以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における鉄道車両用制振装置1は、本例では、鉄道車両の車体Bの制振装置として使用され、図1に示すように、車両前後の台車T1,T2と車体Bとの間にそれぞれ設置されたアクチュエータA1,A2と、コントローラCとを備えて構成されている。そして、本例の鉄道車両用制振装置1は、鉄道車両の前後にそれぞれ設置されるアクチュエータA1,A2が発揮する推力で車体Bの車両進行方向に対して水平横方向の振動を抑制するようになっている。
アクチュエータA1,A2は、本例では図2に示すように、車体Bに連結されるシリンダ2と、シリンダ2内に摺動自在に挿入されるピストン3と、シリンダ2内に挿入されて一端がピストン3に連結されるとともに他端が鉄道車両の台車T1,T2に連結されるロッド4と、シリンダ2内にピストン3で区画したロッド側室5とピストン側室6とを備えるシリンダ本体Cyに加え、作動油を貯留するタンク7と、タンク7から作動油を吸い上げてロッド側室5へ作動油を供給するポンプ12と、ポンプ12を駆動するモータ15と、シリンダ本体Cyの伸縮の切換と推力を制御するための流体圧回路HCとを備えており、片ロッド型のアクチュエータとして構成されている。
また、前記ロッド側室5とピストン側室6には、本例では、作動流体として作動油が充填されるとともに、タンク7には、作動油の他に気体が充填されている。なお、タンク7内は、特に、気体を圧縮して充填して加圧状態とする必要は無い。また、作動流体は、作動油以外にも他の流体を利用してもよい。
流体圧回路HCは、ロッド側室5とピストン側室6とを連通する第一通路8の途中に設けた第一開閉弁9と、ピストン側室6とタンク7とを連通する第二通路10の途中に設けた第二開閉弁11とを備えている。
そして、基本的には、第一開閉弁9で第一通路8を連通状態とし、第二開閉弁11を閉じてポンプ12を駆動すると、シリンダ本体Cyが伸長し、第二開閉弁11で第二通路10を連通状態とし、第一開閉弁9を閉じてポンプ12を駆動すると、シリンダ本体Cyが収縮する。
以下、アクチュエータA1,A2の各部について詳細に説明する。シリンダ2は筒状であって、その図2中右端は蓋13によって閉塞され、図2中左端には環状のロッドガイド14が取り付けられている。また、前記ロッドガイド14内には、シリンダ2内に移動自在に挿入されるロッド4が摺動自在に挿入されている。このロッド4は、一端をシリンダ2外へ突出させており、シリンダ2内の他端をシリンダ2内に摺動自在に挿入されるピストン3に連結している。
なお、ロッドガイド14の外周とシリンダ2との間は図示を省略したシール部材によってシールされており、これによりシリンダ2内は密閉状態に維持されている。そして、シリンダ2内にピストン3によって区画されるロッド側室5とピストン側室6には、前述のように作動油が充填されている。
また、このシリンダ本体Cyの場合、ロッド4の断面積をピストン3の断面積の二分の一にして、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積がピストン側室6側の受圧面積の二分の一となるようになっている。よって、伸長作動時と収縮作動時とでロッド側室5の圧力を同じくすると、伸縮の双方で発生される推力が等しくなり、シリンダ本体Cyの変位量に対する作動油量も伸縮両側で同じとなる。
詳しくは、シリンダ本体Cyを伸長作動させる場合、ロッド側室5とピストン側室6を連通させた状態とする。すると、ロッド側室5内とピストン側室6内の圧力が等しくなり、アクチュエータA1,A2は、ピストン3におけるロッド側室5側とピストン側室6側の受圧面積差に前記圧力を乗じた推力を発生する。反対に、シリンダ本体Cyを収縮作動させる場合、ロッド側室5とピストン側室6との連通を断ちピストン側室6をタンク7に連通させた状態とする。すると、アクチュエータA1,A2は、ロッド側室5内の圧力とピストン3におけるロッド側室5側の受圧面積を乗じた推力を発生する。
要するに、アクチュエータA1,A2の発生推力は伸縮の双方でピストン3の断面積の二分の一にロッド側室5の圧力を乗じた値となるのである。したがって、このアクチュエータA1,A2の推力を制御する場合、伸長作動、収縮作動ともに、ロッド側室5の圧力を制御すればよい。また、本例のアクチュエータA1,A2では、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積をピストン側室6側の受圧面積の二分の一に設定しているので、伸縮両側で同じ推力を発生する場合に伸長側と収縮側でロッド側室5の圧力が同じとなるので制御が簡素となる。加えて、変位量に対する作動油量も同じとなるので伸縮両側で応答性が同じとなる利点がある。なお、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積をピストン側室6側の受圧面積の二分の一に設定しない場合にあっても、ロッド側室5の圧力でアクチュエータA1,A2の伸縮両側の推力を制御できる点は変わらない。
戻って、ロッド4の図2中左端とシリンダ2の右端を閉塞する蓋13とには、図示しない取付部を備えており、このアクチュエータA1,A2を鉄道車両における台車T1,T2と車体Bとの間に介装できるようになっている。
そして、ロッド側室5とピストン側室6とは、第一通路8によって連通されており、この第一通路8の途中には、第一開閉弁9が設けられている。この第一通路8は、シリンダ2外でロッド側室5とピストン側室6とを連通しているが、ピストン3に設けられてもよい。
第一開閉弁9は、電磁開閉弁とされており、第一通路8を開放してロッド側室5とピストン側室6とを連通する連通ポジションと、第一通路8を遮断してロッド側室5とピストン側室6との連通を断つ遮断ポジションとを備えている。そして、この第一開閉弁9は、通電時に連通ポジションを採り、非通電時に遮断ポジションを採るようになっている。
つづいて、ピストン側室6とタンク7とは、第二通路10によって連通されており、この第二通路10の途中には、第二開閉弁11が設けられている。第二開閉弁11は、電磁開閉弁とされており、第二通路10を開放してピストン側室6とタンク7とを連通する連通ポジションと、第二通路10を遮断してピストン側室6とタンク7との連通を断つ遮断ポジションとを備えている。そして、この第二開閉弁11は、通電時に連通ポジションを採り、非通電時に遮断ポジションを採るようになっている。
ポンプ12は、コントローラCに制御されて所定の回転数で回転するモータ15によって駆動され、本実施の形態では、一方向のみに作動油を吐出するギヤポンプとされている。そして、ポンプ12の吐出口は供給通路16によってロッド側室5へ連通されるとともに吸込口はタンク7に通じていて、ポンプ12は、モータ15によって駆動されるとタンク7から作動油を吸込んでロッド側室5へ作動油を供給する。
前述のようにポンプ12は、一定の回転数で回転するように制御され、一方向のみに作動油を吐出するのみで回転方向の切換動作がないので、回転切換時に吐出量が変化するといった問題は皆無である。さらに、ポンプ12の回転方向が常に同一方向であるので、ポンプ12を駆動する駆動源であるモータ15にあっても回転切換に対する高い応答性が要求されず、その分、モータ15も安価なものを使用できる。なお、供給通路16の途中には、ロッド側室5からポンプ12への作動油の逆流を阻止する逆止弁17が設けられている。なお、モータ15は、コントローラCによって制御される図示しないインバータ回路から電力供給を受けて駆動される。
さらに、本例の流体圧回路HCは、前述の構成に加えて、ロッド側室5とタンク7とを接続する排出通路21と、排出通路21の途中に設けた開弁圧を変更可能な電磁リリーフ弁22を備えている。
電磁リリーフ弁22は、本例では、比例電磁リリーフ弁とされており、供給する電流量に応じて開弁圧を調節でき、電流量を最大とすると開弁圧を最小とし、電流を供給しないと開弁圧を最大とするようになっている。
このように、排出通路21と電磁リリーフ弁22とを設けると、シリンダ本体Cyを伸縮作動させる際に、ロッド側室5内の圧力を電磁リリーフ弁22の開弁圧に調節でき、アクチュエータA1,A2の推力を電磁リリーフ弁22へ供給する電流量で制御できる。排出通路21と電磁リリーフ弁22とを設けると、アクチュエータA1,A2の推力を調節するために必要なセンサ類が不要となり、ポンプ12の吐出流量の調節のためにモータ15を高度に制御する必要もなくなる。よって、鉄道車両用制振装置1が安価となり、ハードウェア的にもソフトウェア的にも堅牢なシステムを構築できる。
なお、第一開閉弁9を連通ポジションとし第二開閉弁11を遮断ポジションとする場合或いは第一開閉弁9を遮断ポジションとし第二開閉弁11を連通ポジションとする場合、ポンプ12の駆動状況に関わらず、伸長或いは収縮のいずれか一方に対してのみアクチュエータA1,A2が減衰力を発揮できる。よって、たとえば、減衰力を発揮する方向が鉄道車両の台車T1,T2の振動により車体Bを加振する方向である場合、そのような方向には減衰力を出さないようにアクチュエータA1,A2を片効きのダンパとすることができる。よって、このアクチュエータA1,A2は、カルノップ理論に基づくセミアクティブ制御を容易に実現できるため、セミアクティブダンパとしても機能できる。
なお、電磁リリーフ弁22に与える電流量で開弁圧を比例的に変化させる比例電磁リリーフ弁を用いると開弁圧の制御が簡単となるが、開弁圧を調節できる電磁リリーフ弁であれば比例電磁リリーフ弁に限定されない。
そして、電磁リリーフ弁22は、第一開閉弁9および第二開閉弁11の開閉状態に関わらず、シリンダ本体Cyに伸縮方向の過大な入力があって、ロッド側室5の圧力が開弁圧を超える状態となると、排出通路21を開放する。このように、電磁リリーフ弁22は、ロッド側室5の圧力が開弁圧以上となると、ロッド側室5内の圧力をタンク7へ排出するので、シリンダ2内の圧力が過大となるのを防止してアクチュエータA1,A2のシステム全体を保護する。よって、排出通路21と電磁リリーフ弁22を設けると、システムの保護も可能となる。
さらに、本例のアクチュエータA1,A2における流体圧回路HCは、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油の流れのみを許容する整流通路18と、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油の流れのみを許容する吸込通路19を備えている。よって、本例のアクチュエータA1,A2では、第一開閉弁9および第二開閉弁11が閉弁する状態でシリンダ本体Cyが伸縮すると、シリンダ2内から作動油が押し出される。シリンダ2内から排出された作動油の流れに対して電磁リリーフ弁22が抵抗を与えるので、第一開閉弁9および第二開閉弁11が閉弁する状態では、本例のアクチュエータA1,A2はユニフロー型のダンパとして機能する。
より詳細には、整流通路18は、ピストン側室6とロッド側室5とを連通しており、途中に逆止弁18aが設けられ、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。さらに、吸込通路19は、タンク7とピストン側室6とを連通しており、途中に逆止弁19aが設けられ、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。なお、整流通路18は、第一開閉弁9の遮断ポジションを逆止弁とすると第一通路8に集約でき、吸込通路19についても、第二開閉弁11の遮断ポジションを逆止弁とすると第二通路10に集約できる。
このように構成されたアクチュエータA1,A2では、第一開閉弁9と第二開閉弁11がともに遮断ポジションを採っても、整流通路18、吸込通路19および排出通路21で、ロッド側室5、ピストン側室6およびタンク7を数珠繋ぎに連通させる。また、整流通路18、吸込通路19および排出通路21は、一方通行の通路に設定されている。よって、シリンダ本体Cyが外力によって伸縮すると、シリンダ2から必ず作動油が排出されて排出通路21を介してタンク7へ戻され、シリンダ2で足りなくなる作動油は吸込通路19を介してタンク7からシリンダ2内へ供給される。この作動油の流れに対して前記電磁リリーフ弁22が抵抗となってシリンダ2内の圧力を開弁圧に調節するので、アクチュエータA1,A2は、パッシブなユニフロー型のダンパとして機能する。
また、アクチュエータA1,A2の各機器への通電が不能となるようなフェール時には、第一開閉弁9と第二開閉弁11のそれぞれが遮断ポジションを採り、電磁リリーフ弁22は、開弁圧が最大に固定された圧力制御弁として機能する。よって、このようなフェール時には、アクチュエータA1,A2は、自動的に、パッシブダンパモードへ移行してパッシブダンパとして機能する。
つづいて、アクチュエータA1,A2に所望の伸長方向の推力を発揮させる場合、コントローラCは、基本的には、モータ15を回転させてポンプ12からシリンダ2内へ作動油を供給しつつ、第一開閉弁9を連通ポジションとし、第二開閉弁11を遮断ポジションとする。このようにすると、ロッド側室5とピストン側室6とが連通状態におかれて両者にポンプ12から作動油が供給され、ピストン3が図2中左方へ押されアクチュエータA1,A2は伸長方向の推力を発揮する。ロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力が電磁リリーフ弁22の開弁圧を上回ると、電磁リリーフ弁22が開弁して作動油が排出通路21を介してタンク7へ排出される。よって、ロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力は、電磁リリーフ弁22に与える電流量で決まる電磁リリーフ弁22の開弁圧にコントロールされる。そして、アクチュエータA1,A2は、ピストン3におけるピストン側室6側とロッド側室5側の受圧面積差に電磁リリーフ弁22によってコントロールされるロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力を乗じた値の伸長方向の推力を発揮する。
これに対して、アクチュエータA1,A2に所望の収縮方向の推力を発揮させる場合、コントローラCは、モータ15を回転させてポンプ12からロッド側室5内へ作動油を供給しつつ、第一開閉弁9を遮断ポジションとし、第二開閉弁11を連通ポジションとする。このようにすると、ピストン側室6とタンク7が連通状態におかれるとともにロッド側室5にポンプ12から作動油が供給されるので、ピストン3が図2中右方へ押されアクチュエータA1,A2は収縮方向の推力を発揮する。そして、前述と同様に、電磁リリーフ弁22の電流量を調節すると、アクチュエータA1,A2は、ピストン3におけるロッド側室5側の受圧面積と電磁リリーフ弁22にコントロールされるロッド側室5内の圧力を乗じた収縮方向の推力を発揮する。
また、アクチュエータA1,A2にあっては、アクチュエータとして機能するのみならず、モータ15の駆動状況に関わらず、第一開閉弁9と第二開閉弁11の開閉のみでダンパとしても機能できる。また、アクチュエータA1,A2をアクチュエータからダンパへ切換る際に、面倒かつ急峻な第一開閉弁9と第二開閉弁11の切換動作を伴わないので、応答性および信頼性が高いシステムを提供できる。
なお、本例のアクチュエータA1,A2にあっては、片ロッド型に設定されているので、両ロッド型のアクチュエータと比較してストローク長を確保しやすく、アクチュエータの全長が短くなって、鉄道車両への搭載性が向上する。
また、本例のアクチュエータA1,A2におけるポンプ12からの作動油供給および伸縮作動による作動油の流れは、ロッド側室5、ピストン側室6を順に通過して最終的にタンク7へ還流するようになっている。そのため、ロッド側室5或いはピストン側室6内に気体が混入しても、シリンダ本体Cyの伸縮作動によって自立的にタンク7へ排出されるので、推力発生の応答性の悪化を阻止できる。したがって、アクチュエータA1,A2の製造にあたって、面倒な油中での組み立てや真空環境下での組み立てを強いられず、作動油の高度な脱気も不要となるので、生産性が向上するとともに製造コストを低減できる。さらに、ロッド側室5或いはピストン側室6内に気体が混入しても、気体は、シリンダ本体Cyの伸縮作動によって自立的にタンク7へ排出されるので、性能回復のためのメンテナンスを頻繁に行う必要もなくなり、保守面における労力とコスト負担を軽減できる。
そして、このように構成されたアクチュエータA1,A2は、図1に示すように、共にシリンダ2が鉄道車両の車体Bの下方に垂下されるピンPに連結され、ロッド4が前後の台車T1,T2に連結されて、車体Bと前後の台車T1,T2との間に設置される。なお、図示はしないがポンプ12、モータ15および流体圧回路HCは、シリンダ2に取り付けられており、車体Bに設置されるコントローラCと図外の電源と配線で接続する必要があるので、車体Bとは左右方向へは相対移動しないシリンダ2を車体B側へ連結してある。
より詳細には、前側のアクチュエータA1は、車体Bに対して鉄道車両の進行方向左側、つまり、図1中ではピンPの下側に配置され、後側のアクチュエータA2は、車体Bに対して鉄道車両の進行方向右側、つまり、図1中ではピンPの上側に配置される。よって、前側アクチュエータA1は、伸長時に車体Bを図1中上側へ変位させるように設置されており、他方の後側アクチュエータA2は、伸長時に車体Bを図1中下側へ変位させるように設置される。
前述の配置(取付位置)では、前側アクチュエータA1が伸長して後側アクチュエータA2が前側アクチュエータA1と同速度で収縮すると、車体Bには、図1中で上側へ向くスエー加速度が作用する。逆に、前側アクチュエータA1が収縮して後側アクチュエータA2が前側アクチュエータA1と同速度で伸長すると、車体Bには、図1中で下側へ向くスエー加速度が作用する。つまり、前側アクチュエータA1と後側アクチュエータA2とが逆位相で伸縮すると、車体Bには、スエー加速度のみが作用する。また、前側アクチュエータA1と後側アクチュエータA2とがともに同位相で伸長すると、車体Bには、図1中で車体中心Gを中心として時計回りに回転させるヨー加速度が作用する。逆に、前側アクチュエータA1と後側アクチュエータA2とがともに同位相で収縮すると、車体Bには、図1中で車体中心Gを中心として反時計回りに回転させるヨー加速度が作用する。つまり、前側アクチュエータA1と後側アクチュエータA2とがともに同位相で伸縮すると、車体Bには、ヨー加速度のみが作用する。
つづいて、コントローラCは、図3に示すように、車体前側としての車体前部Bfの横方向の加速度α1を検知する前側加速度センサ41fと、車体後側としての車体後部Brの横方向の加速度α2を検知する後側加速度センサ41rと、前後のアクチュエータA1,A2が出力すべき制御力F1,F2を求めてモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11、電磁リリーフ弁22を駆動する制御部44と、制御部44が制御力F1,F2を求める際に使用する制御パラメータを補正する補正部45とを備えている。
前側加速度センサ41fは、車体Bの前側に設置されており、車体前部Bfの車両進行方向に対して横方向の加速度α1を検知する。後側加速度センサ41rは、車体Bの後側に設置されており、車体後部Brの車両進行方向に対して横方向の加速度α2を検知する。
前側加速度センサ41fと後側加速度センサ41rは、図1中左側へ向く方向の前側および後側の加速度α1,α2を正の値として検知し、反対に図1中右側へ向く方向の前側および後側の加速度α1,α2を負の値として検知する。
制御部44は、前後のアクチュエータA1,A2が出力すべき制御力F1,F2を求める制御力演算部44aと、制御力F1,F2に応じてモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11、電磁リリーフ弁22を駆動する駆動部44bとを備えている。
制御力演算部44aは、本例では、前側および後側の加速度α1,α2に基づいて、車体Bの車体中心Gの水平横方向の加速度であるスエー加速度と前後の台車T1,T2の直上における車体中心G周りの角加速度であるヨー加速度とを求める。そして、制御力演算部44aは、本実施の形態では、H∞制御器とされており、スエー加速度およびヨー加速度に基づいて、各アクチュエータA1,A2で個々に発生すべき制御力F1,F2を求める。具体的には、制御力演算部44aは、スエー加速度およびヨー加速度から車体Bのスエー方向の振動を抑制するスエー抑制力と車体Bのヨー方向の振動を抑制するヨー抑制力とを求める。さらに、制御力演算部44aは、スエー加速度とヨー加速度とを加算した値を2で割って前側アクチュエータA1の制御力F1を求め、スエー抑制力からヨー抑制力を差し引いた値を2で割って後側アクチュエータA2の制御力F2を求める。制御力演算部44aは、このようにして求めた制御力F1,F2を前後の各アクチュエータA1,A2に発揮させるべく、求めた制御力F1,F2を駆動部44bへ出力する。制御力演算部44aが出力する制御力F1,F2の符号は、前後の各アクチュエータA1,A2に伸長方向の推力を発揮させる際に正の符号を採り、前後の各アクチュエータA1,A2に収縮方向の推力を発揮させる際に負の符号を採るように設定されている。また、制御力演算部44aが出力する制御力F1,F2の値(レベル)は、制御力F1,F2の大きさを指示する値となっている。よって、コントローラCがアクチュエータA1,A2へ与える指令が指示する推力である指示推力は、制御力演算部44aが求めた制御力F1,F2となる。
駆動部44bは、モータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および電磁リリーフ弁22を駆動するドライバ回路を備えている。駆動部44bは、制御力演算部44aが求めた制御力F1,F2に応じて、各アクチュエータA1,A2におけるモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および電磁リリーフ弁22へ供給する電流量を制御して、制御力F1,F2通りに各アクチュエータA1,A2に推力を発揮させる。より具体的には、制御力F1,F2の符号が正である場合、駆動部44bは、各アクチュエータA1,A2を伸長させるべく、第一開閉弁9を開弁させつつ第二開閉弁11を閉弁させる。逆に、制御力F1,F2の符号が負である場合、駆動部44bは、各アクチュエータA1,A2を収縮させるべく、第一開閉弁9を閉弁させつつ第二開閉弁11を開弁させる。
また、駆動部44bは、制御力F1,F2の大きさに応じて電磁リリーフ弁22へ供給する電流量を調節して、各アクチュエータA1,A2の推力を調節する。前述したように、アクチュエータA1,A2の推力の調節は、電磁リリーフ弁22によって行われるので、駆動部44bは、制御力F1,F2が指示する推力の大きさによって、電磁リリーフ弁22に与える電流指令となる目標電流を求めて、電磁リリーフ弁22に流れる電流量を目標電流となるように調節する。駆動部44bは、制御力F1,F2から目標電流を求める際に制御力F1,F2に電流ゲインを乗じて目標電流を求める。本実施の形態の場合、電磁リリーフ弁22が非通電時に開弁圧を最大とするので、電流ゲインを大きくすればするほど電磁リリーフ弁22の開弁圧が低くなるように誘導される。なお、駆動部44bの処理で使用される電流ゲインは、初期設定では1に設定されるが、この値は後述する補正部45によって適宜補正されるようになっている。
また、駆動部44bは、モータ15を予め決められた所定回転速度で等速回転させように駆動して、ポンプ12から一定流量の作動油を吐出させる。駆動部44bは、モータ15の電流と回転数をモニタしており、回転数をフィードバックしてモータ15へ供給する電流量を調節しつつモータ15およびポンプ12を等速回転駆動する。
つづいて、補正部45は、図4に示すように、前後のアクチュエータA1,A2が出力する推力を推定する推力推定部45aと、推力推定部45aが推定した推定推力と制御力F1,F2とを比較した結果に基づいて制御パラメータを補正するパラメータ補正部45bとを備えている。
推力推定部45aは、モータ15の電流からモータ15のトルクを求めるトルク検知部45a1と、トルク検知部45a1が検知したトルクの高周波成分を除去するローパスフィルタ45a2と、ローパスフィルタ45a2で処理したトルクと摩擦トルクとに基づいて前後の各アクチュエータA1,A2の推定推力を求める推力演算部45a3とを備える。
コントローラCは、図5に示す手順に従って、前後の各アクチュエータA1,A2の推定推力を求める。まず、コントローラCは、ポンプ12を駆動し、第一開閉弁9および第二開閉弁11を開弁させるとともに電磁リリーフ弁22の開弁圧を最小にするように駆動部44bへ指令する(ステップS1)。このように第一開閉弁9および第二開閉弁11を開弁すると各アクチュエータA1,A2はアンロードされてポンプ12が駆動されても推力を発揮せずに伸長も収縮もしない。そして、このように各アクチュエータA1,A2をアンロードしつつ予め決められた暖機運転時間の間、ポンプ12を継続して駆動して、アクチュエータA1,A2を充分に暖機する。
暖気運転時間が過ぎると、制御部44が各アクチュエータA1,A2をアンロードしたままポンプ12を継続して駆動し、推力推定部45aは、ポンプ12の摩擦トルクを求める処理(ステップS2)を行う。ここで、モータ15は、ポンプ12を等速回転するように駆動部44bによって電流制御されている。ポンプ12が吐出する作動油は、各アクチュエータA1,A2がアンロード状態であると、第一通路8および第二通路10を通じてタンク7へ戻されるのでポンプ12はシリンダ2内の圧力の抵抗を受けずに回転する状態となる。よって、モータ15がポンプ12を等速回転する際に発揮しているトルクはポンプ12の回転に伴う動摩擦による抵抗分の摩擦トルクに略等しい。モータ15が予め決められた回転速度で駆動されており、モータ15に流れる電流をモニタすれば、モータ15に流れる電流と回転速度とモータ15の特性からモータ15が発揮しているトルクが得られる。モータ15を駆動する際に駆動部44bは、図示しない電流センサによってモータ15の電流をモニタしているので、トルク検知部45a1は電流センサでモータ15に流れる電流を把握できる。そこで、推力推定部45aは、ステップS2の処理では、各アクチュエータA1,A2をアンロードする際のモータ15の電流値からポンプ12の摩擦トルクを求める。
そして、摩擦トルクが得られたら、引き続いて、コントローラCは、鉄道車両の停車中であって車体Bに外力が作用しない状態において、各アクチュエータA1,A2に予め決められた所定推力を発揮させつつ車体Bをヨー加速度のみが作用するようにヨー方向へ加振するヨー加振を行う(ステップS3)。つまり、制御部44が車体Bをヨー加振するように制御力F1,F2を各アクチュエータA1,A2へ出力する。車体Bにヨー加速度のみを作用させるように加振するには、前側アクチュエータA1と後側アクチュエータA2とを同位相で同周波数、同振幅の正弦波で伸縮させればよい。したがって、制御部44は、第一開閉弁9と第二開閉弁11を交互に開閉するとともに、各アクチュエータA1,A2に予め決められた所定の推力を発揮させるように電磁リリーフ弁22に通電する。
このように各アクチュエータA1,A2が推力を発揮できる状態では、ロッド側室5へ作動油を供給するポンプ12は、ロッド側室5の圧力の抵抗を受けるようになる。推力推定部45aは、この状態で、トルク検知部45a1によってモータ15のトルクを検知し(ステップS4)、検知したトルクの高周波成分をローパスフィルタ45a2で処理して(ステップS5)ノイズを取り除く。
ポンプ12は、ロッド側室5の圧力に対抗してモータ15によって等速回転駆動されるため、モータ15のトルクはロッド側室5の圧力に対抗するトルクとポンプ12の摩擦トルクの合力となる。ポンプ12が受ける圧力に対してモータ15が出力する必要があるトルクは、予めポンプ12の効率等から把握でき、前述のようにモータ15に流れる電流からモータ15のトルクを把握できる。よって、この状況でトルク検知部45a1が検知したモータ15のトルクには、ステップS2で検知した摩擦トルクが含まれている。また、モータ15のトルクから摩擦トルクを除いたトルクと各アクチュエータA1,A2の推力は、図6に示すように、略比例関係にある。各アクチュエータA1,A2の推力が0であるのにモータ15のトルクが0にならないのは、ポンプ12の駆動に必要な摩擦トルクに起因している。摩擦トルクは、モータ15のトルクと各アクチュエータA1,A2の推力との特性線と横軸との交点を決定しており、前記特性線の横軸に対するオフセット量として捉えられる。よって、摩擦トルクが変化すると、前記特性線は、図6中で左右方向へ移動するが、ポンプ12の使用期間が長くなると摺動部が摩耗して摩擦トルクは減る傾向になるので、ポンプ12の使用期間が長くなると特性線が図6中原点側にシフトするようになる。なお、モータ15のトルクと各アクチュエータA1,A2の推力の関係は、最小二乗法によって近似的に関数で表現でき、推力演算部45a3は、関数を用いてローパスフィルタ45a2で処理したモータ15のトルクから各アクチュエータA1,A2の推力を求める(ステップS6)。モータ15のトルクから把握できるのは、各アクチュエータA1,A2の推力の大きさのみであるから、このステップS6の処理では、推力推定部45aは、制御力F1,F2の符号を参照して各アクチュエータA1,A2の伸縮方向を判断し推定推力の符号を決定する。各アクチュエータA1,A2が正弦波で伸縮するので、各アクチュエータA1,A2が正常であれば、コントローラCが求めた推定推力も正弦波で推移する。
なお、モータ15のトルクが摩擦トルク以下の場合、各アクチュエータA1,A2の推力を0と看做すようにしている。0近傍の値の各アクチュエータA1,A2の推定推力は、制御パラメータの補正に影響を与えないので、モータ15のトルクが摩擦トルク以下である場合に各アクチュエータA1,A2が実際に出力する推力の値を正確に推定する意義はない。よって、モータ15のトルクが摩擦トルク以下の場合に各アクチュエータA1,A2の推力を0と看做せば、各アクチュエータA1,A2の推力の推定の演算が容易となる。
推力推定部45aは、少なくとも各アクチュエータA1,A2を正弦波で一周期以上ストロークさせて、所定時間の間、各アクチュエータA1,A2の推定推力を求めて、必要なサンプル数の推定推力が得られたら推力を推定する処理を終了する。所定時間は、任意に設定でき、各アクチュエータA1,A2のストローク周期の整数倍に設定すればよい。
なお、推力推定部45aは、車体Bをヨー加振する際に、各アクチュエータA1,A2を車体Bと車体Bを支持するばねでなるばねマス系の共振周波数からずれた周波数でストロークさせる。このようにすると、車体Bの振幅が過剰に励起されないので、各アクチュエータA1,A2のストローク量が小さくなる。製品出荷時に各アクチュエータA1,A2の推力を検定する場合、各アクチュエータA1,A2を伸縮させずに推力を発揮させる試験が行われる。鉄道車両に搭載された状態では車体Bが動くものの、各アクチュエータA1,A2を車体Bと車体Bを弾性支持するばねとでなるばねマス系の共振周波数からずれた周波数でストロークさせると車体Bの動きが抑えられ、製品出荷時の試験に近い状態で推力を推定できる。各アクチュエータA1,A2のストロークの周波数が前記共振周波数よりも高くなればなるほど、車体Bの振動振幅が小さくなるので、推定推力を得る際に各アクチュエータA1,A2を高速でストロークさせてもよい。
また、車体Bにスエー加速度のみが作用するように車体Bをスエー加振すると、車体Bがばねで支持されている関係上、車体Bがロールする。車体Bがロールすると、各アクチュエータA1,A2が車体Bのロールを受けて伸縮するとともに、各アクチュエータA1,A内で流量が変動するので、正確に推力を推定しにくくなる。これに対して、ヨー加振では、車体中心G周りに回転するように振動し、車体Bの前方と後方で互い違いに各アクチュエータA1、A2によって押されるために、車体Bのロールが抑えられる。よって、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1のように車体Bをヨー加振して各アクチュエータA1,A2の推力を推定すると、実際に各アクチュエータA1,A2が発揮している推力に極めて近い推定推力が得られる。なお、車体Bをスエー加振して各アクチュエータA1,A2の推力を推定することも可能である。
このようにして所定時間中にサンプリングされた推定推力と制御部44が前記ヨー加振中に各アクチュエータA1,A2に与えられた指示推力は、順次、パラメータ補正部45bに入力される。パラメータ補正部45bは、サンプリングされた推定推力に基づいて制御パラメータを補正する。コントローラCは、図7に示す手順に従って制御パラメータを補正する。
まず、コントローラCは、得られた推定推力の片振幅最大値を各アクチュエータA1,A2毎に求める(ステップS11)。各アクチュエータA1,A2の推定推力が正の値を採る場合、伸長方向の推力を示しており、各アクチュエータA1,A2の推定推力が負の値を採る場合、収縮方向の推力を示している。ステップS11の処理では、コントローラCは、片振幅最大値である各アクチュエータA1,A2の推定推力における伸長側の振幅最大値と収縮側の振幅最大値を求める。このように片振幅最大値は、伸長側の振幅の最大値と収縮側の振幅の最大値であり、ともに正の値を採る。つづいて、コントローラCは、各アクチュエータA1,A2毎に二つの推定推力における片振幅最大値の和を2で割って、推定推力における片振幅最大値の平均値Aeを求める(ステップS12)。
さらに、コントローラCは、推定推力を求める際に制御部44が車体Bをヨー加振するように各アクチュエータA1,A2に出力した指令が指示する指示推力である制御力F1,F2の片振幅最大値を各アクチュエータA1,A2毎に求める(ステップS13)。各アクチュエータA1,A2へ与える制御力F1,F2が正の値を採る場合、伸長方向の推力を示しており、各アクチュエータA1,A2へ与える制御力F1,F2が負の値を採る場合、収縮方向の推力を示している。ステップS13の処理では、コントローラCは、制御力F1,F2の片振幅最大値である各アクチュエータA1,A2の指示推力における伸長側の振幅最大値と収縮側の振幅最大値を求める。このように片振幅最大値は、伸長側の振幅の最大値と収縮側の振幅の最大値であり、ともに正の値を採る。つづいて、コントローラCは、各アクチュエータA1,A2毎に、二つの指示推力における片振幅最大値の和を2で割って、指示推力における片振幅最大値の平均値Aiを求める(ステップS14)。
さらに、コントローラCは、各アクチュエータA1,A2毎に、推定推力の片振幅最大値の平均値Aeと指示推力の片振幅最大値の平均値Aiとの偏差εを求める(ステップS15)。コントローラCは、ステップS15で求めた偏差εの絶対値と閾値δとを比較して、偏差εの絶対値が閾値δを超えているか否かを判断する(ステップS16)。閾値δは、車体Bを加振する際の推力に応じて任意に設定できる。偏差εの絶対値が閾値δを超える場合、アクチュエータA1,A2のうち偏差εの絶対値が閾値δを超えるアクチュエータは指示推力に対して狙い通りの推力を発揮していない状況となっている。このような推定推力と指示推力とに乖離があるアクチュエータについては、制御パラメータを変更しなければならない。
よって、偏差εの絶対値が閾値δを超えている場合、コントローラCは、推定推力の片振幅最大値の平均値Aeと指示推力の片振幅最大値の平均値Aiとを比較して、平均値Aeが平均値Aiよりも大きいか否かを判断する(ステップS17)。ステップS15からステップS17の処理は、各アクチュエータA1,A2毎に推定推力の片振幅最大値の平均値Aeと指示推力の片振幅最大値の平均値Aiを求めて行われる。
そして、平均値Aeが平均値Aiよりも大きい場合、コントローラCは、各アクチュエータA1,A2のうち平均値Aeが平均値Aiよりも大きくなったアクチュエータの制御で使用される制御パラメータを各アクチュエータA1,A2の推力が小さくなるように補正する(ステップS18)。本実施の形態では、コントローラCは、電磁リリーフ弁22の電流ゲインを制御パラメータとして、電流ゲインの現在値に予め決められた加算値を加算して電流ゲインの値を更新して次回の各アクチュエータA1,A2の制御に利用する。電流ゲインを大きくすればするほど電磁リリーフ弁22の開弁圧が低くなるので、このように電流ゲインの値が更新されると、次回制御時にはアクチュエータが発揮する推力が低下する方向に誘導される。
他方、平均値Aeが平均値Aiよりも小さい場合、コントローラCは、各アクチュエータA1,A2のうち平均値Aeが平均値Aiよりも小さくなったアクチュエータの制御で使用される制御パラメータを各アクチュエータA1,A2の推力が大きくなるように補正する(ステップS19)。本実施の形態では、コントローラCは、電磁リリーフ弁22の電流ゲインを制御パラメータとして、電流ゲインの現在値に予め決められた減算値を減算して電流ゲインの値を更新して次回の各アクチュエータA1,A2の制御に利用する。電流ゲインを小さくすればするほど電磁リリーフ弁22の開弁圧が高くなるので、このように電流ゲインの値が更新されると、次回制御時にはアクチュエータが発揮する推力が増大する方向に誘導される。
ステップS18,S19の処理が終わると制御パラメータを補正した回数である補正回数が予め決められた回数閾値を超えるか否かを判断する(ステップS20)。補正回数が回数閾値以下である場合、コントローラCは、補正後の制御パラメータを利用して車体Bをヨー加振して各アクチュエータA1,A2の推力を推定してからステップS11の処理に戻る。この場合、推定推力を求める処理のうち、摩擦トルクが既に求められているで、ステップS1,S2の処理は省略される。また、補正回数が回数閾値を超える場合、制御パラメータの変更を行う処理から脱出できなくならないように、制御パラメータの変更処理を中止する。回数閾値は、任意に設定できる。
なお、制御パラメータは、本実施の形態では、電磁リリーフ弁22へ与える目標電流を得る際に使用される電流ゲインとされているが、制御力F1,F2を求める過程で利用されて制御力F1,F2を大小させ得るパラメータであってもよい。また、パラメータ補正部45bは、制御力F1,F2を求める過程で利用されて制御力F1,F2を大小させ得るパラメータと電流ゲインの両方を補正するようにしてもよい。
また、ステップS16の判断で偏差εの絶対値が閾値δ以下である場合、アクチュエータA1,A2の双方は、指示推力に対して狙い通りの推力を発揮している。このような推定推力と指示推力とに乖離がない場合、各アクチュエータA1,A2の制御にあたり制御パラメータを変更する必要はないので、コントローラCは、ステップS21の処理へ移行する。
ステップS21の処理では、コントローラCは、各アクチュエータA1,A2毎に二つの推定推力における片振幅最大値の差dを求めて、差dが振幅差閾値γを超えているか否かを判断する。そして、コントローラCは、差dが振幅差閾値γを超える場合、各アクチュエータA1,A2のうち、差dが振幅差閾値γを超えたアクチュエータについてエラー有りとして鉄道車両の情報を監視する図示しない車両モニタ装置へエラー信号を出力する(ステップS22)。二つの片振幅最大値は、前述したように、各アクチュエータA1,A2の伸長側の振幅最大値と収縮側の振幅最大値であり、両者の差dが大きく異なっている場合、アクチュエータA1,A2の第一開閉弁9或いは第二開閉弁11に異常がある。たとえば、第一開閉弁9が閉じたまま切換不能となるとアクチュエータA1,A2は伸長側へ推力を発揮できるが収縮側へ推力を発揮できなくなり、第一開閉弁9が開いたまま切換不能となるとアクチュエータA1,A2は収縮側へ推力を発揮できるが伸長側へ推力を発揮できなくなる。また、第二開閉弁11が閉じたまま切換不能となるとアクチュエータA1,A2は伸長側へ推力を発揮できるが収縮側へ推力を発揮できなくなり、第二開閉弁11が開いたまま切換不能となるとアクチュエータA1,A2は収縮側へ推力を発揮できるが伸長側へ推力を発揮できなくなる。アクチュエータA1,A2がこのような故障モードとなると、二つの片振幅最大値の差dが大きくなるので、アクチュエータA1,A2の異常を検知できる。
他方、コントローラCは、ステップS21の判断において差dが振幅差閾値γ以下である場合、各アクチュエータA1,A2はともに正常であるので、制御パラメータを補正する処理を終了する。以上の処理を行って、コントローラCは、各アクチュエータA1,A2を制御する制御パラメータを補正して制御の際に利用できるようにコントローラC内の図示しない記憶装置に格納する。
このように鉄道車両用制振装置1は、コントローラCの指示推力に対してアクチュエータA1,A2が指示推力通りに推力を発揮するように制御パラメータを補正できる。つまり、コントローラCは、アクチュエータA1,A2の制御にあたって使用する制御パラメータを予めアクチュエータA1,A2の推力が指示推力通りになるように補正できる。
以上のように、本発明の鉄道車両用制振装置1は、鉄道車両の車体Bと台車T1,T2との間に介装されるアクチュエータA1,A2と、アクチュエータA1,A2を制御するコントローラCとを備え、コントローラCがアクチュエータA1,A2の推力を推定し、推定した推力である推定推力とアクチュエータA1,A2へ与える指令が指示する推力である指示推力とに基づいて制御パラメータを補正し、制御パラメータを使用してアクチュエータA1,A2を制御する。
このように構成された鉄道車両用制振装置1では、推定推力と指示推力とに基づいて制御パラメータを補正し、制御パラメータを使用してアクチュエータA1,A2を制御するので、コントローラCとアクチュエータA1,A2とに製品誤差があっても、コントローラCで使用する制御パラメータが実際に組み合わされるアクチュエータA1,A2に指示推力通りに推力を発揮させ得るように最適化される。よって、製品出荷時に製品誤差があるコントローラCおよびアクチュエータA1,A2で鉄道車両用制振装置1を構成してもアクチュエータA1,A2は指示推力通りに推力を発揮できる。また、コントローラCおよびアクチュエータA1,A2がメンテナンス時に今まで搭載されていた鉄道車両とは異なる鉄道車両へ別々に付替えられても、コントローラCで使用する制御パラメータが新たに組となったアクチュエータA1,A2に最適化されるので、鉄道車両用制振装置1は狙い通りに推力を発揮できる。
以上、本発明の鉄道車両用制振装置1によれば、コントローラCとアクチュエータA1,A2の組み合わせに限らず狙い通りの推力を発揮できる。また、鉄道車両用制振装置1は、アクチュエータA1,A2の推力を制御している最中にフィードバック制御によって制御パラメータを補正するものとは異なり、コントローラCが使用する制御パラメータを予めアクチュエータA1,A2の制御に適するように補正するので、制御し始めから車両における乗心地を向上でき、しかも制御発振の恐れもない。
なお、本実施の形態では、コントローラCが二つのアクチュエータA1,A2を制御しているが、コントローラCが一つのみのアクチュエータを制御するようにしてもよい。この場合、コントローラCは、たとえば、アクチュエータが設置される台車直上の車体Bの横方向の加速度に基づいてこの加速度を低減するようにアクチュエータに推力を発揮させる制御を行うようにすればよく、この制御に使用する制御パラメータを補正すればよい。
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、コントローラCが所定時間に求められる推定推力の片振幅最大値の平均値Aeと、所定時間にアクチュエータA1,A2に与えられる指示推力の片振幅最大値の平均値Aiとの比較結果に基づいて前記制御パラメータを補正する。このように構成された鉄道車両用制振装置1は、推定推力の片振幅最大値の平均値Aeと指示推力の片振幅最大値の平均値Aiとを用いるので、制御パラメータの補正にあたってアクチュエータA1,A2の推力を大きくすべきか、小さくすべきかの判断ができる。よって、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1によれば、短時間でアクチュエータA1,A2の推力を指示推力通りにするように制御パラメータを補正できる。
さらに、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、コントローラCが推定推力の片振幅最大値の平均値Aeと指示推力の片振幅最大値の平均値Aiとの偏差εが閾値δを超えると制御パラメータを補正する。よって、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1によれば、推定推力の片振幅最大値の平均値Aeと指示推力の片振幅最大値の平均値Aiとの偏差εによって制御パラメータを補正するので、指示推力に対して推定推力が時間遅れによる位相ずれがあっても、位相差を補償するようなフィルタ処理等を行う必要もなく、簡単に制御パラメータを補正できる。
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、コントローラCが所定時間に推定される推定推力の伸長側の片振幅最大値と収縮側の片振幅最大値の差dが振幅差閾値γを超えるとアクチュエータA1,A2が異常であると判断するので、制御パラメータの補正処理を行うと同時にアクチュエータA1,A2の異常を検知できる。
そして、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、アクチュエータA1,A2がモータ15によって駆動され、コントローラCがモータ15のトルクに基づいてアクチュエータの推力を推定する。このように構成された鉄道車両用制振装置1によれば、アクチュエータA1,A2の推力をモータ15の電流から推定可能となり、アクチュエータA1,A2の推力を推定するだけに利用されるセンサの設置も不要となり安価となる。なお、本実施の形態では、アクチュエータA1,A2がモータ15によって駆動されるポンプ12から作動油(作動流体)の供給を受けて伸縮するようになっているが、アクチュエータA1,A2は、モータとモータの回転運動を直線運動に変換する送り螺子機構等の運動変換機構とでなるアクチュエータであってもよい。このようにアクチュエータA1,A2が構成されても、運動変換機構による減速比が既知であるからモータ15のトルクをモニタすればアクチュエータA1,A2の推力を推定できる。
さらに、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、アクチュエータA1,A2がモータ15と、モータ15によって駆動されるポンプ12とを有し、ポンプ12からの作動流体の供給を受けて推力を発揮し、コントローラCがモータ15のトルクとポンプ12の摩擦トルクとに基づいてアクチュエータA1,A2の推力を推定する。ポンプ12の摩擦トルクは、ポンプ12の使用時間に応じて低下し、変動するが、このように構成された鉄道車両用制振装置1は、ポンプ12の摩擦トルクを加味してアクチュエータA1,A2の推力を推定するから、アクチュエータA1,A2の経年劣化の影響によらずアクチュエータA1,A2の推力を正確に推定できる。
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、アクチュエータA1,A2がシリンダ2と、シリンダ2内に移動可能に挿入されるピストン3、シリンダ2に挿入されるとともにピストン3に連結されるロッド4、シリンダ2内にピストン3で区画したロッド側室5とピストン側室6と、タンク7と、タンク7から作動油(作動流体)を吸い上げてロッド側室5へ作動油(作動流体)を供給可能なポンプ12と、ポンプ12を駆動するモータ15と、ロッド側室5とピストン側室6とを連通する第一通路8の途中に設けた第一開閉弁9と、ピストン側室6とタンク7とを連通する第二通路10の途中に設けた第二開閉弁11と、ロッド側室5とタンク7とを接続する排出通路21の途中に設けた電磁リリーフ弁22と、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油(作動流体)の流れのみを許容する整流通路18と、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油(作動流体)の流れのみを許容する吸込通路19とを有し、制御パラメータが電磁リリーフ弁22へ与える電流指令における電流ゲインである。このように構成された鉄道車両用制振装置1では、電磁リリーフ弁22の電流制御でアクチュエータA1,A2の推力を調整でき、電磁リリーフ弁22へ与える電流指令における電流ゲインとするので電流ゲインの補正でアクチュエータA1,A2の推力を容易に大小調節し得る。
さらに、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、アクチュエータA1,A2が車体Bと車体Bの前後の台車T1,T2との間にそれぞれ介装されており、コントローラCがアクチュエータA1,A2の推力の推定に際して車体Bの前後のアクチュエータA1,A2で車体Bをヨー方向に加振する。このように構成された鉄道車両用制振装置1は、アクチュエータA1,A2の推力を推定する際に車体Bをヨー方向に加振するので、車体Bのロールが抑えられて実際にアクチュエータA1,A2が発揮している推力に極めて近い推定推力が得られる。
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、アクチュエータA1,A2の推力を推定する際に、コントローラCが車体Bの共振周波数と異なる周波数で車体Bを加振する。このように構成された鉄道車両用制振装置1では、アクチュエータA1,A2の車体Bを加振する際の車体Bの動きが抑えられるので、鉄道車両に搭載された状態においても製品出荷時の試験に近い状態でアクチュエータA1,A2の推力を推定できるから、より正確にアクチュエータA1,A2の推力を推定できる。
なお、前述したところでは、制御パラメータの補正にあたり、或る所定の指示推力と、この指示推力に対するアクチュエータA1,A2の推定推力との比較によって制御パラメータを補正している。したがって、前記した所定の指示推力に対して制御パラメータが最適となるようにチューニングされるので、コントローラCが指令する推力が前記所定の指示推力と同じ値となるとアクチュエータA1,A2は前記所定の指示推力と同じ値の推力を発揮するようになる。電磁リリーフ弁22の開弁圧がコントローラCから供給される電流量に対して線形であれば、制御パラメータの補正にあたりコントローラCが前記指示推力と値が異なる推力を指令しても、アクチュエータA1,A2の推力はコントローラCが指令する推力通りとなる。ところが、電磁リリーフ弁22の開弁圧が電流量に対して非線形であるような場合には、一つの指示推力に対して制御パラメータを最適化しても推力調整幅の全域のうちアクチュエータA1,A2の推力と指令した推力との差が大きくなる領域ができる場合がある。そして、指令した推力が極小さな推力を指示する場合、アクチュエータA1,A2の推力が指令した推力よりも大きくなってしまうと鉄道車両における台車T1,T2の振動や車体B自体の弾性振動を励起してしまう可能性がある。台車T1,T2の共振周波数帯は、車体Bが台車T1,T2に対して横方向へ振動する際の共振周波数帯よりも高く、また、車体B自体の弾性振動の共振周波数帯も台車T1,T2の共振周波数帯よりもさらに高いので、台車T1,T2の振動や車体B自体の弾性振動の共振周波数帯の振幅は小さい。そして、台車T1,T2や車体B自体の共振周波数帯の振動を抑制するためにコントローラCがアクチュエータA1,A2に発揮させる推力は小さいため、指令した推力が極小さな推力を指示する場合にアクチュエータA1,A2の推力が指令した推力よりも大きくなってしまうと台車T1,T2の振動や車体B自体の振動を励起してしまうのである。
よって、電磁リリーフ弁22の開弁圧が供給される電流量に対して非線形な特性を有する場合、値の異なる複数の指示推力毎に最適な制御パラメータを設定して、コントローラCが実際に指令する推力に応じてこの指令推力に適した制御パラメータを使用して電磁リリーフ弁22に電流供給すればよい。
そこで、一実施の形態の第一変形例における鉄道車両用制振装置1におけるコントローラC1では、値の異なる推力を発生させるのに適する制御パラメータとして予め0.5kNの推力に適した電流ゲインGL、1kNの推力に適した電流ゲインGMおよび3kNに適した電流ゲインGHの三つの電流ゲインGL,GM,GHを用意しており、制御力F1,F2の値に応じて三つの電流ゲインGL,GM,GHのうちから最適な電流ゲインを選択して電流指令を求めるようにしている。そのため、鉄道車両用制振装置1におけるコントローラC1は、図8に示すように、駆動部44bが電流ゲインGL,GM,GHのうちから制御力F1,F2に適する電流ゲインを選択する電流ゲイン選択部44b1と、電流ゲイン選択部44b1によって選択された電流ゲインを制御力F1,F2に乗じて電流指令としての目標電流を求める電流指令演算部44b2と、電流指令演算部44b2が求めた目標電流通りに電磁リリーフ弁22へ電流を供給するドライバ44b3とを備えている。
詳細には、制御力F1,F2が指示する推力に対して三つの区分を設けており、駆動部44bは、電流ゲインGL,GM,GHのうちから制御力F1,F2が指示する推力が属する区分に対応する電流ゲインを利用して目標電流を求める。区分は、0.75kN未満の低区分と、0.75kN以上2.5kN未満の中区分と、2.5kN以上の高区分の三つとされ、低区分に対しては0.5kNの指示推力に最適化された電流ゲインGLが、中区分に対しては1kNの指示推力に最適化された電流ゲインGMが、高区分に対しては3kNの指示推力に最適化された電流ゲインGHがそれぞれ関連づけられる。
そして、電流ゲイン選択部44b1は、制御力演算部44aが求めた制御力F1,F2が低区分、中区分、高区分のいずれの区分に属しているかを判断して、電流ゲインGL,GM,GHのうち前記制御力F1,F2が属する区分に関連付けされた電流ゲインを選択する。また、電流指令演算部44b2は、制御力F1,F2に選択した電流ゲインを乗じて目標電流を求める。駆動部44bは、たとえば、図9に示すように、制御力F1,F2が0.75kN未満であるかを判断して(ステップS31)、制御力F1,F2が0.75kN未満である場合には、0.5kNの指示推力に対応した電流ゲインGLを制御力F1,F2に乗じて目標電流を求める(ステップS32)。また、駆動部44bは、制御力F1,F2が0.75kN以上である場合には、制御力F1,F2が2.5kN未満であるかを判断して(ステップS33)、制御力F1,F2が2.5kN未満である場合には、1kNに対応した電流ゲインGMを制御力F1,F2に乗じて目標電流を求める(ステップS34)。また、駆動部44bは、制御力F1,F2が2.5kN以上である場合には、3kNの指示推力に対応した電流ゲインGHを制御力F1,F2に乗じて目標電流を求める(ステップS35)。
このように駆動部44bが目標電流を求めると、制御力F1,F2が低い場合には低い推力に適した電流ゲインGLを用いて目標電流が求められ、制御力F1,F2が中程度の場合には中程度の推力に適した電流ゲインGMを用いて目標電流が求められ、制御力F1,F2が高い場合には高推力に適した電流ゲインGHを用いて目標電流が求められる。
ドライバ44b3は、電流指令演算部44b2が求めた電流指令通りに電磁リリーフ弁22へ電流を供給し、モータ15を前記所定回転速度で等速回転させるとともに、第一開閉弁9および第二開閉弁11に対しては制御力F1,F2の符号に基づいて電流供給する。
そして、一実施の形態の第一変形例における鉄道車両用制振装置1では、三つの電流ゲインGL,GM,GHは、コントローラC1によって、以下のように補正される。具体的には、たとえば、まず初めにポンプ12の摩擦トルクを求めた後、予め決めておいた三つの値の異なる指示推力で各アクチュエータA1,A2を駆動して車体Bをヨー加振する。そして、三つの値の異なる指示推力毎にモータ15のトルクを検知して各アクチュエータA1,A2の推力を推定する。つまり、コントローラC1は、図5中に示したステップS1からステップS2の処理を行って摩擦トルクを求めた後は、指示推力毎にステップS3からステップS6までの処理を繰り返して、三つの指示推力毎に対応する推定推力を得る。本実施の形態では、指示推力を0.5kN、1kNおよび3kNとしている。よって、推力推定部45aは、指示推力を変更しながらステップS3からステップS6までの処理を繰り返し、0.5kNの指示推力で各アクチュエータA1,A2を駆動して車体Bをヨー加振した際に得られたモータ15のトルクから各アクチュエータA1,A2の推定推力を求め、1kNの指示推力で各アクチュエータA1,A2を駆動して車体Bをヨー加振した際に得られたモータ15のトルクから各アクチュエータA1,A2の推定推力を求め、さらには、3kNの指示推力で各アクチュエータA1,A2を駆動して車体Bをヨー加振した際に得られたモータ15のトルクから各アクチュエータA1,A2の推定推力を求める。
このようにして得られた異なる指示推力毎の推定推力は、制御部44が前記ヨー加振中に各アクチュエータA1,A2に与えられた指示推力に紐づけされて、順次、パラメータ補正部45bに入力される。パラメータ補正部45bは、異なる指示推力毎にサンプリングされた推定推力に基づいて、各指示推力の出力に適した制御パラメータを求める。具体的には、パラメータ補正部45bは、指示推力毎の制御パラメータとして電流ゲインGL,GM,GHを補正する。
指示推力毎の制御パラメータの求め方は、各指示推力と指示推力毎に得られた推定推力とを図7に示したステップS11からステップS22までの処理を行って、それぞれの指示推力毎に制御パラメータを最適となるように補正すればよい。具体的には、コントローラC1は、ステップS11からステップS22までの処理を行って、0.5kNの指示推力に対して得られた推定推力から片振幅最大値の平均値Aeを求め、指示推力の片振幅最大値の平均値Aiを求め、平均値Aeと平均Aiとの差εがδを超える場合、Ae>Aiならば0.5kNの推力に対応する電流ゲインGLを各アクチュエータA1,A2の推力が小さくなるように補正し、Ae>Aiでなければ0.5kNの推力に対応する電流ゲインGLを各アクチュエータA1,A2の推力が大きくなるように補正する。なお、コントローラC1は、制御パラメータの補正を行うだけであればステップS11からステップS19までの処理を行えばよいが、本実施の形態では、ステップS20からステップS22までの処理も行ってアクチュエータA1,A2の異常の検知も行う。
また、コントローラC1は、ステップS11からステップS22までの処理を行って、1kNの指示推力に対して得られた推定推力から片振幅最大値の平均値Aeを求め、指示推力の片振幅最大値の平均値Aiを求め、平均値Aeと平均Aiとの差εがδを超える場合、Ae>Aiならば1kNの推力に対応する電流ゲインGMを各アクチュエータA1,A2の推力が小さくなるように補正し、Ae>Aiでなければ1kNの推力に対応する電流ゲインGMを各アクチュエータA1,A2の推力が大きくなるように補正する。さらに、コントローラC1は、ステップS11からステップS22までの処理を行って、3kNの指示推力に対して得られた推定推力から片振幅最大値の平均値Aeを求め、指示推力の片振幅最大値の平均値Aiを求め、平均値Aeと平均Aiとの差εがδを超える場合、Ae>Aiならば3kNの推力に対応する電流ゲインGHを各アクチュエータA1,A2の推力が小さくなるように補正し、Ae>Aiでなければ3kNの推力に対応する電流ゲインGHを各アクチュエータA1,A2の推力が大きくなるように補正する。なお、本実施の形態では、コントローラC1は、1kNおよび3kNの指示推力に対応した制御パラメータの補正に際してもそれぞれステップS20からステップS22の処理を行ってアクチュエータA1,A2の異常を検知する。
コントローラC1は、0.5kN、1kNおよび3kNの指示推力毎に対応する制御パラメータの補正を行うべくステップS11からステップS19までの処理を繰り返し行って指示推力毎の制御パラメータの補正を終えてからステップS20からステップS22の処理を行ってアクチュエータA1,A2の異常の検知を行ってもよい。その場合の補正回数のカウントは、指示推力毎に別々にカウントして回数閾値と比較してもよいし、指示推力毎の補正回数の総和を補正回数として回数閾値と比較してもよい。また、各アクチュエータA1,A2毎の片振幅最大値の差dと振幅差閾値γとの比較は、第一開閉弁9或いは第二開閉弁11に異常がある場合、いずれの指示推力に対する推定推力でも同様の結果が得られるため、三つの指示推力のうちいずれか一つの指示推力に対する各アクチュエータA1,A2の推定推力の片振幅最大値の差を用いて行えばよい。
そして、コントローラC1は、0.5kN、1kNおよび3kNの指示推力に対する制御パラメータとしての電流ゲインGL,GM,GHは補正されて更新され、次回制御時に駆動部44bは、最新の電流ゲインを制御力F1,F2が指示する推力に乗じて目標電流を求める。
このように、本実施の形態の第一変形例の鉄道車両用制振装置1は、複数の指示推力毎に対応する複数の電流ゲインGL,GM,GHを有し、各アクチュエータA1,A2に出力させるべき制御力F1,F2の値に基づいて電流ゲインを選択し、選択した電流ゲインを用いて電流指令を得るようにしている。よって、開弁圧が供給される電流量に対して非線形な特性を持つ電磁リリーフ弁22を制御する場合であっても、電流ゲインが補正によって最適化され、コントローラC1が指令する推力に適した電流ゲインを選択して電流指令を得ることができる。したがって、このように構成された鉄道車両用制振装置1によれば、推力調整幅全域で各アクチュエータA1,A2が発生する推力をコントローラC1が指令する推力通りに制御できる。そして、コントローラC1が指令する推力が低い場合にも各アクチュエータA1,A2が発生する推力が過剰となるような事態を回避でき、台車T1,T2の振動および車体B自体の弾性振動の励起を防止できる。なお、複数点における指示推力、この場合は、0.5kN、1kNおよび3kNの三つの指示推力に対して電流ゲインGL,GM,GHを用意しているが、推力調整幅中でどの指示推力に対して電流ゲインを用意するか、および、用意する電流ゲインの数は、実際の電磁リリーフ弁22の特性に応じて適宜変更できる。
また、本実施の形態の第一変形例の鉄道車両用制振装置1では、各アクチュエータA1,A2に出力させるべき推力である制御力F1,F2に対して複数の区分を設けて、区分毎に電流ゲインGL,GM,GHを関連付けし、制御力F1,F2が属する区分に関連付けされた電流ゲインを用いて電流指令を求める。このように構成された鉄道車両用制振装置1では、予めアクチュエータA1,A2に出力させる推力に対して区分を設けておくことで、区分毎に最適な電流ゲインGL,GM,GHを設定できるので、少ない電流ゲイン数で効率的に推力調整幅全域をカバーしてアクチュエータA1,A2を制御でき、台車T1,T2の振動および車体B自体の弾性振動の励起を防止できる。
なお、推力調整幅の最低推力と最高推力との間のいくつかの推力に対して最適な電流ゲインを設定しておき、制御力F1,F2が最適な電流ゲインが設定されていない推力を指示している場合、制御力F1,F2の上下で最適な電流ゲインが設定されている推力を選んで、この選んだ推力に対応する二つの電流ゲインを用いて線形補間を行って制御力F1,F2に対応する電流ゲインを求め、求めた電流ゲインを制御力F1,F2に乗じて電流指令を求めてもよい。
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。