以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
まず、本実施形態に係る乾燥方法は、木材の細胞の落ち込みの発生をできるだけ均一化することによって内部割れを抑えるとともに大気圧下において100℃(水の沸点)よりも高い温度で乾燥することによって乾燥速度を高める手法を提供する。本乾燥方法によれば、木材の乾燥過程で、細胞の落ち込みの発生を積極的に促進するような乾燥条件が採用される。また、大気圧下において乾燥温度を100℃(水の沸点)よりも高く設定しているので、乾燥速度を飛躍的に高めることができる。また、木材の乾燥過程で細胞の落ち込みの発生を積極的に促進することによって、密度の高い(すなわち、曲げ強さの大きい)乾燥材を得ることができる。さらに、乾燥温度を100℃(水の沸点)より大きく設定しなくても、高速な空気流によって木材表面からの水分蒸発を速くすることによっても同様の効果が得られる。
本実施形態が適用される樹種としては、スダジイ(イタジイ、ナガジイ)、ツブラジイ(コジイ)、コナラ、ミズナラ、カシ類、ベイスギ、レッドオーク、ユーカリ等、細胞の落ち込み特性を有する木材が対象となる。「細胞の落ち込み特性」を有する木材を全て列挙することは困難であるが、上述したコジイ等の樹種の他、常緑広葉樹材、落葉広葉樹材の大部分、さらに、一部の針葉樹材があり、例えば、イスノキ、タブノキ、シラカシ、アカガシ、カバノキ、イタヤカエデ、クヌギ、メランチ、アピトン、マトア、アサダ、クルイン、ナーラ、マヤピス、クルイン、ロンリアン(Tristania)、パロサピス、ベイキズ等が例示される。
これらの樹種の木材は、例えば非特許文献1のP.394以下に記載されている100℃試験法により、内部割れが生じることが知られているものである。
100℃試験法の実施手順は、100℃に設定した恒温乾燥器に、所定の大きさに鋸断した生材状態の板材(試験材)を入れ、「初期割れ」「断面の変形」「内部割れ」という3つの損傷の程度を記録する工程を含む。
表1は、上述した処理に基づく各樹種の試験において、内部割れに関する試験結果を示すものである。100℃試験法においては、内部割れの度合に応じて、少なかったものから順にNo.1~No.5(又はNo.1~No.6)に分類される。内部割れに関して問題がなかったものは、No.1に分類されるため、ここでは、No.1の分類については割愛している。
既述の通り、内部割れは、主として木材の細胞の落ち込み特性によって生じるものである。本実施形態においては、100℃試験法に基づく実験において、No.2-No.5(又はNo.6)に分類された木材を処理の対象としている。
次に、本実施形態に係る木材の処理方法は、図1に示すように、乾燥対象の木材がいわゆる生材か否かで処理工程を決定している。すなわち、対象の木材が生材でない場合には、後述する飽水化工程を実施することにより、対象の木材を飽水状態に調整してから次工程に移行する。
生材か否かの判定は、伐採後に板材や角材に製材してから大気に曝した日数又は木材を新たに鋸断した時の断面の色などを一つの目安として推測するものであってもよい。また、含水率から推測するものでもよく、複数回の試行に基づく経験則から推測するものでも良い。
ここで、「飽水状態」は、細胞レベルと木材のレベルとの2つの状態が存在する。
細胞レベルでの「飽水状態」とは、例えば柔細胞など、細胞の内腔が水で満たされた状態をいう。また、木材のレベルでの「飽水状態」とは、柔細胞や真正木繊維などの当該木材を構成する全ての細胞の内腔が水で満たされた状態をいう。本実施形態では、細胞レベルの「飽水状態」をいい、特に、少なくとも多くの柔細胞が飽水状態であることを条件としている。通常の生材の場合、すなわち、樹木を伐採した直後の状態では、多くの柔細胞は、飽水状態にあり、その場合において、木材を乾燥するときは、「飽水」させるための処理(後述の飽水化工程)を施すことなく、本実施形態を適用することが可能になっている。一方、細胞の落ち込みに寄与する細胞数を増加したい場合には、生材であっても、飽水化工程を実施することにより、細胞レベルの飽水から更に進んで、木材のレベルにおいて飽水させることもできる。
本実施形態では、上述のような細胞の落ち込み特性を有する木材を乾燥する際に、その細胞の落ち込みを積極的に生じさせることにより、内部割れを抑制し、前記目的を達成することとしている。細胞の落ち込みを積極的に促進する上で、重要な点は、細胞の落ち込みを木材全体で均等に生じさせることである。本実施形態では、細胞の落ち込みを均等にするため、図1のようなフローチャートに基づいて乾燥処理計画を立て、必要に応じて所定の工程や工程内での処理を追加することとしている。
まず工程の全体概要を説明した上で、各工程の詳細を述べる。
図1を参照して、木材の乾燥スケジュールを立てるに当たり、作業者は、まず木材の乾燥目的に応じて、生材か否かを判断する(ステップS1)。生材か否かの判断基準としては、上述の通りであり、生材でない場合(立ち枯れ等の乾燥材も含む)には(ステップS1でNO)、ステップS2の飽水化工程が実施され、生材である場合にはステップS3に移行し木材強度の強化処理が必要か否かの判断を行なう。このステップS3において、対象となる生材の木材強度の強化処理が必要な場合(ステップS3でYES)は、ステップS2の飽水化工程に移行する。一方、生材であっても木材強度処理が必要ない場合(ステップS3でNO)はステップS2をスキップして、ステップS4に移行する。
このステップS2における飽水化工程とは、木材全体を飽水化させるための工程である。飽水化工程を実施することにより、細胞の落ち込みに寄与する細胞数を増加し、密度の高い、従って、強度の高い乾燥材を得ることができる。
次いで、飽水化工程が不要な場合(ステップS3において、NOの場合)、又はステップS2の飽水化工程が実行された場合のいずれについても、作業者はさらに、均等化工程が必要であるか否かを判断する(ステップS4)。均等化工程とは、少なくとも柔細胞が飽水状態にある木材を所定の乾燥温度に加熱し、内層及び表層を含めた木材全体の温度を当該加熱温度に均等にならす工程である。
ステップS4における均等化工程の要否の判定基準としては、乾燥工程における乾燥温度、試行に基づく経験則、飽水化工程における加熱処理の有無、木材の樹種や寸法などに基づき判定される。例えば、材の断面積が比較的小さい場合、具体的には縦横30mmの方形範囲に収まる断面を有する場合には、短時間で所定の乾燥温度に馴染むため、この均等化工程が省略される。
均等化工程が必要な場合、すなわち、ステップS4において、YESの場合、均等化工程(ステップS5)の実行が設定される。
均等化工程が不要な場合(ステップS4において、NOの場合)、又はステップS5の均等化工程が実行された場合、乾燥工程(ステップS6)の実行が設定される。乾燥工程とは、木材を加熱して所定の目標含水率に乾燥させる工程である。
そして、処理対象となる木材は、図1に基づく上述した乾燥処理計画に基づいて、乾燥される。
なお、乾燥対象となる木材は、生材など、予め相当な含水率を有するものであることを主眼としているが、必ずしもそのような予め含水率の高い木材に限られない。例えば、含水率が10%程度の木材であっても、その強化処理のために本実施形態に係る乾燥方法を用いることが可能である。その場合には、ステップS1において、飽水化工程(ステップS2)が実行され、処理対象となる木材が飽水化するように設定すればよい。
次に各工程について詳述する。
まず、飽水化工程とは、既述の通り、木材全体を飽水化させるための工程であり、より詳細には、柔細胞のみならず、真正木繊維などの多くの細胞が飽水状態になるように、圧力釜や減圧加圧処理等を用いて加工対象となる木材の含水率を上げ、(細胞の飽水化に伴って)木材を飽水化する処理である。同飽水化処理は、本実施形態において、「木材を飽水状態に含水させる飽水化工程」の一例である。かかる処理方法としては、板状に加工した木材を所定期間(樹種、板厚、材長などに応じたある期間の間)水中に沈めておく方法、常温の水中において木材に圧力を繰り返し加える方法、木材を大気圧下で煮沸する方法、圧力釜で加熱しながら木材を煮る方法、等が例示される。なお、大気圧下での煮沸、あるいは、圧力釜で煮る場合には、短時間の繰り返しの処理が効果的である。
飽水化工程(ステップS2)を用いることにより、木材内部の組織全体に水分が供給されて柔細胞を含む多くの細胞内腔が自由水で充満した状態になる。このため、乾燥工程において、内腔の水分に気泡を含むために落ち込まない細胞が、気泡の消失によって細胞が落ち込むようになり、木材の組織全体において、より多くの細胞で落ち込みが生じやすくなる。特に圧力釜で煮る場合には、柔細胞のみならず、多くの真正木繊維の内腔を自由水で満たすことができ、落ち込みに関与する細胞の数を増やすことができる。
そのため、道管など本来自由水の引張力が作用しないため落ち込みが生じない細胞も、隣接する、あるいは、近傍に存在する柔細胞などの細胞の落ち込みによる変形の影響を受けて、接線方向に押し潰された状態となる。その結果、細胞壁の潰れの度合が大きくなり、乾燥後の密度が高くなる。よって、乾燥した材の曲げ強度が高くなる。また、既に乾燥している木材を飽水化工程に供することにより、当該木材の強化処理を実施することも可能となる。
一方、飽水化処理を施さなくても、例えば、水中に貯木しておいたものや、スプリンクラーによって乾燥を防ぐ対策をした生材の場合には、当該木材を直ちに処理対象の木材として乾燥工程に供することができる。通常、これらの木材であれば、生材と同様に、柔細胞は、飽水状態にあるので、そのまま乾燥工程に移行しても、所望の歩留まりで木材を乾燥することができるからである。
次に、図1の均等化工程(ステップS5)について説明する。
この均等化工程は、少なくとも多くの柔細胞が飽水状態にある前記木材(すなわち、細胞の落ち込み特性を有する木材)を加熱し、当該木材の含水率を加熱前の含水率に維持しつつ、当該木材の温度を少なくとも当該木材の細胞の落ち込みが生じやすい乾燥温度まで均等になじませる工程である。
細胞の落ち込みによる内部割れが生じる要因の一つとして、木材の表層の温度が内層の温度より低い温度の状態で乾燥が進行するケースが想定される場合がある。この場合には、表層部分は乾燥に伴って蒸発潜熱によって熱が奪われて温度が低下し、部分的に温度が低くなった場合は細胞の落ち込みの程度は均等ではなく、温度が高い方が細胞の落ち込みの程度は大きくなり、この不均衡により内部割れが生じることがある。均等化工程では、木材の温度状態を均等化することにより、上述のような細胞の落ち込みの不均等を是正する有効な手段である。
均等化工程と乾燥工程とを同一の乾燥装置を用いて連続的に実施することができる環境で、均等化工程を実施することが好ましいといえる。
本実施形態では、細胞の落ち込みを積極的に促進するような乾燥温度が適用されるため、均等化工程では、木材が比較的高い温度(例えば、100℃前後)に加熱されるが、含水率が維持されるため、この段階では、細胞の落ち込みは生じない。よって、細胞の落ち込みによる内部割れも生じない。一方、飽水状態にある柔細胞においては、内腔の水分に微小な気泡が存在する場合でもこの気泡が溶けて消失し、蒸発に伴う引張力が生じやすくなる。そのため、均等化工程を行うことにより、木材の表層の温度と内層の温度とを均等に維持しながら乾燥を進行させることができ、表層と内層の細胞の落ち込み変形を均等にして内部割れを抑制できるという利点がある。
加熱する手段としては、例えば、気密性を有する金型又は耐熱性、気密性を有するラップ材等、適切な囲繞手段を用いて木材をラップし、乾燥工程(ステップS6)における乾燥温度になじむまでオーブン等の加熱装置で加熱するのが好ましい。
次に図1の乾燥工程(ステップS6)について説明する。
乾燥工程は、繊維飽和点(通常、含水率が概ね30%以上)より高い含水率を有する木材を所定の目標含水率に乾燥させる工程である。具体的には、多くの柔細胞が飽水状態にある木材(生材)を加熱し、この木材を、少なくとも当該木材の細胞の落ち込みが生じ得る乾燥温度に維持して所定の目標含水率まで乾燥させる工程である。
乾燥温度は、樹種又は材寸法に応じて種々の温度を採用することが可能である。例えば、上述した100℃試験法において、No.2-No.6に分類された樹種の分類ごとに、内部割れが生じたときの乾燥初期温度T0(No.2のとき55℃、No.3のとき50℃、No.4のとき49℃、No.5のとき48℃、No.6のとき45℃)を基準に、それぞれの温度に任意の値T1を加えた乾燥温度T(=T0+T1)と定めてもよい。すでに述べたように、乾燥温度Tが100℃以下の場合には、空気を一定速度以上で通気させた状態で乾燥させるのが、乾燥時間を短縮する観点で好ましい。
好ましい実施形態では、乾燥温度は大気圧下での沸点である100℃よりも少し高い温度であり、例えば、101~105℃が好適である。また、これによって、落ち込みが生じなかった細胞も落ち込みが生じるようになり、かつ、細胞壁の軟化によって隣接する細胞の落ち込み変形によって圧縮させることができ、より均等な収縮特性を得ることができるために内部割れが発生しにくい。しかも、100℃よりも高い温度で乾燥させるため、柾目面からの蒸発が促進され、乾燥時間を大幅に短縮することが可能となる。そのため、乾燥時間を縮減し、より実用的なレベルで歩留まりの高い乾燥材を得ることができる。しかも、101~105℃程度の温度範囲に一定に設定することにより、従来のような熟練を要する複雑な温度制御が不要であるとともに、乾燥装置自体もシンプルに構成することができ、維持費を含めてコスト面での効果も見込まれる。
このように、乾燥温度の設定は、大気圧下での沸点である100℃よりも高いことが好ましいが、あまり高温にすると、木材の変質等が生じるおそれがあるので、例えば、120℃以下にしておくことが好ましい。その場合には、木材の変質等の不具合を抑制しつつ、一方、乾燥温度をあまり低温にすると細胞壁の軟化が不十分となって細胞の落ち込みが適切に発生しないことが懸念されるため、乾燥温度は、100℃試験によって設定された乾燥初期温度よりも高い温度に設定されるのが好ましい。なお、乾燥温度は、加熱期間の全般にわたって一定に設定するのが操作の簡略化等の点で好ましい。
目標含水率としては、繊維飽和点よりも十分低い値が選択され、乾燥製品が使用される温湿度環境にも依存するが、例えば、平均含水率が12%、あるいは、使用目的に応じてこれ以下であることが好ましい。
さらに本実施形態において、乾燥工程を、柾目面及び板目面を有する木材を例として説明する。乾燥工程は、木材の年輪に対する接線方向(図4では柾目面11の法線方向)のみからの水蒸気の放出を許容した状態で実施される。すなわち、木材の年輪に対する接線方向と直交する方向(図4では板目面12の法線方向、ならびに、木口面)は、密封され、水蒸気が抜けにくい状態になっている。一方、年輪に対する接線方向は、水蒸気が抜け得る状態になっている。よって、木材が乾燥する過程において、木材の年輪に対する接線方向の表層から水分の蒸発が促進され、年輪に対する接線方向側から乾燥が促進されることになる。
ここで、木材の年輪に対する接線方向からの蒸発を促進するのは、木材の年輪に対する接線方向と直交する方向からの蒸発を促進する場合に比べて、細胞の落ち込みによる内部割れを効果的に抑制できるからである。すなわち、柔細胞を含む落ち込みの生じる細胞は、この落ち込みにより木材の年輪に対する接線方向に略沿って、すなわち略接線方向に潰れるため、木材は接線方向に収縮しようとする。
このとき、仮に木材の年輪に対する接線方向と直交する方向からの蒸発が促進されて板目面が繊維飽和点以下になって細胞壁が硬化している場合には、この板目面がつっかえ棒として作用して、材の接線方向への収縮が阻害され、内層の柔細胞の落ち込みにより内部割れが発生し易くなる。
一方、本実施形態のように構成することにより、木材の年輪に対する接線方向からの乾燥が促進されて、柾目面が繊維飽和点以下になってその細胞壁が硬化しても、板目面や木口面の細胞壁が硬化されていないために、細胞の落ち込みによる木材の接線方向への収縮が阻害されることなく、硬化した柾目面は全体的に接線方向に移動するだけであるから、柾目面の硬化に起因した内部割れは生じ難くなる。
従って、本実施形態のように、乾燥工程が、木材の年輪に対する接線方向のみからの水蒸気の放出を許容した状態で実施することにより、細胞の落ち込みによる木材の内部割れの発生を効果的に抑制することができる。このような考え方は、木材の木取りが丸太形状以外であれば成り立つ。たとえば、木材の木取りが追柾材であっても、丸太を半割にしたような形の木取り材であっても、被乾燥材を固定する治具や柾目面を圧締する装置の工夫によって追柾材を対象にした処理が可能である。
また、乾燥工程は、木材の年輪に対する接線方向以外は、相対湿度100%(略100%を含む)の雰囲気内に前記木材を配置して実行されることが好ましい。その場合には、水の沸点である100℃よりも高い温度で木材が加熱され続けることにより、100℃以下での水分の拡散よりも遙かに速いレベルで木材に含まれる水分が蒸発し、乾燥速度を速めることが可能になる。本実施形態では、金型又はラップ材を用いて木材の柾目面以外からの水蒸気の放出を規制しているので、かかる措置により、実質的に前記要件に基づいて、すなわち木材の年輪に対する接線方向以外からの水蒸気の放出を規制した状態で、木材を乾燥することが可能となる。
次に、乾燥工程においては、圧締処理を並行することが好ましい。圧締処理とは、木材が乾燥工程に供されている間加圧し、細胞の落ち込みのバラツキに起因する内部割れを防止する処理をいう。
乾燥に伴って生じる木材内の細胞の落ち込みが、理想的に均一に生じるのであれば、圧締処理は必ずしも必要ではない。しかし、実際の材内における細胞の落ち込みの発生程度は、様々な要因によって均一ではない。例えば、材の辺材部と心材部との違い、夏材部(晩材部)と秋材部(早材部)との違いや、節の存在とその節の大きさ、あるいは、製材時の鋸断による真正木繊維という名の細胞のカット等により、同一条件で乾燥させても、内部割れの生じ方は異なる場合がある。また、樹木の立ち枯れ(ナラ枯れ)による樹幹内の部分的な含水率の低下がある場合や、製材してからしばらく外気にさらして材表面の含水率が内層に比べて低くなってしまった場合、等においては、同等の部位から同等の寸法、形状に木取りした木材であっても、大きな個体差が生じ得る。これらは、いずれも表層と内層の細胞の落ち込み変形が不均等になる原因となる。そのため、細胞の落ち込み変形が部分的に大きくなり、結果としてその部分に内部割れが発生することになる。
そこで、好ましい態様において、乾燥工程では、圧締処理が行われる。圧締処理は、対象となる木材を加圧する工程ではあるが、従来、ホットプレスでの加圧工程で行われているものとは異なり、例えば、5kg/cm2以下の弱い加圧力で十分である。圧締処理は、細胞の落ち込みの不均衡を是正する措置であり、細胞そのものを外力によって圧縮する工程とは、本質的に相違するからである。一例として、コジイでは、105℃の乾燥時において、0.66kg/cm2の圧力で圧締処理を施し、所定期間(例えば、1日)乾燥させることにより、損傷が生じない乾燥材を得ることが可能となる。
一方、圧締処理は、木目との関係が重要になる。本実施形態では、圧締処理は、柾目面から木材を年輪の接線方向に加圧することとしているが、加圧する方向は、年輪に対して接線方向であればよいため、必ずしも柾目面から加圧しなくても良い。既述の通り、内部割れは、半径方向に長く延び、中央部分が接線方向に拡がる形状の特性を有しているので、木材を接線方向に加圧することにより、細胞の落ち込みの不均衡を効果的に是正し、内部割れをより確実に防止することが可能となる。
なお、圧締処理における加圧方向は、被乾燥材が接線方向に加圧されていればよい。また、この圧締処理では、木材の柾目面を均一に加圧するのが好ましいが、必ずしも柾目面の全面に圧力を加える必要はなく、柾目面の所定箇所を散点的に加圧することにより柾目面を略均一に加圧するものであってもよい。また、圧締ができれば、柾目面は平面で無くても良く、かつ、斜めであっても良い(年輪の方向に垂直でなくても良い)。
次に、図2を参照して、図1のフローチャートに基づき、実施の形態について説明する。なお、以下の説明において、同等の部材には、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。これらの実施例の概要をまず説明した上で、具体的に説明する。
まず、図2の実施の形態は、対象となる木材を、飽水化工程及び均等化工程を実行した後、乾燥工程を実行する例である。
木材は、柾目面及び板目面を有するコジイの角材を採用することができる。木材の含水率は、予め、上述した飽水化工程を経て飽水状態に設定し、柔細胞を含めて殆ど全ての細胞の内腔を自由水で充満させている。
均等化工程に際しては、金型やラップ材を用いて飽水化した木材の柾目面、板目面、木口面の全てを、気密性を保持した状態に囲繞(被覆)し、加熱装置に入れて加熱し木材の全体を乾燥温度になじませる。乾燥温度は、本実施例では105℃に設定している。均等化工程の時間は、木材の大きさによって異なり、サンプルによって木材全体の温度を均等にできる時間以上に設定されるが、経験則に基づいて決定してもよいし、温度センサなどの計測機器を用いて実際に温度を計測して時間を決定するものであってもよい。木材全体を105℃になじませた後、同じ加熱装置の中で引き続き、乾燥工程が実行される。
この乾燥工程では、加熱対象となるそれぞれの木材の柾目面から水蒸気が均等に放出されるように加熱装置内で当該木材の柾目面の方向のみを開放し、引き続き乾燥工程を施して乾燥させる。
具体的には、乾燥工程に際しては、金型に予め設けたシャッタを開く、あるいはラップ材を穿孔する等の方法により、各木材の年輪に対する接線方向のみからの水蒸気の放出を許容し、他の面(木材の年輪に対する接線方向と直交する方向)の気密性を保持して行う。また、乾燥工程においては、圧締処理を施した。圧締工程としては、それぞれの木材に0.7kg/cm2の圧力を柾目面から加え、木材の年輪に対する接線方向からの水蒸気の放出を許容しつつ、被乾燥材を乾燥させる。木材の柾目面に圧力を加えながら水蒸気を放出させる手段としては、例えば錘になる蓋体の下面に溝を設けたり、錘となる蓋体と柾目面との間に網材等のスペーサ部材を介在させたりする等により実現することができる。
なお、各木材がラップ材により空隙を介して囲繞され、柾目面以外の面(板目面及び木口面)からの水蒸気の放出が規制されている場合には、乾燥工程は、乾燥温度が105℃に設定されていることと相俟って、木材の柾目面以外の部位が、相対湿度100%の雰囲気内に置かれた状態で実行されることになる。このためかかる実施形態では、水の沸点よりも高い温度で木材が加熱され続けることにより、100℃以下での拡散よりも遙かに速いレベルで木材に含まれる水分が蒸発し、乾燥速度を速めることが可能になる。
木材の樹種、加熱装置の容量、木材の体積等によるが、乾燥温度を105℃としているため、乾燥に要する処理時間は、実用的な材料取りをした木材10であっても、概ね1日~2日程度である。
図3に示すように、均等化工程では、木材10を囲繞するラップ材14によって木材10の気密性が保持されているため、比較的高い温度での加熱状態にあっても、水蒸気が木材10から放出されることはほぼなく、細胞の落ち込みは、生じない。
乾燥工程に移行した後は、図4の左側の木材10に示すように、ラップ材14に穿設された孔14aによって柾目面11から水蒸気の放出が許容されているため、各細胞の自由水が蒸発する。含水率が飽水状態から繊維飽和点に至るまでの過程では、自由水の減少に伴い、細胞内腔の水の引張力が細胞壁内面に作用し、細胞の落ち込みが発生する。一方、木材10は、板目面12や木口面(不図示)が金型やラップ材14によって水蒸気の放出が規制されているため、これらの面では乾燥が進行しにくくなっている。よって、木材10は、比較的多くの細胞(主に柔細胞)が落ち込みを発生させつつ、接線方向の収縮が比較的許容された状態で乾燥が進行する。そして、自由水の蒸発が進行した部位(表層側)から木材10の収縮が生じ、落ち込み変形を伴って乾燥する。含水率が繊維飽和点以下に下がることにより、すなわち、結合水が減少することにより、前記結合水が当該極微細な空隙の内部表面から脱着(乾燥)するので、当該空隙が閉じて密になり、柾目面11の表層部の細胞壁から固定(硬化)する。
上述のように、細胞の落ち込み変形による材の寸法減少は、柾目面11に直角方向、すなわち、材の接線方向に生じるために、かつ、板目面12と木口面13からは水分蒸発は少ないために硬化せず(繊維飽和点以下にはまだ至らず)、このために板目面12と木口面13は内部割れの原因になるつっぱり(シェル)になりにくい。このことと、圧締による荷重とによって、細胞の落ち込みが不均一であっても、内部割れに至ることなく、全体的に接線方向(図4では上下方向)に圧縮された状態となる。そのため、乾燥後の木材(乾燥材)は、密度が高く、曲げ強度が大きくしかも割れのない材料となる。
図2の態様、すなわち加熱温度を105℃に設定する場合では、大気圧下での沸点以上の温度で加熱するので、比較的短期間で木材を乾燥させることができ、割れが生じにくく、しかも、密度の高い(機械的強度の向上した)乾燥材を得ることができる。
[実験による検証]
次に、上述した実施形態に基づく実験例を具体的に説明する。
まず、図3を参照して、本件発明者が実施した実験例の設備について説明する。
図3において、1は、加熱装置としての熱風式電熱オーブンである。同オーブン1内には、移動式の載置台2が設けられている。載置台2は、オーブン1の外側に引き出し可能となっている。載置台2には、乾燥処理の対象となる複数の木材10(図では3個)がポリプロピレン製のトレイ3に入れられて並置されている。なお、図6に示すように、この実験で用いられるオーブン1内には、乾燥工程において、トレイ3との間で木材10を挟んで木材10の上面の略全面に圧締圧力を付与する蓋体4が別途設けられる。この蓋体4には、ラップ材14の孔14aに対応する位置に通気用の溝又は凹部4aが設けられ、この通気用の溝又は凹部4aを通じて孔14aから噴出する蒸気が通気できるように構成されている。
以上のような設備を用いて複数の木材10を試験材料とし、複数回、実験した。実験に使用した木材10の寸法は、接線方向が15mm~25mm、半径方向が15mm~50mm、繊維方向が220mm~230mmの範囲で選択した。
(実験1:乾燥工程の検証)
まず、均等化工程を前提とした上で、乾燥工程において、柾目面のみを解放して加熱する場合の効果を他の条件で乾燥させた比較例と比較し、木材の年輪に対する接線方向のみを開放することの効果を検証した。
検証に供した各木材10は、コジイの生材であり、図示の例では、それぞれが22mm(接線方向)×17mm(半径方向)×220mm(繊維方向)の短尺角材状に裁断されている。
各木材10は、図3を参照して、当該木材10の一半径方向に沿う柾目面11、柾目面11と直交する接線方向に沿う板目面12、当該木材の横断面である木口面13を有し、それぞれ、一方の柾目面11を上向きにして、載置台2の上のトレイ3に載置されている。
各木材10には、耐熱性及び耐圧性を有する、囲繞手段としてのラップ材14で覆われている。ラップ材の材質としては、耐熱性が120℃~130℃であればよく(乾燥温度を130℃に設定する場合では耐熱温度は140℃)、たとえば、家庭用や業務用に市販されているポリ塩化ビニリデン、あるいは、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどが利用できる。
このような状態で、各木材10に、均等化工程を施した。均等化工程の条件としては、乾燥温度を105℃とし、図略のセンサで一部の木材10の温度を測定して、全体が105℃になじむまで、加熱し続けた。この結果、ラップ材が蒸気で膨張した状態で各木材10が加熱された。
次に、図4を参照して、各木材10をトレイ3から一旦取り出し、ラップ材14の条件を変更してそれぞれ実施例、比較例1、2とし、オーブン1の中に戻した。なお、このとき、各木材をトレイ3から取り出してオーブン1に戻すまでの一連の行為を素早く実施して、材温度の低下を抑制するのが好ましい。
実施例(図4の左端)は、ラップ材14の上部に孔14aを形成し、当該木材10の木材の年輪に対する接線方向のみから水蒸気が放出されるようにし、板目面12及び木口面13の各方向は、塞いだままとした。
比較例1(図4の中央)は、ラップ材14の側部に孔14bを形成し、当該木材10の木材の年輪に対する接線方向と直交する方向のみから水蒸気が放出されるようにし、柾目面11及び木口面13の各方向は、塞いだままとした。
実施例、比較例の孔14a、14bの態様は、いずれも水蒸気の放出が面全体で均等になるように複数(例えば10箇所)のピンホールを全面にわたって均等に形成した。
比較例2(図4の右端)は、ラップ材14を取り外し、各面11~13のいずれの方向からも水蒸気が放出されるようにした。
次いで、図4に示すように、各木材10を載置台2の上に戻し、オーブン1で加熱した。加熱温度(乾燥温度)は、105℃とし、加熱時間を12時間とし、いずれの木材10も含水率10%以下に乾燥させた。
図5に実験結果を示す。
図5(A)に示すように、実施例では、接線方向の収縮寸法が元の木材の27%程であり、大きな収縮が認められた。一方、内部割れの程度は、大きな割れが1個、小さな割れが20個程度であり、100℃試験法におけるNo.3~No.4程度であることがわかった。乾燥温度が相当に高いことを考慮すると、ラップ材14によって内部割れの抑制が有意であったことが確認された。
次に、図5(B)に示すように、板目面12のみを開放した比較例1の場合、接線方向の収縮は、実施例と同程度であった。他方、内部割れの程度は、大きな割れが4個、小さな割れが4個程度であり、100℃試験法におけるNo.5程度であることがわかった。
さらに、図5(C)に示すように、ラップ材14を除去した比較例2の場合、収縮は殆ど見られなかった(7%~8%程度)。また、内部割れの程度は、太い割れが10個以上であり、100℃試験法によるNo.5~No.6程度であることがわかった。
(考察)
(1)ラップ材を設けた場合(実施例、比較例1)とでは、寸法変化が大きく異なることが認められた。これは、ラップ材14を設けなかった場合(比較例2)には、乾燥空気が木材10の表面から蒸発潜熱を奪い、表面温度が低下するために、細胞の落ち込みにあずかる細胞の個数が表層付近では少なくなるからであり、また多数の細胞群が同時に落ち込み変形しない場合には、変形の戻りが生じやすいことによるものと考えられる。
(2)ラップ材14に穿孔するに当たり、木材の年輪に対する接線方向を開放する孔14aを設けた方が(実施例)、木材の年輪に対する接線方向と直交する方向を開放する孔14bを設けた場合よりも(比較例1)、損傷の度合が低いことが確認された。これは、以下の理由によるものと考えられる。
すなわち、板目面12を開放する孔14bを設けた場合においては、板目面12から乾燥が進行するため、板目面12の表層側が、接線方向につっかえるつっかえ棒のような硬いシェル状に硬化する。その後、内層側が乾燥すると、内層側における接線方向の収縮が硬化した表層部の材によって阻害され、内部割れの幅が大きくなると考えられる。
これに対し、柾目面11を開放する孔14aを設けた場合においては、柾目面11から乾燥が進行するため、木材10は、接線方向の収縮が許容されたまま乾燥する。よって、内層側に乾燥が進行しても、内層側における接線方向の収縮が許容されることにより、内部割れの幅が小さくなると考えられる。
実験1から明らかなように、木材の年輪に対する接線方向のみを開放して乾燥工程を実行し、木材10を完成させた場合には、内部割れを大幅に低減することが可能となる。
(実験2:圧締処理の検証)
本件発明者は、さらに、高温で木材10を乾燥させた場合においても、より確実に内部割れを防止するべく、圧締処理の効果を検証した。
図6Aを参照して、圧締処理は、乾燥工程において、蓋体4を木材10の上に載置し、錘5を吊して荷重をかけた。この錘5による木材10への荷重(圧締圧力)は、0.66kg/cm2であった。この実験においても、木材10は、柾目面11が上向きに載置台2の上に載置されている。また、ラップ材14には、木材の年輪に対する接線方向のみから水蒸気が放出されるのを許容する孔14aが上下に形成されている。蓋体4には、孔14aを開放する通気用の溝又は凹部4aが形成されており、これら溝又は凹部4aを介して、水蒸気は、ラップ材14の外側に放出される。載置台2にも同様に、孔14aを開放する通気用の溝又は凹部4bが形成されている。この実験では、蓋体4として通気用の溝又は凹部4aが形成されたものを用いているが、蓋体の構成はこれに限定されるものではなく、木材10に均一に圧締圧力を付与できるものであればよく、図6Bを参照して、木材10を、1枚又は複数枚のステンレスメッシュ23(例えば#100)等を介して、蓋体および載置台に接触させて、水蒸気の通り道を確保するものであってよい。
実験2においても、実験1と同様に、乾燥温度を105℃とし、加熱時間を12時間とした。
図7に実験結果を示す。図7(A)は、処理前、図7(B)は、処理後の木材を示す。
図7に示すように、実験2においては、木材10の接線方向の寸法が39%収縮した。また、内部割れは、見当たらず、100℃試験法におけるNo.1と同等であった。
なお、他の実施例として、実験2の条件のうち、圧締圧力を0.15kg/cm2の場合を検証した。
その結果、接線方向の寸法は、37.3%収縮したものの、細かな内部割れが生じており、No.2と同程度の損傷が認められた。また、実験2では、表面が平らな乾燥材を得ることができたのに対し、他の実施例での表面は、でこぼこに波打っていた。
図8(A)を参照して、この他の実施例において、内部割れが生じた周辺を検証すると、細胞の落ち込みが生じた部位20が複数箇所確認された。いずれの部位20も、比較的均等に細胞の落ち込みが生じていることがわかる。
図8(A)の要部を更に拡大した図8(B)を参照して、前記部位20においては、比較的開口径の小さな道管21が潰れており、柔細胞22が落ち込んでいることが確認される。
図8(B)の要部を更に拡大した図8(C)を参照して、図8(B)の拡大箇所をさらに拡大すると、道管21の細胞壁が接線方向に押し潰され、扁平になっていることが確認された。
(考察)
既述の通り、実際の材内における細胞の落ち込みの発生程度は、様々な要因によって均一ではない。しかしながら、実験2から、コジイの場合、0.66kg/cm2程度の加圧力で圧締処理を乾燥工程で並行することは、内部割れを防止、及び抑制する上で、特に有意であることが確認された。十分な圧力が得られない場合には、内部割れが発生する確率は高くはなるが、従来、ホットプレスでの加圧工程(例えば、8Kg/cm2以上)で行われているものとは異なり、例えば、5kg/cm2以下の弱い加圧力で十分である。一方、この実験2における他の実施例の結果に基づけば、圧締による効果(大きな内部割れの抑制)を適切に得るためには0.15kg/cm2以上に設定するのが好ましいと考えられる。また、図8(A)~(C)から検証されたように、落ち込みが生じる細胞の個数が多いと被乾燥材の圧縮率が高まり、曲げ強度が上昇すると考えられる。
(曲げ強度の測定結果)
表2に示す乾燥条件で、実施例のサンプルNo.1-No.17を作成するとともに、以下に示す凍結乾燥法により比較例のサンプルNo.1-No.17を作成し、それぞれの密度と曲げ強度又は曲げ弾性係数との関係を測定した。
なお、これらの密度、曲げ強度、曲げ弾性係数の測定にあたっては、JISZ2101に準じて測定している。具体的には、試験体は、一辺の長さ(辺長)が10~15mmの横断面が正方形の柱体とし、その長さがスパンに辺長の2倍を加えたものとしている。スパンは試験体の辺長の14倍とし、集中荷重をスパンの中央部に加える。荷重面は、原則として柾目面とし、荷重点及び視点に用いる鋼材の形状は前記JIS規定に従った。平均荷重速度は、毎分14.70N/mm2以下として、曲げ強さと曲げ弾性係数を求めた。
実施例としては、コジイを本発明に係る方法で乾燥し、測定した。すなわち、実施例のサンプルNo.1~No.17のそれぞれについて、飽水化工程及び均等化工程を実施し、表2に示す条件で乾燥させた。なお、乾燥時間については、前記実施例と同様な時間を設定し、ほぼ全乾状態になるまで乾燥した。
比較例としては、コジイを冷凍乾燥させ、測定した。この凍結乾燥法は、木材を凍結して真空ポンプにて減圧し、木材に含まれる水分を氷の状態から昇華させて乾燥させる方法である。比較例における凍結乾燥の条件は、次のとおりである。材の凍結温度は―46℃、減圧にはロータリーポンプを使用して行い、減圧期間は1~2週間に設定し、材の含水率がほぼ全乾状態になるまで乾燥した。
各実施例のサンプル及び比較例のサンプルの密度、曲げ強さ及び曲げ弾性係数の測定結果を表3に示し、密度と曲げ強さ又は曲げ弾性係数との関係を図9及び図10に示す。
この測定結果において、実施例の密度について、17個のサンプルの平均値は0.77(g/cm3)であり、標準偏差は0.09(g/cm3)、変動係数は11.5%であった。実施例の曲げ強さについて、17個のサンプルの平均値は126.7(MPa)であり、標準偏差は36.7(MPa)、変動係数は28.9%であった。実施例の曲げ弾性係数について、17個のサンプルの平均値は13,225(MPa)であり、標準偏差は2,889(MPa)、変動係数は21.85%であった。
一方、比較例である凍結乾燥材の密度について、17個のサンプルの平均値は0.50(g/cm3)であり、標準偏差は0.04(g/cm3)、変動係数は8.1%であった。比較例の曲げ強さについて、17個のサンプルの平均値は72.9(MPa)であり、標準偏差は14.3(MPa)、変動係数は19.6%であった。比較例の曲げ強さについて、17個のサンプルの平均値は7,577(MPa)であり、標準偏差は1,021(MPa)、変動係数は13.5%であった。
(考察)
既述の通り、実際の材内における細胞の落ち込み発生程度は、様々な要因によって均一ではなく、実施例は、比較例に対して、密度、曲げ強さや曲げ弾性係数について、バラツキが大きいものの、本実施形態による乾燥方法を実施することは、密度、曲げ強さ、曲げ弾性係数のいずれをも向上させる上で、特に有意であることが確認された。これは、比較例の各サンプルについては、凍結乾燥させたために細胞の落ち込みが発生していないのに対し、実施例の各サンプルについては、自由水の引張力によって細胞の落ち込みが発生し、これにより細胞の形が扁平に変形硬化して密度が高くなったためであると推測される。
具体的には、実施例のサンプルについては、比較例のサンプルに対して、密度が高くなる傾向にあるとともに、標準偏差や変動係数のいずれもが大きくなる。これは、実施例において、細胞の落ち込みによって密度が高くなるとともに、この細胞の落ち込みについては個体差があるため(すなわちバラツキが大きいため)、細胞の落ち込みが生じない比較例に対して、標準偏差や変動係数が大きくなったからであると考えられる。
また、曲げ強さや、曲げ弾性係数についても、実施例のサンプルについては、いずれも比較例のサンプルよりも、同等ないしは相対的に高い結果となった。特に、実施例において、密度が0.9(g/cm3)程度にまで高くなると(例えば実施例のサンプルNo.10~13,15)、密度が半分程度の比較例(例えば比較例のサンプルNo.1,6)に対して、曲げ強さ、曲げ弾性係数も、ほぼ倍以上に向上する傾向にある。
このように、実施例の各サンプルにおいては、細胞の落ち込みを積極的に利用しつつも、内部割れを抑制することができるので、高い歩留まりで強度の高い乾燥材を効果的に得ることができる。
(実験3:モウソウチクでの検証)
本発明の効用が、広葉樹等のみならず、モウソウチクに適用でき、桿の湾曲を平板化できることについて検証した。
処理方法としては、乾燥したモウソウチクに飽水化処理を施し、ラップ材を用いて乾燥温度(105℃)で飽水化処理を施して細胞内腔に水を満たした後、圧締圧力を0.561kg/cm2に設定して圧締処理を施しつつ乾燥工程を実行した。
処理後の状態を図11(A)~(C)に示す。
処理前のモウソウチクは、気乾密度が0.84g/cm3であったのに対し、処理後は、気乾密度が1.06g/cm3であった。
図11(A)に示すように、モウソウチクの場合においても、本発明の乾燥方法を用いて加工することができることが確認された。すなわち、処理前の湾曲した桿(図11(A)左側)が、処理後のもの(図11(A)右側)については、平らになり、割れも生じていないことが確認された。
また、注目すべきは、乾燥後の細胞の落ち込みの態様である。
図11(B)に示すように、本発明による乾燥方法により、モウソウチクにおいても、組織全体にわたり柔細胞に落ち込みが生じることが確認された。
また、図11(C)に示すように、細胞は、細胞内腔がほぼなくなってしまう程度に概ね扁平に潰れていることが確認された。
このように、本発明による乾燥方法の対象木材としては、広葉樹材等に限らず、細胞の落ち込みが生じる針葉樹材や竹材に対しても、有効に活用できることが分かる。
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはいうまでもない。