JP7175182B2 - 静捩り強度ならびに捩り疲労強度に優れた浸炭用鋼材による自動車用機械部品 - Google Patents
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シャフト部材には、従来から、肌焼鋼として例えばSCr420やSCM420が用いられており、浸炭焼入れ・焼戻し材として浸炭処理がなされる場合がある。しかし前述のような自動車の高トルク化や高出力化の背景に伴い、さらなる静捩り強度、捩り疲労強度に優れたシャフト部材の自動車用機械部品の開発が求められている。
たとえば、鋼の化学成分としてTeやCa、Zr、Mg、Y、希土類元素のうち1種または2種以上を含有させ、MnSの形態形成や圧延組織の制御によって、捩り疲労強度を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、製鋼や圧延工程において操業条件に制約が出てしまう問題がある。
しかし、さらなる静捩り強度、捩り疲労強度が望まれている。
しかし、これは浸炭焼入れ時に、T(℃)=40×[Mn%]+75の式により算出される温度Tよりも低い温度の焼入れ油中に焼入れする必要があるなど、操業条件に制約が出てしまう。
しかし、製鋼や圧延工程において操業条件に制約が出てしまう問題がある。
しかし、さらなる静捩り強度、捩り疲労強度が望まれている。
また、上記の浸炭焼入れ・焼戻し後の鋼部品にショットピーニングをした鋼部品は、表面硬さが700Hv以上で、かつ表面の圧縮残留応力が1000MPa以上となることから、静捩り強度および捩り疲労強度において、より一層に優れた鋼部品となっている。
このように本発明は、自動車用機械部品のなかでも、とりわけ軸部を有するシャフト部材に好適な静捩り強度と捩り疲労特性を備えたものとなっている。
Cは、浸炭焼入れ・焼戻し状態における、鋼部品の断面平均硬さ550Hv以上を確保するためには、Cは0.33%以上が必要である。
しかし、Cが0.43%を超えると、鋼材の被削性や冷間鍛造性を劣化させ、捩り試験時の鋼材の破壊が脆性破壊になり、かえって捩り強度が低下する。
そこで、Cは0.33~0.43%とする。
Siは、脱酸に必要な元素であり、また鋼材の焼入性や強度向上に有効な元素であり、粒界を強化する元素であり、捩り強度向上に有効な元素である。このためには、Siは0.45%以上が必要である。
しかし、Siが0.65%を超えると、焼なまし後のフェライト基地の硬さを上げ、冷間鍛造時に割れが発生しやすくなり、さらに被削性が低下する。
そこで、Siは0.45~0.65%とする。
Mnは、脱酸に必要な元素で、さらに鋼の焼入性や強度向上に有効な元素である。このためには、Mnは0.20%以上が必要である。
しかし、Mnが0.40%を超えると、焼なまし後のフェライト基地の硬さを上げ、冷間鍛造時に割れを発生しやすくし、被削性が低下する。さらに、Pなどの脆化元素の粒界偏析を助長することで、鋼部品の捩り強度を低下させる。
そこで、Mnは0.20~0.40%とする。
Pは、粒界に偏析して捩り疲労強度を低下し、焼なまし後のフェライト基地の硬さを上げ、さらに冷間鍛造時に割れを発生しやすくする元素である。そこで、Pは0.030%以下とする。
Sは、被削性を向上させる元素であるが、Mnと結合してMnSを多く生成すると、冷間鍛造性や捩り強度を低下させる元素である。そこで、Sは0.030%以下とする。
Niは、焼なまし後のフェライト基地の硬さを上げ、冷間鍛造時に割れが発生しやすくし、被削性を低下させる作用のある元素である。そこで、Niは0.25%以下とする。
Crは、鋼の焼入性向上に有効な元素である。このためには、Crは1.70%以上が必要である。
しかし、Crは、2.00%より多く含有されると、鋼部材の浸炭時に粗大炭化物や網状炭化物を生成して捩り強度を低下させる。
そこで、Crは1.70~2.00%とする。
Alは、脱酸に必要な元素である。さらに、Alは固溶Nと結合してAlNを形成することで浸炭時の結晶粒粗大化を抑制する元素である。このためには、Alは0.010%以上含有する必要がある。
さらに、Alは、鋼中にアルミナ系酸化物を増加し、鋼部品の捩り疲労強度を低下する。そこで、Alは0.040%以下にする必要がある。
そこで、Alは0.010~0.040%とする。
Nは、鋼中でAlやNbと結合してAlNやNbCNを形成することで結晶粒粗大化を抑制する元素である。しかし、Nは、0.0200%より多く含有されると、鋼材の熱間加工性を劣化させてしまい、さらに、鋼材中に窒化物を形成することで、鋼部品の捩り疲労強度に対して悪影響を及ぼす。そこで、Nは0.0200%以下とする。
Moは、鋼の焼入性や強度向上に有効であり、粒界を強化し、脆性破面を減少させる元素であり、さらに鋼部材の捩り強度向上に有効な元素である。このためには、Moは0.10%以上とする必要がある。
しかし、Moは、0.30%より多いと、焼なまし後のフェライト基地の硬さを上げ、冷間鍛造時に割れを発生し、被削性を低下し、さらに、鋼のコストを高める。
そこで、Moは0.10~0.30%とする。
Nbは、ナノオーダーの炭窒化物を形成することで結晶粒粗大化を抑制する元素であるが、Nbが0.02%未満ではその効果が得られない。
しかし、Nb0.07%より多いと、鋼材中にNb炭窒化物の量が過剰となって鋼材の加工性を低下させ、さらに浸炭時にCが表面に拡散侵入しにくくなる。
そこで、Nbは0.02~0.07%とする。
Tiは、Cと結合してTiCを形成することで、浸炭加熱時の結晶粒の粗大化を抑制する元素で、さらに、TiはNと結合することで、BがBNになることを防ぐ働きをする。そのためには、Tiは0.010%以上とする必要がある。
一方、Tiが0.050%より多いと、過剰なTiCやTiNの形成によって被削性や冷間鍛造性を低下させる。
そこで、Tiは0.010~0.050%とする。
Bは、少量の添加によって鋼の焼入性を著しく向上させる元素で、Bの添加によって他の合金元素の添加量を減らすことができる。さらに、Bは粒界を強化し、脆性破面を減少させる元素であり、さらに、鋼材のねじり強度向上に有効な元素である。これらのためには、Bは0.0003%以上とする必要がある。
しかし、Bが0.0030%より多く含有されても、焼入性や強度の向上効果は飽和する。
そこで、Bは0.0003~0.0030%とする。
表面硬さは、断面平均硬さを増加させて鋼部材の捩り強度を向上させる。このためには、表面硬さは650Hv以上が必要である。
芯部硬さ(すなわち非硬化層)は、断面平均硬さを増加させて、鋼部材の捩り強度を向上させる。このためには、芯部硬さ(すなわち非硬化層)は450Hv以上が必要である。
硬化層深さは、断面平均硬さを上昇させて、鋼部材の捩り強度を向上させる。このためには、硬化層深さは1.0mm以上が必要である。
しかし、硬化層深さが2.6mmより深いと、長時間の浸炭が必要になることで、粗大炭化物や網状炭化物を形成しやすくなり、鋼部材の捩り強度が低下する。
そこで、全硬化層深さは1.0~2.6mmとする。
断面平均硬さは、鋼部材の捩り強度を向上させる。このためには、断面平均硬さは550Hv以上が必要である。
表面の結晶粒度番号は、その番号が大きい方が鋼部材の捩り強度向上に有効であり、また、粒界脆化元素であるP、Sの粒界偏析量を減少させる働きをする。このためには、表面の結晶粒度番号は7.0以上が必要である。
表面C濃度は、鋼部材の表面硬さに影響する。したがって、表面C濃度が0.60%より少ないと表面硬さが650Hv以下となる。
しかし、表面C濃度が1.00%を超えると、粗大炭化物や網状炭化物を形成することで鋼部材の捩り強度が低下し、さらに、軟質な残留オーステナイトが多く形成されることで、表面硬さの低下を招くこととなる。そこで、表面C濃度は0.60~1.00%とする。
表面硬さは、700Hvより少ないと、鋼部材の断面平均硬さが低く、鋼部材の捩り強度を低くする。そこで、鋼部材の断面平均硬さを増加し、鋼部材の捩り強度を向上させるために、表面硬さは700Hv以上とする
表面の圧縮残留応力は、鋼部材の捩り強度を向上させて、圧縮残留応力によってき裂の生成・伝播が遅延される。そのためには、表面の圧縮残留応力は1000MPa以上とする必要がある。
また、供試材No.10はJIS(日本工業規格)のSCr420、供試材No.11はJISのSCM420、供試材No.12はJISのSNCM420である。
さらに表2には、各供試材が(a)浸炭焼入れ・焼戻し処理(浸炭処理)された場合の、
表3には、各供試材に(b)浸炭処理が加えられてショットピーニングを付してショットピーニング層が形成された場合の、浸炭焼入れ・焼戻し状態における表面硬さ、芯部硬さ、硬化層深さ、断面平均硬さ、表面の結晶粒度番号、表面C濃度、浸炭焼入れ鋼およびショットピーニング層の表面硬さ、浸炭焼入れ鋼およびショットピーニング層の圧縮残留応力、静捩り強度比、捩り疲労強度比を記載して示している。
また、表2及び表3には、比較例として、供試材No.4、供試材No.8~No.12を用いた比較例No.4(a)、比較例No.4(b)、比較例No.8(a)、比較例No.8(b)、比較例No.9(a)、比較例No.9(b)、比較例No.10(a)、比較例No.10(b)、比較例No.11(a)、比較例No.11(b)、比較例No.12(b)を示す。
なお、表2、表3における静捩り強度比と、捩り疲労強度比は、いずれも、表2の比較例No.10(a)の浸炭焼入れ焼戻しされた場合の鋼部品の強度を1.00とした場合の、これに対する比を示したものである。
さて、表1に示された化学成分を有し残部がFe及び不可避不純物からなる供試材を、100kg真空溶解炉で溶製し、直径45mmに熱間鍛伸した後に放冷し、次いで、焼ならしを行ない、さらに、低温焼なましとして720℃に4時間保持した後、空冷して、図1に示す捩り試験片1に加工した。
そして、この捩り試験片1は、図2に示す、浸炭焼入れ・焼戻し条件で、浸炭焼入れ・焼戻し処理を行なった。すなわち、930℃まで加熱し0.5時間予熱として保持し、その後930℃で3時間浸炭し、引き続き930℃に2.5時間保持して拡散、その後850℃に0.5時間保持した後、60℃の油に油焼入れした。その後焼戻しとして、180℃まで昇温して1.5時間保持後、空冷した。
また、上記の浸炭処理工程に続いてショットピーニングを施して、ショットピーニング層を付与した。
さらに、この捩り試験片1に、表2、表3に示す、静捩り強度および捩り疲労強度の試験を実施した。
また、捩り疲労強度は、両振り、周波数5Hzの条件で、105サイクル疲労強度の値による。
なお、これらにおける比の値は、比較例No.10(a)の浸炭焼入れ焼戻しされた場合の値を1.00としたときの、これに対する比の値である。
これは、供試材No.9では、Moが0.32%(なお、本発明の手段ではMoは0.10~0.30%である。)であったことから、浸炭前組織が粒度特性に不利なベイナイト+マルテンサイト組織になったこと、またピンニング粒子として寄与するNbが添加されなかったために、結晶粒度番号が本発明の規定する7.0を下回ることになったためである。
2 φ7mmの貫通穴
3 φ4mmの貫通穴
Claims (5)
- 質量%で、C:0.33~0.43%、Si:0.45~0.65%、Mn:0.20~0.40%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Ni:0.25%以下、Cr:1.70~2.00%、Al:0.010~0.040%、N:0.0200%以下を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなり、浸炭焼入れ・焼戻し後の表面硬さ650Hv以上、芯部硬さ450Hv以上、全硬化層深さ1.0~2.6mm、かつ下記式で表される断面平均硬さが550Hv以上、表面の結晶粒度番号7.0以上、表面C濃度0.60~1.00%であることを特徴とする自動車用機械部品。
- 自動車用機械部品は、浸炭焼入れ・焼戻しされた状態の自動車用機械部品にショットピーニング層を有し、このショットピーニング層の表面硬さが700Hv以上、かつ表面の圧縮残留応力が1000MPa以上の値を有していることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の自動車用機械部品。
- 自動車用機械部品は、シャフト部材であることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の自動車用機械部品。
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