本開示の対象を実施するための形態について添付の図面を参照しながら説明する。各図において、同一または相当する部分には同一の符号を付して、重複する説明は適宜に簡略化または省略する。なお、本開示の対象は以下の実施の形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、実施の形態の任意の構成要素の変形、または実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1におけるエレベーターの全体図である。
この例のエレベーターは、トラクション式のエレベーターである。エレベーターは、複数の階床を有する建物に適用される。建物において、エレベーターの昇降路1が設けられる。昇降路1は、複数の階床にわたる上下方向に長い空間である。建物の各々の階床において、エレベーターの乗場が設けられる。乗場は、昇降路に隣接する場所である。この例において、昇降路1の上部に、機械室2が設けられている。
機械室2には、滑車3が設けられている。滑車3は、巻上機4と連結されている。滑車3には、懸架体5が架けられている。懸架体5には、例えば、複数本のロープまたは複数本のベルトなどが用いられる。この例において、懸架体5の両端部に、かご6および錘7がそれぞれ連結されている。すなわち、図1は、1:1ローピングのシステムで懸架体5が架けられている場合を例示している。懸架体5は、かご6および錘7を昇降路1において懸架している。
巻上機4の駆動により滑車3が回転すると、懸架体5と滑車3との摩擦力によってかご6が昇降路1内を昇降する。エレベーターには制御装置8が設けられている。エレベーターは、制御装置8が巻上機4の回転を制御することで運行する。かご6がいずれかの階床に到着した後に、乗場およびかご6の間で乗客が乗り降りする。制御装置8には、診断装置9が接続されている。
かご6には、振動計測部10が設けられている。振動計測部10は、例えば、かご6に取り付けられる加速度センサ、速度センサ、変位センサ、もしくは秤装置、またはこれらを複数組み合わせて構成されている。診断装置9は、振動分析部11、および記録部12を有している。診断装置9の振動分析部11は、乗客の乗り込み時または降車時にかご6で発生する振動を振動計測部10が計測した振動データを分析する。振動分析部11は、振動データの分析結果に基づいてエレベーターの異常の有無を判定する。記録部12は、記憶媒体を有する。記録部12は、振動分析部11が判定したエレベーターの異常の有無を記録する。
続いて、診断装置9を構成する振動計測部10、振動分析部11、および記録部12の動作の詳細を説明する。
振動計測部10は、エレベーターのかご6の停止時にかご6に発生する振動を計測する。振動計測部10は、エレベーターのかご6の停止を制御装置8からの信号で検知すると、かご6に発生する振動の計測を開始する。そして、振動計測部10は、制御装置8からの信号でエレベーターのかご6が走行を開始することを検知すると計測を終了する。以後、振動計測部10が計測する振動として、かご6の上下方向の振動を例に説明する。
振動分析部11は、振動計測部10が計測した振動を分析する。振動分析部11は、振動計測部10が計測したエレベーターのかご6の停止時における振動データを振動計測部10から受け取る。振動分析部11は、受け取った振動データの微分またはフィルターによる平滑化処理の少なくとも一方を含む分析をして、例えば加速度の時間変化を算出する。その後、振動分析部11は、算出した加速度の時間変化に基づいて、振動が持続する時間を算出する処理を行う。振動計測部10が加速度センサなどの複数のセンサおよび装置で構成されている場合は、振動分析部11は、加速度の時間変化の代わりに、それぞれの分析結果の平均値などを用いて振動が持続する時間を算出してもよい。
図2は、振動計測部10が計測した振動データに基づく加速度の時間変化を、グラフ上に実線で模式的に示している。乗客が一人でエレベーターのかご6に乗り込む場合、発生する振動の波形は、初期の加速度が大きく徐々に減衰していく波形となる。
振動分析部11は、振動波形の複数のピークを時系列順序でつなげる処理を行い、図2に点線で示されるようなプロファイルを作成する。振動波形の各々のピークは、例えば振動波形の極大値などである。プロファイルにおけるピークの間の値は、例えば線形補間またはスプライン補間などの補間処理によってつなげられる。ここで、振動分析部11において、加速度の閾値A1が予め設定されている。閾値A1は、第1閾値の例である。閾値A1は、図2において一点鎖線で示されている。また、元の振動波形が閾値A1を最初に超える時点から、プロファイルが閾値A1を最初に下回る時点までの時間の長さを、振動持続時間Tとする。なお、振動持続時間の開始点は、プロファイルの開始点、すなわち、振動波形の最初のピークの時点であってもよい。
また、図3は、振動計測部10が計測した振動データに基づく加速度の時間変化の絶対値を、グラフ上に実線で模式的に示している。振動分析部11は、このような加速度の時間変化の絶対値に対して、各々のピークをつなげた図3に点線で示されるプロファイルを作成してもよい。振動分析部11は、元の振動波形が閾値A1を最初に超える時点から、プロファイルが閾値A1を最初に下回る時点までの時間長さを振動持続時間Tと定義してもよい。
振動分析部11は、このように定めた振動持続時間Tの大きさに基づいて、エレベーターの異常の有無を判定する。具体的には、振動持続時間Tが時間の閾値Taを上回る場合に、振動分析部11は、エレベーターの乗り心地が悪化した、すなわち、エレベーターに異常ありと判定する。時間の閾値Taは、振動分析部11に予め設定されている。閾値Taは、第2閾値の例である。
図4は、エレベーターの異常により振動の加速度の減衰特性が弱まった場合と正常な場合との例を、加速度の時間変化として模式的に示したものである。図4において、正常な場合の振動波形は実線で示されている。一方、エレベーターの異常により振動の減衰特性が弱まった場合の振動波形は破線で示されている。また、各々の場合の振動のピークを直線で時系列順につなげたプロファイルは、点線で示されている。異常時の振動のプロファイルが閾値A1を上回っている振動持続時間T´は、正常時の振動のプロファイルから算出された振動持続時間Tより大きくなっている。この異常時の振動を「異常あり」と判定するためには、閾値Taを時間Tおよび時間T´の間の値に設定する必要がある。
図5は、閾値Taの設定の仕方として、エレベーターが正常な場合の振動持続時間、異常が発生した場合の振動持続時間、および閾値Taの関係を示したものである。かご6への乗客の乗り込み方には乗客による個人差および都度のばらつきがあるため、振動持続時間Tもそれらの影響を受けてばらつきが生じる。そのため、それらのばらつきを考慮するように閾値Taを設定することで、一度の診断の精度を上げることができる。例えば、エレベーターの据え付け直後などのエレベーターが正常な場合の振動データをあらかじめ定められた回数分取得し、それらの振動持続時間の最大値をTaに設定する。
また、複数人の乗客が乗り込んだ場合を想定し、次のように振動持続時間が定義されてもよい。図6は、複数人の乗客がかごに乗り込んだ場合の振動波形の例を示している。この場合、上述のように振動持続時間Tを算出すると、1人の乗客が乗り込む場合に比べてTが大きい値となり、誤診断の可能性が生じる。そこで、加速度の閾値をAa1,Aa2,…,Aam-2,Aam-1,Aamのように複数設定する。振動分析部11は、プロファイルの最後の極大値よりも小さく、かつ、この極大値に最も近い閾値を下回った時点から、最小の閾値を下回る時点までの時間を振動持続時間T´´と定義する。図6において、プロファイルの最後の極大値よりも小さく、かつ、この極大値に最も近い閾値はAam-1となる。このため、振動分析部11は、プロファイルが最後の極大値の後に閾値Aam-1を下回ったタイミングから、最小の閾値であるAa1を下回る時点までの時間を振動持続時間T´´として算出する。このように算出される振動持続時間T´´を用いてエレベーターの異常を判定することで、1人の乗客が乗り込んだ時と同様の精度の診断が可能となる。
また、例えば、かご6の位置が変わってかご6を吊る部分の懸架体5の長さが長くなるとその引張剛性が小さくなるため、乗客の乗り込み時の懸架体5の伸び量が大きくなることでより大きな変位振幅の振動が発生する。この場合、振動の加速度および振動持続時間も元のかご6の位置の場合から変化する。このことを考慮し、エレベーターの階数に応じた閾値を設定することで、振動分析部11は、かご6がどの階数にあってもエレベーターの異常を診断できる。例えば、1階からn階にかご6が停止するエレベーターに対して、各階に応じた閾値群(Aam1,Aam2,…,Aamn;Ta1,Ta2,…,Tan)が振動分析部11に予め設定される。ここで、整数iを1からnまでのいずれかの整数として、加速度の閾値Aamiおよび時間の閾値Taiは、i階にかご6が停止した場合に対応する第1閾値および第2閾値の例である。エレベーターの異常を診断する際に、振動分析部11は制御装置8からかご6の位置の情報を受け取り、階数に応じた適切な閾値を閾値群から選定することで、いずれの階数でもエレベーターの異常を診断できるようになる。
記録部12は、振動分析部11による判定結果を記録する。診断装置9は、ネットワーク回線などを利用して、判定結果をエレベーターの外部に伝達してもよい。このようにすることで、例えばエレベーターの保守などを行う保守員に迅速に判定結果を送付することができ、保守員による早期対応が可能となる。
以上のような構成により、エレベーターのかご6の停止時の乗り心地の悪化を精度良く診断できる。また、エレベーターの異常による影響を受ける振動持続時間に基づいて診断が行われるので、エレベーター自体の異常で乗り心地が悪化する事象を捉えた診断が可能となる。
図7は、エレベーターの異常の診断の具体的な過程をまとめたフローチャートである。STEPa1で制御装置8がエレベーターのかご6の停止を確認した後、STEPa2で振動計測部10はかご6に発生する上下方向の振動の計測を開始する。その後、STEPa3において、制御装置8がエレベーターのかご6の走行の開始を確認すると、振動計測部10は計測を終了したのち、計測データを振動分析部11に送る。STEPa4で、振動分析部11は振動持続時間Tを算出する。STEPa5で振動持続時間Tがあらかじめ定められた振動持続時間閾値Taを超えている場合、STEPa6で振動分析部11はエレベーターに異常ありと診断する。一方、計測した振動持続時間Tが振動持続時間閾値Taと同じまたは閾値Taを超えていない場合、STEPa7で振動分析部11はエレベーターに異常なしと診断する。STEPa8で記録部12に判定結果が記録され、一度の診断が終了する。
また、診断装置9は、記録部12に対して、図8に示すフローチャートのように、STEPa9およびSTEPa10を追加して、一度の診断だけではなく、過去の診断履歴を参照した判定動作を加えてもよい。STEPa9において、振動分析部11は、予め設定された診断回数分の診断履歴から「異常あり」と判定した頻度Xを計算する。この頻度Xに対して、頻度閾値Xaが予め設定される。STEPa10において、頻度Xが閾値Xa以上になるタイミングで、診断装置9は外部に状況を発報する。この場合、閾値Xaを適切に設定することで、保守員による迅速な対応ができるようになる。発報先の具体例としては、ディスプレイもしくは警報装置、または遠隔地にいる保守員が所持する保守端末などが挙げられる。
また、診断装置9は、「異常あり」と判定する頻度の代わりに、「異常あり」と判定した回数の合計、または連続で「異常あり」と判定した回数に対して閾値を設けて、同様に外部に状況を発報してもよい。
また、このような診断装置9は、1:1ローピングだけでなく、2:1ローピングまたは機械室2がない機械室レスエレベーターのシステムなど、あらゆるローピングのトラクション式エレベーターに対して適用できる。
さらに、このようなエレベーターの診断装置9は、かご6の停止時に乗り込む乗客による振動だけでなく、かご6から降りる乗客が起こす振動に対しても同様に適用できる。加えてかご6の上下方向の振動だけでなく、かご6の傾きなどによる横方向の振動に対しても適用できる。なお、本実施の形態では、振動分析部11において振動データを加速度の時間変化に変換した例の処理を説明したが、速度または変位に対して同様の処理を実施してもよい。すなわち、振動の振幅の閾値は、加速度の振幅に対する閾値に限定されず、速度または変位などの振幅に対する閾値であってもよい。
続いて、図9を用いて、エレベーターのハードウェア構成の例について説明する。
図9は、実施の形態1に係るエレベーターの主要部のハードウェア構成図である。
エレベーターの各機能は、処理回路により実現し得る。処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える。処理回路は、プロセッサ100aおよびメモリ100bと共に、あるいはそれらの代用として、少なくとも1つの専用ハードウェア200を備えてもよい。
処理回路がプロセッサ100aとメモリ100bとを備える場合、エレベーターの各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせで実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。そのプログラムはメモリ100bに格納される。プロセッサ100aは、メモリ100bに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、エレベーターの各機能を実現する。
プロセッサ100aは、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPともいう。メモリ100bは、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROMなどの、不揮発性または揮発性の半導体メモリなどにより構成される。
処理回路が専用ハードウェア200を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらの組み合わせで実現される。
エレベーターの各機能は、それぞれ処理回路で実現することができる。あるいは、エレベーターの各機能は、まとめて処理回路で実現することもできる。エレベーターの各機能について、一部を専用ハードウェア200で実現し、他部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。このように、処理回路は、専用ハードウェア200、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせでエレベーターの各機能を実現する。
実施の形態2.
実施の形態2において、実施の形態1で開示される例と相違する点について特に詳しく説明する。実施の形態2で説明しない特徴については、実施の形態1で開示される例のいずれの特徴が採用されてもよい。
図10は実施の形態2におけるトラクション式のエレベーターの全体図である。
実施の形態2のエレベーターは、実施の形態1のエレベーターの構成に加え、乗客の行動を監視する監視部13および行動分析部14を備えている。監視部13は、具体的には、かご6内を撮影するカメラ13a、秤装置13b、かご床に設けられた床反力センサ13c、加速度センサ、速度センサ、または変位センサ、もしくはこれらを複数組み合わせて構成される。監視部13は、かご6が停止している間に乗客の行動データを取得する。
また、行動分析部14は、監視部13に接続している。監視部13は、エレベーターのかご6の停止時の乗客の行動データを取得したのちに、取得した行動データを行動分析部14に伝達する。
ここで、監視部13がカメラ13aの場合に、監視部13は、乗客の行動データとして、かご6内を撮影した画像または映像データを行動分析部14に伝達する。監視部13が秤装置13bの場合に、監視部13は、乗客の行動データとして、かご6の重量の時間変化を行動分析部14に伝達する。監視部13が床反力センサ13cの場合に、監視部13は、乗客の行動データとして、かご床に加えられた床反力の時間変化を行動分析部14に伝達する。
行動分析部14は、乗客の行動データを分析して、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、およびそれぞれの乗客の乗り込み後のかご6の重量M1,M2,…,Mnを分析結果として算出し、これらを振動分析部11に伝達する。乗客の行動データがカメラ13aによる画像または映像の場合に、行動分析部14は、画像解析で上記分析結果の諸量を推定する。乗客の行動データが秤装置13bによるかご6の重量変化の場合に、行動分析部14は、その時間変化から上記分析結果の諸量を推定する。乗客の行動データが床反力の場合に、行動分析部14は、床反力の時間変化から上記分析結果の諸量を推定する。監視部13が複数種類のセンサ等の装置を用いる場合に、行動分析部14は、それぞれの装置によって算出したものの平均値などとして、上記分析結果の諸量を求めてもよい。
振動分析部11には、複数の閾値群が予め設定されている。振動分析部11は、行動分析部14から受け取った乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、それぞれの乗客の乗り込み後のかご6の重量M1,M2,…,Mn、および制御装置8から受け取ったかご位置情報の組み合わせに応じて、加速度閾値Aaと振動持続時間閾値Taを閾値群から選出して設定する。
振動分析部11は、振動計測部10が計測する振動データを用いて、例えば加速度の時間変化を算出する。また、図11は、複数の乗客がかご6に乗り込んだ時の振動における加速度変化を模式的に示したものである。図11において、体重が同程度の乗客が3人連続で乗り込んだ時の例が示されている。このときかご6に発生する振動は、乗客が1人だけ乗り込んだ場合と異なり、途中で2人目以降が乗り込むことで、加速度が途中から再び増加して減衰波形となる。
振動分析部11は、乗り込みのタイミングτ1,τ2,τ3で分割される各乗客の乗り込みによる振動に対して、加速度変化の複数のピークを時系列順序でつなげる処理を行い、図11に点線で示されるようなプロファイルを作成する。プロファイルにおけるピークの間の値は、例えば線形補間またはスプライン補間などの補間処理によってつなげられる。振動分析部11は、予め設定した加速度の閾値Aaをこのプロファイルが超えている時間の合計を、振動持続時間Tとして算出する。図11において、振動持続時間Tは、T1,T2,T3の合計である。なお、振動分析部11は、各乗客の振動持続時間を算出する範囲の開始点を、各乗客が誘発した加速度変化が最初に閾値Aaを超える点、乗り込みのタイミングτ1,τ2,τ3、またはプロファイルの最初の点としてもよい。振動分析部11は、各乗客の振動持続時間を算出する範囲の終了点を、プロファイルが閾値Aaを下回るタイミング、またはプロファイルが閾値Aaを下回らない場合には各プロファイルの最終の点などとしてもよい。
また、振動分析部11は、図12に示すように振動波形全体に対して、複数のピークを時系列順序でつなげる処理を行ってプロファイルを作成してもよい。プロファイルにおけるピークの間の値は、例えば線形補間またはスプライン補間などの補間処理によってつなげられる。振動分析部11は、このように作成したプロファイルが予め設定された加速度の閾値Aaを最初に超える点から閾値Aaを最後に下回る点までの、閾値Aaを上回っている時間長さの合計を振動持続時間Tとして算出してもよい。図12において、振動持続時間Tは、T4,T5の合計である。
また、振動分析部11は、加速度変化の絶対値に対して波形のピークをつなげてプロファイルを作成してもよい。振動分析部11は、このように作成するプロファイルに対して同様の処理を行い、振動持続時間Tを算出してもよい。
ここで、体重が大きい乗客、または重量が大きい貨物がエレベーターのかご6に乗り込んだ場合、加わる荷重の大きさによって振動持続時間Tも影響を受ける。このような場合、行動分析部14が算出したn人乗り込み後のかご6の重量Mnを加味した加速度閾値Aaを設定することで、振動分析部11は、より適切な診断ができるようになる。例えば、重量が大きい乗客が乗り込んだ場合は、加わる荷重の増加に伴って加速度が大きくなるため、閾値Aaも荷重の増加の程度に応じて大きくした値に設定される。
また、振動持続時間の閾値Taは、乗り込み人数n、および乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τnに応じて、予め設定された閾値より選出される。例えば、乗り込み人数が増加すると、かごnに生じる振動の振動持続時間Tは長くなるため、閾値Taもより大きい値が設定される。一方、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τnの間隔が極端に短い場合、すべての乗り込みについての振動持続時間を合計した振動持続時間Tが短くなる。このため、振動分析部11は、乗り込みのタイミングの間隔に閾値τaを設け、τ1,τ2,…,τnの間隔の長さに応じた振動持続時間閾値Taを設定したり、τ1,τ2,…,τnの間隔の長さに応じて診断対象から除外したりしてもよい。
振動分析部11は、このように算出した振動持続時間Tと振動持続時間閾値Taに基づいて、エレベーターの異常の有無を診断する。記録部12は、その診断結果を記録する。
また、最後に乗車した乗客による振動データのみ、図11においては時刻τ3以降の振動データのみを抽出することで、一人の乗客の乗り込み時に相当する振動データが得られる。振動分析部11は、このような振動データに基づいて、実施の形態1と同様の処理でエレベーターを診断してもよい。
このように、複数人が乗車する場合でも、行動分析部14が算出した乗り込み人数n、各乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込み後のかご6の重量M1,M2,…,Mn、および制御装置8から伝達されるかご位置情報に基づいて、振動分析部11は、予め設定された閾値群のなかから適切な閾値Taを選択することで、エレベーターの診断を適切に行うことができる。
また、エレベーターは、例えばロボット専用運転モードのように、あらかじめ重量が判明しているロボットなどの運搬物が乗り込むための専用運転を行うことがある。この場合に、運搬物の重量および大きさは明確であるため、発生する振動の大きさにばらつきが生じにくい。このため、ロボット専用の閾値Aaおよび閾値Taなどを設けることで、乗客が人である場合よりも高精度に診断を実施できる。ロボット専用の閾値は、例えば図5におけるばらつき範囲を小さくすることなどによって設定される。
また、体重または重量がそれぞれで大きく異なる複数人の乗客または貨物がかご6に乗り込んだ場合に、振動分析部11は、それぞれの乗客の乗り込みに対して適切な加速度閾値Aaを設定してもよい。振動分析部11は、その組み合わせに対する適切な振動持続時間閾値Taを選定することで、適切な診断ができるようになる。
このように、複数人の乗客、または体重が大きい乗客もしくは重量が大きい貨物が乗り込んだ場合においても、振動分析部11は、エレベーターを適切に診断できる。
また、エレベーターのかご6の停止中にかご6内で乗客が暴れ続けた場合は、大きい加速度で振動が持続するため、振動持続時間も極端に大きくなり、誤診断になる可能性がある。そのため、振動分析部11は、行動分析部14における乗客の行動データの分析で乗客の暴れを検知した場合に、乗客の暴れによる振動を診断対象から外すことで、誤診断を防ぐことができる。
図13は、このような構成と動作でエレベーターの異常を診断するフローチャートの一例である。STEPb1で制御装置8がエレベーターのかご6の停止を確認した後、STEPb2で振動計測部10および監視部13は振動データおよび乗客の行動データの取得を開始する。その後、STEPb3において、制御装置8がエレベーターのかご6の走行の開始を確認すると、振動計測部10および監視部13はデータ取得を終了する。STEPb4において、行動分析部14は、乗客の行動を分析し、乗客の暴れなどの問題または乗り降りの有無を確認する。行動分析部14は、問題がない場合に、乗客の行動データの分析を継続し、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、および各乗り込み後のかご6の重量M1,M2,…,Mnを算出する。STEPb5において、振動分析部11は、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込み後のかご6の重量M1,M2,…,Mnを行動分析部14から受け取る。振動分析部11は、受け取った情報に基づいて閾値Aaおよび閾値Taを選出する。STEPb6において、振動分析部11は、振動データを分析して加速度変化に対するプロファイルを算出する。振動分析部11は、算出したプロファイルから振動持続時間Tを算出する。STEPb7からSTEPb9において、振動分析部11は、振動持続時間Tが閾値Taを上回っているかを判定してエレベーターの異常の有無を診断する。STEPb10において、記録部12は、診断結果を記録する。
診断装置9は、STEPb10までの一度の診断だけではなく、STEPb11からSTEPb13のように、複数回の診断履歴に基づいて外部への発報を行ってもよい。すなわち、振動分析部11は、予め設定された診断回数であるN回分の診断履歴から「異常あり」と判定した頻度Xを計算する。この頻度Xに対して、頻度閾値Xaが予め設定される。頻度Xが閾値Xaを上回るようなタイミングで、診断装置9は外部に状況を発報する。発報先の具体例としては、ディスプレイもしくは警報装置、または遠隔地にいる保守員が所持する保守端末などが挙げられる。
また、診断装置9は、「異常あり」と判定する頻度の代わりに、「異常あり」と判定した回数の合計、または連続で「異常あり」と判定した回数に対して閾値を設けて、同様に外部に状況を発報してもよい。
上記のような構成により、診断装置9は、振動データを乗客の行動データと照らし合わせて分析することで、振動に対して適した閾値を割り当てることができるため、精度よくエレベーターの異常を診断できる。
また、このような診断装置9は、1:1ローピングだけでなく、2:1ローピングまたは機械室2がない機械室レスエレベーターのシステムなど、あらゆるローピングのトラクション式エレベーターに対して適用できる。
さらに、このようなエレベーターの診断装置9は、かご6の停止時に乗り込む乗客による振動だけでなく、かご6から降りる乗客が起こす振動に対しても同様に適用できる。加えてかご6の上下方向の振動だけでなく、かご6の傾きなどによる横方向の振動に対しても適用できる。なお、本実施の形態では、振動分析部11において振動データを加速度の時間変化に変換した例の処理を説明したが、速度または変位に対して同様の処理を実施してもよい。すなわち、振動の振幅の閾値は、加速度の振幅に対する閾値に限定されず、速度または変位などの振幅に対する閾値であってもよい。
実施の形態3.
実施の形態3において、実施の形態1または実施の形態2で開示される例と相違する点について特に詳しく説明する。実施の形態3で説明しない特徴については、実施の形態1または実施の形態2で開示される例のいずれの特徴が採用されてもよい。
図14は、実施の形態3におけるトラクション式のエレベーターの全体図である。
図14に示すトラクション式のエレベーターにおいて、昇降路1の上部には機械室2が設けられている。機械室2には、滑車3が設けられている。滑車3は、巻上機4と連結されている。滑車3には、懸架体5が架けられている。懸架体5には、例えば、複数本のロープまたは複数本のベルトなどが用いられる。この例において、懸架体5の両端部に、かご6および錘7がそれぞれ連結されている。すなわち、図14は、1:1ローピングのシステムで懸架体5が架けられている場合を例示している。懸架体5は、かご6および錘7を昇降路1において懸架している。
巻上機4の駆動により滑車3が回転すると、懸架体5と滑車3との摩擦力によってかご6が昇降路1内を昇降する。エレベーターには制御装置8が設けられている。エレベーターは、制御装置8が巻上機4の回転を制御することで運行する。かご6がいずれかの階床に到着した後に、乗場およびかご6の間で乗客が乗り降りする。制御装置8には、診断装置9が接続されている。
診断装置9は、振動分析部11、監視部13、行動分析部14、学習装置15、推論装置16、学習済モデル記憶部17を有する。
かご6には、振動計測部10が設けられている。振動計測部10は、例えば、かご6に取り付けられる加速度センサ、速度センサ、変位センサ、もしくは秤装置、またはこれらを複数組み合わせて構成されている。
振動分析部11は、振動計測部10から送られる振動データを分析して、例えば加速度変化を算出し、予め設定された加速度閾値Aaに基づいて、振動持続時間Tを算出する。加速度閾値Aaに基づいた振動持続時間Tの算出方法は、実施の形態1または実施の形態2と同様である。
監視部13は、エレベーターのかご6の停止中の乗客の行動データを取得する。監視部13の具体例は、かご6内を撮影するカメラ13a、秤装置13b、かご床に設けられた床反力センサ13c、加速度センサ、速度センサ、もしくは変位センサ、またはこれらのうちのいずれか複数の組み合わせなどである。監視部13は、かご6が停止している間に乗客の行動データを取得する。
ここで、監視部13がカメラ13aの場合に、監視部13は、乗客の行動データとして、かご6内を撮影した画像または映像データを行動分析部14に伝達する。監視部13が秤装置13bの場合に、監視部13は、乗客の行動データとして、かご6の重量の時間変化を行動分析部14に伝達する。監視部13が床反力センサ13cの場合に、監視部13は、乗客の行動データとして、かご床に加えられた床反力の時間変化を行動分析部14に伝達する。
行動分析部14は、乗客の行動データを分析して、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、およびそれぞれの乗客の乗り込み後のかご6の重量M1,M2,…,Mnを分析結果として算出し、これらを振動分析部11に伝達する。乗客の行動データがカメラ13aによる画像または映像の場合に、行動分析部14は、画像解析で上記分析結果の諸量を推定する。乗客の行動データが秤装置13bによるかご6の重量変化の場合に、行動分析部14は、その時間変化から上記分析結果の諸量を推定する。乗客の行動データが床反力の場合に、行動分析部14は、床反力の時間変化から上記分析結果の諸量を推定する。監視部13が複数種類のセンサ等の装置を用いる場合に、行動分析部14は、それぞれの装置によって算出したものの平均値などとして、上記分析結果の諸量を求めてもよい。
振動分析部11および行動分析部14には、学習装置15が接続されている。学習装置15は、データ取得部18と、モデル生成部19とを備える。また、振動分析部11および行動分析部14には、推論装置16が接続されている。推論装置16は、データ取得部20と、推論部21とを備える。
学習装置15におけるデータ取得部18、および推論装置16のデータ取得部20は、かご位置情報Lを制御装置8から、振動持続時間Tを振動分析部11から、乗り込み人数nと、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τnと、各乗り込みでのかご6の重量M1,M2,…,Mnとを行動分析部14から、学習用データとして取得する。
モデル生成部19は、データ取得部18から出力されるかご位置情報L、振動持続時間T、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込みでのかご6の重量M1,M2,…,Mn、の組み合わせに応じて作成される学習用データに基づいて、エレベーターの状態を学習する。すなわち、モデル生成部19は、かご位置情報L、振動持続時間T、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込みでのかご6の重量M1,M2,…,Mnから、エレベーターの状態を推論する学習済モデルを生成する。この例において、学習用データは、かご位置情報L、振動持続時間T、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込みでのかご6の重量M1,M2,…,Mnを互いに関連付けたデータである。
モデル生成部19が用いる学習アルゴリズムは、教師あり学習、教師なし学習、強化学習等の公知のアルゴリズムを用いることができる。一例として、教師なし学習であるk平均法などのクラスタリングを適用した場合について説明する。教師なし学習とは、結果またはラベルを含まない学習用データを学習装置15に与えることで、それらの学習用データにある特徴を学習する手法をいう。
モデル生成部19は、例えば、k平均法によるグループ分け手法に従って、いわゆる教師なし学習により、エレベーターの状態を学習する。k平均法とは、非階層型クラスタリングのアルゴリズムであり、クラスタの平均を用いて、与えられたクラスタ数をk個に分類する手法である。
より具体的に、k平均法は以下のような流れで処理される。まず、各データxiに対してランダムにクラスタを割り振る。次いで、割り振ったデータをもとに各クラスタの中心Vjを計算する。次いで、各xiと各Vjとの距離を求め、xiを最も近い中心のクラスタに割り当て直す。そして、上記の処理で全てのxiのクラスタの割り当てが変化しなかった場合、あるいは変化量が事前に設定した一定の閾値を下回った場合に、収束したと判断して処理を終了する。
本願においては、モデル生成部19は、データ取得部18によって取得されるかご位置情報L、振動持続時間T、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込みでのかご6の重量M1,M2,…,Mnの組合せに基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師なし学習により、エレベーターの状態を学習する。
モデル生成部19は、以上のような学習を実行することで学習済モデルを生成し、出力する。学習済モデル記憶部17は、モデル生成部19から出力された学習済モデルを記憶する。このような学習を、正常なエレベーターで実施することで、かご位置情報L、振動持続時間T、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込みでのかご6の重量M1,M2,…,Mnと、エレベーターの正常な状態との関係を学習した学習済モデルが得られる。
推論部21は、学習済モデル記憶部17に記憶された学習済モデルを利用して得られるエレベーターの状態を推論する。すなわち、推論部21は、データ取得部20で取得したかご位置情報L、振動持続時間T、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込みでのかご6の重量M1,M2,…,Mnの組合せに基づいて作成されるデータをこの学習済モデルに入力することで、当該データがいずれのクラスタに属するかを推論し、推論結果をエレベーターの状態として出力することができる。学習済モデルに入力されたデータが、エレベーターの正常な状態を示すクラスタのいずれにも属していない場合に、推論部21は、エレベーターに異常が発生したと判定する。
記録部12は、推論部21による判定結果を記録する。診断装置9は、ネットワーク回線などを利用して、記録部12に記録した判定結果をエレベーターの外部に伝達または発報してもよい。このようにすることで、例えば保守員に迅速に判定結果を伝達または送付することができ、保守員による早期対応が可能となる。
なお、本実施の形態では、推論部21はモデル生成部19で学習した学習済モデルを用いてエレベーターの状態を出力するものとして説明したが、推論部21は外部から取得した学習済モデルに基づいてエレベーターの状態を出力するようにしてもよい。
また、学習装置15および推論装置16のそれぞれにデータ取得部18およびデータ取得部20が設けられる場合について説明したが、診断装置9の構成はこの場合に限定されない。診断装置9は、ひとつのデータ取得部で制御装置8、振動分析部11、および行動分析部14から必要な情報を取得し、学習装置15のモデル生成部19および推論装置16の推論部21に取得した情報を出力するような構成であってもよい。
このようにして、推論部21は、かご位置情報L、振動持続時間T、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込みでのかご6の重量M1,M2,…,Mnに基づいて、エレベーターの状態を判定する。
次に、図15を用いて、学習装置15および推論装置16を用いてエレベーターの状態を診断するための処理フローを説明する。実施の形態3におけるエレベーターの診断は、学習フェーズと診断フェーズの2つのフェーズから成る。
学習フェーズでは、まず学習用データを得るために、STEPc1で、エレベーターのかご6の停止を示す信号をデータ取得部18が制御装置8から受け取った後、振動計測部10および監視部13がデータを計測する。
STEPc2で、エレベーターのかご6の走行開始を示す信号をデータ取得部18が制御装置8から受け取った後、振動分析部11および行動分析部14は、振動計測部10および監視部13が計測したデータを受け取る。振動分析部11および行動分析部14は、受け取ったデータを分析して、かご位置情報L、振動持続時間T、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込みでのかご6の重量M1,M2,…,Mnを算出する。
STEPc3において、データ取得部18は、出力されたかご位置情報L、振動持続時間T、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込みでのかご6の重量M1,M2,…,Mnのデータを取得する。
STEPc4において、モデル生成部19は、データ取得部18によって取得されるかご位置情報L、振動持続時間T、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込みでのかご6の重量M1,M2,…,Mnの組合せに基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師なし学習によりエレベーターの正常状態を学習し、学習済モデルを生成する。
STEPc5において、学習済モデル記憶部17は、モデル生成部19が生成した学習済モデルを記憶する。このような学習をエレベーターが停止階に停止する度に実施し、学習は規定回数に到達するまで継続する。
診断フェーズでは、推論装置16を使ってエレベーターの状態を診断するために、STEPc6で振動計測部10および監視部13がデータを計測する。
STEPc7で、振動分析部11および行動分析部14は、振動計測部10および監視部13が計測したデータを分析して、かご位置情報L、振動持続時間T、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込みでのかご6の重量M1,M2,…,Mnを算出する。
STEPc8において、データ取得部20は、出力されたかご位置情報L、振動持続時間T、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込みでのかご6の重量M1,M2,…,Mnのデータを取得する。
STEPc9において、推論部21は、データ取得部20が取得したかご位置情報L、振動持続時間T、乗り込み人数n、乗り込みのタイミングτ1,τ2,…,τn、各乗り込みでのかご6の重量M1,M2,…,Mnのデータを、学習済モデル記憶部17に記憶された学習済モデルに入力する。
STEPc10において、推論部21は、学習済みモデルから得られたエレベーターの状態を出力する。
STEPc11において、推論部21は、エレベーターの状態の出力結果に基づいて、エレベーターの状態を診断する。
なお、実施の形態1または実施の形態2の診断装置9のように、推論装置16は、一度の診断だけではなく予め設定された診断回数分の診断履歴から発報を行ってもよい。推論装置16は、例えば、「異常あり」と判定した頻度Xを計算する。この頻度Xに対して、頻度閾値Xaが予め設定される。頻度Xが閾値Xaを上回るようなタイミングで、推論装置16は、エレベーターの異常を外部に発報してもよい。発報先の具体例としては、ディスプレイもしくは警報装置、または遠隔地にいる保守員が所持する保守端末などが挙げられる。
また、推論装置16は、「異常あり」と判定する頻度の代わりに、「異常あり」と判定した回数の合計、または連続で「異常あり」と判定した回数に対して閾値を設けて、同様に外部に状況を発報してもよい。
以上のような構成により、かご6の停止時におけるエレベーターの上下方向のあらゆる振動に対して、エレベーターの状態が診断されるようになる。
なお、本実施の形態では、モデル生成部19および推論部21が用いる学習アルゴリズムに教師なし学習を適用した場合について説明したが、学習アルゴリズムはこれに限られない。学習アルゴリズムについては、教師なし学習以外にも、強化学習、教師あり学習、または半教師あり学習などを適用することも可能である。
また、モデル生成部19に用いられる学習アルゴリズムとしては、特徴量そのものの抽出を学習する深層学習(Deep Learning)を用いることもでき、他の公知の方法を用いることもできる。
本実施の形態における教師なし学習を実現する場合、上記のようなk平均法による非階層型クラスタリングに限らず、クラスタリング可能な他の公知の方法が用いられてもよい。例えば、最短距離法などの階層型クラスタリングが用いられてもよい。
本実施の形態において、学習装置15および推論装置16が診断装置9に設けられる場合を説明したが、学習装置15および推論装置16の一部または全部は、診断装置9の代わりに、例えば、ネットワークを介してエレベーターに接続される、このエレベーターとは別個の装置に設けてもよい。また、学習装置15および推論装置16の一部または全部は、制御装置8に内蔵されていてもよい。さらに、学習装置15および推論装置16の一部または全部は、クラウドサーバ上に実装されていてもよい。
また、モデル生成部19は、複数のエレベーターに対して作成される学習用データに従ってエレベーターの状態を学習するように構成されていてもよい。
モデル生成部19は、同一のエリアで使用される複数のエレベーターから学習用データを取得してもよいし、異なるエリアで独立して動作する複数のエレベーターから収集される学習用データを利用してエレベーターの状態を学習してもよい。また、エレベーターを途中で学習用データを収集する対象に追加したり、当該対象から途中で除去したりすることも可能である。さらに、あるエレベーターに関してエレベーターの状態を学習した学習装置15を、これとは別のエレベーターに適用し、当該別のエレベーターに関してエレベーターの状態を再学習して更新するようにしてもよい。
また、このようなエレベーターの診断装置9は、1:1ローピングだけでなく、2:1ローピングまたは機械室2がない機械室レスエレベーターのシステムなど、あらゆるローピングのトラクション式エレベーターに対して適用できる。
さらに、このようなエレベーターの診断装置9は、かご6の停止時に乗り込む乗客による振動だけでなく、かご6から降りる乗客が起こす振動に対しても同様に適用できる。加えてかご6の上下方向の振動だけでなく、かご6の傾きなどによる横方向の振動に対しても適用できる。なお、本実施の形態では、振動分析部11において振動データを加速度の時間変化に変換した例の処理を説明したが、速度または変位に対して同様の処理を実施してもよい。すなわち、振動の振幅の閾値は、加速度の振幅に対する閾値に限定されず、速度または変位などの振幅に対する閾値であってもよい。