添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。図1は、レーザー加工装置2の構成例を示す斜視図である。図1に示すように、レーザー加工装置2は、各構造を支持する基台4を備えている。
基台4は、直方体状の基部6と、基部6の後端において上方に伸びる壁部8とを含む。基部6の上面には、保護テープ15を介してウェーハ(被加工物)11を吸引して保持するチャックテーブル10が配置されている。
チャックテーブル10の下方には、チャックテーブル10をY軸方向(割り出し送り方向)に移動させるY軸移動ユニット16が設けられている。Y軸移動ユニット16は、基部6の上面に固定されY軸方向に平行な一対のY軸ガイドレール18を備える。
Y軸ガイドレール18には、Y軸移動テーブル20がスライド可能に設置されている。Y軸移動テーブル20の裏面側(下面側)には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、Y軸ガイドレール18と平行なY軸ボールネジ22が回転可能な態様で結合されている。
Y軸ボールネジ22の一端部には、Y軸パルスモータ24が連結されている。Y軸パルスモータ24でY軸ボールネジ22を回転させれば、Y軸移動テーブル20は、Y軸ガイドレール18に沿ってY軸方向に移動する。
Y軸移動テーブル20の表面側(上面側)には、チャックテーブル10をY軸方向と直交するX軸方向(図3(A)及び図3(B)の加工送り方向B)に移動させるX軸移動ユニット26が設けられている。X軸移動ユニット26は、Y軸移動テーブル20の上面に固定されX軸方向に平行な一対のX軸ガイドレール28を備える。
X軸ガイドレール28には、X軸移動テーブル30がスライド可能に設置されている。X軸移動テーブル30の裏面側(下面側)には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、X軸ガイドレール28と平行なX軸ボールネジ32が回転可能な態様で結合されている。
X軸ボールネジ32の一端部には、X軸パルスモータ34が連結されている。X軸パルスモータ34でX軸ボールネジ32を回転させれば、X軸移動テーブル30は、X軸ガイドレール28に沿ってX軸方向に移動する。
X軸移動テーブル30の表面側(上面側)には、支持台36が設けられている。支持台36の上部には、チャックテーブル10が配置されている。チャックテーブル10は、下方に設けられた回転駆動源(不図示)と連結されており、Z軸の周りに回転する。チャックテーブル10の周囲には、ウェーハ11を支持する環状のフレーム17を四方から挟持固定する4個のクランプ38が設けられている。
チャックテーブル10の表面は、ウェーハ11に貼着された円形の保護テープ15を介してウェーハ11を吸引して保持する保持面10aとなっている。この保持面10aには、チャックテーブル10の内部に形成された流路(不図示)を通じて吸引源(不図示)の負圧が作用し、保護テープ15を吸引する吸引力が発生する。
ウェーハ11は、金属で形成された環状のフレーム17の開口の中央部に配置されており、ウェーハ11の裏面11b(図2参照)側とフレーム17とは、接着剤等を介して保護テープ15により固定されている。ウェーハ11、保護テープ15及びフレーム17は、ウェーハユニット19を構成している。
図2は、ウェーハ11の構成例を示す斜視図である。図2に示す様に、本実施形態のウェーハ11は、円盤状の基板11cを有する。基板11cは、例えば、100μm以上1000μm未満の所定の厚さ(Z軸方向の長さ)を有する。本実施形態のウェーハ11の厚さは、730μmである。
本実施形態の基板11cは、可視光(例えば、波長が360nm以上830nm以下の光)に対して透明であるガラスから成るが、ガラスの種類は、特に限定されない。基板11cのガラスは、アルカリガラス、無アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等の各種ガラスであってよい。
なお、基板11cの材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えば、シリコン等の半導体、セラミックス、樹脂、金属等の材料でなる基板等を基板11cとして用いることもできる。また、例えば、基板11cは矩形状であってもよい。
基板11c上には、基板11cと同じ直径を有する円形の偏光膜11dが設けられている。偏光膜11dは、特定の偏光方向を有するレーザービームを主として透過させる機能を有する。
本実施形態の偏光膜11dは、いわゆるワイヤーグリッド偏光膜であり、平面状に略平行に配置された複数の細長い金属のワイヤーを有する。各ワイヤーは、100nmから200nmの高さと、約100nmの幅と、高さ方向及び幅方向に直交する長手方向でcmオーダーの所定の長さとを有する。各ワイヤーは、幅方向で、例えば数十nmから100nm程度互いに離れて配置されている。
但し、偏光膜11dの材質、形状、構造等は特に制限されない。例えば、偏光膜11dとして、ポリビニルアルコール(PVA)にヨウ素イオン等を配向させて形成された有機材料の偏光膜等を用いることもでき、その他の偏光膜を用いることもできる。
ウェーハ11の表面11a側は、互いに交差する複数の分割予定ライン(ストリート)13によって複数の領域に区画される。例えば、分割予定ライン13で区画される各領域は、20mm角の矩形領域である。なお、最外周に位置する矩形領域よりも外側には余剰領域11Aが設定されており、この余剰領域11Aは、後述するようにウェーハ11を加工するのに適したレーザービームLの偏光方向を決定するために利用される場合がある。
図1に戻って、壁部8の上部前面には、前方に向かって伸びる支持アーム40が設けられており、この支持アーム40の先端部には、チャックテーブル10の上方に位置し保持面10aと対向する態様で、レーザービーム照射ユニット12の加工ヘッド12aが設けられている。レーザービーム照射ユニット12は、加工ヘッド12aから保持面10aで保持されたウェーハ11に向けて略垂直にレーザービームLを照射できる。
次に、図3を用いてレーザービーム照射ユニット12について説明する。図3(A)は、レーザービームLが偏光膜11dを透過しやすい場合を示す図であり、図3(B)は、レーザービームLが偏光膜11dを透過しにくい場合を示す図である。
レーザービーム照射ユニット12は、レーザー発振器12bを有する。本実施形態のレーザー発振器12bは、ウェーハ11を透過する波長(即ち、ウェーハ11に対して透過性を有する波長)を有し、且つ、パルス状の直線偏光のレーザービームLを照射する。
レーザー発振器12bから照射されたレーザービームLは、レーザービーム照射ユニット12内に位置するミラー12cによりウェーハ11に向けて反射される。ミラー12cで反射されたレーザービームLは、波長板12dを透過する。
波長板12dは、集光レンズ12gの光軸と略一致する直線を回転軸としてX-Y平面と平行な面内で回転できるように、例えば、レーザービーム照射ユニット12内に収容されている。波長板12dは、レーザービームLの偏光面を回転させる機能を有する。
本実施形態の波長板12dは、λ/2波長板(即ち、半波長板)であり、レーザービームLの進行方向(本実施形態ではZ軸方向)に垂直な面(本実施形態ではX-Y平面)内で、直線偏光の偏光面を任意の角度だけ回転させることができる。なお、偏光面は、レーザービームLの進行方向と偏光方向Aとが成す面であり、本明細書におけるレーザービームLの偏光方向Aとは、レーザービームLの電場が振動する方向を意味する。
例えば、レーザービームLの偏光方向Aがλ/2波長板の光学軸(高速軸ともいう)に対して反時計回りに角度θだけ傾いている場合に、λ/2波長板を透過したレーザービームLの偏光方向Aは、λ/2波長板の光学軸に対して時計回りに角度θだけ傾く。
つまり、λ/2波長板を透過した後のレーザービームLの偏光方向Aは、λ/2波長板を透過する前の偏光方向Aに比べて、角度2θだけ回転した状態になる。仮に、角度θを45度とすれば、λ/2波長板を透過したレーザービームLの偏光方向Aは、λ/2波長板を透過する前の偏光方向Aに比べて、90度回転する。
レーザー発振器12bから出射されるレーザービームLの偏光方向Aは予め定められているので、波長板12dの光学軸を回転させることにより、レーザービームLの偏光方向AをレーザービームLの進行方向に垂直な面内で任意の向きに回転させることができる。
波長板12dの回転角度は、波長板12dを回転させる回転機構を有する偏光面回転操作部12eにより変更される。偏光面回転操作部12eは、例えば、回転機構として小型のロータリーアクチュエーターを有する。なお、偏光面回転操作部12e及び波長板12dは、偏光面回転部12fを構成している。
本実施形態の偏光面回転操作部12eは、詳しくは後述する制御ユニット42(図1を参照)に接続しており、偏光面回転操作部12eの動作は制御ユニット42により制御される。偏光面回転操作部12eは、制御ユニット42の指示に従い、波長板12dの回転角度を自動で変更する。
波長板12dを透過したレーザービームLは、集光レンズ12gを経て基板11cの表面11a側に入射する。集光レンズ12gは、レーザービームLを基板11cの内部に集光させる機能を有する。レーザービームLが基板11cの内部の集光点12hに集光されると、集光点12hの近傍では多光子吸収が生じ、ウェーハ11の機械的強度等が低下した領域である改質層が形成される。
但し、上述の様に、本実施形態のウェーハ11の表面11a側には偏光膜11dが設けられている。本実施形態の偏光膜11dは、特定の偏光方向Aを有するレーザービームLを主として基板11cへ透過させる。
ここで、図3(A)及び図3(B)を用いて、ウェーハ11の表面11a側における所定の方向に対して直線偏光の偏光面が成す角度αについて説明する。本実施形態のレーザー加工装置2は、偏光面回転部12fによりレーザービームLの偏光方向Aを回転させて、上述の角度αを変える。レーザービームLが偏光膜11dを透過する程度は、この角度αに応じて変わる。
本実施形態では、レーザービームLの偏光面とウェーハ11の表面11a側における所定の方向との成す角度のうち、鋭角の部分を角度αとする。但し、所定の方向の決め方には任意性があり、ウェーハ11の表面11a側に偏光膜11dが設けられている場合、所定の方向は偏光膜11dの平面上に位置する任意の直線と平行であるとしてよい。また、ウェーハ11の表面11a側に偏光膜11dが設けられていない場合、所定の方向は表面11a上に位置する任意の直線と平行であるとしてよい。
次に、角度αとレーザービームLが偏光膜11dを透過する透過の程度との関係について簡単に例示する。偏光膜11dがワイヤーグリッド偏光膜であり、ワイヤーの長手方向がウェーハ11の表面11a側における所定の方向である場合に、レーザービームLの偏光方向Aが、ワイヤーの長手方向と直交すれば(即ち、角度α=90度)、レーザービームLは偏光膜11dを透過しやすくなる(図3(A)を参照)。
これに対して、レーザービームLの偏光方向Aが、ワイヤーグリッド偏光膜におけるワイヤーの長手方向と平行であれば(即ち、角度α=0度)、角度α=90度の場合に比べて、レーザービームLは著しく偏光膜11dを透過しにくくなる(図3(B)を参照)。
図1に戻って、レーザー加工装置2におけるレーザービーム照射ユニット12に隣接する位置には、保持面10aに保持されたウェーハ11を撮像する撮像ユニット14の撮像ヘッド14aが配置されている。
撮像ユニット14は、例えば、ウェーハ11に吸収されにくい赤外領域の光(赤外線)をウェーハ11へ照射する光源ユニットと、ウェーハ11からの反射光等を検出する撮像素子とを有する。
撮像ユニット14は、上方から赤外線が照射されたウェーハ11を、同様に上方から撮像することにより、レーザービームLが照射された後のウェーハ11を撮像する。撮像ユニット14によって撮像される画像は、例えば、後述する試験的加工後のウェーハ11の観察等に利用される。
上述の様に、レーザービーム照射ユニット12の偏光面回転操作部12eは、制御ユニット42に接続されているが、図1に示す様に、チャックテーブル10、撮像ユニット14、Y軸移動ユニット16、X軸移動ユニット26等も、制御ユニット42に接続されている。
制御ユニット42は、例えばコンピュータであり、ホスト・コントローラを介して相互に接続されるCPU、RAM、ハードディスクドライブ、入出力装置等を有する。CPUは、RAM、ハードディスクドライブ等の記憶部分に格納されたプログラム、データ等に基づいて演算処理等を行う。
CPUが記憶部分に格納されたプログラムを読み込むことにより、制御ユニット42は、ソフトウェアと上述のハードウェア資源とが協働した具体的手段として機能できる。なお、CPUは、ホスト・コントローラに接続された入出力コントローラを介して、キーボード・ポート、マウス・ポート等のポートに接続することもできる。
また、制御ユニット42は、上述のレーザービームLの偏光面とウェーハ11の表面11a側における所定の方向とが成す角度αと、上述の撮像ユニット14によって撮像された画像とを記憶する記憶部42aを有する。記憶部42aは、例えば、上述の記憶部分の一部であり、複数のRAMのうちの1つもしくは複数、又は、ハードディスクドライブ等の記憶容量の一部である。
更に、本実施形態の制御ユニット42は、判断部42bを含む。判断部42bは、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段の一つであり、後述するように、複数の角度αのうちレーザービームLによる加工に適した特定の角度αSを決定する機能を有する。但し、制御ユニット42により、加工に適した特定の角度αを自動で決定せず、オペレータがこの特定の角度αSを決定する場合には、判断部42bは省略されてもよい。
制御ユニット42には、入出力装置として機能する表示パネル(表示部、入力部)44が接続されている。表示パネル44は、レーザー加工装置2を操作するオペレータに対するユーザーインターフェースとなるタッチ式のパネルであり、オペレータが制御ユニット42に対して指示、加工条件等を入力可能な入力部として機能する。
オペレータは、表示パネル44を通じて制御ユニット42に、チャックテーブル10、レーザービーム照射ユニット12、撮像ユニット14、Y軸移動ユニット16、X軸移動ユニット26等の加工条件を設定し、制御ユニット42は、設定された加工条件等に基づいて、上述した各要素の動作を制御できる。
更に、表示パネル44は、撮像ユニット14によって撮像された複数の画像を表示させる表示部としても機能する。表示パネル44には、各々記憶部42aに記憶されている、複数の画像と、複数の画像に対応する複数の異なる角度αとが表示される。
次に、レーザー加工装置2を用いたウェーハ11の試験的加工について説明する。この試験的加工では、複数の異なる角度αでウェーハ11の表面11a側にレーザービームLを照射して、複数の異なる角度αのうちレーザービームLによる加工に適した特定の角度αSを決定する。そこで、特定の角度αSを決定する方法について説明する。
第1実施形態に係る特定の角度αSの決定方法では、特定の角度αSをオペレータではなくレーザー加工装置2が決定する。まず、オペレータは、表示パネル44の入力部の機能を介して、レーザービームLの照射領域、平均出力、加工送り速度、基板11cにおけるレーザービームLの集光点12hの深さ位置、複数の異なる角度α等の加工条件を設定する。
第1実施形態では、ウェーハ11の余剰領域11AにレーザービームLを集光させてウェーハ11を試験的に加工する。また、レーザービームLの平均出力は1.0W、波長は1064nm、加工送り速度は500mm/s、集光点12hの深さ位置は基板11cの表面11a側から、50μm、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、及び、400μmの各位置とする。
更に、第1実施形態では、ウェーハ11の表面11a側における任意の方向を所定の方向と設定し、偏光面とこの所定の方向との成す角度αを0度、30度、60度及び90度とに設定する。但し、角度αは30度刻みに限定されず、10度刻み、5度刻み、1度刻みとしてもよい。
次に、ウェーハ搬送機構(不図示)等を利用して、ウェーハ11の表面11a側がレーザービーム照射ユニット12と対向する様に、ウェーハユニット19をチャックテーブル10の保持面10aに載置する。そして、上述の吸引源を作動させて、ウェーハ11の裏面11b側を保護テープ15を介して保持面10aで吸引して保持する。
次に、レーザー加工装置2は、チャックテーブル10を回転させ、ウェーハ11の分割予定ライン13をレーザー加工装置2のX軸方向に合わせる。また、分割予定ライン13の延長線の上方にレーザービーム照射ユニット12の加工ヘッド12aが配置されるように、チャックテーブル10及びレーザービーム照射ユニット12の相対位置を調節する。
次に、加工ヘッド12aからウェーハ11にレーザービームLを照射しながら、チャックテーブル10と加工ヘッド12aとを加工送り方向Bに沿って相対的に移動させる(図3(A)及び図3(B)を参照)。
まず、角度αを0度として、余剰領域11Aの第1の領域における上述の8つの異なる深さ位置にレーザービームLを照射する。次に、角度αを30度として、第1の領域とは異なる余剰領域11Aの第2の領域における上述の8つの異なる深さ位置にレーザービームLを照射する。
同様に、角度αを60度として、第1及び第2の領域とは異なる余剰領域11Aの第3の領域における上述の8つの異なる深さ位置にレーザービームLを照射する。また、角度αを90度として、第1から第3の領域とは異なる余剰領域11Aの第4の領域における上述の8つの異なる深さ位置にレーザービームLを照射する。これにより、第1から第4の各々異なる領域における基板11cの8つの異なる深さ位置に改質層が形成される。
余剰領域11AにレーザービームLを照射して基板11cの内部に改質層を形成した後、制御ユニット42は、撮像ユニット14を制御して、複数の異なる角度α毎に余剰領域11Aの表面11a側を撮像する。このように、撮像ユニット14は、複数の異なる角度αに対応する試験的加工後のウェーハ11の画像をまとめて取得できる。
異なる深さ位置に改質層を形成することで、レーザービームLの照射後に基板11cの内部には改質層からウェーハ11の表面11a側にクラックCが生じる。図4の(I)、(II)、(III)及び(IV)は、ウェーハ11の表面11a側に生じたクラックCの画像である。図4の(I)、(II)、(III)及び(IV)では、表面11aまで延伸したクラックCは、ドットで示されている。
また、図4の(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)は、照射されたレーザービームLの照射領域Dと、ウェーハ11の表面11a側に生じたクラックCの画像とを重ねて表示した画像である。なお、レーザービームLはX軸方向に沿って直線状に照射されるので、図4の(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)では、照射領域Dを直線で示す。
図4の(I)は、角度α=0度とした場合のクラックC1の画像の模式図である。角度α=0度とした場合、改質層は基板11cの内部に部分的に形成されるものの、クラックC1は、加工送り方向Bに沿って基板11cの表面11a側に離散的に形成されるに過ぎなかった。
つまり、角度α=0度の場合、基板11cの表面11a側で、基板11cはハーフカット(half cut)されなかった。これは、角度α=0度の場合、レーザービームLが偏光膜11dを透過する割合(入射効率)が低下したためであると考えられる。図4の(I)に、照射領域D1を重ねて表示した画像が、図4の(V)である。
これに対して、図4の(II)、(III)、(IV)、(VI)、(VII)及び(VIII)では、基板11cの表面11a側でクラックCが互いにつながっており、基板11cは、ハーフカットされた。
図4の(II)は、角度α=30度とした場合のクラックC2の画像の模式図である。角度α=30度とした場合、クラックC2は、加工送り方向Bに沿ってつながった(即ち、基板11cはハーフカットされた)が、照射領域D2に対してジグザグに形成された。角度α=30度の場合、レーザービームLは、角度α=0度の場合に比べて、偏光膜11dを透過し易くなったと推測できる。図4の(II)に照射領域D2を重ねて表示した画像が、図4の(VI)である。
図4の(III)は、角度α=60度とした場合のクラックC3の画像の模式図である。角度α=60度とした場合、クラックC3は、加工送り方向Bに沿ってつながった(即ち、基板11cはハーフカットされた)が、照射領域D3に対してジグザグに形成された。角度α=60度の場合、レーザービームLは、角度α=0度の場合に比べて、偏光膜11dを透過し易くなったと推測できる。図4の(III)に照射領域D3を重ねて表示した画像が、図4の(VII)である。
角度α=30度及び60度の場合は、角度α=0度の場合に比べてレーザービームLの入射効率は向上したものの、基板11cの内部でのクラックC2及びC3の延伸方向が一定方向とならなかったので、クラックC2及びC3が照射領域D2及びD3に対してずれたと考えられる。
図4の(IV)は、角度α=90度とした場合のクラックC4の画像の模式図である。角度α=90度とした場合、クラックC4は、加工送り方向Bに沿ってつながり(即ち、基板11cはハーフカットされ)、且つ、レーザービームLの照射領域D4に対してほぼ平行となった。
図4の(IV)に照射領域D4を重ねて表示した画像が、図4の(VIII)である。角度α=90度では、上述の4つの異なる角度αの中で基板11cの内部に最も十分に改質層が形成され、且つ、基板11cの内部でのクラックC4の延伸方向が一定方向となったので、クラックC4が照射領域D4に対してほぼ平行となったと考えられる。
角度α=90度の場合、レーザービームLは、角度α=0度、30度及び60度の場合に比べて、偏光膜11dを最も透過し易かった。なお、この結果を鑑みれば、ウェーハ11の表面11a側において予め設定した所定の方向は、ワイヤーグリッド偏光膜のワイヤーの長手方向と平行な方向であったと推測できる。
上述の様に、第1実施形態では、レーザー加工装置2の判断部42bが、照射領域D1、D2、D3及びD4とクラックC1、C2、C3及びC4との対応の程度に基づいて、複数の異なる角度αのうちレーザービームLによる加工に適した特定の角度αSを決定する。
例えば、判断部42bは、照射領域DとクラックCとの重なり長さが最も大きい場合の角度αを、特定の角度αSと決定する。上述の図4(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)の例では、判断部42bは、重なり長さが最も大きい図4の(VIII)の角度α=90度を特定の角度αSと決定する。
但し、判断部42bが用いるパラメータは、重なり長さのみに限定されない。判断部42bは、重なり長さに加えて、表面11a側に生じたクラックCの照射領域Dに対するジグザグの程度が最も小さい角度αを、レーザービームLによる加工に適した特定の角度αSと決定してもよい。なお、第1実施形態では、いずれの基準の下でも、判断部42bが図4の(VIII)の角度α=90度を特定の角度αSに決定する。
なお、第1実施形態では、複数の角度αと各角度に対応する画像とに基づいて、判断部42bが特定の角度αSを決定するので、複数の画像は必ずしも表示パネル44に表示されなくてもよい。
このように、第1実施形態では、複数の角度αを変えながらウェーハ11を試験的に加工し、その後、各角度に対応する画像をまとめて取得できる。これに対して従来は、一の角度αでウェーハ11を試験的に加工し、試験的加工後の画像を撮像し、その後、角度αを他の角度α’に変えて再び試験的加工と試験的加工後の画像の取得とを行い、特定の角度αSが決定されるまで試験的加工と試験的加工後の画像の取得とを繰り返していた。本実施形態では、従来の特定の角度αSの決定方法に比べて、ウェーハ11のデバイス領域の加工に適したレーザービームLの偏光方向Aを効率的に決定できる。
レーザー加工装置2が特定の角度αSを決定したら試験的加工を終了する。その後、ウェーハ11のデバイス領域を加工する。具体的には、レーザービームLの偏光面とウェーハ11の表面11a側との成す角度を特定の角度αSに固定して、余剰領域11Aよりも内周側に位置するデバイス領域にレーザービームLを照射して基板11cの内部に改質層を形成する。
なお、基板11cをハーフカットする場合には、角度α以外の上述の加工条件を変更する必要はない。但し、基板11cをフルカット(full cut)する(即ち、基板11cの表面11a側から裏面11bまでクラックCを延伸させる)場合には、集光点12hの深さ位置及び数を試験的加工の加工条件から変更する。
基板11cをフルカットする場合には、例えば、基板11cの表面11a側から50μmの深さ位置から、裏面11b側から50μmの深さ位置までの所定の範囲に、分割予定ライン13に沿って改質層を形成する。
その後、チャックテーブル10及び加工ヘッド12aを割り出し送り方向に相対的に移動させて、他の分割予定ライン13に沿って同様に改質層を形成する。一の方向に沿う全ての分割予定ライン13に沿って改質層を形成した後、チャックテーブル10を回転させて、この一の方向と直交する方向の全ての分割予定ライン13に沿って同様に改質層を形成する。
保護テープ15が伸縮性を有する場合には、改質層形成後、ウェーハユニット19をエキスパンド装置(不図示)に移動させる。そして、保護テープ15を径方向に拡張させて、ウェーハ11を分割する。なお、改質層形成後、ウェーハユニット19をブレーキング装置(不図示)に移動させて、分割予定ライン13に対して押圧刃を押し当てることにより、ウェーハ11を分割してもよい。
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態に係る特定の角度αSの決定方法では、ウェーハ11の余剰領域11Aを利用して、レーザービームLによる加工に適した特定の角度αSをオペレータが決定する。それゆえ、第2実施形態では、特定の角度αSの決定に判断部42bを利用しない。
上述の様に、オペレータが加工条件を設定した後、ウェーハ11を試験的に加工する。まず、チャックテーブル10でウェーハ11を保持し、次に、余剰領域11Aの異なる位置にレーザービームLを照射して、異なる角度α毎に改質層を形成する。
そして、複数の異なる角度α毎に余剰領域11Aの表面11a側の複数の画像を撮像し、これらの画像を表示パネル44に表示させる。第2実施形態で表示パネル44に表示される複数の画像は、図4の(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)であるが、図4の(I)、(II)、(III)及び(IV)に示す4つの画像が、表示パネル44に表示されてもよい。
第2実施形態では、オペレータが、表示パネル44に表示された図4の(V)、(VI)、(VII)及び(VII)に示す4つの画像に基づいて、複数の異なる角度αから特定の角度αSを選択する。
上述の様に、クラックCと照射領域Dとの一致の程度と、クラックCが照射領域Dに対してジグザグであるか否かという観点とに基づいて、オペレータは、図4の(VIII)に示す角度α=90度の場合に、基板11cの内部に最も十分に改質層を形成できると判断できる。
オペレータは、表示パネル44に表示された図4の(VIII)に対応する画像をタッチすることにより、角度α=90度を特定の角度αSに決定する。オペレータにより決定された特定の角度αSの情報は、表示パネル44を通じて制御ユニット42に送られる。
第2実施形態では、オペレータが加工結果を目視で確認した上で複数の異なる角度αの中から特定の角度αSを決定できるので、デバイス領域の加工が適切な加工条件で行われるであろうという安心感をオペレータは得ることができる。更に、レーザービームでウェーハ11にレーザービームLを照射してウェーハ11を加工する度に加工後のウェーハ11の表面11a側を観察する場合に比べて、ウェーハ11のデバイス領域の加工に適したレーザービームLの偏光方向Aを効率的に決定できる。
なお、上述の第1及び第2実施形態に係る特定の角度αSの決定方法では、ウェーハ11の余剰領域11Aを利用したが、特定の角度αSを決定するための専用のウェーハ11を用いて特定の角度αSを決定してもよい(第1変形例)。決定後、加工条件として特定の角度αSを用いて、当該専用のウェーハ11とは異なる他のウェーハ11を加工する。
また、上述の第1及び第2実施形態並びに第1変形例では、被加工物として基板11cと偏光膜11dとを有するウェーハ11を採用したが、被加工物として偏光膜11dを有しない結晶性の基板11cを採用してもよい(第2変形例)。
上述の第1実施形態で述べた加工条件で基板11cにレーザービームLを照射した場合に、基板11cの内部に十分な改質層が形成されるか否かは、レーザービームLの直線偏光の偏光面と、基板11cの所定方向(即ち、特定の結晶方位)との成す角度αに応じて変わり得る。
そこで、特定の角度αSを決定する試験的加工が必要となる。試験的加工では、複数の異なる角度αで基板11cの表面11a側にレーザービームLを照射した上で、第1実施形態のように判断部42bが特定の角度αSを決定してよく、また、第2実施形態のようにオペレータが特定の角度αSを決定してもよい。第1変形例の様に、特定の角度αSを決定するための専用のウェーハ11を用いてもよい。
なお、第2変形例の場合、被加工物の表面11a側における所定の方向は、基板11cの結晶方位を基準として決められることが多いので、基板11cは、結晶方位を明示するためのノッチ(notch)又はオリエンテーションフラット(Orientation Flat)を有していることが望ましい。
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。