<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る生体解析装置100の側面図である。生体解析装置100は、被験者の生体情報を非侵襲的に測定する測定機器である。第1実施形態の生体解析装置100は、被験者(ユーザー)の身体のうち特定の部位(以下「測定部位」という)Hの平均血圧Paveを生体情報として測定する。以下の説明では、被験者の手首または上腕を測定部位Hとして例示する。
図2は、血圧Pの時間変化PTを示すグラフである。第1実施形態では、拍動の1拍分に相当する解析期間(約0.5~1秒間)Tにおける平均血圧Paveを測定する。なお、解析期間Tの時間長は1拍分に限定されない。図2のPmaxは、収縮期血圧(最高血圧)であり、Pminは拡張期血圧(最低血圧)である。また、ΔPは、収縮期血圧Pmaxと拡張期血圧Pminとの差(つまり脈圧)である。
図3は、腕部における血管の模式図である。図3には、動脈(例えば橈骨動脈)V1と当該動脈V1に連結する細動脈(例えば指動脈)V2とが図示されている。図3に例示される通り、地点X1は動脈V1における所定の地点であり、地点X2は動脈V1と細動脈V2との間の地点であり、地点X3は細動脈V2の抹消の地点である。つまり、地点X3よりも地点X1の方が心臓に近い。
動脈V1における地点X1での血圧P1と、動脈V1と細動脈V2との間の地点X2での血圧P2と、細動脈V2の抹消の地点X3での血圧P3との関係は、ハーゲン・ポワズイユ(Hagen-Poiseuille)の法則を利用して、以下の数式(1)および数式(2)で表現される。数式(1)の記号L1は、動脈V1の長さであり、記号Q1は、動脈V1の血流量であり、記号d1は動脈V1の血管径(半径)である。数式(2)の記号L2は、細動脈V2の長さであり、記号Q2は、細動脈V2の血流量であり、記号d2は細動脈V2の血管径(半径)である。また、数式(1)および数式(2)の記号ρは、血液密度である。
地点X1から地点X3における血圧の変化量(つまりP1-P3)は、数式(1)および数式(2)を利用して、以下の数式(3)で表現される。
図4は、心臓から血管上の特定の部位までの距離と、当該部位における血圧との関係を示すグラフである。図4から把握される通り、地点X1から地点X2における血圧の変化量(P1-P2)は、地点X2から地点X3における血圧の変化量(P2-P3)と比較して充分に小さいという傾向がある。具体的には、変化量(P1-P2)は、約1~5mmHgである一方で、変化量(P2-P3)は、約100mmHgである。また、細動脈V2の抹消の地点X3での血圧P3は、非常に小さい(例えば数mmHg)ということが知られている。そこで、変化量(P1-P2)および血圧P3を0mmHgと仮定した場合、数式(3)から、以下の数式(4)が導出される。
血液密度ρは、個人差が小さいため、所定値(例えば1070kg/m3)に設定することが可能である。また、距離L2は、被験者の身長および性別等から推定した所定値に設定することが可能である。すなわち、細動脈V2の血流量Q2と血管径d2とを算出することで、動脈の血圧P1を算定することが可能である。
図1の生体解析装置100は、測定部位H(上腕または手首)に装着される。第1実施形態の生体解析装置100は、筐体部12とベルト14とを具備する腕時計型の携帯機器である。生体解析装置100は、測定部位Hにベルト14を巻回することで被験者の身体に装着される。第1実施形態では、測定部位Hの内部に細動脈が存在する位置に生体解析装置100が装着される。
図5は、生体解析装置100の機能に着目した構成図である。第1実施形態の生体解析装置100は、制御装置21と記憶装置22と表示装置23と検出装置30Aとを具備する。制御装置21および記憶装置22は、筐体部12の内部に設置される。
表示装置23(例えば液晶表示パネル)は、図1に例示される通り、例えば筐体部12における測定部位Hとは反対側の表面に設置される。表示装置23は、測定結果を含む各種の画像を制御装置21による制御のもとで表示する。
検出装置30Aは、測定部位Hの状態に応じた検出信号ZAを生成する光学センサーモジュールである。具体的には、検出装置30Aは、発光部Eと受光部Rとを具備する。発光部Eおよび受光部Rは、例えば筐体部12において測定部位Hに対向する位置(典型的には測定部位Hに接触する表面)に設置される。
発光部Eは、測定部位Hに光を照射する光源である。第1実施形態の発光部Eは、狭帯域でコヒーレントなレーザー光を測定部位H(生体)に照射する。例えば共振器内の共振によりレーザー光を出射するVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)等の発光素子が発光部Eとして好適に利用される。第1実施形態の発光部Eは、例えば近赤外領域内の所定の波長(例えば800nm~1300nm)の光を測定部位Hに照射する。発光部Eは、制御装置21の制御により光を出射する。なお、発光部Eが出射する光は近赤外光に限定されない。
発光部Eから測定部位Hに入射した光は、測定部位Hの内部を通過しながら拡散反射を繰返したうえで筐体部12側に出射する。具体的には、測定部位Hの内部に存在する血管(具体的には細動脈)と血管内の血液とを通過した光が測定部位Hから筐体部12側に出射する。
受光部Rは、測定部位Hの内部で反射したレーザー光を受光する。具体的には、受光部Rは、測定部位H内を通過した光の受光レベルに応じた検出信号ZAを生成する。例えば、受光強度に応じた電荷を発生するフォトダイオード(PD:Photo Diode)等の受光素子が受光部Rとして利用される。具体的には、近赤外領域に高い感度を示すInGaAs(インジウムガリウム砒素)で光電変換層が形成された受光素子が受光部Rとして好適である。以上の説明から理解される通り、第1実施形態の検出装置30Aは、発光部Eと受光部Rとが測定部位Hに対して片側に位置する反射型の光学センサーである。ただし、発光部Eと受光部Rとが測定部位Hを挟んで反対側に位置する透過型の光学センサーを検出装置30Aとして利用してもよい。なお、検出装置30Aは、例えば、駆動電流の供給により発光部Eを駆動する駆動回路と、受光部Rの出力信号を増幅およびA/D変換する出力回路(例えば増幅回路とA/D変換器)を包含するが、図5では各回路の図示を省略した。
受光部Rに到達する光は、測定部位Hの内部において静止する組織(静止組織)で拡散反射した成分と、測定部位Hの内部の血管の内部において移動する物体(典型的には赤血球)で拡散反射した成分とを含む。静止組織での拡散反射の前後において光の周波数は変化しない。他方、赤血球での拡散反射の前後では、赤血球の移動速度(すなわち血流速度)に比例した変化量(以下「周波数シフト量」という)だけ光の周波数が変化する。すなわち、測定部位Hを通過して受光部Rに到達する光は、発光部Eが出射する光の周波数に対して周波数シフト量だけ変動(周波数シフト)した成分を含有する。制御装置21に供給される検出信号ZAは、測定部位Hの内部の血流による周波数シフトが反映された光ビート信号である。
制御装置21は、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の演算処理装置であり、生体解析装置100の全体を制御する。記憶装置22は、例えば不揮発性の半導体メモリーで構成され、制御装置21が実行するプログラムと制御装置21が使用する各種のデータとを記憶する。なお、制御装置21の機能を複数の集積回路に分散した構成、または、制御装置21の一部または全部の機能を専用の電子回路で実現した構成も採用され得る。また、図5では制御装置21と記憶装置22とを別個の要素として図示したが、記憶装置22を内包する制御装置21を例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)等により実現することも可能である。
第1実施形態の制御装置21は、記憶装置22に記憶されたプログラムを実行することで、検出装置30Aが生成した検出信号ZAから平均血圧Paveを算定するための複数の機能(指標算定部51および平均血圧算定部55)を実現する。なお、制御装置21の一部の機能を専用の電子回路で実現してもよい。
指標算定部51は、検出装置30Aが生成した検出信号ZAから、測定部位Hの血管径指標と血流量指標Fとを算定する。血管径指標は、生体の血管径(さらには血管の断面積)に関する指標である。心臓の拍動に同期した血管径の脈動に連動して血液量は変動する。すなわち、血管径指標は、血液量にも相関する。以上の相関を考慮して、第1実施形態では、血液量指標Mを血管径指標として例示する。血液量指標M(いわゆるMASS値)は、生体の血液量(具体的には単位体積内の赤血球の個数)に関する指標である。他方、血流量指標F(いわゆるFLOW値)は、生体の血流量(すなわち単位時間内に動脈内を移動する血液の体積)に関する指標である。血流量指標Fは、血流速度に関する指標とも換言される。
指標算定部51は、検出信号ZAから強度スペクトルを算定し、当該強度スペクトルから血液量指標Mおよび血流量指標Fを算定する。強度スペクトルは、周波数軸上の各周波数(ドップラー周波数)における検出信号ZAの信号成分の強度(パワーまたは振幅)G(f)の分布である。強度スペクトルの算定には、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)等の公知の周波数解析が任意に採用され得る。強度スペクトルの算定は、解析期間Tと比較して短い周期で反復的に実行される。
血液量指標Mは、以下の数式(5a)で表現される。なお、数式(5a)の記号<I
2>は、検出信号ZAの全帯域にわたる平均強度、または、強度スペクトルのうち0Hzにおける強度G(0)(すなわち直流成分の強度)である。
数式(5a)から理解される通り、強度スペクトルにおける各周波数fの強度G(f)を、周波数軸上の下限値fLと上限値fHとの間の範囲について積算することで血液量指標Mが算定される。下限値fLは上限値fHを下回る。なお、数式(5a)の積分を総和(Σ)に置換した以下の数式(5b)の演算により血液量指標Mを算定してもよい。数式(5b)の記号Δfは、周波数軸上で1個の強度G(f)に対応する帯域幅であり、周波数軸上に配列された複数の矩形で強度スペクトルを近似したときの各矩形の横幅に相当する。血液量指標Mの算定は、解析期間Tと比較して短い周期で反復的に実行される。以上の説明から理解される通り、血液量指標Mは、レーザー光の照射により生体の内部で反射して受光された光の周波数に関する強度スペクトルから(具体的には強度スペクトルにおける各周波数の強度を所定の周波数範囲について積算して)算定される。
数式(6a)から理解される通り、強度スペクトルにおける各周波数fの強度G(f)と当該周波数fとの積(f×G(f))を、周波数軸上の下限値fLと上限値fHとの間の範囲について積算することで血流量指標Fが算定される。以下、強度スペクトルにおける各周波数fの強度G(f)と当該周波数fとの積(f×G(f))を「周波数重み付け強度スペクトル」という。なお、数式(6a)の積分を総和(Σ)に置換した以下の数式(6b)の演算により血流量指標Fを算定してもよい。血流量指標Fの算定は、解析期間Tと比較して短い周期で反復的に実行される。以上の説明から理解される通り、血流量指標Fは、レーザー光の照射により生体の内部で反射して受光された光の周波数に関する強度スペクトルから(具体的には強度スペクトルにおける各周波数の強度と当該周波数との積を所定の周波数範囲について積算して)算定される。
図5の平均血圧算定部55は、指標算定部51が算定した血液量指標Mと血流量指標Fとに応じて生体の平均血圧Paveを算定する。具体的には、平均血圧算定部55は、血液量指標Mを解析期間Tについて平均した平均値Maveと、血流量指標Fを解析期間Tについて平均した平均値Faveとに応じて平均血圧Paveを算定する。平均値Maveは、解析期間T内において算定された複数の血液量指標Mの平均(例えば単純平均または加重平均)である。平均値Faveは、解析期間T内において算定された複数の血流量指標Fの平均(例えば単純平均または加重平均)である。
上述の通り、血液量指標Mは血管径dに相関する。具体的には、血液量指標Mの三乗根(M
1/3)が血管径d2に相当する。血管径d2の三乗が血液量指標Mに相当するとも換言される。また、血流量指標Fは、血流量Q2に相当する。以上の関係を考慮すると、上述の数式(4)は以下の数式(7)に変形される。
第1実施形態の平均血圧算定部55は、数式(7)の演算により平均血圧Paveを算定する。記号Kは、血液密度ρおよび細動脈の長さL2等に応じて予め定められた係数である。数式(7)から理解される通り、平均血圧Paveは、Fave/Mave4/3に応じて算定される。なお、係数Kは、例えばカフ等を利用して実測した平均血圧Paveの実測値と、数式(7)のFave/Mave4/3の演算値とから設定される(例えばK=実測値/演算値)。制御装置21は、平均血圧算定部55が算定した平均血圧Paveを表示装置23に表示させる。
図6は、制御装置21が実行する処理(以下「生体解析処理」という)のフローチャートである。時間軸上の解析期間T毎に図6の生体解析処理が実行される。生体解析処理を開始すると、指標算定部51は、解析期間T内の複数の時点の各々について血液量指標Mを算定する(Sa1)。血液量指標Mの算定には、前述の数式(5a)または数式(5b)が利用される。次に、指標算定部51は、解析期間T内の複数の時点の各々について血流量指標Fを算定する(Sa2)。血流量指標Fの算定には、前述の数式(6a)または数式(6b)が利用される。平均血圧算定部55は、指標算定部51が算定した血液量指標Mと血流量指標Fとに応じて平均血圧Paveを算定する(Sa3)。制御装置21は、平均血圧算定部55が算定した平均血圧Paveを表示装置23に表示させる(Sa4)。なお、血液量指標Mの算定(Sa1)と血流量指標Fの算定(Sa2)との順序を逆転してもよい。以上に説明した生体解析処理が解析期間T毎に実行されることで、複数の平均血圧Paveの時系列(すなわち平均血圧Paveの時間変化)が算定される。
図7は、平均血圧Paveを算定する処理Sa3の具体的な内容を示すフローチャートである。平均血圧算定部55は、血液量指標Mを解析期間Tについて平均した平均値Maveを算定する(Sa3-1)。平均血圧算定部55は、血流量指標Fを解析期間Tについて平均した平均値Faveを算定する(Sa3-2)。そして、平均血圧算定部55は、平均値Maveおよび平均値Faveに応じて平均血圧Paveを算定する(Sa3-3)。具体的には、Fave/Mave4/3に応じて平均血圧Paveが算定される。なお、平均値Maveの算定(Sa3-1)と平均値Faveの算定(Sa3-2)との順序を逆転してもよい。
以上に説明した通り、第1実施形態では、血管径指標(血液量指標M)と血流量指標Fとに応じて平均血圧Paveが算定される。ここで、例えば平均血圧の算定に生体を圧迫することが必要な構成(例えばカフ等を利用して平均血圧を算定する構成)では、押圧力の相違に起因した誤差が生じ得る。それに対して、第1実施形態では、血管径指標(血液量指標M)と血流量指標Fとに応じて平均血圧Paveが算定されるので、生体を圧迫することが不要である。ひいては、押圧力の相違に起因した誤差を低減して、高精度に平均血圧Paveを算定することができる。
ところで、血流量指標Fの算定には、生体に超音波を照射する血流速度センサーを利用することも可能である。しかし、超音波照射型の血流速度センサーを利用した場合、測定部位の皮膚厚や、超音波の照射面が生体に接触する条件(密着の度合や圧力)に血流量指標Fが影響するため、血圧に関する指標(例えば平均血圧)を高精度に特定することは実際には困難である。また、超音波照射型の血流速度センサーを利用した場合には、生体解析装置が大型化するという問題もある。これに対し、第1実施形態では、血流量指標Fの算定にレーザー光を利用するから、超音波照射型の血流速度センサーを利用する場合と比較して、皮膚厚等の影響を低減して平均血圧Paveを高精度に測定できる。また、生体解析装置100を小型化することも可能である。
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態を説明する。なお、以下に例示する各形態において作用または機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
血管径の脈動に連動して血液の吸光度Absは変動する。すなわち、吸光度Absは、血管径に相関する。具体的には、吸光度Absと血管径dとの関係は、以下の数式(8)で表現される。数式(8)の記号εは、モル吸光係数であり、記号cは、赤血球濃度である。以上の理由から、第2実施形態では、生体の吸光度Absに関する指標(以下「吸光度指標」という)Jを血管径指標として例示する。
第2実施形態の指標算定部51は、吸光度指標Jと、第1実施形態と同様の血流量指標Fとを算定する。吸光度Absは、以下の式(9)により表現される。数式(9)の記号Iは、検出信号ZAの信号成分の強度であり、記号I0は、測定部位に入射する光の強度(発光部Eからの出射光の強度)である。数式(8)および数式(9)から、以下の式(10)が導出される。
モル吸光係数εおよび赤血球濃度cは、所定値に設定することが可能である。すなわち、強度I0と強度Iとの比の常用対数(log(I/I0))を算出することで、血管径dを算定することが可能である。そこで、第2実施形態の指標算定部51は、強度I0と強度Iとの比の常用対数(log(I/I0))を吸光度指標Jとして算定する。強度I0は、所定値に設定され、強度Iは、生体(測定部位H)から受光した光の受光レベルを示す光電容積脈波から算定される。すなわち、吸光度指標Jは、光電容積脈波から算定される。光電容積脈波は、検出装置30Aが生成した検出信号ZAから生成される。例えば、検出装置30Aが出力する検出信号ZAの高域成分を抑圧するフィルター処理と、フィルター処理後の信号を増幅する増幅処理とにより、光電容積脈波が生成される。血流量指標Fは、第1実施形態と同様の方法により算定される。
第2実施形態の平均血圧算定部55は、指標算定部51が算定した吸光度指標Jと血流量指標Fとから平均血圧Paveを算定する。具体的には、平均血圧算定部55は、吸光度指標Jを解析期間Tについて平均した平均値Javeと、血流量指標Fを解析期間Tについて平均した平均値Faveとに応じて平均血圧指標を算定する。上述の通り、吸光度指標Jは血管径d2に相関し、血流量指標Fは、血流量Q2に相当する。以上の関係を考慮すると、上述の数式(4)および数式(10)から、以下の数式(11)が導出される。平均血圧算定部55は、数式(11)の演算により平均血圧Paveを算定する。記号Kは、血液密度ρおよび細動脈の長さL2等に応じて予め定められた係数である。係数Kは、モル吸光係数ε、赤血球濃度c、血液密度ρおよび細動脈の長さL2等に応じて予め定められた係数である。数式(11)から理解される通り、第2実施形態の平均血圧Paveは、Fave/Jave
4に応じて算定される。なお、係数Kは、例えばカフ等を利用して実測した実測値と、数式(11)におけるFave/Jave
4の演算値とから設定される(例えばK=実測値/演算値)。
第2実施形態における生体解析処理の内容は、図6に例示した第1実施形態と同様である。ただし、図6のステップSa1において、指標算定部51は、血液量指標Mに代えて吸光度指標Jを算定する。また、図7のステップSa3-1において、平均血圧算定部55は、血液量指標Mの平均値Maveに代えて吸光度指標Jの平均値Javeを算定する。
第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。第2実施系形態では特に、生体から受光した光の受光レベルを示す光電容積脈波から算定された吸光度指標Jが血管径指標として利用されるので、強度スペクトルから算定される血液量指標Mを血管径指標として使用する第1実施形態の構成と比較して、血管径指標を算定する処理負荷が軽減される。
<第3実施形態>
第3実施形態は、第2実施形態と同様に、吸光度指標Jと血流量指標Fとに応じて平均血圧Paveを算定する。ただし、第2実施形態では吸光度指標Jの算定と血流量指標Fの算定とに、共通の受光部Rが生成した検出信号ZAを利用したが、第3実施形態では、吸光度指標Jの算定と血流量指標Fの算定とに、別個の受光部が生成した検出信号Zを利用する。
図8は、第3実施形態における生体解析装置100の構成図である。第3実施形態の生体解析装置100における検出装置30Aは、発光部Eと2つの受光部R(R1およびR2)とを具備する。発光部Eは、第2実施形態と同様に、狭帯域でコヒーレントなレーザー光を測定部位H(生体)に照射する。各受光部Rは、第2実施形態と同様に、レーザー光が測定部位Hの内部で反射した光を受光する。発光部Eからの距離が相異なる位置に各受光部Rは設置される。各受光部Rが検出装置30Aにおいて設置される位置についての詳細は後述する。具体的には、受光部R1は、測定部位H内を通過した光の受光レベルに応じた検出信号ZA1を生成し、受光部R2は、測定部位H内を通過した光の受光レベルに応じた検出信号ZA2を生成する。検出信号ZA1は、血流量指標Fの算定に利用される。他方、検出信号ZA2は、吸光度指標Jの算定に利用される。
第3実施形態の指標算定部51は、受光部R1が生成した検出信号ZA1から血流量指標Fを算定し、受光部R2が生成した検出信号ZA2から吸光度指標Jを算定する。血流量指標Fおよび吸光度指標Jは、第2実施形態と同様の方法で算定される。第3実施形態の平均血圧算定部55は、第2実施形態と同様に、指標算定部51が算定した吸光度指標Jと血流量指標Fとから平均血圧Paveを算定する。
以下、各受光部Rが検出装置30Aにおいて設置される位置について説明する。ここで、検出信号Zのうち血流量指標Fの算定に利用される周波数帯域(数式(5b)の周波数fL~fH)と、吸光度指標Jの算定に利用される周波数帯域とは相違する。血流量指標Fの算定に好適な周波数帯域においてSN比が高い検出信号ZA1が得られる発光部E-受光部R1間の距離(例えば発光部Eと受光部R1との中心間の距離)と、吸光度指標Jの算定に好適な周波数帯域においてSN比が高い検出信号ZA2が得られる発光部E-受光部R2間の距離(例えば発光部Eと受光部R2との中心間の距離)とは相違する。
図9は、検出信号ZA1のうち血流量指標Fの算定に利用される周波数帯域におけるSN比の良否と、検出信号ZA2のうち吸光度指標Jの算定に利用される周波数帯域におけるSN比の良否とを、発光部Eと受光部Rとの距離を変化させた複数の場合について示す表である。図9から把握される通り、検出信号ZA1のうち血流量指標Fの算定に利用される周波数帯域のSN比は、発光部Eと受光部R1との距離が0.5mm以上2mm以下の場合に高い値を示す。一方で、検出信号ZA2のうち吸光度指標Jの算定に利用される周波数帯域のSN比は、発光部Eと受光部R2との距離が3mm以上5mm以下の場合に高い値を示すという知見が得られた。
以上の知見を踏まえて、第3実施形態では、受光部R1と受光部R2とについて、発光部Eとの距離が個別に設定される。例えば、受光部R1と発光部Eとの距離は、血流量指標Fの算定に好適な周波数帯域においてSN比が高い検出信号ZA1が得られる距離に設定され、受光部R2と発光部Eとの距離は、吸光度指標Jの算定に好適な周波数帯域においてSN比が高い検出信号ZA2が得られる距離に設定される。具体的には、図9に示された結果を踏まえて、発光部Eと受光部R1との間の距離は0.5mm以上かつ2mm以下に設定され、発光部Eと受光部R2との間の距離は3mm以上かつ5mm以下(好適には4mm)に設定される。
第3実施形態においても第2実施形態と同様の効果が得られる。第3実施形態では特に、血流量指標Fの算定のための受光部R1と吸光度指標Jの算定のための受光部R2とが個別であるから、血流量指標Fの算定に好適な周波数帯域においてSN比が高い検出信号ZA1と、吸光度指標Jの算定に好適な周波数帯域においてSN比が高い検出信号ZA2の生成が可能になる。したがって、吸光度指標Jの算定と血流量指標Fの算定とに共通の受光部Rを利用する構成と比較して、高精度に平均血圧Paveを算定することができる。
<第4実施形態>
第4実施形態では、第1実施形態で算定した平均血圧Paveを利用して血圧Pを算定する構成を例示する。図10は、第4実施形態における生体解析装置100の構成図である。第4実施形態の生体解析装置100は、第1実施形態における生体解析装置100に、検出装置30Bと脈圧算定部53と血圧算定部57とを追加した構成である。脈圧算定部53および血圧算定部57は、記憶装置22に記憶されたプログラムを制御装置21が実行することで実現される。
検出装置30Bは、測定部位H(具体的には測定部位Hの内部の血管)の状態に応じた検出信号ZBを生成する検出機器である。例えば、光学センサーモジュールまたは超音波センサーモジュール等の機器が検出装置30Bとして好適に利用される。脈圧算定部53は、検出装置30Bが生成した検出信号ZBから脈圧ΔPを算定する。図2に例示する解析期間Tにおける脈圧ΔPが算定される。脈圧ΔPの算定には、公知の技術が任意に採用され得る。平均血圧算定部55は、第1実施形態と同様に、平均血圧Paveを算定する。
図10の血圧算定部57は、脈圧算定部53が算定した脈圧ΔPと平均血圧算定部55が算定した平均血圧Paveとから血圧Pを算定する。第4実施形態の血圧算定部57は、収縮期血圧Pmaxと拡張期血圧Pminとを算定する。図2に例示される通り、収縮期血圧Pmaxは、解析期間Tにおける最高血圧であり、拡張期血圧Pminは、解析期間Tにおける最低血圧である。平均血圧Paveと脈圧ΔPと収縮期血圧Pmaxと拡張期血圧Pminとの間には、以下の数式(12)および数式(13)の関係が近似的に成立する。血圧算定部57は、以下の数式(12)により収縮期血圧Pmaxを算定し、以下の数式(13)により拡張期血圧Pminを算定する。制御装置21は、血圧算定部57が算定した収縮期血圧Pmaxおよび拡張期血圧Pminを表示装置23に表示させる。
第4実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が実現される。第4実施形態では特に、脈圧ΔPと平均血圧Paveとから血圧P(収縮期血圧Pmaxおよび拡張期血圧Pmin)が算定されるから、押圧力の相違に起因した誤差を低減して、高精度に血圧Pを算定することができる。
<第5実施形態>
図11は、第5実施形態における生体解析装置100の使用例を示す模式図である。図11に例示される通り、生体解析装置100は、相互に別体で構成された検出ユニット71と表示ユニット72とを具備する。検出ユニット71は、前述の各形態で例示した検出装置30を具備する。図11には、被験者の上腕に装着される形態の検出ユニット71が例示されている。図12に例示される通り、被験者の手首に装着される形態の検出ユニット71も好適である。
表示ユニット72は、前述の各形態で例示した表示装置23を具備する。例えば携帯電話機またはスマートフォン等の情報端末が表示ユニット72の好適例である。ただし、表示ユニット72の具体的な形態は任意である。例えば、被験者が携帯可能な腕時計型の情報端末、または、生体解析装置100の専用の情報端末を表示ユニット72として利用してもよい。
検出信号ZAから平均血圧Paveを算定するための要素(以下「演算処理部」という)は、例えば表示ユニット72に搭載される。演算処理部は、図3に例示された要素(指標算定部51および平均血圧算定部55)を包含する。検出ユニット71の検出装置30が生成した検出信号ZAが有線または無線で表示ユニット72に送信される。表示ユニット72の演算処理部は、検出信号ZAから平均血圧Paveを算定して表示装置23に表示する。なお、第4実施形態で例示した脈圧算定部53および血圧算定部57を表示ユニット72に搭載することも可能である。
なお、演算処理部を検出ユニット71に搭載してもよい。演算処理部は、検出装置30が生成した検出信号ZAから平均血圧Paveを算定し、当該平均血圧Paveを表示するためのデータを表示ユニット72に有線または無線で送信する。表示ユニット72の表示装置23は、検出ユニット71から受信したデータが示す平均血圧Paveを表示する。また、演算処理部は第4実施形態で算定した血圧を表示するためのデータを表示ユニット72に送信してもよい。
<第6実施形態>
図13は、血液量指標Mの実測値と、血流量指標Fの実測値および平均血圧Paveの実測値から算定された血管径d2の三乗(d2
3)との関係を示すグラフである。血液量指標Mの実測値と血流量指標Fの実測値とは、例えばレーザードップラー血流計を利用して測定される。平均血圧Paveは、カフ等を利用して測定される。なお、図13には、複数の被験者について測定された結果が図示されている。上述した通り、血管径d2は、血液量指標Mの三乗根(M
1/3)に相当するから、数式(7)から以下の数式(14)が導出される。d2
3は、数式(14)を利用して算出される。
図13から把握される通り、d2
3と血液量指標Mの実測値との関係を示す回帰直線は、傾きおよび切片を有する一次関数で表現されるという知見が得られた。傾きを表す係数をaとし、切片を表す係数をbとすると、d2
3は、以下の数式(15)により表現される。図13では、係数aが0.0889で、係数bが0.0023の場合が例示されている。d2
3と血液量指標Mの実測値とに高い相関があり、数式(15)によりその相関が適切に近似されていることがわかる。図13における相関係数R
2は、0.9488である。
血管径d2の三乗が血液量指標Mに相当し、血流量指標Fが血流量Q2に相当するという前提のもとに、上述の数式(4)は以下の数式(16)に変形される。なお、数式(16)の記号K'は、数式(7)の係数Kと同様に、血液密度ρおよび細動脈の長さL2等に応じて予め定められた係数である。
図14は、カフ等により測定された平均血圧Paveの実測値と、数式(16)より算定された平均血圧Paveの算出値との関係を示すグラフである。d23が切片を有さないと想定して算出した平均血圧Paveの算出値と平均血圧Paveの実測値との間には、負の相関が観測される場合がある。それに対して、図14から把握される通り、数式(16)により算出された平均血圧Paveの算出値と平均血圧Paveの実測値との間には、正の相関が観測された。相関係数R2は、0.5858である。以上の知見をもとに、第6実施形態では数式(16)を利用して平均血圧Paveを算定する。すなわち、Fave/(a×Mave+b)4/3に応じて平均血圧Paveが算定される。
数式(16)の係数aおよび係数bは、例えば複数の被験者から算出される実測値(平均血圧Pave,血液量指標Mおよび血流量指標F)を利用して統計的に設定される。生体解析装置100の利用者毎に係数aおよび係数bを設定してもよいし、利用者間で共通の係数aおよび係数bを設定してもよい。係数aおよび係数bを利用者毎に設定する場合には、利用者毎に測定した実測値を利用した校正が係数aおよび係数bに対して必要になる。一方で、利用者間で共通の係数aおよび係数bを設定する場合には、利用者毎に校正が不要になるという利点がある。なお、係数aおよび係数bの何れか一方を利用者間で共通に設定し、他方を利用者毎に設定してもよい。
以上の説明から理解される通り、第6実施形態では、平均血圧Paveの実測値に対して正の相関が観測されるFave/(a×Mave+b)4/3に応じて平均血圧Paveが算定されるから、高精度に平均血圧Paveを算出することが可能である。また、係数aおよび係数bを利用者間で共通に設定する場合には、生体解析装置100の使用時における校正が不要になるという利点がある。なお、第6実施形態の構成は、第1実施形態から第5実施形態の何れにも適用し得る。
<第7実施形態>
検出信号ZAの周波数に関する強度スペクトルには、周波数軸上の全域にわたり略均等な強度で分布するノイズ(以下「バックグラウンドノイズ」という)が含まれ得る。バックグラウンドノイズは、例えば、生体解析装置100を構成する電気回路に固有のショットノイズや、生体解析装置100の設置環境に存在する電磁波に起因したノイズである。第7実施形態では、検出信号ZAから特定される強度スペクトルからバックグラウンドノイズを低減して血液量指標Mおよび血流量指標Fを算定する。
第7実施形態の検出装置30Aは、前述の各形態で例示した検出信号ZAのほか、バックグラウンドノイズを表す信号(以下「観測信号」という)を生成する。観測信号は、血流が観測されない状態で生成される。例えば、反射率が低く、移動する物体を含まない静止物体に発光部Eが光を照射した状態で受光部Rが出力する信号が観測信号として生成される。なお、静止物体に光を照射しない状態で受光部Rが出力する信号を観測信号として利用してもよい。また、測定部位Hまたは測定部位Hより上流の位置をカフ等により止血した状態で受光部Rが出力する信号を観測信号として利用してもよい。以上の説明から理解される通り、測定部位Hの血流に由来した成分を含まない観測信号が生成される。すなわち、測定部位Hの血液量指標Mおよび血流量指標Fを算定するときに存在するバックグラウンドノイズを表す観測信号が生成される。
第7実施形態の指標算定部51は、検出信号ZAの周波数に関する強度スペクトルにおける各周波数fの強度G(f)からバックグラウンドノイズの強度G(f)bgを減算して、血液量指標Mおよび血流量指標Fを算定する。バックグラウンドノイズの強度G(f)bgは、観測信号から算定された強度スペクトルにおける各周波数fでの強度である。なお、バックグラウンドノイズの強度G(f)bgを平滑化(例えば移動平均)した値を強度G(f)から減算してもよい。強度G(f)bgの平滑化は、時間軸上で実行しても周波数軸上で実行してもよい。
具体的には、指標算定部51は、各周波数fについて、強度G(f)から強度G(f)bgを減算することで、補正強度G(f)cを特定する。補正強度G(f)cは、以下の数式(17)で表現される。
数式(17)より算定された補正強度G(f)cを使用して、血液量指標Mおよび血流量指標Fが算定される。すなわち、バックグラウンドノイズの影響を低減した血液量指標Mおよび血流量指標Fが算定される。前述の各形態と同様に、血液量指標Mの算定には、数式(5a)または数式(5b)が利用され、血流量指標Fの算定には、数式(6a)または数式(6b)が利用される。
以上の説明から理解される通り、第7実施形態では、検出信号ZAの強度スペクトルにおける各周波数fの強度G(f)からバックグラウンドノイズの強度G(f)bgを減算して、血液量指標Mおよび血流量指標Fが算定される。したがって、バックグラウンドノイズの影響を低減した血液量指標Mおよび血流量指標Fが算定される。すなわち、平均血圧Paveを高精度に算定することができる。
数式(6a)または数式(6b)から把握される通り、血流量指標Fは、周波数fを強度G(f)に乗算することで(すなわち周波数重み付け強度スペクトル(f×G(f))を利用して)算出される。したがって、周波数fが大きくなるほど、血流量指標Fに対するバックグラウンドノイズの影響が大きくなるという傾向がある。強度スペクトルからバックグラウンドノイズを低減する第7実施形態の構成は、血流量指標Fを算出する場合に特に有効である。なお、第7実施形態の構成は、第1実施形態から第6実施形態において、光学的に検出された検出信号の強度スペクトルについてバックグラウンドノイズを低減するために利用できる。
<第8実施形態>
第7実施形態において検出信号ZAの強度スペクトルのうち測定部位Hの脈動に応じて強度G(f)が変化しない周波数帯域(以下「指定帯域」という)では、バックグラウンドノイズが除去されれば、強度G(f)が0に近づく。指定帯域において強度G(f)が0に近いほど、バックグラウンドノイズが高精度に除去されているとも換言される。そこで、第8実施形態では、指定帯域において、強度G(f)から強度G(f)bgを減算した結果が0に近づくように、強度G(f)から強度G(f)bgを減算する。指定帯域は、例えば25kHz以上30kHz以下の帯域である。なお、指定帯域は以上の例示に限定されない。例えば、測定部位Hの種類に応じて適宜に指定帯域が変更される。
第8実施形態の指標算定部51は、第7実施形態と同様に、検出信号ZAの周波数に関する強度スペクトルにおける各周波数fの強度G(f)からバックグラウンドノイズの強度G(f)bgを減算して、血液量指標Mおよび血流量指標Fを算定する。具体的には、指標算定部51は、指定帯域において強度G(f)から強度G(f)bgを減算した結果が0に近づくように、強度G(f)から強度G(f)bgを減算することで、補正強度G(f)cを算定する。第8実施形態の補正強度G(f)cは、以下の数式(18)で表現される。
数式(18)の記号Cは、指定帯域において補正強度G(f)cが0に近づくように設定される係数である。具体的には、係数Cは、以下の数式(19)から算出される値が最小(理想的には0)になるように設定される。数式(18)の記号fmaxは、指定帯域の周波数の上限値であり、fminは、指定帯域の周波数の下限値である。なお、係数Cを周波数fに応じて設定してもよい。例えば、周波数軸を複数に区分した帯域毎に異なる係数Cを設定してもよい。
数式(18)から把握される通り、係数Cを乗算した強度G(f)bgを強度G(f)から減算することで、補正強度G(f)cが算出される。指標算定部51は、各周波数fについて数式(18)により算出した補正強度G(f)cを利用して、血液量指標Mおよび血流量指標Fを算定する。前述の各形態と同様に、血液量指標Mの算定には、数式(5a)または数式(5b)が利用され、血流量指標Fの算定には、数式(6a)または数式(6b)が利用される。
図15には、係数Cを強度G(f)bに乗算せず補正強度G(f)cを算出する構成(以下「対比例」という)により算出された周波数重み付け強度スペクトル(f×G(f)c)と、数式(18)の演算による補正強度G(f)cから算出された周波数重み付け強度スペクトル(f×G(f)c)とを示すグラフである。図15から把握される通り、第8実施形態の構成では、対比例と比較して、バックグラウンドノイズを高精度に低減して周波数重み付け強度スペクトル(f×G(f)c)が算出される。特に、バックグラウンドノイズの影響が大きくなる高域側においてバックグラウンドノイズを有効に低減して周波数重み付け強度スペクトル(f×G(f)c)が算出される。すなわち、周波数軸上の全体にわたりバックグラウンドノイズを有効に低減した血流量指標Fを算出することが可能である。
図16は、対比例において算出された平均血圧Paveの算出値と、カフ等で測定された平均血圧Paveの実測値との関係を示すグラフである。図17は、第8実施形態の構成において算出された平均血圧Paveの算出値と、カフ等で測定された平均血圧Paveの実測値との関係を示すグラフである。図16および図17から把握される通り、第8実施形態によれば、対比例と比較して、平均血圧Paveの算出値と平均血圧Paveの実測値との間に高い相関(正の相関)が観測される。また、図16における平均血圧Paveの算出値の標準偏差σは、22.5mmHgであるのに対して、図17における平均血圧Paveの算出値の標準偏差σは、8.8mmHgである。以上のことからも、第8実施形態によれば、対比例と比較して、平均血圧Paveを高精度に算出できることがわかる。
第8実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第8実施形態では、第7実施形態と同様に、バックグラウンドノイズの影響を低減した血液量指標Mおよび血流量指標Fが算定される。第8実施形態によれば、特に、指定帯域において強度G(f)から強度G(f)bgを減算した結果が0に近づくように、強度G(f)から強度G(f)bgを減算することで、血液量指標Mおよび血流量指標Fが算定される。したがって、対比例と比較して、バックグラウンドノイズの影響を高精度に低減して血液量指標Mおよび血流量指標Fを算定することができる。
<各構成の有無の検討>
前述の各形態における例示の通り、本発明の好適な態様は、血管径指標と血流量指標Fとから平均血圧Paveを算定するという構成(以下「構成A」という)を採用する。実際の生体解析装置(以下「実製品」という)90が構成Aを採用しているか否かの判断方法について以下に説明する。以下、構成Aを採用することが確認されている生体解析装置100を「本願製品」という。
実製品90は、図18に例示される通り、発光部Eおよび受光部Rを含む検出装置91と、検出装置91が出力する検出信号から平均血圧PWaveを算定する処理部93と、処理部93が算定した平均血圧PWaveを表示する表示装置95とを具備する。実製品90の処理部93と、本願製品の制御装置21との各々に、解析期間T内の波形が相違する複数(例えば3種類以上)の試験信号Uを順次に供給する場面を想定する。実製品90については処理部93(例えば検出装置91と処理部93との間の配線や端子)に各試験信号U(U1,U2,U3)が供給される。例えばパルスジェネレーター等の信号発生器により各試験信号Uは生成される。複数の試験信号Uは、Fave/Mave4/3(第2実施形態および第3実施形態の本願製品ではFave/Jave4)が異なる。例えば複数の試験信号Uの各々について算定されるFave/Mave4/3のうち、最大値と最小値との差が2倍以上となるように、複数の試験信号Uを生成する。なお、解析期間Tよりも長い時間長の波形ついて試験信号Uを生成してもよい。
実製品90の表示装置95に被験者の平均血圧Paveが測定結果として表示される場合を想定する。試験信号U1を実製品90に供給した場合に平均血圧PWave1が表示され、試験信号U2を実製品90に供給した場合に平均血圧PWave2が表示され、試験信号U3を実製品90に供給した場合に平均血圧PWave3が表示されたと仮定する。また、試験信号U1を本願製品に供給した場合に平均血圧Pave1が表示され、試験信号U2を本願製品に供給した場合に平均血圧Pave2が表示され、試験信号U3を本願製品に供給した場合に平均血圧Pave3が表示されたと仮定する。
図19は、実製品90について表示された平均血圧PWaveと本願製品について表示された平均血圧Paveとの関係を示すグラフである。実製品90について構成Aを採用している場合、実製品90で測定された複数の平均血圧PWave(平均血圧PWave1,平均血圧PWave2,平均血圧PWave3)と本願製品で測定された複数の平均血圧Pave(Pave1,Pave2,Pave3)との間には相関が観測される。具体的には、実製品90について表示された複数の平均血圧PWaveと、本願製品について表示された複数の平均血圧Paveとの相関係数が0.8以上になる。以上の事情を考慮して、実製品90に複数の試験信号Uを供給して算定された平均血圧Paveと、本願製品に複数の試験信号Uを供給して算定された平均血圧Paveとの相関係数が0.8以上となる場合は、当該実製品90については構成Aを採用している可能性が充分に高い。なお、相関係数としては、例えばピアソンの積算相関係数が好適である。
なお、以上の説明では試験信号Uを実製品90の処理部93に供給したが、実製品90において検出信号を生成する受光部Rに、試験信号Uが生成されるような光を受光させ、これにより算定された平均血圧PWaveを本願製品の平均血圧Paveと対比してもよい。また、以上の説明では実製品90の表示装置95に表示される平均血圧PWaveと本願製品の表示装置23に表示される平均血圧Paveとを対比したが、実製品90の処理部93から出力されるデータと本願製品の制御装置21から出力されるデータとを対比することで実製品90における構成Aの有無を判断してもよい。
以上の説明では実製品90が平均血圧PWaveを表示する場合を便宜的に想定したが、実製品90が被験者の血圧P(PmaxおよびPmin)を表示する場合も、同様の方法により、実製品90における構成Aの有無を推定することが可能である。すなわち、複数の試験信号Uを実製品90に順次に供給することで測定される複数の血圧と、複数の試験信号Uを本願製品(第4実施形態)に順次に供給することで測定される複数の血圧との間の相関係数を算定する。相関係数が0.8以上である場合には、実製品90が構成Aを採用している可能性が高い。
また、第7実施形態および第8実施形態では、検出信号ZAの周波数に関する強度スペクトルにおける各周波数fの強度G(f)からバックグラウンドノイズの強度G(f)bgを減算して、血管径指標および血流量指標Fを算定するという構成(以下「構成B」という)を採用する。実製品90が構成Bを採用しているか否かの判断方法について以下に説明する。
測定部位Hまたは測定部位Hより上流の位置を止血した状態(以下「止血状態」という)において、実製品90により平均血圧PWaveを算定する。止血状態において実製品90が特定する強度スペクトルには、バックラウンドノイズが優勢に含まれる。実製品90が構成Bを採用する場合には、止血状態において平均血圧PWaveは0に近い値(理想的には0)になり得る。一方で、実製品90が構成Bを採用しない場合には、強度スペクトルに含まれるバックグラウンドノイズの影響により平均血圧PWaveが0から乖離した値になる。以上の説明から理解される通り、止血状態において実製品90に表示される平均血圧PWaveが0に近い場合には、構成Bを採用している可能性が高い。なお、実製品90が血管径指標または血流量指標Fを表示する場合には、止血状態において算出される血管径指標または血流量指標Fが0に近いか否かで構成Bの採用の有無を判断してもよい。
<変形例>
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を適宜に併合することも可能である。
(1)前述の各形態では、平均血圧Paveを算定したが、生体解析装置100が算定する生体情報は以上の例示に限定されない。例えば、算定した平均血圧Paveを利用して、平均血圧算定部55が、被験者の平均血圧Paveの状態を示す指標(例えば、異常/高目/通常、など)を特定してもよい。以上の説明から理解される通り、平均血圧算定部55が算定する指標は、平均血圧Paveに関する指標(以下「平均血圧指標」という)として包括的に表現され、平均血圧指標には、平均血圧Paveそのものと平均血圧Paveを利用して算定される指標との双方を含む。
(2)前述の各形態では、血管径指標(血液量指標Mまたは吸光度指標J)を解析期間Tについて平均した平均値と、血流量指標Fを解析期間Tについて平均した平均値Faveとに応じて平均血圧Paveを算定したが、平均血圧Paveの算定方法は以上の例示に限定されない。また、血管径指標を平均する解析期間Tの時間長と血流量指標Fを平均する解析期間Tの時間長とを相違させる構成、または、血管径指標を平均する解析期間Tと血流量指標Fを平均する解析期間Tとが時間軸上で重複しない構成も採用され得る。
また、第1実施形態(さらには第4実施形態や第5実施形態)では、解析期間T内の複数の血液量指標Mの平均により平均値Maveを算定し、複数の血流量指標Fの平均により平均値Faveを算定したが、平均値Maveおよび平均値Faveを算定する方法は以上の例示に限定されない。例えば、解析期間T内の相異なる時点について算定された複数の強度スペクトルを平均することで平均強度スペクトルを算定し、平均強度スペクトルに対する演算で平均値Maveおよび平均値Faveを算定してもよい。第2実施形態および第3実施形態における平均値Javeについても同様に、平均強度スペクトルから算定することも可能である。なお、平均強度<I2>が解析期間T内で変動する場合には、平均強度スペクトルを利用する構成では平均血圧Paveを適正に算定できない可能性がある。したがって、平均強度<I2>が変動した場合でも平均血圧Paveを高精度に算定するという観点からは、前述の第1実施形態の例示の通り、解析期間T内の各時点について平均値Maveおよび平均値Faveを算定する構成が好適である。
(3)第1実施形態(さらには第4実施形態や第5実施形態)では、共通の受光部Rが生成した検出信号ZAを血液量指標Mの算定と血流量指標Fの算定とに利用したが、別個の受光部Rが生成する検出信号Zを血管径指標の算定と血流量指標Fの算定とに利用することも可能である。具体的には、検出装置30Aが発光部Eと2個の受光部R(R1およびR2)とを具備し、受光部R1が生成した検出信号Zの強度スペクトルを血液量指標Mの算定に利用し、受光部R2が生成した検出信号Zの強度スペクトルを血流量指標Fの算定に利用する。ただし、共通の受光部Rが生成した検出信号ZAを血液量指標Mの算定と血流量指標Fの算定とに利用する第1実施形態の構成によれば、血液量指標Mの算定と血流量指標Fの算定とに共通の強度スペクトルを利用できる。
(4)前述の各形態では、単体の機器として構成された生体解析装置100を例示したが、以下の例示の通り、生体解析装置100の複数の要素は相互に別体の装置として実現され得る。なお、以下の説明では、検出信号Zから平均血圧Paveを算定する要素を「演算処理部27」と表記する。演算処理部27は、例えば、図5に例示された要素(指標算定部51および平均血圧算定部55)を包含する。
前述の各形態では、検出装置30(30A,30B)を具備する生体解析装置100を例示したが、図20に例示される通り、検出装置30を生体解析装置100とは別体とした構成も想定される。検出装置30は、例えば被験者の手首や上腕等の測定部位Hに装着される可搬型の光学センサーモジュールである。生体解析装置100は、例えば携帯電話機またはスマートフォン等の情報端末で実現される。腕時計型の情報端末で生体解析装置100を実現してもよい。検出装置30が生成した検出信号Zが有線または無線で生体解析装置100に送信される。生体解析装置100の演算処理部27は、検出信号Zから平均血圧Paveを算定して表示装置23に表示する。以上の説明から理解される通り、検出装置30は生体解析装置100から省略され得る。
前述の各形態では、表示装置23を具備する生体解析装置100を例示したが、図218に例示される通り、表示装置23を生体解析装置100とは別体とした構成も想定される。生体解析装置100の演算処理部27は、検出信号Zから平均血圧Paveを算定し、当該平均血圧Paveを表示するためのデータを表示装置23に送信する。表示装置23は、専用の表示機器であってもよいが、例えば、携帯電話機もしくはスマートフォン等の情報端末、または、被験者が携帯可能な腕時計型の情報端末に搭載されてもよい。生体解析装置100の演算処理部27が算定した平均血圧Paveは、有線または無線により表示装置23に送信される。表示装置23は、生体解析装置100から受信した平均血圧Pave(第4実施形態では血圧)を表示する。以上の説明から理解される通り、表示装置23は生体解析装置100から省略され得る。
図22に例示される通り、検出装置30および表示装置23を生体解析装置100(演算処理部27)とは別体とした構成も想定される。例えば、生体解析装置100(演算処理部27)が、携帯電話機やスマートフォン等の情報端末に搭載される。
なお、検出装置30と生体解析装置100とを別体とした構成において、指標算定部51を検出装置30に搭載することも可能である。指標算定部51が算定した血管径指標および血流量指標Fが有線または無線により検出装置30から生体解析装置100に送信される。以上の説明から理解される通り、指標算定部51は生体解析装置100から省略され得る。
(5)前述の各形態では、筐体部12とベルト14とを具備する腕時計型の生体解析装置100を例示したが、生体解析装置100の具体的な形態は任意である。例えば、被験者の身体に貼付可能なパッチ型、被験者の耳部に装着可能な耳装着型、被験者の指先に装着可能な指装着型(例えば着爪型)、または、被験者の頭部に装着可能な頭部装着型など、任意の形態の生体解析装置100が採用され得る。
(6)前述の各形態では、被験者の平均血圧Pave(第4実施形態では血圧P)を表示装置23に表示したが、平均血圧Paveを被験者に報知するための構成は以上の例示に限定されない。例えば、平均血圧Paveを音声で被験者に報知することも可能である。被験者の耳部に装着可能な耳装着型の生体解析装置100においては、平均血圧Paveを音声で報知する構成が特に好適である。また、平均血圧Paveを被験者に報知することは必須ではない。例えば、生体解析装置100が算定した平均血圧Paveを通信網から他の通信装置に送信してもよい。また、生体解析装置100の記憶装置22や生体解析装置100に着脱可能な可搬型の記録媒体に平均血圧Paveを格納してもよい。
(7)前述の各形態に係る生体解析装置100は、前述の例示の通り、制御装置21とプログラムとの協働により実現される。本発明の好適な態様に係るプログラムは、コンピューターが読取可能な記録媒体に格納された形態で提供されてコンピューターにインストールされ得る。また、配信サーバーが具備する記録媒体に格納されたプログラムを、通信網を介した配信の形態でコンピューターに提供することも可能である。記録媒体は、例えば非一過性(non-transitory)の記録媒体であり、CD-ROM等の光学式記録媒体(光ディスク)が好例であるが、半導体記録媒体または磁気記録媒体等の公知の任意の形式の記録媒体を包含し得る。なお、非一過性の記録媒体とは、一過性の伝搬信号(transitory, propagating signal)を除く任意の記録媒体を含み、揮発性の記録媒体を除外するものではない。