以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
[第1の実施の形態]
{1.2台のレーダ装置の位置関係}
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るレーダ装置100の構成を示す機能ブロック図である。図1において、括弧内の符号は、レーダ装置100と同一の構成を有する、レーダ装置200の構成要素を示す。
レーダ装置100は、位相変化送信信号PVS1を送信波PVW1として出力し、送信波PVW1が物標で反射した反射波を含む受信波RWを受信する。位相変化送信信号PVS1は、連続する複数のチャープ信号の各々の位相をランダムに変化させた信号である。
図2は、図1に示すレーダ装置100とレーダ装置200との位置関係の一例を示す図である。図2を参照して、レーダ装置100は、車両1Aに搭載される。レーダ装置100は、車両1Aの前端面に設置され、送信波PVW1を車両1Aの前方に照射する。送信波PVW1が車両2Aで反射した反射波RFLは、レーダ装置100の受信アンテナ13により受信された場合、受信アンテナ13により反射信号RFSに変換される。レーダ装置100は、反射信号RFSを用いて車両2Aを検出する。距離D1は、レーダ装置100から車両2Aまでの距離である。
以下の説明において、車両1Aの「前方」とは、車両1Aの直進方向であって、運転席からステアリングに向かう方向である。車両1Aの「後方」とは、車両1Aの直進方向であって、ステアリングから運転席に向かう方向である。車両1Aの「左方」とは、車両1Aの直進方向及び鉛直方向に垂直な方向であって、車両1Aの前方を基準として左方向である。車両1Aの「右方」とは、車両1Aの直進方向及び鉛直方向に垂直な方向であって、車両1Aの前方を基準として右方向である。車両2Aの方向は、車両1Aと同様に定義される。
車両1Aは、片側1車線の対面通行式の道路を走行している。車両2Aは、車両1Aが走行する車線と別の車線において、車両1Aと反対方向に走行している。車両2Aは、レーダ装置200を搭載する。
レーダ装置200は、車両2Aの前端面に設置される。レーダ装置200は、位相変化送信信号PVS2を生成し、その生成した位相変化送信信号PVS2を送信波PVW2として出力する。送信波PVW2は、車両2Aの前方に照射される。送信波PVW2の中心周波数は、送信波PVW1の中心周波数と同じである。つまり、送信波PVW2の周波数帯域は、送信波PVW1の周波数帯域と重複する。送信波PVW2は、レーダ装置100の受信アンテナ13により受信された場合、受信アンテナ13により干渉信号ISに変換される。
以下、レーダ装置200に関して、レーダ装置100と同じ内容の説明を省略する。
{2.FCM方式を用いた物標検出の概略}
レーダ装置100、200は、FCM方式で物標を検出する。FCM方式は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式で必要なアップピークとダウンピークのペアリング処理が不要であることから、誤ペアリングによる物標の誤認識という問題が発生しない。従って、FCM方式は、FMCW方式に比べてより正確な物標検出が期待される。
ここで、一般的なFCM方式のレーダ装置における、距離と相対速度の算出方法について簡単に説明する。レーダ装置は、のこぎり波状のチャープ信号を生成し、その生成したチャープ信号をFMCW方式と比べて短い周期で送信する。レーダ装置は、受信波を受信し、送信信号と受信波から変換された受信信号とをミキシングすることによりビート信号を生成する。レーダ装置は、その生成したビート信号に対して2次元FFT(Fast Fourier Transform)を行う。レーダ装置は、2次元FFTにより得られた2次元パワースペクトルに現れたピークに基づいて、レーダ装置から物標までの距離と、レーダ装置から見た物標の相対速度とを取得する。
距離の取得についてさらに説明する。レーダ装置から物標までの距離が長くなるほど、送信信号に対する受信信号の時間遅延が大きくなるため、ビート信号の周波数は、距離に比例する。そのため、ビート信号に対して1回目のFFTを施すことにより、距離に対応する周波数の位置にピークが出現する。1回目のFFTは、所定の周波数間隔で設定された周波数ポイント(以下、距離ビンという場合がある)ごとに受信レベルや位相情報を抽出するため、正確には距離に対応する周波数の距離ビンにピークが出現する。つまり、1回目のFFTにおいてピーク周波数を検出することで距離を求めることができる。1回目のFFT処理は、ビート信号について行われるため、ビート信号の数、即ちチャープの数だけ繰り返される。
相対速度の算出について取得する。レーダ装置は、ビート信号に含まれるドップラシフト周波数を検出することにより、物標の相対速度を取得する。相対速度が0km/hである場合、受信信号は、ドップラシフト周波数を含まない。この場合、ビート信号の位相は全て同じになる。一方、相対速度が0km/hでない場合、受信信号は、相対速度に応じたドップラシフト周波数を含む。この場合、各ビート信号は、ドップラシフト周波数に応じた位相情報を有する。従って、1回目のFFTにより得られた各ビート信号のパワースペクトルを時系列に並べて2回目のFFT処理を行うことにより、ドップラシフト周波数に応じた位置にピークが出現する。2回目のFFTは、速度分解能に応じた所定の周波数間隔で設定された周波数ポイント(以下、速度ビンという場合がある)ごとに位相情報を抽出するため、ドップラシフト周波数に対応する速度ビンの位置にピークが出現する。このように、2回目のFFTで得られるピークの周波数に基づいて、相対速度を求めることができる。
{3.レーダ装置100の構成}
図1を参照して、レーダ装置100は、送信部11と、送信アンテナ12と、複数の受信アンテナ13と、複数の受信部14と、信号処理部15と、ピーク抽出部16と、物標データ生成部17と、メモリ18とを備える。本実施の形態では、レーダ装置100は、4つの受信アンテナ13と4つの受信部14とを備えている。受信アンテナ13と受信部14とは1対1で対応する。
送信部11は、位相がランダムに変化する位相変化送信信号PVS1を生成し、その生成した位相変化送信信号PVS1を送信アンテナ12に供給する。送信アンテナ12は、送信部11から受けた位相変化送信信号PVS1を送信波PVW1として送信する。
送信部11は、信号生成部111と、位相変化部112とを備える。信号生成部111は、複数のチャープ信号を含む送信信号TS1を生成する。送信信号TS1の周期は、1つのチャープ信号の周期と同じであり、例えば、数十μsecである。
信号生成部111は、波形がのこぎり状である電圧信号をスイープ信号として生成する。スイープ信号の周期は、送信信号TS1の周期と同じである。信号生成部111は、予め設定された中心周波数を有する連続波を生成し、その生成した連続波をスイープ信号を用いて周波数変調する。これにより、送信信号TS1が生成される。
位相変化部112は、信号生成部111から送信信号TS1を受け、メモリ18に記憶されたパターンテーブル51を用いて、その受けた送信信号TS1にランダムな位相変化を与える。位相変化送信信号PVS1は、ランダムな位相変化が与えられた送信信号TS1である。位相変化部112の詳細については、後述する。
複数の受信アンテナ13は、受信波RWを受信し、その受信した受信波RWを受信信号RSに変換する。
受信部14は、対応する受信アンテナ13から受信信号RSを取得する。受信部14により取得された受信信号RSは、図示しないローノイズアンプで増幅される。複数の受信部14の各々は、ミキサ141と、A/D変換器142とを備える。
ミキサ141は、増幅された受信信号RSを、位相変化部112から受けた位相変化送信信号PVS1とミキシングすることにより、ビート信号BSを生成する。つまり、ミキサ141は、送信信号TS1に与えられた位相変化と逆の位相変化を、受信信号RSに与える逆位相変化部として動作する。ミキサ141は、生成したビート信号BSをA/D変換器142に出力する。A/D変換器142は、ミキサ141から受けたビート信号BSを離散化し、その離散化されたビート信号BSを信号処理部15に出力する。
信号処理部15は、複数の受信部14の各々から、離散化されたビート信号BSを取得し、その取得したビート信号BSを処理する。信号処理部15は、フーリエ変換部151を含む。
フーリエ変換部151は、複数の受信部14から取得したビート信号BSに対して2次元FFTを施すことにより、2次元パワースペクトル31を生成する。フーリエ変換部151は、生成した2次元パワースペクトル31をピーク抽出部16に出力する。
ピーク抽出部16は、信号処理部15から2次元パワースペクトル31を受け、その受けた2次元パワースペクトル31に含まれるピークの中から、物標を示す物標ピークを抽出する。ピーク抽出部16は、物標ピークを記録したピークデータ32を物標データ生成部17に出力する。ピーク抽出部16の構成については、後述する。
物標データ生成部17は、ピーク抽出部16からの受けたピークデータ32に基づいて、レーダ装置100から物標までの距離と、レーダ装置100を基準とした物標の相対速度とを求める。物標データ生成部17は、求めた距離及び相対速度を含む物標データを、車両制御ECU(Electronic Control Unit)60に出力する。
車両制御ECU60は、物標データ生成部17から受けた物標データを、例えば、ACC(Adaptive Cruise Control)やPCS(Pre-crash Safety System)に利用する。
メモリ18は、不揮発性の記憶装置であり、例えば、フラッシュメモリである。メモリ18は、パターンテーブル51を記憶する。
以下、ピーク抽出部16の構成を、図3を参照しながら説明する。図3は、図1に示すピーク抽出部16の構成を示す機能ブロック図である。ピーク抽出部16は、代表値取得部161と、閾値設定部162と、速度方向ピーク抽出部163と、距離方向判断部164とを備える。
代表値取得部161は、フーリエ変換部151から2次元パワースペクトル31を受ける。代表値取得部161は、その受けた2次元パワースペクトル31において一の座標を選択し、選択した一の座標を含む複数の座標の複数のパワーから、2つの代表値を取得する。以下、選択された一の座標を「選択座標」と記載する。
2つの代表値の一方は、速度方向代表値41であり、他方は、距離方向代表値42である。速度方向代表値41は、選択座標を含むとともに速度方向に延びる帯状範囲に含まれる座標のパワーの算術平均である。距離方向代表値42は、選択座標を含むとともに距離方向に延びる帯状範囲に含まれる座標のパワーの算術平均である。代表値取得部161は、速度方向代表値41及び距離方向代表値42を閾値設定部162に出力する。
閾値設定部162は、代表値取得部161から受けた速度方向代表値41に基づいて、速度方向閾値43を設定し、設定した速度方向閾値43を速度方向ピーク抽出部163に出力する。また、閾値設定部162は、代表値取得部161から受けた距離方向代表値42に基づいて、距離方向閾値44を設定し、設定した距離方向閾値44を距離方向判断部164に出力する。
速度方向ピーク抽出部163は、閾値設定部162から受けた速度方向閾値43に基づいて、速度方向のピークが選択座標で形成されているか否かを判断する。速度方向のピークが選択座標で形成されている場合、速度方向ピーク抽出部163は、選択座標を距離方向判断部164に出力する。
距離方向判断部164は、速度方向ピーク抽出部163から選択座標を受けた場合、距離方向閾値44を閾値設定部162から取得する。距離方向判断部164は、距離方向のピークが選択座標で形成されているか否かを、距離方向閾値44に基づいて判断する。距離方向判断部164は、距離方向のピークが選択座標で形成されている場合、選択座標のピークが物標ピークであると判断し、選択座標をピークデータ32に追加する。
{4.レーダ装置200の構成}
図1を参照して、レーダ装置200は、送信部21と、送信アンテナ22と、受信アンテナ23と、受信部24と、信号処理部25と、ピーク抽出部26と、物標データ生成部27と、メモリ28とを備える。送信部21は、信号生成部211と、位相変化部212とを含む。受信部24は、ミキサ241と、A/D変換器242とを備える。レーダ装置200は、上述のように、レーダ装置100と同じ構成を有する。このため、レーダ装置200が有する各構成要素の詳細な説明を省略する。
{5.レーダ装置の動作}
{5.1.送信処理}
(レーダ装置100による送信処理)
図4は、レーダ装置100により実行される送信波PVW1の送信処理のフローチャートである。図4を参照して、信号生成部111が、スイープ信号を生成する(ステップS11)。スイープ信号において、電圧は、基準電圧から時間の経過とともに一定の割合で増加し、予め設定されたスイープ信号の1周期に相当する時間を経過した時点で基準電圧まで急降下する変化を繰り返す。
信号生成部111は、予め設定された中心周波数を有する連続波を生成する。信号生成部111は、ステップS11で生成したスイープ信号を用いて、連続波を周波数変調することにより、送信信号TS1を生成する(ステップS12)。生成された送信信号TS1は、位相変化部112に出力される。
位相変化部112は、パターンテーブル51をメモリ18から読み出す。位相変化部112は、読み出したパターンテーブル51を用いて、位相変化送信信号PVS1を生成する(ステップS13)。ステップS13の詳細については、後述する。送信アンテナ12は、位相変化部112から供給される位相変化送信信号PVS1を、送信波PVW1として車両2Aの前方に送信する。
(位相変化部112の動作(ステップS12))
図5は、図1に示すメモリ18に記録されるパターンテーブル51の一例を示す図である。図5を参照して、パターンテーブル51は、送信信号TS1に含まれるチャープ信号の各々の位相に加算すべき位相加算量を記録している。送信信号TS1がn個のチャープ信号を含む場合、パターンテーブル51は、n個のチャープ信号に対応するn個の位相加算量を記録する。つまり、チャープ信号と位相加算量とは1対1に対応する。
パターンテーブル51は、4種類の位相加算量(0°、90°、180°、270°)を有する。4種類の位相加算量が、パターンテーブル51の各周期においてランダムに出現する。図5に示す例では、パターンテーブル51において、1周期目~6周期目の位相加算量は、0°、90°、270°、0°、180°、90°であり、n周期目の位相加算量は、90°である。
図6は、パターンテーブル51を用いた場合における送信信号TS1の位相変化を示す図である。図6を参照して、送信信号TS1は、チャープ信号C1~Cnを含む。nは、2以上の自然数である。送信期間は、時刻T1から時刻T2までの期間、すなわち、チャープ信号C1~Cnを送信する期間である。
位相変化部112は、図6に示すパターンテーブル51に基づいて、1周期目のチャープ信号C1の位相に0°を加算する。続いて、位相変化部112は、2周期目のチャープ信号C2の位相に90°を加算し、3周期目のチャープ信号C3の位相に270°を加算する。以下、各周期のチャープ信号に対して設定された位相加算量が、各周期のチャープ信号の位相に加算される。このようにして、位相変化部112は、送信信号TS1にランダムな位相変化を与えることにより位相変化送信信号PVS1を生成する。
(位相変化の効果)
ステップS12において送信信号TS1の位相をランダムに変化させることにより、位相変化送信信号PVS1は、仮想的なドップラシフト周波数を含む。
図5に示すパターンテーブル51に基づいて位相変化送信信号PVS1を生成した場合、チャープ信号C1とチャープ信号C2との位相差が90°である。この位相差は、チャープ信号の1周期分の時間が経過するたびに位相が90°変化するドップラシフト周波数を位相変化送信信号PVS1が含むことを示す。
同様に、チャープ信号C1とチャープ信号C3との位相差が270°である。この位相差は、チャープ信号の1周期分の時間が経過するたびに位相が135°変化するドップラシフト周波数を位相変化送信信号PVS1が含むことを示す。チャープ信号C1とチャープ信号C5との位相差が180°である。この位相差は、チャープ信号の1周期分の時間が経過するたびに位相が45°変化するドップラシフト周波数を位相変化送信信号PVS1が含むことを示す。チャープ信号C1とチャープ信号Cnとの位相差が90°である。この位相差は、チャープ信号の1周期分の時間が経過するたびに位相が(135/n)°変化するドップラシフト周波数を位相変化送信信号PVS1が含むことを示す。
つまり、位相変化送信信号PVS1は、任意の2つのチャープ信号の位相差とこの2つのチャープ信号の周期とによって定まるドップラシフト周波数を含む。パターンテーブル51において位相加算量がランダムに変化するため、位相変化送信信号PVS1に含まれる複数のドップラシフト周波数はランダムとなる。
送信波PVW1は、レーダ装置100が移動しているか否かに関係なく、上述の様々なドップラシフト周波数を含む。車両1Aが停止していた場合であっても、位相変化部112が送信信号TS1の位相をランダムに変化させるためである。すなわち、位相変化送信信号PVS1は、ランダム、かつ、車両1Aの動きと関係のない仮想的なドップラシフト周波数を含む。
(レーダ装置200の送信処理)
レーダ装置200は、図4に示す処理を実行して、送信波PVW2を送信する。位相変化部212は、パターンテーブル52を用いて、信号生成部211により生成された送信信号にランダムな位相変化を与えることにより、位相変化送信信号PVS2を生成する。従って、位相変化送信信号PVS2は、仮想的な複数のドップラシフト周波数を含む。位相変化送信信号PVS2に含まれる仮想的な複数のドップラシフト周波数は、ランダムである。
図7は、レーダ装置200により使用されるパターンテーブル52の一例を示す図である。図7を参照して、パターンテーブル52は、パターンテーブル51と同じ4種類の位相加算量を有する。しかし、パターンテーブル52における位相加算量の変化は、パターンテーブル51における位相加算量の変化と異なる。従って、位相変化送信信号PVS1及びPVS2は、同一の中心周波数を有するが、互いに異なる位相を有する。送信波PVW1及びPVW2についても同様である。パターンテーブル52が位相変化送信信号PVS2の生成に用いられる点を除き、送信波PVW2の送信処理は、送信波PVW1の送信処理と同じであるため、その詳細な説明を省略する。
{5.2.受信処理}
図8は、レーダ装置100により実行される受信処理のフローチャートである。レーダ装置100は、図8を示す受信処理を実行して、受信波RWから物標である車両2Aを検出する。以下、車両2Aに搭載されたレーダ装置200は、干渉波である送信波PVW2を送信している例を説明する。
受信アンテナ13は、受信した受信波RWを受信信号RSに変換し、受信信号RSを受信部14に出力する。レーダ装置200が送信波PVW2を車両2Aの前方に照射しているため、受信波RWは、反射波RFLと、干渉波である送信波PVW2とを含む。従って、受信信号RSは、反射波RFLから変換された反射信号RFSと、送信波PVW2から変換された干渉信号ISとを含む。
受信部14において、ミキサ141は、受信信号RSを受信アンテナ13から受け、位相変化送信信号PVS1を送信部11から受ける。ミキサ141は、受信信号RSを位相変化送信信号PVS1とミキシングすることにより、ビート信号BSを生成する。
ビート信号BSは、反射信号RFSに由来する仮想的なドップラシフト周波数を含まず、干渉信号ISに由来する仮想的なドップラシフト周波数を含む。
受信信号RSが反射信号RFSのみを含むと仮定した場合、ビート信号BSは、反射信号RFSと位相変化送信信号PVS1との差分信号である。反射信号RFSは、位相変化送信信号PVS1が有する仮想的なドップラシフト周波数に加えて、物標(車両2A)の相対速度に相当する真のドップラシフト周波数を含む。ビート信号BSの位相は、反射信号RFSと位相変化送信信号PVS1との位相差である。反射信号RFSと位相変化送信信号PVS1とは同じ位相変化を有するため、反射信号RFSに含まれる仮想的なドップラシフト周波数は、ミキシングにより、位相変化送信信号PVS1に含まれる仮想的なドップラシフト周波数と相殺される。この結果、ビート信号は、仮想的なドップラシフト周波数を含まず、真のドップラシフト周波数を含む。
受信信号RSが干渉信号ISのみを含むと仮定した場合、ビート信号BSは、干渉信号ISと位相変化送信信号PVS1との差分信号である。干渉信号ISは、位相変化送信信号PVS2が有する仮想的なドップラシフト周波数と、物標(車両2A)の相対速度に相当する真のドップラシフト周波数とを含む。ビート信号BSの位相は、干渉信号ISと位相変化送信信号PVS1との位相差である。パターンテーブル51を用いて生成された位相変化送信信号PVS1は、干渉信号IS(パターンテーブル52を用いて生成された位相変化送信信号PVS2)と異なる位相変化を有するため、干渉信号ISに含まれる仮想的なドップラシフト周波数は、ミキシングにより、位相変化送信信号PVS1に含まれる仮想的なドップラシフト周波数と相殺されない。この結果、ビート信号BSは、真のドップラシフト周波数と、パターンテーブル52に基づく仮想的なドップラシフト周波数とを含む。
実際には、受信信号RSが反射信号RFSと干渉信号ISとを含むため、ビート信号BSは、車両2Aの相対速度に相当する真のドップラシフト周波数と、パターンテーブル52に基づく仮想的なドップラシフト周波数とを含む。つまり、ミキサ141は、受信信号RSを位相変化送信信号PVS1とミキシングすることにより、パターンテーブル51に基づく位相変化と逆の位相変化を受信信号RSに与える逆位相変化部として機能する。ミキシングにより、反射信号RFSに含まれる仮想的なドップラシフト周波数が打ち消されるため、レーダ装置100は、逆位相変化部として動作する機能部を、ミキサ141とは別に設けなくてもよい。従って、レーダ装置100の構成を簡略化できる。
ミキサ141により生成されたビート信号BSは、A/D変換器142により離散化される。A/D変換器142は、離散化されたビート信号BSをフーリエ変換部151に出力する。
フーリエ変換部151は、A/D変換器142から離散化されたビート信号BSを受け、その受けたビート信号BSに対して2次元FFTを実行する(ステップS21)。フーリエ変換部151は、2次元FFTにより得られた2次元パワースペクトル31をピーク抽出部16に出力する。
ピーク抽出部16は、フーリエ変換部151から2次元パワースペクトル31を受け、その受けた2次元パワースペクトル31から、物標ピークを抽出する(ステップS22)。ピーク抽出部16は、各物標ピークの距離ビン及び速度ビンを記録したピークデータ32を物標データ生成部17に出力する。ステップS22の詳細については、後述する。
物標データ生成部17は、ピークデータ32をピーク抽出部16から受け、その受けたピークデータ32に記録された各物標ピークの距離ビン及び速度ビンに基づいて、レーダ装置100から物標までの距離と、レーダ装置100から見た物標の相対速度を決定する(ステップS23)。物標データ生成部17は、反射波RFLの到来方向を、物標の方位として推定する(ステップS24)。到来方向を推定する方法は、特に限定されず、例えば、ESPRIT、MUSIC、及びPRISM等を用いることができる。
物標データ生成部17は、ステップS23で得られた距離及び相対速度と、ステップS24で得られた物標の方位とに基づいて、各物標の位置と、距離と、相対速度とを記録した物標データを生成する(ステップS25)。
物標データ生成部17は、物標データを1つ以上のクラスタにクラスタリングする(ステップS26)。具体的には、一の物標データに記録された一の物標の位置から、他の物標データに記録された他の物標の位置までの距離が所定の距離よりも短い場合、物標データ生成部17は、これらの物標データを数珠つなぎにつなぐことによりクラスタを生成する。ステップS27以降の処理では、1つのクラスタが1つの物標に対応する。このため、物標データがクラスタごとに生成される。
物標データ生成部17は、新たに検出された物標(クラスタ)を、過去に検出された物標と対応付ける追跡処理を実行する(ステップS27)。追跡処理の方法は特に限定されない。物標データ生成部17は、新たに検出された物標を、3種類の物標に分類する(ステップS28)。3種類の物標は、具体的には、静止物標、車両1Aの前方に移動する移動物標、及び車両1Aの後方に移動する移動物標である。物標データ生成部17は、新たに検出された物標の分類を物標データに記録する。
物標データ生成部17は、不要物に対応する物標データを除去する(ステップS29)。例えば、不要物は、レーダ装置100を搭載する車両1Aの車高よりも高い位置に存在する静止物標である。物標データ生成部17は、ステップS29において除去されなかった物標データのパラメータに基づいて、同一の物体に関する物標データであると推測できる複数の物標データを1つの物標データにグループ化する(ステップS30)。
物標データ生成部17は、ステップS30により得られた物標データを車両制御ECU60に出力する。また、ステップS30により得られた物標データは、メモリ18に記憶される。物標データ生成部17は、図8に示す処理を新たに実行する場合、メモリ18に記憶された物標データを、過去に検出された物標データとして使用する。
{5.3.ピーク抽出(ステップS22)}
(ピーク抽出の概略)
図9は、2次元パワースペクトル31の一例を示す図である。図9において、X軸は、距離ビンに対応する距離軸である。Y軸は、速度ビンに対応する速度軸である。Z軸は、パワーに対応する。なお、図9に示す2次元パワースペクトル31において、チャープ数は、64であるため、Y軸の最大値は、64である。
図9を参照して、2次元パワースペクトル31は、ピークP11、P12を含む。ピークP11は、反射波RFLに対応する物標ピークである。ピークP12は、送信波PVW2に対応する干渉波ピークである。
ピークP11は、距離方向及び速度方向の両者に関して明確なピークを形成している。ピークP11の距離ビン及び速度ビンは、Xa及びYaである。距離ビンXaは、距離D1(図2参照)に相当する。ビート信号BSにおいて、反射信号RFSに含まれる仮想的なドップラシフト周波数が打ち消されており、反射信号RFSは、真のドップラシフト周波数を含む。このため、速度ビンYaは、車両2Aの相対速度に相当する。
図10は、ピークP11のX軸方向のパワースペクトルである。つまり、図10に示すパワースペクトルは、2次元パワースペクトル31を、距離ビンXaにおいて、X軸に垂直な平面により切断した切断面に相当する。距離ビンXaにおいて、Y軸方向のフロアノイズは、-100dB~-150dBである。ピークP11は、速度ビンYaにおいて形成されており、そのピーク値は、約-5dBである。つまり、ピークP11は、距離ビンXaにおけるY軸方向のフロアノイズから突出している。
ピークP12は、上述のように、干渉波ピークであり、距離ビンXbにおいて、距離方向に明確なピークを形成している。レーダ装置200は、レーダ装置100が送信波PVW1を送信するタイミングと無関係なタイミングで、送信波PVW2を送信する。従って、距離ビンXbは、送信波PVW1の送信タイミングと送信波PVW2の送信タイミングとのずれを示し、距離D1(図2参照)と無関係である。
ビート信号BSにおいて、干渉信号ISは、仮想的なドップラシフト周波数と、真のドップラシフト周波数と含む。干渉信号ISに含まれる仮想的なドップラシフト周波数は、位相変化部212により与えられるランダムな位相変化によって生じる。従って、様々なドップラ周波数に対応するピークが、距離ビンXbにおいてY軸方向に一列に並んで形成される。
図11は、図9に示すピークP12のY軸方向のパワースペクトルである。つまり、図11に示すパワースペクトルは、2次元パワースペクトル31を、距離ビンXbにおいて、X軸に垂直な平面により切断した切断面に相当する。
図11を参照して、ピークP12は、Y軸方向に関して複数の極大値を有する。複数の極大値は、-15dB~-20dBであり、距離ビンXbにおけるY軸方向のフロアノイズのレベルは、約-15dB~-35dBである。複数の極大値は、距離ビンXbにおけるY軸方向のフロアノイズから突出しているとは言えない。つまり、ピークP12のパワーは、Y軸方向に分散しており、速度方向において明確なピークを形成していない。この理由は、送信波PVW2が様々な仮想的なドップラシフト周波数を含むためである。送信波PVW2のパワーは、仮想的なドップラシフト周波数の各々に対応するピークを形成するために速度方向に分散される。
上述のように、ミキサ141は、受信信号RSを、送信信号TS1の位相をランダムに変化させた位相変化送信信号PVS1とミキシングする。ビート信号BSにおいて、反射信号RFSに含まれる仮想的なドップラシフト周波数が打ち消され、干渉信号ISに含まれる仮想的なドップラ周波数が残存する。この結果、2次元パワースペクトル31において、物標ピークは、速度軸方向に明確なピークを形成するのに対して、干渉波ピークは速度軸方向に明確なピークを形成しない。ピーク抽出部16は、物標ピークと干渉波ピークとの形状の違いを利用して、物標ピークを抽出する。
(ピーク抽出部16の動作)
図12は、ピーク抽出部16により実行されるピーク抽出処理(ステップS22)のフローチャートである。ピーク抽出部16は、フーリエ変換部151から2次元パワースペクトル31を受けた場合、図12に示す処理を開始する。
最初に、代表値取得部161が、2次元パワースペクトル31における一の座標(選択座標)を選択する(ステップS201)。具体的には、代表値取得部161は、X軸とY軸とによって定義される2次元空間において、選択座標を選択する。選択座標は、2次元座標をX軸方向及びY軸方向にスキャンするようにして選択される。
ピーク抽出部16は、ステップS202~S204を実行して、Y軸方向のピークが選択座標で形成されているか否かを判断する。
代表値取得部161は、選択座標に対応する速度方向代表値41を算出する(ステップS202)。具体的には、代表値取得部161は、速度方向代表値41の算出に用いられる算出範囲を、選択座標に基づいて決定する。代表値取得部161は、決定した算出範囲に含まれる座標におけるパワーの算術平均を、速度方向代表値41として算出する。代表値取得部161は、速度方向代表値41を閾値設定部162に出力する。
図13は、速度方向代表値41の算出範囲の一例を示す図である。図13を参照して、座標Cs(Xs,Ys)が選択座標である場合における算出範囲をハッチングで示している。代表値取得部161は、選択座標を中心として、Y軸方向に延びる帯状領域を算出範囲に決定する。帯状領域の幅は、予め設定されている。図13に示す例では、座標Cs(Xs,Ys)が選択座標である場合、X軸座標がXs-2以上、かつ、Xs+2以下である帯状領域が算出範囲に決定される。つまり、速度方向閾値43は、距離ビンごとに設定される。また、X=Xsの座標を中心とした帯状領域の座標のパワーを用いることにより、X=Xsである座標のパワーのみを用いる場合に比べて、速度方向代表値41の統計的信頼性を高めることができる。
閾値設定部162は、速度方向代表値41を代表値取得部161から受け、その受けた速度方向代表値41に基づいて、速度方向閾値43を設定する(ステップS203)。具体的には、閾値設定部162は、予め設定された第1パワー加算値を速度方向代表値41に加算した値を、速度方向閾値43に設定する。物標ピークの抽出基準である速度方向閾値43が、距離ビンごとに設定されるため、物標ピークの抽出精度を向上させることができる。つまり、干渉波ピークを誤って物標ピークとして抽出することを防ぐことができる。また、速度方向閾値43の設定に要する演算回数を削減できるため、速度方向閾値43を迅速に設定できる。閾値設定部162は、選択座標及び速度方向閾値43を、速度方向ピーク抽出部163に出力する。
速度方向ピーク抽出部163は、選択座標及び速度方向閾値43を閾値設定部162から受け、2次元パワースペクトル31をフーリエ変換部151から受ける。速度方向ピーク抽出部163は、速度方向のピークが選択座標において形成されているか否かを、速度方向閾値43と、選択座標のパワーとに基づいて判断する(ステップS204)。
具体的には、速度方向ピーク抽出部163は、フーリエ変換部151から受けた2次元パワースペクトル31から、選択座標のパワーを取得する。速度方向ピーク抽出部163は、取得した選択座標のパワーを速度方向閾値43と比較する。選択座標のパワーが速度方向閾値43以下である場合、速度方向ピーク抽出部163は、速度方向のピークが選択座標で形成されていないと判断する(ステップS204においてNo)。選択座標において、物標ピークが形成されていないか、あるいは、図11に示すような干渉波ピークが形成されていると考えられるためである。
一方、選択座標のパワーが速度方向閾値43よりも大きい場合、速度方向ピーク抽出部163は、選択座標のパワーが速度方向に関して極大であるか否かを判断する。速度方向のピークが選択座標で形成されている場合、選択座標のパワーは速度方向に関して極大であるためである。具体的には、選択座標(Xs,Ys)のパワーが、座標(Xs,Ys-1)及び座標(Xs,Ys+1)の両者のパワーよりも大きい場合、速度方向ピーク抽出部163は、選択座標のパワーが極大であると判断する。選択座標のパワーが極大でない場合、速度方向ピーク抽出部163は、速度方向のピークが選択座標で形成されていないと判断する(ステップS204においてNo)。
選択座標のパワーが速度方向閾値よりも大きく、かつ、選択座標のパワーが速度方向に関して極大である場合、速度方向ピーク抽出部163は、速度方向のピークが選択座標で形成されていると判断する(ステップS204においてYes)。速度方向ピーク抽出部163は、選択座標を距離方向判断部164に出力する。
続いて、ピーク抽出部16は、ステップS205~S207を実行して、選択座標で距離方向のピークが形成されているか否かを判断する。
速度方向のピークが選択座標で形成されている場合(ステップS204においてYes)、代表値取得部161は、選択座標に対応する距離方向代表値42を算出する(ステップS205)。具体的には、距離方向判断部164は、選択座標を速度方向ピーク抽出部163から受けた場合、その受けた選択座標に対応する距離方向代表値42の算出を、代表値取得部161に要求する。代表値取得部161は、距離方向判断部164の要求を受けた場合、距離方向代表値42の算出範囲を決定する。代表値取得部161は、決定した算出範囲に含まれるパワーの算術平均を、選択座標に対応する距離方向代表値42として算出し、その算出した距離方向代表値42を閾値設定部162に出力する。
図14は、距離方向代表値42の算出範囲の一例を示す図である。図14を参照して、座標Cs(Xs,Ys)が選択座標である場合、代表値取得部161は、選択座標を中心として、X軸方向に延びる帯状領域を算出範囲に決定する。帯状領域の幅は、予め設定されている。図14において、座標Cs(Xs,Ys)が選択座標である場合における算出範囲が、ハッチングで示されている。つまり、代表値取得部161は、座標Cs(Xs,Ys)が選択座標である場合、速度軸座標がYs-2以上、かつ、Ys+2以下である領域を算出範囲に決定する。座標Csが選択座標である場合、太枠で囲まれる範囲の座標のパワー値は、速度方向代表値41及び距離方向代表値42の算出に用いられる。
閾値設定部162は、代表値取得部161から距離方向代表値42を受け、その受けた距離方向代表値42に基づいて、距離方向閾値44を設定する(ステップS206)。閾値設定部162は、予め設定された第2パワー加算値を、距離方向閾値44に加算した値を、距離方向閾値44に設定する。第2パワー加算値は、ステップS203で用いられる第1パワー加算値と同じでもよいし、異なっていてもよい。閾値設定部162は、設定した距離方向閾値44を距離方向判断部164に出力する。
距離方向判断部164は、距離方向閾値44を閾値設定部162から受け、その受けた距離方向閾値44に基づいて、距離方向のピークが選択座標で形成されているか否かを判断する(ステップS207)。
具体的には、距離方向判断部164は、選択座標のパワー値を距離方向閾値44と比較する。選択座標のパワー値が距離方向閾値44以下である場合、距離方向判断部164は、距離方向のピークが選択座標で形成されていないと判断する(ステップS207においてNo)。
一方、選択座標のパワーが距離方向閾値44よりも大きい場合、距離方向判断部164は、選択座標のパワーが距離方向に関して極大であるかどうかを判断する。距離方向のピークが選択座標で形成されている場合、選択座標のパワーは極大となるためである。具体的には、選択座標(Xs,Ys)のパワーが、座標(Xs-1,Ys)及び座標(Xs+1,Ys)の両者のパワーよりも大きい場合、距離方向判断部164は、選択座標が距離軸方向に関して極大であると判断する。選択座標のパワーが距離方向に関して極大でない場合、距離方向判断部164は、距離方向のピークが選択座標で形成されていないと判断する(ステップS207においてNo)。
選択座標のパワーが距離方向閾値よりも大きく、かつ、選択座標のパワーが極大である場合、距離方向判断部164は、距離方向のピークが選択座標で形成されていると判断する(ステップS207においてYes)。この場合、速度方向のピーク及び距離方向のピークの両者が選択座標で形成されているため、距離方向判断部164は、選択座標で物標ピークを検出したと判断する(ステップS208)。距離方向判断部164は、選択座標で形成されている物標ピークに関するピークデータ32を生成し、その生成したピークデータ32を物標データ生成部17へ出力する。
ピークデータ32が出力された後に、代表値取得部161は、2次元パワースペクトル31の全座標が選択されたか否かを判断する(ステップS209)。全座標が選択されていない場合(ステップS209においてNo)、代表値取得部161により、新たな選択座標が決定される(ステップS201)。全座標が選択されている場合(ステップS209においてYes)、ピーク抽出部16は、図12に示す処理を終了する。
以上説明したように、レーダ装置100、200において、位相変化部は、送信信号の位相をランダムに変化させ、位相を変化させた送信信号を送信波として送信する。送信信号の位相変化パターンは、レーダ装置100、200で互いに異なる。レーダ装置100は、受信波から生成したビート信号から2次元パワースペクトル31を生成する。2次元パワースペクトル31において、レーダ装置200からの送信波に由来するピークは、距離軸方向において突出するが、速度軸方向において突出しない。従って、レーダ装置100は、2次元パワースペクトルにおいて速度軸方向及び距離方向においてピークが形成されている場合、このピークを物標ピークとして抽出する。レーダ装置100は、2次元パワースペクトル31において干渉波ピークに現れる特徴を利用することにより、干渉波に由来するピークを誤って物標ピークとして検出することを防ぐことができる。
また、速度方向閾値43が、2次元パワースペクトル31の距離ビンごとに設定される。一の距離ビンにおいて、速度軸方向にパワー値が分散する干渉波ピークが存在する場合、フロアノイズの上昇に応じた速度方向閾値43が設定される。従って、ピーク抽出部16は、干渉波に由来するピークを誤って物標ピークとして検出することをさらに防ぐことができる。
[第2の実施の形態]
図15は、本発明の第2の実施の形態に係るレーダ装置100Aの構成を示す機能ブロック図である。図15を参照して、レーダ装置100Aは、送信部11に代えて送信部11Aを備え、受信部14に代えて受信部14Aを備える。レーダ装置100Aは、図1に示すレーダ装置100が用いる方法と異なる方法で、ランダムな位相変化と逆の位相変化を受信信号RSに与える。
送信部11Aは、位相変化部112に代えて、位相変化部112Aを備える。また、送信部11Aは、分岐部114をさらに備える。分岐部114は、信号生成部111の出力端子(図示省略)と接続される。位相変化部112Aは、送信アンテナ12と分岐部114との間に配置される。分岐部114は、信号生成部111により生成された送信信号TS1を位相変化部112A及び受信部14Aのミキサ141に出力する。
位相変化部112Aは、信号生成部111から受けた送信信号TS1の位相を変化させることにより、位相変化送信信号PVS1を生成する。位相変化部112Aは、生成した位相変化送信信号PVS1を送信アンテナ12に供給する。位相変化部112Aの動作は、図1に示す位相変化部112の動作と同じであるため、その説明を省略する。
図16は、図15に示す受信部14Aの構成を示す機能ブロック図である。図16を参照して、受信部14Aは、ミキサ141と、A/D変換器142と、逆位相変化部143とを含む。
ミキサ141は、送信信号TS1と受信信号RSとをミキシングしてビート信号BSAを生成する。ビート信号BSAは、反射信号RFSに由来する仮想的なドップラシフト周波数と、干渉信号ISに由来するドップラシフト周波数とを含む。
反射信号RFSは、位相変化部112Aが送信信号TS1に与えたランダムな位相変化に対応する仮想的なドップラシフト周波数を含む。干渉信号ISは、レーダ装置200が送信信号TS2に与えたランダムな位相変化に対応するドップラシフト周波数を含む。一方、送信信号TS1は、仮想的なドップラシフト周波数を含まない。従って、反射信号RFSに由来する仮想的なドップラシフト周波数と、干渉信号ISに由来する仮想的なドップラシフト周波数は、ミキシングの際に打ち消されることなく、ビート信号BSAに残存する。
逆位相変化部143は、位相変化部112Aが送信信号TS1に与えたランダムな位相変化と逆の位相変化を、ミキサ141から受けたビート信号BSAに与える。例えば、逆位相変化部143が、図5に示すパターンテーブル51を用いた場合を想定する。この場合、逆位相変化部143は、1周期目のビート信号BSAの位相を90°戻し、2周期目のビート信号BSAの位相を0°戻し、3周期目のビート信号BSAの位相を90°戻し、4周期目のビート信号BSAの位相を180°戻す。
この結果、ビート信号BSAに含まれる仮想的なドップラシフト周波数のうち、反射信号RFSに由来する仮想的なドップラシフト周波数が打ち消される。反射信号RFSは、位相変化部112Aが送信信号TS1に与えた位相変化と同じ位相変化を有するためである。一方、干渉信号ISに由来するドップラシフト周波数は、逆位相変化部143により打ち消されない。干渉信号ISは、位相変化部112Aが送信信号TS1に与えた位相変化と異なる位相変化を有するためである。
逆位相変化部143は、逆の位相変化を与えたビート信号BSAを、位相調整ビート信号BSRとしてA/D変換器142に出力する。A/D変換器142は、逆位相変化部143から受けた位相調整ビート信号BSRを離散化して、フーリエ変換部151に出力する。
再び、図15を参照して、フーリエ変換部151は、位相調整ビート信号BSRを逆位相変化部152から受け、その受けた位相調整ビート信号BSRに対して2次元FFTを行う。
この結果、レーダ装置100Aは、第1の実施の形態に係るレーダ装置100と同様に、干渉波ピークを誤って物標ピークとして抽出することを防ぐことができる。また、位相変化部112を、信号生成部111とミキサ141との間に配置することができない場合においても、反射信号に含まれる仮想的なドップラシフト周波数を打ち消すことができる。従って、レーダ装置100Aは、設計の自由度を向上させることができる。
なお、レーダ装置100Aは、複数の送信アンテナ12を備える場合、複数の送信アンテナ12に対応する複数の位相変化部112Aを備えてもよい。この場合、位相変化部112Aは、送信アンテナ12と1対1に対応して設けられる。パターンテーブルは、複数の位相変化部112Aの各々に対して個別に設定される。この場合、複数の位相変化部が、送信信号TS1に対して複数のランダムな位相変化を与えることになる。この場合、逆位相変化部143は、複数の位相変化部112Aが用いる複数のパターンテーブルに設定された位相加算量を周期ごとに合成した合成位相を取得し、各周期のビート信号BSAの位相を、合成位相の分だけ戻す処理を行えばよい。
[第3の実施の形態]
図17は、本発明の第3の実施の形態に係るレーダ装置が備える信号処理部15Bの構成を示す機能ブロック図である。本実施の形態に係るレーダ装置は、図15に示すレーダ装置100Aと以下の点が異なる。すなわち、本実施の形態に係るレーダ装置は、図15に示す信号処理部15に代えて、図17に示す信号処理部15Bを備える。本実施の形態に係るレーダ装置において、受信部14Aは、逆位相変化部143を備えない。従って、図16に示すA/D変換器142は、ミキサ141に生成されたビート信号BSAを離散化して、信号処理部15Bに出力する。
図17を参照して、信号処理部15Bは、離散化されたビート信号BSAを受信部14から受け、2次元パワースペクトル31を生成する。信号処理部15Bは、第1フーリエ変換部151Bと、逆位相変化部152Bと、第2フーリエ変換部153Bとを含む。
第1フーリエ変換部151Bは、受信部14Aから受けたビート信号BSAに対して、物標の距離を求めるための1回目のFFTを実行して、ビート信号BSAの各々に対応するスペクトル情報を取得する。ビート信号BSAの各々に対応するスペクトル情報は、複素数で表現される。
逆位相変化部152Bは、ビート信号BSAの各々に対応するスペクトル情報に対して、位相変化部112Aが送信信号TS1に与えた位相変化と逆の位相変化を与える。例えば、位相変化部112Aが図7に示すパターンテーブル51を用いた場合、逆位相変化部152Bは、1周期目のビート信号BSAに対応するスペクトル情報に対して、-90°の位相変化を与える。逆位相変化部152Bは、2、3、及び4周期目のビート信号BSに対応するスペクトル情報に対して、0°、-90°、及びー180°の位相変化を与える。逆位相変化部152Bは、逆の位相変化が与えられた1回目のFFT結果を第2フーリエ変換部153Bに出力する。
第2フーリエ変換部153Bは、逆の位相変化が与えられたスペクトル情報に対して2回目のFFTを行うことにより、2次元パワースペクトル31を生成する。
信号処理部15Bを用いた場合であっても、図9に示す2次元パワースペクトル31を取得することができる。本実施の形態に係るレーダ装置は、第1の実施の形態に係るレーダ装置100と同様に、レーダ装置200からの送信波PVW2に起因する干渉波ピークを検出することができる。また、位相変化部112を、信号生成部111とミキサ141との間に配置することができない場合においても、反射信号RFSに含まれる仮想的なドップラシフト周波数を打ち消すことができる。従って、本実施の形態に係るレーダ装置は、設計の自由度を向上することができる。
つまり、上記実施の形態に係るレーダ装置は、相対速度を求めるためのFFTを開始する前の受信信号に対して、送信信号に与えた位相変化と逆の位相変化を与えればよい。相対速度を求めるためのFFTを開始する前の受信信号には、受信信号RSと、ビート信号BS、BSAと、1回目のFFTにより得られた各ビート信号のスペクトル情報が含まれる。速度軸を含むパワースペクトルにおいて、干渉波のパワーを分散させることができるため、ピーク抽出部16は、干渉波に由来するピークを誤って物標ピークとして検出することを防ぐことができる。
[その他の変形例]
上記実施の形態において、速度方向代表値41と距離方向代表値42とが、算出範囲に含まれる座標のパワーの算術平均である例を説明したが、これに限られない。速度方向代表値41及び距離方向代表値42の各々が、算出範囲に含まれるパワーの中央値であってもよいし、最頻値であってもよい。
また、図13及び図14に示す算出範囲の幅は、座標5つ分でなくてもよい。選択座標が存在する速度方向の列のみを算出範囲に設定してもよいし、算出範囲を、選択座標を中心にして設定しなくてもよい。つまり、代表値取得部161は、2次元パワースペクトル31における一の距離に基づいて複数の座標を特定し、特定された複数の座標における複数のパワーの代表値を取得すればよい。
上記実施の形態において、閾値設定部162は、速度方向閾値に予め設定された第1パワー加算値を加算することにより速度方向閾値43を設定したが、これに限られない。例えば、閾値設定部162は、一の距離における複数の座標の複数のパワーに基づいて、第1パワー加算値を決定してもよい。
例えば、図13を参照して、座標Csが選択座標である場合、閾値設定部162は、Y軸座標がYs-3以上、Ys+3以下であり、かつ、X軸座標がXs-3以上、Ys+3以下である範囲を、第1パワー加算値の取得範囲に決定する。閾値設定部162は、決定した取得範囲における最大パワーと最小パワーとの差分値を第1パワー加算値として決定してもよいし、速度方向代表値41と決定した取得範囲における最大パワーとの差分値を第1パワー加算値として決定してもよい。
一の距離において干渉波ピークが存在する場合と、一の距離において干渉波ピークが存在しない場合とにおいて、速度軸方向のパワーの変動の特徴は異なると考えられる。一の距離における速度方向のパワーの変化に応じて速度方向閾値43を設定することにより、干渉波ピークを誤って物標ピークとして抽出することをさらに防ぐことができる。
あるいは、閾値設定部162は、ステップS203において、予め設定された係数を速度方向代表値41に乗じることにより、速度方向閾値43を設定してもよい。つまり、速度方向閾値43が、算出範囲におけるパワーの代表値に基づいて設定されるのであれば、速度方向閾値43の設定方法は、特に限定されない。ステップS206における距離方向閾値44の設定についても同様である。
上記実施の形態において、速度方向ピーク抽出部163は、選択座標のパワーが速度方向閾値43よりも大きく、かつ、速度方向に関して極大である場合、選択座標が速度方向に関してピークを形成する例を説明したが、これに限られない。選択座標のパワーが速度方向閾値43よりも大きい場合、速度方向ピーク抽出部163は、選択座標において速度軸方向のピークが形成されていると判断してもよい。つまり、速度方向ピーク抽出部163が、一の距離における速度方向代表値41に基づいて、一の距離における速度軸方向のピークを抽出できるのであれば、抽出方法は特に限定されない。
上記実施の形態において、レーダ装置100、200において、送信信号に含まれるチャープ信号の数は、64である例を説明したが、これに限られない。送信信号に含まれるチャープ信号の数は、特に限定されない。ただし、送信信号に含まれるチャープ数を増加させることにより、干渉波ピークが位置する距離軸座標において、速度軸の方向のフロアノイズを低下させることができる。
図18は、送信信号TS2のチャープ数が128である場合における、速度方向における干渉波ピークのパワースペクトルである。チャープ信号の数が128である場合、フロアノイズは、-20dB~-40dBである。図19は、送信信号TS2のチャープ数が512である場合における、速度方向における干渉波ピークのパワースペクトルである。チャープ信号の数が512である場合、フロアノイズは、は、-25dB~-40dBである。図10、図18~図19を比較すると、送信信号TS2のチャープ数が増加するにつれて、フロアノイズが低下する傾向にある。チャープ数を増加させることにより、物標ピークの抽出精度を向上させることができる。
例えば、物標ピークが干渉波ピークの近傍に存在する場合、物標ピークのフロアノイズのレベルが上昇することが想定される。しかし、送信信号に含まれるチャープ数を増加させることにより、速度方向代表値41に基づいて設定される速度方向閾値43を低下させることができる。速度方向閾値43の低下により、物標ピークが速度方向閾値43よりも下回ることを抑制できるため、物標ピークの抽出精度を向上させることができる。
上記実施の形態において、レーダ装置が車両の前端面に設置される例を説明したが、これに限られない。車両は、上記実施の形態に係る複数のレーダ装置を搭載してもよい。この場合であっても、1台の車両に搭載された複数のレーダ装置において、隣り合う2台のレーダ装置の一方は、他方からの送信波に由来する干渉波ピークを検出できる。
上記実施の形態において、フーリエ変換部が、1回目のFFTにおいて、レーダ装置から物標までの距離を求め、2回目のFFTにおいて、レーダ装置と物標との相対速度を求める例を説明したが、これに限られない。フーリエ変換部は、1回目のFFTにおいて、レーダ装置と物標との相対速度を求め、2回目のFFTにおいて、レーダ装置から物標までの距離を求めてもよい。
上記実施の形態において、ピーク抽出部16が、距離方向代表値42に基づいて距離方向閾値44を設定する例を説明したが、これに限られない。ピーク抽出部16は、距離方向閾値44を設定する際に距離方向代表値42を用いなくてもよい。ピーク抽出部16は、距離方向閾値44として予め設定された値を用いてもよい。この場合、距離方向閾値44を、2次元パワースペクトル31に現れる一般的なノイズレベルとすればよい。あるいは、距離方向閾値44は、2次元パワースペクトル31の全パワー値の平均値に基づいて設定されてもよい。つまり、距離方向閾値44の設定には、従来から用いられている方法を使用することができる。
また、代表値取得部161は、速度方向代表値41の算出範囲を決定する際に、速度軸方向の幅を限定してもよい。例えば、代表値取得部161は、選択座標を中心として、速度軸の方向に関して所定の範囲内にある座標を算出範囲に含めればよい。距離方向代表値42の算出範囲についても同様である。
上記実施の形態では、送信信号に含まれるチャープ信号の位相をランダムに変化させるFCM方式のレーダ装置を説明した。しかし、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式のレーダ装置において、ランダムな位相変化を送信信号与えてもよい。
つまり、レーダ装置100において、位相変化部112は、信号生成部111により生成された送信信号にランダムな位相変化を与えて位相変化送信信号PVS1を生成し、生成した位相変化送信信号PVS1を送信アンテナに供給する。逆位相変化部が、ランダムな位相変化と逆の位相変化を、受信アンテナ13により取得された受信信号に与える。信号処理部が、逆の位相変化が与えられた受信信号を処理して、レーダ装置100を基準とした相対速度に対応する速度軸を含むスペクトルを生成する。ピーク抽出部16は、信号処理部により生成されたスペクトルにおいて速度軸の方向に突出するピークを物標ピークとして抽出する。レーダ装置100がこのような構成を有していれば、送信波PVW1の送信方式は特に限定されない。
これにより、一のレーダ装置から送信される送信波の周波数帯域が、他のレーダ装置から送信される送信波の周波数帯域と重複する場合であっても、一のレーダ装置は、一のレーダ装置から送信される送信波が物標で反射した反射波を、干渉波(別のレーダ装置から送信される送信波)と区別することができる。
上記実施の形態において、信号処理部、ピーク抽出部、物標データ生成部の各機能ブロックは、LSIなどの半導体装置により個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全部を含むように1チップ化されてもよい。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路又は汎用プロセサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用しても良い。
また、信号処理部、ピーク抽出部、物標データ生成部の各機能ブロックにより実行される処理の一部または全部は、プログラムにより実現されるものであってもよい。そして、上記各実施の形態の各機能ブロックの処理の一部または全部は、コンピュータにおいて、中央演算装置(CPU)により行われる。また、それぞれの処理を行うためのプログラムは、ハードディスク、ROMなどの記憶装置に格納されており、ROMにおいて、あるいはRAMに読み出されて実行される。
また、上記実施の形態の各処理をハードウェアにより実現してもよいし、ソフトウェア(OS(オペレーティングシステム)、ミドルウェア、あるいは、所定のライブラリとともに実現される場合を含む。)により実現してもよい。さらに、ソフトウェアおよびハードウェアの混在処理により実現しても良い。
例えば、上記実施の形態(変形例を含む)の各機能ブロックを、ソフトウェアにより実現する場合、図20に示したハードウェア構成(例えば、CPU、ROM、RAM、入力部、出力部等をバスBusにより接続したハードウェア構成)を用いて、各機能部をソフトウェア処理により実現するようにしてもよい。
また、上記実施の形態における処理方法の実行順序は、必ずしも、上記実施の形態の記載に制限されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、実行順序を入れ替えてもよい。
前述した方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム及びそのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、本発明の範囲に含まれる。ここで、コンピュータ読み取り可能な記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD-ROM、MO、DVD、DVD-ROM、DVD-RAM、大容量DVD、次世代DVD、半導体メモリを挙げることができる。
上記コンピュータプログラムは、上記記録媒体に記録されたものに限られず、電気通信回線、無線又は有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク等を経由して伝送されるものであってもよい。
なお、本発明の具体的な構成は、前述の実施形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更および修正が可能である。