JP7318636B2 - インスリン産生細胞分化誘導促進剤 - Google Patents
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Description
即ち、本発明は以下の通りである。
[2]該化合物が、5-(2,6-ジクロロフェニルスルホンアミド)-N-(4-フルオロベンジル)-1H-ピロール-2-カルボキサミド、N-(2,2,2-トリフルオロエチル)-N-[4-[2,2,2-トリフルオロ-1-ヒドロキシ-1-(トリフルオロメチル)エチル]フェニル]-ベンゼンスルホンアミド及び3-[3-[N-(2-クロロ-3-トリフルオロメチルベンジル)-(2,2-ジフェニルエチル)アミノ]プロピルオキシ]フェニル酢酸・塩酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[1]記載の剤。
[3]該化合物が、LXR内因性リガンドである、上記[1]記載の剤。
[4]LXR内因性リガンドが、22(R)-ヒドロキシコレステロール、24(S)-ヒドロキシコレステロール、24(S),25-エポキシコレステロール及び27-ヒドロキシコレステロールからなる群より選択される少なくとも1種である、上記[3]記載の剤。
[5]多能性幹細胞がiPS細胞である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の剤。
[6]多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進するための方法であって、分化誘導開始後、原腸管細胞マーカーの発現が確認された細胞をLXRアゴニスト作用を有する化合物で処理することを含む、方法。
[7]該化合物が、5-(2,6-ジクロロフェニルスルホンアミド)-N-(4-フルオロベンジル)-1H-ピロール-2-カルボキサミド、N-(2,2,2-トリフルオロエチル)-N-[4-[2,2,2-トリフルオロ-1-ヒドロキシ-1-(トリフルオロメチル)エチル]フェニル]-ベンゼンスルホンアミド及び3-[3-[N-(2-クロロ-3-トリフルオロメチルベンジル)-(2,2-ジフェニルエチル)アミノ]プロピルオキシ]フェニル酢酸・塩酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[6]記載の方法。
[8]該化合物が、LXR内因性リガンドである、上記[6]記載の方法。
[9]LXR内因性リガンドが、22(R)-ヒドロキシコレステロール、24(S)-ヒドロキシコレステロール、24(S),25-エポキシコレステロール及び27-ヒドロキシコレステロールからなる群より選択される少なくとも1種である、上記[8]記載の方法。
[10]多能性幹細胞がiPS細胞である、上記[6]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]原腸管細胞マーカーが、FOXA2、HNF1b及びHNF4aからなる群より選択される少なくとも1種である、上記[6]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]LXRアゴニスト作用を有する化合物を含む、多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導用の培地添加剤。
[13]該化合物が、5-(2,6-ジクロロフェニルスルホンアミド)-N-(4-フルオロベンジル)-1H-ピロール-2-カルボキサミド、N-(2,2,2-トリフルオロエチル)-N-[4-[2,2,2-トリフルオロ-1-ヒドロキシ-1-(トリフルオロメチル)エチル]フェニル]-ベンゼンスルホンアミド及び3-[3-[N-(2-クロロ-3-トリフルオロメチルベンジル)-(2,2-ジフェニルエチル)アミノ]プロピルオキシ]フェニル酢酸・塩酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[12]記載の添加剤。
[14]該化合物が、LXR内因性リガンドである、上記[12]記載の添加剤。
[15]LXR内因性リガンドが、22(R)-ヒドロキシコレステロール、24(S)-ヒドロキシコレステロール、24(S),25-エポキシコレステロール及び27-ヒドロキシコレステロールからなる群より選択される少なくとも1種である、上記[14]記載の添加剤。
[16]多能性幹細胞がiPS細胞である、上記[12]~[15]のいずれかに記載の添加剤。
[17]上記[12]~[16]のいずれかに記載の培地添加剤を添加してなる、インスリン産生細胞への分化誘導用の培地。
肝臓X受容体(Liver X Receptor、以下LXRとも称する)は核内受容体の一つで、同じ核内受容体であるレチノイドX受容体(Retinoid X Receptor、以下RXRとも称する)とヘテロダイマーを形成し、脂質代謝に関与するリガンド依存性転写因子である。それらは、コレステロール代謝および恒常性において重要な役割を果たす。2つのLXRタンパク質(αおよびβ)は、哺乳動物中に存在することが知られている。LXRα発現は、腸の褐色および白色脂肪組織などの脂質恒常性に関与する器官中で高い。一方、LXRβは、神経および内分泌起源の組織においてより偏在し、富化している。
本発明はLXRアゴニスト活性を有する化合物(以下、LXRアゴニストとも称する)を含む、多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化を誘導する分化誘導促進剤(以下、本発明の分化誘導促進剤とも称する)を提供する。
ABCA1: ATP-binding cassette, sub-family A member 1
SREBF1: Sterol regulatory element-binding transcription factor 1
SCD: Stearoyl-CoA desaturase 1
ABCG1: ATP-binding cassette sub-family G member 1
NR1H3(LXR): Nuclear Receptor Subfamily 1 Group H Member 3
具体的には以下の文献でLXRアゴニストとして開示されている化合物が挙げられる。
(1) Non-steroidal LXR agonists; an emerging therapeutic strategy for the treatment of atherosclerosis Recent Patents on Cardiovascular Drug Discovery (2006), 1(1), 21-46 CODEN: RPCDFC; ISSN: 1574-8901;
(2) Liver X receptor modulators: a review of recently patented compounds (2007 - 2009) Xiaolin Li, Vince Yeh & Valentina Molteni Expert Opinion on Therapeutic Patents Volume 20, 2010-Issue 4 Pages 535-562 | Published online: 20 Mar 2010
(3) Liver X receptor modulators: a review of recently patented compounds (2009 - 2012) Jon Loren, Zhihong Huang, Bryan A Laffitte & Valentina Molteni Expert Opinion on Therapeutic Patents Volume 23, 2013-Issue 10 Pages 1317-1335 | Published online: 05 Jul 2013
(4) An update on non-steroidal liver X receptor agonists and their potential use in the treatment of atherosclerosis D Jonathan Bennett, Lindsay D Brown, Andrew J Cooke & Andrew S Edwards Expert Opinion on Therapeutic Patents Volume 16, 2006-Issue 12 Pages 1673-1699 | Published online: 22 Nov 2006
(5) Liver X receptor agonists as a treatment for atherosclerosis D Jonathan Bennett, Andrew J Cooke, Andrew S Edwards, Elizabeth Moir & Peter C Ray Expert Opinion on Therapeutic Patents Volume 14, 2014-Issue 7 Pages 967-982 | Published online: 25 Feb 2005
化合物A:5-(2,6-ジクロロフェニルスルホンアミド)-N-(4-フルオロベンジル)-1H-ピロール-2-カルボキサミド
化合物B:N-(2,2,2-トリフルオロエチル)-N-[4-[2,2,2-トリフルオロ-1-ヒドロキシ-1-(トリフルオロメチル)エチル]フェニル]-ベンゼンスルホンアミド
化合物C:3-[3-[N-(2-クロロ-3-トリフルオロメチルベンジル)-(2,2-ジフェニルエチル)アミノ]プロピルオキシ]フェニル酢酸・塩酸塩
さらに、LXRは、22(R)-ヒドロキシコレステロール(22R-HC)、24(S)-ヒドロキシコレステロール(24S-HC)、27-ヒドロキシコレステロール(27-HC)および24(S),25-エポキシコレステロール(24,25-EC)などの特定の天然に存在するコレステロールの酸化誘導体により活性化されることが知られている。従って、本発明において用いられるLXRアゴニストとしてはこれらのLXR内因性リガンドも包含される。
本発明はLXRアゴニストで多能性幹細胞を処理する工程を含む、多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する方法(以下、本発明の分化誘導促進方法とも称する)を提供する。
多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化の過程については種々の報告が為されているが、一般的に、幾つかの分化段階(ステージ)で構成される。各ステージにおける分化誘導は、所望される分化細胞が得られる限り特に限定されず、既報に従って行うことができる。例えば、iPS細胞からインスリン産生細胞への分化誘導系としては、実施例にて後述するように、
ステージ1(S1):iPS細胞→胚体内内胚葉細胞(definitive endoderm; DE cell)
ステージ2(S2):胚体内内胚葉細胞→原腸管細胞(primitive gut tube; PG cell)
ステージ3(S3):原腸管細胞→膵前駆細胞(pancreatic progenitor cell; PP cell)
ステージ4(S4):膵前駆細胞→内分泌前駆細胞(endocrine progenitor cell; EP cell)
ステージ5(S5):内分泌前駆細胞→インスリン産生細胞(pancreatic endocrine cell; EC cell)
という5段階の発生過程を模倣した系が知られている。主な分化誘導法としては、WO 2011/081222 A1;WO 2015/020113 Α1;Russ HA, et al., The EMBO Journal (2015) 34: 1759-1772;Nostro MC, et al., Stem Cell Reports 2015, 4: 591-604;Hannan NR, et al., Stem Cell Reports. 2013 1:293-306 ;Takeuchi H, et al., SCIENTIFIC REPORTS 2014 4: 4488;Pagliuca FW, et al., Cell. 2014; 159(2):428-39等に記載される方法も挙げられる。以下、かかる分化誘導系を用いて本発明の分化誘導促進方法を説明するが、他の分化誘導系に対しても本発明の分化誘導促進方法を用いることができる。
本発明において、LXRアゴニストはインスリン産生細胞への分化誘導が促進される限りどの段階で用いてもよいが、好ましくはステージ3~5の間、より好ましくはステージ3~4の間、特に好ましくは少なくともステージ3の間で用いる。すなわち、ステージ2を経て原腸管細胞へと分化した細胞に対してLXRアゴニストを適用することが好ましい。iPS細胞が内胚葉細胞を経て原腸管細胞へと分化したか否かの確認は、原腸管細胞マーカーの発現を指標にして行うことができる。原腸管細胞マーカーとは、原腸管細胞特異的に発現するタンパク質や遺伝子であり、それらの発現の変動を、遺伝子レベルあるいはタンパク質レベルで評価する。上記細胞マーカーとして、FOXA2、HNF1b、HNF4a等が挙げられる。
LXRアゴニストはステージ3を経て膵前駆細胞へと分化した細胞に対しても適用することができる。膵前駆細胞へと分化したか否かの確認は、膵前駆細胞マーカーの発現を指標にして行うことができる。膵前駆細胞マーカーとは、膵前駆細胞特異的に発現するタンパク質や遺伝子であり、それらの発現の変動を、遺伝子レベルあるいはタンパク質レベルで評価する。上記細胞マーカーとして、PDX1、HNF6、SOX9等が挙げられる。
LXRアゴニストはステージ4を経て内分泌前駆細胞へと分化した細胞に対しても適用することができる。内分泌前駆細胞へと分化したか否かの確認は、内分泌前駆細胞マーカーの発現を指標にして行うことができる。内分泌前駆細胞マーカーとは、内分泌前駆細胞特異的に発現するタンパク質や遺伝子であり、それらの発現の変動を遺伝子レベルあるいはタンパク質レベルで評価する。上記細胞マーカーとして、NGN3、PAX4、NEUROD1等が挙げられる。
S1:アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤(例、アクチビン、Nodal、Myostatin、好ましくはアクチビンA)及びGSK3阻害剤(例、CHIR99021、SB216763、SB415286、好ましくはCHIR99021)、その後アクチビン受容体様キナーゼ-4,7の活性化剤のみ
S2:ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤(例、シクロパミン、ジェルビン、SANT-1、ヘッジホッグ経路遮断抗体、好ましくはSANT-1)及びFGF(例、FGF-1、FGF-2(bFGF)、FGF-3、FGF-4、FGF-5、FGF-6、FGF-7、FGF-8、FGF-9、FGF-10、FGF-11、FGF-12、FGF-13、FGF-14、FGF-15、FGF-16、FGF-17、FGF-18、FGF-19、FGF-20、FGF-21、FGF-22、FGF-23、好ましくは、FGF-10)
S3:レチノイン酸受容体アゴニスト(例、レチノイン酸、Am80、AM580、TTNPB、AC55649、好ましくはレチノイン酸)、ヘッジホッグシグナル伝達阻害剤(例、S2と同様、好ましくはSANT-1)及びBMPシグナル伝達阻害剤(例、Noggin、Chordin、Follistatin、Cerberus、Gremlin、Dorsomorphin、LDN-193189、好ましくはLDN-193189)(好ましくはさらにTGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤(例、SB-431542、SB-505124、SB-525334、A-83-01、GW6604、LY580276、ALK5阻害剤、TGFβRIキナーゼ阻害剤VIII、SD-208、好ましくはSB-431542)を用いる)
S4:TGF-βI型アクチビン受容体様キナーゼ-4,5,7阻害剤(例、S3と同様、好ましくはALK5阻害剤)及びBMPシグナル伝達阻害剤(例、S3と同様、好ましくはLDN-193189)(好ましくはさらにプロテインキナーゼC活性化因子(例、ILV、(2S,5S)-(E,E)-8-(5-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-2,4-ペンタジエノイルアミノ)ベンゾラクタム、ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート、ホルボール-12,13-ジブチレート、好ましくはILV)を用いる)
S5:ホスホジエステラーゼ阻害剤(例、IBMX、ジブチルcAMP、好ましくはIBMX)(好ましくはさらに、GLP-1受容体アゴニスト(例、GLP-1、GLP-1MR剤、NN-2211、AC-2993(エキセンジン-4)、BIM-51077、Aib(8,35)hGLP-1(7,37)NH2、CJC-1131、好ましくはエキセンジン-4)、ニコチンアミド及びアデニル酸シクラーゼ活性化因子(例、ファルスコリン)のいずれか1以上、より好ましくは2以上、特に好ましくは全てを用いる)
本発明はLXRアゴニストを含む多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導用の培地添加剤(以下、本発明の培地添加剤とも称する)を提供する。本発明の培地添加剤は、培地への添加用であるが、簡便には、上記1.分化誘導促進剤を用いることができる。
本発明の培地添加剤は、多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導の系において、その培地中に添加して用いることができる。あるいは本発明の培地添加剤を添加してなる分化誘導用の培地を調製し、該培地を用いて培地交換することによって多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する。
本発明の培地添加剤の培地中への添加は、用いるLXRアゴニストの種類によっても異なり、適宜設定されるが、通常、培地中のLXRアゴニストの最終濃度が0.01~100μM、好ましくは0.1~10μM、より好ましくは1~10μMとなるように行われる。該濃度は、XW4.4の場合、1~10μM、好ましくは3~10μM程度であり、T0901317の場合、0.1~10μM、好ましくは0.1~5μM程度であり、GW3965の場合、0.1~10μM、好ましくは0.1~5μM程度である。22R-HC等の内因性リガンドの場合、0.1~10μM、好ましくは1~5μM程度である。
本発明の培地添加剤は、有効成分としてLXRアゴニストを含んでいれば、その他の成分を含んでいても含んでいなくてもよい。取扱いのし易さ、保存安定性等の観点から、加えて培地に添加して用いる点において各種添加剤が含まれていてもよい。各種添加剤としては自体公知のものが用いられるが培地構成成分の1乃至2種以上とともに製剤化することもできる。
本発明の培地添加剤の剤型は特に限定されず、溶液状(懸濁液、乳液等の剤型を含む)、固形状(粉末状等の剤型を含む)、半固形状(ゲル状等の剤型を含む)であり得る。溶液状の本発明の培地添加剤は、液体培地への添加が容易であり好ましい。固形状、半固形状の本発明の培地添加剤は取扱いのし易さ、保存安定性等の観点から好ましい。固形状、半固形状の本発明の培地添加剤はそのまま培地に添加しても、必要に応じ培地への添加前に溶解してから用いることもできる。
本発明はLXRアゴニストを含む多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導用の培地(以下、本発明の分化誘導用培地とも称する)を提供する。
本発明の分化誘導用培地の形状は特に限定されず、溶液状(懸濁液状、乳液状等を含む)、固形状(粉末状等を含む)、半固形状(ゲル状等を含む)であり得る。溶液状の本発明の分化誘導用培地は、LXRアゴニストに加え、所望される培地構成成分を添加してなる溶液状の培地であり、そのまま細胞の培養に用いることができる。固形状あるいは半固形状の本発明の分化誘導培地は、LXRアゴニストに加え、所望される培地構成成分(1乃至2以上、好ましくは全て)を含み、用時精製水等に溶解し、必要に応じてpH調整を行って細胞の培養に用いることができる。いずれの態様も本発明の分化誘導用培地の範疇である。
本発明の分化誘導用培地は、通常の分化誘導用培地にLXRアゴニストを添加してなる培地である。また、上記3.分化誘導用培地添加剤を添加してなる培地であってもよい。
ここで「通常の分化誘導用培地」とは、多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導に使用し得る培地を意味し、当分野で通常用いられるものを利用することができる。多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導は、幾つかのステージからなり、通常、そのステージごとに使用する培地が異なる。本発明の分化誘導用の培地はいずれのステージにおいても使用することができるが、好ましくは一定の段階まで分化誘導されたステージの細胞の分化誘導用の培地として用いる。「一定の段階まで分化誘導されたステージの細胞」としては、上記「2.多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する方法」で示した分化誘導系であれば、ステージ2を経て得られた細胞、即ち原腸管細胞マーカー(FOXA2、HNF1b、HNF4a等)の発現が確認された細胞が挙げられる。該細胞は、ステージ3、ステージ4及びステージ5を経てインスリン産生細胞へと分化誘導される。
ステージ3で用いられる培地の一例として、基礎培地に上記「2.多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する方法」のS3で用いた分化誘導因子を添加した培地が挙げられる。
ステージ4で用いられる培地の一例として、基礎培地に上記「2.多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する方法」のS4で用いた分化誘導因子を添加した培地が挙げられる。
ステージ5で用いられる培地の一例として、基礎培地に上記「2.多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する方法」のS5で用いた分化誘導因子を添加した培地が挙げられる。
基礎培地としては、上記「2.多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進する方法」で例示したものを好適に用いることができる。
iPS細胞は1231A3株を用いた。培養は37℃、5%CO2条件下で行った。維持培養にはStemFit(登録商標) AK02N培地(味の素(株))を用いた。細胞の剥離にはAccutase(ナカライテスク)を用い、Laminin-511 E8(ニッピ)をコートした6ウェルプレートに13,000細胞/ウェルの濃度で細胞を播種し、7日毎に継代した。
iPS細胞からのインスリン産生細胞誘導方法は、Arakawaら(Arakawa A, et al., Journal of Analytical & Bioanalytical Techniques. 2016;7(1).)のプロトコルを用いて実施した。Laminin-511 E8でコートした24ウェルプレートに1.5×105細胞/ウェルの濃度で細胞を播種し、翌日から下記の分化誘導培地で括弧内の日数ずつステージ(S1-S5)毎に異なる培地で培養することにより、細胞の分化誘導を行った。培地交換の頻度は2日に1度以上となるようにした。
S1(1日間):RPMI 1640 (Life Technologies), Penicillin/Streptomycin (P/S)(ナカライテスク), 2% B-27 (Thermo Fisher Scientific), 100 ng/mL Activin A (R&D Systems), 3 μM CHIR99021 (Stemgent)
S1(-C)(4日間):RPMI 1640, P/S, 2% B-27, 100 ng/mL Activin A
S2(2日間):RPMI 1640, P/S, 1% B-27, 0.25 μM SANT-1 (Wako), 50 ng/mL FGF10 (R&D Systems)
S3(6日間):DMEM HG (Life Technologies), P/S, 1% B-27, 2 μM Retinoic acid, 0.25 μM SANT-1, 10 μM SB431542 (Stemgent), 0.1 μM LDN193189 (Wako)
S4(2日間):DMEM HG, P/S, 1% B-27, 5 μM ALK5 inhibitor (Calbiochem), 300 nM (-)-indolactam V (Sigma), 0.1 μM LDN193189
S5(8日間):DMEM/F12 (Life Technologies), P/S, 1% B-27, 50 ng/mL exendin-4 (Sigma), 10 mM nicotinamide (Sigma), 100 μM 3-Isobutyl-1-methylxanthine (Wako)
XW4.4(Sigma)はDMSO(ナカライテスク)に溶解し、S3~5の培地に添加した。対照群(control)には化合物の代わりに媒体であるDMSOを添加した。
S5終了時に得られた細胞からRNAを抽出し、抽出したRNAからSuperScript VILO Master Mix (Thermo Fisher Scientific)を用いてcDNAを逆転写し、インスリン遺伝子の発現をリアルタイムPCRで評価した。リアルタイムPCRにはTaqMan Gene Expression Assays (Applied Biosystems)を用いた。
結果を図1に示す。遺伝子の発現量はGAPDH遺伝子の発現量で補正し、ヒト膵島における発現量を1として相対値で表した。
培地中に終濃度5μMのXW4.4を添加して分化誘導を実施すると、インスリン遺伝子の発現上昇が認められた。
XW4.4を用いて、分化誘導促進効果が発揮される添加ステージを検討した。96ウェルプレートに4×104細胞/ウェルの濃度でiPS細胞を播種し、実施例1の方法で細胞の分化誘導を行った。XW4.4をS2、S3、S4、S5の各段階において、組み合わせを変えて添加し、対照群(control)にはDMSOを添加した。
S5終了時に得られた細胞の培養上清を回収し、上清中のC-ペプチドをC-peptide ELISA kit (ALPCO)で定量した。なお、培養上清中のC-ペプチド量はインスリン遺伝子発現と相関することを確認している。
図2、図3に添加タイミングの検討結果を示す。S3、S2/S3、S2/S3/S4、S2/S3/S4/S5、S3/S4、S3/S4/S5への添加時に分化誘導促進効果が認められた。特にS3、S2/S3、S3/S4への添加時に強い効果が認められ、S3への添加が重要であることが示された。
XW4.4を用いて、分化誘導促進効果が発揮される濃度を検討した。96ウェルプレートに4×104細胞/ウェルの濃度でiPS細胞を播種し、実施例1の方法で細胞の分化誘導を行った。S3の培地にXW4.4を終濃度0.03~10 μMになるように添加し、対照群(control)にはDMSOを添加した。
S5終了時に得られた細胞の培養上清を回収し、上清中のC-ペプチドをC-peptide ELISA kit (ALPCO)で定量した。
図4に濃度域の検討結果を示す。3~10μM添加時に分化誘導促進効果が認められ、XW4.4は3~10μMにおいて分化誘導促進効果を示すことが明らかとなった。
XW4.4添加時に転写因子LXRの応答遺伝子群の発現変動をRNA-Seqを用いて解析した。実施例1の方法で細胞の分化誘導を実施し、S3の培地にXW4.4を終濃度5μMとなるよう添加し、S3終了時に膵前駆細胞(PP)を回収した。対照群(control)にはDMSOを添加した。得られた細胞(PP)からRNAを抽出し、抽出したRNAからNeoprep (Illumina)を用いてライブラリを構築した。NextSeq 500 (Illumina)にてRNA-Seq解析を実施し、FPKM値を算出した。
図5に各遺伝子の発現比較を示す。XW4.4添加時にLXR応答遺伝子群の発現上昇が認められ、LXRが活性化されていると考えられた。
次に、LXR合成アゴニストであるT0901317とGW3964の分化誘導促進効果を検討した。実施例1の方法で分化誘導を実施し、S3の培地に終濃度0.1μMのT0901317(Sigma)、終濃度 0.1μMのGW3965(Sigma)、あるいは終濃度5μMのXW4.4を添加した。さらにLXRアンタゴニストであるGSK2033(Sigma)を終濃度5 μMで添加した。また、GSK2033(終濃度5 μM)とT0901317(終濃度0.1 μM)、GW3964(終濃度 0.1 μM)、あるいはXW4.4(終濃度5 μM)を同時に添加した(それぞれ順に、T+GSK、G+GSK、XW+GSK)。各試験化合物はS3の培地にのみ添加し、S4の培地及びS5の培地には添加しなかった。S5終了時に得られた細胞におけるインスリン遺伝子発現量をリアルタイムPCRで定量した。
結果を図6に示す。T0901317、GW3964、XW4.4を添加すると分化誘導促進が認められ、GSK2033を添加すると分化抑制が認められた。LXRアゴニストにより分化が促進され、その効果はアンタゴニストの添加でキャンセルされることが示された。
次に、LXR内因性リガンドであるヒドロキシコレステロール類の分化誘導促進効果を検討した。実施例1の方法で分化誘導を実施し、S3の培地に22R-ヒドロキシコレステロール(22R-HC,終濃度1 μMおよび5 μM、Sigma)、24S-ヒドロキシコレステロール(24S-HC,終濃度1 μM、BioVision)、24(S),25-エポキシコレステロール(24,25-EC,終濃度1 μMおよび5 μM、Abcam)、27-ヒドロキシコレステロール(27-HC,終濃度1 μM、Tocris Bioscience)を添加した。各試験化合物はS3の培地にのみ添加し、S4の培地及びS5の培地には添加しなかった。S5終了時に得られた細胞におけるインスリン遺伝子発現量をリアルタイムPCRで定量した。
結果を図7、図8に示す。22R-HC、24S-HC、24,25-EC、27-HCの添加により、分化誘導促進効果が認められた。
iPS細胞の1210B2株を用い、実施例1と同様の方法で、XW4.4の分化誘導促進効果を検討した。結果を図9に示す。1210B2株を用いた場合もXW4.4添加により、分化誘導促進効果が認められた。
Claims (16)
- LXRアゴニスト作用を有する化合物を含む、多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導促進剤、ここで該多能性幹細胞は、分化誘導開始後、原腸管細胞へと分化した段階にあることを特徴とする。
- 該化合物が、5-(2,6-ジクロロフェニルスルホンアミド)-N-(4-フルオロベンジル)-1H-ピロール-2-カルボキサミド、N-(2,2,2-トリフルオロエチル)-N-[4-[2,2,2-トリフルオロ-1-ヒドロキシ-1-(トリフルオロメチル)エチル]フェニル]-ベンゼンスルホンアミド及び3-[3-[N-(2-クロロ-3-トリフルオロメチルベンジル)-(2,2-ジフェニルエチル)アミノ]プロピルオキシ]フェニル酢酸・塩酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1記載の剤。
- 該化合物が、LXR内因性リガンドである、請求項1記載の剤。
- LXR内因性リガンドが、22(R)-ヒドロキシコレステロール、24(S)-ヒドロキシコレステロール、24(S),25-エポキシコレステロール及び27-ヒドロキシコレステロールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3記載の剤。
- 多能性幹細胞がiPS細胞である、請求項1~4のいずれか1項に記載の剤。
- 多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導を促進するための方法であって、分化誘導開始後、原腸管細胞マーカーの発現が確認された細胞をLXRアゴニスト作用を有する化合物で処理することを含む、方法。
- 該化合物が、5-(2,6-ジクロロフェニルスルホンアミド)-N-(4-フルオロベンジル)-1H-ピロール-2-カルボキサミド、N-(2,2,2-トリフルオロエチル)-N-[4-[2,2,2-トリフルオロ-1-ヒドロキシ-1-(トリフルオロメチル)エチル]フェニル]-ベンゼンスルホンアミド及び3-[3-[N-(2-クロロ-3-トリフルオロメチルベンジル)-(2,2-ジフェニルエチル)アミノ]プロピルオキシ]フェニル酢酸・塩酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項6記載の方法。
- 該化合物が、LXR内因性リガンドである、請求項6記載の方法。
- LXR内因性リガンドが、22(R)-ヒドロキシコレステロール、24(S)-ヒドロキシコレステロール、24(S),25-エポキシコレステロール及び27-ヒドロキシコレステロールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8記載の方法。
- 多能性幹細胞がiPS細胞である、請求項6~9のいずれか1項記載の方法。
- 原腸管細胞マーカーが、FOXA2、HNF1b及びHNF4aからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項6~10のいずれか1項に記載の方法。
- LXRアゴニスト作用を有する化合物を含む、多能性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導用の培地添加剤、ここで該多能性幹細胞は、分化誘導開始後、原腸管細胞へと分化した段階にあることを特徴とする。
- 該化合物が、5-(2,6-ジクロロフェニルスルホンアミド)-N-(4-フルオロベンジル)-1H-ピロール-2-カルボキサミド、N-(2,2,2-トリフルオロエチル)-N-[4-[2,2,2-トリフルオロ-1-ヒドロキシ-1-(トリフルオロメチル)エチル]フェニル]-ベンゼンスルホンアミド及び3-[3-[N-(2-クロロ-3-トリフルオロメチルベンジル)-(2,2-ジフェニルエチル)アミノ]プロピルオキシ]フェニル酢酸・塩酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項12記載の添加剤。
- 該化合物が、LXR内因性リガンドである、請求項12記載の添加剤。
- LXR内因性リガンドが、22(R)-ヒドロキシコレステロール、24(S)-ヒドロキシコレステロール、24(S),25-エポキシコレステロール及び27-ヒドロキシコレステロールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項14記載の添加剤。
- 多能性幹細胞がiPS細胞である、請求項12~15のいずれか1項記載の添加剤。
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