-Cn) (3)
(B-1)前記液位測定手段により周期T2にて測定した希釈対象物の貯留槽内での液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]を選択し、
(B-2)前記第1の水質測定手段により周期T3にて測定したアンモニア態窒素濃度[NH4-N]に補正係数k1を乗算して、無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])を算出し、
(B-3)選択した有機態窒素濃度[Org-N]、算出した無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])及び設定してある放流水質基準C0を下記式(4)に代入して、目標希釈倍率M0を算出し、
M0={([NH4-N]+[NOx-N])+[Org-N]}/C0 (4)
(B-4)目標希釈倍率M0に希釈補正係数k2を乗算して、適正希釈倍率Mを算出し、
M=k2×M0 (5)
(B-5)適正希釈倍率M、希釈対象物移送量W2を下記式(6)に代入して、適正希釈水供給量W3を算出し、
W3=(M - 1)×W2 (6)
(B-6)算出した適正希釈水供給量W3を前記希釈手段に供給するように、前記希釈水供給手段を作動させる、
ことを特徴とする希釈処理装置が提供される。
前記貯留槽には、機械撹拌装置又は空気撹拌装置が設けられていることが好ましい。
前記貯留槽の上流側には、生物処理装置、脱水処理装置、し渣除去装置又はこれらの任意の組み合わせが設けられていてもよい。
また、本発明によれば、少なくともアンモニア態窒素を含有する流体である希釈対象物を希釈処理後に下水処理施設に放流する希釈処理方法であって、
(A)貯留槽内の希釈対象物の液位Lに対応するアンモニア態窒素濃度[NH4-N]、硝酸態・亜硝酸態窒素濃度[NOx-N]及び全窒素濃度[T-N]を予め測定して、下記式(1)及び(2)により算出した無機態窒素濃度を求める補正係数k1及び液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]:
k1=([NH4-N]+[NOx-N])/[NH4-N] (1)
[Org-N]=[T-N]-([NH4-N]+[NOx-N]) (2)
並びに、希釈水中の全窒素濃度Cn、放流水質基準C0、日上限放流水量W1、希釈対象物移送量W2を設定しておき、
(B)希釈運転時には、
(B-0)放流対象物の全窒素濃度C1を周期T1にて測定し、放流水質基準C0に対する希釈補正係数k2を算出し、
k2=(C1-Cn)/(C0-Cn) (3)
(B-1)希釈対象物の貯留槽内での液位Lを周期T2にて測定し、液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]を選択し、
(B-2)希釈対象物のアンモニア態窒素濃度[NH4-N]を周期T3にて測定し、測定したアンモニア態窒素濃度[NH4-N]に補正係数k1を乗算して、無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])を算出し、
(B-3)選択した有機態窒素濃度[Org-N]、算出した無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])及び設定してある放流水質基準C0を下記式(4)に代入して、希釈倍率M0を算出し、
M0={([NH4-N]+[NOx-N])+[Org-N]}/C0 (4)
(B-4)算出した希釈倍率M0に希釈補正係数k2を乗算して、適正希釈倍率Mを算出し、
M=k2×M0 (5)
(B-5)適正希釈倍率M、希釈対象物移送量W2を下記式(6)に代入して、適正希釈水供給量W3を算出し、
W3=(M - 1)×W2 (6)
(B-6)算出した適正希釈水供給量W3を希釈手段に供給して、希釈対象物を希釈処理した後に放流する
ことを特徴とする希釈処理方法が提供される。
周期T1、周期T2,及び周期T3は、それぞれ同一又は異なる周期である。
前記希釈対象物は、し尿、浄化槽汚泥、あるいは、し尿又は浄化槽汚泥をし渣分離処理、生物処理、脱水処理又はこれらの任意の組み合わせで処理した処理水であることが好ましい。
本発明によれば、従来分析が困難であった希釈対象物中の全窒素濃度を測定することなく、簡易に測定できる希釈前の貯留槽内の希釈対象物の液位と、希釈前の希釈対象物中アンモニア態窒素濃度と、希釈後の処理水の全窒素濃度とを測定するだけで、適切な希釈倍率を設定し、過剰な希釈水の投入を防止し、下水道放流水量の抑制並びに希釈設備や放流設備の運転に必要な電力及び動力を低減することができる。
本発明の希釈処理装置の概略説明図である。 本発明の第1の実施形態の概略説明図である。 本発明の第2の実施形態の概略説明図である。
好ましい実施形態
以下、添付図面を参照しながら本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明は、少なくともアンモニア態窒素を含有する流体である希釈対象物を希釈処理後に下水処理施設に放流する希釈処理方法及び希釈処理装置を提供する。希釈対象物としては、し尿、浄化槽汚泥、あるいは、し尿又は浄化槽汚泥をし渣分離処理、生物処理、脱水処理又はこれらの任意の組み合わせで処理した処理水を好適に挙げることができる。
本発明の希釈処理方法は、少なくともアンモニア態窒素を含有する流体である希釈対象物を希釈処理後に下水処理施設に放流する希釈処理方法であって、
(A)貯留槽内の希釈対象物の液位Lに対応するアンモニア態窒素濃度[NH4-N]、硝酸態・亜硝酸態窒素濃度[NOx-N]及び全窒素濃度[T-N]を予め測定して、下記式(1)及び(2)により算出した無機態窒素濃度を求める補正係数k1及び液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]:
k1=([NH4-N]+[NOx-N])/[NH4-N] (1)
[Org-N]=[T-N]-([NH4-N]+[NOx-N]) (2)
並びに、希釈水中の全窒素濃度Cn、放流水質基準C0、日上限放流流水量W1、希釈対象物移送量W2を設定しておき、
(B)希釈運転時には、
(B-0)放流対象物の全窒素濃度C1を周期T1にて測定し、放流水質基準C0に対する希釈補正係数k2を算出し、
k2=(C1-Cn)/(C0-Cn) (3)
(B-1)希釈対象物の貯留槽内での液位Lを周期T2にて測定し、液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]を選択し、
(B-2)希釈対象物のアンモニア態窒素濃度[NH4-N]を周期T3にて測定し、測定したアンモニア態窒素濃度[NH4-N]に補正係数k1を乗算して、無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])を算出し、
(B-3)選択した有機態窒素濃度[Org-N]、算出した無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])及び設定してある放流水質基準C0を下記式(4)に代入して、希釈倍率M0を算出し、
M0={([NH4-N]+[NOx-N])+[Org-N]}/C0 (4)
(B-4)算出した希釈倍率M0に希釈補正係数k2を乗算して、適正希釈倍率Mを算出し、
M=k2×M0 (5)
(B-5)適正希釈倍率M、希釈対象物移送量W2を下記式(6)に代入して、適正希釈水供給量W3を算出し、
W3=(M - 1)×W2 (6)
(B-6)算出した適正希釈水供給量W3を希釈手段に供給して、希釈対象物を希釈処理した後に放流する
ことを特徴とする。
工程(A)は、当該処理施設における貯留槽内での希釈対象物の液位Lによって変動するアンモニア態窒素濃度[NH4-N]と、硝酸態・亜硝酸態窒素濃度[NOx-N]との関係に基づいて、希釈対象物中の無機態窒素濃度を算出する補正係数k1及び液位Lと有機態窒素濃度[Org-N]との対応関係を決定し、当該処理施設における放流水質基準C0、日上限放流水量W1、希釈対象物移送量W2並びに希釈水中の全窒素濃度Cnを設定する工程である。具体的には、予め測定した貯留槽内の希釈対象物の液位Lに対応するアンモニア態窒素濃度[NH4-N]、硝酸態・亜硝酸態窒素濃度[NOx-N]及び全窒素濃度[T-N]に基づいて、下記式(1)及び(2)により無機態窒素濃度を求める補正係数k1及び液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]を算出し:
k1=([NH4-N]+[NOx-N])/[NH4-N] (1)
[Org-N]=[T-N]-([NH4-N]+[NOx-N]) (2)
並びに、希釈水中の全窒素濃度Cn、放流水質基準C0、日上限放流水量W1、希釈対象物移送量W2を設定する。
無機態窒素濃度の推定に必要な補正係数k1及び液位Lに対応する有機態窒素濃度は、当該処理施設における希釈対象物のアンモニア態窒素濃度、硝酸態窒素濃度、亜硝酸態窒素濃度、全窒素濃度の測定結果に基づいて決定される。これらの窒素濃度は、貯留槽の深さ及び撹拌方法や固液分離などの前処理工程の有無など処理施設の状況及び希釈対象物の性状によって変動するため、予め当該処理施設における全窒素濃度、アンモニア態窒素濃度、硝酸態窒素濃度及び亜硝酸態窒素濃度と希釈対象物の液位とを測定して算出する。また、希釈対象物の性状は季節変動することから、補正係数k1及び液位Lと有機態窒素濃度との対応関係は、一定期間ごとに精密分析を実施して定期的に更新することが好ましい。
希釈対象物中のアンモニア態窒素濃度及び硝酸態窒素濃度は、貯留槽内の液位にかかわらず、JIS K 0102 42.5のイオンクロマトグラフ法(N換算)で分析することができる。希釈対象物中の亜硝酸態窒素濃度は、貯留槽内の液位にかかわらず、JIS K 0102 43.1.2のイオンクロマトグラフ法(N換算)で分析することができる。一方、希釈対象物中の全窒素濃度は本発明者らの実験によって液位に大きく依存することが確認されており、貯留槽内の液位が撹拌装置の取り付け位置よりも上にある場合、たとえば撹拌装置が貯留槽の底部から1.0mの位置に取り付けられている貯留槽においてL=1.0m以上の場合は、昭和37年厚生省・建設省令第1号第8条7の紫外線吸光光度法(N換算)で分析できるが、貯留槽内の液位が撹拌装置の取り付け位置よりも下となる場合、たとえば上記貯留槽においてL=1.0m未満の場合は、昭和37年厚生省・建設省令第1号第8条7のケルダール窒素+〔亜硝酸性窒素+硝酸性窒素〕総和法(N換算)で分析することが必要であった。したがって、全窒素濃度の分析は、貯留槽に撹拌装置が設置されている場合には、液位が撹拌装置の設置位置よりも上である状態では上記の紫外線吸光光度法で分析し、液位が撹拌装置の設置位置よりも下である状態では上記の総和法を用いることがよく、貯留槽に撹拌装置が設置されていない場合には、液位が貯留槽の深さの1/5以下の際に上記の総和法を用いることがよい。
希釈水中の全窒素濃度Cnは、窒素を含む昭和37年厚生省・建設省令第1号第8条7の紫外線吸光光度法(N換算)で分析できる。希釈水として下水処理水などを用いる場合には、放流される希釈処理水中には希釈水中の全窒素濃度も含まれることになるから、放流水質基準を充足するまで適切に希釈するためには、希釈対象物中の全窒素濃度に加えて、希釈水中の全窒素濃度を考慮する必要がある。
放流水質基準C0は当該処理施設に適用される法定値であり、日上限放流水量W1及び希釈対象物移送量W2は処理施設ごとに設定される設計値である。たとえば、し尿等処理施設における全窒素濃度の放流水質基準は、昭和34年政令第147号下水道法施行令が適用される施設においては240mg/L未満であり、東京都(23区内)の東京都下水道条例では120mg/L未満である。日上限放流水量W1及び希釈対象物移送量W2の設定値は変更されにくいものではあるが、変更される場合には更新する。
工程(B)は、通常運転時の制御である。具体的には、工程(A)で設定した補正係数k1、液位Lに対する有機態窒素濃度、放流水質基準C0、日上限放流水量W1及び希釈対象物移送量W2に基づき、通常運転時に、希釈対象物中のアンモニア態窒素濃度及び希釈処理水中の全窒素濃度を測定して、希釈倍率を算出して、適切な希釈水量を供給する工程である。以下、工程(B)の各工程を説明する。
工程(B-0)は、周期T1にて測定した放流対象物の全窒素濃度C1から、下記式(3)により放流水質基準C0に対する希釈補正係数k2を算出する工程である。
k2=(C1-Cn)/(C0-Cn) (3)
希釈補正係数k2は、当該処理施設から放流される放流対象物中の全窒素濃度が全窒素放流水質基準を満たしているか否かの判定基準ともいえ、k2が1超過の場合は希釈不足、k2が1未満の場合は希釈過剰、k2が1の場合は適切な希釈と判定できる。しかし、希釈後の放流対象物中の判定に過ぎず、希釈倍率を適正に調節することはできない。また、毎回この判定を行うためには全窒素濃度を毎回測定する必要があるが、全窒素濃度の測定は簡易ではなく、時間もかかるため、放流の度に測定することは現実的ではない。通常、し尿等処理施設では、放流水中の全窒素濃度の測定は1時間に1回程度の頻度で行っている。
本発明において、周期T1は短周期であるほうが好ましいが、処理施設に応じて10分間~1日間の範囲で設定することができる。
希釈水として窒素を含む下水処理水を用いる場合、放流対象の希釈処理水中の全窒素量は、希釈対象物中の窒素量と希釈水中の窒素量との和になるため、希釈水中の窒素量Cnを加味して希釈倍率を算出する必要がある。
工程(B-1)は、周期T2にて測定した希釈対象物の貯留槽内での液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]を選択する工程である。
全窒素濃度は無機態窒素濃度と有機態窒素濃度との合計であるから、アンモニア濃度のみを測定して全窒素濃度を推定するには、有機態窒素濃度を正確に推定することが重要である。上述のように、有機態窒素濃度は、貯留槽内での希釈対象物の液位によって変動することから、工程(A)にて設定した液位Lに対応する有機態窒素濃度を選択する。
貯留槽内の希釈対象物の液位の変動は、希釈処理対象の処理施設における貯留槽の容量及び希釈対象物移送量によって異なる。周期T2は、貯留槽内の希釈対象物の液位の単位時間あたりの変動が大きい場合は短周期に設定し、単位時間あたりの液位の変動が小さい場合は長周期に設定することができる。貯留槽の最大液位から最低液位までの変動時間が1日である(すなわち貯留槽容量が1日分)処理施設においては、周期T2を1時間に設定することができ、同変動時間が7日である(すなわち貯留槽容量が7日分)処理施設においては、周期T2を1~8時間に設定することができる。
工程(B-2)は、周期T3にて測定したアンモニア態窒素濃度[NH4-N]に補正係数k1を乗算して、無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])を算出する工程である。
補正係数k1は、工程(A)にて設定した、アンモニア態窒素濃度と硝酸態窒素濃度及び亜硝酸態窒素濃度との関係に基づいて、無機態窒素濃度を算出する係数である。アンモニア態濃度の測定のみを行って、補正係数k1を乗算することで、硝酸態窒素濃度及び亜硝酸態窒素濃度とアンモニア態窒素濃度との総和である無機態窒素濃度を算出することができる。
周期T3は、処理施設に搬入されるし尿等の希釈対象物の性状変動の程度によって異なる。性状変動が激しい場合には短周期に設定して希釈倍率の調整を頻繁に行なうことが好ましい。周期T3が短すぎると、水質測定、希釈水供給及び放流の制御負荷が大きくなりすぎるため、性状変動が少ない場合には長周期に設定することができる。たとえば、周期T3は、10分間~1週間程度、好ましくは15分間~3日間、より好ましくは30分間~1日間の間での範囲で設定することが望ましい。
工程(B-3)は、選択した有機態窒素濃度[Org-N]、算出した無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])及び設定してある放流水質基準C0を下記式(4)に代入して、目標希釈倍率M0を算出する工程である。
M0={([NH4-N]+[NOx-N])+[Org-N]}/C0 (4)
目標希釈倍率M0は、希釈対象物のアンモニア濃度測定値に基づいて工程(B-2)で算出した全窒素濃度を放流水質基準未満とするために必要な希釈倍率の理論値である。
工程(B-4)は、目標希釈倍率M0に希釈補正係数k2を乗算して、適正希釈倍率Mを算出する工程である。
M=k2×M0 (5)
工程(B-0)で求めた希釈補正係数k2は、実際に放流された放流対象物中の全窒素濃度が放流水質基準を満たしていたか否かの判定基準であり、k2が1超過の場合は希釈不足、k2が1未満の場合は希釈過剰、k2が1の場合は適切な希釈といえる。目標希釈倍率M0に希釈補正係数k2を乗算することによって、希釈不足の場合には目標希釈倍率M0を高く補正し、希釈過剰の場合には目標希釈倍率M0を低く補正して、適切な希釈倍率Mを算出する。
工程(B-5)は、適正希釈倍率M、希釈対象物移送量W2を下記式(6)に代入して、適正希釈水供給量W3を算出する工程である。
W3=(M - 1)×W2 (6)
工程(B-4)で算出した適正希釈倍率で希釈するために必要な希釈水供給量W3を算出する。
工程(B-6)は、算出した適正希釈水供給量W3を供給して、希釈対象物を希釈処理して、放流する工程である。
また、適正希釈水供給量W3と希釈対象物移送量W2との和が日上限放流水量W1以下の場合には、放流水槽から希釈処理水を下水道放流システムに放流するように、放流ポンプを作動させる。一方、適正希釈水移供給量W3と希釈対象物移送量W2との和が日上限放流水量W1を超える場合には、希釈処理水を下水道放流システムに放流しないように、放流ポンプを停止させる(待機)。放流ポンプの停止は、手動で行っても良いし、タイマー等を使って自動で行っても良い。自動で行う場合は、制限時間が解除された際(例えば1日あたりの上限値が決められている場合は、日付が変わった際)に放流ポンプの待機状態が解除されるようにタイマーを設定すれば良い。なお、放流水量が日上限放流水量W1を超えるか否かの検知は、希釈対象物移送量W2と適正希釈水供給量W3の積算値を各々計測して行っても良いが、放流水流量計で放流水量(W2+W3)を直接測定すると簡便かつ正確であり、より好ましい。
本発明の希釈処理装置は、図1に概略説明するように、希釈対象物を貯留する貯留槽10と、貯留槽10内の希釈対象物の液位を測定する液位測定手段11と、希釈対象物を希釈する希釈手段20と、希釈手段20の上流に設けた第1の水質測定手段30と、希釈手段20の下流に設けた第2の水質測定手段40と、希釈手段20へ希釈水を供給する希釈水供給手段50と、希釈手段20からの放流対象物を放流する放流手段60と、希釈水供給手段50及び放流手段60を制御する制御手段70と、を具備する。第1の水質測定手段30はアンモニア濃度計であり、第2の水質測定手段40は全窒素計である。制御手段70は液位測定手段11及び第1の水質測定手段30による測定値に基づいて希釈対象物中の全窒素濃度を推定して希釈倍率を算出し、希釈水供給手段50及び放流手段60を制御する。
図2を参照しながら、本発明の希釈処理装置の第1の実施形態を具体的に説明する。
第1の実施形態において、希釈対象物は脱水装置80からの脱水分離液であり、貯留槽10は液位測定手段11としての液位計が取り付けられている分離液槽である。図2に示す分離液槽には撹拌装置が備え付けられているが、撹拌装置はなくてもよい。
図2において、希釈手段20は放流水槽であり、希釈水供給手段50は希釈水槽51及び希釈水ポンプ52が取り付けられている希釈水供給管53であり、放流手段60は放流水ポンプ61及び放流水流量計62が取り付けられている放流水管63である。
図2において、第1の水質測定手段30は、分離液槽10から放流水槽20へ希釈対象物を供給する配管15から分岐して別途設けられている水質測定桝31に取り付けられているアンモニア濃度計である。第2の水質測定手段40は、放流水槽20からの放流水管63から分岐して放流水槽に希釈処理水を循環させる希釈処理水循環路41に設けられている全窒素計である。アンモニア濃度計は、希釈手段である放流水槽20の上流側に設けられており、放流水槽に供給される希釈対象物中のアンモニア濃度を測定する。全窒素計は、希釈手段である放流水槽20の下流側に設けられており、放流水槽から放出される希釈処理水中の全窒素濃度を測定する。
制御手段70は、下記の工程を実施できる演算処理装置と演算結果の制御信号を送受信できる装置を含むものであれば特に限定されない。演算処理装置は、希釈処理を実施する処理施設に設けてその場処理を行うものでも、処理施設の制御室に設置して遠隔処理を行うものでも、インターネット回線などを通じて遠隔処理を行うものでもよい。
(A)貯留槽10内の希釈対象物の液位Lに対応するアンモニア態窒素濃度[NH4-N]、硝酸態・亜硝酸態窒素濃度[NOx-N]及び全窒素濃度[T-N]を予め測定して、下記式(1)及び(2)により算出した無機態窒素濃度を求める補正係数k1及び液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]:
k1=([NH4-N]+[NOx-N])/[NH4-N] (1)
[Org-N]=[T-N]-([NH4-N]+[NOx-N]) (2)
並びに、希釈水中の全窒素濃度Cn、放流水質基準C0、日上限放流水量W1、希釈対象物移送量W2を設定しておき、
(B)希釈運転時には、
(B-0)第2の水質測定手段40により周期T1にて測定した放流対象物の全窒素濃度C1から、放流水質基準C0に対する希釈補正係数k2を算出し、
k2=(C1-Cn)/(C0-Cn) (3)
(B-1)液位測定手段11により周期T2にて測定した希釈対象物の貯留槽10内での液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]を選択し、
(B-2)第1の水質測定手段30により周期T3にて測定したアンモニア態窒素濃度[NH4-N]に補正係数k1を乗算して、無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])を算出し、
(B-3)選択した有機態窒素濃度[Org-N]、算出した無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])及び設定してある放流水質基準C0を下記式(4)に代入して、目標希釈倍率M0を算出し、
M0={([NH4-N]+[NOx-N])+[Org-N]}/C0 (4)
(B-4)目標希釈倍率M0に希釈補正係数k2を乗算して、適正希釈倍率Mを算出し、
M=k2×M0 (5)
(B-5)適正希釈倍率M、希釈対象物移送量W2を下記式(6)に代入して、適正希釈水供給量W3を算出し、
W3=(M - 1)×W2 (6)
(B-6)算出した適正希釈水供給量W3を希釈手段20に供給するように、希釈水供給手段50を作動させる。
工程(A)は、当該処理施設における貯留槽10内での希釈対象物の液位Lによって変動するアンモニア態窒素濃度と、硝酸態・亜硝酸態窒素濃度との関係に基づいて、希釈対象物中の無機態窒素濃度を算出する補正係数k1及び液位Lと有機態窒素濃度との対応関係を決定し、当該処理施設における放流水質基準C0、日上限放流水量W1、希釈対象物移送量W2並びに希釈水中の全窒素濃度Cnを設定する工程である。具体的には、予め測定した貯留槽10内の希釈対象物の液位Lに対応するアンモニア態窒素濃度[NH4-N]、硝酸態・亜硝酸態窒素濃度[NOx-N]及び全窒素濃度[T-N]に基づいて、下記式(1)及び(2)により無機態窒素濃度を求める補正係数k1及び液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]を算出し:
k1=([NH4-N]+[NOx-N])/[NH4-N] (1)
[Org-N]=[T-N]-([NH4-N]+[NOx-N]) (2)
並びに、希釈水中の全窒素濃度Cn、放流水質基準C0、日上限放流水量W1、希釈対象物移送量W2を設定する。
無機態窒素濃度の推定に必要な補正係数k1及び液位Lに対応する有機態窒素濃度は、当該処理施設における希釈対象物のアンモニア態窒素濃度、硝酸態窒素濃度、亜硝酸態窒素濃度、全窒素濃度の測定結果に基づいて決定される。これらの窒素濃度は、貯留槽の深さ及び撹拌方法や固液分離などの前処理工程の有無など処理施設の状況及び希釈対象物の性状によって変動するため、予め当該処理施設における全窒素濃度、アンモニア態窒素濃度、硝酸態窒素濃度及び亜硝酸態窒素濃度と希釈対象物の液位とを測定して算出する。また、希釈対象物の性状は季節変動することから、補正係数k1及び液位Lと有機態窒素濃度との対応関係は、一定期間ごとに精密分析を実施して定期的に更新することが好ましい。
一方、放流水質基準C0は当該処理施設に適用される法定値であり、日上限放流水量W1及び希釈対象物移送量W2は処理施設ごとに設定される設計値である。たとえば、し尿等処理施設における全窒素濃度の放流水質基準は、昭和34年政令第147号下水道法施行令が適用される施設においては240mg/L未満であり、東京都(23区内)の東京都下水道条例では120mg/L未満である。日上限放流水量W1及び希釈対象物移送量W2の設定値は変更されにくいものではあるが、変更される場合には更新する。
工程(B)は、通常運転時の制御である。具体的には、工程(A)で設定した補正係数k1、液位Lに対する有機態窒素濃度、放流水質基準C0、日上限放流水量W1及び希釈対象物移送量W2に基づき、通常運転時に、希釈対象物中のアンモニア態窒素濃度及び希釈処理水中の全窒素濃度を測定して、希釈倍率を算出して、適切な希釈水量を供給する工程である。以下、工程(B)の各工程を説明する。
工程(B-0)は、第2の水質測定手段40により周期T1にて測定した放流対象物の全窒素濃度C1から、下記式(3)により放流水質基準C0に対する希釈補正係数k2を算出する工程である。
k2=(C1-Cn)/(C0-Cn) (3)
希釈補正係数k2は、当該処理施設から放流される放流対象物中の全窒素濃度が全窒素放流水質基準を満たしているか否かの判定基準ともいえ、k2が1超過の場合は希釈不足、k2が1未満の場合は希釈過剰、k2が1の場合は適切な希釈と判定できる。しかし、希釈後の放流対象物中の判定に過ぎず、希釈倍率を適正に調節することはできない。また、毎回この判定を行うためには全窒素濃度を毎回測定する必要があるが、全窒素濃度の測定は簡易ではなく、時間もかかるため、放流の度に測定することは現実的ではない。通常、し尿等処理施設では、放流水中の全窒素濃度の測定は1時間に1回程度の頻度で行っている。
本発明において、周期T1は短周期であるほうが好ましいが、処理施設に応じて10分間~1日間の範囲で設定することができる。
希釈水として窒素を含む下水処理水を用いる場合、放流対象の希釈処理水中の全窒素量は、希釈対象物中の窒素量と希釈水中の窒素量との和になるため、希釈水中の窒素量Cnを加味して希釈倍率を算出する必要がある。
工程(B-1)は、液位測定手段11により周期T2にて測定した希釈対象物の貯留槽10内での液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]を選択する工程である。
全窒素濃度は無機態窒素濃度と有機態窒素濃度との合計であるから、アンモニア濃度のみを測定して全窒素濃度を推定するには、有機態窒素濃度を正確に推定することが重要である。上述のように、有機態窒素濃度は、貯留槽内での希釈対象物の液位によって変動することから、工程(A)にて設定した液位Lに対応する有機態窒素濃度を選択する。
貯留槽内の希釈対象物の液位の変動は、希釈処理対象の処理施設における貯留槽の容量及び希釈対象物移送量によって異なる。周期T2は、貯留槽内の希釈対象物の液位の単位時間あたりの変動が大きい場合は短周期に設定し、単位時間あたりの液位の変動が小さい場合は長周期に設定することができる。たとえば、貯留槽の最大液位から最低液位までの変動時間が1日である(すなわち貯留槽容量が1日分)処理施設においては、周期T2を1時間に設定することができ、同変動時間が7日である(すなわち貯留槽容量が7日分)処理施設においては、周期T2を1~8時間に設定することができる。
工程(B-2)は、第1の水質測定手段30により周期T3にて測定したアンモニア態窒素濃度[NH4-N]に補正係数k1を乗算して、無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])を算出する工程である。
補正係数k1は、工程(A)にて設定した、アンモニア態窒素濃度と硝酸態窒素濃度及び亜硝酸態窒素濃度との関係に基づいて、無機態窒素濃度を算出する係数である。アンモニア態濃度の測定のみを行って、補正係数k1を乗算することで、硝酸態窒素濃度及び亜硝酸態窒素濃度とアンモニア態窒素濃度との総和である無機態窒素濃度を算出することができる。
周期T3は、処理施設に搬入されるし尿等の希釈対象物の性状変動の程度によって異なる。性状変動が激しい場合には短周期に設定して希釈倍率の調整を頻繁に行なうことが好ましい。周期T3が短すぎると、水質測定、希釈水供給及び放流の制御負荷が大きくなりすぎるため、性状変動が少ない場合には長周期に設定することができる。たとえば、周期T3は、10分間~1週間程度、好ましくは15分間~3日間、より好ましくは30分間~1日間の間での範囲で設定することが望ましい。
工程(B-3)は、選択した有機態窒素濃度[Org-N]、算出した無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])及び設定してある放流水質基準C0を下記式(4)に代入して、目標希釈倍率M0を算出する工程である。
M0={([NH4-N]+[NOx-N])+[Org-N]}/C0 (4)
目標希釈倍率M0は、希釈対象物のアンモニア濃度測定値に基づいて工程(B-2)で算出した全窒素濃度を放流水質基準未満とするために必要な希釈倍率の理論値である。
工程(B-4)は、目標希釈倍率M0に希釈補正係数k2を乗算して、適正希釈倍率Mを算出する工程である。
M=k2×M0 (5)
工程(B-0)で求めた希釈補正係数k2は、実際に放流された放流対象物中の全窒素濃度が放流水質基準を満たしていたか否かの判定基準であり、k2が1超過の場合は希釈不足、k2が1未満の場合は希釈過剰、k2が1の場合は適切な希釈といえる。目標希釈倍率M0に希釈補正係数k2を乗算することによって、希釈不足の場合には目標希釈倍率M0を高く補正し、希釈過剰の場合には目標希釈倍率M0を低く補正して、適切な希釈倍率Mを算出する。
工程(B-5)は、適正希釈倍率M、希釈対象物移送量W2を下記式(6)に代入して、適正希釈水供給量W3を算出する工程である。
W3=(M - 1)×W2 (6)
工程(B-4)で算出した適正希釈倍率で希釈するために必要な希釈水供給量W3を算出する。
工程(B-6)は、算出した適正希釈水供給量W3を希釈手段20に供給するように、希釈水供給手段50を作動させる工程である。
また、適正希釈水供給量W3と希釈対象物移送量W2との和が日上限放流水量W1以下の場合には、放流水槽から希釈処理水を下水道放流システムに放流するように、放流ポンプを作動させる。一方、適正希釈水移供給量W3と希釈対象物移送量W2との和が日上限放流水量W1を超える場合には、希釈処理水を下水道放流システムに放流しないように、放流ポンプを停止させる(待機)。放流ポンプの停止は、手動で行っても良いし、タイマー等を使って自動で行っても良い。自動で行う場合は、制限時間が解除された際(例えば1日あたりの上限値が決められている場合は、日付が変わった際)に放流ポンプの待機状態が解除されるようにタイマーを設定すれば良い。なお、放流水量が日上限放流水量W1を超えるか否かの検知は、希釈対象物移送量W2と適正希釈水供給量W3の積算値を各々計測して行っても良いが、放流水量計で放流水量(W2+W3)を直接測定すると簡便かつ正確であり、より好ましい。
図3を参照しながら、本発明の希釈処理装置の第2の実施形態を具体的に説明する。なお、第2の実施形態は、希釈対象物を貯留する貯留槽の下流側の処理は第1の実施形態と同じであるから、説明は割愛する。
第2の実施形態において、希釈対象物は脱水装置80からの脱水分離液を生物処理部82にて生物処理した生物処理水であり、貯留槽10は液位測定手段11としての液位計が取り付けられている貯留槽である。し尿等を生物処理して得られる希釈対象物は、浮遊物質などの不溶性成分や溶解性の有機成分が除去されているため、測定機器の汚染を抑制することができる。
図3において、希釈手段20は放流水槽であり、希釈水供給手段50は希釈水槽51及び希釈水ポンプ52が取り付けられている希釈水供給管53であり、放流手段60は放流水ポンプ61及び放流水流量計62が取り付けられている放流水管63である。
図3において、第1の水質測定手段30は、貯留槽10から放流水槽20へ希釈対象物を供給する配管15から分岐して別途設けられている水質測定桝31に取り付けられているアンモニア濃度計である。第2の水質測定手段40は、放流水槽20からの放流水管63から分岐して放流水槽に希釈処理水を循環させる希釈処理水循環路41に設けられている全窒素計である。アンモニア濃度計は、希釈手段である放流水槽20の上流側に設けられており、放流水槽に供給される希釈対象物中のアンモニア濃度を測定する。全窒素計は、希釈手段である放流水槽20の下流側に設けられており、放流水槽20から放出される希釈処理水中の全窒素濃度を測定する。
図2及び図3において、貯留槽10の上流側に、希釈対象物の前処理装置として固液分離槽や生物処理槽を設けている。前処理装置としては、し渣除去装置、固液分離装置、生物処理装置など通常のし尿等処理に用いられる処理装置を単独又は任意に組み合わせて設けることができる。前処理装置でし渣除去又は固液分離された希釈対象物は、し渣分や固形分が除去されているため、測定機器への絡みつき等によるトラブルを防止することができる。
本発明の希釈処理装置は、上述した実施形態に限定されず、種々の変更を包含するものである。たとえば、希釈手段として放流水槽を用いる例を示したが、放流前に希釈対象物と希釈水とを均質に混合することができる装置であれば特に限定されるものではなく、ラインミキサなど混合又は混練機構を有する配管や、同一の空間に対向流で希釈対象物と希釈水とを導入する機構を有する配管などを用いることができる。また、希釈処理水循環路を放流水管から分岐させる例を示したが、サンプリングポンプを取り付けた希釈処理水循環路を放流水槽に直接接続させてもよい。また、貯留槽に撹拌装置を設ける場合には、陸上ポンプ撹拌、水中ポンプ又は水中ミキサなどの機械撹拌、ブロア及び風流調整用バルブを用いてガスまたは空気を導入する空気撹拌、水中ミキサを用いて曝気する空気撹拌、又はこれらの任意の組み合わせなどを用いることができる。
Aし尿等処理施設の貯留槽内のし尿等を希釈対象物として、同処理施設の放流水を希釈処理水として、本発明の希釈処理方法による希釈水供給量の削減率を算出した。
Aし尿等処理施設の貯留槽内の希釈対象物の最大液位が5.0mで、貯留槽底部から1.0m程度に空気撹拌手段としての散気管が設けられている貯留槽内の希釈対象物の液位とアンモニア態窒素濃度、硝酸態窒素濃度、亜硝酸態窒素濃度及び全窒素濃度を分析し、関係性を調べた。アンモニア態窒素濃度及び硝酸態窒素濃度はJIS K 0102 42.5のイオンクロマトグラフ法(N換算)で分析し、亜硝酸態窒素濃度はJIS K 0102 43.1.2のイオンクロマトグラフ法(N換算)で分析し、全窒素濃度は、貯留槽内の液位が2.5m及び1.5mの場合は、昭和37年厚生省・建設省令第1号第8条7の紫外線吸光光度法(N換算)で分析し、貯留槽内の液位が0.5mの場合は、昭和37年厚生省・建設省令第1号第8条7のケルダール窒素+〔亜硝酸性窒素+硝酸性窒素〕総和法(N換算)で分析した。結果を表1に示す。
Figure 0007208949000001
表1に示すように、アンモニア態窒素濃度は液位によって大幅に変動することはなく180mg/L~220mg/Lの範囲であり、硝酸態窒素濃度及び亜硝酸態窒素濃度の合計は液位が1.5m以上で1.48mg/L~1.66mg/Lの範囲であり、液位が0.5mの場合に15mg/Lとなった。無機態窒素濃度とアンモニア態窒素濃度との比率から補正係数k1を算出したところ、液位1.5m以上では1.007であり、液位0.5mでは1.08となった。
たとえば、撹拌装置が1.0mの高さ位置で取り付けられている貯留槽において、貯留槽内の希釈対象物の液位Lが1.0m、希釈対象物中のアンモニア濃度測定値が200mg/Lである場合、補正係数k1は表1から1.08となるから、希釈対象物中の無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])は200mg/L×1.08=216mg/Lと算出できる。液位L=1.0mに対応する希釈対象物中の有機態窒素濃度[Org-N]は表1から1405mg/Lであるから、希釈対象物中の全窒素濃度は1405mg/L+216mg/L=1621mg/Lと算出できる。放流水質基準C0は240mg/Lを採用すると、目標希釈倍率M0は1621/240=6.75と算出できる。通常のし尿等処理施設では、放流水中全窒素濃度が放流水質基準を超えることがないように、適正な希釈倍率に対して安全率を見込んだ希釈倍率を設定しているため、放流水中全窒素濃度は非常に低くなる。たとえば、放流水中全窒素濃度が100mg/Lの場合、希釈補正係数k2は100/240=0.42と算出できるから、適正希釈倍率Mは6.75×0.42=2.84と算出できる。直近の希釈水供給量に適正希釈倍率M=2.84を乗算して、適正な希釈水供給量を算出して、希釈水供給量を調節する。以後、周期T3で希釈対象物中のアンモニア濃度及び周期T2で貯留槽内の希釈対象物の液位Lを測定し、周期T1で放流水中全窒素濃度を測定して希釈補正係数k2を算出して適正希釈倍率を算出し、直近の希釈水供給量に乗算して希釈水供給量を調節することによって、希釈対象物中のアンモニア濃度変動に追従した希釈水供給量の調節が可能となる。
参考として、適切な希釈倍率を適用した場合の従前の希釈方法からの放流量金削減効果を試算した。
A処理施設及びB処理施設は図2に示す第1実施形態と同様、脱水分離機からの脱水分離液を撹拌装置を有する分離液槽(貯留槽)に貯留し、放流水槽(希釈手段)にて希釈した後に放流する希釈処理を実施する施設である。A処理施設及びB処理施設の全窒素放流水質基準は240mg/Lである。
A処理施設では、希釈倍率6.0で希釈処理している。A処理施設の分離液槽から採取した希釈対象物中の全窒素濃度は240mg/Lであった。したがって、A処理施設における希釈倍率の理論値は1.0となる。
B処理施設では、希釈倍率5.65で希釈している。B処理施設の分離液槽から採取した希釈対象物中の全窒素濃度は752mg/Lであった。したがって、A処理施設における希釈倍率の理論値は3.13となる。
Figure 0007208949000002
A処理施設及びB処理施設ともに、理論値に近い適切な希釈倍率で希釈処理することができれば、希釈水量を大幅に削減できることがわかる。

Claims (6)

  1. 少なくともアンモニア態窒素を含有する流体である希釈対象物を希釈処理後に下水処理施設に放流する希釈処理装置であって、
    希釈対象物を貯留する貯留槽と、
    前記貯留槽内の希釈対象物の液位を測定する液位測定手段と、
    希釈対象物を希釈する希釈手段と、
    前記希釈手段の上流に設けた第1の水質測定手段と、
    前記希釈手段の下流に設けた第2の水質測定手段と、
    前記希釈手段へ希釈水を供給する希釈水供給手段と、
    前記希釈手段からの放流対象物を放流する放流手段と、
    前記希釈水供給手段及び前記放流手段を制御する制御手段と、
    を具備し、
    前記制御手段は、
    (A)貯留槽内の希釈対象物の液位Lに対応するアンモニア態窒素濃度[NH4-N]、硝酸態・亜硝酸態窒素濃度[NOx-N]及び全窒素濃度[T-N]を予め測定して、下記式(1)及び(2)により算出した無機態窒素濃度を求める補正係数k1及び液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]:
    k1=([NH4-N]+[NOx-N])/[NH4-N] (1)
    [Org-N]=[T-N]-([NH4-N]+[NOx-N]) (2)
    並びに、希釈水中の全窒素濃度Cn、放流水質基準C0、日上限放流水量W1、希釈対象物移送量W2を設定しておき、
    (B)希釈運転時には、
    (B-0)前記第2の水質測定手段により周期T1にて測定した放流対象物の全窒素濃度C1から、放流水質基準C0に対する希釈補正係数k2を算出し、
    k2=(C1-Cn)/(C0-Cn) (3)
    (B-1)前記液位測定手段により周期T2にて測定した希釈対象物の貯留槽内での液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]を選択し、
    (B-2)前記第1の水質測定手段により周期T3にて測定したアンモニア態窒素濃度[NH4-N]に補正係数k1を乗算して、無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])を算出し、
    (B-3)選択した有機態窒素濃度[Org-N]、算出した無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])及び設定してある放流水質基準C0を下記式(4)に代入して、目標希釈倍率M0を算出し、
    M0={([NH4-N]+[NOx-N])+[Org-N]}/C0 (4)
    (B-4)目標希釈倍率M0に希釈補正係数k2を乗算して、適正希釈倍率Mを算出し、
    M=k2×M0 (5)
    (B-5)適正希釈倍率M、希釈対象物移送量W2を下記式(6)に代入して、適正希釈水供給量W3を算出し、
    W3=(M - 1)×W2 (6)
    (B-6)算出した適正希釈水供給量W3を前記希釈手段に供給するように、前記希釈水供給手段を作動させる、
    ことを特徴とする希釈処理装置。
  2. 前記貯留槽には、機械撹拌装置又は空気撹拌装置が設けられている、請求項1に記載の希釈処理装置。
  3. 前記貯留槽の上流側には、生物処理装置、脱水処理装置、し渣除去装置又はこれらの任意の組み合わせが設けられている、請求項1又は2に記載の希釈処理装置。
  4. 少なくともアンモニア態窒素を含有する流体である希釈対象物を希釈処理後に下水処理施設に放流する希釈処理方法であって、
    (A)貯留槽内の希釈対象物の液位Lに対応するアンモニア態窒素濃度[NH4-N]、硝酸態・亜硝酸態窒素濃度[NOx-N]及び全窒素濃度[T-N]を予め測定して、下記式(1)及び(2)により算出した無機態窒素濃度を求める補正係数k1及び液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]:
    k1=([NH4-N]+[NOx-N])/[NH4-N] (1)
    [Org-N]=[T-N]-([NH4-N]+[NOx-N]) (2)
    並びに、希釈水中の全窒素濃度Cn、放流水質基準C0、日上限放流水量W1、希釈対象物移送量W2を設定しておき、
    (B)希釈運転時には、
    (B-0)放流対象物の全窒素濃度C1を周期T1にて測定し、放流水質基準C0に対する希釈補正係数k2を算出し、
    k2=(C1-Cn)/(C0-Cn) (3)
    (B-1)希釈対象物の貯留槽内での液位Lを周期T2にて測定し、液位Lに対応する有機態窒素濃度[Org-N]を選択し、
    (B-2)希釈対象物のアンモニア態窒素濃度[NH4-N]を周期T3にて測定し、測定したアンモニア態窒素濃度[NH4-N]に補正係数k1を乗算して、無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])を算出し、
    (B-3)選択した有機態窒素濃度[Org-N]、算出した無機態窒素濃度([NH4-N]+[NOx-N])及び設定してある放流水質基準C0を下記式(4)に代入して、希釈倍率M0を算出し、
    M0={([NH4-N]+[NOx-N])+[Org-N]}/C0 (4)
    (B-4)算出した希釈倍率M0に希釈補正係数k2を乗算して、適正希釈倍率Mを算出し、
    M=k2×M0 (5)
    (B-5)適正希釈倍率M、希釈対象物移送量W2を下記式(6)に代入して、適正希釈水供給量W3を算出し、
    W3=(M - 1)×W2 (6)
    (B-6)算出した適正希釈水供給量W3を希釈手段に供給して、希釈対象物を希釈処理した後に放流する
    ことを特徴とする希釈処理方法。
  5. 周期T1、周期T2,及び周期T3は、それぞれ同一又は異なる周期である、請求項4に記載の希釈処理方法。
  6. 前記希釈対象物は、し尿、浄化槽汚泥、あるいは、し尿又は浄化槽汚泥をし渣分離処理、生物処理、脱水処理又はこれらの任意の組み合わせで処理した処理水であることを特徴とする請求項4又は5に記載の希釈処理方法。
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