JP7109039B2 - 抗線維症剤およびリン酸化Smad核内移行阻害剤 - Google Patents

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特許法第30条第2項適用 平成28年3月2日 第89回日本薬理学会年会電子抄録にて公開
本発明は、線維症の治療、または予防に用いられる抗線維症剤に関する。
特発性間質性肺炎は、日本国において特定疾患に指定されている呼吸器難病である。中でも特発性肺線維症は、原因が不明であり、診断後の生存期間の中央値が2-3年と、大変予後の悪い疾患である。特発性肺線維症の罹患率は10万人に10~20人と言われているが、潜在的な患者数はその10倍以上だと推定されている。特発性肺線維症の主な症状として、肺胞組織を支持する部位である「間質」の線維化(肥厚化)が挙げられる。肺間質が線維化することにより、肺の柔軟性が失われ、肺機能が低下した結果、ガス交換が上手くいかなくなり呼吸困難や乾性咳嗽等が引き起こされる。
特発性肺線維症の明確な原因は突き止められていないが、喫煙が危険因子であることが指摘されている。特発性肺線維症患者の肺組織では間質を構成する線維芽細胞や筋線維芽細胞が凝集し、これらが病巣を形成することが確認されている(非特許文献1)。そして、この病巣の形成は、多種多様な炎症性サイトカインが複雑に作用した結果だと捉えられている。
日本国では、特発性肺線維症の治療薬として、ピルフェニドン及びニンテダニブが承認されている。
ピルフェニドンは、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6等)の産生抑制と抗炎症性サイトカイン(IL-10)の産生亢進を示す。また、線維化形成に関与する増殖因子(TGFβ1、b-FGF、PDGF)に対する産生抑制作用を有する。さらに、線維芽細胞増殖抑制作用やコラーゲン産生抑制作用も有する。ピルフェニドンは、これらの複合的な作用に基づき抗線維化作用を示すと考えられるが、ピルフェニドンの標的分子は明らかになっていない。
ニンテダニブは、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)α、β、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)1、2、3、及び血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)を標的とする低分子量チロシンキナーゼ阻害薬であり、線維芽細胞の増殖および遊走を阻害することで、抗線維化作用を示す。
しかし、ピルフェニドン及びニンテダニブは、特発性肺線維症患者において努力肺活量の改善を示すが、生存期間を延長することはできないことが報告されている(非特許文献2)。
そこで、新たなアプローチによる治療薬の開発が望まれている。
Transforming Growth Factor-β(TGFβ)は、腎臓、骨髄、血小板等ほぼすべての細胞で産生されるタンパク質であり、細胞増殖・分化を制御し、骨芽細胞の増殖および間葉細胞の増殖やコラーゲン合成を促進する等、多様な生物活性を示すサイトカインである。TGFβは、5種類のサブタイプ(β1~β5)が存在し、哺乳類にはβ1、β2、β3の3種類が存在する。
特発性肺線維症等で見られる組織線維化において、TGFβ1が重要な役割を果たしていると指摘されている(非特許文献1、3)。TGFβ1は、創傷治癒に深く関わる分子としても知られているが、組織における過剰なTGFβ1の作用が線維化に深く関わると考えられている。肺間質においても、TGFβ1は、線維芽細胞を筋線維芽細胞へと分化させ、コラーゲンやフィブロネクチン等の細胞外マトリクスや、筋線維芽細胞に特徴的なタンパク質であるα平滑筋アクチン(αSMA:α-smooth muscle actin)の発現を誘導することが知られている。なお、αSMAは、線維化のマーカータンパク質である。
TGFβ1は、2量体リガンドとしてTGFβ受容体に結合する。TGFβ1シグナルにおいて特徴的かつ最も主要な分子として転写因子Smadが知られている(非特許文献4、5)。Smadは、N末端側とC末端側にそれぞれ核移行やDNA結合に関与するMH1ドメインと、転写活性や他分子との結合に関与するMH2ドメインを有している。Smadは、不活性状態においては、MH1ドメインとMH2ドメインが分子内で結合しているが、TGFβ受容体が活性化すると、Smad2/3のMH2ドメインのC末端に存在するSXSSモチーフがリン酸化する。これによりSmad2/3は、MH2ドメインを介してSmad4と複合体(以下、リン酸化Smadという。)を形成し、このリン酸化Smadが核内へ移行してMH1ドメインを介してDNAと結合し、様々な転写因子と相互作用してαSMAを含む多様な標的遺伝子の転写を制御する。
TGFβ1を含む様々な細胞内シグナル伝達において、受容体と細胞内シグナル分子が会合する足場として、細胞膜上の脂質ラフトが挙げられる。脂質ラフトには、セラミドに糖鎖が負荷したスフィンゴ糖脂質が豊富に存在する。スフィンゴ糖脂質は、数百種類の分子が存在するが、セラミドにガラクトースが付加したガラクトシルセラミドを基質とする群と、セラミドにラクトース(グルコースとガラクトースの二糖)が付加したラクトシルセラミドを基質とする群の2種類に大別される。ラクトシルセラミドは、セラミドにグルコースが付加したグルコシルセラミドを経由して合成される。
ラクトシルセラミドが豊富な脂質ラフト領域は、炎症性のシグナル伝達を担うことが報告されている(非特許文献6-10)。
しかしながら、ラクトシルセラミドが、TGFβ1シグナルを担う分子として機能するかは報告されておらず、ラクトシルセラミドとTGFβ1シグナルとの関与は知られていない。
King TE Jr, Pardo A, Selman M. Idiopathic pulmonary fibrosis. Lancet. 2011 Dec 3; 378 (9807): 1949-61. Ganesh Raghu, Bram Rochwerg, Yuan Zhang, Carlos A. Cuello Garcia, Arata Azuma, Juergen Behr, Jan L. Brozek, Harold R. Collard, William Cunningham, Sakae Homma, Takeshi Johkoh, Fernando J. Martinez, Jeffrey Myers, Shandra L. Protzko, Luca Richeldi, David Rind, Moises Selman, Arthur Theodore, Athol U. Wells, Henk Hoogsteden, and Holger J. Schunemann "An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline: Treatment of Idiopathic Pulmonary Fibrosis. An Update of the 2011 Clinical Practice Guideline", American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, Vol. 192, No. 2 (2015), pp. e3-e19. Leask A. Potential therapeutic targets for cardiac fibrosis: TGFbeta, angiotensin, endothelin, CCN2, and PDGF,partners in fibroblast activation. Circ Res. 2010 Jun 11; 106 (11): 1675-80. Moustakas A. Smad signalling network. J Cell Sci. 2002 Sep 1; 115 (Pt 17): 3355-6. Derynck R, Zhang YE. Smad-dependent and Smad-independent pathways in TGF-beta family signalling. Nature.2003 Oct 9; 425 (6958): 577-84. Nakamura H, Moriyama Y, Makiyama T, Emori S, Yamashita H, Yamazaki R, Murayama T. Lactosylceramideinteracts with and activates cytosolic phospholipase A2α. J Biol Chem. 2013 Aug 9; 288 (32): 23264-72. Pannu R, Singh AK, Singh I. A novel role of lactosylceramide in the regulation of tumor necrosis factor alphamediated proliferation of rat primary astrocytes. Implications for astrogliosis following neurotrauma. J Biol Chem.2005 Apr 8; 280 (14): 13742-51. Kolmakova A, Chatterjee S. Platelet derived growth factor recruits lactosylceramide to induce cell proliferation in UDP Gal:GlcCer: beta1 --> 4Galactosyltransferase (GalT-V) mutant Chinese hamster ovary cells. Glycoconj J. 2005 Nov; 22 (7-9): 401-7. Mayo L, Trauger SA, Blain M, Nadeau M, Patel B, Alvarez JI, Mascanfroni ID, Yeste A, Kivisakk P, Kallas K,Ellezam B, Bakshi R, Prat A, Antel JP, Weiner HL, Quintana FJ. Regulation of astrocyte activation by glycolipids drives chronic CNS inflammation. Nat Med. 2014 Oct; 20 (10): 1147-56. Bodas M, Min T, Vij N. Lactosylceramide-accumulation in lipid-rafts mediate aberrant-autophagy, inflammation and apoptosis in cigarette smoke induced emphysema. Apoptosis. 2015 May; 20 (5): 725-39.
本発明は、リン酸化Smadの核内移行を阻害することにより、線維症を治療、予防す
る抗線維症剤を提供することを課題とする。
1.グルコシルセラミド合成酵素阻害剤、ラクトシルセラミド合成酵素阻害剤のいずれか、または両方を有効成分とすることを特徴とする抗線維症剤。
2.前記グルコシルセラミド合成酵素阻害剤が、1-フェニル-2-ヘキサデカノイルアミノ-3-モルフォリノ-1-プロパノール(PPMP)、1-フェニル-2-デカノイルアミノ-3-モルフォリノ-1-プロパノール(PDMP)、N-ブチルデオキシノジリマイシン(ミグルスタット、NB-DNJ)、N-ブチルデオキシガラクトノジリマイシン(NB-DGJ)、デオキシノジリマイシン(DNJ)、N―[(lR,2R)-1-(2,3-ジヒドロベンゾ[b][1,4]ジオキシン-6-イル)-1-ヒドロキシ-3-(ピロリジン-1-イル)プロパン-2-イル]オクタンアミドヘミ-(2R,3R)-酒石酸塩(エリグルスタット酒石酸塩)から選択される1以上であることを特徴とする1.に記載の抗線維症剤。
3.前記ラクトシルセラミド合成酵素阻害剤が、N-ドデシルデオキシノジリマイシン、ノジリマイシン亜硫酸付加物、ノジリマイシン亜硫酸付加物疎水性誘導体及びこれらの塩から選択される1以上であることを特徴とする1.に記載の抗線維症剤。
4.特発性肺線維症の治療剤、または予防剤であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の抗線維症剤。
5.グルコシルセラミド合成酵素阻害剤、ラクトシルセラミド合成酵素阻害剤のいずれか、または両方を有効成分とするリン酸化Smad核内移行阻害剤。
本発明者らは、TGFβ1からのαSMAやコラーゲンを合成するシグナルを伝達するリン酸化Smadの核内移行を制御するTGFβ1シグナル制御メカニズムを見出した。本発明の抗線維症剤は、この新たなメカニズムに基づくものであり、リン酸化Smadの核内移行を阻害するものである。
本発明の抗線維症剤は、グルコシルセラミド合成酵素阻害剤、またはラクトシルセラミド合成酵素阻害剤を有効成分とし、リン酸化Smadの核内移行を阻害することにより、線維症の原因となるαSMAやコラーゲンの合成を抑制する。本発明の抗線維症剤は、組織の線維化関連タンパク質の発現プロセスを抑制するものであり、肺、腎臓、肝臓、心臓、皮膚、骨髄、膵臓、眼等の多様な組織での線維症の治療と予防に用いることができ、特に、特発性肺線維症の治療剤、予防剤への応用が期待される。
グルコシルセラミド合成酵素阻害剤であるN-ブチルデオキシノジリマイシン(ミグルスタット、NB-DNJ)は、ゴーシェ病、ニーマンピック病C型の経口治療薬として認可されている。他の疾患の治療薬として既に使用されている薬剤は、副作用のおそれが小さく、安全性が高いことから、ミグルスタットを有効成分とする抗線維症剤は、臨床研究への応用が期待される。
TGFβ1刺激によるラクトシルセラミド合成増大を介したリン酸化Smadの核内移行を制御する経路の模式図。 実験1におけるラクトシルセラミド合成活性試験の結果を示す図。 実験2におけるαSMA発現量を示す図。図3A:PPMP、図3B:NB-DNJ、図3C:グルコシルセラミド合成酵素ノックアウト。 実験2におけるヒト肺線維芽(HFL1)細胞のαSMAとβチューブリンの発現を示すウェスタンブロッティング図。 実験3におけるHFL1のSmad2/3、リン酸化Smad2/3の発現を示すウェスタンブロッティング図。図5A:PPMP、図5B:ラクトシルセラミド。 実験3におけるHFL1細胞の共焦点レーザー顕微鏡画像。図6A:Smad2、図6B:Smad3。 実験4におけるHFL1細胞の共焦点レーザー顕微鏡画像。図7A:PPMP、Rottlerin、図7B:ラクトシルセラミド。 実験5におけるHFL1のαSMAとβチューブリンの発現を示すウェスタンブロッティング図(図8A)と、αSMA発現量を示す図(図8B)。 実験5において、各PKC阻害剤処置を行った際のHFL1のαSMAとβチューブリンの発現を示すウェスタンブロッティング図(図9A)と、αSMA発現量を示す図(図9B)。 実験5におけるHFL1細胞の共焦点レーザー顕微鏡画像。 実験5におけるHFL1のSmad2、リン酸化Smad2の発現を示すウェスタンブロッティング図。図11A:Rottlerin、図11B:GF109203X。 実験6におけるHFL1のαSMAとβチューブリンの発現を示すウェスタンブロッティング図(図12A)と、αSMA発現量を示す図(図12B)。 実験6におけるHFL1細胞の共焦点レーザー顕微鏡画像(図13A)と、HFL1のSmad2、リン酸化Smad2の発現を示すウェスタンブロッティング図(図13B)。 実験7における患者由来肺線維芽細胞のαSMAとフィブロネクチンの発現を示すウェスタンブロッティング図(図14A)と、αSMAとフィブロネクチンの発現量を示す図(図14B)。 実験8におけるαSMAの発現を示す図。 実験8におけるヘマトキシリン・エオジン染色した経気管投与群の肺切片のAshcroft scoreと顕微鏡画像。 実験8におけるヘマトキシリン・エオジン染色した経口投与群の肺切片の顕微鏡画像。
本発明者らは、TGFβ1が、ラクトシルセラミド(LacCer)の合成増大を誘導し、このラクトシルセラミドが、プロテインキナーゼCδ(PKCδ)/Rho結合キナーゼ(ROCK)シグナルを介して、リン酸化Smadの核内移行を正に制御するという、これまでに知られていない新規なTGFβ1シグナル制御メカニズムを発見した。
図1に、このメカニズムの経路の模式図を示す。
TGFβ1がラクトシルセラミドの合成増大を誘導すること、ラクトシルセラミドが、PKCδ/ROCKシグナルを活性化して、リン酸化Smadの核内移行を制御することは、これまでに知られていない本発明者らによる新たな知見である。
この経路から明らかなように、ラクトシルセラミド合成酵素阻害剤、PKCδ阻害剤、ROCK阻害剤は、リン酸化Smad核内移行を阻害する。また、ラクトシルセラミドの前駆体であるグルコシルセラミドの合成酵素を阻害するグルコシルセラミド合成酵素阻害剤もリン酸化Smadの核内移行を阻害する。そのため、ラクトシルセラミド合成酵素阻害剤、グルコシルセラミド合成酵素阻害剤、PKCδ阻害剤、ROCK阻害剤は、リン酸化Smad核内移行阻害剤としても用いることができる。
本発明の抗線維症剤は、グルコシルセラミド合成酵素阻害剤、ラクトシルセラミド合成酵素阻害剤のいずれか、または両方を有効成分とし、上記経路におけるリン酸化Smadの核内移行を阻害することにより、αSMA等の線維化に関連するタンパク質を含む標的遺伝子の転写、翻訳を抑制する。リン酸化Smadによる線維化関連タンパク質の合成発現機構は共通しているため、本発明の抗線維症剤は、肺、腎臓、肝臓、心臓、皮膚、骨髄、膵臓、眼等の多様な組織での線維症の治療剤、予防剤として用いることができる。
本発明の抗線維症剤として使用するグルコシルセラミド合成酵素阻害剤は特に制限されず、例えば、1-フェニル-2-ヘキサデカノイルアミノ-3-モルフォリノ-1-プロパノール(PPMP)、PPMPと基本骨格が共通する1-フェニル-2-デカノイルアミノ-3-モルフォリノ-1-プロパノール(PDMP)、N-ブチルデオキシノジリマイシン(ミグルスタット、NB-DNJ)、N-ブチルデオキシガラクトノジリマイシン(NB-DGJ)、デオキシノジリマイシン(DNJ)、N―[(lR,2R)-1-(2,3-ジヒドロベンゾ[b][1,4]ジオキシン-6-イル)-1-ヒドロキシ-3-(ピロリジン-1-イル)プロパン-2-イル]オクタンアミドヘミ-(2R,3R)-酒石酸塩(エリグルスタット酒石酸塩)等から選択される1以上を用いることができる。
本発明の抗線維症剤として使用するラクトシルセラミド合成酵素阻害剤は特に制限されず、例えば、N-ドデシルデオキシノジリマイシン、ノジリマイシン亜硫酸付加物、ノジリマイシン亜硫酸付加物疎水性誘導体及びこれらの塩等から選択される1以上を用いることができる。
なお、PPMP、NB-DNJは、グルコシルセラミド合成酵素阻害剤としても、ラクトシルセラミド合成酵素阻害剤としても作用する。
本発明の抗線維症剤は、リン酸化Smad核内移行阻害剤をそのまま単独で用いることもできるが、薬学的に許容される医薬品添加剤を用いて医薬組成物の形態で供給することが好ましい。本明細書で言う薬学的に許容される製剤添加物としては、賦形剤、安定剤、保存剤、緩衝材、矯味剤、懸濁化剤、乳化剤、着香剤、溶解補助剤、着色剤、粘稠剤等を用いることができる。
本発明の抗線維症剤は、経口的、非経口的のいずれか、または両方で投与することができる。経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤等を挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、吸入剤、注射剤、点滴剤、坐剤、経皮吸収剤等を挙げることができるが、本発明の薬剤の形態はこれらに限定されることはない。
本発明の抗線維症剤は、ヒトを含む哺乳動物に投与することができる。本発明の薬剤の投与量は、患者の年齢、性別、体重、症状、及び投与経路等の条件に応じて決定される。本発明の抗線維症剤の成人一日あたりの投与量は、通常、0.001mg/kg以上2000mg/kg以下の範囲であり、好ましくは0.01mg/kg以上500mg/kg以下、より好ましくは0.1mg/kg以上200mg/kg以下、さらに好ましくは、1mg/kg以上100mg/kg以下である。本発明の抗線維症剤は、毎日投与することもでき、1日から4日の間隔で投与することもできる。
実験方法
「細胞培養」
ヒト肺線維芽細胞(HFL1)(ATCC CCL-153)は、10%ウシ胎児血清(FBS)、100μg/mLストレプトマイシン、66.7μg/mLペニシリンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて、95%air-5%CO、37℃の条件下で培養した。
「ウェスタンブロット」
6ウェルプレートにHFL1細胞を、1.0×10cells/wellとなるように播種し、10%FBSを含む2.0mLのDMEMで70%コンフルエントとなるよう培養した。0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むハンクス平衡塩溶液(HBSS)(4.2mM NaHCO、137mM NaCl、5.36mM KCl、0.4mM MgSO・7HO、0.34mM NaHPO・12HO、5.55mM グルコース、0.44mM KHPO、0.72mM CaCl・HO、pH=7.4)で洗浄し、0.1%BSAを含むDMEMで48時間無血清培養した。
その後、0.1%BSAを含むDMEMに培地交換し、各試薬で一定時間刺激を行った後(各阻害剤は刺激剤の30分前処置)、プロテアーゼ阻害剤として10μg/mLアプロチニン、10μg/mLロイペプチン、フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を含む100μL RIPAバッファー(150mM NaCl、50mM Tris-HCl、5mM EDTA、5mM NaF、10mM ピロリン酸ナトリウム二塩基性、1% Nonidet P-40、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム、0.5% デオキシコール酸ナトリウム、pH8.0)で氷上回収した。
ボルテックス法により細胞を破砕し、15000rpm、4℃、30minの条件で遠心をかけて上清をサンプルとした。ブラッドフォード法によりタンパク定量を行い、一定量のタンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離した。タンパク質を、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜に転写し、ブロッキングを室温、1時間、1次抗体を4℃、オーバーナイト、2次抗体を室温、1時間の条件で施した。各抗体ごとの条件を表1に示す。
その後、PVDF膜をECL液に浸し、画像撮影解析システム(Bio-Rad社製、装置名:ChemiDocMPシステム)にて蛍光を検出した。検出されたバンドの数値化は、画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて行った。
Figure 0007109039000001
「免疫蛍光染色試験」
3.5cmガラスボトムディッシュにHFL1細胞を、1.0×10cells/dishとなるように播種し、10%FBSを含む2.0mLのDMEMで70%コンフルエントとなるように培養した。0.1%BSAを含むHBSSで洗浄し、0.1%BSAを含むDMEMで48時間無血清培養した。
その後、0.1%BSAを含むDMEMに培地交換し、各試薬で一定時間刺激を行った後(各阻害剤は、刺激剤の30分前処置)、各サンプルを4%パラホルムアルデヒド(PFA)で、4℃、15分間固定した。その後、適宜透過化(0.3%サポニン、室温、1時間)ブロッキング(3%BSA、室温、1時間)、1次抗体を4℃、オーバーナイト、2次抗体を室温、1時間の条件で施した。Smad、リン酸化Smad免疫染色時は、その後、リボヌクレアーゼA(RNase、Worthington Biochemical)(200μg/mL、室温、30分間)、プロピジウムイオダイド(PI、Cayman Chemical)(20μg/mL、室温、30分間)を施して核を染色し、染色像を共焦点顕微鏡(オリンパス株式会社製、装置名:FV500)で観察した。
「ラクトシルセラミド合成活性試験」
実験は、Chatterjee S, Pandey A. The Yin and Yang of lactosylceramide metabolism: implications in cell function. Biochim Biophys Acta. 2008 Mar; 1780 (3): 370-82.を参考に行った。
10cmディッシュにHFL1細胞を5×10cells/dish播種し、10%FBSを含む8mLのDMEMで70%コンフルエントとなるよう培養した。0.1%BSAを含むHBSSで洗浄し、0.1%BSAを含むDMEMで48時間無血清培養した。その後、0.1%BSAを含むDMEMに培地交換し、各試薬で一定時間刺激を行った後(各阻害剤は刺激剤の30分前処置)、細胞をリン酸緩衝生理食塩水1mL/dishで回収し遠心(4℃、3000rpm、10分間)、得られたペレットを反応バッファー(1mM MgCl、1mM MnCl、20mM カコジル酸ナトリウム三水和物、0.0067% Triton X-100、0.0125% NP-40)100μL/tubeで懸濁し、超音波で細胞を破砕した。
サンプルをタンパク定量後、50μLのサンプルに対し、300μM ガラクトシルセラミド、100μM ウリジン二リン酸ガラクトース(UDP-Gal、うち[H]UDP-Galを7.5×10dpm含む)、反応バッファーを加え、final 100μL/tubeとした。この反応サンプルを37℃、2時間インキュベートし、final 50mM KCl、25mM EDTAを加え反応を停止させた。その後サンプルをブライダイヤー法により脂質抽出し、全脂質をTLC(クロロホルム:メタノール:水=100:42:6)で展開した。分離された脂質をヨウ素ガスで染め、ラクトシルセラミド標品と同じ位置にあるシリカゲルを掻き取り、その放射活性を液体シンチレーションカウンター(日立アロカメディカル株式会社製、装置名:アロカLSC-5100)で測定し、ラクトシルセラミド合成量を算出した。なお、バックグラウンドのサンプルには、インキュベート時間が0時間のサンプルを用いた。
「データ処理」
平均値±標準誤差は、異なる3回以上の実験から求めた。2群間の有意差検定は、スチューデントの両側t検定により行い、危険率5%未満のものを有意とみなした。
「実験1:TGFβ1のラクトシルセラミド合成活性に対する影響検討」
TGFβ1処置により、ラクトシルセラミド合成が増大するかについてin vitroで検討した。結果を図2に示す。
HFL1細胞に、TGFβ1(10ng/mL)を処置すると、刺激30分でラクトシルセラミド合成酵素の活性が増大した。また、グルコシルセラミド合成酵素阻害剤であるPPMP(3μM)、NB-DNJ(100μM)を、TGFβ1刺激の30分前に処置することにより、ラクトシルセラミド合成酵素の活性が有意に抑制された。
TGFβ1が、ラクトシルセラミド合成活性の増大を引き起こすこと、グルコシルセラミド合成酵素阻害剤によりその活性上昇が抑制されることが確かめられた。
「実験2:ラクトシルセラミドのαSMA発現に対する影響検討」
TGFβ1によるラクトシルセラミド合成活性の増大が、組織線維化に与える影響について、線維化のマーカータンパクであるαSMAの発現量を元に検討した。結果を図3に示す。
HFL1細胞に、TGFβ1(10ng/mL)を24時間処置すると、αSMA発現量は有意に増大した。
グルコシルセラミド合成酵素阻害剤であるPPMP(3μM)、NB-DNJ(100μM)を、TGFβ1刺激の30分前に処置することにより、αSMAの発現量の増大が抑制された。さらにラクトシルセラミド(10μM)とPPMP、またはNB-DNJを併用することにより、αSMA発現量の抑制作用が回復した(図3A、B)。PPMPとラクトシルセラミドを併用した場合、TGFβ1単独処置に比べ95%ほどまで回復した。なお、ラクトシルセラミドに変えて、グルコシルセラミドを併用した場合も、αSMAの発現量は80%ほどまで回復した(図4)。
また、ラクトシルセラミドの前駆体であるグルコシルセラミド合成酵素(GCS)をノックダウンすることにより、TGFβ1刺激によるαSMA発現量の増大は有意に抑制された(図3C)。
以上の結果から、TGFβ1には、ラクトシルセラミドの合成増大を介したシグナル経路が存在し、このシグナル経路により組織線維化(αSMAの発現)が促進されることが確かめられた。また、このシグナル伝達は、細胞内ラクトシルセラミド量の増大を伴なうことが確かめられた。
「実験3:ラクトシルセラミドのSmadシグナルに対する影響の検討」
Smad2/3は、転写因子であり、活性化TGF-β受容体によって直接リン酸化を受け、核内移行することで、線維化に関わる分子の転写活性を促すことが知られている(非特許文献4)。
ラクトシルセラミドのSmadシグナルに対する影響を検討した。結果を図5、6に示す。
Smad2/3のリン酸化レベルについて検討した結果、PPMP(3μM)を、TGFβ1(10ng/mL)処置の30分前に処置したところ、経時的なSmad2/3リン酸化レベルに変化は見られなかった(図5A)。また、ラクトシルセラミド(10μM)を細胞に単独処置した際も、Smad2のリン酸化は生じなかった(図5B)。
一方、Smad2/3の局在を観察したところ、TGFβ1(10ng/mL)単独刺激後3時間でSmad2/3が核に集積した。しかし、PPMP(3μM)、NB-DNJ(100μM)を前処置することで、Smad2の核への集積が抑制された。さらに、ラクトシルセラミド(10μM)とPPMPを併用することにより、PPMPによる抑制作用が回復し、Smad2が核に集積した(図6A)。また、Smad3に対しても同様の作用効果を示した(図6B)。
以上の結果から、ラクトシルセラミドは、Smadのリン酸化には影響を及ぼさないこと、TGFβ1によるSmad2/3の核局在化を正に制御することが確認できた。
「実験4:ラクトシルセラミドのPKCδへの影響検討」
ラクトシルセラミドがどのような細胞内シグナルを介しSmadの局在を制御するか検討した。
細胞膜上のラクトシルセラミドが引き起こす細胞内シグナルの一つに、PKCα/εの活性化が知られている(Chatterjee S, Pandey A. The Yin and Yang of lactosylceramide metabolism: implications in cell function. Biochim Biophys Acta. 2008 Mar; 1780 (3): 370-82.)。PKCは、タンパク質をリン酸化する酵素であり、全身の組織で発現しており、遺伝子発現、細胞増殖、細胞死等、多様な生物活性に関与している。PKCは、活性化にジアシルグリセロールとCa2+とを必要とする「conventional PKC」、ジアシルグリセロールのみを必要とする「nobel PKC」、その他の機構により活性化する「atypical PKC」の三種に分類される。哺乳類のPKCは、α、βI、βII、γ、δ等、10種類のアイソフォームが知られている。
本発明者らは、ラクトシルセラミドはPKCδの活性化を通じて、TGFβ1によるSmad2/3の局在制御を制御するという仮説を立て、検討を行った。結果を図7に示す。図7において、上段の写真の中で、白四角で囲んだ部分を拡大したものが、下段の写真である。
一般的に、PKCの活性化は、細胞膜への移行により観察されるため、PKCδの細胞膜への移行を指標としてラクトシルセラミドの関与を検討した。
細胞にTGFβ1(10ng/mL)を処置すると、2時間後にPKCδの細胞膜への移行が生じた。しかし、PPMP(3μM)やPKCδ阻害剤であるRottlerin(1μM)を前処置することにより、PKCδの細胞膜への移行が抑制された(図7A)。加えて、ラクトシルセラミド(10μM)の単独刺激においても、刺激後5分でPKCδの細胞膜への移行が観察され、PKCδの細胞膜上における局在は少なくとも30分持続した(図7B)。
以上の結果から、TGFβ1によりPKCδが活性化すること、この活性化にはラクトシルセラミドが介在することが確かめられた。
「実験5:PKCδのTGFβ1/Smadシグナルに対する影響の検討」
PKCδのTGFβ1シグナルに対する関与を検討した。結果を図8~11に示す。
まずαSMA発現に対するPKCδの関与を検討した。PMA(ホルボールミリスタートアセテート)をovernightで処置することにより、conventional PKC、novel PKCのダウンレギュレーションを引き起こすことが知られてい
る。
PMA(100nM)処置により、TGFβ1(10ng/mL)によるαSMAの発現量の増大が抑制された(図8)。
PKCα/β/δ/γなどを阻害するGF109203X(10μM)、PKCδ阻害剤であるRottlerin(1μM)をTGFβ1(10ng/mL)刺激30分前に処置することでも、TGFβ1によるαSMA発現量の増大は有意に抑制された。一方、PKCδを阻害せず、PKCα/βを阻害するGO6976(OはOウムラウトである)(0.5μM、1.0μM)を細胞に処置しても、αSMA発現量の増大は抑制されなかった(図9)。
続いて、PKCδのSmad2に与える影響を検討したところ、TGFβ1(10ng/mL)によるSmad2の核局在化は、GF109203X(10μM)およびRottlerin(1μM)の処置で有意に抑制されたが、GO6976(OはOウムラウトである)(1μM)の処置では変化がなかった(図10)。
また、TGFβ1(10ng/mL)処置によるSmad2のリン酸化レベルについては、GF109203X(10μM)、Rottlerin(1μM)を処置しても変化が確認されなかった(図11)。
以上の結果より、ラクトシルセラミドによるSmad核局在化の制御にはPKCδが介在していることが確認できた。また、PKCδがSmad2のリン酸化に関与しないことが確かめられた。
「実験6:ROCK経路のTGFβ1/Smadシグナルに対する影響の検討」
PKCδがSmadを制御する機序として、ROCK経路を介しSmadの脱リン酸化酵素を負に制御することが報告されている(Lin X, Duan X, Liang YY, Su Y, Wrighton KH, Long J, Hu M, Davis CM, Wang J, Brunicardi FC, Shi Y, Chen YG, Meng A, Feng XH. PPM1A functions as a Smad phosphatase to terminate TGFbeta signaling. Cell. 2006 Jun 2; 125 (5): 915-28)。
本研究でも同様の経路が存在すると仮定し、ROCK阻害剤のY27632やROCK下流のアクチン重合を阻害するCytochalasin Bを用い、αSMA発現量を検討した。結果を図12、13に示す。
Y27632(10μM、20μM:ウェスタンブロットは10μM)、Cytochalasin B(2μM)によりTGFβ1(10ng/mL)によるαSMA発現量の増大が抑制された(図12)。
また、Y27632(20μM)、Cytochalasin B(2μM)のSmad2に対する影響を検討したところ、TGFβ1(10ng/mL)によるSmad2の核内移行は抑制されたが、リン酸化レベルには変化が見られなかった(図13)。
このことから、ROCKがSmad核局在化に介在していることが確認できた。また、ROCKがSmad2のリン酸化に関与しないことが確かめられた
「実験7:患者由来肺線維芽細胞の樹立」
「患者由来肺繊維芽細胞」
重篤な上葉限局型肺線維症(pleuroparenchymal fibroelastosis)のために肺移植を受けた19歳の男性患者の肺組織を手術後に得た。
肺組織を細断し、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)ですすいだ後、1mg/mlコラゲナーゼI型(Worthington、Lakewood、NJ、USA)、0.5mg/mlディスパーゼ(Life Technologies)、2U/ml DNアーゼ(QIAGEN、Valencia、CA、USA)、0.1mg/mlストレプトマイシン、100U/mlペニシリンで、37℃で15分間穏やかに振とうしながらインキュベートした。
DMEMで2回洗浄した後、80cm培養フラスコに移し、37℃、5%COで培養した。
細胞の増殖は、培養培地を4日毎に交換しながら、毎週確認した。フラスコがコンフルエントに達した後、継代0の細胞として採取し、3回継代した細胞を患者由来肺繊維芽細胞として実験に使用した。
「細胞培養」
患者由来肺線維芽細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)、100μg/mLストレプトマイシン、66.7μg/mLペニシリンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて、95%air-5%CO、37℃の条件下で培養した。
「ウエスタンブロット」
6ウェルプレートに患者由来肺線維芽細胞を1.0×10cells/wellとなるように播種し、10%FBSを含む2.0mLのDMEMで90-95%コンフルエントとなるよう培養した。その後、PPMP(0.5μM、1.0μM)、またはNB-DNJ(100μM、200μM)を加えて48時間培養し、プロテアーゼ阻害剤として10μg/mLアプロチニン、10μg/mLロイペプチン、フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を含む100μL RIPAバッファー(150mM NaCl、50mM Tris-HCl、5mM EDTA、5mM NaF、10mM ピロリン酸ナトリウム二塩基性、1% Nonidet P-40、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム、0.5% デオキシコール酸ナトリウム、pH8.0)で氷上回収した。
ボルテックス法により細胞を破砕し、15000rpm、4℃、30minの条件で遠心をかけて上清をサンプルとした。ブラッドフォード法によりタンパク定量を行い、一定量のタンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離した。タンパク質を、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜に転写し、ブロッキングを室温、1時間、1次抗体を4℃、オーバーナイト、2次抗体を室温、1時間の条件で施した。各抗体ごとの条件を表2に示す。
その後、PVDF膜をECL液に浸し、画像撮影解析システム(Bio-Rad社製、装置名:ChemiDocMPシステム)にて蛍光を検出した。検出されたバンドの数値化は、画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて行った。結果を図14に示す。
Figure 0007109039000002
患者由来肺線維芽細胞において、PPMP、NB-DNJにより、αSMAの発現が抑制されることが確認できた(図14)。
「実験8:ブレオマイシン誘発性肺線維症モデルマウス」
「モデルマウスの作製」
エーテル・アベルチン麻酔下においてC57BL/6Jマウス(雄、8~12週齢)の気管支から3mg/kgブレオマイシン塩酸塩/生理食塩水(日本化薬株式会社)を50μL投与することにより、肺線維症モデルマウスを作製した。ブレオマイシン塩酸塩を処置しない群にはコントロールとして生理食塩水を50μL同様に投与した。
「NB-DNJの経気管投与」
ブレオマイシン投与後7、8、9日後にエーテル・アベルチン麻酔下のマウスの気管内に20mg/kgのNB-DNJ/生理食塩水を50μL経気管投与した。NB-DNJを投与しないマウスにはコントロールとして生理食塩水を50μL経気管投与した。
「NB-DNJの経口投与」
ブレオマイシン投与後7~13日にかけて、600mg/kgのNB-DNJ/生理食塩水を0.2mL連日経口投与した(1日1回)。NB-DNJを投与しないマウスにはコントロールとして生理食塩水を0.2mL経口投与した。
「肺の摘出」
ブレオマイシン投与後14日目に、エーテル深麻酔下において、マウスを開胸し、注射針を用いてPBSを左心室から全身灌流したのち、同様に右心室から肺の脱血を行い、肺を摘出した。
「ウエスタンブロット」
経気管投与群のマウスについて、肺をフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を含む250μL RIPAバッファー(150mM NaCl、50mM Tris-HCl、5mM EDTA、5mM NaF、10mM ピロリン酸ナトリウム二塩基性、1% Nonidet P-40、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム、0.5% デオキシコール酸ナトリウム、pH8.0)中で細断した。その後、ホモジナイザーによりさらに組織を細かくし、15000rpm、4℃、30min遠心した。
ボルテックス法により細胞を破砕し、15000rpm、4℃、30minの条件で遠心をかけて上清をサンプルとした。ブラッドフォード法によりタンパク定量を行い、一定量のタンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離した。タンパク質を、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜に転写し、αSMA抗体について、上記表2と同様にして、ブロッキングを室温、1時間、1次抗体を4℃、オーバーナイト、2次抗体を室温、1時間の条件で施した。
その後、PVDF膜をECL液に浸し、画像撮影解析システム(Bio-Rad社製、装置名:ChemiDocMPシステム)にて蛍光を検出した。検出されたバンドの数値化は、画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて行った。結果を図15に示す。
ブレオマイシンによりαSMAが発現すること、ブレオマイシン存在下において、NB-DNJによりαSMAの発現が抑制されることが確認できた(図15)。
「肺切片の作製」
肺を4%パラホルムアルデヒドに浸し、4℃で一晩固定した。その後、30%スクロース/PBS溶液中で4℃で2日間脱水した。組織を取り出し、OCTコンパウンドを用いて包埋し、-80℃で保存した。クライオスタットを用いて5μmの厚さの切片を作製し、切片をAPSコートスライドガラスに貼付した。十分に乾燥させた後、スライドガラスはアッセイに用いるまで4℃で保存した。
「ヘマトキシリン・エオジン染色」
切片を貼付したスライドガラスをPBSに10min浸すことで、OCTコンパウンドを洗い流した。2g/L マイヤー・ヘマトキシリン溶液に30min浸漬したのち、水道水で5min流水水洗することで色出しを行った。その後、0.2% エオシンY/エタノール溶液に30min浸漬した。染色の分別の為、80%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、50%エタノール/50%キシレン、100%キシレンで5回ずつ脱色を行い、Eukit液を用いてカバーガラスで封入した。なお、ヘマトキシリン・エオジン染色は、組織の形態を観察する方法であり、ヘマトキシリンは細胞の核を染色し、エオジンは細胞質を染色する。経気管投与群について、染色した肺切片の顕微鏡画像とAshcroft scoreを、図16に示す。また、経口投与群について、染色した肺切片の顕微鏡画像を、図17に示す。
NB-DNJの経気管投与、経口投与により、ブレオマイシンに誘発される肺線維化が抑制できることが確かめられた(図16、17)。このことから、NB-DNJは、Smadシグナルを阻害することにより、抗線維化作用を発揮することが推測される。

Claims (3)

  1. グルコシルセラミド合成酵素阻害剤、ラクトシルセラミド合成酵素阻害剤のいずれか、または両方を有効成分とし、
    前記グルコシルセラミド合成酵素阻害剤が、1-フェニル-2-ヘキサデカノイルアミノ-3-モルフォリノ-1-プロパノール(PPMP)、1-フェニル-2-デカノイルアミノ-3-モルフォリノ-1-プロパノール(PDMP)、N-ブチルデオキシノジリマイシン(ミグルスタット、NB-DNJ)、N-ブチルデオキシガラクトノジリマイシン(NB-DGJ)、デオキシノジリマイシン(DNJ)、N-[(lR,2R)-1-(2,3-ジヒドロベンゾ[b][1,4]ジオキシン-6-イル)-1-ヒドロキシ-3-(ピロリジン-1-イル)プロパン-2-イル]オクタンアミドヘミ-(2R,3R)-酒石酸塩(エリグルスタット酒石酸塩)から選択される1以上であり、
    前記ラクトシルセラミド合成酵素阻害剤が、N-ドデシルデオキシノジリマイシン、ノジリマイシン亜硫酸付加物、ノジリマイシン亜硫酸付加物疎水性誘導体及びこれらの塩、1-フェニル-2-ヘキサデカノイルアミノ-3-モルフォリノ-1-プロパノール(PPMP)、N-ブチルデオキシノジリマイシン(ミグルスタット、NB-DNJ)から選択される1以上であり、
    前記有効成分が、リン酸化Smadの核内移行を阻害することにより突発性肺線維症を治療または予防することを特徴とする抗線維症剤(但し、前記線維症として、心肥大に附随する線維症と、高血糖に由来する線維症を除く)。
  2. 前記有効成分が、1-フェニル-2-ヘキサデカノイルアミノ-3-モルフォリノ-1-プロパノール(PPMP)、N-ブチルデオキシガラクトノジリマイシン(NB-DGJ)のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の抗線維症剤。
  3. 前記リン酸化Smadが、リン酸化Smad2及び/又はリン酸化Smad3であることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗線維症剤。
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