以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る制御装置の機能的構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係る制御装置1は、直流電源2が発電した直流電力を交流電力に変換して電力系統20に出力する(送電する)インバータ装置3の動作を制御する装置である。インバータ装置3において変換された交流電力は、平滑化リアクトル(フィルタ)4により平滑化されたのち、送電線5により電力系統20に出力される。
本実施形態の制御装置1は、発電機模擬部100と、制御信号生成部110と、出力目標設定部120と、基準周波数設定部130とを備える。
発電機模擬部100は、電力系統の交流電圧及び交流電流に基づいて同期発電機が備える回転体の慣性を模擬し、インバータ装置3が出力する電圧の位相θを決定する。本実施形態の制御装置1では、電力系統の交流電圧及び交流電流として、インバータ装置3と電力系統20とを接続する送電線5において検出した交流電圧Va,b,cと、交流電圧Ia,b,cとを利用する。ここで、交流電圧Va,b,cは、電圧検出器6により検出した三相交流の各電圧Va,Vb,及びVcをまとめて表現したものである。また、交流電流Ia,b,cは、電流検出器7により検出した三相交流の各電流Ia,Ib,及びIcをまとめて表現したものである。
発電機模擬部100は、位相算出部101と、角周波数調整部102とを含む。
位相算出部101は、電力系統の交流電圧Va,b,c及び交流電流Ia,b,cと、出力目標と、電力系統20の基準周波数ω0と、角周波数調整部102から入力される情報とに基づいて、インバータ装置3から出力する電圧の位相θを算出する。位相算出部101は、出力目標設定部120から、インバータ装置3が出力する有効電力の出力目標値を取得する。また、位相算出部101は、基準周波数設定部130から、電力系統20の基準周波数ω0を取得する。
角周波数調整部102は、電力系統の交流電圧と、位相算出部101が算出して出力した電圧の位相θとに基づいて、位相算出部101が位相の算出に利用する角周波数の値を調整するための情報を生成し、位相算出部101に出力する。具体的には、角周波数調整部102は、電力系統の交流電圧の位相と電圧の位相θとに基づいて算出される位相差(内部位相角)δが所定の範囲から逸脱しないよう、制御装置1が模擬する同期発電機における回転体の角周波数を調整する情報を生成する。本実施形態の制御装置1における角周波数調整部102は、電圧検出器6により検出した交流電圧Va,b,cを電力系統の交流電圧とする。角周波数調整部102は、検出した交流電圧Va,b,cと、電圧の位相θとに基づいて算出した内部位相角δの絶対値が所定の範囲内であるかに応じて、位相算出部101に、位相の算出に利用する角周波数の値を切り替えさせる。内部位相角δの絶対値が所定の範囲内である場合、角周波数調整部102は、位相算出部101に、検出した交流電圧Va,b,c及び交流電流Ia,b,cにより算出した有効電力と出力目標値との差分を積分して得られる角周波数調整値Δωに基づいて位相θを算出させる。一方、内部位相角δの絶対値が所定の範囲内である場合、角周波数調整部102は、位相算出部101に、電力系統の交流電圧Va,b,cから検出される電力系統の周波数ωと、基準周波数ω0との差分ω-ω0に基づいて位相θを算出させる。
制御信号生成部110は、発電機模擬部100から入力される位相θに基づいて、インバータ装置3から出力する電圧の位相θを示す情報を含む制御信号を生成し、インバータ装置3に出力する。制御信号生成部110は、正弦波生成部111と、パルス幅変調部112とを含む。
正弦波生成部111は、発電機模擬部100から入力される位相θに基づいて、三相交流における各相の電圧V*
a,V*
b,及びV*
cのそれぞれを示す正弦波を生成する。正弦波生成部111は、例えば、下記式(1-1)、式(1-2)、及び式(1-3)により、正弦波を生成する。
V*
a=sin{θ} ・・・(1-1)
V*
b=sin{θ+(2π/3)} ・・・(1-2)
V*
c=sin{θ+(4π/3)} ・・・(1-3)
パルス幅変調部112は、正弦波生成部111で生成した正弦波(電圧V*
a,V*
b,及びV*
c)のそれぞれに対してパルス幅変調(Pulse Width Modulation、PWM)を行い、変調後のパルス信号をインバータ装置3に出力する。
このように、本実施形態の制御装置1は、発電機模擬部100において同期発電機の回転体の角周波数を模擬する際に、内部位相角δの絶対値が所定の範囲から逸脱しないよう角周波数を調整する。例えば、発電機模擬部100は、内部位相角δの絶対値がπ/4以下(|δ|≦π/4)となるように同期発電機の回転体の角周波数を調整する。
図2は、第1の実施形態に係る制御装置における発電機模擬部の構成を示す図である。図2に示すように、発電機模擬部100の位相算出部101は、有効電力計測部101aと、減算器101bと、第1の積分器101cと、加算器101dと、第2の積分器101eとを含む。
有効電力計測部101aは、電圧検出器6により検出した交流電圧Va,b,cと、電流検出器7により検出した交流電流Ia,b,cとに基づいて、現時点における電力系統20の有効電力Pを計測する。有効電力計測部101aは、既知の計測方法に従って、電力系統20の有効電力Pを計測する。
減算器101bは、インバータ装置3に出力させる有効電力の目標値(出力目標)と、計測した有効電力Pとの差分を算出する。出力目標は、出力目標設定部120(図1を参照)から入力される。
第1の積分器101cは、出力目標と有効電力計測部101aで計測した有効電力Pとの差分を時間積分する。第1の積分器101cは、角周波数調整部102から入力される出力セット信号SSがオフ(OFF)である場合、出力目標と有効電力Pとの差分についての時間積分の結果を、角周波数調整値Δωとして出力する。角周波数調整値Δωは、模擬する同期発電機における回転体の角周波数を電力系統の角周波数に合わせるための値であり、現時点における電力系統の角周波数と基準周波数との差分に相当する。一方、第1の積分器101cは、角周波数調整部102から入力される出力セット信号SSがオン(ON)である場合、角周波数調整部102から入力されるセット値出力ω-ω0を、角周波数調整値Δωとして出力する。
加算器101dは、第1の積分器101cが出力した角周波数調整値Δωと、基準周波数ω0とを加算して出力する。基準周波数ω0は、基準周波数設定部130から入力される。基準周波数ω0は、電力系統20における電力の基準周波数であり、例えば、50Hz或いは60Hzとする。
第2の積分器101eは、加算器101dから入力される角周波数ω0+Δωを時間積分し、該時間積分の結果をインバータ装置3から出力する電圧の位相θとして出力する。本実施形態の制御装置1では、第2の積分器101eが出力した位相θは、制御信号生成部110の正弦波生成部111(図1を参照)に入力されるとともに、角周波数調整部102の内部位相角算出部102aに入力される。
本実施形態の制御装置1における角周波数調整部102は、内部位相角δが所定の範囲内であるか否かを示す出力セット信号SSと、模擬している同期発電機の角周波数を現時点における系統周波数と一致させるセット値出力ω-ω0とを生成して出力する。角周波数調整部102は、内部位相角算出部102aと、比較部102bと、系統周波数検出部102cと、減算器102dとを含む。
内部位相角算出部102aは、電力系統の交流電圧の位相と位相算出部101が出力した位相θとの位相差(内部位相角)δを算出する。本実施形態の制御装置1では、有効電力計測部101aに入力される交流電圧Va,b,cを電力系統の交流電圧とする。内部位相角算出部102aは、例えば、下記式(2-1)、式(2-2)、及び式(2-3)により、内部位相角δを算出する。
比較部102bは、内部位相角算出部102aで算出した内部位相角δと所定の閾値(例えば、π/4)との大小関係に基づいて、出力セット信号SSを生成し出力する。内部位相角δの絶対値が閾値以下(例えば、|δ|≦π/4)である場合には、比較部102bは、出力セット信号SSとしてオフレベルの信号を生成し出力する。内部位相角δの絶対値が閾値よりも大きい値(例えば、|δ|>π/4)である場合には、比較部102bは、出力セット信号SSとしてオンレベルの信号を生成し出力する。出力セット信号SSは、位相算出部101の第1の積分器101cに入力される。
系統周波数検出部102cは、電力系統20における現時点での電圧の周波数ωを検出する。本実施形態の制御装置1では、有効電力計測部101aに入力される交流電圧Va,b,cに基づいて、周波数ωを検出する。系統周波数検出部102cは、既知の検出方法に従って、電力系統20の電圧の周波数ωを検出する。
減算器102dは、系統周波数検出部102cで検出した電圧の周波数ωと、電力系統20の基準周波数ω0との差分ω-ω0を算出する。基準周波数ω0は、基準周波数設定部130(図1を参照)から入力される。減算器102dで算出した差分ω-ω0は、セット値出力として位相算出部101の第1の積分器101cに入力される。
このように、本実施形態に係る発電機模擬部100では、位相算出部101の第1の積分器101cに、有効電力Pと出力目標との差分、及び現時点での系統周波数を示す値(セット値出力ω-ω0)が入力される。そして、第1の積分器101cは、出力セット信号SSがオン及びオフのいずれであるかに応じて、出力する角周波数調整値Δωの値を変更する。
図3は、内部位相角δと第1の積分器の出力Δωとの関係を説明する図である。図3のテーブル30には、比較部102bにおいて内部位相角δと比較する閾値をπ/4とした場合の、内部位相角δと、出力セット信号SSと、第1の積分器101cが出力する角周波数調整値Δωの値との関係を示している。
図3のテーブル30では、内部位相角δが|δ|≦π/4である場合の出力セット信号SSが、OFF(オフレベルの信号)となっている。出力セット信号SSがOFFの場合、第1の積分器101cは、有効電力Pと出力目標との差分を積算(時間積分)した値を、角周波数調整値Δωとして出力する。一方、図3のテーブル30では、内部位相角δが|δ|>π/4である場合の出力セット信号SSが、ON(オンレベルの信号)となっている。出力セット信号SSがONの場合、第1の積分器101cは、角周波数調整部102から入力されたセット値出力ω-ω0を、角周波数調整値Δωとして出力する。すなわち、本実施形態の発電機模擬部100では、内部位相角δが|δ|>π/4となった場合、有効電力Pと出力目標との差分によらず、セット値出力ω-ω0を角周波数調整値Δωとする。言い換えると、|δ|>π/4の場合の角周波数調整値Δωは、現時点での系統周波数と基準周波数との差となるため、周波数を合わせやすくなる。このため、内部位相角δの絶対値が閾値よりも大きくなった場合に第2の積分器101eから出力される位相θと、電力系統における交流電圧の位相との差の増大を防ぐことが可能となる。従って、本実施形態の制御装置1では、直流電力を交流電力に変換するインバータ装置3に対し同期発電機を模擬した制御を行う際の脱調を防止することが可能となる。なお、本実施形態の制御装置1における第1の積分器101cは、出力セット信号SSがONからOFFに切り替わった場合には、テーブル30に示したように、直前の出力Δω=ω-ω0を初期値として有効電力Pと出力目標との差分の積算を開始する。
このように、本実施形態の制御装置1は、電力系統20の交流電圧とインバータ装置3が出力する交流電圧との位相差が所定の範囲を超えた場合には、模擬している同期発電機における回転体の角周波数を系統周波数と一致させてインバータ装置3が出力する交流電圧の位相を調整する。このため、本実施形態の制御装置1では、電力系統20の周波数(系統周波数)が急速に変化した場合にも、内部位相角の急激な増大による脱調(同期外れ)を防ぐことが可能となる。
以下、図4~図6を参照して、本実施形態の制御装置1によりインバータ装置3を制御した場合の作用効果について説明する。
図4は、系統周波数の時間変化の例を示す図である。図5は、内部位相角に基づく角周波数の調整を行わない場合のシミュレーション結果を示す図である。図6は、第1の実施形態に係る制御装置による制御を行った場合のシミュレーション結果を示す図である。
本件発明者らは、コンピュータシミュレーションにより、本実施形態の制御装置1によりインバータ装置3を制御した場合の内部位相角δの時間変化と、角周波数調整部102による角周波数の調整を行わずにインバータ装置3を制御した場合の内部位相角δの時間変化とを調べた。
なお、シミュレーションには、図1に示したような、1つの発電機(直流電源2)を含む発電設備が電力系統20(無限大母線)に直結しているモデル(1機無限大母線系統)を使用した。発電機(直流電源2)は蓄電池とした。また、インバータ装置3の出力側のフィルタ部(平滑化リアクトル4)、及び図1には示していない送電線模擬部は、それぞれ、機器容量ベースで5%のリアクタンスとした。送電線模擬部は、送電線5における、交流電圧Va,b,cを検出する位置から電力系統20までの区間のリアクタンスを模擬するリアクトルである。
また、シミュレーションでは、無限大母線を理想電圧源とし、系統周波数が図4のグラフ40に示した周波数比ωs/ω0のように時間変化をした場合の、内部位相角δの時間変化及び交流電圧Va,b,cの時間変化等を算出した。周波数比ωs/ω0は電力系統20の周波数ωsと基準周波数ω0との比である。
グラフ40における最初の1秒間は、周波数比が1.00である。すなわち、シミュレーションにおける最初の1秒間は、電力系統20の周波数ωsを基準周波数ω0と一致させている。グラフ40における時刻1.0秒から1.5秒までの期間は、周波数比が1.02に増加した後、1.00に戻り、再び1.02に増加する。特に、グラフ40では、時刻が1.5秒になるタイミングで、周波数比が1.00から1.02に瞬間的に増加している。グラフ40における時刻1.5秒から2.0秒までの期間は、周波数比が1.02である。グラフ40における時刻2.0秒から3.0秒までの期間は、時刻2.1秒までの0.1秒間で周波数比が1.02から0.98まで低下した後、直線的に0.925まで周波数比が低下している。
電力系統20の周波数ωsがグラフ40に示したような時間変化をする場合に、内部位相角δに基づく角周波数の調整を行わずにインバータ装置3を制御するシミュレーションを行うと、図5に示すような結果が得られた。すなわち、図5には、有効電力Pと出力目標との差分を時間積分した角周波数調整値Δωのみを用いて算出した位相θによりインバータ装置3を制御した場合のシミュレーション結果を示している。
図5には、4個のグラフ51~54を示している。グラフ51は、端子電圧の時間変化、すなわち電圧検出器6により検出される交流電圧Va,b,cの時間変化を示している。グラフ52は、出力電流の時間変化、すなわち電流検出器7により検出される交流電流Ia,b,cの時間変化を示している。グラフ53は、2つの周波数比ωs/ω0及び(Δω+ω0)/ω0の時間変化を示している。そして、グラフ54は、内部位相角δ(ラジアン)の時間変化を示している。なお、図5のグラフ51~54は、それぞれ、図4のグラフ40における時刻0秒から1秒までの期間のシミュレーション結果を省略している。
グラフ53に示すように、電力系統20の周波数比ωs/ω0は、時刻1秒から1.2秒までの期間に1.00から1.02に増加する。その後、電力系統20の周波数比ωs/ω0は、時刻1.3秒から1.4秒までの期間に1.02から1.00に戻るが、時刻1.5秒となったときに1.02に上昇し、時刻2.0秒まで1.02の状態が続く。しかしながら、電力系統20の周波数比ωs/ω0の時間変化量がこの程度の比較的小さい変化量である場合、角周波数調整部102による角周波数の調整を行わなくても、第1の積分器101cから出力される角周波数調整値Δωは、電力系統20の周波数ωsの変化に追従する。このため、時刻1秒から2秒までの期間における内部位相角δの値は比較的小さな値で推移する。角周波数調整部102による角周波数の調整を行わない場合、第1の積分器101cから出力される角周波数調整値Δωは、有効電力Pと出力目標との差分を時間積分した値である。すなわち、電力系統20の周波数ωsの時間変化量が比較的小さい場合には、角周波数調整部102による角周波数の調整を行わなくても、電力系統20における交流電圧の周波数ωsとインバータ装置3が出力する交流電圧の周波数との差が大きくならない。従って、時刻1秒から2秒までの期間における端子電圧Va,b,cの位相とインバータが出力する交流電圧の位相θとの位相差(内部位相角δ)は、例えば、グラフ54のように、0(ラジアン)から-0.5ラジアン(<π/4)までの範囲内で変化する。
その後、グラフ53に示すように、電力系統20の周波数比ωs/ω0は、時刻2秒から2.1秒までの期間に著しく低下し、更に時刻3秒まで低下し続ける。周波数比ωs/ω0は、時刻2秒から2.1秒までの0.1秒間で0.04だけ低下している。すなわち、電力系統20の基準周波数ω0が50Hzである場合、該電力系統20の周波数ωsは、時刻2秒から2.1秒までの0.1秒間で2Hz変化したことになる。このように、電力系統20の周波数ωsが急速に変化した場合、有効電力Pと出力目標との差分が大きくなり、該差分の時間積分である角周波数調整値Δωと、模擬する同期発電機における回転体の角周波数との差が大きくなる。これにより、図5のグラフ54のように、時刻2秒を過ぎると内部位相角δが急速に大きくなり、時刻t2(約2.34秒)の時点で内部位相角δがπ/2ラジアン(≒1.57ラジアン)を超過する。しかも、その後も電力系統20の周波数ωsは低下し続けており、グラフ53のように、一度は周波数比(Δω+ω0)/ω0が低下して周波数比ωs/ω0に近づくものの、時刻2.5秒を過ぎたころから2つの周波数比の差が再び大きくなっている。このため、時刻t2以降も内部位相角δは増加を続け、時刻t4(約2.88秒)において内部位相角δがπ/2ラジアンを超過する。すなわち、図5のシミュレーション結果では、時刻t4において、内部位相角δがπラジアン(=180度)を超過し、脱調(同期外れ)が発生した。脱調が発生した場合、例えば、図5のグラフ51に示したように、脱調が発生した時刻t4の前後において端子電圧Va,b,cが減少する。また、脱調が発生した場合、図5のグラフ52に示したように、出力電流Ia,b,cが減少する。このように、有効電力Pと出力目標との差分のみに基づいてインバータ装置3から出力する電力の位相θを制御する場合、電力系統20の周波数ωsが急速に変化すると、周波数ωsの変化に追従することができず、脱調(同期外れ)が発生することがある。
これに対し、本実施形態に係る制御装置1によりインバータ装置3を制御するシミュレーションを行うと、図6に示すような結果が得られた。
図6には、4個のグラフ61~64を示している。グラフ61は、端子電圧の時間変化、すなわち電圧検出器6により検出される交流電圧Va,b,cの時間変化を示している。グラフ62は、出力電流の時間変化、すなわち電流検出器7により検出される交流電流Ia,b,cの時間変化を示している。グラフ63は、2つの周波数比ωs/ω0及び(Δω+ω0)/ω0の時間変化を示している。そして、グラフ64は、内部位相角δ(ラジアン)の時間変化を示している。なお、図6のグラフ61~64は、それぞれ、図4のグラフ40における時刻0秒から1秒までの期間のシミュレーション結果を省略している。
本実施形態の制御装置1によりインバータ装置3を制御する場合も、上記のように、内部位相角δが所定の範囲内(|δ|≦π/4ラジアン。すなわち|δ|≦45度)であれば、第1の積分器101cから出力される角周波数調整値Δωは、有効電力Pと出力目標との差分を時間積分した値である。そして、図6に示したグラフ63及び64における時刻1秒から2秒までの期間のように、電力系統20の周波数ωsの時間変化量が比較的小さく、かつ内部位相角δが所定の範囲内である場合、有効電力Pと出力目標との差分を時間積分した角周波数調整値Δωに基づいて算出される周波数Δω+ω0は、周波数ωsの変化に追従する。このため、時刻1秒から2秒までの期間における内部位相角δの値は、絶対値がπ/4以下となる比較的小さな値で推移する。
また、グラフ63に示すように、電力系統20の周波数比ωs/ω0は、時刻2秒から2.1秒の間で著しく低下し、更に時刻3秒まで低下し続ける。電力系統20の周波数ωsが急速に変化した場合、上記のように、有効電力Pと出力目標との差分が大きくなり、該差分の時間積分である角周波数調整値Δωと、模擬する同期発電機における回転体の角周波数との差が大きくなる。このため、図5のシミュレーション結果と同様、時刻2秒を過ぎると内部位相角δが大きくなり、時刻2.2秒を少し過ぎた時刻t1に内部位相角δがπ/4ラジアン(≒0.785ラジアン)となる。
しかしながら、本実施形態の制御装置1では、上記のように、内部位相角δの絶対値がπ/4ラジアン(=45度)よりも大きくなると、出力セット信号SSがオンになり、第1の積分器101cから出力される角周波数調整値Δωが角周波数調整部102から入力されたセット値出力ω-ω0に変更される。セット値出力は、端子電圧Va,b,cから検出した系統周波数(電力系統の周波数)ωから基準周波数ω0を減算した値である。従って、|δ|>π/4となった時刻t1(約2.22秒)において、第1の積分器101cから出力される角周波数調整値Δωがセット値出力ω-ω0に変更され、グラフ63に点線で示した周波数比(Δω+ω0)/ω0は、周波数比ω/ω0(≒ωs/ω0)なる。これにより、インバータ装置3が出力する電力の周波数を電力系統の周波数に合わせることができ、位相算出部101が出力する位相θと電力系統20の交流電力の位相(交流電圧Va,b,cの位相)との位相差(すなわち内部位相角δ)の絶対値の増加を抑えることが可能となる。
また、角周波数調整値Δωがセット値出力ω-ω0に変更されて(Δω+ω0)/ω0≒ωs/ω0となり、内部位相角δが45度以下になると、出力セット信号SSはオンからオフに切り替わる。出力セット信号SSがオンからオフになると、制御装置1は、オフになる直前に入力されたセット値出力ω-ω0を初期値とし、有効電力Pと出力目標との差分を時間積分して得られる角周波数調整値Δωに基づいて電圧の位相θを算出する。このため、電力系統の周波数の低下が続いている場合、図6のグラフ64に示したように、時刻t3(約2.67秒)において再び内部位相角δが45度を超える。しかしながら、このときも、制御装置1は、第1の積分器101cから出力される角周波数調整値Δωを角周波数調整部102から入力されたセット値出力ω-ω0に変更するので、内部位相角δの増加が押さえられる。よって、本実施形態に係る制御装置1では、グラフ64のように、電力系統20の周波数ωsが急速に低下する時刻t1以降の内部位相角δがπ/4ラジアン程度の値を維持し、脱調(同期外れ)を防ぐことができる。
このように、内部位相角δが所定の範囲内となるよう位相θの算出に用いる角周波数調整値Δωを切り替えることにより、図6のグラフ61,62のように、電力系統20の周波数ωsが急速に低減した場合にも迅速に追従し、安定した交流電圧及び交流電流を出力することが可能となる。例えば、図6のグラフ61では、電力系統の周波数が急速に低下した時刻2.1秒以降も、端子電圧Va,b,cが安定している。同様に、図6のグラフ62では、時刻2.1秒付近において出力電流Ia,b,cが著しく減少しているが、時刻t1以降は安定している。
図5及び図6から分かるように、本実施形態の制御装置1のように角周波数調整部102により角周波数調整値Δωを調整してインバータ装置3を制御した場合、時刻2秒から3秒までの期間に脱調は起こらない。よって、本実施形態の制御装置1によりインバータ装置3を制御することにより、脱調による端子電圧及び出力電流の乱れを防ぐことが可能となる。
なお、図2の位相算出部101及び角周波数調整部102の構成は、それぞれ、本実施形態に係る位相算出部101及び角周波数調整部102の構成の一例に過ぎない。位相算出部101及び角周波数調整部102の構成は、本実施形態の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、図1及び図2に示した制御装置1は、コンピュータと、該コンピュータに実行させるプログラムとにより実現することも可能である。
また、本実施形態では、蓄電池を直流電源2とする発電設備におけるインバータ装置3の制御装置1を例に挙げたが、直流電源2は、これに限らず、太陽光パネル等の直流電力を発生させる発電機であってもよい。
更に、制御装置1において取得する交流電圧Va,b,c及び交流電流Ia,b,cは、それぞれ、発電設備内に限らず、電力系統20内において検出した交流電圧Va,b,c及び交流電流Ia,b,cであってもよい。
[第2の実施形態]
本実施形態では、図1の制御装置1における発電機模擬部100の別の例について説明する。すなわち、本実施形態で説明する制御装置1は、直流電源2により発生させた直流電力を交流電力に変換して電力系統20に出力するインバータ装置3を制御する装置である。制御装置1は、図1に示したように、発電機模擬部100と、制御信号生成部110と、出力目標設定部120と、基準周波数設定部130とを備える。発電機模擬部100は、位相算出部101と、角周波数調整部102とを含む。制御信号生成部110は、正弦波生成部111と、パルス幅変調部112とを含む。
図7は、第2の実施形態に係る制御装置における発電機模擬部の構成を示す図である。図7に示すように、本実施形態に係る発電機模擬部100における位相差算出部101は、有効電力計測部101aと、減算器101bと、第1の積分器101cと、加算器101fと、第2の積分器101eとを含む。
有効電力計測部101aは、電圧検出器6により検出した交流電圧Va,b,cと、電流検出器7により検出した交流電流Ia,b,cとに基づいて、現時点における電力系統20の有効電力Pを計測する。有効電力計測部101aは、既知の計測方法に従って、電力系統20の有効電力Pを計測する。
減算器101bは、インバータ装置3に出力させる有効電力の目標値(出力目標)と、計測した有効電力Pとの差分を算出する。出力目標は、出力目標設定部120(図1を参照)から入力される。
第1の積分器101cは、出力目標と有効電力計測部101aで計測した有効電力Pとの差分を時間積分して出力する。すなわち、本実施形態の制御装置1における位相算出部101では、第1の積分器101cは、内部位相角δの値によらず、常に有効電力Pと出力目標との差分を時間積分して得られる値を角周波数調整値Δωとして出力する。
加算器101dは、第1の積分器101cが出力した角周波数調整値Δωと、基準周波数ω0と、角周波数調整部102から入力される調整量とを加算して出力する。基準周波数ω0は、基準周波数設定部130(図1を参照)から入力される。基準周波数ω0は、電力系統20における電力の基準周波数であり、例えば、50Hz或いは60Hzとする。角周波数調整部102から入力される調整量は、内部位相角δの大きさと、所定の関数f(δ)とに基づいて算出される角周波数の調整量である。関数f(δ)は、内部位相角δが小さくなる方向に角周波数ωを変更させる値を算出する関数であり、内部位相角δが大きくなるほど調整量が大きくなるような関数とする。本実施形態に係る以下の説明では、第1の積分器101cが出力する角周波数調整値Δωを第1の調整値Δωともいい、角周波数調整部102が算出する角周波数の調整量を第2の調整値ともいう。
第2の積分器101eは、加算器101dから入力される角周波数を時間積分し、時間積分の結果をインバータ装置3から出力する電圧の位相θとして出力する。本実施形態の制御装置1では、第2の積分器101が出力した位相θは、制御信号生成部110の正弦波生成部111(図1を参照)に入力されるとともに、角周波数調整部102の内部位相角算出部102aに入力される。
また、図7に示すように、本実施形態に係る発電機模擬部100における角周波数調整部102は、内部位相角算出部102aと、第1のゲイン適用部102fと、調整量算出部102gと、第2のゲイン適用部102hとを含む。
内部位相角算出部102aは、第1の実施形態で説明したように、電力系統20の交流電圧の位相と位相算出部101が算出した位相θとの位相差(内部位相角)δを算出する。本実施形態では、有効電力計測部101aに入力される交流電圧Va,b,cを、電力系統20の交流電圧とする。内部位相角算出部102aは、例えば、上記の式(2-1)、式(2-2)、及び式(2-3)により、内部位相角δを算出する。
第1のゲイン適用部102fは、内部位相角算出部102aで算出した内部位相角δに対し所定のゲインaを適用する。第1のゲイン適用部102fは、例えば、内部位相角δにゲインaを適用した値a・δを算出して出力する。ゲインaは、任意の正の値であり、a=1であってもよい。
調整量算出部102gは、内部位相角δ(又はa・δ)をパラメータとする関数f(δ)により、内部位相角δと対応した角周波数の調整量を算出する。ここで、関数f(δ)は、内部位相角δが小さくなる方向に、模擬する同期発電機における回転体の角周波数が加速又は減速される値を算出可能な関数とする。例えば、関数f(δ)は、f(δ)=tan(δ)とする。
第2のゲイン適用部102hは、調整量算出部102gで算出した調整量に対し所定のゲインbを適用する。第2のゲイン適用部102hは、例えば、調整量算出部102gで算出した調整量にゲインbを乗算又は加算した値を出力する。ゲインbは、任意の正の値であり、b=1であってもよい。第2のゲイン適用部102hは、ゲインbを適用した角周波数の調整量を位相算出部101の加算器101fに入力する。
本実施形態の制御装置1における発電機模擬部100は、上記のように、内部位相角算出部102aにおいて算出した内部位相角δの大きさに応じた調整量を算出し、位相算出部101の第2の積分器101eに入力する角周波数を調整する。このとき、調整量算出部102gにおいて関数f(δ)=tan(δ)により調整量を算出すると、内部位相角δが大きいほど、調整量の値が大きくなる。このため、例えば、関数f(δ)=tan(δ)により算出した調整量を、模擬する同期発電機の回転体の角周波数調整値Δω+ω0に加算又は減算することにより、内部位相角δの増大による脱調を防ぐことが可能となる。
また、本実施形態のように関数f(δ)=tan(δ)により調整量を算出する場合、内部位相角δが0に近い値であれば調整量は小さな値となる上、内部位相角δの増大に伴い調整量が連続的に増加する。このため、本実施形態の制御装置1では、発電機模擬部100において模擬する同期発電機の回転体の角周波数が連続的に変化する。従って、本実施形態の制御装置1によれば、インバータ装置3の制御を同期発電機における回転体の角周波数の変化態様により近づけることが可能となり、より自然な制御が可能となる。
なお、図7の角周波数調整部102の構成は、第2の実施形態に係る角周波数調整部102の構成の一例に過ぎない。本実施形態に係る角周波数調整部102の構成は、本実施形態の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。例えば、調整量算出部102gにおいて調整量を算出する関数f(δ)は、f(δ)=tan(δ)に限らず、他の関数であってもよい。例えば、調整量を算出する関数f(δ)は、正負の符号が内部位相角δと同一であり、かつ内部位相角δの絶対値が大きくなるに連れて調整量が大きくなる関数から選択することが可能である。例えば、関数f(δ)は、f(δ)=tan(δ)-δであってもよい。更に、関数f(δ)は、例えば、f(δ)=δ3、或いはf(δ)=δ5等であってもよい。
また、本実施形態に係る位相算出部101及び角周波数調整部102を含む制御装置1は、コンピュータと、該コンピュータに実行させるプログラムとにより実現することも可能である。
また、本実施形態では、蓄電池を直流電源2とする発電設備におけるインバータ装置3の制御装置1を例に挙げたが、直流電源2は、これに限らず、太陽光パネル等の直流電力を発生させる発電機であってもよい。
更に、制御装置1において取得する交流電圧Va,b,c及び交流電流Ia,b,cは、それぞれ、発電設備内に限らず、電力系統20内において検出した交流電圧Va,b,c及び交流電流Ia,b,cであってもよい。
[第3の実施形態]
図8は、第3の実施形態に係る制御装置の機能的構成を示す図である。図8に示すように、本実施形態に係る制御装置1は、発電機模擬部100と、制御信号生成部110と、出力目標設定部120と、基準周波数設定部130とを備える。本実施形態の制御装置1における制御信号生成部110、出力目標設定部120、基準周波数設定部130、それぞれ、第1の実施形態で説明した機能を持つ。制御信号生成部110は、正弦波生成部111と、パルス幅変調部112とを含む。
本実施形態の制御装置1における発電機模擬部100は、位相算出部101と、角周波数調整部102と、遠方電圧推定部103とを含む。
本実施形態の制御装置1における位相算出部101は、第1の実施形態で説明した方法、或いは第2の実施形態で説明した方法で、インバータ装置3から出力する電力の位相θを算出する。すなわち、位相算出部101は、送電線5の位置D1で検出した交流電圧Va,b,c及び交流電流Ia,b,cと、出力目標と、電力系統20の基準周波数ω0と、角周波数調整部102から入力される情報とに基づいて、インバータ装置3から出力する電圧の位相θを算出する。
遠方電圧推定部103は、送電線5の位置D1で検出した交流電圧Va,b,cと、送電線5におけるインバータ装置3の出力端(位置D0)から位置D1までの第1の区間のリアクタンスXと位置D1から位置D2までの第2の区間のリアクタンスn・Xとの比に基づいて、位置D2における交流電圧Vsysを推定する。第1の区間のリアクタンスXは平滑化リアクトル(フィルタ)4のリアクタンスで近似され、第2の区間のリアクタンスn・Xは該第2の区間を1つの抵抗(送電線模擬部10)と見做した場合の該抵抗のリアクタンスである。遠方電圧推定部103は、例えば、原点Oを始点とする2つのベクトルV1及びV2における第1のベクトルV1の終点と第2のベクトルV2の終点と結ぶ線分を1:nに外分する点を終点とし、原点Oを始点とするベクトルであって、大きさが第1のベクトルV1と等しい第3のベクトルV3を求め、該第3のベクトルV3に基づいて交流電圧Vsysを推定する。第1のベクトルV1は、送電線5における、インバータ装置3と平滑化リアクトル4との間となる位置(例えばインバータ装置3の出力端となる位置D0)電圧Vvsgと対応するベクトルである。第2のベクトルV2は、送電線5における位置D1で検出した交流電圧Vt(Va,b,c)と対応するベクトルである。
本実施形態の制御装置1における角周波数調整部102は、第1の実施形態で説明した方法、或いは第2の実施形態で説明した方法で、位相算出部101が位相の算出に利用する角周波数の値を調整するための情報を生成し、位相算出部101に出力する。すなわち、角周波数調整部102は、電力系統20の交流電圧の位相と、位相算出部101が算出して出力した電圧の位相θとに基づいて、位相算出部101において位相の算出に利用する角周波数の値を調整するための情報を生成し、位相算出部101に出力する。なお、本実施形態に係る角周波数調整部102は、位置D1で検出した交流電圧Va,b,cの代わりに、遠方電圧推定部103で推定した交流電圧Vsysを電力系統20の交流電圧とする。すなわち、本実施形態に係る角周波数調整部102は、遠方電圧推定部103で推定した交流電圧Vsysの位相と位相算出部101が算出した位相との位相差を内部位相角δとし、角周波数の値を調整するための情報を生成する。
このように、本実施形態の制御装置1における発電機模擬部100は、インバータ装置3から見て交流電圧Va,b,cを検出する位置D1よりも遠方となる位置D2の交流電圧Vsysを推定し、推定した交流電圧Vsysを利用して同期発電機を模擬する。発電機模擬部100における位相差算出部101及び角周波数調整部102は、それぞれ、例えば、第1の実施形態で説明した構成でよい。
図9は、第3の実施形態に係る制御装置における発電機模擬部の構成例を示す図である。
発電機模擬部100の位相算出部101は、図9のように、有効電力計測部101aと、減算器101bと、第1の積分器101cと、加算器101dと、第2の積分器101eとを含む。位相算出部101における有効電力計測部101a、減算器101b、第1の積分器101c、加算器101d、及び第2の積分器101eは、それぞれ、第1の実施形態で説明した機能を持つ。
また、発電機模擬部100の角周波数調整部102は、内部位相角算出部102aと、比較部102bと、系統周波数検出部102cと、減算器102dとを含む。角周波数調整部102における内部位相角算出部102a、比較部102b、系統周波数検出部102c、及び減算器102dは、それぞれ、第1の実施形態で説明した機能を持つ。なお、本実施形態の制御装置1における内部位相角算出部102aは、遠方電圧推定部103により推定した交流電圧Vsysの位相と、位相算出部101により算出した電圧の位相θとの位相差を内部位相角δとして算出する。内部位相角算出部102aは、例えば、上記式(2-1)、式(2-2)、及び式(2-3)により、内部位相角δを算出する。また、本実施形態の制御装置1における系統周波数検出部102cは、遠方電圧推定部103により推定した交流電圧Vsysに基づいて、電力系統20における現時点での電圧の周波数ωを検出する。
図10は、遠方電圧推定部による電圧の推定方法を説明する図である。
遠方電圧推定部103により遠方電圧を推定する場合、図10に示すように、原点Oを中心とする半径r=|Vvsg|の円周C上に、位置D0の電圧Vvsgと対応するベクトルの終点PD0と、位置D2の電圧Vsysと対応するベクトルの終点PD2が存在することを利用する。電圧Vvsgと対応するベクトル及び電圧Vsysと対応するベクトルは、それぞれ、原点Oを始点とし、円周C上に終点PD0及びPD2が存在するベクトルであり、位相(方向)が異なる。電圧Vvsgは、位相算出部101が算出した電力の位相θに基づいてインバータ装置3が出力した交流電圧である。よって、電圧Vvsgと対応するベクトルと、電圧Vsysと対応するベクトルとの角δ2は、2つの電圧Vvsg及びVsysの位相差(内部位相角)となる。
このとき、位置D1の電圧Vtと対応するベクトルは、円周C上の2つの点PD0及びPD2を結ぶ線分上であって、該線分を1対nに内分する点PD1を終点とし、原点Oを始点とするベクトルで表される。電圧Vvsgは、上記のように、位相算出部101が算出した電力の位相θに基づいてインバータ装置3が出力した交流電圧である。よって、電圧Vvsgと対応するベクトルと、電圧Vtと対応するベクトルとの角δ1は、2つの電圧Vvsg及びVtの位相差(内部位相角)となる。
遠方電圧推定部103は、上記の位置D0の電圧Vvsgと対応するベクトル、位置D1の電圧Vtと対応するベクトル、及び位置D2の電圧Vsysと対応するベクトルの関係に基づいて、位置D2の電圧Vsysを推定する。具体的には、遠方電圧推定部103は、位置D1で検出した交流電圧Vt(Va,b,c)と、第1の区間のリアクタンスXと、第2の区間のリアクタンスn・Xとに基づいて、位置D2の交流電圧Vsysを推定する。
このように、本実施形態の制御装置1では、遠方電圧推定部103により推定した位置D2の交流電圧Vsysに基づいて内部位相角δを算出し、該内部位相角δに基づいて位相算出部101による位相θの算出に用いる角周波数を調整する。これにより、例えば、送電線5のインピーダンスが大きい場合(言い換えると、第1の区間のリアクタンスXと第2の区間のリアクタンスn・Xとの比nが大きい場合)にも、内部位相角δの増大を早期に検出することができ、脱調(同期外れ)を防止することができる。
以下、図11を参照して、位置D1で検出した交流電圧Va,b,c(端子電圧Vt)を利用して算出した内部位相角δに基づいて角周波数を調整する場合に起こり得る現象を説明する。図11は、端子電圧に基づいて角周波数を調整する場合に起こり得る現象を説明する図である。
図11の(a)には、位置D0の交流電圧Vvsgと位置D1の交流電圧Vtとの内部位相角δ1が所定の範囲内である場合の、位置D0の交流電圧Vvsg、位置D1の交流電圧Vt、及び位置D2の交流電圧Vsysの関係を示している。このように、位置D0の交流電圧Vvsgと位置D1の交流電圧Vtとの内部位相角δ1の絶対値がπ/4ラジアンよりも小さい場合でも、位置D0の交流電圧Vvsgと、位置D1よりも電力系統20側となる位置D2の交流電圧Vsysとの内部位相角δ2がπ/4ラジアンに近い値となることがある。
また、リアクタンスの比nが大きい場合、例えば、図11の(b)及び(c)のように、位置D1で検出した交流電圧Vt(Va,b,c)に基づく内部位相角δ1の絶対値がπ/4ラジアンよりも小さいにもかかわらず、内部位相角δ2がπ/2ラジアン(=90度)を超過し、πラジアン(=180度)に迫っていることがある。
すなわち、送電線5におけるリアクタンスの比nが大きい場合、位置D1で検出した交流電圧Vt(Va,b,c)に基づく内部位相角δ1が所定の範囲内であるにもかかわらず、位置D1よりも電力系統20に近い位置D2での内部位相角δ2は180度を超過し、脱調(同期外れ)が発生してしまうことがある。また、送電線5におけるリアクタンスの比nが大きい場合、位置D1で検出した交流電圧Vtの周波数と、位置D2で検出される交流電圧Vsysの周波数との乖離が大きくなる。このため、交流電圧Vtの周波数に基づいてインバータ装置3が出力する電力の周波数を制御する場合、インバータ装置3が出力する電力の周波数を電力系統20の周波数に合わせることが難しい。
また、送電線5における位置D2のように、電力系統20により近い位置で交流電圧を検出する場合、検出した交流電圧を制御装置1に伝送するための伝送路が長くなる。このため、例えば、伝送路における電圧降下や伝送ロス等により内部位相角δの算出精度が低下して適切な位相θを算出することが難しくなる。また、伝送路が長くなることにより、伝送路の設置やメンテナンスにかかるコストが増大する。
これに対し、本実施形態の制御装置1では、インバータ装置3の出力端に近い位置D1で検出した交流電圧Vtと、送電線5におけるリアクタンスの比nとに基づいて、位置D1よりも電力系統20に近い位置D2の交流電圧Vsysを推定する。このため、例えば、発電設備内で交流電圧Vtを検出することにより、交流電圧Vtの電圧降下や伝送ロスを防ぐことができる。また、伝送路の長距離化を防ぐことができるため、伝送路の設置やメンテナンスにかかるコストの増大を抑えることができる。すなわち、本実施形態の制御装置1を含む発電設備は、第1の実施形態の制御装置1を含む発電設備と同等の構成でありながら、送電線5のインピーダンスが大きい場合の脱調(同期外れ)も防止することができる。
以下、図12~図14を参照して、本実施形態の制御装置1によりインバータ装置3を制御した場合の作用効果について説明する。
図12は、系統周波数の時間変化の第2の例を示す図である。図13は、第1の実施形態に係る制御装置による制御を行った場合のシミュレーション結果の別の例を示す図である。図14は、第3の実施形態に係る制御装置による制御を行った場合のシミュレーション結果の例を示す図である。
本件発明者らは、コンピュータシミュレーションにより、第1の実施形態の制御装置1によりインバータ装置3を制御した場合の内部位相角δの時間変化と、本実施形態の制御装置1によりインバータ装置3を制御した場合の内部位相角δの時間変化とを調べた。
なお、シミュレーションには、図8に示したような、1つの発電機(直流電源2)を含む発電設備が電力系統20(無限大母線)に直結しているモデル(1機無限大母線系統)を使用した。発電機(直流電源2)は蓄電池とした。また、インバータ装置3の出力側のフィルタ部(平滑化リアクトル4)は機器容量ベースで5%のリアクタンスとし、位置D1よりも電力系統20側の送電線模擬部10は機器容量ベースで50%のリアクタンスとした。
また、シミュレーションでは、無限大母線を理想電圧源とし、系統周波数が図12のグラフ41に示した周波数比ωs/ω0のように時間変化をした場合の、内部位相角δの時間変化及び交流電圧Va,b,cの時間変化等を算出した。周波数比ωs/ω0は電力系統20の周波数ωsと基準周波数ω0との比である。
グラフ41における時刻0秒から2.0秒までの周波数比ωs/ω0の時間変化は、図4のグラフ40における時間変化と同じである。グラフ41における時刻2.0秒から4.0秒までの期間は、時刻2.1秒までの0.1秒間で周波数比が1.02から0.99まで低下した後、0.99を維持している。
電力系統20の周波数ωsがグラフ41に示したような時間変化をする場合に、第1の実施形態で説明した方法でインバータ装置3を制御するシミュレーションを行うと、図13に示すような結果が得られた。なお、図13には、位置D1で検出した交流電圧Va,b,c及び位相θから内部位相角δを算出し、該内部位相角δが所定の範囲内(π/3ラジアン=60度)となるようにインバータ装置3を制御した場合のシミュレーション結果を示している。
図13には、4個のグラフ71~74を示している。グラフ71は、端子電圧の時間変化、すなわち電圧検出器6により検出される位置D1の交流電圧Va,b,cの時間変化を示している。グラフ72は、出力電流の時間変化、すなわち電流検出器7により検出される交流電流Ia,b,cの時間変化を示している。グラフ73は、3つの周波数比ωs/ω0、(Δω+ω0)/ω0、及びω/ω0の時間変化を示している。グラフ73における周波数比ω/ω0は、系統周波数検出部102cにおいて交流電圧Va,b,c(Vt)から検出した周波数ωについての周波数比である。そして、グラフ74は、内部位相角δ(度)の時間変化を示している。なお、図13のグラフ71~74は、それぞれ、図12のグラフ41における時刻0秒から1秒までの期間のシミュレーション結果を省略している。
グラフ73に示すように、電力系統20の周波数比ωs/ω0は、時刻1秒から1.2秒までの期間に1.00から1.02に増加する。その後、電力系統20の周波数比ωs/ω0は、時刻1.3秒から1.4秒までの期間に1.02から1.00に戻るが、時刻1.5秒となったときに1.02に上昇し、時刻2.0秒まで1.02の状態が続く。しかしながら、電力系統20の周波数比ωs/ω0の時間変化量がこの程度の比較的小さい変化量である場合、角周波数調整部102による角周波数の調整を行わなくても、第1の積分器101cから出力される角周波数調整値Δωは、電力系統20の周波数ωsの変化に追従する。このため、時刻1秒から2秒までの期間における内部位相角δの値は比較的小さな値で推移する。従って、時刻1秒から2秒までの期間における端子電圧Va,b,cの位相とインバータ装置3が出力する交流電圧の位相θとの位相差(内部位相角δ)は、例えば、グラフ74のように、60度から-60度までの範囲内で変化する。
その後、グラフ73に示すように、電力系統20の周波数比ωs/ω0は、時刻2秒から2.1秒までの期間に著しく低下し、2.1秒から4秒までの間は一定の値となる。周波数比ωs/ω0は、時刻2秒から2.1秒までの0.1秒間で0.03だけ低下している。すなわち、電力系統20の基準周波数ω0が50Hzである場合、該電力系統20の周波数ωsは、時刻2秒から2.1秒までの0.1秒間で1.5Hz変化したことになる。このように、電力系統20の周波数ωsが急速に変化した場合、有効電力Pと出力目標との差分が大きくなり、該差分の時間積分である角周波数調整値Δωと、模擬する同期発電機における回転体の角周波数との差が大きくなる。これにより、グラフ74のように、時刻2秒を過ぎると内部位相角δが急速に大きくなり、時刻t12(約2.22秒)の時点で内部位相角δが60度を超過する。このため、第1の実施形態の制御装置1では、時刻t12に角周波数調整部102が出力する出力セット信号SSがオンになり、位相算出部101の第1の積分器101cが出力する角周波数調整値Δωは角周波数調整部102が出力したセット値出力ω―ω0となる。
ところが、送電線5における第1の区間(位置D0から位置D1まで)のリアクタンスXと第2の区間(位置D1から位置D2まで)のリアクタンスn・Xとの比nが大きい場合、位置D1における交流電圧Va,b,c(Vt)と、位置D1よりも電力系統20に近い位置D2における交流電圧Vsysとは、上記のように、周波数の乖離が大きくなる。すなわち、本シミュレーションのように、第1の区間(平滑化リアクトル4)のリアクタンスが機器容量ベースで5%であり、第2の区間(送電線模擬部10)のリアクタンスが機器容量ベースで50%である場合、位置D1における交流電圧Va,b,c(Vt)と位置D2における交流電圧Vsysとの周波数の乖離が大きくなる。このため、時刻t12において角周波数調整値Δωを角周波数調整部102が出力したセット値出力ω―ω0に切り替えたとしても、グラフ73のように、位相算出部101の第2の積分器101eに入力される周波数Δω+ω0と、電力系統20の周波数ωsとの間にずれが生じる。よって、位相算出部101が算出するインバータ装置3の電力の位相θと電力系統20の位相とにずれが生じ、内部位相角δの増大を抑えることができず、時刻t12以降も内部位相角δが増大し続ける。そして、時刻t13(約2.97秒)において内部位相角δが180度を超過し、脱調(同期外れ)が発生した。
時刻t13以降、内部位相角δは増大を続け、グラフ74のように一度は絶対値が60度以下になるが、時刻t14で、内部位相角δは再度60度を超過する。このときも、第1の実施形態の制御装置1では内部位相角δの増大を抑制することができず、時刻t15に内部位相角δが180度を超過し、脱調(同期外れ)が発生した。
このように、交流電圧Va,b,c(Vt)を検出する位置D1よりも電力系統側のリアクタンスがインバータ装置3から位置D1までの区間のリアクタンスと比べて大きい場合、第1の実施形態の制御装置1では、内部位相角δの絶対値の増大を抑制することができず、脱調(同期外れ)が発生することがある。
これに対し、本実施形態に係る制御装置1によりインバータ装置3を制御するシミュレーションを行うと、図14に示すような結果が得られた。
図14には、4個のグラフ81~84を示している。グラフ81は、端子電圧の時間変化、すなわち電圧検出器6により検出される交流電圧Va,b,cの時間変化を示している。グラフ82は、出力電流の時間変化、すなわち電流検出器7により検出される交流電流Ia,b,cの時間変化を示している。グラフ83は、3つの周波数比ωs/ω0、(Δω+ω0)/ω0、及びω/ω0時間変化を示している。グラフ83における周波数比ω/ω0は、推定した位置D2の交流電圧Vsysから検出した周波数ωについての周波数比である。そして、グラフ84は、内部位相角δ(度)の時間変化を示している。なお、図14のグラフ81~84は、それぞれ、図12のグラフ41における時刻0秒から1秒までの期間のシミュレーション結果を省略している。
本実施形態の制御装置1によりインバータ装置3を制御する場合も、上記のように、内部位相角δが所定の範囲内(|δ|≦60度)であれば、第1の積分器101cから出力される角周波数調整値Δωは、有効電力Pと出力目標との差分を時間積分した値である。そして、図14に示したグラフ83及び84における時刻1秒から2秒までの期間のように、電力系統20の周波数ωsの時間変化量が比較的小さく、かつ内部位相角δが所定の範囲内である場合、有効電力Pと出力目標との差分を時間積分した角周波数調整値Δωに基づいて算出される周波数Δω+ω0は、周波数ωsの変化に追従する。このため、時刻1秒から2秒までの期間における内部位相角δの値は、絶対値が60度以下となる比較的小さな値で推移する。
また、グラフ83に示すように、電力系統20の周波数比ωs/ω0は、時刻2秒から2.1秒の間で著しく低下し、以後、4秒まで一定の値となる。電力系統20の周波数ωsが急速に変化した場合、上記のように、有効電力Pと出力目標との差分が大きくなり、該差分の時間積分である角周波数調整値Δωと、模擬する同期発電機における回転体の角周波数との差が大きくなる。このため、図13のシミュレーション結果と同様、時刻2秒を過ぎると内部位相角δが大きくなる。しかも、本実施形態の制御装置1は、交流電圧Va,b,cを検出した位置D1よりも電力系統20側となる位置D2の交流電圧Vsysの推定し、該交流電圧Vsysの位相と、位相算出部101が算出した位相θとの位相差を内部位相角δとして算出する。このため、本実施形態の制御装置1により算出する内部位相角δは、上記のように、第1の実施形態の制御装置1により算出する内部位相角δよりも速く増大する。このため、本実施形態の制御装置1では、図13に示した時刻t12よりも前の時刻t11(約2.17秒)に内部位相角δが60度を超過する。従って、本実施形態の制御装置1は、時刻t11に、角周波数調整部102が出力する出力セット信号SSがオンになり、位相算出部101の第1の積分器101cは、角周波数調整部102が出力したセット値出力ω-ω0を角周波数調整値Δωとして出力する。ここで、セット値出力ω-ω0における周波数ωは、交流電圧Va,b,cを検出した位置D1よりも電力系統20側となる位置D2の交流電圧Vsysの周波数であり、電力系統20の周波数ωsとの差が非常に小さい。このため、本実施形態の制御装置1では、セット値出力ω-ω0の時間積分により算出する位相θと、電力系統20の電力の位相との差が小さくなり、インバータ装置3から出力する交流電圧Vvsgの周波数を電力系統20の周波数ωsに合わせやすい。よって、本実施形態の制御装置1では、グラフ83及び84のように、時刻t11以降の周波数Δω+ω0が電力系統20の周波数ωsに追従し、内部位相角δは60度を維持する。従って、本実施形態の制御装置1では、送電線5のインピーダンスが大きい場合でも、内部位相角δの増大による脱調(同期外れ)の発生を防ぐことができる。
なお、図9の位相算出部101及び角周波数調整部102の構成は、それぞれ、本実施形態に係る位相算出部101及び角周波数調整部102の構成の一例に過ぎない。位相算出部101及び角周波数調整部102の構成は、本実施形態の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。例えば、本実施形態の制御装置1における位相算出部101及び角周波数調整部102は、図15のような構成であってもよい。
図15は、第3の実施形態に係る制御装置における発電機模擬部の別の構成例を示す図である。図15の発電機模擬部100における位相算出部101及び角周波数調整部102は、それぞれ、第2の実施形態で説明した位相算出部101及び角周波数調整部102と同様の構成となっている。すなわち、本実施形態の制御装置1における角周波数調整部102は、内部位相角算出部102aと、第1のゲイン適用部102fと、調整量算出部102gと、第2のゲイン適用部102hとを含む構成であってもよい。この場合、角周波数調整部102は、遠方電圧推定部103により推定した位置D2の交流電圧Vsysと、位相算出部101により算出した位相θとの位相差(内部位相角)δに対し、所定のゲインaを適用した後、調整量算出部102gにより内部位相角δの大きさに応じた角周波数の調整量を算出する。その後、角周波数調整部102は、角周波数の調整量に対しゲインbを適用して位相算出部101に出力する。
図15の発電機模擬部100における位相算出部101は、有効電力計測部101aと、減算器101bと、第1の積分器101cと、加算器101fと、第2の積分器101eとを含む。位相算出部101におけるこれらの構成要素は、それぞれ、第2の実施形態で説明した機能を持つ。
また、図示は省略するが、発電機模擬部100における位相算出部101及び角周波数調整部102は、それぞれ、図9及び図15に示した構成に限らず、本実施形態の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
更に、本実施形態に係る位相算出部101及び角周波数調整部102を含む制御装置1は、コンピュータと、該コンピュータに実行させるプログラムとにより実現することも可能である。
また、本実施形態では、蓄電池を直流電源2とする発電設備におけるインバータ装置3の制御装置1を例に挙げたが、直流電源2は、これに限らず、太陽光パネル等の直流電力を発生させる発電機であってもよい。