(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の通信品質評価装置1の機能構成の一例を示す図である。通信品質評価装置1は、複数の無線基地局(BS:Base Station)と複数の移動端末装置(UE:User Equipment)とを備える通信システムにおける第1の通信品質(以下「第1通信品質」という。)を評価する。無線基地局はアンテナを備え電波を送信する。移動端末装置は、車やドローン等の移動体に取り付けられた電波の送受信機である。送受信機はアンテナを備える。移動端末装置は、最も近くに位置する無線基地局と電波の送受信を行うことで無線基地局と通信する。通信品質評価装置1が第1通信品質を評価する評価対象の通信システムは、単位領域の無線基地局の数(以下「BS密度」という。)が所定の数であって単位領域の移動端末装置の数(以下「UE密度」という。)が所定の数の通信システムである。第1通信品質を表現する値の具体例は後述する。本発明では、評価対象の通信システムにおける無線基地局又は移動端末装置の位置が確定される必要はない。無線基地局又は移動端末装置の位置が不確定な一例は、無線通信システムの置局設計段階で、所定の範囲において無線基地局又は移動端末装置の設置位置の候補が複数存在する状態である。通信品質評価装置1が評価する第1通信品質は、BS密度と、UE密度と、BS性能と、UE性能と、通信システムが動作する環境(以下「通信システム動作環境」という。)とに応じた通信品質である。
BS密度は、例えば、通信システムが動作するエリアにおける無線基地局の所定の一軸(以下「X軸」という。)の方向(以下「X軸方向」という。)の密度である。UE密度は、例えば、移動端末装置のX軸方向の密度である。
BS性能は、無線基地局の送信電力や、無線基地局において発生する熱雑音のエネルギーや、無線基地局が備えるアンテナのアンテナ利得等の無線基地局の性能である。UE性能は、移動端末装置の送信電力や、移動端末装置において発生する熱雑音や、移動端末装置が備えるアンテナのアンテナ利得等の移動端末装置の性能である。
このように第1通信品質は、BS密度及びUE密度に依存し、個々の無線基地局の位置と移動端末装置の位置とには依存しない。そのため、第1通信品質は、たとえX軸方向の無線基地局及び移動端末装置の位置が変化しても、X軸方向の無線基地局及び移動端末装置の密度が変化しなければ変化しない。
第1通信品質は、評価値によって示される。評価値は、複数の要素システムのうち第2の通信品質(以下「第2通信品質」という。)が第2通信品質に関する所定の条件(以下「品質条件」という。)を満たす要素システムの数を示す。評価値の具体例は、後述する。要素システムは、BS密度、UE密度、BS性能、UE性能及び通信システム動作環境が評価対象の通信システムと同一の通信システムであって、無線基地局の位置と移動端末装置の位置がそれぞれ異なる通信システムである。第2通信品質は、第1通信品質とは異なる通信品質であって、無線基地局及び移動端末装置が予め定められた位置に位置する通信システムにおける通信品質を表す。そのため、第2通信品質は、所望の通信の無線基地局及び移動端末装置の位置に依存する通信品質である。
品質条件は、例えば、第2通信品質が所定の品質以上という条件であってもよい。品質条件は、要素品質値が所定の値以上という条件であってもよい。要素品質値は、第2通信品質を示す値である。品質条件が、要素品質値が所定の値以上という条件である場合、評価値は、例えば、要素品質値を確率変数とする累積分布関数(以下「要素品質値累積分布関数」という。)を表す値であってもよい。累積分布関数を表す値は、例えば、累積分布関数における係数や指数等の累積分布関数の形を表す値であってもよいし、累積分布関数の入力と出力との組合せの集合を表す値であってもよい。累積分布関数の入力と出力との組合せの集合を表す値は、例えば、テンソルで表されてもよい。
要素品質値は、例えば、特定の移動端末装置(以下「対象移動端末装置」という。)が受信した特定の電波(以下「対象電波」という。)の強さの基準値に対する強さを示す値であってもよい。基準値は、例えば、予め定められた所定の値であってもよいし、対象電波以外の電波の電力であってもよいし、対象電波以外の電波の電力と特定熱雑音電力との合計の電力であってもよい。対象移動端末装置は、例えば、通信品質評価装置1のユーザーが指示する移動端末装置であってもよいし、所定の条件を満たす移動端末装置であってもよい。対象電波は、通信品質評価装置1のユーザーが指示する移動端末装置であってもよいし、対象移動端末装置の最も近くに位置する無線基地局が送信する電波であってもよい。特定熱雑音電力は、対象移動端末装置において単位時間に生じる熱雑音のエネルギーである。特定熱雑音電力のスペクトル形状は例えば正規分布の形状である。
第2通信品質は、より具体的には例えば、以下の式(1)で表される要素品質値によって示されてもよい。式(1)が表す要素品質値は、受信SINR(Signal-to-Noise-Interference Ratio)である。
以下、下付き文字を“_”で表し、上付き文字を“^”で表す。例えば、A0_B0は、A0B0を表し、A0^B0は、A0B0を表す。
式(1)において、SINRは第2通信品質を示す要素品質値の一例である。式(1)においてSは対象移動端末装置が受信した対象電波の電力である。以下、式(1)のSを対象電力Sという。式(1)においてI_aggは、対象移動端末装置が受信した対象電波以外の電波の電力である。以下、式(1)のI_aggを非対象電力I_aggという。
要素品質値が式(1)で表される場合、第1通信品質は、例えば、要素品質値が品質を表す所定の値θより大きくなる累積確率分布の値によって表されてもよい。より具体的には、第1通信品質は、例えば、後述する式(14)の評価値で表されてもよい。
以下、第2通信品質が、対象移動端末装置が受信した対象電波の電力の、他の電波の電力と特定熱雑音電力とに対する大きさである場合を例に通信品質評価装置1を説明する。より具体的には、以下、要素品質値が式(1)のSINRで表される場合を例に通信品質評価装置1を説明する。以下、対象電波が対象移動端末装置の最も近くに位置する無線基地局が送信する電波である場合を例に通信品質評価装置1を説明する。以下、特定熱雑音電力のスペクトル形状が正規分布の形状である場合を例に通信品質評価装置1を説明する。
通信品質評価装置1は、BS密度と、UE密度と、BS性能と、UE性能と、通信システム動作環境情報と、品質関係情報とに基づき、評価対象の通信システムにおける評価値を算出する。通信システム動作環境情報は、通信システム動作環境に関する情報である。通信システム動作環境情報は、壁に挟まれた道路上で通信システムが動作する場合には、例えば、道路幅と、道路の全長と、壁の反射係数と、伝搬距離に応じた電波の損失の大きさとを示す。伝搬距離に応じた電波の損失の大きさは、例えば、伝搬損失指数(path loss exponent)によって示されてもよいし、伝搬損失によって示されてもよい。
通信システム動作環境情報は、より具体的には、例えば、1又は複数の環境値を示す情報である。環境値は、通信システムが動作する環境を表す予め定義された指標の値である。通信システムが動作する環境を表す予め定義された指標は、通信システムが動作する環境における予め定められた物理量であってもよいし、通信システムが動作する環境における予め定められた計数量であってもよい。物理量は無次元量を含んでもよい。
環境値は、例えば、壁に挟まれた道路上で通信システムが動作する場合には、例えば、道路幅であってもよい。環境値は、例えば、壁に挟まれた道路上で通信システムが動作する場合には、例えば、道路の全長であってもよい。環境値は、例えば、壁に挟まれた道路上で通信システムが動作する場合には、壁の反射係数であってもよい。環境値は、例えば、壁に挟まれた道路上で通信システムが動作する場合には、伝搬距離に応じた電波の損失の大きさを示す値であってもよい。伝搬距離に応じた電波の損失の大きさを示す値は、例えば、伝搬損失指数(path loss exponent)であってもよいし、伝搬損失であってもよい。なお、伝搬損失指数は、電波が伝搬する空間の状態に応じた値であって、電波が自由空間を伝搬する場合には2である。
品質関係情報は、無線基地局の位置の確率分布と、移動端末装置の位置の確率分布と、BS性能と、UE性能と、通信システム動作環境情報と、評価値との関係を示す情報である。品質関係情報は、例えば、品質算出式によって表される。品質算出式は、無線基地局の位置の確率分布と、移動端末装置の位置の確率分布と、BS性能と、UE性能と、通信システム環境情報が示す環境値と、評価値との関係を示す数式である。品質算出式において、無線基地局の位置の確率分布は、BS密度に応じた確率分布である。品質算出式において、移動端末装置の位置の確率分布は、UE密度に応じた確率分布である。品質算出式の具体例については後述する。
以下、簡単のため、通信品質評価装置1の評価対象の通信システムが、片側が壁の道路上で動作する場合を例に通信品質評価装置1を説明する。また、以下、簡単のため、通信システム動作環境情報が、道路幅と、道路の全長と、壁の反射係数と、伝搬距離に応じた電波の損失の大きさとを示す場合を例に通信品質評価装置1を説明する。すなわち、以下、道路幅を示す環境値と、道路の全長を示す環境値と、壁の反射係数を示す環境値と、伝搬距離に応じた伝搬の損失の大きさを示す環境値とを通信システム動作情報が示す場合を例に通信品質評価装置1を説明する。また、以下、簡単のため、伝搬距離に応じた電波の損失の大きさが伝搬損失指数によって表される場合を例に通信品質評価装置1を説明する。また、以下、簡単のため、品質関係情報が品質算出式である場合を例に通信品質評価装置1を説明する。
図2は、第1の実施形態の通信品質評価装置1の評価対象の通信システム9の一例を説明する説明図である。通信システム9は無線基地局901-1~901-I(Iは整数)のI個の無線基地局を備える。通信システム9は移動端末装置902-1~902-J(Jは整数)のJ個の移動端末装置を備える。通信システム9は、エリア90内に位置する。エリア90内には、建物の壁等の無線基地局及び移動端末装置が送信する電波を反射する反射部材903が位置する。反射部材903はX軸方向に平行である。無線基地局901-1~901-Iは、反射部材903に平行に位置する。移動端末装置902-1~902-Jは、反射部材903に平行な方向に移動可能な移動端末装置である。
対象移動端末装置は、例えば、移動端末装置902-1である。以下、簡単のため、対象移動端末装置が、移動端末装置902-1である場合を例に通信品質評価装置1説明する。この場合、対象電波を送信する無線基地局は無線基地局901-1である。以下、対象電波を送信する無線基地局を対象無線基地局という。この場合、対象電波は、対象無線基地局である無線基地局901-1が送信した電波である。
図2は、通信システム9において、対象無線基地局以外の無線基地局が送信する電波には、伝搬中に反射部材903に反射されることなく対象移動端末装置に到達する電波があることを示す。以下、対象無線基地局以外の無線基地局が送信する電波であって伝搬中に反射部材903に反射されることなく対象移動端末装置に到達する電波を第1種干渉信号という。
図2は、対象移動端末装置以外の移動端末装置が送信して対象移動端末装置に到達する電波には、伝搬中に1回だけ反射部材903で反射されて対象移動端末装置に到達する電波があることを示す。以下、対象移動端末装置以外の移動端末装置が送信して対象移動端末装置に到達する電波であって伝搬中に1回だけ反射部材903で反射されて対象移動端末装置に到達する電波を第2種干渉信号という。
図2は、無線基地局軸と、移動端末装置軸との間の距離がDであることを示す。無線基地局軸は、X軸に平行な直線であって無線基地局901-1~901-Iを通る直線である。移動端末装置軸は、X軸に平行な直線であって移動端末装置902-1~902-Jを通る直線である。図2は、移動端末装置902-1~902-Jと反射部材903との間の距離がD_wallであることを示す。
無線基地局901-i(iは1以上I以下の整数)のX軸方向の位置を表すX軸上の座標値r_iの確率分布は(r_iは実数)、r_iが0または正の値である場合には以下の式(2)で表される。一方、座標値r_iの確率分布は、r_iが負の値である場合には以下の式(3)で表される。
式(2)及び式(3)においてλ_BSは、無線基地局901-1~901-IのX軸方向の密度である。以下、λ_BSを無線基地局密度という。式(2)及び式(3)において、f(r_i;λ_BS)は、無線基地局密度がλ_BSである場合における、X軸方向の無線基地局901-iの位置の確率分布を表す。
移動端末装置902-j(jは1以上J以下の整数)のX軸方向の位置を表すX軸上の座標値l_jの確率分布は(l_jは実数)、l_jが0または正の値である場合には以下の式(4)で表される。一方、座標値l_jの確率分布は、l_jが負の値である場合には以下の式(5)で表される。
式(4)及び式(5)においてλ_UEは、移動端末装置902-1~902-JのX軸方向の密度である。以下、λ_UEを移動端末装置密度という。式(4)及び式(5)において、f(l_j;λ_UE)は、移動端末装置密度がλ_UEである場合における、X軸方向の移動端末装置902-jの位置の確率分布を表す。
図1の説明に戻る。通信品質評価装置1は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ91とメモリ92とを備える制御部10を備え、プログラムを実行する。通信品質評価装置1は、プログラムの実行によって制御部10、通信部11、記憶部12及び出力部13を備える装置として機能する。より具体的には、プロセッサ91が記憶部12に記憶されているプログラムを読み出し、読み出したプログラムをメモリ92に記憶させる。プロセッサ91が、メモリ92に記憶させたプログラムを実行することによって、通信品質評価装置1は、制御部10、通信部11、記憶部12及び出力部13を備える装置として機能する。
制御部10は、BS密度と、UE密度と、BS性能情報と、UE性能情報と、通信システム動作環境情報と品質算出式とに基づき評価値を算出する。また、制御部10は、通信品質評価装置1が備える各機能部の動作を制御する。
通信部11は、自装置を外部装置に接続するための通信インタフェースを含んで構成される。通信部11は、無線又は有線を介して、外部装置と通信する。通信部11は、外部装置が出力した各種情報を取得する。外部装置は、例えば、ユーザーが操作可能なキーボード、タッチパネル等の入力端末であってもよいし、入力端末に接続されたコンピュータであってもよい。通信部11は、取得した各種情報を制御部10に出力する。
記憶部12は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの非一時的コンピュータ読み出し可能な記憶媒体を用いて構成される。記憶部12は、通信品質評価装置1に関する各種情報を記憶する。例えば、記憶部12は、品質算出式を記憶する。記憶部12が記憶する品質算出式は、例えば、後述する式(15)に示す数式である。
出力部13は、各種情報を出力する。出力部13は、例えば、通信品質評価装置1による評価結果を出力する。出力部13は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイや液晶ディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等の表示装置を含んで構成される。出力部13は、これらの表示装置を自装置に接続するインタフェースとして構成されてもよい。
図3は、第1の実施形態の通信品質評価装置1が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
制御部10は、通信部11を介して、BS密度と、UE密度と、BS性能情報と、UE性能情報と、通信システム動作環境情報とを取得する(ステップS101)。BS性能情報は、BS性能を示す情報である。UE性能情報は、UE性能を示す情報である。制御部10は、品質算出式に基づいてステップS101で取得した情報が示す通信システム9の評価値を算出する(ステップS102)。出力部13は、ステップS102で算出された評価値を出力する(ステップS103)。
(対象移動端末装置が備えるアンテナが無指向性アンテナである場合の品質算出式の具体例とその導出)
ここで、対象移動端末装置が備えるアンテナが無指向性アンテナである場合を例に品質算出式の具体例を説明する。以下、簡単のため無線基地局と対象移動端末装置以外の移動端末装置とが備えるアンテナが無指向性アンテナである場合を例に品質算出式を説明する。以下、簡単のため、対象移動端末が受信する電波が、対象電波、第1種干渉信号及び第2種干渉信号である場合を例に品質算出式を説明する。
品質算出式は、式(1)で表される要素品質値SINRがθより大きい確率を表す関数である。品質算出式の具体例を示すために、まず、式(1)の非対象電力I_aggについて説明する。非対象電力I_aggは、対象移動端末装置が受信した対象電波以外の電波の電力であるため、第1種干渉電力と第2種干渉電力との和である。第1種干渉電力は、対象無線基地局以外の無線基地局のそれぞれが送信した各電波(すなわち第1種干渉信号)の対象移動端末装置における和である。第2種干渉電力は、対象移動端末装置以外の移動端末装置のそれぞれが送信した各電波(すなわち第2種干渉信号)の対象移動端末装置における和である。そのため、非対象電力I_aggは以下の式(6)で表される。
(I_agg)^BSは、第1種干渉電力を表す。(I_agg)^UEは、第2種干渉電力を表す。式(6)は以下の式(7)で表される。式(7)において、αは伝搬損失指数であり、ρは壁の反射係数である。
式(7)において、以下の式(8)で表される項は、無線基地局901-iが送信した第1種干渉信号の対象移動端末装置における電力を表す。
式(7)において、以下の式(9)で表される項は、移動端末装置902-jが送信した第2種干渉信号の対象移動端末装置における電力を表す。
式(7)の右辺第1項は、(I_agg)^BSを表す。式(7)の右辺第2項は、(I_agg)^UEを表す。P_BSは、無線基地局901-1~901-Iの各無線基地局の送信電力を表す。P_UEは、移動端末装置902-1~902-Jの各移動端末装置の送信電力を表す。
(h_i)^BSは、対象電波と第1種干渉信号との電波伝播時に発生するフェージング減衰量を計算するための確率変数である。(h_i)^BSは、具体的には、無線基地局901-iが送信した第1種干渉信号が対象移動端末装置に到達するまでのフェージング減衰量の自然対数の(-1)倍の値である。すなわち、無線基地局901-iが送信した第1種干渉信号が対象移動端末装置に到達するまでのフェージング減衰量はexp(-1×((h_i)^BS))と表される。フェージング減衰量は、電波の送信元における電波の電力に対する電波の受信先における電波の電力の減衰の割合のうち、電波の伝搬がマルチパスであることに起因した電波の電力の減衰の割合である。以下、(h_i)^BSを第1フェージング指数という。
(h_j)^UEは、第2種干渉信号の電波伝播時に発生するフェージング減衰量を計算するための確率変数である。(h_j)^UEは、具体的には、移動端末装置902-jが送信した第2種干渉信号が対象移動端末装置に到達するまでのフェージング減衰量の自然対数の(-1)倍の値である。すなわち、移動端末装置902-jが送信した第2種干渉信号が対象移動端末装置に到達するまでのフェージング減衰量はexp(-1×((h_i)^UE))と表される。以下、(h_j)^UEを第2フェージング指数という。
以下、第1フェージング指数と第2フェージング指数とを区別しない場合、フェージング指数という。
式(7)で表されるI_aggは確率変数であり、I_aggに対してラプラス変換を行うと、式(7)は以下の式(10)に変形される。
L_(A1)は関数A1に対するラプラス変換が実行された後の関数を表す。例えば、L_(I_agg)は、I_aggに対するラプラス変換が実行された後の関数を表す。sは、関数L_(I_agg)の複素数の独立変数である。式(10)におけるラプラス変換後の定義式は、確率変数I_aggとラプラス演算子sとを変数とした指数関数の期待値の定義と等価である。式(10)の等式はその関係を表す。
L_((I_agg))^BS)は以下の式(11)で表される。
L_((I_agg))^UE)は以下の式(12)で表される。
E_(r_i、(h_i)^BS)は無線基地局の位置変数r_iと、位置r_iに位置する無線基地局と対象移動端末装置との間の第1フェージング指数(h_i)^BSとを変数とする指数関数の期待値を表す。r_0は、無線基地局901-1と移動端末装置902-1との間のX軸方向の距離である。E_(l_j、(h_j)^UE)は移動端末装置の位置l_jと、位置l_jに位置する移動端末装置と対象移動端末装置との間の第2フェージング指数(h_j)^UEとを変数とする指数関数の期待値を表す。
次に、式(1)の対象電力Sについて説明する。対象電力Sは、対象電波の電力である。そのため、対象電力Sは以下の式(13)で表される。r_1はr_0に同一である。
次に、評価値の一例を説明する。評価値は例えば式(14)で定義される。式(14)においてP_Cは評価値である。式(14)は、伝搬損失指数がαであって、対象無線基地局のX軸方向の位置がr_0であるという条件の元で要素品質値SINRが予め定められた所定の閾値θよりも大きな値である確率が評価値P_Cであることを意味する。
P(A2|r_0)は、対象無線基地局のX軸方向の位置がr_0であるという条件の元でA2が正である確率を表す。式(14)においてE_(r_0)[A]は、式(13)に示された信号電力を分子とし式(7)に示された干渉電力及び熱雑音電力の和を分母とした比の値が、対象無線基地局のX軸方向の位置がr_0であるという条件で所定の閾値θを上回る期待値を表す。式(14)におけるf(r_0)の導出は後述する。式(14)は以下の式(15)のように式変形される。
式(15)において、E_(I_agg)[A]は確率変数I_aggの期待値を表す。式(15)におけるf((h_i)^BS)は、ネイピア数を底とし(h_i)^BSの(-1)倍を指数とする指数関数を表す。式(15)におけるf((h_j)^UE)は、ネイピア数を底とし(h_j)^UEの(-1)倍を指数とする指数関数を表す。なお、積分範囲は所定の収束条件を満たすほど大きな値であれば必ずしも無限でなくてもよい。
ここで、式(14)におけるf(r_0)を説明する。無線基地局がポアソン分布に従いランダムにX軸方向に存在し、X軸方向の無線基地局の密度がλ_BSである場合に、X軸の原点(すなわちX軸上の座標値が0の点)から所定の距離L離れるまでにk台の無線基地局が存在する確率は式(16)で表される。
式(16)においては、T(L)は原点から距離Lまでの範囲内にある無線基地局の合計台数である。X軸方向で原点から距離r_0離れるまでに存在する無線基地局の合計台数Tが0である確率は、L=r_0及びk=0を式(16)に代入して、式(17)で表される。
式(17)より、無線基地局がX軸方向の位置rがr_0以下である確率(確率累積分布関数の形式)は、以下の式(18)で表される。
そこで、無線基地局のX軸方向の位置の確率密度分布関数は、F(r_0)を位置r_0で微分した関数f(r_0)である。具体的には、式f(r_0)は以下の式(19)で定義される。
ここまででf(r_0)の説明を終了する。ここから、品質算出式のより具体的な形について説明する。品質算出式は、フェージング形式条件、フェージング指数条件、伝搬損失指数及び位置ずれ値条件に応じて第1算出式から第8算出式までの8つの数式に式変形可能である。フェージング形式条件の内容を示す情報と、フェージング指数条件の内容を示す情報、伝搬損失指数と、位置ずれ値条件の内容を示す情報とは、いずれも通信システム動作環境情報が含む情報の一例である。
フェージング形式条件は、振幅フェージング形状又は電力フェージング形状に関する条件である。振幅フェージング形状は、無線基地局と移動端末装置との間を伝搬する電波の伝搬時のマルチパスに起因する振幅の減衰の割合の確率分布の形状である。電力フェージング形状は、無線基地局と移動端末装置との間を伝搬する電波の伝搬時のマルチパスに起因する電力の減衰の割合の確率分布の形状である。フェージング形式条件は、例えば、振幅フェージング形状がレイリー分布の形状であるという条件(以下「レイリー条件」という。)である。フェージング形式条件は、例えば、振幅フェージング形状が仲上-m分布の形状であるという条件(以下「仲上条件」という。)であってもよい。フェージング形式条件が仲上条件である場合、フェージング形式条件は、仲上-m分布の形状母数m_Nの値と、尺度母数1/μとの値とを条件に含む。フェージング形式条件は、例えば、電力フェージング形状が指数分布の形状であるという条件であってもよい。フェージング形式条件は、例えば、電力フェージング形状がガンマ分布の形状であるという条件であってもよい。
対象移動端末装置と対象無線基地局との間に遮蔽物が存在する環境における通信システムに対しては仲上条件の元で式変形された品質算出式よりもレイリー条件の元で式変形された品質算出式に基づいた方が通信品質評価装置1は精度の高い評価値を算出できる。一方、対象移動端末装置と対象無線基地局との間に遮蔽物が存在しない環境における通信システムに対してはレイリー条件の元で式変形された品質算出式よりも仲上条件の元で式変形された品質算出式に基づいた方が通信品質評価装置1は精度の高い評価値を算出できる。
フェージング指数条件は、フェージング指数の確率分布の形状に関する条件である。フェージング指数条件は、例えば、フェージング指数の確率分布の形状が指数分布であるという条件(以下「指数分布条件」という。)であってもよい。フェージング指数条件は、例えば、フェージング指数の確率分布の形状がガンマ分布であるという条件(以下「ガンマ分布条件」という。)であってもよい。
伝搬損失指数αは、遮蔽物が存在しない自由空間と略同一の空間で動作する通信システムの第1通信品質を評価する場合には、2が望ましい。伝搬損失指数αは、降雨等の遮蔽物が存在する空間で動作する通信システムの第1通信品質を評価する場合には、通信システムが動作する環境に応じた2より大きいαの値が望ましい。降雨等の遮蔽物が存在する空間で動作する通信システムが動作する環境に応じた伝搬損失指数αは、例えば、通信システムが動作する環境における各種測定に基づいて算出される。
位置ずれ値条件は、無線基地局901-1と移動端末装置902-1との間のX軸方向の距離r_0に関する条件である。位置ずれ値条件は、例えば、距離r_0が0という条件(以下「零条件」という。)である。距離r_0が0であるとは、無線基地局901-1と移動端末装置902-1との間の距離がDであることを意味する。位置ずれ値条件は、例えば、距離r_0が0以外の値であって、距離r_0の値は所定の確率分布に従うという条件(以下「非零条件」という。)である。
第1算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(20)で示す第1算出式に式変形可能である。第1算出式選択条件は、フェージング形式条件がレイリー条件であって、フェージング指数条件が指数分布条件であって、伝搬損失指数αが2であって、位置ずれ値条件が零条件であるという条件である。式(20)は、第1算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(15)から導出される。式(20)においてσの2乗は特定熱雑音電力を表す。
第2算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(21)で示す第2算出式に式変形可能である。第2算出式選択条件は、フェージング形式条件がレイリー条件であって、フェージング指数条件が指数分布条件であって、伝搬損失指数αが2であって、位置ずれ値条件が非零条件である、という条件である。式(21)は、第2算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(15)から導出される。
第3算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(22)で示す第3算出式に式変形可能である。第3算出式選択条件は、フェージング形式条件がレイリー条件であって、フェージング指数条件が指数分布条件であって、伝搬損失指数αが2より大きい値であって、位置ずれ値条件が零条件であるという条件である。式(22)は、第3算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(15)から導出される。
第4算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(23)で示す第4算出式に式変形可能である。第4算出式選択条件は、フェージング形式条件がレイリー条件であって、フェージング指数条件が指数分布条件であって、伝搬損失指数αが2より大きい値であって、位置ずれ値条件が非零条件である、という条件である。式(23)は、第4算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(15)から導出される。
第5算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(24)で示す第5算出式に式変形可能である。第5算出式選択条件は、フェージング形式条件が仲上条件であって、フェージング指数条件がガンマ分布条件であって、伝搬損失指数αが2であって、位置ずれ値条件が零条件である、という条件を含む。さらに、第5算出式選択条件は、仲上-m分布の形状母数m_Nは1より大きいという条件と、仲上-m分布の尺度母数である1/(μ_BS)及び1/(μ_UE)は1より大きいという条件とを含む。形状部数m_Nは、例えば非特許文献3の149頁に記載された式(20)により、実測データに対する統計的特性を分析することで算出された値であることが望ましい。算出された値は、より具体的には、電波の電力の減衰量の最頻値又は最大値と電波の電力の減衰量の実効値との比である。減衰量の実効値は、μ_BS及びμ_UEとは逆数の関係にある。減衰量の実効値もまた、実測データに対する統計的特性を分析することで算出可能である。
式(24)は、第5算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(15)から導出される。
第6算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(25)で示す第6算出式に式変形可能である。第6算出式選択条件は、フェージング形式条件が仲上条件であって、フェージング指数条件がガンマ分布条件であって、伝搬損失指数αが2であって、位置ずれ値条件が非零条件である、という条件を含む。さらに、第6算出式選択条件は、仲上-m分布の形状母数m_Nは1より大きいという条件と、仲上-m分布の尺度母数である1/(μ_BS)及び1/(μ_UE)は1より大きいという条件とを含む。
式(25)は、第6算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(15)から導出される。
第7算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(26)で示す第7算出式に式変形可能である。第7算出式選択条件は、フェージング形式条件が仲上条件であって、フェージング指数条件がガンマ分布条件であって、伝搬損失指数αが2より大きい値であって、位置ずれ値条件が零条件である、という条件を含む。さらに、第7算出式選択条件は、仲上-m分布の形状母数m_Nは1より大きいという条件と、仲上-m分布の尺度母数である1/(μ_BS)及び1/(μ_UE)は1より大きいという条件とを含む。
式(26)は、第7算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(15)から導出される。
第8算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(27)で示す第8算出式に式変形可能である。第8算出式選択条件は、フェージング形式条件が仲上条件であって、フェージング指数条件がガンマ分布条件であって、伝搬損失指数αが2より大きい値であって、位置ずれ値条件が非零条件である、という条件を含む。さらに、第8算出式選択条件は、仲上-m分布の形状母数m_Nは1より大きいという条件と、仲上-m分布の尺度母数である1/(μ_BS)及び1/(μ_UE)は1より大きいという条件とを含む。
式(27)は、第8算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(15)から導出される。
第5~8算出式選択条件における形状母数m_Nに関する条件と、尺度母数1/(μ_BS)及び1/(μ_UE)に関する条件との内容を示す情報は、通信システム動作環境情報が含む情報の一例である。
(対象移動端末装置が備えるアンテナが指向性アンテナである場合の品質算出式の具体例とその導出)
ここで、対象移動端末装置が備えるアンテナが指向性アンテナである場合を例に品質算出式の具体例を説明する。以下、簡単のため、対象移動端末が受信する電波が、対象電波、第1種干渉信号及び第2種干渉信号である場合を例に品質算出式を説明する。
以下、簡単のため、図2に示した距離D=D_wallである場合を例に品質算出式を説明する。
以下、簡単のため、対象移動端末装置におけるアンテナ利得(G_0)^RX(以下「対象受信利得」という。)が、以下の式(28)によって表される場合を例に品質算出式を説明する。
式(28)は、対象受信利得は、基準方向からの回転角が回転角Φ/2未満である方向に対する利得がG_1であって、それ以外の方向に対するアンテナ利得がG_2であることを示す。基準方向は、対象移動端末装置のアンテナ利得が最大の方向である。G_1とG_2とは、G_2<<G_1の関係を満たす。
以下、簡単のため対象無線基地局が備えるアンテナは無指向性アンテナであって、対象無線基地局が備えるアンテナのアンテナ利得がG_1である場合を例に品質算出式を説明する。以下、対象無線基地局が備えるアンテナのアンテナ利得を対象送信利得という。
以下、簡単のため対象無線基地局以外の無線基地局が備えるアンテナは無指向性アンテナであって、対象無線基地局以外の無線基地局が備えるアンテナのアンテナ利得がG_2である場合を例に品質算出式を説明する。
以下、簡単のため対象無線基地局以外の無線基地局は、対象無線基地局から見てX軸方向の片側にだけ位置する場合を例に品質算出式を説明する。
以下、簡単のため対象移動端末装置以外の移動端末装置が備えるアンテナは無指向性アンテナであって、対象移動端末装置以外の移動端末装置が備えるアンテナのアンテナ利得がG_2である場合を例に品質算出式を説明する。
まず無線基地局の位置と対象移動端末装置の向きとに応じた対象受信利得の変化について図4~図7を用いて説明する。
図4は、第1の実施形態における対象受信利得を説明する第1の説明図である。より具体的には、図4は、基準方向がX軸に垂直である場合について対象受信利得を説明する説明図である。位置Q0は、対象移動端末装置が位置する位置である。位置Q1は、対象移動端末装置を通りX軸に垂直な軸(以下「Y軸」という。)と無線基地局との交点の位置である。位置Q1は、無線基地局軸上の原点である。領域RG1は、領域RG1内に位置する無線基地局が送信した電波に対する対象受信利得がG1である領域である。領域RG2は、領域RG2内に位置する無線基地局が送信した電波に対する対象受信利得がG2である領域である。図4において基準方向は、位置Q0から見た位置Q1の方向である。図4は、位置Q1と無線基地局軸上の位置であって位置Q1からDtan(Φ/2)離れた位置Q2との間に位置する無線基地局が送信した電波に対する対象受信利得はG1であることを示す。図4は、無線基地局軸上で、位置Q1からの距離がDtan(Φ/2)よりも離れた位置に位置する無線基地局が送信した電波に対する対象受信利得はG2であることを示す。
図5は、第1の実施形態における対象受信利得を説明する第2の説明図である。より具体的には、図5は、基準方向のY軸の正方向からの回転角である基準角度ξが0より大きく(Φ/2)以下である場合について対象受信利得を説明する説明図である。図5において、基準方向はY軸の正方向からの回転角が角度ξの方向である。Y軸の正方向は、Q0からQ1に向かう向きである。図5は、無線基地局軸上の位置であって位置Q1からDtan(ξ)離れた位置Q3から位置Q4までの間に位置する無線基地局が送信した電波に対する対象受信利得はG1であることを示す。位置Q4は、無線基地局軸上の位置であって位置Q1からDtan(ξ+(Φ/2))離れた位置である。位置Q3は、無線基地局軸上の位置であって位置Q1からDtan(ξ)離れた位置であるので、図5においては、位置Q0を通り基準方向に沿う軸と無線基地局軸との交点の位置である。図5は、位置Q1からDtan(ξ+(Φ/2))よりも離れた位置に位置する無線基地局が送信した電波に対する対象受信利得はG2であることを示す。
図6は、第1の実施形態における対象受信利得を説明する第3の説明図である。より具体的には、図6は、基準角度ξが(Φ/2)より大きい場合について対象受信利得を説明する説明図である。図6は、無線基地局軸上の位置であって位置Q1からDtan(ξ)離れた位置Q3´よりも離れた位置に位置する無線基地局が送信した電波に対する対象受信利得はG1であることを示す。
位置Q4と位置Q1との間の距離D_Qは、距離r_0を用いて、以下の式(29)で表される。
以下、図7を用いて式(29)を説明する。
図7は、第1の実施形態における距離D_Qを説明する説明図である。
図7において円Cは、対象移動端末装置の位置Q0と、位置Q3と、位置Q4とを通る円である。位置Q0と位置Q4とを結ぶ直線と、距離D_Qとの成す角をΦ_xとして、Φ_xは以下の式(30)を満たす。
三角形外接円の正弦定理に従い、以下の式(31)で表される。
式(30)を式(31)に代入すると式(29)が導かれる。ここまでで無線基地局の位置と対象移動端末装置の向きとに応じた対象受信利得の変化についての説明を終了する。次に、対象移動端末装置が備えるアンテナが指向性アンテナである場合における品質算出式の具体例を示す。対象移動端末装置が備えるアンテナが無指向性アンテナである場合の導出と同様に、まず、非対象電力I_aggについて説明する。
対象移動端末装置が備えるアンテナが指向性アンテナである場合において、非対象電力I_aggは対象移動端末装置が受信した対象電波以外の電波の電力であるため、第1種干渉電力と第2種干渉電力との和である。具体的には、対象移動端末装置が備えるアンテナが指向性アンテナである場合において非対称電力I_aggは以下の式(32)を満たす。(G_r)^TXは、無線基地局の送信利得を表す。(G_L)^TXは、対象移動端末装置以外の移動端末装置の送信利得を表す。
式(32)において、以下の式(33)で表される項は、無線基地局901-iが送信した第1種干渉信号の対象移動端末装置における電力を表す。
式(31)において、以下の式(34)で表される項は、移動端末装置902-jが送信した第2種干渉信号の対象移動端末装置における電力を表す。
式(32)の右辺第1項は、(I_agg)^BSを表す。式(32)の右辺第2項は、(I_agg)^UEを表す。式(32)で表されるI_aggに対してラプラス変換を行うと、式(32)は以下の式(35)に変形される。
L_((I_agg))^BS)は以下の式(36)で表される。
L_((I_agg))^UE)は以下の式(37)で表される。
次に、対象移動端末装置が備えるアンテナが指向性アンテナである場合における対象電力Sについて説明する。対象電力Sは、対象移動端末装置が備えるアンテナが無指向性アンテナである場合と同様である。すなわち、対象移動端末装置が備えるアンテナが指向性アンテナである場合であっても対象電力Sを表す式は式(13)である。
次に、対象移動端末装置が備えるアンテナが指向性アンテナである場合における評価値であって、式(14)で定義される評価値について説明する。式(1)の対象移動端末装置が備えるアンテナが指向性アンテナである場合において、式(14)で定義される評価値は以下の式(38)で表される。
図4から図7を用いて説明したように、対象受信利得は無線基地局の位置と対象移動端末装置の向きとに応じて変化する。そのため、式(38)は対象移動端末装置の向きに応じて以下の式(39)、式(40)及び式(41)の3つの式に式変形する。
d_1はDtan(φ/2)である。d_2はDtan(φ)である。
H_1、H_2、H_3及びH_4はそれぞれ以下の式(42)~式(45)で定義される。
ここから、対象移動端末装置が備えるアンテナが指向性アンテナである場合における品質算出式のより具体的な形について説明する。品質算出式は、対象移動端末装置が備えるアンテナが無指向性アンテナである場合と同様に、フェージング形式条件、フェージング指数条件、伝搬損失指数及び位置ずれ値条件に応じて8つの数式に式変形可能である。具体的には、以下に示す第9算出式から第16算出式までの8つの数式に式変形可能である。
第9算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(46)で示す第9算出式に式変形可能である。第9算出式選択条件は、フェージング形式条件がレイリー条件であって、フェージング指数条件が指数分布条件であって、伝搬損失指数αが2であって、位置ずれ値条件が零条件であるという条件である。式(46)は、第9算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(39)~式(41)から導出される。
第10算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(47)で示す第10算出式に式変形可能である。第10算出式選択条件は、フェージング形式条件がレイリー条件であって、フェージング指数条件が指数分布条件であって、伝搬損失指数αが2であって、位置ずれ値条件が非零条件である、という条件である。式(47)は、第10算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(39)~式(41)から導出される。
H_5及びH_6はそれぞれ以下の式(48)及び式(49)で表される。
第11算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(50)で示す第11算出式に式変形可能である。第11算出式選択条件は、フェージング形式条件がレイリー条件であって、フェージング指数条件が指数分布条件であって、伝搬損失指数αが2より大きい値であって、位置ずれ値条件が零条件であるという条件である。式(50)は、第11算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(39)~式(41)から導出される。
第12算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(51)で示す第12算出式に式変形可能である。第12算出式選択条件は、フェージング形式条件がレイリー条件であって、フェージング指数条件が指数分布条件であって、伝搬損失指数αが2より大きい値であって、位置ずれ値条件が非零条件である、という条件である。式(51)は、第12算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(39)~式(41)から導出される。
第13算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(52)で示す第12算出式に式変形可能である。第13算出式選択条件は、フェージング形式条件が仲上条件であって、フェージング指数条件がガンマ分布条件であって、伝搬損失指数αが2であって、位置ずれ値条件が零条件である、という条件を含む。さらに、第13算出式選択条件は、仲上-m分布の形状母数m_Nは1より大きいという条件と、仲上-m分布の尺度母数である1/(μ_BS)及び1/(μ_UE)は1より大きいという条件とを含む。式(52)は、第13算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(39)~式(41)から導出される。
H_7及びH_8はそれぞれ以下の式(53)及び式(54)で表される。
第14算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(55)で示す第14算出式に式変形可能である。第14算出式選択条件は、フェージング形式条件が仲上条件であって、フェージング指数条件がガンマ分布条件であって、伝搬損失指数αが2であって、位置ずれ値条件が非零条件である、という条件を含む。さらに、第6算出式選択条件は、仲上-m分布の形状母数m_Nは1より大きいという条件と、仲上-m分布の尺度母数である1/(μ_BS)及び1/(μ_UE)は1より大きいという条件とを含む。
式(55)は、第14算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(39)~式(41)から導出される。
第15算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(56)で示す第15算出式に式変形可能である。第15算出式選択条件は、フェージング形式条件が仲上条件であって、フェージング指数条件がガンマ分布条件であって、伝搬損失指数αが2より大きい値であって、位置ずれ値条件が零条件である、という条件を含む。さらに、第15算出式選択条件は、仲上-m分布の形状母数m_Nは1より大きいという条件と、仲上-m分布の尺度母数である1/(μ_BS)及び1/(μ_UE)は1より大きいという条件とを含む。式(56)は、第15算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(39)~式(41)から導出される。
第16算出式選択条件が満たされる場合、品質算出式は以下の式(57)で示す第16算出式に式変形可能である。第16算出式選択条件は、フェージング形式条件が仲上条件であって、フェージング指数条件がガンマ分布条件であって、伝搬損失指数αが2より大きい値であって、位置ずれ値条件が非零条件である、という条件を含む。さらに、第16算出式選択条件は、仲上-m分布の形状母数m_Nは1より大きいという条件と、仲上-m分布の尺度母数である1/(μ_BS)及び1/(μ_UE)は1より大きいという条件とを含む。
式(57)は、第16算出式選択条件を満たす値を用いることで、式(39)~式(41)から導出される。
このように構成された第1の実施形態の通信品質評価装置1は、予め定められた無線基地局の密度と予め定められた移動端末装置の密度とに基づいて、評価値を算出する。そのため通信品質評価装置1は、無線基地局又は移動端末装置の位置が不確定である通信システムの通信品質の評価に要する演算量の増大を抑制することができる。
(第1の実施形態の変形例)
記憶部12が記憶する品質算出式は、第1算出式から第16算出式のいずれかひとつであってもよいし複数であってもよい。
例えば、記憶部12が第1算出式から第8算出式の8つの式を予め記憶している場合、制御部10は、BS密度と、UE密度と、BS性能と、UE性能と、通信システム動作環境情報とに基づき、第1算出式選択条件~第8算出式選択条件のいずれの条件が満たされるかを判定する。満たされるかとは、条件が正であることを意味する。また、このような場合、記憶部12は、第q算出式選択条件と第q算出式との対応関係を示す情報(以下「対応情報」という。)も予め記憶している。制御部10は、第q算出式選択条件が満たされる場合には、第q算出式に基づいて評価値を算出する(qは1以上6以下の整数)。制御部10は、記憶部12が第9算出式選択条件~第16算出式選択条件を記憶する場合についても同様である。以下、第1算出式選択条件~第16算出式選択条件をそれぞれ区別しない場合、算出式選択条件という。
図8は、第1の実施形態の変形例の通信品質評価装置1が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
制御部10は、通信部11を介して、BS密度と、UE密度と、BS性能情報と、UE性能情報と、通信システム動作環境情報とを取得する(ステップS201)。制御部10は、ステップS201で取得した情報に基づき、予め記憶部12に記憶された複数の品質算出式のうちの1つの算出式を選択する(ステップS202)。ステップS202において、制御部10は、例えば、まず、ステップS201で取得した情報と予め記憶部12に記憶された対応情報とに基づき、いずれの算出式選択条件が正であるかを判定する。ステップS202において、制御部10は、次に、満たされた算出式選択条件に対応する品質算出式を選択する。ステップS202の次に制御部10は、選択した品質算出式に基づいてステップS201で取得した情報が示す通信システムの評価値を算出する(ステップS203)。出力部13は、ステップS203で算出された評価値を出力する(ステップS204)。
このように構成された第1の実施形態の変形例の実施形態の通信品質評価装置1は、予め定められた無線基地局の密度と予め定められた移動端末装置の密度とに基づいて、評価値を算出する。そのため通信品質評価装置1は、無線基地局又は移動端末装置の位置が不確定である通信システムの通信品質の評価に要する演算量の増大を抑制することができる。
(第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態の通信品質評価装置1aの機能構成の一例を示す図である。
通信品質評価装置1aは、制御部10に代えて制御部10aを備える点と、記憶部12に代えて記憶部12aを備える点とで通信品質評価装置1と異なる。
制御部10aは、プロセッサ91とメモリ92とを備える。制御部10aは、通信部11を介して外部装置又はユーザーが入力する追加通信装置位置情報を取得する。追加通信装置位置情報は、評価対象の通信システムに対する無線基地局又は移動端末装置の追加と、追加された無線基地局又は移動端末装置の位置とを示す情報である。制御部10aは、追加通信装置位置情報とBS密度とUE密度とに基づいて、BS密度及びUE密度を更新する。制御部10aは、更新後のBS密度及びUE密度と、BS性能情報と、UE性能情報と、通信システム動作環境情報と、品質算出式とに基づき、制御部10と同様に、評価値を算出する。また、制御部10aは、通信品質評価装置1aが備える各機能部の動作を制御する。
記憶部12aは、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの非一時的コンピュータ読み出し可能な記憶媒体を用いて構成される。記憶部12aは、通信品質評価装置1aに関する各種情報を記憶する。記憶部12aは、BS密度と、UE密度と、BS性能情報と、UE性能情報と、通信システム動作環境情報と、品質算出式とにくわえて、さらに、追加通信装置位置情報を記憶する。
図10は、第2の実施形態の通信品質評価装置1aが実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
制御部10aが通信部11を介して追加通信装置位置情報を取得する(ステップS301)。次に、制御部10aが、取得した追加通信装置位置情報と、BS密度と、UE密度とに基づいて、BS密度及びUE密度を更新する(ステップS302)。制御部10aが更新後のBS密度及びUE密度と、BS性能情報と、UE性能情報と、通信システム動作環境情報と、品質算出式とに基づいて、評価値を算出する(ステップS303)。出力部13が、算出された評価値を出力する(ステップS304)。
このように構成された第2の実施形態の通信品質評価装置1aは、新たに無線基地局又は移動端末装置が追加された場合に、無線基地局又は移動端末装置の密度の変更を行う。そして通信品質評価装置1aは、変更後の密度を用いて品質算出式に基づいて評価値を算出する。そのため通信品質評価装置1は、無線基地局又は移動端末装置の位置が不確定である通信システムの通信品質の評価に要する演算量の増大を抑制することができる。
(第2の実施形態の変形例)
図10に示すフローチャートにおいて、ステップS302の処理より後の処理は、ステップS303及びステップS304に代えて、ステップS202~ステップS204の処理が実行されてもよい。
(第1の実施形態と第2の実施形態とに共通する変形例)
なお、BS密度と、UE密度と、BS性能情報と、UE性能情報と、通信システム動作環境情報の一部又は全部とは、予め記憶部12又は記憶部12aに記録されていてもよいし、通信部11を介して外部装置から取得されてもよい。また、BS密度と、UE密度と、BS性能情報と、UE性能情報と、通信システム動作環境情報の一部又は全部とは、通信部11に接続された入力端末をユーザーが操作することで入力されてもよい。
なお、要素品質値は、例えば、受信SIR(Signal-to-Interference Ratio)であってもよい。
なお、通信品質評価装置1及び通信品質評価装置1aは、ネットワークを介して通信可能に接続された複数台の情報処理装置を用いて実装されてもよい。この場合、通信品質評価装置1が備える各機能部は、複数の情報処理装置に分散して実装されてもよい。
上述した通信品質評価装置1及び通信品質評価装置1aの一部又は全部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。