以下、添付図面に従って本発明の実施の形態について詳説する。
ここでは画像記録システムの一例であるインクジェット印刷システムを説明する。インクジェット印刷システムにおけるインクジェットヘッドのノズルは本開示における「画像形成要素」の一例である。
《ラインヘッド型インクジェット印刷装置のスジ欠陥について》
図1は、ラインヘッド型インクジェット印刷装置における不良ノズルに起因するスジ欠陥を説明するための模式図である。ラインヘッド型インクジェット印刷装置とは、ラインヘッドを備えたインクジェット印刷装置を指す。ここでは、説明を簡単にするために、モノクロ濃淡画像を例に説明する。カラー画像の場合は、色ごとの各チャネルに対して同様の処理を実施すればよい。例えば、印刷物を撮像して得られる検査画像が赤(R)、緑(G)、及び青(B)の各色の濃淡画像信号を含むRGB画像である場合、Rチャネル、Gチャネル、及びBチャネルのそれぞれの色信号のチャネルについて、モノクロ濃淡画像の場合で説明する処理と同様の処理を実施すればよい。
なお、撮像された画像に対して予め色変換及び/又は階調変換などの前処理を行ったものを検査画像として用いてもよい。或いは、何らかの色変換処理によってカラー画像をモノクロ濃淡画像に変換した上でモノクロ濃淡画像1チャネルに対して同様の処理を実施するなどとしてもよい。例えば、RGB画像をCIE L*a*b*画像に変換した上で、明度情報を表すL*画像1チャネルに対して同様の処理を実施してもよい。CIEは、国際照明委員会(Commission Internationale de l'Eclairage)の略称である。CIE L*a*b*画像は、国際照明委員会が定めたL*a*b*表色系により表される画像である。
ラインヘッド10は、インクジェット方式によってインクを吐出する複数個のノズル12が並んだノズル列14を有するインクジェットヘッドである。ラインヘッド10に対して用紙20を搬送し、かつ、ノズル12からインクの液滴を吐出することにより、用紙20上にインクの液滴が付着してドット22が記録される。
ラインヘッド10に対して用紙20を搬送する方向である用紙搬送方向をY方向とし、Y方向に直交する用紙20の幅方向である用紙幅方向をX方向とする。ラインヘッド10の複数個のノズル12はX方向に並んでおり、各ノズル12は用紙20のX方向の異なる位置の記録を担う。ノズル12の並び方向であるX方向をノズル列方向と呼ぶ場合がある。
用紙搬送方向は、ラインヘッド10を用紙20に対して相対的に走査する方向であり、走査方向という場合がある。また、X方向は走査直交方向という場合がある。なお、ここではラインヘッド10に対して用紙20を搬送することにより、両者の相対的な移動を行っているが、用紙20に対してラインヘッド10を移動させることにより、ラインヘッド10と用紙20とを相対的に移動させる構成を採用してもよい。
図1では10個のノズル12が並んだノズル列14を例示している。不良ノズルの例として、図1の左から3番目の第3番ノズルNz3が不吐出ノズルとなっている。また、左から8番目の第8番ノズルNz8に吐出曲がりが発生している例が示されている。不吐出ノズルは、液滴の吐出が不能なノズルである。吐出曲がりとは、液滴の吐出方向が逸れ、ドットが形成されるべき理想的位置に対して実際にドットが形成される位置がずれる現象である。ドットが形成されるべき理想的位置は、設計上の目標位置であり、正常なノズルが液滴を吐出した場合に想定されるドット形成位置を指す。
図1に示す状況の場合、不良ノズルである第3番ノズルNz3の位置に対応する用紙20の位置(図1において符号Aで示す位置)にY方向に伸びるスジ欠陥が発生する。また、不良ノズルである第8番ノズルNz8の位置に対応する用紙20の位置(図1において符号Bで示す位置)にY方向に伸びるスジ欠陥が発生する。スジ欠陥とは、スジ状の画像欠陥を指す。スジ欠陥は「スジムラ」又は「スジ状欠陥」と同義である。本明細書ではスジ欠陥を単に「スジ」という場合がある。スジ欠陥には、連続的なスジの他、断続的なスジも含まれる。
ラインヘッド10に対して相対的に用紙20を移動させ、1回の走査で規定の記録解像度の画像の記録を完成させる行うシングルパス方式のインクジェット印刷装置では、不良ノズルによって印刷画像上に走査方向に伸びるスジ欠陥が発生する。吐出状態が異常なノズルを「不良ノズル」という。不良ノズルは「異常ノズル」と同義である。不良ノズルは、図1で説明した不吐出や吐出曲がりのみではなく、スプラッシュのように吐出がかすれたり、設計サイズとは異なる大きさのインクドットが吐出されたりするようなケースを含み、正常ノズルに対して異なる吐出挙動を示すもの全般を含む。
《印刷画像の例》
図2は、シングルパス方式のインクジェット印刷装置を用いて印刷される印刷画像の例である。印刷の際にインクジェットヘッドは特定の位置に固定されており、インクジェットヘッドに対して用紙20が搬送される。インクジェットヘッドには、複数のノズルが存在する。インクジェット印刷装置は、各ノズルから用紙20に向けてインクを吐出し、印刷物を印刷する。例えば、インクジェット印刷装置は、図2に示すような画像を用紙20に印刷する。図2の例において、用紙搬送方向は、図2中の白矢印に示すように、図2の下から上に向かう方向である。
図2の例の場合、インクジェット印刷装置は、用紙20の先頭部分32にノズル状態評価パターン40を印刷し、その後にユーザ画像42を印刷する。ユーザ画像42は、印刷ジョブにて印刷出力の対象として指定された印刷対象画像である。ノズル状態評価パターン40は、各ノズルの吐出状態を評価するためのパターンであり、例えば、ラインヘッドにおける各ノズルがそれぞれ単独で記録する線分のラインが並ぶラダーパターンを含む。ラダーパターンは、インクジェットヘッドのノズル列について、いわゆる「1オンnオフ」の吐出制御によって、各ノズルが連続吐出動作を行うことで形成されるノズルごとの描画ラインが並ぶラインパターンである。
別の例として、ノズル状態評価パターン40を用紙20の後端部分34に印刷するものであってもよいし、複数枚の用紙20に1つのノズル状態評価パターン40を分割して印刷するものであってもよい。また、印刷対象画像として指定したユーザ画像42を印刷する印刷ジョブの開始前に、ユーザ画像42の印刷物とは別の事前準備として、ノズル状態評価パターン40を印刷してもよい。
《画像検査方法の概要》
本実施形態に係るインクジェット印刷装置には撮像装置が搭載されている。撮像装置は、用紙20に印刷されたノズル状態評価パターン40及びユーザ画像42を撮像する。撮像装置によって撮像されたノズル状態評価パターン40及びユーザ画像42を含む検査画像のデータは、画像検査装置に送られる。画像検査装置は、取得した検査画像のデータを処理するプロセッサを含んで構成される。画像検査装置の機能は、インクジェット印刷装置の制御装置に組み込まれていてもよい。
画像検査装置は、取得した検査画像のノズル状態評価パターン40を解析することにより、各ノズルの吐出状態を把握する。また、画像検査装置は、ノズル状態評価パターン40の評価結果を利用して検査画像のユーザ画像42に対して欠陥検出処理を実施することにより、ユーザ画像42の領域内における画像欠陥の有無の判定と欠陥位置の特定とを行う。ユーザ画像42は本開示における「記録対象画像」の一例である。
図3は、ユーザ画像42の領域内に画像欠陥が疑われる印刷画像の例を示す。図3に例示する印刷物は、ユーザ画像42の領域内に用紙搬送方向と平行なスジ欠陥46を含む。本実施形態に係る画像検査装置は、スジ欠陥46に代表される印刷物の欠陥を正しく欠陥と判定する正検出性能を、各ノズルの吐出状態に応じて対応する画像領域ごとに調整し得る。すなわち、画像検査装置は、ノズル状態評価パターン40の評価結果に基づき、各ノズルに対応する画像領域における欠陥の正検出性能を異ならせることにより、欠陥検出精度の向上を実現している。
《スジ欠陥検査機能の基本的なアプローチ》
検査対象である印刷物の撮像画像を検査画像と呼ぶ。検査画像の一部にスジが発生した場合、該当画像上にラインヘッド相対走査方向へ伸びる白い線成分が観測される。しかしながら、その線成分がスジなのか印刷物のコンテンツなのかを判断することは容易ではない。そこで、検査画像とは別に比較用の基準画像を用意することが基本的なアプローチとなる。基準画像は、検査画像からスジなどの欠陥を検出する際の基準となる画像である。
基準画像になく、検査画像のみで観測された白線成分はスジである確率が高いと考えられる。基準画像は、スジのない印刷物の撮像画像を用いる方式と、印刷装置に入力された入力デジタル画像を用いる方式が存在する。ここでの入力デジタル画像には、印刷装置に入力したデジタル画像そのものだけでなく、印刷が実際に行われるまでに実施される何らかの前処理、例えば、解像度変換処理、ガンマ変換処理、色変換処理、濃度ムラ補正処理、スジ欠陥補正処理、幾何学変換処理、空間フィルタリング処理、又はハーフトーン処理などのうち少なくとも1つを適用する過程で生成される画像も含まれる。
スジのない印刷物の撮像画像から基準画像を生成する場合、スジのない印刷物は基準画像生成用記録物に相当する。スジのない印刷物の撮像画像を得るために用いる撮像装置は、画像記録システムに搭載された撮像装置であってもよいし、別途のオフラインスキャナなど、他の撮像装置であってもよい。
図4は、印刷画像から画像欠陥を検出する画像検査方法の処理の例を示すフローチャートである。図4に示す画像検査方法は、検査画像取得工程(ステップS10)と、基準画像取得工程(ステップS12)と、欠陥検出工程(ステップS14)と、を含む。ステップS10からステップS14の各工程の処理は、例えば、画像検査装置として機能するコンピュータがプログラムを実行することによって実施される。
ステップS10において、画像検査装置は検査対象である印刷物を撮像装置によって撮像して得られた検査画像を取得する(検査画像取得工程)。撮像装置が印刷物を撮像して、その撮像画像であるデジタル画像データを生成する工程(撮像工程)は、検査画像取得工程の前に、撮像装置を用いて実施される。画像検査装置が撮像装置を含む構成である場合、撮像工程は検査画像取得工程の一部であると理解してよい。
次に、ステップS12において、画像検査装置は予め作成されていた基準画像のデータを取得する(基準画像取得工程)。基準画像のデータは、画像検査装置に内蔵されたメモリ等の記憶装置又は装置外部の記憶装置に事前に記憶しておくことが好ましい。ステップS12の基準画像取得工程において画像検査装置は、記憶装置から基準画像のデータを読み出す。なお、ステップS10の検査画像取得工程とステップS12の基準画像取得工程の実施順番は逆でも構わない。
次に、ステップS14において、画像検査装置は検査画像と基準画像とを画像処理で比較することにより、印刷物のユーザ画像42における欠陥の有無を判定し、かつ、欠陥が存在する場合にはその位置を特定する(欠陥検出工程)。
図5は、図4のステップS14に適用される欠陥検出工程の処理内容の例を示すフローチャートである。欠陥検出工程(図4のステップS14)は、ノズル状態の評価工程(ステップS16)と、正検出性能係数調整工程(ステップS17)と、ユーザ画像欠陥検出工程(ステップS18)と、を含む。
図5のステップS16において、画像検査装置は検査画像に含まれるノズル状態評価パターン40を解析することにより、各ノズルの状態を評価する。本例の場合、ノズルの状態とは、ノズルの吐出状態を指す。吐出状態には、既定の許容範囲を満たす正常な吐出動作と認められる「正常」な状態、吐出不能である「不吐出」の状態、吐出液滴の滴量が既定量よりも少ない又は多い「滴量不良」の状態、着弾位置が目標位置からずれる「着弾位置ずれ」の状態、吐出が安定せずに断続的に吐出が途切れる「不安定吐出」の状態、記録の途中で記録不能になったり、不吐出状態が途中で記録可能状態になったりする「途切れ」の状態、吐出方向が回転して着弾位置が変化する「回転」の状態など、様々な状態があり得る。
画像検査装置は、ノズルごとの記録の挙動が示されるノズル状態評価パターン40から各ノズルの状態を評価する。画像検査装置は、「正常」及び「不吐出」を含む複数種類のカテゴリーに分類して、好ましくは少なくとも3種類以上のカテゴリーに分類して、各ノズルの状態を評価する。画像検査装置は、ノズルの異常の度合い(程度)を定量化して評価することが好ましい。ステップS16によってノズル状態評価パターン40から把握されるノズル状態の評価結果を示す情報を「ノズル状態評価情報」という。ステップS16にて行われる処理は本開示における「第1の処理」の一例である。
ステップS17において、画像検査装置はステップS16の評価結果を基に、各ノズルに対応する画像位置における欠陥検出の正検出性能レベルを調整する。画像検査装置は、ノズルの状態が悪い画像位置ほど相対的に正検出性能を高めるように、ノズルの状態に応じて画像位置ごとに正検出性能レベルを設定する。本例では、正検出性能が高い若しくは低いという相対的なレベルを定量的に表す数値として「正検出性能係数」を用いる。正検出性能係数の値が大きいほど正検出性能が高いことを表す。正検出性能係数は、その画像位置が欠陥である可能性を表す数値としての意味を持ち、その画像位置における欠陥の発生確率を表す数値と理解してもよい。
ノズル状態評価情報は正検出性能係数と関連付けられており、画像検査装置にはノズル状態評価情報から正検出性能係数に変換するためのテーブルが備えられている。画像検査装置は、ステップS17にて得られたノズル状態評価情報を基にテーブルを利用して正検出性能係数を決定する。ステップS17にて行われる処理は本開示における「第2の処理」の一例である。
ステップS18において、画像検査装置はユーザ画像の検査画像と基準画像とを画像処理によって比較することにより、欠陥の有無を判定し、かつ、欠陥が存在する場合にはその位置を特定する。
例えば、スジの有無を判定する場合、検査画像と予め用意した基準画像とを比較してスジ強度を定量化すればよい。典型的な方法としては、検査画像と基準画像とを位置合わせして差分画像を計算することにより絵柄成分を除去する方法などがある。また、特許第4141082号公報に記載のように、検査画像と基準画像のエッジ成分を求めた後にエッジ成分同士の差分とってもよい。検査画像と基準画像の比較は局所領域に分割する前の画像全体に対して実施してもよいし、局所領域に分割してから局所領域同士で実施してもよい。
〈ユーザ画像欠陥検出工程の処理の例〉
図6は、ユーザ画像欠陥検出工程における処理の例を示すフローチャートである。ここではユーザ画像からスジを検出する処理の例を説明する。図6のフローチャートは図5のステップS16に適用される。
ユーザ画像欠陥検出工程(図5のステップS18)は、領域決定工程(ステップS20)と、信号強度決定工程(ステップS22)と、欠陥有無判定工程(ステップS24)と、を含む。
領域決定工程(ステップS20)では、画像検査装置が検査画像の各位置におけるスジ等の欠陥の有無を判定するにあたり、その位置周辺のどの部分領域から判定するかの演算領域が決定される。領域決定工程(ステップS20)は、欠陥と疑われる信号を抽出するための演算領域を決定する工程である。
ノズルの不良に起因するスジは、その不良ノズルの位置に対応するX方向の位置に現れるため、スジを含んだ画像領域の画像信号はX方向の特定位置にピーク状のプロファイルを有する信号になっている。また、スジはY方向にある程度の長さを有するため、X方向のピーク位置におけるY方向のプロファイルを観察するとピーク信号がスジの長さだけ続いていることになる。なお、厳密にはスジ位置は孤立点が離散的にY方向に連なっている場合もあり得る。
X方向についての信号のピーク形状を捉えるためにはある程度X方向に幅をもたせた領域を解析する必要があり、かつ、スジなのか単一の孤立点なのかを判断するためにはある程度Y方向に幅をもたせた領域を解析する必要がある。
ステップS20の領域決定工程において画像検査装置は、検査画像の各位置に対してスジの検出の演算対象とする演算領域のX方向の幅サイズとY方向の幅サイズを決定する。
次に、信号強度決定工程(ステップS22)において、画像検査装置は領域決定工程(ステップS20)にて決定された検査画像の各位置におけるそれぞれの演算領域を、基準画像の同じ領域と画像処理により比較することで、検査画像の該当位置に欠陥と疑われる信号がどの程度含まれているのかを決定する。
検査画像のみに欠陥と疑われる信号が存在する場合には信号強度は大きくなり、それ以外では信号強度は小さくなる。画像処理による比較の演算には様々な手法が存在する。例えばスジの場合は、検査画像から基準画像を差分した差分画像をY方向に統計処理してプロファイル化し、プロファイルのピーク位置を探索してそのピーク強度を計算するなどが考えられる。統計処理としては、例えば、総和、平均、中央値、最大値、若しくは最小値、又はこれらの適宜の組み合わせなどがある。ピーク強度に限らず、ピーク位置を中心にX方向に左右に少し幅をもたせてピークプロファイル形状の面積を計算するなどの方法も考えられる。このようにして求められる信号値は、欠陥と疑われる信号の強度を示すものであり、欠陥強度信号と呼ぶことができる。
一方で、検査画像及び基準画像には、それぞれノイズが乗っている可能性があり、欠陥強度演算結果がばらつく要因になりかねないため、予め検査画像及び/又は基準画像の画像、若しくはプロファイルに対してぼかしフィルタや順序統計フィルタを用いてノイズ低減処理を行ってもよい。
次に、欠陥有無判定工程(ステップS24)では、画像検査装置は、信号強度決定工程(ステップS22)にて決定された欠陥と疑われる信号の強度に応じて欠陥なのかそうでないのかを判定する。判定方法の一例としては、予め用意されていた閾値を用い、信号強度が閾値を超えていれば欠陥と判定し、信号の強度が閾値以下であれば欠陥ではないと判定する。
閾値を小さくするほど微小な欠陥を捉えることが可能になる。一方で閾値を大きくするほど、微小な欠陥を検出できずに欠陥を未検出する確率は高まるものの、欠陥でないものを欠陥として誤検出する確率は下がる。閾値は誤検出を抑制しつつ、なるべく閾値を小さく設定することが望ましい。
なお、欠陥有無判定工程(ステップS24)にて、複数の位置で判定された欠陥及び非欠陥の判定データ群を基に、最終的な欠陥有無を統計的に判定してもよい。例えば、スジの場合は、Y方向に5ミリメートルごとに欠陥有無の判定を行った後に、連続する15ミリメートル(つまり5ミリメートルごとに3つの判定結果が存在)の判定データの多数決を取って最終的な欠陥有無の判定を行うなどとしてもよい。このような統計的な判定方法による判定処理を統計判定処理という。上述の多数決を利用した判定処理は統計判定処理の一例である。
〈欠陥検出工程におけるノズル状態評価情報の使用例〉
既述のとおり、ノズル状態評価情報は正検出性能係数に変換される。正検出性能係数は、領域決定工程(ステップS20)、信号強度決定工程(ステップS22)及び欠陥有無判定工程(ステップS24)のうちどれか1つの工程に対して使用されてもよいし、複数の工程に対して使用されてもよい。
正検出性能係数を領域決定工程(ステップS20)に使用する場合の例を説明する。正検出性能係数が相対的に大きい領域の場合は、正検出性能係数が相対的に小さい領域に比べて領域決定工程(ステップS20)にて決定される演算領域を狭くする方法が考えられる。特にスジの場合は、Y方向に伸びる欠陥であるため、Y方向の領域を狭くするとよい。演算領域を狭くすることで、検出の感度が高くなり、僅かな信号の変化を捉えることが可能になる。逆に、正検出性能係数が相対的に小さい領域については、演算領域を相対的に広くすることで、より多くのデータを用いて判定することが可能となり、ノイズに対するロバスト性が向上する。
正検出性能係数を信号強度決定工程(ステップS22)に使用する場合の例を説明する。正検出性能係数が相対的に大きい領域の場合は、正検出性能係数が相対的に低い領域の場合に比べて、例えば、ぼかしフィルタ又は順序統計フィルタによるノイズ低減処理を弱めにかけるなどの方法が考えられる。
正検出性能係数を欠陥有無判定工程(ステップS24)に使用する場合の例を説明する。正検出性能係数が相対的に大きい領域の場合は、正検出性能係数が相対的に低い領域の場合に比べて、閾値を小さくするなどの方法が考えられる。正検出性能係数が大きい領域ほどスジを含んでいる可能性が高いことを示しているため、正検出性能係数の値の大きい領域ほど閾値を小さくすることにより、スジとして判定されやすくなる。これにより、印刷物に存在しているスジが未検出となる確率を低減することができる。
また、欠陥有無判定工程(ステップS24)にて、複数の位置で判定された欠陥及び非欠陥の判定データ群を基に、最終的な欠陥有無を統計的に判定する構成を採用した上で、更に、正検出性能係数が相対的に大きい領域の場合は、統計に用いるデータ群を、少なく取得して、検出の感度を高める方法もある。
スジ欠陥の例では、例えば、正常なノズルに対応する画像位置周辺では、Y方向に5ミリメートルごとに欠陥有無の判定を行った後に、連続する15ミリメートル(つまり5ミリメートルごとに3つの判定結果が存在)の判定データの多数決を取って最終的な欠陥有無の判定を行う。
一方、異常なノズルに対応する画像位置周辺では、Y方向に5ミリメートルごとに欠陥有無の判定を行った後に、連続する10ミリメートル(つまり5ミリメートルごとに2つの判定結果が存在)の判定データの多数決を取って最終的な欠陥有無の判定を行う、という方法がある。
他にも、異常なノズルに対応する画像位置周辺では、Y方向に3ミリメートルごとに欠陥有無の判定を行った後に、連続する9ミリメートル(つまり3ミリメートルごとに3つの判定結果が存在)の判定データの多数決を取って最終的な欠陥有無の判定を行う、というように様々なバリエーションが可能である。
上記に例示のバリエーションは、ノズル状態の評価結果に応じて統計判定処理の判定基準を異ならせる例である。
《ノズル状態の評価方法の具体例》
本実施形態に係る画像検査装置は、撮像されたノズル状態評価パターンに対して、ノズル状態の評価工程を実施することによってノズル状態を評価する。
図7は、ノズル状態評価パターン40の例である。ノズル状態評価パターン40は本開示における「画像形成要素状態評価パターン」の一例である。インクジェット印刷装置は、ノズルごとに線分を印刷する。ノズル状態評価パターン40の印刷結果から、各ノズルが正常にインクを吐出できているか、それとも正常でないか(つまり異常であるか)を評価できる。図7のような場合は、点線の四角で囲ったところが正常ではない異常箇所と判断できる。図中の異常箇所a~hの各々を図8に抜き出して拡大して表示する。
異常箇所aのノズルは不吐出の状態である。異常箇所bのノズルは線分の記録途中でインクの吐出が途切れる状態であり、特に、線分の記録後半部でインクの吐出が途切れる状態である。異常箇所bのような状態を「途切れ1」と表記する。異常箇所cのノズルは線分の記録途中で吐出が不安定になる状態である。異常箇所dのノズルは線分の記録途中でインクの吐出方向が変化する、つまり、着弾位置がずれてしまう状態である。異常箇所dのような状態を「途切れ2」と表記する。異常箇所eのノズルは吐出方向が回転する状態である。異常箇所fのノズルは線分の一部でインクが吐出されずに、線分の記録後半部における一部のみでインクが吐出される状態である。異常箇所fのような状態を「途切れ3」と表記する。異常箇所gのノズルは液滴量が少なく、記録される線分の太さが細い細線となっている状態である。異常箇所hのノズルは着弾位置が設計上の目標位置(中心位置)からずれている着弾位置ずれの状態である。
図7及び図8に示す異常箇所b、d、及びfは本開示における「吐出の途切れ」の状態の一例である。異常箇所cは本開示における「不安定吐出」の状態の一例である。異常箇所eは本開示における「回転吐出」の状態の一例である。異常箇所gは本開示における「滴量不足」の状態の一例である。
《ノズル状態に応じた正検出性能の調整》
撮像装置を用いて撮像された検査画像の解析結果から、印刷物のユーザ画像領域内にスジ及び/又はポツのような欠陥と疑われるデータが得られたとする。仮に、撮像装置における撮像素子の解像度が十分高い場合は、印刷物の欠陥の位置に対応するノズルの番号を確定判断できる。ノズル状態をチェックした結果、図8に示すようなパターンの状態であった場合は、該当する位置における欠陥の正検出性能を高めることが有効である。
一方、撮像素子の解像度が十分高くない場合は、印刷物の欠陥の位置に対応するノズルの番号を確定できない場合があるため、そのノズル周辺の画素のパターンの状態を全体的に判断し、対応する画像領域に対して正検出性能を決定することが有効である。
図8にはさまざまな異常状態を例示したが、各種の異常状態のうち、より欠陥につながりやすい異常状態の箇所に対しては、正検出性能をより一層相対的に高めることが効果的である。例えば、図8の最左に記載した「不吐出」の状態は、用紙搬送方向にスジが発生しやすく、画像欠陥が最も発生しやすいため、該当する位置についての正検出性能を相対的に最も高くする。一方、「途切れ3」の状態は、ユーザ画像領域では正常に吐出できている可能性があるため、正検出性能を「不吐出」の位置ほどは高める必要はないと考えられる。したがって、欠陥に繋がる可能性がどの程度高いかいう観点からノズル状態の異常の度合いを評価し、その評価結果に応じて正検出性能のレベルを調整することが好ましい。図8に示す各パターンについては、図8の左から順に、右へ行くほど正検出性能を低くしていくことが有効である。
《ノズル状態に応じた正検出性能の調整例》
図9は、ノズル状態に基づいて決定される正検出性能係数の例を示すグラフである。横軸はノズル番号を表し、縦軸は正検出性能係数を表す。なお、横軸は画像のX方向位置に置き換えて理解してもよい。正常なノズルに対応する位置の正検出性能係数を標準値Svとすると、図8に示す各パターンの異常状態に応じて決定される正検出性能係数の値は標準値Svよりも大きな値となる。
例えば、図9中のノズル番号naは図7の異常箇所aとして説明したような「不吐出」の状態のノズルであり、正検出性能係数は最も大きい。図9中のノズル番号nbは図7の異常箇所bとして説明したような「途切れ1」の状態のノズルである。図9中のノズル番号ncは図7の異常箇所cとして説明したような「不安定」の状態のノズルである。図8及び図9に示すように、ノズルの異常状態の度合いに応じて、正検出性能係数を多段階に調整することができる。正検出性能係数は、ノズルの状態に応じて3段階以上の多段階に若しくは無段階に調整することが好ましい。
《着弾位置ずれ量に応じた正検出性能の調整》
図8の最右に示す「着弾位置ずれ」の異常は、その着弾位置ずれ量を用いることで異常を定量化し、正検出性能を変えるようにしてもよい。着弾位置ずれの定義を図10及び図11に示す。
図7に例示したようなラインパターンを印刷すると、ラインパターンの印刷結果からX方向の着弾位置ずれ量を測定できる。図10は、ラインヘッド10のノズル12から吐出された液滴が用紙20に着弾する様子を示す模式図である。ここでは、図10の中央に示すノズルNz(c)の着弾位置がX軸のマイナス方向にずれている例が示されている。この中央のノズルNz(c)の着弾位置ずれ量はマイナスの値として表される。着弾位置ずれ量は、設計上の目標着弾位置に対する着弾位置ずれの方向を表すプラス又はマイナスの符号付の数値として表される。着弾位置ずれ量の単位は、例えばマイクロメートル[μm]であってよい。図11は、図10の例によって記録されるラインパターンの例を示す拡大図である。
《着弾位置ずれ量と正検出性能係数との関係の例》
ここでは、X方向の着弾位置ずれ量の絶対値|X_n|に依存して正検出性能を変化させる例を説明する。X_nは、ノズル番号nの着弾位置ずれ量を表す。図12は、着弾位置ずれ量の絶対値がある基準値(例えば21μm)を超えた場合に検出性能を高める場合の例である。図12の横軸は着弾位置ずれ量の絶対値|X_n|を表し、単位はマイクロメートル[μm]である。縦軸は正検出性能係数を表す。正検出性能係数は正検出性能のレベルを調整するための係数であり、正検出性能係数が大きいほど正検出性能が高くなる。
ラインヘッドの記録解像度が1200dpiであるとして、図12では基準値が21マイクロメートル[μm]である場合を例示する。「dpi」は、dot per inch を意味し、1インチあたりのドット(点)の数を表す単位表記である。1インチは25.4ミリメートル[mm]である。1つのノズルによって1つの画素のドットを記録することができるため、dpiはnpiに置き換えて理解することができる。「npi」は、nozzle per inch を意味し、1インチあたりのノズルの数を表す単位表記である。記録解像度は、印刷解像度と同義である。
図13は、着弾位置ずれ量の絶対値と正検出性能係数との関係の他の例を示すグラフである。図13は、着弾位置ずれ量の絶対値がある基準値(例えば10.5μm)を超えたときから、正検出性能を比例で高めていく場合の例である。
図14は、着弾位置ずれの絶対値に対して正検出性能係数を単純に比例関係で変化させる場合の例である。もちろん、着弾位置ずれ量と正検出性能係数の関係は比例(一次関数)に限らず、2次関数でもよいし、4次関数でもよいし、指数関数でもよい。
図13及び図14に示す比例関係によって正検出性能係数を無段階に(連続的に)調整する形態は、本開示における「無段階に調整する」ことの一例である。着弾位置ずれ量の絶対値は、異常の度合いを定量的に示す数値の一例である。
図15は、X方向の隣り合うノズルの着弾位置ずれ量の差分から正検出性能係数を決定する場合の例である。「隣り合うノズル」とは、印刷画像上で隣り合う画素の記録を担うノズルどうしを意味する。X方向に並ぶ画素の配列順にノズル番号を付す場合、X方向について隣り合うノズルは、ノズル番号が隣り合うノズルどうしと理解される。
n番目のノズルの着弾位置ずれ量Xnと、n+1番目のノズルの着弾位置ずれ量Xnとの差をΔX_nとする。
ΔX_n=Xn+1 - Xn
ΔX_nがプラスの値になるということは、隣り合うノズルによって記録されるラインの間隔が広がることを示している。ΔX_nがマイナスの値になるということは、隣り合うノズルによって記録されるラインの間隔が狭くなることを示している。
この差ΔX_nが大きいと、隣り合うノズルによって記録されるラインのライン間隔が離れる方向にいくため、スジが視認されやすい。したがってΔX_nがプラスの値で大きくなるにつれて正検出性能係数を大きくする。
ΔX_nがプラスの値である場合、0付近の小さい値であってもスジが視認されやすい傾向がある。一方、ΔX_nがマイナスの値である場合、0付近の小さい値ではスジが視認されにくい。このため、図15に示すように、ΔX_n=0の軸を中心にして正負の領域で非対称のグラフ形状にすることが望ましい。
《ノズル状態評価パターンの他の例1》
ノズル状態評価パターンの少なくとも一部にはドットパターンを含めることも効果的である。図16にドットパターンを含むノズル状態評価パターンの例を示す。図16の最左に示す線分は、1つのノズルによって記録されるラインパターンの拡大図である。図16の中央に示すパターンは、1つのノズルによって記録されるラインパターンとドットパターンとの組合せのパターンの拡大図である。図16の最右に示すパターンは、1つのノズルによって記録されるドットパターンの拡大図である。
図16の中央に示すパターン又は図16の最右に示すパターンのように、ドットパターンを含むパターンを印刷し、その印刷結果を撮像装置によって撮像して得られる画像を解析することにより、図17に示すように、各ノズルについてのサテライトの発生の有無、サテライトの着弾位置の不良、及び、Y方向について着弾位置のずれなどの異常を判定することができる。
図17の最左に示すドットパターンは、正常なノズルから吐出された液滴によって記録される正常なドットのパターンを示す拡大図である。正常なノズルの場合、サテライトが発生せずに、メイン滴が目標の着弾位置に着弾する。図17の左から2番目のドットパターンは、メイン滴の他にサテライトが発生している例を示す拡大図である。サテライトはメイン滴に遅れて着弾するもののサテライトのX方向着弾位置はメイン滴のX方向着弾位置と概ね一致している。図17の左から3番目のドットパターンは、メイン滴の他にサテライトが発生している他の例を示す拡大図である。このサテライトはメイン滴に遅れて着弾しており、かつ、サテライトのX方向着弾位置はメイン滴のX方向着弾位置からずれており、不適切な位置にサテライトが着弾している。
図17の最右に示すドットパターンは、メイン滴がY方向に遅れて着弾する例を示す拡大図である。図17において左から右に向かって右側に示す状態ほど異常の度合いが悪化していることになる。図8を用いてラインパターンについて説明した例と同様に、ドットパターンの記録状態に応じて正検出性能を調整することができる。
《ノズル状態評価パターンの他の例2》
ノズル状態評価パターンの印刷デューティは、印刷対象画像として指定されたユーザ画像の平均印刷デューティに合わせることも効果的である。具体的には、例えば、本例のインクジェット印刷装置がノズルから吐出する液滴の滴量を大滴、中滴、及び小滴などのように複数種類に制御可能な構成であるとして、本インクジェット印刷装置が濃い画像を印刷する場合は、大きい滴のインクを高いデューティで吐出しラインパターン及び/又はドットパターンを形成する。
一方、本インクジェット印刷装置が薄い画像を印刷する場合は、小さい滴のインクを低いデューティで吐出しラインパターン及び/又はドットパターンを形成する。こうして得られたパターンを撮像装置によって撮像し、既に説明したように、ノズル状態の評価結果を正検出性能の強弱に反映させる。
《ノズル状態評価パターンの他の例3》
ノズル状態評価パターンの印刷デューティは、印刷対象画像として指定されたユーザ画像において、そのノズルがそのユーザ画像を印刷するときのデューティに合わせることも効果的である。具体的には、濃い画像部を印刷するために使われるノズルは、大きい滴のインクを高いデューティで吐出しラインパターン及び/又はドットパターンを形成する。一方、薄い画像部を印刷するために使われるノズルは、小さい滴のインクを低いデューティで吐出しラインパターン及び/又はドットパターンを形成する。
《ノズル状態評価パターンの他の例4》
ノズル状態評価パターン40の前後には、高濃度印刷のベタ画像を含めることが効果的である。図18は、ノズル状態評価パターン40の前後に高濃度印刷のベタ画像44を含む印刷画像の例である。図19は、図18に示したノズル状態評価パターン40及びベタ画像44の部分の拡大図である。
ノズル状態評価パターン40の前後とは、用紙20の搬送によって用紙20が進んでいく方向が「前方」であり、用紙搬送方向と逆方向が「後方」である。図18及び図19のように用紙20が図面の下から上に向かって搬送される場合、ノズル状態評価パターン40の前後とは、ノズル状態評価パターン40の「上下」と理解してよい。
図18において、ノズル状態評価パターン40の上側に示されるベタ画像44の領域は、ノズル状態評価パターン40の記録に先行する領域であり、本開示における「第1の領域」の一例である。図18において、ノズル状態評価パターン40の下側に示されるベタ画像44の領域は、ノズル状態評価パターン40の記録に後続する領域であり、本開示における「第2の領域」の一例である。
高濃度印刷のベタ画像44とは、印刷可能な最大インク濃度又はその付近の濃度により印刷されるベタ画像を指す。このようなベタ画像44を印刷すると、各ノズルは多くの打滴を行うことになるため、状態の悪い異常なノズルを発見しやすくなる。
なお、ベタ画像44は、ノズル状態評価パターン40の前後の少なくとも片側の領域に印刷されればよい。好ましくは、ノズル状態評価パターン40の少なくとも前側の領域に印刷する。ベタ画像44は本開示における「最大濃度のベタ画像」の一例である。
《ノズル状態評価パターンの他の例5》
図18及び図19で説明した例の変形例として、ノズル状態評価パターン40の前後に、印刷対象画像の平均印刷デューティに合わせた濃度のベタ画像を含めることも効果的である。図20は、ノズル状態評価パターン40の前後に印刷対象画像の平均印刷デューティに合わせた濃度のベタ画像45を含んだパターンの例である。「平均印刷デューティに合わせた濃度」は、例えば、ユーザ画像42の平均濃度であってよい。
なお、インクジェット印刷装置が複数色のインクを用いて印刷を行う装置構成である場合、印刷対象画像の平均印刷デューティは、ノズル状態評価パターン40を印刷するインクの色に分版されたユーザ画像の分版画像から計算される。ベタ画像45は本開示における「平均濃度のベタ画像」の一例である。
《画像検査装置の機能ブロック図》
次に、画像検査装置の構成について説明する。図21は、本発明の実施形態に係る画像検査装置100の機能を示すブロック図である。画像検査装置100は、既に説明した実施形態に係る画像検査方法を実施し得る。
画像検査装置100は、画像取得部102と、メモリ104と、ノズル状態評価部106と、正検出性能係数決定部108と、画像解析部110と、を含む。画像解析部110は、前処理部112、領域決定部114、信号強度決定部116、欠陥有無判定部118、基準画像記憶部120、閾値記憶部122、及び情報出力部124を備える。また、画像解析部110は図21に示された構成の他に、図示されていない演算部、処理部、記憶部、若しくは制御部又はこれらの適宜の組み合わせを含んでいてもよい。
画像検査装置100の各部の機能は、コンピュータのハードウェア及びソフトウェアの組み合わせによって実現することができる。ソフトウェアはプログラムと同義である。例えば、ノズル状態評価部106と正検出性能係数決定部108と画像解析部110とは、1つ又は複数のCPU(Central Processing Unit)を用いて構成され、画像検査装置100の内部に備えられた図示せぬ記憶部に保存されているプログラムがCPUにロードされることにより動作する。また、画像検査装置100の機能の一部又は全部はDSP(digital signal processor)やFPGA(field-programmable gate array)に代表される集積回路を用いて実現してもよい。
画像取得部102は、装置の外部又は装置内の他の回路から検査画像50のデータを取り込むインターフェースである。画像取得部102は、データ入力端子、通信インターフェース、及びメディアインターフェースのうちいずれか1つ又は複数の組み合わせによって構成され得る。画像取得部102は本開示における「検査画像取得部」の一例である。
検査画像50は、例えば、図21に示されていないラインヘッド型インクジェット印刷装置によって印刷された印刷物130をカメラ132によって撮像することによって得られる撮像画像である。印刷物130は本開示における「記録物」の一例である。撮像画像には図2等において説明したように、ノズル状態評価パターン40とユーザ画像42とが含まれる。ノズル状態評価パターン40とユーザ画像42とを1枚の撮像画像として取得してもよいし、ノズル状態評価パターン40を撮像した画像と、ユーザ画像42を撮像した画像とを別々の撮像画像として取得してもよい。
カメラ132は本開示における「撮像装置」の一例である。撮像装置は、CCD(charge-coupled device)センサやCMOS(complementary metal-oxide semiconductor device)センサに代表される撮像素子を用いて、光学像を電子画像データに変換する装置である。撮像素子は、二次元イメージセンサであってもよいし、ラインセンサであってもよい。また、カラー撮像素子を採用してもよいし、モノクロ撮像素子を採用してもよく、これらを組み合わせた構成でもよい。
カメラ132は、スキャナであってもよい。スキャナは、フラットベット型のオフラインスキャナであってもよいし、インクジェット印刷装置の媒体搬送経路に設置されたインラインセンサであってもよい。「カメラ」或いは「撮像装置」いう用語は、対象物を読み取り画像信号に変換する画像読取装置と同義に理解される。「撮像」は「読み取り」の概念を含む。
画像検査装置100が検査画像50を取得する形態には、カメラ132から直接的に取得する形態の他、カメラ132によって得られている検査画像50のデータを有線又は無線の通信インターフェースを介して取得する形態、メモリカードその他の可搬型記憶媒体に記憶されている検査画像50のデータを可搬型記憶媒体からメディアインターフェースを介して取得する形態などがあり得る。画像検査装置100は、カメラ132を含む構成であってもよいし、カメラ132を含まない構成であってもよい。
メモリ104は、画像取得部102を介して取得した検査画像50を記憶する記憶部である。メモリ104は、画像解析部110の各種演算を行う際のワークメモリとして機能し得る。
ノズル状態評価部106は、検査画像50に含まれるノズル状態評価パターン40のデータを処理して各ノズルの状態を評価する。
正検出性能係数決定部108は、ノズル状態評価部106による評価結果を基に正検出性能係数を決定する。正検出性能係数決定部108は、ノズル状態評価情報から正検出性能係数に変換するためのテーブルを参照して、正検出性能係数を決定する。
画像解析部110は、検査画像50に含まれるユーザ画像42のデータを処理して欠陥の有無を判定する。画像解析部110は、ノズル状態評価部106及び正検出性能係数決定部108の処理機能を含んでいても良い。
前処理部112は、画像取得部102を介して取得した画像に対して、必要に応じて前処理を行う。なお、画像取得部102が取得する検査画像50が既に前処理済みの画像のデータ、或いは、前処理不要の画像のデータである場合には、前処理部112による処理を省略することができる。前処理部112によって所要の前処理が行われた前処理済みの検査画像は領域決定部114に送られる。また、前処理不要の検査画像はメモリ104から領域決定部114に送られる。
領域決定部114は、検査画像50の各位置におけるスジ等の欠陥の有無を判定するにあたり、その位置周辺のどの部分領域から判定するかの演算領域を決定する。
信号強度決定部116は、差分画像生成部140と、統計処理部142と、ノイズ低減部144とを含む。基準画像記憶部120には、予め生成された基準画像30のデータが記憶される。基準画像30は、印刷物130を出力した本例のインクジェット印刷システム又は他の画像記録システムを用いて予め記録された基準画像生成用の印刷物をカメラ132又は他の撮像装置を用いて撮像することにより生成されうる。また、基準画像30は、インクジェット印刷システムを用いて印刷物130の記録を行う際に用いる画像データを基に生成され得る。印刷用の画像データを基に基準画像を生成する場合には、印刷出力のために画像データを処理する過程において基準画像が生成されてもよい。
差分画像生成部140は、基準画像記憶部120に記憶されている基準画像30と検査画像50の画像同士の位置を合わせて両者の差分を演算し、差分の画像情報である差分画像を生成する。基準画像記憶部120は、メモリ104の記憶領域を利用したものであってもよい。信号強度決定部116が基準画像記憶部120から基準画像30のデータを取り込むための図示せぬデータ入力端子は基準画像取得部の一例である。或いはまた、基準画像記憶部120に基準画像30のデータを記憶させるためのデータ入力インターフェースは基準画像取得部の一例に相当すると理解される。
統計処理部142は、差分画像生成部140によって生成された差分画像の信号を統計処理してスジと疑われる信号の強度を定量的に示すプロファイルその他の強度評価信号を生成する。
ノイズ低減部144は、差分画像生成部140及び/又は統計処理部142において取り扱う信号のノイズを低減する処理を行う。ノイズ低減部144は、差分画像を生成する際に、基準画像30及び/又は検査画像50についてノイズ低減処理を行う。
また、ノイズ低減部144は、統計処理部142の処理の際に、ノイズを低減する処理を行ってもよい。
欠陥有無判定部118は、信号強度決定部116によって生成された強度評価信号を閾値と比較して欠陥の有無を判定する。閾値記憶部122は、欠陥有無判定部118の判定に用いる閾値を記憶する。閾値記憶部122は、メモリ104の記憶領域を利用したものであってもよい。閾値記憶部122には、例えば、正検出性能係数に応じた複数の閾値を記憶しておくことができる。閾値はプログラムによって定められた値であってもよいし、操作部160から入力された値であってもよい。
欠陥有無判定部118は、正検出性能係数決定部108により決定された正検出性能係数に従い、画像内において正検出性能を調整して欠陥の有無の判定を行うことができる。画像解析部110、ノズル状態評価部106及び正検出性能係数決定部108の組合せは本開示における「欠陥検出部」の一例である。
情報出力部124は、欠陥有無判定部118によって判定された判定結果の情報を出力する出力インターフェースである。判定結果の情報として、例えば、スジ欠陥の有無を示す情報、スジ欠陥の位置を示す情報、スジの強度を示す情報、若しくは、スジの長さを示す情報、又は、これらのうち2つ以上の情報を組み合わせたものなどがあり得る。
画像検査装置100は、操作部160と表示部162とを備えていてもよい。操作部160と表示部162によってユーザインターフェースが構成される。操作部160には、キーボード、マウス、タッチパネル、トラックボールなど、各種の入力装置を採用することができ、これらの適宜の組み合わせであってもよい。表示部162には液晶ディスプレイなどの各種の表示装置を採用することができる。なお、表示部162の画面上にタッチパネルを配置した構成のように、表示部162と操作部160とが一体的に構成されている形態も可能である。ユーザは、表示部162の画面に表示される内容を見ながら操作部160を使って各種パラメータの設定及び各種情報の入力並びに編集が可能である。
また、表示部162は、検査結果をユーザに知らせる検査結果情報報知手段として機能する。例えば、印刷物からスジ欠陥が検出された場合に、表示部162の画面にスジ欠陥の検出情報を示すスジ欠陥検出情報が表示される。
《インクジェット印刷装置の構成例》
図22は、インクジェット印刷装置201の構成例を示す全体構成図である。インクジェット印刷装置201は、枚葉の用紙PにCMYKの4色のインクを使用して所望の画像をシングルパス方式で印刷するカラーデジタル印刷装置である。
本例では描画用のインクとして水性インクが用いられる。水性インクは、水及び/又は水に可溶な溶媒に顔料や染料などの色材を溶解又は分散させたインクをいう。なお、水性インクに代えて、紫外線硬化型インクを用いてもよい。
インクジェット印刷装置201は、給紙部210と、処理液付与部220と、処理液乾燥部230と、描画部240と、インク乾燥部250と、集積部260と、を備える。
給紙部210は、給紙装置212と、フィーダボード214と、給紙ドラム216と、を備える。用紙Pは、多数枚が積み重ねられた束の状態で給紙台212Aに載置される。用紙Pの種類は、特に限定されないが、例えば、上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする印刷用紙を用いることができる。用紙Pは本開示における「媒体」の一例である。
給紙装置212は、給紙台212Aにセットされた束の状態の用紙Pを上から順に1枚ずつ取り出してフィーダボード214に給紙する。フィーダボード214は、給紙装置212から受け取った用紙Pを給紙ドラム216へと搬送する。
給紙ドラム216は、フィーダボード214から給紙される用紙Pを受け取り、受け取った用紙Pを処理液付与部220へと搬送する。
処理液付与部220は、用紙Pに処理液を塗布する。処理液は、インク中の色材成分を凝集、若しくは不溶化又は増粘させる機能を備えた液体である。処理液付与部220は、処理液塗布ドラム222と、処理液塗布装置224と、を備える。
処理液塗布ドラム222は、給紙ドラム216から用紙Pを受け取り、受け取った用紙Pを処理液乾燥部230へと搬送する。処理液塗布ドラム222は、周面にグリッパ223を備え、グリッパ223で用紙Pの先端部を把持して回転することにより、用紙Pを周面に巻き付けて搬送する。
処理液塗布装置224は、処理液塗布ドラム222によって搬送される用紙Pに処理液を塗布する。処理液はローラによって塗布される。処理液を塗布する方式は、ローラ塗布方式に限らない。処理液塗布装置224には他の方式が適用されてもよい。処理液塗布装置224の他の方式の例として、ブレードを用いた塗布、インクジェット方式による吐出、又はスプレー方式による噴霧などが挙げられる。
処理液乾燥部230は、処理液が塗布された用紙Pを乾燥処理する。処理液乾燥部230は、処理液乾燥ドラム232と、温風送風機234と、を備える。処理液乾燥ドラム232は、処理液塗布ドラム222から用紙Pを受け取り、受け取った用紙Pを描画部240へと搬送する。処理液乾燥ドラム232は、周面にグリッパ233を備える。処理液乾燥ドラム232は、グリッパ233で用紙Pの先端部を把持して回転することにより、用紙Pを搬送する。
温風送風機234は、処理液乾燥ドラム232の内部に設置される。温風送風機234は、処理液乾燥ドラム232によって搬送される用紙Pに温風を吹き当てて、処理液を乾燥させる。
描画部240は、描画ドラム242と、ヘッドユニット244と、用紙浮き検出部245と、用紙押さえローラ247と、インラインセンサ248と、を備える。描画ドラム242は、処理液乾燥ドラム232から用紙Pを受け取り、受け取った用紙Pをインク乾燥部250へと搬送する。描画ドラム242は、ドラム周面にグリッパ243を備え、グリッパ243を用いて用紙Pの先端を把持して回転することにより、用紙Pを周面に巻き付けて搬送する。
描画ドラム242は、図示せぬ吸着機構を備え、周面に巻き付けられた用紙Pをドラム周面に吸着させて搬送する。吸着には、負圧が利用される。描画ドラム242は、周面に多数の吸着孔を備え、この吸着孔を介して描画ドラム242の内部から吸引することにより、用紙Pを描画ドラム242の周面に吸着させる。
ヘッドユニット244は、インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yを含んで構成される。
インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yのそれぞれには、対応する色のインク供給源である不図示のインクタンクから不図示の配管経路を介して、インクが供給される。
インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yの各々は、描画ドラム242によって搬送される用紙Pに対して1回の走査によって、つまりシングルパス方式によって、印刷可能なライン型記録ヘッドで構成される。インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yは、各々のノズル面が描画ドラム242の周面に対向して配置される。インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yは、描画ドラム242による用紙Pの搬送経路に沿って一定の間隔をもって配置される。
図20には示さないが、インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yの各々のノズル面には、インクの吐出口である複数個のノズルが二次元配列されている。「ノズル面」とは、ノズルが形成されている吐出面をいい、「インク吐出面」或いは「ノズル形成面」などの用語と同義である。二次元配列された複数個のノズルのノズル配列を「二次元ノズル配列」という。インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yの各々のノズル面には、撥水膜が形成されている。
インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yの各々は、複数個のヘッドモジュールを用紙幅方向に繋ぎ合わせて構成することができる。インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yの各々は、用紙Pの搬送方向と直交する用紙幅方向に関して用紙Pの全記録領域を1回の走査で規定の記録解像度による画像記録が可能なノズル列を有するフルライン型の記録ヘッドである。フルライン型の記録ヘッドはページワイドヘッドとも呼ばれる。規定の記録解像度とは、インクジェット印刷装置201によって予め定められた記録解像度であってもよいし、ユーザの選択により、若しくは、印刷モードに応じたプログラムによる自動選択により設定される記録解像度であってもよい。記録解像度として、例えば、1200dpiとすることができる。用紙Pの搬送方向と直交する用紙幅方向をラインヘッドのノズル列方向と呼び、用紙Pの搬送方向をノズル列垂直方向と呼ぶ場合がある。
二次元ノズル配列を有するインクジェットヘッドの場合、二次元ノズル配列における各ノズルをノズル列方向に沿って並ぶように投影(正射影)した投影ノズル列は、ノズル列方向について、最大の記録解像度を達成するノズル密度で各ノズルが概ね等間隔で並ぶ一列のノズル列と等価なものと考えることができる。「概ね等間隔」とは、インクジェット印刷装置で記録可能な打滴点として実質的に等間隔であることを意味している。例えば、製造上の誤差や着弾干渉による媒体上での液滴の移動を考慮して僅かに間隔を異ならせたものなどが含まれている場合も「等間隔」の概念に含まれる。投影ノズル列(「実質的なノズル列」ともいう。)を考慮すると、ノズル列方向に沿って並ぶ投影ノズルの並び順に、各ノズルにノズル位置を表すノズル番号を対応付けることができる。
描画ドラム242によって搬送される用紙Pに向けて、インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yのうち少なくとも1つのヘッドからインクの液滴が吐出され、吐出された液滴が用紙Pに付着することにより、用紙Pに画像が形成される。
描画ドラム242は、インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yと用紙Pとを相対移動させる手段として機能している。描画ドラム242は、インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yに対して、用紙Pを搬送する用紙搬送部の一例である。インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yのそれぞれの吐出タイミングは、描画ドラム242に設置されたエンコーダから得られるエンコーダ信号に同期させる。図20においてエンコーダの図示は省略され、図22において符号382として示されている。吐出タイミングとは、インクの液滴を吐出するタイミングであり、打滴タイミングと同義である。
なお、本例では、CMYKの4色のインクを用いる構成を例示するが、インク色及び色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特色インクなどを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成、又は、緑色若しくはオレンジ色などの特色のインクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成なども可能である。また、各色のインクジェットヘッドの配置順序も特に限定はない。インクの色毎にノズル分配マスクパターンファイルに従って、画素ごとに打滴に使用するノズルが選択される。
インラインセンサ248は、インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yによって用紙Pに記録された画像を光学的に読み取り、その読取画像を示す電子画像データを生成する装置である。インラインセンサ248は、用紙P上に記録された画像を撮像して画像情報を示す電気信号に変換する撮像デバイスを含む。インラインセンサ248は、撮像デバイスの他、読み取り対象を照明する照明光学系及び撮像デバイスから得られる信号を処理してデジタル画像データを生成する信号処理回路を含んでよい。
インラインセンサ248は、カラー画像の読み取りが可能な構成であることが好ましい。本例のインラインセンサ248は、例えば、撮像デバイスとしてカラーCCD(Charge-Coupled Device)リニアイメージセンサが用いられる。カラーCCDリニアイメージセンサはRGB各色のカラーフィルタを備えた受光素子が直線状に配列したイメージセンサである。なお、カラーCCDリニアイメージセンサに代えて、カラーCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)リニアイメージセンサを用いることもできる。
インラインセンサ248は、描画ドラム242による用紙Pの搬送中に用紙P上の画像の読み取りを行う。インラインセンサ248は、インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yによって用紙Pに記録された画像を読み取る画像読取装置である。インラインセンサ248は、本開示における「撮像装置」の一例である。インラインセンサ248は、図8で説明したカメラ132の役割を果たす。
インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yの少なくとも1つを用いて画像が記録された用紙Pは、インラインセンサ248の読取領域を通過する際に、用紙P上の画像が読み取られる。用紙Pに記録される画像としては、ジョブで指定される印刷対象画像であるユーザ画像の他、ノズルごとの吐出状態をチェックするためのノズル状態評価パターン40、印刷濃度補正用のキャリブレーションパターン、その他の各種のテストパターンが含まれ得る。
インラインセンサ248によって読み取られた読取画像のデータを基に、画像の濃度及びインクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yの各ノズルの吐出状態などの情報が得られる。また、インラインセンサ248によって読み取られた読取画像のデータを基に、印刷画像の検査が行われ、スジ等の欠陥を含む画質異常の有無が判断される。
インク乾燥部250は、描画部240によって画像が形成された用紙Pを乾燥処理する。インク乾燥部250は、チェーングリッパ270と、用紙ガイド280と、加熱乾燥処理部290と、を備える。
チェーングリッパ270は、描画ドラム242から用紙Pを受け取り、受け取った用紙Pを集積部260へと搬送する。チェーングリッパ270は、規定の走行経路を走行する一対の無端状のチェーン272を備え、その一対のチェーン272に備えられたグリッパ274によって用紙Pの先端部を把持した状態で用紙Pを規定の搬送経路に沿って搬送する。グリッパ274は、チェーン272に一定の間隔で複数備えられる。
チェーングリッパ270は、第1スプロケット271Aと、第2スプロケット271Bと、チェーン272と、複数のグリッパ274と、を含んで構成され、一対の第1スプロケット271A及び第2スプロケット271Bに、一対の無端状のチェーン272が巻き掛けられた構造を有している。
チェーングリッパ270は、チェーン272の送り方向における複数の位置に複数のグリッパ274が配置される構造を有している。また、チェーングリッパ270は、一対のチェーン272の間に、用紙幅方向に沿って複数のグリッパ274が配置される構造を有している。
チェーングリッパ270による用紙Pの搬送経路は、用紙Pを水平方向に沿って搬送する水平搬送領域と、水平搬送領域の終端から用紙Pを斜め上方向に搬送する傾斜搬送領域とを含んでいる。水平搬送領域を第1搬送区間といい、傾斜搬送領域を第2搬送区間という。
用紙ガイド280は、チェーングリッパ270による用紙Pの搬送をガイドする機構である。用紙ガイド280は、第1用紙ガイド282と第2用紙ガイド284を含んで構成される。第1用紙ガイド282は、チェーングリッパ270の第1搬送区間を搬送される用紙Pをガイドする。第2用紙ガイド284は、第1搬送区間の後段の第2搬送区間を搬送される用紙をガイドする。
第1用紙ガイド282として、吸着ベルト搬送装置が用いられている。吸着ベルト搬送装置は、無端状の搬送ベルトに用紙Pを吸着させた状態で、搬送ベルトを送ることにより用紙Pを搬送する装置である。
加熱乾燥処理部290は、描画部240によって画像が形成された用紙Pに熱を加えてインクの溶媒を蒸発させ、用紙Pを乾燥させる。加熱乾燥処理部290は、例えば、温風送風ユニットであり、第1用紙ガイド282と対向して配置され、チェーングリッパ270によって搬送される用紙Pに温風を吹き当てる。
集積部260は、チェーングリッパ270によってインク乾燥部250から搬送されてくる用紙Pを受け取り、集積する集積装置262を備える。チェーングリッパ270は、所定の集積位置で用紙Pをリリースする。集積装置262は集積トレイ262Aを備え、チェーングリッパ270からリリースされた用紙Pを受け取り、集積トレイ262Aの上に束状に集積する。集積部260は排紙部に相当する。
また、図22では図示が省略されるが、インクジェット印刷装置201は、インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yのメンテナンス処理を行うメンテナンス部を備える。メンテナンス部は、描画ドラム242の軸方向に描画ドラム242と並んで設置される。
《システム構成》
図23は、インクジェット印刷装置201の制御系の要部構成を示すブロック図である。インクジェット印刷装置201は制御装置202によって制御される。制御装置202とインクジェット印刷装置201とを含むシステムをインクジェット印刷システム300と呼ぶ。
制御装置202は、システムコントローラ350と、通信部352と、表示部354と、入力装置356と、画像処理部358と、画像検査装置360と、搬送制御部362と、画像記録制御部364と、を備える。これらの各部の要素は、1台又は複数台のコンピュータによって実現することが可能である。つまり、制御装置202は、コンピュータのハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって構成することができる。また、制御装置202の処理機能の一部又は全部は、DSPやFPGAに代表される集積回路を用いて実現してもよい。
システムコントローラ350は、インクジェット印刷装置201の各部を統括制御する制御手段として機能し、かつ、各種演算処理を行う演算手段として機能する。システムコントローラ350は、CPU(Central Processing Unit)370と、ROM(read-only memory)372と、RAM(random access memory)374と、を備えており、所定のプログラムに従って動作する。ROM372には、システムコントローラ350が実行するプログラム、及び、制御に必要な各種データが格納される。
通信部352は、所要の通信インターフェースを備える。インクジェット印刷装置201は、通信部352を介して図示せぬホストコンピュータと接続され、ホストコンピュータとの間でデータの送受信を行うことができる。ここでいう「接続」には、有線接続、無線接続、又はこれらの組み合わせが含まれる。通信部352には、通信を高速化するためのバッファメモリを搭載してもよい。
通信部352は、印刷対象の画像を表す画像データを取得するための画像入力インターフェース部としての役割を果たす。
表示部354と入力装置356によってユーザインターフェースが構成される。表示部354には液晶ディスプレイなどの各種の表示装置を採用することができる。入力装置356には、キーボード、マウス、タッチパネル、トラックボールなど、各種の入力装置を採用することができ、これらの適宜の組み合わせであってもよい。
オペレータは、表示部354の画面に表示される内容を見ながら入力装置356を使って印刷条件の入力や、画質モードの選択、その他の設定事項の入力、付属情報の入力及び編集、情報の検索など各種情報の入力を行うことができる。また、オペレータは、入力内容その他の各種情報を表示部354の表示を通じて確認することができる。
画像処理部358は、印刷対象の画像データに対する各種の変換処理や補正処理、並びにハーフトーン処理を行う。変換処理には、画素数変換、階調変換、色変換などが含まれる。補正処理には、濃度補正や、不吐出ノズルによる画像欠陥の視認性を抑制するための不吐出補正などが含まれる。画像処理部358は、インラインセンサ248から得られる読取画像を基に補正処理を行う。ハーフトーン処理は、ディザ法や誤差拡散法に代表されるデジタルハーフトーニングの処理である。
画像検査装置360は、図21で説明した画像検査装置100の装置構成と同等の構成を採用することができる。なお、図21で説明した表示部162として図23の表示部354を用いることができる。また、図21で説明した操作部160として図23の入力装置356を用いることができる。
なお、画像検査装置360は、システムコントローラ350を含んだ制御装置とは別のコンピュータで構成してもよいし、システムコントローラ350を含んだ制御装置の中の機能ブロックとして内包する構成としてもよい。
搬送制御部362は、媒体搬送機構380を制御する。媒体搬送機構380は、図22で説明した給紙部210から集積部260までの用紙Pの搬送に関わる用紙搬送部の機構の全体を含んでいる。媒体搬送機構380には、図22で説明した給紙ドラム216、処理液塗布ドラム222、処理液乾燥ドラム232、描画ドラム242、チェーングリッパ270などが含まれる。また、媒体搬送機構380には、図示せぬ動力源としてのモータ及びモータ駆動回路などの駆動部が含まれる。
搬送制御部362は、システムコントローラ350からの指令に応じて、媒体搬送機構380を制御し、給紙部210から集積部260まで用紙Pが搬送されるように制御する。
インクジェット印刷装置201は、媒体搬送機構380における描画ドラム242(図22参照)の回転角度を検出する手段としてのロータリエンコーダ382を備えている。インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yのそれぞれは、ロータリエンコーダ382が出力するロータリエンコーダ信号から生成される吐出タイミング信号にしたがって吐出タイミングが制御される。
画像記録制御部364は、システムコントローラ350からの指令に応じてインクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yのそれぞれの駆動を制御する。画像記録制御部364は、画像処理部358のハーフトーン処理を経て生成された各インク色のドットデータに基づき、描画ドラム242により搬送される用紙Pに所定の画像を記録するように、インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yのそれぞれの吐出動作を制御する。さらに、画像記録制御部364は、各インクジェットヘッド246K、246C、246M、246Yに対して、ノズルの状態をチェックするための所定の指令信号を出力し、ノズル状態評価パターンの印刷を制御する。
また、制御装置202は図示せぬハードディスクドライブなどの記憶装置を備えている。記憶装置にはCPU370が実行するプログラムや演算に必要な各種のデータを記憶しておくことができる。記憶装置は制御装置202に内蔵されていてもよいし、通信回線を介して制御装置202に接続された構成であってもよい。
《各処理部及び制御部のハードウェア構成について》
図21で説明した画像取得部102、ノズル状態評価部106、正検出性能係数決定部108、画像解析部110、前処理部112、領域決定部114、信号強度決定部116、欠陥有無判定部118、基準画像記憶部120、閾値記憶部122、情報出力部124、差分画像生成部140、統計処理部142、ノイズ低減部144、並びに図123で説明した通信部352、画像処理部358、搬送制御部362、及び画像記録制御部364などの各種の処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造は、次に示すような各種のプロセッサ(processor)である。
各種のプロセッサには、プログラムを実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路などが含まれる。
1つの処理部は、これら各種のプロセッサのうちの1つで構成されていてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサで構成されてもよい。例えば、1つの処理部は、複数のFPGA、或いは、CPUとFPGAの組み合わせによって構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第一に、クライアントやサーバなどのコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第二に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)などに代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサを1つ以上用いて構成される。
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)である。
《コンピュータを画像検査装置として機能させるプログラムについて》
上述の実施形態で説明した画像検査機能を含む画像処理機能並びにインクジェット印刷装置の制御機能をコンピュータに実現させるプログラムをCD-ROM(Compact Disc read-only memory)や磁気ディスクその他の有体物たる非一時的な情報記憶媒体であるコンピュータ可読媒体に記録し、この情報記憶媒体を通じてプログラムを提供することが可能である。またこのような有体物たる非一時的な情報記憶媒体にプログラムを記憶させて提供する態様に代えて、インターネットなどの通信ネットワークを利用してプログラム信号をダウンロードサービスとして提供することも可能である。
また、画像検査機能を含む画像処理機能の一部又は全部をアプリケーションサーバとして提供し、通信ネットワークを通じて処理機能を提供するサービスを行うことも可能である。
このプログラムをコンピュータに組み込むことにより、コンピュータに画像検査装置の機能を実現させることができる。また、本実施形態で説明した画像検査機能を含む印刷制御を実現するためのプログラムの一部又は全部をホストコンピュータなどの上位制御装置に組み込む態様や、インクジェット印刷装置に備えられたCPUの動作プログラムとして適用することも可能である。
《実施形態の利点》
(1)本実施形態によれば、ノズル状態評価パターンに基づくノズル状態の評価結果から、欠陥が発生しやすい場所を特定し、そのノズル状態評価情報を利用して、ユーザ画像の領域における欠陥の検出精度を高めることができる。
(2)本実施形態に係る画像検査方法は、画像形成要素の不良に起因する欠陥を補償する処理を実施しないシステムに適用することができ、補償処理が適用されていない画像領域において欠陥の検出性能を適切に調整できる。もちろん、本実施形態に係る画像検査方法は、特許文献1に記載のような補償処理を実施するシステムに対しても適用することが可能である。
(3)本実施形態によれば、補償処理機能を備えたシステムであるか否かによらず、インクジェット印刷システムによって記録される印刷物の欠陥の有無を適切に検査することが可能である。
《変形例1》
本開示の技術は、特許文献1に記載の技術と組み合わせることができる。すなわち、特許文献1に記載されているスジ補正機能(不吐出補正機能)などの補償処理の機能を備えたインクジェット印刷システムの場合、画像領域のうち補償処理を適用していない補償非適用領域に対して本開示の技術を適用し、補償処理を適用した補償適用領域に対して特許文献1に記載の技術を適用してもよい。
つまり、ノズル状態評価パターンに基づく評価によって新たに発見された異常状態のノズルに対応する箇所に対しては本開示の技術を適用して欠陥の正検出性能を相対的に高め、既知の補償適用領域に対しては特許文献1に記載の技術を適用して誤検出回避性能を高める。例えば、着弾位置ずれ量がある閾値よりも大きくなった場合には、そのノズルを使用不能化(不吐化)して補償処理を適用する。この補償処理が適用されるまでの未補正の領域(補償非適用領域)に対して本開示の技術を適用する。一方、補償処理が適用された補償適用領域に対しては必ずしも正検出性能を高める必要がないため、特許文献1に記載の技術を適用する。
図24は、本開示の技術と特許文献1に記載の技術とを組み合わせた場合の正検出性能係数の例を示すグラフである。図24は、図9で説明したグラフの一部が補償適用領域に置き換えられたものである。図24に示すように、補償適用領域は誤検出回避性能を高まるために、正検出性能係数を相対的に下げるように調整される。
《変形例2》
検査画像からスジ等の欠陥の強度を示す信号を取得するためには、必ずしも基準画像を必要としない。ユーザ画像42の領域内からスジ等の欠陥を検出する処理の方法として、例えば、特開2016-193504号公報に記載の方法、又は、特開2017-181094号公報に記載の方法などを採用してもよい。
《インクジェットヘッドの吐出方式について》
インクジェットヘッドのイジェクタは、液体を吐出するノズルと、ノズルに通じる圧力室と、圧力室内の液体に吐出エネルギーを与える吐出エネルギー発生素子と、を含んで構成される。イジェクタのノズルから液滴を吐出させる吐出方式に関して、吐出エネルギーを発生させる手段は、圧電素子に限らず、発熱素子や静電アクチュエータなど、様々な吐出エネルギー発生素子を適用し得る。例えば、発熱素子による液体の加熱による膜沸騰の圧力を利用して液滴を吐出させる方式を採用することができる。インクジェットヘッドの吐出方式に応じて、相応の吐出エネルギー発生素子が流路構造体に設けられる。
《記録媒体について》
画像の記録に用いられる媒体は、記録媒体、用紙、記録用紙、印刷用紙、印刷媒体、印字媒体、被印刷媒体、画像形成媒体、被画像形成媒体、受像媒体、被吐出媒体など様々な用語で呼ばれるものの総称である。媒体の材質や形状等は、特に限定されず、シール用紙、樹脂シート、フィルム、布、不織布、その他材質や形状を問わず、様々なシート体を用いることができる。媒体は枚葉の媒体に限らず、連続紙などの連続媒体であってもよい。また、枚葉の媒体は、予め規定のサイズに整えられたカット紙に限らず、連続媒体から随時、規定のサイズに裁断して得られるものであってもよい。
《媒体の搬送手段について》
媒体を搬送する搬送手段は、図22に例示したドラム搬送方式に限らず、ベルト搬送方式、ニップ搬送方式、チェーン搬送方式、パレット搬送方式など、各種形態を採用することができ、これら方式を適宜組み合わせることができる。
上述の実施形態では、シングルパス方式の走査方向であるY方向を第1の方向とし、第1の方向に直交するノズル列方向であるX方向を第2の方向として説明したが、第2の方向は第1の方向と交差する方向であればよい。本明細書における「直交」又は「垂直」という用語には、90°未満の角度、又は90°を超える角度をなして交差する態様のうち、実質的に90°の角度をなして交差する場合と同様の作用効果を発生させる態様が含まれる。
《ラインヘッド型のインクジェット印刷システムのスジ欠陥以外への適用》
上述の実施形態では、ラインヘッド型のインクジェット印刷システムにおけるスジ欠陥を例に説明したが、画像形成要素の欠陥補償を行う画像記録システム全般の欠陥検査を行う場合に適用可能である。このような画像記録システムとして、例えばサーマルプリントヘッドを用いて画像の記録を行う画像記録システム、LEDプリントヘッドを用いて画像の記録を行う画像記録システムなどが挙げられる。
《用語について》
「印刷装置」という用語は、印刷機、プリンタ、印字装置、画像記録装置、画像形成装置、画像出力装置、或いは、描画装置などの用語と同義である。
「画像」は広義に解釈するものとし、カラー画像、白黒画像、単一色画像、グラデーション画像、均一濃度(ベタ)画像なども含まれる。「画像」は、写真画像に限らず、図柄、文字、記号、線画、モザイクパターン、色の塗り分け模様、その他の各種パターン、若しくはこれらの適宜の組み合わせを含む包括的な用語として用いる。また、「画像」という用語は、デジタル画像の概念を含む。
「画像の記録」は、画像の形成、印刷、印字、描画、及びプリントなどの用語の概念を含む。画像記録システムは、画像形成システム、印刷システム、プリントシステムなどの用語の概念を含む。
《実施形態及び変形例等の組み合わせについて》
上述の実施形態で説明した構成や変形例で説明した事項は、適宜組み合わせて用いることができ、また、一部の事項を置き換えることもできる。
以上説明した本発明の実施形態は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜構成要件を変更、追加、又は削除することが可能である。本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で同等関連分野の通常の知識を有する者により、多くの変形が可能である。