次に、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
まず、図1を参照して、本発明の実施形態による車両制御システムを搭載した車両について説明する。図1は、本発明の実施形態による車両制御システムを搭載した車両の全体構成を示すブロック図である。
図1において、符号1は、本実施形態による車両制御システムを搭載した車両を示す。
車両1の車体前部には操舵輪である左右の前輪2aが設けられ、車体後部には駆動輪である左右の後輪2bが設けられている。これら車両1の前輪2a、後輪2bは、車体に対してサスペンション3により夫々支持されている。また、車両1の車体前部には、後輪2bを駆動する原動機であるエンジン4が搭載されている。本実施形態においては、エンジン4は、ガソリンエンジンであるが、原動機としてディーゼルエンジンなどの内燃エンジンや、電力により駆動されるモータを使用することもできる。また、本実施形態において、車両1は、車体前部に搭載されたエンジン4により、トランスミッション4a、プロペラシャフト4b、ディファレンシャルギア4cを介して後輪2bが駆動される所謂FR車であるが、車体後部に搭載されたエンジン4により後輪2bを駆動する所謂RR車等、原動機により後輪が駆動される任意の車両に本発明を適用することができる。
また、車両1には、ステアリングホイール6の回転操作に基づいて前輪2aを操舵する操舵装置7が搭載されている。さらに、車両1は、ステアリングホイール6の回転角度を検出する操舵角センサ8、アクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出する運転状態センサであるアクセル開度センサ10、及び、車速を検出する車速センサ12を有する。これらの各センサは、それぞれの検出値を制御器であるPCM(Power-train Control Module)14に出力する。本発明の実施形態による車両制御システムは、これらの操舵角センサ8、アクセル開度センサ10、車速センサ12、及びPCM14から構成されている。
また、各後輪2bを支持するためのサスペンション3には、その圧縮量を測定するサスペンションセンサ3aが設けられており、このサスペンションセンサ3aの検出信号はPCM14に送信されるように構成されている。このサスペンションセンサ3aにより、車両後部の沈み込みの大きさを測定することができる。
さらに、図1に想像線で示すように、車両1は、その後端部からトレーラ(被牽引車)1aを牽引可能に構成されている。車両1の後端部には、トレーラ1aを牽引するためのフック(図示せず)が設けられており、このフックにはトレーラ1aを牽引しているか否かを検出するための牽引センサ13が備えられている。この牽引センサ13の検出信号は、PCM14に送信されるように構成されている。
次に、図2を参照して、本発明の実施形態による車両制御システムの電気的構成を説明する。図2は、本発明の実施形態による車両制御システムの電気的構成を示すブロック図である。
PCM14は、上述した各センサの検出信号の他、エンジン4の運転状態を検出する各種センサが出力した検出信号に基づいて、エンジン4の各部(例えば、スロットルバルブ5a、インジェクタ5b、点火プラグ5c、可変動弁機構5d等)に対する制御を行うべく、制御信号を出力するように構成されている。
PCM14は、基本トルク設定部16と、増加トルク設定部18と、減少トルク設定部20と、エンジン制御部22とを有する。基本トルク設定部16は、運転状態センサであるアクセル開度センサ10等の検出信号に基づいて、エンジン4が発生すべき基本トルクを設定するように構成されている。増加トルク設定部18は、操舵角センサ8により操舵角の増加が検出されると、基本トルクを増加させるように、増加トルクを設定するように構成されている。減少トルク設定部20は、操舵角センサ8により操舵角の減少が検出されると、基本トルクが低減されるように、低減トルクを設定するように構成されている。エンジン制御部22は、基本トルクに増加トルクを加算したトルク、又は低減トルクを減算したトルクが発生するように、エンジン4を制御するように構成されている。
これらのPCM14の各構成要素は、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
なお、図2には図示していないが、アクセル開度センサ10、車速センサ12の他、運転状態センサとしてブレーキセンサ、エンジン回転数センサ等を備えていてもよい。また、エンジン制御部22は、エンジン4に備えられた燃料噴射弁、点火プラグ、吸気スロットル弁、吸気可変動弁機構(以上、図示せず)等を制御してエンジン4が発生するトルクを制御するように構成されている。
次に、図3乃至図8を参照して、車両制御システムが実行する本発明の実施形態による車両制御方法を説明する。
図3は、本発明の実施形態による車両制御システムに備えられたPCM14がエンジン4を制御するエンジン制御処理のフローチャートである。
図3のエンジン制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両制御システムに電源が投入された場合に起動され、繰り返し実行される。
エンジン制御処理が開始されると、図3に示すように、ステップS1において、PCM14は車両1の運転状態に関する各種センサ信号を読み込んで取得する。具体的には、PCM14は、操舵角センサ8が検出した操舵角、アクセル開度センサ10が検出したアクセル開度、車速センサ12が検出した車速、車両1の変速機に現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
次に、ステップS2において、PCM14の基本トルク設定部16は、ステップS1において取得されたアクセルペダルの操作や車速を含む車両1の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、基本トルク設定部16は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を決定する。
次に、ステップS3において、基本トルク設定部16は、ステップS2において決定した目標加速度を実現するためのエンジン4の基本トルクを決定する。即ち、基本トルク設定部16は、基本トルク設定工程として、車両1の運転状態に基づいて原動機であるエンジン4が発生すべき基本トルクを設定する。この場合、基本トルク設定部16は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン4が出力可能なトルクの範囲内で、基本トルクを決定する。
一方、ステップS2及びS3の処理と並行して、ステップS4において、増加トルク設定部18及び減少トルク設定部20は、ステアリング操作に基づき車両1に加速度又は減速度を付加するためのトルクを決定するトルク付加量設定処理を実行する。即ち、ステップS4においては、操舵装置7の操舵角の増加に基づいて、基本トルクを増加させるように増加トルクを設定する増加トルク設定工程、又は、操舵装置の操舵角の減少に基づいて、基本トルクが低減されるように、低減トルクを設定する低減トルク設定工程が実行される。このトルク付加量設定処理については、図4を参照して後述する。
ステップS2及びS3の処理及びステップS4のトルク付加量設定処理を行った後、ステップS5において、ステップS3において決定した基本トルクに、ステップS4のトルク付加量設定処理において決定した増加トルク又は低減トルクを加算又は減算することにより、最終目標トルクが決定される。ここで、基本トルクが、アクセルペダルの操作等、ドライバの運転操作に応じて設定されるトルクであるのに対し、増加トルク、低減トルクは、車両1がドライバの意図により近い挙動を示すようにPCM14により自動的に付加又は低減されるトルクである。
次いで、ステップS6において、PCM14は、ステップS5において設定した最終目標トルクを実現するためのアクチュエータ制御量を設定する。具体的には、PCM14は、ステップS5において設定した最終目標トルクに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン4の各構成要素を駆動する各アクチュエータの制御量を設定する。この場合、PCM14は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定する。
続いて、ステップS7において、PCM14は、ステップS6において設定した制御量に基づき各アクチュエータへ制御指令を出力する。
例えば、エンジン4がガソリンエンジンである場合、PCM14は、ステップS5において基本トルクに増加トルクを加算することにより最終目標トルクが設定された場合、点火プラグ5cの点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角させる。また、点火時期の進角に代えて、あるいはそれと共に、PCM14は、スロットル開度を大きくしたり、下死点後に設定されている吸気弁の閉時期を進角させたりすることによって、吸入空気量を増加させる。この場合、PCM14は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ5bによる燃料噴射量を増加させる。
他方で、ステップS5において基本トルクから低減トルクを減算することにより最終目標トルクが設定された場合、PCM14は、点火プラグ5cの点火時期を、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角させる(リタードする)。また、点火時期の遅角に代えて、あるいはそれと共に、PCM14は、スロットル開度を小さくしたり、下死点後に設定されている吸気弁の閉時期を遅角させたりすることによって、吸入空気量を減少させる。この場合、PCM14は、所定の空燃比が維持されるように、吸入空気量の増加に対応して、インジェクタ5bによる燃料噴射量を減少させる。
また、エンジン4がディーゼルエンジンである場合、PCM14は、ステップS5において基本トルクに増加トルクを加算することにより最終目標トルクが設定された場合、インジェクタ5bによる燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも増加させる。他方で、ステップS5において基本トルクから低減トルクを減算することにより最終目標トルクが設定された場合、PCM14は、インジェクタ5bによる燃料噴射量を、基本トルクを発生させるための燃料噴射量よりも減少させる。
ステップS7の後、PCM14は、図3に示すフローチャートによる1回のエンジン制御処理を終了する。
次に、図4乃至図8を参照して、図3のステップS4において実行されるトルク付加量設定処理を説明する。
図4は、本発明の実施形態においてPCM14が増加トルクを決定するトルク付加量設定処理のフローチャートであり、図5は、本発明の実施形態においてPCM14が決定する目標付加加速度と操舵速度との関係を示したマップである。図6は車両後部の沈み込み量に応じて増加トルクに乗じる沈み込み係数の値を示す係数マップであり、図7は目標付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。図8は、車両後部の沈み込み量に応じて低減トルクに乗じる第2沈み込み係数の値を示す係数マップである。
図4に示すトルク付加量設定処理が開始されると、ステップS21において、図3に示すフローチャートのステップS1において取得した操舵装置7の操舵角が増加しているか否かがPCM14により判断される。即ち、操舵角(の絶対値)は、車両1が直進する状態をゼロとし、ステアリングホイール6が時計回り又は反時計回りに回転されると増加する。なお、本実施形態においては、操舵装置7を構成するステアリングシャフトに設けられた操舵角センサ8により操舵角を検出しているが、前輪2a(操舵輪)の角度を検出するセンサ等、任意のセンサにより操舵角を検出することができる。
ステップS21において、操舵角(の絶対値)が増加していないと判断された場合にはステップS22に進み、ここでは、操舵角(の絶対値)が減少しているか否かが判断される。即ち、ステップS22においては、ステアリングホイール6の回転角が操舵角=0の状態に近づいているか否かが判断される。ステップS22において、操舵角が減少していない場合には、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了し、図3に示すメインルーチンに処理が復帰する。即ち、ドライバにより操舵操作が行われていない(操舵速度=0)場合には、増加トルク又は低減トルクが設定されることはなく、図3のステップS3において設定された基本トルクが最終目標トルクに決定される。
一方、ステップS21において操舵角が増加していると判断された場合にはステップS23に進み、ステップS23においては、操舵速度が所定値以上か否かが判断される。即ち、PCM14は、図3のステップS1において取得した操舵角に基づき操舵速度を算出し、その値が所定の閾値TS1以上であるか否かを判断する。操舵速度が所定の閾値TS1以上でない場合には、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了し、図3に示すメインルーチンに処理が復帰する。即ち、操舵速度が極めて小さい場合には、ドライバには操舵を行う意志がないと考えられるため、増加トルク設定部18による増加トルクの設定は実行されない。これにより、ドライバには操舵を行う意志がない状態で、不要なトルク付加量設定処理が介入するのを防止することができる。
ステップS23において、操舵速度が所定値以上であると判断された場合には、ステップS24に進む。即ち、ドライバがステアリング6を切り込んだ(Turn-in)場合に、ステップS24以下の処理が実行される。ステップS24以下の処理では、増加トルク設定工程として、車両1に加速度を付加するために必要なエンジン4の出力トルクの増加量(増加トルク)が、増加トルク設定部18により設定される。
まず、ステップS24において、増加トルク設定部18は、操舵速度に基づき目標付加加速度を取得する。この目標付加加速度は、ドライバの意図した車両挙動を正確に実現するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき加速度である。
具体的には、増加トルク設定部18は、図5のマップに示した目標付加加速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS23において算出した操舵速度に対応する目標付加加速度を取得する。
図5における横軸は操舵速度を示し、縦軸は目標付加加速度を示す。図5に示すように、操舵速度が閾値TS1以下である場合、対応する目標付加加速度は0である。即ち、操舵速度が閾値TS1以下である場合、PCM14は、ステアリング操作に基づき車両1に加速度を付加するための制御を実行しない(増加トルクを設定せずにメインルーチンに復帰する)。
一方、操舵速度が閾値TS1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する目標付加加速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど目標付加加速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に加速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の加速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値TS1よりも大きい閾値TS2以上の場合には、目標付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
なお、本実施形態においては、操舵速度の閾値TS1は一定値に設定されているが、変形例として、閾値TS1を、図3のステップS3において設定された基本トルクに応じて変更するように構成することもできる。この場合、基本トルクが低い場合には、基本トルクが高い場合よりも、閾値TS1を高く設定するのが良い。また、別の変形例として、増加トルク(目標付加加速度)の設定は、操舵装置7の操舵角が所定の操舵角閾値以上になった場合に実行され、基本トルクが低い場合には、基本トルクが高い場合よりも、操舵角閾値が高く設定されるように本発明を構成することもできる。
次に、ステップS25においては、ステップS24において取得された目標付加加速度を実現するために必要なトルクの増加量である増加トルクが、増加トルク設定部18により設定される。
次いで、ステップS26においては、重量物判定工程として、車両1の後輪2bのサスペンション3に取り付けられたサスペンションセンサ3aによって測定された沈み込み量が、所定の沈み込み閾値Dth以上であるか否かが判断される。即ち、サスペンションセンサ3aは、車両1に積載物がない状態を基準として、車両1に重量物を積載した場合等に生じるサスペンション3の圧縮量(沈み込み量)を測定するように構成されている。例えば、車両1の後部に重量物が積載された場合や、車両1の後部座席に複数人が乗車した場合、車両1の後端のフック(図示せず)でトレーラ1a等を牽引した場合、車両1後部に車体を押し下げる比較的大きな力が働き、サスペンション3が圧縮される。
なお、本実施形態においては、サスペンション3にサスペンションセンサ3aを取り付けることにより、車両1後部の沈み込み量を測定しているが、他のセンサの検出値に基づいて沈み込み量を測定又は推定することもできる。例えば、車両1の後部座席に設けた乗員センサ(図示せず)により、後部座席に所定人数の乗員が乗車していることが検知された場合に、車両後部の沈み込んでいることを推定するように、本発明を構成することもできる。
ステップS26において、沈み込み量が所定の沈み込み閾値Dth未満であると判断された場合には、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了し、メインルーチンに復帰する。この場合には増加トルクが補正されることはなく、図3のステップS5において、図4のステップS25において設定された増加トルクが基本トルクに加算され、最終目標トルクが決定される。このように、沈み込み量が小さい場合には、前輪2a及び後輪2bの荷重に与える影響は軽微であり、増加トルクを補正する必要はない。
ステップS26において、沈み込み量が所定の沈み込み閾値Dth以上であると判断された場合にはステップS27に進み、ここでは、牽引判定工程として、車両1がトレーラ1a等を牽引しているか否かが判断される。本実施形態においては、牽引センサ13の検出信号に基づいて、トレーラ1a等を牽引しているか否かが判断される。牽引センサ13は、車両1後部のフック(図示せず)に設けられたスイッチであり、フックにトレーラ1a等を掛けることにより電気接点が閉じ、牽引を行っていることが検知される。
しかしながら、専用のセンサを設けることなく牽引の有無を推定することもできる。例えば、駆動輪(後輪2b)に加えた駆動トルクに基づいて車両1に生じる加速度を推定し、推定された加速度と、車両1に実際に生じた加速度との差に基づいて、牽引の有無を判断することもできる。なお、車両1が上り勾配の路面を走行している場合にも、駆動トルクから推定される加速度と実際の加速度の間に差が生じる。しかしながら、車両1が牽引を行っている場合には、通常の上り勾配では発生し得ないほど実際の加速度が大きく低下するので、牽引と上り勾配の走行は十分に区別することができる。
ステップS27において、車両1が牽引を行っていると判断された場合にはステップS28に進み、牽引を行っていないと判断された場合にはステップS29に進む。
ステップS29においては、ステップS25において設定された増加トルクが、車両1後部の沈み込み量に応じて補正される。即ち、車両後部の沈み込みが大きいことが検出され、又は推定された場合には、沈み込みが小さい場合よりも増加トルクが大きく設定される。
具体的には、車両1後部の沈み込みが大きい場合には、操舵輪(前輪2a)の荷重が相対的に低下していると判断され、沈み込みが小さい場合よりも増加トルクが大きく設定される。この増加トルクの補正は、ステップS25において設定された増加トルクの値[Nm]に、図6に示す係数を乗じることにより実行される。
図6は、車両1後部の沈み込み量(後輪2bのサスペンション3の圧縮量)に応じて増加トルクに乗じる沈み込み係数の値を示す係数マップである。図6の横軸は沈み込み量を表し、縦軸は沈み込み係数K1の値を表している。図6に示すように、沈み込み係数K1の値は、沈み込み量がゼロから沈み込み閾値Dthまでは沈み込み係数K1=1であり、沈み込み閾値Dth以上では沈み込み量が大きくなるほど直線的に沈み込み係数K1の値が大きくなっている。PCM14の増加トルク設定部18は、車両1の走行中における沈み込み量に基づいて、図6に示す沈み込み係数マップを使用して沈み込み係数K1を決定する。
即ち、車両1の後部が沈み込んでいる場合には、車体はリア側が沈むように後傾する。このため、車両1の後部が沈み込んだ状態では、相対的に後輪2bの荷重が増加し、前輪2aの荷重が低下した状態となる。このように、前輪2a荷重が低下した状態では、増加トルクを付与することにより瞬間的に前輪2aの荷重を増加させたとしても、通常走行時よりも車両の応答性の改善効果が少なくなる。このため、車両1の後部が沈み込んでいる場合には、1よりも大きい沈み込み係数K1が乗じられ、増加トルクの値が大きく設定される。
なお、本実施形態においては、車両1後部の沈み込み量が沈み込み閾値Dth以上になると、沈み込み量が大きくなるほど沈み込み係数K1が直線的に増加するように構成されているが、沈み込み係数K1が段階的に変化するように本発明を構成することもできる。例えば、後部座席に設けた乗員センサ(図示せず)により、後部座席に所定人数以上の乗員が乗車していることが検知された場合に車両1後部の沈み込み量が大きいと推定し、沈み込み係数K1が1よりも大きい所定の値に設定されるように本発明を構成することもできる。或いは、牽引センサ13によりトレーラ1aの牽引が検知された場合に車両1後部の沈み込み量が大きいと推定し、沈み込み係数K1が1よりも大きい所定の値に設定されるように本発明を構成することもできる。
PCM14の増加トルク設定部18は、決定された沈み込み係数K1を、ステップS25において設定された増加トルクに乗じ、増加トルクの値を補正して、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了する。図4のフローチャートの終了後、処理はメインルーチンである図3に示すフローチャートのステップS5に復帰する。図3のステップS5においては、上述したように、トルク付加量設定処理(図4)において決定した増加トルクが基本トルクに加算され、最終目標トルクが決定され、このトルクが発生するようにエンジンが制御される(ステップS6、S7)。
ステップS27において、車両1が牽引を行っていると判断された場合にはステップS28に進み、ステップS28においては、車両1のヨーレートの反転が繰り返されているか否かが判断される。即ち、車両1がトレーラ1aを牽引している場合には、走行速度が高くなった場合等に、トレーラ1aが左右に振れ、車両1のヨーレートの反転が繰り返し発生する所謂スウェイ現象が発生することがある。PCM14は車両1に搭載されたヨーレートセンサ(図示せず)が検出したヨーレートに基づき、車両1が牽引しているトレーラ1aがスウェイ状態か否かを判定する。
具体的には、PCM14は、ヨーレートの反転(時計回りのヨーレートと反時計回りのヨーレートの切り替わり)が繰り返されており、その反転の振幅(時計回りのヨーレートの最大値と反時計回りのヨーレートの最大値との和)が所定値Y1以上、且つ反転の周期(ヨーレートの反転が生じてから次の反転が生じるまでの時間)が所定値T1以下である場合に、トレーラ1aがスウェイ状態にあると判定する。本実施形態においては、所定値Y1=0.1[rad/sec]、所定値T1=5[sec]である。
なお、本実施形態においては、レーラ1aのスウェイ状態を車両1のヨーレートに基づいて判定しているが、変形例として、車両1の左右の振れが繰り返し発生しているか否かに基づいて判定することもできる。この場合には、車両1に搭載した横加速度計(図示せず)によって測定された横加速度の振幅が所定値以上であり、横加速度の振動周期が所定値以下である場合に、トレーラ1aがスウェイ状態にあると判定することができる。
ステップS28において、車両1のヨーレートの反転が繰り返されていると判断された場合には、ステップS30に進み、ここではスウェイ補正が実行される。具体的には、ヨーレートの反転が繰り返されていると判断された場合には、ステップS25において設定された増加トルクの値に、スウェイ補正係数K2が乗じられ、増加トルクの値が低く設定される。スウェイ補正係数K2は1よりも小さい値に設定されており、スウェイ補正係数K2を乗じることにより増加トルクの値が低減される。これにより、スウェイ現象に対応したドライバの操舵と、操舵角の増加に基づく基本トルクの増加(増加トルクの加算)が干渉して、スウェイ現象が収束しなくなることを防止することができる。ステップS30の後、処理は図3のステップS5に戻り、スウェイ補正係数K2によって補正された増加トルクが基本トルクに加算され、最終目標トルクが決定される。
なお、本実施形態においては、スウェイ補正係数K2=0.3に設定されているが、スウェイ補正係数K2=0に設定して、スウェイ現象が発生した場合には増加トルクの加算を禁止(増加トルク=0)しても良い。或いは、車両1に生じているヨーレートの振幅や、横加速度の振幅に応じて、これらの振幅が大きくなるほどスウェイ補正係数K2が小さくなるように、本発明を構成することもできる。これにより、発生しているスウェイ現象の状態に応じて、増加トルクの値を低減することができる。
一方、ステップS28において、車両1のヨーレートの反転が繰り返されていないと判断された場合にはステップS29に進み、ここでは、上述したように増加トルクに沈み込み係数K1が乗じられ、増加トルクが大きく設定される。このように、車両1が牽引を行っている場合でも、スウェイ現象が発生していない状態では、増加トルクが大きく設定される。なお、本実施形態においては、車両1後部の沈み込み量と、牽引の有無の両方を判定しているが、牽引の有無のみを判定し、牽引が行われている場合には、車両1後部の沈み込み量が大きいと判断するように本発明を構成することもできる。
一方、図4のステップS22において操舵角が減少していると判断された場合には、ステップS31に進み、ステップS31においては、操舵速度が所定値以上か否かが判断される。即ち、PCM14は、操舵速度が所定の閾値TS1以上であるか否かを判断する。操舵速度が所定の閾値TS1以上でない場合には、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了し、図3に示すメインルーチンに処理が復帰する。
ステップS31において、操舵速度が所定値以上であると判断された場合には、ステップS32に進む。即ち、ドライバがステアリング6を切り戻した(Turn-out)場合に、ステップS32以下の処理が実行される。ステップS32以下の処理では、低減トルク設定工程として、車両1に減速度を付加するために必要なエンジン4の出力トルクの低減量(低減トルク)が、減少トルク設定部20により設定される。
まず、ステップS32において、減少トルク設定部20は、操舵速度に基づき目標付加減速度を取得する。この目標付加減速度は、ステアリング6の切り戻し時において、ドライバの意図した車両挙動を正確に実現するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき減速度である。
具体的には、減少トルク設定部20は、図7に示す付加減速度マップを使用して、ステップS31において算出した操舵速度に対応する目標付加減速度を取得する。
図7における横軸は操舵速度を示し、縦軸は目標付加減速度を示す。図7に示すように、操舵速度が閾値TS1以下である場合、対応する目標付加減速度は0である。即ち、操舵速度が閾値TS1以下である場合、PCM14は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するための制御を実行しない(低減トルクを設定せずにメインルーチンに復帰する)。
一方、操舵速度が閾値TS1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する目標付加減速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど目標付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値TS1よりも大きい閾値TS2以上の場合には、目標付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
次に、ステップS33においては、ステップS32において取得された目標付加減速度を実現するために必要なトルクの低減量である低減トルクが、減少トルク設定部20により設定される。
次いで、ステップS34においては、重量物判定工程として、車両1の後輪2bのサスペンション3に取り付けられたサスペンションセンサ3aによって測定された沈み込み量が、所定の沈み込み閾値Dth以上であるか否かが判断される。ステップS34において、沈み込み量が所定の沈み込み閾値Dth未満であると判断された場合には、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了し、メインルーチンに復帰する。この場合には低減トルクが補正されることはなく、図3のステップS5において、図4のステップS33において設定された低減トルクが基本トルクから減算され、最終目標トルクが決定される。このように、沈み込み量が小さい場合には、前輪2a及び後輪2bの荷重に与える影響は軽微であり、低減トルクを補正する必要はない。
一方、ステップS34において、沈み込み量が沈み込み閾値Dth以上であると判断された場合にはステップS35に進み、ここでステップS33において設定された低減トルクが、車両後部の沈み込み量に応じて補正される。即ち、車両後部の沈み込み量が大きい場合には、操舵輪(前輪2a)の荷重が相対的に低下していると判断され、沈み込み量が小さい場合よりも低減トルクの値が小さく設定される。
この低減トルクの補正は、ステップS33において設定された低減トルクの値[Nm]に、図8に示す係数を乗じることにより実行される。
図8は、車両1後部の沈み込み量(後輪2bのサスペンション3の圧縮量)に応じて低減トルクに乗じる第2沈み込み係数の値を示す係数マップである。図8の横軸は沈み込み量を表し、縦軸は第2沈み込み係数K3の値を表している。図8に示すように、第2沈み込み係数K3の値は、沈み込み量がゼロから沈み込み閾値Dthまでは第2沈み込み係数K3=1であり、沈み込み閾値Dth以上では沈み込み量が大きくなるほど直線的に第2沈み込み係数K3の値が小さくなっている。PCM14の減少トルク設定部20は、車両1の走行中における沈み込み量に基づいて、図8に示す第2沈み込み係数マップを使用して第2沈み込み係数K3を決定する。
即ち、車両1の後部が沈み込んでいる場合には、車体はリア側が沈むように後傾する。このため、車両1の後部が沈み込んだ状態では、相対的に後輪2bの荷重が増加し、前輪2aの荷重が低下した状態となる。このように、前輪2a荷重が低下した状態では、低減トルクを付与することにより瞬間的に前輪2aの荷重を更に低下させると、前輪2aの荷重が小さくなり過ぎて走行安定性が低下する。このため、車両1の後部が沈み込んでいる場合には、1よりも小さい第2沈み込み係数K3が乗じられ、低減トルクの値が小さく設定される。
即ち、PCM14の減少トルク設定部20は、決定された第2沈み込み係数K3を、ステップS33において設定された低減トルクに乗じ、低減トルクの値を補正して、図4に示すフローチャートの1回の処理を終了する。図4のフローチャートの終了後、処理はメインルーチンである図3に示すフローチャートのステップS5に復帰する。図3のステップS5においては、トルク付加量設定処理(図4)において決定した低減トルクが基本トルクから減算され、最終目標トルクが決定され、このトルクが発生するようにエンジン4が制御される(ステップS6、S7)。この基本トルクから低減トルクを減算したトルクが発生するように、エンジン4を制御する工程は、第2のトルク発生工程として作用する。
次に、図9を参照して、本発明の実施形態による車両制御システムの作用を説明する。
図9は、本実施形態による車両制御システムの作用の一例を示すタイムチャートであり、上段から順に、操舵装置の操舵角[deg]、操舵速度[deg/sec]、基本トルク[N・m]、付加加減速度[m/sec2]、増加/低減トルク[N・m]、点火時期を示している。
まず、図9の時刻t0~t1においては、車両1のドライバは操舵を行っておらず、操舵角は0[deg](中立位置)、操舵速度も0[deg/sec]となっている。また、時刻t0~t1においては、車両1の運転状態(例えば、アクセルペダルの踏込量)も一定であるため、基本トルク[N・m]も一定値となっている。この状態では、図4に示すフローチャートにおいては、ステップS21→S22→リターンの処理が繰り返されるので、付加加速度や、増加トルク、低減トルクの設定は行われない(付加加速度=0、増加トルク=0、低減トルク=0)。このため、時刻t0~t1においては、基本トルク(一定値)が最終目標トルク(図3のステップS5)として決定される。また、点火プラグ5cの点火時期は、基本トルクを発生させるための点火時期に設定される。
次に、図9の時刻t1において、ドライバが操舵を開始すると、操舵角及び操舵速度(の絶対値)が増加する。操舵速度がTs1以上になると、図4に示すフローチャートにおいては、ステップS21→S23→S24→S25→S26→リターンの処理が繰り返されるので、付加加速度及び増加トルクの設定が行われる。即ち、図4のステップS24において図5に示すマップを使用して付加加速度が設定され、ステップS25において、設定された付加加速度を実現するために必要な増加トルクが計算される。なお、図9に示す例では、時刻t1~t2において、アクセルペダルの踏み込み等の運転操作が行われていないため、基本トルクの値は一定である(時刻t0~t1における値から変化していない)。また、車両1後部に大きな沈み込みが発生していない場合には、図4のステップS27以下の処理は実行されない。
これにより、時刻t1~t2においては、設定された付加加速度に対応した増加トルクが設定され、基本トルク(一定値)に増加トルクを加算した最終目標トルクが設定される。また、基本トルクに増加トルクが加算された最終目標トルクを生成するために、図3のステップS6において設定されたアクチュエータ制御量が使用される。具体的には、本実施形態においては、図8の最下段に示すように、点火プラグ5cの点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期よりも進角される。
この増加トルクの加算によるトルクの増加は、操舵速度がTs1に到達した後(図4のフローチャートにおいて、ステップS24以下の処理が実行されるようになった後)、約50msec以内に立ち上がり始め、約200~約250msec程度で最大値に到達する。この増加トルクに基づく後輪2bの駆動トルクの立ち上がりにより、サスペンション3を介して車両1を前傾させる(車両のフロント側を沈み込ませる)力が瞬間的に作用し、操舵輪である前輪2aの荷重が増加する。この瞬間的に立ち上がる前輪2a荷重の増加により、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感が向上する。
一方、増加トルクに基づく後輪2bの駆動トルクの増大は、車両1を加速させ、この加速により車両1を後傾させる(車両のリア側を沈み込ませる)力も発生させる。しかしながら、駆動トルクが増大し始めた後、車両1が加速され、この加速が車両1を実質的に後傾させるまでにはある程度のタイムラグがある。このため、車両1の加速に基づく前輪2a荷重の低下は、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感には影響が少ない。
なお、図9における増加トルクのタイムチャートは、図4のステップS27以下の処理が実行されていない場合(大きな沈み込みが発生していない場合)を実線で示している。即ち、車両1の後部に大きな沈み込みが発生していない場合には、ステップS29、S30における補正は実行されず、ステップS25において設定された増加トルクが、そのまま基本トルクに加算される。なお、ステップS29又はS30における補正が実行された場合における作用については後述する。
次いで、図9の時刻t2において保舵に移行すると、操舵角が一定値となる。図9の時刻t2~t3においては、図4のフローチャートにおいて、ステップS21→S22→リターンの処理が繰り返される。なお、図9に示す例では、時刻t2~t3において、アクセルペダルの踏み込み等の運転操作が行われていないため、基本トルクの値は一定である(時刻t0~t1における値から変化していない)。このように、時刻t2~t3においては、操舵速度がゼロであるため、付加加速度の値もゼロになる。これに伴い、基本トルクを増加トルク分だけ増加させるための点火時期の進角もゼロにされる。
さらに、図9の時刻t3においてドライバがステアリング6の切り戻しを開始すると、操舵角(の絶対値)が減少し始め、図4のフローチャートにおいては、ステップS21→S22→S31→S32→S33→S34→リターンの処理が繰り返されるようになる。この状態においては、操舵角の減少に伴い、ステップS32において付加減速度が設定される。このため、時刻t3~t4においては、ステップS32において設定された付加減速度を実現するための低減トルクが設定される。なお、図9に示す例では、時刻t3~t4において、アクセルペダルの踏み込み等の運転操作が行われていないため、基本トルクの値は一定であり、基本トルク(一定値)から低減トルクを減算した最終目標トルクが設定される。また、基本トルクから低減トルクが減算された最終目標トルクを生成するために、図3のステップS6において設定されたアクチュエータ制御量が使用される。具体的には、本実施形態においては、図9の最下段に示すように、点火プラグ5cの点火時期が、基本トルクを発生させるための点火時期よりも遅角される。
なお、図9における低減トルクのタイムチャートは、図4のステップS35における補正が実行されていない場合(大きな沈み込みが発生していない場合)を実線で示している。即ち、車両1の後部に大きな沈み込みが発生していない場合には、ステップS35における補正は実行されず、ステップS33において設定された低減トルクが、そのまま基本トルクから減算される。なお、ステップS35における補正が実行された場合における作用については後述する。
次いで、図9の時刻t4において操舵角が0に戻り保舵される(操舵速度=0)と、図4のフローチャートにおいては、ステップS21→S22→リターンの処理が繰り返されるようになる。操舵速度が0となることにより、付加加速度及び付加減速度の値も0となり、基本トルクの値が最終目標トルクとして決定される。
一方、車両1の後部に重量物を積載すること等により、車両1の後部に大きな沈み込みが発生している場合には、図4のステップS29、S30又はS35において増加トルク又は低減トルクが補正される。即ち、車両1の後部に大きな沈み込みが発生している場合には、増加トルク又は低減トルクの値が補正される。
図9の増加トルク・低減トルクのタイムチャートにおいて、図4のステップS29における増加トルクの補正が行われた場合を二点鎖線に示している。図9の二点鎖線に示す場合においては、車両1の後部に重量物が積載され、大きな沈み込みが発生している。この場合には、図4のフローチャートにおいては、ステップS21→S23→S24→S25→S26→S27→S29→リターンの処理が繰り返される。ステップS29における沈み込み係数K1による補正により、同一の付加加速度に対して増加トルクの値が大きく設定されている。
また、牽引により車両1の後部に大きな沈み込みが発生しているが、スウェイ現象は発生していない場合には、図4のフローチャートにおいて、ステップS21→S23→S24→S25→S26→S27→S28→S29→リターンの処理が繰り返される。この場合においてもステップS29における沈み込み係数K1による補正が実行され、増加トルクの値が大きく設定される。
一方、牽引により車両1の後部に大きな沈み込みが発生すると共に、スウェイ現象が発生している場合には、図4のフローチャートにおいて、ステップS21→S23→S24→S25→S26→S27→S28→S30→リターンの処理が繰り返される。この場合においては、ステップS30におけるスウェイ補正係数K2による補正が実行され、図9の増加トルク・低減トルクのタイムチャートに一点鎖線で示すように、増加トルクの値が小さく設定される。
さらに、図9の増加トルク・低減トルクのタイムチャートにおいて、図4のステップS35における低減トルクの補正が行われた場合を点線に示す。即ち、車両1の後部に大きな沈み込みが発生した状態で、ステアリングが切り戻された場合には、図4のフローチャートにおいて、ステップS21→S22→S31→S32→S33→S34→S35→リターンの処理が繰り返される。この場合においては、ステップS35における第2沈み込み係数K3による補正が実行され、図9の増加トルク・低減トルクのタイムチャートに点線で示すように、低減トルクの値が小さく設定される。
なお、図9に示す例において、基本トルクの値は一定値とされているが、ドライバのアクセルペダル等の操作により基本トルクが変化した場合には、その基本トルクに対して増加トルクが加算され、又は低減トルクが減算される。しかしながら、ドライバによるステアリングホイール6の切り込みから、保舵、切り戻しに至るまでの時間は、一般に比較的短時間(通常は1~2sec未満)であるため、この間の基本トルクは一定であるとみなすこともできる。
本発明の実施形態の車両制御方法によれば、車両1に搭載された操舵装置7の操舵角の増加に基づいて、基本トルクを増加させるように、増加トルクが設定され、前輪荷重が増加するので、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感を向上させることができる。また、車両1後部の沈み込みが大きいことが検出された場合には、沈み込みが小さい場合よりも増加トルクが大きく設定されるように構成した(図4のステップS29)。これにより、車両1後部の沈み込みが大きく、相対的に操舵輪の荷重が低下している状態において、増加トルクが大きく設定されるので、前輪2aに十分な荷重を与えることができ、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感を十分に向上させることができる。
また、本実施形態の車両制御方法によれば、車両が牽引を行っていると判定された場合には、増加トルクが大きく設定される(図4のステップS27→S28→S29)ので、車両後部の沈み込みが大きくなる状況を確実に検出することができる。この結果、牽引を行っている場合でも、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感を十分に向上させることができる。
さらに、本実施形態の車両制御方法によれば、車両1が牽引を行っている場合において、車両1のヨーレートの反転が繰り返されている場合には、増加トルクの値が低く設定される(図4のステップS27→S28→S30)ので、牽引時における車両1のヨーレートの反転を早期に収束させることができる。
また、本実施形態の車両制御方法によれば、車両1に重量物が積載されていると判定された場合には、増加トルクが大きく設定される(図4のステップS26→S27→S29)ので、車両1後部の沈み込みが大きくなる状況を確実に検出することができる。この結果、車両の後部に重量物が積載されている場合でも、ステアリング操作に対する車両応答性やリニア感を十分に向上させることができる。
さらに、本実施形態の車両制御方法によれば、低減トルク設定工程において、車両1後部の沈み込みが大きい場合(図4のステップS34→S35)には、沈み込みが小さい場合(図4のステップS34→リターン)よりも低減トルクが小さく設定される(ステップS35)。この結果、操舵輪の荷重が低下し過ぎるのを防止することができ、車両1後部の沈み込みが大きい状態においても安定した走行を確保することができる。
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、ガソリンエンジンを搭載した車両に本発明を適用していたが、ディーゼルエンジンや、電動機等、種々の原動機を搭載した車両に本発明を適用することができる。