JP7172498B2 - 多孔フィルム - Google Patents

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Description

本発明は、多孔フィルムに関するものであり、より詳細には、水蒸気透過は防ぐが、酸素透過に優れる多孔フィルムに関する。
多数の微細な空孔を有する多孔フィルムは、超純水の製造、薬液の精製、水処理などに使用する分離膜、衣類・衛生材料などに使用する透湿防水性フィルム、電子機器や住宅、建材などに使用する断熱性フィルム、あるいは電池などに使用する電池用セパレータなど各種の分野で利用されている。一般的に内部に空孔が存在することにより厚み方向への連通性を発現する多孔フィルムは、透湿防水性に代表されるように液体である水の多孔構造内部への侵入を防止する一方で、水蒸気、酸素といった特定ガスの透過挙動を調整することは困難で、かつ内部に空孔を有するために不透明であり、各種ガスの透過量の調整が必要な用途や、透明性が必要な用途における使用は困難であった。
例えば、水蒸気透過性と酸素透過性を調整する必要があるフィルムとして、青果物包装用フィルムが挙げられる。このフィルムは生鮮野菜や青果物の鮮度保持に用いられ、青果物の劣化で顕著である水分ロスによるしおれを軽減するためにフィルムの水蒸気透過を抑制し、かつ青果物の呼吸を妨げないよう十分な酸素透過性を有する。特許文献1には、レーザー照射装置により孔形成したフィルムが開示されている。
他の例として、医療用に用いられる創傷保護材は、治癒を促進するために創傷からの水分の蒸発を防ぐ目的で低い水蒸気透過性を必要とし、一方で十分な酸素透過性を有さなければ、細胞が低酸素状態になり、治癒機能を損なう(例えば、好中球の抗菌活性、または線維芽細胞によるコラーゲンの産生)虞があるため高い酸素透過性が必要である。特許文献2には、酸素拡散性材料としてシリコーンを塗布したフィルムが開示されている。
他の例として、水処理方法の一つであるメンブレンエアレーションバイオリアクター(MABR)は、多孔基材の外表面にバイオフィルムという形態で微生物を付着固定化し、膜の内側から直接酸素供給することにより、微生物の有機物分解を促す方法であるが、多孔基材の水蒸気透過が多いと空気層内への水滴付着が問題となることから、多孔基材には低い水蒸気透過性と高い酸素透過性が求められている。特許文献3には、非多孔性の酸素透過膜を使用したフィルムが開示されている。
特開2014-140349号公報 特表2015-532147号公報 特開2018-47403号公報
しかしながら、特許文献1のレーザー照射装置による孔形成は、水蒸気透過量と酸素透過量を一定範囲としながらも孔の大きさが20μm以上2000μm以下と非常に大きいため、内部への塵や水滴混入の懸念や、孔からの破れを生じる虞がある。また特許文献2では酸素拡散性材料としてシリコーンを塗布、特許文献3では非多孔性の酸素透過膜を使用しているが一般的に酸素透過性が良いとされるシリコーンを使用した場合でも、用途により酸素透過性が十分であるとは言えず、また非多孔性であれば透過する酸素量の減少はより顕著である。このような酸素透過性の改善方法として、フィルムの多孔化があるが、多孔化に伴い空孔が形成されると屈折率差に伴うフィルムの白化や、空孔形成により連通孔が増加すると、透過する水蒸気量も上昇する問題点があった。
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、水蒸気透過は防ぐが、酸素透過性に優れ、透明性を有する多孔フィルムを提供することを課題とする。
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記従来技術の課題を解決し得る多孔フィルムを得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の課題は、プロピレン系樹脂を主成分とし、空孔率が10~40%、透気度が20,000秒/dL以上、突刺強度(P1)が20gf/μm以上である多孔フィルムによって解決される。
本発明の多孔フィルムは、良好な透明性を有し、低い水蒸気透過性と高い酸素透過性を両立しているため、選択的な透過を行い、分離膜として使用することができ、光学的にも透明性を有する多孔フィルムである。さらに、本発明の多孔フィルムの製造方法によれば、製造の際に、ガス等の発泡剤を用いることを必須としないため、環境適合性が高い。
以下、本発明を詳しく説明する。ただし、本発明の内容が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
<多孔フィルム>
本発明の実施形態の一例に係る多孔フィルム(以下、「本フィルム」と称することがある)は、プロピレン系樹脂を主成分とし、空孔率が10~40%、透気度が20,000秒/dL以上、突刺強度(P1)が20gf/μm以上である多孔フィルムである。
(1)厚み
本フィルムの厚みは特に制限されるものではないが、5~100μmであることが好ましい。下限については、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましい。一方で上限として、90μm以下が好ましく、75μm以下がより好ましく、50μm以下が特に好ましい。厚みが5μm以上であれば、フィルムとして十分な強度を保持することができる。また、厚みが100μm以下であれば、低い水蒸気透過性と高い酸素透過性を維持することができる。
(2)空孔率
本フィルムの空孔率は、多孔フィルムの空間部分の割合を示す数値であり、10~40%であることが重要である。下限としては、12%以上がより好ましく、14%以上がさらに好ましく、16%以上が特に好ましい。一方で上限として、38%以下がより好ましく、36%以下がさらに好ましく、34%以下が特に好ましい。空孔率が10%以上であれば、高い酸素透過度とすることができる。また、空孔率が40%以下であれば、フィルム中の空孔による厚み方向への連通孔形成を妨げ、低い水蒸気透過度とすることができる。
従って、空孔率を10~40%の範囲とすることにより、低い水蒸気透過度と高い酸素透過度を両立することが出来る。
一般的な空孔率の調整方法として、発泡剤や各種フィラーの添加量、または後に抽出を前提として添加される溶剤量に代表される材料面での調整と、その材料を加工する際の温度や圧力、時間、延伸倍率などの条件調整が考えられ、材料面と加工面を共に調整することで、空孔率を調整することができる。
空孔率の測定方法は以下のとおりである。
測定試料の実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度に基づいて空孔率が0%の場合の質量W0を計算し、これらの値から下記式に基づいて空孔率を算出する。
空孔率(%)={(W0-W1)/W0}×100
(3)透気度
本フィルムの透気度は、20,000秒/dL以上であることが好ましく、40,000秒/dL以上であることがより好ましく、60,000秒/dL以上であることが特に好ましい。多孔フィルムの透気度を20,000秒/dL以上とすることで、過度な水蒸気透過性を有することを防ぐことができ、酸素透過性とのバランスを保持することができる。
透気度は多孔フィルムの厚み方向の空気の通り抜け難さを表し、具体的には100mlの空気が当該多孔フィルムを通過するのに必要な秒数で表現されている。そのため、数値が小さい方が通り抜け易く、数値が大きい方が通り抜け難いことを意味する。すなわち、その数値が小さい方が当該多孔フィルムの厚み方向の連通性が良いことを意味し、その数値が大きい方が当該多孔フィルムの厚み方向の連通性が悪いことを意味する。連通性とは当該多孔フィルムの厚み方向の孔のつながり度合いである。透気度(秒/100ml)は、JISP8117に準拠して測定でき、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
(4)突刺強度
本フィルムの突刺強度は、20gf/μm以上であることが好ましく、22gf/μm以上であることがより好ましく、24gf/μm以上であることがさらに好ましく、26gf/μm以上であることが特に好ましい。
本フィルムの突刺強度が20gf/μm以上であれば、本フィルムはフィルム中に粗大な孔径が少なく、膜内部の孔構造が均一かつ微細であるため、低い水蒸気透過性と高い酸素透過性を有することになると考えている。上限については特に制限はないが、通常40gf/μm以下である。
突刺強度については、例えば、延伸工程、延伸後の熱処理工程を適当な条件にして、孔径が微細且つ均一なフィルムとすることで高い突刺強度を有する多孔フィルムを得ることができる。
本フィルムは、多孔フィルムの突刺強度(P1)と、多孔フィルムを熱プレスした後の突刺強度(P2)が、以下の式(1)を満たすことが好ましい。
式(1): P1/P2 > 1.3
式(1)は熱プレス後のフィルムと比べて、空孔が存在する多孔フィルムであるにも関わらず突刺強度が高いことを示す。式(1)を満たす場合、孔構造が微細かつ均一に存在する多孔フィルムになっていると考えている。
ここで、多孔フィルムの熱プレスは具体的には実施例に記載の条件で行われる。
また突刺強度は具体的には実施例に記載の条件で測定されるものである。
(5)平均光線透過率
本フィルムの平均光線透過率は、30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、45%以上であることが特に好ましい。本フィルムの平均光線透過率を30%以上とすることで、多孔フィルムは透明性を有しているということができる。上限については特に制限はないが、通常98%以下である。
光線透過率は分光光度計にて測定でき、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
光線透過率はフィルム厚みにより多少変化するが、本発明においては厚み15μmあたりの平均光線透過率が上記の範囲であることが好ましい。
(6)酸素透過度
本フィルムの酸素透過度は、1,000,000cc/m・24hr・atm以上であることが好ましく、5,000,000cc/m・24hr・atm以上であることがより好ましく、10,000,000cc/m・24hr・atm以上であることが特に好ましい。多孔フィルムの酸素透過度を1,000,000cc/m・24hr・atm以上であることで、十分な酸素透過性を有するといえる。上限は特に定めないが、通常1,000,000,000cc/m・24hr・atm以下である。酸素気透過度はJIS K7126-2:2006に基づいて測定でき、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
(7)水蒸気透過度
本フィルムの水蒸気透過度は、1,000g/m・24hr以下であることが好ましく、750g/m・24hr以下であることがより好ましく、500g/m・24hr以下であることが特に好ましい。水蒸気透過度を1,000g/m・24hr以下であることで、水蒸気の通過を抑制しているといえる。下限は特に定めないが、通常1g/m・24hr以上である。水蒸気透過度はJIS K7129:2008に基づいて測定でき、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
本フィルムの層構成は単層に制限されるものではなく、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内であれば、2層、3層、4層、5層、それ以上の多層構成で他の層をさらに備えていてもよい。
一般に高分子材料のガス透過は、溶解拡散機構で考えると酸素や二酸化炭素に代表されるガスでは、高分子鎖とガス分子との相互作用が小さいため、溶解度係数よりも拡散係数が支配的であり、高分子鎖の一次構造や結晶構造等の高次構造によるが、同様の透過傾向を示す。一方で水蒸気では、強い相互作用を生じる水素結合が高分子鎖と生じる場合、著しく溶解度係数と拡散係数が増加するため、高分子鎖の一次構造により酸素や二酸化炭素の透過挙動と異なる挙動を示す。
本発明は、プロピレン系樹脂を主成分とし、適度な空孔率を有し、適当な突刺強度を有するフィルムが、低い水蒸気透過性と高い酸素透過性、良好な透明性を有することを見出したものである。このメカニズムについては以下のように現在考えている。
つまり、本フィルムは、突刺強度20gf/μm以上、透気度20,000秒/cc以上であるフィルムであることから、ナノオーダー単位の微細な空孔が多数あるフィルムとなっていると考えている。この場合、酸素については、フィルム中での酸素拡散を促し、高い酸素透過性が実現されている。一方、水蒸気は溶解律速であるのでポリプロピレン系樹脂に対しては不溶性であり、さらに本フィルムは微細な空孔を有するフィルムであり孔間を容易に移動できるものではないため、フィルム透過が困難である。その結果、本フィルムは高い酸素透過選択性を有しているものと考えている。
本発明は、高い酸素透過性、低い水蒸気透過性を両立するためには、ナノオーダーの孔を空孔率10~40%の範囲でそろえることが重要であることを見出したものである。
一般的に多孔フィルムはフィルムの空孔率を調整することで連通性を調整する。例えば、空孔率を高めることで、連通した孔が形成されやすくなり、良好な透気度を有するフィルムとなる。しかし通常は、空孔率が上昇するに伴い、樹脂と空気層との屈折率差により白化を生じ、光線透過率は悪化する。本発明は、空孔率、透気度、突刺強度を厳密に調整することで、ナノオーダーの孔を備えた多孔フィルムが形成され、高い透明性、高い酸素透過性、低い水蒸気透過性を有するフィルムができることを見出したものである。
以下、本フィルムを構成するプロピレン系樹脂について説明する。その後、製造方法としての本フィルムの成形方法について説明する。
<プロピレン系樹脂>
本フィルムを構成するプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、またはプロピレンとエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネンもしくは1-デセンなどのα-オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。この中でも、機械的強度の観点からホモポリプロピレンがより好適に使用される。
また、プロピレン系樹脂は、立体規則性を示すアイソタクチックペンタッド分率が80~99%であることが好ましく、より好ましくは83~98%、さらに好ましくは85~97%である。アイソタクチックペンタッド分率が80%以上であれば、機械的強度が良好である。一方、アイソタクチックペンタッド分率の上限については現時点において工業的に得られる上限値で規定しているが、将来的に工業レベルでさらに規則性の高い樹脂が開発された場合においてはこの限りではない。アイソタクチックペンタッド分率とは、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素-炭素結合による主鎖に対して側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。メチル基領域のシグナルの帰属は、A.Zambelli et al.(Macromol.8,687(1975))に準拠する。
また、プロピレン系樹脂は、分子量分布を示すパラメータであるMw/Mnが1.5~10.0であることが好ましい。より好ましくは2.0~8.0、さらに好ましくは2.0~6.0である。Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味するが、Mw/Mnを1.5以上とすることで、十分な押出成形性が得られ、工業的に大量生産が可能である。一方、Mw/Mnを10.0以下とすることで、十分な機械的強度を確保することができる。Mw/MnはGPC(ゲルパーエミッションクロマトグラフィー)法によって測定される。
また、プロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常、MFRは0.5~15g/10分であることが好ましく、1.0~10g/10分であることがより好ましい。MFRを0.5g/10分以上とすることで、成形加工時において十分な溶融粘度を有し、高い生産性を確保することができる。一方、MFRを15g/10分以下とすることで、十分な強度を確保することができる。なお、MFRはJIS K7210-1(2014年)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
なお、プロピレン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
プロピレン系樹脂としては、例えば、商品名「ノバテックPP」「WINTEC」「WAYMAX」(日本ポリプロ社製)、「バーシファイ」「ノティオ」「タフマーXR」(三井化学社製)、「ゼラス」「サーモラン」(三菱化学社製)、「住友ノーブレン」「タフセレン」(住友化学社製)、「プライムポリプロ」「プライム TPO」(プライムポリマー社製)、「Adflex」「Adsyl」「HMS-PP(PF814)」(サンアロマー社製)、「インスパイア」(ダウケミカル)など市販されている商品を使用できる。
本フィルムは、例えば、結晶形態の一つであるβ晶を多く含む樹脂組成物からなる無孔膜状物を延伸することで得られる。β晶を利用した多孔構造形成は、延伸過程においてプロピレン系樹脂中のβ晶が、α晶に転移する過程で多孔化が生じるため、多孔構造は緻密であり、従来公知である無機フィラーや非相溶性有機物の添加による多孔化と比較し、粒径や分散径に依存しないことから、多孔構造の調製に有利である。
本フィルムは延伸工程により微細な多孔構造を得るために、β晶活性を有していることが好ましく、中でも、β晶核剤を含むことが好ましい。本発明で用いるβ晶核剤としては以下に示すものが挙げられるが、プロピレン系樹脂のβ晶の生成、成長を増加させるものであれば特に限定されず、また2種類以上を混合して用いてもよい。
前述した本フィルムのβ晶活性を得る方法としては、本フィルムを構成する樹脂組成物中にプロピレン系樹脂のα晶の生成を促進させる物質を添加しない方法や、特許第3739481号公報に記載されているように過酸化ラジカルを発生させる処理を施したプロピレン系樹脂を添加する方法、及び本フィルムを構成する樹脂組成物中にβ晶核剤を添加する方法などが挙げられる。中でも、本フィルムを構成する樹脂組成物にβ晶核剤を添加してβ晶活性を得ることが特に好ましい。β晶核剤を添加することで、より均質に効率的にプロピレン系樹脂のβ晶の生成を促進させることができ、β晶活性を有するフィルムを得ることができる。
本フィルムのβ晶活性は、延伸前の無孔膜状物においてプロピレン系樹脂がβ晶を生成していたことを示す一指標と捉えることができる。延伸前の無孔膜状物中のプロピレン系樹脂がβ晶を生成していれば、その後延伸を施すことで微細かつ均一な孔が多く形成されるため、機械特性に優れ、透明性を有する多孔質フィルムを得ることができる。
本フィルムのβ晶活性の有無は、示差走査型熱量計を用いて、多孔層の示差熱分析を行い、プロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度が検出されるか否かで判断される。具体的には、示差走査型熱量計で本フィルムを25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に240℃から25℃まで冷却速度10℃/分で降温後1分間保持し、さらに25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で再昇温させた際に、再昇温時にプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)が検出された場合、β晶活性を有すると判断される。
前記β晶活性の有無は、特定の熱処理を施した本フィルムのX線回折測定により得られる回折プロファイルでも判断することができる。詳細には、プロピレン系樹脂の結晶融解ピーク温度を超える温度である170~190℃の熱処理を施し、徐冷してβ晶を生成・成長させた本フィルムについてX線回折測定を行い、プロピレン系樹脂のβ晶の(300)面に由来する回折ピークが2θ=16.0°~16.5°の範囲に検出された場合、β晶活性があると判断される。プロピレン系樹脂のβ晶構造とX線回折測定に関する詳細は、Macromol.Chem.187,643-652(1986)、Prog.Polym.Sci.Vol.16,361-404(1991)、Macromol.Symp.89,499-511(1995)、Macromol.Chem.75,134(1964)、及びこれらの文献中に挙げられた参考文献を参照することができる。
β晶核剤としては、例えば、アミド化合物;テトラオキサスピロ化合物;キナクリドン類;ナノスケールのサイズを有する酸化鉄;1,2-ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウムもしくはコハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウムなどに代表されるカルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウムもしくはナフタレンスルホン酸ナトリウムなどに代表される芳香族スルホン酸化合物;二もしくは三塩基カルボン酸のジもしくはトリエステル類;フタロシアニンブルーなどに代表されるフタロシアニン系顔料;有機二塩基酸である成分Aと周期表第2族金属の酸化物、水酸化物もしくは塩である成分Bとからなる二成分系化合物;環状リン化合物とマグネシウム化合物からなる組成物などが挙げられる。
これらの中でも、アミド化合物、テトラオキサスピロ化合物、及びキナクリドン類からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
市販されているβ晶核剤の具体例としては、新日本理化社製β晶核剤「エヌジェスターNU-100」、β晶核剤の添加されたプロピレン系樹脂の具体例としては、Aristech社製ポリプロピレン「Bepol B-022SP」、Borealis社製ポリプロピレン「Beta(β)-PP BE60-7032」、mayzo社製ポリプロピレン「BNX BETAPP-LN」などが挙げられる。
本フィルムのβ晶核剤の含有量は、β晶核剤の種類またはプロピレン系樹脂の組成などにより適宜調整することができるが、本フィルムのプロピレン系樹脂100質量部に対し0.0001~5.0質量部が好ましく、0.001~3.0質量部がより好ましく、0.01~1.0質量部がさらに好ましい。0.0001質量部以上であれば、製造時において十分にプロピレン系樹脂のβ晶を生成成長させ、十分なβ晶活性が確保でき、多孔フィルムとした際にも十分なβ晶活性が確保でき、所望の酸素透過性が得られる。一方、5.0質量部以下の添加であれば、経済的にも有利になるほか、フィルム表面へのβ晶核剤のブリードなどがなく好ましい。
本フィルムはプロピレン系樹脂を主成分とし、その含有量は50質量%以上、好ましくは70~99.9999質量%、より好ましくは80~99.999質量%、さらに好ましくは90~99.99質量%である。
<本フィルムの製造方法>
以下、本発明の多孔フィルムの製造方法について説明するが、以下の説明は、本発明の多孔フィルムを製造する方法の一例であり、本フィルムはかかる製造方法により製造される多孔フィルムに限定されるものではない。
本発明の実施形態の一例に係る多孔フィルムの製造方法(以下、本フィルム製造方法)と称することがある)は、プロピレン系樹脂及びβ晶核剤を含む未延伸フィルムを作成し延伸することを特徴とする多孔フィルムの製造方法である。
本フィルムの製造方法は上記工程を備えていればよいから、他の工程や処理をさらに備えていてもよい。
また、本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲において、プロピレン重合体以外の他の樹脂を混合することを許容することができる。
他の樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
また、本発明においては、前述した成分のほか、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、一般的に配合される添加剤を適宜添加できる。前記添加剤としては、成形加工性、生産性および多孔質フィルムの諸物性を改良・調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂や、シリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、着色剤などの添加剤が挙げられる。
混錬する際、用いる機械を特に限定するものではない。例えば単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機など、公知の押出機を用いることができる。また、設備構造および必要性に応じて、ベント口に減圧機を接続し、水分や分低分子量物質を除去してもよい。
以下、製膜工程、延伸工程について順次説明する。
(1)製膜工程
材料樹脂を加熱溶融する方法として、例えばTダイ法、インフレーション法などを挙げることができ、中でもTダイ法を採用するのが好ましい。実用的には、Tダイから材料樹脂を溶融押出してキャストロールによりキャスト成形するのが好ましい。
フィルム状に製膜する具体的方法として、Tダイ法を採用する場合、Tダイからそれぞれ押出されたシート状の溶融樹脂を積層し、回転するキャストロール(チルロール、キャストドラム)上に密着させながら引き取りシート状物に成形する方法を挙げることができる。
キャストロールにフィルム状物を密着させるために、タッチロール、エアナイフ、電気密着装置などをキャストロールに付けてもよい。
混練物を冷却しながらフィルムに成形する際、キャストロールの温度は100℃以上が好ましい。より好ましくは110℃以上で、更に好ましくは120℃以上である。本発明ではフィルム中のプロピレン系樹脂の結晶部分と非晶部分での延伸工程時による開孔によっても、空孔率の調整が可能であるため、キャストロールの温度を100℃以上とし、高い結晶化度の無孔膜状物を得ることが好ましい。
得られる未延伸フィルムにおいて、両端部を除いた有効部分の厚みは20μm~400μmであるのが好ましく、中でも30μm以上或いは300μm以下、その中でも40μm以上或いは200μm以下であるのがさらに好ましい。
未延伸フィルム厚さが20μm以上であれば、フィルムが薄すぎるために延伸時に破断を起こすのを防ぐことができ、未延伸フィルムの厚さが400μm以下であれば、フィルムが剛直になり過ぎて延伸を行い難くなるのを防ぐことができる。
本発明のフィルムの原反での層構成に関しては、上記の層構成のみだけでなく、他の層を組み合わせた構成であってもよい。また、樹脂に対して溶媒等の添加物を含有させ、無孔膜状物を得た後に前記溶媒の抽出工程を行い多孔化させる湿式法でフィルムを調製してもよい。
(2)延伸工程
ついで、得られた無孔膜状物を一軸延伸あるいは二軸延伸を行う。一軸延伸は縦一軸延伸であってもよいし、横一軸延伸であってもよい。二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。本発明の目的である多孔フィルムを作製する場合には、各延伸工程で延伸条件を選択できるが、孔径が微細で、かつ空孔率の過度な上昇を生じない横一軸延伸がより好ましい。なお、膜状物の流れ方向(MD)への延伸を「縦延伸」といい、流れ方向に対して垂直方向(TD)への延伸を「横延伸」という。
横一軸延伸を用いる場合、孔径が微細かつ粗大な空孔形成を防ぐことができるため、空孔率の過度な上昇を抑えることができる。
縦延伸温度は、好ましくは60~140℃であり、より好ましくは80~120℃である。縦延伸温度を140℃以下とすることで、主成分であるプロピレン系樹脂の融点以下で破断なく延伸が可能となるため好ましい。一方で、60℃以上とすることで、延伸時の破断が抑制できるため、好ましい。
縦延伸倍率は、任意に選択できるが、一軸延伸あたりの延伸倍率は1.1~10倍が好ましく、より好ましくは1.5~8.0倍であり、さらに好ましくは1.5~6.0倍である。一軸延伸あたりの延伸倍率が1.1倍以上とすることで白化が進行して、延伸による多孔化が生じる。また、10倍以下とすることで、破断を生じることなく多孔化を実施することができる。
横延伸温度は、好ましくは80~160℃であり、より好ましくは90~150℃である。前記横延伸温度が規定された範囲内であることによって、過度な空孔形成を生じずに多孔層を形成することができる。
横延伸倍率は、任意に選択できるが、好ましくは1.0~10倍であり、より好ましくは2.0~9.0倍、更に好ましくは3.0~8.0倍である。規定した横延伸倍率で延伸することによって、均一に微細多孔化した多孔フィルムを得ることができる。
さらに、本発明の多孔フィルムには、本発明を損なわない範囲で必要に応じてコロナ処理、プラズマ処理、印刷、コーティング、蒸着等の表面加工、更にはミシン目加工などを施した積層体にしてもよい。また、用途に応じて本フィルムを数枚重ねることも可能である。
<本フィルムの用途>
本発明の多孔フィルムは、包装用途や医療用途、水処理用途等の水蒸気透過性と酸素透過性のバランスを調整する必要がある用途に使用でき、透明性も有することから切り傷等の各種怪我の治癒促進や、薬剤の経皮吸収を目的とした用途に好適に使用することができる。具体的には、本発明の多孔フィルムと薬剤とを複合化することによって、本フィルムを備えた創傷保護材とすることができる。この創傷保護材は不織布を複合化することもできる。」
以下に実施例および比較例を示し、本発明の多孔フィルムについてさらに詳しく説明するが、本発明は何ら制限を受けるものではない。
(プロピレン系樹脂)
・A-1;ホモポリプロピレン(ノバテックPP FY6HA、MFR:2.4g/10分[230℃、2.16kg荷重]、Mw/Mn=3.2、日本ポリプロ社製)
(β晶核剤)
・B-1:2,6-ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド;「エヌジェスターNU-100」(新日本理化株式会社製)
(酸化防止剤)
・C-1;トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトとテトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリスリトールとの1:1混合物(IRGANOX-B225、BASF社製)
(実施例1)
プロピレン系樹脂(A-1)100質量部、β晶核剤(B-1)0.2質量部、酸化防止剤(C-1)0.1質量部を混合して、二軸押出機にて280℃で溶融押出することで混合物1を得た。リップ開度0.8mmのTダイで押出機に前記混合物1を用いて成形を行い、キャストロールに導かれて無孔膜状物を得た。その後、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、予熱温度100℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度100℃で横方向に7.0倍延伸した後、100℃で熱処理を行い、多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムの評価結果を表1に纏める。
(比較例1)
リップ開度0.8mmのTダイで押出機に前記混合物1を用いて成形を行い、キャストロールに導かれて無孔膜状物を得た。得られたフィルムの評価結果を表1に纏める。
(比較例2)
リップ開度0.8mmのTダイで押出機に前記混合物1を用いて成形を行い、キャストロールに導かれて無孔膜状物を得た。その後、105℃に設定したロール間において、ドロー比65%を3段(縦延伸倍率4.5倍)掛けて縦延伸を行った。得られた多孔フィルムの評価結果を表1に纏める。
(比較例3)
リップ開度0.8mmのTダイで押出機に前記混合物1を用いて成形を行い、キャストロールに導かれて無孔膜状物を得た。その後、105℃に設定したロール間において、ドロー比65%を3段(縦延伸倍率4.5倍)掛けて縦延伸を行った。その後、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、予熱温度150℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度150℃で横方向に2.0倍延伸した後、150℃で熱処理を行い、多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムの評価結果を表1に纏める。
実施例および比較例で得られたフィルムに関して、フィルム厚み、空孔率、透気度、平均光線透過率、水蒸気透過度、酸素透過度、平均細孔径について以下の方法で測定した。
(1)フィルム厚み
測定試料から直径40mmの試料片を切り出し、目量1/1000mmのダイヤルゲージにて、フィルム面内の任意の5箇所で厚みを測定し、その平均値を求めた。
(2)空孔率
測定試料の実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度に基づいて空孔率が0%の場合の質量W0を計算し、これらの値から下記式に基づいて空孔率を算出した。
空孔率(%)={(W0-W1)/W0}×100
(3)透気度
25℃の空気雰囲気下にて、JIS P8117に準拠して透気度を測定した。測定機器として、デジタル型王研式透気度専用機(旭精工社製)を用いた。
(4)突刺強度
厚み測定で作製した測定試料をホルダー(測定部:直径10mmの円形)に固定し、直径1mm、先端曲率半径0.5mmの金属(SUS440C)製針を厚み方向に300mm/分の速さで突き刺し、穴が開口する最大荷重を測定し、この値を突刺強度とした。また厚み1μm当たりに換算することで、突刺強度(P1)とした。上記突刺強度測定後の試料を220℃に設定した熱プレスにてプレスを行い、内部に空孔を有さない状態とした後、再び同様の方法で突刺強度を測定し、厚み1μm当たりに換算することで、突刺強度(P2)を測定した。
算出した厚み1μm当たりの突刺強度(P1)(P2)について、以下の式(1)を用いて判断した。
式(1): P1/P2 > 1.3
P1、P2が式(1)を満たす場合、多孔フィルム中の孔構造が微細かつ均一に存在することの指標となり、その孔構造が微細なため多孔化後も十分な強度を有すると判断することができる。
(5)平均光線透過率
分光光度計(「U―4000」、(株)日立製作所製)に積分球を取付け、波長300~800nmまでの光に対する透過率を測定した。なお、測定前にアルミナ白板を使用し反射率が100%となるよう分光光度計を設定した。波長300~800nmの各波長における透過率を平均した値を平均光線透過率とした。
(6)酸素透過度
JIS K7126-2:2006に基づき、モダンコントロール社製のOXY-TRAN100型酸素透過率測定装置を用いて、23℃、50%RHの雰囲気下において多孔フィルムの酸素透過度を測定した。前記方法にて測定上限範囲を超えるフィルムについては、JIS K7126-2:2006に基づき、ガスクロマトグラフ法にて多孔フィルムの酸素透過度を測定した。
(7)水蒸気透過度
JIS K7129:2008に基づき、MOCON社製PERMATRANを用いて、40℃、90%RHの雰囲気下において多孔フィルムの水蒸気透過度を測定した。
(8)酸素/水蒸気分離能
酸素透過度が1,000,000cc/m・24hr・atm以上、かつ、水蒸気透過度が1,000g/m・24hr以下であったものを「○」評価、それ以外のものを「×」評価とした。
表1に実施例、比較例に関する評価結果を示した。
Figure 0007172498000001
実施例1は、良好な透明性を有し、低い水蒸気透過度と高い酸素透過度を両立している。
一方、比較例1より、空孔を有しないフィルムでは酸素透過度が測定下限を下回り、十分な酸素透過度は得られなかった。また、比較例2,3では十分な酸素透過度を有しているものの、水蒸気透過度についても測定上限以上の透過量を示し、低い水蒸気透過性の発現がされていない。
本発明の多孔フィルムは、包装用途や医療用途、水処理用途等の水蒸気透過性と酸素透過性のバランスを調整する必要がある用途に使用でき、透明性も有することから創傷保護材として好適に使用することができる。

Claims (8)

  1. プロピレン系樹脂を主成分とし、空孔率が10~40%、透気度が20,000秒/dL以上、突刺強度(P1)が20gf/μm以上である多孔フィルムであり、
    多孔フィルムの突刺強度(P1)と、多孔フィルムを熱プレスした後の突刺強度(P2)が以下の式(1)を満たす多孔フィルム。
    式(1): P1/P2 > 1.3
  2. 厚みが5~100μmである請求項1に記載の多孔フィルム。
  3. β晶活性を有していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多孔フィルム。
  4. 平均光線透過率が30%以上である請求項1~のいずれかに記載の多孔フィルム。
  5. 酸素透過度が1,000,000cc/m・24hr・atm以上である請求項1~のいずれかに記載の多孔フィルム。
  6. 水蒸気透過度が1,000g/m・24hr以下である請求項1~のいずれかに記載の多孔フィルム。
  7. 請求項1~のいずれかに記載の多孔フィルムと薬剤とを複合化してなる創傷保護材。
  8. プロピレン系樹脂及びβ晶核剤を含む未延伸フィルムを作成し、延伸することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の多孔フィルムの製造方法。
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