JP7111109B2 - クラックを有するフィルムの製造方法 - Google Patents
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Description
すなわち、本発明は、以下の通りである。
樹脂フィルムをクラック形成ローラーに巻き掛けて曲げ応力Fを1MPa以上印加し、かつ、前記樹脂フィルムの面を良溶媒の蒸気に暴露し、前記クラックを形成する工程であって、前記樹脂フィルムの前記面は前記巻き掛けにおいて前記クラック形成ローラーと接触する面とは反対側の面であり、前記曲げ応力Fは、下記式(1)から算出される値である、工程(A1)を含む、クラックを有するフィルムの製造方法:
F=(E×t)/(1000X+t) (1)
(前記式(1)中、Eは前記樹脂フィルムの引張弾性率(MPa)、tは前記樹脂フィルムの厚み(μm)、Xは前記クラック形成ローラーの径(mm)を示す)。
〔2〕 前記良溶媒は、前記クラックを有するフィルムの表面に固形分が残存しないものである、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕 一方向以上の平行な方向に配向するクラックを有するフィルムの製造方法であって、
樹脂フィルムに混合溶媒を塗布し、かつ、前記樹脂フィルムをクラック形成ローラーに巻き掛けて曲げ応力Fを1MPa以上印加し、前記クラックを形成する工程であって、前記混合溶媒は、良溶媒及び貧溶媒を含み、前記混合溶媒中の前記貧溶媒の割合は10重量%以上90重量%以下であり、前記曲げ応力Fは、下記式(1)から算出される値である、工程(A2)を含む、クラックを有するフィルムの製造方法:
F=(E×t)/(1000X+t) (1)
(前記式(1)中、Eは前記樹脂フィルムの引張弾性率(MPa)、tは前記樹脂フィルムの厚み(μm)、Xは前記クラック形成ローラーの径(mm)を示す)。
〔4〕 前記混合溶媒は、前記クラックを有するフィルムの表面に固形分が残存しないものである、〔3〕に記載の製造方法。
〔5〕 前記クラックを有するフィルムにおける残留溶媒が100ppm以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔6〕 前記クラックを有するフィルムの厚みが10~500μmである、〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔7〕 前記クラックを有するフィルムの全光線透過率が80%以上である、〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔8〕 前記樹脂フィルムを挟んで前記クラック形成ローラーと対向する位置に配される補助ローラーが、当該樹脂フィルムを支持しつつ搬送する、〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔9〕 前記クラック形成ローラーの回転軸を、前記樹脂フィルムの長手方向に対して斜め方向に傾けることで、前記樹脂フィルムの長手方向及び当該樹脂フィルムの幅方向以外の方向にクラックを形成する、〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔10〕 前記工程(A1)又は前記工程(A2)を行った後の樹脂フィルムを、延伸する工程Bを含む、〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の製造方法。
さらに、以下の説明において、樹脂フィルムの幅方向とは、通常は長尺のフィルムの幅方向であり、樹脂フィルムの搬送方向に垂直な方向である。
また、以下の説明において、樹脂フィルムの斜め方向とは、別に断らない限り、当該フィルムの面内方向であって、当該フィルムの幅方向に平行でもなく垂直でもない方向を示す。
本発明の製造方法は、一方向以上の平行な方向に配向するクラックを有するフィルムの製造方法である。本発明の製造方法は、特定の工程(A1)又は工程(A2)を含む。
工程(A1)は、樹脂フィルムをクラック形成ローラーに巻き掛けて曲げ応力Fを印加し、かつ、樹脂フィルムの面を良溶媒の蒸気に暴露し、クラックを形成する工程である。ここで、暴露対象となる樹脂フィルムの面は、巻き掛けにおいてクラック形成ローラーと接触する面とは反対側の面である。
工程(A2)は、樹脂フィルムに特定の混合溶媒を塗布し、かつ、樹脂フィルムをクラック形成ローラーに巻き掛けて曲げ応力Fを印加し、前記クラックを形成する工程である。
本発明において、「樹脂フィルムの面を良溶媒の蒸気に暴露する」とは、良溶媒の蒸気を、樹脂フィルムの面と接触させることをいう。
実施形態1において、工程(A1)は、繰り出し装置101から繰り出された樹脂フィルム1を、クラック形成ローラー120に巻き掛けて、曲げ応力Fを1MPa以上印加し、かつ、樹脂フィルム1の面を、良溶媒の蒸気に暴露し、クラックを形成する工程である。本実施形態では、繰り出し装置101から繰り出された樹脂フィルム1は補助ローラー130に搬送される。その後、樹脂フィルム1を介して補助ローラー130と対向する位置に配置されているクラック形成ローラー120にて、樹脂フィルム1に曲げ応力Fが印加される。樹脂フィルム1に対して工程(A1)を行うことにより得られる樹脂フィルム10には、クラックが形成される。
本発明において、樹脂フィルム1としては、特に限定はないが、生産効率に優れるという観点から、長尺の樹脂フィルムが好ましい。樹脂フィルム1に含まれる樹脂としては、使用用途によって適宜選択することが可能である。樹脂フィルム1に含まれる樹脂としては、例えば熱可塑性樹脂からなるフィルムを用いることができる。
工程(A1)における巻き掛けの結果、樹脂フィルム1はクラック形成ローラー120に沿って曲げられ、樹脂フィルム1に、曲げ応力Fが印加される。本発明においては、樹脂フィルム1の曲げ方向(湾曲方向)は特に限定されないが、本実施形態においては、樹脂フィルム1は、その幅方向TDに対して平行に湾曲される。樹脂フィルム1をその幅方向TDに対して平行に湾曲させる場合、クラック形成ローラーは、回転軸が、樹脂フィルム1の幅方向TDに対して平行になるように配される。
F=(E×t)/(1000X+t) (1)
式(1)中、Eは樹脂フィルムの引張弾性率(MPa)、tは樹脂フィルムの厚み(μm)、Xはクラック形成ローラーの径(mm)を示す。
曲げ応力Fの計算方法について、図2を参照しながら説明する。
図2において、tは樹脂フィルム1の厚み(μm)、Xはクラック形成ローラー120の径(mm)を示す。図2においては、樹脂フィルム1の湾曲部分を半円と仮定して以下のように式(1)が導出される。
曲げ応力Fは、下記式(2)に示すように、樹脂フィルムの引張弾性率Eと樹脂フィルムの歪みεとの積により算出される。
F=ε×E (2)
ε=ΔL/L (3)
本発明において、Lは、樹脂フィルムの厚み方向における中心部分の長さ(図2において点線で示した半円の周の長さ)であり、下記式(4)により表すことができる。
L=π(1000X+t)/2 (4)
ΔL=π(1000X+2t)/2-π(1000X+t)/2 (5)
ΔL=tπ/2 (6)
本実施形態では、工程(A1)において、図1に示すように、樹脂フィルム1を挟んでクラック形成ローラー120と対向する位置に配される補助ローラー130が、当該樹脂フィルム1を支持しつつ搬送する。樹脂フィルム1の幅寸法が大きい場合であっても、クラック形成ローラー120と、補助ローラー130と、により樹脂フィルムが支持されるので、樹脂フィルム1の撓みが防止される。
樹脂フィルムの面への良溶媒の蒸気の暴露は、良溶媒の蒸気を樹脂フィルムと接触させることにより行われる。暴露は、樹脂フィルムのおもて面及び裏面の2つの主面のうちの少なくとも一方の面に対して行う。かかる一方の面は、クラック形成ローラー120と接触する面とは反対側の面であり、図1においては樹脂フィルム1の上側面である。樹脂フィルムの他方の面は、良溶媒の上記に暴露されてもよく、暴露されなくてもよい。
良溶媒の蒸気を樹脂フィルムの面に接触させる溶媒暴露装置110としては特に限定はない。溶媒暴露装置110の例としては、良溶媒の蒸気を所定濃度に管理した処理部内に樹脂フィルムを搬入して、良溶媒の蒸気と接触させる態様の溶媒暴露装置等が挙げられる。
本発明において、「良溶媒」は、あるフィルムを構成する材料について、限界応力100kgf/cm2未満をもたらす溶媒である。即ち、ある製造方法において用いられるある溶媒が良溶媒であるか否かは、当該製造方法において、溶媒が作用する対象となるフィルムを構成する材料との関係において規定される。
例えば樹脂フィルムが脂環式構造含有重合体樹脂を含むフィルムである場合の良溶媒としては、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-オクタン、シクロヘキサン、1,2-ジクロロエタン、ジオクチルフタレート(DOP)、リモネン等が挙げられる。これらのうち、シクロヘキサン及びMIBKが好ましい。良溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、回収が容易であるとの観点から、1種を用いるのが好ましい。溶剤回収の観点から良溶媒としては沸点が50℃~180℃のものが好ましい。
樹脂フィルムの限界応力は、樹脂フィルムの試験片(厚さ0.1cm)を、楕円治具J(1/4楕円形状の治具)に沿って固定し、評価対象の溶媒に1時間浸漬した後に取り出して、クレーズの発生する様子を観察することにより行われる。図3で示される治具Jの断面形状は、x2/1002+y2/402=1で表される曲線を有する楕円を四分の一に切った形状(1/4楕円形状)となっている。図3においてPはクレーズの発生限界点である。限界応力の測定に用いる試験片(図示せず)としては樹脂フィルムを厚み0.1cmの板としたものを用いる。樹脂フィルムが2層以上の複層構造の場合は樹脂フィルムの各層の厚み比と、厚み0.1cmの板における各材料からなる層の厚み比とが同じになるようにして、厚み0.1cmの板を製造する。
治具Jに装着された試験片は楕円の曲率に沿って歪みが連続的に変化しているので、クレーズの入った位置を測定することにより、どの程度の応力でクレーズが発生するのかを評価することができる。
楕円治具法による限界応力の測定は、図3に示すクレーズの発生限界点Pの測定することにより楕円の中心OからX軸方向で距離xcmの位置におけるサンプルの歪みEsが下記式(7)により求められる。式(7)中、tは試験片の厚さ(cm)である。
Es=0.02×(1-0.0084×x2)-3/2×t (7)
この歪みEsと曲げ弾性率Ebとの積(Es×Eb)からクレーズ発生限界点における応力(限界応力)が算出される。
本実施形態のクラックを有するフィルムの製造方法は、工程(A1)を行った後に得られる樹脂フィルム10を延伸する工程Bを含む。工程(A1)を行った後に得られる樹脂フィルム10においてもクラックが形成されているので、本発明において工程Bは必須ではないが、工程Bを行うことにより、工程(A1)により形成されたクラックを大きくすることができる(図4参照)。
本実施形態においては、工程Bを行った後の樹脂フィルム20は、その両端部をトリミングした後、巻取装置により巻き取られ(巻取工程)、種々の用途に用いられる。
本発明においては、巻取工程の前であって、工程(A1)の後または工程Bの後に、樹脂フィルムを加熱して、樹脂フィルムに残存する良溶媒を除去する加熱工程を行ってもよい。
本実施形態の製造方法においては、クラック形成ローラーの回転軸を、樹脂フィルム1の幅方向TDに対して平行に配して曲げ応力を印加するので、本実施形態の製造方法により得られるクラックを有するフィルムにおいては、その幅方向に対して略平行なクラックが形成される。したがって、得られるフィルムは、一方向の平行な方向に配向するクラックを有するフィルムとなる。
本実施形態においては、樹脂フィルム1に含まれる樹脂を用途に応じて選択し、良溶媒の蒸気を暴露する条件等を制御することにより、光学分野以外に、例えばバイオミメティックス分野等で求められるフィルムとして用いることができる。
本実施形態によれば、樹脂フィルムを、クラックを形成するクラック形成ローラーに巻き掛けて、式(1)で定義される曲げ応力Fを1MPa以上印加し、かつ、樹脂フィルムの、クラック形成ローラーと接触する面とは反対側の面を、良溶媒の蒸気に暴露する工程(A1)を含むので、大面積のフィルムであっても高速でクラックを形成可能な、クラックを有するフィルムの製造方法を提供することができる。
実施形態1の製造方法では、一方向の平行な方向に配向するクラックを有するフィルムを得たが、本発明の製造方法はこれに限られず、クラックを有するフィルムとして、二方向の平行な方向に配向するクラックを有するフィルム(即ち、ある一方向の平行な方向に配向する一群のクラックと、別のある一方向の平行な方向に配向するもう一群のクラックとを有するフィルム)を得る製造方法であってもよい。さらには、それより多い方向の平行な方向に配向するクラックを有するフィルムを得る製造方法であってもよい。
以下、二方向の平行な方向に配向するクラックを有するフィルムの製造方法の例として、実施形態1の変形例について図5を参照しつつ説明する。本例では実施形態1における工程(A1)において、図5に示すクラック形成ローラー122A,122Bを用いる。図5は、変形例1において、クラック形成ローラーの回転軸を、樹脂フィルム10の長手方向MDに対して斜め方向に傾けてクラックを形成する様子を模式的に示した平面図である。
以下、本発明の製造方法の一実施形態である、実施形態2に係るクラックを有するフィルムの製造方法について図6を参照しつつ、説明する。本実施形態は補助ローラーを備えない点で実施形態1と相違する。以下の説明において、実施形態1と同じ構成及び重複した説明は省略する。
また、本実施形態においては、補助ローラーを用いないので、実施形態1よりもクラック形成フィルムの製造装置を簡素化することができる。
本発明において、「樹脂フィルムに混合溶媒を塗布する」とは、混合溶媒を液体の状態で、樹脂フィルムの面と接触させることを言う。
工程(A2)は、樹脂フィルム1に特定の混合溶媒を塗布し、かつ、樹脂フィルム1をクラック形成ローラー320に巻き掛けて曲げ応力Fを1MPa以上印加し、クラックを形成する工程である。本実施形態では、繰り出し装置301から繰り出された樹脂フィルム1は、混合溶媒を塗布され、混合溶媒の層を有する樹脂フィルム30となり、補助ローラー330に搬送される。その後、樹脂フィルム30を介して補助ローラー130と対向する位置に配置されているクラック形成ローラー320にて、樹脂フィルム30に曲げ応力Fが印加される。樹脂フィルム1に対して工程(A2)を行うことにより得られる樹脂フィルム35には、クラックが形成される。
樹脂フィルムの面(図7においては樹脂フィルムの上側面)への混合溶媒の塗布は、液体状態の混合溶媒を樹脂フィルムと接触させることにより行われる。図7中、塗布装置310の下方には塗布ロール311が配置されている。この例において、塗布ロール311は、樹脂フィルム1を下側から支承し、それにより塗布装置310による塗布の均一性及び円滑性を向上させる。
混合溶媒を樹脂フィルム1に塗布する塗布装置としては特に限定はないが、例えばグラビアコーター、搬送ロールコーター、ダイコーター等が挙げられる。
混合溶媒は、良溶媒及び貧溶媒を含む溶媒であり、通常は、良溶媒と、貧溶媒とを混合して得られる。
混合溶媒における「貧溶媒」は、あるフィルムを構成する材料について、限界応力140kgf/cm2以上をもたらす溶媒である。
例えば樹脂フィルムが脂環式構造含有重合体樹脂を含むフィルムである場合の貧溶媒としては、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルセルソルブ等が挙げられる。これらのうち、後述の良溶媒全般との相溶性がよく、好適な良溶媒よりも沸点が低いとの観点から、アセトン及びMEKが好ましい。貧溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、回収が容易であるとの観点から、1種を用いるのが好ましい。
混合溶媒における「良溶媒」は、あるフィルムを構成する材料について、限界応力100kgf/cm2未満をもたらす溶媒である。
例えば樹脂フィルムが脂環式構造含有重合体樹脂を含むフィルムである場合の良溶媒としては、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-オクタン、シクロヘキサン、1,2-ジクロロエタン、ジオクチルフタレート(DOP)、リモネン等が挙げられる。これらのうち、前述の貧溶媒全般との相溶性がよく、好適な貧溶媒よりも沸点が高いとの観点から、シクロヘキサノン、トルエン及びMIBKが好ましい。良溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、回収が容易であるとの観点から、1種を用いるのが好ましい。
工程(A2)における巻き掛けの結果、樹脂フィルム30はクラック形成ローラー320に沿って曲げられ、樹脂フィルム1に、曲げ応力Fが印加される。本発明においては、樹脂フィルム1の曲げ方向(湾曲方向)は特に限定されないが、本実施形態においては、樹脂フィルム1は、その幅方向TDに対して平行に湾曲される。樹脂フィルム1をその幅方向TDに対して平行に湾曲させる場合、クラック形成ローラーは、回転軸が、樹脂フィルム1の幅方向TDに対して平行になるように配される。
F=(E×t)/(1000X+t) (1)
曲げ応力Fの計算方法について、図8を参照しながら説明する。
図8において、tは樹脂フィルム30の厚み(μm)、Xはクラック形成ローラー320の径(mm)を示す。図8においては、樹脂フィルム30の湾曲部分を半円と仮定して式(1)が導出される。式(1)の導出の具体的な説明は、実施形態1の説明において述べた導出方法の通りである。
本実施形態では、工程(A2)において、図7に示すように、樹脂フィルム30を挟んでクラック形成ローラー320と対向する位置に配される補助ローラー330が、当該樹脂フィルム30を支持しつつ搬送する。樹脂フィルム1(樹脂フィルム30)の幅寸法が大きい場合であっても、クラック形成ローラー320と、補助ローラー330と、により樹脂フィルムが支持されるので、樹脂フィルムの撓みが防止される。
本実施形態のクラックを有するフィルムの製造方法は、工程(A2)を行った後に得られる樹脂フィルム35を延伸する工程Bを含む。工程(A2)を行った後に得られる樹脂フィルム35においてもクラックが形成されているので、本発明において工程Bは必須ではないが、工程Bを行うことにより、工程(A2)により形成されたクラックを大きくすることができる(図9参照)。
本実施形態においては、工程Bを行った後の樹脂フィルム40は、その両端部をトリミングした後、巻取装置により巻き取られ(巻取工程)、種々の用途に用いられる。
本発明においては、巻取工程の前であって、工程(A2)の後または工程Bの後に、樹脂フィルムを加熱して、樹脂フィルムに残存する良溶媒を除去する加熱工程を行ってもよい。
本実施形態の製造方法においては、クラック形成ローラーの回転軸を、樹脂フィルム1の幅方向TDに対して平行に配して曲げ応力を印加するので、本実施形態の製造方法により得られるクラックを有するフィルムにおいては、その幅方向に対して略平行なクラックが形成される。したがって、得られるフィルムは、一方向の平行な方向に配向するクラックを有するフィルムとなる。
本実施形態においては、樹脂フィルム1に含まれる樹脂を用途に応じて選択し、混合溶媒塗布の条件等を制御することにより、光学分野以外に、例えばバイオミメティックス分野等で求められるフィルムとして用いることができる。
本実施形態によれば、樹脂フィルムに、所定割合の良溶媒と貧溶媒との混合溶媒を塗布し、かつ樹脂フィルムを、クラックを形成するクラック形成ローラーに巻き掛けて、式(1)で定義される曲げ応力Fを1MPa以上印加する工程(A2)を含むので、大面積のフィルムであっても高速でクラックを形成可能な、クラックを有するフィルムの製造方法を提供することができる。
実施形態3の製造方法では、一方向の平行な方向に配向するクラックを有するフィルムを得たが、本発明の製造方法はこれに限られず、クラックを有するフィルムとして、二方向の平行な方向に配向するクラックを有するフィルムを得る製造方法であってもよい。さらには、それより多い方向の平行な方向に配向するクラックを有するフィルムを得る製造方法であってもよい。
以下、二方向の平行な方向に配向するクラックを有するフィルムの製造方法の例として、実施形態3の変形例について図10を参照しつつ説明する。本例では実施形態3における工程(A2)において、図10に示すクラック形成ローラーを用いる。図10は、変形例において、クラック形成ローラーの回転軸を、樹脂フィルム30の長手方向MDに対して斜め方向に傾けてクラックを形成する様子を模式的に示した平面図である。
以下、本発明の製造方法の一実施形態である、実施形態4に係るクラックを有するフィルムの製造方法について図11及び図12を参照しつつ、説明する。本実施形態は補助ローラーを備えない点で実施形態3と相違する。以下の説明において、実施形態3と同じ構成及び重複した説明は省略する。
また、本実施形態においては、補助ローラーを用いないので、実施形態3よりもクラック形成フィルムの製造装置を簡素化することができる。
本発明は以下の態様とすることもできる。
(1)実施形態1及び実施形態3において、補助ローラー(130又は330)はクラック形成ローラー(120又は320)よりも搬送方向における上流側(図1及び図7に示す左側)に配されているが、補助ローラーの位置は、クラック形成ローラーよりも下流側であってもよい。
(2)上記実施形態及び変形例においては、クラック形成ローラーの回転軸を樹脂フィルムの幅方向に平行に配してクラックを形成する例、クラック形成ローラーの回転軸を樹脂フィルムの長手方向に斜め方向に傾けて配してクラックを形成する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明の製造方法においては、クラック形成ローラーの回転軸を樹脂フィルムの長手方向に平行に配してクラックを形成してもよいし、回転軸の配置方向が相違するクラック形成ローラーを2以上用いてクラックを形成してもよい。
(3)上記実施形態では、工程(A1)又は工程(A2)を行った後の樹脂フィルムを延伸する工程Bを含む製造方法を示したが、本発明の製造方法は工程Bを含まない製造方法であってもよい。
以下に説明する操作は、特段の規定がない限り、常温および常圧の条件において行った。また、以下の実施例および比較例において、量を表す「%」および「部」は、特段の規定がない限り、重量基準である。
[全光線透過率]
各例により得られたフィルムの全光線透過率は、JIS K7361-1に準拠して、ヘイズメーター(東洋精機社製「ヘイズガードII」)を用いて測定した。
顕微鏡(株式会社キーエンス製、「デジタルマイクロスコープVHX-5000」)を用いて、各例で得られたフィルムにおける、クラックの有無及びクラックの状態(幅寸法及び方向)を観察した。
各例において得られたフィルムの破断の発生の有無を肉眼により観察し、破断の発生が認められたものを「あり」とし、破断の発生が認められなかったものを「なし」とした。
各例において得られたフィルムの残留溶媒量を熱分解ガスクロマトグラフィーにより測定した。
各例において得られたフィルムの平均厚みは、当該フィルムの幅方向において5cm間隔の複数の地点で厚みをスナップゲージにより測定し、それらの測定値の平均値を計算することにより求めた。
フィルムの引張弾性率は、東洋ボールドウィーン社製「テンシロン UTM-10T-PL」を用いて測定した。引張速度は500mm/min、荷重はロードセル50kgf、試料形状は幅10mm×長さ50mmとした。測定を5回行い、その平均値を、引張弾性率の値として採用した。
(a1-1)樹脂フィルムAの調製
溶融押出法により得られた脂環式構造含有重合体を含む樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製、ゼオノアフィルム ZF14-188、厚み188μm、Tg136℃、幅1330mm、長さ3900m)を樹脂フィルムAとした。
クラック形成ローラー(ローラー径5mm)を、回転軸が樹脂フィルムAの幅方向に対して平行な方向になるように配し、以下の手順により、クラックを有するフィルムを得た。
シクロヘキサン(樹脂フィルムに対する限界応力:53kgf/cm2、沸点:80.7℃)の濃度を500ppmに管理した雰囲気下、樹脂フィルムAをクラック形成ローラーに巻き掛けて、曲げ応力40MPaを印加し、樹脂フィルムAの面のうち、クラック形成ローラーと接する面とは反対側の面にクラックを形成し、クラックを有するフィルムを得た。得られたクラックを有するフィルムについて評価を行い、結果を表1に示した。
実施例a1の(a1-2)において、シクロヘキサンに代えてMIBK(樹脂フィルムに対する限界応力:67kgf/cm2、沸点:116℃)を用いたこと以外は、実施例a1と同じ操作により、クラックを有するフィルムを得た。得られたクラックを有するフィルムについて評価を行い、結果を表1に示した。
シクロヘキサンの濃度を500ppmに管理した雰囲気下、図5に示すように、第1のクラック形成ローラーに、樹脂フィルムA(実施例a1の(a1-1)と同じ操作により調製したもの)を巻き掛けて、曲げ応力40MPaを印加した。その後、さらに、第2のクラック形成ローラーに、樹脂フィルムAを巻き掛けて、曲げ応力40MPaを印加した。この操作において、第1のクラック形成ローラーは、回転軸が樹脂フィルムAの幅方向Qに対して45°(θ1=45°)となるように配置し、第2のクラック形成ローラーは、回転軸が樹脂フィルムAの幅方向Rに対して45°(θ2=45°)となるように配置した。この操作により、クラックを有するフィルムを得た。得られたクラックを有するフィルムについて評価を行い、結果を表1に示した。
実施例a1で得られたクラックを有するフィルム(工程(A1)を行った後のクラックを有するフィルム)を、延伸倍率2倍で縦方向に延伸して、クラックを有するフィルムであって延伸されたもの(以下において「クラックを有する延伸フィルム」という場合がある。)を得た。得られたクラックを有する延伸フィルムについて評価を行い、結果を表1に示した。
実施例a1の(a1-2)において、シクロヘキサンに代えてMEK(メチルエチルケトン)(樹脂フィルムに対する限界応力:176kgf/cm2、沸点:79.6℃)を用いたこと以外は、実施例a1と同じ操作を行ったが、得られたフィルムにはクラックが認められなかった。
実施例a1の(a1-2)において、シクロヘキサンに代えてアセトン(樹脂フィルムに対する限界応力:194kgf/cm2、沸点:56℃)を用いたこと以外は、実施例a1と同じ操作を行ったが、得られたフィルムにはクラックが認められなかった。
クラック形成ローラー(ローラー径5mm)を、回転軸が樹脂フィルムAの幅方向に対して平行な方向になるように配し、以下の手順により、クラックを有するフィルムを得た。
ダイコーター(株式会社ムサシノキカイ製)により、MEK(樹脂フィルムに対する限界応力:176kgf/cm2、沸点:79.6℃)75重量%と、MIBK(樹脂フィルムに対する限界応力:67kgf/cm2、沸点:116℃)25重量%とを混合した混合溶媒1を樹脂フィルムA(実施例a1の(a1-1)と同じ操作により調製したもの)に塗布した後、この樹脂フィルムAをクラック形成ローラーに巻き掛けて、曲げ応力40MPaを印加し、樹脂フィルムAの面のうち、クラック形成ローラーと接する面とは反対側の面にクラックを形成し、クラックを有するフィルムを得た。得られたクラックを有するフィルムについて評価を行い、結果を表3に示した。
混合溶媒1に代えて、MEK80重量%と、トルエン(樹脂フィルムに対する限界応力:67kgf/cm2、沸点:110.6℃)20重量%とを混合した混合溶媒2を用いたこと以外は、実施例b1と同じ操作により、クラックを有するフィルムを得た。
このクラックを有するフィルム(工程(A2)を行った後のクラックを有するフィルム)を、延伸倍率2倍で縦方向に延伸して、クラックを有する延伸フィルムを得た。このように得られた、クラックを有する延伸フィルムについて評価を行い、結果を表3に示した。
混合溶媒1に代えて、アセトン(樹脂フィルムに対する限界応力:194kgf/cm2、沸点:56℃)75重量%と、シクロヘキサノン(樹脂フィルムに対する限界応力:61kgf/cm2、沸点:155.6℃)25重量%とを混合した混合溶媒3を用いたこと以外は、実施例b1と同じ操作により、クラックを有するフィルムを得た。得られたクラックを有するフィルムについて評価を行い、結果を表3に示した。
混合溶媒1に代えて、アセトン80重量%と、シクロヘキサノン20重量%とを混合した混合溶媒4を用いたこと以外は、実施例b1と同じ操作により、クラックを有するフィルムを得た。
このクラックを有するフィルム(工程(A2)を行った後のクラックを有するフィルム)を、延伸倍率2倍で縦方向に延伸して、クラックを有する延伸フィルムを得た。このように得られた、クラックを有する延伸フィルムについて評価を行い、結果を表3に示した。
ダイコーター(株式会社ムサシノキカイ製)により、MEK75重量%と、MIBK25重量%とを混合した混合溶媒1を樹脂フィルムA(実施例a1の(a1-1)と同じ操作により調製したもの)に塗布した。混合溶媒塗布後の樹脂フィルムAを、図10に示すように、第1のクラック形成ローラーに巻き掛けて、曲げ応力40MPaを印加した。その後、さらに、第2のクラック形成ローラーに、樹脂フィルムAを巻き掛けて、曲げ応力40MPaを印加した。この操作において、第1のクラック形成ローラーは、回転軸が樹脂フィルムAの幅方向Qに対して45°(θ1=45°)となるように配置し、第2のクラック形成ローラーは、回転軸が樹脂フィルムAの幅方向Rに対して45°(θ2=45°)となるように配置した。この操作により、クラックを有するフィルムを得た。得られたクラックを有するフィルムについて評価を行い、結果を表3に示した。
混合溶媒1に代えて、MEK5重量%と、MIBK95重量%とを混合した混合溶媒C1を用いたこと以外は、実施例b1と同じ操作を行ったが、得られたフィルムには破断が認められ、各評価試験を行うことができなかった。
混合溶媒1に代えて、MEK95重量%と、トルエン5重量%とを混合した混合溶媒C2を用いたこと以外は、実施例b1と同じ操作を行ったが、得られたフィルムにはクラックが認められなかった。
混合溶媒1に代えて、アセトン5重量%と、シクロヘキサノン95重量%とを混合した混合溶媒C3を用いたこと以外は、実施例b1と同じ操作を行ったが、得られたフィルムには破断が認められ、各評価試験を行うことができなかった。
混合溶媒1に代えて、アセトン95重量%と、シクロヘキサノン5重量%とを混合した混合溶媒C4を用いたこと以外は、実施例b1と同じ操作を行ったが、得られたフィルムにはクラックが認められなかった。
10,12…工程(A1)を行った後に得られる樹脂フィルム(工程Bを行う前の樹脂フィルム)
10W…工程Bを行う前の樹脂フィルムの幅寸法
11A,11B,11C…工程Bを行う前の樹脂フィルムのクラック
11W…工程Bを行う前の樹脂フィルムのクラック開口径
20,22…工程Bを行った後の樹脂フィルム(クラックを有するフィルム)
20W…工程Bを行った後の樹脂フィルムの幅寸法
21A,21B,21C…工程Bを行った後の樹脂フィルムのクラック
21W…工程Bを行った後の樹脂フィルムのクラック開口径
100,200…クラックを有するフィルムの製造装置
101,201…繰り出し装置
102,202…巻取装置
110,210…溶媒暴露装置
120,220…クラック形成ローラー
122A…第1のクラック形成ローラー
122B…第2のクラック形成ローラー
130…補助ローラー
150,250…延伸装置
30,32…(混合溶媒塗布後の)樹脂フィルム
35,36…工程(A2)を行った後に得られる樹脂フィルム(工程Bを行う前の樹脂フィルム)
35W…工程Bを行う前の樹脂フィルムの幅寸法
351A,351B,351C…工程Bを行う前の樹脂フィルムのクラック
351W…工程Bを行う前の樹脂フィルムのクラック開口径
40,42…工程Bを行った後の樹脂フィルム(クラックを有するフィルム)
40W…工程Bを行った後の樹脂フィルムの幅寸法
41A,41B,41C…工程Bを行った後の樹脂フィルムのクラック
41W…工程Bを行った後の樹脂フィルムのクラック開口径
300,400…クラックを有するフィルムの製造装置
301,401…繰り出し装置
302,402…巻取装置
310,410…塗布装置
311,411…塗布ロール
320,420…クラック付与ローラー
322A…第1のクラック付与ローラー
322B…第2のクラック付与ローラー
330…補助ローラー
350,450…延伸装置
θ1…第1のクラック形成ローラーの回転軸とフィルムの幅方向とのなす角
θ2…第2のクラック形成ローラーの回転軸とフィルムの幅方向とのなす角
TD…樹脂フィルムの幅方向
MD…樹脂フィルムの長手方向
Claims (11)
- 一方向以上の平行な方向に配向するクラックを有するフィルムの製造方法であって、
樹脂フィルムをクラック形成ローラーに巻き掛けて曲げ応力Fを1MPa以上印加し、かつ、前記樹脂フィルムの面を良溶媒の蒸気に暴露し、前記クラックを形成する工程であって、前記樹脂フィルムの前記面は前記巻き掛けにおいて前記クラック形成ローラーと接触する面とは反対側の面であり、前記曲げ応力Fは、下記式(1)から算出される値である、工程(A1)を含む、クラックを有するフィルムの製造方法:
F=(E×t)/(1000X+t) (1)
(前記式(1)中、Eは前記樹脂フィルムの引張弾性率(MPa)、tは前記樹脂フィルムの厚み(μm)、Xは前記クラック形成ローラーの径(mm)を示す)。 - 前記良溶媒は、前記クラックを有するフィルムの表面に固形分が残存しないものである、請求項1に記載の製造方法。
- 前記工程(A1)を行った後の樹脂フィルムを、延伸する工程Bを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
- 一方向以上の平行な方向に配向するクラックを有するフィルムの製造方法であって、
樹脂フィルムに混合溶媒を塗布し、かつ、前記樹脂フィルムをクラック形成ローラーに巻き掛けて曲げ応力Fを1MPa以上印加し、前記クラックを形成する工程であって、前記混合溶媒は、良溶媒及び貧溶媒を含み、前記混合溶媒中の前記貧溶媒の割合は10重量%以上90重量%以下であり、前記曲げ応力Fは、下記式(1)から算出される値である、工程(A2)を含む、クラックを有するフィルムの製造方法:
F=(E×t)/(1000X+t) (1)
(前記式(1)中、Eは前記樹脂フィルムの引張弾性率(MPa)、tは前記樹脂フィルムの厚み(μm)、Xは前記クラック形成ローラーの径(mm)を示す)。 - 前記混合溶媒は、前記クラックを有するフィルムの表面に固形分が残存しないものである、請求項4に記載の製造方法。
- 前記工程(A2)を行った後の樹脂フィルムを、延伸する工程Bを含む、請求項4または5に記載の製造方法。
- 前記クラックを有するフィルムにおける残留溶媒が100ppm以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
- 前記クラックを有するフィルムの厚みが10~500μmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
- 前記クラックを有するフィルムの全光線透過率が80%以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
- 前記樹脂フィルムを挟んで前記クラック形成ローラーと対向する位置に配される補助ローラーが、当該樹脂フィルムを支持しつつ搬送する、請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
- 前記クラック形成ローラーの回転軸を、前記樹脂フィルムの長手方向に対して斜め方向に傾けることで、前記樹脂フィルムの長手方向及び当該樹脂フィルムの幅方向以外の方向にクラックを形成する、請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
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