JP7139951B2 - インスリン産生細胞分化誘導促進剤 - Google Patents

インスリン産生細胞分化誘導促進剤 Download PDF

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Description

本発明は、多能性幹細胞のインスリン産生細胞への分化を促進する、分化誘導促進剤、分化誘導用培地および分化誘導方法に関する。
膵臓は、内分泌腺(内分泌細胞)と外分泌線(外分泌細胞)を有し、両方で重要な役割を担っている器官である。外分泌細胞は主に膵リパーゼ、トリプシン、エラスターゼ、膵アミラーゼなどの消化酵素を分泌する。内分泌細胞は膵ホルモンを分泌し、膵α細胞からグルカゴン、膵β細胞からインスリン、膵δ細胞からソマトスタチン、PP細胞から膵ポリペプチド(PP)が分泌されることが知られている。
糖尿病は、インスリンが不足したりその働きが失われたりすることによって発症する疾患であり、一度発症すると根治するのが難しい疾患である。糖尿病は、I型糖尿病(インスリン依存性糖尿病)とII型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)の大きく2つのタイプに分類することができる。
糖尿病(特にI型糖尿病)について試みられている治療法の一つに、患者のインスリン産生細胞自体を再生し移植する方法がある。この方法によれば患者自身の体内でインスリンを作り出すことができる。また、患者由来の細胞であることから拒絶反応の問題が解消される等、安全性の面でも有利である。
インスリン産生細胞を得る方法としては、ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞から分化させる方法、患者の膵の組織幹細胞から分化させる方法等が知られている。例えば、Kumeらは幹細胞からインスリン産生細胞を分化誘導する方法(特許文献1)を、ArakawaらはiPS細胞からインスリン産生細胞を分化誘導する方法(非特許文献1)をそれぞれ報告している。しかしながらよりインスリン産生効率が高い、機能的なインスリン産生細胞を得る方法の開発が依然として求められている。
WO2015/178397
Arakawa A., et al., Journal of Analytical & Bioanalytical Techniques. 2016;7(1)
本発明は、iPS細胞等の多能性幹細胞をインスリン産生細胞に分化誘導する系において、より効率よくインスリン産生細胞へと分化誘導し得る方法・手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、多能性幹細胞、特にiPS細胞からインスリン産生細胞を分化誘導する際に特定のチロシンキナーゼ阻害剤で処理することにより、未処理の場合に比べてインスリン産生細胞への分化が亢進することを見出した。iPS細胞からインスリン産生細胞への分化誘導系としては、iPS細胞→胚体内内胚葉細胞(definitive endoderm (DE) cell:ステージ1(S1))→原腸管細胞(primitive gut (PG) cell:ステージ2(S2))→膵前駆細胞(pancreatic progenitor (PP) cell:ステージ3(S3))→内分泌前駆細胞(endocrine progenitor (EP) cell:ステージ4(S4))→インスリン産生細胞(ステージ5(S5))という5段階の発生過程を模倣した系が知られているが、ステージ3以降の細胞に本発明の剤を適用することでインスリン産生細胞への分化誘導効率を向上することが可能となり本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]ABL1チロシンキナーゼ阻害作用を有する化合物を含む、多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導促進剤。
[2]該化合物が、イマチニブ、ニロチニブ及びダサチニブからなる群より選択される少なくとも1種である、上記[1]記載の剤。
[3]多能性幹細胞がiPS細胞である、上記[1]又は[2]記載の剤。
[1-1]多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導に使用するためのABL1チロシンキナーゼ阻害作用を有する化合物。
[1-2]イマチニブ、ニロチニブ及びダサチニブからなる群より選択される少なくとも1種である、上記[1-1]記載の化合物。
[1-3]多能性幹細胞がiPS細胞である、上記[1-1]又は[1-2]記載の化合物。
[4]多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進するための方法であって、分化誘導開始後、原腸管細胞マーカーの発現が確認された細胞をABL1チロシンキナーゼ阻害作用を有する化合物で処理することを含む、方法。
[5]該化合物が、イマチニブ、ニロチニブ及びダサチニブからなる群より選択される少なくとも1種である、上記[4]記載の方法。
[6]多能性幹細胞がiPS細胞である、上記[4]又は[5]記載の方法。
[7]原腸管細胞マーカーが、FOXA2、HNF1b及びHNF4aからなる群より選択される少なくとも1種である、上記[4]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]ABL1チロシンキナーゼ阻害作用を有する化合物を含む、多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導用の培地添加剤。
[9]該化合物が、イマチニブ、ニロチニブ及びダサチニブからなる群より選択される少なくとも1種である、上記[8]記載の添加剤。
[10]多能性幹細胞がiPS細胞である、上記[8]又は[9]記載の添加剤。
[8-1]多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導用の培地に添加するためのABL1チロシンキナーゼ阻害作用を有する化合物。
[8-2]イマチニブ、ニロチニブ及びダサチニブからなる群より選択される少なくとも1種である、上記[8-1]記載の化合物。
[8-3]多能性幹細胞がiPS細胞である、上記[8-1]又は[8-2]記載の化合物。
[11]上記[8]~[10]のいずれかに記載の培地添加剤を添加してなる、インスリン産生細胞への分化誘導用の培地。
本発明によれば、iPS細胞等の多能性幹細胞をインスリン産生細胞に分化誘導する系において、より効率よくインスリン産生細胞へと分化誘導することが可能となる。よって、より多くのインスリン産生細胞を簡便に得ることができ、研究や医療等に用いるために該細胞を大量に供給することが可能となる。
図1は、iPS細胞からインスリン産生細胞への分化誘導における、イマチニブ(imatinib)の分化誘導促進効果を示したグラフである。インスリン産生細胞への分化誘導の程度を、インスリン遺伝子発現を指標にして測定した。 図2は、iPS細胞からインスリン産生細胞への分化誘導における、ダサチニブ(dasatinib)の分化誘導促進効果を示したグラフである。インスリン産生細胞への分化誘導の程度を、インスリン遺伝子発現を指標にして測定した。 図3は、iPS細胞からインスリン産生細胞への分化誘導における、ニロチニブ(nilotinib)の分化誘導促進効果を示したグラフである。インスリン産生細胞への分化誘導の程度を、インスリン遺伝子発現を指標にして測定した。 図4は、iPS細胞からインスリン産生細胞への分化誘導における、ソラフェニブ(sorafenib)の分化誘導促進効果を示したグラフである。インスリン産生細胞への分化誘導の程度を、インスリン遺伝子発現を指標にして測定した。 図5は、iPS細胞からインスリン産生細胞への分化誘導における、ニロチニブ(nilotinib)の添加ステージを変えた際の分化誘導促進効果を示したグラフである。インスリン産生細胞への分化誘導の程度を、培養上清中のC-ペプチド量を指標にして測定した。
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味を有する。
「多能性幹細胞」とは、自己複製能及び分化/増殖能を有し、且つ生体を構成する全ての組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味する。多能性幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、ストレスや細胞刺激によって誘導・選抜される多能性幹細胞等を挙げることが出来る。体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立した幹細胞も、多能性幹細胞としてまた好ましい(Nature, 385, 810 (1997); Science, 280, 1256 (1998); Nature Biotechnology, 17, 456 (1999); Nature, 394, 369 (1998); Nature Genetics, 22, 127 (1999); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 14984 (1999); Nature Genetics, 24, 109 (2000))。本発明において、多能性幹細胞として好ましいのはiPS細胞である。iPS細胞であることの確認は、iPS細胞の未分化な性質に起因する未分化マーカーを指標にして行うことができる。未分化マーカーとしては、アルカリホスファターゼ、Oct3/4、Sox2、Nanog、ERas、Esgl等が挙げられる。これら未分化マーカーを検出する方法としては、mRNAを検出する方法(プライマーやプローブの利用)、免疫学的検出法(抗体や標識の利用)等が挙げられる。
「インスリン産生細胞」とはインスリンを産生する能力を有する細胞を意味する。該インスリン産生細胞は常にインスリンを産生している必要はなく、インスリンの産生能力を有していればよい。従って産生されるインスリン量は特に限定されない。通常インスリン産生細胞は膵β細胞と同義である。インスリン産生細胞であることの確認は、そのインスリン産生能を指標にして行うことができる。細胞のインスリン産生能を検出する方法として、mRNAを検出する方法(プライマーやプローブの利用)、免疫学的検出法(抗体や標識の利用)等が挙げられる。また、インスリン前駆体(プロインスリン)の構成成分であるC-ペプチドの分泌量を測定することによっても細胞のインスリン産生能を評価することができる。
1.多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導促進剤
Abelson murine leukemia viral oncogene homolog 1(以下、ABL1とも称する)は、タンパク質のチロシン残基を特異的にリン酸化する酵素であるチロシンキナーゼの1種である。慢性骨髄性白血病(CML)の多くの場合、9番染色体と22番染色体が相互転座を起こすことによってBCR遺伝子とABL1遺伝子が結合し、BCR-ABLという融合遺伝子が形成される。ABL1タンパクのチロシンキナーゼ活性は、恒常的に活性化されて造血細胞の腫瘍化を惹起する。従って、ABL1阻害作用を有する化合物は、CMLの有効な治療薬となる。
本発明はABL1チロシンキナーゼ阻害作用を有する化合物(以下、ABL1阻害剤とも称する)を含む、多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導促進剤(以下、本発明の分化誘導促進剤とも称する)を提供する。
本発明において用いられるABL1阻害剤としてはABL1阻害作用を有していれば特に限定されないが、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ等が挙げられる。好ましくは下記構造で示されるイマチニブ、ニロチニブ及びダサチニブである(Henkes, M., H. et al., Ther Clin Risk Manag, 2008. 4(1): p. 163-87.)。
Figure 0007139951000001
本発明において用いられるABL1阻害剤は遊離体のみならず、塩の形態をも意味する。塩の形態には酸付加塩や塩基との塩等を挙げることができ、細胞毒性を示さず、医薬品として許容される塩であることが好ましい。そのような塩を形成する酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素、硫酸、リン酸等の無機酸、酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、メシル酸又はモノメチル硫酸等の有機酸が挙げられ、また、そのような塩を形成する塩基としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム等の金属の水酸化物あるいは炭酸化物や、アンモニア等の無機塩基、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基が挙げられる。上記塩は水和物(含水塩)であってもよい。
ABL1阻害剤(その塩を含む)は商業的に入手可能であり、また、既知文献に従って調製することもできる。
2.多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する方法
本発明はABL1阻害剤で多能性幹細胞を処理する工程を含む、多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する方法(以下、本発明の分化誘導促進方法とも称する)を提供する。
多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化の過程については種々の報告が為されているが、一般的に、幾つかの分化段階(ステージ)で構成される。各ステージにおける分化誘導は、所望される分化細胞が得られる限り特に限定されず、既報に従って行うことができる。例えば、iPS細胞からインスリン産生細胞への分化誘導系としては、実施例にて後述するように、iPS細胞→胚体内内胚葉細胞(DE cell:S1)→原腸管細胞(PG cell:S2)→膵前駆細胞(PP cell:S3)→内分泌前駆細胞(EP cell:S4)→インスリン産生細胞(S5)という5段階の発生過程を模倣した系が知られている。主な分化誘導法としては、WO 2011/081222 A1;WO 2015/020113 Α1;Russ HA, et al., The EMBO Journal (2015) 34: 1759-1772;Nostro MC, et al., Stem Cell Reports 2015, 4: 591-604;Hannan NR, et al., Stem Cell Reports. 2013 1:293-306 ;Takeuchi H, et al., SCIENTIFIC REPORTS 2014 4: 4488;Pagliuca FW, et al., Cell. 2014; 159(2):428-39等に記載される方法も挙げられる。以下、かかる分化誘導系を用いて本発明の分化誘導促進方法を説明するが、他の分化誘導系に対しても本発明の分化誘導促進方法を用いることができる。
本発明において、ABL1阻害剤はインスリン産生細胞への分化誘導が促進される限りどの段階で用いてもよいが、好ましくはステージ3~5の間、より好ましくはステージ3~4の間、特に好ましくは少なくともステージ3の間で用いる。すなわち、ステージ2を経て原腸管細胞へと分化した細胞に対してABL1阻害剤を適用することが好ましい。iPS細胞が内胚葉細胞を経て原腸管細胞へと分化したか否かの確認は、原腸管細胞マーカーの発現を指標にして行うことができる。原腸管細胞マーカーとは、原腸管細胞特異的に発現するタンパク質や遺伝子であり、それらの発現の変動を、遺伝子レベルあるいはタンパク質レベルで評価する。上記細胞マーカーとして、FOXA2、HNF1b、HNF4a等が挙げられる。
ABL1阻害剤はステージ3を経て膵前駆細胞へと分化した細胞に対しても適用することができる。膵前駆細胞へと分化したか否かの確認は、膵前駆細胞マーカーの発現を指標にして行うことができる。膵前駆細胞マーカーとは、膵前駆細胞特異的に発現するタンパク質や遺伝子であり、それらの発現の変動を、遺伝子レベルあるいはタンパク質レベルで評価する。上記細胞マーカーとして、PDX1、HNF6、SOX9等が挙げられる。
ABL1阻害剤はステージ4を経て内分泌前駆細胞へと分化した細胞に対しても適用することができる。内分泌前駆細胞へと分化したか否かの確認は、内分泌前駆細胞マーカーの発現を指標にして行うことができる。内分泌前駆細胞マーカーとは、内分泌前駆細胞特異的に発現するタンパク質や遺伝子であり、それらの発現の変動を遺伝子レベルあるいはタンパク質レベルで評価する。上記細胞マーカーとして、NGN3、PAX4、NEUROD1等が挙げられる。
各細胞マーカーの発現の変動を遺伝子レベルあるいはタンパク質レベルで評価する方法として、mRNAを検出する方法(プライマーやプローブの利用)、免疫学的検出法(抗体や標識の利用)等が挙げられる。
本発明では、多能性幹細胞、好ましくは分化誘導開始後、原腸管細胞へと分化した段階にある細胞をABL1阻害剤で処理することを特徴とする。ABL1阻害剤で細胞を処理する方法は、インスリン産生細胞への分化誘導が促進される限り特に限定されないが、通常、細胞を培養している培地中にABL1阻害剤を添加するか、あるいはABL1阻害剤を含有する培地に培地交換することによって行われる。処理期間(培養期間)中、必要に応じてABL1阻害剤を追加するか、又は新しいABL1阻害剤を含有する培地に培地交換する。培地中のABL1阻害剤の濃度は、用いるABL1阻害剤の種類によって異なり、適宜設定されるが、通常、0.01~10000nM、好ましくは0.05~5000nM、より好ましくは0.1~3000nMである。イマチニブの場合、300nM以上、好ましくは1000nM以上、より好ましくは3000nM程度であり、ダサチニブの場合、0.1nM以上、好ましくは0.5nM以上、より好ましくは1nM程度であり、ニロチニブの場合、10nM以上、好ましくは30nM以上、より好ましくは100nM程度である。
本発明の分化誘導促進方法で使用する培地は、多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導が促進される限りABL1阻害剤を含むこと以外は特に限定されないが、通常、その分化段階(ステージ)によって異なる。例えば、各ステージでは、基礎培地に以下の因子が添加された培地が用いられる。各因子(化合物)は市販されており入手可能であるが、市販品として入手できない場合には、既知文献に従って調製することもできる。
S1:アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤(例、アクチビン、Nodal、Myostatin、好ましくはアクチビンA)及びGSK3阻害剤(例、CHIR99021、SB216763、SB415286、CHIR99021)、その後アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤のみ(S1(-C))
S2:ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤(例、シクロパミン、ジェルビン、SANT-1、ヘッジホッグ経路遮断抗体、好ましくはSANT-1)及びFGF(例、FGF-1、FGF-2(bFGF)、FGF-3、FGF-4、FGF-5、FGF-6、FGF-7、FGF-8、FGF-9、FGF-10、FGF-11、FGF-12、FGF-13、FGF-14、FGF-15、FGF-16、FGF-17、FGF-18、FGF-19、FGF-20、FGF-21、FGF-22、FGF-23、好ましくは、FGF-10)
S3:レチノイン酸受容体アゴニスト(例、レチノイン酸、Am80、AM580、TTNPB、AC55649、好ましくはレチノイン酸)、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤(例、S2と同様、好ましくはSANT-1)及びBMPシグナル伝達阻害剤(例、Noggin、Chordin、Follistatin、Cerberus、Gremlin、Dorsomorphin、LDN-193189、好ましくはLDN-193189)(好ましくはさらにTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤(例、SB-431542、SB-505124、SB-525334、A-83-01、GW6604、LY580276、ALK5阻害剤、TGFβRIキナーゼ阻害剤VIII、SD-208、好ましくはSB-431542)を用いる)
S4:TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤(例、S3と同様、好ましくはALK5阻害剤)及びBMPシグナル伝達阻害剤(例、S3と同様、好ましくはLDN-193189)(好ましくはさらにプロテインキナーゼC活性化因子(例、ILV、(2S,5S)-(E,E)-8-(5-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-2,4-ペンタジエノイルアミノ)ベンゾラクタム、ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート、ホルボール-12,13-ジブチレート、好ましくはILV)を用いる)
S5:ホスホジエステラーゼ阻害剤(例、IBMX、ジブチルcAMP、好ましくはIBMX)(好ましくはさらに、GLP-1受容体アゴニスト(例、GLP-1、GLP-1MR剤、NN-2211、AC-2993(エキセンジン-4)、BIM-51077、Aib(8,35)hGLP-1(7,37)NH2、CJC-1131、好ましくはエキセンジン-4)、ニコチンアミド及びアデニル酸シクラーゼ活性化因子(例、ファルスコリン)のいずれか1以上、より好ましくは2以上、特に好ましくは全てを用いる)
本発明において用いる基礎培地には、自体公知のものを用いることができ、多能性幹細胞の増殖を阻害しない限り特に限定されないが、例えばDMEM、DMEMHG、EMEM、IMDM(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)、GMEM(Glasgow's MEM)、RPMI-1640、α-MEM、Ham's Medium F-12、Ham's Medium F-10、Ham's Medium F12K、Medium 199、ATCC-CRCM30、DM-160、DM-201、BME、Fischer、McCoy's 5A、Leibovitz's L-15、RITC80-7、MCDB105、MCDB107、MCDB131、MCDB153、MCDB201、NCTC109、NCTC135、Waymouth's MB752/1、CMRL-1066、Williams' medium E、Brinster's BMOC-3 Medium、E8 medium(Nature Methods, 2011, 8, 424-429)、ReproFF2培地(リプロセル社)、StemFit(登録商標) AK培地(味の素)及びこれらの混合培地等が挙げられる。また、多能性幹細胞培養用に改変された培地や、上記基礎培地と他の培地との混合物等を用いてもよい。
本発明において用いる培地には、自体公知の添加物を含むことができる。添加物としては、幹細胞の増殖を阻害するものでない限り特に限定されないが、例えば成長因子(例えばインスリン等)、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ポリアミン類(例えばプトレシン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、アミノ酸(例えばL-グルタミン等)、還元剤(例えば2-メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコルビン酸、d-ビオチン等)、ステロイド(例えばβ-エストラジオール、プロゲステロン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)等が挙げられる。また、従来から幹細胞の培養に用いられてきた添加物も適宜含むことができる。添加物は、それぞれ自体公知の濃度範囲内で含まれることが好ましい。
本発明において用いる培地には、血清が含まれていてもよい。血清としては、動物由来の血清であれば、幹細胞の増殖を阻害するものでない限り特に限定されないが、好ましくは哺乳動物由来の血清(例えばウシ胎仔血清、ヒト血清等)である。血清の濃度は、自体公知の濃度範囲内であればよい。ただし、血清成分にはヒトES細胞の分化因子等も含まれていることが知られており、また血清のロット間差により培養結果にばらつきが生じる可能性もあることから、血清の含有量は低いほど好ましく、血清を含まないことが最も好ましい。更に、培養後の幹細胞を医療目的で使用する場合、異種由来成分は血液媒介病原菌の感染源や異種抗原となる可能性があるため、血清を含まないことが好ましい。血清を含まない場合、血清の代替添加物(例えばKnockout Serum Replacement(KSR)(Invitrogen)、Chemically-defined Lipid concentrated(Gibco)、Glutamax(Gibco)、B-27サプリメント等)を用いてもよい。
多能性幹細胞、好ましくは分化誘導開始後、原腸管細胞へと分化した段階にある細胞をABL1阻害剤存在下で培養することによりインスリン産生細胞へ効率よく分化誘導することができる。該細胞の培養に用いられる培養器は、多能性幹細胞の培養及びインスリン産生細胞への分化誘導が可能なものであれば特に限定されないが、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、及びローラーボトルが挙げられ得る。
培養器は、細胞接着性であっても細胞非接着性であってもよく、目的に応じて適宜選ばれる。好ましくは細胞接着性の培養器である。細胞接着性の培養器は、培養器の表面の細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス(ECM)等の任意の細胞支持用基質でコーティングされたものであり得る。多能性幹細胞の足場となる蛋白質としてラミニン511-E8、ラミニン521、ビトロネクチン、フィブロネクチン、マトリゲル等が知られている。
その他の培養条件は、適宜設定できる。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30~40℃、好ましくは約37℃であり得る。CO濃度は、約1~10%、好ましくは約2~5%であり得る。酸素分圧は、1~10%であり得る。
本発明は、本発明の分化誘導促進方法により得られるインスリン産生細胞組成物をも提供する。「細胞組成物」とは細胞(本発明においてはインスリン産生細胞)および少なくとも別の成分を含む複合材料を意味する。「別の成分」としては、培養液等の細胞培養の際に必要な構成要素、医薬上許容され得る担体等のインスリン産生細胞を製剤として用いる場合に必要な構成要素等が挙げられるがこれらに限定されない。さらに、インスリン産生細胞の機能に悪影響を及ぼさない限り、インスリン産生細胞以外の細胞を含んでいてもよいが、本発明の細胞組成物は、例えば、細胞組成物中の10%、好ましくは20%、より好ましくは30%、さらに好ましくは40%、いっそう好ましくは50%がインスリン産生細胞である。本発明の分化誘導促進方法により得られるインスリン産生細胞組成物は、ABL1阻害剤非存在下で分化誘導した場合に比べて細胞組成物中のインスリン産生細胞が占める割合が高い。インスリン産生細胞であることの確認は、上述の通り、そのインスリン産生能を指標にして行うことができる。
本発明の分化誘導促進法によって得られたインスリン産生細胞は、細胞医療等の医療用に好適に使用し得る。
当該細胞医療の対象となる動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等が挙げられ、好ましくはヒトである。
上記細胞医療における細胞の投与量および投与方法は、所望の効果が得られるのであれば特に制限されず、治療対象となる疾患や症状の程度、投与対象となる動物等に応じて適宜設定することができる。
3.多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導用の培地添加剤
本発明はABL1阻害剤を含む多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導用の培地添加剤(以下、本発明の培地添加剤とも称する)を提供する。本発明の培地添加剤は、培地への添加用であるが、簡便には、上記1.分化誘導促進剤を用いることができる。
本発明の培地添加剤は、多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導の系において、その培地中に添加して用いることができる。あるいは本発明の培地添加剤を添加してなる分化誘導用の培地を調製し、該培地を用いて培地交換することによって多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する。
本発明の培地添加剤の培地中への添加は、用いるABL1阻害剤の種類によっても異なり、適宜設定されるが、通常、培地中のABL1阻害剤の最終濃度が0.01~10000nM、好ましくは0.05~5000nM、より好ましくは0.1~3000nMとなるように行われる。該濃度は、ABL1阻害剤がイマチニブの場合、300nM以上、好ましくは1000nM以上、より好ましくは3000nM程度であり、ダサチニブの場合、0.1nM以上、好ましくは0.5nM以上、より好ましくは1nM程度であり、ニロチニブの場合、10nM以上、好ましくは30nM以上、より好ましくは100nM程度である。
本発明の培地添加剤は、有効成分としてABL1阻害剤を含んでいれば、その他の成分を含んでいても含んでいなくてもよい。取扱いのし易さ、保存安定性等の観点から、加えて培地に添加して用いる点において各種添加剤が含まれていてもよい。各種添加剤としては自体公知のものが用いられるが培地構成成分の1乃至2種以上とともに製剤化することもできる。
本発明の培地添加剤の剤型は特に限定されず、溶液状(懸濁液、乳液等の剤型を含む)、固形状(粉末状等の剤型を含む)、半固形状(ゲル状等の剤型を含む)であり得る。溶液状の本発明の培地添加剤は、液体培地への添加が容易であり好ましい。固形状、半固形状の本発明の培地添加剤は取扱いのし易さ、保存安定性等の観点から好ましい。固形状、半固形状の本発明の培地添加剤はそのまま培地に添加しても、必要に応じ培地への添加前に溶解してから用いることもできる。
4.多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導用の培地
本発明はABL1阻害剤を含む多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導用の培地(以下、本発明の分化誘導用培地とも称する)を提供する。
本発明の分化誘導用培地の形状は特に限定されず、溶液状(懸濁液状、乳液状等を含む)、固形状(粉末状等を含む)、半固形状(ゲル状等を含む)であり得る。溶液状の本発明の分化誘導用培地は、ABL1阻害剤に加え、所望される培地構成成分を添加してなる溶液状の培地であり、そのまま細胞の培養に用いることができる。固形状あるいは半固形状の本発明の分化誘導培地は、ABL1阻害剤に加え、所望される培地構成成分(1乃至2以上、好ましくは全て)を含み、用時精製水等に溶解し、必要に応じてpH調整を行って細胞の培養に用いることができる。いずれの態様も本発明の分化誘導用培地の範疇である。
本発明の分化誘導用培地は、通常の分化誘導用培地にABL1阻害剤を添加してなる培地である。また、上記3.分化誘導用培地添加剤を添加してなる培地であってもよい。
ここで「通常の分化誘導用培地」とは、多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導に使用し得る培地を意味し、当分野で通常用いられるものを利用することができる。多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導は、幾つかのステージからなり、通常、そのステージごとに使用する培地が異なる。本発明の分化誘導用の培地はいずれのステージにおいても使用することができるが、好ましくは一定の段階まで分化誘導されたステージの細胞の分化誘導用の培地として用いる。「一定の段階まで分化誘導されたステージの細胞」としては、上記「2.多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する方法」で示した分化誘導系であれば、ステージ2を経て得られた細胞、即ち原腸管細胞マーカー(FOXA2、HNF1b、HNF4a等)の発現が確認された細胞が挙げられる。該細胞は、ステージ3、ステージ4及びステージ5を経てインスリン産生細胞へと分化誘導される。
ステージ3で用いられる培地の一例として、基礎培地に上記「2.多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する方法」のS3で用いた分化誘導因子を添加した培地が挙げられる。
ステージ4で用いられる培地の一例として、基礎培地に上記「2.多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する方法」のS4で用いた分化誘導因子を添加した培地が挙げられる。
ステージ5で用いられる培地の一例として、基礎培地に上記「2.多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する方法」のS5で用いた分化誘導因子を添加した培地が挙げられる。
基礎培地としては、上記「2.多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する方法」で例示したものを好適に用いることができる。
各ステージで用いられる培地にABL1阻害剤が最終濃度が0.01~10000nM、好ましくは0.05~5000nM、より好ましくは0.1~3000nMとなるように添加される。該濃度は、ABL1阻害剤がイマチニブの場合、300nM以上、好ましくは1000nM以上、より好ましくは3000nM程度であり、ダサチニブの場合、0.1nM以上、好ましくは0.5nM以上、より好ましくは1nM程度であり、ニロチニブの場合、10nM以上、好ましくは30nM以上、より好ましくは100nM程度である。
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1:チロシンキナーゼ阻害剤(イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ソラフェニブ)による分化誘導促進効果の検討
iPS細胞は1231A3株を用いた。培養は37℃、5%CO条件下で行った。維持培養にはStemFit(登録商標) AK培地(味の素)を用いた。細胞の剥離にはAccutase(ナカライテスク)を用い、Laminine-511 E8(ニッピ)をコートした6ウェルプレートに13,000細胞/ウェルの濃度で細胞を播種し、7日毎に継代した。
iPS細胞からのインスリン産生細胞誘導方法は、Arakawaら(Arakawa A, et al., Journal of Analytical & Bioanalytical Techniques. 2016;7(1).)のプロトコルを用いて実施した。Laminin-511 E8でコートした24ウェルプレートに1.5×105細胞/ウェルの濃度で細胞を播種し、翌日から下記の分化誘導培地で括弧内の日数ずつステージ(S1-S5)毎に異なる培地で培養することにより、細胞の分化誘導を行った。培地交換の頻度は2日に1度以上となるようにした。
S1(1日間):RPMI 1640 (Life Technologies), Penicillin/Streptomycin (P/S)(ナカライテスク), 2% B-27 (Thermo Fisher Scientific), 100 ng/mL Activin A (R&D Systems), 3 μM CHIR99021 (Stemgent)
S1(-C)(4日間):RPMI 1640, P/S, 2% B-27, 100 ng/mL Activin A
S2(2日間):RPMI 1640, P/S, 1% B-27, 0.25 μM SANT-1 (Wako), 50 ng/mL FGF10 (R&D Systems)
S3(6日間):DMEM HG (Life Technologies), P/S, 1% B-27, 2 μM Retinoic acid, 0.25 μM SANT-1, 10 μM SB431542 (Stemgent), 0.1 μM LDN193189 (Wako)
S4(2日間):DMEM HG, P/S, 1% B-27, 5 μM ALK5 inhibitor (Calbiochem), 300 nM (-) indolactam V (Sigma), 0.1 μM LDN193189
S5(8日間):DMEM/F12 (Life Technologies), P/S, 1% B-27, 50 ng/mL exendin-4 (Sigma), 10 mM nicotinamide (Sigma), 100 μM 3-Isobutyl-1-methylxanthine (Wako)
イマチニブ(imatinib)(Wako)、ダサチニブ(dasatinib)(BioVision)、ニロチニブ(nilotinib)(Chemscene)、ソラフェニブ(sorafenib)(Cayman Chemical)はDMSO(ナカライテスク)に溶解し、S3~5の培地に添加した。対照群(control)には化合物の代わりに媒体であるDMSOを添加した。
得られた細胞からRNAを抽出し、抽出したRNAからSuperScript VILO Master Mix (Thermo Fisher Scientific)を用いてcDNAを逆転写し、インスリン遺伝子の発現をリアルタイムPCRで評価した。リアルタイムPCRにはTaqMan Gene Expression Assays (Applied Biosystems)を用いた。
イマチニブの結果を図1に、ダサチニブの結果を図2に、ニロチニブの結果を図3に、ソラフェニブの結果を図4に示す。遺伝子の発現量はGAPDH遺伝子の発現量で補正し、ヒト膵島における発現量を1として相対値で表した。培地中にイマチニブ、ダサチニブ又はニロチニブを添加して分化誘導を実施すると、インスリン遺伝子の発現上昇が認められた。ソラフェニブでは、インスリン遺伝子の発現上昇は認められず、高濃度では逆に低下した。
以上の結果から、チロシンキナーゼ阻害剤のうち、イマチニブ、ダサチニブ及びニロチニブでは分化促進効果が認められ、ソラフェニブでは認められなかった。3倍以上のインスリン遺伝子発現亢進が認められた化合物添加濃度は、イマチニブ、ダサチニブ及びニロチニブでそれぞれ300nM、1nM、100nMであった。また、ソラフェニブでは100nMの濃度で添加してもインスリン遺伝子発現に変化が見られず、1000nMでは逆に低下した。
これらの阻害剤は、Davis M.I.ら(Davis MI, et al., Nature biotechnology. 2011;29(11):1046-1051.)によると、複数のキナーゼに対して様々なKd値を取ることが報告されている。表1にニロチニブがKd値100nM以下を示すキナーゼに対する各化合物のKd値を示す(Davis M.I.らのsupplementary table 4を改変)。空欄は10μMで酵素への結合が認められていないことを示す。
Figure 0007139951000002
一般に、細胞系における阻害剤のIC50値は、無細胞系における酵素に対する阻害剤のKd値の数倍以上とされる。実際例えば、Davis M. I.らによると無細胞系におけるキナーゼKITに対するイマチニブ、ニロチニブのKd値はそれぞれ13nM、29nMであるが、Manley, P. W.ら(Manley PW, et al., Bioorganic & medicinal chemistry. 2010;18(19):6977-6986.)によると細胞系におけるキナーゼの自己リン酸化の阻害のIC50は、それぞれ97nM、217nMであり、Kdに対するIC50の割合は、それぞれ7.46、7.48である。したがって、細胞系においてキナーゼが実際に半分以上阻害されているためには、この場合阻害剤が約7.5倍以上培地中に存在することが必要である。また、インスリン産生細胞への分化亢進のような生物学的な活性を発揮するためには、細胞において特定のキナーゼを半分以上阻害することが必要である。
表2に、3倍以上のインスリン遺伝子発現亢進が認められた化合物濃度のKd値に対する倍率を示した。表1より計算した。また、ソラフェニブについては、インスリン遺伝子発現が低下していない100nMのKd値に対する割合を示した。化合物添加濃度がKd値の7倍以上となる組み合わせを網掛けで示した。空欄は10μMで酵素への結合が認められていないことを示す。
Figure 0007139951000003
表2によると、インスリン遺伝子発現の亢進が認められたイマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブで添加化合物濃度がKd値の7倍以上であり、亢進が認められないソラフェニブの100nMがKd値の7倍に達していないキナーゼは、ABL1及びリン酸化ABL1のみである。以上の結果から、多能性幹細胞のインスリン産生細胞への分化誘導をイマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブが促進するのは、それらが共通して有するABL1選択的な阻害作用によるものであることがわかった。
実施例2:ABL1阻害剤(ニロチニブ)による分化誘導促進効果に及ぼす添加タイミングの検討
ABL1阻害剤としてニロチニブを用いて、分化誘導促進効果が発揮される添加ステージを検討した。96ウェルプレートに4×104細胞/ウェルの濃度でiPS細胞を播種し、実施例1の方法で細胞の分化誘導を行った。ニロチニブをS3、S4、S5の各段階において、組み合わせを変えて添加し、対照群(control)にはDMSOを添加した。
分化後の細胞の培養上清を回収し、上清中のC-ペプチドをC-peptide ELISA kit (ALPCO)で定量した。なお、培養上清中のC-ペプチド量はインスリン遺伝子発現と相関することを確認している。
図5に添加タイミングの検討結果を示す。S3、S4、S3/S4、S3/S4/S5への添加時に分化誘導促進効果が認められた。特にS3への添加時に最も強い効果が認められた。
本発明によれば、iPS細胞等の多能性幹細胞をインスリン産生細胞に分化誘導する系において、より効率よくインスリン産生細胞へと分化誘導することが可能となる。よって、より多くのインスリン産生細胞を簡便に得ることができ、研究や医療等に用いるために該細胞を大量に供給することが可能となる。
本出願は、日本で出願された特願2017-000779(出願日:2017年1月5日)を基礎としておりその内容は本明細書に全て包含されるものである。

Claims (4)

  1. 多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進するための方法であって、分化誘導開始後、原腸管細胞マーカーの発現が確認された細胞をABL1チロシンキナーゼ阻害作用を有する化合物で処理することを含む、方法。
  2. 該化合物が、イマチニブ、ニロチニブ及びダサチニブからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項記載の方法。
  3. 多能性幹細胞がiPS細胞である、請求項又は記載の方法。
  4. 原腸管細胞マーカーが、FOXA2、HNF1b及びHNF4aからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項のいずれか1項に記載の方法。
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