JP7190213B2 - 塑性加工用潤滑剤組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、金属の塑性加工用潤滑剤組成物に関する。
金属の塑性加工においては、金属を所望の形状に加工する際に高い加工圧力が必要となることから、摩擦の低減による焼き付き防止と、摩耗の抑制による金型寿命の向上が課題となっている。従来、このような用途に使用される潤滑剤組成物としては、有機鉛を含有するものが知られている。また、一般に、焼き付き防止用の極圧添加剤として、塩素系添加剤を含有する潤滑剤組成物が使用されている。
近年、このような有機鉛や塩素系添加剤を含有する潤滑剤組成物に対し、廃棄処理の際に、鉛による環境汚染や塩素系添加剤に起因するダイオキシンの発生等の問題が指摘されている。これに対して、鉛や塩素等の有害な成分を含有しない塑性加工用潤滑剤組成物が、種々提案されている。例えば、潤滑性能や加工性能の向上を目的として、リン酸エステルやリン酸塩系の成分が用いられており、特許文献1には、基油と酸性リン酸エステル又は酸性リン酸エステルのアミン塩とを含有する塑性加工油が開示されている。また、特許文献2には、ジチオリン酸亜鉛やジチオリン酸モリブデンと硫黄系極圧剤とを含有する冷間鍛造加工油組成物が開示されている。
特開平6-192676号公報 特開平7-118682号公報
特許文献1に記載される塑性加工油は、アルミニウム合金板のプレス成形工程に用いられて、後工程における脱脂性を損ねることなく、プレス成形性を高めることが期待される。また、特許文献2に記載される冷間鍛造加工油組成物は、予めリン酸被膜処理を施すことなく冷間鍛造を可能にして、プロセスの簡略化を可能にするものである。しかしながら、これら塑性加工油又は加工油組成物は、鋼材等の難加工材の塑性加工において、十分な潤滑性能を発揮するには至っていない。そのために、高負荷で過酷な条件下での塑性加工においても、工具寿命や製品品質のさらなる向上を可能とする潤滑剤組成物が望まれている。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、鉛や塩素を含有せず、金属の塑性加工において、優れた潤滑性能を示す塑性加工用潤滑剤組成物を提供しようとするものである。
本発明の一態様は、金属の塑性加工に用いられる塑性加工用潤滑剤組成物であって、
基油成分と、
(A)下記式で表される酸性リン酸エステル及び上記酸性リン酸エステルのアミン塩から選ばれる1種以上と、
式:(RO)P(=O)(OH)3-a
式中、aは、1又は2であり、Rは、炭素数10未満の炭化水素基であり、a=2のとき、Rは互いに独立に選択可能である。
(B)上記(A)成分と反応性を有するアルカリ金属有機酸塩であって、アルカリ金属のスルフォネート、カルボキシレート、フォスフェート及びフェネートから選ばれる1種以上と、
(C)上記(A)成分と反応性を有する多価金属有機酸塩であって、周期表第3族~第15族に属する多価金属(ただし、周期表第14族におけるPbを除く)のスルフォネート、カルボキシレート、フォスフェート及びフェネートから選ばれる1種以上と、を含み、
塑性加工用潤滑剤組成物の全体における上記(A)成分の含有量は、1質量%以上50質量%以下であり、上記(B)成分の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下であり、上記(C)成分の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下である、塑性加工用潤滑剤組成物にある。
本発明の塑性加工用潤滑剤組成物は、上記(A)~(C)の3つの成分を含むことにより、金属表面に安定した潤滑膜を形成して、潤滑性能を向上させる。その理由は必ずしも明らかではないが、(A)成分が金属表面に反応することにより、金属表面が活性化する一方、(A)成分が(B)成分又は(C)成分と反応し、その反応生成物が、活性化した金属表面とさらに反応して、潤滑膜が形成されるものと推測される。このとき、(A)成分が、反応しやすい酸性リン酸エステル又はそのアミン塩であり、かつ炭化水素基の炭素数が10未満であることで反応性が高まり、反応性が高く膜の安定性を高める(B)成分と潤滑性を高める(C)成分とを取り込むことが可能になる。これにより、これら(A)~(C)成分を含む膜が速やかに形成され、加工圧力の高い条件においても高い潤滑性能を安定して維持可能となると考えられる。
以上のごとく、上記態様によれば、鉛や塩素を含有せず、金属の塑性加工において、優れた潤滑性能を示す塑性加工用潤滑剤組成物を提供することができる。
実施形態における、塑性加工用潤滑剤組成物による被加工材表面の潤滑膜の形成を説明するための模式的な図。 実施例における、塑性加工用潤滑剤組成物を用いた圧造実機試験方法を説明するための模式的な図。 実施例における、塑性加工用潤滑剤組成物を用いた圧造実機試験による加工工具の摩耗量を比較して示すグラフ図。 実施例における、塑性加工用潤滑剤組成物を用いた圧造実機試験による加工工具の摩耗量を比較して示すグラフ図。 実施例における、圧造実機試験において加工したワークの評価方法を説明するための模式的な図。
以下に、本実施形態における塑性加工用潤滑剤組成物について、詳細に説明する。本実施形態において、塑性加工用潤滑剤組成物(以下、適宜、潤滑剤組成物と称する)は、金属材料を、鍛造、プレス、引き抜き加工等の塑性加工によって加工する際に、潤滑剤として用いられる組成物である。金属材料は、特に限定されないが、鉄又は鉄系合金材料、例えば、ステンレス鋼等の鋼材の塑性加工に、好適に用いられる。
潤滑剤組成物は、基油成分と、
(A)炭素数10未満の炭化水素基を有する酸性リン酸エステル及び炭素数10未満の炭化水素基を有する酸性リン酸エステルのアミン塩から選ばれる1種以上と、
(B)アルカリ金属塩から選ばれる1種以上と、
(C)多価金属塩(ただし、Pbの塩を除く)から選ばれる1種以上と、
を含んで構成される。(A)~(C)の成分は、潤滑膜を形成する潤滑膜成分となるもので、各成分をそれぞれ1種以上含むことで、潤滑性能を向上させる。
このような潤滑膜は、金型等を使用して機械的力を加えることにより、被加工材を所定形状に変形させる塑性加工に適しており、加圧圧力が高くなる高負荷条件下においても、優れた潤滑性能を有する。この効果は、(A)~(C)の成分の組み合わせによるものと推測され、金属表面と加工用工具との間の摩擦を低減し、工具の摩耗を抑制することが可能になる。
[基油成分]
基油成分は、特に限定されるものではなく、潤滑剤基油として用いられる種々の基油から選ばれる1種、又は2種以上を含むことができる。具体的には、基油成分として、鉱物油、油脂、合成油、及び脂肪酸エステル等が挙げられ、潤滑剤組成物を用いた塑性加工において、加工対象や加工条件等に応じた所望の特性が得られるように、任意に選択することができる。潤滑剤組成物における基油成分の含有量は、特に限定されるものではなく、所望の潤滑性能が得られる範囲で、任意に調整することができる。通常は、潤滑剤組成物の全体の質量に対して、基油成分の含有量が、例えば、30質量%以上95質量%以下の範囲、好適には、40質量%以上90質量%以下の範囲となるように、潤滑膜成分とその他の添加成分の含有量に応じて、適宜調整することができる。
[(A)成分]
(A)成分は、下記式で表される酸性リン酸エステルと、そのアミン塩とから選ばれる1種、又は2種以上を含むことができる。
式:(RO)P(=O)(OH)3-a
式中、aは、1又は2であり、Rは、炭素数10未満の炭化水素基である。
酸性リン酸エステルは、下記式(1)で表されるモノエステル(a=1のとき)、及び、下記式(2)で表されるジエステル(a=2のとき)のうち少なくとも一方を含むことができ、a=2のとき、Rは互いに独立に選択可能である。酸性リン酸エステルは、反応性が高く、被加工材の表面において反応して、潤滑膜の形成に寄与すると共に、(B)成分又は(C)成分と反応することができる。(A)成分は、少なくともモノエステルを含むことができ、例えば、モノエステルとジエステルとを含むことができる。
式(1):(RO)P(=O)(OH)
式(1)中、Rは、炭素数10未満の炭化水素基である。
式(2):(RO)(RO)P(=O)(OH)
式(2)中、R、Rは、互いに独立に、炭素数10未満の炭化水素基である。
(A)成分において、炭化水素基は、炭素数が10未満であれば構造は特に限定されず、例えば、鎖式炭化水素、環式炭化水素、飽和又は不飽和炭化水素等を含むことができる。炭化水素基は、好適には、アルキル基等の脂肪族炭化水素基であり、直鎖又は分岐鎖状の構造を有する鎖式アルキル基とすることができる。炭化水素基は、炭素数が10未満であることで、酸性リン酸エステル又はそのアミン塩の、金属表面への反応性を高める効果が得られる。好適には、炭化水素基の炭素数は1~8、より好適には、炭素数が1~4であるのがよく、炭素数が小さくなるほど、反応性が高くなる。
このような酸性リン酸エステルは、アシッドフォスフェート(acid phosphate)とも表記することができる。炭素数10未満のアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、2-エチルヘキシル基、へプチル基等が挙げられる。アルキル基を有する酸性リン酸エステル類(Alkyl acid phosphates)としては、メチルアシッドフォスフェート、エチルアシッドフォスフェート、イソプロピルアシッドフォスフェート、ブチルアシッドフォスフェート、2-エチルヘキシルアシッドフォスフェート、へプチルアシッドフォスフェート等が挙げられる。
酸性リン酸エステルのアミン塩は、酸性リン酸エステルの酸性水素の少なくとも一部を、下記式(3)で表されるアミン化合物を用いて中和したものである。
式(3):(R1)NH3-b
式(3)中、bは、1、2又は3であり、R1は、炭化水素基又は置換基を有する炭化水素基である。
アミン化合物において、炭化水素基は、直鎖、分岐鎖又は環状の構造を有することができる。具体的には、アルキル基等の非環式脂肪族炭化水素基の他、環式脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられ、それらのうちの1種、又は2種以上を混合して用いることもできる。bが2以上のとき、R1は互いに独立に選択可能である。炭化水素基は、例えば、アミノ基等の置換基を有していてもよい。
酸性リン酸エステルは、炭化水素基の炭素数が小さくなると水溶性となり、基油成分への溶解性が低下するので、油溶性のアミン塩とすることで、溶解性を向上させることができる。例えば、炭化水素基の炭素数が8以下、好適には、炭化水素基の炭素数が1~4の範囲にあるときは、酸性リン酸エステルのアミン塩を用いることが望ましく、潤滑剤組成物の潤滑性能を高めることができる。
潤滑剤組成物における(A)成分の含有量は、特に限定されるものではなく、所望の潤滑性能が得られる範囲で、任意に調整することができる。通常は、潤滑剤組成物の全体の質量に対して、(A)成分の含有量が、1質量%以上であることで、(B)成分及び(C)成分と共に潤滑性能を向上する効果が得られる。(A)成分の含有量は、好適には、3質量%以上、より好適には、10質量%以上であることが望ましい。(A)成分の含有量の増加に伴い、潤滑性能は向上するが、30質量%を超える範囲では向上効果に大きな変化はなくなり、50質量%付近でほぼ飽和する。そのため、(A)成分の含有量は、好適には、50質量%以下、より好適には、30量%以下の範囲として、その他の潤滑膜成分や基油成分等の含有量に応じて、適宜調整するとよい。ここで、(A)成分は、少なくとも酸性リン酸エステルのモノエステルを含むことが望ましく、通常は、例えば、モノエステルとジエステルとを含む混合物として供される。その場合、モノエステルとジエステルの混合比率は、特に限定されるものではないが、好適には、モノエステルとジエステルとは、ほぼ等モル量で混合され、もしくは、モノエステルの方がより多くなるように混合される。
[(B)成分]
(B)成分は、アルカリ金属の塩から選ばれる1種、又は2種以上であり、アルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K等が挙げられる。好適には、Naが用いられる。アルカリ金属塩は、潤滑剤組成物中に溶解可能であれば、有機酸塩でも無機酸塩でもよいが、好適には、有機酸塩、例えば、脂肪族又は芳香族のスルフォネート、脂肪族又は芳香族のカルボキシレート、脂肪族又は芳香族のフォスフェート、及びフェネート等が挙げられる。具体的には、アルキルスルフォン酸塩等のアルキル基を含む脂肪族スルフォネート、アルキルベンゼンスルフォン酸塩等のアルキルアリル基を含む芳香族スルフォネート、脂肪族モノカルボン酸塩等の脂肪族カルボキシレート、サリシレート等の芳香族カルボキシレート等が用いられる。脂肪族モノカルボン酸としては、ステアリン酸、オクチル酸(2-エチルヘキサン酸)等の直鎖又は分岐鎖を有する飽和脂肪酸、ナフテン酸等の環状の飽和脂肪酸等が挙げられる。
(B)成分は、アルカリ金属が高い反応性を有することにより、(A)成分と反応して共に潤滑膜を形成し、摩擦係数を低減する作用を有すると考えられる。加えて、(A)成分と(C)成分との反応生成物と反応して、その反応生成物を潤滑膜に固定する作用を有すると考えられ、潤滑膜による潤滑性能をさらに向上させることが可能になる。好適には、(B)成分として、Li、Na及びKのうち少なくとも1種、例えば、Naを含むスルフォネート、カルボキシレート等が用いられ、具体的には、アルキル基又はアルキルアリル基を含むスルフォン酸、脂肪族モノカルボン酸等との塩を用いることができる。スルフォネートは、アルキル基を含むスルフォネートとアルキルアリル基を含むスルフォネートのうちの一方を単独で用いてもよいし、それらの混合物を用いることもできる。
潤滑剤組成物における(B)成分の含有量は、特に限定されるものではなく、所望の潤滑性能が得られる範囲で、任意に調整することができる。通常は、潤滑剤組成物の全体の質量に対して、(B)成分の含有量が、0.1質量%以上であることで、(A)成分及び(C)成分と共に潤滑性能を向上する効果が得られる。(B)成分の含有量は、好適には、1質量%以上、より好適には、3質量%以上であることが望ましい。(B)成分の含有量の増加に伴い、潤滑性能は向上するが、7質量%を超える範囲では向上効果に大きな変化はなくなり、10質量%付近でほぼ飽和する。そのため、(B)成分の含有量は、好適には、(B)成分の含有量を10質量%以下、より好適には、7質量%以下の範囲として、その他の潤滑膜成分や基油成分等の含有量に応じて、適宜調整するとよい。
[(C)成分]
(C)成分は、多価金属の塩(ただし、Pbの塩及びアルカリ土類金属の塩は除く)から選ばれる1種、又は2種以上であり、多価金属としては、周期表第3族~第15族に属する金属(ただし、第14族におけるPbは除く)が挙げられる。このような金属として、具体的には、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ce(第3族~第12族)等の遷移金属、Al、Bi、Sn(第13族~第15族)等を用いることができる。Mg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属(第2族)は含まれない。好適には、Co、Ni、Cu、Zn及びSn等を用いることができ、これら多価金属から選ばれる少なくとも1種を含む塩を(C)成分とすることができる。
多価金属塩は、潤滑剤組成物中に溶解可能であれば、有機酸塩でも無機酸塩でもよいが、好適には、有機酸塩、例えば、脂肪族又は芳香族のスルフォネート、脂肪族又は芳香族のカルボキシレート、脂肪族又は芳香族のフォスフェート、及びフェネート等が挙げられる。具体的には、アルキルスルフォン酸塩等のアルキル基を含む脂肪族スルフォネート、アルキルベンゼンスルフォン酸塩等のアルキルアリル基を含む芳香族スルフォネート、脂肪族モノカルボン酸塩等の脂肪族カルボキシレート、サリシレート等の芳香族カルボキシレート等が用いられる。脂肪族モノカルボン酸としては、ステアリン酸、オクチル酸(2-エチルヘキサン酸)等の直鎖又は分岐鎖を有する飽和脂肪酸、ナフテン酸等の環状の飽和脂肪酸等が挙げられる。
(C)成分は、潤滑膜にさらなる潤滑性を付与する成分として用いられる。(C)成分は、(A)成分との反応性を有することにより、多価金属が潤滑膜中に取り込まれて、摩擦係数をさらに低減し滑り性を向上させる作用を有すると考えられ、潤滑膜による潤滑性能を向上させることが可能になる。好適には、多価金属として、Co、Ni、Cu、Zn及びSn等が用いられ、それらの少なくとも1種を含む有機酸塩を(C)成分とすることにより、潤滑膜中に取り込まれる金属成分の割合を高めて潤滑性能をより向上させることができる。好適には、Co、Ni、Cu、Zn及びSnのうち少なくとも1種、例えば、Znを含むスルフォネート、カルボキシレート等が用いられ、具体的には、アルキル基又はアルキルアリル基を含むスルフォン酸、脂肪族モノカルボン酸等との塩が挙げられる。スルフォネートは、アルキル基を含むスルフォネートとアルキルアリル基を含むスルフォネートのうちの一方を単独で用いてもよいし、それらの混合物を用いることもできる。
潤滑剤組成物における(C)成分の含有量は、特に限定されるものではなく、所望の潤滑性能が得られる範囲で、任意に調整することができる。通常は、潤滑剤組成物の全体の質量に対して、(C)成分の含有量が、0.1質量%以上であることで、(A)成分及び(B)成分と共に潤滑性能を向上する効果が得られる。(C)成分の含有量は、好適には、1質量%以上、より好適には、3質量%以上であることが望ましい。(C)成分の含有量の増加に伴い、潤滑性能は向上するが、7質量%を超える範囲では向上効果に大きな変化はなくなり、10質量%付近でほぼ飽和する。そのため、(C)成分の含有量は、好適には、(C)成分の含有量を10質量%以下、より好適には、7質量%以下の範囲として、その他の潤滑膜成分や基油成分等の含有量に応じて、適宜調整するとよい。
潤滑剤組成物における(B)成分の含有量と(C)成分の含有量とは、それぞれ任意に選択することができる。好適には、(B)成分と(C)成分との反応効率よく進行させることができるように、例えば、(B)成分:(C)成分=1:10~10:1(質量比)、好適には、(B):(C)=1:2~2:1(質量比)程度の範囲において、適宜調整することができる。
[その他の成分]
潤滑剤組成物は、潤滑膜成分として上記した(A)~(C)成分を含み、基油成分と混合することにより得られる。潤滑剤組成物は、必要に応じて、これら成分以外のその他の成分を含むことができる。その他の成分としては、例えば、鉛や塩素を含まない極圧添加剤や減摩剤、防錆剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、腐食防止剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等が挙げられる。
このような塑性加工用潤滑剤組成物は、基油成分に混合された(A)成分、(B)成分及び(C)成分を、潤滑膜成分として含み、塑性加工時に、被加工材となる金属表面と、加工工具との間に介在して、良好な潤滑膜を形成する。そのメカニズムは、必ずしも明らかではないが、酸性リン酸エステル又はそのアミン塩であり、炭素数の小さい炭化水素基を有する(A)成分が、被加工材となる金属表面、(B)成分及び(C)成分の全てと、高い反応性を有することが、大きく影響していると考えられる。潤滑膜の形成に関して、推測されるメカニズムを、以下に説明する。
図1に示すように、例えば鉄系金属を被加工材2とする塑性加工の際には、(I)に示すように、金属表面上の潤滑剤組成物1には、(A)成分、(B)成分及び(C)成分が含まれる。(I)に示すように、(A)成分は、例えば、モノエステル型の酸性リン酸エステル又はそのアミン塩と、ジエステル型の酸性リン酸エステル又はそのアミン塩とを含んだものであり、金属表面に反応し、膜を形成する。同時に、(II)に示すように、(A)成分は、潤滑剤組成物に含まれる(B)成分又は(C)成分とも反応することができる。これにより、例えば、(A)成分+(B)成分、(A)成分+(C)成分、及び(A)成分+(B)成分+(C)成分、からなる反応物を生成可能となる。
(III)に示すように、金属表面は、(A)成分との反応により膜が形成されると共に、膜表面が活性状態となっている。ここに、(II)における反応生成物がさらに反応することにより、(B)成分、(C)成分が膜に取り込まれる。これら反応は、それぞれ同時進行的に起こるものと考えられ、金属表面に(A)~(C)成分を含む潤滑膜が速やかに形成されると共に、その潤滑性能を安定して維持可能となるものと推測される。
なお、(A)成分が含有されないと、潤滑膜は形成されず、(A)成分が含有されることで膜形成は可能となるが、潤滑性能は不十分である。ここに(B)成分が含有されることで、安定した膜は形成されるものの、潤滑性能は十分向上せず、さらに(C)成分が含有されることで、潤滑性能をより向上させることができる。(B)成分が含有されず、(A)成分と(C)成分のみの場合には、安定した膜は形成されないことが判明している。
このような、潤滑剤組成物は、塑性加工用として好適であり、金属製の板材、線材、棒材、管材、ブロック材等、種々の形状の被加工材を、金型、プレス機、押出加工機、引抜加工機等を用いて所望の形状に加工する際に用いることができる。塑性加工の対象となる製品は、特に限定されず、機械用又は自動車用の種々の部品の加工に使用することができる。
以下に、塑性加工用潤滑剤組成物の実施例と、比較例とを用いて、本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
(実施例1~4)
表1に示すように、基油成分に(A)~(C)成分を混合した塑性加工用潤滑剤組成物を調製し、潤滑性能を評価した。実施例1~実施例4の塑性加工用潤滑剤組成物は、(A)成分として、炭素数1~8のアルキル基を有する酸性リン酸エステル又はそのアミン塩を用いており、モノエステルとジエステルは、同等比率で含まれる。実施例1~実施例4における(A)成分とアルキル基の炭素数を以下に示す。
実施例1:メチルアシッドフォスフェートと分岐アルキルアミンとの中和塩(炭素数1)
[酸価:259mgKOH/g、塩基価:178mgKOH/g]
実施例2:ブチルアシッドフォスフェートと芳香族アミンとの中和塩(炭素数4)
[酸価:93mgKOH/g、塩基価:38mgKOH/g]
実施例3:2-エチルヘキシルアシッドフォスフェート(炭素数8)
[酸価:315mgKOH/g]
実施例4:2-エチルヘキシルアシッドフォスフェートとオレイルアミンとの中和塩(炭素数8) [酸価:155mgKOH/g、塩基価:106mgKOH/g]
実施例1~実施例4における(B)成分、(C)成分、基油成分は、以下に示すように、いずれも同じものを用い、これら成分を、(A):(B):(C):基油=20:5:5:70(質量%)となるように混合した。
(B)成分:ナトリウムスルフォネート(アルキルスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウムの混合物)[中性塩]
(C)成分:オクチル酸亜鉛
基油成分:鉱油[46mm/s(40℃動粘度)]
(圧造実機試験)
得られた塑性加工用潤滑剤組成物を用いて、冷間圧造による圧造実機試験を行い、図2に示すように、ワークWを一定個数加工したときのパンチPの摩耗量を測定することにより、潤滑性能を評価した。圧造実機試験方法は、以下の通りとした。なお、図2に示す試験装置は、ワークWの加工部に対するパンチPの配置と、両者の間に介在する実施例又は比較例の潤滑剤組成物10との関係を模式的に示したものである。
図2において、ワークWとなる外形が円柱状の被加工材は、前工程にて、予め一端面W1側の加工部に凹部(図示せず)が形成されたものであり、さらに、パンチPとなる円柱状の工具を用いて、凹部の形成部分が所定形状の中空穴部W2に加工される。具体的には、一端面W1側の加工部にパンチPを同軸配置し、潤滑油組成物10が介在する状態で、軸方向にパンチPを押し当てて加圧することにより塑性変形させ、同軸的に中空穴部W2を形成する加工を行った。以下に、加工条件を示す。また、加工前後の工具加工部の直径(すなわち、パンチPの先端面P1の外径)を測定して、その差を摩耗量とした。結果を表1に併記する。
被加工材:合金鋼(SCM435、リン酸亜鉛皮膜処理+金属石鹸、φ7.85)
工具:工具鋼
加工速度:150個/分
加工数:10000個
摩耗量:工具加工部の加工前後の径差(単位:μm)
Figure 0007190213000001
(比較例1~5)
比較のため、表1に示すように、実施例1と同様の(A)成分と基油成分を含み、(B)成分及び(C)成分を含まない塑性加工用潤滑剤組成物を調製して、比較例1とした。また、(B)成分又は(C)成分を含まない塑性加工用潤滑剤組成物を調製して、比較例2~比較例5とした。(C)成分を含まない比較例2、比較例3は、(B)成分の含有量を、それぞれ、5質量%、10質量%とし、(B)成分を含まない比較例4、比較例5は、(C)成分の含有量を、それぞれ、5質量%、10質量%とし、基油成分の含有量を調整して、全体が100質量%となるようにした。
これら比較例1~比較例5について、実施例1と同様にして、塑性加工用潤滑剤組成物を調製し、潤滑性能を評価した。結果を表1に併記する。
(比較例6~8)
比較のため、表1に示すように、(A)成分に代えて、(a)成分として、以下に示す炭素数10~18のアルキル基を有する酸性リン酸エステル又はそのアミン塩を用い、それ以外は実施例1と同様にして、塑性加工用潤滑剤組成物を調製した。
比較例6:イソデシルアシッドフォスフェート(炭素数10)
[酸価:280mgKOH/g]
比較例7:ラウリルアシッドフォスフェート(炭素数12)
[酸価:245mgKOH/g]
比較例8:オレイルアシッドフォスフェート(炭素数18)
[酸価:220mgKOH/g]
これら比較例6~比較例8について、実施例1と同様にして、塑性加工用潤滑剤組成物を調製し、潤滑性能を評価した。結果を表1に併記する。また、実施例1~実施例4、比較例1~比較例8の結果を、図3のグラフに比較して示した。
表1、図3の結果に示されるように、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含む実施例1~実施例4の潤滑剤組成物は、いずれも摩耗量が10μm以下であり、塑性加工を繰り返し行っても優れた潤滑性能を維持している。潤滑剤組成物は、(A)成分におけるアルキル基の炭素数が小さいほど、摩耗量が少なくなり、炭素数4以下の実施例1、実施例2では、摩耗量が0.3μm、3.6μmと、いずれも5μm以下となっている。
これに対して、比較例1~比較例5のように、(B)成分と(C)成分の一方又は両方が含まれない場合には、いずれも摩耗量が20μmを超えている。また、比較例6~比較例8のように、(A)成分におけるアルキル基の炭素数が10以上である場合も、摩耗量が20μmを超えている。これらの結果から、(A)成分におけるアルキル基の炭素数が所定以下であり、(A)~(C)成分をすべて含むことが、所望の潤滑性能を得るために重要であることがわかる。
なお、被加工材としては、予め皮膜処理を行ったものを用いることができるが、上述した圧造実機試験のように、円柱状の被加工材に中空穴部W2を多段加工する場合には、皮膜処理のない切断面を加工することになる。あるいは、凹部を形成後、さらに凹部を所定深さの中空穴部W2に加工することになる。そのため、パンチPの先端面P1に高い加工圧力が加わることになり、潤滑剤組成物の潤滑性能が、摩耗量の違いに大きく影響していると推測される。
(実施例5~10)
表2に示すように、実施例1と同様の(A)成分と基油成分を含み、(B)成分又は(C)成分を、以下のように変更した塑性加工用潤滑剤組成物を調製して、実施例5~実施例9とした。
実施例5:ステアリン酸ナトリウム[(B)成分]
実施例6:ステアリン酸カリウム[(B)成分]
実施例7:ステアリン酸リチウム[(B)成分]
実施例8:オクチル酸マンガン[(C)成分]
参考例9:オクチル酸バリウム[(C)成分]
参考例10:カルシウムスルフォネート;アルキルベンゼンスルフォン酸カルシウム[中性塩;(C)成分]
これら実施例5~実施例8、参考例9~参考例10について、実施例1と同様にして、塑性加工用潤滑剤組成物を調製し、潤滑性能を評価した。結果を表2に併記する。
Figure 0007190213000002
(比較例9~11)
比較のため、表2に示すように、(A)成分に代えて、(a’)成分として、以下に示す炭素数1~8のアルキル基を有するリン酸トリエステルを用い、それた以外は実施例1と同様にして、塑性加工用潤滑剤組成物を調製した。
比較例9:トリメチルフォスフェート(炭素数1)
比較例10:トリブチルフォスフェート(炭素数4)
比較例11:トリ2-エチルヘキシルフォスフェート(炭素数8)
(比較例12~14)
比較のため、表2に示すように、塑性加工用潤滑剤組成物を、公知の以下の油剤に変更し、実施例1と同様にして、塑性加工用潤滑剤組成物を調製した。
比較例12:塑性加工における汎用的な潤滑成分を含有した油剤
比較例13:有機鉛を含有した油剤
比較例14:塩素系極圧剤を含有した油剤
これら比較例9~比較例14について、実施例1と同様にして、塑性加工用潤滑剤組成物を調製し、潤滑性能を評価した。結果を表2に併記する。また、実施例5~実施例8、参考例9~参考例10、比較例9~比較例14の結果を、図3のグラフに併記した。
表2、図3の結果に示されるように、(B)成分であるアルカリ金属塩を変更し、あるいは、(C)成分である多価金属塩を変更した実施例5~実施例8、参考例9~参考例10においては、摩耗量が0.3μm~5.2μmと、いずれも摩耗量が6μm以下であり、優れた潤滑性能が得られた。これに対して、比較例9~比較例10のように、炭素数1~8のアルキル基を有するトリエステルを用いた場合、比較例12のように汎用の油剤を用いた場合には、いずれも摩耗量が20μmを超えている。比較例13のように有機鉛を含有した油剤を用いた場合には、摩耗量が1μm以下となり、(A)成分が炭素数1のアルキル基を有する実施例5と同等となるが、有害成分を含むため、使用に難がある。比較例14のように、塩素系極圧剤を含有した油剤も、有害成分を含む上、摩耗量が10μmを超えており、必ずしも十分な潤滑性能は得られていない。なお、実施例5と実施例1の結果が同等であることから、(B)成分は、アルカリ金属の種類による寄与が大きく、有機酸の種類の変更による影響は小さいと推測される。
(実施例11~20)
表3に示すように、実施例1と同様の(A)~(C)成分と基油成分を含み、(A)成分の含有量を、以下のように、1質量%~50質量%の範囲で変更した塑性加工用潤滑剤組成物を調製して、実施例11~実施例20とした。
実施例11:1質量%[(A)成分]
実施例12:3質量%[(A)成分]
実施例13:10質量%[(A)成分]
実施例14:30質量%[(A)成分]
実施例15:50質量%[(A)成分]
また、(B)成分及び(C)成分の含有量を、以下のように、0.1質量%~10質量%の範囲で変更した塑性加工用潤滑剤組成物を調製して、実施例16~実施例20とした。
実施例16:0.1質量%[(B)及び(C)成分]
実施例17:1質量%[(B)及び(C)成分]
実施例18:3質量%[(B)及び(C)成分]
実施例19:7質量%[(B)及び(C)成分]
実施例20:10質量%[(B)及び(C)成分]
これら実施例11~実施例20について、実施例1と同様にして、塑性加工用潤滑剤組成物を調製し、潤滑性能を評価した。結果を表3に併記する。また、実施例11~実施例20の結果を、図3のグラフに併記した。
Figure 0007190213000003
表3、図3の結果に示されるように、(A)成分の含有量を、1質量%~50質量%の範囲で変更した実施例11~実施例15においては、いずれも摩耗量が10μm以下となった。(A)成分の含有量が多くなるほど摩耗量が低減する効果が得られ、3質量%以上では、摩耗量が2μm以下となり、10質量%以上では、摩耗量が1μm以下となった。また、(B)~(C)成分の含有量を、0.1質量%~10質量%の範囲で変更した実施例16~実施例20においても、摩耗量が10μm以下となった。(B)~(C)成分の含有量が多くなるほど摩耗量が低減する同様の効果が得られ、1質量%以上では、摩耗量が2μm以下となり、3質量%以上では、摩耗量が1μm以下となった。
(実施例21~33)
表4に示すように、実施例1と同様の(A)~(B)成分と基油成分を含み、(C)成分となる多価金属塩を、以下のように変更した塑性加工用潤滑剤組成物を調製して、実施例21~実施例27、参考例28、実施例29~実施例33とした。(C)成分の含有量は、いずれも5質量%とした。
実施例21:オクチル酸コバルト[(C)成分]
実施例22:オクチル酸鉄[(C)成分]
実施例23:オクチル酸モリブデン[(C)成分]
実施例24:オクチル酸ビスマス[(C)成分]
実施例25:オクチル酸錫[(C)成分]
実施例26:オクチル酸ジルコニウム[(C)成分]
実施例27:オクチル酸セリウム[(C)成分]
参考例28:ナフテン酸マグネシウム[(C)成分]
実施例29:ナフテン酸銅[(C)成分]
実施例30:ナフテン酸ニッケル[(C)成分]
実施例31:ナフテン酸クロム[(C)成分]
実施例32:ナフテン酸バナジウム[(C)成分]
実施例33:ステアリン酸アルミニウム[(C)成分]
これら実施例21~実施例27、参考例28、実施例29~実施例33について、実施例1と同様にして、塑性加工用潤滑剤組成物を調製し、潤滑性能を評価した。結果を表4に併記する。また、実施例21~実施例27、参考例28、実施例29~実施例33の結果を、図4のグラフに比較して示した。
Figure 0007190213000004
表4、図4の結果に示されるように、(C)成分である多価金属塩を変更した実施例21~実施例33においては、摩耗量が0.9μm~5.4μmと、いずれも6μm以下であり、優れた潤滑性能が得られた。実施例21、実施例29、実施例30においては、いずれも摩耗量が2μm以下であり、実施例25においては、摩耗量が1μm以下であった。
また、実施例1と、実施例21~実施例27、参考例28、実施例29~実施例33の塑性加工用潤滑剤組成物について、上述した圧造実機試験において、ワークWの内周表面に形成される潤滑膜の状態を評価した。評価には、EDX(エネルギー分散型X線分光法;Energy Dispersive X-Ray Spectroscopy)装置を用いた。評価対象とするワークWは、図5に示すように、パンチPによるワークWの加工(10000個)を行った際のパンチPの摩耗量による差の影響を考慮して、1000個目の加工後のワークWとし、中空穴部W2に面する内周表面部の評価用試料を準備した。この評価用試料に対して、試料表面から潤滑膜の内部方向へ電子線を照射し、EDX分析に基づく元素分析を行った。評価条件は、電子線の加速電圧を10kVとし、発生する特性X線を測定した。結果を表5に示す。
Figure 0007190213000005
表5には、各実施例のEDX分析値(単位:質量%)を、(C)成分に含まれる金属元素(以下、適宜(C)成分金属と称する)及びパンチPの摩耗量と共に示した。EDX分析値は、潤滑膜の主成分となる元素及びワークWを構成する鋼材の主成分である鉄(Fe)について、それぞれX線強度を測定した結果を、全体が100質量%となるように規格化したものである。潤滑膜の主成分となる元素は、(C)成分金属と、(A)~(C)成分に含まれる炭素(C)、酸素(O)、ナトリウム(Na)、リン(P)の各元素である。
表5の結果に示されるように、実施例1とその(C)成分である多価金属塩を変更した実施例21~~実施例27、参考例28、実施例29~実施例33において、それぞれ、(C)成分金属を含む潤滑膜の構成元素と、ワークWの構成金属が確認された。このとき、(C)成分金属を含む潤滑膜の構成元素のEDX分析値の合計値が大きいほど、言い換えれば、ワークWの構成金属の割合が小さいほど、ワークWの表面に潤滑膜がより多く形成されていると推測される。なお、実施例22については、(C)成分金属とワークWの構成金属とが同じであり、ワーク由来のFeと(C)成分由来のFeとが区別できないため、表5におけるEDX分析値は、それらの合計値を示している。
ここで、実施例21~~実施例27、参考例28、実施例29~実施例33のうち、ワーク由来のFeの割合が65質量%前後ないしそれ以下である実施例1、実施例21、実施例25、実施例29、実施例30は、(C)成分金属の割合が10質量%以上と高くなっている。また、これら実施例におけるパンチPの摩耗量は、いずれも2μm以下であり、潤滑膜がより多く形成される結果、パンチPの摩耗を抑制する効果が高まっているものと推測される。なお、実施例22については、C、O、Na、Pの各元素のEDX分析値がそれぞれ最小となっていることから、Feについても同様と推測され、パンチPの摩耗量が他の実施例よりも大きくなっている結果と一致する。
これらの結果から、(C)成分となる多価金属は、実施例1、実施例21、実施例25、実施例29、実施例30にて用いられるCo、Ni、Cu、Zn及びSnがより好適であり、これら多価金属の脂肪族モノカルボン酸塩等の有機酸塩を(C)成分に用いることにより、塑性加工用潤滑剤組成物の潤滑性能の向上に有効であることがわかる。なお、上述した(B)成分のアルカリ金属塩と同様に、(C)成分についても、多価金属塩を形成する有機酸の種類は、適宜変更することができ、同等の効果が得られるものと推測される。
以上のように、本発明の塑性加工用潤滑剤組成物によれば、金属の塑性加工において、高い加工圧力により高負荷で過酷な条件下での加工となる場合においても、優れた潤滑性能を発揮することができる。これにより、加工面における焼き付き等を防止し、金型の寿命を向上することが可能となり、利用価値が高い。
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を超えない範囲において、種々の実施形態に適用することができる。例えば、被加工材となる金属として、上記実施例では鋼材を用いた例を示したが、鉄又は鉄系合金以外の金属に適用することももちろん可能である。
以下、参考形態の例を示す。
項1.
基油成分と、
(A)炭素数10未満の炭化水素基を有する酸性リン酸エステル及び炭素数10未満の炭化水素基を有する酸性リン酸エステルのアミン塩から選ばれる1種以上と、
(B)アルカリ金属塩から選ばれる1種以上と、
(C)多価金属塩(ただし、Pbの塩を除く)から選ばれる1種以上と、
を含む、塑性加工用潤滑剤組成物。
項2.
上記(A)成分において、上記酸性リン酸エステルは、炭素数10未満の炭化水素基を有する酸性リン酸モノエステルを含む、項1に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
項3.
上記(A)成分において、上記酸性リン酸エステルは、炭素数10未満の炭化水素基を有する酸性リン酸モノエステルと、炭素数10未満の炭化水素基を有する酸性リン酸ジエステルとを含む、項1に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
項4.
上記(A)成分において、上記炭化水素基の炭素数は1~8である、項1~3のいずれか1項に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
項5.
上記(A)成分において、上記炭化水素基の炭素数は1~4である、項4に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
項6.
上記(A)成分において、上記炭化水素基はアルキル基である、項1~5のいずれか1項に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
項7.
上記(B)成分において、上記アルカリ金属塩は、Li、Na及びKのうち少なくとも1種を含む有機酸塩である、項1~6のいずれか1項に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
項8.
上記(C)成分において、上記多価金属塩は、Mg、Ca、Ba、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ce、Al、Bi及びSnのうち少なくとも1種を含む有機酸塩である、項1~7のいずれか1項に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
項9.
上記(C)成分において、上記多価金属塩は、Co、Ni、Cu、Zn及びSnのうち少なくとも1種を含む有機酸塩である、項8に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
項10.
塑性加工用潤滑剤組成物の全体における上記(A)成分の含有量は、1質量%以上であり、上記(B)成分の含有量は、0.1質量%以上であり、上記(C)成分の含有量は、0.1質量%以上である、項1~9のいずれか1項に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
項11.
上記(A)成分の含有量は、3質量%以上50質量%以下であり、上記(B)成分の含有量は、1質量%以上10質量%以下であり、上記(C)成分の含有量は、1質量%以上10質量%以下である、項10に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
1 塑性加工用潤滑剤組成物
2 被加工材

Claims (11)

  1. 金属の塑性加工に用いられる塑性加工用潤滑剤組成物であって、
    基油成分と、
    (A)下記式で表される酸性リン酸エステル及び上記酸性リン酸エステルのアミン塩から選ばれる1種以上と、
    式:(RO)P(=O)(OH)3-a
    式中、aは、1又は2であり、Rは、炭素数10未満の炭化水素基であり、a=2のとき、Rは互いに独立に選択可能である。
    (B)上記(A)成分と反応性を有するアルカリ金属有機酸塩であって、アルカリ金属のスルフォネート、カルボキシレート、フォスフェート及びフェネートから選ばれる1種以上と、
    (C)上記(A)成分と反応性を有する多価金属有機酸塩であって、周期表第3族~第15族に属する多価金属(ただし、周期表第14族におけるPbを除く)のスルフォネート、カルボキシレート、フォスフェート及びフェネートから選ばれる1種以上と、を含み、
    塑性加工用潤滑剤組成物の全体における上記(A)成分の含有量は、1質量%以上50質量%以下であり、上記(B)成分の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下であり、上記(C)成分の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下である、塑性加工用潤滑剤組成物。
  2. 上記(A)成分において、上記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基である、請求項1に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
  3. 上記(A)成分において、上記酸性リン酸エステルは、下記式(1)で表される酸性リン酸モノエステルと、下記式(2)で表される酸性リン酸ジエステルとを含む、請求項1又は2に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
    式(1):(RO)P(=O)(OH)
    式(1)中、Rは、炭素数10未満の炭化水素基である。
    式(2):(RO)(RO)P(=O)(OH)
    式(2)中、R、Rは、互いに独立に、炭素数10未満の炭化水素基である。
  4. 上記(A)成分において、上記炭化水素基の炭素数は1~8である、請求項1~3のいずれか1項に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
  5. 上記(A)成分において、上記炭化水素基の炭素数は1~4である、請求項4に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
  6. 上記(A)成分において、上記炭化水素基はアルキル基である、請求項1~5のいずれか1項に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
  7. 上記(B)成分において、上記アルカリ金属有機酸塩は、Li、Na及びKのうち少なくとも1種を含む脂肪族又は芳香族のスルフォネート、脂肪族又は芳香族のカルボキシレート、脂肪族又は芳香族のフォスフェート及びフェネートから選ばれる有機酸塩である、請求項1~6のいずれか1項に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
  8. 上記(C)成分において、上記多価金属有機酸塩は、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ce、Al、Bi及びSnのうち少なくとも1種を含む脂肪族又は芳香族のスルフォネート、脂肪族又は芳香族のカルボキシレート、脂肪族又は芳香族のフォスフェート及びフェネートから選ばれる有機酸塩である、請求項1~7のいずれか1項に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
  9. 上記(C)成分において、上記多価金属有機酸塩は、Co、Ni、Cu、Zn及びSnのうち少なくとも1種を含む脂肪族又は芳香族のスルフォネート、脂肪族又は芳香族のカルボキシレート、脂肪族又は芳香族のフォスフェート及びフェネートから選ばれる有機酸塩である、請求項8に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
  10. 上記有機酸塩は、脂肪族スルフォネート、脂肪族カルボキシレート、脂肪族フォスフェート及びフェネートのうち少なくとも1種を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
  11. 上記(A)成分の含有量は、3質量%以上50質量%以下であり、上記(B)成分の含有量は、1質量%以上10質量%以下であり、上記(C)成分の含有量は、1質量%以上10質量%以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の塑性加工用潤滑剤組成物。
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