以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(車両駆動系の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るエンジン1と無段変速機2を備える車両100の動力伝達系(以下「駆動系」という)P1の全体構成を概略的に示している。
本実施形態に係る駆動系P1は、車両100の駆動源としてエンジン1を備え、エンジン1と左右の駆動輪5、5とをつなぐ動力伝達経路上に無段変速機2を備える。エンジン1と無段変速機2とは、トルクコンバータを介して接続することが可能である。無段変速機2は、エンジン1から入力した回転動力を所定の変速比で変換し、ディファレンシャルギア3を介して駆動輪5に出力する。
エンジン1は、ガソリン、軽油等を燃料とする内燃機関であり、走行用駆動源として機能する。
無段変速機2は、変速要素として入力側にプライマリプーリ21を備えるとともに、出力側にセカンダリプーリ22を備える。無段変速機2は、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22に掛け渡された金属ベルト23を備え、これらのプーリ21、22における金属ベルト23の接触部半径の比を変化させることで、変速比を無段階に変更することが可能である。
プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22は、固定シーブ21a、22aと、固定シーブ21a、22aに対して同軸に、固定シーブ21a、22aの回転中心軸Cp、Csに沿って軸方向に移動可能に設けられた可動シーブ21b、22bと、を備える。無段変速機2の入力軸に対してプライマリプーリ21の固定シーブ21aが接続され、出力軸に対してセカンダリプーリ22の固定シーブ22aが接続されている。無段変速機2の変速比は、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22の可動シーブ21b、22bに作用する作動油の圧力を調整し、固定シーブ21a、22aと可動シーブ21b、22bとの間に形成されるV溝の幅を変化させることで制御される。
本実施形態では、無段変速機2の作動圧の発生源として、エンジン1または図示しない電動モータを動力源とするオイルポンプ6を備える。オイルポンプ6は、変速機オイルパンに貯蔵されている作動油を昇圧させ、これを元圧として、所定の圧力の作動油を、油圧制御回路7を介して可動シーブ21b、22bの油圧室に供給する。図1は、油圧制御回路7から油圧室への油圧供給経路を、矢印付きの点線により示している。
無段変速機2から出力された回転動力は、所定の減速比に設定された最終ギア列(いずれも図示せず)およびディファレンシャルギア3を介して駆動軸4に伝達され、駆動輪5を回転させる。
車両100は、電動ブレーキ装置30を備える。電動ブレーキ装置30はブレーキコントローラ301からの指令に基づいて制動力を発生させる。
(制御システムの構成および基本動作)
エンジン1および無段変速機2の動作は、エンジンコントローラ101、変速機コントローラ201により夫々制御される。エンジンコントローラ101、変速機コントローラ201及びブレーキコントローラ301は、いずれも電子制御ユニットとして構成され、中央演算装置(CPU)、RAMおよびROM等の各種記憶装置、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータからなる。エンジンコントローラ101、変速機コントローラ201、及びブレーキコントローラ301は、CAN規格のバスを介して互いに通信可能に接続されている。本実施形態では、エンジンコントローラ101、変速機コントローラ201、及びブレーキコントローラ301が、車両100を制御する「制御装置」に相当する。
エンジンコントローラ101は、エンジン1の運転状態を検出する運転状態センサの検出信号を入力し、運転状態をもとに所定の演算を実行し、エンジン1の燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期等を設定する。エンジン1は、エンジンコントローラ101からの指令に基づいて回転速度、トルク等が制御される。運転状態センサとして、運転者によるアクセルペダルの操作量(以下「アクセル開度」という)を検出するアクセルセンサ111、エンジン1の回転速度を検出する回転速度センサ112、エンジン冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ113等が設けられるほか、図示しないエアフローメータ、スロットルセンサ、燃料圧力センサおよび空燃比センサ等が設けられている。エンジンコントローラ101には、これらのセンサの検出信号が入力される。
無段変速機2の制御に関連して、車両100の走行速度を検出する車速センサ211、無段変速機2の入力軸の回転速度を検出する入力側回転速度センサ212、無段変速機2の出力軸の回転速度を検出する出力側回転速度センサ213、無段変速機2の作動油の温度を検出する油温センサ214、シフトレバーの位置を検出するシフト位置センサ215等が設けられている。本実施形態では、以上に加え、加速度センサ216、操舵角センサ217、サスペンションストロークセンサ218、カメラセンサ219、およびカーナビゲーション装置221等が設けられている。変速機コントローラ201には、エンジンコントローラ101から、アクセル開度等、エンジン1の運転状態に関する情報が入力されるほか、これらのセンサの検出信号が入力される。
ブレーキコントローラ301は、図示しないフットブレーキの踏力に応じ制動力を発生させるように電動ブレーキ装置30を制御する。また、ブレーキコントローラ301は、予め定められた条件が成立したときには、フットブレーキが踏み込まれていなくても、予め定められた制動力を発生させるように電動ブレーキ装置30を制御する。
加速度センサ216は、車体に対して横方向(つまり、水平であり、車両100の直進方向に垂直な方向)に作用する加速度(以下「横方向加速度」という)を検出する。本実施形態では、金属ベルト23の延伸方向、換言すれば、プライマリプーリ21またはセカンダリプーリ22の回転中心軸Cp、Csに垂直な水平方向が車両100の直進方向と一致し、金属ベルト23の周方向および径方向に垂直な方向が車両100の横方向に一致する。よって、加速度センサ216により検出される横方向加速度は、金属ベルト23またはその動力伝達媒体であるエレメント231に対して横方向に作用する加速度ないし力(つまり、慣性力)の大きさを示す。
操舵角センサ217は、車両100の操舵角を検出する。本実施形態では、ステアリングホイールの基準角位置に対する回転角(つまり、ステアリングホイールの切れ角)を検出する。
サスペンションストロークセンサ218は、車両100の姿勢を検出する手段として設けられ、本実施形態では、前輪または後輪の左右両側のサスペンション装置に取り付けられた一対のストロークセンサにより構成される。本実施形態では、左右一対のストロークセンサからなるサスペンションストロークセンサ218の検出信号をもとに、車両100に生じている横方向の揺れ(以下「横揺れ」という場合がある)を判定するが、サスペンションストロークセンサ218として、前輪および後輪双方の左右サスペンション装置にストロークセンサが夫々取り付けられてもよく、これにより、横揺れの判定に対する前後方向の揺れあるいは傾きの影響を排除することが可能となる。
サスペンションストロークセンサ218は、ショックアブソーバに備わるピストンロッドの変位を検出する変位センサにより具現可能であり、サスペンションアームの角度を検出する角度センサによっても可能である。
カメラセンサ219は、車両100が現在走行中の道路または路面の状態を検出する手段として設けられている。カメラセンサ219により撮影された画像または映像を解析することで、道路または路面の状態として、路面の凹凸の有無およびその大きさを判断することが可能である。
カーナビゲーション装置221は、道路地図情報を有するとともに、GPSセンサを内蔵し、GPSセンサにより取得される車両100の現在位置(例えば、緯度および経度により表示される絶対位置)を道路地図情報と照合することで、車両100の道路地図上での位置を検出する。本実施形態において、カーナビゲーション装置221は、道路または路面の状態を検出する他の手段として、カメラセンサ219に代替するかまたはこれを補完する。
変速機コントローラ201は、変速に関する基本的な制御として、シフト位置センサ215からの信号に基づき運転者により選択されたシフトレンジを判定するとともに、アクセル開度および車速等に基づき、無段変速機2の目標変速比を設定する。そして、変速機コントローラ201は、オイルポンプ6が生じさせる油圧を元圧として、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22の可動シーブ21b、22bに対して目標変速比に応じた所定の油圧が作用するように、油圧制御回路7に制御信号を出力する。
(無段変速機の構成)
図2は、本実施形態に係る無段変速機2の構成を、図1に示すx-x線断面により示している。
本実施形態において、無段変速機2は、一対の可変プーリ、具体的には、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22と、これら一対のプーリ21、22に掛け渡された金属ベルト23と、を備える。図2は、断面で示す都合上、プライマリプーリ21の可動シーブ21bと、セカンダリプーリ22の固定シーブ22aと、金属ベルト23と、を示している。無段変速機2は、プッシュベルト式であり、金属ベルト23は、動力伝達媒体である複数のエレメント231をその板厚方向に並べ、リング232(「フープ」または「バンド」と呼ばれる場合もある)により互いに結束することで構成される。
図3は、本実施形態に係るエレメント231の構成を、金属ベルト23の周方向に垂直な断面により示している。
本実施形態において、金属ベルト23のリング232は、複数のリング部材232a~232dを互いに積層して構成された1つのリングであり、この1つのリング232に複数のエレメント231が装着されて、金属ベルト23が構成される。リング232が1つであることから、本実施形態に係る金属ベルト23は、モノリング式の金属ベルトまたは単に「モノベルト」と呼ばれる場合がある。図3は、リング部材が4つ(232a~232d)の場合を示すが、リング部材の数がこれに限定されるものでないことは、いうまでもない。
エレメント231は、概して、基部231aと、基部231aの延伸方向に垂直に、互いに同方向に延びる一対の側部231b、231bと、から構成され、本実施形態では、全体として、概略コ字状をなしている。基部231aは、サドル部分とも呼ばれ、リング232を横断するだけの長さを有し、その両端に、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22の各シーブ21a、21b、22a、22bに対する接触面が形成されている。基部231aの延伸方向は、エレメント231の幅方向であり、金属ベルト23の横方向Lに一致する。側部231bは、ピラー部分とも呼ばれ、リング232を挟む各側で基部231aに接続し、その延伸方向は、エレメント231の高さ方向であり、金属ベルト23の径方向Rに一致する。これら一対の側部231b、231bの互いに向き合う内面と基部231aの上面とにより、横方向Lに垂直な方向、つまり、金属ベルト23の径方向Rに開口するエレメント231の受容部231rが形成される。本実施形態において、受容部231rが開口する方向は、金属ベルト23の径方向Rに関して外向きである。エレメント231は、受容部231rにリング232を受ける状態で、金属ベルト23の内周側からリング232に装着される。
エレメント231は、受容部231rを形成する左右夫々の側部231bに、その内面から内向きに突出するフックないし挟持片fを有し、リング232に装着された状態で、基部231aとこれらのフックfとの間にリング232が保持される。エレメント231は、左右両方の側部231b、231bに、受容部231rの空間を部分的に、横方向Lに拡張させる、一対の切欠きnを有する。切欠きnは、フックfに可撓性を持たせ、リング232を押さえつける力を付与するとともに、エレメント231の装着時にリング232の逃げとなる空間を形成するものである。
図4(a)~4(c)は、金属ベルト23の組立方法、具体的には、エレメント231のリング232に対する装着手順を時系列に示している。図4は、図示の便宜上、リング232の姿勢を変えて手順を示すが、実際の装着時では、エレメント231の向きが変えられることは、いうまでもない。
初めに、エレメント231をリング232に対して傾けた状態として、リング232の内周側に配置し、エレメント231の受容部231rに、リング232の一方の側縁を挿入する。そして、エレメント231を、基部231aをリング232に近付けるように移動させ、図4(a)に示すように、基部231aと一方の側部231bに備わるフック(同図に示す状態では、左側の側部231bに備わるフック)fとの間を通じて、リング232の側縁を切欠きnに到達させる。
次いで、図4(b)に示すように、エレメント231を、基部231aとフックfとの間に位置するリング232の部分を中心として回転させ(同図に示す状態では、時計回りとは反対に回転させ)、エレメント231のリング232に対する傾斜を解消させる。この状態で、エレメント231は、基部231aがリング232に平行となる。
エレメント231の基部231aをリング232に平行な状態とした後、図4(c)に示すように、エレメント231を、リング232に対し、リング232の側縁を切欠きnから出す方向に相対的に移動させ(同図に示す状態では、エレメント231を左側に移動させ)、リング232を基部231aの中心に配置させる。これにより、1つのエレメント231の装着が完了する。
このような手順を金属ベルト23の全周にわたる全てのエレメント231に対して繰り返すことで、金属ベルト23が完成する。リング232の張力により、さらに、エレメント231の前面に設けられた凸部p(図3)と隣り合うエレメント231の背面に設けられた凹部との係合により、前後のエレメント231が互いに結束される。
ところで、エレメント231を動力伝達媒体とする無段変速機2では、隣り合うエレメント231の隙間であるエンドプレーが拡大し、金属ベルト23の全周にわたるエンドプレーの総量が増大する場合がある。具体的には、エレメント231が他のエレメント231により圧迫されて押し潰された場合(以下では、「圧縮潰れ」ともいう。)や、エレメント231を束ねるリング232に弾性的または塑性的な変形による伸びが生じた場合、エレメント231同士が擦れて摩耗したりする場合である。
このような状態でエンドプレーが局所的に集中し、さらに、エレメント231に対し、金属ベルト23の周方向および径方向に垂直な方向(つまり、横方向)の力が加わると、エレメント231がリング232に対して横方向に移動する。これにより、図4を参照して先に説明した手順とは逆の手順により、エレメント231がリング232から脱落する懸念がある。
つまり、(1)エレメント間の隙間の総量が大きくなること。(2)エレメント間の隙間が集中すること。(3)エレメントが横に移動すること。という3つの条件が重なると、エレメント231がリング232から脱落する可能性がある。
図2は、エンドプレーEPが局所的に集中した状態を示し、図5は、理解を容易にするため、金属ベルト23のエンドプレーEPが集中した部分を、拡大視により模式的に示している。図2において、金属ベルト23のうち、点線で示す範囲AおよびBでエンドプレーEPが集中している。エンドプレーEPの集中により、隣り合うエレメント231の間に単に隙間ができるだけでなく、凸部pが凹部から出て、それらの係合が解除され、エレメント231がリング232に対して横方向に移動可能な状態にあることが分かる。
このように、エレメント231がリング232からはずれて脱落するためには、エレメント231間の隙間(エンドプレー)が広がって、あるエレメント231の前後の凸部pと凹部との係合が双方ともはずれなければならない。
あるエレメント231の前後にエンドプレーが生じるシーンの1つとして、金属ベルト23の周速が減速していることが考えられる。このように減速している状況では、セカンダリプーリ22に駆動輪5側から減速力が作用する。このため、セカンダリプーリ22の出口付近においては、あるエレメント231の速度は、その前に位置するエレメント231の速度よりも遅くなる。これにより、あるエレメント231の前後にエンドプレーが生じやすい。
さらに、凸部pと凹部の係合がはずれるのに十分な大きさのエンドプレーが生じる要件として、エレメント231の圧縮潰れが大きな状態、即ち金属ベルト23の伝達するトルクが大きいことが考えられる。このように、金属ベルト23の伝達するトルクが大きい状況では、プライマリプーリ21からエレメント231に大きな力が作用する。このため、プライマリプーリ21の出口付近においては、エレメント231が圧縮された状態になる。
そこで、本実施形態では、このような運転状況、言い換えると、エレメント231がリング232から脱落する可能性の高い運転状態を検知した場合に、エレメント231のリング232からの脱落を抑制するための所定の制御(以下「脱落抑制制御」という)を実行する。本実施形態における脱落抑制制御では、プライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22へ供給する油圧を通常制御による運転時よりも高くする。
以下に、図6を参照しながら、本実施形態に係る脱落抑制制御について具体的に説明する。図6は、本実施形態に係る脱落抑制制御の基本的な流れをフローチャートにより示している。
本実施形態において、脱落抑制制御は、変速機コントローラ201により実行される。変速機コントローラ201は、図6に示す制御ルーチンを所定の周期で実行するようにプログラムされている。脱落抑制制御を実行するのは、変速機コントローラ201以外の他のコントローラであってもよい。
S1では、車両の運転状態を読み込む。具体的には、脱落抑制制御に関する運転状態として、エンジンコントローラ101から入力されたアクセル開度APOに加え、車速センサ211、シフト位置センサ215および加速度センサ216により検出された車速、シフト位置および前後方向加速度を読み込む。
S2では、車両が勾配路にあるか否かを判定する。勾配路にあるか否かの判定は、前後方向加速度をもとに行うことが可能である。勾配路にある場合は、S3へ進み、勾配路にない場合は、S7へ進む。
S3では、無段変速機2のシフトレンジとして、走行レンジ(ドライブまたはリバース等の走行可能レンジであり、パーキングまたはニュートラル等の停止レンジでないレンジ)が選択されているか否かを判定する。つまり、S2および3の処理を通じ、車両が勾配路を走行しているか否かを判定するのである。走行レンジが選択されている場合は、S4へ進み、走行レンジ以外のシフトレンジ(例えば、ニュートラルレンジ)が選択されている場合は、S7へ進む。
S4では、アクセル開度および車速が計測されている場合(つまり、アクセル開度および車速がいずれも0でない場合)に、エレメント231の脱落を生じさせる可能性があるエンドプレーEPが発生する領域として、車両の運転条件(具体的には、アクセル開度および車速)に関して予め設定されたエンドプレー発生領域にあるか否かを判定する。エンドプレー発生領域は、金属ベルト23に加わる力のつり合いに関する運動方程式を解き、対象とするエレメント231(具体的には、図2に示す範囲Aにあるエレメント)に対し、上記エンドプレーEPを生じさせるほどの力が隣り合うエレメント231同士の間を開く方向に加わるか否かを計算することで定めることが可能である。このように、エンドプレー発生領域は、プーリ21、22の半径のほか、金属ベルト23の弾性係数等、動力伝達系の仕様によっても変化するため、これらのパラメータに応じて適宜に設定されるのが好ましい。エンドプレー発生領域にある場合は、S5へ進み、ない場合は、S6へ進む。
S5では、脱落抑制制御として、エンジン1のトルクを通常制御による運転時よりも低減させる。本実施形態では、アクセル開度APOに拘らず、スロットルを閉じたままとし、アクセル開度APOに応じた制動力をブレーキ装置により生じさせる。
S6では、脱落抑制制御を行わず、通常制御を維持する。
このように、本実施形態によれば、アクセル開度および車速に基づき、勾配路の走行中、エンドプレーEPが集中する運転条件にあることを検知した場合に、脱落抑制制御を実行することで、エレメント231のリング232からの脱落を抑制することが可能である。そして、脱落抑制制御を実行し、例えば、エンジン1のトルクを低減させ、プライマリプーリ21に入力されるトルクを低減させることで、エンドプレーセンサ等、専用のセンサの追加を要することなく、エンドプレーの拡大を抑制し、エレメント231の脱落を抑制することができる。
このように、本実施形態では、車両100が勾配路にあることを検知したとき、つまり、エレメント231がリング232から脱落する可能性の高い運転状態を検知したときには、プライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22へ供給する油圧を高くする。これにより、エンドプレーの拡大を抑制し、エレメント231の脱落を抑制することができる。
なお、トルクの伝達がエレメント231とリング232の双方で行われるのは、プーリ比が1.0よりもLow側にあるときである。このため、プーリ比が1.0よりもLow側にあるときに、脱落抑制制御を実行するようにしてもよい。なお、プーリ比は、入力側回転速度センサ212及び出力側回転速度センサ213によって検出された回転速度から算出することができる。
以下、本実施形態により得られる効果について述べる。
第1に、エレメント231がリング232から脱落する可能性の高い運転状態を検知した場合に、脱落抑制制御を実行することで、エレメント231のリング232からの脱落を抑制することが可能となる(請求項1、2、8に対応する効果)。
ここで、脱落抑制制御として、通常制御による運転時よりもプライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22へ供給する油圧を高くすることで、比較的簡単な方法でエンドプレーの拡大を抑制し、エレメント231の脱落を抑制することができる(請求項3に対応する効果)。エンドプレーに拡大がなければ、例えエンドプレーが集中するような条件にあったとしてもエレメント231が脱落するほどの隙間は生じないからである。
特に、車両100が勾配路にあるときには、エレメント231がリング232から脱落する可能性が高い。このため、脱落抑制制御を実行することで、エレメント231のリング232からの脱落を抑制することが可能となる(請求項4に対応する効果)。
第2に、脱落抑制制御として、通常制御による運転時よりもプライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22へ供給する油圧を高くすることで、リング232の張力を増大させ、金属ベルト23により伝達させるトルクのうち、エレメント231に分担させるトルクを減少させ、エレメント231の潰れを抑制し、エンドプレーの拡大を抑制することができる。張力の増大により、リング232の伸びが促進されるものの、エンドプレーの拡大に対する影響がより顕著に現れるエレメントの潰れを抑制することで、エンドプレーの拡大を抑制することが可能である(請求項1、2、8に対応する効果)。
第3に、脱落抑制制御として、プライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22へ供給する油圧を高くすることに加え、電動ブレーキ装置30を作動させる。これにより、プライマリプーリ21に入力されるトルクを低減させることができるので、エレメント231の圧縮潰れ量をより小さくすることができる(請求項5に対応する効果)。
第4に、プーリ比が1.0よりもLow側にあるときに、脱落抑制制御を実行することで、精度良く脱落抑制制御を実行することができる(請求項7に対応する効果)。
次に、図7を参照しながら、脱落抑制制御の変形例について説明する。図7は、変形例に係る脱落抑制制御の基本的な流れをフローチャートにより示している。
S101では、車両100の運転状態を読み込む。本実施形態では、脱落抑制制御に関する運転状態として、操舵角Astrおよび車速VSPを読み込む。
S102では、操舵角Astrおよび車速VSPをもとに、車両100の横方向加速度ACClを算出する。横方向加速度ACClの計算は、操舵角Astrから車両100の旋回半径φtrnを算出し、旋回半径φtrnおよび車速VSPを、次式(1)に代入することによる。先に述べたように、無段変速機2の配置により、横方向加速度ACClは、金属ベルト23およびエレメント231に対して横方向に作用する加速度であり、エレメント231に対して同方向に作用する力の大きさを規定する。
VSP/φtrn=ACCl …(1)
S103では、横方向加速度ACClが所定値ACCthr以上であるか否かを判定する。横方向加速度ACClが所定値ACCthr以上である場合は、エレメント231がリング232から脱落する可能性の高い運転状態であると判定してS104へ進み、所定値ACCthr未満である場合は、エレメント231がリング232から脱落する可能性の低い運転状態であると判定してS105へ進む。
S104では、エレメント231に対し、エレメント231に対する横方向の力が加わる運転状態であるとして、脱落抑制制御を実行する(このような状況を、以下「エレメント231に対する横方向の力の作用がある」と略して表す場合がある)。具体的には、プライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22へ供給する油圧を通常制御による運転時よりも高くすることで、エレメント231の圧迫による潰れを抑制する。
S105では、脱落抑制制御を行わず、通常制御を維持する。
以下、本変形例により得られる効果について述べる。
第1に、金属ベルト23のエレメント231に対し、リング232に対する横方向の位置ずれを生じさせる力(エレメント231に対する横方向の力)の作用があることを検知した場合に、脱落抑制制御を実行することで、エレメント231のリング232からの脱落を抑制することが可能となる(請求項6に対応する効果)。
ここで、脱落抑制制御として、通常制御による運転時よりもプライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22へ供給する油圧を高くすることで、比較的簡単な方法でエンドプレーの拡大を抑制し、エレメント231の脱落を抑制することができる。エンドプレーに拡大がなければ、例えエンドプレーが集中するような条件にあったとしてもエレメント231が脱落するほどの隙間は生じないからである。
第2に、脱落抑制制御として、通常制御による運転時よりもプライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22へ供給する油圧を高くすることで、エレメント231の圧迫による潰れを抑制することを可能として、エンドプレーの拡大を効果的に抑制することができる。
第3に、脱落抑制制御に関する運転状態として、操舵角Astrおよび車速VSPを検出することで、車両100に既に備わるセンサを用いてエレメント231に対する横方向の力の作用があることを判定し、脱落抑制制御を実行することができる。
本実施形態では、操舵角Astrを検出し、これに基づく計算により、横方向加速度ACClを検出した。しかし、横方向加速度ACClの検出は、これに限定されるものではなく、加速度センサ216の出力値によることも可能である。これにより、横方向加速度ACClをより直接的に検出し、演算負荷の軽減を図ることができる。
さらに、本実施形態では、操舵角Astrから車両100の旋回半径φtrnを算出し、旋回半径φstrと車速VSPとから、横方向加速度ACClを算出したが、車両100の旋回半径φtrnに代えて道路の曲率半径を採用し、曲率半径と車速VSPとから、旋回半径φtrnによる場合と同様にして横方向加速度ACClを算出してもよい。これにより、エレメント231に対する横方向の力の作用があることを予測し、脱落抑制制御をより適切な時期に実行することが可能となる。例えば、車両100が大きな曲率半径の道路に進入する前に、プライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22へ供給する油圧を高くし、エンドプレーの拡大を予め抑制しておくことができる。道路の曲率半径は、道路地図情報に付随するナビゲーション情報として、カーナビゲーション装置221から取得することが可能である。
以上の説明では、横方向加速度ACClをもとに、エレメント231に対する横方向の力の作用があるか否かを判定した。しかし、この判定は、横方向加速度ACClによるばかりでなく、車体の横揺れの有無およびその大きさを判定することにより行うことも可能である。
図8は、この場合の例として、本実施形態に係る脱落抑制制御の変形例の流れをフローチャートにより示している。
S201では、脱落抑制制御に関する車両100の運転状態として、前輪または後輪に備わるサスペンション装置のストローク量STRr、STRlを読み込む。具体的には、右前輪および左前輪のサスペンションストローク量か、右後輪および左後輪のサスペンションストローク量か、を検出する。サスペンションストローク量STRr、STRlの検出は、サスペンションストロークセンサ218による。既に述べたように、前輪および後輪双方の左右サスペンションストローク量STRfr、STRfl、STRrr、STRrlを検出してもよい。
S202では、サスペンションストローク量STRr、STRlをもとに、横揺れ表示値Irllを算出する。横揺れ表示値Irllは、車体に生じている横方向の揺れの大きさを示す指標であり、これが大きいほど、横揺れが大きいことを示す。本実施形態では、右側のサスペンションストローク量STRrの単位時間当たりの変化量(以下「サスペンションストローク変化量」という)ΔSTRrと、左側のサスペンションストローク変化量ΔSTRlと、の差(=ΔSTRr-ΔSTRl)を算出し、このストローク変化量偏差Dstrを横揺れ表示値Irllに設定する。
S203では、横揺れ表示値Irllが所定値Ithr以上であるか否かを判定する。横揺れ表示値Irllが所定値Ithr以上である場合は、S204へ進み、所定値Ithr未満である場合は、S205へ進む。
S204では、横揺れが大きく、エレメント231に対し、リング232に対する横方向の位置ずれを生じさせる力の作用があるとして、脱落抑制制御を実行する。先に述べたのと同様に、プライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22へ供給する油圧を通常制御による運転時よりも高くすることで、エンドプレーの拡大を抑制する。
S205では、脱落抑制制御を行わず、通常制御を維持する。
このように、車体に生じている横揺れの大きさを判定し、横揺れが大きく、エレメント231に対して横方向の位置ずれを生じさせる力の作用がある場合に、脱落抑制制御(例えば、プライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22へ供給する油圧を高くすること)を実行することで、現在走行中の道路または路面の状態に起因した力の作用の有無を判定し、例えば、路面の凹凸により力の作用がある場合に、エレメント231のリング232からの脱落を抑制することが可能となる(請求項6に対応する効果)。
そして、横揺れの大きさを示す横揺れ表示値Irllの算出に、サスペンションストローク量STRr、STRlを採用したことで、車体に生じている横揺れをより確実に検出し、エレメント231の脱落を抑制することができる。
道路または路面の状態は、カメラセンサ219により撮影された画像または映像を解析することによっても判定することが可能である。これにより、横揺れを生じさせる道路または路面を実際に走行する前に、エレメント231に対する横方向の力の作用があることを予測し、脱落抑制制御をより適切な時期に実行することができる。
さらに、道路または路面の状態は、カメラセンサ219によるばかりでなく、カーナビゲーション装置221から得られるナビゲーション情報によっても判断することが可能である。例えば、車両100の進行方向に工事中の道路があったり、路面の凹凸または起伏が続く道路があったりする場合に、エレメント231に対する横方向の力の作用があることを予測するのである。
以上の説明では、エレメント231に対し、リング232に対する横方向の位置ずれを生じさせる力の作用があることを、横方向加速度ACClまたは横揺れ表示値Irllをもとに判定し、エレメント231に対してそのような力の作用がある場合に、脱落抑制制御を実行することとした。しかし、脱落抑制制御を実行するか否かの判定は、エレメント231に対する力の作用の有無を判定することに限らず、エレメント231に、リング232に対する横方向の位置ずれが生じているか否かを判定することによっても可能である。エレメント231にそのような位置ずれが現に生じている場合に、脱落抑制制御を実行するのである。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において、様々な変更および修正を成し得ることはいうまでもない。
以上の説明では、駆動源としてエンジン1を備えた構成を例に説明したが、駆動源は、電動モータ(例えば、モータジェネレータ)のみであってもよく、内燃エンジンと電動モータとの組合せであってもよい。