JP5817956B2 - 液相レーザー法を利用したリン酸カルシウム成膜方法 - Google Patents

液相レーザー法を利用したリン酸カルシウム成膜方法 Download PDF

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Description

本発明は、液相レーザー法を利用したリン酸カルシウム成膜方法に関し、特に一工程で基体上に部位特異的にリン酸カルシウムを成膜する方法に関する。
アパタイトなどのリン酸カルシウムは優れた生体親和性と骨結合能(生体活性)をもつことから、骨代替材料などとして既に実用化されている。また、その生理化学的性質を応用することにより、さまざまなバイオマテリアル、バイオデバイスなどへの展開が期待されている。
本発明者らは近年、物理プロセスと化学プロセスを融合させた液相レーザー法を利用して、簡便・迅速かつ部位特異的なリン酸カルシウム成膜技術の開発に取り組んでいる。本技術は、従来医療における治療向上のための術中リン酸カルシウム成膜技術としてだけでなく、近い将来の遺伝子治療や再生医療における薬剤伝達システム(DDS)あるいはスキャホールド構築のための新たな要素技術としても有用と期待される。
すなわち、部位特異的なリン酸カルシウム成膜技術により、生体組織あるいは生体材料の必要とされる領域に、簡便かつ迅速にリン酸カルシウムを成膜できれば、医師自らが、生体組織や生体材料表面の必要とされる部位に生体親和性や骨結合性を付与するための術中成膜技術として、従来医療における応用が期待される。
また、近年、本発明者らは、細胞の挙動(増殖、分化など)を遺伝子レベルで制御して遺伝子治療や再生医療に応用するための要素技術として、DNAと細胞接着性タンパク質を担持させたアパタイト皮膜(DC-Ap膜)を利用した遺伝子導入法を開発した(非特許文献1)。このDC-Ap膜を用いれば、粒子状の導入剤を細胞に振りかける従来手法とは異なり、膜上に接着した細胞にのみ選択的に遺伝子を導入することができる。従って、生体組織あるいは生体材料の必要とされる部位にDC-Ap膜を成膜すれば、副作用(非標的細胞への遺伝子導入、あるいは肝臓への導入剤の蓄積など)の少ない遺伝子治療を実現できる可能性がある。また、三次元スキャホールド上の領域ごとに、異なるDNAを担持させたDC-Ap膜をパターニングすれば、複数の細胞からなる組織を三次元的に構築できる可能性がある。
このような医療応用を実現するためには、新たな要素技術として、生体組織あるいは生体材料の必要とされる領域に、部位特異的に、かつ、簡便かつ迅速に、アパタイトなどのリン酸カルシウムを成膜する技術が必要と考えられる。
従来、簡便かつ迅速なリン酸カルシウム成膜方法としては、高エネルギーレーザーやプラズマを利用する物理的なアパタイト成膜プロセスが知られているが、これらの方法は、高い熱エネルギーに起因する低融点基材へのダメージという問題がある。生体組織や高分子材料のような低融点基材に対しては、過飽和溶液などのコーティング液を用いる化学的な成膜プロセスが有効である(非特許文献2)。しかし、このような化学プロセスを疎水性の基材に適用する場合には、基材の表面エネルギーを下げるために前処理を必要とし、しかも成膜に長時間を要する。また、マスキング等を併用しない限り部位特異的な成膜を行うことは困難である。
本発明者らは近年、物理プロセスと化学プロセスを融合させた液相レーザー法を利用した、部位特異的なアパタイト成膜プロセスを開発した(非特許文献3、特許文献1)。この方法は、アパタイトの飽和濃度以上にリン酸イオンとカルシウムイオンを含む水溶液、すなわち、カルシウムイオンとリン酸イオンが過飽和に存在する水溶液(以下、リン酸カルシウム過飽和溶液ともいう。)中に設置された高分子基材へのレーザー光の照射により、基材の表面にアパタイト前駆体を析出させるプロセスを第1の工程として含むことを特徴としている。従来型の高エネルギーレーザーでこのような液相プロセスを実現することは困難であるが、非集光の低エネルギーレーザーを用いることにより、基材表面の照射部において部位特異的かつ温和なプロセスを実現させている。このような低温プロセスは、生体組織や高分子材料のように耐熱性に劣る基材の表面改質に有効である。また、DNAや生理活性タンパク質、抗菌剤といった薬剤分子をアパタイト皮膜中に担持できる可能性も高い。
しかしながら、上記液相レーザー法を利用したアパタイト成膜プロセスは、具体的には、第一の工程で、リン酸カルシウム過飽和溶液中に設置した基材表面に、1W/mm未満のエネルギーのレーザー光を照射し、当該基材上にアパタイト前駆体を点在した状態で析出させた後、第二の工程で、該基材をリン酸カルシウム過飽和溶液中に(レーザーを照射せずに)浸漬し、該基材表面に均一なアパタイト皮膜を形成させるという、二段階の工程を必要とし、しかも、当該方法により、十分なアパタイトの成膜を得るためには、第一の工程に3時間程度、第二の工程に24時間程度の時間を必要とするものであり、迅速性、簡便性の点で、上述の医療用途への適用には未だ不十分なものであった。
大矢根綾子、鶴嶋英夫、伊藤敦夫:Surface-mediated transfectionのためのバイオセラミックスの設計と展開.バイオマテリアル 2010,28:109−115. Oyane A:Development of apatite-based composites by a biomimetic process for biomedical applications. J Ceram Soc Japan 2010,118: 77−81. Lee BH, Oyane A, Tsurushima H, Shimizu Y, Sasaki T, et al.: New approach for hydroxyapatite coating on polymeric materials using laser-induced precursor formation and subsequent aging. ACS Applied Mater Interfaces 2009, 1:1520−1524 . Mutsuzaki H, Sakane M, Nakajima H, Ito A, Hattori S,et al.: Calcium-phosphate-hybridized tendon directly promotes regeneration of tendon-bone insertion. J Biomed Mater Res A 2004, 70:319−327.
特開2009−57234号公報
従来の液相レーザー法を利用して基材上に部位特異的にアパタイト皮膜を形成する方法は、上述のとおり、基材上に予めアパタイト前駆体を点在した状態で析出させた後、該基材をリン酸カルシウム過飽和溶液中に浸漬することにより、基材表面にアパタイト皮膜を形成させるという、二段階の工程を要し、各工程の所要時間も長いという欠点がある。
本発明は、上記方法の欠点を解消し、迅速かつ簡便に、基材上に部位特異的にアパタイトなどのリン酸カルシウム皮膜を形成する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、リン酸カルシウム過飽和溶液中に設置された基材上にレーザー光を照射することにより、一段階の工程で、基材上にリン酸カルシウム皮膜を形成することができることを見出し、本発明を完成した。
具体的には、本出願は、以下の発明を提供するものである。
〈1〉リン酸カルシウム過飽和溶液中に設置された基材表面にレーザー光を照射するという1段階の工程で、該基材表面にリン酸カルシウム皮膜を形成させることを特徴とする、リン酸カルシウムの成膜方法。
〈2〉基材に非接触のマスクを通して、レーザー光を基材に照射し、基材上にリン酸カルシウムのパターンを形成させることを特徴とする〈1〉に記載のリン酸カルシウムの成膜方法。
〈3〉リン酸カルシウム過飽和溶液中に、形成されるリン酸カルシウム皮膜中に取り込まれて皮膜の機能を向上させる1種または2種以上の成分を更に含み、これにより、機能が向上したリン酸カルシウム皮膜を形成させることを特徴とする、〈1〉または〈2〉に記載のリン酸カルシウムの成膜方法。
〈4〉リン酸カルシウム過飽和溶液からなる、〈1〉〜〈3〉のいずれかに記載の方法で使用する、リン酸カルシウム成膜用剤。
〈5〉治療の目的で生体組織に適用される、〈4〉に記載のリン酸カルシウム成膜用剤。
〈6〉リン酸カルシウム過飽和溶液に、形成されるリン酸カルシウム皮膜中に取り込まれて皮膜の機能を向上させる1種または2種以上の成分をさらに含ませた溶液からなることを特徴とする、〈4〉または〈5〉に記載のリン酸カルシウム成膜用剤。
本発明の成膜方法は、上述のように、遺伝子治療や再生医療のための薬剤伝達システム(DDS)あるいはスキャホールドの構築を支援する新たな要素技術となることが期待される。
また、本発明の成膜方法は、簡便かつ迅速にリン酸カルシウムの成膜が可能であるため、医師自らが術中に当該成膜を実施することができ、従来の外科や歯科医療における治療向上も期待される。
例えば、遊離腱移植術において、腱の骨内固定部位にリン酸カルシウムを成膜すると、術後早期から高い骨固着性が得られることが報告されているが(非特許文献4)、本発明の成膜方法を用いれば、より簡便かつ短時間で成膜でき、しかもレーザー光のピンポイント照射が可能であるため、非成膜部へのマスキングを必要としないので、術中に直接必要な部位に成膜を行うことができる。
上記の例以外にも、骨粗鬆症患者の骨折や骨−軟骨損傷、粉砕骨折など、整形外科医療だけでも本発明の適用症例は数多く考えられる。また、患部の状態に応じて適当な薬剤分子をリン酸カルシウム皮膜中に担持させることによって、さらなる治療効果の増進も期待され、患者一人一人の症状に合わせたオンデマンドの術中成膜技術としての応用が期待される。
以上のように、本発明の成膜技術は、従来医療、さらには遺伝子治療や再生医療といったこれからの医療にも応用可能な、新たな要素技術として有用なものである。
実施例1で作製された試料(照射条件:355nm、3.0W、30分)表面のレーザー照射部位のSEM写真 実施例1で作製された試料(照射条件:355nm、3.0W、30分)表面のレーザー照射部位(左)、および非照射部位(右)のXPSスペクトル 実施例1で作製された試料(照射条件:355nm、3.0W、30分)表面のレーザー照射部位のTF-XRDパターン 実施例2で作製された試料表面のレーザー照射部位のSEM写真 実施例3で作製された試料表面のレーザー照射部位のSEM写真(左)、およびXPSスペクトル 実施例4で作製された試料表面のレーザー照射部位のSEM写真(左)、およびXPSスペクトル 従来(特許文献1)の液相レーザー法の第一段階で作製された試料(照射時間:3時間)表面のレーザー照射部位のSEM写真
本発明のリン酸カルシウム成膜方法に用いる基材は特に限定されず、無機、有機いずれの基材も使用できるし、それらの複合体であっても良い。また、基材は生体組織や臓器であっても良いし、人工材料であっても良い。
生体組織としては、上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織のいずれであっても良い。具体的には、生体組織として、歯、骨、腱、靭帯、軟骨、皮膚、血管、膜、筋肉、脂肪、繊維組織などを好ましく挙げることができるが、これらに限定されない。
人工材料としては、金属、セラミックス、無機高分子などの無機材料や、有機高分子、低分子有機化合物、超分子などの有機材料や、これらの複合体を使用することができる。具体的には、金属としては、例えば、チタン、タンタル、ニオブ、コバルト、クロム、モリブデン、プラチナ、アルミニウム、またはこれらの2種以上の金属の合金、ステンレス、真ちゅうなどを、セラミックスとしては、例えば、焼結リン酸三カルシウム、リン酸カルシウム硬化体、焼結アパタイト、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア、部分安定化ジルコニア、コージェライト、ゼオライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化チタン、ダイアモンド、シリカガラス、ソーダ石灰ガラス、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、カルコゲンガラス、ハンダガラス、コパール用ガラス、Pyrexガラス、これらの結晶化ガラスなどを、無機高分子としてはシリコーンポリマーなどのケイ素含有ポリマーなどを、有機高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトンなどの酸素含有ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリアミン、ポリウレア、ポリイミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニルなどの合成高分子、こられの共重合体、セルロース、アミロース、アミロペクチン、キチン、キトサンなどの多糖類、コラーゲンなどのポリペプチド、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸などのムコ多糖類などの天然高分子を好ましく挙げることができる。
また、本発明で用いる上記基材の形状は限定されない。例えば、ブロック状、平板状、フィルム状、膜状、棒状、筒状、メッシュ状、繊維状、多孔体状、粒子状、スポンジ状、織物状、編み物状などの基材が好ましく用いられる。
本発明で基材上に成膜するリン酸カルシウムとしては、ハイドロキシアパタイト、オキシアパタイト、ピロリン酸アパタイト、ハイドロキシアパタイトの構成イオンの一部が炭酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンなどで置換された化合物、アモルファスリン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、二リン酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、二リン酸二水素カルシウム、ホスフィン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸二水素カルシウム一水和物、ホスホン酸カルシウム一水和物、ビス(リン酸二水素)カルシウム一水和物、これらの無水物、これらの混合物や、これらの中間物質等からなるリン酸カルシウム系化合物を挙げることができる。また、リン酸三カルシウムは、マグネシウム、亜鉛等6配位イオン半径が0.5オングストローム以上0.8オングストローム以下の2価金属イオンを含有して水溶液から沈殿するリン酸三カルシウムを含む。特に、生体組織との親和性、体内環境における安定性から、ハイドロキシアパタイト、及び、その構成イオンの一部が炭酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンなど等で置換された化合物を好ましく挙げることができる。
本発明で基材上に得られるリン酸カルシウムの皮膜とは、特許文献1及び非特許文献3に記載されたような、直径数百nm〜5μm程度のリン酸カルシウムの粒子状の析出物が点在した状態で基材上に存在するもの(図7参照)ではなく、下地の基材の露出面がレーザー照射された全表面積の半分以上となるようなもの(同じく図7参照)でもない。本発明のリン酸カルシウムの皮膜とは、リン酸カルシウムの粒子状の析出物が互いに連なり、面積30μm以上の連続的な皮膜として基材のレーザー照射された全表面積の半分以上を覆っているものを指す。前者のように、リン酸カルシウムが連続皮膜となっておらず、基材の露出面が過半数を占めるような状態では、基材に対する生体の免疫反応を十分に防ぐことができず、しかも、リン酸カルシウムの生体親和性と骨結合能を十分に発揮させることが困難である。
リン酸カルシウム過飽和溶液中に設置された基材上に照射するレーザー光の種類は、特に制限されるものではないが、例えば、Nd-YAG固体パルスレーザー(Nd-YAG,Quanta-Ray LAB-150-30,Spectra-Physics製)による周波数10Hzまたは30Hz、波長355または532nmのものが使用される。
リン酸カルシウム過飽和溶液中に設置された基材上に照射するレーザー光のエネルギー密度が適切な範囲内であれば、短時間でリン酸カルシウムが十分量形成され、照射部位全面にリン酸カルシウムを成膜させることができる。エネルギー密度があまり高いと、高い熱エネルギーに起因する基材へのダメージという問題が生じる。また、エネルギー密度が低すぎると、短時間で十分量のリン酸カルシウムが形成されず、全面成膜は困難となる。
レーザー光の適切なエネルギー密度範囲は、基材の種類により異なる。例えば、実施例1で用いたエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)基材では、3.0Wのパワー(エネルギー密度で、60〜78 mW/mm2に相当)で、短時間(30分)内にリン酸カルシウム皮膜が良好に形成される。
リン酸カルシウム過飽和溶液中に設置された基材上にレーザー光を照射する時間は限定されないが、照射時間が短すぎると、リン酸カルシウムが十分量形成されず、全面成膜は困難である。全面成膜に要する照射時間は、基材の種類ならびに照射レーザーのエネルギー密度、波長などにより異なる。リン酸カルシウムが析出し始めた後は、照射時間が長くなると、リン酸カルシウム過飽和溶液が過飽和である限り、リン酸カルシウムの形成量が増していく。ただし、リン酸カルシウムの形成量が増すと、膜厚増加によって、基材との接着強度は低下する。また、3時間以上となるような長時間の照射は、医療現場で応用するには困難である。従って照射期間としては、10分から3時間、好ましくは20分から90分、さらに好ましくは20分から30分とすれば良い。
リン酸カルシウム過飽和溶液とは、リン酸カルシウムの飽和濃度を超えるカルシウムイオン及びリン酸イオンを含む溶液のことを意味する。リン酸カルシウム過飽和溶液のリン酸カルシウムに対する過飽和度、すなわち溶液の安定性は、溶液の成分濃度及びpHによって決まる。リン酸カルシウム過飽和溶液は、溶液調製完了後24時間以内に自発的核形成によるリン酸カルシウムの析出を誘起するような不安定な溶液であっても良いし、24時間以上リン酸カルシウムの析出を誘起しない準安定な溶液であっても良い。溶液調製直後は準安定な溶液であって、その後、温度やpH変化などによって不安定溶液に変化する溶液であっても良い。また、溶液調製直後は不飽和で、その後、温度やpH変化などによって過飽和に変化する溶液であっても良い。
リン酸カルシウム過飽和溶液は、種々の公知の方法で調製することができる。リン酸カルシウム過飽和溶液としては、例えば、Hank’s溶液、ヒトの体液とほぼ等しい無機イオン濃度を有する水溶液(擬似体液)、擬似体液と同等の塩化ナトリウム濃度、及び、擬似体液の1.5倍のリン酸及びカルシウムイオン濃度を有する水溶液(CP液)、擬似体液の5倍のイオン濃度を含む水溶液、医療用輸液の混合液などを好ましく挙げることができる。
リン酸カルシウム過飽和溶液は、少なくともカルシウムを含む試薬粉末/溶液、少なくともリンを含む試薬粉末/溶液、少なくともカルシウムとリンの両者を含む試薬粉末/溶液、さらに必要であればpH緩衝剤を順次水に添加、溶解していくことで調製することができる。これらの試薬粉末/溶液の添加順序、および添加速度は、該過飽和溶液調製中または調製後10秒以内にリン酸カルシウムの自発的核形成を誘起しない限り、特に制限はない。
pH緩衝剤としては、pH5〜9の間でpHを緩衝するものであれば、限定されない。そのようなpH緩衝剤としては具体的には、トリスヒドロキシルメチルアミノメタン、HEPES{2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid}、中性リン酸カリウム緩衝液などを挙げることができる。
少なくともカルシウムを含む粉末/溶液、及び少なくともリンを含む粉末/溶液、及び、少なくともカルシウムとリンの両者を含む粉末/溶液は限定されない。少なくともカルシウムを含む粉末/溶液の例としては、塩化カルシウム粉末/溶液、乳酸カルシウム粉末/溶液、酢酸カルシウム粉末/溶液、グルコン酸カルシウム粉末/溶液、クエン酸カルシウム粉末/溶液などが挙げられる。少なくともリンを含む粉末/溶液の例としては、リン酸緩衝生理的食塩水、リン酸溶液、リン酸水素二カリウム粉末/溶液、リン酸二水素カリウム粉末/溶液、リン酸水素二ナトリウム粉末/溶液、リン酸二水素ナトリウム粉末/溶液などが挙げられる。少なくともカルシウムとリンの両者を含む溶液としては、Hank’s液や擬似体液のような準安定なリン酸カルシウム過飽和溶液や、リン酸カルシウム不飽和溶液を挙げることもできる。
リン酸カルシウム過飽和溶液は、医療用輸液剤、透析・腹膜灌流液、輸液の補正用製剤、カルシウム製剤、透析・腹膜灌流液の補充液の中から選ばれた1種又は2種以上の粉末または溶液を混合することで調製することもできる。
リン酸カルシウム過飽和溶液中にはさらに、溶液の安定性を高め、リン酸カルシウムの自発的核形成までに要する時間を遅延する1種または2種以上の成分(溶液安定化成分)を含む試薬粉末/溶液を添加してもよい。
上記の溶液安定化成分としては、例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化亜鉛などの無機塩、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの水溶性ポリマーなどを挙げることができる。
リン酸カルシウム過飽和溶液とは具体的には、例えばCa−P−Na−K−Cl系及び、Ca−P−Na−K−Mg−Cl−HCO系のある特定組成範囲の水溶液である。
Ca−P−Na−K−Cl系のリン酸カルシウム過飽和溶液の成分濃度は、Ca成分0.1〜5.0mM好ましくは0.8〜4.0mM、P成分0.1〜20mM好ましくは0.5〜10mM、K成分0〜40mM好ましくは0〜20mM、Na成分0〜200mM好ましくは0〜150mM、Cl成分0〜200mM好ましくは0〜150mMであり、pHは5.0〜9.0好ましくは5.8〜8.5である。溶液のCa/Pモル比は特に規定しないが、好ましくは0.1〜3.0の範囲である。
Ca−P−Na−K−Mg−Cl−HCO系のリン酸カルシウム過飽和溶液の成分濃度は、Ca成分1.2〜2.75mM好ましくは1.39〜2.33mM、P成分0.6〜15mM好ましくは1.17〜10mM、K成分0〜30mM好ましくは4〜20mM、Na成分30〜150mM好ましくは40〜145mM、Mg成分0.1〜3.0mM好ましくは0.2〜2.0mM、Cl成分30〜150mM好ましくは40〜145mM、HCO成分0〜60mM好ましくは0〜45mMであり、pHは5.0〜9.0好ましくは5.8〜8.5である。溶液のCa/Pモル比は特に規定しないが、好ましくは2.5以下である。
リン酸カルシウム過飽和溶液にはさらに、リン酸カルシウム皮膜中に取り込まれて該皮膜の機能を向上させる1種または2種以上の成分(機能向上成分)を含む試薬粉末/溶液を添加しても良い。
上記の機能向上成分としては、リン酸カルシウム皮膜の物理化学的性質を変化させる成分や、生体機能を調節または変化させる生理活性分子(タンパク質、ペプチド、糖鎖、遺伝子、生体内微量金属元素、酵素、補酵素、合成分子など)や、細菌やウィルスの生育・増殖を阻止する抗生物質・抗菌剤などを挙げることができる。
リン酸カルシウム皮膜の物理化学的性質を変化させる成分としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、亜鉛、マグネシウム、鉄、ナトリウム、炭酸、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ビスフォスフォネートなどを挙げることができる。例えば、水酸アパタイト皮膜中にフッ素を添加すると、皮膜の耐溶解性を向上させることができ、これによって、ミュータンス菌や、破骨細胞、体液のアシドーシスなどによる溶解を予防、低減することができる。
生理活性を有するタンパク質には、生体機能を調節、または変化させ得るサイトカイン、ホルモン等が含まれ、例えば成長因子や細胞接着因子を挙げることができる。具体的には、生理活性を有するタンパク質の例として、塩基性繊維芽細胞成長因子、IL−1(インターロイキン1)、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−18、GM−CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)、G−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)、エリスロポエチン、CSF−1(コロニー刺激因子)、SCF(幹細胞因子)、トロンボポエチン、EGF(上皮増殖因子)、TGF−α(トランスフォーミング増殖因子−α)、HB−EGF(へパリン結合性EGF様増殖因子)、エピレグリン、ニューレグリン1,2,3、PDGF(血小板由来増殖因子)、インスリン、HGF(肝細胞増殖因子)、VEGF(血管内皮増殖因子)、NGF(神経成長因子)、GDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子)、ミッドカイン、TGF−β(トランスフォーミング増殖因子−β)、ベータグリカン、アクチビン、BMP(骨形成因子)、TNF(腫瘍壊死因子)、IFN−α/β(インターフェロン−α/β)、IFN−γ(インターフェロン−γ)、フィブロネクチン、ラミニン、カドヘリン、インテグリン、セレクチンなどを挙げることができるが、これらに限定はされない。
生理活性を有するペプチドの例としては、YIGSR、IKVAV、RGD、RGDS、GRGDS、RGDSPA、RVDSPA、GRGDSP、LDV、REDV、DEGA、EILDV、GPRP、KQAGDV、RNIAEIIKDI、KHIFSDDSSE、VPGIG、FHRRIKA、KRSR、NSPVNSKIPKACCVPTELSAI、APGL、VRN、AAAAAAAAA、NRWHSIYITRFG、TWYKIAFQRNRK、RKRLQVQLSIRTなどの配列を含有するペプチド鎖を挙げることができるが、これらに限定されない。また、これらのペプチドの片方または両方の末端に、一つまたは複数のアミノ酸を結合させたペプチドを用いることもできる。ただし、リン酸カルシウムとの親和性の点から、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)を使用するのが好ましい。
生理活性を有する糖鎖の例としては、マンノース含有糖鎖、α−グルコシル化N型糖鎖、シアル酸含有糖鎖、HNK−1抗体、シアリルLewisx、N型糖鎖、三及び四本鎖複合型糖鎖、ヘパリン、ヘパラン硫酸、アシアロ二本鎖糖鎖、GPIアンカー糖鎖、糖脂質GM4、シアリルTn抗原などを挙げることができるが、これらに限定されない。
遺伝子としては、例えばプラスミド単体や、高分子ポリマーや脂質、ウィルスなどのベクターに保持された遺伝子が挙げられる。それぞれの遺伝子が持つ遺伝情報は異なっても、遺伝子は物質的に同一であるので、遺伝子の種類は限定されない。
生体内微量金属元素の例としては、鉄、亜鉛、銅、マンガン、モリブデン、コバルト、ニッケル、セレン、ケイ素などを挙げることができるが、これらに限定されない。
生理活性を有する酵素、補酵素、合成分子の種類は限定されない。
抗菌剤の例としては、銀、銅、亜鉛、チタン、およびそれらの化合物などを挙げることができるが、これらに限定はされない。また、抗生物質の例としては、アジスロマイシン、アボパルシン、アモキシシリン、アルベカシン、アンピシリン、イミペネム、エペレゾリド、エリスロマイシン、エンロフロキサシン、オキサシリン、オキシテトラサイクリン、オフロキサシン、オーレオマイシン、ガチフロキサシン、カナマイシン、キノロン、ニューキノロン、キヌプリスチン、クリンダマイシン、クロラムフェニコール、クロルテトラサイクリン、クロロマイセチン、ゲンタマイシン、サラフロキサシン、シプロフロキサシン、ストレプトマイシン、スピラマイシン、スペクチノマイシン、スルバクタム、セファゾリン、セファロスポリン、セフタジジム、セフトリアキソン、セフトリアゾン、タゾバクタム、ダプトマイシン、ダルホプリスチン、チロシン、テイコプラニン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、トブラマイシン、トリメトプリム、ナフシリン、ナリジクス酸、ネオマイシン、バシトラシン、バージニアマイシン、バンコマイシン、ピペラシリン、プリスチナマイシン、ペニシリン、ポリミキシン、マゲイニン、ミノサイクリン、メチシリン、リネゾリド、リンコマイシンなどを挙げることができるが、これらに限定はされない。
基材表面のリン酸カルシウム皮膜の形成を完全には阻害しない限り、リン酸カルシウム過飽和溶液中に添加される、溶液安定化成分、および/または、機能向上成分の数、組み合わせ、添加比、濃度は限定されない
リン酸カルシウム過飽和溶液に添加する試薬粉末は水溶性であることが望ましいが、非水溶性であっても、それをアルブミンなどの水溶性担体タンパク質またはポリエチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリピニルピロリドン、ポリ−1,3−ジオキソラン、ポリ1,3,6−トリオキサン、エチレンと無水マレイン酸の共重合体、ポリアミノ酸類等の水溶性高分子と複合化させることにより水溶性化してもよい。上記複合化には、両者の官能基や表面電荷等を利用すればよく、種々の公知の方法で複合化させることができる。
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明する。
実施例1.
基材の作製法
溶融、プレス成型して得られたエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH、エチレン含有率32mol%、クラレ株式会社製)の平板(厚み1mm)を、大きさ10mm×10mmに切り出し、片面を#2000の研磨紙で研磨した。同基板をアセトン及びエタノールで超音波洗浄した後、100℃で24時間真空乾燥させた。
リン酸カルシウム過飽和溶液(CP液)の調製法
超純水にNaCl(142 mM)、CaCl2、(3.75 mM)、及びK2HPO4・3H2O(20mM)を溶解した後、Tris(50mM)と1M HClを用いて25℃でpHを7.40に調整することにより、リン酸カルシウム過飽和溶液(CP液)を調製した。このCP液は、調製後24時間以上リン酸カルシウムの析出を誘起しない準安定な過飽和溶液である。
液相レーザープロセス法
CP液(10mL)中に設置されたEVOH基材上に、60分間までの種々の時間レーザー光(Nd-YAG,Quanta-Ray LAB-150-30,Spectra-Physics製)を照射した。レーザー光の周波数は30Hz、波長は355または532nm、パワーは0.5から3.0Wとした。レーザー光は集光せず、直径5mmの円形の穴の空いた金属製マスクを通して照射プロセスを実施した。照射レーザー光のエネルギー密度は、マスクを通す前のレーザー光のビーム径が7〜8mmであったことから、0.5Wで10〜13mW/mm2、3.0Wで60〜78mW/mm2と概算される。照射プロセス後、試料をCP溶液から直ちに取り出し、超純水で洗浄した後、風乾した。
試料の表面構造評価法
得られた試料について、レーザー照射部および非照射部の表面構造を、走査型電子顕微鏡(SEM)観察、X線光電子分光法(XPS)、ならびに薄膜X線回折法(TF−XRD)により調べた。XPS測定においてはAlKα線を、TF−XRD測定においてはCuKα線を、それぞれ照射X線源とした。
試料1の表面構造評価結果
代表的な試料として、CP液中に設置されたEVOH基材表面の一部に、波長355nm、パワー3.0Wのレーザー光を30分間照射して得られた試料(試料1)の表面解析結果を示す。SEMにより、同試料表面のレーザー照射部位には、マイクロスケールの微細構造を有する均一な皮膜が全面的に観察された(図1)。一方、同試料表面のレーザー非照射部位には、そのような微細構造は全く観察されず、未処理のEVOH基材表面と同様の研磨傷のみが観察された。XPS解析の結果、同試料表面のレーザー照射部位にはカルシウム及びリンが検出されたが、非照射部位には検出されなかった(図2)。以上の結果から、同試料表面のレーザー照射部位にのみ均一なリン酸カルシウム皮膜が形成されたことが確認された。
このリン酸カルシウムの結晶構造をTF−XRDにより調べたところ、アパタイトあるいはリン酸八カルシウム(octacalcium phosphate;OCP)に帰属されるブロードなピークが検出された(図3)。この結果から、基材表面に形成されたリン酸カルシウムは、アパタイト、および/または、OCP、あるいはそれらの中間体であると考えられる。また、アモルファスリン酸カルシウム(ACP)が混在している可能性もあると考えられる。
リン酸カルシウム皮膜の形成過程は以下のように考察される。CP液はアパタイトを含むリン酸カルシウムに対して過飽和な溶液である。基材表面に照射されたレーザー光のエネルギーの一部は熱に変換され、周囲の溶液の温度を高める。これにより、基材表面近傍において、局所的に溶液のリン酸カルシウムに対する過飽和度が高まる。一方、基材表面にはレーザー光照射により親水性官能基が形成され、リン酸カルシウムの核形成に適した表面環境を作る。以上の作用により、基材表面のレーザー照射部位において、リン酸カルシウム核生成のためのエネルギーバリアを超えて、臨界核半径以上のリン酸カルシウムが形成される。いったんリン酸カルシウムの核が形成されると、それらは、過飽和というdriving forceによって、周囲の液中のリン酸カルシウム成分を取り込みながら自発的にリン酸カルシウム皮膜へと成長していく。
全試料の表面構造評価結果
前記試料1と同様にして、他の試料についても、レーザー照射部位におけるリン酸カルシウム皮膜形成の程度を調べた。この結果を表1にまとめる。照射時間が長いほど、照射パワーが強いほど、また、波長が短いほど、照射部位のリン酸カルシウム成膜性が向上することが分かった。
また、この実施例で用いた基材(EVOH)では、0.5〜1.0Wの照射パワー(パワー密度では10〜26mW/mm2に相当)ではリン酸カルシウム皮膜は形成されなかった。この結果は、先行技術の特許文献1の実施例や非特許文献3において、10mW/mm2のオーダーのレーザー光照射では、30分から3時間もの照射時間を経てもアパタイトの前駆体のみが析出し、しかもそれらは皮膜として基材全面を覆うのではなく(基材が露出している部分が全表面積の半分以上)、粒子状の析出物が点在しているに過ぎず(図7参照)、均一なアパタイト皮膜を形成させるには、これを更に長時間リン酸カルシウム過飽和溶液に浸漬させる、二段階目の工程が必要であったことと符合するものである。
実施例2.(リン酸カルシウム過飽和溶液の変更)
擬似体液(SBF)の調製法
超純水にNaCl(137 mM)、NaHCO3(4.20mM)、KCl(3mM)、K2HPO4・3H2O(1.00mM)、MgCl2・6H2O(1.50mM)、1M HCl(40mM)、CaCl2(2.50mM)及びNa2SO4(0.50mM)を溶解した後、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(50.0mM)及び必要量の1M HClを用いて、溶液のpHを36.5℃で7.40に合わせることにより、擬似体液(SBF)を調製した。擬似体液は、アパタイトに対して過飽和な準安定溶液であり、ヒトの体液とほぼ等しい無機イオン濃度、pH、温度を有する水溶液である。
液相レーザープロセス法
実施例1と同様にして作製されたEVOH基材をSBF(10mL)中に設置し、60分間レーザー光(Nd-YAG,Quanta-Ray LAB-150-30,Spectra-Physics製)を照射した。レーザー光の周波数は30Hz、波長は355nm、パワーは3.0Wとした。レーザー光は集光せず、円形のマスク(φ=5mm)を通して照射プロセスを実施した。照射プロセス後、試料を擬似体液から直ちに取り出し、超純水で洗浄した後、風乾した。
試料の表面構造評価結果
実施例1と同様にして、上記試料表面のレーザー照射部位および非照射部位におけるリン酸カルシウム皮膜形成の程度を調べたところ、非照射部位にはリン酸カルシウムは全く成膜されていなかったが、照射部位の一部には、リン酸カルシウムの成膜が確認された(図4)。以上の結果から、CP液だけでなくSBFを用いた場合にも、本プロセスによって、レーザー照射部位にリン酸カルシウムを成膜できることが確認された。
なお、体液に類似の組成、pHおよび温度を有するSBF中では、体液中におけるアパタイト形成反応を再現できることが知られている。SBF中でリン酸カルシウムを成膜できたことは、体液中の組織や生体材料の表面にレーザー光を照射することによって、リン酸カルシウムを成膜できることを示唆している。
実施例3.(基材の変更1)
基材の作製法
金属チタン(株式会社ニラコ製)の平板(厚み1mm)を、大きさ10mm×10mmに切り出した。同基板をエタノールで超音波洗浄した後、風乾させた。
液相レーザープロセス法
実施例1と同様にして作製されたチタン基材をCP液(10mL)中に設置し、30分間レーザー光(Nd-YAG,Quanta-Ray LAB-150-30,Spectra-Physics製)を照射した。レーザー光の周波数は30Hz、波長は355nm、パワーは3.0Wとした。レーザー光は集光せず、円形のマスク(φ=5mm)を通して照射プロセスを実施した。照射プロセス後、試料をCP液から直ちに取り出し、超純水で洗浄した後、風乾した。
試料の表面構造評価結果
実施例1と同様の解析手法(SEM、XPS)により、上記試料表面のレーザー照射部位にリン酸カルシウム皮膜の形成が確認された(図5)。以上の結果から、高分子材料のEVOH基材だけでなく金属材料のチタン基材に対しても、本プロセスによって、レーザー照射部位にリン酸カルシウムを成膜できることが確認された。
実施例4.(基材の変更2)
基材の作製法
ポリエチレンテレフタレート(Scientific Polymer Products製)の平板(厚み1mm)を、大きさ10mm×10mmに切り出した。同基材をエタノールで超音波洗浄した後、100℃で24時間真空乾燥させた。
液相レーザープロセス法
作製されたポリエチレンテレフタレート基材をCP液(10mL)中に設置し、種々の時間レーザー光(Nd-YAG,Quanta-Ray LAB-150-30,Spectra-Physics製)を照射した。レーザー光の周波数は30Hz、波長は355nmとし、パワーは基材へのダメージを抑えるために1.5Wとした(2W以上では基材が直ちに変色した)。レーザー光は集光せず、円形のマスク(φ=5mm)を通して照射プロセスを実施した。照射プロセス後、試料をCP液から直ちに取り出し、超純水で洗浄した後、風乾した。
試料の表面構造評価結果
照射時間90分間では、実施例1と同様の解析手法(SEM、XPS)により、試料表面のレーザー照射部位にリン酸カルシウム皮膜の形成が確認された(図6)。照射時間20分間では析出物は全く確認されず、照射時間60分間では照射部位の一部にリン酸カルシウムの形成が確認された。このことから、照射時間が長いほど、照射部位のリン酸カルシウム成膜性が向上することが分かった。
以上の結果から、EVOH基材だけでなく、他の高分子材料であるポリエチレンテレフタレート基材に対しても、本プロセスによって、レーザー照射部位にリン酸カルシウムを成膜できることが確認された。ただし、リン酸カルシウム成膜に適当なレーザー光のパワー、照射時間などの条件は、基材の種類によって異なることが分かった。
なお、ポリエチレンテレフタレートは人工靭帯・腱の材料として臨床応用されている。本プロセスを靭帯や腱の再建術に応用(靭帯・腱の骨内固定部位にリン酸カルシウムを成膜)することによって、人工靭帯・腱と骨との固着強度を向上させ、それによって治癒を促進できる可能性がある。

Claims (3)

  1. リン酸カルシウム過飽和溶液中に設置された基材表面にレーザー光を照射するという1段階の工程で、該基材表面にリン酸カルシウムの皮膜を形成させることを特徴とする、リン酸カルシウムの成膜方法。
  2. 基体に非接触のマスクを通して、レーザー光を基体に照射し、基体上にリン酸カルシウムのパターンを形成することを特徴とする、請求項1に記載のリン酸カルシウムの成膜方法。
  3. リン酸カルシウム過飽和溶液中に、形成されるリン酸カルシウム皮膜中に取り込まれて皮膜に耐溶解性、生体機能を調節または変化させる生理活性、または抗菌性を付与する1種または2種以上の成分を更に含み、これにより、機能が向上したリン酸カルシウム皮膜を形成させることを特徴とする、請求項1または2に記載のリン酸カルシウムの成膜方法。
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