以下、本発明を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明を説明することを目的とし、本発明を限定することを意図しない。
<1.たばこ香味液の製造方法>
一実施形態によれば、たばこ香味液の製造方法は、
(S1)有機溶媒を用いてたばこ原料から成分を抽出してたばこ成分含有液を得ること、および
(S2)酸素含有雰囲気において、上記たばこ成分含有液と、塩基性物質とアルコールとを含む水性溶液とを混合し、反応させて、たばこ香味液を得ること、
を含む。
上述の実施形態は、
(S3)たばこ香味液からエステル化合物を分離すること、
を更に含んでいてもよい。
上述の好ましい実施形態を図1に示す。以下、好ましい実施形態を、図1を参照しながら(S1)~(S3)の工程順に説明する。
[抽出工程(S1)]
たばこ原料からたばこ原料に含まれる成分を有機溶媒で抽出して、たばこ成分含有液およびたばこ残渣を得る。
たばこ原料は、農場で収穫した直後の収穫葉(タバコ葉)であってもよいし、収穫葉を農場で乾燥させた後の葉たばこであってもよいし、農場での乾燥工程、その後の原料工場での1年ないし数年の長期熟成工程、およびその後の製造工場での加工処理を経て、たばこ製品に配合される準備が整ったたばこ刻であってもよい。たばこ原料には、農場で収穫した直後の収穫葉を好適に用いることができる。たばこ原料には、収穫から所定時間経過した収穫葉を用いてもよい。なお、本明細書では、乾燥済みのたばこ原料を「葉たばこ」と表記し、栽培・乾燥中のたばこ原料を「タバコ葉」と表記している。
たばこ原料(収穫葉)には、多量の有機酸を含有するタバコ葉、例えば、3メチル吉草酸含有量0.5~1.5mg/gで、イソ吉草酸含有量0.05~0.3mg/gのタバコ葉を用いることができる。たばこ原料(収穫葉)には、任意の品種のものを使用することができる。たばこ原料として、たとえばオリエント種、黄色種、バーレー種、在来種、たばこ野生種などを使用できる。このうち、オリエント種、在来種については、単位重量当たりの吉草酸含有量が比較的に多く、本実施形態のたばこ香味液の製造方法に好適に用いることができる。このうち、オリエント種については、単位重量当たりの吉草酸含有量が最も多く、本実施形態のたばこ香味液の製造方法に最も好適に用いることができる。たばこ原料には、単一品種のものを使用してもよいし、異なる品種の混合物を使用してもよい。
抽出工程は、どのような雰囲気下で行ってもよい。抽出工程は、例えば、大気雰囲気などの酸素含有雰囲気下で行うことができる。抽出工程は、酸素含有雰囲気以外の雰囲気下で、例えば、窒素雰囲気下で行ってもよい。抽出工程は、高圧・低圧の空気雰囲気下で行ってもよい。
抽出工程の温度は、例えば、0~90℃の温度であり、より好ましくは、例えば、10~70℃の温度であり、最も好ましくは、15~60℃の温度である。抽出工程の温度は、抽出に使用する有機溶媒の沸点未満であることが好ましい。
抽出工程は、たばこ原料を有機溶媒中で、例えば、30秒間~数日間、より好ましくは1分間~12時間、最も好ましくは5分間~3時間、の期間で浸漬することにより行うことができる。抽出工程では、適宜に振とうや攪拌を行ってもよい。
抽出工程で用いられる有機溶媒は、極性及び沸点が比較的低いものであることが好ましい。そのような有機溶媒としては、ヘキサンを用いることが好ましい。抽出工程に用いられる有機溶媒は、ヘキサンに限られるものではなく、ヘキサン以外の他の有機溶媒であってもよい。例えば酢酸エチルを使用してもよい。
抽出工程では、有機溶媒を、1kgのたばこ原料に対して、0.5~3.0Lの範囲内の量で使用することが好ましく、1.0~2.0Lの範囲内の量で使用することがより好ましい。なお、溶媒や溶液の体積は、25℃での体積を意味している。有機溶媒の量が少なすぎると、たばこ原料から後述する成分を十分に抽出することが難しい。有機溶媒の量が多すぎると、後述する第1たばこ成分含有液における上記成分の濃度が低くなる。上記成分を低い濃度で含んだ第1たばこ成分含有液をエステル化工程(S2)において使用すると、高い効率でエステル化を生じさせることが難しい。また、第1たばこ成分含有液が上記成分を低い濃度で含んでいる場合、この第1たばこ成分含有液から濃縮乾固物を得るには、多量の有機溶媒を除去する必要がある。
たばこ原料に含まれる成分には、例えば有機酸、具体的には吉草酸、ヘキサン酸などが含まれる。
抽出工程の完了後、たばこ成分含有液(第1たばこ成分含有液)とたばこ残渣とが分離される。たばこ残渣は、例えば、その後の工程で、たばこ香味液をかけ戻すための基材として使用される。たばこ残渣は、乾燥させた後、香料を担持させるための基材として使用してもよいし、たばこ残渣を成形して成形体を作製し、たばこ残渣の成形体を、香料を担持させるための基材として使用してもよい。たばこ残渣の成形体は、シート状の成形体であってもよいし、シート状の成形体をたばこ刻の形状に裁刻して得られた裁刻物であってもよいし、シート状の成形体を粉砕して得られた粉体であってもよい。シート状の成形体は、例えば、製紙の抄造技術を利用してたばこ残渣をシート状に成形することにより作製することができる。
たばこ成分含有液(第1たばこ成分含有液)は、ろ紙等によってろ過されるろ過工程を経てもよい。ろ過工程は任意である。或いは、たばこ成分含有液をろ過したろ液を濃縮乾固し、濃縮乾固物を得てもよい。濃縮乾固は、エバポレータもしくは遠心エバポレータによる減圧乾燥により行うことができる。或いは、濃縮乾固は、凍結乾燥、加熱乾燥により行うこともできる。当該濃縮乾固物を再度、抽出に用いた有機溶媒(例えばヘキサン)、或いはこれとは異なる有機溶媒に溶解し、これをたばこ成分含有液(第2たばこ成分含有液)としてもよい。第2たばこ成分含有液を得るうえで使用する有機溶媒の量は、1gの濃縮乾固物に対して、500~10000mLの範囲内であることが好ましく、1000~6000mLの範囲内であることがより好ましい。
[エステル化工程(S2)]
エステル化工程(S2)では、抽出工程(S1)で得られた所定液量のたばこ成分含有液(第1たばこ成分含有液、又は第2たばこ成分含有液)に対して、酸素含有雰囲気下、水性溶液を添加して、反応させることで、これらの混合液中でエステル化合物を生成させる。これによって、エステル化合物が増大したたばこ香味液を得ることができる。たばこ成分含有液と水性溶液とは、4:1~4:5の体積比で混合することが好ましく、4:1~4:3の体積比で混合することがより好ましく、5:2~4:3の体積比で混合することが最も好ましい。混合液は、静置状態において、例えば、たばこ成分含有液からなる有機溶媒相と、水性溶液からなる水相と、の2相に分離する。この場合、有機溶媒の種類にもよるが、一例によれば、有機溶媒相が上層であり、水相が下層に位置する。
エステル化工程(S2)で用いられるたばこ成分含有液は、たばこ原料から抽出した上記成分(すなわち、吉草酸、ヘキサン酸などの有機酸)を、0.1~5000mg/Lの濃度で含有していることが好ましく、0.5~500mg/Lの範囲内で含有していることがより好ましい。
エステル化工程(S2)で用いられるたばこ成分含有液に含まれる有機溶媒として、ヘキサン、ペンタン、ジエチルエーテル、TBME(t-ブチルメチルエーテル)、および酢酸エチルからなる群より選ばれる1種を用いることができる。エステル化工程(S2)で用いられるたばこ成分含有液に含まれる有機溶媒は、水(水性溶液)に対して混ざらない性質、すなわち非混和性を有することが好ましい。エステル化工程(S2)で用いられるたばこ成分含有液に含まれる有機溶媒は、抽出工程(S1)において抽出溶媒として用いられる有機溶媒と同じあってもよいし異なっていてもよい。
上記群に含まれる有機溶媒の極性は、ヘキサン・ペンタン<ジエチルエーテル<TBME<酢酸エチルの関係を有する。したがって、ヘキサン及びペンタンは、これらの有機溶媒のうちで最も低極性であり、水(水性溶液)に対して混ざらない性質、すなわち非混和性が最も高い。ジエチルエーテルについてもこれら有機溶媒中で比較的低極性であり、水(水性溶液)に対して混ざらない性質、すなわち非混和性を有する。TBMEは、これらの有機溶媒中で比較的高極性であり、水(水性溶液)に対して良く混ざる性質、すなわち混和性を有する。酢酸エチルは、これらの有機溶媒のうちで最も高極性であり、水(水性溶液)に対して良く混ざる性質、すなわち混和性が最も高い。
エステル化工程(S2)で用いられるたばこ成分含有液に含まれる有機溶媒は、上記群より選ばれた2種以上の混合物であって、水(水性溶液)に対して非混和性を有する混合物でもよい。この混合物が含む各化合物は、水(水性溶液)に対して非混和性を有するものであることが好ましい。ただし、混合物が水(水性溶液)に対して非混和性を有していれば、それが含んでいる化合物の一部は、水(水性溶液)に対して混和性を有するものであってもよい。
水性溶液は、アルコールと、塩基性物質とを含む水溶液と、で構成することができる。水性溶液中の塩基性物質の水溶液およびアルコールは、均一に混合されていることが好ましい。塩基性物質の水溶液とアルコールとは、例えば体積比1:1で混合してもよいし、それ以外の比率で混合してもよい。塩基性物質の水溶液とアルコールとは、10:1~1:4の体積比で混合することが好ましく、5:3~1:2の体積比で混合することがより好ましい。
アルコールは、どのようなアルコールであってもよい。アルコールは、第1級アルコールを用いることが好ましい。アルコールは、1価のアルコールを用いることが好ましい。アルコールとしては、例えば、C原子の数が少ない、例えば、炭素数4又は5以下の、低級アルコールを好適に用いることができる。低級アルコールであれば、水に対する溶解度が大きいために、本実施形態のエステル化工程に好適に用いることができる。アルコールとしては、エタノール、メタノール、1-プロパノール、1-ブタノールからなる群より選ばれた1種を用いることができる。アルコールとしては、上記群より選ばれた2種以上を混合したアルコールを用いることができる。
エステル化工程(S2)における、たばこ成分含有液(第1たばこ成分含有液、又は第2たばこ成分含有液)の体積と、水性溶液の体積と、の合計に占めるアルコールの体積の割合は、2.0~28.6%であることが好ましい。また、エステル化工程(S2)における、たばこ成分含有液(第1たばこ成分含有液、又は第2たばこ成分含有液)の体積と、水性溶液の体積と、の合計に占めるアルコールの体積の割合は、10.7~28.6%であることがより好ましい。
塩基性物質は、電離度が1に近い強塩基性であることが好ましい。塩基性物質は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物で構成されることが好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いることができる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウムを用いることができる。塩基性物質は、塩基性物質の水溶液中に0.01~5Nの濃度で存在することが好ましく、塩基性物質の水溶液中に0.05~0.5Nの濃度で存在することがより好ましい。
塩基性物質の水溶液のpHは、11.0~14.0あることが好ましく、12.0~13.0であることがより一層好ましい。
エステル化工程の反応は、上記の通り、酸素含有雰囲気下で生じさせる。酸素含有雰囲気は、例えば、大気雰囲気である。酸素含有雰囲気は、20体積%以上の濃度で酸素を含有していることが好ましい。
エステル化工程の温度は、好ましくは、0~90℃の温度であり、より好ましくは、10~70℃の温度であり、最も好ましくは、15~60℃の温度である。
エステル化工程の反応は、好ましくは1分以上の期間にわたって行われ、より好ましくは、1~60分間の期間にわたって行われる。反応は、5~60分間の期間にわたって行われることがさらに好ましい。反応は、10~60分間の期間にわたって行われることがより一層好ましい。この反応は、振とうしつつ行われることが好ましく、10~300rpmで振とうしつつ行われることがより好ましい。反応は、100~200rpmで振とうしつつ行われることがさらに好ましい。
このように一定の期間にわたって反応を行うと、吉草酸やヘキサン酸等の有機酸を基質とするエステル化反応が促進され、添加するアルコールの種類に応じたエステル化合物が増加する。すなわち、アルコールとしてエタノールを用いた場合には、有機酸が減少し、代わりに各種のエチルエステルが生成する。アルコールとしてメタノールを用いた場合には、有機酸が減少し、代わりに各種のメチルエステルが生成する。アルコールとして1-プロパノールを用いた場合には、有機酸が減少し、代わりに各種のプロピルエステルが生成する。アルコールとして1-ブタノールを用いた場合には、有機酸が減少し、代わりに各種のブチルエステルが生成する。
このようにして製造されたたばこ香味液には、エステル化合物が多量に含まれる。エステル化合物は、反応の基質となる有機酸の種類によっても異なるが、一般的に、芳香を有する場合が多いことが知られている。
混合液からたばこ香味液を得るには、例えば、以下のとおり行うことができる。まず、振とうの終了後に所定時間、例えば5~10分の時間、混合液を静置し、2相に分離した混合液から上層である有機溶媒相のみを取り出す。有機溶媒相を上記抽出工程と同様に、濃縮乾固し、濃縮乾固物を非水溶媒などの他の溶媒、例えば有機溶媒に溶解させることで、エステル化合物を多量に含むたばこ香味液を得ることができる。有機溶媒相を、たばこ香味液として用いてもよい。このようなたばこ香味液は、後述する加熱型香味吸引器で香味源として用いたり、シガレット(紙巻きたばこ)用のたばこ材料(上記したたばこ残渣等)にふりかけて香味を増強したりすることもできる。
[エステル化合物の分離工程(S3)]
たばこ香味液からエステル化合物を分離するには、公知の分離手法を用いることができる。分離手法としては、例えば、各種のクロマトグラフィー等を用いることができ、より好ましくは、カラムクロマトグラフィーを好適に用いることができる。これによってエステル化合物を分離・精製できる。
<2.たばこ香味液>
上述の<1.たばこ香味液の製造方法>により製造されたたばこ香味液が提供される。たばこ香味液は、後述する「たばこ充填材を含む加熱型香味吸引器」で使用されるたばこ充填材にふりかけて使用されてもよい。たばこ充填材は、上述の抽出工程(S1)で得られた残渣等であるが、たばこ香味液の適用先としてはこれに限られるものではない。
或いは、たばこ香味液は、さらに種々の処理工程を経て、或いは、別途の工程から得られたたばこ成分含有液と混合されて、後述する「たばこ香味液を含む加熱型香味吸引器」で使用されるたばこ香味液として用いられてもよい。
<3.たばこ充填材を含む加熱型香味吸引器>
たばこ香味液を含む喫煙物品の一例として、加熱型香味吸引器を示す。図2に示す加熱型香味吸引器11は、たばこ香味液を液体のままで保有せず、たばこ香味液がふりかけられてたばこの香味が増強されたたばこ充填材12を有する。
加熱型香味吸引器11は、筐体13、吸口14、および図示しない通気孔を有する。加熱型香味吸引器11は、筐体13の内部に、たばこ充填材12と、エアロゾル源収納部15と、バッテリ16と、制御回路17と、図示しないヒータと、図示しない感圧センサと、を有する。制御回路17およびヒータは、バッテリ16から電力供給を受ける。感圧センサは、制御回路17に接続されて制御回路17から電力供給を受ける。
たばこ充填材12は、上記たばこ残渣にたばこ香味液をふりかけたものを、カートリッジ18等の内部に充填することで構成される。たばこ充填材12は、吸口14の近傍に設けられている。エアロゾル源収納部15は、ケース15Aと、ケース15Aの内部に充填されたエアロゾル源と、を有する。エアロゾル源は、例えば、プロピレングリコール、グリセリン、またはこれらの混合物等の液で構成される。
ユーザが吸口14付近をくわえて吸引を開始すると、感圧センサによって負圧が感知される。これをトリガーに、制御回路17は、図示しないスイッチを切り替えてヒータに通電する。これによって、ヒータを駆動してエアロゾル源収納部15内のエアロゾル源を加熱し、エアロゾルを発生させる。ユーザが吸引を継続すると、通気孔から流入した空気とともに、エアロゾルがたばこ充填材12中を通過する。吸口14側にあるたばこ充填材12中をエアロゾルが通過することで、たばこ充填材12中のたばこの香味がエアロゾルに取り込まれて、ユーザはたばこの香味を味わうことができる。
なお、本実施形態の加熱型香味吸引器11では、エアロゾル源収納部15にエアロゾル源を収納しているが、エアロゾル源の配置としてはこれに限定されるものではない。エアロゾル源は、たばこ充填材12に直接に塗布・添加されていてもよい。この場合、ヒータは、たばこ充填材12の近傍に設けられており、たばこ充填材12を燃焼しない程度に直接加熱することができる。これによって、たばこ充填材12に直接に塗布・添加されたエアロゾル源からエアロゾルが生成されるとともに、当該エアロゾルにたばこ充填材12のたばこの香味が取り込まれる。ユーザは、空気とともに当該エアロゾルを吸引することで、たばこの香味を味わうことができる。
<4.たばこ香味液を含む加熱型香味吸引器>
たばこ香味液を含む喫煙物品の一例として、加熱型香味吸引器11´を示す。図3に示す加熱型香味吸引器11´は、上述の<3.たばこ充填材を含む加熱型香味吸引器>で説明したものとは異なり、たばこ充填材12を含まず、たばこ香味液を霧化することで、たばこ香味液から直接的にたばこの香味を得ることができる。
加熱型香味吸引器11´は、第1部分13Aおよび第2部分13Bを有する筐体13、吸口14、通気孔21を有する。加熱型香味吸引器11´は、筐体13の内部に、たばこ香味源22と、バッテリ16と、制御回路17と、ウィック23と、ウィック23の周囲に巻かれたヒータ24と、たばこの香味を含む空気を案内する案内路25と、ヒータ24にバッテリ16からの電力供給を供給する電力線26と、図示しない感圧センサと、を有する。制御回路17およびヒータ24は、バッテリ16から電力供給を受ける。感圧センサは、制御回路17に接続されて制御回路17から電力供給を受ける。たばこ香味源22は、ケースの内部に液を充填して構成される。この液は、たばこ香味液と、エアロゾル源と、を混合して構成される。エアロゾル源は、例えば、プロピレングリコール、グリセリン、またはこれらの混合物の液で構成される。
たばこ香味源22の内部に貯留された液は、ウィック23によって吸い上げられる。ユーザが吸口14をくわえて吸引を開始すると、感圧センサによって負圧が感知される。これをトリガーに、制御回路17は、図示しないスイッチを切り替えてヒータ24に通電をしてウィック23を加熱して、ウィック23からたばこの香味を含むエアロゾルを発生させる。ユーザが吸引を継続すると、通気孔21から流入した空気とともに、エアロゾルがウィック23の周囲を通過する。このエアロゾルを含む空気が案内路25を経由してユーザの口腔内に導入されることで、ユーザはたばこの香味を味わうことができる。
本加熱型香味吸引器11´に用いられるたばこ香味液は、上記<1.たばこ香味液の製造方法>に従い製造されたたばこ香味液そのものであってもよいし、別途に調製されたたばこ香味液と上記<1.たばこ香味液の製造方法>に従い製造されたたばこ香味液とを混合して新たに調製したもので構成されてもよい。
なお、本実施形態では、たばこ香味液を含む喫煙物品として、たばこ香味液がふりかけられたたばこ充填材12を含む加熱型香味吸引器11と、たばこ香味液を液体のまま含む加熱型香味吸引器11´と、について説明した。喫煙物品は、いわゆる一般的なシガレット(紙巻きたばこ)であっても当然によい。例えば、一般的なシガレットでは、上記<1.たばこ香味液の製造方法>で得られたたばこ残渣(基材)に対して上記したたばこ香味液をふりかけて、得られた生成物をたばこ充填材として使用してもよい。なお、その際、たばこ香味液がふりかけられる対象は、上記<1.たばこ香味液の製造方法>で得られたたばこ残渣以外であってもよい。
<5.効果>
本発明のたばこ香味液の製造方法では、抽出工程(S1)で、有機溶媒を用いてたばこ原料から成分を抽出してたばこ成分含有液を得て、その後のエステル化工程(S2)で、酸素含有雰囲気下において、上記たばこ成分含有液と、塩基性物質とアルコールとを含む水性溶液とを混合し、反応させて、たばこ香味液を得る。このため、極めて簡易な工程によって、エステルが増強されたたばこ香味液を得ることができる(後述の例1を参照)。このたばこ香味液を用いることで、たばこの香味が増強された喫煙物品を提供できる。
本発明のたばこ香味液の製造方法では、上記反応は、例えば、0~90℃で行われる。また、水性溶液は、塩基性物質の水溶液とアルコールとの混合液であり、塩基性物質の水溶液のpHは、11.0~14.0である。これらの構成によれば、pH11.0~14.0の塩基性物質の存在下で、低温でエステル化工程を実行できる。特に、従来では、特表2017-502681号公報の[0062]に記載されるように、硫酸等の強酸を高温で基質と反応させる必要があり、安全上の懸念があった。また、熱や強酸の影響によって、たばこ成分含有液中の重要な風味成分やその他の成分が変性してしまう可能性があった。また、熱や強酸の長期間の使用に耐えうる製造設備を準備する必要があり、製造コストが高くなっていた。本発明のたばこ香味液の製造方法によれば、反応の温度を比較的低くすることができ、この場合、極めて簡単かつ安全にたばこ香味液を製造できる。また、たばこ原料の持つ本来の風味を維持しかつエステルによる芳香を増強したたばこ香味液を提供できる。また、製造設備に負担がかかることもない。
本発明のたばこ香味液の製造方法では、反応は、例えば、1~60分間の期間にわたって行われる。この構成によれば、反応を短時間で終了させることができ、短時間でたばこ香味液を製造できるとともに、たばこ香味液の製造に際し、製造設備に負荷がかかることを低減できる。
上記反応は、例えば、振とうしつつ行われる。この構成によれば、外部から力を加えて反応液を混ぜることで、反応を促進できる。
本発明のエステル化合物の製造方法では、抽出工程(S1)で有機溶媒を用いてたばこ原料から成分を抽出してたばこ成分含有液を得て、その後のエステル化工程(S2)で、酸素含有雰囲気下において、上記たばこ成分含有液を、塩基性物質とアルコールとを含む水性溶液と反応させて、たばこ香味液を得て、その後の分離工程(S3)で、上記たばこ香味液からエステル化合物を分離する。このため、極めて簡単かつ安全に、効率よくエステル化合物を得ることができる。
<6.好ましい実施形態>
以下に、本発明の好ましい実施形態をまとめて示す。
[1]
有機溶媒を用いてたばこ原料から成分を抽出してたばこ成分含有液を得ること、および
酸素含有雰囲気において、前記たばこ成分含有液と、塩基性物質とアルコールとを含む水性溶液とを混合し、反応させて、たばこ香味液を得ること、
を含む、たばこ香味液の製造方法。
[2]
前記反応は、0~90℃、好ましくは10~70℃、より好ましくは15~60℃の温度で行われる[1]に記載の方法。
[3]
前記水性溶液は、前記塩基性物質の水溶液と前記アルコールとの混合液であり、
前記塩基性物質の水溶液のpHは、11.0~14.0、好ましくは11.3~13.0、より好ましくは11.8~13.0、さらに好ましくは12.0~13.0である[1]又は[2]のいずれか1項に記載の方法。
[4]
前記塩基性物質は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物である[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5]
前記塩基性物質は、強塩基性である[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6]
前記水性溶液は、前記塩基性物質の水溶液と前記アルコールとの混合液であり、
前記塩基性物質の水溶液には、0.01~5Nの濃度で、好ましくは0.05~0.5Nの濃度で、前記塩基性物質が存在する[1]~[5]に記載の方法。
[7]
前記たばこ成分含有液に含まれる有機溶媒は、前記水性溶液に対して非混和性である[1]~[6]のいずれか1項に記載の方法。
[8]
前記たばこ成分含有液の体積と、前記水性溶液の体積と、の合計に占める前記アルコールの体積の割合は、2.0~28.6%、好ましくは10.7~28.6%である[1]~[7]のいずれか1項に記載の方法。
[9]
前記反応は、1~60分間、好ましくは5~60分間の期間にわたって行われる[1]~[8]のいずれか1項に記載の方法。
[10]
前記反応は、振とうしつつ行われる[1]~[9]のいずれか1項に記載の方法。
[11]
[1]~[10]のいずれか1項に記載されたたばこ香味液の製造方法により製造されたたばこ香味液。
[12]
有機溶媒を用いてたばこ原料から成分を抽出してたばこ成分含有液を得ること、
前記たばこ成分含有液を、酸素含有雰囲気において、塩基性物質とアルコールとを含む水性溶液と反応させて、たばこ香味液を得ること、および
前記たばこ香味液からエステル化合物を分離すること、
を含む、エステル化合物の製造方法。
[13]
[11]に記載のたばこ香味液を含む喫煙物品。
[14]
前記たばこ原料は、オリエント種、黄色種、バーレー種、在来種、たばこ野生種からなる群より選ばれる1種又は2種以上の混合物であり、好ましくは、オリエント種、在来種からなる群より選ばれる1種又は2種以上の混合物である[1]~[10]のいずれか1項に記載の方法。
[15]
前記たばこ原料は、3メチル吉草酸含有量0.5~1.5mg/gで、イソ吉草酸含有量0.05~0.3mg/gのタバコ葉である[1]~[10]、[14]のいずれか1項に記載の方法。
[16]
前記たばこ原料は、農場で収穫した直後の収穫葉、又は収穫から所定時間経過した収穫葉である[1]~[12]、[14]、[15]のいずれか1項に記載の方法。
[17]
前記たばこ成分含有液に含まれる有機溶媒は、ヘキサン、ペンタン、ジエチルエーテル、TBME(t-ブチルメチルエーテル)、および酢酸エチルからなる群より選ばれる1種又は2種以上の混合物である[1]~[12]、[14]~[16]のいずれか1項に記載の方法。
[18]
前記水性溶液は、前記塩基性物質の水溶液と前記アルコールとの混合液であり、前記塩基性物質の水溶液と前記アルコールとは、10:1~1:4の体積比で混合することが好ましく、5:3~1:2の体積比で混合することがより好ましい[1]~[12]、[14]~[17]のいずれか1項に記載の方法。
[19]
前記アルコールは、炭素数5以下の、低級アルコールである[1]~[12]、[14]~[18]のいずれか1項に記載の方法。
[20]
前記抽出は、前記たばこ原料を前記有機溶媒中で、30秒間~数日間、より好ましくは1分間~12時間、最も好ましくは5分間~3時間、の期間で浸漬することにより行われる[1]~[12]、[14]~[19]のいずれか1項に記載の方法。
<水酸化ナトリウム処理の有効性に関する評価>
[例1]
大気雰囲気下で、たばこ原料であるオリエント種の収穫葉1.5kgを3.0Lのヘキサンに25℃で0.5時間浸漬した(抽出工程(S1))。得られたたばこ成分含有液(第1たばこ成分含有液)をろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮乾固した。その濃縮乾固物0.02gをポリプロピレン製遠沈管に取り、これにヘキサン20mLを加えて濃縮乾固物を溶解したたばこ成分含有液(第2たばこ成分含有液)を得た。さらに、同遠沈管に0.5N水酸化ナトリウム水溶液5mLと、エタノール5mLと、を加え、ヘキサン(有機溶媒)と水性溶液(水酸化ナトリウム水溶液、エタノール)との混合液を構成した。大気雰囲気下で、当該混合液が入った遠沈管を25℃で180rpmで60分間振とうした(エステル化工程(S2))。
振とう後に、遠沈管を5分間静置した。これによって、遠沈管内の混合液は、有機溶媒相と、水性溶液相と、の2相に分離した。なお、塩基性物質の濃度が低い場合には、境界層の泡が自然崩壊しづらいため、そのような場合には、境界層の泡を崩壊させるために、遠心分離機を利用して3000rpmで1分間遠心分離を行った。上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)で分析した。また、エステル化工程(S2)に先立ち、アルコールと混合する前の塩基性物質の水溶液のpHを測定した。
[比較例1]
比較例1として、水酸化ナトリウム水溶液5mLの代わりに水5mLを添加し、それ以外の条件を上記例1の同じにしたサンプルを用意した。比較例1についても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[結果]
結果を図4、図6、図10に示す。GC-MSでは、横軸が経過時間であり、縦軸が信号強度である。図4では、例1と比較例1の信号を上方にシフトさせて表示した。
図6に示すように、例1では、たばこ原料中に元々含まれていた各種の吉草酸やヘキサン酸が処理後に消失した。本明細書において、IVAはイソ吉草酸であり、3MVAは3メチル吉草酸であり、4MHAは4メチルヘキサン酸であり、4MVAは4メチル吉草酸である。
図4、図10に示すように、例1では、各種の吉草酸やヘキサン酸の代わりに、各種のエチルエステルが生成された。各種のエチルエステルには、IVA-エチルエステル、3MVA-エチルエステル、4MVA-エチルエステル、4MHA-エチルエステル等が含まれる。例1によれば、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。図4、図10に示すように、比較例1では、各種のエチルエステルを生成せず、各種の吉草酸やヘキサン酸も減少しなかった。例1においてアルコールと混合される前の塩基性物質の水溶液のpHは、13.0であった。
また、例1の他の分析結果(GC-MS)を図5に示す。図5に示すように、例1では、上記したIVA-エチルエステル、3MVA-エチルエステル、4MVA-エチルエステル、4MHA-エチルエステル以外にも、炭素数4~10の有機酸のエチルエステルが各種生成された。例1では、2-メチルプロパン酸エチルエステル(2-Me-C3)、ブタン酸エチルエステル(C4)、3-メチルブタン酸エチルエステル(3-Me-C4)、ペンタン酸エチルエステル(C5)、3-メチルペンタン酸エチルエステル(3-Me-C5)、4-メチルペンタン酸エチルエステル(4-Me-C5)、ヘキサン酸エチルエステル(C6)、ヘプタン酸エチルエステル(C7)、4-メチルヘキサン酸エチルエステル(4-Me-C6)、オクタン酸エチルエステル(C8)、ノナン酸エチルエステル(C9)、デカン酸エチルエステル(C10)、が生成された。なお、例1では、炭素数11以上の有機酸のエステルについては確認されなかった。
[考察]
エステル化工程(S2)では、有機溶媒と水性溶液との混合液中に水酸化ナトリウム等の塩基性物質が存在することが必要であることが分かった。
<ヘキサン以外の有機溶媒の添加の有効性に関する評価>
[例2A]
例2Aでは、エステル化工程(S2)に先立ち濃縮乾固物0.02gを溶解させるため、有機溶媒として、ヘキサン20mLの代わりにペンタン20mLを添加した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例2Aについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ペンタン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例2B]
例2Bでは、エステル化工程(S2)に先立ち濃縮乾固物0.02gを溶解させるため、有機溶媒として、ヘキサン20mLの代わりにジエチルエーテル20mLを添加した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例2Bについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ジエチルエーテル相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例2C]
例2Cでは、濃縮乾固物0.02gを溶解させるため、有機溶媒として、ヘキサン20mLの代わりにTBME(t-ブチルメチルエーテル)20mLを添加した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例2Cについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(TBME相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例2D]
例2Dでは、濃縮乾固物0.02gを溶解させるため、有機溶媒として、ヘキサン20mLの代わりに酢酸エチル20mLを添加した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。比較例2Dについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(酢酸エチル相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[結果]
結果を図6~13に示す。
例2A(ペンタンで溶解)に関して、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸がエステル化工程後に消失し(図6参照)、代わりに各種のエチルエステルが生成した(図10参照)。したがって、例2Aの結果は、例1の結果とほぼ同様であった。例2Aでは、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。なお、図6、図10は、濃縮乾固物を溶解させるために有機溶媒としてヘキサンを用いた結果であるが、例2Aのようにペンタンを用いた場合でも略同様の結果となったため、図6、図10では、例1の結果についてのみ代表として示した。
例2B(ジエチルエーテルで溶解)に関して、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸がエステル化工程後にやや減少し(図7参照)、代わりに各種のエチルエステルが生成された(図11参照)。すなわち、例2Bによれば、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。しかしながら、例2Bで生成された各種のエチルエステルの質量は、例1で生成された各種のエチルエステルの質量の約28%であった。
例2C(TBMEで溶解)に関して、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸がエステル化工程後に少量減少し(図8参照)、代わりに各種のエチルエステルが生成された(図12参照)。すなわち、例2Cによれば、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。しかしながら、例2Cで生成された各種のエチルエステルの質量は、例1で生成された各種のエチルエステルの質量の約10%であった。
例2D(酢酸エチルで溶解)に関して、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸は、エステル化工程後に若干量減少し(図9参照)、代わりに各種のエチルエステルが生成された(図13参照)。すなわち、例2Dによれば、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。しかしながら、例2Dで生成された各種のエチルエステルの質量は、少量であり、例1で生成された各種のエチルエステルの質量の約7%であった。
[考察]
例1、例2A~2D、比較例1の結果から、エステル化工程(S2)に先立ち濃縮乾固物を溶解させるために加えられる有機溶媒としては、特に、例1、例2A~2Cのように、水性溶液に対して非混和性を有することが好ましいことが分かった。一方、比較例1のように、水酸化ナトリウム水溶液5mLの代わりに水5mLを添加した場合には、吉草酸等が減少せず、エチルエステルが生成しないことが分かった。
<エステル化工程の温度に関する評価>
[例3A]
例3Aでは、エステル化工程(S2)における反応温度を15℃とした。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例3Aについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例3B]
例3Bでは、エステル化工程(S2)における反応温度を40℃とした。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例3Bについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例3C]
例3Cでは、エステル化工程(S2)における反応温度を60℃とした。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例3Cについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[比較例2]
比較例2では、エステル化工程(S2)に先立ち、遠沈管に水酸化ナトリウム水溶液5mLの代わりに水5mLを添加した。また、エステル化工程(S2)における反応温度を15℃とした。それら以外の条件を上記例1と同じにした。比較例2についても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[比較例3]
比較例3では、エステル化工程(S2)に先立ち、遠沈管に水酸化ナトリウム水溶液5mLの代わりに水5mLを添加した。また、エステル化工程(S2)における反応温度を40℃とした。それら以外の条件を上記例1と同じにした。比較例3についても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[比較例4]
比較例4では、エステル化工程(S2)に先立ち、遠沈管に水酸化ナトリウム水溶液5mLの代わりに水5mLを添加した。また、エステル化工程(S2)における反応温度を60℃とした。それら以外の条件を上記例1と同じにした。比較例4についても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[結果]
結果を図14に示す。
例3A、3B(エステル化工程の反応温度15℃、40℃)に関して、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸がエステル化工程後に消失し、代わりに各種のエチルエステルが生成した(図14参照)。したがって、例3A、3Bの結果は、例1の結果とほぼ同様であった。例3A、3Bでは、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。
例3C(エステル化工程の反応温度60℃)に関して、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸がエステル化工程後に消失し、代わりに各種のエチルエステルが生成された(図14参照)。したがって、例3Cでは、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。しかしながら、例3Cで生成された各種のエチルエステルの質量は、例1で生成された各種のエチルエステルの質量の約50%であった。
比較例2(水酸化ナトリウム水溶液無添加、エステル化工程の反応温度15℃)に関して、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸がエステル化工程後に減少しなかった。また、エステル化工程後に各種のエチルエステルも生成されなかった(図14参照)。
比較例3(水酸化ナトリウム水溶液無添加、エステル化工程の反応温度40℃)に関して、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸は、エステル化工程後に減少しなかった。また、エステル化工程後に各種のエチルエステルも生成されなかった(図14参照)。
比較例4(水酸化ナトリウム水溶液無添加、エステル化工程の反応温度60℃)に関して、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸は、エステル化工程後に減少しなかった。また、エステル化工程後に各種のエチルエステルも生成されなかった(図14参照)。
[考察]
例1、3A~3Cの結果から、例3Cのように、反応温度を高くすると、エステル化反応の効率が低下することが分かった。したがって、エステル化工程(S2)の反応温度は、15~60℃であることが好ましく、15~40℃であることがより好ましいことが分かった。比較例1、2~4の結果から、エステル化工程(S2)では、塩基性物質の存在が必須であり、塩基性物質の不存在下で温度を変動させた場合でも、エステル化反応が進まないことが分かった。以上のことから、エステル化工程(S2)で起こっているエステル化反応では、たばこ原料由来の何らかの触媒成分が反応液中に存在している可能性が示唆される。この触媒成分は、現時点では同定できていない。この触媒成分によってエステル化反応が促進されている可能性がある。そして、エステル化工程(S2)の反応温度が60℃を超えた場合には、当該触媒成分の至適作用温度から外れた状態となることが示唆される。
なお、この触媒成分は、複数ある候補のうちの1つとして、何らかの酵素であることが考えられる。仮に触媒成分が酵素であると考えた場合には、エステル化工程(S2)の反応温度が60℃を超えた場合には活性が著しく低下している可能性がある。
<塩基性物質の濃度に関する評価>
[例4A]
例4Aでは、エステル化工程(S2)に先立ち、0.5N水酸化ナトリウム水溶液5mLに代えて、0.25N水酸化ナトリウム水溶液5mLを遠沈管に加えて、混合液を構成した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例4Aについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。また、エステル化工程(S2)に先立ち、アルコールと混合する前の塩基性物質の水溶液(水酸化ナトリウム水溶液)のpHを測定した。
[例4B]
例4Bでは、エステル化工程(S2)に先立ち、0.5N水酸化ナトリウム水溶液5mLに代えて、0.1N水酸化ナトリウム水溶液5mLを遠沈管に加えて、混合液を構成した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例4Bについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。また、エステル化工程(S2)に先立ち、アルコールと混合する前の塩基性物質の水溶液(水酸化ナトリウム水溶液)のpHを測定した。
[例4C]
例4Cでは、エステル化工程(S2)に先立ち、0.5N水酸化ナトリウム水溶液5mLに代えて、0.05N水酸化ナトリウム水溶液5mLを遠沈管に加えて、混合液を構成した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例4Cについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。また、エステル化工程(S2)に先立ち、アルコールと混合する前の塩基性物質の水溶液(水酸化ナトリウム水溶液)のpHを測定した。
[例4D]
例4Dでは、エステル化工程(S2)に先立ち、0.5N水酸化ナトリウム水溶液5mLに代えて、0.01N水酸化ナトリウム水溶液5mLを遠沈管に加えて、混合液を構成した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例4Dについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
結果を図15に示す。
例4A~4Cのいずれについても、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸がエステル化工程後に消失し、代わりに各種のエチルエステルが生成された。したがって、例4A~4Dでは、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。例4A~4Dのいずれについても、エステル化工程において生成した各種のエチルエステルの量は、例1で生成した各種のエチルエステルの量と同等であった。したがって、例4A~4Dの結果は、例1の結果とほぼ同様であった。
[考察]
例1、4A~4Dの結果から、エステル化工程(S2)に用いられる強塩基の塩基性物質(水酸化ナトリウム)の水溶液の濃度は、0.01N以上であれば十分であることがわかった。
<塩基性物質の水溶液のpHに関する評価>
以下の例4E~4Kを用いて、塩基性物質の水溶液のpHと各種エステルの生成効率の関係をさらに詳細に検討した。
[例4E]
例4Eでは、エステル化工程(S2)に先立ち、0.5N水酸化ナトリウム水溶液5mLに代えて、pH12.6の水酸化ナトリウム水溶液5mLを遠沈管に加えて、混合液を構成した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例4Eについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例4F]
例4Fでは、エステル化工程(S2)に先立ち、0.5N水酸化ナトリウム水溶液5mLに代えて、pH13.0の水酸化ナトリウム水溶液5mLを遠沈管に加えて、混合液を構成した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例4Fについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。さらに、例4EのGC-MS分析で得られた3MVA-エチルエステルのピーク高さを100とした場合の、例4FのGC-MS分析で得られた3MVA-エチルエステルのピーク高さの数値を算出した。
[例4G]
例4Gでは、エステル化工程(S2)に先立ち、0.5N水酸化ナトリウム水溶液5mLに代えて、pH12.2の水酸化ナトリウム水溶液5mLを遠沈管に加えて、混合液を構成した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例4Gについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。さらに、例4EのGC-MS分析で得られた3MVA-エチルエステルのピーク高さを100とした場合の、例4GのGC-MS分析で得られた3MVA-エチルエステルのピーク高さの数値を算出した。
[例4H]
例4Hでは、エステル化工程(S2)に先立ち、0.5N水酸化ナトリウム水溶液5mLに代えて、pH11.8の水酸化ナトリウム水溶液5mLを遠沈管に加えて、混合液を構成した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例4Hについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。さらに、例4EのGC-MS分析で得られた3MVA-エチルエステルのピーク高さを100とした場合の、例4HのGC-MS分析で得られた3MVA-エチルエステルのピーク高さの数値(エステル化率)を算出した。
[例4I]
例4Iでは、エステル化工程(S2)に先立ち、0.5N水酸化ナトリウム水溶液5mLに代えて、pH11.3の水酸化ナトリウム水溶液5mLを遠沈管に加えて、混合液を構成した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例4Iについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。さらに、例4EのGC-MS分析で得られた3MVA-エチルエステルのピーク高さを100とした場合の、例4IのGC-MS分析で得られた3MVA-エチルエステルのピーク高さの数値(エステル化率)を算出した。
[例4J]
例4Jでは、エステル化工程(S2)に先立ち、0.5N水酸化ナトリウム水溶液5mLに代えて、pH11.1の水酸化ナトリウム水溶液5mLを遠沈管に加えて、混合液を構成した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例4Jについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。さらに、例4EのGC-MS分析で得られた3MVA-エチルエステルのピーク高さを100とした場合の、例4JのGC-MS分析で得られた3MVA-エチルエステルのピーク高さの数値(エステル化率)を算出した。
[例4K]
例4Kでは、エステル化工程(S2)に先立ち、0.5N水酸化ナトリウム水溶液5mLに代えて、pH10.7の水酸化ナトリウム水溶液5mLを遠沈管に加えて、混合液を構成した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例4Kについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。さらに、例4EのGC-MS分析で得られた3MVA-エチルエステルのピーク高さを100とした場合の、例4KのGC-MS分析で得られた3MVA-エチルエステルのピーク高さの数値(エステル化率)を算出した。
[結果]
例4E~4Kのいずれについても、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸がエステル化工程後に消失し、代わりに各種のエチルエステルが生成された。したがって、例4E~4Kでは、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。例4Fのエステル化率は、87.56であり、例4Gのエステル化率は、97.01であり、例4Hのエステル化率は、59.70であり、例4Iのエステル化率は、7.46であり、例4Jのエステル化率は、4.97であり、例4Kのエステル化率は、1.99であった。
[考察]
例4E~4Kの結果から、エステル化工程(S2)に用いられる塩基性物質(水酸化ナトリウム)の水溶液は、pH11.3以上になると、3MVA-エチルエステルの生成量が急激に増大することが分かった。このため、エステル化工程(S2)に用いられる塩基性物質(水酸化ナトリウム)の水溶液は、pH11.3~13.0であれば、十分な量の3MVA-エチルエステルが生成されることがわかった。また、エステル化工程(S2)に用いられる塩基性物質(水酸化ナトリウム)の水溶液は、pH11.8~13.0であれば、エステル化率が約60以上となり、さらに十分な量の3MVA-エチルエステルが生成されることがわかった。
<水酸化ナトリウム以外の塩基性物質に関する評価>
[例5A]
例5Aでは、エステル化工程(S2)に先立ち、0.5N水酸化ナトリウム水溶液5mLに代えて、0.5N水酸化カリウム水溶液5mLを遠沈管に加えて、混合液を構成した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例5Aについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。また、エステル化工程(S2)に先立ち、アルコールと混合する前の塩基性物質の水溶液(0.5N水酸化カリウム水溶液)のpHを測定した。
[例5B]
例5Bでは、エステル化工程(S2)に先立ち、0.5N水酸化ナトリウム水溶液5mLに代えて、0.5N水酸化カルシウム水溶液5mLを遠沈管に加えて、混合液を構成した。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例5Bについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。また、エステル化工程(S2)に先立ち、アルコールと混合する前の塩基性物質の水溶液(0.5N水酸化カルシウム水溶液)のpHを測定した。
[結果]
結果を図17に示す。
例5A(0.5N水酸化カリウム水溶液添加)および例5B(0.5N水酸化カルシウム水溶液添加)に関して、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸がエステル化工程後に消失し、代わりに各種のエチルエステルが生成した(図17参照)。例5A、5Bの結果は、例1の結果とほぼ同様であった。したがって、例5A、5Bでは、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。
例5Aの水性溶液のpHは、13.3であった。例5Bの水性溶液のpHは、12.3であった。
[考察]
例1、5A、5B、5Cの結果から、エステル化工程(S2)では、水性溶液中に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムといった、電離度が1に近い強塩基の塩基性物質が効果的であることが分かった。
また、例1、5A、5Bの結果から、エステル化工程(S2)において、水性溶液のpHは、12.3~13.3であり、強塩基性のpHが効果的であることが分かった。したがって、例1、5A、5Bの結果と、上記例1、4A~4Kの結果の両方を考慮すると、エステル化工程(S2)において、塩基性物質の水溶液のpHは、11.3~13.3であることが好ましく、強塩基性のpHが効果的であることが分かった。
<エタノール以外のアルコール添加の有効性に関する評価>
[例6A]
例6Aでは、エステル化工程(S2)に先立ち、アルコールとして、エタノール5mLの代わりにメタノール5mLを添加し、それ以外の条件を上記例1と同じにした。例6Aについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例6B]
例6Bでは、エステル化工程(S2)に先立ち、アルコールとして、エタノール5mLの代わりに1-プロパノール5mLを添加し、それ以外の条件を上記例1と同じにした。例6Bについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例6C]
例6Cでは、エステル化工程(S2)に先立ち、アルコールとして、エタノール5mLの代わりに1-ブタノール5mLを添加し、それ以外の条件を上記例1と同じにした。例6Cについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[結果]
結果を図18に示す。なお、図18では、例1、6A~8Cの線が重ならないように、各例の線を上下方向にシフトさせている。
例6A(メタノール添加)に関して、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸がエステル化工程後に消失し、代わりに各種のメチルエステル(3メチル吉草酸メチルエステル、イソ吉草酸メチルエステル)が生成した。例6Aでは、各種メチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。
例6B(1-プロパノール添加)に関して、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸がエステル化工程後に消失し、代わりに各種のプロピルエステル(3メチル吉草酸プロピルエステル、イソ吉草酸プロピルエステル)が生成した。例6Bでは、各種プロピルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。
例6C(1-ブタノール添加)に関して、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸がエステル化工程後に消失し、代わりに各種のブチルエステル(3メチル吉草酸ブチルエステル、イソ吉草酸ブチルエステル)が生成した。例6Cでは、各種ブチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。
[考察]
例1、6A~6Cの結果から、エステル化工程(S2)に先立ち、水性溶液に加えられるアルコールは、低級アルコール、1価のアルコール、および第1級アルコール等が好ましいことが分かった。
<エタノールの添加量に関する評価>
[例7A]
例7Aでは、エステル化工程(S2)に先立ち、アルコールとして、エタノール5mLの代わりにエタノール10mLを添加し、それ以外の条件を上記例1と同じにした。例7Aについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例7B]
例7Bでは、エステル化工程(S2)に先立ち、アルコールとして、エタノール5mLの代わりにエタノール3mLを添加し、それ以外の条件を上記例1と同じにした。例7Bについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例7C]
例7Cでは、エステル化工程(S2)に先立ち、アルコールとして、エタノール5mLの代わりにエタノール0.5mLを添加し、それ以外の条件を上記例1と同じにした。例7Cについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[比較例5]
比較例5では、エステル化工程(S2)に先立ち、遠沈管にエタノール5mLを添加せず、それ以外の条件を上記例1と同じにした。比較例5についても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[結果]
結果を図19に示す。
図19に示すように、例7A、7B(エタノール10mL、3mLを添加)のいずれについても、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸がエステル化工程後に消失し、代わりに各種のエチルエステルが生成された。したがって、例7A、7Bでは、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。例7A、7Bのいずれについても、エステル化工程において生成した各種のエチルエステルの量は、例1で生成した各種のエチルエステルの量と同等であった。したがって、例7A、7Bの結果は、例1の結果とほぼ同様であった。
例7C(エタノール0.5mLを添加)について、たばこ原料中に元々含まれていた吉草酸やヘキサン酸がエステル化工程後に減少し、代わりに各種のエチルエステルが生成された。したがって、例7Cでは、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。ただし、例7Bについて、エステル化工程において生成した各種のエチルエステルの量は、例1で生成した各種のエチルエステルの量の約55%であった。
図19に示すように、比較例5(エタノールを添加せず)では、各種のエチルエステルが形成されることはなかったが、各種の吉草酸やヘキサン酸は減少した。
[考察]
例1、7A~7Cの結果から、エステル化工程(S2)において、水性溶液に含まれるアルコール(エタノール)の量は、0.5~10.0mLが好ましいことが分かった。したがって、たばこ成分含有液の体積と、水性溶液の体積と、の合計に占めるアルコールの体積の割合は、2.0~28.6%であることが好ましいことが分かった。
或いは、エステル化工程(S2)において、水性溶液として添加するアルコール(エタノール)の量は、3.0~10.0mLがより一層好ましいことが分かった。したがって、たばこ成分含有液の体積と、水性溶液の体積と、の合計に占めるアルコールの体積の割合は、10.7~28.6%であることが好ましいことが分かった。
例7Cでは、各種のエチルエステルが生成するも、それらの生成量が例1に比して少なかったため、エステル化工程(S2)における混合液においてアルコール(エタノール)の液量が少なく、反応がゆっくり進行したものと考えられる。
<エステル化工程の反応時間に関する評価>
[例8A]
例8Aでは、エステル化工程(S2)において、当該混合液が入った遠沈管の振とう時間を60分間ではなく、40分間とした。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例8Aについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例8B]
例8Bでは、エステル化工程(S2)において、当該混合液が入った遠沈管の振とう時間を60分間ではなく、30分間とした。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例8Bについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例8C]
例8Cでは、エステル化工程(S2)において、当該混合液が入った遠沈管の振とう時間を60分間ではなく、20分間とした。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例8Cについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例8D]
例8Dでは、エステル化工程(S2)において、当該混合液が入った遠沈管の振とう時間を60分間ではなく、10分間とした。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例8Dについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例8E]
例8Eでは、エステル化工程(S2)において、当該混合液が入った遠沈管の振とう時間を60分間ではなく、5分間とした。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例8Eについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例8F]
例8Fでは、エステル化工程(S2)において、当該混合液が入った遠沈管の振とう時間を60分間ではなく、1分間とした。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例8Fについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[例8G]
例8Gでは、エステル化工程(S2)において、当該混合液が入った遠沈管を振とうせず、静置状態で数秒間反応させた。それ以外の条件を上記例1と同じにした。例8Gについても例1と同様に抽出工程(S1)、エステル化工程(S2)を行い上層の有機溶媒相(ヘキサン相)から取り出した液をGC-MSで分析した。
[結果]
結果を図20、図21に示す。なお、図20では、例1、8A~8Gの線が重ならないように、各例の線を上下方向にシフトさせている。
例8A~8E(40~5分間振とう)では、例1と同等量の各種エチルエステルが生成された。例8A~8Eでは、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。
例8F(1分間振とう)では、例1で生成された各種エチルエステルの質量の約70%に相当する質量の各種エチルエステルが生成された。例8Fでは、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。
例8G(振とうせず)では、例1で生成された各種エチルエステルの質量の約10%に相当する質量の各種エチルエステルが生成された。例8Gでは、各種エチルエステルが増強されたたばこ香味液或いはエステル化合物を得ることができた。
[考察]
例8A~8Fの結果から、エステル化工程(S2)における反応(振とう)は、1分間以上の期間にわたって行われることが好ましく、1~60分間の期間にわたって行われることがより好ましく、5~60分間の期間にわたって行われることがより一層好ましい。
[符号の説明]
11…加熱型香味吸引器、12…たばこ充填材、13…筐体、14…吸口、15…エアロゾル源収納部、16…バッテリ、17…制御回路、18…カートリッジ、21…通気孔、22…たばこ香味源、23…ウィック、24…ヒータ、25…案内路、26…電力線。