JP7198453B2 - リグニンスルホン酸とε-ポリリジンを成分とするイオン複合材料 - Google Patents
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Description
近年、マイクロプラスチックの海洋流出が深刻な問題となっており、一部の分野において非生分解性のプラスチック材料の使用が法律で規制されるなど、生分解性を有しつつ、既存の非生分解性プラスチック材料と同等の力学物性を有する材料が広く求められている。本発明は、特願2017-246691号に記載された、リグニンスルホン酸を原料の一つとして、多様な形状に成形が可能であり、かつ、柔軟性や弾性を有する新たなイオン複合材料に関して、その強度や靭性を劇的に向上させると共に、完全な生分解性を付与することを、解決すべき課題とする。
した。
また、特願2017-246691号の実施例で用いたカチオン性高分子[ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)]は環境中でほとんど分解されないが、本技術で用いたε-PLは環境中で微生物などにより完全に分解される生分解性高分子である。リグニンスルホン酸も生分解性高分子であるため、ε-PLとリグニンスルホン酸を混合した本技術の複合体も完全な生分解性を示すと考えられ、強度・靭性の向上と併せ、強度や耐久性、生分解性を生かした用途拡大が期待できる。
[1]リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、ε-ポリリジン、その誘導体、またはそれらの塩を含むイオン複合材料であって、水分含量が前記材料全体の3~95重量%である、イオン複合材料。
[2]弾性を有することを特徴とする、[1]に記載のイオン複合材料。
[3]自己修復能を有することを特徴とする、[1]または[2]に記載のイオン複合材料。
[4]リグニンスルホン酸またはその誘導体の塩が、金属塩である、[1]~[3]のいずれかに記載のイオン複合材料。
[5]前記金属塩が、ナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩からなる群から選択される、[4]に記載のイオン複合材料。
[6]前記ε-ポリリジンが、重量平均分子量500~1,000,000である、[1]~[5]のいずれかに記載のイオン複合材料。
[7]厚さ1~10mmのシート状である、[1]~[6]のいずれかに記載のイオン複合材料。
[8][1]~[7]のいずれかに記載のイオン複合材料の製造方法であって、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、ε-ポリリジン、その誘導体、またはそれらの塩を溶媒中で混合することにより溶媒中でイオン複合体を形成させる工程と、前記イオン複合体を含有する溶液ないし懸濁液から溶媒を除去する工程、を含む方法。
[9]前記イオン複合体を形成させる工程が、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩を含む溶液と、ε-ポリリジン、その誘導体、またはそれらの塩を含む溶液を混合する工程である、[8]に記載の方法。
[10]前記溶媒を除去する工程が、前記イオン複合体を含有する溶液ないし懸濁液から溶媒を揮発させることにより行われる、[8]または[9]に記載の方法。
[11]前記溶媒が水である、[8]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]前記溶媒を除去する工程が、前記イオン複合体を含有する溶液ないし懸濁液を有機溶媒に投入することにより行われる、[11]に記載の方法。
[13]リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、ε-ポリリジン、その誘導体、またはそれらの塩により形成されるイオン複合体を含有する、溶液ないし懸濁液。
[14]前記溶媒が水である、[13]に記載の溶液ないし懸濁液。
[15]リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、ε-ポリリジン、その誘導体、またはそれらの塩により形成されるイオン複合材料であって、さらに有機溶媒を含む材料。
変性リグニンスルホン酸とは、例えばリグニンスルホン酸を酸やアルカリを用いて処理することで、官能基の含有量を変化させたリグニンスルホン酸などが挙げられる。
部分脱スルホンリグニンスルホン酸とは、リグニンスルホン酸の有するスルホ基(-SO3Hまたは-SO3 -)の一部が脱スルホン化しているリグニンスルホン酸のことである。イオン複合材料全体におけるリグニンスルホン酸の脱スルホン化が、部分脱スルホン化がなされていないと仮定した場合のイオン複合体材料中の全スルホ基のうちの1%以上の個数のスルホ基の脱スルホン化であることが好ましい。
微生物を用いた産生法においては、ε-PLを産生することができる方法であれば特に限定されることはないが、例えばストレプトマイセス・アルブラス(Streptomyces alblus)やストレプトマイセス・ヌールセイ(Streptomyces noursei)に属するε-PL産生菌を使用する産生法を用いる事ができ、これらの細菌の培地からε-PLを単離精製することが可能である。化学合成による産生法としては、例えば、非特許文献3に記載されている化学合成法で合成されるε-PLが挙げられる。
化学的に修飾された化合物とは、例えば、アミド結合を介し、ε-PLのアミノ基をカルボン酸やアミノ酸などのカルボキシル基含有化合物で修飾した化合物や、アミド結合を介し、ε-PL末端のカルボキシル基をアミンやアミノ酸などのアミノ基含有化合物、もしくはエステル結合を介し、アルコールなどのヒドロキシル基含有化合物で修飾した化合物が挙げられる。
また、ε-PLの誘導体とは、例えば、ε-PL同士を脱水縮合することによって高分子量化したε-PLが挙げられる。
また、本発明に用いられるε-PLは、水溶性の観点から、上述のカチオン性高分子の、塩酸塩などの無機酸塩、もしくは、酢酸塩などの有機酸塩でもよい。
ε-PLの重合度は、特に限定されることはないが、5量体以上であることが好ましく、重量平均分子量は500~1,000,000であることが好ましい。さらに好ましくは、重量平均分子量は1,000~10,000である。
水分含量の調整は、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、ε-PL、その誘導体、またはそれらの塩により形成されるイオン複合体を含有する、溶液ないし懸濁液を、大気中もしくは制御された湿度条件にて保持することで行われる。この際、恒温槽やホットプレートなどを用いて加熱することで水分の気化を促進してもよい。また、先のイオン複合体を含有する溶液ないし懸濁液を、有機溶媒に滴下することで複合体の沈殿を得た後、得られた複合体を必要に応じて、大気中もしくは制御された湿度条件にて保持することで水分含量を調節してもよい。
生分解性の具体的な測定方法としては、例えば溶存有機体炭素量(DOC)法や生物化学的酸素消費量(BOD)法が挙げられる。生分解性を有するとは、培養によって複合体の50%以上が分解することである。
低毒性とは、哺乳類、好ましくはヒトに対する毒性が低いことである。具体的には、低毒性とは、原料となる化合物をラットに与えた際の致死量が、1000 mg/kg以上であることを指す。
生分解性とは、微生物もしくは環境中での酸化や加水分解によって完全に分解され、自然的副産物(炭酸ガス、水、アミノ酸、メタン、バイオマスなど)のみを生じる性質のことである。
すなわち、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩とε-PL、その誘導体、またはそれらの塩からなるイオン複合材料は、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩とε-PL、その誘導体、またはそれらの塩を溶媒中で混合することによりイオン複合体を形成させ、またはリグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩を含む溶液と、ε-PL、その誘導体、またはそれらの塩を含む溶液を混合することによりイオン複合体を形成させることができ、さらに当該イオン複合体を含む溶液ないし懸濁液から溶媒を揮発させることにより除去する、あるいは、当該溶媒が水である場合は、当該水溶液ないし水懸濁液を有機溶媒中に投入することにより、イオン複合体を有機溶媒中で沈殿させるなどの手法により、調製することができる。
上記イオン複合体を含む溶液ないし懸濁液は、例えば、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩の水溶液とε-PL、その誘導体、またはそれらの塩の水溶液を混合し、あるいは、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩の粉末をε-PL、その誘導体、またはそれらの塩の水溶液に混合することで調製することができる。
このようにして調製したイオン複合体を含む溶液ないし懸濁液を、例えばシャーレなどの平板上で溶媒を揮発させることにより、シート状のイオン複合体を得ることができる。
リグニンスルホン酸ナトリウム塩 (東京化成工業) の粉末5 gと、ε-PL溶液 (JNC株式会社、25~35量体、Lot番号2160204、25重量%水溶液) 20 mL、純水4 mLを均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレに移して溶媒を揮発させることで厚さ1mm以上のシート状の複合体を得た。得られた複合体の写真を図1に示す。
実施例1で用いたリグニンスルホン酸ナトリウム塩と、ε-PL溶液を表1の割合で均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレに移して溶媒を揮発させることで複合体の調製を行った。本実施例では、表1に示す、すべての組成において実施例1と同様にシート状の複合体を得ることができた。
実施例1で用いたリグニンスルホン酸ナトリウム塩と、ε-PL溶液を混合して得られた溶液を、その20倍量のアセトンに滴下した。遠心分離(3500 g, 2分)により沈殿を回収し、フッ素樹脂製シャーレに移した後に150℃のホットプレート上で加熱して溶媒を除去することで実施例1と同様にシート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
実施例1で用いたリグニンスルホン酸ナトリウム塩を水に溶解し、40重量%水溶液を調製した。このリグニンスルホン酸ナトリウム塩水溶液1重量部に対して、実施例1で用いたε-PL 溶液1.6重量部を均一に混合し、得られた混合物をフッ素樹脂製シャーレ中で溶媒を揮発させることで実施例1と同様にシート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
サンエキスP252 (日本製紙株式会社製、リグニンスルホン酸ナトリウム塩) の40重量%水溶液1重量部と、実施例1で用いたε-PL 溶液1.6重量部を均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレに移して溶媒を揮発させることで実施例1と同様にシート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
サンエキスP202 (日本製紙株式会社製、リグニンスルホン酸カルシウム塩) の40重量%水溶液と、実施例1で用いたε-PL 溶液を用いて実施例5と同様の操作を行うことで実施例1と同様にシート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
サンエキスP321 (日本製紙株式会社製、リグニンスルホン酸マグネシウム塩) の40重量%水溶液と、実施例1で用いたε-PL 溶液を用いて実施例5と同様の操作を行うことで実施例1と同様にシート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
パールレックスNP (日本製紙株式会社製、高純度高分子量リグニンスルホン酸ナトリウム塩) 25重量%水溶液1重量部と、実施例1で用いたε-PL溶液1重量部を均一に混合し、実施例5と同様の操作を行うことで実施例1と同様にシート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
パールレックスDP (日本製紙株式会社製、高純度変性リグニンスルホン酸ナトリウム塩) 25重量%水溶液1重量部と、実施例1で用いたε-PL溶液1重量部を均一に混合し、実施例5と同様の操作を行うことで実施例1と同様にシート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
バニレックスRN (日本製紙株式会社製、高純度部分脱スルホンリグニンスルホン酸ナトリウム塩) 20重量%水溶液1重量部と、実施例1で用いたε-PL溶液0.8重量部を均一に混合し、実施例5と同様の操作を行うことで実施例1と同様にシート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
実施例1で用いたε-PL溶液50 mLと塩酸(5 mol/L水溶液)19.5 mLを混合し、ε-PL塩酸塩溶液を調製した。このε-PL塩酸塩溶液27.8mLと実施例1で用いたリグニンスルホン酸ナトリウム塩の粉末5 gを均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレに移して溶媒を揮発させることで実施例1と同様にシート状の複合体を得た。得られた複合体の外見は実施例1で得られた複合体とほぼ同等であった。
実施例1で用いたε-PL溶液のみをフッ素樹脂製シャーレ中で溶媒を揮発させることで試料を調製した。得られた試料は脆く、フッ素樹脂製シャーレ中から取り出す際に割れてしま
い、キャスト時の形状を保ったシート状試料を得ることはできなかった。
実施例1で作成したシート状の複合体からダンベル型試験片 (8号、JIS K 6251) を切り出した。この試験片の長軸方向の長さは5cmである。この試験片を30℃、相対湿度50%で5日間平衡化した後、引張試験 (大気中、引張速度50 mm/min) を行った。引張試験の結果を表2に示す(3回の平均値)。
特許文献3の記載に従い、リグニンスルホン酸ナトリウム塩とポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)の比率を変えてシート状のイオン複合体を調製した。この複合体からダンベル型試験片 (8号、JIS K 6251) を切り出した。この試験片を30℃、相対湿度50%で5日間平衡化した後、実施例12に記載する引張試験の方法によって、引張試験 (大気中、引張速度 50 mm/min) を行った。引張試験の結果を表3に示す。
リグニンスルホン酸ナトリウム塩とポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)から成る複合体で最も高い強度および靭性の値はそれぞれ4.1 MPa、3.6 MJ/m3であるのに対し、実施例12に示したようにリグニンスルホン酸ナトリウム塩とε-PLから成る複合体の靭性は12.9 MPa、8.8 MJ/m3と、それぞれ3.1倍以上および2.4倍以上の値を示した。
この結果及び実施例12の結果から、カチオン性高分子としてε-PLを用いることにより、ε-PL以外の他のカチオン性高分子を使用した場合と比較してイオン複合体の最大強度、靭性が明らかに向上することを示した。
実施例12で引張試験を行った後、該試験で破断したサンプルを大気中で30分静置した際の写真を図2に示す。実施例12に示した通り、試験前のダンベル試験片の長さ5cmに対して、破断直前では約80%(4cm)のひずみが加えられたにもかかわらず、静置後の変形量は10%(5mm)以下であり、ほぼ引張試験前のサンプルと同じ長さまで自発的に形状が回復しており、本複合体が弾性を有していることが示された。
実施例1で作成したシート状の複合体からダンベル型試験片 (8号、JIS K 6251) を切り出した。得られた試験片の中心(端から2.5cm部分)を剃刀で切断し、切断した試験片の断面同士を室温にて1分間接触させた。切断直後の試験片の写真図と、切断面同士を1分間接触させた試験片の片側を約45 gのマグネットクリップで挟んで保持した結果の写真図を図3に示す。ダンベル型試験片を完全に切断したにも関わらず、断面同士の接触によりマグネットクリップを保持できる程度に強度が回復していることが示された。
Claims (12)
- リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、ε-ポリリジン、その誘導体、
またはそれらの塩を含むイオン複合材料であって、水分含量が前記材料全体の3~95重量
%であり、弾性を有するイオン複合材料。 - 自己修復能を有することを特徴とする、請求項1に記載のイオン複合材料。
- リグニンスルホン酸またはその誘導体の塩が、金属塩である、請求項1または2に記載のイオン複合材料。
- 前記金属塩が、ナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩からなる群から選択される、請求項3に記載のイオン複合材料。
- 前記ε-ポリリジンが、重量平均分子量500~1,000,000である、請求項1~4のいずれか
一項に記載のイオン複合材料。 - 厚さ1~10mmのシート状である、請求項1~5のいずれか一項に記載のイオン複合材料。
- 請求項1~6のいずれか一項に記載のイオン複合材料の製造方法であって、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、ε-ポリリジン、その誘導体、またはそれら
の塩を溶媒中で混合することにより溶媒中でイオン複合体を形成させる工程と、前記イオン複合体を含有する溶液ないし懸濁液から溶媒を除去する工程、を含む方法。 - 前記イオン複合体を形成させる工程が、リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩を含む溶液と、ε-ポリリジン、その誘導体、またはそれらの塩を含む溶液を混合す
ることにより行われる、請求項7に記載の方法。 - 前記溶媒を除去する工程が、前記イオン複合体を含有する溶液ないし懸濁液から溶媒を揮
発させることにより行われる、請求項7または8に記載の方法。 - 前記溶媒が水である、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
- 前記溶媒を除去する工程が、前記イオン複合体を含有する溶液ないし懸濁液を有機溶媒に投入することにより行われる、請求項10に記載の方法。
- リグニンスルホン酸、その誘導体、またはそれらの塩と、ε-ポリリジン、その誘導体、
またはそれらの塩により形成されるイオン複合材料であって、さらに有機溶媒を含む材料。
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