PFCやSF6は半導体製造工程で洗浄・エッチング等に使用されて需要が増加しており、しかも地球温暖化係数はPFCが5700~11900、SF6が22200と極めて高く、その放出は地球温暖化に甚大な影響を与えている。そのため、PFC,SF6も可能な限り、排出の抑制と再利用を図るとともに、最終的には99.9%以上の分解率で分解処理して無害化することが求められている。
PFCの中でも特に多用されているCF4(四フッ化炭素)は、化学的に安定であって分解が困難であり、活性化して熱分解するためには1400℃以上の高温が必要であるといわれている(NIST/National Institute of Standards and Technology,アメリカ国立標準技術研究所のデータベースより)。換言すれば、CF4であっても1400℃以上の高温加熱を行うことができれば、理論上分解することが可能と考えられる。しかしながら、1400℃を超える高温に加熱するためには、CF4を加熱する反応器の素材として、工業レベル、即ち実験レベルではなく収益事業として採用可能な素材の高温特性を遙かに超える高温特性が要求されるため、経済原則に照らして実施可能性がない。
反応器を工業レベルで使用するためには、分解ガスの種類,加熱手段や雰囲気に左右されることなく、一般に1000時間程度の耐久性が要求される。そのため、反応器は耐熱性,耐蝕性,耐酸化性,耐クリープ性等の高温特性に優れるとともに汎用性があり、かつ、経済原則に沿う素材として、ステンレス鋼やニッケル合金等から製作する必要がある。これらのステンレス鋼やニッケル合金等の融点そのものは1400℃程度あるが、温度が高いほど許容応力が低下するため、温度による応力度の低下等を考慮すると、反応器の加熱温度の上限は1300℃前後となる。この温度であれば、反応器が自重等の荷重に耐え、その構造を維持して、工業レベルで使用することが可能である。更に、1200℃前後以下の加熱温度で分解処理を行うことができれば、より反応器の寿命を延ばすことが可能となる。なお、これらの素材より優れた高温特性を有し、融点が1400℃より遙かに高く、1400℃の加熱に耐え得るジルコニウム,チタン,白金等は高価格のため採用することが困難である。また、加熱温度が高温となればなるほど、その加熱温度を得て、維持するためのエネルギーコストも高騰する。
更に、CF4が反応器を通過する時間内に分解処理を完了する必要があるため、分解処理に要する時間が長くなると、その分、反応器を大型化する必要が生じる。文献1,2発明にかかる実際の分解装置で特定フロンガスを99.9%以上の分解率で分解する場合の反応時間は0.5秒~2秒程度である。一般的な焼却炉による分解処理では、ダイオキシン発生抑制の観点から、反応時間(焼却炉内の滞留時間)を2秒以上確保することが定められているため、その時間より短い時間で反応させることができれば、同じ処理量で分解装置を小型化することが可能となる。
そのため、理論上は1400℃以上の高温度まで加熱すればCF4を熱分解することが可能ではあるものの、現実には使用に耐え得る反応器さえ製作することができないのが実情である。SF6もCF4ほどではないが、同様の理由によりHFCに比べて分解が困難であることが知られている。そのため、CF4を始めとするPFCやSF6については、地球温暖化係数が高く環境に負荷を与えるため、分解によって無害化することが喫緊の課題として求められているものの確立した分解技術が存在しないため、工業レベルでは99.9%以上の分解率で分解することができず、その多くがそのまま大気に放出されているのが現状である。
CF4を始めとするPFCやSF6を工業レベルで分解処理するためには、反応器が次の事項を満たしていることを前提とする必要がある。
前提1:高温特性に優れるとともに、汎用性のある金属材料、例えば、ステンレス鋼やニッケル合金で製作すること。
前提2:反応器が自重等の荷重に耐え、その構造を維持して、工業レベルで使用することが可能な1300℃以下の温度範囲で、より望ましくは1200℃以下の温度範囲で使用すること。
前提3:1000時間程度は使用可能な耐久性を有すること。
前提4:反応器の耐久性の維持と分解のメリットを享受可能な反応時間、例えば、2秒以下程度の時間で反応を完了する容積であること。
これらの前提1~4の下での従来技術によるCF4とSF6の分解の困難性についての知見を得るため、文献2発明を用いて次の分解実験を行った。
[従来例1]
図18に示すように、文献2発明に基づいて、市販のニッケル合金から製作した直径125mm,長さ1500mmの円筒形の反応器50内に、反応助剤として鉄又は鉄を含む合金を配置し、電気ヒータ90で900℃に加熱・保持した。なお、反応器50内の温度は反応器50に設置した温度計95で測定した。その後、環境汚染ガスボンベ65から圧力調整弁66と流量計67を介して、環境汚染ガス60として10kg/hのCF4と、ボイラ115から圧力調整弁116と流量計117を介して5kg/hの過熱蒸気120と、エアコンプレッサ85から圧力調整弁86と流量計87を介して100L/minの空気80を、それぞれ常圧の反応器50内に供給して、CF4を過熱蒸気120と反応させた。そして、反応器50から排出した分解ガスを冷却器100で冷却して、中和槽125に装備した3連のシャワー塔130に順次供給するとともに水酸化カルシウム水をシャワーリングすることによって、分解ガスに含まれる酸性ガスを中和した後、排気ファン110で吸引して大気に放出した。この大気に放出前の分解ガスをサンプリングして分析した。その分析結果を表1に示す。
[従来例2~4]
反応器50の温度を従来例2では1050℃とし、従来例3では1200℃とした以外は従来例1と同一の条件で実験を行った。従来例4では、CF4の供給量を1kg/hに、過熱蒸気の供給量を0.5kg/hにそれぞれ変更した以外は、従来例3と同一の条件で実験を行った。その分析結果を表1に示す。
表1に示すようにCF4は、文献2発明の900℃の過熱蒸気(従来例1)では、分解率0.150%と殆ど分解せず、過熱蒸気の温度を1050℃(従来例2)に上げても24.150%の分解率に留まり、前提2の望ましい反応温度の上限である1200℃(従来例3)迄上げても、65.290%の分解率であって、目的とする99.9%の分解率に遠く及ばない。なお、従来例1~3の反応時間(反応器内の滞留時間)は、1.2秒程度である。
そこで、前提4の制約を外して、CF4の流量を1.0kg/hとして、反応器50の滞留時間を10倍の12秒に伸ばしてみたが(従来例4)、70.800%の分解率に留まり、従来例3から僅か5%程度の向上に留まっている。そのため、文献2発明の過熱蒸気では1200℃まで加熱したとしてもCF4を99.9%以上の分解率で分解することはできない。加えて、従来例1~4に示す分解方法では、分解ガス中に有毒な酸性ガスが生成されるため、反応器50が酸性雰囲気に晒され、寿命が短くなるとともに、中和装置が不可欠であって、安全性へのリスクがあり、安全性を確保するための設備負担が必要となる。なお、酸性ガスの有無は中和槽125内のpHの変化で測定した。
[従来例5~7]
従来例5は、分解するガスをCF4からSF6に変更した以外は、従来例1と同一の条件で実験を行った。従来例6では反応器50の温度を1050℃とし、従来例7では反応器50の温度を1200℃とした以外は、従来例5と同一の条件で実験を行った。その分析結果を表2に示す。
表2に示すようにSF6は、文献2発明の900℃の過熱蒸気(従来例5)では、分解率10.650%に留まり、過熱蒸気の温度を1050℃(従来例6)に上げても59.620%の分解率である。前提2の望ましい反応温度の上限である1200℃(従来例7)迄上げると、99.400%の分解率まで向上するが、基準となる99.9%には届かず、しかも、従来例5~7に示す分解方法では、分解ガス中に有毒な酸性ガスが生成され、反応器50が酸性雰囲気に晒されるため、寿命が短くなるとともに、中和装置が不可欠であって、安全性へのリスクがあり、安全性を確保するための設備負担が必要となる。特に、SF6に含まれるS(硫黄)はNi(ニッケル)との相性が悪いため、反応器50がニッケル合金から製作されている場合は、分解反応に利用可能な温度領域が低くなる。
CF4とSF6を殆ど分解できなかった900℃の過熱蒸気を使用した従来例1,5の分解率の低さを検証するため、視点を変えて反応時の発熱量を特定フロンであるR12,R22,R134a,R32と比較して計算し、その結果を表3に示す。なお、CF4とSF6の処理量は7kg/hとして計算した。表3に示すように、CF4の発熱量は5111.6kJ/h、SF6の発熱量は4255.5kJ/hであり、R32の発熱量65092.6kJ/hより極端に少なく、R12の発熱量8667.8kJ/hと比較しても約二分の一と少ない。このように発熱量が少ないことは、CF4とSF6では分解時に連鎖反応が起きていないこと、又連鎖反応が起きにくいことを示している。
CF4やSF6を文献2発明の過熱蒸気によって分解する場合には、表1,2に示すように、反応器内でフッ酸や塩酸といった強酸の分解ガスが生成される。これらの強酸によって反応器50や強酸を中和槽125に移送するための管路の腐食が激しいため、分解反応を正常に維持するために、これらの部材を消耗品として一定時間毎に交換することを余儀なくされている。とりわけ、反応器50はステンレス鋼やニッケル合金等の高価な超合金を使用しているものの、酸性ガスに起因して寿命が短くなっており、1400℃以上の高温はもとより、1200℃程度の温度であっても酸性ガスの雰囲気下では前提3の1000時間の耐久性を保持できない。また、分解反応によって生成される強酸の分解ガスが、反応管路から系外へ漏れるようなことがあれば事故につながるため、反応管路を密閉管路とするほか、安全のため反応管路内を負圧にして運転する必要があり、運転管理が複雑となっている。
また、文献2発明では、生成される強酸の分解ガスを無害化するため中和処理として、水酸化カルシウムと水との混合水を分解ガスにシャワー状に吹き付ける必要がある。そのため、中和処理後の反応残渣は多量の水分を含んでおり、そのままの状態では産業廃棄物として処理することができない。そのため、反応残渣に凝集剤を添加して凝集させ、フィルタープレスで脱水した後、漸く産業廃棄物として処理することが可能な状態となっている。そのため、反応残渣の処理にもコスト負担を必要とするため、分解装置としての低コスト化や経済性の追求という社会的要請に対応することが困難となっている。
上記した実験結果及びその分析に基づき、本発明は、従来技術では工業レベルでの分解が困難であり、かつ、地球温暖化係数が極端に大きいため、無害化することが喫緊の課題となっているCF4に代表されるPFCやSF6等のフッ素原子を含む環境汚染ガスを、前記した前提1~4の下で、即ち工業的レベルでの分解処理を可能とする分解技術を確立し、最終的には99.9%以上の分解率で分解処理して無害化するための環境汚染ガスの分解方法を提供することを課題とする。
一般的に、炭素原子1個のフロンガスは水素原子が多いと分解しやすく、塩素原子が増えると毒性が強く、CF4やSF6のようにフッ素原子が多くなれば、化学的安定性が増す。CFC,HCFCやHFCに比べて、CF4やSF6の分解が困難な理由は、専らその化学的安定性に起因している。
CF4は炭素原子を中心に正四面体構造をとっており、後掲の表16に示すとおり、電気陰性度は炭素原子が2.6、フッ素原子が4.0であって、両者に1.4の差があり、ほぼ電子がフッ素側に引きつけられてイオン結合に近い結合となっている。これを敷衍すると、4の炭素価電子は0に、7のフッ素価電子は8になっているとみなさせる。そのため、炭素原子がHe型電子配置になって安定となるとともに、フッ素原子はNe型電子配置とみなせるため、どちらも不活性ガス構造に近い電子構造となっており、極めて安定となっている。
SF6は、硫黄原子を中心にフッ素原子が正八面体構造をとっており、電気陰性度は硫黄原子が2.6、フッ素原子が4.0であって、両者に1.4の差があり、ほぼ電子がフッ素側に引きつけられてイオン結合に近い結合となっている。CF4と同様に考えると、硫黄原子はNe型電子配置と、フッ素原子も同様にNe型電子配置とみなせるため、どちらも不活性ガス構造に近い電子構造となっており、極めて安定となっている。更にSF6は八面体であることから、硫黄原子をフッ素原子が6個で完全に覆っている。
CF4やSF6の難分解性は、標準状態で最も安定な単体から化合物1molを作るのに必要なエネルギーを表す標準生成自由エネルギー(ΔfG゜,kJ/mol)の量からも明らかである。エンタルピー(H),熱力学温度(T),エントロピー(S)として、標準生成自由エネルギー変化ΔGは、ΔG=ΔH-TΔSで表される。この値が負で絶対値が大きいほど化学的安定性が高いといえ、表4に示すように、CF4の値は-1116.03kJ/mol、SF6の値は-884.95kJ/molであり、特定フロンガスであるフロン22の値が-452.02kJ/molであることからも、CF4やSF6は負の絶対値が著しく大きく、化学的安定性が高いことが判る。本発明は難分解性の環境汚染ガス、具体的には標準生成自由エネルギーが-700kJ/mol以上の値を持つ環境汚染ガスであっても99.9%以上の分解率で分解することを課題としている。
そこで、本発明者らは、CF4やSF6を分解するために次の推論1を立てた。
推論1:フッ素原子に起因するCF4やSF6の化学的安定性を何らかの手段で阻害し、その安定構造を崩す必要があること。
この推論1に基づき、CF4やSF6の安定構造について検証する過程の中で、分解を目的とする手段ではないが、気化しやすい化合物の同定・定量を行うガスクロマトグラフの原理から着想を得て、高温に加熱された固体表面から放出される熱電子に着目した。
ガスクロマトグラフの作動原理は、タングステン(W)電極等を用いて真空中に熱電子を放出し、直流電界で加速して分析ガスの分子に衝突させて、分子を構成する元素の電子を弾き飛ばしたり、元素の空きオービタル(電子軌道)に取り込まれることにより、分析ガスを電気的に不安定な構造として、クーロン力の作用により部分的な解離、断裂を起こさせて計測することである。ガスクロマトグラフはどのような分析ガスに対しても安定して有効に作動している。
一般に熱電子の放出は、高温に加熱された固体表面から熱電子(熱励起された電子)が放出される現象であって、金属又は半導体などの固体が加熱されて高温になると、固体内の自由電子の運動が激しくなって、表面のエネルギー障壁を越えて、熱電子として外へ飛出す。本発明者らは、ガスクロマトグラフにおいて放出された熱電子が分析ガスの種類を問わず、その構造を電気的に不安定とすることが可能であり、かつ、その量を定量的に算出することが可能であることから、次の推論2を立てた。
推論2:CF4やSF6の化学的安定性を阻害し、その安定構造を崩す手段及び基準として、熱電子を用いることができること。
推論1,2に基づき、種々の熱電子供給材料からの熱電子の放出について研究を進めたが、熱電子が放出されるためには、熱電子供給材料が真空下になければ極端に放出効率が悪くなり、真空状態を前提としない常圧の反応器内では熱電子を効率的に放出させることが困難であるとの技術的結論を得た。この結論自体は肯定されるものであり、真空下にない常圧の反応器内では、所定の仕事関数の熱電子供給材料を所定の高温に加熱したとしても熱電子を放出し得ないが、同じ熱電子供給材料を真空下に保持すれば同じ温度で熱電子を放出することも確認した。即ち、前記した熱電子供給材料は、真空下という条件が満たされれば、熱電子を放出し得る状態にはあるという事実を得て、次の推論3を立てた。
推論3:所定の仕事関数の熱電子供給材料を所定の高温に加熱すると、真空下でなければ、熱電子は熱電子供給材料から殆ど放出されないまま、その表面近傍にフェルミレベル以上のエネルギー準位で滞留していること。
推論3に基づき、熱電子を使用してCF4やSF6の化学的安定性を阻害し、その安定構造を崩すには、発想を逆転させて、熱電子供給材料から熱電子を放出してCF4やSF6の分子に衝突させることができなくても、CF4やSF6の分子の方を熱電子を表面に滞留させた熱電子供給材料に接触させれば同じ現象が生じるのではと考え、次の推論4を立てた。
推論4:反応器内で熱電子供給材料から熱電子が放出されなくても、熱電子供給材料が熱電子を放出可能な状態で表面に滞留させていれば、そこにフッ素原子を含むCF4やSF6を接触させれば、熱電子がCF4やSF6を構成するフッ素原子に取り込まれ、イオン化して離脱することによって、CF4やSF6の化学的安定性を阻害することができること。
推論4を実現するためには、CF4やSF6の分子が熱電子供給材料よりも熱電子を吸収することが可能な性質を有していることが必要となる。そこで、本発明の着想を得たガスクロマトグラフは、加速した電子のエネルギーでガスの化学的安定性を阻害するものであって、電子とガスが接触するだけではガスの化学的安定性を阻害することはできない。しかしながら、CF4やSF6をはじめ本発明が分解対象とする環境汚染ガスはフッ素原子を含んでおり、フッ素原子は電気陰性度が最も大きいため、熱電子供給材料に接触した際に熱電子を吸収可能と判断した。即ち、推論4は技術的相当性があると考え、更に研究を進めることにより、次の推論5を立て、これらの推論1~5に基づいて本発明に想到した。
推論5:CF4やSF6を、熱電子を吸収できる状態まで活性化し、かつ、熱電子供給材料の表面に、CF4やSF6の化学的安定性を阻害するのに必要な量の熱電子が滞留している状態を創出すれば、CF4やSF6を熱電子供給材料に接触させることによって、CF4やSF6を分解できること。
本発明は、その課題を解決するために、請求項1により、熱電子供給材料としてBaO,Al
2
O
3
,CaO又はFeOを収納し、所定温度に保持することによって、熱電子供給材料の表面に所定量の熱電子を滞留させた反応器に、フッ素原子を含む環境汚染ガスとしてCF
4
,SF
6
,PFC類,CFC,HCFC又はHFCを供給してフッ素原子を活性化させ、電子を受け取り可能な状態として熱電子供給材料に接触させることにより、活性化させた環境汚染ガス中のフッ素原子が熱電子を取り込んで環境汚染ガスから遊離することによって、フッ素原子と他の原子の結合を開裂させて99.9%以上の分解率で分解する環境汚染ガスの分解方法を基本として提供する。
また、請求項2により、反応器内に助燃剤を供給して所定温度に保持する方法を提供する。
また、請求項3により、助燃剤とともに、反応器内に空気を供給する方法を提供する。
請求項4により、助燃剤として、可燃性ガスを使用する方法を、請求項5により、可燃性ガスとして、LPガスを使用する方法を提供する。
請求項6により、反応器内の温度を、環境汚染ガス中のフッ素原子を活性化させて、電子を受け取り可能な状態とするとともに、熱電子供給材料の表面に、活性化させた環境汚染ガス中のフッ素原子に電子を供給する必要量の熱電子を滞留させる温度に保持する方法を提供する。
請求項7により、反応器内の温度を1300℃以下に保持する方法を、請求項8により、反応器内の温度を800℃~1300℃の温度範囲に保持する方法を提供する。
更に、請求項9により、前記した環境汚染ガスの分解方法であって、下記の工程1~工程5を順次行う環境汚染ガスの分解方法を提供する。
工程1:フッ素原子を有する環境汚染ガスを特定する工程。
工程2:所定温度に保持した反応器内に収納した仕事関数の小さい第1試用熱電子供給材料に、工程1で特定した環境汚染ガスを接触させて分解するとともに、反応器内の温度を変更することによって、分解率が99.9%以上となる温度範囲を測定することによって、工程1で特定した環境汚染ガスが活性化する温度範囲を測定する工程。
工程3:第1試用熱電子供給材料より仕事関数の大きい第2試用熱電子供給材料を反応器内に収納し、反応器内の温度を工程2で測定した温度の下限温度から、工程1で特定した環境汚染ガスの分解率を99.9%以上となるまで上昇させ、分解率が99.9%を超えた温度から工程1で特定した環境汚染ガスの分解に必要な熱電子の量を算出する工程。
工程4:工程2で測定した温度範囲において、工程3で算出した熱電子量を上回る熱電子を滞留させることのできる熱電子供給材料を選択する工程。
工程5:工程4で選択した熱電子供給材料を収納し、該熱電子供給材料が工程3で算出した熱電子量を上回る熱電子を滞留する温度以上の温度に反応器内を保持し、工程1で特定した環境汚染ガスを反応器内に供給して、熱電子供給材料に接触させて分解する工程。
そして、請求項10により、第1熱電子供給材料として、仕事関数1.10eVのBaOを使用する方法を、請求項11により、第2熱電子供給材料として、仕事関数4.70eVのAl2O3を使用する方法を、請求項12により、工程2の温度として、反応器内の温度から段階的に変更して、分解率が99.9%以上となる温度範囲を測定する方法を、請求項13により、工程3の温度として、工程2における分解率99.9%を下回る温度から、工程3における分解率が99.9%を超える温度まで段階的に上昇させる方法を、請求項14により、工程5における反応器内の保持温度を、工程3で算出した熱電子量を上回る熱電子を滞留する温度の下限値とする方法を提供する。
以上記載した本発明によれば、汎用性のある金属材料、例えばステンレス鋼やニッケル合金で製作した反応器に、仕事関数が5.0eV以下又は4.0eV以下であって、自由電子を持つとともに毒性のない固体の金属類又はその酸化物からなる熱電子供給材料を収納し、1300℃以下の温度範囲に加熱保持することによって、熱電子を放出可能な状態で表面に滞留させ、反応器にCF4やSF6を供給して活性化させて熱電子供給材料に接触させることにより、CF4やSF6に含まれているフッ素原子が熱電子を取り込んで遊離することによって、フッ素原子と他の原子の結合を開裂させることにより難分解物質であるCF4やSF6を99.9%以上の分解率で環境に負荷を与えないガスに分解することができる。
即ち、分解対象であるCF4やSF6等のフッ素原子を含む環境汚染ガスを加熱によって、フッ素原子が電子を受け取るレベルまで活性化し、熱電子供給材料が加熱によって表面に熱電子を滞留させ、CF4やSF6のフッ素原子に必要量の熱電子を供給可能な状態となっていれば、CF4やSF6が熱電子供給材料に接触することによって、熱電子の作用によってCF4やSF6の化学的安定性を阻害して、その安定構造を崩すことによって分解することができる。そのため、従来CF4やSF6等のフッ素原子を含む環境汚染ガスの分解手段、しかも99.9%以上の分解率を達成する手段として全く考慮されていなかった熱電子に着目し、この熱電子を利用して、しかも熱電子を放出するのではなく環境汚染ガスが熱電子供給材料に接触することによって分解するという従来技術とは一線を画した極めて斬新で画期的な発明を提供する。
また、本発明によれば、反応温度は1300℃以下で分解することができるため、汎用性のある市販の金属材料、例えば、ステンレス鋼やニッケル合金で製作した反応器を使用することが可能となり、CF4やSF6を工業レベルで分解することが可能となり、収益事業として成立させることができる。更に、反応温度は仕事関数の小さい熱電子供給材料を選択することによって、CF4であっても1200℃以下の温度で分解することが可能であり、環境汚染ガスの種類によっては800℃以下の温度での分解も可能となる。
分解が困難なCF4やSF6を分解できる以上、フッ素原子さえ含んでいれば、他の環境汚染ガスも同様の原理で分解することができる。そのため、例えばCF4以外のC2F6(六フッ化エタン)やC3F8(八フッ化プロパン)等のPFC類,NF3(三フッ化窒素)も同様の原理で分解することが可能である。
また、本発明によれば、過熱蒸気を使用しないため、分解時に酸性ガスが生成されないため、中和装置が不要であり、安全性が高く、環境にも二次的に負荷を与えることもない。そのため、既に文献2発明等によって分解手段が提供されているものの分解時に酸性ガスが生成されるCFC,HCFC,HFC等の分解に使用しても安全性が高い。
更に、LPガス等の可燃性ガスを助燃剤として反応器内に供給することにより、CF4やSF6の分解のために設定した反応器内の所定温度を保持するとともに、助燃剤の燃焼熱により反応場の温度を増加させて熱電子供給材料の内部まで均一に加熱することにより、必要な量の熱電子の滞留を確保することが容易となる。
環境汚染ガスの種類に応じて、仕事関数が小さい第1試用熱電子供給材料、例えば1.10eVのBaO(酸化バリウム)を使用して、環境汚染ガスが活性化する温度範囲を知ることができ、又仕事関数が大きい第2試用熱電子供給材料、例えば4.70eVのAl2O3(酸化アルミニウム)を使用して、環境汚染ガスの分解に必要な熱電子の量を知ることができるため、環境汚染ガスに適した温度条件と熱電子供給材料を選択して、効率的に分解することができる。そのため、使用する熱電子供給材料を分解する環境汚染ガスの種類や反応温度に応じて適切に選択することが可能である。
以下、本発明にかかる環境汚染ガスの分解方法の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明において環境汚染ガスとは、そのまま大気に放出することによって環境に負荷を与えるため分解することが求められているガス全般,或いは何らかの理由で大気へ直接放出することが好ましくないガス全般をいい、本発明は、その中でもフッ素原子を含む環境汚染ガスを分解対象としている。具体的には、環境汚染ガスを構成する原子がC-F結合を有するCF4やC2F6(六フッ化エタン)等のPFC類、S-F結合を有するSF6、或いはNF3(三フッ化窒素)等の地球温暖化係数が高く分解が困難な環境汚染ガスを具体的な分解対象としている。特には、エッチングガスや絶縁ガスとして多用されているものの、効果的な分解技術が提供されていないCF4に代表されるPFCとSF6を対象とする。なお、これらに限定されることなく、フッ素原子を有する環境汚染ガスであれば、種類や用途を問わず広く対象としており、既に分解技術が提供されているCFC,HCFC,HFC等にも適用することができる。以下、CF4とSF6を例として説明する。
本発明は、フッ素原子を含む環境汚染ガスを、前記した前提1~4の下で、即ち工業的レベルでの分解処理を可能とし、最終的には99.9%以上の分解率で分解して無害化することを課題としており、その要旨は次のとおりである。
・CF4に代表されるPFCやSF6等の難分解性の環境汚染ガスを99.9%以上の分解率で分解すること。
・反応温度として、1300℃以下の温度範囲で、より望ましくは1200℃以下の温度範囲で分解すること。
・2秒以内程度の分解時間で分解すること。
・分解によって酸性ガスを生成しないこと。
なお、反応器の温度設定や温度測定には誤差も生じるため、設定温度には、後述する環境汚染ガスの種類と、使用する熱電子供給材料の仕事関数から算出される温度条件に+50℃程度の余裕を持たせておくことが実用的には好ましい。本発明はこの付加する温度条件の余裕分をも想定に含んで分解方法を構築する。また、反応温度の下限は特に制約はなく、環境汚染ガスを分解可能であれば、反応器の耐久性の観点から可能な限り低いことが望ましく、既存のステンレス鋼やニッケル合金等から製作した反応器が使用できればよい。
本発明は、上記したフッ素原子を含む環境汚染ガスを熱電子を利用して分解することを特徴とする。一般に、熱電子は、高温に加熱された金属又は半導体等の固体表面から放出される熱励起された電子をいい、固体が加熱されて高温になると、固体内の自由電子の運動が激しくなって、表面のエネルギー障壁を越えて、熱電子として外へ飛出す。熱電子を放出する固体の温度が高いほど、又仕事関数が小さいほど、更に表面積が広いほど、放出される熱電子の量は多くなる。そのため、放出される熱電子の量は、各固体の温度と仕事関数から、定量的に算出することが可能である。
仕事関数は、金属表面の自由電子のうち最も大きいエネルギーのものを金属表面から外部に取り出すための最小エネルギー(eV,electron volt)をいい、金属を加熱し、電子の運動エネルギーが仕事関数の値以上になれば、前記した自由電子が金属表面から離脱する。従って、仕事関数の値が小さいほど離脱のエネルギーは少なくて済む。この熱電子を供給する熱電子供給材料として本発明では、仕事関数が5.0eV以下、好ましくは4.0eV以下であって、自由電子を持つとともに毒性のない固体の金属類又はその酸化物を使用する。仕事関数5以下としたのは、後述する本発明の各実施例の結果より、少なくとも5以下であれば使用可能な熱電子供給材料が存在することと、5以下の範囲で必要な熱電子供給材料を選択可能なためである。
仕事関数が5以下であっても、毒性のあるものや常温で液体のもの、例えば二硫化炭素(CS2)の仕事関数は、0.99~1.17であるが使用できない。毒性のあるものは安全性に欠け、常温で液体だと800℃以上の温度で、ガス化してしまい、CF4やSF6と接触できないためである。主な金属又は酸化物の仕事関数を表5に示す。表5に示したものに限らず、前記特定事項を充足する金属又はその酸化物であれば使用可能である。加熱温度が同一であれば、仕事関数の低い金属又はその酸化物ほど熱電子の量は多いので、加熱温度や分解する環境汚染ガスの特性に応じて使用する熱電子供給材料を選択すればよい。本実施形態では、仕事関数1.10eVのBaO,仕事関数4.70eVのAl2O3を例として使用し、加えて仕事関数1.6-/+0.20eVのCaO(酸化カルシウム)と仕事関数3.85eVのFeO(酸化鉄)を使用して説明する。
熱電子供給材料から放出される熱電子の量は、仕事関数と温度が判れば、下記の数1式から定量的に算出することができる。本実施形態で使用したBaO,Al2O3,CaO,FeOの700℃~1300℃までの100℃毎の熱電子の量を、数1式に基づいて算出して表6に示す。
熱電子は、一般に高温に加熱された金属又は半導体等の固体表面から放出される熱励起された電子として特定されるように、熱電子供給材料から放出されるものである。ところで、電子を容易に放出するためには、真空であることが条件として要求される。そのため、ガスクロマトグラフ等では真空を保って真空中に熱電子を放出している。しかしながら、本発明では所定の管路に連結された常圧の反応器を使用してCF4やSF6を分解するものであり、反応器内を真空状態に保つことができず、又後述するように助燃剤を使用する場合には酸素を供給する必要があるため、真空下での熱電子の放出は益々困難である。
同一の温度に加熱・保持した同一素材の2つの熱電子供給材料の内、真空下に置いた一方からは熱電子が放出され、真空下にない他方からは熱電子が殆ど放出されないとの事実は、一方の熱電子供給材料からは、熱電子放出のためには真空であることが必要な条件であることを知ることができるとともに、他方の熱電子供給材料は、真空の条件さえ満たされれば熱電子の放出が可能な状態にあると解することができる。そこで、本発明者らはこれらの事実に基づき、研究の結果、前記した推論3(所定の仕事関数の熱電子供給材料を所定の高温に加熱すると、真空下でなければ、熱電子は熱電子供給材料から殆ど放出されないまま、その表面近傍にフェルミレベル以上のエネルギー準位で滞留していること)に想到した。
これを敷衍すれば、BaO等の金属酸化物の場合、電子は、熱により酸素最外殻電子殻L軌道の表面寄りに滞留していると考えられる。この推論3は、後述する本発明の実施例のデータに示すとおり、実際に本発明によってCF4やSF6を分解できたことからも、真空下にない反応器内で熱電子供給材料から熱電子の放出は発生しなくても、電子の授受は空間的ではなく物質の接触により発生すると解され、熱電子供給材料の表面(酸素表面)に電子が滞留しており、そこにCF4やSF6が接触すれば、電子が分解に寄与し得るし、実際に寄与していると考えられることからも肯定される。よって、本発明における熱電子は、高温に加熱された金属又は半導体等の固体表面近傍にフェルミレベル以上のエネルギー準位で滞留している(熱励起された)電子をいうものである。
前記した数1式によって、仕事関数と温度条件から算出する熱電子の量は、真空下において熱電子供給材料から放出される熱電子の量であるが、推論3における熱電子供給材料の表面近傍に滞留している熱電子の量とは、真空下であるかないかの相違であり、両者を略同量と捉えることが技術的に相当である。よって、本発明では、前記した数1式によって算出する熱電子の量を、熱電子供給材料の表面近傍に滞留している熱電子の量として、本発明の分解技術を構築する。
本発明では、環境汚染ガスであるCF4やSF6の反応性を高めて、フッ素原子が熱電子を吸収できる状態まで活性化させるとともに、熱電子供給材料の表面に、CF4やSF6を分解するのに必要な量の熱電子を滞留させる必要がある。そのために、図1に示すように、所定の形状、例えば粒状とした所定量の熱電子供給材料を反応器内に隙間なく充填し、反応器の外部から加熱装置、例えば電気ヒータで加熱して、反応器内を1300℃以下の、より望ましくは1200℃以下の所定温度に保持した上で、CF4やSF6等の環境汚染ガスを反応器内に供給することにより、或いはCF4やSF6等の環境汚染ガスを助燃剤とその酸素源としての空気とともに反応器内に供給することにより、フッ素原子が電子を受け取り可能な状態まで活性化させ、フッ素原子に供給する必要量の熱電子を表面に滞留させた熱電子供給材料と接触させることにより、フッ素原子が熱電子を取り込んでCF4やSF6から遊離することにより、CF4やSF6のフッ素原子と他の原子の結合を開裂させて分解する。
900℃の過熱蒸気を使用してCF4とSF6の分解を試みた従来例1,5の反応時の発熱量を示す表3から明らかなように、CF4とSF6は特定フロンガス等に比較して、極端に発熱量が少ない。そこで、反応器の加熱装置を補助して、CF4やSF6の分解のために設定した反応器内の所定温度を保持するとともに、助燃剤の燃焼熱により反応場の温度を増加させて熱電子供給材料の内部まで均一に加熱することにより、必要な量の熱電子の滞留を確保するために、必要に応じて反応器内に助燃剤と酸素源としての空気又は酸素を供給することが有効であり、熱電子供給材料の内部まで均一に加熱し、必要な量の熱電子の滞留を確保することが容易となる。よって、環境汚染ガスの種類や使用する熱電子供給材料に応じて、助燃剤の併用の要否、およびその種類や量を選択すればよい。助燃剤は酸素源と反応して発熱する可燃性ガスであれば特に限定はなく使用可能である。好ましくは、CF4やSF6の少ない発熱量を補って熱電子供給材料の内部まで均一に加熱するため、酸素源との反応による発熱量が多いものがよい。具体例としては、LPガス(液化石油ガス)、例えば、C3H8(プロパンガス),C4H10(ブタンガス)やCH4(メタンガス)が適当である。表7にCH4とC3H8の900℃に加熱時の発熱量を示す。
また、助燃剤として、他の環境汚染ガスを反応器内に供給して、分解時の熱量によって助燃効果を付与することも可能である。例えば、HFCは表3に示すように発熱量も多く、又熱電子供給材料との化学反応も少ないため、助燃剤としても適している。CFCは発熱量も少なく、熱電子供給材料との化学反応が多いが、助燃剤として使用することは可能である。
以下に、本発明にかかる環境汚染ガスの分解方法を実施して、CF4を分解した実施例1~6と、その比較例1~3、及びSF6を分解した実施例7~13と、その比較例4~8について説明する。
図2は本発明にかかる環境汚染ガスの分解方法を実施するための分解装置の基本構成図であり、市販のニッケル合金から製作した直径125mm,長さ1500mmの円筒形の反応器50内に、熱電子供給材料55として、直径3~5mmの粒状のBaO(仕事関数1.10eV)を反応器50内に隙間なく反応器50と同じ円筒形に均一に充填した。この反応器50は従来例1~7で使用した反応器50と同一のものである。反応器50を電気ヒータ90で外部から加熱するとともに、助燃剤70として、1.0kg/hのC3H8を助燃剤ボンベ75から圧力調整弁76と流量計77を介して反応器50に供給し、酸素源として、250L/minの空気80をエアコンプレッサ85から圧力調整弁86と流量計87を介して反応器50に供給することにより、反応器50の温度を1300℃に保持した。なお、反応器50内の温度は反応器50に設置した温度計95で測定した。反応器50の温度は、電気ヒータ90の温度を固定し、助燃剤70と空気80の供給の有無や流量を調節して行った。助燃剤の着火は反応器50の温度による着火や別途の着火手段によって行った。なお、熱電子供給材料55は化学等量分の反応が終了したら、反応器50から排出して新たに補充する。熱電子供給材料55の交換はバッチ式でも連続式でも適宜選択すればよい。
内部の温度を1300℃に保持した反応器50に、環境汚染ガスボンベ65から圧力調整弁66と流量計67を介して、環境汚染ガス60として10kg/hのCF4を供給して、CF4を反応器50内のBaOに接触させて反応させて分解した分解ガスを冷却器100に供給して冷却し、バブリングタンク105で洗浄し、排気ファン110で吸引して大気に放出した。この大気に放出前の分解ガスをサンプリングして分析した。よって、実施例1では、反応器50内で1300℃に加熱・保持されたBaOに、反応器50内に供給されて加熱されたCF4が接触して反応器50を通過している。なお、実施例1において、CF4が反応器50を通過する反応時間は、略1.8秒であった。
反応器50の温度を1200℃とした以外は、実施例1と同一の条件で分解を行った。
反応器50の温度を1100℃とした以外は、実施例1と同一の条件で分解を行った。また、比較例1として、反応器50の温度を1000℃とした以外は、実施例1と同一の条件で分解を行った。実施例1~3及び比較例1の分析結果を表8に示す。
表8に示すように、熱電子供給材料として仕事関数が1.10eVのBaOを使用した場合、反応器内の温度が1300℃の実施例1では、分解率が99.999%と極めて高い分解率で分解して無害化できている。また、1200℃の実施例2では99.993%の分解率、1100℃の実施例3では99.910%の分解率であり、従来技術では工業レベルで99.9%の分解率を達成することができなかった最も分解が困難な物質の一つであるCF4を1100℃の加熱温度によって分解して無害化することができている。実施例1~3の反応器はいずれも市販のニッケル合金製であり、CF4の反応時間(CF4が反応器内を通過する時間)は略1.8秒であった。よって、本発明によれば、工業レベルでCF4を99.9%以上の分解率で分解することが可能となる。また、実施例1~3及び比較例1のいずれにおいても酸性ガスは検出されなかった。そのため、過熱蒸気を利用した文献1,2発明のように酸性ガスが生成されることがないため、中和装置が不要であるとともに、極めて安全性が高い。
なお、比較例1に示すように、反応器内の温度が1000℃になると分解率は85.500%に留まり、99.9%の分解率を達成できていない。よって、熱電子供給材料として仕事関数1.10eVのBaOを使用してCF4を分解する場合は、1100℃まで加熱・保持することが必要なことが判る。即ち、1100℃まで加熱・保持すれば、CF4のフッ素原子が熱電子を吸収できる状態まで活性化されており、かつ、BaOの表面にはCF4を分解するのに必要な量の熱電子が滞留していることが判る。
熱電子供給材料をBaOから、Al2O3(仕事関数4.70eV)に変更した以外は、実施例1と同一の条件で分解を行った。また、比較例2として反応器50内の温度を1200℃とし、比較例3として反応器50内の温度を1100℃とした以外は、実施例4と同一の条件で分解を行った。実施例4及び比較例2,3の分析結果を表9に示す。
表9に示すように、反応器50内の温度を1300℃に保持すれば、仕事関数が1.10eVのBaOより遙かに大きい4.70eVのAl2O3を使用しても、CF4を99.930%の分解率で分解することができる。そのため、熱電子供給材料の選択の幅が大きく広がり、仕事関数が5以下であれば、本発明の熱電子供給材料として使用可能と判断できる。よって、熱電子供給材料は温度条件によって適宜の仕事関数のものを選択することが可能となる。一方、比較例2の1200℃、比較例3の1100℃では、それぞれ分解率が87.600%と52.400%に止まり、99.9%以上の分解率を達成することができていない。比較例2,3と同じ温度に加熱した実施例2,3が99.9%の分解率を達成していることから、少なくとも1100℃迄加熱すれば、CF4自体はフッ素原子が熱電子を吸収できる状態まで活性化していることが判るが、仕事関数が4.70eVのAl2O3は、未だその表面にCF4を分解するのに必要な量の熱電子が滞留していないことが判る。
熱電子供給材料を実施例1のBaOから、CaO(仕事関数1.6-/+0.20eV)に変更するとともに、反応器内の温度を1160℃とした以外は、実施例1と同一の条件で分解を行った。その分析結果を表10に示す。
表10に示すように、熱電子供給材料として実施例1のBaO(仕事関数1.10eV)より、仕事関数が僅かに大きいCaO(仕事関数1.6-/+0.20eV)を使用したため、99.9%以上の分解率を得るために、反応温度を実施例3の1100℃より高い1160℃とすることによって、僅かではあるが実施例3より高い99.930%の分解率を達成することができた。実施例5の反応器内の温度1160℃は、CF4を分解する熱電子供給材料としてCaOを選択した場合の反応器内の温度を本発明に基づいて算出して決定したものであり、本発明にかかる分解方法の技術的因果関係を実証している実施例である。1160℃の算出方法については後述する。
熱電子供給材料を実施例4のAl2O3から、FeO(仕事関数3.85eV)に変更するとともに、反応器内の温度を1265℃とした以外は、実施例4と同一の条件で分解を行った。その分析結果を表11に示す。
表11に示すように、熱電子供給材料として実施例4のAl2O3(仕事関数4.70eV)より、仕事関数の小さいFeO(仕事関数3.85eV)を使用することにより、実施例4の1300℃より低い1265℃で実施例4の分解率とほぼ同等の99.920%の分解率を達成することができた。実施例6の反応器内の温度1265℃は、CF4を分解する熱電子供給材料としてFeOを選択した場合の反応器内の温度を本発明に基づいて算出して決定したものであり、本発明にかかる分解方法の技術的因果関係を実証している実施例である。1265℃の算出方法については後述する。
分解する環境汚染ガスをCF4からSF6に変更するとともに、反応器50内の温度を1000℃とした以外は、実施例1と同一の条件で分解を行った。
反応器50内の温度を900℃とした以外は、実施例7と同一の条件で分解を行った。
助燃剤であるC3H8と空気の供給を停止した以外は、実施例8と同一の条件で実施した。
反応器50内の温度を800℃とした以外は、実施例7と同一の条件で分解を行った。また、比較例4として、助燃剤であるC3H8と空気の供給を停止した以外は、実施例10と同一の条件で分解し、比較例5として、反応器50内の温度を700℃とした以外は、実施例7と同一の条件で分解を行った。実施例7~10及び比較例4,5の分析結果を表12に示す。
表12に示すように、SF6は、熱電子供給材料として仕事関数が1.10eVのBaOを使用した場合、実施例7の反応器内の温度が1000℃で、分解率が99.999%と極めて高い分解率で分解して無害化できている。また、900℃の実施例8では99.991%の分解率であり、同じ900℃の加熱で助燃剤のC3H8を供給しない実施例9でも99.920%で分解して無害化できている。そのため、900℃では助燃剤を供給しなくとも、SF6のフッ素原子が熱電子を吸収できる状態まで活性化されており、かつ、BaOの表面にはSF6を分解するのに必要な量の熱電子が滞留していることが判る。
一方、助燃剤のC3H8を供給した場合は、実施例10の800℃の加熱でも99.930%と、900℃の実施例9を僅かではあるが上回る分解率を示している。よって、従来技術では工業レベルで99.9%の分解率を達成することができなかったSF6を助燃剤のC3H8を供給すれば800℃の加熱によって、又助燃剤のC3H8を供給しなくとも900℃まで加熱すれば分解して無害化することができている。また、実施例7~10及び比較例4~5のいずれにおいても酸性ガスは検出されなかった。
実施例10に示すように、800℃の加熱温度であっても助燃剤のC3H8を供給すれば99.930%分解が可能であるが、助燃剤のC3H8供給をしない場合800℃の加熱温度では比較例4に示すように、分解率は98.900%に止まり、99.9%の分解率を実現できない。また、比較例5に示すように、加熱温度が700℃では助燃剤のC3H8を供給したとしても97.500%の分解率に止まる。
これらの実施例7~10及び比較例4,5によれば、SF6がCF4より、低い加熱温度で分解できることが判る。また、実施例10と比較例4によれば、800℃まで加熱・保持すれば、SF6のフッ素原子が熱電子を吸収できる状態まで活性化されていることと、供給された助燃剤のC3H8の燃焼により、BaOの内部まで均一に加熱することができ、BaOの表面に800℃でSF6を分解するのに必要な量の熱電子を滞留させることができる。一方、助燃剤のC3H8を供給しない比較例4の場合には、BaOの表面にSF6を分解するのに必要な量の熱電子が滞留していないことが判る。よって、助燃剤のC3H8が反応器50内の温度維持だけではなく、その燃焼によってBaOの内部まで均一に加熱して、BaOの表面に分解に必要な十分量の熱電子を滞留させることに寄与していることが判る。
熱電子供給材料をBaOから、Al2O3(仕事関数4.70eV)に変更するとともに、反応器50内の温度を1100℃とした以外は、実施例7と同一の条件で実施した。また、比較例6として反応器50内の温度を1000℃とし、比較例7として反応器50内の温度を900℃とし、比較例8として反応器50内の温度を800℃とした以外は、実施例11と同一の条件で分解を行った。実施例11及び比較例6~8の分析結果を表13に示す。
表13に示すように、反応器50内の温度を1100℃に保持すれば、仕事関数が1.10eVのBaOより遙かに大きい4.70eVのAl2O3を使用しても、SF6を99.950%の分解率で分解することができるが、比較例6の1000℃、比較例7の900℃、比較例8の800℃では、それぞれ分解率が96.800%と64.900%及び54.300%に止まり、99.9%以上の分解率を達成することができない。比較例6,7,8と同じ温度に加熱した実施例7,8,9,10が99.9%の分解率を達成していることから、少なくとも800℃迄加熱すれば、SF6自体はフッ素原子が熱電子を吸収できる状態まで活性化していることが判るが、仕事関数が4.70eVのAl2O3は、1000℃に加熱したとしても未だその表面にSF6を分解するのに必要な量の熱電子が滞留していないことが判る。
熱電子供給材料を実施例7のBaOから、CaO(仕事関数1.6-/+0.20eV)に変更するとともに、反応器内の温度を905℃とした以外は、実施例7と同一の条件で分解を行った。その分析結果を表14に示す。
表14に示すように、熱電子供給材料として実施例7のBaO(仕事関数1.10eV)より、仕事関数が僅かに大きいCaO(仕事関数1.6-/+0.20eV)を使用したため、99.9%以上の分解率を得るために、反応温度は実施例9の900℃とほぼ同じ905℃で実施例9と同じ99.920%の分解率を達成することができた。実施例12の反応器内の温度905℃は、SF6を分解する熱電子供給材料としてCaOを選択した場合の反応器内の温度を本発明に基づいて算出して決定したものであり、本発明にかかる分解方法の技術的因果関係を実証している実施例である。905℃の算出方法については後述する。
熱電子供給材料を実施例11のAl2O3から、FeO(仕事関数3.85eV)に変更するとともに、反応器内の温度を1070℃とした以外は、実施例11と同一の条件で分解を行った。その分析結果を表15に示す。
表15に示すように、熱電子供給材料として実施例11のAl2O3(仕事関数4.70eV)より、仕事関数の小さいFeO(仕事関数3.85eV)を使用することにより、実施例11の1100℃より低い1070℃で実施例11の分解率と同じ99.950%の分解率を達成することができた。実施例13の反応器内の温度1070℃は、SF6を分解する熱電子供給材料としてFeOを選択した場合の反応器内の温度を本発明に基づいて算出して決定したものであり、本発明にかかる分解方法の技術的因果関係を実証している実施例である。1070℃の算出方法については後述する。
本発明では、CF4やSF6はBaO等の熱電子供給材料と直接電子の授受をして結合反応をすることによって、フッ素原子と他の原子の結合を開裂させるため、酸性ガスが生成されることはない。一方、実施例1~8,実施例10~13では、助燃剤としてC3H8を空気とともに反応器内に供給することによって、BaO等の熱電子供給材料を直接加熱して、その内部まで均一に加熱することを容易としている。助燃剤としてのC3H8は、燃焼によってCO2とH2Oが発生するため、理論上、反応器の温度によって過熱蒸気が発生し、過熱蒸気が分解に寄与すると、文献発明1,2と同様に酸性ガスが発生するとも想定される。しかしながら、実施例1~8,実施例10~13ではいずれも酸性ガスは検出されていない。これは仮に過熱蒸気が分解に寄与することがあって酸性ガスが発生したとしても発生と同時にBaO等の熱電子供給材料に接触して中和されるためと捉えられる。そのため、実際には酸性ガスは生成されないし、当然ながら化学式上も排出されない。
実施例1~13から明らかなように、本発明によって、従来技術では分解が困難であったCF4やSF6を工業レベルで99.9%以上の分解率で分解することができる。そして、化学的に安定であって最も分解が困難なCF4やSF6が分解できる以上、同様の原理によって他のフッ素原子を含む環境汚染ガスは分解することが可能と判断できる。そこで、実施例1~13における分解原理の内容及びその技術的相当性について検証する。先ず、実施例1~13における分解対象であるCF4とSF6、及び熱電子供給材料としてのBaO,Al2O3,CaO,FeOについて、電気陰性度,電気陰性度の差,結合エネルギー,イオン化エネルギー,電子親和力,価電子数,結合の仕方,仕事関数の本発明に関連する電気特性を表16に示す。
表16において、電気陰性度は、分子内の原子が電子を引き寄せる強さの相対的な尺度であり、数値が大きいほど電子を自分の方に引きつける力が強い。電気陰性度の差は構成元素同士の差であり、どちらに電子が引き付けられているかを表している。例えば、CF4とSF6は、Fが4.0、CとSが2.6であるため、その差はともに1.4となり、F側に電子が引き寄せられる。また、BaOは、Oが3.4、Baが0.9であり、その差は2.5であって、O側に電子が引き寄せられる。また、FとFeの差は、2.2であってFeとOとの差である1.6より大きく、同様にFとBaの差は、3.1であって、BaとOとの差分である2.5より大きいため、FとFe及びFとBaの間の電子授受の相性がよいことを示している。
結合エネルギーについてみると、C-F結合のCF4が、S-F結合のSF6より大きく安定しており、より難分解であることを示している。イオン化エネルギーについては、電気陰性度と同様に、Fの1684kJ/molとFeの762kJ/mol及びBaの503kJ/molの差が大きく、FとFe及びBaのイオン結合の相性がよいことを示している。電子親和力は、電子を最外殻に取り込んで1価の陰イオンとなるときに放出するエネルギーであり、この値が大きいとその元素はより安定となり、陰イオンになりやすく電子をよく引きつける。この電子親和力も電気陰性度と同様に、FとFe及びBaの差が大きく、FとBaやFeとの電子の授受の相性がよいことが判る。
価電子数は最外殻の電子数を表しており、原子が取り得る化学結合の種類は、価電子数によって決まる。また、共有結合は、原子間での電子対の共有をともなう化学結合であり、イオン結合は、正電荷を持つ陽イオン(カチオン)と負電荷を持つ陰イオン(アニオン)間の静電引力(クーロン力)による化学結合である。
Fについての電気特性の数値を確認すると、電気陰性度は4.0、電子親和力は-328kJ/mol、イオン化エネルギーは1684kJ/molであり、陽イオンにはなりにくいが、陰イオンになりやすいことが判る。
そこで、これらの電気特性に基づいて、フッ素原子を含む環境汚染ガスとしてCF4を、熱電子供給材料としてBaOを例として、所定温度に保持した反応器内で、表面に所定量の熱電子を滞留させたBaOに、活性化させたCF4を接触させた場合に、CF4のフッ素原子がBaOの表面に滞留している熱電子を取り込んで、CF4から遊離することにより、CF4のフッ素原子と他の原子の結合を開裂させて分解する原理を図3~図9に基づいて明らかとする。説明のため、CF4の1分子がBaOの1分子に接触する場合を例として説明する。BaOの熱電子のうち反応に関わる熱電子2個をeeとして示す(eは熱電子1個)。
BaOは、図3に示すように電子を2個失ったBa2+イオンと電子を2個受け取ったO2-イオンが結合したイオン結合である。CF4は、図4に示すようにCとFの最外殻で電子を共有した共有結合である。本発明では、所定温度に加熱することによって、両者に熱エネルギーを付与して、図5に示すように、表面に所定量の熱電子を滞留させたBaOに活性化させたCF4を接触させる。
CF4 → BaOee
接触後のBaOの熱電子eは、Oの電気陰性度(3.4kJ/mol)よりFの電気陰性度(4.0kJ/mol)が大きいため、Fに強く引きつけられる。また、Fは電子親和力も大きいため、熱電子eを取り込み、電子親和力で示されるエネルギー(-328kJ/mol)を放出して、より安定(最外殻の電子数が8で閉殻)となり、その結果、図6に示すように、FはF-イオンとなり、共有電子対を離し、CF4から遊離する。そのため、CF4はCF3・(ラジカル)となる。このとき、BaOeeは熱電子を1個失いBaOe+となってプラスイオンとなる。
BaOeeCF4(接触状態) → CF3・、F-、BaO+e
この反応がもう一度繰り返され、図7に示すように、CF3のもう一つのFが、BaO+eのOの熱電子を1個奪う。
BaO+eCF3 → CF2:、2F-、BaO2+:
そして、図8に示すように、2F-とBaO2+がクーロン力で引かれてイオン結合してBaF2となる。
BaO2+:+2F- → BaF2+O:
更に、活性度の強いラジカルCF2:とO:が反応して、COF2となる。
CF2:+O: → COF2
上記した反応がCOF2のFと別のBaOeeとの間で繰り返され、図9に示すようにCF4は最終的に2BaF2とCO2に分解される。
BaOee+COF2 → BaF2+CO2
上記した図3~図9に示す分解反応をまとめると次のとおりとなる。
2BaO+CF4 → 2BaF2+CO2
この反応によってCF4が分解されるのは、電気陰性度が大きく、電子親和力の大きいFがバランスよく結合しており、安定性が高くて分解が困難なCF4に対して、熱電子の授受をきっかけとしてCF4のFを遊離イオンとすることで結合バランス(正四面体構造)を崩し、547kJ/molあった結合力を一般的な結合力である441kJ/molまで下げることと、強い反応をするイオン反応、ラジカル反応が各部で連続して発生し、分解が連鎖的に継続されるためである。
CF4とSF6を99.9%以上の分解率で分解した実施例が示す本発明の要旨は、表面に所定量の熱電子を滞留させた熱電子供給材料に、活性化させたフッ素原子を含む環境汚染ガスを接触させることによって、環境汚染ガスのフッ素原子が熱電子供給材料の表面に滞留している熱電子を取り込んで、環境汚染ガスから遊離することにより、環境汚染ガスのフッ素原子と他の原子の結合を開裂させて分解することである。そのためには、分解対象である環境汚染ガスと熱電子供給材料が次の要件1,2を充足している状態にある必要がある。
要件1:環境汚染ガスが活性化していること。
→即ち、環境汚染ガス中のフッ素原子が電子を受け取るレベルまで活性化している必要がある。
要件2:熱電子供給材料の表面における必要量の熱電子が滞留していること。
→即ち、環境汚染ガス中のフッ素原子に必要量の熱電子を供給可能な量の熱電子が熱電子供給材料の表面に滞留している必要がある。
要件1は環境汚染ガスの温度によって、要件2は熱電子供給材料の仕事関数と温度によって決定される。即ち、両者は温度と仕事関数によって充足の有無が決定される。そこで、要件1と要件2の関係について、前記した実施例に基づいて検証する。実施例の中で、CF4を最も低い温度で分解した実施例3(1100℃,BaO)と最も高い温度で分解した実施例4(1300℃,Al2O3)、及びSF6を最も低い温度で分解した実施例10(800℃,BaO)と最も高い温度で分解した実施例11(1100℃,Al2O3)について、縦軸を熱電子密度(個/m2)、横軸を温度(℃)として、それぞれプロットするとともに、プロット間を結んで図12に示すグラフとした。
これらの実施例3,4,10,11はいずれも99.9%以上の分解率を達成しており、要件1,2に関して、次の事実を示している。
事実1:CF4は、1100℃以上であれば、要件1を充足すること(実施例3)。
事実2:BaOは、1100℃以上であれば、CF4に対して要件2を充足すること(実施例3)。
事実3:Al2O3は、1300℃以上であれば、CF4に対して要件2を充足すること(実施例4)。
事実4:SF6は、800℃以上であれば、要件1を充足すること(実施例10)。
事実5:BaOは、800℃以上であれば、SF6に対して要件2を充足すること(実施例10)。
事実6:Al2O3は、1100℃以上であれば、SF6に対して要件2を充足すること(実施例11)。
上記事実1~事実6及び図12から、次の知見を得ることができる。
知見1:SF6は800℃で、CF4は1100℃で活性化して要件1を充足すること。
知見2:SF6が活性化する800℃以上で、CF4が活性化する1100℃までの温度領域であれば、環境汚染ガスの殆どが活性化すること。
知見3:事実3に基づき、仕事関数が4.70eVと大きいAl2O3の1300℃における滞留電子量を上回る滞留電子量を有する熱電子供給材料は、環境汚染ガスに対して要件2を充足すること。
知見4:仕事関数が、BaOより大きくAl2O3より小さい熱電子供給材料は、環境汚染ガスに対して、800℃~1300℃の温度範囲で要件2を充足すること。
熱電子の量は、仕事関数と温度との相関関係があるため、温度を決定すれば、前記した数1式によって仕事関数と熱電子密度の関係をグラフ化することができる。即ち、数1式において、右辺の仕事関数のみ変数で他は定数となる。そこで、横軸を仕事関数(eV)とし、縦軸を熱電子密度(個/m2)として、700℃~1300℃の温度範囲で100℃毎に両者の関係をグラフ化して図16に示す。更に、図16にはBaO(仕事関数1.10)とAl2O3(仕事関数4.70)の仕事関数のラインを表示し、前記した実施例3,4,10,11のデータをプロットするとともに、その熱電子密度を計算して示した。
図16より、仕事関数1.10eV(BaO)~仕事関数4.70eV(Al2O3)の範囲の仕事関数を有する熱電子供給材料を使用する場合、CF4は1100℃で要件1を、1300℃で要件2を充足しているため、図17に示すように実施例4のプロットと実施例3のプロットを結ぶグラフαが99.9%以上の分解が可能な温度条件と熱電子密度の下限を示している。そのため、1300℃を上限温度とすれば、グラフαと、仕事関数と熱電子密度の関係を示す1300℃のグラフで囲繞される範囲10がCF4を分解可能な範囲、換言すれば選択可能な温度と仕事関数の条件の範囲を示している。
同様に、図16より、仕事関数1.10eV(BaO)~仕事関数4.70eV(Al2O3)の範囲の仕事関数を有する熱電子供給材料を使用する場合、SF6は800℃で要件1を、1100℃で要件2を充足しているため、図17に示すように実施例10のプロットと実施例11のプロットを結ぶグラフβが99.9%以上の分解が可能な温度条件と熱電子密度の下限を示している。そのため、1100℃を上限温度とすれば、グラフβと、仕事関数と熱電子密度の関係を示す1100℃のグラフで囲繞される範囲20がSF6を分解可能な範囲、換言すれば選択可能な温度と仕事関数の条件の範囲を示している。もとより、前記したCF4を分解可能な範囲10においてもSF6は分解可能である。
図17に示したCF4を分解可能な範囲10と、SF6を分解可能な範囲20を、基準を変えて横軸を温度とした図12に基づいて検証する。図12より、仕事関数1.10eV(BaO)~仕事関数4.70eV(Al2O3)の範囲の仕事関数を有する熱電子供給材料を使用する場合、CF4は1100℃で要件1を、1300℃で要件2を充足しているため、実施例4のプロットと実施例3のプロットを結んだグラフαが、CF4を99.9%以上の分解率で分解が可能な温度条件と熱電子の量の下限を示しており、1300℃を上限温度とすれば、図13に示すようにグラフαと、1100℃及び1300℃の温度条件で囲繞される範囲10がCF4を分解可能な範囲、換言すれば選択可能な温度条件と熱電子の量の範囲を示している。
同様に、図12より、仕事関数1.10eV(BaO)~仕事関数4.70eV(Al2O3)の範囲の仕事関数を有する熱電子供給材料を使用する場合、SF6は800℃で要件1を、1100℃で要件2を充足しているため、実施例10のプロットと実施例11のプロットを結んだグラフβが、SF6を99.9%以上の分解率で分解が可能な温度条件と熱電子の量の下限を示しており、1300℃を上限温度とすれば、図13に示すようにグラフβと、800℃及び1300℃の温度条件で囲繞される範囲20がSF6を分解可能な範囲、換言すれば選択可能な温度条件と熱電子の量の範囲を示している。なお、図13において範囲20からはCF4を分解可能な範囲10を除いて図示している。もとより、CF4を分解可能な範囲10においてもSF6は分解可能である。
本発明では、仕事関数において一定の差異を有する2つの熱電子供給材料を、仕事関数が小さい方を第1試用熱電子供給材料として、仕事関数の大きい方を第2試用熱電子供給材料として用いて、分解する環境汚染ガスに応じて、適切な熱電子供給材料と加熱温度を選択する。以下に、その選択方法について、図10から図17に基づいて説明する。
図10,図11は、本発明の分解工程の説明図であり、先ず工程1として、分解対象であるフッ素原子を有する環境汚染ガスの同定を行い、その種類を特定する。エッチングガスや絶縁ガスとして使用されている産業ガスは、その種類は予め特定されているし、仮に不明の場合は公知の手段、例えばガスクロマトグラフ等を用いて同定を行う。その結果、本実施形態では、工程1の環境汚染ガスとしてCF4とSF6の2種類のガスを特定した。なお、環境汚染ガスが混合ガスの場合であっても、ガスの種類を特定することにより単一のガスの場合と同様に工程2以下の工程を実施することにより、分解することが可能である。そのため、前処理も特に必要ない。
次に工程2として、工程1で特定した環境汚染ガス、例えばCF4とSF6中のフッ素原子が電子を受け取るレベルまで活性化する温度範囲を測定する。そのために、仕事関数の小さい第1試用熱電子供給材料、例えばBaO(仕事関数1.10eV)を、所定温度に保持した反応器内に収納し、工程1で特定したCF4又はSF6を供給してBaOと接触させて分解するとともに、反応器内の温度を変更することによって、分解率が99.9%以上となる温度範囲を測定する。即ち、図10に示すように所定温度に保持した反応器で分解を行うとともに、分解後に反応器内の温度変更を行い、CF4又はSF6の分解率が99.9%以上となる温度範囲を特定する。
具体的には、反応器内の温度を1000℃とした場合、比較例1に示すとおり、分解率は85.500%に止まっているため、CF4はまだ活性化していない。そこで、反応器内の温度を1100℃とすると、実施例3に示すように、分解率は99.910%となり、CF4が活性化していることが判る。その結果、CF4が活性化して要件1を満たす温度は、助燃剤の使用を条件として1100℃以上であると測定できる。
SF6の場合は、反応器内の温度を700℃とした場合、比較例5に示すとおり、分解率は97.500%に止まっているため、SF6はまだ活性化していない。そこで800℃に上げても、助燃剤を使用しない場合は、比較例4に示すように、分解率は98.900%に止まる。そこで、900℃に上げると助燃剤を使用しなくとも分解率は99.920%となり、活性化している。更に、800℃でも助燃剤を使用すると分解率は99.930%となり、活性化している。その結果、SF6が活性化して要件1を満たす温度は、助燃剤の使用を条件として800℃以上、助燃剤を使用しない場合は900℃以上であると測定できる。
なお、第1試用熱電子供給材料はBaOに限定されるものではなく、仕事関数が小さく、後述する第2試用熱電子供給材料の仕事関数との間に一定の差を有すれば、どのような熱電子供給材料であってもよい。
次に工程3として、分解対象である環境汚染ガスの分解に必要な熱電子の量を算出する。そのために、第1試用熱電子供給材料、例えばBaOより仕事関数の大きい第2試用熱電子供給材料、例えばAl2O3(仕事関数4.70eV)を反応器内に収納し、反応器内の温度を工程2で測定した温度の下限温度から、或いは工程2における分解率99.9%を下回る温度から、工程1で特定した環境汚染ガスの分解率を99.9%以上となる温度まで段階的に上昇させて、そのときの温度と第2試用熱電子供給材料の仕事関数から、環境汚染ガスの分解に必要な熱電子の量を算出する。即ち、図10に示すように所定温度に保持した反応器で分解を行うとともに、分解後に反応器内の温度変更を行い、CF4又はSF6の分解率が99.9%以上となる温度まで上昇させ、そのときの温度と第2試用熱電子供給材料の仕事関数から数1式を用いて、熱電子の量を算出する。
具体的には、反応器内の温度を1300℃とした場合、実施例4に示すように、分解率は99.930%となっているため、この1300℃の温度とAl2O3の仕事関数4.70eVからCF4の分解に必要な熱電子の量を算出する。
SF6の場合は、反応器内の温度を1100℃とした場合、実施例11に示すとおり、分解率は99.950%となっているため、この1100℃の温度とAl2O3の仕事関数4.70eVからSF6の分解に必要な熱電子の量を算出する。
なお、第2試用熱電子供給材料はAl2O3に限定されるものではなく、仕事関数が大きく、第1試用熱電子供給材料の仕事関数との間に一定の差を有すれば、どのような熱電子供給材料であってもよい。
次に、図11に示すように、工程4として、工程2で測定した温度範囲において、工程3で算出した熱電子量を上回る熱電子を滞留させることのできる熱電子供給材料を、仕事関数に基づいて具体的に選定する。
具体的には、第1試用熱電子供給材料として使用したBaOの仕事関数1.10eVと第2試用熱電子供給材料として使用したAl2O3の仕事関数4.70eVの間の仕事関数を有する熱電子供給材料が所定の温度条件を選択すれば使用可能である。勿論、第1試用熱電子供給材料や第2試用熱電子供給材料をそのまま使用してもよい。そこで、CF4,SF6ともに、仕事関数1.6-/+0.20eVのCaO(酸化カルシウム)と、仕事関数3.85eVのFeOを分解に使用する熱電子供給材料として選択した。
そこで、図14に示すように、横軸を反応温度(℃)、縦軸を熱電子密度(個/m2)として、第1試用熱電子供給材料として使用したBaOを使用して99.9%以上の分解を達成した工程2の温度のプロットと、第2試用熱電子供給材料としてAl2O3を使用して99.9%以上の分解を達成したプロットを結び、CF4についてはグラフαとして、SF6についてはグラフβとしてグラフ化する。そして、選択した熱電子供給材料であるCaO及びFeOについて、それぞれ仕事関数を用いて、所定の差を有する2つの温度の熱電子密度を算出してプロットとし、これを結んでグラフ化する。図14では、CaOについて、700℃と1300℃の熱電子密度の算出値30,35をプロットし、これらを結んでグラフγとしてグラフ化した。同様にFeOについて、700℃と1300℃の熱電子密度の算出値40,45をプロットし、これらを結んでグラフθとしてグラフ化した。
この図14から得られる知見を技術思想として図15に示す。前記したグラフα又はグラフβにおいて、第1試用熱電子供給材料BaOと第2試用熱電子供給材料のAl2O3が99.9%以上の分解を達成した温度をそれぞれT1,T2とし、その熱電子密度をそれぞれD1,D2とする。そして、分解に使用する熱電子供給材料であるCaOとFeOの熱電子密度と温度の関係を示すグラフγ,θ(図14参照)が、グラフα又はグラフβとの交点の温度をT3,熱電子密度をD3とする。この温度T3及び熱電子密度D3が選択した熱電子供給材料を使用して分解対象としての環境汚染ガスを99.9%以上の温度で分解できる下限の温度と下限の熱電子密度を示している。よって、選択された熱電子供給材料を用いて反応器内の温度をT3以上に加熱・保持すればD3以上の熱電子の量が熱電子供給材料の表面に滞留しているため、分解対象としての環境汚染ガスを99.9%以上の分解率で分解することができる。
この図15に示す技術的思想を具体的に検証すると、図14に示すように、CaOのグラフγがCF4のグラフαと交差する交点の温度は1160℃,SF6のグラフβとの交点の温度が905℃である。よって、熱電子供給材料としてCaOを使用してCF4を分解する場合の下限の温度は1160℃となるため、実施例5として、この温度で分解を試みたところ、表10に示すように99.930%の分解率で分解することができ、本発明の技術的相当性が肯定されている。
また、熱電子供給材料としてCaOを使用してSF6を分解する場合の下限の温度は、図14に示すように905℃となるため、実施例12として、この温度で分解を試みたところ、表14に示すように99.920%の分解率で分解することができ、本発明の技術的相当性が肯定されている。
同様に、図14に示すようにFeOのグラフθがCF4のグラフαと交差する交点の温度は1265℃,SF6のグラフβとの交点の温度が1070℃である。よって、熱電子供給材料としてFeOを使用してCF4を分解する場合の下限の温度は1265℃となるため、実施例6として、この温度で分解を試みたところ、表11に示すように99.920%の分解率で分解することができ、本発明の技術的相当性が肯定されている。
また、熱電子供給材料としてFeOを使用してSF6を分解する場合の下限度は図14に示すように1070℃となるため、実施例13として、この温度で分解を試みたところ、表15に示すように99.950%の分解率で分解することができ、本発明の技術的相当性が肯定されている。
CF4の分解を試みた実施例5,6、及びSF6の分解を試みた実施例12,13によれば、前記した工程1~工程5によって算出した温度条件によって99.9%以上の分解率でCF4やSF6を分解できている。反応器の温度設定や温度測定には誤差も生じるため、工程1~工程5によって算出した温度条件を下限値とし、この下限値を遵守するとともに、+50℃程度の余裕を持たせて反応器内の温度を設定することが実用的には好ましい。本発明の要旨は、工程1~工程5によって算出した温度条件や熱電子の量を基準として分解する環境汚染ガスに適した分解方法を構築することにある。
本発明は、フッ素原子を含む環境汚染ガスを分解対象とするが、フッ素原子と同じ周期表の17族に属する塩素(Cl)原子,臭素(Br)原子は、フッ素原子と同様に電気陰性度が3.16,2.96と高く、かつ、そのまま大気に放出すると環境に負荷を与える環境汚染ガスでもある。これらの塩素原子や臭素原子を含む環境汚染ガスも、フッ素原子を含む環境汚染ガスと同様に、塩素原子や臭素原子が熱電子供給材料の表面に滞留している熱電子を取り込んで、環境汚染ガスから遊離することにより、環境汚染ガスの塩素原子や臭素原子と他の原子の結合を開裂させて分解することが可能である。即ち、フッ素原子以外の電気陰性度が大きい原子を含む環境汚染ガスの分解にも本発明の熱電子を利用した分解原理がそのまま該当する。
塩素原子や臭素原子を含む環境汚染ガスとしては、CCl4(四塩化炭素),CHCl3(クロロホルム),CH3Br(臭化メチル),CH2ClBr(ハロン1011)などがある。そこで、CF4と同様に、正四面体構造をとって電子配置が不活性なCCl4について、文献2発明と本発明によって分解を行った。
[従来例8,9]
分解する環境汚染ガスとしてCF4に代えて、10kg/hのCCl4を反応器50に供給し、反応器50の温度を従来例8では800℃とし、従来例9では900℃とした以外は従来例1と同一の条件で実験を行った。その分析結果を表17に示す。
表17に示すように、文献2発明では、800℃の反応温度では分解率は僅か56.120%に止まり、900℃に上げても99.850%に止まった。従来例8,9のデータから反応温度を1000℃まで上げれば、99.9%以上の分解率を達成できると思われるが、その場合でも酸性ガスの生成は避けられない。
分解する環境汚染ガスとしてCF4に代えて、10kg/hのCCl4を反応器50に供給し、反応器50の温度を700℃とした以外は、実施例1と同一の条件で分解を行った。その結果を表18に示す。
分解する環境汚染ガスとしてCF4に代えて、10kg/hのCCl4を反応器50に供給し、反応器50の温度を900℃とした以外は、実施例4と同一の条件で分解を行った。その結果を表18に示す。
表18に示すように、実施例14によれば、従来例8に比べて100℃低い700℃の反応温度で99.997%という極めて高い分解率を実現している。また、実施例15はBaOより仕事関数の大きいAl2O3を熱電子供給材料として使用しているが、従来例9と同じ900℃の反応温度で、従来例9では実現できなかった99.9%以上の分割率を達成している。このことは、本発明の熱電子による分解が従来の過熱蒸気を利用した文献2発明に比べて分解効率が高いことを示している。しかも酸性ガスも生成していない。これらの結果から、本発明によれば従来技術に比較して、より低い反応温度で、又より安全に塩素原子や臭素原子等の周期表の17族に属する原子、即ち電気陰度の大きい原子を含む環境汚染ガスを分解することができる。