JP7148281B2 - 操舵制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、操舵制御装置に関する。
車両の操舵機構にトルクを付与するモータを備えた操舵装置が知られている(特許文献1)。たとえばモータの出力軸がステアリングシャフトに連結されていることにより、ステアリングシャフトにモータのトルク(以下、「モータトルク」という。)が伝達される。運転者がステアリングホイールを操舵することによってステアリングシャフトを回転させるときには、ステアリングシャフトに連結されたモータの出力軸も回転することになる。このため、ステアリングシャフトにモータが連結されていない操舵装置の場合と比べると、モータなどの摩擦によってステアリングシャフトは回転しにくくなる。
操舵装置を制御対象とする操舵制御装置では、トルクセンサにより検出される操舵トルクに基づいてステアリングシャフトに伝達されるモータトルクが設定されることがある。しかし、ステアリングシャフトを回転させるときには、ステアリングシャフトに連結されたモータの出力軸も回転することになる。このため、操舵制御装置は、モータなどの摩擦を補償するための摩擦補償値と操舵トルクとの関係を求めておき、トルクセンサによって操舵トルクを検出したときには、その関係から導き出した摩擦補償値を考慮してモータトルクを設定する。
特開2016-7917号公報
ステアリングホイールには、その回転中心軸上に重心が位置していないものがある。こうしたステアリングホイールが回転する場合、その重心が重力方向において高くなるときの回転位置(以下、「高位置」という。)から最も低くなるときの回転位置(以下、「低位置」という。)へ向けて動こうとするトルク(以下、「重力トルク」という。)が作用することになる。トルクセンサにより検出されるトルクには、運転者がステアリングホイールを操舵したことにより付与されるトルク(以下、「操舵トルク」という。)だけでなく、この重力トルクも含まれる。この場合、トルクセンサが検出するトルクに重力トルクが含まれるため、摩擦補償値が大きく演算されることになる。そのため、操舵トルクに対応する摩擦補償という意味では、摩擦補償を適切に行うことができなくなる。
このように、操舵トルクに重力トルクが影響することで摩擦補償を適切に行うことができなくなることがある。これにより、モータを適切に駆動させることができず、運転者の操舵フィーリングに違和感を与えることがある。本発明の課題は、操舵制御装置において、摩擦補償を適切に行うことにある。
上記課題を解決する操舵制御装置は、回転中心軸上に重心が位置していないステアリングホイールに連結される回転軸と、前記回転軸に付与されるモータトルクの発生源であるモータを有するアクチュエータとを備える操舵装置を制御対象とする操舵制御装置において、前記モータを制御するための指令値を演算する指令値演算部を備え、前記指令値演算部は、前記回転軸に付与されたトルクに基づいて前記アクチュエータの摩擦を補償するための摩擦補償値を前記ステアリングホイールが受ける重力により発生する重力トルクの影響を取り除いて演算し、前記摩擦補償値に基づいて前記指令値を演算する。
回転軸に付与されたトルクに基づいて摩擦補償値が演算される。ただし、この場合のトルクには、運転者がステアリングホイールの操舵により付与した操舵トルクだけでなく、ステアリングホイールの回転中心軸上に重心が位置していないステアリングホイールが受ける重力トルクも含まれている。このため、回転軸に付与されたトルクに基づいて演算される摩擦補償値に重力トルクの影響が含まれることになる。そこで、上記構成では、指令値演算部は、重力トルクの影響を取り除いて摩擦補償値を演算し、指令値演算部は、その摩擦補償値に基づいてモータを制御するための指令値を演算している。これにより、摩擦補償値の演算における重力トルクの影響が抑えられるため、操舵トルクに対して適切に摩擦補償を行うことができる。この結果、運転者の操舵フィーリングに違和感を与えるといったことが抑えられる。
上記の操舵制御装置において、前記指令値演算部は、前記ステアリングホイールの操舵角に応じて規則的に発生する前記重力トルクの影響を取り除いて前記摩擦補償値を演算することが好ましい。
この構成によれば、重力トルクはステアリングホイールの操舵角に応じて規則的に発生することを用いて、摩擦補償値から重力トルクの影響を精度よく取り除くことができる。
上記の操舵制御装置において、前記指令値演算部は、前記回転軸に付与されたトルクに基づいて、前記アクチュエータの摩擦を補償するための前記摩擦補償値における前記重力トルクの影響を取り除く前の値である補正前摩擦補償値を演算する摩擦補償部と、前記重力トルクの影響が含まれている前記補正前摩擦補償値から前記重力トルクの影響を取り除くための補正値を演算する補正部とを有し、前記補正部により演算された補正値を反映して前記摩擦補償値を演算することが好ましい。
この構成によれば、摩擦補償値に対して補正値を反映させることから、従来から操舵制御装置において実行される各種の演算部の設計変更を必要最小限に留めることが可能となる。この結果、指令値演算部を容易に構成することができる。
上記の操舵制御装置において、回転中心軸上に重心が位置していないステアリングホイールに連結される回転軸と、前記回転軸に付与されるモータトルクの発生源であるモータを有するアクチュエータとを備える操舵装置を制御対象とする操舵制御装置において、前記モータを制御するための指令値を演算する指令値演算部を備え、前記指令値演算部は、前記ステアリングホイールの操舵角に基づいて、前記ステアリングホイールが受ける重力により発生する重力トルクの影響を取り除いて前記回転軸に付与されたトルクを演算するとともに、前記重力トルクの影響を取り除いた前記トルクに基づいて前記アクチュエータの摩擦を補償するための摩擦補償値を演算し、前記摩擦補償値に基づいて前記指令値を演算する。
この構成によれば、指令値演算部は、重力トルクの影響を取り除いて回転軸に付与されたトルクを演算するとともに、重力トルクの影響を取り除いたトルクに基づいて摩擦補償値を演算している。これにより、摩擦補償値の演算における重力トルクの影響が抑えられるため、操舵トルクに対して適切に摩擦補償を行うことができる。この結果、運転者の操舵フィーリングに違和感を与えるといったことが抑えられる。
本発明の操舵制御装置によれば、摩擦補償を適切に行うことができる。
ステアリング装置の概略構成図。 ステアリングホイールの概略構成図。 第1実施形態の操舵制御装置の制御ブロック図。 ステアリングホイールの操舵角と重力補正値との関係を示すグラフ。 第2実施形態の操舵制御装置の制御ブロック図。 他の実施形態の操舵制御装置の制御ブロック図。 他の実施形態の操舵制御装置の制御ブロック図。
<第1実施形態>
以下、操舵制御装置を車両の操舵装置に適用した第1実施形態について説明する。
図1に示すように、操舵装置1は、電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)2、油圧パワーステアリング装置(以下、「HPS」という。)3、及び操舵制御装置4を備えている。
EPS2はステアリングホイール11が連結されたステアリングシャフト12に設けられている。EPS2は、EPSアクチュエータ20を備えている。EPSアクチュエータ20は、モータ21及び減速機22を有している。
モータ21は、減速機22を介してステアリングシャフト12に連結されている。減速機22はモータ21の回転を減速し、当該減速した回転力をステアリングシャフト12に伝達する。すなわち、減速機22を介して、回転軸としてのステアリングシャフト12にモータ21のトルク(以下、「モータトルク」という。)が付与される。
操舵制御装置4は、各種のセンサの検出結果に基づき、モータ21の駆動を制御する。各種のセンサとしては、たとえばトルクセンサ23及び回転角センサ24がある。トルクセンサ23は、ステアリングシャフト12に加わるトルクThを検出する。トルクセンサ23はステアリングシャフト12に設けられるトーションバー23aを有している。トルクセンサ23は、ステアリングシャフト12におけるトーションバー23aよりもステアリングホイール11側(図1中の上側)の部分と、ステアリングシャフト12におけるトーションバー23aよりもステアリングホイール11と反対側(図1中の下側)の部分との捩れ角に基づいて、トルクThを検出する。回転角センサ24は、モータ21の出力軸21aの回転角θmを検出する。モータ21の回転角θmは、ステアリングホイール11の操舵角θsの演算に使用される。なお、モータ21とステアリングシャフト12とは、減速機22を介して連動する。モータ21の回転角θmと、ステアリングシャフト12の回転角との間には相関がある。また、ステアリングシャフト12の回転角とステアリングホイール11の操舵角θsとの間にも相関がある。このため、操舵角θsは、回転角センサ24により検出される回転角θmに基づいて求めることができる。操舵制御装置4は、回転角θmに基づいてステアリングホイール11の操舵角θsを演算する。なお、トルクTh、回転角θm、及び操舵角θsは、ステアリングホイール11が一方向(第1実施形態では右方向)に操舵された場合に正の値、他方向(第1実施形態では左方向)に操舵された場合に負の値で検出される。
車両には、運転者の運転操作を支援するADAS(先進運転支援システム)などの協調制御システムが搭載されている。この場合、車両においては、操舵制御装置4と他の車載システムの制御装置との協調制御が行われる。協調制御とは、複数種の車載システムの制御装置が互いに連携して車両の動きを制御する技術をいう。車両には、たとえば各種の車載システムの制御装置を統括制御するADAS制御装置5が搭載されている。ADAS制御装置5は、その時々の車両の走行に関する情報である走行情報に基づいて、最適な制御方法を求め、その求められる制御方法に応じて各種の車載制御装置に対して個別の制御を指令する。
ADAS制御装置5は、走行情報に基づいて、たとえば緊急回避制御、レーンキープアシスト制御あるいはパーキングアシスト制御などの運転支援(自動操舵)制御を実行するためのADAS指令値Tad*を生成する。緊急回避制御とは、緊急時の回避操作を促すために操舵を補助する制御をいう。レーンキープアシスト制御とは、走行中の車両が車線を逸脱しそうなとき、車両を車線に沿って走行させるための制御をいう。パーキングアシスト制御とは、車庫入れなどの駐車の際、所定の駐車位置に車両を駐車させるための制御をいう。操舵制御装置4は、ADAS制御装置5から入力されるADAS指令値Tad*に基づいてモータ21を制御することにより、運転支援制御を実行する。運転支援指令値としてのADAS指令値Tad*は、モータ21からステアリングシャフト12に付与されるモータトルクの目標値となるトルク指令値である。操舵制御装置4では、このトルク指令値に応じて電流指令値を演算する。
油圧アクチュエータとしてのHPS3は、ステアリングシャフト12におけるステアリングホイール11と反対側の端部に設けられている。HPS3はRBS式(リサーキュレーティングボールスクリュー式)のステアリングギヤボックス31、ポンプ32、及びリザーバタンク33を有している。ステアリングギヤボックス31は吐出管34を介してポンプ32に接続されている。また、ステアリングギヤボックス31は排出管35を介してリザーバタンク33に接続されている。吐出管34と排出管35との間はバイパス管36により接続されている。バイパス管36には電動バルブ37が設けられている。ポンプ32はエンジン44により駆動される。ポンプ32の駆動によりリザーバタンク33内の作動油は吐出管34を介してステアリングギヤボックス31へ供給される。ステアリングギヤボックス31から排出される作動油は排出管35を介してリザーバタンク33に戻される。電動バルブ37の開度は操舵制御装置4により制御される。電動バルブ37の開度を大きくするほどポンプ32から吐出される作動油のうちバイパス管36を介して排出管35へ分流する作動油の流量が増大する。
ステアリングシャフト12におけるステアリングホイール11と反対側の端部には、入力軸45が連結されている。入力軸45はステアリングギヤボックス31の上壁を貫通し、かつステアリングギヤボックス31に対して回転可能に支持されている。ステアリングギヤボックス31の内部は図示しないボールナットによって2つの油室に区画されている。2つの油室にはステアリングギヤボックス31の内部に設けられたコントロールバルブ46を介して作動油が供給される。コントロールバルブ46は、入力軸45の回転に応じて2つの油室に対する作動油の供給または排出(給排)を制御するロータリーバルブである。コントロールバルブ46を介して2つの油室の一方に択一的に作動油が供給されることにより2つの油室の間に圧力差が生じ、この圧力差に応じてピットマンアーム41が左右揺動運動する。このように、ステアリングギヤボックス31はステアリングシャフト12の回転運動をピットマンアーム41の左右揺動運動に変換する。ピットマンアーム41の左右揺動運動が左右のタイロッド42,42を介して左右の転舵輪43,43に伝達されることにより、ピットマンアーム41を介して転舵輪43,43に油圧による補助力が付与される。この補助力によって、操舵装置1の操舵状態(転舵輪43,43の転舵角)の変更が補助される。
図2に示すように、ステアリングホイール11は、運転者が保持する部分である円形状のリム11aと、リム11aの内側に設けられ、正面視において略T字状をなすハブ11bとを有している。ハブ11bの3つの端部がリム11aに取り付けられることにより、リム11aとハブ11bとが連結されている。
第1実施形態のステアリングホイール11では、ステアリングホイール11の回転中心C軸上に、ステアリングホイール11の重心Gが位置していない。このステアリングホイール11は、車両の重力方向に対して傾いて設けられている。ステアリングシャフト12の軸線上にステアリングホイール11の回転中心Cは位置している。ステアリングホイール11の回転位置がステアリングホイール11の中立位置にあるときに、重心Gは重力方向において最も低くなるように設けられる。ステアリングホイール11を回転操作したとき、ステアリングホイール11には、重心Gが重力方向において高くなる回転位置(以下、「高位置」という。)から最も低くなる回転位置(以下、「低位置」という。)へ向けて動こうとするトルク(以下、「重力トルク」という。)が作用する。この重力トルクは、ステアリングホイール11が重力の影響を受けることにより発生する。
操舵制御装置4の構成について説明する。
図3に示すように、操舵制御装置4は、モータ21を制御するための指令値T*を演算する指令値演算部50a、電流指令値演算部51、モータ制御信号生成部52、駆動回路53、及び電流センサ54を備えている。
指令値演算部50aは、摩擦補償部55、重力補正部56、加算器57、及び切替部58を備えている。
摩擦補償部55は、指令値T*の一成分として、EPSアクチュエータ20の摩擦を補償するための摩擦補償値Ta*の補正前の値である補正前摩擦補償値Tf*を演算する。なお、ここでいう補正については後で詳述する。ステアリングシャフト12を回転させる際に、ステアリングシャフト12に減速機22を介して連結されているモータ21の出力軸21aも回転する。このため、EPSアクチュエータ20に生じる摩擦により、ステアリングシャフト12が回転する際の負荷が増大する。摩擦補償部55は、トルクセンサ23により検出されるトルクThと補正前摩擦補償値Tf*との関係を示すマップを記憶している。摩擦補償部55は、トルクThと補正前摩擦補償値Tf*との関係を用いて、トルクセンサ23により検出されるトルクThに基づいて補正前摩擦補償値Tf*を演算する。補正前摩擦補償値Tf*は、トルクThと同符号の指令値である。摩擦補償部55は、トルクThの絶対値が大きいほど、より大きな絶対値の補正前摩擦補償値Tf*を演算する。なお、補正前摩擦補償値Tf*は、トルクThと同様に、一方向に回転させる指令値である場合に正の値、他方向に回転させる指令値である場合に負の値とする。
トルクセンサ23により検出されるトルクThには、運転者がステアリングホイール11を操舵したことによりステアリングシャフト12に付与されるトルク(以下、「操舵トルク」という。)だけでなく、ステアリングホイール11が重力の影響を受けることにより発生する重力トルクも含まれている。トルクThには操舵トルク及び重力トルクが含まれることから、トルクThに基づいて演算される補正前摩擦補償値Tf*にも重力トルクの影響が含まれることになる。この重力トルクは、ステアリングホイール11が低位置へ向けて動こうとして発生するものである。このため、重力トルクは、ステアリングホイール11の回転位置、すなわちステアリングホイール11の操舵角θsに応じて規則的に発生する。そこで、指令値演算部50aには、重力トルクの影響が含まれている補正前摩擦補償値Tf*を補正するための補正値として重力補正値Tg*を演算する重力補正部56が設けられている。補正前摩擦補償値Tf*の補正とは、重力トルクの影響が含まれている補正前摩擦補償値Tf*から重力トルクの影響を取り除くことにより、重力トルクの影響を取り除いた摩擦補償値Ta*を演算することである。重力補正部56には、ステアリングホイール11の操舵角θsと重力補正値Tg*との関係を示すマップが記憶されている。重力補正部56は、ステアリングホイール11の操舵角θsに基づいて、補正前摩擦補償値Tf*を補正するための重力補正値Tg*を演算する。
ステアリングホイール11の操舵角θsと重力補正値Tg*との関係を示すマップについて説明する。
図4に示すように、ステアリングホイール11が回転することにより、ステアリングホイール11の重心Gの回転中心Cに対する位置関係は変化する。ここでは、一例として、ステアリングホイール11を中立位置から一方向(右方向)に操舵した場合の重力補正値Tg*の変化について説明する。なお、重力補正値Tg*は、ステアリングホイール11の操舵角θsと同様に、一方向に回転させる場合に正の値、他方向に回転させる場合に負の値とする。
第1の状態は、ステアリングホイール11の操舵角θsがたとえば0度、すなわちステアリングホイール11が中立位置に保持されたときの状態である。この場合、ステアリングホイール11は低位置にある。このため、ステアリングホイール11には、重力トルクは作用しない。このような第1の状態の場合には、重力補正部56は、重力補正値Tg*の値をたとえば「0」として演算する。
第2の状態は、ステアリングホイール11の操舵角θsが90度、すなわちステアリングホイール11が中立位置から一方向に90度操舵されたときの状態である。この場合のステアリングホイール11の重心Gは、低位置のときよりも重力方向において高い位置にある。このとき、ステアリングホイール11には、高位置から低位置(第1の状態のときの回転位置)に向けて、すなわち他方向へ向けて重力トルクが作用する。このように、ステアリングホイール11には、ステアリングホイール11を一方向に90度操舵したことによって付与される操舵トルクと逆の方向へ重力トルクが作用することになる。このような第2の状態の場合には、重力補正部56は、重力補正値Tg*の値を正の値である「Tgm*」として演算する。
第3の状態は、ステアリングホイール11の操舵角θsが180度、すなわちステアリングホイール11が中立位置から一方向に180度操舵されたときの状態である。この場合、ステアリングホイール11は高位置にある。この場合、第1の状態のときのステアリングホイール11の重心Gと、回転中心Cと、第3の状態のときのステアリングホイール11の重心Gとが重力方向と一致する同一直線上にあるため、重力トルクは作用しない。このような第3の状態の場合には、重力補正部56は、重力補正値Tg*の値をたとえば「0」として演算する。なお、ステアリングホイール11の操舵角θsが180度からわずかにずれた場合、ステアリングホイール11には低位置へ向けて重力トルクが作用する。
第4の状態は、ステアリングホイール11の操舵角θsが270度、すなわちステアリングホイール11が中立位置から一方向に270度操舵されたときの状態である。この場合、ステアリングホイール11の重心Gは、低位置のときよりも重力方向において高い位置にある。ステアリングホイール11には、低位置へ向けて、すなわち一方向へ向けて重力トルクが作用する。ステアリングホイール11には、ステアリングホイール11を一方向に270度操舵したことによって付与される操舵トルクと同じ方向に重力トルクが作用することになる。このような第4の状態の場合には、重力補正部56は、重力補正値Tg*の値を負の値である「-Tgm*」として演算する。
第5の状態は、ステアリングホイール11の操舵角θsが360度、すなわちステアリングホイール11が中立位置から一方向に360度操舵されたときの状態である。この場合、ステアリングホイール11の重心Gは第1の状態と同じ状態になる。このような第5の状態の場合には、重力補正部56は、重力補正値Tg*の値をたとえば「0」として演算する。
このように、重力補正部56は、ステアリングホイール11の操舵角θsに基づいて、重力補正値Tg*を演算する。重力補正値Tg*は、ステアリングホイール11の操舵角θsに対して正弦波状に変化する。なお、重力補正値Tg*は、ステアリングホイール11を他方向に操舵した場合についても、一方向に操舵した場合と同様に、ステアリングホイール11の操舵角θsに対して正弦波状に変化する。
図3に示すように、加算器57は、摩擦補償部55により演算された補正前摩擦補償値Tf*に、重力補正部56により演算された重力補正値Tg*を加算することにより、摩擦補償値Ta*を演算する。
切替部58は、ADAS制御装置5により演算されたADAS指令値Tad*及び加算器57により演算された摩擦補償値Ta*を取得する。切替部58は、運転支援制御を実行する場合、ADAS指令値Tad*を指令値T*として出力する。また、運転支援制御を実行しない場合、摩擦補償値Ta*を指令値T*として出力する。なお、運転支援制御を実行するか否かは、たとえばADAS指令値Tad*が入力されているか否かに基づいて判定される。また、切替部58は、運転支援制御中であっても、トルクThがステアリング操作を示す閾値以上である場合、運転支援制御を中断して摩擦補償値Ta*を指令値T*として出力するようにしてもよい。
電流指令値演算部51は、指令値演算部50aにより演算された指令値T*に基づいて、モータ21の駆動電流の目標値である電流指令値I*を演算する。
モータ制御信号生成部52は、駆動回路53とモータ21との間の給電経路に設けられた電流センサ54により検出される実電流値Iと、回転角センサ24により検出される回転角θmとに基づいて、電流指令値I*を実電流値Iに追従させるように電流フィードバック制御を実行することにより、モータ制御信号Smを生成する。
駆動回路53は、モータ制御信号Smに基づいて、モータ21に駆動電力を供給する。
第1実施形態の作用及び効果を説明する。
(1)たとえばステアリングホイール11の操舵角θsが180度の状態(図4でいう第3の状態)から360度の状態(図4でいう第5の状態)へ向けて一方向に操舵された場合、運転者が付与した操舵トルクに加えて一方向へ向けて重力トルクが作用するため、元々運転者が付与した操舵トルクよりも絶対値の大きいトルクThがトルクセンサ23から検出される。そのため、摩擦補償部55は、補正前摩擦補償値Tf*を演算するにあたって、操舵トルクに対して補正前摩擦補償値Tf*を演算する場合に比べて補正前摩擦補償値Tf*を大きく演算することになる。第1実施形態では、重力補正部56は、ステアリングホイール11の操舵角θsが180度の状態から360度の状態へ向けて一方向に操舵された場合、ステアリングホイール11の操舵角θsに基づいて、負の値の重力補正値Tg*を演算する。指令値演算部50aは、この重力補正値Tg*を補正前摩擦補償値Tf*に加算することにより、運転者の操舵フィーリングに合致するような摩擦補償値Ta*を演算することができる。
また、たとえばステアリングホイール11の操舵角θsが0度の状態(図4でいう第1の状態)から180度の状態(図4でいう第3の状態)へ向けて一方向に操舵された場合、元々運転者が付与した操舵トルクに対して他方向に重力トルクが作用するため、元々運転者が付与した操舵トルクよりも絶対値の小さいトルクThがトルクセンサ23から検出される。そのため、摩擦補償部55は、補正前摩擦補償値Tf*を演算するにあたって、操舵トルクに対して補正前摩擦補償値Tf*を演算する場合に比べて、補正前摩擦補償値Tf*を小さく演算することになる。第1実施形態では、ステアリングホイール11の操舵角θsが0度の状態から180度の状態へ向けて一方向に操舵された場合、重力補正部56は正の値の重力補正値Tg*を演算する。指令値演算部50aは、この重力補正値Tg*を補正前摩擦補償値Tf*に加算することにより、運転者の操舵フィーリングに合致するような摩擦補償値Ta*を演算することができる。
このように重力トルクの影響を取り除いて摩擦補償値Ta*を演算することができるため、操舵トルクに対して適切に摩擦補償を行うことができる。したがって、EPSアクチュエータ20の摩擦を補償するための摩擦補償を適切に行うことができ、これにより、運転者の操舵フィーリングに違和感を与えるといったことが抑えられる。
(2)重力トルクはステアリングホイール11の操舵角θsに応じて規則的に発生する。そこで、第1実施形態では、この規則性を用いることで、補正前摩擦補償値Tf*から重力トルクの影響を精度よく取り除くことができる。
(3)指令値演算部50aは、重力補正値Tg*を補正前摩擦補償値Tf*に加算することにより、補正前摩擦補償値Tf*から重力トルクの影響を取り除いている。そのため、従来から操舵制御装置4において実行されている各種の演算部の設計変更を必要最小限に留めることが可能となる。つまり、指令値演算部50aを容易に構成することができる。
(4)操舵制御装置4は、HPS3によってステアリングホイール11の操舵を補助する補助力を発生する操舵装置1を制御対象としている。この場合であっても、EPSアクチュエータ20の摩擦を補償する摩擦補償について、ステアリングホイール11が受ける重力により発生する重力トルクの影響を取り除いて摩擦補償値Ta*を演算するという制御構成を採用することができる。また、EPSアクチュエータ20の摩擦を補償する摩擦補償が適切に行われることから、トルクThに加えて適切なモータトルクによって、入力軸45を適切に回転させることができ、HPS3により適切な補助力を発生することができる。
(5)操舵装置1には運転支援制御を実行することを目的として、ステアリングシャフト12にモータトルクを付与するモータ21が設けられている。たとえば、第1実施形態では、HPS3によって運転者のステアリングホイール11の操舵を補助する操舵装置1に、運転支援制御を実行するためのモータ21が設けられている。運転支援制御を実行しているときには、操舵装置1を制御する操舵制御装置4は、ADAS指令値Tad*に基づいてモータ21を駆動させる。このときには、運転者の操舵フィーリングの違和感はほとんど関係ないから、トルクThに基づいて実行される摩擦補償を行う必要はない。
一方、操舵制御装置4が運転支援制御を実行していないときには、ステアリングシャフト12に減速機22を介してモータ21が連結されていることにより、EPSアクチュエータ20の摩擦によってステアリングシャフト12が回転しにくくなる。このため、摩擦補償部55によって演算される補正前摩擦補償値Tf*をステアリングホイール11が受ける重力により発生する重力トルクの影響を含めて適切に演算して、それを指令値演算部50aにより演算される摩擦補償値Ta*に反映している。これにより、運転支援制御を実行していないときには、運転者はEPSアクチュエータ20の摩擦が補償された状態で、なおかつHPS3により発生する補助力によって操舵が補助された状態でステアリングホイール11を操舵することができる。そのため、操舵装置1に運転支援制御を実行するためのモータ21を設けたとしても、運転支援制御を実行していないときにおいて操舵フィーリングに違和感を与えることが抑えられる。
<第2実施形態>
以下、操舵制御装置を車両の操舵装置に適用した第2実施形態について説明する。ここでは、第1実施形態との違いを中心に説明する。
図5に示すように、指令値演算部50aは、重力補正部60及び加算器61をさらに備えている。
重力補正部60には、ステアリングホイール11の操舵角θsと重力補正値Tg2*との関係を示すマップが記憶されている。このマップは、第1実施形態の図4に示すマップと類似した関係を有している。重力補正部56は、ステアリングホイール11の操舵角θsに基づいて、ADAS指令値Tad*を補正するための重力補正値Tg2*を演算する。重力補正値Tg2*は、運転者がステアリングホイール11を保持していない状態で、ADAS指令値Tad*に基づいてステアリングホイール11が回転する際に発生する重力トルクの影響を取り除くための補正値である。ADAS指令値Tad*に基づいてステアリングホイール11が回転する際にも、ステアリングホイール11の回転位置、すなわちステアリングホイール11の操舵角θsに応じて規則的に重力トルクが発生する。重力補正値Tg2*は、ステアリングホイール11の操舵角θsに対して正弦波状に変化する。なお、重力補正値Tg2*は、ステアリングホイール11を他方向に操舵した場合についても、一方向に操舵した場合と同様に、ステアリングホイール11の操舵角θsに対して正弦波状に変化する。
加算器61は、ADAS制御装置5により演算されたADAS指令値Tad*に、重力補正部60により演算された重力補正値Tg2*を加算することにより、補正後のADAS指令値Tad2*を演算する。
切替部58は、加算器61により演算された補正後のADAS指令値Tad2*及び加算器57により演算された摩擦補償値Ta*を取得する。切替部58は、運転支援制御を実行する場合、補正後のADAS指令値Tad2*を指令値T*として出力する。また、運転支援制御を実行しない場合、摩擦補償値Ta*を指令値T*として出力する。
第2実施形態の作用及び効果を説明する。
(6)運転者がステアリングホイール11を保持していない場合、ADAS指令値Tad*に基づいてステアリングホイール11が回転することになる。この場合、ステアリングホイール11の回転位置、すなわちステアリングホイール11の操舵角θsに応じて規則的に重力トルクが発生することになり、ADAS指令値Tad*に基づいてモータ21がステアリングシャフト12に付与するトルクだけでなく、この重力トルクも付与されることになる。このように、ADAS指令値Tad*に基づいてステアリングシャフト12に付与したトルクに対して同一方向あるいは他方向に重力トルクが作用するため、ADAS指令値Tad*に基づいて付与したトルクよりも絶対値の大きいあるいは小さいトルクがステアリングシャフト12に付与されることになる。この点、第2実施形態では、ADAS指令値Tad*に基づいてステアリングホイール11が回転する際、重力トルクの影響を取り除いて補正後のADAS指令値Tad2*を演算することができるため、運転支援制御を適切に行うことができる。
なお、各実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・ADAS制御装置5は、トルク指令値としてのADAS指令値Tad*を生成したが、これに限らない。たとえば、ADAS制御装置5は、運転支援制御を実行するための指令値として、操舵角θsの目標値となる目標操舵角(角度指令値)を生成してもよい。この場合、操舵制御装置4は、たとえば目標操舵角に実際の操舵角θsを追従させる角度フィードバック制御を実行することにより電流指令値を演算する。
・各実施形態では、切替部58において、指令値T*として用いられる値を、ADAS指令値Tad*(補正後のADAS指令値Tad2*)と摩擦補償値Ta*との間で切り替えたが、これに限らない。
たとえば図6に示すように、切替部58の代わりに加算器58aを設けてもよい。この場合、たとえば運転支援制御が実行されるとき、摩擦補償部55及び重力補正部56は、補正前摩擦補償値Tf*及び重力補正値Tg*を「0」として出力する。また、運転支援制御が実行されないとき、ADAS制御装置5は、ADAS指令値Tad*を「0」として出力する。
・運転支援制御を実行しないのであれば、車両にADAS制御装置5を搭載しなくてもよい。
・各実施形態では、操舵装置1にHPS3が設けられたが、HPS3は設けられなくてもよい。この場合、EPSアクチュエータ20によって、ステアリングホイール11の操舵を補助する補助力を発生させてもよい。
・各実施形態では、重力補正値Tg*を補正前摩擦補償値Tf*に加算することにより重力トルクの影響を取り除いて摩擦補償値Ta*を補正したが、これに限らない。
たとえば図7に示すように、指令値演算部50aは、重力補正部56a、加算器56b、摩擦補償部55、及び切替部58を有している。重力補正部56aは、ステアリングホイール11の操舵角θsに基づいて、トルクセンサ23により検出されるトルクThに含まれる重力トルクを補正するための重力トルク補正値Th*を演算する。加算器56bは、トルクThに重力トルク補正値Th*を加算することにより、補正後トルクThaを演算する。補正後トルクThaは、トルクThに含まれる重力トルクを補正したものであるため、補正前のトルクThよりも運転者が付与した操舵トルクに近い値である。摩擦補償部55は、補正後トルクThaに基づいて、摩擦補償値Tf2*を演算する。切替部58は、ADAS制御装置5により演算されたADAS指令値Tad*及び摩擦補償部55により演算された摩擦補償値Tf2*を取り込む。切替部58は、ADAS指令値Tad*あるいは摩擦補償値Tf2*を指令値T*として出力する。このように、摩擦補償値Tf2*の演算に用いられるトルクThをステアリングホイール11の操舵角θsに基づいて補正するようにしてもよい。これにより、摩擦補償値Tf2*を演算する際における重力トルクの影響が抑えられるため、操舵トルクに対して適切に摩擦補償を行うことができる。この結果、運転者の操舵フィーリングに違和感を与えるといったことが抑えられる。
・ステアリングホイール11は、ステアリングホイール11の回転位置が中立位置にあるときに低位置になるように設けられたが、これに限らない。例えば、ステアリングホイール11の回転位置が中立位置にあるときに高位置となるように設けてもよい。
1…操舵装置、2…EPS、3…HPS、4…操舵制御装置、5…ADAS制御装置、11…ステアリングホイール、12…ステアリングシャフト、21…モータ、22…減速機、23…トルクセンサ、24…回転角センサ、31…ステアリングギヤボックス、32…ポンプ、33…リザーバタンク、34…吐出管、35…排出管、36…バイパス管、37…電動バルブ、41…ピットマンアーム、42…タイロッド、43…転舵輪、44…エンジン、45…入力軸、46…コントロールバルブ、50a…指令値演算部、51…電流指令値演算部、52…モータ制御信号生成部、53…駆動回路、54…電流センサ、55…摩擦補償部、56…重力補正部、57…加算器、58…切替部、C…回転中心、G…重心、I…実電流値、θm…回転角、θs…操舵角、I*…電流指令値、Sm…モータ制御信号、Th…トルク、T*…指令値、Ta*…摩擦補償値、Tf*…補正前摩擦補償値、Tg*…重力補正値、Tad*…ADAS指令値。

Claims (1)

  1. 回転中心軸上に重心が位置していないステアリングホイールに連結される回転軸と、前記回転軸に付与されるモータトルクの発生源であるモータを有するアクチュエータとを備える操舵装置を制御対象とする操舵制御装置において、
    前記モータを制御するための指令値を演算する指令値演算部を備え、
    前記指令値演算部は、
    前記ステアリングホイールの操舵角に基づいて、前記ステアリングホイールが受ける重力により発生する重力トルクの影響を取り除いて前記回転軸に付与されたトルクを演算するとともに、前記重力トルクの影響を取り除いた前記トルクに基づいて前記アクチュエータの摩擦を補償するための摩擦補償値を演算し、前記摩擦補償値に基づいて前記指令値を演算する操舵制御装置。
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