JP7141648B2 - ゲノム編集タンパク質の直接導入による糸状菌ゲノム編集方法 - Google Patents

ゲノム編集タンパク質の直接導入による糸状菌ゲノム編集方法 Download PDF

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特許法第30条第2項適用 2016年8月25日に公開された第68回日本生物工学会大会講演要旨集第279頁で発表
特許法第30条第2項適用 2016年9月30日に富山国際会議場において開催された第68回日本生物工学会大会で発表
特許法第30条第2項適用 2016年10月24日に公開された第16回糸状菌分子生物学コンファレンス要旨集第48頁で発表
特許法第30条第2項適用 2016年11月17日に宇治おうばくプラザ(京都府宇治市五ケ庄京都大学宇治キャンパス内)で開催された第16回糸状菌分子生物学コンファレンスで発表
本発明は、ゲノム編集タンパク質分子又は複合体を直接導入することにより糸状菌ゲノムを編集する方法に関する。
ゲノム編集技術は、Cas9遺伝子等を用いて、ゲノム上の特定の箇所に塩基の欠失等の変異を導入したり、他の遺伝子を挿入したりする技術である(非特許文献1~3)。ヒトや植物など様々な生物種でTALENやCas9、Cpf1、PPRを用いた研究がなされているが、従来技術は、TALENやCas9の遺伝子を生物内に導入する方法と、これらのタンパク質を直接導入する方法とに大別される。
Cas9タンパク質等の直接導入によるゲノム編集は、アスペルギルス属以外の生物(ヒト細胞、植物細胞)では多くの研究発表がなされている(例えば、非特許文献4~6)。糸状菌では、ペニシリウム属において直接導入法が報告されているが(非特許文献7)、アスペルギルス属では未だ報告がない。遺伝子のノックイン、ノックアウト、マルチゲノム編集(同時に2か所以上を編集)は、ヒトやカエルの卵、植物等ですでに論文が発表されているが、アスペルギルス属を初めとする糸状菌では未だ報告がない。
Yamamoto T. et al. (2014). Genome editing with programmable site-specific nucleases. Uirusu. 64(1):75-82. Gupta SK. et al. (2016 Aug). Gene editing for cell engineering: trends and applications. Crit Rev Biotechnol. Pages 1-13. Stella S. et al. (2016 Jul) The genome editing revolution: A CRISPR-Cas TALE off-target story. Bioessays. 38 Suppl 1:S4-S13. Kotani H. et al. (2015 May). Efficient multiple genome modifications induced by the crRNAs, tracrRNA and Cas9 Protein complex in zebrafish. Plos ONE. 26;10(5):e0128319. Aida T. et al. (2015 Apr). Cloning-free CRISPR/Cas system facilitates functional cassette knock-in in mice. Genome Biol. 16:87. Kim S. et al. (2014 Jun). Highly efficient RNA-guided genome editing in human cells via delivery of purified Cas9 ribonucleoproteins. Genome Res. 24(6):1012-9. Pohl et al., ACS Synthetic Biology, 2016 Jul 15; 5(7): 754-764
本発明は、麹菌を初めとするアスペルギルス属菌を含む各種の糸状菌において、実用化可能なゲノム編集技術を開発、提供することを目的とする。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、Cas9タンパク質とガイドRNAの複合体を麹菌プロトプラストに直接導入することにより、ゲノム上の所望の部位に欠失変異を導入するゲノム編集技術を確立し、さらに、ノックインによるゲノム編集技術及び複数の標的遺伝子の同時編集技術を麹菌においても確立することに成功し、本願発明を完成した。
すなわち、本発明は、標的遺伝子に対するゲノム編集タンパク質分子又は複合体をアスペルギルス属菌の細胞に直接導入する工程を含む、アスペルギルス属菌ゲノム上の遺伝子を編集する方法、並びに、標的遺伝子に対するゲノム編集タンパク質分子又は複合体をアスペルギルス属菌の細胞に直接導入する工程、及び標的遺伝子が編集されたアスペルギルス属菌細胞を選択し回収する工程を含む、ゲノム上の遺伝子が編集されたアスペルギルス属菌株の作出方法を提供する(第1態様)。
また、本発明は、糸状菌ゲノム上の標的領域に対するゲノム編集タンパク質分子又は複合体と、所望のDNA断片とを、糸状菌細胞に直接導入する工程を含む、ノックインによる糸状菌ゲノムの編集方法であって、ゲノム編集タンパク質分子又は複合体は、DNAを切断する活性を有する、方法、並びに、糸状菌ゲノム上の標的領域に対するゲノム編集タンパク質分子又は複合体であって、DNAを切断する活性を有するゲノム編集タンパク質分子又は複合体と、所望のDNA断片とを、糸状菌細胞に直接導入する工程、及び標的領域の切断部に前記所望のDNA断片が挿入された糸状菌細胞を選択し回収する工程を含む、ノックインによりゲノムが編集された糸状菌株の作出方法を提供する(第2態様)。
さらに、本発明は、第1の標的遺伝子に対する第1のゲノム編集タンパク質分子又は複合体と、第2の標的遺伝子に対する第2のゲノム編集タンパク質分子又は複合体を、糸状菌細胞に直接導入する工程を含む、糸状菌ゲノム上の複数の遺伝子を編集する方法、並びに、第1の標的遺伝子に対する第1のゲノム編集タンパク質分子又は複合体と、第2の標的遺伝子に対する第2のゲノム編集タンパク質分子又は複合体を、糸状菌細胞に直接導入する工程、及び第1及び第2の標的遺伝子が編集された糸状菌細胞を選択し回収する工程を含む、ゲノム上の複数の遺伝子が編集された糸状菌株の作出方法を提供する(第3態様)。
本発明により、アスペルギルス属菌等の糸状菌において、ゲノム編集タンパク質分子又は複合体を直接導入することによるゲノム編集方法が提供される。タンパク質を細胞内に直接導入してゲノム編集を行う方法では、DNA断片をゲノム中に導入するわけではないことから、遺伝子組換体ではない(自然変異体と見分けがつかない)とする議論がなされており、産業界からの注目が高い。とりわけ、本発明の第3態様の共編集法(多重ゲノム編集法)によれば、ポジティブセレクションできる第一標的遺伝子でスクリーニングすることで、ポジティブセレクションできない遺伝子や表現型が明確ではない遺伝子が編集された株を単離可能となる。
実施例1において、pyrG遺伝子に対するCas9タンパク質-ガイドRNA複合体(リボヌクレオタンパク質)をアスペルギルス・オリゼRIB40株のプロトプラストに直接導入し、pyrG遺伝子の破壊を試みた結果である。Aではリボヌクレオタンパク質が導入されておらず、pyrG遺伝子が破壊されていないため、5-FOA含有選択培地上でコロニーは生育しない。一方、Cでは、リボヌクレオタンパク質の直接導入によりpyrG遺伝子が破壊された株が5-FOA含有選択培地上で生育し、コロニーが形成されている。 実施例1のCas9タンパク質-ガイドRNA複合体の直接導入によるゲノム編集法において、Cas9タンパク質の使用量を検討した結果である。 アスペルギルス・オリゼの実用株として代表的な株であるRIBOIS01(新清酒系統)、RIB128(酒/味噌系統)、及びRIB163(C系統)を用いて、Cas9タンパク質-ガイドRNA複合体の直接導入によるゲノム編集(pyrG遺伝子の破壊)が可能かを検討した結果である。いずれの株もpyrG遺伝子が破壊され、5-FOA含有選択培地上で生育可能となった株が得られ、本法によるゲノム編集が可能であることが確認された。 実施例2で行なったノックイン実験の結果のコロニー画像である。実施例1で得られたpyrG機能欠損株(ウラシル要求性を示す)を親株として使用し、Cas9タンパク質-ガイドRNA複合体の直接導入法によりpyrG遺伝子断片をノックインし、ウラシル不含の選択培地上で培養した。黒線で囲んだコロニーが緑色のコロニーであり、白線で囲んだコロニーが白色のコロニーである。 実施例2で得られたpyrG遺伝子断片ノックイン候補株をPCR解析するために設計したプライマーを説明する模式図である。 図5の通りに設計したプライマーを用いて、実施例2で得られたpyrG遺伝子断片ノックイン候補株をPCR解析した結果である。 wA遺伝子中にノックインされたpyrG遺伝子断片の向きを解析するためのプライマーを説明する模式図である 図7の通りに設計したプライマーを用いて、実施例2で得られた白色コロニー株について、wA遺伝子中にノックインされたpyrG遺伝子断片の向きをPCR解析により調べた結果である。 実施例3において、Cas9タンパク質-ガイドRNA複合体の直接導入法によりゲノム上のpyrG遺伝子及びwA遺伝子を同時に破壊した結果のコロニー画像である。培地は5-FOA含有選択培地であり、pyrG遺伝子が破壊された株が生育する。さらにwA遺伝子も破壊されている株は、培地上で白色のコロニーを形成する。白線で囲んだコロニーが白色コロニーである。 実施例3で得られた5-FOA耐性株を再度5-FOA存在下で培養し、白色となったコロニー(No. 4, 11, 16, 17)について、wA遺伝子領域をPCR解析して増幅サイズを確認した結果である。
本発明は、アスペルギルス属菌を初めとする糸状菌のゲノム編集方法であって、糸状菌細胞にゲノム編集タンパク質分子又は複合体を直接導入することにより糸状菌ゲノムを編集する方法である。「直接導入」という語は、タンパク質をコードする核酸を細胞内に導入し、細胞内で核酸からタンパク質を発現させるのではなく、タンパク質を細胞内に取り込ませることをいう。
本発明のゲノム編集タンパク質直接導入法は、3つの態様を包含する。詳細は後述するが、簡単に記載すると、第1態様は、ゲノム編集タンパク質分子又は複合体をアスペルギルス属菌の細胞に導入し、所望の部位において標的遺伝子を改変したゲノム編集株を得る技術である。第2態様は、DNAを切断するゲノム編集タンパク質分子又は複合体と所望のDNA断片とを糸状菌細胞に直接導入し、DNA切断部位に所望のDNA断片をノックインしたゲノム編集株を得る技術である。第3態様は、2セットないしはそれ以上のゲノム編集タンパク質分子又は複合体のセットを糸状菌細胞に直接導入し、複数の標的遺伝子を共編集する技術である。
糸状菌には、アスペルギルス属菌の他、ペニシリウム属菌、モナスカス属、ユーロチウム属、ネオサルトリア属、ジベレラ属、フザリウム属、マグナポルテ属等の各種の糸状菌が包含される。特に限定されないが、糸状菌は、好ましくはアスペルギルス属菌である。アスペルギルス属菌には、黄麹菌(Aspergillus oryzae)、黒麹菌(Aspergillus luchuensisなど)、及び白麹菌(Aspergillus usamii、Aspergillus kawachiiなど)の麹菌や、Aspergillus niger、Aspergillus flavus等の麹菌以外の各種アスペルギルス属菌が包含される。好ましくは、アスペルギルス属菌は麹菌であり、より好ましくは黄麹菌(Aspergillus oryzae、アスペルギルス・オリゼ)である。
本発明において、「ゲノム編集」ないしは「ゲノム改変」という語は、ゲノム上の所望の部位に高い特異性をもって変異を導入することをいう。ここでいう変異には、1個以上の塩基の置換、欠失、転座、逆位及び挿入が包含され、塩基の挿入には所望の遺伝子断片の挿入も包含される。
「ゲノム編集タンパク質分子又は複合体」とは、ゲノム上の所望の標的配列を認識し、標的配列又はその近傍でDNA鎖を切断する又は1個以上の塩基を変換する活性を有するタンパク質分子又は複合体をいい、パリンドローム配列を認識してDNA二本鎖を切断する制限酵素は包含されない。タンパク質分子自体がゲノム上の標的配列を認識して自己を標的配列部分に動員する能力を有していてもよいし、DNA切断活性又は塩基変換活性を有するタンパク質分子と、該タンパク質分子をゲノム上の標的配列部分に動員するガイド核酸分子との複合体であってもよい。「タンパク質分子」という語には、融合タンパク質が包含される。
ガイド核酸分子としては、一本鎖のポリヌクレオチド、特に一本鎖RNAを好ましく用いることができる。一本鎖ポリヌクレオチドをガイド核酸分子として用いる場合、ゲノム編集タンパク質複合体が認識する標的配列の相補鎖にガイド核酸分子がハイブリダイズすることにより、該複合体が標的配列部分に動員される。
DNA鎖の切断は、二本鎖DNAの同一箇所で両鎖を切断する形式でもよいし、近接した領域内(典型的には百数十~数十塩基対以下の領域内)で各鎖を切断する形式でもよい。一つのゲノム編集タンパク質分子又は複合体が二本鎖DNAの両鎖を切断する活性を有していてもよいし、二本鎖DNAのうちの片方の鎖を切断するゲノム編集タンパク質分子又は複合体を組み合わせて使用してもよい。
「標的遺伝子に対するゲノム編集タンパク質分子又は複合体」とは、標的遺伝子を編集ないし改変するためのゲノム編集タンパク質分子又は複合体をいう。そのようなゲノム編集タンパク質分子又は複合体は、通常、該分子又は複合体がDNA切断や塩基書き換えを行う標的部位が標的遺伝子領域内、典型的にはコーディングエクソン領域内となるように、ゲノム編集タンパク質分子又は複合体が設計される。「遺伝子領域」とは、タンパク質をコードする領域(コーディングエクソン領域)と、イントロン領域と、プロモーター領域、5'-及び3'-UTR等の当該遺伝子の発現の制御に関与し得る領域とを含む、ゲノム上の連続した領域をいう。例えば、標的配列内の特定の部位を標的部位とするゲノム編集タンパク質分子又は複合体を用いて標的遺伝子を編集する場合には、少なくともその特定の部位がコーディングエクソン領域内に位置するように標的配列を設定することができる。
「標的領域に対するゲノム編集タンパク質分子又は複合体」といった場合には、該分子又は複合体が編集ないし改変するゲノム領域は遺伝子領域に限られない。
ゲノム編集タンパク質分子又は複合体の具体例としては、TALENタンパク質、ZFNタンパク質、Cas9タンパク質とガイドRNAとの複合体、ニッカーゼ改変型Cas9タンパク質と一対のガイドRNAそれぞれとの複合体、デアミナーゼと連結されたニッカーゼ改変型又はヌル変異型Cas9タンパク質とガイドRNAとの複合体、Cpf1タンパク質とガイドRNAとの複合体、及びPPR-DNA切断ドメイン融合タンパク質を挙げることができる。
ZFN(zinc-finger nuclease)は、標的配列を特異的に認識して結合するジンクフィンガーリピートに、制限酵素のヌクレアーゼドメイン等に由来するDNA切断ドメインを連結した人工ヌクレアーゼである。ゲノム編集タンパク質分子自体がゲノム上の標的配列を認識する例のひとつである。ZFNによるゲノム編集技術自体は第一世代のゲノム編集方法として広く知られている(例えば、Osakabe Y. et al. ( 2015 Mar). Genome editing with engineered nucleases in plants. Plant Cell Physiol. 56(3):389-400.やWijshake T. et al. (2014 Oct). Endonucleases: new tools to edit the mouse genome. Biochim Biophys Acta. 1842(10):1942-1950.等を参照)。3塩基を認識する1単位のジンクフィンガーリピートを3個程度連結し、18塩基前後の標的配列を認識するように設計するのが一般的である。また、DNA切断ドメインとしては、制限酵素FokIのヌクレアーゼドメインを利用するのが最も一般的である。通常、ジンクフィンガードメインのC末端とDNA切断ドメインのN末端を連結する。DNA切断ドメインとして、FokIのヌクレアーゼドメインのように二量体化してDNA切断活性を発揮するタイプのものを採用する場合には、異なるDNA鎖を認識する2個のZFNを組み合わせ、一対のZFNを用いることで、2箇所の標的配列の間でDNA二本鎖を切断できる。この場合、一対のZFNが認識する各標的配列は、数塩基対程度の適当な間隔をあけて設定する必要がある。
DNA二本鎖切断が糸状菌ゲノム上に生じると、二本鎖切断部位で非相同末端連結(NHEJ)による修復が行われるが、その際に高い頻度で1個以上の塩基の欠失や付加が生じる。その結果、フレームシフトや停止コドンの発生等の変異が生じ、標的遺伝子が破壊される等のゲノム改変が生じる。DNA二本鎖切断部に二本鎖のDNA断片を共存させることで、切断部位にDNA断片をノックインすることも可能である。
TALEN(Transcription activator-like effector nuclease)は、植物病原細菌Xanthomonas属のTALエフェクタータンパク質をDNA結合ドメインとして採用し、制限酵素FokI等に由来するヌクレアーゼドメインと連結した、第二世代のゲノム編集ツールである。TALエフェクタータンパク質は、34アミノ酸を1単位とする繰り返し配列を有し、1単位の配列が1塩基を認識する。繰り返し単位数が標的配列の鎖長に相当する。TALENのDNA結合ドメインとしては、18塩基程度の標的配列を認識するように設計するのが一般的である。TALENのDNA結合ドメインの設計方法は周知であり(例えば、Bogdanove & Voytas, Science 2011, 333(6051), 1843-1846)、設計ツールも知られている(例えば、コーネル大学のTAL Effector Nucleotide Targeter 2.0、https://tale-nt.cac.cornell.edu/)。TALENもゲノム編集タンパク質分子自体がゲノム上の標的配列を認識する例のひとつである。DNA切断ドメインとして、FokIのヌクレアーゼドメインのように二量体化してDNA切断活性を発揮するタイプのものを採用する場合には、異なるDNA鎖を認識する2個のTALENを組み合わせ、一対のTALENを用いることで、2箇所の標的配列の間でDNA二本鎖を切断できる。この場合、一対のTALENが認識する各標的配列は、14~20塩基対程度の適当な間隔を空けて設定する必要がある。TALENを用いた場合にも、二本鎖切断部位での非相同末端連結によって標的遺伝子の破壊やDNA断片のノックイン等を行うことができる。
PPR(pentatricopeptide repeat)タンパク質は植物で発見された核酸結合タンパク質である(特開2013-128413など参照)。PPRタンパク質は、35アミノ酸のPPRモチーフが十数個連続した構造を有し、1つのモチーフが塩基と1対1で対応する。PPRの核酸認識コードの解析が進み、所望の核酸配列に特異的に結合するタンパク質の設計が可能となっている。PPRタンパク質に制限酵素FokIのヌクレアーゼドメイン等のDNA切断ドメインを連結したPPR-DNA切断ドメイン融合タンパク質も、ゲノム編集タンパク質分子の一例の人工ヌクレアーゼとして挙げることができる。ZFNやTALENと同様に、二量体化してDNA切断活性を発揮するタイプのDNA切断ドメインを採用する場合には、異なるDNA鎖を認識する2個のPPR-DNA切断ドメイン融合タンパク質を組み合わせ、一対の該融合タンパク質を用いる。
Cas9タンパク質とガイドRNAの複合体は、DNA切断活性を有するタンパク質分子と、該タンパク質分子をゲノム上の標的配列部分に動員するガイド核酸分子との複合体の一例であり、標的配列内の特定の部位においてDNA二本鎖切断を生じさせる。Cas9タンパク質とガイドRNAを利用したゲノム編集技術は、CRISPR/Casシステムとして知られる第三世代のゲノム編集技術である(Gaj T. et al. (2016 Dec). Genome-Editing Technologies: Principles and Applications. Cold Spring Harb Perspect Biol. 8(12).、Singh V. et al. (2017 Jan). Exploring the potential of genome editing CRISPR-Cas9 technology. Gene. 599:1-18.等を参照)。本技術もそれ自体は周知であり、各種のキットや設計ツール等が知られている。本発明においては、Cas9タンパク質とガイドRNAをコードするポリヌクレオチドを糸状菌細胞内で発現させるのではなく、Cas9タンパク質とガイドRNAの複合体を糸状菌細胞に直接導入する。
Cas9タンパク質は、いかなる細菌に由来するものを使用してもよい。公知のCRISPR/CasシステムではStreptococcus pyogenes由来のCas9が一般的に用いられており、本発明でも好ましく用いることができる。Cas9タンパク質は、公知の各種のCas9発現ベクターから適当な宿主培養細胞を用いて発現、回収して得ることができる。市販品のCas9タンパク質を使用してもよい。
ガイドRNAとしては、ゲノム上の標的配列と同一の配列(ただしTはUとする)の3'側に短鎖CRISPR RNA(crRNA)及びトランス活性化crRNA(tracrRNA)のキメラ配列が連結された構造の一本鎖RNAを用いればよい。そのような一本鎖RNAは、常法の化学合成により容易に調製できる。キメラ配列は、公知のCRISPR/Casシステムで用いられているものを本発明においても好ましく使用できる。配列表の配列番号2に示したRNA配列は、Streptococcus pyogenes由来のCas9を用いる場合に一般的に使用される短鎖CRISPR RNA(crRNA)及びトランス活性化crRNAのキメラ配列である。
ガイドRNAに採用する標的配列は、ゲノム編集対象の糸状菌のゲノム配列のうち、適当なPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列の上流側に隣接する17~25塩基程度、例えば19~22塩基程度、典型的には19~20塩基程度の配列を利用すればよい。PAM配列は、使用するCas9が由来する細菌の種や型によって異なる。公知のCRISPR/Casシステムで最も一般的に用いられているStreptococcus pyogenes II型由来のCas9の場合、PAM配列は5'-NGG(NはA, T, G又はC)である。その他の例を挙げると、Streptococcus solfataricus I-A1型由来のCas9は5'-CCN、Streptococcus solfataricus I-A2型由来のCas9は5'-TCN、Haloquadratum walsbyi I-B型由来のCas9は5'-TTCであり、これ以外も種々知られている。
Cas9タンパク質とガイドRNAの複合体を直接導入した糸状菌細胞のゲノムでは、PAM配列の上流の3番目と4番目の塩基の間で標的配列の二本鎖切断が生じる。ガイドRNAの標的配列の設定においては、まず編集したい標的遺伝子ないしは標的領域の配列中で適当なPAM配列を検索し、その上流隣接配列を候補の標的配列として選定した上で、編集対象の糸状菌のゲノム配列上に類似の配列が少ないものを最終的な標的配列として選択すればよい。同一性の高い配列がゲノム上に存在しない配列を標的配列として採用することで、標的外でのCas9タンパク質によるDNA切断(オフターゲット切断)を低減することができる。
ニッカーゼ改変型Cas9タンパク質と一対のガイドRNAそれぞれとの複合体とは、2種類のガイドRNAのいずれかとニッカーゼ改変Cas9タンパク質とを会合させた、2種類の(一対の)複合体である。ニッカーゼ改変型Cas9タンパク質は、Cas9タンパク質が本来有する2つの切断ドメインのうちの1つが不活化された改変型のタンパク質であり、標的部位においてDNA二本鎖のうちの片方を切断する。従って、DNAの両鎖を切断するためには、DNAの一方の鎖上にある標的配列と他方の鎖上にある別の標的配列とをそれぞれ認識する2種類の(一対の)ガイドRNAを、ニッカーゼ改変Cas9と組み合わせて用いる必要がある。一対のガイドRNAがそれぞれ認識する標的配列間の間隔は、通常、百数十~数十塩基対以内となるように設計する。ニッカーゼ改変型Cas9タンパク質を用いたダブルニッキング法は、公知のCRISPR/Casシステムのオフターゲット切断を低減する目的で開発された技術であり、本発明によるゲノム編集タンパク質直接導入法でもニッカーゼ改変型Cas9タンパク質を用いることでオフターゲット切断の低減が期待される。
ニッカーゼ改変型Cas9自体は公知である。特に一般的なニッカーゼ改変型Cas9として、RuvC1ヌクレアーゼドメインにD10A変異(第10番アスパラギン酸がアラニンに置換)を導入したCas9変異体、HNHヌクレアーゼドメインにH840A変異(第840番ヒスチジンがアラニンに置換)を導入したCas9変異体が知られている。本発明ではいずれを用いてもよい。D10A変異体では、標的配列が存在する側のDNA鎖(ガイドRNAがハイブリダイズする鎖とは反対側の鎖)を切断する能力が失われ、ガイドRNAがハイブリダイズする方の鎖のみが切断される。H840A変異体では、ガイドRNAがハイブリダイズする方の鎖を切断する能力が失われ、標的配列が存在する側の鎖のみが切断される。
デアミナーゼと連結されたニッカーゼ改変型又はヌル変異型Cas9タンパク質とガイドRNAとの複合体は、塩基変換活性を有するタンパク質分子と、該タンパク質分子をゲノム上の標的配列部分に動員するガイド核酸分子との複合体の一例である。ヌル変異型Cas9タンパク質とは、野生型のCas9タンパク質が有する2つの切断ドメインの両方が不活化された変異体であり、例えば上記したD10A変異とH840A変異の両方を導入して調製できる。
近年、CRISPR/Casシステムによるゲノム編集の新たな技術として、DNA二本鎖切断を生じることなく塩基を書き換える技術も開発されている(Nishida et al., Science. 2016 Sep 16;353(6305), DOI: 10.1126/science.aaf8729、WO 2015/133554、及びKomor et al., Nature 533, 420-424, 19 May 2016等参照)。この技術では、少なくとも一方のDNA切断ドメインが失活したCas9タンパク質変異体(ニッカーゼ改変型又はヌル変異型Cas9タンパク質)にデアミナーゼを連結した融合タンパク質をガイドRNAと共に細胞内で発現させる。細胞内で形成されたデアミナーゼ-変異型Cas9とガイドRNAの複合体は、標的配列の相補鎖にガイドRNAがハイブリダイズし、DNA二本鎖のいずれかでデアミナーゼの活性により塩基の書き換えが行われ、DNA二本鎖内でミスマッチが生じる。このミスマッチの修復過程で、書き換えられた塩基を保持するように他方の塩基が変更されたり、ミスマッチ部分でさらに別の塩基に変換されたり、1以上の塩基の欠失又は挿入が生じることによって、種々の変異がゲノム上に導入される。本発明でもこの技術を応用し、デアミナーゼと連結されたニッカーゼ改変型又はヌル変異型Cas9タンパク質とガイドRNAとの複合体を糸状菌細胞に直接導入することで塩基の書き換え等の変異を導入することができる。
DNA二本鎖切断を発生させない当該技術では、使用するCas9タンパク質変異体の種類や標的配列のサイズ等によって編集部位(変異を生じさせる部位)を制御できることが知られている。例えば、変異型Cas9としてD10A変異体を、デアミナーゼとして活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)を採用した場合には、標的配列の鎖長によらず、標的配列の5'端から2~5塩基の領域にあるシトシンがウラシルに変換される(遺伝情報としてはシトシンがチミンに変換されるのと同じ)ことが知られている。こうして二本鎖DNA内で生じたミスマッチに対し、上述したように修復機構が働く結果、本来の塩基とは異なる塩基に遺伝情報を書き換えることができる。
シチジンデアミナーゼ以外のデアミナーゼの例としては、アデノシンデアミナーゼ(アデニンをヒポキサンチンに変換)、グアノシンデアミナーゼ(グアニンをキサンチンに変換)等を挙げることができる。これらのデアミナーゼを用いた場合にも、ミスマッチ部分でのさらなる塩基への変換等によって、本来の塩基とは異なる塩基に安定的に遺伝情報を書き換えることができる。
Cpf1タンパク質とガイドRNAとの複合体は、DNA切断活性を有するタンパク質分子と、該タンパク質分子をゲノム上の標的配列部分に動員するガイド核酸分子との複合体の一例であり、標的配列内の特定の部位においてDNA二本鎖切断を生じさせる。ガイドRNAは、公知のCRISPR/Casシステムで用いられているものと同様に、crRNA及びtracrRNAのキメラ配列を標的配列の3'側に連結した構造の一本鎖RNAを使用できる。Cas9タンパク質とは異なり、Cpf1タンパク質による切断部は突出末端となるが、CRISPR/Casシステムのように1種類のCpf1-ガイドRNA複合体で二本鎖DNAの両方の鎖を切断できる。Yamano et al., Cell. Volume 165, Issue 4, p949-962, 5 May 2016等参照。
ゲノム編集タンパク質分子又は複合体の糸状菌細胞への直接導入は、例えば下記実施例に記載されるように、糸状菌細胞をプロトプラスト化し、プロトプラスト溶液中にゲノム編集タンパク質分子又は複合体を添加して、プロトプラスト内にゲノム編集タンパク質分子又は複合体を取り込ませればよい。プロトプラスト溶液は、ヤタラーゼ等の糸状菌細胞壁溶解酵素を用いて常法により調製できる。
ゲノム編集タンパク質分子又は複合体を直接導入する際の糸状菌プロトプラスト密度やゲノム編集タンパク質分子又は複合体の使用濃度は、使用する糸状菌、ゲノム編集タンパク質分子又は複合体の種類などに応じて適宜設定すればよい。CRISPR/Casシステムを応用したゲノム編集タンパク質複合体を用いる場合は、106個前後の糸状菌プロトプラストに対し10μg程度以上のCas9タンパク質を使用することにより、効率よくゲノムを編集できる。
以下、第1態様から順に説明する。
本発明の第1態様では、標的遺伝子に対するゲノム編集タンパク質分子又は複合体をアスペルギルス属菌の細胞に直接導入することにより、所望の標的遺伝子を編集する。第1態様のうちで最も典型的な実施態様は、DNA二本鎖切断又は塩基変換による標的遺伝子の破壊である。
アスペルギルス属菌としては、上述した通り、麹菌が好ましく、アスペルギルス・オリゼがより好ましい。ゲノム編集タンパク質分子又は複合体は、DNAを切断するもの、DNA二本鎖の切断を生じずに塩基を書き換えるもののいずれを用いてもよい。従って、第1態様で使用可能なゲノム編集タンパク質分子又は複合体の具体例には、上記した具体例の全てが包含される。
標的遺伝子が編集されたアスペルギルス属菌株は、編集の結果として現れる表現型に基づいてスクリーニングすればよい。編集の結果、標的遺伝子が破壊されるケースでは、薬剤感受性遺伝子や代謝系アナログ物質感受性遺伝子等の感受性遺伝子を標的遺伝子とすることにより、編集株(破壊株)のポジティブセレクションが可能となる。これらの感受性遺伝子が破壊された株は、薬剤や代謝系アナログ物質への耐性を獲得した株として選抜できる。
そのような感受性遺伝子の具体例として、次のような代謝系アナログ物質感受性遺伝子を挙げることができる。
pyrG遺伝子(A0090011000868)
ウラシル生合成経路の中間代謝物オロト酸のアナログである5-フルオロオロト酸(5-FOA)を5-フルオロウリジンリン酸へ変換する酵素をコードする。破壊されると5-FOA存在下でも生育可能になる。選択培地は5-FOA濃度0.1mg~10mg程度とすればよい。
sC遺伝子(A0090020000349)
ATPスルフリラーゼをコードする。破壊されるとセレン酸ナトリウム存在下でも生育可能になる。選択培地はセルレニン濃度0.01~1mM程度とすればよい。
niaD遺伝子(AO090012001035)
亜硝酸還元酵素をコードする。破壊されると塩素酸存在下でも生育可能になる。選択培地は塩素酸ナトリウム濃度0.05~1M程度とすればよい。
ptrA遺伝子(AO090003000090)
チアミン合成酵素をコードする。破壊されるとピリチアミン存在下でも生育可能になる。選択培地はピリチアミン濃度0.2~100ppm程度とすればよい。
選択培地によりスクリーニングしたゲノム編集候補株は、所望により、編集部位近傍のゲノム配列を解析し、狙った通りの部位でゲノムの改変が生じていることを確認すればよい。
本発明の第2態様は、ノックインによる糸状菌ゲノムの編集方法である。該方法は、ゲノム上の任意の標的領域に対するゲノム編集タンパク質分子又は複合体と、所望のDNA断片とを、糸状菌細胞に直接導入する。ゲノム編集タンパク質分子又は複合体としては、DNA切断活性を有するものを使用し、DNA二本鎖切断を発生させる必要がある。従って、上記したゲノム編集タンパク質分子又は複合体の具体例のうち、第2態様で使用可能なものとしては、一対のTALENタンパク質、一対のZFNタンパク質、Cas9タンパク質とガイドRNAとの複合体、又はニッカーゼ改変型Cas9タンパク質と一対のガイドRNAそれぞれとの複合体が挙げられる。
第2態様では、糸状菌を広く対象とする。特に限定されないが、糸状菌の中でもアスペルギルス属菌が好ましく、麹菌がより好ましく、中でもとりわけアスペルギルス・オリゼが好ましい。
糸状菌ゲノムにノックインさせるDNA断片としては、マーカー遺伝子断片を含むものを好ましく用いることができる。必要に応じプロモーター配列も含めてよい。何らかの遺伝子領域内の転写開始点よりも下流にDNA断片をノックインする場合には、プロモーター配列は省略できる。また、動物細胞や植物細胞でノックインゲノム編集を行う場合、標的部位の上流領域及び下流領域と同じ配列を有する5'相同領域及び3'相同領域をノックインDNA断片の両端に持たせ、相同組換えによりDNA二本鎖切断部にDNA断片を挿入する必要があるが、糸状菌細胞では非相同組換えの活性が高いため、そのような相同領域をDNA断片に持たせる必要はない。
ノックインDNA断片に含ませるマーカー遺伝子は、使用する糸状菌親株の遺伝的バックグラウンド(薬剤耐性や栄養要求性など)に応じて、DNA断片がノックインされた株をポジティブスクリーニングできるように選択すればよい。そのようなマーカー遺伝子としては、例えば、薬剤耐性遺伝子、栄養要求性を相補する遺伝子等を挙げることができる。その他、蛍光タンパク質遺伝子なども使用可能である。具体例としては、上記した代謝系アナログ物質感受性遺伝子を含め、オーレオバシジン耐性遺伝子、ブレオマイシン耐性遺伝子、カルボキシン耐性遺伝子等を挙げることができる。
DNA断片とゲノム編集タンパク質分子又は複合体は、同時に糸状菌細胞に導入しても良いし、どちらかを先に導入してもよい。通常は、プロトプラスト溶液にDNA断片とゲノム編集タンパク質分子又は複合体を添加し、同時に一定時間反応させてプロトプラストに取り込ませる。
上述した通り、糸状菌細胞では非相同組換え活性が高いため、ゲノム編集タンパク質分子又は複合体が標的とした切断部位ではなく、標的以外の部位にノックインDNA断片が挿入されてしまった細胞もある程度の割合で発生してしまう。標的とした切断部位にノックインされたゲノム編集株を効率よくスクリーニングするためには、ノックインによって糸状菌ゲノム上の遺伝子を破壊し、遺伝子破壊による表現型とのスクリーニングも併せて行うことが好ましい。下記実施例のノックインゲノム編集実験はその一例であり、胞子色素の生合成に関与するwA遺伝子が破壊されるようにノックイン部位を設定し、栄養要求性による選抜(親株としてウラシル要求性の変異株を使用)と胞子(コロニー)の色による選抜を組み合わせてノックイン編集株をスクリーニングしている。ノックインの標的部位を含むゲノム領域をPCR解析し、増幅サイズによって標的部位へのノックインが生じているかを確認することもできる。
本発明の第3の態様は、糸状菌ゲノム上の複数の標的遺伝子を共編集する方法である。この態様では、第1の標的遺伝子に対する第1のゲノム編集タンパク質分子又は複合体と、第2の標的遺伝子に対する第2のゲノム編集タンパク質分子又は複合体を、糸状菌細胞に直接導入する。さらに、第3の標的遺伝子に対する第3のゲノム編集タンパク質分子又は複合体や、それ以上のゲノム編集タンパク質分子又は複合体を導入してもよい。1つの標的遺伝子に対するゲノム編集タンパク質分子又は複合体が、一対の分子又は複合体をセットで使用するものである場合には、2つの標的遺伝子を共編集するために合計二対のゲノム編集タンパク質分子又は複合体を使用することになる。
本態様では、ゲノム編集タンパク質分子又は複合体は、DNAを切断するもの、DNA二本鎖の切断を生じずに塩基を書き換えるもののいずれを用いてもよい。従って、第3態様で使用可能なゲノム編集タンパク質分子又は複合体の具体例には、上記した具体例の全てが包含される。
第3態様では、標的遺伝子のうちの1つに、ポジティブセレクション可能な遺伝子を採用することが好ましい。具体的には、標的遺伝子のうちの1つに薬剤感受性遺伝子や代謝系アナログ物質感受性遺伝子等の感受性遺伝子を採用し、これを破壊するように編集することが好ましい。便宜的にこのポジティブセレクション可能な遺伝子を第1の標的遺伝子とする。この場合の第1の標的遺伝子の好ましい具体例は、第1態様の標的遺伝子の好ましい具体例と同じである。第2の標的遺伝子の編集結果がポジティブセレクションできないものであったり、表現型が明確ではないものであったとしても、第1の標的遺伝子の改変を指標としてスクリーニングすることにより、第2の標的遺伝子が編集された候補株を取得することができる。候補株を取得した後、第2の標的遺伝子の編集標的部位近傍(及び、所望により第1の標的遺伝子の編集標的部位近傍)のシークエンシングを行ない、第2の標的遺伝子の改変を確認すればよい。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
実施例1: Cas9タンパク質等の直接導入によるAspergillus属ゲノム編集
<実験方法>
(1) 菌株・酵素・ガイドRNA
・Aspergillus oryzae RIB40, RIB128, RIB915, RIB163, RIBOIS01
・Cas9 protein 12.5μg [4μg/μl] [Streptococcus pyogenes由来:FASMAC社製]
・pyrGのsingle guide RNA [3.25μg/μl]
pyrG遺伝子破壊に使用するsingle guide RNA(sgRNA)は以下の通りに設計した。まず、pyrG遺伝子配列内のPAM配列(NGG)を検索し、その上流配列(19~20塩基程度)をプロトスペーサー配列(標的配列)の候補とした。候補配列でAspergillusのゲノムを検索し、オフターゲットとなる配列がないことを確認できたものをプロトスペーサー配列として採用した。今回はpyrG遺伝子内のGACTTCCCCTACGGCTCCGAG(配列番号1)をプロトスペーサー配列として利用した。single guide RNA(sgRNA)は、プロトスペーサー配列の3'側にGUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCUUUU(配列番号2)を連結したものを用いた。pyrG用sgRNAの全長配列を配列番号3に示す。
(2) 使用試薬
・0.1M Phosphate Buffer (pH 6.0)
1M NaH2PO4 88ml, 1M Na2HPO4 12mlを混合して、pH 6.0に調整した後、ミリQ水で1Lにメスアップし、オートクレーブした。
・1M Tris-HCl buffer (pH7.5)
・5M NaCl
・1M CaCl2・2H2O
・0.1M Phosphate Buffer (pH 6.0)
1M NaH2PO4 88ml, 1M Na2HPO4 12mlを混合して、pH 6.0に調整した後、ミリQ水で1Lにメスアップした。
・0.8M NaCl/10mM Phosphate Buffer (pH6.0)
5M NaCl 160ml, 0.1M Phosphate Buffer 100 mlを混合して1Lにメスアップし、オートクレーブした。
・Solution1
0.8M NaCl, 10mM CaCl2, 10mM Tris-HCl buffer(pH7.5)
・Solution2
40%(w/v)PEG4000, 50mM CaCl2, 10mM Tris-HCl buffer (pH7.5)
・プロトプラスト化溶液
0.8M NaCl/10mM Phosphate Buffer(pH6.0) 20 mlにYatalase(TaKaRa) 100 mgを加え、ボルテクスして懸濁した。溶液が透明になったところでSteriflip 0.22μm(Merck Millipore)に装着しフィルター滅菌を行った。
(3) 培地
麹菌酵素生産培地(/L)
Glucose 20g, Bacto tryptone 1g, Yeast extract 5g, NaNO3 1g, K2HPO4 0.5g, MgSO4・7H2O 0.5g, FeSO4・7H2O 0.01gを脱イオン水に溶かし、pH6.0に調整後、1Lにメスアップし、オートクレーブした。
-pyrG選択培地(/L)
Glucose 20g, NaNO3 3g, KCl 0.5g, NaCl 46.752g, KH2PO4 1g, MgSO4・7H2O 0.5g, FeSO4・7H2O 0.02g, Uridine 2.442g, Agar 20g (上層用軟寒天培地の場合は7g)を脱イオン水に溶かし、pH6.5に調整後、0.9Lにメスアップし、オートクレーブした。オートクレーブ後に、無菌的に0.22μmでフィルター滅菌した0.01 g/ml (pH6.5)の5'-Fluoroorotic acid (5'-FOA) 溶液を100 ml加えた。なお、植え継ぎ用の選択培地については、NaClを除いたものを調整した。
(4) 実験操作
全ての作業はクリーンベンチで無菌的に行った。用いた器具もすべてオートクレーブし、十分に乾燥させたのち用いた。
A. 菌体培養
・分生子懸濁液を終濃度が1×106個/ml程度になるように、麹菌酵素生産培地150 ml(500 ml容バッフル付きフラスコ使用)に加え、30℃で17-20 hr、80-100 rpmで振とう培養した。
B. プロトプラスト溶液の調製
・培養菌体を、ミラクロスを付けた漏斗でろ過して回収した。
・回収した菌体を0.8M NaCl/10mM Phosphate Buffer (pH6.0)で3回洗浄した。
・プロトプラスト化溶液20mlに、脱水した菌体を0.5 gほど加えて、30℃、2-3hrゆっくり振とうした(60~80rpm)。
・クリーンベンチ内にて、ミラクロスを付けた3G(1-3)グラスフィルターで菌体をろ過して残渣を除去し、プロトプラスト溶液を50 mlファルコンチューブに回収した。
・0.8M NaCl/10mM Phosphate Buffer 10 mlをミラクロスの上から流し入れ、フィルターなどを洗浄した。
・回収したプロトプラスト溶液を3000rpm、5min、4℃で遠心した。
・上清を除去。これに0.8M NaCl/10mM Phosphate Buffer 10 mlにより2回洗浄した。
・プロトプラスト数を計測し、最終的に2.4-2.0×108/mlとなるようにSolution1に懸濁した。
C. Ribonucleoprotein (RNP) 合成と添加
・Solution1に懸濁したプロトプラスト溶液を50μlずつ2mlのマイクロチューブに分注した。
・別のチューブにsgRNA(6.75μg/2μl)とCas9p (12μg/3μl)を数回ピペッティングして混和し、on ice で15 min静置して会合させた(これをRNP溶液とする)。
・15分静置した後のRNP溶液を、分注したプロトプラスト溶液に加えた。
・Solution2 12.5μlを加えた。
・on iceで 30 min静置した。
・Solution2 500μlを加えて混和し、室温で15分間放置した。
D. 選択用培地への上層
・分注し45℃に温めておいた上層用軟寒天培地に上記のRNP-プロトプラスト溶液を適当量加え、選択用培地上に素早く注いで上層した。
・30℃、飽和湿度で4-5日程培養した。
E. 植え継ぎ
・コロニーが現れたら-pyrG選択培地(NaCl非含有)に植え継ぎを行なった。
F. 単離と保存
・単離した候補株は分生子を採取し30%グリセロール存在下で-30℃にして保存した。
G. 小スケールのゲノム抽出
・エッペンドルフチューブに600μlの培地を入れ、分生子懸濁液を10μl程度植菌した。
・37℃で振とうしながら一晩培養した。
・15,000rpm 5min室温で遠心後、菌体を取らないように培養上清をなるべく除いた。
・ガラスビーズを450μl菌体に加えた。
・Wizard Genomic DNA purification kitのNuclei Lysis Solutionを600μl加えて懸濁。
・vortexまたは振とう機により3000rpmで3分以上撹拌した。
・-20℃で凍結、融解後、65℃で5分間加熱した。
・100μlのQiagen Plasmid extraction kit のP1 buffer (RNase処理)を加えて懸濁した。
・15分室温で反応した。(この時、溶液が軽く濁っていることを確認する。)
・破砕した菌体液に対して、200μlのProtein precipitation Solutionを加え撹拌した。
・15,000rpm 10min室温で遠心した。
・上清0.65 mlを新しいエッペンチューブに移して、0.65mlのイソプロパノールを加えた。
・-20℃で30分間冷却した。
・15,000rpm, 30min室温で遠心。
・沈殿に70%エタノールを0.65 ml(先に加えたイソプロパノールと同量)加えて洗浄した。
・15,000rpm, 10min室温で遠心。
・沈殿を50μlのTEで溶解した。
・DNAの濃度・純度を調べた。
H. PCRによるpyrGのシーケンス用テンプレート作成
PCRにはKOD-plus-neoを用いた。pyrGのORF (899 bp)の5'末端を基準(1塩基目)として -969:-948 (22 bp) の領域と 1973:1993 (23 bp) の領域にプライマーを設計し(下記表1)、PCRにより最大2961 bp程の増幅産物を得た。
10×buffer 5μl, dNTPs 5μl, MgSO4 3μl, Primer A (10μM) 1μl, Primer B (10μM) 1μl, template 1μl, KOD-plus-neo 1μl, 滅菌MilliQ水33μlのTotal 50μl容量でPCR反応を行った。PCRサイクル条件は、次のサイクルで行った。Denature: 94℃, 2min, Denature-Annealing-Extension: (94℃, 15sec-58.2℃, 30sec-68℃, 3min) 30 cycle, 68℃, 2min, 4℃一定とした。PCR産物の精製にはQIAGEN Q1Aquick PCR Purification kitを用いた。
一つのサンプルあたり6箇所に設計したシーケンスプライマー(表1)を用いてシーケンス解析を行った。プライマーはORF (899 bp)の5’末端を基準(1塩基目)として -969: -948 (22 bp) 、139: 1628 (24 bp)、306: 325 (20 bp)、624: 643 (20 bp)、734: 757 (24 bp)、1973: 1993 (23 bp) の6箇所の領域に設計した。(今回ガイドRNAでターゲットした領域は492: 515 (24 bp)で、6本のプライマーはこの領域を中心に比較的対称な位置になるように設計した。)
Figure 0007141648000001
I. シーケンス解析
・株式会社FASMACに依頼してシーケンス解析を行った。解析に用いたシーケンサーは[Applied Biosystems 3130xl Genetic Analyzer, Applied Biosystems 3730xl DNA Analyzer]、反応試薬は[Applied Biosystems Big Dye Terminator V3.1]。
<結果>
(1) RIB40株でのゲノム編集実験
まず、麹菌の野生株RIB40を用いて、本法によりゲノム編集が可能かを検討した。
pyrG遺伝子がコードする酵素は、ウラシル生合成経路の中間代謝物オロト酸のアナログである5-フルオロオロト酸(5-FOA)を5-フルオロウリジンリン酸へ変換する活性を有する。5-フルオロウリジンリン酸はチミン合成酵素を強力に阻害するため、pyrG遺伝子が正常に機能している野生株は5-FOA存在下では生育できない。pyrG遺伝子が破壊され酵素活性が失われれば、5-FOA存在下でも生育可能となる。つまり、5-FOA含有培地上での生育を指標として、pyrG破壊用のsgRNA及びCas9pの導入によりpyrG遺伝子を破壊できたかどうかを確認することができる。
buffer(10mM Tris-HCl, 200mM KCl, 1mM DTT, 10mM MgCl2, 20% Glycerol (pH7.5)3μl, DEPC水 2μl)と混合したRIB40のプロトプラスト1.8×106個(-Cas9p, -sgRNA)をpyrG選択培地(ウリジン及び5-FOAを含む)にプレートして培養した場合には、ウラシル合成系に5-FOAが利用されて致死作用が現れ、コロニーは生育しない(図1A)。一方、RNP溶液と混合したRIB40のプロトプラスト(+Cas9p, +sgRNA; 55μLの反応系内でsgRNAは6.75μg、Cas9pは12μg使用)を-pyrG選択培地にプレートすると、コロニーの生育が確認された(図1C)。RNP溶液と混合したプロトプラスト計1.0×107個より、289株のpyrG破壊株を得ることができた。
(2) RIB40ゲノム編集候補株のシーケンス解析
289の候補株からランダムに選抜した24株について、pyrG遺伝子のORF近傍でシーケンス解析を行なった。sgRNA認識配列付近のシーケンス解析結果を表2に示す。24株中、11株が同じ箇所で1塩基欠失していた。その他、6株で10~300塩基、7株で1000~1800塩基の欠失が生じていた。
Figure 0007141648000002
(3) Cas9タンパク質の使用量の検討
Cas9タンパク質の使用量を検討した。宿主としてRIB40を使用した。プロトプラスト(1.8×106個)と混合するCas9タンパク質の量は、10μg、1μg、0.1μg、0μg/55μlで検討した。結果を図2に示す。効率のよい麹菌ゲノム編集のためには、106個前後のプロトプラストに対し10μg程度以上のCas9タンパク質を使用することが望ましいと考えられた。
(4) 実用株でのゲノム編集試験
RIB40以外の麹菌株に対して、本法によるゲノム編集が可能かどうかを確認した。実用株として代表的な株であるRIBOIS01(新清酒系統)、RIB128(酒/味噌系統)、及びRIB163(C系統)を用いた。Cas9タンパク質量は、上記1.(3)の結果に基づき10μg/55μlとした。その結果、図3に示す通り、RIB40以外の麹菌株でも本法によりpyrG遺伝子を破壊でき、ゲノム編集が可能であることが確認された。
実施例2: Cas9タンパク質等の直接導入法を用いた糸状菌類のノックインによるゲノム編集
<実験方法及び結果>
(1) ノックイン用pyrG DNAフラグメントの作製
テンプレートは、全てアスぺルギルス・オリゼ野生株RIB40の染色体DNAを用いた。プライマーにはpyrGfullA(配列番号4)及びpyrGfullB(配列番号5)を用いた。
Figure 0007141648000003
上記反応液50μlを0.2ml PCRチューブ内で混合してDNA Thermal Cyclerにセットし、以下のような温度設定によりPCRを行った。
[94℃、2分]×1サイクル
[98℃、10秒-58.2℃、30秒-68℃、1分30秒]×30サイクル
[68℃、2分-4℃、O/N]×1サイクル
PCR反応液50μlを1.5ml容量マイクロチューブにすべて回収し、等量のPhenol / Chloroform / Isoamyl alcohol(25:24:1)(ニッポン・ジーン)を加え撹拌したのち15000rpm, 4℃, 5min遠心し上清を得た。回収した上清の1/10倍量の3M酢酸ナトリウム溶液と2.5倍量の100%エタノールを加え、転倒混和した後、室温で10分放置した。15000rpm, 4℃, 2min遠心して得た沈殿を適宜TE溶液で懸濁して6μg/μlの濃度に調整し、これをノックイン用DNA(pyrGRIB40)溶液とした。
(2) 形質転換法を用いたタンパク質等の直接導入によるゲノム編集
Aspergillus oryzae GeKS1-30株(RIB40 Genome edited strain -pyrG; 上記表2記載の1bp欠失によるpyrG機能欠損株、ウラシル要求性を示す)を宿主麹菌として利用した。この株の分生子縣濁液を、10 mMのUridineを添加した麹菌酵素生産培地(組成は上記1.を参照)に植菌した。
2.4×108 protoplast / mlプロトプラスト溶液の調製およびRNP溶液の調製までは、上記1.と同様の操作を行った。ただしsgRNAはpyrGの代わりにwA遺伝子破壊用のものを用いた。wA遺伝子破壊用sgRNAは、プロトスペーサー配列としてwA遺伝子エクソン3内のGAAAGATGCCTCGCAGCTTAT(配列番号10)を採用し、この配列の3'側にGUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCUUUU(配列番号2)を連結したものを用いた。wA遺伝子破壊用sgRNAの全長配列を配列番号11に示す。
調製したwA遺伝子破壊用sgRNAのRNP溶液5μlに上記のpyrGRIB40溶液1μl(DNA量として6μg)を加え、数回ピペッティングして混合した後、氷上で15min放置した。この混合溶液をRNP+DNA溶液とする。RNP+DNA溶液6μlをプロトプラスト溶液50μlに加えたのち、上記1.と同様の方法で反応を行い、0.8MのNaClを添加したウラシル不含軟寒天培地(Glucose 20g, NaNO3 3g, KCl 0.5g, KH2PO4 1g, MgSO4・7H2O 0.5g, FeSO4・7H2O 0.02g, pH6.5) に200μlを植菌し転倒混和の後、0.8MのNaClを添加したウラシル不含寒天培地のプレートに重層した。その後、コロニーを形成するまで30℃で培養した。
その結果、RNPとpyrGRIB40を加えたプレートから平均25コロニーの白色の候補株と平均1.7コロニーの緑色の候補株を得た。またpyrGRIB40のみを加えたプレートからは平均12.3コロニーの緑色の候補株のみを得た(図4, 表4)。図4中、黒線で囲んだコロニーが緑色のコロニーであり、白線で囲んだコロニーが白色のコロニーである。
Figure 0007141648000004
(3) PCRによるノックイン候補株の解析
PCRのテンプレートにするDNA溶液は、上記1.と同様の方法で得た。ただし培地は-pyrG選択液体培地の代わりにウラシル不含液体培地を用いた。まずノックインの有無を調べるため、標的箇所の前後200-400bpの範囲に設計したプライマーwAseqF, wAseqR(図5、表5)を用いてPCR反応を行った。PCRにはTaq Hot Start Version [TaKaRa]を用いた。
Figure 0007141648000005
Figure 0007141648000006
上記反応液50μlを0.2ml PCRチューブ内で混合してDNA Thermal Cyclerにセットし、以下のような温度設定によりPCRを行った。
[94℃、10秒]×1サイクル
[98℃、10秒-66.2℃、30秒-68℃、1分45秒]×30サイクル
[68℃、2分-4℃、O/N]×1サイクル
得られたPCR反応液を0.8% AgaroseS [ニッポンジーン]/TAE ゲルで100V, 25min電気泳動した。その結果、緑色の株では約600bp前後の、白色の株では約3600bp前後の増幅が見られた(図6)。なお、図6中、番号を黒丸で囲んだコロニーは緑色コロニー、白丸で囲んだコロニーは白色コロニーである。白色コロニーでは、wA遺伝子内の標的部位にpyrG DNAフラグメントpyrGRIB40がwA遺伝子と同じ方向又は逆方向にノックインしていることが示唆される(図7)。
次にpyrGRIB40の向きを調べるため、pyrGRIB40内に設計したプライマー1bpCheckとノックインの確認で用いたプライマーwAseqF, wAseqR(プライマーの配列は表5を参照)をそれぞれ組み合わせてPCRを行った(図7)。反応液は上記と同じ組成で、温度設定のみ下記のように変更してPCRを行った。尚テンプレートには白色のコロニーで、かつ、wAseqF, wAseqRプライマーでのPCRでシングルバンドが得られた3番と7番を用いた。
[94℃、10秒]×1サイクル
[98℃、10秒-66.2℃、30秒-68℃、1分45秒]×30サイクル
[68℃、2分-4℃、O/N]×1サイクル
得られたPCR反応液を上記と同様の条件で電気泳動した結果、3番はwAseqFと1bpCheckプライマーの組み合わせでのみ増幅が見られ、7番は1bpCheckとwAseqRプライマーの組み合わせでのみ増幅が見られた(図8)。従って、3番にはwA遺伝子と同じ方向(Forward : Fwd.)でpyrGRIB40がノックインされており、7番にはwA遺伝子と逆方向(Reverse : Rev)にpyrGRIB40がノックインされていることが考えられる。
3.Cas9タンパク質等の直接導入法を用いた糸状菌類の共ゲノム編集
<実験方法>
(1) 菌株・酵素・ガイドRNA
菌株はAspergillus oryzae RIB40を使用した。Cas9タンパク質は上記1.及び2.と同じものを用いた。ガイドRNAは、上記1.で用いたpyrG遺伝子破壊用sgRNA、及び上記2.で用いたwA遺伝子破壊用sgRNAを用いた。
(2) 形質転換法を用いたタンパク質等の直接導入によるゲノム編集
上記1.と同様にして、RIB40株の分生子懸濁液を麹菌酵素生産培地に植菌し、2.4×108 protoplast/mlプロトプラスト溶液を調製した。RNP溶液として、pyrG用sgRNA(6.75μg/2μl)とCas9p(12μg/3μl)とのRNP溶液(pyrG-RNP溶液)、及びwA用sgRNA(6.75μg/2μl)とCas9p(12μg/3μl)とのRNP溶液(wA-RNP溶液)を調製した。それぞれ上記1.と同様の手順で調製した。Solution1に懸濁したプロトプラスト溶液50μlにpyrG-RNP溶液及びwA-RNP溶液をそれぞれ5μlずつ加え、上記1.と同様の方法で反応を行った(RNP-プロトプラスト溶液)。このRNP-プロトプラスト溶液200μlを-pyrG選択軟寒天培地に植菌し、転倒混和の後、-pyrG選択寒天培地のプレートに重層した。その後、コロニーを形成するまで30℃で培養した。
<結果>
pyrG-RNP及びwA-RNPをプロトプラストに直接導入した結果、図9に示す通り、pyrG遺伝子だけでなくwA遺伝子も破壊されたと考えられるコロニー(白色コロニー)が出現した。緑色のコロニーは、pyrG遺伝子が破壊され5-FOA耐性となったが、wA遺伝子は破壊されなかったコロニーと考えられる。
共ゲノム編集により5-FOA耐性となった株を再度5-FOA存在下で培養した。白色となったコロニー(図10のNo. 4, 11, 16, 17)について、表1に記載のプライマーpyrGfullA、pyrGfullB、及び下記表7に記載のwAleftA-F、wArightD-Rを用いて、標的部位を含むwA遺伝子領域をPCRにより増幅したところ、図10に示した通り、3株でバンドサイズが変わらなかった。No.11ではwA遺伝子中に大きな欠失が生じていると考えられる。バンドサイズが変わらなかった3株についてシーケンス解析(シーケンスプライマーには表5に記載のwAseqF, wAseqRを使用)を行ったところ、すべて1塩基の欠失が確認された。
Figure 0007141648000007

Claims (14)

  1. 第1の標的遺伝子に対する第1のゲノム編集タンパク質複合体と、第2の標的遺伝子に対する第2のゲノム編集タンパク質複合体を、アスペルギルス属菌の細胞に直接導入する工程を含む、アスペルギルス属菌ゲノム上の複数の遺伝子を編集する方法であって、第1及び第2のゲノム編集タンパク質複合体のそれぞれが、Cas9タンパク質とガイドRNAとの複合体、ニッカーゼ改変型Cas9タンパク質と一対のガイドRNAそれぞれとの複合体、及びデアミナーゼと連結されたニッカーゼ改変型若しくはヌル変異型Cas9タンパク質とガイドRNAとの複合体から選択される複合体であり、プロトプラスト化したアスペルギルス属菌細胞10 6 個に対して10μg以上の前記各複合体を添加する、方法
  2. 第1の標的遺伝子に対する第1のゲノム編集タンパク質複合体と、第2の標的遺伝子に対する第2のゲノム編集タンパク質複合体を、アスペルギルス属菌の細胞に直接導入する工程、及び第1及び第2の標的遺伝子が編集されたアスペルギルス属菌細胞を選択し回収する工程を含む、ゲノム上の複数の遺伝子が編集されたアスペルギルス属菌株の作出方法であって、第1及び第2のゲノム編集タンパク質複合体のそれぞれが、Cas9タンパク質とガイドRNAとの複合体、ニッカーゼ改変型Cas9タンパク質と一対のガイドRNAそれぞれとの複合体、及びデアミナーゼと連結されたニッカーゼ改変型若しくはヌル変異型Cas9タンパク質とガイドRNAとの複合体から選択される複合体であり、プロトプラスト化したアスペルギルス属菌細胞10 6 個に対して10μg以上の前記各複合体を添加する、方法
  3. Cas9が、ストレプトコッカス・ピオゲネス由来のCas9である、請求項1又は2記載の方法。
  4. ガイドRNAは、標的遺伝子領域中に存在するNGG配列の上流側隣接配列を標的配列とし、該標的配列と同一の配列(ただしTはUとする)の3'側にcrRNA及びtracrRNAのキメラ配列が連結された構造の一本鎖RNAである、請求項記載の方法。
  5. アスペルギルス属菌が麹菌である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 麹菌がアスペルギルス・オリゼである、請求項記載の方法。
  7. 前記第1及び第2の標的遺伝子の少なくともいずれかが、薬剤感受性遺伝子、又は代謝系アナログ物質感受性遺伝子である、請求項のいずれか1項に記載の方法。
  8. 第1の標的遺伝子に対する第1のゲノム編集タンパク質分子又は複合体と、第2の標的遺伝子に対する第2のゲノム編集タンパク質分子又は複合体を、アスペルギルス属菌の細胞に直接導入する工程、及び第1及び第2の標的遺伝子が編集されたアスペルギルス属菌細胞を選択し回収する工程を含む、ゲノム上の複数の遺伝子が編集されたアスペルギルス属菌株の作出方法であって、前記第1及び第2標的遺伝子の一方のみがポジティブセレクションできる遺伝子である、方法。
  9. 第1及び第2のゲノム編集タンパク質分子又は複合体のそれぞれが、Cas9タンパク質とガイドRNAとの複合体、Cpf1タンパク質とガイドRNAとの複合体、PPR-DNA切断ドメイン融合タンパク質、ニッカーゼ改変型Cas9タンパク質と一対のガイドRNAそれぞれとの複合体、デアミナーゼと連結されたニッカーゼ改変型又はヌル変異型Cas9タンパク質とガイドRNAとの複合体、TALENタンパク質、又はZFNタンパク質から選択される、請求項8記載の方法。
  10. Cas9が、ストレプトコッカス・ピオゲネス由来のCas9である、請求項9記載の方法。
  11. ガイドRNAは、標的遺伝子領域中に存在するNGG配列の上流側隣接配列を標的配列とし、該標的配列と同一の配列(ただしTはUとする)の3'側にcrRNA及びtracrRNAのキメラ配列が連結された構造の一本鎖RNAである、請求項10記載の方法。
  12. アスペルギルス属菌が麹菌である、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 麹菌がアスペルギルス・オリゼである、請求項12記載の方法。
  14. ポジティブセレクションできる遺伝子が、薬剤感受性遺伝子、又は代謝系アナログ物質感受性遺伝子である、請求項8~13のいずれか1項に記載の方法。
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