JP7150783B2 - カルバメート化セルロース繊維の製造方法及びカルバメート化微細繊維の製造方法 - Google Patents

カルバメート化セルロース繊維の製造方法及びカルバメート化微細繊維の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、カルバメート化セルロース繊維の製造方法及びカルバメート化微細繊維の製造方法に関するものである。
近年、セルロースナノファイバーや、マイクロ繊維セルロース(ミクロフィブリル化セルロース)等の微細繊維は、樹脂の補強材としての使用が脚光を浴びている。もっとも、微細繊維が親水性であるのに対し、樹脂は疎水性であるため、微細繊維を樹脂の補強材として使用するには、当該微細繊維の分散性に問題があった。そこで、本発明者等は、微細繊維のヒドロキシル基をカルバメート基で置換する(カルバメート化)ことを提案した(特許文献1参照)。この提案によると、微細繊維の分散性が向上し、もって樹脂の補強効果が向上する。
また、その後、数々の試験を重ねるなかで、カルバメート基の置換率が1mmol/g以上であると、樹脂の補強効果、例えば曲げ伸びが向上することを知見した。そこで、更にこの知見を前提に、カルバメート化をより短時間で行うことができないかが模索されるようになった。カルバメート化を単に短時間で行うだけでは、カルバメート基の置換率が1mmol/g以上にならないためである。
特開2019-1876号公報
本発明が解決しようとする主たる課題は、カルバメート化を十分に、かつ短時間で行うことができるカルバメート化セルロース繊維の製造方法及びカルバメート化微細繊維の製造方法を提供することにある。
一般論としては反応を短時間で行うためには反応温度を上げることが考えられる。しかしながら、カルバメート基の置換率を上げるとセルロース繊維がダメージを受け易くなる。したがって、特許文献1では加熱処理の温度を上限200℃としているが、カルバメート基の置換率を上げる場合においては、セルロース繊維のダメージを抑えるとの観点から、通常、140℃程度で加熱処理を行っていた。つまり、カルバメート基の置換率を上げる場合、特に1mmol/g以上にする場合においては、反応温度を高温化するという発想が存在しなかった。もちろん、高温化すれば短時間でもカルバメート基の置換率を1mmol/g以上とすることができるなどという知見も存在しなかった。
しかしながら、更に数々の試験を重ねていく中で、加熱処理の温度が所定の範囲内であれば、セルロース繊維のダメージを抑えつつ、加熱処理の時間が短時間でもカルバメート基の置換率を1mmol/g以上にすることができることを知見するに至った。このような知見のもと想到するに至ったのが次に示す手段である。
(請求項に記載の手段)
セルロース繊維を加熱処理して前記セルロース繊維のヒドロキシ基をカルバメート基で置換率1.0mmol/g以上となるように置換する工程を有し、
前記加熱処理を加熱温度150~170℃、加熱時間0.5~2.0時間で、かつ前記加熱温度及び前記加熱時間を前記セルロース繊維の結晶化度が50%以上となる限度で行い、
前記加熱処理は、前記セルロース繊維に尿素及び尿素の誘導体の少なくともいずれか一方並びにクエン酸及びクエン酸塩が添加された条件で系内のpHが酸性条件となるように行い、
前記セルロース繊維に対する前記クエン酸の添加量を0.1~10,000ppmとし、
前記クエン酸に対する前記クエン酸塩の添加割合を前記クエン酸100質量部に対して10~1,000質量部とする、
ことを特徴とするカルバメート化セルロース繊維の製造方法。
(請求項に記載の手段)
前記セルロース繊維に対する前記尿素及び前記尿素の誘導体の添加量を1~70%とする、
請求項1に記載のカルバメート化セルロース繊維の製造方法。
(請求項に記載の手段)
前記カルバメート基で置換する工程は、混合処理、除去処理、及び加熱処理に区分され、
前記混合処理においては、前記セルロース繊維と尿素及び尿素の誘導体の少なくともいずれか一方とを分散媒中で混合し、
前記除去処理においては、前記混合処理において得られたセルロース繊維並びに尿素及び尿素の誘導体の少なくともいずれか一方を含む分散液から前記分散媒を除去し、
この分散媒の除去は、50~120℃で加熱して分散媒を揮発させることで行い、
前記分散媒としては、水を使用する、
請求項1に記載のカルバメート化セルロース繊維の製造方法。
(請求項に記載の手段)
セルロース繊維を加熱処理して前記セルロース繊維のヒドロキシ基をカルバメート基で置換率1.0mmol/g以上となるように置換する工程と、
セルロース繊維を平均繊維幅が19μm以下となるように解繊して微細繊維とする工程とを有し、
前記加熱処理を加熱温度150~170℃、加熱時間0.5~2.0時間で、かつ前記加熱温度及び前記加熱時間を前記セルロース繊維の結晶化度が50%以上となる限度で行い、
前記加熱処理は、前記セルロース繊維に尿素及び尿素の誘導体の少なくともいずれか一方並びにクエン酸及びクエン酸塩が添加された条件で系内のpHが酸性条件となるように行い、
前記セルロース繊維に対する前記クエン酸の添加量を0.1~10,000ppmとし、
前記クエン酸に対する前記クエン酸塩の添加割合を前記クエン酸100質量部に対して10~1,000質量部とする、
ことを特徴とするカルバメート化微細繊維の製造方法。
(請求項に記載の手段)
前記セルロース繊維として平均繊維長が0.50~5.00mmのセルロース原料を使用し、前記解繊によって前記微細繊維の平均繊維長を0.10~2.00mmとする、
請求項に記載のカルバメート化微細繊維の製造方法。
本発明によると、カルバメート化を十分に、かつ短時間で行うことができるカルバメート化セルロース繊維の製造方法及びカルバメート化微細繊維の製造方法となる。
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は、本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
本形態のカルバメート化セルロース繊維の製造方法は、セルロース繊維を加熱処理してセルロース繊維のヒドロキシ基(-OH基)の一部又は全部をカルバメート基で置換する工程を有する。この置換は、樹脂の補強効果という観点から、置換率1.0mmol/g以上となるように行う。また、カルバメート化する際の加熱処理は、150~170℃で行う。さらに、カルバメート化微細繊維の製造方法は、以上に加えてセルロース繊維を平均繊維幅が19μm以下となるように解繊して微細繊維とする工程を有するものとする。この解繊は、原料パルプをカルバメート化した後に行っても、原料パルプをカルバメート化する前に行ってもよい。ただし、原料パルプをカルバメート化した後、解繊する方が好ましい。以下、詳細に説明する。なお、カルバメート化セルロース繊維の製造方法におけるカルバメート化セルロース繊維とは、カルバメート化微細繊維を除く趣旨ではない。
(セルロース繊維)
微細繊維は、原料パルプ(セルロース原料)を解繊(微細化)することで得ることができる。この解繊は、微細繊維がセルロースナノファイバーとなるように行っても、マイクロ繊維セルロース(ミクロフィブリル化セルロース)となるように行ってもよい。ただし、マイクロ繊維セルロースとなるように行う方が好ましい。マイクロ繊維セルロースの方が、樹脂の補強効果が向上する。また、マイクロ繊維セルロースは微細繊維であるが、同じく微細繊維であるセルロースナノファイバーよりもカルバメート基で変性する(カルバメート化)するのが容易である。ただし、微細化する前の原料パルプをカルバメート化するのが好ましく、この場合においては、マイクロ繊維セルロース及びセルロースナノファイバーは同等である。
本形態においてマイクロ繊維セルロースとは、セルロースナノファイバーよりも平均繊維径(幅)の太い繊維を意味する。具体的には、平均繊維径が、例えば0.1~19μm、好ましくは0.2~15μm、より好ましくは0.5超~10μmである。マイクロ繊維セルロースの平均繊維径が0.1μmを下回ると(未満になると)、セルロースナノファイバーであるのと変わらなくなり、樹脂の強度(特に曲げ弾性率)向上効果に劣るおそれがある。また、解繊時間が長くなり、大きなエネルギーが必要になる。さらに、セルロース繊維スラリーの脱水性が悪化する。脱水性が悪化すると、乾燥に大きなエネルギーが必要になり、乾燥に大きなエネルギーをかけるとマイクロ繊維セルロースが熱劣化して、強度が低下するおそれがある。他方、マイクロ繊維セルロースの平均繊維径が19μmを上回ると(超えると)、パルプであるのと変わらなくなり、補強効果が十分でなくなるおそれがある。
本形態において微細繊維(マイクロ繊維セルロース及びセルロースナノファイバー)の平均繊維径の測定方法は、次のとおりである。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%の微細繊維の水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて3,000倍~30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維径とする。
微細繊維は、原料パルプを解繊(微細化)することで得ることができる。原料パルプとしては、例えば、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス・綿・麻・じん皮繊維等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。なお、以上の各種原料は、例えば、セルロース系パウダーなどと言われる粉砕物(粉状物)の状態等であってもよい。
ただし、不純物の混入を可及的に避けるために、原料パルプとしては、木材パルプを使用するのが好ましい。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
広葉樹クラフトパルプは、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。同様に、針葉樹クラフトパルプは、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。
機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
原料パルプは、解繊するに先立って化学的手法によって前処理することができる。化学的手法による前処理としては、例えば、酸による多糖の加水分解(酸処理)、酵素による多糖の加水分解(酵素処理)、アルカリによる多糖の膨潤(アルカリ処理)、酸化剤による多糖の酸化(酸化処理)、還元剤による多糖の還元(還元処理)等を例示することができる。ただし、化学的手法による前処理としては、酵素処理を施すのが好ましく、加えて酸処理、アルカリ処理、及び酸化処理の中から選択された1又は2以上の処理を施すのがより好ましい。以下、酵素処理について詳細に説明する。
酵素処理に使用する酵素としては、セルラーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましく、両方を併用するのがより好ましい。これらの酵素を使用すると、セルロース原料の解繊がより容易になる。なお、セルラーゼ系酵素は、水共存下でセルロースの分解を惹き起こす。また、ヘミセルラーゼ系酵素は、水共存下でヘミセルロースの分解を惹き起こす。
セルラーゼ系酵素としては、例えば、トリコデルマ(Trichoderma、糸状菌)属、アクレモニウム(Acremonium、糸状菌)属、アスペルギルス(Aspergillus、糸状菌)属、ファネロケエテ(Phanerochaete、担子菌)属、トラメテス(Trametes、担子菌)属、フーミコラ(Humicola、糸状菌)属、バチルス(Bacillus、細菌)属、スエヒロタケ(Schizophyllum、担子菌)属、ストレプトミセス(Streptomyces、細菌)属、シュードモナス(Pseudomonas、細菌)属などが産生する酵素を使用することができる。これらのセルラーゼ系酵素は、試薬や市販品として購入可能である。市販品としては、例えば、セルロイシンT2(エイチピィアイ社製)、メイセラ-ゼ(明治製菓社製)、ノボザイム188(ノボザイム社製)、マルティフェクトCX10L(ジェネンコア社製)、セルラーゼ系酵素GC220(ジェネンコア社製)等を例示することができる。
また、セルラーゼ系酵素としては、EG(エンドグルカナーゼ)及びCBH(セロビオハイドロラーゼ)のいずれかもを使用することもできる。EG及びCBHは、それぞれを単体で使用しても、混合して使用してもよい。また、ヘミセルラーゼ系酵素と混合して使用してもよい。
ヘミセルラーゼ系酵素としては、例えば、キシランを分解する酵素であるキシラナーゼ(xylanase)、マンナンを分解する酵素であるマンナーゼ(mannase)、アラバンを分解する酵素であるアラバナーゼ(arabanase)等を使用することができる。また、ペクチンを分解する酵素であるペクチナーゼも使用することができる。
ヘミセルロースは、植物細胞壁のセルロースミクロフィブリル間にあるペクチン類を除いた多糖類である。ヘミセルロースは多種多様で木材の種類や細胞壁の壁層間でも異なる。針葉樹の2次壁では、グルコマンナンが主成分であり、広葉樹の2次壁では4-O-メチルグルクロノキシランが主成分である。そこで、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)から微細繊維を得る場合は、マンナーゼを使用するのが好ましい。また、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)から微細繊維を得る場合は、キシラナーゼを使用するのが好ましい。
セルロース原料に対する酵素の添加量は、例えば、酵素の種類、原料となる木材の種類(針葉樹か広葉樹か)、機械パルプの種類等によって決まる。ただし、セルロース原料に対する酵素の添加量は、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.3~2.5質量%、特に好ましくは0.5~2質量%である。酵素の添加量が0.1質量%を下回ると、酵素の添加による効果が十分に得られないおそれがある。他方、酵素の添加量が3質量%を上回ると、セルロースが糖化され、微細繊維の収率が低下するおそれがある。また、添加量の増量に見合う効果の向上を認めることができないとの問題もある。
酵素としてセルラーゼ系酵素を使用する場合、酵素処理時のpHは、酵素の反応性の観点から、弱酸性領域(pH=3.0~6.9)であるのが好ましい。他方、酵素としてヘミセルラーゼ系酵素を使用する場合、酵素処理時のpHは、弱アルカリ性領域(pH=7.1~10.0)であるのが好ましい。
酵素処理時の温度は、酵素としてセルラーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素のいずれを使用する場合においても、好ましくは30~70℃、より好ましくは35~65℃、特に好ましくは40~60℃である。酵素処理時の温度が30℃以上であれば、酵素活性が低下し難くなり、処理時間の長期化を防止することができる。他方、酵素処理時の温度が70℃以下であれば、酵素の失活を防止することができる。
酵素処理の時間は、例えば、酵素の種類、酵素処理の温度、酵素処理時のpH等によって決まる。ただし、一般的な酵素処理の時間は、0.5~24時間である。
酵素処理した後には、酵素を失活させるのが好ましい。酵素を失活させる方法としては、例えば、アルカリ水溶液(好ましくはpH10以上、より好ましくはpH11以上)を添加する方法、80~100℃の熱水を添加する方法等が存在する。
次に、アルカリ処理の方法について説明する。
解繊に先立ってアルカリ処理すると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの水酸基が一部解離し、分子がアニオン化することで分子内及び分子間水素結合が弱まり、解繊におけるセルロース原料の分散が促進される。
アルカリ処理に使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の有機アルカリ等を使用することができる。ただし、製造コストの観点からは、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
解繊に先立って酵素処理や酸処理、酸化処理を施すと、微細繊維の保水度を低く、結晶化度を高くすることができ、かつ均質性を高くすることができる。この点、微細繊維の保水度が低いと脱水し易くなり、セルロース繊維スラリーの脱水性が向上する。
原料パルプを酵素処理や酸処理、酸化処理すると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの非晶領域が分解される。結果、解繊のエネルギーを低減することができ、セルロース繊維の均一性や分散性を向上することができる。ただし、前処理は、微細繊維のアスペクト比を低下させるため、樹脂の補強材として使用する場合には、過度の前処理を避けるのが好ましい。
原料パルプの解繊は、例えば、ビーター、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、単軸混練機、多軸混練機、ニーダーリファイナー、ジェットミル等を使用して原料パルプを叩解することによって行うことができる。ただし、リファイナーやジェットミルを使用して行うのが好ましい。
微細繊維の平均繊維長(単繊維の長さの平均)は、好ましくは0.10~2.00mm、より好ましくは0.12~1.50mm、特に好ましくは0.15~1.00mmである。平均繊維長が0.10mmを下回ると、繊維同士の三次元ネットワークを形成できず、複合樹脂の曲げ弾性率等が低下するおそれがあり、補強効果が向上しないとされる可能性がある。他方、平均繊維長が2.00mmを上回ると、原料パルプと変わらない長さのため補強効果が不十分となるおそれがある。
微細繊維の原料となるセルロース原料の平均繊維長は、好ましくは0.50~5.00mm、より好ましくは1.00~3.00mm、特に好ましくは1.50~2.50mmである。セルロース原料の平均繊維長が0.50mmを下回ると、解繊処理した微細繊維の、樹脂の補強効果が十分得られない可能性がある。他方、平均繊維長が5.00mmを上回ると、解繊時の製造コストの面で不利となるおそれがある。
微細繊維の平均繊維長は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
本形態において微細繊維の平均繊維長は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定した値である。なお、以下で説明するファイン率(Fine率)についても同様である。
微細繊維のファイン率は、30%以上であるのが好ましく、35~99%であるのがより好ましく、40~95%であるのが特に好ましい。ファイン率が30%以上であると、均質な繊維の割合が多く、複合樹脂の破壊が進行し難くなる。ただし、ファイン率が99%を超えると、曲げ弾性率が不十分になる可能性がある。
以上は微細繊維のファイン率であるが、微細繊維の原料となるセルロース原料のファイン率も所定の範囲内としておくこととより好ましいものとなる。具体的には、微細繊維の原料となるセルロース原料のファイン率が、1%以上であるのが好ましく、3~20%であるのがより好ましく、5~18%であるのが特に好ましい。解繊前のセルロース原料のファイン率が上記範囲内であれば、微細繊維のファイン率が30%以上になるように解繊したとしても繊維のダメージが少なく、樹脂の補強効果が向上すると考えられる。
ファイン率の調整は、酵素処理等の前処理によって行うことができる。ただし、特に酵素処理する場合は、繊維自体がボロボロになって樹脂の補強効果が低下する可能性がある。したがって、この観点からの酵素の添加量は、2質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのが特に好ましい。また、酵素処理しない(添加量0質量%)のも1つの選択枠である。
本形態において「ファイン率」とは、繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の質量基準の割合をいう。
微細繊維のアスペクト比は、好ましくは2~15,000、より好ましくは10~10,000である。アスペクト比が2を下回ると、三次元ネットワークを十分に構築することができないため、たとえ平均繊維長が0.10mm以上であるとしても、補強効果が不十分となるおそれがある。他方、アスペクト比が15,000を上回ると、微細繊維同士の絡み合いが高くなり、樹脂中での分散が不十分となるおそれがある。
本形態においてアスペクト比とは、平均繊維長を平均繊維幅で除した値である。アスペクト比が大きいほど引っかかりが生じる箇所が多くなるため補強効果が上がるが、他方で引っかかりが多くなる分、樹脂の延性が低下するものと考えられる。
微細繊維のフィブリル化率は、好ましくは1.0~30.0%、より好ましくは1.5~20.0%、特に好ましくは2.0~15.0%である。フィブリル化率が30.0%を上回ると、水との接触面積が広くなり過ぎるため、たとえ平均繊維幅が0.1μm以上に留まる範囲で解繊したとしても、脱水が困難になる可能性がある。他方、フィブリル化率が1.0%下回ると、フィブリル同士の水素結合が少なく、強硬な三次元ネットワークを形成することができなくなるおそれがある。
本形態においてフィブリル化率とは、微細繊維をJIS-P-8220:2012「パルプ-離解方法」に準拠して離解し、得られた離解パルプをFiberLab.(Kajaani社)を用いて測定した値をいう。
微細繊維の結晶化度は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、特に好ましくは60%以上である。結晶化度が50%を下回ると、パルプ等の他の繊維との混合性は向上するものの、繊維自体の強度が低下するため、樹脂の強度を向上することができなくなるおそれがある。この点、本形態においては、カルバメート化における加熱温度を高温化するが、従前はこの高温化により繊維がダメージを受けると考え、高温化しなかった。しかしながら、加熱温度を高温化すると加熱時間が短くなるため、繊維が長時間熱に曝されるということがなくなり、繊維へのダメージ蓄積が抑えられ、また、結晶化度の低下を抑えられる。したがって、本形態によると、樹脂の補強効果に優れ、また、結晶化度を50%以上とするのも極めて容易である。他方、微細繊維の結晶化度は、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、特に好ましくは85%以下である。結晶化度が95%を上回ると、分子内の強固な水素結合割合が多くなり、繊維自体が剛直となり、分散性が劣るようになる。
微細繊維の結晶化度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
本形態において結晶化度は、JIS K 0131(1996)に準拠して測定した値である。
微細繊維のパルプ粘度は、好ましくは2cps以上、より好ましくは4cps以上である。微細繊維のパルプ粘度が2cpsを下回ると、微細繊維の凝集を抑制するのが困難になるおそれがある。
本形態においてパルプ粘度は、TAPPI T 230に準拠して測定した値である。
微細繊維のフリーネスは、好ましくは500ml以下、より好ましくは300ml以下、特に好ましくは100ml以下である。微細繊維のフリーネスが500mlを上回ると、樹脂の強度向上効果が十分に得られなくなるおそれがある。
本形態においてフリーネスは、JIS P8121-2(2012)に準拠して測定した値である。
微細繊維のゼータ電位は、好ましくは-150~20mV、より好ましくは-100~0mV、特に好ましくは-80~-10mVである。ゼータ電位が-150mVを下回ると、樹脂との相溶性が著しく低下し補強効果が不十分となるおそれがある。他方、ゼータ電位が20mVを上回ると、分散安定性が低下するおそれがある。
微細繊維の保水度は、好ましくは80~400%、より好ましくは90~350%、特に好ましくは100~300%である。保水度が80%を下回ると、原料パルプと変わらないため補強効果が不十分となるおそれがある。他方、保水度が400%を上回ると、脱水性が劣る傾向にあり、また、凝集し易くなる。この点、微細繊維の保水度は、当該繊維のヒドロキシ基がカルバメート基に置換されていることで、より低くすることができ、脱水性や乾燥性を高めることができる。
微細繊維の保水度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
本形態において保水度は、JAPAN TAPPI No.26(2000)に準拠して測定した値である。
本形態の微細繊維は、カルバメート基を有する。どのようにしてカルバメート基を有するものとされているかは特に限定されない。例えば、セルロース原料がカルバメート化されていることでカルバメート基を有するものであっても、微細繊維(解繊されたセルロース原料)がカルバメート化されることでカルバメート基を有するものであってもよい。
なお、カルバメート基を有するとは、セルロース繊維にカルバメート基(カルバミン酸のエステル)が導入された状態を意味する。カルバメート基は、-O-CO-NH-で表される基であり、例えば、-O-CO-NH2、-O-CONHR、-O-CO-NR2等で表わされる基である。つまり、カルバメート基は、下記の構造式(1)で示すことができる。
Figure 0007150783000001
ここでRは、それぞれ独立して、飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基の少なくともいずれかである。
飽和直鎖状炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~10の直鎖状のアルキル基を挙げることができる。
飽和分岐鎖状炭化水素基としては、例えば、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数3~10の分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。
飽和環状炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基等のシクロアルキル基を挙げることができる。
不飽和直鎖状炭化水素基としては、例えば、エテニル基、プロペン-1-イル基、プロペン-3-イル基等の炭素数2~10の直鎖状のアルケニル基、エチニル基、プロピン-1-イル基、プロピン-3-イル基等の炭素数2~10の直鎖状のアルキニル基等を挙げることができる。
不飽和分岐鎖状炭化水素基としては、例えば、プロペン-2-イル基、ブテン-2-イル基、ブテン-3-イル基等の炭素数3~10の分岐鎖状アルケニル基、ブチン-3-イル基等の炭素数4~10の分岐鎖状アルキニル基等を挙げることができる。
芳香族基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等を挙げることができる。
誘導基としては、例えば、上記飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基及び芳香族基が有する1又は複数の水素原子が、置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ハロゲン原子等。)で置換された基を挙げることができる。
カルバメート基を有する(カルバメート基が導入された)微細繊維においては、極性の高いヒドロキシ基の一部又は全部が、相対的に極性の低いカルバメート基に置換されている。したがって、カルバメート基を有する微細繊維は、親水性が低く、極性の低い樹脂等との親和性が高い。結果、カルバメート基を有する微細繊維は、樹脂との均一分散性に優れる。また、カルバメート基を有する微細繊維のスラリーは、粘性が低く、ハンドリング性が良い。
微細繊維のヒドロキシ基に対するカルバメート基の置換率は、好ましくは1.0~5.0mmol/g、より好ましくは1.2~3.0mmol/g、特に好ましくは1.5~2.0mmol/gである。置換率を1.0mmol/g以上にすると、カルバメート基を導入した効果、特に樹脂の曲げ弾性率の向上効果が確実に奏せられる。他方、置換率が5.0mmol/gを超えると、セルロース繊維が繊維の形状を保てなくなり、樹脂の補強効果が十分得られないおそれがある。また、カルバメート基の置換率が2.0mmol/gを超えると、原料パルプをカルバメート化する場合においてパルプの平均繊維長が短くなり、結果として微細繊維の平均繊維長が0.1mm未満となり易く、十分な樹脂補強効果が出せなくなるおそれがある。なお、原料パルプをカルバメート化する場合においては、以上の置換率が原料パルプのカルバメート基の置換率にそのまま当てはまる。
以上をより詳細に説明すると、まず、セルロースに存在する水酸基は、セルロース自身の水素結合に寄与し、樹脂と複合化する場合にセルロース繊維同士が水素結合で凝集してし、補強繊維としての働きが阻害される。そこで、水酸基をカルバメート基で置換(特に、置換率1.0mmol/g以上。)することで、上記水素結合を弱め、繊維の凝集を抑えて補強材として効果的に機能させる。もっとも、カルバメート基で水酸基を置換し過ぎると、樹脂との親和性が向上し過ぎて樹脂と複合化した際に樹脂へ溶解するおそれがある。溶解した場合は、繊維として存在せずに分子として存在することになるため、補強性が失われてしまうと考えられる。そこで、置換率1.0~2.0mmol/gとすることで、繊維自身の過度の凝集を抑えつつ、補強繊維の形態のままで樹脂中に存在して補強性を発揮することができると考えるのである。
本形態においてカルバメート基の置換率(mmol/g)とは、カルバメート基を有するセルロース原料1gあたりに含まれるカルバメート基の物質量をいう。カルバメート基の置換率は、カルバメート化したパルプ内に存在するN原子をケルダール法によって測定し、単位重量当たりのカルバメート化率を算出する。また、セルロースは、無水グルコースを構造単位とする重合体であり、一構造単位当たり3つのヒドロキシ基を有する。なお、上記したように、微細繊維とする前、つまり解繊する前にカルバメート化した場合は、以上の置換率がセルロース原料におけるカルバメート基の置換率ということになる。
<カルバメート化>
ここでカルバメート化について、詳細に説明する。
微細繊維(解繊前にカルバメート化する場合は、セルロース原料。以下、同様であり、単に「セルロース繊維」ともいう。)にカルバメート基を導入する(カルバメート化)点については、前述したようにセルロース原料をカルバメート化してから微細化する方法と、セルロース原料を微細化してからカルバメート化する方法とがある。この点、本明細書においては、先にセルロース原料の解繊について説明し、その後にカルバメート化(変性)について説明している。しかしながら、解繊及びカルバメート化は、どちらを先に行うこともできる。ただし、先にカルバメート化を行い、その後に、解繊をする方が好ましい。解繊する前のセルロース原料は脱水効率が高く、また、カルバメート化に伴う加熱によってセルロース繊維が解繊され易い状態になるためである。なお、先にカルバメート化を行う場合に関して、カルバメート化を行った後、解繊を行う前の段階までも、カルバメート化セルロース繊維の製造方法ということができる。
セルロース繊維をカルバメート化する工程は、例えば、混合処理、除去処理、及び加熱処理に、主に区分することができる。なお、混合処理及び除去処理は合わせて、加熱処理に供される混合物を調製する調整処理ということもできる。また、カルバメート化は、有機溶剤を使用せずに化学変性することができるという利点を有する。
混合処理においては、セルロース繊維と尿素や尿素の誘導体(以下、単に「尿素等」ともいう。)とを分散媒中で混合する。
尿素や尿素の誘導体としては、例えば、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、尿素の水素原子をアルキル基で置換した化合物等を使用することができる。これらの尿素や尿素の誘導体は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、尿素を使用するのが好ましい。
セルロース繊維に対する尿素等の合計添加量(混合量)は、好ましくは1~70(w/w)%、より好ましくは5~50(w/w)%、特に好ましくは10~50(w/w)%である。添加量を1%以上にすることで、カルバメート化の効率が向上する。他方、添加量が70%を上回っても、カルバメート化は頭打ちになる。
分散媒は、通常、水である。ただし、アルコール、エーテル等の他の分散媒や、水と他の分散媒との混合物を用いてもよい。
混合処理においては、例えば、水にセルロース繊維及び尿素等を添加しても、尿素等の水溶液にセルロース繊維を添加しても、セルロース繊維を含むスラリーに尿素等を添加してもよい。また、均一に混合するために、添加後、攪拌してもよい。さらに、セルロース繊維と尿素等とを含む分散液には、その他の成分が含まれていてもよい。
除去処理においては、混合処理において得られたセルロース繊維及び尿素等を含む分散液から分散媒を除去する。分散媒を除去することで、これに続く加熱処理において効率的に尿素等を反応させることができる。
分散媒の除去は、加熱によって分散媒を揮発させることで行うのが好ましい。この方法によると、尿素等の成分を残したまま分散媒のみを効率的に除去することができる。
除去処理における加熱温度の下限は、分散媒が水である場合は、好ましくは50℃、より好ましくは70℃、特に好ましくは90℃である。加熱温度を50℃以上にすることで効率的に分散媒を揮発させる(除去する)ことができる。他方、加熱温度の上限は、好ましくは120℃、より好ましくは100℃である。加熱温度が120℃を上回ると、分散媒と尿素が反応し、尿素が単独分解するおそれがある。
除去処理における加熱時間は、分散液の固形分濃度等に応じて適宜調節することができる。具体的には、例えば、6~24時間である。
除去処理に続く加熱処理においては、セルロース繊維と尿素等との混合物を加熱処理する。この加熱処理において、セルロース繊維のヒドロキシ基の一部又は全部が尿素等と反応してカルバメート基に置換される。より詳細には、尿素等が加熱されると下記の反応式(1)に示すようにイソシアン酸及びアンモニアに分解される。そして、イソシアン酸はとても反応性が高く、例えば、下記の反応式(2)に示すようにセルロース繊維の水酸基にカルバメート基が形成される。
NH2-CO-NH2 → H-N=C=O + NH3 …(1)
Cell-OH + H-N=C=O → Cell-CO-NH2 …(2)
加熱処理における加熱温度は、好ましくは150~170℃、より好ましくは150~165℃、特に好ましくは150~160℃である。加熱温度を150℃以上とすることで、短時間の反応でもカルバメート基の置換率を1mmol/g以上とすることができる。他方、加熱温度を170℃以下とすることで、繊維のダメージを抑えることができる。なお、尿素の融点は、約134℃である。
加熱処理における加熱時間は、好ましくは0.5~2.0時間、より好ましくは0.6~1.5時間、特に好ましくは0.7~1.0時間である。加熱時間を0.5時間以上にすることで、カルバメート化反応を確実に行うことができる。ただし、加熱時間2.0時間を超えると、セルロース繊維がダメージを受ける(劣化する)おそれがある。
このように加熱時間の長期化は、セルロース繊維の劣化を招く。そこで、加熱処理におけるpH条件が重要となる。pHは、好ましくはpH9以上、より好ましくはpH9~13、特に好ましくはpH10~12のアルカリ性条件である。また、次善の策として、pH7以下、好ましくはpH3~7、特に好ましくはpH4~7の酸性条件又は中性条件である。pH7~8の中性条件であると、セルロース繊維の平均繊維長が短くなり、樹脂の補強効果に劣る可能性がある。これに対し、pH9以上のアルカリ性条件であると、セルロース繊維の反応性が高まり、尿素等への反応が促進され、効率良くカルバメート化反応するため、セルロース繊維の平均繊維長を十分に確保することができる。他方、pH7以下の酸性条件であると、尿素等からイソシアン酸及びアンモニアに分解する反応が進み、セルロース繊維への反応が促進され、効率良くカルバメート化反応するため、セルロース繊維の平均繊維長を十分に確保することができる。ただし、可能であれば、アルカリ性条件で加熱処理する方が好ましい。酸性条件であるとセルロースの酸加水分解が進行するおそれがあるためである。
pHの調整は、混合物に酸性化合物(例えば、酢酸、クエン酸等。)やアルカリ性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等。)を添加すること等によって行うことができる。
ただし、pHを酸性にする場合の加熱処理は、尿素及び尿素の誘導体1g(尿素及び尿素の誘導体の合計質量)に対して有機酸イオンが0.001mmol以上添加された条件で行うのが好ましく、0.1~10.0mmol添加された条件で行うのがより好ましく、1.0~5.0mmol添加された条件で行うのが特に好ましい。有機酸が添加されていることで、尿素等からイソシアン酸及びアンモニアに分解する反応が進み、セルロース繊維への反応が促進され、効率良くカルバメート化反応する。ただし、有機酸イオンが0.001mmol/gを下回ると、かかる効果が奏せられないおそれがある。他方、有機酸イオンが10.0mmol/gを上回ると、有機酸イオンの効果が頭打ちとなり、不要な有機酸イオンが残存し、尿素によるカルバメート化反応が阻害されるおそれがある。
ただし、有機酸としてクエン酸を使用する場合は、セルロース繊維に対するクエン酸の添加量を0.1~10,000ppmとするのが好ましく、1~7,000ppmとするのがより好ましく、10~5,000ppmとするのが特に好ましい。添加量が0.1ppmを下回ると、尿素等からイソシアン酸及びアンモニアに分解する反応がうまく進行しなくなることから、カルバメート化反応が進行しなくなるおそれがある。他方、添加量が10,000ppmを上回ると、有機酸の持つ水酸基やカルボキシル基等が尿素等やイソシアン酸と反応し、カルバメート化に寄与する尿素等やイソシアン酸が消費されてしまうおそれがある。
有機酸としては、クエン酸の他、例えば、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、酢酸、ギ酸、フマル酸、乳酸、酪酸、コハク酸、これら有機酸の有機酸塩等を使用することができる。ただし、ヒドロキシ酸及びヒドロキシ酸塩を併用するのが好ましく、クエン酸及びクエン酸塩を併用するのがより好ましい。酸性条件においては、前述したように尿素等がイソシアン酸及びアンモニアに分解されるが、このアンモニアがクエン酸等のヒドロキシ酸によって中和され、アンモニアが減少する。アンモニアが減少すると、アンモニアの生成が進み、カルバメート化が進む。もっとも、単純にクエン酸等のヒドロキシ酸の量を増やすと、クエン酸等のヒドロキシ酸が酸性化を進めるだけに消費されるものとなる。しかしながら、ヒドロキシ酸塩が併用されていると、このヒドロキシ酸塩がバッファーになり、ヒドロキシ酸塩からヒドロキシ酸が生成され、アンモニアの中和、アンモニアの生成進み、カルバメート化が進む。
ヒドロキシ酸としては、クエン酸の他、例えば、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、イソクエン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸等の脂肪族ヒドロキシ酸、サリチル酸、バニリン酸、没食子酸等の芳香族ヒドロキシ酸等を例示することができる。
以上の観点からヒドロキシ酸に対するヒドロキシ酸塩の添加割合は、ヒドロキシ酸100質量部に対して1,000質量部以下であるのが好ましく、750質量部以下であるのがより好ましく、500質量部以下であるのが特に好ましい。なお、ヒドロキシ酸塩はヒドロキシ酸との併用に意味があり、下限値は0質量部超ということができるが、好ましくは10質量部以上である。
また、有機酸塩の添加割合は、系内のpHが前述のpH内に含まれるように添加することが望ましい。このような条件を満たすことで、繊維状セルロース複合樹脂の曲げ弾性率や曲げ伸びが向上する。なお、単にクエン酸等のヒドロキシ酸の添加量を増やすだけであると、セルロース等の平均繊維長が短くなるおそれがあるが、ヒドロキシ酸及びヒドロキシ酸塩の併用は、このおそれを抑制する。
加熱処理において加熱する装置としては、例えば、熱風乾燥機、抄紙機、ドライパルプマシン等を使用することができる。
加熱処理後の混合物は、洗浄してもよい。この洗浄は、水等で行えばよい。この洗浄によって未反応で残留している尿素等を除去することができる。
(スラリー)
セルロース繊維は、必要により、水系媒体中に分散して分散液(スラリー)にする。水系媒体は、全量が水であるのが特に好ましいが、一部が水と相溶性を有する他の液体である水系媒体も使用することができる。他の液体としては、炭素数3以下の低級アルコール類等を使用することができる。
スラリーの固形分濃度は、好ましくは0.1~10.0質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%である。固形分濃度が0.1質量%を下回ると、脱水や乾燥する際に過大なエネルギーが必要となるおそれがある。他方、固形分濃度が10.0質量%を上回ると、スラリー自体の流動性が低下してしまい、例えば分散剤を使用する場合において均一に混合できなくなるおそれがある。
(酸変性樹脂)
カルバメート化したセルロース繊維は、解繊していない場合は解繊して微細繊維とした後(以下、同様。)、酸変性樹脂と混合する。酸変性樹脂は、酸基がカルバメート基の一部又は全部とイオン結合する。このイオン結合により、樹脂の補強効果が向上する。
酸変性樹脂としては、例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂、酸変性エポキシ樹脂、酸変性スチレン系エラストマー樹脂等を使用することができる。ただし、酸変性ポリオレフィン樹脂を使用するのが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸成分とポリオレフィン成分との共重合体である。
ポリオレフィン成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン等のアルケンの重合体の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、好適には、プロピレンの重合体であるポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。
不飽和カルボン酸成分としては、例えば、無水マレイン酸類、無水フタル酸類、無水イタコン酸類、無水シトラコン酸類、無水クエン酸類等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、好適には、無水マレイン酸類を使用するのが好ましい。したがって、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を用いるのがより好ましい。
酸変性樹脂の混合量は、微細繊維100質量部に対して、好ましくは0.1~1,000質量部、より好ましくは1~500質量部、特に好ましくは10~200質量部である。特に酸変性樹脂が無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂である場合は、好ましくは1~200質量部、より好ましくは10~100質量部である。酸性変性樹脂の混合量が0.1質量部を下回ると強度の向上が十分ではなくなるおそれがある。他方、混合量が1,000質量部を上回ると、過剰となり強度が低下する傾向となる。
無水マレイン酸変性ポリプロピレンの重量平均分子量は、例えば1,000~100,000、好ましくは3,000~50,000である。
また、無水マレイン酸変性ポリプロピレンの酸価は、0.5mgKOH/g以上、100mgKOH/g以下が好ましく、1mgKOH/g以上、50mgKOH/g以下がより好ましい。
さらに、酸変性樹脂のMFR(メルトフローレート)が2,000g/10分(190℃/2.16kg)以下であるのが好ましく、1,500g/10分以下であるのがより好ましく、500g/10分以下であるのが特に好ましい。MFRが2,000g/10分を上回ると、セルロース繊維の分散性が低下する可能性がある。
なお、酸価の測定は、JIS-K2501に準拠し、水酸化カリウムで滴定する。また、MFRの測定は、JIS-K7210に準拠し、190℃で2.16kgの荷重を載せ、10分間に流れ出る試料の重量で決める。
(分散剤)
微細繊維は、好ましくは分散剤と混合する。分散剤としては、芳香族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物、脂肪族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物が好ましい。
芳香族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物としては、例えば、アニリン類、トルイジン類、トリメチルアニリン類、アニシジン類、チラミン類、ヒスタミン類、トリプタミン類、フェノール類、ジブチルヒドロキシトルエン類、ビスフェノールA類、クレゾール類、オイゲノール類、没食子酸類、グアイアコール類、ピクリン酸類、フェノールフタレイン類、セロトニン類、ドーパミン類、アドレナリン類、ノルアドレナリン類、チモール類、チロシン類、サリチル酸類、サリチル酸メチル類、アニスアルコール類、サリチルアルコール類、シナピルアルコール類、ジフェニドール類、ジフェニルメタノール類、シンナミルアルコール類、スコポラミン類、トリプトフォール類、バニリルアルコール類、3-フェニル‐1-プロパノール類、フェネチルアルコール類、フェノキシエタノール類、ベラトリルアルコール類、ベンジルアルコール類、ベンゾイン類、マンデル酸類、マンデロニトリル類、安息香酸類、フタル酸類、イソフタル酸類、テレフタル酸類、メリト酸類、ケイ皮酸類などが挙げられる。
また、脂肪族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物としては、例えば、カプリルアルコール類、2-エチルヘキサノール類、ペラルゴンアルコール類、カプリンアルコール類、ウンデシルアルコール類、ラウリルアルコール類、トリデシルアルコール類、ミリスチルアルコール類、ペンタデシルアルコール類、セタノール類、ステアリルアルコール類、エライジルアルコール類、オレイルアルコール類、リノレイルアルコール類、メチルアミン類、ジメチルアミン類、トリメチルアミン類、エチルアミン類、ジエチルアミン類、エチレンジアミン類、トリエタノールアミン類、N,N-ジイソプロピルエチルアミン類、テトラメチルエチレンジアミン類、ヘキサメチレンジアミン類、スペルミジン類、スペルミン類、アマンタジン類、ギ酸類、酢酸類、プロピオン酸類、酪酸類、吉草酸類、カプロン酸類、エナント酸類、カプリル酸類、ペラルゴン酸類、カプリン酸類、ラウリン酸類、ミリスチン酸類、パルミチン酸類、マルガリン酸類、ステアリン酸類、オレイン酸類、リノール酸類、リノレン酸類、アラキドン酸類、エイコサペンタエン酸類、ドコサヘキサエン酸類、ソルビン酸類などが挙げられる。
以上の分散剤は、セルロース繊維同士の水素結合を阻害する。したがって、微細繊維及び樹脂の混練に際して微細繊維が樹脂中において確実に分散するようになる。また、以上の分散剤は、微細繊維及び樹脂の相溶性を向上させる役割も有する。この点でも微細繊維の樹脂中における分散性が向上する。
なお、微細繊維及び樹脂の混練に際して、別途、相溶剤(薬剤)を添加することも考えられるが、この段階で薬剤を添加するよりも、予め微細繊維と分散剤(薬剤)とを混合して繊維状セルロース含有物としておく方が、微細繊維に対する薬剤の纏わりつきが均一になり、樹脂との相溶性向上効果が高くなる。
また、例えば、ポリプロピレンは融点が160℃であり、したがって微細繊維及び樹脂の混練は、180℃程度で行う。しかるに、この状態で分散剤(液)を添加すると、一瞬で乾燥してしまう。そこで、融点の低い樹脂を使用してマスターバッチ(微細繊維の濃度の濃い複合樹脂)を作製し、その後に通常の樹脂で濃度を下げる方法が存在する。しかしながら、融点の低い樹脂は一般的に強度が低い。したがって、当該方法によると、複合樹脂の強度が下がるおそれがある。
分散剤の混合量は、微細繊維100質量部に対して、好ましくは0.1~1,000質量部、より好ましくは1~500質量部、特に好ましくは10~200質量部である。分散剤の混合量が0.1質量部を下回ると、樹脂強度の向上が十分ではないとされるおそれがある。他方、混合量が1,000質量部を上回ると、過剰となり樹脂強度が低下する傾向となる。
この点、前述した酸変性樹脂は酸基と微細繊維のカルバメート基とがイオン結合することで相溶性を向上し、もって補強効果を上げるためのものであり、分子量が大きいため樹脂とも馴染み易く、強度向上に寄与していると考えられる。一方、上記の分散剤は、微細繊維同士の水酸基同士の間に介在して凝集を防ぎ、もって樹脂中での分散性を向上するものであり、また、分子量が酸変性樹脂に比べ小さいため、酸変性樹脂が入り込めないような微細繊維間の狭いスペースに入ることができ、分散性を向上して強度向上する役割を果たす。以上のような観点から、上記酸変性樹脂の分子量は、分散剤の分子量の2~2,000倍、好ましくは5~1,000倍であると好適である。
(相互作用しない粉末)
本形態の微細繊維は、セルロース繊維と相互作用しない粉末と混合すると好適である。相互作用しない粉末と混合することで、補強効果が向上する。この点、本形態においては、微細繊維を樹脂と複合化する前に、水系媒体を除去して含有水分率が所定の範囲に調節された繊維状セルロース含有物とする。しかしながら、水系媒体を除去する際にセルロース繊維同士が水素結合により不可逆的に凝集し、繊維としての補強効果を十分に発揮できなくなる可能性がある。そこで、セルロース繊維と相互作用しない粉末を混合することで、セルロース繊維同士の水素結合を物理的に阻害するものである。
ここで、相互作用しないとは、セルロースと共有結合、イオン結合、金属結合による強固な結合をしないことを意味する(つまり、水素結合、ファンデルワールス力による結合は相互作用しないという概念に含まれる。)。好ましくは、強固な結合は、結合エネルギーが100kJ/molを超える結合である。
相互作用しない粉末は、好ましくは、スラリー中で共存した際に、セルロース繊維の持つ水酸基を水酸化物イオンへ解離させる作用の少ない無機粉末及び樹脂粉末の少なくともいずれか一方である。より好ましくは、無機粉末である。かかる物性を有すると、繊維状セルロース含有物とした後に樹脂と複合化した際に、セルロース繊維と相互作用しない粉末を樹脂等へ容易に分散することができるようになる。また、特に無機粉末であると、操業上有利である。具体的には、繊維状セルロース含有物の含有水分率調節方法としては、例えば、熱源である金属ドラムに水分散体(繊維状セルロースや相互作用しない粉末の混合液)を直接あてる方法で乾燥(例えば、ヤンキードライヤーやシリンダードライヤーによる乾燥等。)する方法と、熱源に水分散体を直接触れさせずに加温する方法、つまり空気中で乾燥(例えば、恒温乾燥機による乾燥等。)する方法とが存在する。しかるに、樹脂粉末を使用すると、加温した金属板(例えば、ヤンキードライヤー、シリンダードライヤー等。)に接触させて乾燥した際に、金属板表面に皮膜ができ熱伝導が悪化し、乾燥効率が著しく低下する。このような問題が生じ難い点で、無機粉末は有利である。
相互作用しない粉末の平均粒子径は、1~10,000μmが好ましく、10~5,000μmがより好ましく、100~1,000μmが特に好ましい。平均粒子径が10,000μmを超えると、繊維状セルローススラリーから水系媒体を除去する際に、微細繊維同士の間隙に入って凝集を阻害する効果が発揮できないおそれがある。他方、平均粒子径が1μm未満であると、微細なために微細繊維同士の水素結合を阻害することができないおそれがある。
特に相互作用しない粉末が樹脂粉末である場合においては、平均粒子径が上記範囲にあることにより微細繊維同士の間隙に入って凝集を阻害する効果が効果的に発揮されるようになる。しかも、樹脂との混練性に優れ、大きなエネルギーが不要となり経済的である。なお、樹脂粉末は樹脂との混練時に溶融し粒として外観に影響を与えなくなるため、大きな粒子径のものも効果的に使用することができる。他方、樹脂粉末が無機粉末である場合においても無機粉末の平均粒子径が上記範囲にあることで微細繊維同士の間隙に入って凝集を阻害する効果が発揮されるが、無機粉体は混練してもサイズは大きく変わらないため、粒径が大きすぎると粒として外観に影響を与える可能性がある。
なお、樹脂粉末は物理的に微細繊維同士の間に介在することで水素結合を阻害し、もって微細繊維の分散性を向上する。これに対し、前述した酸変性樹脂は、酸基と微細繊維のカルバメート基とをイオン結合することで相溶性を向上し、もって補強効果を上げる。この点、分散剤が微細繊維同士の水素結合を阻害する点は同じであるが、樹脂粉末はマイクロオーダーであるため、物理的に介在して水素結合を抑制する。したがって、分散性が分散剤にくらべ低いものの、樹脂粉末自身が溶融してマトリックスになるため物性低下に寄与しない。一方、分散剤は分子レベルであり、極めて小さいため微細繊維を覆うようにして水素結合を阻害し、微細繊維の分散性を向上する効果は高い。しかしながら、樹脂中に残り、物性低下に働く可能性がある。
相互作用しない粉末の平均粒子径は、粉体をそのまま又は水分散体の状態で粒度分布測定装置(例えば株式会社堀場製作所のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を用いて測定される体積基準粒度分布から算出される中位径である。
無機粉末としては、例えば、Fe、Na、K、Cu、Mg、Ca、Zn、Ba、Al、Ti、ケイ素元素等の周期律表第I族~第VIII族中の金属元素の単体、酸化物、水酸化物、炭素塩、硫酸塩、ケイ酸塩、亜硫酸塩、これらの化合物よりなる各種粘土鉱物等を例示することができる。具体的には、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、酸化亜鉛、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ほう酸アルミニウム、アルミナ、酸化鉄、チタン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、クレー、ワラストナイト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、シリカゲル、乾式シリカ、コロイダルシリカ、珪砂、硅石、石英粉、珪藻土、ホワイトカーボン、ガラスファイバー等を例示することができる。これらの無機充填剤は、複数が含有されていてもよい。また、古紙パルプに含まれるものであってもよいし、製紙スラッジ中の無機物を再生したいわゆる再生填料等であってもよい。
ただし、製紙用の填料や顔料として好適に使用される炭酸カルシウム、タルク、ホワイトカーボン、クレー、焼成クレー、二酸化チタン、水酸化アルミニウム及び再生填料等の中から選択される少なくとも1種以上の無機粉末を使用するのが好ましく、炭酸カルシウム、タルク、クレーの中からから選択される少なくとも1種以上を使用するのがより好ましく、軽質炭酸カルシウム及び重質炭酸カルシウムの少なくともいずれか一方を使用するのが特に好ましい。炭酸カルシウム、タルク、クレーを使用すると、樹脂等のマトリックスとの複合化が容易である。また、汎用的な無機材料であるため、用途の制限が生じることが少ないとのメリットがある。さらに、炭酸カルシウムは下記の理由から特に好ましい。軽質炭酸カルシウムを使用する場合は、粉末のサイズや形状を一定に制御しやすくなる。このため、微細繊維のサイズや形状に合わせて、間隙に入り込んで微細繊維同士の凝集を抑制する効果を生じやすくするようにサイズや形状を調整して、ピンポイントで効果を発揮しやすくできるメリットがある。また、重質炭酸カルシウムを使用すると、重質炭酸カルシウムが不定形であることから、スラリー中に様々なサイズの繊維が存在する場合でも、水系媒体除去時に繊維が凝集する過程において、間隙に入り込んで微細繊維同士の凝集を抑制することができるとのメリットがある。
一方、樹脂粉末としては、複合樹脂を得る際に使用する樹脂と同様のものを使用することができる。もちろん、異種であってもよいが、同種である方が好ましい。
相互作用しない粉末の配合量は、微細繊維(セルロース繊維)に対して、好ましくは1~9900質量%、より好ましくは5~1900質量%、特に好ましくは10~900質量%である。配合量が1質量%を下回ると、微細繊維の間隙に入って凝集抑制する作用が不足となるおそれがある。他方、配合量が9900質量%を上回ると、微細繊維としての機能を発揮できなくなるおそれがある。なお、相互作用しない粉末が無機粉末である場合は、サーマルリサイクルに支障が出ない割合で配合するのが好ましい。
相互作用しない粉末としては、無機粉末及び樹脂粉末を併用することもできる。無機粉末及び樹脂粉末を併用すると、無機粉体同士や樹脂粉末同士が凝集する条件で混合した場合でも無機粉末及び樹脂粉末がお互いに凝集を防ぐような効果を発揮する。また、粒径が小さい粉体は表面積が大きく重力の影響よりも分子間力の影響を受けやすく、その結果として凝集しやすくなるため、粉体と微細繊維スラリーとを混合する際に粉体がスラリー中でうまくほぐれなかったり、含有水分率の調節時に粉体同士が凝集することで、微細繊維の凝集を防ぐ効果が十分に発揮されなくなったりするおそれがある。しかしながら、無機粉末及び樹脂粉末を併用すると、自身の凝集を緩和することができると考えられる。
無機粉末及び樹脂粉末を併用する場合、無機粉末の平均粒径:樹脂粉末の平均粒径の比は、1:0.1~1:10,000が好ましく、1:1~1:1,000がより好ましい。この範囲にあると、自身の凝集力の強さから生じる問題(例えば、粉体と微細繊維スラリーとを混合する際に粉体がスラリー中でうまくほぐれなかったり、含有水分率の調節時に粉体同士が凝集したりする問題。)が発生せずに、微細繊維の凝集を防ぐ効果を十分に発揮できるようになると考えられる。
無機粉末及び樹脂粉末を併用する場合、無機粉末の質量%:樹脂粉末の質量%の比は、1:0.01~1:100が好ましく、1:0.1~1:10がより好ましい。この範囲にあると、異種粉体同士が自身の凝集を阻害することが可能になると考えられる。つまり、この範囲にあると、自身の凝集力の強さから生じる問題(例えば、粉体と微細繊維スラリーとを混合する際に粉体がスラリー中でうまくほぐれなかったり、含有水分率の調節時に粉体同士が凝集したりする問題。)が発生せずに、微細繊維の凝集を防ぐ効果を十分に発揮できるようになると考えられる。
(複合樹脂の製造方法)
繊維状セルロース複合樹脂を製造するにあたって、微細繊維(セルロース繊維)及び酸変性樹脂、分散剤、相互作用しない粉末等の混合物は、以下で詳細に説明するように、樹脂と混練するに先立って含有水分率が18%未満の繊維状セルロース含有物とすると好適である。この繊維状セルロース含有物は、通常、乾燥体である。また、この乾燥体は、好ましくは粉砕して粉状物にする。この形態によると、樹脂と混練して得る繊維状セルロース複合樹脂の着色が低減される。また、樹脂との混練に際して繊維状セルロースを乾燥させる必要がなく、熱効率が良い。さらに、混合物に相互作用しない粉末や、分散剤が混合されている場合は、当該混合物を乾燥したとしても、セルロース繊維(微細繊維)が再分散しなくなるおそれが低い。
混合物は、乾燥するに先立って必要により脱水して脱水物にする。この脱水は、例えば、ベルトプレス、スクリュープレス、フィルタープレス、ツインロール、ツインワイヤーフォーマ、バルブレスフィルタ、センターディスクフィルタ、膜処理、遠心分離機等の脱水装置の中から1種又は2種以上を選択使用して行うことができる。
混合物、あるいは脱水物の乾燥は、例えば、ロータリーキルン乾燥、円板式乾燥、気流式乾燥、媒体流動乾燥、スプレー乾燥、ドラム乾燥、スクリューコンベア乾燥、パドル式乾燥、一軸混練乾燥、多軸混練乾燥、真空乾燥、攪拌乾燥等の中から1種又は2種以上を選択使用して行うことができる。
乾燥した混合物(乾燥物)は、粉砕して粉状物にするのが好ましい。乾燥物の粉砕は、例えば、ビーズミル、ニーダー、ディスパー、ツイストミル、カットミル、ハンマーミル等の中から1種又は2種以上を選択使用して行うことができる。
粉状物の平均粒子径は、好ましくは1~10,000μm、より好ましくは10~5,000μm、特に好ましくは100~1,000μmである。粉状物の平均粒子径が10,000μmを上回ると、樹脂との混練性に劣るものになるおそれがある。他方、粉状物の平均粒子径が1μmを下回るものにするには大きなエネルギーが必要になるため、経済的でない。
粉状物の平均粒子径の制御は、粉砕の程度を制御することのほか、フィルター、サイクロン等の分級装置を使用した分級によることができる。
混合物(粉状物)の嵩比重は、好ましくは0.03~1.0、より好ましくは0.04~0.9、特に好ましくは0.05~0.8である。嵩比重が1.0を超えるということは微細繊維同士の水素結合がより強固であり、樹脂中で分散させることは容易ではなくなることを意味する。他方、嵩比重が0.03を下回るものにするのは、移送コストの面から不利である。
嵩比重は、JIS K7365に準じて測定した値である。
混合物(繊維状セルロース含有物)の含有水分率は、好ましくは18%未満、より好ましくは0~17%、特に好ましくは0~16%である。含有水分率が18%以上になると、セルロース繊維由来の成分に起因して繊維状セルロース複合樹脂の着色を低減することができない可能性がある。特にカルバメート基の置換率を1mmol/g以上とする場合においては、着色を低減することができない可能性がある。
なお、含有水分率が18%以上であると、溶融混練等で例えば180℃以上の高温に晒された際に、マイクロ繊維セルロースと高温水とが接触し、マイクロ繊維セルロースの低分子化反応等が起こり、着色の要因となる低分子化合物が生成し、混練工程で低分子化合物による着色が進行すると考えられる。しかるに、カルバメート基の置換率が1mmol/g以上となるようにカルバメート化した場合においては、例えば、カルバメート化パルプの洗浄工程で着色原因物質が除去され、更に含有水分率を18%以下とすることで、高温水がマイクロ繊維セルロースと接触する前に蒸発させることが可能となり、着色を防止できるのである。
ちなみに、もともと存在する着色原因物質(ヘミセルロース等)が低分子化すると水溶化し、カルバメート化パルプの洗浄工程で着色原因物質を除去することが可能となる。着色原因物質がマイクロ繊維セルロースに残留すると、上記した高温水と着色原因物質とが接触して着色が顕著になるのである。
含有水分率は、定温乾燥機を用いて、試料を105℃で6時間以上保持し質量の変動が認められなくなった時点の質量を乾燥後質量とし、下記式にて算出した値である。
含有水分率(%)=[(乾燥前質量-乾燥後質量)÷乾燥前質量]×100
脱水・乾燥した微細繊維には、相互作用しない粉末としての樹脂粉末以外の樹脂が含まれていても良い。樹脂が含まれていると、脱水・乾燥した微細繊維同士の水素結合が阻害され、混練の際の樹脂中での分散性を向上することができる。
脱水・乾燥した微細繊維に含まれる樹脂の形態としては、例えば、粉末状、ペレット状、シート状等が挙げられる。ただし、粉末状(粉末樹脂)が好ましい。
粉末状とする場合、脱水・乾燥した微細繊維に含まれる粉末樹脂の平均粒子径は、1~10,000μmが好ましく、10~5,000μmがより好ましく、100~1,000μmが特に好ましい。平均粒子径が10,000μmを超えると、粒子径が大きいために混練装置内に入らないおそれがある。他方、平均粒子径が1μm未満であると、微細なために微細繊維同士の水素結合を阻害することができないおそれがある。なお、ここで使用する粉末樹脂等の樹脂は、微細繊維と混練する樹脂(主原料としての樹脂)と同種であっても異種であってもよいが、同種である方が好ましい。
平均粒子径1~10,000μmの粉末樹脂は、脱水・乾燥前の水系分散状態で混合するのが好ましい。水系分散状態で混合することで、粉末樹脂を微細繊維間に均一に分散することができ、混練後の複合樹脂中に微細繊維を均一に分散できることができ、強度物性をより向上することができる。
以上のようにして得た繊維状セルロース含有物(樹脂の補強材)は、樹脂と混練し、繊維状セルロース複合樹脂を得る。この混練は、例えば、ペレット状の樹脂と補強材とを混ぜ合わす方法によることのほか、樹脂をまず溶融し、この溶融物の中に補強材を添加するという方法によることもできる。なお、酸変性樹脂や分散剤等は、この段階で添加することもできる。
混練処理には、例えば、単軸又は二軸以上の多軸混練機、ミキシングロール、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、スクリュープレス、ディスパーザー等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。これらの中では、二軸以上の多軸混練機を使用することが好ましい。二軸以上の多軸混練機を2機以上、並列又は直列にして、使用しても良い。
混練処理の温度は、樹脂のガラス転移点以上であり、樹脂の種類によって異なるが、80~280℃とするのが好ましく、90~260℃とするのがより好ましく、100~240℃とするのが特に好ましい。
樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン、脂肪族ポリエステル樹脂や芳香族ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ポリスチレン、メタアクリレート、アクリレート等のポリアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
ただし、ポリオレフィン及びポリエステル樹脂の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましい。また、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレンを使用するのが好ましい。さらに、ポリエステル樹脂としては、脂肪族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等を例示することができ、芳香族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート等を例示することができるが、生分解性を有するポリエステル樹脂(単に「生分解性樹脂」ともいう。)を使用するのが好ましい。
生分解性樹脂としては、例えば、ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル、カプロラクトン系脂肪族ポリエステル、二塩基酸ポリエステル等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、乳酸、リンゴ酸、グルコース酸、3-ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体や、これらのヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種を用いた共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、ポリ乳酸、乳酸と乳酸を除く上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリカプロラクトン、上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種とカプロラクトンとの共重合体を使用するのが好ましく、ポリ乳酸を使用するのが特に好ましい。
この乳酸としては、例えば、L-乳酸やD-乳酸等を使用することができ、これらの乳酸を単独で使用しても、2種以上を選択して使用してもよい。
カプロラクトン系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリカプロラクトンの単独重合体や、ポリカプロラクトン等と上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
二塩基酸ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
生分解性樹脂は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂等を使用することができる。これらの樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
樹脂には、無機充填剤が、好ましくはサーマルリサイクルに支障が出ない割合で含有されていてもよい。
無機充填剤としては、例えば、Fe、Na、K、Cu、Mg、Ca、Zn、Ba、Al、Ti、ケイ素元素等の周期律表第I族~第VIII族中の金属元素の単体、酸化物、水酸化物、炭素塩、硫酸塩、ケイ酸塩、亜硫酸塩、これらの化合物よりなる各種粘土鉱物等を例示することができる。
具体的には、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、酸化亜鉛、シリカ、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ほう酸アルミニウム、アルミナ、酸化鉄、チタン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、クレーワラストナイト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、珪砂、硅石、石英粉、珪藻土、ホワイトカーボン、ガラスファイバー等を例示することができる。これらの無機充填剤は、複数が含有されていてもよい。また、古紙パルプに含まれるものであってもよい。
繊維状セルロース(セルロース繊維)に対する樹脂の配合割合は、好ましくは繊維状セルロース100質量部に対して樹脂が9900~1、好ましくは1900~66、より好ましくは900~100である。特に繊維状セルロース複合樹脂100質量部中の繊維状セルロースの配合割合が10~50質量部であると、樹脂組成物の強度、特に曲げ強度及び引張り弾性率の強度を著しく向上させることができる。
なお、最終的に得られ樹脂組成物に含まれる繊維状セルロース及び樹脂の含有割合は、通常、繊維状セルロース及び樹脂の上記配合割合と同じとなる。
微細繊維がマイクロ繊維セルロースである場合においてマイクロ繊維セルロース及び樹脂の溶解パラメータ(cal/cm31/2(SP値)の差は、マイクロ繊維セルロースのSPMFC値、樹脂のSPPOL値とすると、SP値の差=SPMFC値-SPPOL値とすることができる。SP値の差は10~0.1が好ましく、8~0.5がより好ましく、5~1が特に好ましい。SP値の差が10を超えると、樹脂中でマイクロ繊維セルロースが分散せず、補強効果を得ることはできない可能性がある。他方、SP値の差が0.1未満であるとマイクロ繊維セルロースが樹脂に溶解してしまい、フィラーとして機能せず、補強効果が得られない。この点、樹脂(溶媒)のSPPOL値とマイクロ繊維セルロース(溶質)のSPMFC値の差が小さい程、補強効果が大きい。
なお、溶解パラメータ(cal/cm31/2(SP値)とは、溶媒-溶質間に作用する分子間力を表す尺度であり、SP値が近い溶媒と溶質であるほど、溶解度が増す。
(成形処理)
微細繊維及び樹脂の混練物は、必要により再度混練する等した後、所望の形状に成形することができる。この成形の大きさや厚さ、形状等は、特に限定されず、例えば、シート状、ペレット状、粉末状、繊維状等とすることができる。
成形処理の際の温度は、樹脂のガラス転移点以上であり、樹脂の種類によって異なるが、例えば90~260℃、好ましくは100~240℃である。
混練物の成形は、例えば、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等によることができる。また、混練物を紡糸して繊維状にし、前述した植物材料等と混繊してマット形状、ボード形状とすることもできる。混繊は、例えば、エアーレイにより同時堆積させる方法等によることができる。
混練物を成形する装置としては、例えば、射出成形機、吹込成形機、中空成形機、ブロー成形機、圧縮成形機、押出成形機、真空成形機、圧空成形機等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
以上の成形は、混練に続いて行うことも、混練物をいったん冷却し、破砕機等を使用してチップ化した後、このチップを押出成形機や射出成形機等の成形機に投入して行うこともできる。もちろん、成形は、本発明の必須の要件ではない。
(その他の組成物)
繊維状セルロースには、マイクロ繊維セルロースと共にセルロースナノファイバーが含まれていてもよい。セルロースナノファイバーは、マイクロ繊維セルロースと同様に微細繊維であり、樹脂の強度向上にとってマイクロ繊維セルロースを補完する役割を有する。ただし、可能であれば、微細繊維としてセルロースナノファイバーを含むことなくマイクロ繊維セルロースのみによる方が好ましい。なお、セルロースナノファイバーの平均繊維径(平均繊維幅。単繊維の直径平均。)は、好ましくは4~100nm、より好ましくは10~80nmである。
また、繊維状セルロースには、パルプが含まれていてもよい。パルプは、セルロース繊維スラリーの脱水性を大幅に向上する役割を有する。ただし、パルプについてもセルロースナノファイバーの場合と同様に、配合しないのが、つまり含有率0質量%であるのが最も好ましい。
樹脂組成物には、微細繊維やパルプ等のほか、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)、広葉樹及び綿花などの各種植物体から得られた植物材料に由来する繊維を含ませることもでき、含まれていてもよい。
樹脂組成物には、例えば、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤、ラジカル捕捉剤、発泡剤等の中から1種又は2種以上を選択して、本発明の効果を阻害しない範囲で添加することができる。これらの原料は、繊維状セルロースの分散液に添加しても、微細繊維及び樹脂の混練の際に添加しても、これらの混練物に添加しても、その他の方法で添加してもよい。ただし、製造効率の面からは、微細繊維及び樹脂の混練の際に添加するのが好ましい。
樹脂組成物には、ゴム成分として、エチレン-αオレフィン共重合エラストマー又はスチレン-ブタジエンブロック共重合体が含有されていてもよい。α-オレフィンの例としては、例えば、ブテン、イソブテン、ペンテン、ヘキセン、メチル-ペンテン、オクテン、デセン、ドデセン等が挙げられる。
次に、本発明の実施例を説明する。
水分率10%以下の針葉樹クラフトパルプと固形分濃度10%の尿素水溶液と20%クエン酸水溶液とを用いて、固形分換算の質量比でパルプ:尿素:クエン酸=100:50:0.1となるように混合した後、105℃で乾燥させた。次に、所定の反応温度、反応時間で加熱処理してカルバメート変性パルプ(カルバメート化パルプ)を得た。得られたカルバメート変性パルプは、蒸留水で希釈攪拌して脱水洗浄を2回繰り返した。洗浄したカルバメート変性パルプを叩解機を用いてFine率(FS5による繊維長分布測定で0.2mm以下の繊維の割合)が77%以上となるまでで叩解して、カルバメート変性マイクロ繊維セルロース(カルバメート化MFC(微細繊維))を得た。
得られたカルバメート化MFCについて、カルバメート化率並びに、カルバメート化後、叩解前の平均繊維長、及び叩解後の平均繊維長を測定した。結果を表1に示した。なお、カルバメート化率については、反応後のカルバメート化パルプをFTIR測定し、C=OとO-Hの吸収スペクトルのピーク高さの比を基に算出した。カルバメート化が進むほど、O-Hは減少し、O=Cが増加する。ただし、表中には、カルバメート化率が1mmol/g以上の場合を○、1mmol/g未満の場合を×として示した。また、叩解前の平均繊維長については、1.0mm以上の場合を〇、1.0mm未満の場合を×として示した。また、叩解後の平均繊維長については、0.8mm以上の場合を◎、0.5mm以上かつ0.8mm未満の場合を〇、0.5mm未満の場合を×として示した。
Figure 0007150783000002
(考察)
例えば170℃で加熱した場合においては反応時間を1時間、30分とした場合においてもカルバメート化率を1mmol/g以上とすることができた。したがって、このカルバメート化MFCを樹脂の補強材として使用した場合においては、樹脂の曲げ弾性率を向上させることができることが分かる。また、170℃で3時間加熱処理した場合においても平均繊維長が0.5mm以上となっており、繊維のダメージが抑えられていることが分かる。
また、反応温度が150℃以上であればカルバメート化率を1mmol/g以上とすることができることが分かる。
なお、カルバメート化率と曲げ弾性率との関係を表2に示した。この試験は、以下の方法で複合樹脂を作製し、曲げ弾性率を測定したものである。曲げ弾性率の測定は、JIS K 7171:1994に準拠した。ただし、表中には、樹脂自体の曲げ弾性率を1として複合樹脂の曲げ弾性率が1.3倍以上の場合を○、1.3倍未満の場合を×として記載することとした。
(複合樹脂の作製)
水分率10%以下の針葉樹クラフトパルプと固形分濃度10%の尿素水溶液と各種pH調整液とを、固形分換算の質量比でパルプ:尿素:クエン酸=100:50:0.4の配合となるように混合した後、105℃で乾燥させた。その後、反応時間1時間、反応温度160℃で加熱処理し、カルバメート変性パルプを得た(カルバメート化率1.0mmol/g)。
得られたカルバメート変性パルプを蒸留水で希釈攪拌して脱水洗浄を2回繰り返した。
洗浄したカルバメート変性パルプ(濃度3%)は、叩解機(SDR)を用いて、Fine率(FS5による繊維長分布測定における0.2mm以下の繊維の割合)が77%以上となるまでで微細化することでカルバメート化MFC水分散液を得た。
次に、この水分散液(繊維濃度3%)にPP粉末及びMAPP粉末を加え(カルバメート化MFC:PP粉末:MAPP=55.0:17.5:27.5)、混合してスラリーとした。このスラリーは、ドラムドライヤ-で加熱乾燥(140℃、3rpm)してカルバメート化MFC乾燥体を得た。なお、PP粉末としては日本ポリプロ社のノバテックPPMA3ペレットを粉末状(500μm以下のふるい通過分、中位径123μm)に加工したものを使用した。また、MAPP粉末としてはBYK社のSCONA9212FAを使用した。
次に、上記カルバメート化MFC乾燥体を二軸混練機で混練して(180℃、200rpm)ペレットとした。このペレットは、カルバメート化MFC10%となるようにPPペレットと混合し(カルバメート化MFCペレット:PPペレット=10:45)、二軸混練機で混練(180℃、200rpm)してペレット状に加工後、射出成型して曲げ試験片を作製した。
Figure 0007150783000003
本発明は、カルバメート化セルロース繊維の製造方法及びカルバメート化微細繊維の製造方法として利用可能である。

Claims (5)

  1. セルロース繊維を加熱処理して前記セルロース繊維のヒドロキシ基をカルバメート基で置換率1.0mmol/g以上となるように置換する工程を有し、
    前記加熱処理を加熱温度150~170℃、加熱時間0.5~2.0時間で、かつ前記加熱温度及び前記加熱時間を前記セルロース繊維の結晶化度が50%以上となる限度で行い、
    前記加熱処理は、前記セルロース繊維に尿素及び尿素の誘導体の少なくともいずれか一方並びにクエン酸及びクエン酸塩が添加された条件で系内のpHが酸性条件となるように行い、
    前記セルロース繊維に対する前記クエン酸の添加量を0.1~10,000ppmとし、
    前記クエン酸に対する前記クエン酸塩の添加割合を前記クエン酸100質量部に対して10~1,000質量部とする、
    ことを特徴とするカルバメート化セルロース繊維の製造方法。
  2. 前記セルロース繊維に対する前記尿素及び前記尿素の誘導体の添加量を1~70%とする、
    請求項1に記載のカルバメート化セルロース繊維の製造方法。
  3. 前記カルバメート基で置換する工程は、混合処理、除去処理、及び加熱処理に区分され、
    前記混合処理においては、前記セルロース繊維と尿素及び尿素の誘導体の少なくともいずれか一方とを分散媒中で混合し、
    前記除去処理においては、前記混合処理において得られたセルロース繊維並びに尿素及び尿素の誘導体の少なくともいずれか一方を含む分散液から前記分散媒を除去し、
    この分散媒の除去は、50~120℃で加熱して分散媒を揮発させることで行い、
    前記分散媒としては、水を使用する、
    請求項1に記載のカルバメート化セルロース繊維の製造方法。
  4. セルロース繊維を加熱処理して前記セルロース繊維のヒドロキシ基をカルバメート基で置換率1.0mmol/g以上となるように置換する工程と、
    セルロース繊維を平均繊維幅が19μm以下となるように解繊して微細繊維とする工程とを有し、
    前記加熱処理を加熱温度150~170℃、加熱時間0.5~2.0時間で、かつ前記加熱温度及び前記加熱時間を前記セルロース繊維の結晶化度が50%以上となる限度で行い、
    前記加熱処理は、前記セルロース繊維に尿素及び尿素の誘導体の少なくともいずれか一方並びにクエン酸及びクエン酸塩が添加された条件で系内のpHが酸性条件となるように行い、
    前記セルロース繊維に対する前記クエン酸の添加量を0.1~10,000ppmとし、
    前記クエン酸に対する前記クエン酸塩の添加割合を前記クエン酸100質量部に対して10~1,000質量部とする、
    ことを特徴とするカルバメート化微細繊維の製造方法。
  5. 前記セルロース繊維として平均繊維長が0.50~5.00mmのセルロース原料を使用し、前記解繊によって前記微細繊維の平均繊維長を0.10~2.00mmとする、
    請求項に記載のカルバメート化微細繊維の製造方法。
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