JP7181842B2 - 農業用保水材 - Google Patents
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Description
本発明が解決しようとする課題は上記問題を解決することであり、吸水速度に優れ、かつ粉塵が発生しにくい農業用保水材を提供することである。
即ち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕ビニルアルコール系重合体と、SP値が6.0(cal/cm3)1/2以上30.0(cal/cm3)1/2以下である化合物(X)とを含んでなる農業用保水材であって、当該化合物(X)の含有量は当該保水材の質量に対して0.001質量%以上98.0質量%以下である、農業用保水材。
〔2〕4.93×10-3MPaの圧縮応力を前記保水材に印加した際のひずみε1から算出される弾性率E1の、当該圧縮応力を前記化合物(X)を含まない状態の当該保水材に印加した際のひずみε2から算出される弾性率E2に対する比:
[上記式中、
E1は式:(4.93×10-3)/ε1により算出される弾性率であり、
E2は式:(4.93×10-3)/ε2により算出される弾性率である]
は99.99%以下である、前記〔1〕に記載の保水材。
〔3〕前記ビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール構成単位とイオン性基またはその誘導体を有するモノマー構成単位を含む共重合体を含む、前記〔1〕または〔2〕に記載の保水材。
〔4〕前記ビニルアルコール系重合体は、イオン性基のカウンターカチオンとしてカリウムイオンまたはアンモニウムイオンを含む、前記〔3〕に記載の保水材。
〔5〕前記ビニルアルコール系重合体は架橋構造を有する、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の保水材。
〔6〕前記化合物(X)は、水、グリセリン、メタノール、ジメチルスルホキシド、エタノール、アセトニトリル、イソプロパノール、N-メチル-2-ピロリドン、酢酸メチル、酢酸、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミドおよびエチレングリコールからなる群から選択される1以上の化合物を含む、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の保水材。
〔7〕前記化合物(X)は、水、グリセリン、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群から選択される1以上の化合物を含み、当該化合物の含有量は前記保水材の質量に対して3質量%以上である、前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の保水材。
〔8〕前記化合物(X)は水を含む、前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の保水材。
〔9〕ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドンおよびN,N-ジメチルホルムアミドからなる群から選択される1以上の化合物の含有量は、前記保水材の質量に対して60質量%以下である、前記〔6〕~〔8〕のいずれかに記載の保水材。
〔10〕前記保水材は粒子状であり、その体積平均粒子径は1μm以上10000μm以下である、前記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の保水材。
〔11〕育苗用である、前記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の保水材。
本発明の農業用保水材(以下、単に「保水材」とも称する)は、ビニルアルコール系重合体と、SP値が6.0(cal/cm3)1/2以上30.0(cal/cm3)1/2以下である化合物(X)とを含んでなり、当該化合物(X)の含有量は当該保水材の質量に対して0.001質量%以上98.0質量%以下である。
ビニルアルコール系重合体が化合物(X)を特定の量で含むことがビニルアルコール系重合体の吸水速度に影響を及ぼす作用機構は明らかではないが、下記作用機構が推定される。潅水時に、樹脂であるビニルアルコール系重合体に水が接触すると、樹脂マトリックスの隙間に水が浸透し、徐々に樹脂マトリックスが広がっていく。このとき、樹脂が硬いとマトリックスが広がるまでに時間を要し、結果として吸水速度が低下する。特定の量の特定のSP値を有する化合物(X)を樹脂に予め含ませておくことで、水が浸透する際に樹脂マトリックスが素早く広がり、吸水速度が速くなるものと推定される。ただし、本発明の保水材が上記効果に優れる理由(作用機構)について、仮に上記理由とは異なっていたとしても、本発明の範囲内であることをここで明記する。
[上記式中、
E1は式:(4.93×10-3)/ε1により算出される弾性率であり、
E2は式:(4.93×10-3)/ε2により算出される弾性率である]
は、99.99%以下、より好ましくは90%以下、更に好ましくは80%以下、特に好ましくは50%以下(例えば30%以下)であり、好ましくは0.1%以上、より好ましくは1%以上、更に好ましくは5%以上、特に好ましくは10%以上(例えば15%以上)である。前記比が前記下限値以上であり前記上限値以下であると、ビニルアルコール系重合体の吸水速度の向上および粉塵発生の抑制を達成しやすい。前記比は、化合物(X)の種類および/またはその含有量を選択することにより、前記下限値以上および前記上限値以下に調整することができる。前記比は、後述の実施例に記載の方法で求めることができる。
ビニルアルコール系重合体〔以下、ビニルアルコール系重合体(A)と称することがある〕としては、例えばポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびそれらのビニルアルコール構成単位がアセタール化剤によりアセタール化されたものが挙げられる。
優れた吸水性または吸水速度を発現させやすい観点から、上記ビニルアルコール系重合体(A)は、ビニルアルコール構成単位とイオン性基またはその誘導体を有するモノマー構成単位を含む共重合体を含む。イオン性基またはその誘導体は、好ましくはカルボキシル基、スルホン酸基、アンモニウム基またはその塩であり、より好ましくはカルボキシル基またはその塩である。ビニルアルコール系重合体(A)における前記共重合体の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、更により好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。即ち、好ましい一実施態様では、ビニルアルコール系重合体(A)は、ビニルアルコール構成単位とイオン性基またはその誘導体を有するモノマー構成単位との共重合体からなる。
好ましい一実施態様において、ビニルアルコール系重合体(A)に含まれるイオン性基の半数以上は誘導体の形態であり、より好ましい一実施態様において、ビニルアルコール系重合体(A)に含まれるイオン性基のほとんどは誘導体の形態であり、特に好ましい一実施態様において、ビニルアルコール系重合体(A)に含まれるイオン性基の全ては誘導体の形態である。
このような架橋構造は、例えばカルボキシル基を有するアルデヒドおよび該アルデヒド誘導体から選ばれる1種以上により少なくとも一部のビニルアルコール構成単位をアセタール化する工程において、アセタール化反応と同時に形成されてもよいし、別の工程において形成されてもよいが、本発明においては架橋剤を更に添加することにより架橋構造を形成することが好ましい。
化合物(X)のSP値は、6.0(cal/cm3)1/2以上30.0(cal/cm3)1/2以下である。好ましくは9.0(cal/cm3)1/2以上、より好ましくは11.0(cal/cm3)1/2以上、更に好ましくは13.0(cal/cm3)1/2以上であり、好ましくは29.0(cal/cm3)1/2以下、より好ましくは26.0(cal/cm3)1/2以下、更に好ましくは25.0(cal/cm3)1/2以下である。SP値が前記下限値以上であり前記上限値以下であると、ビニルアルコール系重合体の吸水速度の向上および粉塵発生の抑制を達成しやすい。
ここで、本発明におけるSP値は、Fedors法〔SP値 基礎・応用と計算方法(発行:情報機構、著者:山本秀樹、2005年)、R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.14,147(1974)〕に準じて計算されたSP値である。
上記一実施態様において、保水材における化合物(X)の含有量は、ビニルアルコール系重合体の質量に対して、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、特に好ましくは11質量%以上(例えば18質量%以上)であり、好ましくは4900質量%以下、より好ましくは900質量%以下、更に好ましくは400質量%以下、特に好ましくは100質量%以下(例えば67質量%以下)である。このときのビニルアルコール系重合体の質量は、その乾燥状態の質量である。本発明において「乾燥状態」とは、ビニルアルコール系重合体が水または有機溶媒等の揮発成分を一般的な方法(例えば、真空下において60℃で加熱した前後での質量変化)により検出可能な量(例えば0.1質量%以上)では含んでいない状態のことを言う。
この一実施態様において、化合物(X)の含有量はビニルアルコール系重合体の質量に対して、3質量%以上、好ましくは11質量%以上、より好ましくは18質量%以上であり、好ましくは900質量%以下、より好ましくは400質量%以下、特に好ましくは67質量%以下である。このときのビニルアルコール系重合体の質量は、その乾燥状態の質量である。
この一実施態様において、水の含有量は、ビニルアルコール系重合体の質量に対して、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、特に好ましくは11質量%以上(例えば18質量%以上)であり、好ましくは900質量%以下、より好ましくは400質量%以下、特に好ましくは67質量%以下である。このときのビニルアルコール系重合体の質量は、その乾燥状態の質量である。
この一実施態様において、化合物(X)の含有量は、ビニルアルコール系重合体の質量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは11質量%以上、特に好ましくは25質量%以上であり、ビニルアルコール系重合体の迅速な吸水速度および低い粉塵発生に加えて、より優れた出芽率を得やすい観点から、好ましくは150質量%以下、より好ましくは67質量%以下、特に好ましくは43質量%以下である。このときのビニルアルコール系重合体の質量は、その乾燥状態の質量である。
この一実施態様において、水の含有量は、ビニルアルコール系重合体の極めて迅速な吸水速度を得やすい観点から、ビニルアルコール系重合体の質量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは11質量%以上(例えば18質量%以上)、特に好ましくは43質量%以上であり、カビ発生の抑制効果を得やすい観点から、好ましくは900質量%以下、より好ましくは400質量%以下、特に好ましくは150質量%以下(例えば67質量%以下)である。水以外の上記化合物の含有量は、カビ発生の抑制効果を得やすい観点から、ビニルアルコール系重合体の質量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは11質量%以上、特に好ましくは18質量%以上であり、優れた出芽率を得やすい観点から、好ましくは150質量%以下、より好ましくは67質量%以下、特に好ましくは43質量%以下である。水と水以外の上記化合物との合計含有量は、低い粉塵発生、優れた出芽率、迅速な吸水速度およびカビ発生の良好な抑制を得やすい観点から、ビニルアルコール系重合体の質量に対して、好ましくは8質量%以上(例えば11質量%以上)、より好ましくは25質量%以上(例えば43質量%以上)、特に好ましくは100質量%以上であり、好ましくは900質量%以下、より好ましくは400質量%以下、特に好ましくは233質量%以下である。このときのビニルアルコール系重合体の質量は、その乾燥状態の質量である。
この一実施態様において、上記化合物の含有量は、ビニルアルコール系重合体の質量に対して、好ましくは150質量%以下、より好ましくは67質量%以下、更に好ましくは43質量%以下、特に好ましくは11質量%以下であり、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、特に好ましくは5質量%以上である。このときのビニルアルコール系重合体の質量は、その乾燥状態の質量である。
本発明の保水材は、ビニルアルコール系重合体および化合物(X)に加えて、任意に添加剤を含有してよい。そのような添加剤の例としては、例えば、デンプン、変性デンプン、アルギン酸ナトリウム、キチン、キトサン、セルロースおよびその誘導体等の多糖類;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリコハク酸、ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド6・10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6・12、ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンジアミンイソフタルアミド、ポリノナメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリル酸塩、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-アクリル酸塩共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、およびエチレン-メタクリル酸塩共重合体等の樹脂類;天然ゴム、合成イソプレンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、およびアミド系熱可塑性エラストマー等のゴム・エラストマー類;紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、消泡剤、増粘剤、界面活性剤、滑剤、防カビ剤および帯電防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。保水材が添加剤を含有する場合、その合計含有量は本発明の効果を損なわない範囲であればよく、保水材の総質量に対して通常は30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
本発明の保水材は、例えば、(ii-1)ビニルアルコール系重合体、化合物(X)、および任意に上記添加剤を混合する方法、(ii-2)ビニルアルコール系重合体に化合物(X)をスプレー噴霧して混合するか若しくは化合物(X)にビニルアルコール系重合体を浸漬して混合し、任意に、混合後のビニルアルコール系重合体と上記添加剤とを混合する方法、(ii-3)ビニルアルコール系重合体の調製中に化合物(X)を残留させ、任意に、得られた調製物と上記添加剤とを混合する方法、または(ii-4)上記(ii-1)~(ii-3)を組み合わせた方法等により製造することができる。
そのような任意成分としては、例えば、保水材に含まれるビニルアルコール系重合体以外の樹脂、培土、後述するその他の任意成分、およびそれらの組み合わせを挙げることができる。なお、以下における、培地が上記任意成分を含む場合の任意成分の好ましい含有量等の記載において、化合物(X)以外の固体の培地構成成分(保水材に含まれるビニルアルコール系重合体、保水材に含まれている場合の添加剤、および培地に含まれている場合の任意成分)の質量は、乾燥状態の質量である。
ビニルアルコール系重合体以外の樹脂の例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミドおよびポリウレタンを挙げることができる。これらの樹脂は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて使用できる。
培地が上記樹脂を含む場合、その合計含有量は、培地の総質量に対して好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
培地が培土を含有する場合、培土の間隙に根が生長することで適当に根が互いに絡み合いやすくなり、また、培地の優れた排水性および通気性を得やすくなる。培土は特に限定されず、市販の培土の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、培土に、後述する任意成分を常法(例えば、任意成分の溶液または分散液を培土に噴霧した後に乾燥させる方法)で付着させ、用いることもできる。
その他の任意成分としては、泥炭、草炭、ピート、ピートモス、ココピート、籾殻、腐植酵質資材、木炭、珪藻土焼成粒、貝化石粉末、貝殻粉末、カニ殻、VA菌根菌、微生物資材等の動植物質;バーミキュライト、パーライト、ベントナイト、天然ゼオライト、合成ゼオライト、石こう、フライアッシュ、ロックウール、カオリナイト、スメクタイト、モンモリロナイト、セリサイト、クロライト、グローコナイトおよびタルク等の鉱物質;肥料およびこれらの組み合わせが挙げられる。これらは、必要に応じて消毒または殺菌して用いてもよく、pH調整剤または農薬と一緒に用いてもよい。培地がその他の任意成分を含有する場合、その合計含有量は本発明の効果を損なわない範囲であればよく、培地の総質量に対して通常は50質量%以下、好ましくは30質量%以下である。
農薬の例としては、殺虫剤、殺菌剤、殺虫殺菌剤、除草剤、殺鼠剤、防腐剤、植物生長調整剤等が挙げられる。
本発明における培地は、床土(種籾を播種する前に水稲育苗箱に導入されている土)または覆土(種籾を播種した後に上から覆う土)のいずれか一方に用いてもよく、両方に用いてもよい。両方に用いる場合、培地の組成は床土と覆土で同一であっても、同一でなくてもよい。
グリオキシル酸一水和物、40質量%グリオキサール水溶液、25質量%グルタルアルデヒド水溶液、アセトニトリル、メタノール、酢酸ビニル、水酸化ナトリウム、アクリル酸メチル、およびアゾビスイソブチロニトリル:以上、和光純薬工業株式会社製
ポリビニルアルコールa:クラレアメリカ社製ELVANOL(登録商標)71-30
還流冷却管および撹拌翼を備えた容量500mLの四つ口セパラブルフラスコに、グリオキシル酸一水和物12.55g、40質量%グリオキサール水溶液0.11g、イオン交換水12.55g、アセトニトリル150mLおよびポリビニルアルコールa40.0gを導入し、23℃で1時間撹拌した。70℃に昇温した後、25質量%硫酸水溶液16.87gを10分かけて滴加し、70℃に保持したまま6時間反応させた。次いで30℃に冷却した後、イオン交換水150mLを加え、ろ過により樹脂を取り出した。続いて、ろ取した樹脂を200mLのメタノールで5回洗浄した。洗浄した樹脂を還流冷却管および撹拌翼を備えた容量500mLの四つ口セパラブルフラスコに導入し、メタノール180mL、イオン交換水11.6mLおよび8モル/L水酸化カリウム水溶液16.8mLを加え、還流下で2時間反応させた。ろ過により樹脂を取り出し、ろ取した樹脂を200mLのメタノールで6回洗浄し、40℃で6時間真空乾燥を行い、目的のビニルアルコール系重合体(以下、「ビニルアルコール系重合体a」と称する)を得た。
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、および開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル602g、アクリル酸メチル1.21g、およびメタノール254gを導入し、窒素バブリングをしながら30分間反応器内を不活性ガス置換した。水浴を用いて反応器の昇温を開始し、反応器の内部温度が60℃となったところで、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.16g添加し、重合を開始させた。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、導入した酢酸ビニルとアクリル酸メチルの合計質量に対する、重合により消費された酢酸ビニルとアクリル酸メチルの合計質量である、消費率を求めた。消費率が4質量%に到達したところで、反応器の内部温度を30℃まで冷却して重合を停止させた。真空ラインに接続し、残留する酢酸ビニルをメタノールとともに30℃で減圧留去した。反応器内を目視で確認しながら、粘度が上昇したところで適宜メタノールを添加しながら留去を続け、5.2モル%のアクリル酸由来構成単位を含有するポリ酢酸ビニルを得た。アクリル酸に由来する構成単位の含有量は固体13C-NMRを用いて測定した。
次に、上記と同様の反応器に、得られたアクリル酸由来構成単位含有ポリ酢酸ビニル1gとメタノール18.2gを添加し、アクリル酸由来構成単位含有ポリ酢酸ビニルを溶解させた。水浴を用いて反応器の昇温を開始し、反応器の内部温度が70℃になるまで撹拌しながら加熱した。ここに水酸化ナトリウムのメタノール溶液(メタ苛性、濃度15質量%)0.78gを添加し、70℃で2時間ケン化を行った。得られた溶液をろ過し、5.2モル%のアクリル酸由来構成単位を含有するポリビニルアルコール(以下、「ポリビニルアルコールb」と称する)を得た。
還流冷却管および撹拌翼を備えた三つ口セパラブルフラスコに、アセトニトリル58.9g、イオン交換水6.28g、25質量%グルタルアルデヒド水溶液0.171g、およびポリビニルアルコールb20gを導入し、23℃で撹拌し、ポリビニルアルコールbを分散させた。16.9質量%硫酸水溶液12.38gを15分かけて滴加し、65℃に昇温して6時間反応させた。反応後、ろ過により樹脂を取り出した後、ろ取した樹脂を160gのメタノールで6回洗浄した。洗浄後の樹脂を還流冷却管および撹拌翼を備えた三つ口セパラブルフラスコに導入し、メタノール71g、イオン交換水13.3g、および水酸化カリウム5.7gを加え、65℃で2時間反応させた。反応後、ろ過により樹脂を取り出した後、ろ取した樹脂を160gのメタノールで6回洗浄し、40℃で12時間真空乾燥を行い、目的のビニルアルコール系重合体(以下、「ビニルアルコール系重合体b」と称する)を得た。
<SP値>
SP値はFedors法〔SP値 基礎・応用と計算方法(発行:情報機構、著者:山本秀樹、2005年)、R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.14,147(1974)〕により計算した。なお、水のSP値は23.4とした。
上記方法により求めた、実施例で用いた化合物(X)のSP値を、下記表1に示す。
直径5cmの円筒型容器に、100mLの試料1(保水材)および試料2〔化合物(X)を含まない状態の保水材〕をそれぞれ導入した。テクスチャーアナライザー(TAインスツルメンツ株式会社製、型番TA.XTplus、プローブ直径4.5cm)を用いて、速度19.8mm/分で各試料を押し込んだ。圧縮応力が4.93×10-3MPa(ロードセルにかかる荷重が800g)となるときのひずみεから、下記式に従って弾性率Eを測定した。
保水材(試料1)のひずみε1から保水材の弾性率E1を求め、化合物(X)を含まない状態の保水材(試料2)のひずみε2から、化合物(X)を含まない状態の保水材の弾性率E2を求め、弾性率E1の弾性率E2に対する比を下記式に従って求めた。
なお、上記試料2としては、調製したビニルアルコール系重合体に化合物(X)および任意に添加剤を付与して保水材を製造する場合は、化合物(X)を付与していない状態の保水材を用い、ビニルアルコール系重合体の調製中に化合物(X)をビニルアルコール系重合体中に残留させ、場合により添加剤を付与して、保水材を製造した場合は、残留させた化合物(X)を乾燥(例えば60℃で質量の変化がなくなるまでの真空乾燥)により除去した状態の保水材を用いた。
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用い、保水材の体積平均粒子径を計測した。
JIS K 7224に準じて、固形分を一定にした場合(固形分一定)または全量を一定にした場合(全量一定)の、実施例および比較例で得られた保水材の吸水時間を測定した。係る方法により測定した吸水時間が短いほど、保水材の吸水速度が速いことを意味する。
固形分一定:化合物(X)を除いた質量が0.5gとなるように保水材を秤量し、秤量した保水材と純水50gとを使用して、JIS K 7224に準じて吸水時間を測定した。
全量一定:化合物(X)を含んだ質量が0.5gとなるように保水材を秤量し、秤量した保水材と純水50gとを使用して、JIS K 7224に準じて吸水時間を測定した。
JIS K 7223に準じて、実施例および比較例で得られた保水材の純水吸収量を測定し、下記式に基づいて、試料の単位質量当たりの純水吸収量X[g/g]を算出した。
ここで、「純水吸収後の保水材の試料質量」は、保水材0.1gを使用して測定した値である。
また、「純水吸収前の試料質量」は、保水材0.1gに含まれるビニルアルコール系重合体の質量であり、その値は0.1×(100-C1)/100(単位:g)で表される。ここでC1は、表2に記載の数値である。
内径2.9cm、長さ44cmのステンレス鋼製の支柱を垂直に立て、支柱下面から15cmの場所に内径4.1cmのシャーレを配置した。支柱上面から試料である保水材2gを3秒間かけて投入し、飛散せずにシャーレ内に収まった試料の質量を測定し、下記式に基づいて、粉体飛散率を算出した。粉体飛散率が低いほど、保水材の取扱者が吸引することによる健康リスクが減り、また粉塵爆発も発生しにくくなる。
実施例に記載の方法で水稲育苗箱を作製して出芽を行い、出庫調査として以下の評価を行った。
(1)カビの発生具合
カビの発生を目視により観察し、下記基準により評価した。
A:カビの発生は確認できなかった。
B:カビの発生は確認できたが、カビに覆われている培地の上面(地表に現れている覆土表面)の面積は5%以下であった。
C:カビの発生が確認でき、カビに覆われている培地の上面の面積が5%より大きかった。
(2)出芽率
出芽して覆土の上に出てきている芽の数(N1)を目視により数えた。播種した催芽籾の数(N2)を用い、下記式に従い出芽率を算出した。
ビニルアルコール系重合体b30gにアセトニトリル1.6gをスプレー噴霧して混合することで、保水材を作製した。この保水材と粒状培土(肥料としてN-P2O5-K2O=0.5-1.5-0.5g/kgを含む、平均粒径2.7mm)1500gとを均一に混合し、培地を作製した。この培地の60質量%を、内寸58cm×28cmの水稲育苗箱に敷き詰め、1000mLの水をじょうろで5秒間かけて潅水した。催芽籾(品種:コシヒカリ)200gを均一に撒いた後、その上に残りの培地(作製した培地の40質量%)を均一に敷き詰め、培地、催芽籾および水が導入された水稲育苗箱を作製した。以上の操作を更に2回行い、同じ水稲育苗箱を3個作製した。30℃、湿度100%の出芽庫にて2日間かけて出芽を行った後、出庫調査を行った。調査は3個の育苗箱それぞれで行い、出芽率はその平均値を採用した。カビの発生具合については3個の育苗箱で最も評価が悪いものを採用した。結果を表2に示す。なお、表2における化合物(X)の含有量について、C1は保水材の質量に対する含有量、C2はビニルアルコール系重合体に対する含有量を意味する。
ビニルアルコール系重合体の種類並びに化合物(X)の種類および/またはその含有量を表2に記載の通り変更したこと以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製、調査および評価を行った。結果を表2に示す。
40℃で12時間真空乾燥を行ったことに代えて、メタノールで6回洗浄した後の樹脂をエバポレーターに投入し、メタノールおよび一部の水を除去したこと以外はビニルアルコール系重合体bの合成と同様にして、ビニルアルコール系重合体(以下、「ビニルアルコール系重合体b'」と称する)を得た。ビニルアルコール系重合体b'をガスクロマトグラフィー測定に付したところ、メタノールを30質量%含んでいた。即ち、ビニルアルコール系重合体b'は保水材に相当する。
この保水材を用いたこと以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製、調査および評価を行った。結果を表2に示す。
40℃で12時間真空乾燥を行ったことに代えて、メタノールで6回洗浄した後の樹脂に2.2gのイオン交換水を添加し、得られた樹脂をエバポレーターに投入してメタノールおよび一部の水を除去したこと以外はビニルアルコール系重合体bの合成と同様にして、ビニルアルコール系重合体(以下、「ビニルアルコール系重合体b''」と称する)を得た。ビニルアルコール系重合体b''をカールフィッシャー水分測定に付したところ、水を9質量%含んでいた。即ち、ビニルアルコール系重合体b''は保水材に相当する。
この保水材を用いたこと以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製、調査および評価を行った。結果を表2に示す。
2.2gのイオン交換水に代えて6.7gのイオン交換水を添加したこと以外は実施例21と同様にして、ビニルアルコール系重合体(以下、「ビニルアルコール系重合体b'''」と称する)を得た。ビニルアルコール系重合体b'''をカールフィッシャー水分測定に付したところ、水を22質量%含んでいた。即ち、ビニルアルコール系重合体b'''は保水材に相当する。
この保水材を用いたこと以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製、調査および評価を行った。結果を表2に示す。
表2に記載のビニルアルコール系重合体を用い、化合物(X)を混合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、水稲育苗箱の作製、調査および評価を行った。結果を表2に示す。
また、化合物(X)として水、グリセリン、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールを含む場合〔実施例25、20、11、14、18および19、いずれも同程度の含有量(30質量%または31質量%)の実施例のデータを比較〕は、良好な出芽率を確保しつつも、吸水速度がより速く、粉体飛散率がより小さかった。
また、ビニルアルコール系重合体および化合物(X)の種類が同じである実施例23および24と比較例1とを比べると、実施例23および24における全量一定の吸水時間は比較例1における全量一定の吸水時間より顕著に短かった。このように、実施例23および24ではビニルアルコール系重合体の量が比較例1におけるビニルアルコール系重合体の量より少ないにもかかわらず、顕著に短い吸水時間が達成された。
Claims (11)
- ビニルアルコール系重合体と、SP値が6.0(cal/cm3)1/2以上30.0(cal/cm3)1/2以下である化合物(X)とを含んでなる農業用保水材であって、当該化合物(X)の含有量は当該保水材の質量に対して0.001質量%以上66質量%以下である、農業用保水材。
- 前記ビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール構成単位とイオン性基またはその誘導体を有するモノマー構成単位を含む共重合体を含む、請求項1または2に記載の保水材。
- 前記ビニルアルコール系重合体は、イオン性基のカウンターカチオンとしてカリウムイオンまたはアンモニウムイオンを含む、請求項3に記載の保水材。
- 前記ビニルアルコール系重合体は架橋構造を有する、請求項1~4のいずれかに記載の保水材。
- 前記化合物(X)は、水、グリセリン、メタノール、ジメチルスルホキシド、エタノール、アセトニトリル、イソプロパノール、N-メチル-2-ピロリドン、酢酸メチル、酢酸、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミドおよびエチレングリコールからなる群から選択される1以上の化合物を含む、請求項1~5のいずれかに記載の保水材。
- 前記化合物(X)は、水、グリセリン、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群から選択される1以上の化合物を含み、当該化合物の含有量は前記保水材の質量に対して3質量%以上である、請求項1~6のいずれかに記載の保水材。
- 前記化合物(X)は水を含む、請求項1~7のいずれかに記載の保水材。
- ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドンおよびN,N-ジメチルホルムアミドからなる群から選択される1以上の化合物の含有量は、前記保水材の質量に対して60質量%以下である、請求項6~8のいずれかに記載の保水材。
- 前記保水材は粒子状であり、その体積平均粒子径は1μm以上10000μm以下である、請求項1~9のいずれかに記載の保水材。
- 育苗用である、請求項1~10のいずれかに記載の保水材。
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