以下、本発明によるパワーサイクル試験回路を、好適な実施の形態にしたがって図面を用いて説明する。なお、図面の説明においては、同一部分または相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
実施の形態1.
まず、本実施の形態1におけるパワーサイクル試験回路の試験対象である被試験デバイスQ1のIc-Vce特性の一例について、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態1におけるパワーサイクル試験回路の試験対象である被試験デバイスQ1のIc-Vce特性を示す概略図である。
図1において、横軸はコレクタ・エミッタ電圧Vceを示し、縦軸はコレクタ電流Icを示し、ジャンクション温度Tjおよびゲート電圧Vgeを媒介変数として、コレクタ・エミッタ電圧Vceとコレクタ電流Icとの関係がプロットされている。また、図1では、ゲート電圧VgeがHレベルのゲート電圧VgeHである15Vであって、25℃、50℃、100℃および150℃の4通りのジャンクション温度Tjのそれぞれについて、上述の関係が示されている。
ここで、一般には、被試験デバイスQ1の動作限界は、デバイスメーカが提供する仕様書に明示されている。このような仕様書には、コレクタ電流の最大許容値Icmaxと、コレクタ損失の最大許容値Pcmaxと、ジャンクション温度の最大許容値Tjmaxとが具体的に示されている。例えば、被試験デバイスQ1がIGBT(三菱電機株式会社製;CM75DY-24NF)である場合、Icmax、PcmaxおよびTjmaxは、それぞれ、75A、430Wおよび150℃となる。
次に、被試験デバイスQ1の安全動作領域(Safty Operarting Area:SOA)の一例について、図2を参照しながら説明する。図2は、本発明の実施の形態1におけるパワーサイクル試験回路の試験対象である被試験デバイスQ1のSOAを示す概略図である。
図2では、上述のIcmax、PcmaxおよびTjmaxを参照して、コレクタ電流Icの制限領域a、コレクタ損失の制限領域bおよび二次降伏領域cのそれぞれの境界線が示され、これらの境界線に相当するSOA曲線の内側の領域がSOAとなる。
次に、本実施の形態1におけるパワーサイクル試験回路(以下、試験回路と略す)10について、図3を参照しながら説明する。図3は、本発明の実施の形態1における試験回路10の構成を示す回路図である。
図3において、試験回路10は、第1の増幅素子A1および負荷抵抗R1を有するコレクタ電流制御回路11と、第2の増幅素子A2および補助デバイスQ2を有するコレクタ・エミッタ電圧制御回路12と、第1の制御信号Vs1を出力する第1の制御信号源S1と、第2の制御信号Vs2を出力する第2の制御信号源S2と、被試験デバイスQ1を駆動させるためのパワーを供給する定電圧源Vccとを備える。
被試験デバイスQ1は、IGBTであり、コレクタ端子に相当する端子T11と、エミッタ端子に相当する端子T12と、ゲート端子に相当する端子T13とを有する。
端子T11は、補助デバイスQ2の後述する端子T22に接続され、端子T12は、第1の増幅素子A1の負入力端子と負荷抵抗R1とに接続され、端子T13は、増幅素子A1の出力端子に接続される。
第1の増幅素子A1は、第1の制御信号源S1の正側に接続される正入力端子と、端子T12と負荷抵抗R1との接続点に接続される負入力端子と、端子T13に接続される出力端子とを有する。
負荷抵抗R1の一端は、端子T12と第1の増幅素子A1の負入力端子とに接続され、負荷抵抗R1の他端は、定電圧源Vccの負側と、第1の制御信号源S1の負側と、第2の制御信号源S2の負側とに接続される。
ここで、第1の増幅素子A1の正入力端子には、第1の制御信号源S1から第1の制御信号Vs1が入力される。コレクタ電流制御回路11は、被試験デバイスQ1の端子T12の電位を第1の制御信号Vs1に追従させるボルテージフォロワー動作を行う。具体的には、コレクタ電流制御回路11では、第1の増幅素子A1の出力が端子T13に入力され、その結果、被試験デバイスQ1の端子T12の電位が、第1の増幅素子A1の正入力端子に入力される第1の制御信号Vs1に追従する。
このようなコレクタ電流制御回路11の構成によって、被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icは、第1の制御信号Vs1と、負荷抵抗R1の抵抗値Rとを用いて、以下の式(1)のように表される。ただし、抵抗値Rは一定値である。
Ic[A]=Vs1/R (1)
補助デバイスQ2は、例えば、MOSFETまたはIGBT等を用いることができ、入力端子に相当する端子T21と、出力端子に相当する端子T22と、制御端子に相当する端子T23とを有する。補助デバイスQ2がIGBTである場合、端子T21、端子T22および端子T23は、それぞれ、コレクタ端子、エミッタ端子およびゲート端子となる。補助デバイスQ2がMOSFET(Metal-Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)である場合、端子T21、端子T22および端子T23は、それぞれ、ドレイン端子、ソース端子およびゲート端子になる。
端子T21は、定電圧源Vccの正側に接続され、端子T22は、第2の増幅素子A2の負入力端子と被試験デバイスQ1の端子T11とに接続され、端子T23は、第2の増幅素子A2の出力端子に接続される。
第2の増幅素子A2は、第2の制御信号源S2の正側に接続される正入力端子と、端子T22と端子T11との接続点に接続される負入力端子と、端子T23に接続される出力端子とを有する。
ここで、第2の増幅素子A2の正入力端子には、第2の制御信号源S2から第2の制御信号Vs2が入力される。コレクタ・エミッタ電圧制御回路12は、補助デバイスQ2の端子T22の電位を第2の制御信号Vs2に追従させるボルテージフォロワー動作を行う。具体的には、コレクタ・エミッタ電圧制御回路12では、第2の増幅素子A2の出力が端子T23に入力され、その結果、補助デバイスQ2の端子T22の電位が、第2の増幅素子A2の正入力端子に入力される第2の制御信号Vs2に追従する。
このようなコレクタ・エミッタ電圧制御回路12の構成によって、被試験デバイスQ1のコレクタ・エミッタ電圧Vceは、第1の制御信号Vs1と、第2の制御信号Vs2とを用いて、以下の式(2)のように表される。
Vce[V]=(Vs2-Vs1) (2)
上述の式(1)から分かるように、コレクタ電流制御回路11は、第1の制御信号源S1から入力される第1の制御信号Vs1に従って、被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icを制御する。また、上述の式(2)から分かるように、コレクタ・エミッタ電圧制御回路12は、コレクタ電流制御回路11によるコレクタ電流Icの制御とは独立して、第2の制御信号源S2から入力される第2の制御信号Vs2に従って、被試験デバイスQ1のコレクタ・エミッタ電圧Vceを制御する。
次に、図3に示す試験回路10によってパワーサイクル試験が行われるときの被試験デバイスQ1の信号波形について、図4を参照しながら説明する。図4は、本発明の実施の形態1における試験回路10によってパワーサイクル試験が行われるときの被試験デバイスQ1の信号波形を示す概略図である。なお、ここでは、図3に示す負荷抵抗R1の抵抗値Rが10mΩであるものとしている。
図4では、パワーサイクル試験において被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icの波形がステップ状に2サイクル分制御されるときの、端子T11の電位V11と、端子T12の電位V12と、コレクタ電流Icとのそれぞれの時間変化が示されている。
図4に示すように、電位V11は、第2の制御信号Vs2に従って変化し、電位V12は、第1の制御信号Vs1に従って変化する。また、電位V11および電位V12の時間変化に伴って、コレクタ電流Icが変化する。
ここで、被試験デバイスQ1のコレクタ・エミッタ電圧Vceは、電位V11および電位V12を用いて、以下の式(3)のように表される。式(2)および式(3)から分かるように、電位V11は、第2の制御信号Vs2と等価であり、電位V12は、第1の制御信号Vs1と等価である。
Vce[V]=(V11-V12) (3)
図4に示すように、パワーサイクル試験が行われると、電位V11と電位V12との電位差、すなわちコレクタ・エミッタ電圧Vceが約6Vとなり、コレクタ電流Icが約60Aとなる。この場合、被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icとコレクタ・エミッタ電圧Vceとの積に相当するコレクタ損失Pcは、約360Wとなる。
次に、パワーサイクル試験が行われるときの被試験デバイスQ1の動作範囲について、図5を参照しながら説明する。図5は、本発明の実施の形態1における試験回路10によってパワーサイクル試験が行われるときの被試験デバイスQ1の動作範囲を示す概略図である。図5に示すように、パワーサイクル試験が行われるときに設定可能な被試験デバイスQ1の動作範囲は、図1に示すSOA内となる。
ここで、試験回路10は、パワーサイクル試験を行っている間、被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icおよびコレクタ・エミッタ電圧VceをSOA内の設定された動作点となるように制御する。
すなわち、試験回路10は、第1の制御信号Vs1と第2の制御信号Vs2とに従って、被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icおよびコレクタ・エミッタ電圧VceがSOA内の設定された動作点となるように制御する。コレクタ電流制御回路11に入力する第1の制御信号Vs1と、コレクタ・エミッタ電圧制御回路12に入力する第2の制御信号Vs2とがそれぞれ調整されることで、コレクタ電流Icおよびコレクタ・エミッタ電圧VceがSOA内で自在に制御される。
また、試験回路10の構成によって、第1の制御信号Vs1に従って第1の増幅素子A1の出力がゲート電圧Vgeとして被試験デバイスQ1の端子T13に入力され、第2の制御信号Vs2に従って第2の増幅素子A2の出力がゲート電圧として補助デバイスQ2の端子T23に入力される。したがって、被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icおよびコレクタ・エミッタ電圧Vceが速やかに所望の値に収束する。
さらに、コレクタ電流Icおよびコレクタ・エミッタ電圧Vceの個別制御に対応して、ジャンクション温度Tjが時間的に変化する。パワーサイクル試験が行われている間、このジャンクション温度Tjは、最大許容値Tjmaxを超えないような値でなければならない。また、パワーサイクル試験が行われている間のジャンクション温度Tjの実測は、可能ではない。しかしながら、以下の式(4)に従って、コレクタ損失Pcと、被試験デバイスQ1のインピーダンス関数Zthとの畳み込み積分が演算されることで、ジャンクション温度Tjが演算可能である。ただし、式(4)において、被試験デバイスQ1のインピーダンス関数Zthが既知であるものとし、tは時間を示している。
Tj(t)=Pc(t)*Zth (4)
以上から分かるように、パワーサイクル試験が行われているときの被試験デバイスQ1のインピーダンス関数Zthが既知であれば、式(4)に従ってジャンクション温度Tjが演算可能である。また、ジャンクション温度Tjの演算によって、パワーサイクル試験が行われているときに、ジャンクション温度Tjと最大許容値Tjmaxとの比較が可能である。
次に、本実施の形態1における試験回路10によって実現される効果について、比較例を参照しながら説明する。
まず、試験回路10の比較例に相当する試験回路100の構成について、図6を参照しながら説明する。図6は、本発明の実施の形態1における試験回路10の比較例に相当する試験回路100の構成を示す回路図である。
図6において、試験回路100は、被試験デバイスQ1への試験電流の通電と遮断とを繰り返す電流駆動回路モデルが適用される。具体的には、試験回路100は、被試験デバイスQ1への試験電流の通電と遮断とを繰り返す電流源Iccと、被試験デバイスQ1の端子T13にゲート電圧Vgeを印加するゲート電圧源Vbとを備える。
端子T11は、電流源Iccの正側に接続され、端子T12は、電流源Iccの負側とゲート電圧源Vbの負側とに接続され、端子T13は、ゲート電圧源Vbの正側に接続される。
図7は、図6の試験回路100によってHレベルのゲート電圧VgeHが印加される場合の被試験デバイスQ1のIc-Vce特性を示す概略図である。図8は、図6の試験回路100によってLレベルのゲート電圧VgeLが印加される場合の被試験デバイスQ1のIc-Vce特性を示す概略図である。なお、ゲート電圧VgeHは、例えば+15Vであり、ゲート電圧VgeLは、例えば+11V以上+12V以下である。
図7および図8において、横軸はコレクタ・エミッタ電圧Vceを示し、縦軸はコレクタ電流Icを示し、ジャンクション温度Tjおよびゲート電圧Vgeを媒介変数として、コレクタ・エミッタ電圧Vceとコレクタ電流Icの関係がプロットされている。図7では、ゲート電圧Vgeがゲート電圧VgeHであって、25℃および150℃の2通りのジャンクション温度Tjのそれぞれについて、上述の関係が示されている。また、図8では、ゲート電圧Vgeがゲート電圧VgeLであって、25℃および150℃の2通りのジャンクション温度Tjのそれぞれについて、上述の関係が示されている。
ゲート電圧源Vbからゲート電圧VgeHが端子T13に印加されると、被試験デバイスQ1の動作点は、図7に示す特性によって示される。ゲート電圧源Vbからゲート電圧VgeLが端子T13に印加されると、被試験デバイスQ1の動作点は、図8に示す特性によって示される。
このような試験回路100の構成において、電流源Iccから被試験デバイスQ1への試験電流の通電と遮断とが繰り返されれば、被試験デバイスQ1の内部では発熱と熱拡散とが繰り返される。
続いて、試験回路10によって実現される効果について説明する。本実施の形態1における試験回路10は、上述したように、被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icおよびコレクタ・エミッタ電圧Vceを個別に制御することできる。
また、試験回路10は、コレクタ電流Icおよびコレクタ・エミッタ電圧Vceを個別に制御することで、コレクタ電流Icとコレクタ・エミッタ電圧Vceとの積に相当するコレクタ損失Pcを制御することができる。さらに、上述の式(4)から分かるように、試験回路10は、コレクタ損失Pcを制御することで、ジャンクション温度Tjを制御することができる。
ここで、図6の試験回路100によってパワーサイクル試験が行われている間の被試験デバイスQ1のコレクタ損失Pcについて、図9~図16を参照しながら説明する。
図9は、図6の試験回路100によってHレベルのゲート電圧VgeHが印加される場合の被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icの時間変化を示す概略図である。図10は、図6の試験回路100によってHレベルのゲート電圧VgeHが印加される場合の被試験デバイスQ1のコレクタ損失Pcの時間変化を示す概略図である。図11は、図6の試験回路100によってLレベルのゲート電圧VgeLが印加される場合の被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icの時間変化を示す概略図である。図12は、図6の試験回路100によってLレベルのゲート電圧VgeLが印加される場合の被試験デバイスQ1のコレクタ損失Pcの時間変化を示す概略図である。
図13は、図6の試験回路100によってHレベルのゲート電圧VgeHが印加される場合の被試験デバイスQ1のIc-Vce特性を示す概略図である。図14は、図6の試験回路100によってHレベルのゲート電圧VgeHが印加される場合の被試験デバイスQ1のコレクタ・エミッタ電圧Vceの時間変化を示す概略図である。図15は、図6の試験回路100によってLレベルのゲート電圧VgeLが印加される場合の被試験デバイスQ1のIc-Vce特性を示す概略図である。図16は、図6の試験回路100によってLレベルのゲート電圧VgeLが印加される場合の被試験デバイスQ1のコレクタ・エミッタ電圧Vceの時間変化を示す概略図である。
試験回路100によって被試験デバイスQ1にゲート電圧Vgeが印加される場合、図6から分かるように、コレクタ電流Icは、電流源Iccから供給される。また、この場合、コレクタ・エミッタ電圧Vceは、ゲート電圧源Vbによるゲート電圧Vgeの印加に拘束されない。したがって、試験回路100によって被試験デバイスQ1にゲート電圧Vgeが印加されると、先の図1に示すIc-Vce特性に起因して、コレクタ電流Icおよびコレクタ損失Pcは、図9~図12に示すような挙動を示す。
すなわち、ゲート電圧Vgeがゲート電圧VgeHである場合、図9および図10から分かるように、コレクタ電流Icが立ち上ったことに伴ってコレクタ損失Pcが立ち上がる。コレクタ損失Pcは、立ち上がた後、時間の経過とともに増加し、最大許容値Pcmaxを上回る。
ゲート電圧Vgeがゲート電圧VgeLである場合、図11および図12から分かるように、コレクタ電流Icが立ち上ったことに伴ってコレクタ損失Pcが立ち上がって最大許容値Pcmaxに対してオーバーシュートする。コレクタ損失Pcは、最大許容値Pcmaxに対してオーバーシュートした後、時間の経過とともに減少し、最大許容値Pcmaxを下回って一定値に収束する。
また、試験回路100によって被試験デバイスQ1にゲート電圧Vgeが印加されると、Ic-Vce特性およびコレクタ・エミッタ電圧Vceは、図13~図16に示すような挙動を示す。
すなわち、ゲート電圧Vgeがゲート電圧VgeHである場合、図13および図14に示すとおり、iのようにコレクタ電流Icが立ち上がって、ジャンクション温度Tjの上昇の影響を受けながら、iiのようにコレクタ・エミッタ電圧Vceが変化する。同様に、ゲート電圧Vgeがゲート電圧VgeLである場合、図15および図16に示すとおり、iiiのようにコレクタ電流Icが立ち上がって、ジャンクション温度Tjの上昇の影響を受けながら、iVのようにコレクタ・エミッタ電圧Vceが変化する。
ここで、パワーサイクル試験時の被試験デバイスQ1の発熱量は、コレクタ損失Pcと等価である。また、被試験デバイスQ1が搭載される機器では、一般的に、被試験デバイスQ1へのゲート電圧VgeHの印加に伴って被試験デバイスQ1が駆動するように設計される。さらに、被試験デバイスQ1の駆動時にコレクタ・エミッタ電圧Vceが低い値となってコレクタ損失Pcを抑制するように設計される。
このような設計を前提として、被試験デバイスQ1の信頼性の評価を短期間で行うには、パワーサイクル試験で被試験デバイスQ1がより高い発熱量を発生可能にするために、被試験デバイスQ1の動作点を先の図2に示すSOA曲線付近に設定する必要がある。しかしながら、図6の試験回路100によってパワーサイクル試験が行われる場合、被試験デバイスQ1の動作点を先の図2に示すSOA曲線付近に設定すると、コレクタ損失Pcが最大許容値Pcmaxを一時的に上回ってしまいやすい。
次に、本実施の形態1における試験回路10によってパワーサイクル試験が行われている間の被試験デバイスQ1のコレクタ損失Pcについて、図17~図19を参照しながら説明する。
図17は、本発明の実施の形態1における試験回路10によってパワーサイクル試験が行われる場合の被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icおよびコレクタ・エミッタ電圧Vceの時間変化を示す概略図である。図18は、本発明の実施の形態1における試験回路10によってパワーサイクル試験が行われる場合の被試験デバイスQ1のコレクタ損失Pcの時間変化を示す概略図である。図19は、本発明の実施の形態1における試験回路10によって行われるパワーサイクル試験時にコレクタ損失Pcを周期的に繰り返し発生させる様子を示す概略図である。
試験回路10は、上述したとおり、コレクタ電流Icとコレクタ・エミッタ電圧Vceとを個別に制御可能に構成されている。したがって、図17に示すように、試験回路10は、パワーサイクル試験時に、コレクタ電流Icおよびコレクタ・エミッタ電圧Vceの各波形を同時にステップ状に制御することができる。結果として、図18に示すように、コレクタ損失Pcが最大許容値Pcmaxを下回るように精度良く制御することができる。特に、被試験デバイスQ1の動作点を先の図2に示すSOA曲線付近に設定した場合であっても、このような制御の実現が可能である。
また、図19に示すように、試験回路10は、パワーサイクル試験において、被試験デバイスQ1が任意の期間Twにコレクタ損失Pcを発生することを、周期的に繰り返す制御を行うことができる。
試験回路10の構成では、コレクタ電流Icおよびコレクタ・エミッタ電圧Vceを制御するための第1の制御信号Vs1および第2の制御信号Vs2に従ってゲート電圧Vgeが決定される。したがって、IGBT固有のIc-Vce特性の影響を受けることなく、パワーサイクル試験を行うことが可能である。
次に、試験回路10がパワーサイクル試験を行うことで得られた具体的な実験データを示す。
図20は、本発明の実施の形態1における試験回路10によってパワーサイクル試験が行われる場合の被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icの時間変化の実験データを示す図である。
図20から、試験回路10は、パワーサイクル試験において、被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icの波形をステップ状に安定して制御することができることが分かる。
図21は、本発明の実施の形態1における試験回路10によってパワーサイクル試験が行われる場合の被試験デバイスQ1の各種温度の時間変化の実験データを示す図である。図22は、図21の各種温度データの統計を示す表である。
図21では、パワーサイクル試験が行われている間の被試験デバイスQ1のジャンクション温度Tjの実験データとして、最大温度Tjmaxと、最小温度Tjminと、サイクル温度範囲ΔTjとの実験データがプロットされている。なお、パワーサイクル試験において被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icの波形がステップ状に複数サイクル分制御されるとき、各サイクルでのジャンクション温度Tjの最大値、最小値および変動範囲を、それぞれ、最大温度Tjmax、最小温度Tjminおよびサイクル温度範囲ΔTjと定義している。図21では、パワーサイクル試験が行われている間の被試験デバイスQ1の放熱抵抗値Rthの実験データがさらにプロットされている。
図21および図22から、試験回路10は、被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icの波形をステップ状に安定して制御することで、サイクル温度範囲ΔTjおよび放熱抵抗値Rthを安定して変化させることができることが分かる。
以上、本実施の形態1のパワーサイクル試験回路によれば、コレクタ電流制御回路は、第1の制御信号源から入力される第1の制御信号に従って、被試験デバイスのコレクタ電流を制御し、コレクタ・エミッタ電圧制御回路は、コレクタ電流制御回路によるコレクタ電流の制御とは独立して、第2の制御信号源から入力される第2の制御信号に従って、被試験デバイスのコレクタ・エミッタ電圧を制御するように構成されている。
これにより、被試験デバイスのコレクタ損失を精度良く制御することができる。その結果、パワーサイクル試験時の被試験デバイスのコレクタ損失の安定的な制御の実現が可能となる。また、被試験デバイスのSOAを超えない動作範囲で被試験デバイスを駆動させて、信頼性の評価に適した熱ストレスを繰り返し与えることができる。さらに、被試験デバイス固有の温度特性に左右されずに、制御されたコレクタ損失に対応した被試験デバイスの発熱のプロファイルを得ることができる。
実施の形態2.
本発明の実施の形態2では、先の実施の形態1と構成が異なる試験回路10について説明する。なお、本実施の形態2では、先の実施の形態1と同様である点の説明を省略し、先の実施の形態1と異なる点を中心に説明する。
図23は、本発明の実施の形態2における試験回路10の構成を示す回路図である。図23において、試験回路10は、第1の増幅素子A1および負荷抵抗R1を有するコレクタ電流制御回路11と、第1の制御信号Vs1を出力する第1の制御信号源S1と、被試験デバイスQ1を駆動させるためのパワーを供給する定電圧源Vccとを備える。
端子T11は、定電圧源Vccの正側に接続され、端子T12は、負荷抵抗R1に接続され、端子T13は、第1の増幅素子A1の出力端子に接続される。
第1の増幅素子A1は、第1の制御信号源S1の正側に接続される正入力端子と、端子T12と負荷抵抗R1との接続点に接続される負入力端子と、端子T13に接続される出力端子とを有する。負荷抵抗R1の一端は、端子T12と第1の増幅素子A1の負入力端子とに接続され、負荷抵抗R1の他端は、定電圧源Vccの負側と第1の制御信号源S1の負側とに接続される。
ここで、第1の増幅素子A1の正入力端子には、第1の制御信号源S1から第1の制御信号Vs1が入力される。コレクタ電流制御回路11は、被試験デバイスQ1の端子T12を第1の制御信号Vs1に追従させるボルテージフォロワー動作を行う。具体的には、コレクタ電流制御回路11では、第1の増幅素子A1の出力が端子T13に入力され、その結果、被試験デバイスQ1の端子T12の電位が、第1の増幅素子A1の正入力端子に入力される第1の制御信号Vs1に追従する
このようなコレクタ電流制御回路11の構成によって、被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icは、第1の制御信号Vs1と、負荷抵抗R1とを用いて、以下の式(5)のように表される。負荷抵抗R1の抵抗値Rは一定値である。
Ic[A]=Vs1/R (5)
また、このようなコレクタ電流制御回路11の構成によって、被試験デバイスQ1のコレクタ・エミッタ電圧Vceは、第1の制御信号Vs1と、定電圧源Vccから出力される定電圧Vcとを用いて、以下の式(6)のように表される。定電圧Vcは一定値である。
Vce[V]=(Vc-Vs1) (6)
上述の式(5)および式(6)から分かるように、コレクタ電流制御回路11は、第1の制御信号源S1から入力される第1の制御信号Vs1に従って、被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icを制御し、コレクタ電流Icの制御に依存して、被試験デバイスQ1のコレクタ・エミッタ電圧Vceを一意に決定して制御するように構成されている。したがって、試験回路10は、コレクタ電流Icとコレクタ・エミッタ電圧Vceとの積に相当するコレクタ損失Pcを制御することができる。
次に、本実施の形態2における試験回路10によってパワーサイクル試験が行われるときの被試験デバイスQ1の動作範囲について、図24を参照しながら説明する。図24は、本発明の実施の形態2における試験回路10によってパワーサイクル試験が行われるときの被試験デバイスQ1の動作範囲を示す概略図である。
ここで、先の実施の形態1における試験回路10は、第1の制御信号Vs1に従ってコレクタ電流Icを制御し、コレクタ電流Icの制御とは独立して、第2の制御信号Vs2に従ってコレクタ・エミッタ電圧Vceを制御するように構成されている。したがって、先の実施の形態1における試験回路10は、先の図5に示すように、SOA内でコレクタ電流Icおよびコレクタ・エミッタ電圧Vceを自在に制御することができる。
これに対して、本実施の形態2における試験回路10は、第1の制御信号Vs1に従ってコレクタ電流Icを制御し、コレクタ電流Icの制御に依存して、コレクタ・エミッタ電圧Vceを一意に決定して制御するように構成されている。したがって、本実施の形態2における試験回路10は、図24に示すように、SOA内において、SOA曲線上の任意のコレクタ電流Icexまでの範囲でコレクタ電流Icを自在に制御することができる。また、コレクタ電流Icの値に従って、コレクタ・エミッタ電圧Vceの値の範囲が決定される。
以上、本実施の形態2のパワーサイクル試験回路によれば、コレクタ電流制御回路は、第1の制御信号源から入力される第1の制御信号に従って、被試験デバイスのコレクタ電流を制御し、コレクタ電流の制御に依存して、コレクタ・エミッタ電圧を一意に決定して制御するように構成されている。
これにより、コレクタ電流の安定した制御の実現が可能となるとともに、コレクタ・エミッタ電圧Vceについて、コレクタ電流の制御に依存して決定されるようにしたので、コレクタ・エミッタ電圧の安定した制御の実現も可能となる。その結果、先の実施の形態1と同様の効果が得られる。
実施の形態3.
本発明の実施の形態3では、先の実施の形態1または2の構成に対して、第1の制御信号Vs1としてPWM(Pulse Width Modulation)信号が入力される場合について説明する。本実施の形態3では、先の実施の形態1および2と同様である点の説明を省略し、先の実施の形態1および2と異なる点を中心に説明する。
図25は、本発明の実施の形態3における試験回路10の第1の制御信号源S1が第1の制御信号Vs1として出力するPWM信号の波形を示す概略図である。なお、図25では、1サイクル分のPWM信号の拡大図も併せて図示されている。また、図25では、PWM信号のキャリア周波数が100kHzである場合を例示している。
本実施の形態3では、先の実施の形態1における試験回路10、すなわち図3に示す試験回路10、または先の実施の形態2における試験回路10、すなわち図23に示す試験回路10において、第1の制御信号源S1から第1の増幅素子A1の正入力端子に第1の制御信号Vs1としてPWM信号が入力される。これにより、時間波形の異なる熱ストレスを被試験デバイスQ1に与えることができる。その結果、被試験デバイスQ1のジャンクション温度Tjの所望のプロファイルが得られる。
以上、本実施の形態3のパワーサイクル試験回路は、先の実施の形態1または2の構成に対して、第1の制御信号源からコレクタ電流制御回路に入力される第1の制御信号がPWM信号となるように構成されている。これにより、先の実施の形態1および2と同様の効果が得られるとともに、時間波形の異なる熱ストレスを被試験デバイスに与えることができる。
実施の形態4.
本発明の実施の形態4では、先の実施の形態1および2と構成が異なる試験回路10について説明する。なお、本実施の形態4では、先の実施の形態1~3と同様である点の説明を省略し、先の実施の形態1~3と異なる点を中心に説明する。
図26は、本発明の実施の形態4における試験回路10の構成を示す回路図である。図26において、試験回路10は、コレクタ電流制御回路11、コレクタ・エミッタ電圧制御回路12、第1の制御信号源S1、第2の制御信号源S2および定電圧源Vccを備える。第2の制御信号源S2から出力される第2の制御信号Vs2は、直流電圧である。
第1の増幅素子A1の正入力端子は、第1の制御信号源S1の正側と第2の制御信号源S2の負側との接続点に接続される。第1の制御信号源S1の正側は、第1の増幅素子A1の正入力端子と第2の制御信号源S2の負側とに接続され、第1の制御信号源S1の負側は、負荷抵抗R1と定電圧源Vccの負側とに接続される。第2の制御信号源S2の正側は、第2の増幅素子A2の正入力端子に接続され、第2の制御信号源S2の負側は、第1の制御信号源S1の正側と第1の増幅素子A1の正入力端子とに接続される。
ここで、先の実施の形態1における図3の試験回路10と、本実施の形態4における図26の試験回路10とについて、図27および図28を参照しながら比較する。
図27は、本発明の実施の形態1における試験回路10の第1の制御信号源S1および第2の制御信号源S2からそれぞれ出力される第1の制御信号Vs1および第2の制御信号Vs2の時間波形を示す概略図である。図28は、本発明の実施の形態4における試験回路10の第1の制御信号源S1および第2の制御信号源S2からそれぞれ出力される第1の制御信号Vs1および第2の制御信号Vs2の時間波形を示す概略図である。
図3に示す試験回路10では、図27に示すように、被試験デバイスQ1のコレクタ電流Icを制御するために第1の制御信号源S1からコレクタ電流制御回路11にパルス形状の第1の制御信号Vs1が入力される。また、被試験デバイスQ1のコレクタ・エミッタ電圧Vceを制御するために第2の制御信号源S2からコレクタ・エミッタ電圧制御回路12にパルス形状の第2の制御信号Vs2が入力される。
一方、図26に示す試験回路10では、図28に示すように、第1の制御信号源S1からコレクタ電流制御回路11にパルス形状の第1の制御信号Vs1が入力され、第2の制御信号源S2からコレクタ・エミッタ電圧制御回路12に一定の第2の制御信号Vs2が入力される。
このように、第1の制御信号源S1の正側と第2の制御信号源S2の負側とを接続することで、第2の制御信号源S2が出力する第2の制御信号Vs2を被試験デバイスQ1のコレクタ・エミッタ電圧Vceに一致させることができる。
以上、本実施の形態4のパワーサイクル試験回路によれば、先の実施の形態1の構成に対して、第1の増幅素子の正入力端子は、第1の制御信号源の正側と第2の制御信号源の負側との接続点と接続されるように構成されている。これにより、先の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、第2の制御信号源が出力する第2の制御信号を被試験デバイスのコレクタ・エミッタ電圧に一致させることができる。
実施の形態5.
本発明の実施の形態5では、複数の被試験デバイスQ1のパワーサイクル試験を行うように構成された試験回路10について説明する。なお、本実施の形態5では、先の実施の形態1~4と同様である点の説明を省略し、先の実施の形態1~4と異なる点を中心に説明する。
図29は、本発明の実施の形態5における試験回路10の構成を示す回路図である。図29において、試験回路10は、n個のコレクタ電流制御回路11(1),11(2),・・・,11(n)と、コレクタ・エミッタ電圧制御回路12と、第1の制御信号源S1と、第2の制御信号源S2と、定電圧源Vccとを備える。ただし、nは2以上の整数である。
n個のコレクタ電流制御回路11(1)~11(n)は、それぞれ、並列に接続されており、上述したコレクタ電流制御回路11と同様の構成を有している。なお、図29では、コレクタ電流制御回路11(1)~11(n)の各構成要素を区別するため、構成要素の符号の末尾に(1),(2),・・・,(n)を付している。
n個の被試験デバイスQ1(1)~Q1(n)は、上述した被試験デバイスQ1と同様の構成を有している。なお、図29では、被試験デバイスQ1(1)~Q(n)の各構成要素を区別するため、構成要素の末尾に(1),(2),・・・,(n)を付している。
第1の制御信号源S1の負側は、負荷抵抗R1(1)~R1(n)と、定電圧源Vccの負側とに接続され、第1の制御信号源S1の正側は、第1の増幅素子A1(1)~A1(n)の正入力端子と、第2の制御信号源S2の負側に接続されている。
コレクタ・エミッタ電圧制御回路12の第2の増幅素子A2において、正入力端子は、第2の制御信号源S2の正側に接続され、負入力端子は、端子T11(1)~T11(n)と、端子T22とに接続されている。補助デバイスQ2の端子T21は、定電圧源Vccの正側に接続されている。
このように、試験回路10は、先の実施の形態4の構成に対して、コレクタ電流制御回路11が複数並列に接続されて構成されているので、複数の被試験デバイスQ1を同時に駆動させてパワーサイクル試験を行うことができる。
以上、本実施の形態5のパワーサイクル試験回路によれば、先の実施の形態4の構成に対して、コレクタ電流制御回路は、複数並列に接続されて構成されている。これにより、先の実施の形態4と同様の効果が得られるとともに、複数の被試験デバイスを同時に駆動させてパワーサイクル試験を行うことができる。