以下、この発明をより詳細に説明するために、この発明を実施するための形態について、添付の図面に従って説明する。
以下、1個のアンテナ又は複数個のアンテナが移動体に設けられているとき、これらのアンテナの位置を「アンテナ位置」という。また、このとき、これらのアンテナに係る位置ベクトルを「アンテナ位置ベクトル」という。また、このとき、これらのアンテナに係る速度ベクトルを「アンテナ速度ベクトル」という。また、このとき、アンテナ速度ベクトルの推定値を「アンテナ速度ベクトル推定値」という。
以下、複数個の測位衛星の配置を「衛星配置」という。すなわち、衛星配置は、複数個の測位衛星の各々の位置を示すものである。また、複数個の測位衛星の各々に係る位置ベクトルを「衛星位置ベクトル」という。また、複数個の測位衛星の各々に係る速度ベクトルを「衛星速度ベクトル」という。
以下、複数個の測位衛星によりそれぞれ送信された複数個の衛星信号が1個のアンテナ又は複数個のアンテナにより受信されたとき、複数個の衛星信号の各々に係る搬送波位相の観測値を「搬送波位相観測値」という。なお、搬送波位相の単位は、波数である。また、このとき、複数個の衛星信号の各々に係る信号対雑音比の観測値を「信号対雑音比観測値」という。また、このとき、複数個の衛星信号の各々に係るドップラ周波数の観測値を「ドップラ周波数観測値」という。また、このとき、複数個の衛星信号の各々に係るドップラ周波数の変移量を「ドップラ変移量」という。また、このとき、複数個の衛星信号の各々に係るドップラ周波数の理論値を「ドップラ周波数理論値」という。また、このとき、複数個の衛星信号の各々について、ドップラ周波数観測値とドップラ周波数理論値との差分を「ドップラ残差」という。また、このとき、複数個の衛星信号の各々について、ドップラ残差に対する比較用の閾値を「ドップラ閾値」という。
以下、複数個の測位衛星によりそれぞれ送信された複数個の衛星信号が複数個のアンテナにより受信されたとき、複数個の衛星信号の各々について、かつ、複数個のアンテナのうちの各2個のアンテナについて、一方のアンテナにより受信された衛星信号の搬送波位相と他方のアンテナにより受信された衛星信号の搬送波位相との差分を「アンテナ間位相差」という。また、このとき、複数個の衛星信号の各々に係るアンテナ間位相差の観測値を「アンテナ間位相差観測値」という。また、このとき、複数個の衛星信号の各々に係るアンテナ間位相差の理論値を「アンテナ間位相差理論値」という。また、このとき、複数個の衛星信号の各々に係るアンテナ間位相差と複数個の衛星信号のうちの基準となる1個の衛星信号に係るアンテナ間位相差との差分を「二重位相差」という。また、このとき、二重位相差の観測値を「二重位相差観測値」という。また、このとき、二重位相差の理論値を「二重位相差理論値」という。また、このとき、複数個の衛星信号の各々について、アンテナ間位相差観測値とアンテナ間位相差理論値との差分又は二重位相差観測値と二重位相差理論値との差分を「位相差残差」という。また、このとき、複数個の衛星信号の各々について、位相差残差に対する比較用の閾値を「位相差閾値」という。
以下、複数個の測位衛星の各々に対する1個のアンテナ又は複数個のアンテナによる視線方向を示すベクトルを「視線ベクトル」という。また、視線ベクトルのうちの単位ベクトルを「単位視線ベクトル」という。また、複数個のアンテナのうちの各2個のアンテナについて、一方のアンテナに係るアンテナ位置ベクトルと他方のアンテナに係るアンテナ位置ベクトルとを結ぶベクトルを「基線ベクトル」という。また、基線ベクトルのうちの単位ベクトルを「単位基線ベクトル」という。また、基線ベクトルの推定値を「基線ベクトル推定値」という。
以下、複数個の測位衛星の各々について、水平面に対する視線ベクトルの角度を「衛星仰角」という。また、複数個の測位衛星の各々に係る識別用の情報を「識別情報」という。識別情報は、例えば、対応する測位衛星の種別を示す情報、及び対応する測位衛星のPRN(Pseudo Random Noise)番号を示す情報を含むものである。
以下、複数個の測位衛星によりそれぞれ送信された複数個の衛星信号が1個のアンテナ又は複数個のアンテナにより受信された場合において、複数個の衛星信号のうちの1個以上の衛星信号が直達波信号であるとき、当該1個以上の衛星信号に対応する1個以上の測位衛星を「直達波受信衛星」という。また、この場合において、複数個の衛星信号のうちの1個以上の衛星信号が非直達波信号であるとき、当該1個以上の衛星信号に対応する1個以上の測位衛星を「非直達波受信衛星」という。
以下、複数個の測位衛星によりそれぞれ送信された複数個の衛星信号が1個のアンテナ又は複数個のアンテナにより受信されたとき、複数個の衛星信号のうちの直達波信号の候補となる1個以上の衛星信号を「直達波候補信号」という。また、このとき、複数個の測位衛星のうちの直達波受信衛星の候補となる1個以上の測位衛星を「直達波受信候補衛星」という。
以下、衛星仰角及び信号対雑音比による組合せを「衛星仰角-信号対雑音比対」という。また、複数個のドップラ閾値と複数個の衛星仰角-信号対雑音比対との対応関係を示すテーブルを「ドップラ閾値テーブル」という。また、複数個の位相差閾値と複数個の衛星仰角-信号対雑音比対との対応関係を示すテーブルを「位相差閾値テーブル」という。
以下、文字「x」に対する上方に記号「・」を付してなる符号を「x(・)」と記載することがある。また、文字「x」に対する上方に記号「^」を付してなる符号を「x(^)」と記載することがある。また、文字「x」に対する上方に記号「・」及び記号「^」を付してなる符号を「x(・,^)」と記載することがある。また、文字「δ」に対する上方に記号「・」を付してなる符号を「δ(・)」と記載することがある。また、文字「f」に対する上方に記号「^」を付してなる符号を「f(^)」と記載することがある。また、文字「φ」に対する上方に記号「^」を付してな符号を「φ(^)」と記載することがある。
以下、N個の整数値(1~N)のうちの個々の整数値を示す変数を「i」と記載することがある。また、N個の整数値(1~N)のうちの基準となる1個の整数値を示す変数を「j」と記載することがある。ここで、Nは、2以上の任意の整数である。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る衛星信号受信装置の要部を示すブロック図である。図1を参照して、実施の形態1に係る衛星信号受信装置について説明する。
図中、1は移動体である。移動体1は、例えば、車両、船舶、航空機又は携帯情報端末により構成されている。移動体1は、アンテナ2を有している。アンテナ2は、測位衛星PS1~PSNが衛星信号SS1~SSNをそれぞれ送信したとき、当該送信されたN個の衛星信号SS1~SSNを受信するものである。アンテナ2は、当該受信された衛星信号SS1~SSNを衛星信号処理部11に出力するものである。ここで、測位衛星PS1~PSNとアンテナ2間における衛星信号SS1~SSNは、電波により構成されている。これに対して、アンテナ2と衛星信号処理部11間における衛星信号SS1~SSNは、高周波信号により構成されている。すなわち、アンテナ2は、電波を高周波信号に変換するものである。
個々の測位衛星PS1~PSNは、GNSS衛星により構成されている。具体的には、例えば、個々の測位衛星PS1~PSNは、GPS(Global Positioning System)衛星、GLONASS(Global Navigation Satellite System)衛星、BeiDou衛星、Galileo衛星又はQZSS(Quasi-Zenith Satellite System)衛星により構成されている。
アンテナ2により受信される衛星信号SS1~SSNの個数(すなわち、これらの衛星信号SS1~SSNを送信した測位衛星PS1~PSNの個数)は、GNSSに含まれる測位衛星の総数、GNSSに含まれる個々の測位衛星の位置、及び地球における移動体1の位置などに応じて異なるものである。すなわち、Nの値は、これらの要素に応じて異なるものである。
衛星信号処理部11は、アンテナ2により出力された衛星信号SS1~SSNを取得するものである。衛星信号処理部11は、当該取得された衛星信号SS1~SSNに対して、通常のGNSS受信機により実行される処理(衛星補足処理、衛星追尾処理及び復調処理を含む。)と同様の処理を実行するものである。これにより、衛星配置、搬送波位相観測値、ドップラ周波数観測値及び信号対雑音比観測値などが検出される。衛星信号処理部11は、当該検出された衛星配置を含むデータ(以下「航法メッセージ」という。)を出力するものである。また、衛星信号処理部11は、当該検出された搬送波位相観測値、ドップラ周波数観測値及び信号対雑音比観測値を含むデータ(以下「観測データ」という。)を出力するものである。
また、衛星信号処理部11は、航法メッセージ及び観測データを用いて、通常のGNSS受信機により実行される測位処理と同様の測位処理を実行するものである。これにより、アンテナ位置が検出される。衛星信号処理部11により実行される測位処理は、例えば、単独測位、RTK(Real Time Kinematic)測位又はPPP(Precise Point Positioning)測位によるものである。衛星信号処理部11は、当該検出されたアンテナ位置を含むデータ(以下「アンテナ位置データ」という。)を出力するものである。
以下、衛星信号処理部11により実行される処理を総称して「衛星信号処理」ということがある。
アンテナ方向推定部12は、衛星信号処理部11により出力された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを取得するものである。アンテナ方向推定部12は、当該取得された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを用いて、アンテナ速度ベクトル推定値を算出するものである。アンテナ方向推定部12は、当該算出されたアンテナ速度ベクトル推定値を出力するものである。
以下、アンテナ方向推定部12により実行される処理を総称して「アンテナ方向推定処理」ということがある。かかるアンテナ方向推定処理の詳細については、図4のフローチャートを参照して後述する。
ドップラ残差算出部13は、衛星信号処理部11により出力された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを取得するとともに、アンテナ方向推定部12により出力されたアンテナ速度ベクトル推定値を取得するものである。ドップラ残差算出部13は、当該取得された航法メッセージ、観測データ、アンテナ位置データ及びアンテナ速度ベクトル推定値を用いて、衛星信号SS1~SSNの各々に係るドップラ残差を算出するものである。ドップラ残差算出部13は、当該算出されたドップラ残差を出力するものである。
以下、ドップラ残差算出部13により実行される処理を総称して「ドップラ残差算出処理」ということがある。かかるドップラ残差算出処理の詳細については、図6のフローチャートを参照して後述する。
ドップラ閾値設定部14は、衛星信号処理部11により出力された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを取得するものである。ドップラ閾値設定部14は、当該取得された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを用いて、衛星信号SS1~SSNの各々に係るドップラ閾値を設定するものである。ドップラ閾値設定部14は、当該設定されたドップラ閾値を出力するものである。
以下、ドップラ閾値設定部14により実行される処理を総称して「ドップラ閾値設定処理」ということがある。かかるドップラ閾値設定処理の詳細については、図7のフローチャートを参照して後述する。
判定部15は、ドップラ残差算出部13により出力されたドップラ残差を取得するとともに、ドップラ閾値設定部14により出力されたドップラ閾値を取得するものである。判定部15は、当該取得されたドップラ残差及びドップラ残差を用いて、衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かを判定するものである。すなわち、判定部15は、測位衛星PS1~PSNの各々が直達波受信衛星であるか否かを判定するものである。判定部15は、当該判定の結果に基づき、直達波受信衛星を示す識別情報を出力するものである。
以下、判定部15により実行される処理を総称して「判定処理」ということがある。かかる判定処理の詳細については、図8のフローチャートを参照して後述する。
衛星信号処理部11、アンテナ方向推定部12、ドップラ残差算出部13、ドップラ閾値設定部14及び判定部15により、衛星信号判定装置100の要部が構成されている。衛星信号判定装置100は、例えば、移動体1に設けられている。アンテナ2及び衛星信号判定装置100により、衛星信号受信装置200の要部が構成されている。
次に、図2を参照して、衛星信号判定装置100の要部のハードウェア構成について説明する。
図2Aに示す如く、衛星信号判定装置100は、プロセッサ21及びメモリ22を有している。メモリ22には、衛星信号処理部11、アンテナ方向推定部12、ドップラ残差算出部13、ドップラ閾値設定部14及び判定部15の機能を実現するためのプログラムが記憶されている。かかるプログラムをプロセッサ21が読み出して実行することにより、衛星信号処理部11、アンテナ方向推定部12、ドップラ残差算出部13、ドップラ閾値設定部14及び判定部15の機能が実現される。
または、図2Bに示す如く、衛星信号判定装置100は、処理回路23を有している。この場合、衛星信号処理部11、アンテナ方向推定部12、ドップラ残差算出部13、ドップラ閾値設定部14及び判定部15の機能は、専用の処理回路23により実現される。
または、衛星信号判定装置100は、プロセッサ21、メモリ22及び処理回路23を有している(不図示)。この場合、衛星信号処理部11、アンテナ方向推定部12、ドップラ残差算出部13、ドップラ閾値設定部14及び判定部15の機能のうちの一部の機能がプロセッサ21及びメモリ22により実現されるとともに、残余の機能が専用の処理回路23により実現される。
プロセッサ21は、1個又は複数個のプロセッサにより構成されている。個々のプロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ又はDSP(Digital Signal Processor)を用いたものである。
メモリ22は、1個又は複数個の不揮発性メモリにより構成されている。または、メモリ22は、1個又は複数個の不揮発性メモリ及び1個又は複数個の揮発性メモリにより構成されている。すなわち、メモリ22は、1個又は複数個のメモリにより構成されている。個々のメモリは、例えば、半導体メモリ又は磁気ディスクを用いたものである。より具体的には、個々の揮発性メモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)を用いたものである。また、個々の不揮発性メモリは、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Ectrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ソリッドステートドライブ又はハードディスクドライブを用いたものである。
処理回路23は、1個又は複数個のデジタル回路により構成されている。または、処理回路23は、1個又は複数個のデジタル回路及び1個又は複数個のアナログ回路により構成されている。すなわち、処理回路23は、1個又は複数個の処理回路により構成されている。個々の処理回路は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、SoC(System on a Chip)又はシステムLSI(Large Scale Integration)を用いたものである。
次に、図3のフローチャートを参照して、衛星信号受信装置200の動作について、衛星信号判定装置100の動作を中心に説明する。
まず、衛星信号処理部11が衛星信号処理を実行する(ステップST1)。次いで、アンテナ方向推定部12がアンテナ方向推定処理を実行する(ステップST2)。次いで、ドップラ残差算出部13がドップラ残差算出処理を実行する(ステップST3)。次いで、ドップラ閾値設定部14がドップラ閾値設定処理を実行する(ステップST4)。次いで、判定部15が判定処理を実行する(ステップST5)。
次に、図4のフローチャートを参照して、アンテナ方向推定部12によるアンテナ方向推定処理の詳細について説明する。
まず、アンテナ方向推定部12は、衛星信号処理部11により出力された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを取得する(ステップST11)。
ここで、当該取得された航法メッセージに含まれる衛星配置に基づき、衛星位置ベクトルxi及び衛星速度ベクトルx(・)iが検出される。衛星速度ベクトルx(・)iは、例えば、衛星配置に対する時間微分により検出される。また、当該取得された観測データに含まれるドップラ周波数観測値fi
dop_A_obsに基づき、ドップラ変移量Δfi
dop_Aが検出される。また、当該取得されたアンテナ位置データに含まれるアンテナ位置に基づき、アンテナ位置ベクトルxAが検出される。
図5は、衛星位置ベクトルxi、衛星速度ベクトルx(・)i、アンテナ位置ベクトルxA、アンテナ速度ベクトルx(・)A及び視線ベクトルの関係を示している。このとき、ドップラ変移量Δfi
dop_Aについて、以下の式(1)が成立する。ここで、fcarは、衛星信号SS1~SSNの各々に係る搬送波の中心周波数を示している。また、cは、光速を示している。
変数iについて(i=1~N)、上記式(1)を行列形式に変形することにより、以下の式(2)が得られる。
なお、上記式(2)におけるベクトル値(式中u)は、以下の式(3)により定義されるものである。また、上記式(2)におけるスカラ値(式中S)は、以下の式(4)により定義されるものである。
次いで、アンテナ方向推定部12は、上記検出された衛星位置ベクトルxi、衛星速度ベクトルx(・)i、ドップラ変移量Δfi
dop_A及びアンテナ位置ベクトルxAを用いて、上記式(2)に基づく最小二乗法によりアンテナ速度ベクトルx(・)Aを算出する。これにより、アンテナ速度ベクトル推定値x(・,^)Aが算出される(ステップST12)。
次いで、アンテナ方向推定部12は、当該算出されたアンテナ速度ベクトル推定値x(・,^)Aを出力する(ステップST13)。
次に、図6のフローチャートを参照して、ドップラ残差算出部13によるドップラ残差算出処理の詳細について説明する。
まず、ドップラ残差算出部13は、衛星信号処理部11により出力された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを取得する。また、ドップラ残差算出部13は、アンテナ方向推定部12により出力されたアンテナ速度ベクトル推定値x(・,^)Aを取得する(ステップST21)。
ここで、当該取得された航法メッセージに含まれる衛星配置に基づき、衛星位置ベクトルxi及び衛星速度ベクトルx(・)iが検出される。衛星速度ベクトルx(・)iは、例えば、衛星配置に対する時間微分により検出される。また、当該取得されたアンテナ位置データに含まれるアンテナ位置に基づき、アンテナ位置ベクトルxAが検出される。
次いで、ドップラ残差算出部13は、当該取得されたアンテナ速度ベクトル推定値x(・,^)A並びに当該検出された衛星位置ベクトルxi、衛星速度ベクトルx(・)i及びアンテナ位置ベクトルxAを用いて、衛星信号SS1~SSNの各々に係るドップラ周波数理論値f(^)i
dop_Aを算出する(ステップST22)。このとき、ドップラ残差算出部13は、以下の式(5)によりドップラ周波数理論値f(^)i
dop_Aを算出する。
次いで、ドップラ残差算出部13は、当該算出されたドップラ周波数理論値f(^)i
dop_A及び上記取得された観測データに含まれるドップラ周波数観測値fi
dop_A_obsを用いて、衛星信号SS1~SSNの各々に係るドップラ残差fi
dop_A_resiを算出する(ステップST23)。このとき、ドップラ残差算出部13は、以下の式(6)によりドップラ残差fi
dop_A_resiを算出する。
次いで、ドップラ残差算出部13は、当該算出されたドップラ残差fi
dop_A_resiを出力する(ステップST24)。
次に、図7のフローチャートを参照して、ドップラ閾値設定部14によるドップラ閾値設定処理の詳細について説明する。
まず、ドップラ閾値設定部14は、衛星信号処理部11により出力された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを取得する(ステップST31)。
ここで、当該取得された航法メッセージに含まれる衛星位置に基づき、衛星位置ベクトルxiが検出される。また、当該取得されたアンテナ位置データに基づき、アンテナ位置ベクトルxAが検出される。
次いで、ドップラ閾値設定部14は、当該検出された衛星位置ベクトルxi及びアンテナ位置ベクトルxAを用いて、測位衛星PS1~PSNの各々に係る衛星仰角eleを算出する(ステップST32)。
次いで、ドップラ閾値設定部14は、当該算出された衛星仰角ele及び上記取得された観測データに含まれる信号対雑音比観測値SNRを用いて、衛星信号SS1~SSNの各々に係るドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)を設定する(ステップST33)。
ここで、ドップラ閾値設定部14は、ドップラ閾値テーブルを有している。ドップラ閾値設定部14は、測位衛星PS1~PSNの各々について(すなわち衛星信号SS1~SSNの各々について)、ドップラ閾値テーブルに含まれる複数個のドップラ閾値のうちの衛星仰角ele及び信号対雑音比観測値SNRによる衛星仰角-信号対雑音比対に対応する1個のドップラ閾値を選択する。ドップラ閾値設定部14は、当該選択された1個のドップラ閾値をドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)に用いる。
次いで、ドップラ閾値設定部14は、当該設定されたドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)を出力する(ステップST34)。
なお、ドップラ閾値テーブルにおける複数個のドップラ閾値が離散的に定義されている場合、衛星仰角ele及び信号対雑音比観測値SNRによる衛星仰角-信号対雑音比対に対応する1個のドップラ閾値を選択することが困難である場合がある。この場合、ドップラ閾値設定部14は、かかる衛星仰角-信号対雑音比対に対応する2個以上のドップラ閾値を選択するものであっても良い。そして、ドップラ閾値設定部14は、当該選択された2個以上のドップラ閾値に対する補間処理を実行することにより、ドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)を設定するものであっても良い。
次に、図8のフローチャートを参照して、判定部15による判定処理の詳細について説明する。
まず、判定部15は、ドップラ残差算出部13により出力されたドップラ残差fi
dop_A_resiを取得する。また、判定部15は、ドップラ閾値設定部14により出力されたドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)を取得する(ステップST41)。
次いで、判定部15は、衛星信号SS1~SSNの各々について、当該取得されたドップラ残差fi
dop_A_resiを当該取得されたドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)と比較する(ステップST42)。これにより、衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かが判定される。
すなわち、ドップラ残差fi
dop_A_resiがドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)以下である場合、判定部15は、対応する衛星信号SSiが直達波信号であると判定する。換言すれば、この場合、判定部15は、対応する測位衛星PSiが直達波受信衛星であるとする。他方、ドップラ残差fi
dop_A_resiがドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)よりも大きい場合、判定部15は、対応する衛星信号SSiが非直達波信号であると判定する。換言すれば、この場合、判定部15は、対応する測位衛星PSiが非直達波受信衛星であると判定する。
次いで、判定部15は、ステップST42における判定結果に基づき、個々の直達波受信衛星を示す識別情報を出力する(ステップST43)。
このように、衛星信号判定装置100は、ドップラ残差fi
dop_A_resiをドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)と比較することにより、衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かを判定する。これにより、移動体1が移動中であるか否かにかかわらず、当該判定をすることができる。また、移動体1の移動方向にかかわらず、当該判定をすることができる。この結果、例えば、移動体1が曲線移動をしているときであっても、当該判定をすることができる。
次に、ドップラ閾値テーブルの生成方法について説明する。ドップラ閾値テーブルは、例えば、以下のようにして生成されるものである。
いま、アンテナ2と同様の1個のアンテナが設置されており、かつ、当該1個のアンテナに対する上空に障害物が存在しないものとする。すなわち、当該1個のアンテナは、いわゆる「オープンスカイ環境」に設置されている。かかる状態にて、測位衛星PS1~PSNと同様の複数個の測位衛星が衛星信号SS1~SSNと同様の複数個の衛星信号をそれぞれ送信する。当該1個のアンテナは、当該複数個の衛星信号を受信する。
次いで、当該複数個の衛星信号に対して、衛星信号処理部11による衛星信号処理と同様の処理、アンテナ方向推定部12によるアンテナ方向推定処理と同様の処理、及びドップラ残差算出部13によるドップラ残差算出処理と同様の処理が実行される。
当該複数個の測位衛星の各々について(すなわち当該複数個の衛星信号の各々について)、衛星仰角及び信号対雑音比が異なる条件下にて、これらの手順が繰り返し実行される。これにより、衛星仰角-信号対雑音比対に対するドップラ残差の確率分布が得られる。そして、この確率分布に基づき、衛星仰角-信号対雑音比対毎のドップラ閾値が設定される。このようにして、ドップラ閾値テーブルが生成される。
次に、衛星信号判定装置100の変形例について説明する。
衛星信号処理部11の内部クロックの精度が低いことにより、衛星信号処理部11の内部クロックが示す時刻(以下「内部時刻」という。)と衛星信号SS1~SSNに対する測位処理が実行されることにより算出される時刻(以下「測位時刻」という。)との差分(以下「クロック誤差」という。)が大きいことがある。この場合、ドップラ周波数観測値fi
dop_A_obsに基づき、以下のようなドップラ変移量Δfi
dop_A_obsが検出されることがある。すなわち、ドップラ変移量Δfi
dop_A_obsは、ドップラ変移量Δfi
dop_Aに対して時間微分量δ(・)A(t)が重畳してなるものである。このため、ドップラ変移量Δfi
dop_A_obsは、以下の式(7)により表される。
変数iについて(i=1~N)、上記式(7)を行列形式に変形することにより、以下の式(8)が得られる。
この場合、アンテナ方向推定部12は、時間微分量δ(・)A(t)が未知数であるとみなして、上記式(8)に基づく最小二乗法によりアンテナ速度ベクトルx(・)Aを算出する。これにより、アンテナ速度ベクトル推定値x(・,^)Aが算出される。すなわち、衛星信号処理部11の内部クロックの精度が低い場合であっても、アンテナ速度ベクトル推定値x(・,^)Aを算出することができる。
また、この場合、ドップラ残差算出部13は、以下の式(9)により、衛星信号SS1~SSNの各々に係るドップラ周波数理論値f(^)i
dop_A_obsを算出する。次いで、ドップラ残差算出部13は、以下の式(10)により、衛星信号SS1~SSNの各々に係るドップラ残差fi
dop_A_resiを算出する。これにより、衛星信号処理部11の内部クロックの精度が低い場合であっても、ドップラ残差fi
dop_A_resiを算出することができる。
次に、衛星信号判定装置100の他の変形例について説明する。
衛星信号SS1~SSNに非直達波信号が多く含まれている場合、アンテナ方向推定部12により算出されるアンテナ速度ベクトル推定値の誤差が大きくなる可能性がある。かかる誤差を小さくする観点から、アンテナ方向推定部12は、いわゆる「ロバスト推定」をアンテナ速度ベクトル推定値の算出に用いるものであっても良い。具体的には、例えば、アンテナ方向推定部12は、RANSAC(Random Sample Consensus)法、最小メジアン法又はM推定法を用いるものであっても良い。
RANSAC法は、以下のように用いられる。すなわち、アンテナ方向推定部12は、N個の測位衛星PS1~PSNのうちのk個の測位衛星をランダムに選択する(k<N)。アンテナ方向推定部12は、当該選択されたk個の測位衛星に対応するk個の衛星信号に基づき、最小二乗法によりアンテナ速度ベクトル推定値を算出する。当該算出されたアンテナ速度ベクトル推定値を用いて、N個の測位衛星PS1~PSNの各々に係るドップラ残差が算出される。これらのドップラ残差は、例えば、ドップラ残差算出部13により算出される。アンテナ方向推定部12は、当該算出されたドップラ残差を取得する。
これらの手順が所定回繰り返し実行される。これにより、N個のドップラ残差が所定回分取得される。アンテナ方向推定部12は、当該取得された所定回分のドップラ残差に基づき、N個のドップラ残差のうちの所定値以下のドップラ残差の個数が最も大きい回におけるアンテナ速度ベクトル推定値を採用する。
最小メジアン法は、以下のように用いられる。すなわち、アンテナ方向推定部12は、N個の測位衛星PS1~PSNのうちのk個の測位衛星をランダムに選択する。アンテナ方向推定部12は、当該選択されたk個の測位衛星に対応するk個の衛星信号に基づき、最小二乗法によりアンテナ速度ベクトル推定値を算出する。当該算出されたアンテナ速度ベクトル推定値を用いて、N個の測位衛星PS1~SSNの各々に係るドップラ残差が算出される。これらのドップラ残差は、例えば、ドップラ残差算出部13により算出される。アンテナ方向推定部12は、当該算出されたドップラ残差を取得する。
これらの手順が所定回繰り返し実行される。これにより、N個のドップラ残差が所定回分取得される。アンテナ方向推定部12は、当該取得された所定回分のドップラ残差に基づき、N個のドップラ残差の中央値が最も大きい回におけるアンテナ速度ベクトル推定値を採用する。
M推定法は、以下のように用いられる。すなわち、アンテナ方向推定部12は、上記式(2)代えて、以下の式(11)を用いる。以下の式(11)は、上記式(2)に係る行列式に対して、重みWdopを付与してなるものである。
アンテナ方向推定部12が上記式(11)に基づく最小二乗法によりアンテナ速度ベクトルを算出する処理、ドップラ残差算出部13が当該算出されたアンテナ速度ベクトルを用いてN個の衛星信号SS1~SSNの各々に係るドップラ残差を算出する処理、及びアンテナ方向推定部12が当該算出されたドップラ残差に基づき重みWdopを更新する処理が所定回繰り返し実行される。重みWdopの更新は、例えば、TukeyのBiweight推定法によるものである。このとき、重みWdopは、大きいドップラ残差に対応する測位衛星に係る観測値に付与されるときは小さくなり、かつ、小さいドップラ残差に対応する測位衛星に係る観測値に付与されるときは大きくなるものである。
これらの方法(すなわちRANSAC法、最小メジアン法又はM推定法)を用いることにより、大きい誤差を含む観測値の影響を低減することができる。この結果、アンテナ速度ベクトル推定値の誤差を小さくすることができる。
次に、衛星信号判定装置100の他の変形例について説明する。
上記のとおり、アンテナ方向推定部12は、最小二乗法によりアンテナ速度ベクトル推定値を算出するものであっても良い。この場合、単一時刻における観測データが用いられる。これに対して、アンテナ方向推定部12は、カルマンフィルタによりアンテナ速度ベクトル推定値を算出するものであっても良い。この場合、複数時刻における観測データが用いられる。
すなわち、この場合、アンテナ速度ベクトルは、以下の式(12)により一次マルコフ過程としてモデル化される。かかる式(12)が状態方程式に用いられる。ここで、τは、時定数を示している。また、ωx(・)Aは、アンテナ2の方向に関するプロセスノイズベクトルを示している。
また、上記式(2)又は上記式(8)に所定の観測雑音を加えてなる数式が観測方程式に用いられる。これにより、カルマンフィルタによるアンテナ速度ベクトルの推定を実現することができる。
なお、かかる推定においては、アンテナ速度ベクトルが状態量ベクトルに含まれるのはもちろんのこと、アンテナ位置が状態量ベクトルに含まれるものであっても良い。また、クロック誤差の時間微分量等が状態量ベクトルに含まれるものであっても良い。
次に、衛星信号判定装置100の他の変形例について説明する。
判定部15は、衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かを判定するのに代えて(すなわち測位衛星PS1~PSNの各々が直達波受信衛星であるか否かを判定するのに代えて)、アンテナ2がオープンスカイ環境に設置されているか否かを判定するものであっても良い。また、判定部15は、個々の直達波受信衛星を示す識別信号を出力するのに代えて、当該判定の結果を示す信号(以下「判定結果信号」という。)を出力するものであっても良い。
この場合、ドップラ残差算出部13は、衛星信号SS1~SSNの各々に係るドップラ残差fi
dop_A_resiを算出した後、これらのドップラ残差fi
dop_A_resiの平方和RSSdopを算出する。ドップラ残差算出部13は、当該算出された平方和RSSdopを判定部15に出力する。平方和RSSdopは、以下の式(13)により算出される。
また、ドップラ閾値設定部14は、衛星信号SS1~SSNの各々に係るドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)を設定した後、これらのドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)の平方和RSSdop_threを算出する。ドップラ閾値設定部14は、当該算出された平方和RSSdop_threを判定部15に出力する。平方和RSSdop_threは、以下の式(14)により算出される。
判定部15は、ドップラ残差算出部13により出力された平方和RSSdopを取得するとともに、ドップラ閾値設定部14により出力された平方和RSSdop_threを取得する。判定部15は、当該取得された平方和RSSdopを当該取得された平方和RSSdop_threと比較する。
平方和RSSdopが平方和RSSdop_thre以下である場合、判定部15は、アンテナ2がオープンスカイ環境に設置されていると判定する。他方、平方和RSSdopが平方和RSSdop_threよりも大きい場合、判定部15は、アンテナ2がオープンスカイ環境と異なる環境(以下「非オープンスカイ環境」という。)に設置されていると判定する。
以上のように、実施の形態1に係る衛星信号受信装置200は、複数個の測位衛星PS1~PSNによりそれぞれ送信された複数個の衛星信号SS1~SSNを受信するアンテナ2と、アンテナ2に係るアンテナ速度ベクトル推定値を算出するアンテナ方向推定部12と、複数個の衛星信号SS1~SSNの各々について、アンテナ速度ベクトル推定値を用いてドップラ周波数理論値を算出して、ドップラ周波数理論値とドップラ周波数観測値との差分を示すドップラ残差を算出するドップラ残差算出部13と、複数個の衛星信号SS1~SSNの各々について、ドップラ残差に対する比較用のドップラ閾値を設定するドップラ閾値設定部14と、ドップラ残差をドップラ閾値と比較することにより、複数個の衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かを判定する判定部15と、を備える。これにより、移動体1が移動中であるか否かにかかわらず、当該判定をすることができる。また、移動体1の移動方向にかかわらず、当該判定をすることができる。
また、衛星信号受信装置200は、複数個の衛星信号SS1~SSNを用いて、複数個の測位衛星PS1~PSNに係る衛星配置、ドップラ周波数観測値、複数個の衛星信号SS1~SSNの各々に係る信号対雑音比観測値、及びアンテナ2に係るアンテナ位置を検出する衛星信号処理部11を備え、アンテナ方向推定部12は、衛星配置、ドップラ周波数観測値及びアンテナ位置を用いてアンテナ速度ベクトル推定値を算出する。これにより、アンテナ速度ベクトル推定値を算出することができる。
また、衛星配置に基づき複数個の測位衛星PS1~PSNの各々に係る衛星位置ベクトル及び複数個の測位衛星PS1~PSNの各々に係る衛星速度ベクトルが検出されるものであり、かつ、アンテナ位置に基づきアンテナ2に係るアンテナ位置ベクトルが検出されるものであり、ドップラ残差算出部13は、衛星位置ベクトル、衛星速度ベクトル、アンテナ位置ベクトル及びアンテナ速度ベクトル推定値を用いてドップラ周波数理論値を算出する。これにより、ドップラ周波数理論値を算出することができる。
また、アンテナ方向推定部12は、最小二乗法又はカルマンフィルタによりアンテナ速度ベクトル推定値を算出する。これにより、アンテナ速度ベクトル推定値を算出することができる。
また、アンテナ方向推定部12は、RANSAC法、最小メジアン法又はM推定法によりアンテナ速度ベクトル推定値を算出する。すなわち、アンテナ方向推定部12は、ロバスト推定によりアンテナ速度ベクトル推定値を算出する。これにより、衛星信号SS1~SSNに非直達波信号が多く含まれている場合であっても、アンテナ速度ベクトル推定値を正確に算出することができる。
また、衛星配置を用いて複数個の測位衛星PS1~PSNの各々に係る衛星仰角が算出されるものであり、ドップラ閾値設定部14は、ドップラ閾値テーブルに含まれる複数個のドップラ閾値のうちの衛星仰角及び信号対雑音比観測値に対応する1個以上のドップラ閾値を選択して、当該選択された1個以上のドップラ閾値に基づきドップラ閾値を設定する。これにより、衛星仰角及び信号対雑音比観測値に応じてドップラ閾値を適切な値に設定することができる。
実施の形態2.
図9は、実施の形態2に係る衛星信号受信装置の要部を示すブロック図である。図9を参照して、実施の形態2に係る衛星信号受信装置について説明する。なお、図9において、図1に示すブロックと同様のブロックには同一符号を付して説明を省略する。
図9に示す如く、移動体1は、複数個のアンテナ2を有している。複数個のアンテナ2により、アンテナ2aが構成されている。また、衛星信号判定装置100aは、複数個のアンテナ2と一対一に対応する複数個の衛星信号処理部11を有している。複数個の衛星信号処理部11により、衛星信号処理部11aが構成されている。複数個の衛星信号処理部11の各々は、実施の形態1にて説明したものと同様の衛星信号処理を実行するものである。すなわち、衛星信号処理部11aは、実施の形態1にて説明したものと同様の衛星信号処理を実行するものである。
以下、移動体1が2個のアンテナ2_A,2_Bを有しており、かつ、衛星信号判定装置100aが2個の衛星信号処理部11_A,11_Bを有している例を中心に説明する。すなわち、衛星信号処理部11_A,11_Bは、アンテナ2_A,2_Bと一対一に対応するものである。
アンテナ姿勢推定部16は、衛星信号処理部11aにより出力された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを取得するものである。アンテナ姿勢推定部16は、当該取得された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを用いて、アンテナ2_A,2_Bに係る基線ベクトル推定値を算出するものである。アンテナ姿勢推定部16は、当該算出された基線ベクトル推定値を出力するものである。
以下、アンテナ姿勢推定部16により実行される処理を総称して「アンテナ姿勢推定処理」ということがある。かかるアンテナ姿勢推定処理の詳細については、図11のフローチャートを参照して後述する。
位相差残差算出部17は、衛星信号処理部11aにより出力された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを取得するとともに、アンテナ姿勢推定部16により出力された基線ベクトル推定値を取得するものである。位相差残差算出部17は、当該取得された航法メッセージ、観測データ、アンテナ位置データ及び基線ベクトル推定値を用いて、衛星信号SS1~SSNの各々に係る位相差残差を算出するものである。位相差残差算出部17は、当該算出された位相差残差を出力するものである。
以下、位相差残差算出部17により実行される処理を総称して「位相差残差算出処理」ということがある。かかる位相差残差算出処理の詳細については、図13のフローチャートを参照して後述する。
位相差閾値設定部18は、衛星信号処理部11により出力された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを取得するものである。位相差閾値設定部18は、当該取得された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを用いて、衛星信号SS1~SSNの各々に係る位相差閾値を設定するものである。位相差閾値設定部18は、当該設定された位相差閾値を出力するものである。
以下、位相差閾値設定部18により実行される処理を総称して「位相差閾値設定処理」ということがある。かかる位相差閾値設定処理の詳細については、図14のフローチャートを参照して後述する。
判定部15aは、ドップラ残差算出部13により出力されたドップラ残差、ドップラ閾値設定部14により出力されたドップラ閾値、位相差残差算出部17により出力された位相差残差、及び位相差閾値設定部18により出力された位相差閾値を取得するものである。判定部15aは、当該取得されたドップラ残差、ドップラ閾値、位相差残差及び位相差閾値を用いて、衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かを判定するものである。すなわち、判定部15aは、測位衛星PS1~PSNの各々が直達波受信衛星であるか否かを判定するものである。判定部15aは、当該判定の結果に基づき、個々の直達波受信衛星を示す識別情報を出力するものである。
以下、判定部15aにより実行される処理を総称して「判定処理」ということがある。かかる判定処理の詳細については、図15のフローチャートを参照して後述する。
衛星信号処理部11a、アンテナ方向推定部12、ドップラ残差算出部13、ドップラ閾値設定部14、判定部15a、アンテナ姿勢推定部16、位相差残差算出部17及び位相差閾値設定部18により、衛星信号判定装置100aの要部が構成されている。衛星信号判定装置100aは、例えば、移動体1に設けられている。アンテナ2a及び衛星信号判定装置100aにより、衛星信号受信装置200aの要部が構成されている。
衛星信号判定装置100aの要部のハードウェア構成は、実施の形態1にて図2を参照して説明したものと同様である。このため、図示及び説明を省略する。すなわち、衛星信号処理部11a、アンテナ方向推定部12、ドップラ残差算出部13、ドップラ閾値設定部14、判定部15a、アンテナ姿勢推定部16、位相差残差算出部17及び位相差閾値設定部18の各々の機能は、プロセッサ21及びメモリ22により実現されるものであっても良く、又は専用の処理回路23により実現されるものであっても良い。
次に、図10のフローチャートを参照して、衛星信号受信装置200aの動作について、衛星信号判定装置100aの動作を中心に説明する。なお、図10において、図3に示すステップと同様のステップには同一符号を付している。
まず、衛星信号処理部11aが衛星信号処理を実行する(ステップST1a)。
次いで、アンテナ方向推定部12がアンテナ方向推定処理を実行する(ステップST2)。次いで、ドップラ残差算出部13がドップラ残差算出処理を実行する(ステップST3)。次いで、ドップラ閾値設定部14がドップラ閾値設定処理を実行する(ステップST4)。
また、アンテナ姿勢推定部16がアンテナ姿勢推定処理を実行する(ステップST6)。次いで、位相差残差算出部17が位相差残差算出処理を実行する(ステップST7)。次いで、位相差閾値設定部18が位相差閾値設定処理を実行する(ステップST8)。
次いで、判定部15aが判定処理を実行する(ステップST5a)。
次に、図11のフローチャートを参照して、アンテナ姿勢推定部16によるアンテナ姿勢推定処理の詳細について説明する。
まず、アンテナ姿勢推定部16は、衛星信号処理部11aにより出力された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを取得する(ステップST51)。
ここで、当該取得された航法メッセージに含まれる衛星配置に基づき、衛星位置ベクトルxiが検出される。また、当該取得されたアンテナ位置データに含まれるアンテナ位置に基づき、アンテナ位置ベクトルxAが検出される。
次いで、アンテナ姿勢推定部16は、当該取得された観測データに含まれる搬送波位相観測値を用いて、衛星信号SS1~SSNの各々に係るアンテナ間位相差観測値φi
ABを算出する(ステップST52)。すなわち、アンテナ姿勢推定部16は、衛星信号SS1~SSNの各々について、衛星信号処理部11_A,11_Bにより同時刻に出力された観測データに含まれる搬送波位相観測値の差分をとることにより、アンテナ間位相差観測値φi
ABを算出する。
以下、アンテナ2_A,2_B間の距離を「アンテナ間距離」という。また、衛星信号SS1~SSNの各々に対応する電波について、基線ベクトルに対する到来方向の角度を「信号到来角度」という。図12は、衛星信号SSiに係るアンテナ間位相差(図中φi
AB)、アンテナ間距離d、基線ベクトルxuAB及び信号到来角度αの対応関係を示している。このとき、以下の式(15)が成立する。ここで、λは、衛星信号SSiにおける搬送波の波長を示している。
なお、アンテナ2_Aによる測位衛星PSiに対する単位視線ベクトルは、アンテナ2_Bによる測位衛星PSiに対する単位視線ベクトルと等しいとみなすことができる。上記式(15)は、かかる擬制に基づく近似式である。ここで、cosαは、単位基線ベクトルと当該擬制された単位視線ベクトルとの内積に等しい。このため、以下の式(16)が成立する。
上記式(16)を上記式(15)に代入することにより、以下の式(17)が得られる。
変数iについて(i=1~N)、上記式(17)を行列形式に変形することにより、以下の式(18)が得られる。
なお、上記式(18)におけるベクトル値(式中u)は、上記式(3)により定義されるものである。
次いで、アンテナ姿勢推定部16は、上記検出された衛星位置ベクトルxi及びアンテナ位置ベクトルxA並びに上記算出されたアンテナ間位相差観測値φi
ABを用いて、上記式(18)に基づく最小二乗法により基線ベクトルxuABを算出する。これにより、基線ベクトル推定値x(^)uABが算出される(ステップST53)。
次いで、アンテナ姿勢推定部16は、当該算出された基線ベクトル推定値x(^)uABを出力する(ステップST54)。
次に、図13のフローチャートを参照して、位相差残差算出部17による位相差残差算出処理の詳細について説明する。
まず、位相差残差算出部17は、衛星信号処理部11aにより出力された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを取得する。また、位相差残差算出部17は、アンテナ姿勢推定部16により出力された基線ベクトル推定値x(^)uABを取得する(ステップST61)。
ここで、当該取得された航法メッセージに含まれる衛星配置に基づき、衛星位置ベクトルxiが検出される。また、当該取得されたアンテナ位置データに含まれるアンテナ位置に基づき、アンテナ位置ベクトルxAが検出される。
次いで、位相差残差算出部17は、上記取得された観測データに含まれる搬送波位相観測値を用いて、衛星信号SS1~SSNの各々に係るアンテナ間位相差観測値φi
ABを算出する(ステップST62)。位相差残差算出部17によるアンテナ間位相差観測値φi
ABの算出方法は、アンテナ姿勢推定部16によるアンテナ間位相差観測値φi
ABの算出方法と同様である。
次いで、位相差残差算出部17は、上記検出された衛星位置ベクトルxi及びアンテナ位置ベクトルxA並びに上記取得された基線ベクトル推定値x(^)uABを用いて、衛星信号SS1~SSNの各々に係るアンテナ間位相差理論値φ(^)i
ABを算出する(ステップST63)。このとき、位相差残差算出部17は、以下の式(19)によりアンテナ間位相差理論値φ(^)i
ABを算出する。
次いで、位相差残差算出部17は、当該算出されたアンテナ間位相差理論値φ(^)i
AB及び上記算出されたアンテナ間位相差観測値φi
ABを用いて、衛星信号SS1~SSNの各々に係る位相差残差φi
resiを算出する(ステップST64)。このとき、位相差残差算出部17は、以下の式(20)により位相差残差φi
resiを算出する。
次いで、位相差残差算出部17は、当該算出された位相差残差φi
resiを出力する(ステップST65)。
次に、図14のフローチャートを参照して、位相差閾値設定部18による位相差閾値設定処理の詳細について説明する。
まず、位相差閾値設定部18は、衛星信号処理部11aにより出力された航法メッセージ、観測データ及びアンテナ位置データを取得する(ステップST71)。
ここで、当該取得された航法メッセージに含まれる衛星位置に基づき、衛星位置ベクトルxiが検出される。また、当該取得されたアンテナ位置データに基づき、アンテナ位置ベクトルxAが検出される。
次いで、位相差閾値設定部18は、当該検出された衛星位置ベクトルxi及びアンテナ位置ベクトルxAを用いて、測位衛星PS1~PSNの各々に係る衛星仰角eleを算出する(ステップST72)。
次いで、位相差閾値設定部18は、当該算出された衛星仰角ele及び上記取得された観測データに含まれる信号対雑音比観測値SNRを用いて、衛星信号SS1~SSNの各々に係る位相差閾値φi
thre(ele,SNR)を設定する(ステップST73)。
ここで、位相差閾値設定部18は、位相差閾値テーブルを有している。位相差閾値設定部18は、測位衛星PS1~PSNの各々について(すなわち衛星信号SS1~SSNの各々について)、位相差閾値テーブルに含まれる複数個の位相差閾値のうちの衛星仰角ele及び信号対雑音比観測値SNRによる衛星仰角-信号対雑音比対に対応する1個の位相差閾値を選択する。位相差閾値設定部18は、当該選択された1個の位相差閾値を位相差閾値φi
thre(ele,SNR)に用いる。
次いで、位相差閾値設定部18は、当該設定された位相差閾値φi
thre(ele,SNR)を出力する(ステップST74)。
なお、位相差閾値テーブルにおける複数個の位相差閾値が離散的に定義されている場合、衛星仰角ele及び信号対雑音比観測値SNRによる衛星仰角-信号対雑音比対に対応する1個の位相差閾値を選択することが困難である場合がある。この場合、位相差閾値設定部18は、かかる衛星仰角-信号対雑音比対に対応する2個以上の位相差閾値を選択するものであっても良い。そして、位相差閾値設定部18は、当該選択された2個以上の位相差閾値に対する補間処理を実行することにより、位相差閾値φi
thre(ele,SNR)を設定するものであっても良い。
次に、図15のフローチャートを参照して、判定部15aによる判定処理の詳細について説明する。
まず、判定部15aは、ドップラ残差算出部13により出力されたドップラ残差fi
dop_A_resi、ドップラ閾値設定部14により出力されたドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)、位相差残差算出部17により出力された位相差残差φi
resi、及び位相差閾値設定部18により出力された位相差閾値φi
thre(ele,SNR)を取得する(ステップST81)。
次いで、判定部15aは、衛星信号SS1~SSNの各々について、当該取得された位相差残差φi
resiを当該取得された位相差閾値φi
thre(ele,SNR)と比較する(ステップST82)。これにより、衛星信号SS1~SSNの各々が直達波候補信号であるか否かが判定される。
すなわち、位相差残差φi
resiが位相差閾値φi
thre(ele,SNR)以下である場合、判定部15aは、対応する衛星信号SSiが直達波候補信号であると判定する。換言すれば、この場合、判定部15aは、対応する測位衛星PSiが直達波受信候補衛星であると判定する。他方、位相差残差φi
resiが位相差閾値φi
thre(ele,SNR)よりも大きい場合、判定部15aは、対応する衛星信号SSiが非直達波信号であると判定する。すなわち、この場合、判定部15aは、対応する測位衛星PSiが非直達波受信衛星であると判定する。
次いで、判定部15aは、ステップST82における判定結果に基づき、個々の直達波候補信号について、上記取得されたドップラ残差fi
dop_A_resiを上記取得されたドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)と比較する(ステップST83)。これにより、個々の直達波候補信号が直達波信号であるか否かが判定される。
すなわち、ドップラ残差fi
dop_A_resiがドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)以下である場合、判定部15aは、対応する衛星信号SSiが直達波信号であると判定する。換言すれば、この場合、判定部15aは、対応する測位衛星PSiが直達波受信衛星であるとする。他方、ドップラ残差fi
dop_A_resiがドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)よりも大きい場合、判定部15aは、対応する衛星信号SSiが非直達波信号であると判定する。換言すれば、この場合、判定部15aは、対応する測位衛星PSiが非直達波受信衛星であると判定する。
次いで、判定部15aは、ステップST83における判定結果に基づき、個々の直達波受信衛星を示す識別信号を出力する(ステップST84)。
このように、衛星信号判定装置100aは、ドップラ残差fi
dop_A_resiをドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)と比較するとともに、位相差残差φi
resiを位相差閾値φi
thre(ele,SNR)と比較することにより、衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かを判定する。これにより、移動体1が移動中であるか否かにかかわらず、当該判定をすることができる。また、移動体1の移動方向にかかわらず、当該判定をすることができる。この結果、例えば、移動体1が曲線移動をしているときであっても、当該判定をすることができる。
また、例えば、移動体1が車両により構成されているとき、走行中の路面に対して平行な面部による反射波がアンテナ2aにより受信されることがある。このような場合であっても、衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かを正確に判定することができる。
次に、位相差閾値テーブルの生成方法について説明する。位相差閾値テーブルは、例えば、以下のようにして生成されるものである。
いま、アンテナ2_A,2_Bと同様の2個のアンテナがオープンスカイ環境に設置されている。かかる状態にて、測位衛星PS1~PSNと同様の複数個の測位衛星が衛星信号SS1~SSNと同様の複数個の衛星信号をそれぞれ送信する。当該2個のアンテナは、当該複数個の衛星信号を受信する。次いで、当該複数個の衛星信号に対して、衛星信号処理部11aによる衛星信号処理と同様の処理、アンテナ姿勢推定部16によるアンテナ姿勢推定処理と同様の処理、及び位相差残差算出部17による位相差残差算出処理と同様の処理が実行される。
当該複数個の測位衛星の各々について(すなわち当該複数個の衛星信号の各々について)、衛星仰角及び信号対雑音比が異なる条件下にて、これらの手順が繰り返し実行される。これにより、衛星仰角-信号対雑音比対に対する位相差残差の確率分布が得られる。そして、この確率分布に基づき、衛星仰角-信号対雑音比対毎の位相差閾値が設定される。このようにして、位相差閾値テーブルが生成される。
次に、衛星信号判定装置100aの変形例について説明する。
アンテナ姿勢推定部16は、上記式(18)に基づく最小二乗法により基線ベクトルxuABを算出するとき、以下の式(21)に示す拘束条件を用いるものであっても良い。これにより、より精度の高い解を得ることができる。また、この場合、基線ベクトル推定値x(^)uABは、以下の式(22)により算出される。
また、アンテナ姿勢推定部16は、上記式(18)に基づく最小二乗法により基線ベクトルxuABを算出するとき、以下のような拘束条件を用いるものであっても良い。すなわち、アンテナ姿勢推定部16は、アンテナ2aの移動方向及びアンテナ2_A,2_Bの設置位置の幾何学的関係を基線ベクトルとアンテナ速度ベクトルとの拘束条件に用いるものであっても良い。例えば、アンテナ2aが直線移動をしているとき(すなわち移動体1が直線移動をしているとき)の拘束条件は、以下の式(23)により表される。ここで、δは、基線ベクトルに対するアンテナ2aの移動方向の角度を示している。
次に、衛星信号判定装置100aの他の変形例について説明する。
衛星信号SS1~SSNに非直達波信号が多く含まれている場合、アンテナ姿勢推定部16により算出される基線ベクトル推定値の誤差が大きくなる可能性がある。かかる誤差を小さくする観点から、アンテナ姿勢推定部16は、ロバスト推定を基線ベクトル推定値の算出に用いるものであっても良い。具体的には、例えば、アンテナ姿勢推定部16は、RANSAC法、最小メジアン法又はM推定法を用いるものであっても良い。
RANSAC法は、以下のように用いられる。すなわち、アンテナ姿勢推定部16は、N個の測位衛星PS1~SSNのうちのk個の測位衛星をランダムに選択する(k<N)。アンテナ姿勢推定部16は、当該選択されたk個の測位衛星に対応するk個の衛星信号に基づき、最小二乗法により基線ベクトル推定値を算出する。当該算出された基線ベクトル推定値を用いて、N個の測位衛星PS1~SSNの各々に係る位相差残差が算出される。これらの位相差残差は、例えば、位相差残差算出部17により算出される。アンテナ姿勢推定部16は、当該算出された位相差残差を取得する。
これらの手順が所定回繰り返し実行される。これにより、N個の位相差残差が所定回分取得される。アンテナ姿勢推定部16は、当該取得された所定回分の位相差残差に基づき、N個の位相差残差のうちの所定値以下の位相差残差の個数が最も大きい回における基線ベクトル推定値を採用する。
最小メジアン法は、以下のように用いられる。すなわち、アンテナ姿勢推定部16は、N個の測位衛星PS1~SSNのうちのk個の測位衛星をランダムに選択する。アンテナ姿勢推定部16は、当該選択されたk個の測位衛星に対応するk個の衛星信号に基づき、最小二乗法により基線ベクトル推定値を算出する。当該算出された基線ベクトル推定値を用いて、N個の測位衛星PS1~SSNの各々に係る位相差残差が算出される。これらの位相差残差は、例えば、位相差残差算出部17により算出される。アンテナ姿勢推定部16は、当該算出された位相差残差を取得する。
これらの手順が所定回繰り返し実行される。これにより、N個の位相差残差が所定回分取得される。アンテナ姿勢推定部16は、当該取得された所定回分の位相差残差に基づき、N個の位相差残差の中央値が最も大きい回における基線ベクトル推定値を採用する。
M推定法は、以下のように用いられる。すなわち、アンテナ姿勢推定部16は、上記式(18)代えて以下の式(24)を用いる。以下の式(24)は、上記式(18)に係る行列式に対して重みWphaseを付与してなるものである。
アンテナ姿勢推定部16が上記式(24)に基づく最小二乗法により基線ベクトル推定値を算出する処理、位相差残差算出部17が当該算出された基線ベクトル推定値を用いてN個の衛星信号SS1~SSNの各々に係る位相差残差を算出する処理、及びアンテナ姿勢推定部16が当該算出された位相差残差に基づき重みWphaseを更新する処理が所定回繰り返し実行される。重みWphaseの更新は、例えば、TukeyのBiweight推定法によるものである。このとき、重みWphaseは、大きい位相差残差に対応する測位衛星に係る観測値に付与されるときは小さくなり、かつ、小さい位相差残差に対応する測位衛星に係る観測値に付与されるときは大きくなるものである。
これらの方法(すなわちRANSAC法、最小メジアン法又はM推定法)を用いることにより、大きい誤差を含む観測値の影響を低減することができる。この結果、基線ベクトル推定値の誤差を小さくすることができる。
次に、衛星信号判定装置100aの他の変形例について説明する。
上記のとおり、アンテナ姿勢推定部16は、最小二乗法により基線ベクトル推定値を算出するものであっても良い。この場合、単一時刻における観測データが用いられる。これに対して、アンテナ姿勢推定部16は、カルマンフィルタにより基線ベクトル推定値を算出するものであっても良い。この場合、複数時刻における観測データが用いられる。
すなわち、この場合、基線ベクトルは、以下の式(25)により一次マルコフ過程としてモデル化される。かかる式(25)が状態方程式に用いられる。ここで、τphaseは、時定数を示している。また、ωxuABは、単位基線ベクトルに関するプロセスノイズベクトルを示している。
また、上記式(18)に所定の観測雑音を加えてなる数式が観測方程式に用いられる。これにより、カルマンフィルタによる基線ベクトルの推定を実現することができる。
なお、かかる推定においては、単位基線ベクトルが状態量ベクトルに含まれるのはもちろんのこと、アンテナ位置が状態量ベクトルに含まれるものであっても良い。また、アンテナ2aの移動速度等が状態量ベクトルに含まれるものであっても良い。
また、アンテナ間位相差に波数の整数値成分が未知の状態にて含まれている場合、整数最小二乗法を用いて予め当該整数値が決定されるものであっても良い。整数最小二乗法には、公知の種々の方法を用いることができる。例えば、LAMBDA(Least-squares Ambiguity Decorrelation Adjustment)法が用いられる。また、この場合、アンテナ間距離が小さい値に設定されることによりアンテナ間位相差が制限されることを利用して、当該整数値が決定されるものであっても良い。例えば、アンテナ間距離が1/2波長以下の値に設定されることによりアンテナ間位相差が-0.5波長~+0.5波長の範囲内に制限されることが利用される。
次に、衛星信号判定装置100aの他の変形例について説明する。
判定部15aは、衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かを判定するのに代えて(すなわち測位衛星PS1~PSNの各々が直達波受信衛星であるか否かを判定するのに代えて)、アンテナ2aがオープンスカイ環境に設置されているか否かを判定するものであっても良い。また、判定部15aは、個々の直達波受信衛星を示す識別信号を出力するのに代えて、当該判定の結果を示す信号(すなわち判定結果信号)を出力するものであっても良い。
この場合、ドップラ残差算出部13は、衛星信号SS1~SSNの各々に係るドップラ残差fi
dop_A_resiを算出した後、これらのドップラ残差fi
dop_A_resiの平方和RSSdopを算出する。ドップラ残差算出部13は、当該算出された平方和RSSdopを判定部15aに出力する。平方和RSSdopは、上記式(13)により算出される。
また、ドップラ閾値設定部14は、衛星信号SS1~SSNの各々に係るドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)を設定した後、これらのドップラ閾値fi
thre(ele,SNR)の平方和RSSdop_threを算出する。ドップラ閾値設定部14は、当該算出された平方和RSSdop_threを判定部15aに出力する。平方和RSSdop_threは、上記式(14)により算出される。
また、位相差残差算出部17は、衛星信号SS1~SSNの各々に係る位相差残差φi
resiを算出した後、これらの位相差残差φi
resiの平方和RSSphaseを算出する。位相差残差算出部17は、当該算出された平方和RSSphaseを判定部15aに出力する。平方和RSSphaseは、以下の式(26)により算出される。
また、位相差閾値設定部18は、衛星信号SS1~SSNの各々に係る位相差閾値φi
thre(ele,SNR)を設定した後、これらの位相差閾値φi
thre(ele,SNR)の平方和RSSphase_threを算出する。位相差閾値設定部18は、当該算出された平方和RSSphase_threを判定部15aに出力する。平方和RSSdop_threは、以下の式(27)により算出される。
判定部15aは、ドップラ残差算出部13により出力された平方和RSSdop、ドップラ閾値設定部14により出力された平方和RSSdop_thre、位相差残差算出部17により出力された平方和RSSphase及び位相差閾値設定部18により出力された平方和RSSphase_threを取得する。判定部15aは、当該取得された平方和RSSdopを当該取得された平方和RSSdop_threと比較するとともに、当該取得された平方和RSSphaseを当該取得された平方和RSSphase_threと比較する。
平方和RSSdopが平方和RSSdop_thre以下であり、かつ、平方和RSSphaseが平方和RSSphase_thre以下である場合、判定部15aは、アンテナ2aがオープンスカイ環境に設置されていると判定する。それ以外の場合、判定部15aは、アンテナ2aが非オープンスカイ環境に設置されていると判定する。
次に、衛星信号判定装置100aの他の変形例について説明する。
位相差残差算出部17は、アンテナ間位相差による位相差残差に代えて、二重位相差による位相差残差を算出するものであっても良い。これにより、衛星信号処理部11_A,11_Bの各々が有する局部発振器(不図示)における初期位相成分を打ち消すことができる。
この場合、アンテナ姿勢推定部16は、衛星信号処理部11aにより出力された観測データに含まれる搬送波位相観測値を用いて、衛星信号SS1~SSNの各々に係る二重位相差観測値φij
ABを算出する。ここで、φij
ABは、基準となる1個の衛星信号SSjに対する個々の衛星信号SSiに係る二重位相差観測値を示している。次いで、アンテナ姿勢推定部16は、以下の式(28)に基づく最小二乗法により基線ベクトルxuABを算出する。これにより、基線ベクトル推定値x(^)uABが算出される。
また、この場合、位相差残差算出部17は、衛星信号処理部11aにより出力された観測データに含まれる搬送波位相観測値を用いて、衛星信号SS1~SSNの各々に係る二重位相差観測値φij
ABを算出する。次いで、位相差残差算出部17は、以下の式(29)により、衛星信号SS1~SSNの各々に係る二重位相差理論値φ(^)ij
ABを算出する。
そのほか、衛星信号判定装置100aは、実施の形態1にて説明したものと同様の種々の変形例を採用することができる。
次に、衛星信号受信装置200aの変形例について説明する。
アンテナ2aは、3個以上のアンテナにより構成されているものであっても良い。この場合、3個以上のアンテナのうちの各2個のアンテナに係る基線ベクトルについて、上記の処理と同様の処理が実行されるものであっても良い。
以上のように、実施の形態2に係る衛星信号受信装置200aにおいて、アンテナ2aは、複数個のアンテナ2_A,2_Bにより構成されており、衛星信号受信装置200aは、複数個のアンテナ2_A,2_Bに係る基線ベクトル推定値を算出するアンテナ姿勢推定部16と、複数個の衛星信号SS1~SSNの各々について、基線ベクトル推定値を用いてアンテナ間位相差理論値を算出して、アンテナ間位相差理論値とアンテナ間位相差観測値との差分を示す位相差残差を算出する位相差残差算出部17と、複数個の衛星信号SS1~SSNの各々について、位相差残差に対する比較用の位相差閾値を設定する位相差閾値設定部18と、を備え、判定部15aは、ドップラ残差をドップラ閾値と比較するとともに位相差残差を位相差閾値と比較することにより、複数個の衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かを判定する。これにより、例えば、移動体1が車両により構成されているとき、走行中の路面に対して平行な面部による反射波がアンテナ2aにより受信された場合であっても、衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かを正確に判定することができる。
また、衛星信号受信装置200aにおいて、アンテナ2aは、複数個のアンテナ2_A,2_Bにより構成されており、複数個のアンテナ2_A,2_Bに係る基線ベクトル推定値を算出するアンテナ姿勢推定部16と、複数個の衛星信号SS1~SSNの各々について、基線ベクトル推定値を用いて二重位相差理論値を算出して、二重位相差理論値と二重位相差観測値との差分を示す位相差残差を算出する位相差残差算出部17と、複数個の衛星信号SS1~SSNの各々について、位相差残差に対する比較用の位相差閾値を設定する位相差閾値設定部18と、を備え、判定部15aは、ドップラ残差をドップラ閾値と比較するとともに位相差残差を位相差閾値と比較することにより、複数個の衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かを判定する。これにより、例えば、移動体1が車両により構成されているとき、走行中の路面に対して平行な面部による反射波がアンテナ2aにより受信された場合であっても、衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かを正確に判定することができる。
また、衛星信号受信装置200aは、複数個の衛星信号SS1~SSNを用いて、複数個の測位衛星PS1~PSNに係る衛星配置、複数個の衛星信号SS1~SSNの各々に係る搬送波位相観測値、ドップラ周波数観測値、複数個の衛星信号SS1~SSNの各々に係る信号対雑音比観測値、及びアンテナ2aに係るアンテナ位置を検出する衛星信号処理部11aを備え、搬送波位相観測値を用いてアンテナ間位相差観測値が算出されるものであり、アンテナ姿勢推定部16は、衛星配置及びアンテナ間位相差観測値を用いて基線ベクトル推定値を算出する。これにより、基線ベクトル推定値を算出することができる。
また、衛星配置に基づき複数個の測位衛星PS1~PSNの各々に係る衛星位置ベクトルが検出されるものであり、かつ、アンテナ位置に基づきアンテナ2aに係るアンテナ位置ベクトルが検出されるものであり、位相差残差算出部17は、衛星位置ベクトル、アンテナ位置ベクトル及び基線ベクトル推定値を用いてアンテナ間位相差理論値を算出する。これにより、アンテナ間位相差理論値を算出することができる。
また、衛星信号受信装置200aは、複数個の衛星信号SS1~SSNを用いて、複数個の測位衛星PS1~PSNに係る衛星配置、複数個の衛星信号SS1~SSNの各々に係る搬送波位相観測値、ドップラ周波数観測値、複数個の衛星信号SS1~SSNの各々に係る信号対雑音比観測値、及びアンテナ2aに係るアンテナ位置を検出する衛星信号処理部11aを備え、搬送波位相観測値を用いて二重位相差観測値が算出されるものであり、アンテナ姿勢推定部は、衛星配置及び二重位相差観測値を用いて基線ベクトル推定値を算出する。これにより、基線ベクトル推定値を算出することができる。
また、衛星配置に基づき複数個の測位衛星PS1~PSNの各々に係る衛星位置ベクトルが検出されるものであり、かつ、アンテナ位置に基づきアンテナ2aに係るアンテナ位置ベクトルが検出されるものであり、位相差残差算出部17は、衛星位置ベクトル、アンテナ位置ベクトル及び基線ベクトル推定値を用いて二重位相差理論値を算出する。これにより、二重位相差理論値を算出することができる。
また、アンテナ姿勢推定部16は、最小二乗法又はカルマンフィルタにより基線ベクトル推定値を算出する。これにより、基線ベクトル推定値を算出することができる。
また、アンテナ姿勢推定部16は、RANSAC法、最小メジアン法又はM推定法により基線ベクトル推定値を算出する。すなわち、アンテナ姿勢推定部16は、ロバスト推定により基線ベクトル推定値を算出する。これにより、衛星信号SS1~SSNに非直達波信号が多く含まれている場合であっても、基線ベクトル推定値を正確に算出することができる。
また、衛星配置を用いて複数個の測位衛星PS1~PSNの各々に係る衛星仰角が算出されるものであり、位相差閾値設定部18は、位相差閾値テーブルに含まれる複数個の位相差閾値のうちの衛星仰角及び信号対雑音比観測値に対応する1個以上の位相差閾値を選択して、当該選択された1個以上の位相差閾値に基づき位相差閾値を設定する。これにより、衛星仰角及び信号対雑音比観測値に応じて位相差閾値を適切な値に設定することができる。
また、アンテナ姿勢推定部16は、基線ベクトル推定値を算出するとき、アンテナ2aの移動方向及び複数個のアンテナ2_A,2_Bの設置位置の幾何学的関係をアンテナ2aに係る速度ベクトルと複数個のアンテナ2_A,2_Bに係る基線ベクトルとの拘束条件に用いる。これにより、より正確な基線ベクトル推定値を算出することができる。
実施の形態3.
図16は、実施の形態3に係る衛星信号受信装置の要部を示すブロック図である。図16を参照して、実施の形態3に係る衛星信号受信装置について説明する。なお、図16において、図9に示すブロックと同様のブロックには同一符号を付して説明を省略する。
図16に示す如く、衛星信号判定装置100bは、受信タイミング補正部19を有している。受信タイミング補正部19は、衛星信号処理部11aにより出力された航法メッセージ及び観測データを取得するものである。受信タイミング補正部19は、当該取得された航法メッセージ及び当該取得された観測データを用いて、衛星信号処理部11_A,11_Bの各々におけるクロック誤差を算出するものである。受信タイミング補正部19は、当該算出されたクロック誤差を用いて、当該取得された観測データに含まれる搬送波位相観測値を補正するものである。受信タイミング補正部19は、補正後の搬送波位相観測値を出力するものである。
以下、受信タイミング補正部19により実行される処理を総称して「受信タイミング補正処理」ということがある。かかる受信タイミング補正処理の詳細については、図18のフローチャートを参照して後述する。
位相差残差算出部17は、受信タイミング補正部19により出力された補正後の搬送波位相観測値を取得するようになっている。位相差残差算出部17は、位相差残差を算出するとき、衛星信号処理部11aにより出力された観測データに含まれる搬送波位相観測値に代えて、受信タイミング補正部19により出力された補正後の搬送波位相観測値を用いるようになっている。
衛星信号処理部11a、アンテナ方向推定部12、ドップラ残差算出部13、ドップラ閾値設定部14、判定部15a、アンテナ姿勢推定部16、位相差残差算出部17、位相差閾値設定部18及び受信タイミング補正部19により、衛星信号判定装置100bの要部が構成されている。衛星信号判定装置100bは、例えば、移動体1に設けられている。アンテナ2a及び衛星信号判定装置100bにより、衛星信号受信装置200bの要部が構成されている。
衛星信号判定装置100bの要部のハードウェア構成は、実施の形態1にて図2を参照して説明したものと同様である。このため、図示及び説明を省略する。すなわち、衛星信号処理部11a、アンテナ方向推定部12、ドップラ残差算出部13、ドップラ閾値設定部14、判定部15a、アンテナ姿勢推定部16、位相差残差算出部17、位相差閾値設定部18及び受信タイミング補正部19の各々の機能は、プロセッサ21及びメモリ22により実現されるものであっても良く、又は専用の処理回路23により実現されるものであっても良い。
次に、図17のフローチャートを参照して、衛星信号受信装置200bの動作について、衛星信号判定装置100aの動作を中心に説明する。なお、図17において、図10に示すステップと同様のステップには同一符号を付している。
まず、衛星信号処理部11aが衛星信号処理を実行する(ステップST1a)。
次いで、アンテナ方向推定部12がアンテナ方向推定処理を実行する(ステップST2)。次いで、ドップラ残差算出部13がドップラ残差算出処理を実行する(ステップST3)。次いで、ドップラ閾値設定部14がドップラ閾値設定処理を実行する(ステップST4)。
また、受信タイミング補正部19が受信タイミング補正処理を実行する(ステップST9)。次いで、アンテナ姿勢推定部16がアンテナ姿勢推定処理を実行する(ステップST6)。次いで、位相差残差算出部17が位相差残差算出処理を実行する(ステップST7)。次いで、位相差閾値設定部18が位相差閾値設定処理を実行する(ステップST8)。
次いで、判定部15aが判定処理を実行する(ステップST5a)。
次に、図18のフローチャートを参照して、受信タイミング補正部19による受信タイミング補正処理の詳細について説明する。
まず、受信タイミング補正部19は、衛星信号処理部11aにより出力された航法メッセージ及び観測データを取得する(ステップST91)。
次いで、受信タイミング補正部19は、当該取得された航法メッセージ及び観測データを用いて、衛星信号処理部11_Aにおけるクロック誤差Δt1を算出するとともに、衛星信号処理部11_Bにおけるクロック誤差Δt2を算出する(ステップST92)。
すなわち、衛星信号判定装置100bにおいて、衛星信号処理部11_A,11_Bの各々における内部時刻は既知である。そこで、受信タイミング補正部19は、当該取得された航法メッセージ及び観測データを用いた測位処理を実行することにより、測位時刻を算出する。受信タイミング補正部19により実行される測位処理は、例えば、単独測位、RTK測位又はPPP測位によるものである。そして、受信タイミング補正部19は、衛星信号処理部11_Aにおける内部時刻と当該算出された測位時刻との差分をとることにより、クロック誤差Δt1を算出する。また、受信タイミング補正部19は、衛星信号処理部11_Bにおける内部時刻と当該算出された測位時刻との差分をとることにより、クロック誤差Δt2を算出する。
次いで、受信タイミング補正部19は、当該算出されたクロック誤差Δt1,Δt2及び上記取得された観測データに含まれるドップラ周波数観測値を用いて、上記取得された観測データに含まれる搬送波位相観測値を補正する(ステップST93)。
すなわち、あるエポック時刻tにおいて、衛星信号処理部11_Aにより検出された搬送波位相観測値がφ1であり、かつ、衛星信号処理部11_Aにより検出されたドップラ周波数観測値がf1であるものとする。この場合、受信タイミング補正部19は、以下の式(30)により搬送波位相観測値φ1を補正する。ここで、φ1_revは、φ1に対する補正後の搬送波位相観測値を示している。
また、このエポック時刻tにおいて、衛星信号処理部11_Bにより検出された搬送波位相観測値がφ2であり、かつ、衛星信号処理部11_Bにより検出されたドップラ周波数観測値がf2であるものとする。この場合、受信タイミング補正部19は、以下の式(31)により搬送波位相観測値φ2を補正する。ここで、φ2_revは、φ2に対する補正後の搬送波位相観測値を示している。
次いで、受信タイミング補正部19は、補正後の搬送波位相観測値φ1,φ2を出力する(ステップST94)。
上記式(30)及び上記式(31)に示す如く、受信タイミング補正部19による搬送波位相観測値φ1,φ2の補正は、線形補間によるものである。かかる補間により、観測データに含まれる搬送波位相観測値φ1,φ2に対応する時刻がずれている場合であっても、位相差残差の算出に用いられる搬送波位相観測値φ1_rev,φ2_revに対応する時刻を揃えることができる。このため、衛星信号処理部11_A,11_Bの内部クロックが互いに非同期である場合であっても、衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かを正確に判定することができる。
なお、受信タイミング補正処理における補間は、上記の具体例に限定されるものではない。例えば、受信タイミング補正部19は、複数のエポック時刻tにおける搬送波位相観測値φ1,φ2を用いて、二次以上の線形補間を実行するものであっても良い。また、例えば、同一のエポック時刻tに検出された搬送波位相観測値φ1,φ2が存在しない場合、受信タイミング補正部19は、あるエポック時刻t1に検出された搬送波位相観測値φ1と、このエポック時刻t1に最も近い時刻t2に検出された搬送波位相観測値φ2とを用いて、クロック誤差はもちろんのこと、エポック時刻t1,t2間の時刻差を考慮した補間を実行するものであっても良い。
そのほか、衛星信号受信装置200bは、実施の形態1にて説明したものと同様の種々の変形例を採用することができる。また、衛星信号受信装置200bは、実施の形態2にて説明したものと同様の種々の変形例を採用することができる。
以上のように、実施の形態3に係る衛星信号受信装置200bにおいて、衛星信号処理部11aは、複数個のアンテナ2_A,2_Bに対応する複数個の衛星信号処理部11_A,11_Bにより構成されており、衛星信号受信装置200bは、複数個の衛星信号処理部11_A,11_Bの各々におけるクロック誤差を算出して、クロック誤差及びドップラ周波数観測値を用いて搬送波位相観測値の補正をする受信タイミング補正部19を備える。これにより、衛星信号処理部11_A,11_Bの内部クロックが互いに非同期である場合であっても、衛星信号SS1~SSNの各々が直達波信号であるか否かを正確に判定することができる。
実施の形態4.
図19は、実施の形態4に係る位置測定装置の要部を示すブロック図である。図19を参照して、実施の形態4に係る位置測定装置について説明する。
図19に示す如く、位置測定装置300は、アンテナ2及び衛星信号判定装置100を有している。すなわち、位置測定装置300は、衛星信号受信装置200を有している。衛星信号受信装置200は、実施の形態1にて説明したものと同様である。このため、衛星信号受信装置200についての詳細な説明は省略する。
以下、衛星信号判定装置100により実行される処理を総称して「衛星信号判定処理」ということがある。衛星信号判定処理に含まれる個々の処理は、実施の形態1にて説明したものと同様である。このため、これらの処理についての詳細な説明は省略する。
位置測定部31は、衛星信号判定装置100の衛星信号処理部11により出力された航法メッセージ及び観測データを取得するものである。位置測定部31は、当該取得された航法メッセージ及び観測データを用いて、移動体1の位置を測定する処理(以下「位置測定処理」という。)を実行するものである。
ここで、位置測定部31は、衛星信号判定装置100の判定部15により出力された識別信号を取得するようになっている。位置測定部31は、当該取得された識別信号を用いて、上記取得された航法メッセージ及び観測データのうちの直達波受信衛星に係る航法メッセージ及び観測データを位置測定処理に用いるようになっている。また、位置測定部31は、上記取得された航法メッセージ及び観測データのうちの非直達波受信衛星に係る航法メッセージ及び観測データを位置測定処理から除外するようになっている。
すなわち、判定部15による判定結果に基づき、衛星信号SS1~SSNのうちの直達波信号が位置測定処理に用いられるようになっている。また、衛星信号SS1~SSNのうちの非直達波信号が位置測定処理から除外されるようになっている。このように、非直達波信号を位置測定処理から除外することにより、位置測定処理における測定誤差の発生を抑制することができる。換言すれば、直達波信号のみを位置測定処理に用いることにより、位置測定処理における測定精度の向上を図ることができる。
衛星信号受信装置200及び位置測定部31により、位置測定装置300の要部が構成されている。
次に、図20を参照して、位置測定装置300の要部のハードウェア構成について説明する。
図20Aに示す如く、位置測定装置300は、アンテナ2、プロセッサ41及びメモリ42を有している。メモリ42には、衛星信号判定装置100及び位置測定部31の機能を実現するためのプログラムが記憶されている。かかるプログラムをプロセッサ41が読み出して実行することにより、衛星信号判定装置100及び位置測定部31の機能が実現される。
または、図20Bに示す如く、位置測定装置300は、アンテナ2及び処理回路43を有している。この場合、衛星信号判定装置100及び位置測定部31の機能は、専用の処理回路43により実現される。
または、位置測定装置300は、アンテナ2、プロセッサ41、メモリ42及び処理回路43を有している(不図示)。この場合、衛星信号判定装置100及び位置測定部31の機能のうちの一部の機能がプロセッサ41及びメモリ42により実現されるとともに、残余の機能が専用の処理回路43により実現される。
プロセッサ41は、1個又は複数個のプロセッサにより構成されている。個々のプロセッサは、例えば、CPU、GPU、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ又はDSPを用いたものである。
メモリ42は、1個又は複数個の不揮発性メモリにより構成されている。または、メモリ42は、1個又は複数個の不揮発性メモリ及び1個又は複数個の揮発性メモリにより構成されている。すなわち、メモリ42は、1個又は複数個のメモリにより構成されている。個々のメモリは、例えば、半導体メモリ又は磁気ディスクを用いたものである。より具体的には、個々の揮発性メモリは、例えば、RAMを用いたものである。また、個々の不揮発性メモリは、例えば、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM、ソリッドステートドライブ又はハードディスクドライブを用いたものである。
処理回路43は、1個又は複数個のデジタル回路により構成されている。または、処理回路43は、1個又は複数個のデジタル回路及び1個又は複数個のアナログ回路により構成されている。すなわち、処理回路43は、1個又は複数個の処理回路により構成されている。個々の処理回路は、例えば、ASIC、PLD、FPGA、SoC又はシステムLSIを用いたものである。
次に、図21のフローチャートを参照して、位置測定装置300の動作について、衛星信号判定装置100及び位置測定部31の動作を中心に説明する。
まず、衛星信号判定装置100が衛星信号判定処理を実行する(ステップST101)。次いで、位置測定部31が位置測定処理を実行する(ステップST102)。
次に、図22を参照して、位置測定装置300の変形例について説明する。
図22に示す如く、位置測定装置300は、衛星信号受信装置200に代えて衛星信号受信装置200aを有するものであっても良い。衛星信号受信装置200aは、実施の形態2にて説明したものと同様である。このため、衛星信号受信装置200aについての詳細な説明は省略する。
次に、図23を参照して、位置測定装置300の他の変形例について説明する。
図23に示す如く、位置測定装置300は、衛星信号受信装置200に代えて衛星信号受信装置200bを有するものであっても良い。衛星信号受信装置200bは、実施の形態3にて説明したものと同様である。このため、衛星信号受信装置200bについての詳細な説明は省略する。
次に、位置測定装置300の他の変形例について説明する。
実施の形態1にて説明したとおり、判定部15は、アンテナ2がオープンスカイ環境に設置されているか否かを判定するものであっても良い。また、実施の形態2にて説明したとおり、判定部15aは、アンテナ2aがオープンスカイ環境に設置されているか否かを判定するものであっても良い。
この場合、位置測定部31は、判定部15(又は判定部15a)により出力された判定結果信号を取得する。位置測定部31は、当該取得された判定結果信号を用いて、アンテナ2(又はアンテナ2a)がオープンスカイ環境に設置されているとき、位置測定処理を実行する。他方、アンテナ2(又はアンテナ2a)が非オープンスカイ環境に設置されているとき、位置測定部31は、位置測定処理の実行をキャンセルする。これにより、上記の例と同様に、直達波信号を位置測定処理に用いることができ、かつ、非直達波信号を位置測定処理から除外することができる。
そのほか、位置測定装置300における衛星信号受信装置200は、実施の形態1にて説明したものと同様の種々の変形例を採用することができる。また、位置測定装置300における衛星信号受信装置200aは、実施の形態1,2にて説明したものと同様の種々の変形例を採用することができる。また、位置測定装置300における衛星信号受信装置200bは、実施の形態1~3にて説明したものと同様の種々の変形例を採用することができる。
以上のように、実施の形態4に係る位置測定装置300は、衛星信号受信装置200、衛星信号受信装置200a又は衛星信号受信装置200bと、判定部15又は判定部15aによる判定結果に基づき、複数個の衛星信号SS1~SSNのうちの直達波信号を用いて位置測定処理を実行する位置測定部31と、を備え、判定部15又は判定部15aによる判定結果に基づき、複数個の衛星信号SS1~SSNのうちの非直達波信号が位置測定処理から除外されるものである。これにより、移動体1の位置を精度良く測定することができる。
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。