JP7106962B2 - オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents

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Description

本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼に関する。
近年、環境問題に対する意識の高まりを背景に、発電ボイラ、石油精製用プラント、及び石油化学用プラント等の高効率化が望まれている。これらのプラント等の高効率化を目的として、使用温度の高温化が進んでいる。そのため、これらのプラント等に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼には、長時間の使用に耐え得るクリープ強度及び優れた耐食性、特に優れた耐ポリチオン酸粒界応力腐食割れ性及び優れた耐孔食性が求められている。
このような背景から、オーステナイト系ステンレス鋼の長時間クリープ強度及び耐食性、特に耐ポリチオン酸粒界応力腐食割れ性を改善するために、様々な技術が提案されている。
特開昭50-067215号公報(特許文献1)に記載のステンレス鋼は、C:0.03%以下、Si:0.1~4.0%、Mn:0.1~5.0%、Cr:15~30%、Ni:6~25%、Nb:0.05~0.30%、N:0.08~0.40%を含有し、かつNb/C≧4とN/C≧5を満たし、残部が鉄及び不可避的不純物からなることを特徴とする。これにより、粒界腐食と粒界応力腐食割れ(SCC)に強いステンレス鋼が得られる、と特許文献1に記載されている。
特開昭60-224764号公報(特許文献2)に記載の高温用N含有オーステナイトステンレス鋼は、重量%で、C:0.02%以下、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:19~27%、Ni:18~35%、N:0.03~0.15%、残部Fe及び付随不純物からなる組成を有する。これにより、Cl-、Sの共存する350℃以上の高温環境下で使用する耐硫化、耐応力腐食割れ性に優れた高温用N含有オーステナイトステンレス鋼が得られる、と特許文献2に記載されている。
国際公開第2009/044802号(特許文献3)に記載のオーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.04%未満、Si:1.5%以下、Mn:2%以下、Cr:15~25%、Ni:6~30%、N:0.02~0.35%、sol.Al:0.03%以下を含むとともに、Nb:0.5%以下、Ti:0.4%以下、V:0.4%以下、Ta:0.2%以下、Hf:0.2%以下及びZr:0.2%以下のうちの1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなり、不純物中のP、S、Sn、As、Zn、Pb及びSbがそれぞれ、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Sn:0.1%以下、As:0.01%以下、Zn:0.01%以下、Pb:0.01%以下及びSb:0.01%以下で、かつ下記の(1)式及び(2)式で表されるF1及びF2の値がそれぞれ、F1≦0.075及び0.05≦F2≦1.7-9×F1を満足することを特徴とする。
F1=S+{(P+Sn)/2}+{(As+Zn+Pb+Sb)/5}・・・(1)
F2=Nb+Ta+Zr+Hf+2Ti+(V/10)・・・(2)
これにより、溶接時にHAZに生じる液化割れを抑止できるとともに、高温で長時間使用された場合のHAZでの耐脆化割れ性にも優れ、しかも、高い耐食性、なかでも、ポリチオン酸SCCに対する高い抵抗力を有するオーステナイト系ステンレス鋼が得られる、と特許文献3に記載されている。
特開2014-005506号公報(特許文献4)に記載のオーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.018%未満、Si:0.9%以下、Mn:1.8%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cu:2.0~4.5%、Ni:9~16%、Cr:15~19%、Mo:5%以下、sol.Al:0.04%以下、N:0.02~0.3%、Sn:0.002~0.1%、及び、B:0.009%以下を含有し、さらに、Nb:0.9%以下、Ti:0.15%以下、及び、V:0.4%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなり、式(1)~式(3)を満たす。
0.2Cu+325Sn≧1.5・・・(1)
Cu-10Sn≧1.9・・・(2)
Cu+35Sn≦6.5・・・(3)
これにより、高温強度を有し、耐孔食性及び耐凝固割れ性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼が得られる、と特許文献4に記載されている。
特開昭50-067215号公報 特開昭60-224764号公報 国際公開第2009/044802号 特開2014-005506号公報
工藤赳夫ら、「耐ポリチオン酸SCC性に優れた加熱炉管用347APステンレス鋼の開発」、住友金属、38(1986)、p.190
従来、オーステナイト系ステンレス鋼を高温環境下で使用した場合に、耐ポリチオン酸SCC性が低下することが知られていた。耐ポリチオン酸SCC性の低下は、次の過程により生じると考えられている。オーステナイト系ステンレス鋼が高温に繰り返しさらされることで、固溶していたCrがCr炭化物を形成する。Cr炭化物が粒界に析出すれば、その周辺、つまり粒界近傍のCrが欠乏する。Crが欠乏した領域をCr欠乏領域という。Cr欠乏領域は耐食性が低い為、粒界近傍が選択的に腐食を受けやすくなる。これを鋭敏化という。鋭敏化により、オーステナイト系ステンレス鋼の耐ポリチオン酸SCC性が低下する。
従来、高温環境で使用するオーステナイト系ステンレス鋼の耐ポリチオン酸SCC性を高めるため、様々な検討がされてきた。たとえば、(1)C含有量を低減し、Cr炭化物の析出を抑制する方法、(2)CrよりもCと親和性の高いTi、Nb、Ta等の合金元素を添加してCr炭化物の析出を抑制する方法、及び(3)Crを多量に添加して、Cr欠乏領域の形成を抑制する方法等が知られている。
たとえば、上述の特許文献2及び非特許文献1では、上記(1)C含有量を低減し、Cr炭化物の析出を抑制する方法が採用されている。この方法では、C含有量の低減に伴って、オーステナイト系ステンレス鋼の強度が低下する。そのため、特許文献2及び非特許文献1では、N含有量を高め、オーステナイト系ステンレス鋼の強度を高めている。つまり、低C、高Nの化学組成とすることで、高温環境で使用するオーステナイト系ステンレス鋼の耐ポリチオン酸SCC性と強度とを両立している。
ところで、プラント等を建設する際には、オーステナイト系ステンレス鋼を加工する必要がある。加工は、冷間加工によって行われる。そのため、オーステナイト系ステンレス鋼には、優れた長時間クリープ強度及び優れた耐ポリチオン酸SCC性に加え、優れた冷間加工性が求められる。
さらに、高温環境下においてプロセス流体と接触する鋼材には、ポリチオン酸SCCだけでなく、孔食が発生する可能性がある。そのため、このような鋼材には優れた耐孔食性も求められる。
しかしながら、上述の技術によっても、優れた長時間クリープ強度、優れた耐ポリチオン酸SCC性、優れた耐孔食性及び優れた冷間加工性の全てを有するオーステナイト系ステンレス鋼が得られない場合があった。
本発明の目的は、優れた長時間クリープ強度、優れた耐ポリチオン酸SCC性、優れた耐孔食性及び優れた冷間加工性を有する、オーステナイト系ステンレス鋼を提供することである。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.0180%未満、Si:0.001~0.900%、Mn:0.001~1.800%、P:0.0400%以下、S:0.0100%以下、Cu:2.00~4.50%、Ni:9.00~16.00%、Cr:15.00~19.00%、Nb:0.100~1.000%、B:0.0005~0.0300%、Sn:0.0005~0.0100%、N:0.0090%以下、Mo:0~2.00%、W:0~3.0%、Co:0~3.0%、Ta:0~1.0%、Ti:0~1.0%、V:0~1.0%、Hf:0~1.0%、Ca:0~0.020%、Mg:0~0.020%、希土類元素(REM):0~0.100%、及び、残部がFe及び不純物からなり、式(1)を満たす化学組成を有する。
0<(Nb/92.9+Sn/118.69+Ta/180.95+Ti/47.9+Hf/178.49+V/50.94-C/12.01-N/14.01)×B/10.81・・・(1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、その元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼は、優れた長時間クリープ強度、優れた耐ポリチオン酸SCC性、優れた耐孔食性及び優れた冷間加工性を有する。
本発明者らは、優れた耐ポリチオン酸SCC性を有するオーステナイト系ステンレス鋼の長時間クリープ強度、耐孔食性及び冷間加工性を高める検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
本発明者らの検討の結果、高温強度、特に、長時間にわたるクリープ強度と、冷間加工性と、耐孔食性とを両立させる場合、従来とは異なる方法を採用する必要があることが分かった。
表1は、後述の実施例の一部を抜粋したものである。
Figure 0007106962000001
表1には、各鋼番号の化学組成、F1値及び評価結果を示す。F1値とは、F1=(Nb/92.9+Sn/118.69+Ta/180.95+Ti/47.9+Hf/178.49+V/50.94-C/12.01-N/14.01)×B/10.81の式から算出した値を示す。上記式において、各元素記号には、その元素の含有量(質量%)が代入される。また、長時間クリープ強度は、JIS Z2271(2010)に準拠したクリープ破断試験で、800℃、応力50MPaの条件で試験した場合の破断時間を示す。破断時間が1000時間以上であれば白丸印(○)を、破断時間が1000時間未満であればバツ印(×)を示す。冷間加工性は、JIS G0567(2012)に準拠した引張試験を室温で行った試験結果から算出した変形抵抗値σ0.4を示す。変形抵抗値σ0.4が750MPa未満であれば白丸印(○)を、変形抵抗値σ0.4が750MPa以上であればバツ印(×)を示す。耐孔食性は、JIS G0577(2014)に準拠した孔食電位の測定試験での孔食電位を示す。孔食電位Vが1.0×10-1V以上であれば、白丸印(○)を、孔食電位Vが1.0×10-1V未満であれば、バツ印(×)を示す。
表1を参照して、鋼番号A1の鋼は、長時間クリープ破断強度、冷間加工性及び耐孔食性の評価結果が良好であった。一方で、鋼番号B1及びB12~B16の鋼は、長時間クリープ破断強度、冷間加工性又は耐孔食性のいずれかが劣った。
本発明者らは、この原因を詳細に調査した。その結果、低Cとして耐ポリチオン酸SCC性を高めた鋼において、従来とは異なりN含有量も低減し、さらに、Nb、B及びSnを共存させ、加えて、粒界強化に影響のある元素の含有量のバランスを適切に調整することによって初めて、長時間クリープ強度、耐孔食性及び冷間加工性の全てを高めることができるという、従来とは全く異なる知見を得た。
低Cとして耐ポリチオン酸SCC性を高めた鋼において、低Nの条件下で、さらにNb、B及びSnが共存し、且つ、粒界強化に影響のある元素の含有量が調整されて初めて長時間クリープ強度、耐孔食性及び冷間加工性の全てを高めることができる。Nbは、粒界に偏析して、粒界を強化していると考えられる。しかしながら、表1を参照して、B13及びB15では、長時間クリープ強度が劣った。そのため、Nb単独では長時間クリープ強度を高めることはできず、Nbと、一定量以上のB及びSnが共存して初めて長時間クリープ強度が高まる。また、Snも、Nbと同様に粒界に偏析して、粒界を強化していると考えられる。しかしながら、表1を参照して、B13及びB14では、長時間クリープ強度が劣った。そのため、Sn単独では長時間クリープ強度を高めることはできず、Snと、一定量以上のNb及びBが共存して初めて長時間クリープ強度が高まる。Bは、Nb及びSnの粒界強化を補助していると考えられる。表1を参照して、B13では、長時間クリープ強度が劣ったことから、一定量以上のBの共存は必須である。
さらに、表1のA1とB16とを比較して、粒界強化に影響のある元素同士の含有量のバランスを求めたF1=(Nb/92.9+Sn/118.69+Ta/180.95+Ti/47.9+Hf/178.49+V/50.94-C/12.01-N/14.01)×B/10.81が0超でなければ、長時間クリープ強度を高めることができない。すなわち、各元素の含有量が適切であるだけでは長時間クリープ強度を高めることはできず、各元素の含有量が適切な範囲に調整され、かつ、F1>0である必要がある。
本発明者らはさらに、低Cとして耐ポリチオン酸SCC性を高めた鋼において、低Nの条件下で、さらにNb、B及びSnが共存し、且つ、粒界強化に影響のある元素の含有量が調整されれば、長時間クリープ強度に加えて、耐孔食性及び冷間加工性をも高めることができることを知見した。
本実施形態では、N含有量を低減することで、Nbが窒化物を形成することを抑制する。Nb窒化物の形成を抑制することで、Nbの固溶状態を維持し、Nbの粒界強化の作用を高める。N含有量を低減すればさらに、冷間加工性が高まる。
以上の知見に基づき完成した本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.0180%未満、Si:0.001~0.900%、Mn:0.001~1.800%、P:0.0400%以下、S:0.0100%以下、Cu:2.00~4.50%、Ni:9.00~16.00%、Cr:15.00~19.00%、Nb:0.100~1.000%、B:0.0005~0.0300%、Sn:0.0005~0.0100%、N:0.0090%以下、Mo:0~2.00%、W:0~3.0%、Co:0~3.0%、Ta:0~1.0%、Ti:0~1.0%、V:0~1.0%、Hf:0~1.0%、Ca:0~0.020%、Mg:0~0.020%、希土類元素(REM):0~0.100%、及び、残部がFe及び不純物からなり、式(1)を満たす化学組成を有する。
0<(Nb/92.9+Sn/118.69+Ta/180.95+Ti/47.9+Hf/178.49+V/50.94-C/12.01-N/14.01)×B/10.81・・・(1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、その元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼は、各元素の含有量が適切であり、かつ、式(1)を満たす化学組成を有する。そのため、優れた長時間クリープ強度、優れた耐ポリチオン酸SCC性、優れた耐孔食性及び優れた冷間加工性を有する。
上記化学組成は、質量%で、Mo:0.10~2.00%、W:0.1~3.0%、及び、Co:0.1~3.0%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
この場合、オーステナイト系ステンレス鋼の高温強度がさらに高まる。
上記化学組成は、質量%で、Ta:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.0%、V:0.01~1.0%、及び、Hf:0.01~1.0%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
この場合、オーステナイト系ステンレス鋼の鋭敏化がさらに抑制される。
上記化学組成は、質量%で、Ca:0.0005~0.020%、Mg:0.0005~0.020%、及び、希土類元素(REM):0.0005~0.100%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。本実施形態においてREMとは、周期律表中の原子番号57のランタン(La)から原子番号71のルテチウム(Lu)に、イットリウム(Y)、及びスカンジウム(Sc)を加えた17元素の総称である。REMの含有量は、これらの元素の1種又は2種以上の総含有量を意味する。
この場合、オーステナイト系ステンレス鋼の熱間加工性が高まる。
以下、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼について詳述する。
[化学組成]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成は、次の元素を含有する。特に断りが無い限り、元素に関する%は質量%を意味する。
C:0.0180%未満
炭素(C)は、Cr炭化物を生成して析出し、耐ポリチオン酸SCCを引き起こす。Cはさらに、粒界を強化する元素(Nb、Sn、Ta、Ti、Hf及びV)と結合して炭化物を生成する。この場合、これらの元素が粒界を強化する作用が低下する。そのため、C含有量は低い方が好ましい。C含有量は0.0180%未満である。C含有量の上限は好ましくは0.0160%未満であり、より好ましくは0.0120%である。一方、Cはより低い方が望ましいが、0.0050%未満にすると経済性を損なう。そのため、Cを0.0050%以上含有させてもよい。
Si:0.001~0.900%
シリコン(Si)は溶製時に鋼を脱酸する。Siはさらに、鋼の耐酸化性及び耐水蒸気酸化性を高める。Si含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Siはフェライト相を安定化する。そのため、Si含有量が高すぎれば、高温で時効処理した場合にシグマ(σ)相が生成しやすくなる。この場合、高温環境下における組織安定性が低下し、鋼の靱性及び延性が低下する。したがって、Si含有量は0.001~0.900%である。Si含有量の下限は好ましくは0.020%であり、より好ましくは0.100%である。Si含有量の上限は好ましくは0.800%であり、より好ましくは0.700%である。
Mn:0.001~1.800%
マンガン(Mn)は、オーステナイト相を安定化する。Mnはさらに、硫黄(S)による熱間加工性の低下を抑制する。Mnはさらに、鋼を脱酸する。Mn含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、σ相等の金属間化合物相の析出が促進される。この場合、高温環境下における組織安定性が低下し、鋼の靱性及び延性が低下する。したがって、Mn含有量は0.001~1.800%である。Mn含有量の下限は好ましくは0.020%であり、より好ましくは0.100%である。Mn含有量の上限は好ましくは1.700%であり、より好ましくは1.600%である。
P:0.0400%以下
リン(P)は不純物である。Pは凝固時に粒界に偏析し、凝固割れ感受性を高める。そのため、P含有量は低い方が好ましい。したがって、P含有量は0.0400%以下である。P含有量の上限は好ましくは0.0350%であり、より好ましくは0.0300%である。本実施形態において、P含有量は検出限界以下(1ppm未満)の場合も有り得る。一方、P含有量を極限まで低減すれば、脱リンによる製造コストが高くなる。そのため、P含有量の下限は好ましくは0%超、より好ましくは0.0001%、さらに好ましくは0.0010%である。
S:0.0100%以下
硫黄(S)は不純物である。Sは凝固時に粒界に偏析し、凝固割れ感受性を高める。そのため、S含有量は低い方が好ましい。したがって、S含有量は0.0100%以下である。S含有量の上限は好ましくは0.0050%であり、より好ましくは0.0030%である。一方、S含有量を極限まで低減すれば、脱硫による製造コストが高くなる。そのため、S含有量の下限は好ましくは0.0001%である。
Cu:2.00~4.50%
銅(Cu)は鋼中に微細に析出して鋼の長時間クリープ強度を高める。Cu含有量が低すぎれば、この効果を得られない。一方、Cuは粒界に偏析しやすい。そのため、Cu含有量が高すぎれば、凝固割れ感受性が高まる。したがって、Cu含有量は2.00~4.50%である。Cu含有量の下限は好ましくは2.20%であり、より好ましくは2.50%である。Cu含有量の上限は好ましくは4.00%であり、より好ましくは3.50%である。
Ni:9.00~16.00%
ニッケル(Ni)はオーステナイト安定化元素である。Niは、長時間使用時における鋼組織を安定化する。そのため、Niは鋼の長時間クリープ強度を高める。Ni含有量が低すぎれば、この効果を得られない。一方、Ni含有量が高すぎれば、積層欠陥エネルギーが低下し、冷間加工性が低下する。Ni含有量が高すぎればさらに、コストが増大する。したがって、Ni含有量は9.00~16.00%である。Ni含有量の下限は好ましくは9.50%であり、より好ましくは10.00%である。Ni含有量の上限は好ましくは15.50%であり、より好ましくは15.00%である。
Cr:15.00~19.00%
クロム(Cr)は
高温での鋼の耐酸化性及び耐食性を高める。Cr含有量が低すぎれば、この効果を得られない。一方、Crはフェライト安定化元素である。そのため、Cr含有量が高すぎれば、高温でのオーステナイト相の安定性が低下する。この場合、鋼の長時間クリープ強度が低下する。したがって、Cr含有量は15.00~19.00%である。Cr含有量の下限は好ましくは15.20%であり、より好ましくは15.50%であり、さらに好ましくは15.80%である。Cr含有量の上限は好ましくは18.70%であり、より好ましくは18.50%であり、さらに好ましくは18.20%である。
Nb:0.100~1.000%
ニオブ(Nb)は、低C及び低Nの条件下で、Sn及びBと共存することで、鋼の長時間クリープ強度を高める。Nbは粒界に偏析して粒界を強化する。これにより、鋼の長時間クリープ強度を高める。Nbの一部はさらに、母相に固溶して鋼の長時間クリープ強度を高める。Nb含有量が低すぎれば、この効果を得られない。一方、Nb含有量が高すぎれば、オーステナイト相の安定性が低下する。Nb含有量が高すぎればさらに、溶接性が低下する。したがって、Nb含有量は0.100~1.000%である。Nb含有量の下限は好ましくは0.150%であり、より好ましくは0.200%である。Nb含有量の上限は好ましくは0.900%であり、より好ましくは0.700%である。
B:0.0005~0.0300%
ボロン(B)は低C及び低Nの条件下で、Nb及びSnと共存することで、鋼の長時間クリープ強度を高める。Bは、粒界に偏析してNb及びSnの粒界強化を補助する。これにより、鋼の長時間クリープ強度を高める。B含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、B含有量が高すぎれば、鋼の凝固割れ感受性が高まる。したがって、B含有量は0.0005~0.0300%である。B含有量の下限は好ましくは0.0008%であり、より好ましくは0.0010%である。B含有量の上限は好ましくは0.0200%未満であり、より好ましくは0.0100%である。
Sn:0.0005~0.0100%
スズ(Sn)は鋼の不導体被膜中に酸化物として存在し、鋼の耐孔食性を高める。Snはさらに、不導体被膜下の母相最表面に固溶した状態で濃化し、鋼の耐孔食性を高める。Snはさらに、低C及び低Nの条件下で、Nb及びBと共存することで、Nbの偏析による粒界強化を補助及び促進する。これにより、Snは鋼の長時間クリープ強度を高める。Sn含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Snは粒界に偏析しやすい。そのため、Sn含有量が高すぎれば、鋼の凝固割れ感受性が高まる。Sn含有量が高すぎれば、かえって鋼の高温強度が低下する。したがって、Sn含有量は0.0005~0.0100%である。Sn含有量の下限は好ましくは0.0008%であり、より好ましくは0.0010%である。Sn含有量の上限は好ましくは0.0090%であり、より好ましくは0.0085%である。
N:0.0090%以下
窒素(N)は粒界を強化する元素(Nb、Sn、Ta、Ti、Hf及びV)と結合して窒化物を生成する。この場合、これらの元素の固溶を阻害し、これらの元素が粒界を強化する作用が低下する。この場合、鋼の長時間クリープ強度が低下する。また、N含有量が高すぎれば、溶接熱影響部での耐ポリチオン酸SCC性及び冷間加工性が低下する。したがって、N含有量は0.0090%以下である。N含有量の上限は好ましくは0.0080%であり、さらに好ましくは0.0070%である。一方、Nはオーステナイト安定化元素であり、鋼の組織を安定化させる。Nはさらに、粒内に微細な窒化物を形成して鋼の強度を高める。したがって、Nをたとえば0.0010%以上含有させてもよい。
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、化学組成における不純物とは、オーステナイト系ステンレス鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成はさらに、以下の任意元素を含有してもよい。
上述のオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Mo、W及びCoからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、母相に固溶して鋼の高温強度を高める。この効果を得るために含有させてもよい。
Mo:0~2.00%
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Mo含有量は0%であってもよい。含有される場合、Moは母相に固溶して高温強度を高める。Moはさらに、Cr炭化物の粒界析出を抑制する。Moが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。一方、Mo含有量が高すぎれば、オーステナイト相の安定性が低下する。この場合、鋼の高温強度及び冷間加工性が低下する。したがって、Mo含有量は0~2.00%である。Mo添加の効果を安定して得るためには、Mo含有量の下限は好ましくは0.10%であり、より好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.30%である。
W:0~3.0%
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、W含有量は0%であってもよい。含有される場合、Wは母相に固溶して鋼の高温強度を高める。Wが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。一方、W含有量が高すぎれば、オーステナイト相の安定性が低下する。この場合、鋼の高温強度及び冷間加工性が低下する。したがって、W含有量は0~3.0%である。W添加の効果を安定して得るためには、W含有量の下限は好ましくは0.1%であり、より好ましくは0.2%であり、さらに好ましくは0.3%である。W含有量の上限は好ましくは1.5%であり、より好ましくは1.2%であり、さらに好ましくは1.0%である。
Co:0~3.0%
コバルト(Co)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Co含有量は0%であってもよい。Coはオーステナイト相を安定化する。そのため、Coが含有される場合、Coは母相に固溶して鋼の高温強度を高める。Coが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。一方、Co含有量が高すぎれば、コストが増大する。したがって、Co含有量は0~3.0%である。Co添加の効果を安定して得るためには、Co含有量の下限は好ましくは0.1%である。Co含有量の上限は好ましくは2.5%であり、より好ましくは2.0%である。
上述のオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ta、Ti、V及びHfからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、炭化物を形成して鋼の鋭敏化を抑制し、さらに、粒界強化作用を補助及び促進する。この効果を得るために含有させてもよい。
Ta:0~1.0%
タンタル(Ta)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ta含有量は0%であってもよい。含有される場合、Taは粒内で炭化物を形成し、Cr炭化物の粒界への析出を抑制する。これにより、Taは鋼の耐粒界腐食性を高める。Taはさらに、粒内に炭化物として析出し、鋼の高温強度を高める。Taはさらに、Nbの偏析による粒界強化を補助及び促進する。これにより、Taは鋼の高温強度を高める。Taが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。一方、Ta含有量が高すぎれば、Ta炭化物が粒内に過剰に析出する。これにより、粒内の変形が妨げられ、粒界の脆化が助長される。したがって、Ta含有量は0~1.0%である。Ta添加の効果を安定して得るためには、Ta含有量の下限は好ましくは0.01%であり、より好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。Ta含有量の上限は好ましくは0.9%であり、より好ましくは0.8%である。
Ti:0~1.0%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ti含有量は0%であってもよい。含有される場合、Tiは粒内で炭化物を形成し、Cr炭化物の粒界への析出を抑制する。これにより、Tiは鋼の耐粒界腐食性を高める。Tiはさらに、粒内に炭化物として析出し、鋼の高温強度を高める。Tiはさらに、Nbの偏析による粒界強化を補助及び促進する。これにより、Tiは鋼の高温強度を高める。Tiが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。一方、Ti含有量が高すぎれば、Ti炭化物が粒内に過剰に析出する。これにより、粒内の変形が妨げられ、粒界の脆化が助長される。したがって、Ti含有量は0~1.0%である。Ti添加の効果を安定して得るためには、Ti含有量の下限は好ましくは0.01%であり、より好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。Ti含有量の上限は好ましくは0.9%であり、より好ましくは0.8%である。
V:0~1.0%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、Vは粒内で炭化物を形成し、Cr炭化物の粒界への析出を抑制する。これにより、Vは鋼の耐粒界腐食性を高める。Vはさらに、粒内に炭化物として析出し、鋼の高温強度を高める。Vはさらに、Nbの偏析による粒界強化を補助及び促進する。これにより、Vは鋼の高温強度を高める。Vが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。一方、V含有量が高すぎれば、V炭化物が粒内に過剰に析出する。これにより、粒内の変形が妨げられ、粒界の脆化が助長される。したがって、V含有量は0~1.0%である。V添加の効果を安定して得るためには、V含有量の下限は好ましくは0.01%であり、より好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。V含有量の上限は好ましくは0.9%であり、より好ましくは0.8%である。
Hf:0~1.0%
ハフニウム(Hf)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Hf含有量は0%であってもよい。含有される場合、Hfは粒内で炭化物を形成し、Cr炭化物の粒界への析出を抑制する。これにより、Hfは鋼の耐粒界腐食性を高める。Hfはさらに、粒内に炭化物として析出し、鋼の高温強度を高める。Hfはさらに、Nbの偏析による粒界強化を補助及び促進する。これにより、Hfは鋼の高温強度を高める。Hfが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。一方、Hf含有量が高すぎれば、Hf炭化物が粒内に過剰に析出する。これにより、粒内の変形が妨げられ、粒界の脆化が助長される。したがって、Hf含有量は0~1.0%である。Hf添加の効果を安定して得るためには、Hf含有量の下限は好ましくは0.01%であり、より好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。Hf含有量の上限は好ましくは0.9%であり、より好ましくは0.8%である。
上述のオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ca、Mg及び希土類元素(REM)からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼の熱間加工性を高める。この効果を得るために含有させてもよい。
Ca:0~0.020%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ca含有量は0%であってもよい。CaはS及びOとの親和性が高い。そのため、Caが含有される場合、Caは溶製時に鋼を脱硫及び脱酸し、鋼の熱間加工性を高める。Caはさらに、Sの粒界偏析に起因した凝固割れ感受性を低減する。Caが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。一方、Ca含有量が高すぎれば、CaがOと結合することにより、鋼の清浄性が低下し、かえって鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Ca含有量は0~0.020%である。Ca添加の効果を安定して得るためには、Ca含有量の下限は好ましくは0.0005%であり、より好ましくは0.0010%である。Ca含有量の上限は好ましくは0.015%であり、より好ましくは0.010%である。
Mg:0~0.020%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Mg含有量は0%であってもよい。MgはS及びOとの親和性が高い。そのため、Mgが含有される場合、Mgは溶製時に鋼を脱硫及び脱酸し、鋼の熱間加工性を高める。Mgはさらに、Sの粒界偏析に起因した凝固割れ感受性を低減する。Mgが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。一方、Mg含有量が高すぎれば、MgがOと結合することにより、鋼の清浄性が低下し、かえって鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Mg含有量は0~0.020%である。Mg添加の効果を安定して得るためには、Mg含有量の下限は好ましくは0.0005%であり、より好ましくは0.0010%である。Mg含有量の上限は好ましくは0.015%であり、より好ましくは0.010%である。
希土類元素(REM):0~0.100%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、REM含有量は0%であってもよい。REMはS及びOとの親和性が高い。そのため、REMが含有される場合、REMは溶製時に鋼を脱硫及び脱酸し、鋼の熱間加工性を高める。REMはさらに、Sの粒界偏析に起因した凝固割れ感受性を低減する。REMが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。一方、REM含有量が高すぎれば、REMがOと結合することにより、鋼の清浄性が低下し、かえって鋼の熱間加工性が低下する。したがって、REM含有量は0~0.100%である。REM添加の効果を安定して得るためには、REM含有量の下限は好ましくは0.0005%であり、より好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%である。REM含有量の上限は好ましくは0.070%であり、より好ましくは0.050%である。希土類元素(REM)とは、周期律表中の原子番号57のランタン(La)から原子番号71のルテチウム(Lu)に、イットリウム(Y)、及びスカンジウム(Sc)を加えた17元素の総称である。REMの含有量は、これらの元素の1種又は2種以上の総含有量を意味する。
[式(1)について]
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成は、式(1)を満たす。
0<(Nb/92.9+Sn/118.69+Ta/180.95+Ti/47.9+Hf/178.49+V/50.94-C/12.01-N/14.01)×B/10.81・・・(1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、その元素の含有量(質量%)が代入される。
F1=(Nb/92.9+Sn/118.69+Ta/180.95+Ti/47.9+Hf/178.49+V/50.94-C/12.01-N/14.01)×B/10.81と定義する。F1が0以下である場合、固溶Nb及び固溶Snの粒界強化作用と、Ta、Ti、Hf及びBによる固溶Nb及び固溶Snの粒界強化の補助作用との相乗効果が得られない。このため、長時間クリープ強度が低下する。したがって、F1>0である。F1の下限は好ましくは5×10-8であり、より好ましくは1×10-7であり、さらに好ましくは1.5×10-7である。一方、F1が高すぎれば、オーステナイト系ステンレス鋼の溶接性が低下する可能性がある。したがって、F1の上限は好ましくは3×10-5であり、より好ましくは2.8×10-5であり、さらに好ましくは2.7×10-5である。
[ミクロ組織について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼のミクロ組織は、溶体化状態においてオーステナイト相からなり、他の相の析出は極めて少ない。
[析出物について]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成は、C含有量が低い。そのため高温での使用中においては、炭化物の析出量は顕著に低い。また、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成は、N含有量が低い。そのため、窒化物の析出量は顕著に低い。一方、高温での使用中においては微細なCu粒子が析出する。
[オーステナイト系ステンレス鋼の形状]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼の形状は特に限定されない。オーステナイト系ステンレス鋼の形状はたとえば、鋼管、鋼板、棒鋼及び線材である。
[製造方法]
以下、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法を説明する。
[準備工程]
準備工程では、初めに、上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼は、真空誘導溶解炉、電気炉、AOD炉、及びVOD炉等を用いて製造できる。
次に、製造された溶鋼から素材を製造する。具体的には、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造する。必要に応じて、インゴットを熱間加工(熱間鍛造、及び熱間圧延等)して、スラブ、ブルーム又はビレットを製造する。溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片(スラブ、ブルーム、又はビレット)を製造してもよい。
製造された素材を熱間加工して、中間材又は最終製品を製造する。素材を鋼板に加工する場合はたとえば、熱間圧延でプレート又はコイル状に加工する。素材を鋼管に加工する場合はたとえば、熱間押出製管法や、マンネスマン製管法により管状に加工する。熱間加工の具体的な方法は特に限定されない。熱間加工の方法は、最終製品の形状に応じた方法が適宜選択される。
熱間加工の加工終了温度は、好ましくは1050℃以上である。この場合、Nb、Ti及びVが母相中により十分に固溶するため、より優れた高温強度が得られる。
熱間加工後の素材(中間材)に対して、冷間加工を行ってもよい。中間材が鋼管である場合、冷間加工は冷間引抜きや冷間圧延である。冷間加工は1回実施してもよいし、複数回実施してもよい。冷間加工を実施する場合、後工程の熱処理時に再結晶又は整粒化を促進するため、最終の冷間加工での断面減少率を10%以上にすることが好ましい。また、冷間加工を複数回実施する場合、冷間加工と冷間加工との間に中間熱処理を実施してもよい。
上述の熱間加工後、又は、その後に冷間加工を実施した場合には冷間加工後に、最終熱処理を実施する。最終の熱処理の加熱温度はたとえば1050℃以上である。加熱温度の上限は特に限定されないが、たとえば1350℃である。加熱温度が1350℃以下であれば、高温粒界割れ、延性低下、結晶粒の粗大化及び加工性の低下が抑制できる。
たとえば、以上の製造方法により、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼が製造できる。一方、上述の製造方法は一例であり、他の製造方法によって製造されてもよい。
表2に示す化学組成を有するインゴットを、真空誘導溶解炉を用いて製造した。インゴットを熱間鍛造、熱間圧延及び冷間圧延して鋼板を製造した。鋼板は、厚さ10.5mm、幅70mm、長さ600mmの鋼板であった。続いて、固溶化熱処理として、鋼板を1150℃で10分間加熱し、水冷した。
なお、表2に示した鋼のうち、A1~A16は本発明の範囲内の化学組成を有し、B1~B16は本発明の範囲外の化学組成を有した。なお、表1及び表2中、「-」と記載された箇所は、検出限界以下であることを示す。たとえばP含有量について検出限界以下とは、1ppm未満であることを指す。
Figure 0007106962000002
表2中、F1の欄には、F1=(Nb/92.9+Sn/118.69+Ta/180.95+Ti/47.9+Hf/178.49+V/50.94-C/12.01-N/14.01)×B/10.81として求めたF1の値を記載する。上記式において、各元素記号には、その元素の含有量(質量%)が代入される。
[クリープ破断試験]
各鋼番号の長時間クリープ強度を、JIS Z2271(2010)に準拠したクリープ破断試験によって評価した。各鋼番号の固溶化熱処理後の鋼板から、クリープ破断試験片を採取した。試験片は、平行部の直径が6mm、標点間距離が30mmの丸棒試験片であった。試験片の採取は、試験時の引張方向が鋼板の圧延方向と平行になるように行った。クリープ破断試験の条件は、800℃、応力50MPaであった。破断時間が1000時間以上であった場合は、表3の長時間クリープ強度の欄に白丸印(○)を示す。破断時間が1000時間未満であった場合は、表3の長時間クリープ強度の欄にバツ印(×)を示す。
[引張試験]
各鋼番号の冷間加工性を、JIS G0567(2012)に準拠した引張試験を室温で行うことにより求めた。各鋼番号の固溶化熱処理後の鋼板から、試験片を採取した。試験片は、平行部の直径が6mm、標点間距離が30mmの丸棒試験片であった。試験片の採取は、試験時の引張方向が鋼板の圧延方向と平行になるように行った。引張試験は室温で行った。引張試験は、0.2%耐力までは試験速度を0.3%/分とし、0.2%耐力から破断までは試験速度を7.5%/分として行った。
引張試験で得られた真応力-真ひずみ曲線において、最小二乗法による回帰を行った。回帰式には、σ=Cεnを用いた。このとき、σ:真応力、C:定数、ε:真ひずみ、n:加工硬化指数とした。得られた回帰式から、ε=0.4のときの真応力σ0.4を変形抵抗値として算出した。変形抵抗値σ0.4が750MPa未満であった場合は、表3の冷間加工性の欄に白丸印(○)を示す。変形抵抗値σ0.4が750MPa以上であった場合は、表3の冷間加工性の欄にバツ印(×)を示す。
[孔食電位測定試験]
各鋼番号の孔食電位を、JIS G0577(2014)に準拠した孔食電位測定試験によって測定した。各鋼番号の鋼板から、厚さ5mm、直径15mmの円形の分極試験片を採取した。分極試験片を、JIS G0577(2014)に規定されるすきま腐食防止電極に装着した。アノード分極曲線を作成し、電流密度が100μA/cm2を超えた最も高い電位を孔食電位Vとした。なお、照合電極には、飽和甘こう電極を用いた。孔食電位Vが1.0×10-1V以上であった場合は、表3の耐孔食性の欄に白丸印(○)を示す。孔食電位Vが1.0×10-1V未満であった場合は、表3の耐孔食性の欄にバツ印(×)を示す。
Figure 0007106962000003
[評価結果]
表2及び表3を参照して、鋼番号A1~A16の鋼板の化学組成は適切だった。具体的には、低C及び低Nの条件下で、さらにNb、B及びSnが共存し、且つ、式(1)を満たした。そのため、鋼番号A1~A16の鋼板は、優れた長時間クリープ強度、優れた耐孔食性及び優れた冷間加工性を有した。
一方で、鋼番号B1~B10の鋼板の化学組成は、各元素の含有量が適切ではなく、さらに、式(1)を満たさなかった。そのため、長時間クリープ強度、耐孔食性及び冷間加工性の少なくともいずれかが劣った。
鋼番号B11の鋼板の化学組成は、C含有量が高すぎた。そのため、クリープ破断時間が1000時間未満となり、長時間クリープ強度が劣った。
鋼番号B12の鋼板の化学組成は、N含有量が高すぎた。そのため、クリープ破断時間が1000時間未満となり、長時間クリープ強度が劣った。鋼番号B12の鋼板はさらに、変形抵抗値σ0.4が750MPa以上となり、冷間加工性が劣った。
鋼番号B13の鋼板の化学組成は、B含有量が低すぎた。そのため、クリープ破断時間が1000時間未満となり、長時間クリープ強度が劣った。
鋼番号B14の鋼板の化学組成は、Nb含有量が低すぎた。そのため、クリープ破断時間が1000時間未満となり、長時間クリープ強度が劣った。
鋼番号B15の鋼板の化学組成は、Sn含有量が低すぎた。そのため、クリープ破断時間が1000時間未満となり、長時間クリープ強度が劣った。鋼番号B15の鋼板はさらに、孔食電位Vが1.0×10-1未満となり、耐孔食性が劣った。
鋼番号B16の鋼板の化学組成は、各元素の含有量は適切であったものの、式(1)を満たさなかった。そのため、クリープ破断時間が1000時間未満となり、長時間クリープ強度が劣った。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.0180%未満、
    Si:0.001~0.900%、
    Mn:0.001~1.800%、
    P:0.0400%以下、
    S:0.0100%以下、
    Cu:2.00~4.50%、
    Ni:9.00~16.00%、
    Cr:15.00~19.00%、
    Nb:0.100~1.000%、
    B:0.0005~0.0300%、
    Sn:0.0005~0.0100%、
    N:0.0090%以下、
    Mo:0~2.00%、
    W:0~0.3%、
    Co:0~0.6%、
    Ta:0~0.5%、
    Ti:0~0.2%、
    V:0~0.2%、
    Hf:0~0.1%、
    Ca:0~0.008%、
    Mg:0~0.020%、
    希土類元素(REM):0~0.001%、及び、
    残部がFe及び不純物からなり、式(1)を満たす化学組成を有する、オーステナイト
    系ステンレス鋼。
    0<(Nb/92.9+Sn/118.69+Ta/180.95+Ti/47.9+
    Hf/178.49+V/50.94-C/12.01-N/14.01)×B/10.
    81・・・(1)
    ここで、式(1)中の各元素記号には、その元素の含有量(質量%)が代入される。
  2. 請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼であって、前記化学組成は質量%で、
    Mo:0.10~2.00%、
    W:0.1~0.3%、及び、
    Co:0.1~0.6
    からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、オーステナイト系ステンレス鋼
  3. 請求項1又は請求項2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼であって、前記化学組成
    は質量%で、
    Ta:0.01~0.5%、
    Ti:0.01~0.2%、
    V:0.01~0.2%、及び、
    Hf:0.01~0.1
    からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、オーステナイト系ステンレス鋼
  4. 請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼であって、
    前記化学組成は質量%で、
    Ca:0.0005~0.008%、
    Mg:0.0005~0.020%、及び、
    希土類元素(REM):0.0005~0.001
    からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、オーステナイト系ステンレス鋼

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