以下、本発明の実施の形態1について、図面を用いて詳細に説明する。
図1はパワーウィンドウ装置の概要を説明する説明図を、図2は本発明に係るモータ装置を示す平面図を、図3は図2のA矢視図を、図4はギヤケースを単体で示す斜視図を、図5は減速機構の詳細を示す斜視図を、図6は図5のB-B線に沿う断面図を、図7はモータ装置の内部構造を説明する斜視図を、図8はモータ装置の組み立て手順(その1)を説明する分解斜視図を、図9はモータ装置の組み立て手順(その2)を説明する分解斜視図をそれぞれ示している。
図1に示されるように、自動車等の車両の側面に設けられるサイドドア(ドア)10には、ケーブル式のパワーウィンドウ装置20が搭載されている。パワーウィンドウ装置20は、サイドドア10のドア枠11に設けられたウィンドウガラス12を電動で昇降させる装置である。パワーウィンドウ装置20は、駆動源であるモータ装置30と、当該モータ装置30により駆動されるウィンドウレギュレータ40と、を備えている。
ここで、サイドドア10は、車両の運転席側および助手席側、つまり左右側にそれぞれ鏡像対称となるように設けられている。したがって、それぞれのサイドドア10に設けられるパワーウィンドウ装置20の形状においても、左右側でそれぞれ鏡像対称となっている。すなわち、運転席側と助手席側とで、それぞれ専用のパワーウィンドウ装置20が設けられることになる。
モータ装置30は、モータ部50およびギヤ部60を備えている。ギヤ部60には、外周部にケーブルCAが巻き掛けられたドラムDRが設けられている。ウィンドウレギュレータ40は、サイドドア10の上下方向、つまりウィンドウガラス12の昇降方向に延びるガイドレール41を備え、ガイドレール41の上下側には、ケーブルCAの移動方向を折り返す上側プーリ42および下側プーリ43がそれぞれ回転自在に取り付けられている。
ガイドレール41には、ウィンドウガラス12の下端部を支持するキャリアプレート44が摺動自在に設けられている。キャリアプレート44には、上側プーリ42および下側プーリ43により折り返されたケーブルCAの一側端部E1および他側端部E2が連結されている。
そして、車室内に設けられた操作スイッチ(図示せず)を「開操作」することで、モータ装置30は正方向に回転駆動され、ドラムDRが時計回り方向に回転される。これにより、図中実線矢印のように、ケーブルCAの他側端部E2が引っ張られて、キャリアプレート44がガイドレール41に沿って下降する。よって、ウィンドウガラス12が図中実線矢印のように下降して、ウィンドウガラス12が開けられる(OPEN操作される)。
これに対し、操作スイッチを「閉操作」することで、モータ装置30は逆方向に回転駆動され、ドラムDRが反時計回り方向に回転される。これにより、図中破線矢印のように、ケーブルCAの一側端部E1が引っ張られて、キャリアプレート44がガイドレール41に沿って上昇する。よって、ウィンドウガラス12が図中破線矢印のように上昇して、ウィンドウガラス12が閉じられる(CLOSE操作される)。
図2および図3に示されるように、モータ装置30を形成するモータ部50およびギヤ部60は、合計3つの固定ねじS1によって、互いに強固に接続されている。
モータ部50は、断面が略小判形状に形成された有底のヨーク51を備えている。これにより、モータ装置30の全体を扁平形状として、サイドドア10の内部の幅狭空間(図示せず)への搭載性を向上させている。
ヨーク51は、導電性を有する金属板を深絞り加工等することで形成され、ヨーク51の内側には、断面が略円弧形状に形成された4つの永久磁石52(図示では2つのみ示す)が設けられている。すなわち、モータ装置30は4極の電動モータであり、4つの永久磁石52によって形成される磁路(図示せず)が、ヨーク51をそれぞれ通過するようになっている。
また、これらの永久磁石52の内側には、所定の隙間(エアギャップ)を介して、アーマチュア53が回転自在に設けられている。そして、アーマチュア53を形成するアーマチュアコア(図示せず)には、所定の巻き数および所定の巻き方(例えば集中巻)で、エナメル線等よりなるコイル54が巻装されている。
アーマチュア53の回転中心には、鋼材よりなるアーマチュア軸(回転軸)55が固定されている。アーマチュア軸55の軸方向一側(図2中左側)は、ヨーク51の底部51aに装着された第1ラジアル軸受RB1および第1スラスト軸受TB1によって回転自在に支持されている。一方、アーマチュア軸55の軸方向他側(図2中右側)は、ギヤケース61に設けられた軸受収容部61k(図4参照)に収容された第2ラジアル軸受RB2および第2スラスト軸受TB2によって回転自在に支持されている。
ここで、第2ラジアル軸受RB2および第2スラスト軸受TB2は、本発明における軸受部材を構成している。
これにより、アーマチュア軸55はスムーズに回転することができ、かつアーマチュア軸55の軸方向への移動が抑制される。特に、本実施の形態に係るモータ装置30では、当該モータ装置30の正逆回転時において、アーマチュア軸55にスラスト力F(図5参照)が作用する減速機構SDを採用している。したがって、第1,第2スラスト軸受TB1,TB2を設けてアーマチュア軸55の軸方向へのがたつきを抑えることは、モータ装置30の静粛性を向上させるためにも重要である。
アーマチュア軸55の軸方向中央寄りの部分で、かつアーマチュア53の近傍には、コンミテータ56が固定されている。コンミテータ56は、導電性を有する複数の整流子片(図示せず)を円筒状に纏めて、かつその状態でモールド樹脂により固めることで略円柱状に形成されている。そして、これらの整流子片には、コイル54の端部がそれぞれ電気的に接続されている。
これにより、コンミテータ56からコイル54に駆動電流を供給することで、アーマチュア53には電磁力が発生する。よって、アーマチュア軸55が正方向または逆方向に所定の回転数で回転される。
ヨーク51の開口側(図2中右側)には、プラスチック等の樹脂材料よりなるブラシホルダ57(図7および図8参照)が装着されている。ブラシホルダ57には、コンミテータ56を中心に互いに90度間隔で配置された一対のブラシ58(図2では1つのみ示す)が移動自在に設けられている。具体的には、一対のブラシ58は、コンミテータ56の径方向に移動自在となっている。そして、一対のブラシ58は、コンミテータ56に対して安定して駆動電流を供給可能とすべく、ブラシスプリングBSの弾性力によりコンミテータ56の外周面に押圧されている。
アーマチュア軸55の軸方向に沿うコンミテータ56と第2ラジアル軸受RB2との間で、かつコンミテータ56寄りの部分には、第3ラジアル軸受RB3が設けられている。第3ラジアル軸受RB3は、図7に示されるようにブラシホルダ57に装着され、アーマチュア軸55の軸方向中央寄りの部分を回転自在に支持している。これにより、アーマチュア軸55は、大きなトルク伝達時にも撓むこと無く、スムーズに回転することができる。
ここで、図2に示されるように、ギヤ部60を形成するギヤケース61の側面には、コネクタ部材70が差し込まれて固定されている。コネクタ部材70には、図3に示されるように、一対のコネクタ側ターミナル71がインサート成形により設けられ、これらのコネクタ側ターミナル71の先端側端子71aには、車両側の外部コネクタ(図示せず)が電気的に接続されるようになっている。
一方、図8に示されるように、一対のコネクタ側ターミナル71の基端側端子71bには、ブラシホルダ57に設けられた一対のモータ側電源端子59(図7参照)が電気的に接続されるようになっている。
また、コネクタ部材70をギヤケース61の側面に差し込んで固定するだけで、一対の基端側端子71bが一対のモータ側電源端子59に対してそれぞれ電気的に接続される。これにより、モータ装置30の組み立て性の向上が図られている。なお、コネクタ部材70およびギヤケース61は、合計2つの固定ねじS2(図3および図8参照)によって、互いに強固に接続されている。
図2に示されるように、アーマチュア軸55の軸方向に沿う第2ラジアル軸受RB2と第3ラジアル軸受RB3との間には、螺旋状歯55aが一体に設けられている。具体的には、図5に示されるように、螺旋状歯55aは、冷間鍛造等により精度良くアーマチュア軸55に一体に設けられている。
螺旋状歯55aは、モータ装置30を形成する減速機構SDを構成しており、アーマチュア軸55の螺旋状歯55aが形成された部分は、ピニオンギヤPGとなっている。つまり、本実施の形態のモータ装置30では、アーマチュア軸55とピニオンギヤPGとが一体化された構造を採用している。ただし、アーマチュア軸55とピニオンギヤPGとを一体化するに限らず、アーマチュア軸55とピニオンギヤPGとを、互いに動力伝達可能に連結させた別体構造を採用することもできる。
図6に示されるように、ピニオンギヤPGには、2つの螺旋状歯55aが設けられており、これらの螺旋状歯55aは、アーマチュア軸55の軸方向(軸線C1の方向)に螺旋状に延びている。そして、これらの螺旋状歯55aを備えたピニオンギヤPGは、アーマチュア軸55の回転に伴って回転するようになっている。
ピニオンギヤPGの一対の螺旋状歯55aには、ピニオンギヤPGとともに減速機構SDを形成するヘリカルギヤHGの斜歯62fが、出力軸62aの軸方向(軸線C2の方向)から噛み合わされるようになっている。
ここで、減速機構SDは、アーマチュア軸55の回転を所定の速度にまで減速して高トルク化し、この高トルク化された回転力を、ウィンドウレギュレータ40(図1参照)に出力する。これにより、比較的重量が嵩むウィンドウガラス12(図1参照)を昇降させることができる。
図2および図4に示されるように、ギヤ部60は、ヨーク51が連結されるギヤケース61を備えている。ギヤケース61は、本発明におけるハウジングを構成しており、プラスチック等の樹脂材料によって略有底筒状に形成されている。具体的には、ギヤケース61は、略円板状に形成された底壁61aと、当該底壁61aの外周部分に一体に設けられ、出力軸62a(図2および図3参照)の軸方向に延在された筒状の側壁61bと、を備えている。そして、底壁61aおよび側壁61bは、減速機構SD(図5参照)、つまりピニオンギヤPGおよびヘリカルギヤHGを収容する減速機構収容部61cを形成している。
減速機構収容部61cの内部で、かつ底壁61aの中心部分には、ヘリカルギヤHGが設けられた回転体62(図7および図9参照)を回転自在に支持する回転体支持部(ギヤ支持部)61dが一体に設けられている。回転体支持部61dは略円柱状に形成され、その上面壁61eの中心部分には、回転体62に設けられた出力軸62aを回転自在に支持する支持軸61fが一体に設けられている。そして、支持軸61fの先端側は、ギヤケース61の外部に突出され、さらには、図3に示されるように、出力軸62aからも突出されている。
回転体支持部61dの上面壁61eには、回転体支持部61dの軸方向(軸線C2の方向)に微小高さで突出された環状突起61gが設けられている。この環状突起61gには、ヘリカルギヤHGを形成する円板状本体部62bの摺接面62c(図7参照)が摺接するようになっている。これにより、ヘリカルギヤHGと回転体支持部61dとの接触面積を小さくして、回転体支持部61dに対するヘリカルギヤHGの回転抵抗の増大を抑えている。なお、環状突起61gと摺接面62cとの間には、両者の滑りを良くする所定量のグリース(図示せず)が塗布されている。
回転体支持部61dと側壁61bとの間には、幅寸法がWに設定された環状溝61hが形成されている。環状溝61hには、ヘリカルギヤHGに設けられたギヤ本体62d(図5参照)が回転自在に収容されるようになっている。なお、ギヤ本体62dは、ヘリカルギヤHGを減速機構収容部61cに収容した状態において、回転体支持部61dおよび側壁61bの双方に対して非接触の状態となる。この点においても、ヘリカルギヤHGの回転抵抗が増大することを抑制している。
図4に示されるように、回転体支持部61dの軸方向に沿う略中間部分には、軸受収容部61kが形成されている。軸受収容部61kは、略円柱状に形成された凹部からなり、支持軸61fの軸方向(軸線C2の方向)と直交するアーマチュア軸55の軸方向(軸線C1の方向)に延在されている。つまり、軸受収容部61kは、モータ部50(図8参照)に向けて開口されている。
そして、軸受収容部61kの内部には、アーマチュア軸55の軸方向他側(軸方向端部)を回転自在に支持する第2ラジアル軸受RB2および第2スラスト軸受TB2(図7および図8参照)が、それぞれがたつくこと無く収容される。具体的には、軸受収容部61kに収容される第2ラジアル軸受RB2および第2スラスト軸受TB2は、ギヤケース61の内部で、かつピニオンギヤPGと出力軸62aとの間に配置される(図2参照)。
また、ギヤケース61を形成する側壁61bの周囲には、合計3つの固定腕(固定部)61mが設けられている。これらの固定腕61mは、固定対象物としてのサイドドア10(図1参照)の内部に固定される部分であって、固定腕61mには、固定ボルト(図示せず)が挿通されるボルト穴61nがそれぞれ設けられている。
図2に示されるように、3つの固定腕61mは、それぞれ出力軸62a(軸線C2)を中心に、側壁61bの周方向に略等間隔(120度間隔)で配置されている。3つの固定腕61mのうちの2つは、アーマチュア軸55の軸線C1を基準に線対称で配置されている。また、他の1つの固定腕61mについても、アーマチュア軸55の軸線C1上に配置されるが、アーマチュア軸55の軸線C1を基準に線対称で配置されていると言うことができる。
このように、3つの固定腕61mを、軸線C1を基準に線対称で配置することで、ギヤケース61の形状を、軸線C1を基準に略線対称の形状としている。これに伴い、本実施の形態におけるモータ装置30では、上述のようなギヤケース61に収容し得る減速機構SDを採用している。
具体的には、図7に示されるように、軸線C1を中心に回転するアーマチュア軸55と、軸線C2を中心に回転する出力軸62aとは、互いに直交している。これにより、両者間に設けられる減速機構SD(図7中網掛部分)のピニオンギヤPGおよびヘリカルギヤHGも、それぞれ軸線C1,C2を中心に回転するようになっている。
このようにモータ装置30では、ギヤケース61の形状を、軸線C1を基準に略線対称の形状としており、これにより運転席側および助手席側でモータ装置30を共通化できるようにしている。なお、図2に示されるように、モータ部50においても、軸線C1を基準に略線対称の形状となっている。したがって、モータ装置30の全体が、軸線C1を基準に略線対称の形状となっている。
また、図4に示されるように、ギヤケース61を形成する側壁61bの周囲で、かつ軸線C1を基準に線対称で配置された一対の固定腕61mの間には、モータ固定部63およびコネクタ固定部64が一体に設けられている。
モータ固定部63は、軸線C2の延在方向に沿う断面形状が略長方形に形成され、その内部は中空部63aとなっている。そして、中空部63aには、ブラシホルダ57に設けられたモータ側電源端子59(図7参照)や、コネクタ部材70に設けられたコネクタ側ターミナル71の基端側端子71b(図8参照)が、収容される。より具体的には、モータ装置30の組み立て時において、モータ側電源端子59およびコネクタ側ターミナル71の基端側端子71bが、中空部63aの内部で互いに電気的に接続される。
なお、モータ固定部63においても、図2に示されるように、軸線C1を基準に略線対称の形状となっている。そして、モータ部50は、軸線C1に沿うよう移動させてモータ固定部63に突き当てて、かつ3つの固定ねじS1を用いることにより、モータ固定部63に固定される。
図4に示されるように、コネクタ固定部64は、軸線C1および軸線C2のそれぞれに対して90度で交差した軸線C3上に設けられ、軸線C1および軸線C2の延在方向に沿う断面形状が略円形に形成されている。コネクタ固定部64の内部は中空となっており、当該コネクタ固定部64の内部には、コネクタ部材70を軸線C3に沿わせて移動させることで、コネクタ部材70の基端側端子71b(図8参照)側が差し込まれる。そして、コネクタ部材70は、2つの固定ねじS2(図8参照)を用いることにより、コネクタ固定部64に固定される。
ここで、図2に示されるように、コネクタ部材70は、固定腕61mに対して微小距離tの分だけ外側に突出されている。しかしながら、この微小距離tは、せいぜいボルト穴61nの直径寸法程度の大きさとなっている。したがって、コネクタ部材70がアーマチュア軸55の径方向外側に無用に大きく突出することが抑えられており、モータ装置30の運転席側および助手席側での共通化の妨げになることは無い。また、車両側の外部コネクタの取り回しにも余裕があるため(図示せず)、図2に示されるようなコネクタ部材70の配置関係であっても、外部コネクタのコネクタ部材70への接続作業に悪影響を与えない。
図7および図9に示されるように、減速機構収容部61cには、プラスチック等の樹脂材料よりなる回転体62が回転自在に収容されている。回転体62は、ヘリカルギヤHGおよび出力軸62aから形成されている。ヘリカルギヤHGおよび出力軸62aは、回転体62を射出成形する際にそれぞれ一体化される。つまり、出力軸62aは、ヘリカルギヤHGによって回転される。
ヘリカルギヤHGは、円板状に形成された円板状本体部62bと、この円板状本体部62bに一体に設けられ、かつ筒状に形成されたギヤ本体62dとから形成され、略皿形状となっている。ここで、円板状本体部62bは本発明における底壁部を構成し、ギヤ本体62dは本発明における側壁部を構成している。そして、円板状本体部62bの一側面で、かつ中央部分に出力軸62aが一体に設けられ、円板状本体部62bの他側面が、回転体支持部61dに回転自在に支持されている。つまり、環状突起61gに摺接される摺接面62cは、円板状本体部62bの他側面に設けられている。
ここで、ヘリカルギヤHGを形成するギヤ本体62dは、図5に示されるような形状をなしている。なお、図5では、ヘリカルギヤHGを形成するギヤ本体62dの部分のみを示している。また、図7ないし図9においては、ピニオンギヤPGの部分およびヘリカルギヤHGの部分の詳細な図示を省略して、それぞれに網掛けを施している。
ヘリカルギヤHGは、環状のギヤ本体62dを備えており、このギヤ本体62dの表面62eに、複数の斜歯62fが設けられている。なお、ギヤ本体62dの裏面62g側に、円板状本体部62bおよび出力軸62aが設けられる。複数の斜歯62fは、ギヤ本体62dを軸線C2の方向から見たときに、それぞれが略円弧形状となるように形成されている。これにより、図6に示されるように、一対の螺旋状歯55aが、複数の斜歯62fに対して、精度良く噛み合わされるようになっている。
ここで、本実施の形態では、斜歯62fの数は「52」に設定されている。よって、ピニオンギヤPGの螺旋状歯55aの数が「2」に設定されているので、本実施の形態の減速機構SDの減速比は「2:52」つまり「1:26」となる。すなわち、ピニオンギヤPGが「26回転」することで、ヘリカルギヤHGが漸く「1回転」する減速比に設定されている。これによりピニオンギヤPGの高速回転が所定の速度にまで減速されて、高トルク化された回転力が出力軸62aから出力される。つまり、出力軸62aは、アーマチュア軸55よりも低速で回転されるようになっている。
また、図5および図6に示されるように、減速機構SDの作動時には、例えば、アーマチュア軸55に一体に設けられたピニオンギヤPGが、矢印R1の方向に回転する。すると、螺旋状歯55aが噛み合わされる複数の斜歯62fを備えたヘリカルギヤHGが、減速されて高トルク化された状態で矢印R2の方向に回転される。
このとき、一対の螺旋状歯55aおよび複数の斜歯62fは、アーマチュア軸55の軸方向(軸線C1の方向)に傾斜されているため、アーマチュア軸55にはスラスト力Fが作用する。つまり、アーマチュア軸55は、その回転方向に応じて、図5中矢印Fの方向に移動しようとする。これに対し、アーマチュア軸55の軸方向両側は、第1スラスト軸受TB1および第2スラスト軸受TB2(図2参照)によってそれぞれ支持されている。
したがって、アーマチュア軸55は、その軸方向に移動したりがたついたりすることが無く、ひいては静粛性に優れたモータ装置30となっている。よって、モータ装置30は、特に内燃機関(エンジン)を備えない静かな車両(ハイブリッド車両や電気自動車等)に用いて好適なものとなっている。
本実施の形態では、アーマチュア軸55に、その長手方向に螺旋状に延びる一対の螺旋状歯55aを設け、当該部分をピニオンギヤPGとしている。これにより、図5に示されるように、ピニオンギヤPGの外径寸法をアーマチュア軸55の外径寸法と同じ外径寸法にして、アーマチュア軸55を大径化せずに済む。よって、減速機構SDを大型化させたり、モータ装置30の厚み寸法T(図3参照)を厚くさせたりすること無く、搭載性に優れたモータ装置30を実現できる。
ここで、ピニオンギヤPGの螺旋状歯55aには、ヘリカルギヤHGの斜歯62fが、出力軸62aの軸方向(軸線C2の方向)から噛み合わされている。そして、図6に示されるように、斜歯62fの歯面は傾斜面となっている。したがって、ヘリカルギヤHGにも出力軸62aの軸方向に移動しようとするスラスト力が作用する。
このとき、回転体62は、ギヤカバー80(図2および図9参照)と、出力軸62aに装着されるドラムDR(図1参照)と、によって押さえ付けられている。したがって、ヘリカルギヤHGにおいても、その軸方向に移動したりがたついたりすることが無い。
なお、出力軸62aとドラムDRとは、互いにセレーション嵌合により動力伝達可能に連結され、互いに空転することが無い。すなわち、出力軸62aの外周部分には、複数の凹凸よりなるセレーション部SRが形成され、かつドラムDRの出力軸62aが嵌合される嵌合穴(図示せず)にも、セレーション部(図示せず)が形成されている。
図9に示されるように、ギヤカバー80は、略円板状に形成されたカバー本体81と、カバー本体81の周囲に設けられ、ギヤケース61に設けられた爪部(図示せず)に引っ掛けられる複数の引っ掛け部82と、を備えている。
また、カバー本体81の中心部分には、出力軸62aが貫通される貫通孔83が設けられている。そして、ギヤケース61の内部に雨水や埃等が進入しないようにするために、貫通孔83の径方向内側の部分およびカバー本体81の径方向外側の部分には、それぞれゴム製の密閉シールSLが設けられている。
次に、以上のように形成されたモータ装置30の組み立て手順について、図面を用いて詳細に説明する。
[組み立て手順(その1)]
図8に示されるように、まず、別の製造工程を経て製造されたギヤケース61およびコネクタ部材70を準備するとともに、別の組み立て工程を経て組み立てられたモータ部50を準備する。さらに、3つの固定ねじS1,2つの固定ねじS2,第2ラジアル軸受RB2および第2スラスト軸受TB2を、それぞれ準備する。
次いで、矢印M1に示されるように、第2ラジアル軸受RB2および第2スラスト軸受TB2を、軸線C1に沿わせて移動させ、ギヤケース61の軸受収容部61kにそれぞれ収容する。このとき、第2スラスト軸受TB2の方を、第2ラジアル軸受RB2よりも、軸受収容部61kの奥に入れるようにする。
その後、矢印M2に示されるように、モータ部50を、軸線C1に沿わせて移動させ、モータ固定部63に突き当てるようにする。このとき、モータ部50のアーマチュア軸55が突出された側(図中右側)を、中空部63aの内部に差し込むようにする。そして、アーマチュア軸55の軸方向他側(図中右側)を軸受収容部61kに収容された第2ラジアル軸受RB2に差し込み、かつ第2スラスト軸受TB2に突き当てる。また、これと略同時に、ブラシホルダ57を中空部63aに嵌め込むようにする。
次いで、矢印M3に示されるように、3つの固定ねじS1を用いて、モータ部50のヨーク51を、ギヤケース61のモータ固定部63に固定する。これにより、ギヤケース61に対するモータ部50の固定が完了する。このとき、アーマチュア軸55に一体に設けられたピニオンギヤPG(螺旋状歯55a)は、ギヤケース61の環状溝61hの内部に配置(収容)され、かつ軸線C1上に配置されている。
その後、矢印M4に示されるように、コネクタ部材70の基端側端子71b側を、軸線C3の方向からコネクタ固定部64に臨ませて、コネクタ部材70をコネクタ固定部64に装着する。すると、中空部63aの内部では、一対の基端側端子71bが一対のモータ側電源端子59に対して、それぞれ電気的に接続される。
次いで、矢印M5に示されるように、2つの固定ねじS2により、コネクタ部材70を、ギヤケース61のコネクタ固定部64に固定する。これにより、ギヤケース61に対するコネクタ部材70の固定が完了する。
[組み立て手順(その2)]
次に、図9に示されるように、別の製造工程を経て製造された回転体62およびギヤカバー80を準備する。その後、矢印M6に示されるように、軸線C2の方向から、回転体62をギヤケース61に臨ませて、回転体62を減速機構収容部61cに収容する。このとき、ヘリカルギヤHGを形成する環状のギヤ本体62dを、減速機構収容部61cを形成する環状溝61hに入れるようにする。
すると、軸線C2の方向から、ピニオンギヤPGの螺旋状歯55a(図5参照)に対して、ヘリカルギヤHGの斜歯62f(図5参照)が噛み合わされる。また、これと略同時に、支持軸61fに対して出力軸62aが回転自在に支持される。これにより、回転体62の減速機構収容部61cへの収容が完了する。
次いで、矢印M7に示されるように、ギヤケース61の開口側(図中上側)にギヤカバー80を臨ませて、軸線C2に沿わせて移動させる。このとき、カバー本体81における引っ掛け部82が突出された側を、ギヤケース61に向けるようにする。そして、ギヤカバー80の貫通孔83に、出力軸62aを挿通させるようにする。
その後、ギヤケース61に設けられた爪部(図示せず)に引っ掛け部82をそれぞれ引っ掛ける。これにより、ギヤケース61に対するギヤカバー80の装着(固定)が完了して、モータ装置30の組み立て作業が終了する。
以上詳述したように、本実施の形態に係るモータ装置30によれば、アーマチュア軸55の軸線C1と出力軸62aの軸線C2とが直交するようにし、アーマチュア軸55の軸方向に螺旋状に設けられた螺旋状歯55aを有するピニオンギヤPGと、出力軸62aの軸方向から螺旋状歯55aに噛み合わされる斜歯62fを有するヘリカルギヤHGと、が設けられている。また、ピニオンギヤPGおよびヘリカルギヤHGを収容するギヤケース61の内部で、かつピニオンギヤPGと出力軸62aとの間には、ピニオンギヤPGの軸方向端部(軸方向他側)を回転自在に支持する第2ラジアル軸受RB2および第2スラスト軸受TB2が配置されている。
これにより、螺旋状歯55aの歯数を「2」としつつ斜歯62fの歯数を「52」にして、これらの歯部を互いにトルク伝達可能に噛み合わることが可能な交差軸歯車からなる減速機構SD(減速比大)を実現できる。このとき、ピニオンギヤPGには、螺旋状歯55aの特性により軸方向に移動しようとする力(スラスト力F)が作用するが、第2スラスト軸受TB2によりその力を受け止めることができる。また、第2ラジアル軸受RB2および第2スラスト軸受TB2を、ギヤケース61の比較的大きなデッドスペース(回転体支持部61dの内側)に配置でき、モータ装置30が大型化することが抑えられる。
よって、出力軸62aの軸方向から見たときに、アーマチュア軸55の軸線C1を中心として略線対称の形状になり得るモータ装置30を実現して、汎用性を高めることができる。また、減速比を大きくした減速機構SDを小型化することができ、モータ装置30の小型軽量化も実現できる。
また、本実施の形態に係るモータ装置30によれば、ヘリカルギヤHGは、円板状に形成された円板状本体部62bと、円板状本体部62bに一体に設けられ、筒状に形成されたギヤ本体62dと、を有し、円板状本体部62bの一側面に、出力軸62aが一体に設けられ、円板状本体部62bの他側面が、ギヤケース61に設けられた回転体支持部61dに回転自在に支持され、回転体支持部61dに、第2ラジアル軸受RB2および第2スラスト軸受TB2を収容する軸受収容部61kが設けられている。
これにより、ギヤケース61の比較的大きなデッドスペースである回転体支持部61dの内側に軸受収容部61kを設けることができ、当該軸受収容部61kに第2ラジアル軸受RB2および第2スラスト軸受TB2をがたつくこと無く収容することができる。
さらに、本実施の形態に係るモータ装置30によれば、ギヤケース61に、サイドドア10に固定される複数の固定腕61mが設けられ、これらの固定腕61mが、アーマチュア軸55の軸線C1を基準に線対称で配置されている。
これにより、ギヤケース61の形状を、軸線C1を基準に略線対称の形状として、運転席側および助手席側でモータ装置30を共通化することが可能となる。よって、モータ装置30の種類を減らすことができ、サイドドア10への搭載作業を容易にすることができる。
次に、本発明の実施の形態2について、図面を用いて詳細に説明する。なお、上述した実施の形態1と同様の機能を有する部分については同一の記号を付し、その詳細な説明を省略する。
図10は実施の形態2のモータ装置を示す平面図を示している。
図10に示されるように、実施の形態2のモータ装置90では、実施の形態1のモータ装置30(図2参照)に比して、ギヤケース61に対してコネクタ固定部64が設けられる位置のみが異なっている。具体的には、モータ装置90のコネクタ固定部64は、アーマチュア軸55の軸線C1と直交しつつ、出力軸62aの軸線C2に対して平行となった軸線C4上に設けられている。つまり、コネクタ部材70は、モータ装置90の厚み方向(軸線C4の延在方向)から、コネクタ固定部64に装着されるようになっている。これにより、コネクタ部材70のギヤケース61からの突出方向は、出力軸62aの突出方向と同じ方向となる。
以上のように形成した実施の形態2のモータ装置90においても、上述した実施の形態1と同様の作用効果を奏することができる。これに加え、実施の形態2のモータ装置90では、コネクタ部材70の部分においても、2つの固定腕61mと同様に軸線C1を基準に線対称にできる。よって、車両側の外部コネクタの取り回しに余裕が無い車種であっても、運転席側および助手席側のそれぞれに容易に設置することができる。
本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記各実施の形態では、モータ装置30,90を、車両のウィンドウガラス12を昇降させるパワーウィンドウ装置20の駆動源に適用したものを示したが、本発明はこれに限らず、車両に搭載される電動サンルーフ装置やスライドドア装置等の他の駆動源にも適用することができる。
その他、上記各実施の形態における各構成要素の材質,形状,寸法,数,設置箇所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、上記各実施の形態に限定されない。