JP7128514B2 - 害虫を防除するための組成物及び害虫を防除する方法 - Google Patents

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Description

本発明は、殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有する害虫を防除するための組成物及び当該害虫を防除する方法に関する。
植物に食害を与える害虫の中には、体表がロウ状の物質を含む虫体被覆物で覆われている害虫がいる。このような虫体被覆物は殺虫剤の虫体への付着を阻害するため、これを有する害虫に対しては、殺虫剤を含む農薬を直接散布しても十分に防除することができない。そのような殺虫剤による防除が難しい害虫の1種として、例えば、コナカイガラムシ類が知られている。食害を与えるコナカイガラムシ類の雌の成虫は、ロウ状の物質で覆われており、殺虫剤を弾き、虫体に付着しにくいので、殺虫剤を虫体表面に適用しても、その効果を十分に発揮することができない。そして、コナカイガラムシ類は、病害も媒介することから、効果的な防除方法が早急に必要とされている。
殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有する害虫に対する防除方法としては、植物浸透移行性の殺虫剤を使用し、害虫が植物を食べることで体内に殺虫剤を取り込ませたり、天敵により防除したり、物理的に気門を塞いだり、歯ブラシなどで植物から物理的に擦り取ったりする方法が用いられている。しかしながら、植物浸透移行性の殺虫剤ではある程度の効果が期待できるものの、当該殺虫剤は植物中に残存するものであるため、使用の際に慎重な取り扱いが求められ、使用量及び使用回数などが厳しく制限されている。また、天敵防除や物理的防除は、発生初期などの個体数が少ない場合には有効であるが、増殖した際や長期的な効果は期待できない。
一方、生分解性プラスチックを速やかに分解するクチナーゼ様酵素が、植物常在性の酵母や糸状菌から単離同定されている(特許文献1及び2、非特許文献1~3)。クチナーゼ様酵素は、様々な長さの炭素鎖のエステル結合を加水分解する活性を有する、基質特異性の広いエステラーゼである(非特許文献1)。クチナーゼ様酵素を大量生産する技術も開発されており(特許文献3及び4)、近い将来、市場で、安価な酵素液が大量に入手可能になることが期待されるが、クチナーゼ様酵素の害虫に対する効果は知られていない。
特許第4915593号公報 特許第5082125号公報 特許第5849297号公報 国際公開第2014/109360号
Shinozakiら、Applied Microbiology and Biotechnology(2013)97:2951-2959 Suzukiら、Applied Microbiology and Biotechnology(2014)98:4457-4465 Watanabeら、Process Biochemistry(2015)50:1718-1724
近年、環境保全型農業への人々の関心が高まり、作物中に浸透移行する殺虫剤の使用量を減らしつつ、より食の安全や環境負荷低減への配慮がなされた、新たな病害虫防除技術が求められている。また、人体に対して有毒な殺虫剤の使用量や使用回数を抑えることができる、より効率的な害虫の防除方法が求められている。したがって、本発明は、殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有する害虫を安全かつ効率的に防除することを目的としている。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、生分解性プラスチック分解酵素として知られていたクチナーゼ様酵素が、殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を溶解することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示す害虫を防除するための組成物及び害虫を防除する方法を提供するものである。
〔1〕害虫を防除するための組成物であって、クチナーゼ様酵素を含み、前記害虫が、殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有することを特徴とする、組成物。
〔2〕害虫において殺虫剤の殺虫作用を増強するための組成物であって、クチナーゼ様酵素を含み、前記害虫が、前記殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有することを特徴とする、組成物。
〔3〕殺虫剤をさらに含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕前記クチナーゼ様酵素が、シュードザイマ(Pseudozyma)属、モエジオマイセス属(Moesziomyces)、パラフォーマ(Paraphoma)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、ムコール(Mucor)属、フミコラ(Humicola)属、テルモミセス(Thermomyces)属、タラロミセス(Talaromyces)属、ケトミウム(Chaetomium)属、トルラ(Torula)属、スポロトリクム(Sporotrichum)属、マルブランケア(Malbranchea)属、アルタナリア(Alternaria)属、クラドスポリウム(Cladosporium)属、ぺニシリウム(Penicillium)属、ペキロマイセス(Paecilomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、及び、アシドボラックス(Acidovorax)属から成る群から選択される少なくとも1種の微生物に由来する、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔5〕前記クチナーゼ様酵素が、シュードザイマ・アンタクティカ(Pseudozyma antarctica)が産生するエステラーゼ(PaE)、パラフォーマ属類縁菌クチナーゼ様酵素(PCLE)、及び、クリプトコッカス・マグナス(Cryptococcus magnus)又はその類縁菌により産生されるクチナーゼ様酵素1(CmCut1)からなる群から選択される少なくとも1種である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔6〕前記害虫が、ロウ状物質を含む虫体被覆物を有する昆虫である、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔7〕害虫を防除する方法であって、
クチナーゼ様酵素を含む組成物を前記害虫に接触させる工程を含み、
前記害虫が、殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有することを特徴とする、方法。
〔8〕害虫において殺虫剤の殺虫作用を増強する方法であって、
クチナーゼ様酵素を含む組成物を前記害虫に接触させる工程を含み、
前記害虫が、前記殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有することを特徴とする、方法。
〔9〕前記クチナーゼ様酵素の接触工程と同時に又はその後に、殺虫剤を含む組成物を前記害虫に接触させる工程をさらに含む、前記〔6〕又は〔7〕に記載の方法。
本発明に従えば、クチナーゼ様酵素を害虫防除のための有効成分として使用することにより、従来の殺虫剤では防除が難しいとされていた害虫を防除することができる。また、クチナーゼ様酵素と従来の殺虫剤とを併用すれば、相乗的な防除作用が奏される。したがって、人体に対して有毒な殺虫剤の使用量を低減し、殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有する害虫でも安全かつ効率的に防除することが可能となる。
ミカンコナカイガラムシの観察写真を示す。 ミカンコナカイガラムシの観察写真を示す。 ミカンコナカイガラムシの観察写真を示す。 PaE及び住化スミチオン乳剤の単独使用時及び併用時のKD活性を示す。 ミカンコナカイガラムシの観察写真を示す。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、害虫を防除するための組成物又は害虫において殺虫剤の殺虫作用を増強するための組成物に関しており、当該組成物は、クチナーゼ様酵素を有効成分として含み、前記害虫が、殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有することを特徴としている。前記虫体被覆物は、ロウ状物質を含み得るものであり、殺虫剤が虫体に付着しにくいため、そのような虫体被覆物を有している害虫(特に昆虫)を従来の殺虫剤単独で防除することは難しい。前記ロウ状物質は、高級脂肪酸及び/又は高級アルコールなどの比較的鎖長の長い構成部分を有するエステルを含み得る。前記虫体被覆物を有する害虫は、特に限定されないが、例えば、ミカンコナカイガラムシ、ミカンヒメコナカイガラムシ、及びフジコナカイガラムシなどのコナカイガラムシ類、並びに、カラマツカサアブラムシ、ヒメカサアブラムシなどのカサアブラムシ類などであってもよい。
本明細書に記載の「クチナーゼ様酵素」とは、生分解性プラスチックを分解する酵素として植物常在性の酵母や糸状菌から単離同定された酵素であって、そのアミノ酸配列中にクチナーゼと共通するリパーゼボックスを有しているが、当該クチナーゼとはアミノ酸配列同一性が低く、代表的なクチナーゼであるフザリウム・ソラニ(Fusarium solani)由来クチナーゼを比較対象としてマキシマムマッチングにより解析したときのアミノ酸配列同一性が、約60%以下好ましくは約30%以下の酵素のことをいう。なお、前記クチナーゼ様酵素は、必ずしもクチナーゼのようなクチン分解活性を有しているわけではないし、タンパク質全体のアミノ酸配列に関してクチナーゼとの相同性が高いわけでもない。基質特異性に関しても、クチナーゼでは、短鎖脂肪酸エステルの分解活性が高く、長鎖脂肪酸エステルの分解活性は低いのに対して、前記クチナーゼ様酵素は、短鎖脂肪酸エステル及び長鎖脂肪酸エステルのどちらもよく分解する。このように、クチナーゼとクチナーゼ様酵素とは、それぞれ特性が異なる別種の酵素であると認識されている。
前記クチナーゼ様酵素としては、当技術分野で通常用いられている種々の酵素を、特に制限されることなく採用することができるが、例えば、微生物により産生されるクチナーゼ様酵素を、当該微生物の培養液(培養ろ液)の形態で使用してもいいし、そこから単離精製して使用してもよい。前記クチナーゼ様酵素を産生する微生物は、特に限定されるものではないが、例えば、シュードザイマ(Pseudozyma)属、モエジオマイセス属(Moesziomyces)、パラフォーマ(Paraphoma)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、ムコール(Mucor)属、フミコラ(Humicola)属、テルモミセス(Thermomyces)属、タラロミセス(Talaromyces)属、ケトミウム(Chaetomium)属、トルラ(Torula)属、スポロトリクム(Sporotrichum)属、マルブランケア(Malbranchea)属、アルタナリア(Alternaria)属、クラドスポリウム(Cladosporium)属、ぺニシリウム(Penicillium)属、ペキロマイセス(Paecilomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、及び、アシドボラックス(Acidovorax)属から成る群から選択される微生物であってもよい。
前記クチナーゼ様酵素は、好ましくは、シュードザイマ・アンタクティカ(Pseudozyma antarctica)が産生するエステラーゼ(PaE)、パラフォーマ属類縁菌クチナーゼ様酵素(PCLE)、又は、クチナーゼ様酵素1(CmCut1)である。PaEは、例えば、GB-4(1)W株、GB-4(0)-HPM7株(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託された酵母;受託番号NITE P-02238)及びOMM62-2株(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託された酵母;受託番号NITE P-02239)などのシュードザイマ・アンタクティカ(最近分類が変更され、モエジオマイセス・アンタクティクス(Moesziomyces antarcticus)と呼ばれることもある。)により産生される酵素である。PCLEは、パラフォーマ属類縁菌B47-9株(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託された糸状菌;受託番号NITE P-573;要すれば特許第5082125号参照)などのパラフォーマ属類縁菌により産生される酵素であり、CmCut1は、クリプトコッカス・マグナス(Cryptococcus magnus)類縁菌BPD1A株(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託された酵母;受託番号NITE P-02134)などのクリプトコッカス・マグナス又はその類縁菌により産生される酵素である。F.ソラニ由来クチナーゼを比較対象としてマキシマムマッチングにより解析したときのアミノ酸配列同一性は、PaEでは20.08%、PCLEでは57.26%、そしてCmCut1では26.01%である。前記クチナーゼ様酵素は、遺伝子組換え技術によって生産された酵素であってもよい。
前記クチナーゼ様酵素の力価は、生分解性プラスチックであるポリブチレンサクシネート-co-アジペート(PBSA)エマルジョン(昭和電工株式会社、EM-301)の濁度の減少量として規定することができる。本明細書においては、OD660nmの値を1分間に1低下させるときの力価を1Uと定義する。酵素活性測定時の緩衝液としては、例えば、トリス塩酸緩衝液(20mM Tris-HCl、pH9.0、塩化カルシウム(2mM)なし又はあり)を使用してもよい。
特定の理論に拘束されるものではないが、前記クチナーゼ様酵素は、害虫の体表において殺虫剤の虫体への付着を阻害している虫体被覆物を溶解し脱離させることができ、溶出した虫体被覆物は、虫体の周囲で乾燥して再度固化することによって、その虫体の運動を阻害し、さらには当該虫体の気門を塞いで窒息死させることができると考えられる。また、前記虫体被覆物を溶解し脱離させると、前記害虫の体表が露出するため、殺虫剤が容易に付着して虫体内に浸潤し、その防除活性を有効に発揮することができると考えられる。
本発明の組成物は、殺虫剤をさらに含んでもよい。前記殺虫剤としては、当技術分野で通常使用されるものを、特に制限されることなく採用することができるが、例えば、フェニトロチオン(MEP)、ジメチルジカルベトキシエチルジチオホスフェート、ヘキシチアゾクス、ジクロルボス(DDVP)、及び/又は、酸化フェンブタスズなどを有効成分として含む殺虫剤を使用してもよい。なお、上述したように、前記クチナーゼ様酵素を作用させると前記害虫の体表が露出するため、害虫の体表に付着し虫体内に浸潤して作用するタイプの殺虫剤を前記クチナーゼ様酵素と併用すると、顕著な併用効果が観察されやすい。
また、本発明の組成物は、害虫の防除活性を妨げない限り、任意の添加剤をさらに含んでもよい。前記添加剤としては、特に限定されないが、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンノニフィルフェニルエーテル、及び、ポリオキシエチレンドデシルエーテルなどの界面活性剤などを採用してもよい。
別の態様では、本発明は、害虫を防除する方法又は害虫において殺虫剤の殺虫作用を増強する方法にも関しており、当該方法は、クチナーゼ様酵素を含む組成物を前記害虫に接触させる工程を含み、前記害虫が、殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有することを特徴としている。本発明の方法は、前記クチナーゼ様酵素の接触工程と同時に又はその後に、殺虫剤を含む組成物を前記害虫に接触させる工程をさらに含んでもよい。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
P.アンタクティカを常法により培養し、その培養ろ液から50%飽和硫安沈殿物、70%エタノール可溶性成分、そして90%エタノール沈殿物を順に回収することによって、クチナーゼ様酵素であるPaEを粗精製した(要すれば特願2018-052952号を参照)。このPaEを10U、50U、又は100U含む酵素液(20mM Tris-HCl(pH9.0))を、それぞれ1mLずつ調製した。シャーレ内にミカンコナカイガラムシ(雌)約15匹を入れ、ここへスプレーを用いて各酵素液を噴霧した。対照区では、緩衝液のみを1mL噴霧処理した。シャーレの蓋を閉めて室温で24時間置いた後、仰天などの状態で動かない又は動けなくなった虫体の割合をノックダウン(KD)活性として評価した。結果を表1に示す。
Figure 0007128514000001
表1に示されているように、PaE濃度が高くなるにつれてKD活性が上昇した。したがって、PaEは、ミカンコナカイガラムシの防除に使用することができることがわかった。KD活性を評価した時点のミカンコナカイガラムシの様子を実体顕微鏡で観察すると、ミカンコナカイガラムシへの酵素液の噴霧によって虫体被覆物が溶けて虫体の周りに流れ出し、そこで再度固化した様子が見て取れる(図1)。図1の左図では、虫体の背側がシャーレ表面に固定されており、図1の右図では、虫体の腹側がシャーレ表面に固定されている。このことから、PaEを含む酵素液を噴霧すると、虫体被覆物が溶出し、噴霧した酵素液がシャーレ内で蒸発するにつれて溶出した虫体被覆物が虫体の周囲で再度固化することによって、その運動を阻害し、さらには当該虫体の気門を塞いで窒息死させたと考えられる。
〔実施例2〕
(1)ミカンコナカイガラムシの虫体被覆物への酵素液処理の影響
実施例1に記載のように粗精製したPaE(粗精製酵素)を10Uの濃度で含む酵素液(20mM Tris-HCl、pH9.0)又はPaEを含む培養ろ液(4U)を各2mLずつ用意し、その中にミカンコナカイガラムシ(雌)を室温で浸漬した。対照区は酵素液を調製する際に使用した緩衝液(20mM Tris-HCl、pH9.0)を用いた。浸漬24時間後にミカンコナカイガラムシの状態を実体顕微鏡で観察した。結果を図2に示す。
使用した酵素の濃度は、実施例1で十分なKD活性が示された濃度よりも低いものであったが、上記酵素液又は培養ろ液の処理によって、ミカンコナカイガラムシの体表を覆うロウ状の物質が剥がれ、反応液中に分散するとともに、ミカンコナカイガラムシの体表が露わとなった(図2)。対照区では体表を覆うロウ状の物質は失われなかった。したがって、PaEは、ミカンコナカイガラムシの体表において、ロウ状の物質からなる虫体被覆物を分解できることがわかった。
(2)染色液の浸潤
PaE処理によって体表が露わになったミカンコナカイガラムシについて、外部から添加した溶液の浸潤のしやすさを検討するために、上記(1)と同様に各処理を行ったミカンコナカイガラムシに対し、水溶性染色試薬であるメチレンブルー(0.1%水溶液)を添加した。ロウ状の物質に覆われた対照区のミカンコナカイガラムシは、メチレンブルー水溶液を弾き、青色には呈色しなかった。一方、粗精製酵素を含む酵素液又は培養ろ液を用いた酵素処理によって体表の露わとなったミカンコナカイガラムシは、メチレンブルーによって青色に呈色した(図3)。したがって、ミカンコナカイガラムシの虫体被覆物をPaE処理によって分解すると、外部から添加された溶液が虫体内に浸潤しやすくなることがわかった。
(3)殺虫剤と酵素の併用によるKD活性
上記(2)の結果から、ミカンコナカイガラムシのPaE処理により、殺虫剤も虫体に付着して虫体内に浸潤しやすくなる効果が期待された。そこで、緩衝液又は粗精製PaEを含む酵素液と住化スミチオン乳剤(住友化学株式会社製)(一般名フェニトロチオン、MEP)とを混合して、その混合液によるKD活性を調べた。PaEについては、終濃度4U/mLとなるように、緩衝液(20mM Tris-HCl、pH9.0)で調製した。住化スミチオン乳剤については、使用時に1000倍希釈液となるような通常使用される濃度で調製した処理区と、そこから段階的にさらに希釈した処理区とを用意した。このようにして調製した混合液1mLを、シャーレに採集したミカンコナカイガラムシ(雌)10匹に対して噴霧処理し、その24時間後に、ミカンコナカイガラムシのKD活性を測定した。4回試行した結果の平均値を図4に示す。
住化スミチオン乳剤の1000倍希釈液単独のKD活性は54.5%程度にすぎなかった。このように殺虫剤が効きにくいミカンコナカイガラムシのような害虫は、難防除害虫として認識されているものである。PaE単独のKD活性も、PaEの終濃度が4U/mLだと、たったの14.6%にしかならなかった。しかしながら、PaEと住化スミチオン乳剤との混合液でミカンコナカイガラムシを処理すると、KD活性が90.4%にも達し、相乗的な殺虫作用が示された。そして、この相乗的な殺虫作用は、住化スミチオン乳剤の濃度をさらに薄くしても示された。したがって、PaEと殺虫剤を併用すると、相乗的な殺虫作用が示されること、そして、人体にとっても有毒な殺虫剤の使用量を低減しても、通常の使用量と同等の殺虫作用を示すことが可能であることがわかった。
〔実施例3〕
クチナーゼ様酵素であるPaE、PCLE(パラフォーマ属類縁菌由来)、及びCmCut1(クリプトコッカス・マグナス類縁菌由来)について、ミカンコナカイガラムシの体表を覆うロウ状の物質に対する影響を評価した。対照としては、クチナーゼ様酵素ではないリパーゼであるCalB(シュードザイマ・アンタクティカ由来)を使用した。
クチナーゼ様酵素は生分解性プラスチック分解酵素としても知られており、PBSAエマルジョン分解活性によって規格化することができる。常法によってPCLE及びCmCut1を調製し、緩衝液(1mM Ca2+含有20mM HEPES緩衝液、pH7.3)中でのこれらのPBSA分解活性が4UのPaE(31μgタンパク質/mL)と等しくなるように各酵素の濃度を調整したところ、PCLEの濃度及びCmCut1の濃度は、どちらも37μgタンパク質/mLになった。また、CalBは、PaEと同じタンパク質濃度(31μgタンパク質/mL)で使用した。HEPES緩衝液又は各酵素液1mLに対し、ミカンコナカイガラムシ(雌)3匹を浸漬し、室温で24時間静置した後、ミカンコナカイガラムシの状態を実体顕微鏡で観察した。結果を図5に示す。
HEPES緩衝液又はCalB溶液に浸漬したミカンコナカイガラムシでは、虫体被覆物の脱落又は溶解は観察されなかった。一方、PaE溶液、PCLE溶液、又はCmCut1溶液に浸漬したミカンコナカイガラムシでは、酵素液に触れていた部分(図5中の矢印部分)の虫体被覆物が溶けて脱離し、虫体が露出していた。特に、PaE溶液を使用した場合には、PCLE溶液又はCmCut1溶液を使用した場合と比べて、虫体被覆物の溶解の程度が顕著であった。したがって、クチナーゼ様酵素により奏される虫体被覆物の脱離又は溶解作用は、リパーゼなどの他のエステラーゼでは奏されない特異な作用であることがわかった。
以上より、前記クチナーゼ様酵素は、殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有する害虫に対して単独で防除作用を奏すること、そして、殺虫剤と併用した場合には相乗的な防除作用を奏することがわかった。前記クチナーゼ酵素自体は、人体に対する毒性が低いので、人体に対して有毒な殺虫剤の使用量を低減し、殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有する害虫でも安全かつ効率的に防除することが可能となる。

Claims (9)

  1. 害虫を防除するための組成物であって、クチナーゼ様酵素を害虫防除の有効成分として含み、前記害虫が、殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有することを特徴とする、組成物。
  2. 害虫において殺虫剤の殺虫作用を増強するための組成物であって、クチナーゼ様酵素を含み、前記害虫が、前記殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有し、前記虫体被覆物が、高級脂肪酸及び/又は高級アルコールのエステルを含むロウ状物質を含む、組成物。
  3. 殺虫剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の組成物。
  4. 前記クチナーゼ様酵素が、シュードザイマ(Pseudozyma)属、モエジオマイセス属(Moesziomyces)、パラフォーマ(Paraphoma)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、ムコール(Mucor)属、フミコラ(Humicola)属、テルモミセス(Thermomyces)属、タラロミセス(Talaromyces)属、ケトミウム(Chaetomium)属、トルラ(Torula)属、スポロトリクム(Sporotrichum)属、マルブランケア(Malbranchea)属、アルタナリア(Alternaria)属、クラドスポリウム(Cladosporium)属、ぺニシリウム(Penicillium)属、ペキロマイセス(Paecilomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、及び、アシドボラックス(Acidovorax)属から成る群から選択される少なくとも1種の微生物に由来する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
  5. 前記クチナーゼ様酵素が、シュードザイマ・アンタクティカ(Pseudozyma antarctica)が産生するエステラーゼ(PaE)、パラフォーマ属類縁菌クチナーゼ様酵素(PCLE)、及び、クリプトコッカス・マグナス(Cryptococcus magnus)又はその類縁菌により産生されるクチナーゼ様酵素1(CmCut1)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
  6. 前記害虫が、ロウ状物質を含む虫体被覆物を有する昆虫である、請求項1記載の組成物。
  7. 害虫を防除する方法であって、
    クチナーゼ様酵素を害虫防除の有効成分として含む組成物を前記害虫に接触させる工程を含み、
    前記害虫が、殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有することを特徴とする、方法。
  8. 害虫において殺虫剤の殺虫作用を増強する方法であって、
    クチナーゼ様酵素を含む組成物を前記害虫に接触させる工程を含み、
    前記害虫が、前記殺虫剤の虫体への付着を阻害する虫体被覆物を有し、前記虫体被覆物が、高級脂肪酸及び/又は高級アルコールのエステルを含むロウ状物質を含む、方法。
  9. 前記クチナーゼ様酵素の接触工程と同時に又はその後に、殺虫剤を含む組成物を前記害虫に接触させる工程をさらに含む、請求項又はに記載の方法。
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