〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子について図1から図9を用いて説明する。まず、本実施形態による窒化物半導体レーザ素子1の概略構成について図1を用いて説明する。図1では、窒化物半導体レーザ素子1が模式的に図示されている。図1では、理解を容易にするため、窒化物半導体レーザ素子1を構成する各層の厚さや大きさの相対関係が実際の寸法とは異ならせて図示されている。
図1に示すように、窒化物半導体レーザ素子1は、基板11と、基板11の上方に配置された窒化物半導体積層膜12と、窒化物半導体積層膜12に電流を注入するp型電極15及びn型電極16とを備えている。窒化物半導体積層膜12は、下部ガイド層122aと、下部ガイド層122aの上に積層されて井戸層121aを有する発光層121と、発光層121の上に積層された上部ガイド層122bと、上部ガイド層122bの上に積層された組成変化層123とを含んでいる。
窒化物半導体レーザ素子1は、下部ガイド層122aの下層に形成された下部クラッド層13と、組成変化層123の上層に形成された窒化物半導体層14とを備えている。組成変化層123及び窒化物半導体層14によって上部クラッド層が構成される。p型電極15は、窒化物半導体層14上に形成され、n型電極16は、下部クラッド層13上に形成されている。図示は省略するが、窒化物半導体レーザ素子1と、窒化物半導体レーザ素子1を覆うパッケージとによってパッケージ化されたレーザダイオードが構成される。このパッケージは、金や鉛が母体となる支持体が主構造となり、発光層121から出射される光が入射する領域にガラスで形成された窓を有している。発光層121は、波長360nm以下の紫外光を発光可能である。
下部ガイド層122a、発光層121、上部ガイド層122b及び組成変化層123は、この順に基板11の上方で積層されている。下部ガイド層122a及び上部ガイド層122bによってガイド層122が構成されている。下部クラッド層13、窒化物半導体積層膜12及び窒化物半導体層14によって窒化物積層体10が構成されている。
基板11は、薄板の四角形状を有している。基板11は、下部クラッド層13、窒化物半導体積層膜12及び窒化物半導体層14が積層される積層面11Sを有している。積層面11Sは、窒化物積層体10と接触する平面である。窒化物積層体10は、側壁が積層面11Sに対してほぼ直交するように基板11上に形成されている。なお、基板11の側壁と窒化物積層体10の側壁とが面一に形成されていてもよい。窒化物積層体10のうち下部クラッド層13が積層面11Sに接触して形成されている。基板11は、基板単体の構造を有していてもよく、基板上に半導体が積層された積層構造を有していてもよい。基板11における積層構造として例えば、サファイア基板上にAlN薄膜が積層された構造、サファイア基板上にAlN薄膜及びn型AlGaN薄膜が積層された構造などが挙げられる。
下部ガイド層122aは、例えばAlx1Ga(1-x1)Nで形成されている。下部ガイド層122aの組成を決定するx1は、0以上1以下(0≦x1≦1)の範囲の値のいずれかであってもよい。
上部ガイド層122bは、例えばAlx1Ga(1-x1)Nで形成されている。上部ガイド層122bの組成を決定するx1は、0以上1以下(0≦x1以下1)の範囲の値のいずれかであってもよい。上部ガイド層122b及び下部ガイド層122aは、Al組成(すなわちx1の値)が同じであっても異なっていてもよいが、効率良く光を閉じ込めるためには同じであることが好ましい。
発光層121に設けられた井戸層121aは、例えばAlx2Ga(1-x2)Nで形成されている。本実施形態では、発光層121は、例えばAlGaNで形成された障壁層を有し、井戸層121a及び障壁層が1つずつ交互に積層された多重量子井戸((MQW:Multiple Quantum Well)構造を有している。窒化物半導体レーザ素子1は、発光層121を多重量子井戸構造とすることにより、発光層121の発光効率や発光強度の向上が図られている。
発光層121は、例えば「障壁層/井戸層/障壁層/井戸層/障壁層」という二重量子井戸構造を有していてもよい。これら井戸層のそれぞれの膜厚は例えば3nmであってよく、これらの障壁層のそれぞれの膜厚は例えば10nmであってよく、発光層121の膜厚は36nmであってもよい。以下、発光層121に含まれる2つの井戸層を総称して「井戸層121a」と称する。したがって、発光層121の膜厚T2は、複数の井戸層121a及び複数の障壁層のそれぞれの膜厚を合わせた膜厚を指す。井戸層121aの組成を決定するx2は、0以上1以下(0≦x2≦1)の範囲の値のいずれかであってもよい。
ガイド層122は、発光層121で発光した光が出射される側に出射側端面122Saを有している。ガイド層122の出射側端面122Saはハーフミラーを構成し、出射側端面122Saに対向するガイド層122の対向端面122Sbはミラーを構成している。ガイド層122は、発光層121で発光した光を、下部クラッド層13および上部クラッド層123との屈折率差により閉じ込める。
ガイド層122は、窒化物半導体レーザ素子1の外部空間を満たす空気とガイド層122との屈折率差を利用して、出射側端面122Saでハーフミラーを構成し、対向端面122Sbでミラーを構成してもよい。また、ガイド層122は、出射側端面122Sa及び対向端面122Sbでの反射率を向上させるため、出射側端面122Sa及び対向端面122Sbのそれぞれの表面に誘電体多層膜が形成され、出射側端面122Saでハーフミラーを構成し、対向端面122Sbでミラーを構成してもよい。
組成変化層123は、リッジ構造を有している。すなわち、組成変化層123は、上部ガイド層122bに接触していない側の表面(上部側表面)の一部が土手状に上方に突出する形状を有している。組成変化層123は、この突出部分をほぼ中央に有しているが、中央ではなくn型電極16が配置されている側に片寄らせて突出部分を有していてもよい。突起部分がn型電極16に近付くことによって、窒化物積層体10中を流れる電流経路が短くなるので、窒化物積層体10中に形成される電流経路の抵抗値を下げることができる。発光層122と組成傾斜層123の間に窒化物半導体層を有していても良い。例えば、発光効率を向上させるために「電子ブロック層」と呼ばれる障壁層を有していても良い。また、リッジ構造の底は必ずしも組成傾斜層で形成されている必要はなく、例えば上記電子ブロック層や、あるいは組成傾斜層上の窒化物半導体層でも良い。また、リッジ構造はなくてもよい。
組成変化層123は、上部ガイド層122bから離れるほどAlx3Ga(1-x3)NのAl組成が連続的又は階段状に減少するようになっている。組成変化層123の組成を決定するx3は、0以上1以下(0≦x3≦1)の範囲で変化してよい。したがって、組成変化層123は、x3が0より大きく1より小さい範囲内で変化してAlx3Ga(1-x3)Nのみで形成される構造、x3が0より大きく1以下の範囲で変化してAlN及びAlx3Ga(1-x3)Nで形成される構造、x3が0以上1より小さい範囲で変化してAlx3Ga(1-x3)N及びGaNで形成される構造、及びx3が0以上1以下の範囲で変化してAlN、Alx3Ga(1-x3)N及びGaNで形成される構造のいずれかの構造を有する。
組成変化層123におけるAlの組成変化率は、0.1%/nmより大きくなっている。ここで、Alの組成変化率とは、AlGaN中でのAl及びGaのモル数の合計に対するAlのモル数であるAlの組成比率が変化する割合をいう。組成変化率をこの範囲に規定することで、後述する分極ドーピングによるホール発生量を多くすることができる。これにより、効率良く発光層121へホールを輸送することができ、発光効率の高い窒化物半導体レーザ素子1及び窒化物半導体レーザ素子1を備えるレーザダイオードを作製できる。組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)Nのx3の最小値をy、最大値をzとすると、ガイド層122側の組成変化層123の下部領域123aがAlzGa(1-z)Nで形成され、窒化物半導体層14側の組成変化層123の上部領域123bがAlyGa(1-y)Nで形成されている。組成変化層123の下部領域123a及び上部領域123bの間の中間領域123cは、下部領域123aから上部領域123bに向かってAlx3Ga(1-x3)NのAl組成比、すなわちx3の値が連続的又は階段状に小さくなるAlx3Ga(1-x3)Nで形成されていてもよい。また、中間領域123cは、下部領域123aにおけるAlx3Ga(1-x3)NのAl組成比と上部領域123bにおけるAlx3Ga(1-x3)NのAl組成比との間の一の組成比、すなわちAlx3Ga(1-x3)Nのx3がy及びzの間の一の値のAlx3Ga(1-x3)Nで形成されていてもよい。また、本実施形態における組成変化層123は、下部領域123a、上部領域123b及び中間領域123cの3層構造を有しているが、中間領域123cを有さずに下部領域123a及び上部領域123bの2層構造を有していてもよい。この場合、組成変化層123は、Alx3Ga(1-x3)Nの組成を2段階に変化させた構造を有する。
本実施形態では、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)Nのx3の最小値yは、0.2以上0.8以下(0.2≦y≦0.8)であってもよい。また、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)Nのx3の最大値zは、最小値yの値よりも大きいことを前提に、0.3以上1以下(0.3≦z≦1)であってもよい。Alx3Ga(1-x3)Nのx3の最小値y及び最大値zの少なくとも一方がこの範囲の値となるように制御して組成変化層123を形成することにより、分極ドーピングによる組成変化層123内の正孔密度が向上する。さらに、Alx3Ga(1-x3)Nのx3の最小値y及び最大値zの少なくとも一方がこの範囲の値となるように制御して組成変化層123を形成することにより、組成変化層123の屈折率を利用して発光層121で発光した光をガイド層122に閉じ込める効果が向上する。このように、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)Nのx3の最小値y及び最大値zを最適化することにより、分極ドーピングによる組成変化層123内の正孔密度の向上とガイド層122の光閉じ込め効果の向上の両立を図ることができる。これにより、窒化物半導体レーザ素子1は、高出力化を図ることができる。
窒化物半導体レーザ素子1は、組成変化層123を有することにより、窒化物半導体積層膜12における急峻な組成変化を抑制し、三次元成長による薄膜の平坦性の悪化を抑制できる。
窒化物半導体積層膜12は、以下の式(1)から式(5)の関係を満たす組成を有している。
0≦x1≦1 ・・・(1)
0≦x2≦1・・・(2)
0≦x3≦1 ・・・(3)
x2<x1<z ・・・(4)
-1<x1-y<0.2 ・・・(5)
式(4)の関係を満たすことで、下部クラッド層13から注入されたキャリアを窒化物半導体層14側まで抜けることなく閉じ込めることができる。また式(5)の関係を満たすことで、発光層121で発光した光が窒化物半導体層14側へ抜けることなくガイド層122に閉じ込めることができる(詳細は後述する)。
井戸層121aがAlx2Ga(1-x2)Nで形成されている場合において、井戸層121a及び組成変化層123は、以下の式(6)の関係を満たす組成を有している。
x2<y・・・(6)
式(6)の関係を満たすことで、組成変化層123において発光層121よりもバンドギャップが小さい領域が無くなり、発光層121での発光が組成変化層123で吸収されることを抑制できる(詳細は後述する)。
紫外光の波長領域におけるAlGaN内のAl組成と屈折率との関係は、Al組成が低いと屈折率が高くなり、Al組成が高いと屈折率が低くなることが知られている。このため、発光層121が発光する光の波長領域(すなわち紫外光の波長領域)における組成変化層123内の屈折率は、下部領域123aの方が上部領域123bよりも低くなる。これにより、組成変化層123は、ガイド層122で閉じ込めている光が窒化物半導体層14に染み出す量を低減できる。その結果、窒化物半導体レーザ素子1は、光閉じ込め効率を向上させることができ、高出力のレーザ素子を実現できる。
下部ガイド層122a、上部ガイド層122b及び井戸層121aは、以下の式(7)の関係を満たす組成を有していてもよい。
0.05≦x1-x2≦0.2 ・・・(7)
下部ガイド層122a、上部ガイド層122b及び井戸層121aが式(7)の関係を満たす組成を有することにより、クラッド層からガイド層へ注入されたキャリアを効率よく発光層の井戸層へ閉じ込めることが可能となる。これにより、発光効率の高いレーザ素子が作製可能となる。
下部ガイド層122a、上部ガイド層122b及び組成変化層123は、以下の式(8)の関係を満たす組成を有していてもよい。
0.05≦z-x1≦0.3 ・・・(8)
下部ガイド層122a、上部ガイド層122b及び組成変化層123が式(8)の関係を満たす組成を有することにより、発光層121で発光した光をガイド層122で閉じ込める効率の向上と、発光層121へのキャリア(電子及び正孔)の注入効率の向上との両立を図ることができる。
下部クラッド層13は、n型のAlx4Ga(1-x4)Nを有している。本実施形態における下部クラッド層13は、全体がn型のAlx4Ga(1-x4)N、すなわちn型の半導体で形成されている。下部クラッド層13及び組成変化層123は、以下の式(9)の関係を満たす組成を有している。
0≦x4-y<0.4 ・・・(9)
式(9)の関係を満たすことにより、組成変化層123及び窒化物半導体層14で構成される上部クラッド層と、下部クラッド層13との屈折率差が小さくなり、発光層121からの発光が当該上部クラッド層及び下部クラッド層13のどちらかに偏ることを抑制することができる。これにより、当該上部クラッド層及び下部クラッド層13への光の染み出しを抑制し、当該上部クラッド層中及び下部クラッド層13中での光の吸収を抑制することができるので、窒化物半導体レーザ素子1の発光出力の向上を実現できる。
また、下部クラッド層13を構成するAlx4Ga(1-x4)Nの組成を決定するx4と、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)Nの組成を決定するx3の最大値のzとの差は、0以上かつ0.4より小さくてもよい。この場合、x4の値がzの値より大きくてもよく、zの値がx4の値よりも大きくてもよい。これにより、下部クラッド層13の屈折率と組成変化層123の屈折率との差が0.4よりも小さくなるので、発光層121からの発光の偏りを抑制して、窒化物半導体レーザ素子1の発光出力の向上を実現できる。
下部クラッド層13は、基板11よりも一回り小さい大きさ又は同じ大きさに形成されている。これにより、下部クラッド層13の周囲には、積層面11Sが露出される。下部クラッド層13は、ガイド層122が積層される第一領域131と、積層面11Sからの高さが第一領域131よりも低い第二領域132とを有している。下部クラッド層13は、第一領域131及び第二領域132の境界に段差を有している。第二領域132上には、n型電極16が形成されている。n型電極16は、発光層121に注入される電流の負極側の電極となる。下部クラッド層13には、n型電極16を介して電子が供給される。
下部クラッド層13、下部ガイド層122a及び上部ガイド層122bは、以下の式(10)の関係を満たす組成を有していてもよい。
0.05≦x4-x1≦0.3 ・・・(10)
下部クラッド層13、下部ガイド層122a及び上部ガイド層122bが式(10)の関係を満たす組成を有することにより、発光層121で発光した光をガイド層122で閉じ込める効率の向上と、発光層121へのキャリア(電子及び正孔)の注入効率の向上との両立を図ることができる。
窒化物半導体層14は、p型のAlx5Ga(1-x5)Nで形成されている。窒化物半導体層14を構成するAlx5Ga(1-x5)Nは、以下の式(11)の関係を満たす組成を有している。
0≦x5≦y・・・(11)
窒化物半導体層14は、組成変化層123の突出部分の上に形成されている。このため、組成変化層123及び窒化物半導体層14で構成される上部クラッド層は、リッジ構造を有する。窒化物半導体層14上には、p型電極15が形成されている。窒化物半導体層14は、組成変化層123及び窒化物半導体層14によって構成される上部クラッド層においてp型電極15とのコンタクト層として機能する。p型電極15は、発光層121に注入される電流の正極側の電極となる。窒化物半導体層14には、p型電極15を介して正孔が供給される。
上部クラッド層がリッジ構造を有すると、レーザ発振に必要な反転分布を形成するための閾値電流を下げることができる。また、共振方向と垂直な水平方向の光の閉じ込めも実現できるために、レーザ発振を単一モードへ制御することができる。窒化物半導体レーザ素子1におけるリッジ構造は、図1に示すように組成変化層123の一部を突出させた突出部分とこの突出部分の上に配置された窒化物半導体層14とp型電極15とで構成されてもよい。また、窒化物半導体レーザ素子1におけるリッジ構造は、上部ガイド層122b上の一部に形成された土手状の組成変化層123と、組成変化層123の上に形成された窒化物半導体層14と、窒化物半導体層14の上に配置されたp型電極15とで構成されてもよい。窒化物半導体レーザ素子1は、このようなリッジ構造を有することにより、上部クラッド層における電流の経路を電極直下の領域に制限できる。これにより、上部クラッド層中での水平方向の電流拡散が抑制されるので、発光層121内に流れる電流を上部クラッド層の突出部分(本実施形態では組成変化層123の突出部分)直下に集中させることができる。その結果、この突出部分の領域において効率よく反転分布状態を形成することができ、レーザ発振の閾値を低く保つことが可能になる。
発光層121に反転分布状態の領域が形成された後に、窒化物半導体層14に注入されたホールと下部クラッド層13に注入された電子が発光層121で再結合することにより、発光層121で光が生じる。ガイド層122より組成変化層123及び下部クラッド層13の屈折率が大きい。このため、発光層121で発光した光は、ガイド層122と接する組成変化層123及び下部クラッド層13の表面で反射されるので、ガイド層122に閉じ込められる。ガイド層122の出射側端面122Saと対向端面122Sbがミラー(反射鏡)としての機能を発揮するので、発光層121で発光した光は、ガイド層122内で増幅されながら往復して誘導放出を生じてレーザ発振が生じる。ガイド層122内で増幅された光がガイド層122内での光学ロスより大きくなると、窒化物半導体積層膜12から外部に光が出射される。
窒化物半導体層14は、式(11)の関係を満たすことを前提に、Alx5Ga(1-x5)Nのx5の値は、0以上0.2以下(0≦x5≦0.2)であってもよい。窒化物半導体層14がAlx5Ga(1-x5)N(但し0≦x5≦0.2)で形成されていると、窒化物半導体層14とp型電極15とのコンタクト抵抗が低減される。これにより、窒化物半導体レーザ素子1は、低消費電力化を図ることができる。本実施形態では、窒化物半導体層14は、例えばGaN(x5=0)で形成されている。
次に、窒化物半導体レーザ素子1を構成する各層の厚さについて図2から図9を用いて説明する。
図2に示すように、下部ガイド層122aの膜厚をT1とし、発光層121の膜厚をT2とし、上部ガイド層122bの膜厚をT3とすると、窒化物半導体積層膜12は、以下の式(12)の関係を満たす膜厚を有している。
40nm<T1+T2+T3<600nm ・・・(12)
窒化物半導体積層膜12が式(12)に示す範囲の膜厚を有することにより、窒化物半導体レーザ素子1は高出力化を図ることができる。
ここで、ガイド層122の光閉じ込め係数Γ及び窒化物半導体レーザ素子1の閾値電流密度Jthについて、図2を参照しつつ図3から図9を用いて説明する。図3から図8には、シミュレーションソフトSiLENSe Laser Editionを用いて計算を行ったグラフが図示されている。
このシミュレーションの仮説となる窒化物半導体レーザ素子の積層構造は、図1及び図2に示す窒化物半導体レーザ素子1と同様である。より具体的には、基板11は、厚さ2μmのAIN基板とし、下部クラッド層13は、Alx4Ga(1-x4)NのAl組成が60%(すなわちx4=0.6)で、不純物としてSiを3×1018cm-3含む、1μmのn型半導体層とした。また、下部ガイド層122a及び上部ガイド層122bは、Alx1Ga(1-x1)NのAl組成が50%(すなわちx1=0.5)の層で厚さは適宜変更した。また、発光層121は、「障壁層/井戸層121a/障壁層/井戸層121a/障壁層」という二重量子井戸構造とし、井戸層121aは、Alx2Ga(1-x2)NのAl組成が30%(すなわちx2=0.3)の厚さ3nmの層とし、障壁層は、AlGaNのAl組成が50%の厚さ10nmの層とした。組成変化層123の組成は適宜変更し、厚さは150nmあるいは300nmとし、不純物としてMgを3×1019cm-3含む構造とした。また、窒化物半導体層14は、Alx5Ga(1-x5)NのAl組成が0%(すなわちx5=0)の層、つまりGaNで形成された層で不純物を3×1020cm-3含む層とし、厚さは適宜変更した。また、各層における、電子移動度は100mc2・Vsとし、正孔移動度は10cm2・Vsとした。転位密度は1×109cm-2とした。さらに、成長面は0001面とした。
また、このシミュレーションにおいて、下部クラッド層13の膜厚を1000nmとした。下部ガイド層122a及び上部ガイド層122bの膜厚を適宜変化させた。2つの井戸層121aは、ノンドープの窒化物層とし、膜厚を3nmとした。3つの障壁層は、ノンドープの窒化物層とし、膜厚を10.0nmとした。組成変化層123の膜厚を300nmとした。窒化物半導体層14の膜厚を10nmとした。
図3に示すグラフの横軸は発光層121及びガイド層122のそれぞれの膜厚を合わせた合計膜厚T1+T2+T3[nm]を示し、当該グラフの縦軸はガイド層122の光閉じ込め係数Γを示している。以下、「発光層121及びガイド層122のそれぞれの膜厚を合わせた合計膜厚」を「発光層121及びガイド層122の合計膜厚」と略記する場合があり、「T1+T2+T3」を「ΣT」と称する場合がある。光閉じ込め係数は、光分布のうち、井戸層121aの領域を積分した値を、当該光分布の全積分値で除した値で算出される。
図3中に示す網掛け付四角印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成を80%から0%に変化させた場合(すなわちy=0かつz=0.8)の上部ガイド層122bの膜厚T3とガイド層122の光閉じ込め係数Γとの関係を示している。図3中に示す網掛け付菱形印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成を80%から20%に変化させた場合(すなわちy=0.2かつz=0.8)の上部ガイド層122bの膜厚T3とガイド層122の光閉じ込め係数Γとの関係を示している。
図3中に示す白抜き菱形印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成を80%から30%に変化させた場合(すなわちy=0.3かつz=0.8)の上部ガイド層122bの膜厚T3とガイド層122の光閉じ込め係数Γとの関係を示している。図3中に示す白抜き丸印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成を80%から40%に変化させた場合(すなわちy=0.4かつz=0.8)の上部ガイド層122bの膜厚T3とガイド層122の光閉じ込め係数Γとの関係を示している。図3中に示す白抜き三角印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成を80%から50%に変化させた場合(すなわちy=0.5かつz=0.8)の上部ガイド層122bの膜厚T3とガイド層122の光閉じ込め係数Γとの関係を示している。図3中に示す×印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成を80%から70%に変化させた場合(すなわちy=0.7かつz=0.8)の上部ガイド層122bの膜厚T3とガイド層122の光閉じ込め係数Γとの関係を示している。図3中に示す+印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成を80%で一定にしたアルミニウム単体層の場合の上部ガイド層122bの膜厚T3とガイド層122の光閉じ込め係数Γとの関係を示している。
図3には、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成の80%から0%への変化が「Al80%→0%」と表され、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成を80%一定にしたことが「Al80%単膜」表されている。また、図3には、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成の80%から20%、30%、40%、50%及び70%へのそれぞれ変化が、0%に変化させた場合と同様の表記で表されている。
図4に示すグラフの横軸は、上部ガイド層122bを構成するAlx1Ga(1-x1)Nの組成を決定するx1から組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)Nの組成を決定するx3の最小値yを減算した差分x1-y示している。当該グラフの縦軸は、ガイド層122の光閉じ込め係数Γを示している。図4は、窒化物半導体レーザ素子1に備えられた発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTが336nmにおけるガイド層122の光閉じ込め係数Γの差分x1-y依存性を示すグラフである。
発光層121及びガイド層122が70nm以上850nm以下(70nm≦T1+T2+T3≦850nm)の合計膜厚ΣTを有していると、図3に示すように、ガイド層122の光閉じ込め係数Γが高くなる。特に、窒化物半導体積層膜12がAl組成を80%から40%、50%又は70%のいずれかに変化させた組成変化層123を有する場合には、Al組成を80%から0%又は20%のいずれかに変化させた組成変化層123を有する場合よりも、ガイド層122の光閉じ込め係数Γが高くなる。光閉じ込め係数Γは、発光層121で発光した光がガイド層122に閉じ込められる割合である。このため、ガイド層122から組成変化層123、窒化物半導体層14及び下部クラッド層13への光漏れが抑制される。これにより、窒化物半導体レーザ素子1は、高出力化を図ることができる。
また、窒化物半導体積層膜12が組成変化層123のAl組成を80%から30%に変化させた構造を有し、かつ発光層121及びガイド層122が536nmの合計膜厚ΣTを有する場合には、窒化物半導体レーザ素子1のレーザ発振が確認できなかった。このように窒化物半導体レーザ素子1のレーザ発振が確認できなかったのは、下部クラッド層13の構造と、組成変化層123及び窒化物半導体層14によって構成される上部クラッド層の構造とが非対称であるために、下部クラッド層13側に光が漏れているためである。また、窒化物半導体レーザ素子1は、発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTが上述の式(12)の関係を満たしていても、組成変化層123のAl組成が上述の式(5)の関係を満たさない場合にはレーザ発振しない。
また、窒化物半導体積層膜12がAl組成を80%から40%、50%又は70%のいずれかに変化させた組成変化層123を有する場合には、上部ガイド層122bの膜厚に対するガイド層122の光閉じ込め係数Γの特性がほぼ同じになる。このため、組成変化層123におけるAl組成の80%からの変化にばらつきがあっても、40%から70%の範囲内へのばらつきであれば、ガイド層122の光閉じ込め係数Γはほぼ同じ値となる。このため、窒化物半導体レーザ素子1の出力の個体差のばらつきが低減される。発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTは、式(12)を満たしていてもよく、70nm以上かつ600nmより小さくてもよい。
光閉じ込め係数が0.020以下であると、下部クラッド層13への光の漏れが多くなる。このため、光閉じ込め係数Γは、0.020より高いとよい。組成変化層123のAl組成の変化が80%から30%であり、発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTが536nmであり、かつ光閉じ込め係数Γが0.019である場合に、窒化物半導体レーザ素子1がレーザ発振しなかったことからも、光閉じ込め係数Γが0.020より高いとよいことが示されている。
また、窒化物半導体積層膜12が組成変化層123のAl組成を80%から50%に変化させる構造を有し、かつ発光層121及びガイド層122が836nmの合計膜厚ΣTの構造を有する場合には、窒化物半導体レーザ素子1のレーザ発振が確認できなかった。このように窒化物半導体レーザ素子1のレーザ発振が確認できなかったのは、下部クラッド層13の構造と、組成変化層123及び窒化物半導体層14によって構成される上部クラッド層の構造とが非対称であるために、下部クラッド層13側に光が漏れているためである。
ところで、上述のとおり、図3に示す各特性が得られたシミュレーションの仮説となる窒化物半導体レーザ素子の積層構造において、ガイド層122を構成するAlx1Ga(1-x1)Nのx1は0.5であり、井戸層121aを構成するAlx2Ga(1-x2)Nのx2は0.3である。また、図3中にプロットされたそれぞれの組成変化層123のAlx3Ga(1-x3)NのAl組成の最大値zは0.8(Al組成比80%)である。このため、図3に示す全ての特性は、上述の式(4)(x2<x1<z)を満たしている。したがって、式(4)の関係を満たすことによって、ガイド層122の光閉じ込め係数Γが向上し、ガイド層122から組成変化層123、窒化物半導体層14及び下部クラッド層13への光漏れが抑制される。
また、図3中の白抜き丸印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成の最小値yが0.4(Al組成比40%)の場合の特性を示し、図3中の白抜き三角印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成の最小値yが0.5(Al組成比50%)の場合の特性を示している。このため、図3中の白抜き丸印の特性及び白抜き三角印の特性は、上述の式(5)(-1<x1-y<0.2)を満たしている。したがって、式(4)の関係を満たすことによって、ガイド層122の光閉じ込め係数Γが向上し、ガイド層122から組成変化層123、窒化物半導体層14及び下部クラッド層13への光漏れが抑制される。
図3中の網掛け付四角印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成の最小値yが0(Al組成比0%)の場合の特性を示し、図3中に示す網掛け付菱形印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成の最小値が0.2(Al組成比20%)の場合の特性を示し、図3中に示す白抜き菱形印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成の最小値が0.3(Al組成比30%)の場合の特性を示している。このため、図3中の網掛け付四角印、網掛け付菱形印及び白抜き菱形印は、上述の式(6)(x2<y)を満たさない場合の特性を示している。一方、図3中の残余の特性は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成の最小値が0.4(Al組成比40%)以上であって0.3(Al組成比30%)よりも大きい場合の特性であり、上述の式(6)(x2<y)の関係を満たす場合の特性である。このように、式(6)の関係を満たすことによって、光閉じ込め係数Γがより一層向上し、ガイド層122から組成変化層123、窒化物半導体層14及び下部クラッド層13への光漏れがより一層抑制される。なお、組成変化層123をAlx3Ga(1-x3)NのAl組成を80%から0%、10%及び20%にそれぞれ変化させた場合には、レーザ発振が生じなかった。
図4に示すように、ガイド層122の光閉じ込め係数Γは、差分x1-yが0.5から0.2の範囲で急激に増加し、差分x1-yが0.2よりも小さい範囲において0.026で一定となる。このように、発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTが式(12)の関係を満たす範囲(図4では、336nm)の膜厚であり、差分x1-yが0.2よりも小さい(すなわち式(5)の関係を満たす)と、ガイド層122の光閉じ込め係数Γの向上及び安定化を図ることができる。なお、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成のx3の最小値yの最大値が1であるので、上部ガイド層122bを構成するAlx1Ga(1-x1)NのAl組成のx1が最小値の0の場合に、式(5)における「-1<x1-y」の関係を満たす。
図5に示すグラフの横軸は発光層121及びガイド層122のそれぞれの膜厚を合わせた合計膜厚ΣT[nm]を示し、当該グラフの縦軸は窒化物半導体レーザ素子1の閾値電流密度Jth[kA/cm2]を示している。図5中に示す白抜き菱形印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成を80%から30%に変化させた場合(すなわちy=0.3かつz=0.8)の発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTと窒化物半導体レーザ素子1の閾値電流密度Jth[kA/cm2]との関係を示している。図5中に示す白抜き丸印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成を80%から40%に変化させた場合(すなわちy=0.4かつz=0.8)の発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTと窒化物半導体レーザ素子1の閾値電流密度Jth[kA/cm2]との関係を示している。図5中に示す白抜き三角印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成を80%から50%に変化させた場合(すなわちy=0.5かつz=0.8)の発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTと窒化物半導体レーザ素子1の閾値電流密度Jth[kA/cm2]との関係を示している。図5中に示す×印は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)NのAl組成を80%から70%に変化させた場合(すなわちy=0.7かつz=0.8)の上部ガイド層122bの膜厚T3と窒化物半導体レーザ素子1の閾値電流密度Jth[kA/cm2]との関係を示している。図5では、組成変化層123におけるAl組成の変化が図3と同様の表記で表されている。
窒化物半導体積層膜12が式(12)に示す範囲の膜厚を有していることを前提とし、発光層121及びガイド層122が70nm以上330nm以下(70nm≦T1+T2+T3≦330nm)の合計膜厚ΣTを有していると、図5に示すように、閾値電流密度Jthが低くなる。このため、窒化物半導体レーザ素子1は、組成変化層123を有することにより、駆動電流を低減できるので、高出力化を図ることができる。
窒化物半導体レーザ素子1は、閾値電流密度Jthが高いとレーザ発振するより先に発熱による素子破壊が起きてしまう。そこで、窒化物半導体レーザ素子1の閾値電流密度Jthは、1000kA/cm2以下であってよく、また300kA/cm2以下であってもよく、さらに200kA/cm2以下であってもよい。上述のとおり、図5に示す特性を得るためのシミュレーションの仮説となる窒化物半導体レーザ素子1の積層構造では、発光層121の膜厚T2を36nmと仮定している。このため、発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTが40nmより小さい構造の窒化物半導体レーザ素子1を作製することができない。図5に示すように、発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTが70nmより小さくなると、窒化物半導体レーザ素子1の閾値電流密度Jthは増加傾向にある。発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTが70nmから40nmまでの範囲での窒化物半導体レーザ素子1の閾値電流密度Jthの増加率は、発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTが40nmにおいて閾値電流密度Jthが1000kA/cm2を超える程には大きくない。このため、窒化物半導体レーザ素子1は、式(12)の関係を満たすことによって、レーザ発振するより先に発熱による素子破壊が起きることを防止できる。
また例えば、発光層121が5nm以上50nm以下(20nm≦T2≦50nm)の膜厚T2を有し、かつ窒化物半導体積層膜12が式(12)に示す範囲の膜厚を有しているとする。この場合、発光効率が向上し、窒化物半導体層14へのキャリア漏れが抑制されるので、窒化物半導体レーザ素子1の高出力化を図ることができる。
組成変化層123は、例えば0よりも大きく500nmよりも小さい膜厚Tc(0<Tc<500nm)を有している。また、組成変化層123の膜厚Tcが500nm以上になると、上部領域123bを含むAl組成の低組成領域(例えば、0≦x3<x1)の絶対膜厚が大きくなるため、発光層121で発光した光が上記低組成領域で吸収される量が多く、内部ロスの増大によりレーザ発振が抑制される。また、組成変化層123の分極ドーピング効果を得るためには、組成変化層123の膜厚Tcは0nmよりも大きい必要がある。さらに、組成変化層123の膜厚Tcが500nm以上になると、組成変化層123の抵抗が高くなり、窒化物半導体レーザ素子1の駆動電圧が高くなるので好ましくない。このため、組成変化層123の膜厚Tcは、少なくとも0よりも大きく500nmより小さい範囲であるとよい。
また、組成変化層123は、例えば0nm以上500nm以下の膜厚Tc(0nm≦Tc≦500nm)を有していてもよい。組成変化層123の膜厚Tcは、100nmよりも大きく300nm以下(0nm<Tc≦300nm)であってもよい。組成変化層123の膜厚Tcをこの範囲の厚さにすることにより、窒化物半導体レーザ素子1の光閉じ込め効率及び内部効率ηiの向上による閾値電流密度Jthの低減と、分極ドーピングによる組成変化層123内の正孔密度の向上との両立を図ることができる。これにより、窒化物半導体レーザ素子1は、高出力化を図ることができる。
組成変化層123におけるAl組成が下部ガイド層122aのAl組成と同じAl組成になる領域123dから窒化物半導体積層膜12の最上端までの距離をT4とすると、窒化物半導体積層膜12は、以下の式(13)の関係を満たす積層構造を有している。
0.6<(T1+T2+T3)/T4<3.5 ・・・(13)
ここで、窒化物半導体積層膜12の最上端は、窒化物半導体層14に接する組成変化層123の表面である。
窒化物半導体積層膜12が式(13)の関係を満たす積層構造を有することにより、発光層121で発光した光がガイド層122から窒化物半導体層14に抜けてしまう、すなわち染み出してしまうことが抑制される。領域123dから窒化物半導体積層膜12の最上端までの距離T4は、式(13)の関係を満たした上で、例えば0より大きく200nmよりも小さく(0<T4<200nm)てもよい。これにより、発光層121で発光した光がガイド層122から窒化物半導体層14に染み出してしまうことがさらに抑制される。また、領域123dから窒化物半導体積層膜12の最上端までの距離T4は、式(13)の関係を満たした上で、例えば0より大きく100nmよりも小さく(0<T4<100nm)てもよい。これにより、発光層121で発光した光がガイド層122から窒化物半導体層14に染み出してしまうことが、より一層抑制される。その結果、窒化物半導体レーザ素子1は、閾値電流密度Jthが低減され、高出力化を図ることができる。
ここで、組成変化層123の領域123dから窒化物半導体積層膜12の最上端までの距離T4と、発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTとの関係について図2を参照しつつ図6から図8を用いて説明する。図6に示すグラフの横軸は、距離T4に対する発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTの比率ΣT/T4(T1+T2+T3/T4)を示し、当該グラフの縦軸はガイド層122の光閉じ込め係数Γを示している。図7に示すグラフの横軸は、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)Nの組成を決定するx3の最小値yから下部クラッド層13を構成するAlx4Ga(1-x4)Nの組成を決定するx4を減算した差分y-x4を示している。当該グラフの縦軸は、ガイド層122の光閉じ込め係数Γを示している。図8に示すグラフの横軸は、距離T4に対する合計膜厚ΣTの比率ΣT/T4を示し、当該グラフの縦軸は窒化物半導体レーザ素子1の閾値電流密度Jth[kA/cm2]を示している。
図6から図8に示す特性を得るためのシミュレーションには、シミュレーションソフトSiLENSe Laser Editionを用いた。また、シミュレーションの仮説となる窒化物半導体レーザ素子の積層構造は、図3から図5に示す特性を得るための積層構造と同様である。但し、図6及び図8では、下部ガイド層122aの膜厚T1及び上部ガイド層122bの膜厚T3の値を適宜変更し、発光層121T2及び組成変化層123の領域123dから窒化物半導体積層膜12の最上端までの距離T4の値を固定した。また、図7では、発光層121及びガイド層122の合計膜厚ΣTの値を336nmと固定し、かつ組成変化層123のAl組成を80%から30%に変化させた。図6中に示す白抜き菱形印及び白抜き丸印が示す特性における組成変化層123の組成は、図3中に示す白抜き菱形印及び白抜き丸印が示す特性における組成変化層123の組成とそれぞれ同一であるため、説明は省略する。また、図8中に示す白抜き菱形印及び白抜き丸印が示す特性における組成変化層123の組成は、図5中に示す白抜き菱形印及び白抜き丸印が示す特性における組成変化層123の組成とそれぞれ同一であるため、説明は省略する。
組成変化層123と発光層121及びガイド層122とが0.6以上3.4以下の、距離T4に対する合計膜厚ΣTの比率ΣT/T4(0.6≦(T1+T2+T3)/T4≦3.9)を有していると、図6に示すように、ガイド層122の光閉じ込め係数Γが0.020よりも大きくなる。このため、窒化物半導体レーザ素子1は、式(13)の関係を満たすことにより、ガイド層122から組成変化層123、窒化物半導体層14及び下部クラッド層13への光漏れが抑制される。これにより、窒化物半導体レーザ素子1は、高出力化を図ることができる。
また、窒化物半導体積層膜12がAl組成を80%から40%、50%又は70%のいずれかに変化させた組成変化層123を有する場合には、比率ΣT/T4に対するガイド層122の光閉じ込め係数Γの特性がほぼ同じになる。このため、組成変化層123におけるAl組成の80%からの変化にばらつきがあっても、40%から70%の範囲内へのばらつきであれば、ガイド層122の光閉じ込め係数Γはほぼ同じ値となる。このため、窒化物半導体レーザ素子1の出力の個体差のばらつきが低減される。
図7に示すように、ガイド層122の光閉じ込め係数Γは、差分z-x4が0から0.1の範囲で急激に増加し、差分z-x4が0.2よりも大きい範囲において0.026で一定となる。このように、下部クラッド層13を構成するAlx4Ga(1-x4)Nの組成を決定するx4と、組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)Nの組成を決定するx3の最大値zとの差分z-x4が0以上かつ0.4より小さい場合に、ガイド層122の光閉じ込め係数Γが向上する。特に、差分z-x4が0.2以上の場合、ガイド層122の光閉じ込め係数Γの安定化を図ることができる。
また、組成変化層123と発光層121及びガイド層122との比が0.6以上3.3以下の、距離T4に対する合計膜厚ΣTの比率ΣT/T4(0.6≦(T1+T2+T3)/T4≦3.3)を有していると、図8に示すように、閾値電流密度Jthが300kA/cm2よりも低くなる。このため、窒化物半導体レーザ素子1は、組成変化層123と発光層121及びガイド層122とが式(13)の関係を満たす比率ΣT/T4を有することにより、駆動電流を低減できるので、高出力化を図ることができる。また、組成変化層123がAl組成を80%から30%に変化させる構造を有し、かつ窒化物積層体10が4.1の比率ΣT/T4の構造を有する場合、窒化物半導体レーザ素子1はレーザ発振しなかった。
次に、窒化物半導体レーザ素子1の閾値電流密度Jthと窒化物半導体層14の膜厚との関係について図2を参照しつつ図9を用いて説明する。図9に示すグラフの横軸は、窒化物半導体層14の膜厚T5(nm)を示し、当該グラフの縦軸は、窒化物半導体レーザ素子1の閾値電流密度Jth(kA/cm2)を示している。
図9に示す特性を得るためのシミュレーションには、シミュレーションソフトSiLENSe Laser Editionを用いた。また、シミュレーションの仮説となる窒化物半導体レーザ素子の積層構造は、図1及び図2に示す窒化物半導体レーザ素子1と同様である。より具体的には、基板11は厚さ2μmのAlNとし、下部クラッド層は、Alx4Ga(1-x4)NのAl組成が60%(すなわちx4=0.6)の層とした。また、下部ガイド層122a及び上部ガイド層122bは、Alx1Ga(1-x1)NのAl組成が50%(すなわちx1=0.5)の層とした。また、発光層121は、「障壁層/井戸層121a/障壁層/井戸層121a/障壁層」という二重量子井戸構造とし、井戸層121aは、Alx2Ga(1-x2)NのAl組成が30%(すなわちx3=0.3)の層とし、障壁層は、AlGaNのAl組成が50%の層とした。また、窒化物半導体層14は、Alx5Ga(1-x5)NのAl組成が0%(すなわちx3=0)の層、つまりGaNで形成された層とした。
また、このシミュレーションにおいて、下部クラッド層13の第一領域131及び第二領域132は、それぞれ不純物としてシリコン(Si)を3.0×1018cm-3の濃度のn型の窒化物層とし、それぞれの膜厚を1000nmとした。下部ガイド層122a及び上部ガイド層122bは、それぞれノンドープの窒化物層とし、それぞれの膜厚を150nmとした。2つの井戸層121aは、ノンドープの窒化物層とし、膜厚を2.5nmとした。3つの障壁層は、ノンドープの窒化物層とし、膜厚を10.0nmとした。組成変化層123は、不純物としてマグネシウム(Mg)を3.0×1019cm-3の濃度のp型の窒化物層とし、膜厚を150nmとした。窒化物半導体層14は、不純物としてマグネシウム(Mg)を3.0×1020cm-3の濃度のp型の窒化物層とし、膜厚を0nmから30nmの範囲で変化させた。また、各層における、電子移動度は100mc2・Vsとし、正孔移動度は10cm2・Vsとした。転位密度は1×109cm-2とした。さらに、成長面は0001面とした。
また、このシミュレーションにおいて、レーザ特性は、ガイド層122の長さを1000μmとし、リッジ幅(すなわち窒化物半導体層14の幅)を4μmとし、出射側端面122Saでの反射率を0.2とし、対向端面122Sbでの反射率を0.9とした。
窒化物半導体層14の膜厚T5は、0より大きく30nmより小さくなっている。本実施形態では、窒化物半導体層14は、例えばp型のGaN(Alx5Ga(1-x5)Nにおいてx5=0)で形成されている。窒化物半導体レーザ素子1は、発光層121で発光した光をガイド層122内で導波するために組成変化層123及び窒化物半導体層14で構成される上部クラッド層を必要とする。また、窒化物半導体層14の膜厚T5が30nmよりも大きくなると、窒化物半導体層14が発光層121で発光した光を吸収してしまう。窒化物半導体層14による光の吸収は、窒化物半導体層14がAlx5Ga(1-x5)NよりもGaNで形成されている場合に顕著になる。このため、窒化物半導体層14の膜厚T5は、少なくとも0以上30nmより小さい範囲であるとよい。窒化物半導体層14の膜厚T5をこの範囲の厚さとすることにより、閾値電流密度Jthを低減することができる。また、窒化物半導体層14の膜厚T5が30nmの構造においては、窒化物半導体レーザ素子1はレーザ発振しなかった。
次に、本実施形態による窒化物半導体レーザ素子1の製造方法について説明する。窒化物半導体レーザ素子1を形成するために、厚さが例えば50μmより長く10000μmより短い範囲内の所定厚さのウェハを準備する。窒化物半導体レーザ素子1は、このウェハ上に、最終的に下部クラッド層13となる窒化物半導体層、最終的に下部ガイド層122aとなる窒化物半導体層、最終的に発光層121となる窒化物半導体層、最終的に上部ガイド層122bとなる窒化物半導体層、最終的に組成変化層123となる窒化物半導体層及び最終的に窒化物半導体層14となる窒化物半導体層を積層した窒化物半導体積層物を形成する。次に、p型電極15及びn型電極16を形成する。その後、半導体積層物の一部を所定形状にドライエッチング及びウェットエッチングすることにより、ウェハ上に複数の窒化物積層体10を形成する。その後、ウェハを所定位置で切断して窒化物積層体10を個片化することにより、窒化物半導体レーザ素子1が完成する。さらにその後、窒化物半導体レーザ素子1をパッケージで覆って固定することによりパッケージ化されたレーザダイオードが完成する。
最終的に組成変化層123となる窒化物半導体層を形成する際に、膜厚方向に組成を制御して、例えばAlx3Ga(1-x3)Nの組成が連続的又は段階的に変化する窒化物半導体層を形成する。
窒化物積層体10は、ドライエッチング及びウェットエッチングではなく、窒化物半導体積層物を劈開することによって形成されてもよい。
以上説明したように、本実施形態による窒化物半導体レーザ素子1は、閾値電流密度Jthを低減させることによって、高出力化を図ることができる。また、窒化物半導体レーザ素子1は、ガイド層122の光閉じ込め係数Γを向上させて、内部ロス(すなわちガイド層122中の光学ロス)を抑制することができる。また、窒化物半導体レーザ素子1は、ガイド層122の光閉じ込め係数Γを向上させて、外部微分量子効率の向上を図ることができる。ここで、外部微分量子効率は、レーザの発光効率(%)のことであり、レーザ光子数を投入電子数で除す(レーザ光子数/投入電子数)ことにより求められる。さらに、窒化物半導体レーザ素子1は、ガイド層122の光閉じ込め係数Γを向上させて、スロープ効率の向上を図ることができる。ここで、スロープ効率は、発光出力(W)を投入電流(A)で除す(発光出力/投入電流)ことにより求められる。
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態による窒化物半導体レーザ素子について図1及び図2を用いて説明する。本実施形態による窒化物半導体レーザ素子は、上記第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子1と外観構成は同様であるため、同一の符号を用いて説明する。
図1に示すように、本実施形態による窒化物半導体レーザ素子1は、上記第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子1と同様に、基板11と、基板11の上方に設けられた窒化物半導体積層膜12と、窒化物半導体積層膜12に電流を注入するp型電極15及びn型電極16とを備えている。窒化物半導体積層膜12は、下部ガイド層122aと、下部ガイド層122aの上に積層されて井戸層121aを有する発光層121と、発光層121の上に積層された上部ガイド層122bと、上部ガイド層122bの上に積層されて組成が連続的又は階段状に膜厚方向に変化させた組成変化層123とを有している。組成変化層123は、上部ガイド層122bから離れるほど屈折率が連続的又は階段状に大きくなる。
本実施形態による窒化物半導体レーザ素子1は、下部ガイド層122aの下層に形成された下部クラッド層13と、組成変化層123の上層に形成された窒化物半導体層14とを備えている。p型電極15は、窒化物半導体層14上に形成され、n型電極16は、下部クラッド層13上に形成されている。図示は省略するが、窒化物半導体レーザ素子1と、窒化物半導体レーザ素子1を覆うパッケージとによってパッケージ化されたレーザダイオードが構成される。
下部ガイド層122aの屈折率をn1、バンドギャップをE1とし、井戸層121aの屈折率をn2、バンドギャップをE2とし、上部ガイド層122bの屈折率をn3、バンドギャップをE3とし、組成変化層123の屈折率及びバンドギャップが変化する範囲をn4からn5及びE4からE5とすると、窒化物半導体積層膜12は、以下の式(14)及び式(15)の関係を満たす組成を有している。
n4<n1 ・・・(14)
-0.5<E5-E1<1.3 ・・・(15)
式(14)の関係を満たすことにより、発光層121での発光を上部ガイド層122bと組成変化層123との界面の屈折率差を利用して光を反射させて、ガイド層122内に光を閉じ込めることができる。また、式(15)の関係を満たすことにより、発光層121での発光が組成変化層123のバンドギャップが最も小さい領域で吸収される影響を低く抑制することができ、内部ロスを低減させてレーザ発振の閾値を下げることができる。なお、組成変化層123は、屈折率がn4の部分でのバンドギャップがE4であり、屈折率がn5の部分でのバンドギャップがE5である。
図2に示すように、下部ガイド層122aの膜厚をT1とし、発光層の膜厚をT2とし、上部ガイド層122bの膜厚をT3とし、組成変化層123の膜厚をTcとすると、窒化物半導体積層膜12は、以下の式(16)の関係を満たす膜厚を有している。
40nm<T1+T2+T3<600nm ・・・(16)
本実施形態では、発光層121は、単一量子井戸の構成を有しているため、井戸層121aの膜厚が発光層121の膜厚でもある。このため、窒化物半導体積層膜12は、式(16)の関係を満たす膜厚を有する。窒化物半導体積層膜12が式(16)に示す範囲の膜厚を有することにより、窒化物半導体レーザ素子1は高出力化を図ることができる。
る。
以上説明したように、上記第1実施形態及び第2実施形態による窒化物半導体レーザ素子1は、上部ガイド層122bから離れるほど組成変化層123を構成するAlx3Ga(1-x3)Nの組成を決定するx3が最大値zから最小値yに変化させるようになっている。窒化物半導体レーザ素子1は、組成変化層123の当該組成構造を前提とし、ガイド層122の膜厚が適切に設定されている。また、窒化物半導体レーザ素子1は、組成変化層123全体でガイド層よりもAl組成が大きくなっている。上記第1実施形態及び第2実施形態による窒化物半導体レーザ素子1は、分極ドーピングを行うために組成変化層123を有し、この分極ドーピングの効果を保持しつつ、ガイド層122に光を閉じ込めることができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されない。各実施形態を組み合わせることを妨げず、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。