JP7153619B2 - コンクリートのスランプ特定方法及びスランプ特定システム - Google Patents

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Description

本発明は、コンクリートのスランプ特定方法とスランプ特定システムに関する。
現場におけるコンクリートの打設は、コンクリートプラントにて製造された所定配合のコンクリートがアジテータトラックにて現場に搬入され、アジテータトラックのシュートを介してコンクリートポンプ車のホッパーに送り出され、配管やホースを介して圧送されることにより行われる。高所やアジテータトラックが直接近接できない場所へのコンクリート打設にはこのようなコンクリートポンプ車を用いた圧送が行われる一方、近距離でのコンクリート打設の場合は、アジテータトラックのシュートに別途のシュートを繋いで連続させ、シュートを介して直接コンクリートが打設される。
実際のコンクリートの打設作業において、打設に供されるコンクリートが所定のコンシステンシー(軟らかさ)に関する規格を充足していることの確認は、ある一台のアジテータトラックからコンクリートの一部を採取してスランプ試験等を行い、スランプあるいはスランプフロー、あるいはそれらの双方を測定することにより行われている。しかしながら、この現場試験には手間を要することから、試験のためのサンプリングは打設コンクリートのボリュームが50m乃至150mごとに一回行われており、アジテータトラックの台数に換算すると11台乃至35台程度ごとに一回行われることになる。
そして、サンプリングを行わないアジテータトラックについては、傾斜したシュートを流下するコンクリートの状態を施工管理者等が目視にて観察し、コンクリートの性状の良否を判断することが一般に行われているが、この判断結果は観察者の経験値に左右されることになる。
そこで、このように個人差が生じ得る目視による定性的な判断に代わり、全アジテータトラックに対して定量的にコンクリートの性状を判断することのできる、フレッシュコンクリートの試験方法及び試験装置が提案されている。具体的には、アジテータトラックのシュートに取り付けられたカメラを用いて、シュートを流れるコンクリート面を一定時間ごとに撮影し、同時に、ある位置のコンクリートの断面形状とシュートの傾きを測定し、測定した写真からコンクリートの流速を算出し、断面形状からコンクリートの断面積を算出する。次に、コンクリートの流速と断面積から単位時間当たりの流量を算出し、算出した流量をシュートの傾きごとに定められた標準流量と比較し、標準流量の許容範囲にあれば合格であると判断する試験方法である(例えば、特許文献1参照)。
そして、特許文献1に記載の試験方法は、傾斜したシュートを流下するコンクリートの速度がスランプの大きさに関係すること、及びシュートの角度がコンクリートの流下速度に関係することを示す、公知文献(例えば、非特許文献1参照)を利用するものである。
特許第5715040号公報
笹倉ほか:傾斜フロー試験器によるフレッシュコンクリートの流動性評価に関する実験、日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.591-592、2010.9
特許文献1に記載のフレッシュコンクリートの試験方法及び試験装置では、フレッシュコンクリートの品質の良否の判断を、シュートを流下するコンクリートの流量により判断している。ところで、シュートを流下するコンクリートの流量は、施工上必要なポンプの打設速度を確保するべく、ポンプ車のホッパーの満状態が保たれるように、アジテータトラックの運転手が(回転)ドラムの(頂部)ゲートの開閉を調整した結果によるものであり、コンクリートのスランプやスランプフローに代表されるコンシステンシーと、シュートを降下するコンクリートの流量の間に直接的な関連性がないことは明らかである。そしてこのことは、ポンプ車を用いないコンクリートの打設においても、同様にアジテータトラックの運転手がコンクリートの排出量を調整していることから、コンクリートのコンシステンシーとシュートを降下するコンクリートの流量の間に直接的な関連性がないことに変わりはない。
従って、特許文献1に記載のフレッシュコンクリートの試験方法及び試験装置を適用した場合に、コンクリートの品質の良否が精度よく判断されているか否かは不明である。
コンクリートの柔らかさの基準は、あくまでもスランプもしくはスランプフローで表されるものであり、サンプリングして行う品質試験の判定値はこのスランプもしくはスランプフローであることから、サンプリングを行わないアジテータトラックから供給されるコンクリートにおいても、施工管理者等が知りたい情報は、シュートを流下するコンクリートのスランプもしくはスランプフローであることに変わりはない。
サンプリングを行わないアジテータトラックから供給されるコンクリートにおいても、シュートを流下するコンクリートのスランプもしくはスランプフローが分かって初めて、通常の試験方法の代替えとしての利用価値が得られることになる。
本発明は、アジテータトラックのシュートを流下するコンクリートのスランプ(もしくはスランプフロー)を精度よく特定することができ、もって、全アジテータトラックのコンクリートの性状を精度よく定量的に特定することのできる、コンクリートのスランプ特定方法及びスランプ特定システムを提供することを目的としている。
前記目的を達成すべく、本発明によるコンクリートのスランプ特定方法の一態様は、
傾斜したシュートを流下するコンクリートのスランプ特定方法であって、
コンクリートのスランプと、前記シュートを流下する該コンクリートの流下方向に直交する断面積と、該コンクリートの流下速度と、からなる三要素を変化させて、複数種の三要素間の相関グラフを求めておく、相関特定工程と、
前記シュートを用いたコンクリートの打設に当たり、該シュートにコンクリートを流下させた際のコンクリートの前記断面積を測定するとともに前記流下速度を測定もしくは算定し、前記相関グラフに対して該断面積及び該流下速度を適用することにより、該コンクリートのスランプを特定する、スランプ特定工程と、を有することを特徴とする。
本態様によれば、相関特定工程において、コンクリート(フレッシュコンクリート)のスランプと、シュートを流下するコンクリートの流下方向に直交する断面積と、コンクリートの流下速度と、からなる三要素間の相関グラフを求めておき、スランプ特定工程では、相関グラフに対して、測定されたシュートを流下するコンクリートの断面積と測定もしくは算定された流下速度を適用することにより、スランプを精度よく特定することができる。ここで、スランプは、スランプコーンを抜いた際にコーン頂部からコンクリート頂部までの距離のことであり、対してスランプフローはスランプコーンを抜いた際に円形に広がったコンクリートの直径のことであり、スランプフローはスランプの測定が困難な高流動コンクリート等のコンシステンシーの測定に供されるものであって両者は異なるものである。しかしながら、本明細書において「スランプ特定」とは、スランプの特定とスランプフローの特定のいずれか一方もしくは双方を含むものとする。
ここで、シュートを流下するコンクリートの断面積は、カメラ等の撮像機にて撮像される。この際、撮像機をシュートに対して直接取り付けてもよいし、撮像機をシュートから離れた位置にある例えば台座等の上に設置してもよい。また、撮像時間間隔が特定されている連写式の一台のカメラ等の撮像機にてシュートを流下するコンクリートを連写することにより、コンクリートの流下速度を算定してもよいし、例えば二台のカメラ等の撮像機をシュートの離れた位置に設置し、シュートを流下するコンクリートを二台のカメラにて撮像することにより、コンクリートの流下速度を算定してもよい。また、シュートを流下するコンクリートの断面積を撮像機にて測定し、コンクリートの流下速度を流速計にて測定してもよい。
相関特定工程は、コンクリートプラントや、現場における実施工に先行した試験施工により行われるのがよい。また、現場には、複数のコンクリートプラントからアジテータトラックを介してコンクリートが納入されることが往々にしてあるが、コンクリートプラントごとに骨材等の材料や製造方法が異なり、このことに起因して同じ配合のコンクリートであってもコンクリートプラントごとに製造されるコンクリートの品質は異なり、スランプが異なり得る。従って、このように複数のコンクリートプラントからコンクリートが納入される施工においては、本態様のコンクリートのスランプ特定方法における相関特定工程をコンクリートプラントごとに行い、コンクリートプラントごとの相関グラフを求めておくのが好ましい。
また、本発明によるコンクリートのスランプ特定方法の他の態様において、前記相関特定工程では、前記シュートの角度を基準傾斜角度に設定しておき、アジテータトラックの備えるドラムのゲートの開度を変化させ、それぞれの開度ごとに、前記基準傾斜角度を有する前記シュートを流下する前記断面積を測定し、前記流下速度を測定もしくは算定することを特徴とする。
本態様によれば、アジテータトラックの備えるドラムのゲートの開度を変化させ、それぞれの開度ごとに基準傾斜角度を有するシュートを流下する断面積を測定し、流下速度を測定もしくは算定して複数の相関グラフを作成しておくことにより、現場にて想定されるシュートの傾斜角度に対応した相関グラフに基づいて、スランプ特定工程にて速やかにスランプを特定することができる。アジテータトラックの備えるドラムの(頂部)ゲートの開度(例えば、開度(大)、開度(中)、開度(小)等)により、シュートを流下するコンクリートの断面積が変化し、断面積ごとに、コンクリートの流下速度とスランプの相関は変化し得る。
より詳細には、シュートの傾斜角度に応じても、シュートを流下する際のコンクリートの断面積と流下速度は変化する。そこで、様々なゲートの開度ごとに、コンクリートのスランプと、シュートを流下するコンクリートの流下方向に直交する断面積と、コンクリートの流下速度と、からなる三要素間の相関グラフを求めておくのがよい。その中でも、所定のアジテータトラックがコンクリートポンプ車を用いてコンクリート圧送する際のシュートの傾斜角度や、ポンプ車を用いずにコンクリートを打設する際のシュートの傾斜角度は特定できる(ポンプ車を用いる場合と用いない場合で、少なくとも二種類のシュートの傾斜角度を特定できる)。そこで、これら現場にて想定されるシュートの傾斜角度を基準傾斜角度とし、シュートを基準傾斜角度に設定した状態で相関特定工程を行い、基準傾斜角度ごとに複数の相関グラフを作成しておく。
また、本発明によるコンクリートのスランプ特定方法の他の態様において、前記スランプ特定工程では、前記シュートの傾斜角度を測定するとともに該シュートを流下するコンクリートの流下速度を測定もしくは算定し、測定された該傾斜角度と前記基準傾斜角度に基づいて、測定もしくは算定された該流下速度を補正して補正後流下速度を求め、該補正後流下速度を用いて前記コンクリートのスランプを特定することを特徴とする。
本態様によれば、相関特定工程において設定されているシュートの基準傾斜角度と、現場におけるシュートの傾斜角度が異なる場合に、測定された傾斜角度と基準傾斜角度に基づいて測定もしくは算定された流下速度を補正して補正後流下速度とし、この補正後流下速度を相関グラフに適用することにより、現場においてシュートを流下するコンクリートのスランプをより一層精度よく特定することができる。ここで、傾斜角度の測定は、電子スラントの他、角度検出機能を備えたスマートフォン等により行うことができる。
また、本発明によるコンクリートのスランプ特定方法の他の態様は、アジテータトラックから排出されるコンクリートに対して前記スランプ特定工程を複数回実行してコンクリートのスランプの経時変化グラフを作成する、スランプ経時変化特定工程と、
前記経時変化グラフに対してコンクリートのスランプに関する管理基準値を設定し、該経時変化グラフと該管理基準値の関係を検証してスランプを管理するスランプ管理工程と、をさらに有することを特徴とする。
本態様によれば、スランプ経時変化特定工程にてスランプの経時変化グラフを作成し、スランプ管理工程では経時変化グラフに管理基準値を設定してスランプを管理することにより、経時変化グラフの傾向から管理基準値を超えそうな場合には、事前に対策を講じることが可能になる。例えば、経時変化グラフの傾向から、夏場等の打設時期や交通状況等によるアジテータトラックの搬送時間の長時間化等を理由として、現状の配合では現場にてコンクリートを打設する際のスランプが規格外となることが予想される場合には、コンクリートプラントに配合調整の連絡を速やかに行うことにより、様々な環境や環境変化に応じたコンクリートの品質確保を図ることができる。
また、本発明によるコンクリートのスランプ特定システムの一態様は、
傾斜したシュートを流下するコンクリートのスランプ特定システムであって、
前記スランプ特定システムは、
格納部及び演算部を備えたスランプ特定装置と、
前記シュートを流下するコンクリートの流下方向に直交する断面積と流下速度の特定に用いられる該コンクリートを撮像する撮像機と、を少なくとも備え、
前記格納部には、コンクリートのスランプと、前記シュートを流下する該コンクリートの流下方向に直交する断面積と、該コンクリートの流下速度と、からなる三要素を変化させて求められる、複数種の三要素間の相関グラフが格納され、
さらに、前記シュートを用いたコンクリートの打設に当たり、該シュートにコンクリートを流下させた際に前記撮像機にて測定されたコンクリートの前記断面積と、測定もしくは算定された前記流下速度が格納され、
前記演算部では、前記相関グラフに対して測定された前記断面積と測定もしくは算定された前記流下速度を適用することにより、該コンクリートのスランプが特定されることを特徴とする。
本態様によれば、相関グラフが格納されている格納部と、現場において測定されたシュートを流下するコンクリートの断面積及び測定もしくは算定された流下速度を相関グラフに適用してスランプを特定する演算部と、を備えるスランプ特定装置を適用することにより、アジテータトラックからシュートを介して打設されるコンクリートのスランプを、精度よく全数評価することができる。ここで、適用される撮像機としては、既述するカメラ(CCDカメラやデジタルビデオカメラ等)や撮像機能を搭載したスマートフォン等が挙げられる。
本発明のコンクリートのスランプ特定方法及びスランプ特定システムによれば、アジテータトラックのシュートを流下するコンクリートのスランプ(もしくはスランプフロー)を、精度よく特定することができる。
実施形態に係るコンクリートのスランプ特定システムの一例を示す模式図である。 スランプ特定システムを形成するスランプ特定装置とその周辺機器のハードウェア構成の一例を示す図である。 スランプ特定装置の機能構成の一例を示す図である。 実施形態に係るコンクリートのスランプ特定方法の一例を示すフローチャートである。 相関特定工程における相関グラフの一例を示す図である。 相関グラフを用いたスランプ特定工程を示す図である。 補正後流下速度の算定方法の説明に用いる図である。 管理基準値を含む経時変化グラフの一例を示す図である。
以下、実施形態に係るコンクリートのスランプ特定システムとスランプ特定方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
[実施形態に係るコンクリートのスランプ特定システム]
<システムの全体構成>
はじめに、図1を参照して、実施形態に係るコンクリートのスランプ特定システムの一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係るコンクリートのスランプ特定システムの一例を示す模式図である。
スランプ特定システム50は、アジテータトラック70の後尾に配設されているシュート75に取り付けられている撮像機20と、同様にシュート75に取り付けられている傾斜計30と、スランプ特定装置10とを有する。
アジテータトラック70は、エンジンにより走行する車両71と、車両71に搭載されているドラム72とを有し、ドラム72は、前方受け部材と後方受け部材(ともに図示せず)により、前方が相対的に低く、後方が相対的に高くなるように車両71のシャーシ上に回転自在に搭載されている。ドラム72の内部には、螺旋状のブレードが配設されており、コンクリートプラントにて製造された(フレッシュ)コンクリートがホッパー73を介してドラム72に投入されるようになっている。コンクリートプラントから現場へのコンクリートの搬送過程においては、ドラム72を回転させることによりコンクリートが継続的に撹拌され、搬送中のコンクリートの硬化や劣化が防止される。
ドラム72の後方には、例えば一対のフローガイド74が中央に向かって下方に傾斜するようにして配設され、一対のフローガイド74の中央側の端部の下方位置には、シュート75が旋回自在に設けられている。シュート75の一端は一対のフローガイド74の中央位置の下方に配設され、シュート75は所定の傾斜角度を有してその他端が相対的に下方位置に配設されている。アジテータトラック70において、ドラム72を現場へ搬送する際の回転方向と逆方向に回転させると、ドラム72に積載されているコンクリートがブレードによりドラム72のゲート(図示せず)側に運ばれ、ゲートを介してドラム72から一対のフローガイド74にコンクリートが排出される。排出されたコンクリートは一対のフローガイド74によって中央に集められ、シュート75に落下される。ここで、ドラム72の有するゲートの開度は、例えば、開度(大)、開度(中)、開度(小)といった具合に開度が調整できるようになっており、ポンプ車のホッパーの満状態が保たれるように、アジテータトラックの運転手がドラムのゲートの開閉を所望に調整することができる。
図1に示すように、傾斜するシュート75の下端近傍には、略U字状の断面のシュート75の上方を跨るようにして該シュート75に取り付けられる台座21があり、台座21に撮像機20が取り付けられてシュート75を流下するコンクリートの断面積(流下方向に直交する断面積)を流下方向の下流側から撮像できるようになっている。尚、シュート75を流下するコンクリートの真正面に撮像機20を配設することは、コンクリートとの干渉の問題から物理的に不可能である。そのため、シュート75における流下方向に沿う軸線と、撮像機20による撮像方向の軸線の間に所定の傾角が存在し得るが、撮像機20にて撮像されたコンクリートの断面積を、当該所定の傾角を加味して補正することにより、コンクリートの流下方向に直交する断面積を求めることができる。そして、このような撮像画像の補正処理は、撮像機20の内部で実行してもよいし、撮像データが送信されるスランプ特定装置10にて実行してもよい。
撮像機20としては、CCDカメラやデジタルカメラ(一眼レフ、ハイビジョンを含む)、デジタルビデオカメラ等の他、撮像機能を搭載したスマートフォン等が適用できる。図示例は一台の撮像機20を適用する形態を示しており、撮像時間間隔が特定されている連写式の一台の撮像機20にて、シュート75を流下するコンクリートを連写することにより、コンクリートの流下速度を算定することができる。尚、例えば二台の撮像機をシュート75の離れた位置に設置し、シュート75を流下するコンクリートを二台の撮像機にて撮像することにより、コンクリートの流下速度を算定してもよい。また、流速計(図示せず)を用いて、コンクリートの流下速度を測定してもよい。
傾斜計30は、シュート75の傾斜角度を測定する計器であり、電子スラントの他、角度検出機能を備えたスマートフォン等が適用できる。
スランプ特定装置10は、スマートフォンやタブレット、パーソナルコンピュータなどにより形成されるが、図1には、タブレットにより形成されるスランプ特定装置10を示している。以下で詳説するように、スランプ特定装置10には、コンクリートのスランプと、シュート75を流下するコンクリートの流下方向に直交する断面積と、コンクリートの流下速度と、からなる三要素を変化させて求められる、複数種の三要素間の相関グラフデータが格納されている。そして、撮像機20にて撮像されたシュート75を流下するコンクリートの断面積データがスランプ特定装置10に送信され、スランプ特定装置10では、受信した複数のコンクリートの断面積データと撮像時間間隔等からコンクリートの流下速度を算定できるようになっている。スランプ特定装置10において、シュート75を流下するコンクリートの断面積データと、算定されたコンクリートの流下速度データを相関グラフに適用することにより、シュート75を流下するコンクリートのスランプ(もしくはスランプフロー)を特定することが可能になる。
スランプ特定システム50を適用することにより、現場においてコンクリートの打設に供される全てのアジテータトラックのシュート75を流下するコンクリートのスランプを特定することができる。すなわち、従来の現場試験に代わり、全てのアジテータトラックから荷下ろしされるコンクリートの品質の良否の判断を、定量的に精度よく、しかも効率的に行うことが可能になる。
<スランプ特定装置>
次に、図2及び図3を参照して、実施形態に係るコンクリートのスランプ特定システムを構成するスランプ特定装置について説明する。ここで、図2は、スランプ特定システムを形成するスランプ特定装置とその周辺機器のハードウェア構成の一例を示す図であり、図3は、スランプ特定装置の機能構成の一例を示す図である。
図2に示すように、スランプ特定装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、RAM(Random Access Memory)12、ROM(Read Only Memory)13、無線通信装置14、表示装置15、及び入力装置16を有し、それらがシステムバス(図示せず)にてデータ通信可能に接続されている。そして、インターネットや無線LAN(Local Area Network)、近距離無線通信等に代表されるネットワークを介して、撮影機20による撮像データや傾斜計30による計測データが無線通信装置14に送信されるようになっている。
ROM13には、各種のプログラムやプログラムによって利用されるデータ等が記憶されている。RAM12は、ROM13に記憶されているプログラムをロードするための記憶領域や、ロードされたプログラムのワーク領域として用いられる。CPU11は、RAM12にロードされたプログラムを処理することにより、各種の機能を実現する。例えば、コンクリートの断面積データと撮像時間間隔等からコンクリートの流下速度を算定したり、スランプ特定装置10に格納される相関グラフにシュート75を流下するコンクリートの断面積と流下速度を適用して、当該コンクリートのスランプを特定する処理を実行する。尚、その他、スランプ特定装置100にインストールされたプログラム等を記憶する補助記憶装置(図示せず)を有していてもよい。
表示装置15は、液晶ディスプレイ等からなり、たとえばタッチパネルの表示機能を担う。入力装置16は、表示装置15に対する接触体の接触を検出するセンサを有する電子部品である。接触体の接触の検出方式としては、静電方式や抵抗膜方式、光学方式などがある。この接触体として、施工管理者等の指や専用ペン等が挙げられる。無線通信装置14は、無線LAN又は移動体通信網等において通信を行う際に必要となる、アンテナ等の電子部品である。例えば、コンクリートプラントにおいて作成された相関グラフデータが、無線通信装置14に送信される。尚、現場において複数のコンクリートプラントからコンクリートを納入する場合は、コンクリートプラントごとに相関グラフを作成し、各コンクリートプラントから送信される相関グラフデータを無線通信装置14にて受信するのがよい。
スランプ特定装置10は、CPU11による制御により、図3に示す通信部101、演算部103、表示部105、警報部107、及び格納部109として機能する。
格納部109には、コンクリートプラントにおいて作成された、コンクリートのスランプと、シュート75を流下するコンクリートの流下方向に直交する断面積と、コンクリートの流下速度と、からなる三要素を変化させて求められる、複数種の三要素間の相関グラフが格納される。上記するように、現場において複数のコンクリートプラントからコンクリートを納入する場合は、コンクリートプラントごとの相関グラフが格納部109に格納される。また、格納部109には、撮像機20にて撮像されたシュート75を流下するコンクリートの断面積データや、以下で説明する演算部103にて算定された、コンクリートの流下速度データが格納される。
演算部103では、複数のコンクリートの断面積データと撮像時間間隔等からコンクリートの流下速度を算定する。また、コンクリートプラントでは、所定の(使用が想定される)アジテータトラック70がコンクリートポンプ車を用いてコンクリート圧送する際のシュート75の傾斜角度や、ポンプ車を用いずにコンクリートを打設する際のシュート75の傾斜角度が特定できる。そこで、これら現場にて想定されるシュート75の傾斜角度を基準傾斜角度とし、シュート75を複数の基準傾斜角度に設定した状態で、基準傾斜角度ごとの相関グラフを作成しておく。一方、現場では、傾斜計30にて測定されたシュート75の傾斜角度データが格納部109に格納される。
コンクリートプラントにて設定されているシュート75の基準傾斜角度と、現場にて測定されたシュート75の傾斜角度が異なる場合には、演算部103において、測定された傾斜角度と基準傾斜角度に基づいて算定された流下速度を補正して補正後流下速度を算定し、算定された補正後流下速度を相関グラフに適用することにより、現場においてシュート75を流下するコンクリートのスランプのより一層精度のよい特定が実現される。尚、この流下速度の補正方法は以下で詳説する。
さらに、演算部103は、例えば一台のアジテータトラックから排出されるコンクリートに対して、スランプの特定を間欠的に複数回実行することにより、コンクリートのスランプの経時変化グラフを作成する。そして、例えば格納部109において、コンクリートのスランプに関する管理基準値を格納しておき、演算部103にて作成された経時変化グラフに管理基準値を適用する。
演算部103では、経時変化グラフから以後のスランプの傾向を予測し、以後のスランプが管理基準値を超える可能性があると判断される場合は、警報部107が作動して施工管理者等にスランプの異常可能性を通知する。このスランプの傾向予測方法としては、スランプの上昇傾向が所定回数継続した際に、その上昇トレンドから予測ラインを作成して管理基準値との交点を求める方法や、スランプの上昇傾向が所定回数継続した際のスランプと管理基準値との間の差分が所定の閾値以下となっている場合に異常可能性ありと特定する方法など、様々な方法がある。
警報部107は、表示部105における点灯表示、ブザー等による音声通知等、様々な警報形態にて異常可能性を通知する。
異常可能性を通知された施工管理者は、スランプの異常可能性をコンクリートプラントに速やかに連絡し、コンクリートの配合調整等の措置を速やかに指示することにより、規格外のスランプを有するコンクリート打設を解消することができる。
[実施形態に係るコンクリートのスランプ特定方法]
次に、図4乃至図8を参照して、実施形態に係るコンクリートのスランプ特定方法の一例について説明する。ここで、図4は、実施形態に係るコンクリートのスランプ特定方法の一例を示すフローチャートである。また、図5は、相関特定工程における相関グラフの一例を示す図であり、図6は、相関グラフを用いたスランプ特定工程を示す図であり、図7は、補正後流下速度の算定方法の説明に用いる図である。さらに、図8は、管理基準値を含む経時変化グラフの一例を示す図である。
本実施形態に係るコンクリートのスランプ特定方法では、まず、コンクリートのスランプと、シュートを流下するコンクリートの流下方向に直交する断面積と、コンクリートの流下速度と、からなる三要素を変化させて、複数種の三要素間の相関グラフを求めておく、相関特定工程を実施する(ステップS10)。
相関特定工程は、現場にコンクリートを納入するコンクリートプラントにて実施工の前に実施され、複数のコンクリートプラントからコンクリートが納入される場合は、各コンクリートプラントにおいて相関特定工程が実施され、各コンクリートプラントに固有の相関グラフを作成する。
各コンクリートプラントは、それぞれに固有の(車種の)アジテータトラックを備えており、アジテータトラックごとにシュートの傾斜角度が相違する。そこで、コンクリートプラントでは、使用されるアジテータトラックごとに相関特定工程を実施し、各アジテータトラックに固有の相関グラフを作成するのが望ましい。
アジテータトラックの備えるドラムのゲートの開度により、シュートを流下するコンクリートの断面積が変化し、断面積ごとにコンクリートの流下速度とスランプの相関は変化し得る。さらに、シュートの傾斜角度に応じて、シュートを流下する際のコンクリートの断面積と流下速度は変化する。そこで、様々なゲートの開度ごとに、コンクリートのスランプと、シュートを流下するコンクリートの流下方向に直交する断面積と、コンクリートの流下速度と、からなる三要素間の相関グラフを求めておくことにより、現場では、ゲートの開度に応じた相関グラフを用いてスランプの特定を行うことが可能になる。
また、アジテータトラックがコンクリートポンプ車を用いてコンクリート圧送する際のシュートの傾斜角度と、ポンプ車を用いずにコンクリートを打設する際のシュートの傾斜角度は、相関特定工程の際に特定できる。現場においては、ポンプ車を用いる場合と用いない場合の例えば二種類のシュートの傾斜角度が想定され、相関特定工程では例えばこの二種類の傾斜角度を特定することができる。そこで、これら現場にて想定されるシュートの傾斜角度を基準傾斜角度とし、シュートを基準傾斜角度に設定した状態で相関特定工程を行い、基準傾斜角度ごとに複数の相関グラフを作成しておく。
図5に一例として示すように、相関グラフは、ある傾斜角度のシュートを流下するコンクリートの断面積ごとに、スランプを横軸とし、流下速度を縦軸とするグラフである。図示例では、断面積A1乃至A3の三種のグラフを含む相関グラフを示している。例えば、ドラムのゲートの開度に関し、開度(大)、開度(中)、開度(小)ごとの相関グラフが断面積A1乃至A3の各グラフに対応している。
図5においては、断面積A2の相関グラフを実線で示しており、断面積A1の相関グラフを二点鎖線で示しており、断面積A3の相関グラフの図示を省略している。例えば、断面積A2のグラフを参照すると、スランプ3cm、6cm、・・・・24cmの際の流下速度がグラフにプロットされ、各プロットを結ぶ曲線、もしくは各プロットに基づく近似曲線が示されている。
例えば、現場において、アジテータトラックの運転手がドラムのゲートを開度(中)に設定してコンクリートの荷下ろしを行っている場合は、開度(中)に対応する断面積A2の相関グラフを適用する。尚、現場におけるゲートの開度と当該開度に対応する相関グラフの選定は、スランプ特定装置10にて実行される。
図4に戻り、次いで、シュート75を用いたコンクリートの打設に当たり、シュート75にコンクリートを流下させた際のコンクリートの断面積を撮像機20にて測定するとともに、撮像された複数の断面積と撮像機20による撮像時間間隔等に基づいてコンクリートの流下速度を算定し、相関グラフに対して測定された断面積と算定された流下速度を適用することにより、シュート75を流下するコンクリートのスランプを特定する、スランプ特定工程を実施する(ステップS20)。
より具体的には、図6に示すように、例えば、アジテータトラックの運転手がドラムのゲートを開度(中)に設定してコンクリートの荷下ろしを行っている場合に、現場において算定された流下速度Vtを、対象となるアジテータトラックに固有の相関グラフのうち、断面積A2のグラフに適用する。
図6に示す例では、断面積A2のグラフに対して、算定された流下速度Vtを適用することにより、グラフにおいて流下速度Vtに対応するスランプ15cmが特定される。
また、相関特定工程において設定されているシュートの基準傾斜角度と、現場におけるシュートの傾斜角度が異なる場合には、測定された傾斜角度と基準傾斜角度に基づいて測定もしくは算定された流下速度を補正して補正後流下速度とし、この補正後流下速度を相関グラフに適用する。
ここで、この流下速度の補正方法としては、開水路の流れが等流(場所に対する変化がなく、どの断面においても水深や流速の等しい流れ)の場合に、経験則として以下の式(1)により示すマニング式に基づいて、平均流速が求められる。尚、図7に示すように、シュート75を流下するコンクリートCの断面積がAであり、潤辺がSである。
Figure 0007153619000001
シュートの断面形状は一定のため、流量を一定にすれば等流と仮定してマニング式により平均流速Vが求められる。ここで、粗度係数nが一定であることから、以下の式(2)により、基準傾斜角度と現場にて測定された傾斜角度に基づいて、現場にて実測された流下速度を補正して補正後流下速度を求めることができる。
Figure 0007153619000002
このように、相関特定工程において設定されているシュートの基準傾斜角度と、現場にて測定されたシュートの傾斜角度が異なる場合には、測定された傾斜角度と基準傾斜角度に基づいて、現場にて測定もしくは算定された流下速度を補正して補正後流下速度とし、この補正後流下速度を相関グラフに適用することにより、現場においてシュートを流下するコンクリートのスランプをより一層精度よく特定することができる。
図4に戻り、アジテータトラックから排出されるコンクリートに対してスランプ特定工程を複数回実施することにより、図8に示すようなスランプの経時変化グラフを作成する、スランプ経時変化特定工程を実施する(ステップS30)。
さらに、スランプ経時変化特定工程において作成された経時変化グラフに対してコンクリートのスランプに関する管理基準値を設定し、経時変化グラフと管理基準値の関係を検証してスランプを管理する、スランプ管理工程を実施する(ステップS40)。図8では、横軸の中心にスランプの管理中心値を置き、管理基準値の一例として、規格上限値及び規格下限値と、それらの80%の値を設定している。この80%の値は、危険水域を示し、何等かの対策を講じる目安を示す値である。
図8では、サンプル取得回数t1の前から所定回数に亘ってスランプが上昇トレンドとなり、サンプル取得回数t1のときに規格上限値80%の危険水域に達している。この上昇トレンドに基づいて予測ラインX1を作成すると、サンプル回数が数回後にスランプが規格上限値を超え、品質NGのコンクリートとなり得る。
そこで、例えば、サンプル取得回数t1の段階で、施工管理者は、スランプの異常可能性をコンクリートプラントに速やかに連絡し、コンクリートの配合調整等の措置を速やかに指示する。このことにより、日中の気温変動や、アジテータトラックが現場に到着するまでの交通状況の変化等に臨機に対応しながら、スランプのトレンドをサンプル取得回数t2にて規格上限値未満で頭打ちとさせ、管理中心値に近接していくラインX2となるように管理することにより、規格外のスランプを有するコンクリートの現場搬入を解消することができる。
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
10:スランプ特定装置(コンクリートのスランプ特定装置、タブレット)
20:撮像機(表示画面)
30:傾斜計
50:スランプ特定システム(コンクリートのスランプ特定システム)
70:アジテータトラック
72:ドラム
75:シュート
103:演算部
109:格納部

Claims (5)

  1. 傾斜したシュートを流下するコンクリートのスランプ特定方法であって、
    コンクリートのスランプと、前記シュートを流下する該コンクリートの流下方向に直交する断面積と、該コンクリートの流下速度と、からなる三要素を変化させて、複数種の三要素間の相関グラフを求めておく、相関特定工程と、
    前記シュートを用いたコンクリートの打設に当たり、該シュートにコンクリートを流下させた際のコンクリートの前記断面積を測定するとともに前記流下速度を測定もしくは算定し、前記相関グラフに対して該断面積及び該流下速度を適用することにより、該コンクリートのスランプを特定する、スランプ特定工程と、を有することを特徴とする、コンクリートのスランプ特定方法。
  2. 前記相関特定工程では、前記シュートの角度を基準傾斜角度に設定しておき、アジテータトラックの備えるドラムのゲートの開度を変化させ、それぞれの開度ごとに、前記基準傾斜角度を有する前記シュートを流下する前記断面積を測定し、前記流下速度を測定もしくは算定することを特徴とする、請求項1に記載のコンクリートのスランプ特定方法。
  3. 前記スランプ特定工程では、前記シュートの傾斜角度を測定するとともに該シュートを流下するコンクリートの流下速度を測定もしくは算定し、測定された該傾斜角度と前記基準傾斜角度に基づいて、測定もしくは算定された該流下速度を補正して補正後流下速度を求め、該補正後流下速度を用いて前記コンクリートのスランプを特定することを特徴とする、請求項2に記載のコンクリートのスランプ特定方法。
  4. アジテータトラックから排出されるコンクリートに対して前記スランプ特定工程を複数回実行してコンクリートのスランプの経時変化グラフを作成する、スランプ経時変化特定工程と、
    前記経時変化グラフに対してコンクリートのスランプに関する管理基準値を設定し、該経時変化グラフと該管理基準値の関係を検証してスランプを管理するスランプ管理工程と、をさらに有することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のコンクリートのスランプ特定方法。
  5. 傾斜したシュートを流下するコンクリートのスランプ特定システムであって、
    前記スランプ特定システムは、
    格納部及び演算部を備えたスランプ特定装置と、
    前記シュートを流下するコンクリートの流下方向に直交する断面積と流下速度の特定に用いられる該コンクリートを撮像する撮像機と、を少なくとも備え、
    前記格納部には、コンクリートのスランプと、前記シュートを流下する該コンクリートの流下方向に直交する断面積と、該コンクリートの流下速度と、からなる三要素を変化させて求められる、複数種の三要素間の相関グラフが格納され、
    さらに、前記シュートを用いたコンクリートの打設に当たり、該シュートにコンクリートを流下させた際に前記撮像機にて測定されたコンクリートの前記断面積と、測定もしくは算定された前記流下速度が格納され、
    前記演算部では、前記相関グラフに対して測定された前記断面積と測定もしくは算定された前記流下速度を適用することにより、該コンクリートのスランプが特定されることを特徴とする、コンクリートのスランプ特定システム。
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