JP7162335B2 - 生理活性物質担持リン酸カルシウム膜のレーザー転写用材とこれを用いて生理活性物質担持リン酸カルシウム膜を転写形成する方法 - Google Patents

生理活性物質担持リン酸カルシウム膜のレーザー転写用材とこれを用いて生理活性物質担持リン酸カルシウム膜を転写形成する方法 Download PDF

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特許法第30条第2項適用 集会名:Photonics WEST2018 開催日:平成30年1月30日 刊行物名:LPM2018(第19回レーザー精密微細加工国際シンポジウム) 開催日:平成30年6月25日
本発明は、レーザーアブレーションを推進力とするレーザー転写による成膜の技術に関し、具体的には、レーザー転写の原料膜として、レーザーアブレーションを起こす犠牲層上に高い密着性で成膜された、緻密且つ生理活性物質(タンパク質、抗菌剤、フッ素など)を有する生理活性物質担持リン酸カルシウム膜を用い、犠牲層のレーザーアブレーションを推進力とするレーザー転写によって、所望のターゲット上に、当該リン酸カルシウム膜による生理活性パターンを形成する技術に関する。
ある種のリン酸カルシウム(アパタイト、リン酸八カルシウム、非晶質リン酸カルシウムなど)は、優れた生体親和性と骨結合能を有することが知られており、生体材料や遺伝子導入剤などとして、医療・バイオ分野で応用されている。例えば、歯科分野では、チタンインプラントにアパタイトコーティングを施した高機能インプラントが製品化されている。
近年、生体親和性を有するリン酸カルシウムに、生理活性を示すタンパク質、抗菌剤、生体微量元素などの物質(生理活性物質)を担持させることで、感染防止機能、創傷治癒効果などを具備する新たな高機能リン酸カルシウムの被膜を形成するコーティング手法の開発が期待されている。例えば、成人の多くが罹患する歯周病治療において、治療施術中に、歯周組織再生に有効な生理活性物質を担持させたリン酸カルシウム膜を、処置後の歯面に高速形成できれば、歯肉との接着(ぺリオドンタルアタッチメント)の再構築を促進することができ、その結果、術後の細菌感染リスクも低減できるため、患者の生活の質(QOL)向上に大きく貢献する。
従来のリン酸カルシウムコーティング法としては、プラズマ溶射法、スパッタリング法、パルスレーザー堆積(PLD)法(特許文献4)、粉体噴射法(特許文献5)などが挙げられ、これらは、高速成膜や緻密な膜形成に優れた手法である。しかしながら、これら、従来の高速成膜手法では、高温や真空プロセスを要するため、タンパク質などの熱的安定性に劣る生理活性物質を、その生理活性を保持したままリン酸カルシウム膜中に担持させることは困難である。
一方、体液を模したリン酸カルシウム過飽和溶液を反応場とするバイオミメティック法では、リン酸カルシウム膜中にタンパク質などの生理活性物質を失活させることなく担持させることができる。しかし、マイクロメートル厚の膜を得るためには、一般に長時間(0.5~24 時間程度)を要し、歯科施術中の適用は現実的でない(特許文献2、3)。
また、本発明者の奈良崎らが先に開発し、特許出願中の、パルスレーザー転写を利用する技術(特許文献1)は、一般に利用されている紫外・可視・近赤外(例えば、普及しているパルスレーザーの波長266, 355, 532, 1064nm)においてリン酸カルシウムの光吸収性が十分ではないため、そのままリン酸カルシウム膜のレーザー転写に適用させることはできない。
特願2017-127907号(本願出願日現在、未公開)、「パターン構造体形成用スタンパ及びその製造方法並びにパターン構造体の製造方法」、出願2017年6月29日、奈良崎愛子、佐藤正健、産業技術総合研究所 特許4604238号、「燐酸カルシウムと生理活性物質を含有する高分子複合体、その製造方法及びそれを用いた医療用材料」、登録2010年10月15日、大矢根綾子 他、産業技術総合研究所 特許5817956号、「液相レーザー法を利用したリン酸カルシウム成膜方法」、登録2015年10月9日、大矢根綾子 他、産業技術総合研究所 特許5214009号、「生体親和性透明シート、その製造方法、及び細胞シート」、登録2013年3月8日、本津茂樹 他、近畿大学、科学技術振興機構 特開2015-013095号、「粉体噴射用ハンドピース」、公開2015年1月30日、厨川常元 他、サンギ、東北大学
本発明は、従来技術の上述の問題点を解決し、リン酸カルシウム膜、特に生理活性物質担持リン酸カルシウム膜を、所望のターゲット上に、高温や真空プロセスを要することなく、かつ、短時間で形成させる技術を提供することを課題とする。
本発明者らは、使用するレーザー光に対し透明なサポート基材サポート基材の表面に、レーザー光吸収によるアブレーションを誘起可能な犠牲層を設けたのち、生理活性物質を含むリン酸カルシウム過飽和溶液を用いたバイオミメティック法により、当該犠牲層上に生理活性物質を含む緻密なリン酸カルシウム層を成膜することが可能であること、そして、このようにして成膜が施された基板の裏側から犠牲層をレーザーアブレーションする波長のレーザー光パターンを照射することにより、短時間で、当該レーザー光パターンが照射された犠牲層の上部のリン酸カルシウム層をターゲット上に転写でき、これによりターゲット上にリン酸カルシウム層のパターンを形成することができること、そして、転写されたリン酸カルシウム層に含まれる生理活性物質が生理活性を維持していることを見出した。
本発明は、本発明者らによる上記知見に基づいてなされたものである。
具体的には、犠牲層として、紫外・可視・近赤外波長域のいずれかに吸収を有し、レーザーアブレーションにより上部のリン酸カルシウム膜を転写するに足る推進力を提供できる高い光学密度を有する、カーボン膜などを用いる。サポート基材上に設けたこの犠牲層の表面に、活性を保持した状態で生理活性物質を含有するリン酸カルシウム原料膜を成膜するため、バイオミメティック法(過飽和溶液法)などの溶液法を用いたリン酸カルシウム成膜を実施する。この際、犠牲層上に高密着で緻密なリン酸カルシウム原料膜を形成するため、犠牲層表面を酸素プラズマなどで予め親水化しておくと良い。さらに、得られた原料膜中の生理活性物質の活性低下を抑制する必要がある場合は、凍結乾燥処理も併せて実施する。
以上のプロセスで得られた生理活性物質担持リン酸カルシウム原料膜を有するサポート基材の裏面から、犠牲層の吸収する波長のレーザーを所望のパターンで照射することで犠牲層のレーザーアブレーションを誘起し、犠牲層上部のリン酸カルシウム原料膜をターゲット部位(歯の治療部位など)にレーザー転写させることにより、ターゲット部位に所望のパターンの生理活性物質担持リン酸カルシウム膜を転写堆積させる。
これにより、高温や真空プロセスを要することなく、かつ、短時間で、ターゲット部位に、生理活性物質の生理活性が維持されたリン酸カルシウムのパターン化された被膜を設けることができる。
また、上記レーザーアブレーションによって、生理活性物質を含有しないリン酸カルシウム膜を転写堆積させることもできる。この場合、上記プロセス中、犠牲層上のリン酸カルシウム原料膜の成膜は、上記溶液法に限らず、公知の任意の方法で行うことができる。また、生理活性物質が、生体微量元素などの熱影響を受けにくい物質である場合も、上記溶液法に限らず、公知の任意の方法で生理活性物質含有リン酸カルシウム膜を成膜できる。
この方法によれば、高温や真空プロセスを要することなく、かつ、短時間で、ターゲット部位に、リン酸カルシウムのパターン化された被膜を設けることができる。
すなわち、本出願は、以下の発明を提供するものである。
〈1〉レーザー転写に利用するレーザー波長に対し透明なサポート基材上に、レーザー光吸収によるアブレーションを誘起可能な犠牲層を有し、さらにその犠牲層の表面に、リン酸カルシウム原料膜を有する、リン酸カルシウム膜のレーザー転写用材。
〈2〉レーザー転写に利用するレーザー波長に対し透明なサポート基材上に、レーザー光吸収によるアブレーションを誘起可能な犠牲層を有し、さらにその犠牲層の表面に、生理活性物質担持リン酸カルシウム原料膜を有する、生理活性物質担持リン酸カルシウム膜のレーザー転写用材。
〈3〉レーザー転写に利用するレーザー波長に対し透明なサポート基材上に、レーザー光吸収によるアブレーションを誘起可能な犠牲層を形成し、
当該犠牲層の表面にリン酸カルシウム原料膜を成膜することを特徴とする、〈1〉に記載のリン酸カルシウム膜のレーザー転写用材の製造方法。
〈4〉レーザー転写に利用するレーザー波長に対し透明なサポート基材上に、レーザー光吸収によるアブレーションを誘起可能な犠牲層を形成し、
当該犠牲層の表面に、生理活性物質担持リン酸カルシウム原料膜を成膜することを特徴とする、〈2〉に記載の生理活性物質担持リン酸カルシウム膜のレーザー転写用材の製造方法。
〈5〉犠牲層の表面を親水化処理し、その後、その表面に、溶液法により、生理活性物質担持リン酸カルシウム原料膜を成膜することを特徴とする、〈4〉に記載の方法。
〈6〉〈1〉に記載のレーザー転写用材の透明なサポート基材側から、パターン化された、又は、されていないレーザー光を照射し、犠牲層をレーザーアブレーションすることにより、当該レーザー光が照射された犠牲層の表面に成膜されたリン酸カルシウム原料膜をレーザー転写することによって、ターゲット部位に、パターン化された、又は、されていない、リン酸カルシウム膜を形成する方法。
〈7〉〈2〉に記載のレーザー転写用材の透明なサポート基材側から、パターン化された、又は、されていないレーザー光を照射し、犠牲層をレーザーアブレーションすることにより、当該レーザー光が照射された犠牲層の表面に成膜された活性物質担持リン酸カルシウム原料膜をレーザー転写することによって、ターゲット部位に、パターン化された、又は、されていない、活性物質担持リン酸カルシウム膜を形成する方法。
〈8〉パターン化された生理活性物質担持リン酸カルシウム被膜を有する物品。
本発明によれば、レーザー転写に利用するレーザー波長に対し透明なサポート基材上に、レーザー光吸収によるアブレーションを誘起可能な犠牲層を有し、さらにその犠牲層の表面に、生理活性物質を担持し、あるいは担持していないリン酸カルシウム原料膜を有する、リン酸カルシウム膜のレーザー転写用材を提供することができる。
本発明によれば、当該転写用材の製造にあたり、生理活性物質担持リン酸カルシウム原料膜を犠牲層表面に成膜する際に、溶液法を用いることにより、生理活性物質を失活させることなくリン酸カルシウム原料膜中に担持させることができる。
本発明によれば、当該転写用材を用い、パターン化された、又は、されていないレーザー光を用いてレーザー転写することにより、高温や真空プロセスを要することなく、かつ、短時間で、ターゲット上に、パターン化された、又は、されていない当該リン酸カルシウム膜を設けることができ、また、この転写によりターゲット上に形成されたリン酸カルシウム膜において、生理活性物質の活性を維持することができる。
本発明の生理活性物質担持リン酸カルシウム膜のレーザー転写用材の代表的構造の例示である。 本発明のレーザー転写による微細パターンの転写工程のイメージ図である。 実施例1により調製されたカーボン膜(犠牲層)/ポリエチレンテレフタレート(PET)板(透明サポート基材 厚さ1mm)とPET板の光透過スペクトルの図である。 実施例1により調製されたフィブロネクチン(Fn)担持アパタイト原料膜からポリジメチルシロキサン(PDMS)基板上に転写形成した生理活性物質担持アパタイトパターンのレーザー共焦点顕微鏡写真の図である。 Fn担持アパタイト膜の微細パターンとCHO-K1細胞播種後3,6,24時間で得られたCHO-K1細胞の様子の光学顕微鏡写真である。 Fn担持アパタイト膜の微細パターンとCHO-K1細胞播種後24時間で得られたCHO-K1細胞の様子(クリスタルバイオレット染色後)の光学顕微鏡写真である。 Fn無添加アパタイト膜の微細パターンとCHO-K1細胞播種後24時間で得られたCHO-K1細胞の様子(クリスタルバイオレット染色後)の光学顕微鏡写真である。
<本発明のレーザー転写用材の代表的構造〉
図1に、本発明による生理活性物質担持リン酸カルシウム膜のレーザー転写用材の代表的な構造をいくつか図示する。
図1(a)に示す例は、転写に利用するレーザー光源波長に透明なサポート基材101の表面に、同レーザー光に吸収を有しレーザーパルス照射により大部分以上が蒸発する物質からなる犠牲層102を積層、さらに102の表面に生理活性物質担持リン酸カルシウム膜103を成膜した構造を有する。この犠牲層102の、レーザーパルス照射による瞬間的な蒸発(以下、簡単にレーザーアブレーション)による推進力により、犠牲層102上に積層されたリン酸カルシウム膜103は後述するレシーバー基材表面にパターン積層される。
一方、図1(b)は、犠牲層102の表面プラズマ処理などより親水化処理した親水性表面層104を有し、その上にリン酸カルシウム膜103を設けた構造を有する。
図1(c)では、図1(a)と同様のサポート101、犠牲層102を有し、その上に生理活性物質担持リン酸カルシウム膜のパターン構造105を積層した構造をもつ。
最後に、図1(d)では、図1(b)と同様のサポート101、犠牲層102、親水性表面層104を有し、その上に生理活性物質担持リン酸カルシウム膜のパターン構造105を積層した構造となる。
<本発明のレーザー転写による微細パターンの転写工程>
図2に、上述の本発明のレーザー転写用材を用いて、レシーバー基材表面に微細パターン構造体をレーザー転写する工程のイメージ図を示す。本イメージ図では、図1(b)に示す構造を有する転写用材を用いた例を示すが、もちろんこれに限定されるものではない。
まず、図2(a)の工程では、透明サポート基材101上の生理活性物質担持原料膜103を、パターンを形成したい任意のレシーバー基材106と対向配置する。
この時、図2(b)に示すように、原料膜103とレシーバー基材106の表面は接触させて、ギャップをゼロにしてもよい。ギャップがない図2(b)の方が、後のレーザーアブレーションを推進力とする原料膜の転写がより低いレーザーエネルギーで実現できるため、好ましい。その際は、透明サポート基材101あるいはレシーバー基材の少なくともどちらかの材質は、前記材料の中でも、高い密着性と弾力性を有するPDMSなどが好適である。透明サポート基材とレシーバー基材のどちらかが高い密着性や弾力性を有する場合、透明サポート基材上のリン酸カルシウム膜とレシーバー基材の密着性が増し隙間を低減できる結果、より均質なパターンの転写堆積が可能となる。
また、犠牲層のレーザーアブレーションによる推進力をもって、原料膜からレシーバー基材へ、微細パターン構造体を転写堆積する際、被転写先への固着力を生むようにある程度の衝撃力をもって堆積させるため、転写元あるいは被転写先に弾力性がないと転写構造が破砕してしまう可能性が高い。よって、透明サポート基材あるいはレシーバー基材の少なくとも何れかが高い密着性と弾力性を備えることは、高品質パターン形成のための重要な因子である。
次に、図2(c)中に示すように、透明サポート基材101側から、レーザーパルス107をシングルショット照射する。前記レーザーパルスは、光吸収層である原料膜102と透明サポート基材101との界面近傍部分108でレーザーアブレーションを誘起し、アブレーションによる固体から気体・プラズマへの相変化に伴う急激な体積変化を推進力として、原料膜103の内108の上部に該当する部分のみを選択的に、対向するレシーバー基材に押し出す。
図2(d)において、透明サポート基材101とレシーバー基材106を剥がした結果、レシーバー基材106上には 前記レーザーパルス照射により形成した生理活性物質担持原料膜からなる凸部パターン109がある。凸部が有する面内の微細パターンは、図2(c)のレーザーパルスが有する光強度パターンに対応して形成される。また、もし原料膜として元々パターンを有する図1(c)や(d)を用いた場合は、このパターンも反映された微細パターンとなる。
<リン酸カルシウム>
本発明における原料膜の主成分として用いるリン酸カルシウムとしては、水酸アパタイト、非晶質リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、α型リン酸三カルシウム、β型リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウムや、これらの構成イオンの一部または全部が他のイオンで置換されたもの、これらの中間相、これらの混合物などを挙げることができる。中でも、生体内での安定性の観点から、水酸アパタイト(構成イオンの一部または全部が他のイオンで置換されたものを含む)が特に好ましい。また、リン酸カルシウム原料膜にはさらに、生理活性物質や、生理的に不活性な物質が、膜機能の向上や高品位転写を支援する目的で、担持されていても良い。
<生理活性物質>
本発明において、リン酸カルシウム膜に担持させる生理活性物質としては、タンパク質、抗菌剤、生体微量元素などが挙げられる。
生理活性物質が、細胞接着性を有するフィブロネクチン(Fn)や、線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2)や亜鉛、ケイ素など、周囲の細胞に作用し、骨組織や歯根膜の再生、さらには血管新生を促進するような物質であれば、リン酸カルシウム膜への担持により、膜機能の向上が期待できる。
また、亜鉛やフッ素、テトラサイクリン、ラクトフェリンなど、抗菌剤も担持させることが可能である。
タンパク質などの有機系の生理活性物質については、熱などによる変性と機能低下が起こりやすいため、リン酸カルシウム膜への担持は、バイオミメティック法(過飽和溶液法)などの非熱的な(常温~体温程度の)常圧プロセスでの成膜法において、成膜用の溶液に添加することにより行うことがより好ましい。
<サポート基材>
本発明に用いるサポート基材としては、レーザー転写に利用するレーザー波長のレーザー光に対し透明な基材を用いることができる。このような基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリウレタン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、アガロースゲル、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、サファイヤなどの高分子材料やゲル、無機材料など幅広い材料を、レーザー転写に利用するレーザー波長に応じて、適宜利用することができる。
サポート基材の形状としては、レーザー転写にあたって、リン酸カルシウム膜を保持できる強度を有し、当該サポート基材を透過して犠牲層にレーザーが十分に照射される必要があることから、例えば、厚み10μmから数mm程度、中でも100μmから1mm程度の板状のものが用いられる。
<犠牲層>
本発明における犠牲層は、使用するレーザー波長で光吸収を有する材料であればよく、例えば、紫外から可視、近赤外と広範囲な波長域で光吸収を有するカーボンや墨をはじめ、銀などの金属材料、歯科用の着色ペーストなどの有機材料など、特定のレーザー波長域でも高効率な吸収を有する材料であれば候補となる。
選択の際は、その上に直接あるいはプラズマ処理などの表面親水化工程を経てリン酸カルシウムの成膜が可能であることと、成膜したリン酸カルシウム膜の転写を起こすに足るレーザーアブレーションを誘起できることが必要である。さらには、より低いレーザーエネルギーでアブレーションを起こす材料の方が、アブレーション以外の主なエネルギー散逸過程であるレーザー照射周辺部位への熱伝導による高温分布形成が起こりにくく、生理活性物質担持リン酸カルシウムへの熱影響が抑制されるため、より好ましい。
<犠牲層の作成方法>
上記犠牲層は、蒸着法、スパッタリング法、パルスレーザー堆積法などの気相法や、塗布法などの液相法などにより、サポート基材上に設けることができる。
<リン酸カルシウム膜の形成方法>
犠牲層の表面にリン酸カルシウム原料膜を形成する手法としては、公知の手法をいずれも使用できる。ただし、熱的安定性に劣る生理活性物質をリン酸カルシウム原料膜中に担持させる場合には、バイオミメティック法(過飽和溶液法)などの、非熱的な液相プロセスが特に適している。
過飽和溶液法は、リン酸カルシウムに対して過飽和な水溶液中に基板を浸漬することで、同基板の表面にリン酸カルシウムを成膜する手法である。リン酸カルシウム過飽和溶液としては、擬似体液や、1.5~5倍濃度の擬似体液、医療用輸液混合過飽和溶液など、公知の溶液をいずれも用いることができる。
過飽和溶液法において、基板の形状や素材は限定されず、高分子、セラミックス、金属、これらの複合体など、いずれの材料も使用することができる。ただし、密着性の良好なリン酸カルシウム層を得るためには、基板の表面が親水性である必要がある。したがって、親水性に劣る犠牲層を設けた基板に対しては、予め親水化処理を施しておくと良い。
準安定なリン酸カルシウム過飽和溶液(調製後一定期間、均一核形成を誘起せずに無色透明なままの溶液、例えば擬似体液)を用いる場合には、犠牲層表面でのリン酸カルシウム層の形成・成長を促すために、親水化処理に加えて、リン酸カルシウムのプレコーティング処理を施すと良い。
例えば、犠牲層を設けた透明基板に酸素プラズマ処理を施した後、カルシウムイオンを含む溶液と洗浄液、およびリン酸イオンを含む溶液と洗浄液に、それぞれ交互に3回程度ずつ浸漬することで、リン酸カルシウムをプレコーティングすることができる。
リン酸カルシウムをプレコーティングした後、同基板をリン酸カルシウム過飽和溶液中に数時間~24時間程度浸漬することで、マイクロメートル厚の緻密なリン酸カルシウム原料膜を形成することができる。過飽和溶液への浸漬時間をさらに延長すると膜厚を増やすことができるが、膜密着性が低下する。
リン酸カルシウムの組成や結晶構造は、成膜条件により制御することができる。例えば、準安定リン酸カルシウム過飽和溶液よりも過飽和度の高い、不安定リン酸カルシウム過飽和溶液(調製後数時間以内に均一核形成を誘起する溶液)を用いたり、結晶化阻害剤(マグネシウムイオンなど)を過飽和溶液中に添加することで、非晶質リン酸カルシウムを容易に成膜できる。水酸アパタイトは、準安定過飽和溶液中でも、不安定過飽和溶液中でも、pH中性の条件下で一定の時間エージングすることで成膜できる。例えば、前記リン酸カルシウムをプレコーティングした基板を擬似体液中に数時間以上浸漬すると、水酸アパタイトを主成分とするリン酸カルシウムを成膜することができる。
なお、リン酸カルシウム層に、熱的に不安定な生理活性物質を担持させない場合は、上記過飽和溶液を用いる方法に替えて、任意の方法で犠牲層表面にリン酸カルシウム膜を形成することができる。
<リン酸カルシウム膜への生理活性物質の担持方法>
上述のリン酸カルシウム過飽和溶液中に、生理活性物質を適切な濃度で添加しておくことで、当該生理活性物質を担持したリン酸カルシウム原料膜を得ることができる。
過飽和溶液中に添加する生理活性物質としては、リン酸カルシウムと相互作用(有機分子においては吸着、元素においてはリン酸カルシウムを構成するイオンとの置換)する水溶性物質であれば良い。そのような有機分子としては、タンパク質、抗体、DNA、RNA、多糖類、ある種の薬剤(テトラサイクリンなど)などが、元素としては、亜鉛、マグネシウム、フッ素、ケイ素、ストロンチウムなど挙げられるが、これらに限定されない。
生理活性物質として、タンパク質などの有機分子をリン酸カルシウム膜中に担持させると、膜の密着性と弾力性を向上させることができ、非破砕転写(高品質パターン形成)に有効である。
<犠牲層表面の親水化処理>
犠牲層の表面親水化工程としては、公知の手法が何れも適用できる。例えば、プラズマ処理、グロー放電処理、コロナ放電処理、紫外線処理、アルカリ溶液処理、酸溶液処理、酸化剤処理などが有効である。
リン酸カルシウム成膜に適した表面親水化処理条件は、犠牲層の種類により異なる。犠牲層表面に対する水滴の静的接触角が好ましくは30度以下、さらに好ましくは10度以下となるように、親水化処理を行えばよい。この表面親水化処理により、犠牲層の表面にリン酸カルシウムが成膜されやすくなり、また、リン酸カルシウム膜の犠牲層に対する密着性を向上することができる。
表面親水化工程の処理条件が犠牲層の素材に対して強すぎると、犠牲層がエッチング等で消失してしまう。転写に必要な犠牲層が残存する範囲内で表面を親水化できるよう、処理条件(処理温度、処理時間、気相法においてはエネルギー密度、液相法においては試薬濃度など)を調節する必要がある。
例えば、犠牲層として厚さ約50nmの蒸着カーボン膜を用いた場合には、酸素ガス雰囲気(30Pa)中、0.05~0.15W/cm2のエネルギー密度でプラズマ処理(13.56MHz)を30秒間行うことで、転写に有効なカーボン膜を保持したまま、水滴の静的接触角が10度以下の親水性表面を形成することができた。0.2W/cm2以上のプラズマ処理条件では、カーボン膜が消失してしまった。また、0.05W/cm2のプラズマ処理条件では、カーボン膜を保持したまま表面にリン酸カルシウムを成膜できたものの、0.1W/cm2のプラズマ処理条件で得たアパタイト膜に比べて、膜密着性に劣っていた(基板から剥離しやすい)。以上の結果から、後述の実施例においては、犠牲層として蒸着カーボン膜を設けた基板に対して、酸素ガス雰囲気(30Pa)中、0.1W/cm2、30秒間のプラズマ処理条件を採用した。
<レーザー光>
本発明に用いるレーザー光は、リン酸カルシウム膜のレーザー転写の推進力となる、犠牲層のレーザーアブレーションを誘起するため、犠牲層が光吸収を有するレーザー波長のレーザー光であればよい。
例えば、ArF(波長:193nm)、KrF(248nm)、XeCl(308nm)、XeF(351nm)エキシマレーザー、YAGレーザー、YLFレーザー、YVOレーザー、色素レーザー等の基本発振波長光、およびその基本発振波長光を非線形光学素子などにより変換したものを用いることができる。このようなレーザーとして、産業用レーザーとして広く普及しているNd:YAGレーザーの基本波である1064nmならびにその高調波である532, 355, 266nmが挙げられる。本発明で好ましく使用される波長としては、歯科用レーザーとして一般に利用されているNd:YAGレーザー(波長1064nm)、半導体レーザー(波長810~980nm)、Er, Cr:YSGGレーザー(波長2780nm)、Er:YAGレーザー(波長2940nm)、炭酸ガスCO2レーザー(波長10600nm)が挙げられる。
本発明に用いるレーザー光は、前記推進力となる犠牲層のレーザーアブレーションを瞬間的に誘起しつつ、照射箇所に過剰な熱的ダメージを与えないように、照射時間を制御して照射する必要がある。
そのため、パルスレーザーである方が好ましく、さらに犠牲層の同じ照射箇所に単一レーザーパルスでレーザーアブレーションを誘起できる方が好ましい。レーザーパルスのパルス幅は10フェムト秒から100ミリ秒の範囲ならばよい。ただし、パルスレーザーの場合においても、犠牲層のレーザーアブレーションを起こした後にもレーザーパルス幅に応じた時間範囲でのレーザー照射が続くと、照射箇所周辺へ不要な熱ダメージを誘起することがあるため、10フェムト秒から1ミリ秒程度が好適である。
レーザーエネルギーは、犠牲層の少なくとも一部のレーザーアブレーション(蒸発)を起こし、かつそのアブレーションで得られる推進力が、犠牲層照射箇所上のリン酸カルシウム膜を対向するターゲットである、レシーバー基材に移すことが可能な、レーザーエネルギー以上ならばよい。
例えば、犠牲層として蒸着カーボン膜を用い、酸素ガス雰囲気(30Pa)中、0.1W/cm2、30秒間のプラズマ処理後、その表面にFn担持リン酸カルシウム膜を成膜したレーザー転写用材に対して、レーザーパルスとして波長1064nmのNd:YAGレーザー光(パルス半値幅は約40ナノ秒、ガウシアンビーム)を、厚さ1mmのPET製のサポート基材側から、レーザーフルエンス約2-3.5J/cm2でシングルショット照射することで、カーボン膜上の親水性活性層上に成膜したリン酸カルシウム膜を対向配置したポリジメチルシロキサン(PDMS)基材上に、照射した円形ビーム形状と同様の円形パターンで転写堆積することができた。一方、レーザーフルエンス1J/cm2ではリン酸カルシウム膜の転写は見られなかった。以上の結果から、後述する実施例においては、前記転写用材に対して、1J/cm2を超えるレーザーフルエンスのレーザーエネルギー条件を採用した。
一方、前記推進力が過剰になると、リン酸カルシウム膜がレシーバー基材上に堆積される際の衝撃力の影響で破砕が顕著となるため、パターンの維持が困難となる。以上より、本発明においては、利用するレーザー波長と犠牲層の光吸収係数に依存した最適なレーザーエネルギー範囲が存在する。
<レシーバー基材>
本発明のレーザー転写により、リン酸カルシウム膜が転写・堆積されるターゲット(レシーバー)としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリウレタン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイミド、ポリエチレンナフタレートなどの高分子材料や、チタン、金、銀、銅、各種合金などの金属、焼結アパタイト、ジルコニア、アルミナ、石英ガラス、ホウケイ酸ガラスなどのセラミックスやガラス、サファイヤなど無機結晶、有機無機複合材料など幅広い材料などが使用可能である。例えば、リン酸カルシウム膜がレシーバー基材上に堆積される際の衝撃力を高効率に吸収できる、PDMSのようなエラストマー材料は好ましい。また、医療応用の観点からは、生体材料として利用されるチタン、チタン合金、ニオブ、タンタル、コバルトクロム合金、ステンレス、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリウレタン、天然ゴム、PET、PEEK、PDMS、ポリ四フッ化エチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスルフォン、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸-グリコール酸共重合体、ポリエチレングリコール、キチン、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、セルロース、水酸アパタイト、β型リン酸三カルシウム、α型リン酸三カルシウム、アルミナ、ジルコニアなどの材料が候補に挙げられる。さらに、上記の人工材料だけでなく、天然歯・骨などの生体硬組織のほか、皮膚、歯肉、筋肉、健、靭帯、角膜、血管、脂肪、神経などの生体軟組織や臓器にも、リン酸カルシウム膜を転写・堆積することができる。
<生理活性パターンの作製>
生理活性パターンを転写形成する手法としては、ガルバノミラー等を用いてレーザーパルスを原料膜面上に自在に走査することで、シングルショットでは1集光点であるものの、複数ショットを走査することによって、パターン形成が可能である。
また、レーザーパルス自体に光強度パターンを形成する手法としては、空間光変調器やデジタルミラーデバイスを用いると、簡単にパターン変調可能であり、自在に光強度パターンを有するレーザーパルスを形成できる。
また、レーザーパルス自体に光強度パターンを形成する他の手法として、マスク縮小露光法が挙げられる。マスク縮小露光法では、トップハットビームのような平坦な光強度をもつ比較的大面積のレーザービームをマスクでパターン化した後、試料面で所望のサイズのパターンになるよう結像露光する。この手法では、マスク作製は必要となるが、試料表面の比較的大面積に均一性の高い微細パターンをシングルショットで形成することができる。
以上の手法を用いて、レーザー転写によるパターン形成が可能である。
以下、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、以下に述べる実施例に限定されるものではない。
実施例1
<透明サポート基材表面への犠牲層の作製>
サイズ10×10×1mm3のPET基板を用意し、基板表面をエタノールで洗浄後、乾燥した。レーザー転写用光源として使用するNd:YAGパルスレーザー(波長1064nm, パルス幅40ns, 繰り返し10kHz)のレーザー波長において大きな光吸収を有しないことを、紫外可視近赤外分光光度計を用いた光透過率測定により確認した。図3中にPET基板の光透過スペクトルを実線で示す。レーザー波長1064nmにおける透過率は90%以上であり、反射以外の吸収による大きな損失は見られなかったことから、本実施例の透明サポート基材101として以下利用した。
次に、PET基板裏面を続く犠牲層ならびにリン酸カルシウム成膜工程において保護し元の透明な基板表面を維持するため、基板裏面に保護用シートを付けた。この状態で、カーボンコーターVC-100S(真空デバイス)を用いて、真空蒸着法によりカーボン膜を犠牲層102として成膜した。犠牲層の膜厚は膜厚計の計測より約50nmであった。このカーボン膜を積層したPET基板の光透過スペクトルを、図3の点線データに示す。レーザー波長1064nmにおける透過率は約70%であった。
<犠牲層表面のプラズマ処理と滅菌>
カーボン蒸着膜付きPET基板の表面に、親水化のための酸素プラズマ処理(30Pa、13.56MHz、0.1W/cm2、30秒間)をコンパクトエッチャーFA-1(サムコ株式会社製)を用いて施した。このプラズマ処理により、親水性表面層104を102上部に形成した。
細胞による生理活性評価まで行う基板については、プラズマ処理後、エチレンオキサイド(EOG)ガス滅菌を施し、以後の工程を全て無菌的に実施した。
<フィブロネクチン担持リン酸カルシウム成膜工程>
既報(J Biomed Mater Res 92A: 1038-1047, 2010)を参考に、以下の手順で、カーボン蒸着膜付きPET基板のカーボン蒸着膜側表面(以後、表面)に、生理活性物質としてフィブロネクチン(Fn)を担持させたリン酸カルシウム膜103を成膜した。Fnは、細胞接着性タンパク質の1種であり、細胞の接着・伸展を促進する機能を有する。
交互浸漬処理(リン酸カルシウムプレコーティング)
基板に交互浸漬処理を施し、表面にリン酸カルシウムをプレコーティングした。Fn原料としては、ウシ血漿由来Fnの1mg/mL溶液(シグマアルドリッチ製)を用いた。交互浸漬処理には、次の1と2の2種類のFn(+)添加溶液と超純水を用いた。
1 Fn(+)カルシウム溶液:Fn(40μL/mL)添加200mM CaCl2水溶液
2 Fn(+)リン酸溶液:Fn(40μL/mL)添加200mM K2HPO4・3H2O水溶液
3 超純水
まず、各溶液3mLを24ウェルプレートに分注した。基材を1のFn(+)カルシウム溶液に10秒間浸漬した後、超純水に浸漬し、風乾した。次いで、同基材を2のFn(+)リン酸溶液に10秒間浸漬した後、超純水に浸漬し、風乾した。以上の操作を計3回繰り返した。
過飽和溶液への浸漬(リン酸カルシウム膜成長)
リン酸カルシウム過飽和溶液(NaCl 142mM、K2HPO4・3H2O 1.5mM、HCl 40mM、CaCl2 3.75mM、トリスヒドロキシメチルアミノメタン50mM、pH=7.40, 25℃)を調製、Fn(40μL/mL)を添加することで、Fn(+)リン酸カルシウム過飽和溶液を準備した。
Fn(+)リン酸カルシウム過飽和溶液3mLを24ウェルプレートに分注し、同溶液中に交互浸漬処理後の基材を25℃で5時間浸漬した。この際、基材の表面を上にしてウェル内に設置した。5時間浸漬後、基材を過飽和溶液から取り出し、15mLの超純水で3回洗浄した。その後、基材を凍結乾燥した。以上の工程により、基材表面にFn担持リン酸カルシウム膜(図1の103に相当)を成膜した。なお、この成膜法によれば、具体的には、リン酸カルシウム膜として、低結晶性の水酸アパタイトを主成分とする膜が形成される。
〈レーザー転写によるパターン形成〉
次に、このようにしてFn担持リン酸カルシウム膜を成膜したレーザー転写用材と、レシーバー基材106としてPDMS(厚さ約1mm)を用いて、Fn担持リン酸カルシウム膜のレシーバー基材へのレーザー転写を行った。
レーザー転写用材とレシーバー基材を図2(b)に示すように接触させた状態で対向配置し、レーザーパルス107は、波長1064nmのNd:YAGレーザー光、パルス半値幅は約40ナノ秒とした。このレーザー光はガウシアンビーム形状を有し、透明サポート基材側から、ガルバノミラー/f-θレンズを用い、ビームスポット径 約150μMで集光走査した。照射レーザーフルエンスは、約3.5J/cm2とした。
上記レーザー転写工程により得られたFn担持リン酸カルシウム膜の凸部パターンを表面に有するPDMSレシーバー基材106の表面をレーザー共焦点顕微鏡によって観察した結果を、図4に示す。PDMS上に、照射したレーザー光強度パターンに対応して、Fn担持リン酸カルシウム膜パターン(図中の、3列の連なった円形の部分)が形成されている。
実施例2
実施例1で転写形成したFn担持リン酸カルシウムパターンについて、以下の手法により生理活性評価を実施した。
<生理活性評価>
レシーバー基材に転写されたFn担持リン酸カルシウム膜の生理活性を、細胞接着試験により評価した。細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣由来の上皮細胞様CHO-K1細胞(理研バイオリソースセンター)を、培養液としてはウシ胎児血清(FBS、Thermofisher Scientific)を10%添加した培養液(RPMI1640、Thermofisher Scientific)を用いた。炭酸インキュベーターを用い、通常の条件下(温度37℃、CO2濃度5%、湿度95%以上)で細胞培養を行った。
まず、各基板をホルダーから取り出し、基板の表面(Fn担持リン酸カルシウム膜)が上になるよう24ウェルプレートのウェル内に設置した。この際、基板の裏面に両面テープを貼付してウェルに固定した。基材表面に細胞(5×104cell/0.5mL/ウェル)を播種した。3、6、24時間培養後、基板表面の細胞(培養液中)の形態を光学顕微鏡(IX71、オリンパス製)で観察した。
24時間培養後の基板については、さらに細胞の染色を行った。まず、ウェルから培養液を除き、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で基板を洗浄した後、4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液で細胞を固定した。再度PBSで基板を洗浄した後、0.01%クリスタルバイオレットをウェルに添加し、5分間細胞染色を行った。再度PBSで基板を洗浄した後、基板表面の細胞(PBS中)の形態を光学顕微鏡(IX71、オリンパス製)で観察した。
図5に、Fn担持リン酸カルシウムパターン上で3、6、及び24時間培養後のCHO-K1細胞(培養液中)の光学顕微鏡像を示す。3時間後では、ほとんどの細胞が丸みを帯びた形状を示していた。一方、培養時間が6時間、24時間と経過するとともに、転写したFn担持リン酸カルシウムパターン上に細胞が集積していき、細胞が伸展していく様子が確認された。
この結果は、PDMS基板に比べ、Fn担持リン酸カルシウムの細胞親和性が優れていることを示している。すなわち、本発明のレーザー転写により、細胞親和性に優れたリン酸カルシウムパターンを形成することができた。
図6に、本発明によりPDMS基板上に転写・形成したFn担持リン酸カルシウム膜の微細パターンと同パターン上で24時間培養後のCHO-K1細胞の光学顕微鏡像(クリスタルバイオレット染色後)を示す。CHO-K1細胞(図中の黒い点)が、PDMS基板表面に比べFn担持リン酸カルシウム膜上に、より高密度に観察され、CHO-K1細胞の多くが伸展していた。次の実施例3の結果を考慮すると、リン酸カルシウム膜に担持されたFnの細胞接着活性が、レーザー転写後にも維持されていることが確認できる。さらに、細胞の多くがパターン形成したリン酸カルシウムの端部に存在し、かつ伸展する様子がみられており、パターンにより細胞の局在や形態を制御できることも確認されている。
実施例3
<Fn無添加リン酸カルシウム成膜工程>
実施例1におけるリン酸カルシウム成膜工程と同様の工程により、カーボン蒸着膜付きPET基板のカーボン蒸着膜側表面に、Fnを添加しないリン酸カルシウム原料膜を以下のように成膜した。
交互浸漬処理(リン酸カルシウムプレコーティング)
基板に交互浸漬処理を施し、表面にリン酸カルシウムをプレコーティングした。この際、Fnを添加しない条件で交互浸漬処理を施した。交互浸漬処理に用いた溶液は以下の通りである。
1 Fn(-)カルシウム溶液:200mM CaCl2水溶液
2 Fn(-)リン酸溶液:200mM K2HPO4・3H2O水溶液
3 超純水
まず、各溶液3mLを24ウェルプレートに分注した。基材をFn(-)カルシウム溶液に10秒間浸漬した後、超純水に浸漬し、風乾した。次いで、同基材をFn(-)リン酸溶液に10秒間浸漬した後、超純水に浸漬し、風乾した。以上の操作を計3回繰り返した。
過飽和溶液への浸漬(リン酸カルシウム膜成長)
リン酸カルシウム過飽和溶液(NaCl 142mM、K2HPO4・3H2O 1.5mM、HCl 40mM、CaCl2 3.75mM、トリスヒドロキシメチルアミノメタン50mM、pH=7.40, 25℃)を調製した[以後、Fn(-)リン酸カルシウム過飽和溶液]。Fn(-)リン酸カルシウム過飽和溶液3mLを24ウェルプレートに分注し、同溶液中に交互浸漬処理後の基材を25℃で5時間浸漬した。この際、基材の表面を上にしてウェル内に設置した。5時間浸漬後、基材を過飽和溶液から取り出し、15mLの超純水で3回洗浄した。その後、基材を凍結乾燥した。以上の工程により、Fn(-)条件下で基材表面にFn無添加リン酸カルシウム膜を成膜した。
<レーザー転写及び転写膜の評価>
実施例1と同様のレーザー転写工程を用いて、PDMSレシーバー基材上に転写形成したFn無添加リン酸カルシウム膜についても、実施例2と同様の手法を用いて生理活性評価を行った。
図7にCHO-K1細胞播種後24時間で得られたCHO-K1細胞の様子(クリスタルバイオレット染色後)を示す。図7により、Fn無添加リン酸カルシウム膜についても、レーザー転写によりPDMSレシーバー基材上に転写膜を形成することが確認された。ただし、図6(実施例2の結果)とは異なり、レーザー照射部位に応じた明確なパターンは転写形成できなかった。これは、Fn添加リン酸カルシウム膜に比べると、リン酸カルシウム原料膜が犠牲層/透明サポート基材から剥がれやすく、また、弾力性に劣るためであると考えられる。
さらに、転写膜上のCHO-K1細胞について伸展している様子はほとんど見られず、実施例2のFn担持リン酸カルシウムのレーザー転写パターンに比べ、細胞接着活性は低いことがわかった。
以上より、リン酸カルシウム膜へのタンパク質の担持は、転写膜の生理活性の向上だけでなく、膜の密着性・弾力性向上による非破砕転写(高品質パターン形成)にも有効であることが確認された。
本発明によるリン酸カルシウム被膜及び生理活性物質を担持するリン酸カルシウム被膜は、高温や真空プロセスを要することなく、かつ、短時間で、ターゲット部位に設けることができるので、例えば、ヒトや動物の歯周病治療(歯周病治療後の歯面への生理活性付与よる早期治癒支援・再発防止)、虫歯予防(歯のコーティング)、インプラントなどの医用部材コーティングなどの分野での利用に適している。
101 透明サポート基材
102 犠牲層
103 生理活性物質担持リン酸カルシウム膜
104 親水性表面層
105 パターンを有する生理活性物質担持リン酸カルシウム膜
106 レシーバー基材(被転写先基材)
107 レーザーパルス
108 レーザーパルスを吸収する光吸収層
109 レシーバー基材に転写された生理活性物質担持原料膜からなる凸部パターン

Claims (8)

  1. レーザー転写に利用するレーザー波長に対し透明なサポート基材上に、レーザー光吸収によるアブレーションを誘起可能な犠牲層を有し、さらにその犠牲層の表面に、リン酸カルシウム原料膜を有する、リン酸カルシウム膜のレーザー転写用材。
  2. レーザー転写に利用するレーザー波長に対し透明なサポート基材上に、レーザー光吸収によるアブレーションを誘起可能な犠牲層を有し、さらにその犠牲層の表面に、生理活性物質担持リン酸カルシウム原料膜を有する、生理活性物質担持リン酸カルシウム膜のレーザー転写用材。
  3. レーザー転写に利用するレーザー波長に対し透明なサポート基材上に、レーザー光吸収によるアブレーションを誘起可能な犠牲層を形成し、
    当該犠牲層の表面にリン酸カルシウム原料膜を成膜することを特徴とする、請求項1に記載のリン酸カルシウム膜のレーザー転写用材の製造方法。
  4. レーザー転写に利用するレーザー波長に対し透明なサポート基材上に、レーザー光吸収によるアブレーションを誘起可能な犠牲層を形成し、
    当該犠牲層の表面に、生理活性物質担持リン酸カルシウム原料膜を成膜することを特徴とする、請求項2に記載の生理活性物質担持リン酸カルシウム膜のレーザー転写用材の製造方法。
  5. 犠牲層の表面を親水化処理し、その後、その表面に、溶液法により、生理活性物質担持リン酸カルシウム原料膜を成膜することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
  6. 請求項1に記載のレーザー転写用材の透明なサポート基材側から、パターン化された、又は、されていないレーザー光を照射し、犠牲層をレーザーアブレーションすることにより、当該レーザー光が照射された犠牲層の表面に成膜されたリン酸カルシウム原料膜をレーザー転写することによって、ターゲット部位に、パターン化された、又は、されていない、リン酸カルシウム膜を形成する方法。
  7. 請求項2に記載のレーザー転写用材の透明なサポート基材側から、パターン化された、又は、されていないレーザー光を照射し、犠牲層をレーザーアブレーションすることにより、当該レーザー光が照射された犠牲層の表面に成膜された活性物質担持リン酸カルシウム原料膜をレーザー転写することによって、ターゲット部位に、パターン化された、又は、されていない、生理活性物質担持リン酸カルシウム膜を形成する方法。
  8. 理活性物質担持リン酸カルシウム被膜を有する物品を製造する方法であって、
    請求項2に記載のレーザー転写用材における生理活性物質担持リン酸カルシウム原料膜側の面に前記物品の基材であるレシーバ基材を対向配置させ、
    前記レーザー転写用材の透明なサポート基材側から、パターン化された、又は、されていないレーザー光を照射し、犠牲層をレーザーアブレーションすることにより、当該レーザー光が照射された犠牲層の表面に成膜された活性物質担持リン酸カルシウム原料膜をレーザー転写することによって、前記レシーバ基材のターゲット部位に、パターン化された、又は、されていない、生理活性物質担持リン酸カルシウム膜を形成する、物品の製造方法。
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