以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る電気化学式水素ポンプシステムを備える水素ステーションの模式図である。なお、制御装置は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図1では、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。この機能ブロックがハードウェアおよびソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には当然に理解されるところである。
本実施の形態に係る水素ステーション1は、水素製造装置2と、電気化学式水素ポンプシステム4と、高圧蓄圧器6と、中間蓄圧器8と、ディスペンサー10と、を備える。なお、中間蓄圧器8は省略することもできる。
水素製造装置2は、HPU(Hydrogen Production Unit)とも呼ばれ、メタンやLPG等の原料に水蒸気改質等を施して水素含有ガスを製造する。水素製造装置2は、例えば300Nm3/h程度の水素製造能力を有する。水素製造装置2は、第1管路12を介して電気化学式水素ポンプシステム4に接続される。水素製造装置2で製造される水素含有ガスは、第1管路12を通って電気化学式水素ポンプシステム4の電気化学式水素ポンプ18に供給される。
水素含有ガスは、水素濃度が例えば99体積%以上の高純度水素ガスであるが、窒素(N2)、二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)等の不純物が含まれる。これらの不純物のうちN2やCO2は、後述するアノード流路44内に徐々に蓄積していき電極触媒の性能低下を引き起こすが、アノード流路44内のガスを定期的にパージして排出することができる。このため、N2やCO2による電極触媒の性能低下は、比較的容易に回復させることができる。一方、COは、電極触媒に被覆(被毒)するため、上述したパージを行うだけでは十分にCOを除去することはできない。したがって、これらの不純物のなかで、COが電極触媒に最も強い悪影響を及ぼす。水素製造装置2から電気化学式水素ポンプシステム4に供給される水素含有ガスの圧力は、例えば0.6MPaである。
なお、本実施の形態では、水素製造装置2を備えるオンサイト型の水素ステーション1について説明するが、水素ステーション1はオフサイト型であってもよい。つまり、水素ステーション1は、トレーラー14等で輸送される水素含有ガスをタンク16に貯蔵し、タンク16から電気化学式水素ポンプシステム4に水素含有ガスを供給する構成であってもよい。
電気化学式水素ポンプシステム4は、電気化学式水素ポンプ18と、制御装置20と、電源22と、電流検出部24と、電圧検出部26と、を備える。電気化学式水素ポンプ18は、水素製造装置2から供給される水素含有ガスから、当該水素含有ガスよりも高圧の水素ガス(以下では適宜、この水素ガスを昇圧水素ガスと称する)を生成する。制御装置20は、電気化学式水素ポンプ18の駆動を制御する。電源22は、後述するアノード電極40とカソード電極42との間に所定の電圧を印加する。電源22は、例えば直流安定化電源である。
電流検出部24は、例えば公知の電流計で構成され、電気化学式水素ポンプ18を流れる電流を計測する。電圧検出部26は、例えば公知の電圧計で構成され、電気化学式水素ポンプ18に印加される電圧を計測する。電流検出部24および電圧検出部26は、後述する複数のポンプユニット36全体の電流および電圧を計測する。
電流検出部24および電圧検出部26は、検出結果を示す信号を制御装置20に送信する。制御装置20は、電流検出部24および電圧検出部26の検出結果を受領し、この検出結果に基づいて電源22を制御することで、電気化学式水素ポンプ18の駆動を制御する。また、制御装置20は、水素製造装置2、高圧蓄圧器6、中間蓄圧器8およびディスペンサー10からも各種の信号を受信し、水素製造装置2の稼働、中間蓄圧器8から電気化学式水素ポンプ18へのガス供給、ディスペンサー10から燃料電池自動車(FCV)への水素供給といった、水素ステーション1全体の稼働を制御する。
電気化学式水素ポンプ18は、第2管路28を介して高圧蓄圧器6に接続される。電気化学式水素ポンプ18で生成された昇圧水素ガスは、第2管路28を通って高圧蓄圧器6に送られ、高圧蓄圧器6に貯蔵される。高圧蓄圧器6における昇圧水素ガスの圧力は、例えば82MPaである。
第2管路28の途中には第3管路30が接続され、電気化学式水素ポンプ18は、第2管路28の一部および第3管路30を介して中間蓄圧器8に接続される。第2管路28および第3管路30の接続部には、第1切替弁29が設けられる。第1切替弁29は、公知の電磁弁等で構成される。第1切替弁29は、電気化学式水素ポンプ18と高圧蓄圧器6とが接続される状態と、電気化学式水素ポンプ18と中間蓄圧器8とが接続される状態と、を切り替える。第1切替弁29の駆動は、制御装置20によって制御される。
高圧蓄圧器6が昇圧水素ガスで満たされると、昇圧水素ガスは第2管路28の一部および第3管路30を通って中間蓄圧器8に送られ、中間蓄圧器8に貯蔵される。中間蓄圧器8における昇圧水素ガスの圧力は、例えば45MPaである。中間蓄圧器8は、第4管路32を介して第1管路12の途中に接続される。第4管路32および第1管路12の接続部には、第2切替弁31が設けられる。第2切替弁31は、公知の電磁弁等で構成される。第2切替弁31は、水素製造装置2と電気化学式水素ポンプ18とが接続される状態と、中間蓄圧器8と電気化学式水素ポンプ18とが接続される状態と、を切り替える。第2切替弁31の駆動は、制御装置20によって制御される。中間蓄圧器8に蓄えられた昇圧水素ガスは、第4管路32および第1管路12の一部を通って電気化学式水素ポンプ18に供給することができる。
また、電気化学式水素ポンプシステム4は、電気化学式水素ポンプ18内のガスを排出するためのパージ用管路33を有する。本実施の形態では、パージ用管路33は第1管路12に設けられている。パージ用管路33は、第1管路12における、第1管路12と第4管路32との接続部よりも下流側に接続されている。第1管路12およびパージ用管路33の接続部には、第3切替弁35が設けられる。第3切替弁35は、公知の電磁弁等で構成される。第3切替弁35は、水素製造装置2もしくは中間蓄圧器8と電気化学式水素ポンプ18とが接続される状態と、パージ用管路33と電気化学式水素ポンプ18とが接続される状態と、を切り替える。第3切替弁35の駆動は、制御装置20によって制御される。
高圧蓄圧器6は、第5管路34を介してディスペンサー10に接続される。高圧蓄圧器6に蓄えられた昇圧水素ガスは、第5管路34を通ってディスペンサー10に供給される。ディスペンサー10は、来所したFCVに昇圧水素ガスを供給する。FCVにおいて蓄えられる昇圧水素ガスの圧力は、各国の規定や法規で定められ、日本では例えば70MPaである。また、FCVへの1回の供給量は、例えば30Nm3/回である。
図2は、電気化学式水素ポンプシステム4の模式図である。図2では、制御装置20、電流検出部24および電圧検出部26の図示を省略している。また図2には、4つのポンプユニット36が積層されたスタック構造を有する電気化学式水素ポンプ18が図示されている。なお、電気化学式水素ポンプ18を構成するポンプユニット36の数は特に限定されず、1つであってもよいし、4つ以外の複数であってもよい。
電気化学式水素ポンプ18の各ポンプユニット36は、電解質膜38と、アノード電極40と、カソード電極42と、アノード流路44と、カソード流路46と、を有する。また、電気化学式水素ポンプ18は、一対のエンドプレート48と、複数のセパレータ50と、を有する。
電解質膜38は、アノード電極40とカソード電極42との間に設けられる。電解質膜38は、プロトン伝導性を有する材料(アイオノマー)で形成される固体高分子膜である。電解質膜38は、アノード側からカソード側へプロトン(H+)を選択的に伝導する一方で、アノード側とカソード側との間で物質が混合したり拡散したりすることを抑制する。電解質膜38は、湿潤状態において良好なプロトン伝導性を示す。電解質膜38は、例えば加湿された水素含有ガスが電気化学式水素ポンプ18に供給されることで、湿潤状態が維持される。なお、電解質膜38を加湿する方法は、他の公知の方法であってもよい。
電解質膜38は、プロトン伝導性を有する。例えば電解質膜38としては、ナフィオン(登録商標)やフレミオン(登録商標)などのフッ素系の電解質膜や、炭化水素系の電解質膜が選択される。電解質膜38の厚さは、例えば25~400μmである。
アノード電極40は、電解質膜38の一方の側に配置されて水素含有ガスが供給される。アノード電極40は、電解質膜38の一方の主表面に接している。アノード電極40は、水素含有ガス中の水素からプロトンを生成するためのアノード触媒52を有する。アノード触媒52は、例えばルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)および白金(Pt)からなる群から選択される少なくとも一種の触媒を含む。好ましくは、アノード触媒52はPtを含む。
アノード触媒52は、電子伝導性を有するアノード触媒担体54によって担持される。アノード触媒52をアノード触媒担体54に担持させることで、アノード触媒52の凝集を抑制することができる。アノード触媒担体54を構成する電子伝導性材料としては、例えば多孔性カーボン、多孔性金属、多孔性金属酸化物のいずれかを主成分として含有する電子伝導性材料を挙げることができる。
多孔性カーボンとしては、例えばケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、ファーネスブラック、バルカン(登録商標)、黒鉛化カーボンなどのカーボンブラックが挙げられる。多孔性金属としては、例えばPtブラック、Pdブラック、フラクタル状に析出させたPt金属などが挙げられる。多孔性金属酸化物としては、例えばTi、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの酸化物が挙げられる。また、アノード触媒担体54には、Ti、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wなどの金属の窒化物、炭化物、酸窒化物、炭窒化物、部分酸化した炭窒化物といった、多孔性の金属化合物も用いることができる。アノード触媒担体54は、繊維、メッシュ、多孔体の焼結体、発泡成型体(フォーム)、エキスパンドメタル等の形態をとってもよい。
アノード触媒52を担持した状態のアノード触媒担体54は、アイオノマーで被覆される。これにより、アノード電極40のイオン伝導性を向上させることができる。アイオノマーとしては、例えばナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)などのフッ素系のポリマーや、炭化水素系のポリマー等を挙げることができる。
アノード電極40は、アノード触媒52を含有するアノード触媒層と、ガス拡散層(図示せず)と、が積層された構造を有してもよい。この場合、アノード触媒層は、ガス拡散層よりも電解質膜38側に配置される。ガス拡散層は、水素製造装置2から供給される水素含有ガスをアノード触媒層に均一に拡散させる機能を担う。ガス拡散層を構成する材料としては、例えばカーボンの織布(カーボンクロス)、カーボンの不織布、カーボンペーパー等を挙げることができる。アノード電極40の厚さは、例えば110~3000μmである。アノード触媒層の厚さは、例えば5~50μmである。ガス拡散層の厚さは、例えば100~3000μmである。
アノード電極40の電解質膜38とは反対側の表面には、アノード流路44が配置される。アノード流路44には、第1管路12が接続される。本実施の形態では、第1管路12における電気化学式水素ポンプ18側の端部が複数に枝分かれして、各ポンプユニット36のアノード流路44に接続される。アノード流路44には、第1管路12から水素含有ガスが流れ込む。アノード流路44に流れ込んだ水素含有ガスは、アノード電極40に供給される。図2では、水素含有ガスを「H2+CO」と表記している。
カソード電極42は、電解質膜38の一方の側とは反対側、すなわちアノード電極40が配置される側とは反対側に設けられる。カソード電極42は、電解質膜38の他方の主表面に接している。カソード電極42は、電解質膜38を介してアノード電極40側から供給されるプロトンから水素(H2)を生成するためのカソード触媒56を有する。カソード触媒56は、例えばルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)および白金(Pt)からなる群から選択される少なくとも一種の触媒を含む。
カソード触媒56は、電子伝導性を有するカソード触媒担体58によって担持される。カソード触媒56をカソード触媒担体58に担持させることで、カソード触媒56の凝集を抑制することができる。カソード触媒担体58を構成する電子伝導性材料としては、アノード触媒担体54と同じものが例示される。
カソード触媒56を担持した状態のカソード触媒担体58は、アイオノマーで被覆される。これにより、カソード電極42のイオン伝導性を向上させることができる。アイオノマーとしては、例えばナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)などのフッ素系のポリマーや、炭化水素系のポリマー等を挙げることができる。カソード電極42の厚さは、例えば110~3000μmである。
カソード電極42の電解質膜38とは反対側の表面には、カソード流路46が配置される。カソード流路46には、カソード電極42において生成された水素が流れ込む。また、カソード流路46には、第2管路28が接続される。本実施の形態では、第2管路28における電気化学式水素ポンプ18側の端部が複数に枝分かれして、各ポンプユニット36のカソード流路46に接続される。カソード電極42からカソード流路46に流れ込んだ水素は、第2管路28から高圧蓄圧器6または中間蓄圧器8に送り出される。
例えば、第2管路28には水素を昇圧する機構が設置される。これにより、水素は昇圧水素ガスとなって高圧蓄圧器6または中間蓄圧器8に送り込まれる。水素を昇圧する機構としては、圧力調整弁などが挙げられる。図2では、昇圧水素ガスを「H2(高圧)」と表記している。
4つのポンプユニット36は、一対のエンドプレート48によって、ポンプユニット36の積層方向に挟み込まれる。各エンドプレート48のポンプユニット36側の面には、集電板49が配置される。電源22の正極出力端子が一方の集電板49に接続され、電源22の負極出力端子が他方の集電板49に接続される。これにより、電気化学式水素ポンプ18を構成する各ポンプユニット36のアノード電極40とカソード電極42との間に所定の電圧が印加される。
各ポンプユニット36の間、およびポンプユニット36とエンドプレート48との間には、板状のセパレータ50が配置される。したがって、各ポンプユニット36は、一対のセパレータ50によって、アノード流路44、アノード電極40、電解質膜38、カソード電極42およびカソード流路46の積層方向に挟まれる。各ポンプユニット36において、アノード流路44のアノード電極40とは反対側の表面に一方のセパレータ50が当接され、カソード流路46のカソード電極42とは反対側の表面に他方のセパレータ50が当接する。
セパレータ50は、例えばカーボン樹脂や、Cr-Ni-Fe系、Cr-Ni-Mo-Fe系、Cr-Mo-Nb-Ni系、Cr-Mo-Fe-W-Ni系あるいはTi系などの耐食性合金といった、導電性材料で形成することができる。なお、セパレータ50の表面に溝状の流路を設け、この流路をアノード流路44およびカソード流路46として利用してもよい。
図3(A)および図3(B)は、電気化学式水素ポンプ18の状態の遷移を示す模式図である。図3(A)は、稼働初期における電気化学式水素ポンプ18を示す。図3(B)は、所定の長時間稼働した後の電気化学式水素ポンプ18を示す。また、図3(A)および図3(B)では、電気化学式水素ポンプ18として1つのポンプユニット36のみを図示している。
外部の電源22から電気化学式水素ポンプ18に電流を流した際に各電極で起こる反応は、以下の通りである。アノード電極40での電極反応とカソード電極42での電極反応とは、並行して進行する。
<アノード電極40での電極反応>
H2→2H++2e-
<カソード電極42での電極反応>
2H++2e-→H2
すなわち、各ポンプユニット36のアノード電極40において、水素含有ガス中の水素からプロトンと電子(e-)とが生成される。アノード電極40で生じたプロトンは、電解質膜38を介して各ポンプユニット36のカソード電極42に移動する。アノード電極40側に他のポンプユニット36が並ぶポンプユニット36のアノード電極40で生じた電子は、セパレータ50を介して、隣接するポンプユニット36のカソード電極42に移動する。アノード電極40側にエンドプレート48が並ぶポンプユニット36のアノード電極40で生じた電子は、外部の電源22を経由して、カソード電極42側にエンドプレート48が並ぶポンプユニット36のカソード電極42に移動する。
そして、各ポンプユニット36のカソード電極42での電極反応によって、プロトンと電子とから水素が生成される。この過程で、水素含有ガスよりも高純度の水素ガスが生成される。そして、生成された水素ガスは、カソード流路46において昇圧されて昇圧水素ガス(H2(高圧))となり、蓄圧器側に送り出される。
上述の通り、水素含有ガスには不純物としてCOが含まれる。アノード電極40からカソード電極42へはプロトンのみが移動するため、水素含有ガス中のCOにとっては、アノード電極40がデッドエンドとなる。したがって、図3(B)に示すように、電気化学式水素ポンプ18の稼働時間の経過にともなって、アノード電極40およびアノード流路44にCOが徐々に蓄積していく。COは、アノード触媒52に吸着しやすい性質を有する。このため、COの蓄積量が増えるにつれて、COによって被覆された(被毒した)アノード触媒52の量が増える。被毒したアノード触媒52の量が増えると、電気化学式水素ポンプ18における過電圧が上昇し、電気化学式水素ポンプ18の消費電力が増大してしまう。
本発明者らの試算によれば、COによる被毒がない場合の電気化学式水素ポンプ18の消費電力は、従来の機械式ポンプの消費電力の半分程度である。しかしながら、COによってアノード触媒52が被毒され、過電圧が数十mV(一例として約40mV)上昇すると、電気化学式水素ポンプ18の消費電力は機械式ポンプの消費電力と同等にまで上昇してしまう。
図4は、アノード触媒52全体に対するCOにより被覆されたアノード触媒52の割合(CO被覆率)と電気化学式水素ポンプ18における過電圧との関係を示す図である。図4に示すCO被覆率と過電圧との関係は、電流密度2A/cm2での定電流電解を前提とした試算結果である。図4に示すように、本発明者らが試算に用いた実験系では、CO被覆率が高まるにつれて過電圧が上昇していき、CO被覆率が約75%で過電圧が40mV上昇している。
図5は、電気化学式水素ポンプ18の稼働時間と過電圧との関係を示す図である。図5に示す稼働時間と過電圧との関係は、電流密度2A/cm2での定電流電解を前提とした試算結果である。また、試算の便宜上、電気化学式水素ポンプ18に導入したCOが全てアノード触媒52に吸着すると仮定している。図5に示すように、CO濃度が0.1ppmである水素含有ガスを用いる場合、約25時間で過電圧が40mV上昇している。
したがって、電気化学式水素ポンプ18を用いて電気化学的に昇圧水素ガスを生成する場合、機械式ポンプに対する電気化学式水素ポンプの利点を享受する上で、COによって被毒したアノード触媒52からCOを除去すること、つまりアノード触媒52を回復させることが望ましい。これに対し、本実施の形態に係る電気化学式水素ポンプシステム4は、通常運転に回復制御を組み合わせて実行する。回復制御とは、水素含有ガスに含まれる不純物によって被毒したアノード触媒52から不純物を除去する処理を実行する制御である。
<通常運転>
まず、電気化学式水素ポンプシステム4の通常運転について説明する。通常運転では、制御装置20が水素製造装置2を稼働させる。これにより、水素製造装置2によって水素含有ガスが生成される。生成された水素含有ガスは、電気化学式水素ポンプ18に供給される。また、制御装置20により電源22が制御され、電源22から電気化学式水素ポンプ18に所定の電流が供給される。これにより、電気化学式水素ポンプ18で昇圧水素ガスが生成される。
昇圧水素ガスは、まず高圧蓄圧器6に送られる。高圧蓄圧器6が昇圧水素ガスで満たされると、高圧蓄圧器6から満充填されたことを示す信号が制御装置20に送られる。制御装置20は、当該信号を受信すると、第1切替弁29を制御して電気化学式水素ポンプ18と中間蓄圧器8とを連通する。これにより、昇圧水素ガスが中間蓄圧器8に送られる。中間蓄圧器8が昇圧水素ガスで満たされると、中間蓄圧器8から満充填されたことを示す信号が制御装置20に送られる。制御装置20は、当該信号を受信すると、水素製造装置2の稼働を停止させる。
水素ステーション1にFCVが来所すると、制御装置20がディスペンサー10を制御し、高圧蓄圧器6に貯蓄されている昇圧水素ガスがディスペンサー10からFCVに供給される。制御装置20は、高圧蓄圧器6またはディスペンサー10から、FCVへの昇圧水素ガスの供給量を示す信号を受信する。制御装置20は、当該信号を受信すると、第2切替弁31を制御して中間蓄圧器8と電気化学式水素ポンプ18とを連通し、第1切替弁29を制御して電気化学式水素ポンプ18と高圧蓄圧器6とを連通する。これにより、FCVへの供給量に応じた量の圧縮水素ガスが中間蓄圧器8から電気化学式水素ポンプ18を経て高圧蓄圧器6に補充される。この結果、高圧蓄圧器6内の圧力が一定に保持される。
FCVへの昇圧水素ガスの供給と高圧蓄圧器6への昇圧水素ガスの補充とが繰り返されて、中間蓄圧器8内の圧力が予め設定したしきい値まで低下すると、中間蓄圧器8は圧縮水素ガスの残量不足を示す信号を制御装置20に送信する。当該しきい値は、実験やシミュレーションの結果に基づいて適宜設定することができる。制御装置20は、当該信号を受信すると、第2切替弁31を制御して水素製造装置2と電気化学式水素ポンプ18とを連通するとともに、水素製造装置2を稼働させる。これにより、水素製造装置2から電気化学式水素ポンプ18に水素含有ガスが供給され、電気化学式水素ポンプ18で昇圧水素ガスが生成され、高圧蓄圧器6および中間蓄圧器8に昇圧水素ガスが充填される。
<回復制御>
続いて、電気化学式水素ポンプシステム4が実行する回復制御について説明する。図6は、電気化学式水素ポンプシステム4が実行する回復制御のフローチャートである。この回復制御フローは、通常運転中に制御装置20によって所定のタイミングで繰り返し実行される。フローが実行されるタイミングは、制御装置20にかかる負荷や触媒劣化にともなう消費電力の増大等を考慮して、実験やシミュレーションの結果に基づいて適宜設定することができる。
まず、制御装置20は、回復制御を開始するか否か判断する(S101)。本実施の形態の制御装置20は、被毒により生じる電気化学式水素ポンプ18への印加電圧の変化に基づいて、回復制御を実行するか否か、つまり回復制御の要否を判断する。例えば制御装置20は、電圧検出部26の検出結果に基づいて電気化学式水素ポンプ18に印加される電圧が所定のしきい値を超えたことを検出すると、電気化学式水素ポンプ18への印加電圧が回復制御を開始すべき値に達したと判断する。回復制御の要否判断に用いられる電圧のしきい値は、実験やシミュレーションの結果に基づいて適宜設定することができる。
回復制御は不要と判断された場合(S101のN)、制御装置20は、本ルーチンを終了して通常運転を継続する。回復制御が必要と判断された場合(S101のY)、制御装置20は、通常運転を停止して回復制御を開始する。制御装置20は回復制御において、後述するアノード電位の上昇処理に先立って、まずは水素含有ガスの排出処理を実行する(S102)。排出処理において、制御装置20は、電源22からの給電を停止して電気化学式水素ポンプ18の駆動を停止させる。また、制御装置20は、第2切替弁31および第3切替弁35を制御して中間蓄圧器8と電気化学式水素ポンプ18とを連通する。そして、制御装置20は、中間蓄圧器8からパージガスとしての圧縮水素ガスを電気化学式水素ポンプ18に供給する。
続いて、制御装置20は、中間蓄圧器8から電気化学式水素ポンプ18への圧縮水素ガスの供給を停止するとともに、第3切替弁35を制御して電気化学式水素ポンプ18とパージ用管路33とを連通する。これにより、電気化学式水素ポンプ18における各ポンプユニット36のアノード電極40およびアノード流路44内に残存する水素含有ガスは、第1管路12内を逆流し、パージ用管路33を介して系外に排出される。アノード流路44からのガス排出は、アノード流路44内が常圧に達するまで続く。昇圧水素ガスの電気化学式水素ポンプ18への充填とパージ用管路33からの排出とは、所定回数繰り返してもよい。
なお、第1管路12等にパージ用ボンベ(図示せず)を接続して、パージ用ボンベに蓄えられたパージガスを電気化学式水素ポンプ18に供給してもよい。この場合、パージガスとしては窒素等の不活性ガスや水素を用いることができる。また、水素製造装置2から送られる水素含有ガスをパージガスとして用いてもよい。
また、制御装置20は、電気化学式水素ポンプ18内に残存する水素含有ガスの排出を終えた後、アノード電位の上昇処理に移行する前に、中間蓄圧器8から所定量の圧縮水素ガスを電気化学式水素ポンプ18に充填する。
続いて、制御装置20は、アノード電位の上昇処理を実行する(S103)。この上昇処理において、制御装置20は、電気化学式水素ポンプ18における各ポンプユニット36のアノード電位を通常運転時よりも上昇させる。通常運転時のアノード電位は、例えば0mV以上500mV未満である。本実施の形態の制御装置20は、電源22を制御することでアノード電位を上昇させる。具体的には、制御装置20は、規定値の電流を電気化学式水素ポンプ18に流すように電源22を制御する。つまり、制御装置20は、定電流制御を実行して各ポンプユニット36のアノード電位を上昇させる。
また、制御装置20は、電気化学式水素ポンプ18への水素の供給量を規定値から算出される理論水素消費量よりも低減する。理論水素消費量は、電気化学式水素ポンプ18に規定値の電流を流した場合に消費される単位時間当たりの水素量である。これにより、電気化学式水素ポンプ18の各ポンプユニット36では、水素含有ガスの排出処理の最後に充填した圧縮水素ガスが徐々に消費されていく。
本実施の形態の制御装置20は、水素製造装置2から各アノード流路44への水素含有ガスの供給を停止し、中間蓄圧器8から各アノード流路44への昇圧水素ガスの供給も停止する。つまり、制御装置20は、電気化学式水素ポンプ18へのガスの供給を完全に停止する。アノード流路44と第1管路12との接続部に開閉弁を設け、制御装置20がこの開閉弁を閉じることで、電気化学式水素ポンプ18へのガス供給を遮断してもよい。アノード流路44中の水素が消費されてアノード流路44が負圧になると、第1管路12からアノード流路44中に水素が拡散され得るが、アノード流路44と第1管路12とを遮断することで、この拡散を抑制することができ、アノード流路44中の水素をより確実に消費させることができる。
各ポンプユニット36のアノード電極40における水素分圧が低下するにつれて、濃度過電圧が高まって各ポンプユニット36の電圧が上昇する。これにより、各ポンプユニット36のアノード電位の上昇が加速される。アノード電位が上昇すると、アノード電極40において以下に示す反応が起こる。
CO+H2O→CO2+H2
すなわち、アノード触媒52を被覆するCOが水と反応して酸化され、CO2が生成される。CO2はアノード触媒52に吸着しないため、COを酸化してCO2を生成することで、アノード触媒52から不純物であるCOを除去することができる。アノード電極40には、加湿された水素含有ガス由来の水が残存している。したがって、この水をCOとの反応に用いることができる。
また、ポンプユニット36の電圧およびアノード電位は、CO被毒の程度が小さいポンプユニット36よりもCO被毒の程度が大きいポンプユニット36の方が先に上昇する。したがって、CO被毒の程度が大きいポンプユニット36のアノード触媒52から先にCOが酸化除去される。このため、先ずCO被毒の程度が最も大きい第1ポンプユニットにおけるCOが酸化除去される。そして、第1ポンプユニットのCO被毒の程度が、2番目に被毒の程度が大きい第2ポンプユニットを下回ると、第2ポンプユニットにおけるCOの酸化除去が開始される。このステップは、ポンプユニット36全体で繰り返される。したがって、ポンプユニット36間でCO被毒の程度に差があったとしても、各ポンプユニット36間のCO被毒の程度が均一化されながら、電気化学式水素ポンプ18全体でアノード触媒52からCOが除去されていく。このときも水素含有ガスの排出処理の最後に圧縮水素ガスを充填しておくことで、水素分圧を低下させる過程で濃度過電圧を徐々に高めることができるため、より確実にCO被毒の程度が大きいポンプユニット36から順に回復処理を施すことができる。
制御装置20は、アノード電位を不純物の酸化電位以上且つアノード触媒52の酸化電位未満となるよう上昇させる。つまり、制御装置20は、電源22から電気化学式水素ポンプ18に印加する電圧を上昇させることで、電気化学式水素ポンプ18のアノード電位を通常運転時とは異なるレンジに調整する。アノード電位を不純物の酸化電位以上とすることで、アノード触媒52を被覆する不純物をより確実に酸化除去することができる。また、アノード電位をアノード触媒52の酸化電位未満とすることで、アノード触媒52の酸化による劣化を抑制することができる。なお、各ポンプユニット36において、アノード電位を不純物の酸化電位以上且つアノード触媒52の酸化電位未満となるよう上昇させることが望ましい。これにより、一部のポンプユニット36において不純物の除去が不十分であったりアノード触媒52が酸化劣化することを回避することができる。
続いて、制御装置20は、回復制御を終了するか否か判断する(S104)。本実施の形態の制御装置20は、電圧検出部26の検出結果に基づいて電気化学式水素ポンプ18に印加される電圧が所定のしきい値を超えたことを検知すると回復制御を終了すべきと判断する。制御装置20は、電気化学式水素ポンプ18に印加される電圧から、電気化学式水素ポンプ18のアノード電位が所定値に達したことを把握することができる。
アノード電位の所定値は、例えば後述する0.5V~1.2Vである。この場合、回復制御の終了判断に用いられる電圧のしきい値は、アノード電位0.5V~1.2Vに対応する電圧値である。また、アノード電位の所定値を例えば0.8Vとする場合、4つのポンプユニット36で構成される電気化学式水素ポンプ18では、アノード電位7.2V(=4×0.8)に対応する電圧値がしきい値となる。
回復制御終了と判断された場合(S104のY)、制御装置20は、本ルーチンを終了する。そして、制御装置20は、アノード電位を通常運転時のレンジに下げて、通常運転を再開する。回復制御を継続すると判断した場合(S104のN)、制御装置20は、アノード電位の上昇処理を継続する(S103)。したがって、電気化学式水素ポンプ18に印加される電圧が所定のしきい値を超えるまで、アノード電位の上昇処理と回復制御の終了判断とが繰り返される。なお、制御装置20は、回復制御を終了すると判断した場合に、アノード電位が上昇した状態を所定時間維持した後に回復制御を終了してもよい。また、電気化学式水素ポンプ18の駆動を維持したまま、回復制御を実行することも可能である。
不純物がCOであり、アノード触媒52がPtを含む場合、制御装置20は、回復制御においてアノード電位を0.5V以上1.2V以下となるよう上昇させることが好ましい。また、制御装置20は、回復制御においてアノード電位をアノード触媒担体54の酸化電位とアノード触媒52の酸素発生電位とのうち低い方の電位以下となるよう上昇させることが好ましい。図7は、電位範囲の検討試験に用いたポンプモデルの模式図である。本発明者らは、図7に示すモデルを用いてアノード電位の好適な範囲を検討した。
このモデルは、1つのポンプユニット36で構成される電気化学式水素ポンプ18を備える。アノード電極40は、アノード触媒52として白金担持カーボンPt/C(白金担持量0.2mgPt/cm2)を含有する。カソード電極42は、カソード触媒56として白金担持カーボンPt/C(白金担持量0.2mgPt/cm2)を含有する。また、アノード電極40およびカソード電極42の電極面積は、25cm2である。アノード流路44およびカソード流路46は、一例としてサーペンタイン形状のものを用いた。
また、このモデルは、ポンプラインL1、パージラインL2およびバイパスラインL3を有する。ポンプラインL1は、水素含有ガス(H2+CO)およびN2をポンプユニット36のアノード流路44に供給するための管路である。パージラインL2は、アノード流路44と系外とをつなぐ管路である。バイパスラインL3は、ポンプラインL1およびパージラインL2をアノード流路44を介さずにつなぐ管路である。また、このモデルは、電解質膜38に設けられる参照極60と、参照極60に水素を供給するための参照極ラインL4と、を有する。参照極60には、参照極ラインL4を介して水素が供給される。参照極60を設けることで、参照極60の電位を基準としてアノード電位を測定することができる。
電気化学式水素ポンプ18の各電極の温度は、80℃に設定した。そして、常圧下でCO被毒処理、水素含有ガスの排出処理、アノード電位の上昇処理、およびECSA測定をこの順に実施した。
CO被毒処理では、CO濃度が10ppmである水素含有ガスをポンプラインL1を介してアノード流路44に供給しながら、電気化学式水素ポンプ18を電流密度1A/cm2で定電流制御した。処理時間は、70分間とした。水素含有ガスは、バブラー加湿方式で湿度80%となるよう加湿した後にアノード流路44に供給した。
次に、水素含有ガスの排出処理を実施した。排出処理では、N2をまずバイパスラインL3に20分間流した後、ポンプラインL1に3分間流した。N2は、バブラー加湿方式で湿度80%となるよう加湿した後に各ラインに流した。各ラインに流したN2は、パージラインL2から系外に排出した。
次に、アノード電位の上昇処理を実施した。上昇処理では、N2をポンプラインL1を介してアノード流路44に供給しながら、電気化学式水素ポンプ18に所定の電圧を30秒間印加した。参照極60とアノード電極40との電位差、つまりアノード電位を0.4V~1.4Vの範囲で異ならせた複数の試験区を設定した。N2は、排出処理と同様に加湿した後にアノード流路44に供給した。
次に、各試験区におけるアノード電極40の電気化学的比表面積(ECSA)をサイクリックボルタンメトリーにより測定した。また、試験前のCO被毒していないアノード電極40についても、ECSA測定を実施した。ECSA測定は、湿度80%のN2をアノード流路44に供給しながら実施した。ECSA測定の結果から得られた各試験区におけるECSAを、試験前のCO被毒していないアノード電極40のECSAで除した値を算出して、CO除去率、言い換えれば触媒残存率を得た。CO除去率および触媒残存率は、試験前のCO被毒していないアノード電極40のECSAに対する各試験区におけるECSAの割合である。
図8は、CO除去率とアノード電位との関係を示す図である。図9は、触媒残存率とアノード電位との関係を示す図である。図8に示すように、アノード電位を0.5V以上とすることで、80%以上のCO除去率が得られることが確認された。つまり、アノード電位を0.5V以上とすることで、より確実にアノード触媒52からCOを除去できることが確認された。また、アノード電位を0.6V以上とすることで、ほぼ100%のCO除去率が得られることが確認された。また、図9に示すように、アノード電位を1.2V以下とすることで、100%以上の触媒残存率が得られることが確認された。また、アノード電位が1.3Vのとき触媒残存率の低下が見られた。これは、電位の上昇により触媒の担体である多孔性カーボン(本モデルではケッチェンブラック)が酸化して消失することで、有効な触媒面積が低下したためである。アノード電位の好ましい上限は、担体の種類によって異なり、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラックでは1.2V、バルカンでは1.3V、黒鉛化カーボンでは1.5Vであった。また、担体を持たないPtブラックでは1.8Vであった。担体を持たないPtブラックの場合、担体の酸化劣化による触媒の有効表面積低下はないが、電位上昇にともなう酸素発生により、触媒の構造が破壊されて触媒残存率が低下し得る。つまり、アノード電位を担体の酸化電位と触媒の酸素発生電位とのうち低い方の電位以下とすることで、アノード電位の上昇処理にともなう触媒の性能低下をより確実に抑制できることが確認された。また、電気化学式水素ポンプ18に与え得る悪影響を低減する上で、アノード電位は1.2V以下であることが好ましい。
本実施の形態において、制御装置20は、電圧検出部26の検出結果に基づいて電源22を制御し、電気化学式水素ポンプ18のアノード電位を上昇させている。ここで、電気化学式水素ポンプ18における電流値は、電流検出部24の検出結果から把握することができる。よって、オーム損失(IR)やカソード過電圧(ネルンストロス、活性化過電圧)は、計算から求めることができる。このため、電圧検出部26で検出される電圧値から、電気化学式水素ポンプ18のアノード電位を推測することが可能である。
以上説明したように、本実施の形態に係る電気化学式水素ポンプシステム4は、供給される水素含有ガスから当該水素含有ガスよりも高圧の水素ガスを生成する電気化学式水素ポンプ18と、電気化学式水素ポンプ18の駆動を制御する制御装置20と、を備える。電気化学式水素ポンプ18は、プロトン伝導性を有する電解質膜38と、水素含有ガスからプロトンを生成するためのアノード触媒52を有するアノード電極40と、電解質膜38を介して供給されるプロトンから水素を生成するためのカソード触媒56を有するカソード電極42と、を有する。制御装置20は所定のタイミングで、電気化学式水素ポンプ18のアノード電位を通常運転時よりも上昇させて、水素含有ガスに含まれる不純物によって被毒したアノード触媒52から不純物を除去する回復制御を実行する。
このように、本実施の形態の電気化学式水素ポンプシステム4は、所定のタイミングで回復制御を実行し、不純物によって被毒したアノード触媒52から不純物を除去している。これにより、電気化学式水素ポンプ18の消費電力の増大を抑制することができる。このため、水素ステーション1のコスト低減を図ることができる。
また、電気化学式水素ポンプシステム4は、アノード電極40とカソード電極42との間に所定の電圧を印加する電源22を備える。そして、制御装置20は、電源22を制御することで回復制御においてアノード電位を上昇させる。また、制御装置20は、回復制御において規定値の電流を電気化学式水素ポンプ18に流すとともに、電気化学式水素ポンプ18への水素の供給量を規定値から算出される理論水素消費量よりも低減する。これにより、各ポンプユニット36における濃度過電圧の差をより確実に生じさせることができ、CO被毒の程度が大きいポンプユニット36から順に回復処理を施すことができる。この結果、各ポンプユニット36間でCO被毒の程度を均一化することができる。よって、電気化学式水素ポンプ18全体で均等にアノード触媒52から不純物を除去することができる。
また、制御装置20は、被毒により生じる電気化学式水素ポンプ18への印加電圧の変化に基づいて、回復制御を実行する。また、制御装置20は、アノード電位が所定値に達したことを検知した後に回復制御を終了する。これにより、回復制御の実行により昇圧水素ガスの生成が過度に妨げられることを抑制しながら、電気化学式水素ポンプ18の消費電力の増大を抑制することができる。
また、制御装置20は、回復制御においてアノード電位を不純物の酸化電位以上且つアノード触媒担体54の酸化電位とアノード触媒52の酸素発生電位とのうち低い方の電位以下となるよう上昇させる。また、不純物がCOであり、アノード触媒52がPtを含む場合、制御装置20は、回復制御においてアノード電位を0.5V以上となるよう上昇させる。これにより、アノード触媒52を被覆するCOをより確実に酸化除去することができるとともに、アノード触媒52の酸化による劣化を抑制することができる。
また、制御装置20は、回復制御においてアノード電位の上昇に先立って、電気化学式水素ポンプ18内に残存する水素含有ガスを排出させる。これにより、電気化学式水素ポンプ18内に残存する水素含有ガス中の不純物がアノード触媒52に付着することを抑制することができる。よって、回復制御の効果をより高めることができる。また、回復制御の実施時間を短縮することができる。
(実施の形態2)
実施の形態2は、アノード電位の上昇処理を除き、実施の形態1と共通の構成を有する。以下、本実施の形態について実施の形態1と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
制御装置20は、回復制御において規定値の電流を電気化学式水素ポンプ18に流すとともに、電気化学式水素ポンプ18への水素の供給量を規定値から算出される理論水素消費量よりも低減する。また、実施の形態1では電気化学式水素ポンプ18へのガス供給を遮断しているが、本実施の形態の制御装置20は、理論水素消費量よりも少ない量の水素を電気化学式水素ポンプ18に流通させる。水素含有ガスの排出処理と同様に、中間蓄圧器8(水素の供給部)から少量の圧縮水素ガスを電気化学式水素ポンプ18に供給し、電気化学式水素ポンプ18からパージ用管路33を介して系外に排出することで、水素を電気化学式水素ポンプ18に流通させることができる。
電気化学式水素ポンプ18に供給する水素は、例えば中間蓄圧器8に蓄えられた昇圧水素ガスである。あるいは、第1管路12等に水素の供給部としての水素ボンベ(図示せず)を接続して、このボンベに蓄えられた水素を電気化学式水素ポンプ18に供給してもよい。また、水素製造装置2から送られる水素含有ガスを電気化学式水素ポンプ18に供給してもよい。
本実施の形態のように少量の水素を電気化学式水素ポンプ18に供給することで、各ポンプユニット36における濃度過電圧の差を生じさせつつ、アノード触媒52から剥離した不純物をアノード電極40およびアノード流路44から排除することができる。これにより、回復制御でアノード触媒52から剥離した不純物が再びアノード触媒52に付着することを抑制することができる。よって、アノード触媒52の回復効果を高めることができる。
例えば、不純物がCOである場合、回復制御によってCOは酸化してCO2となる。生成されたCO2がアノード電極40やアノード流路44に滞留したままであると、CO2の一部が平衡反応よってCOとなり、再びアノード触媒52に付着するおそれがある。これに対し、少量の水素を電気化学式水素ポンプ18に流通させて、生成されたCO2を速やかに排出することで、COの再付着を抑制することができる。また、アノード触媒52から剥離した不純物を水素で排出する構成とすることで、中間蓄圧器8に蓄えられた昇圧水素ガスを利用することができる。このため、設備の追加が不要となり、水素ステーション1のコスト増加を回避することができる。
(実施の形態3)
実施の形態3は、アノード電位の上昇処理を除き、実施の形態1と共通の構成を有する。以下、本実施の形態について実施の形態1と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。図10は、実施の形態3に係る電気化学式水素ポンプシステム4を備える水素ステーション1の模式図である。
制御装置20は、回復制御において規定値の電流を電気化学式水素ポンプ18に流すとともに、電気化学式水素ポンプ18への水素の供給量を規定値から算出される理論水素消費量よりも低減する。また、実施の形態1では電気化学式水素ポンプ18へのガス供給を遮断しているが、本実施の形態の制御装置20は、不活性ガスを電気化学式水素ポンプ18に流通させる。不活性ガスは、例えばN2である。
例えば、第1管路12等に不活性ガスの供給部として不活性ガスボンベ62が接続され、不活性ガスボンベ62から電気化学式水素ポンプ18に不活性ガスが供給される。そして、水素含有ガスの排出処理と同様に、電気化学式水素ポンプ18からパージ用管路33を介して不活性ガスを系外に排出することで、不活性ガスを電気化学式水素ポンプ18に流通させることができる。不活性ガスボンベ62から電気化学式水素ポンプ18への不活性ガスの供給は、制御装置20により制御される。
本実施の形態のように不活性ガスを電気化学式水素ポンプ18に供給することで、各ポンプユニット36における濃度過電圧の差を生じさせつつ、アノード触媒52から剥離した不純物をアノード電極40およびアノード流路44から排除することができる。これにより、回復制御でアノード触媒52から剥離した不純物が再びアノード触媒52に付着することを抑制することができる。よって、アノード触媒52の回復効果を高めることができる。
また、実施の形態2のように不純物を排出するために水素を流通させる場合に比べて、アノード電極40における濃度過電圧をより迅速に上昇させることができる。このため、回復制御に要する時間を短縮することができ、水素ステーション1における昇圧水素ガスの生成効率の低下を抑制することができる。なお、不活性ガスボンベ62の不活性ガスは、水素含有ガスの排出処理においてパージガスとして利用することもできる。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。各実施の形態に含まれる構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
(変形例1)
変形例1は、電圧検出部26の検出対象に関する変形例である。各実施の形態では、電圧検出部26が複数のポンプユニット36を含む電気化学式水素ポンプ18全体の電圧を検出している。制御装置20は、電気化学式水素ポンプ18全体の電圧から各ポンプユニット36のアノード電位を把握して電源22を制御している。
これに対し、電圧検出部26は、上述した電位範囲検討試験に用いたポンプモデルと同様に、各ポンプユニット36のアノード電位を直接検出してもよい。図11は、変形例1に係る電気化学式水素ポンプシステム4の模式図である。図11では、電気化学式水素ポンプ18として1つのポンプユニット36のみを図示している。また、制御装置20の図示を省略している。
変形例1に係る電気化学式水素ポンプシステム4は、電解質膜38に設けられる参照極60を有する。参照極60には水素が供給される。参照極60に供給される水素は、例えば中間蓄圧器8に蓄えられた昇圧水素ガスである。参照極60を設けることで、参照極60とアノード電極40との電位差、つまり参照極60の電位を基準としたアノード電位を測定することができる。参照極60には水素が供給されるため、アノード電位は標準水素電極に対する電位に相当する。電気化学式水素ポンプ18が複数のポンプユニット36を備える場合、各ポンプユニット36に参照極60が設けられて、各ポンプユニット36のアノード電位が個別に測定される。
各ポンプユニット36のアノード電位を個別に測定する場合、制御装置20は、回復制御の開始を判断する際、例えば所定数以上のポンプユニット36におけるアノード電位が所定のしきい値を超えたことを検知すると回復制御を開始すべきと判断する。また、回復制御の終了を判断する際、例えば全てのポンプユニット36におけるアノード電位が所定のしきい値を超えたことを検知すると回復制御を終了すべきと判断する。
なお、各ポンプユニット36のアノード電位を個別に検出せず、電気化学式水素ポンプ18全体のアノード電位を検出してもよい。この場合、例えば複数のポンプユニット36の配列方向における一端側に位置するポンプユニット36の電解質膜38に参照極60が設けられ、この参照極60と配列方向の他端側に位置するポンプユニット36のアノード電極40との間の電位が測定される。
また、実施の形態では、電気化学式水素ポンプ18全体の電圧を検出しているが、各ポンプユニット36の電圧を個別に検出してもよい。これにより、各ポンプユニット36のアノード電位を個別に算出することができる。この場合、制御装置20は、回復制御の開始を判断する際、例えば所定数以上のポンプユニット36における電圧が所定のしきい値を超えたことを検知すると回復制御を開始すべきと判断する。また、回復制御の終了を判断する際、例えば全てのポンプユニット36における電圧が所定のしきい値を超えたことを検知すると回復制御を終了すべきと判断する。
電気化学式水素ポンプ18全体あるいは各ポンプユニット36の電圧を検出する構成では、アノード電位検出に必要な参照極60が不要であるため、低コストに回復制御を実施することができる。また、実施の形態のように、各ポンプユニット36の電圧を個別に検出せずに電気化学式水素ポンプ18全体の電圧を検出する構成では、各ポンプユニット36の電圧を個別に検出する場合に比べて部品点数を削減でき、システムの複雑化を抑制することができる。よって、より低コストに回復制御を実施することができる。一方、各ポンプユニット36の電圧を個別に検出する場合は、各ポンプユニット36のアノード電位を把握することができるため、回復制御の精度を高めることができる。
ただし、各ポンプユニット36間にアノード電位のばらつきがあっても、実施の形態で説明した回復制御によればCO被毒率の均一化が可能であるため、特定のポンプユニット36のみアノード触媒52の劣化が進行するといった事態を回避することができる。よって、電気化学式水素ポンプ18全体の電圧を検出する構成でも、回復制御を十分な精度で実施することができる。
また、電気化学式水素ポンプ18全体あるいは各ポンプユニット36のアノード電位を検出する構成では、参照極60の設置が必要であるため、コストの増加やシステムの複雑化を招く。一方で、アノード電位を直接検出することができるため、電圧値からアノード電位を把握する場合に比べて、回復制御の精度を高めることができる。また、電気化学式水素ポンプ18全体のアノード電位を検出する構成では、各ポンプユニット36のアノード電位を個別に検出する場合に比べて、低コスト化を図ることができる。一方、各ポンプユニット36のアノード電位を個別に検出する場合は、各ポンプユニット36のアノード電位をより高精度に制御することができるため、回復制御の精度をより高めることができる。
(変形例2)
変形例2は、パージ用管路33に関する変形例である。各実施の形態では、第1管路12にパージ用管路33が接続されている。これに対し、パージ用管路33は、各ポンプユニット36のアノード流路44に接続されてもよい。図12は、変形例2に係る電気化学式水素ポンプシステム4の模式図である。図12では、制御装置20、電流検出部24および電圧検出部26の図示を省略している。また図12には、4つのポンプユニット36が積層されたスタック構造を有する電気化学式水素ポンプ18が図示されている。なお、電気化学式水素ポンプ18を構成するポンプユニット36の数は特に限定されない。
変形例2に係る電気化学式水素ポンプシステム4では、パージ用管路33が各ポンプユニット36のアノード流路44に接続される。パージ用管路33は、電気化学式水素ポンプ18側の端部が複数に枝分かれして、各ポンプユニット36のアノード流路44に接続される。各アノード流路44とパージ用管路33との接続部には開閉弁(図示せず)が設けられ、制御装置20がこの開閉弁を閉じることで、各アノード流路44からのガスの排出が遮断される。
制御装置20は、電気化学式水素ポンプシステム4の通常運転時、開閉弁を閉じて各アノード流路44からのガスの排出を遮断する。また、制御装置20は、回復制御における水素含有ガスの排出処理において、開閉弁を開いて各アノード流路44とパージ用管路33とを連通する。そして、第1管路12から各アノード流路44にパージガスを所定時間導入して、各アノード流路44内に残存する水素含有ガスをパージ用管路33から排出する。
また、アノード電位の上昇処理では、実施の形態1のように各アノード流路44へのガス供給を停止する場合は、開閉弁を閉じて各アノード流路44とパージ用管路33とを遮断する。一方、実施の形態2のように理論水素量未満の水素を各アノード流路44に流通させる場合や、実施の形態3のように不活性ガスを各アノード流路44に流通させる場合は、開閉弁を開いて各アノード流路44とパージ用管路33とを連通する。これにより、アノード触媒52から剥離した不純物を含む水素や不活性ガスがパージ用管路33から排出される。
なお、COにより被毒したアノード触媒52は、第1管路12に近い側に偏在する傾向にある。このため、アノード電位の上昇処理において不純物排除用のガスをアノード流路44に流通させる場合には、各実施の形態のように第1管路12に接続したパージ用管路33から不純物を排出する方が、CO被毒の拡散を抑制できるため好ましい。
(変形例3)
変形例3は、回復制御の内容に関する変形例である。各実施の形態では、回復制御において、水素含有ガスの排出処理を実行しているが、当該排出処理は省略してもよい。水素含有ガスの排出処理を実行するか否かは、例えば当該排出処理が組み込まれた回復制御プログラムと組み込まれていない回復制御プログラムとが予めメモリに保持されており、どちらのプログラムを制御装置20が実行するかを作業者が任意に選択することができる。あるいは、いずれか一方の回復制御プログラムのみがメモリに保持されていてもよい。
(その他)
以下の態様も本発明に含めることができる。
プロトン伝導性を有する電解質膜(38)と、電解質膜(38)の一方の側に配置されて水素含有ガスが供給され、水素含有ガスからプロトンを生成するためのアノード触媒(52)を有するアノード電極(40)と、電解質膜(38)の一方の側とは反対側に設けられ、電解質膜(38)を介して供給されるプロトンから水素を生成するためのカソード触媒(56)を有するカソード電極(42)と、を有し、供給される水素含有ガスから当該水素含有ガスよりも高圧の水素ガスを生成する電気化学式水素ポンプ(18)の運転方法であって、
所定のタイミングで、電気化学式水素ポンプ(18)に印加するアノード電位を通常運転時よりも上昇させて、水素含有ガスに含まれる不純物によって被毒したアノード触媒(52)から不純物を除去する回復処理を施す、電気化学式水素ポンプ(18)の運転方法。