以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
この明細書によると、
(a)研磨パッドを備える研磨装置を用意する工程;
(b)砥粒と水とパッド表面保護剤とを含む研磨液を用意する工程;および
(c)上記研磨パッドと上記シリコンウェーハとの間に上記研磨液を供給して該シリコンウェーハを研磨する工程;
を包含するシリコンウェーハ研磨方法が提供される。ここでいうシリコンウェーハは、シリコンからなる表面を有するウェーハであり、典型的にはシリコン単結晶ウェーハである。上記シリコン単結晶ウェーハは、シリコン単結晶インゴットをスライスして得られたシリコン単結晶ウェーハであり得る。
ここに開示される技術において用いられる研磨装置は、定盤(研磨定盤)に固定された研磨パッドを研磨対象物に押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させることにより該研磨対象物を研磨し得るように構成されたものであればよく、特に限定されない。研磨パッドの研磨定盤への固定手段は特に限定されず、例えば接着剤、粘着剤等の公知の手段を適宜採用することができる。
上記研磨装置としては、研磨対象物の両面を同時に研磨する両面研磨装置を用いてもよく、研磨対象物の片面のみを研磨する片面研磨装置を用いてもよい。片面研磨装置では、一般に、セラミックプレートにワックスで研磨対象物を貼りつけたり、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、研磨液を供給しながら研磨対象物の片面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動させることにより研磨対象物の片面を研磨する。また、両面研磨装置では、一般に、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、上方より研磨液を供給しながら、研磨対象物の片面およびその対向面にそれぞれ研磨パッドを押しつけ、それらを相対方向に回転させることにより研磨対象物の両面を同時に研磨する。ここに開示される研磨方法をシリコンウェーハの予備研磨工程に適用する場合、研磨装置としては両面研磨装置(例えば、バッチ式の両面研磨装置)および片面研磨装置のいずれをも好ましく採用し得る。また、ここに開示される技術をシリコンウェーハの仕上げ研磨工程に適用する場合、研磨装置としては片面研磨装置を好ましく採用し得る。
ここに開示される技術において用いられる研磨パッドは、研磨対象物の種類や研磨の目的を考慮して適宜選択することができ、特に限定されない。上記研磨パッドとしては、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。シリコンウェーハの研磨においては、砥粒を含まない研磨パッドを好ましく採用し得る。
上記研磨パッドとしては、硬度の高いもの、硬度の低いもののいずれも使用可能である。ここで、硬度の高いものとはAskerC硬度が80より高い研磨パッドであり、硬度の低いものとはAskerC硬度が80以下の研磨パッドである。硬度の高い研磨パッドとは、例えば硬質発泡ポリウレタンタイプや不織布タイプの研磨パッドである。硬度の低い研磨パッドとは、少なくとも研磨対象物に押しつけられる側が軟質発泡ポリウレタン等の軟質発泡樹脂により構成されている研磨パッドであり、例えばスウェードタイプの研磨パッドである。AskerC硬度は、Asker社製のアスカーゴム硬度計C型を用いて測定することができる。ここに開示される研磨方法は、例えば、スウェードタイプの研磨パッドを用いる態様で好ましく実施され得る。特に、上記研磨方法を仕上げ研磨工程に適用する場合には、研磨後の面品質向上の観点から、スウェードタイプの研磨パッドを用いることが好ましい。
スウェードタイプの研磨パッドは、一般に、不織布や樹脂フィルム等のパッド基材(ベース基材ともいう。)の上に軟質発泡樹脂の層が設けられた構成を有する。上記軟質発泡樹脂層は、好ましくは軟質発泡ポリウレタン層であり、典型的には湿式製膜法を用いて製造された軟質発泡ポリウレタン層である。上記ベース基材は、単層構造であってもよく、二層以上の多層構造であってよい。上記ベース基材は、例えば、樹脂フィルム、不織布、またはこれらを積層したものであり得る。研磨対象物に押しつけられる側の表面の平坦性や均質性の観点から、樹脂フィルムをベース基材とし、該ベース基材上に軟質発泡樹脂層が設けられた構成の研磨パッドが好ましい。ここで樹脂フィルムとは、非多孔質の(したがって、気泡を含まない)連続した樹脂からなるフィルムをいい、発泡樹脂フィルムや不織布とは区別される概念である。上記樹脂フィルムの一好適例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが挙げられる。ここに開示される技術における研磨パッドとしては、湿式製膜法を用いて製造された軟質発泡ポリウレタン層がベース基材上に設けられた構成のスウェードパッドを好ましく採用し得る。
ここに開示される研磨方法は、砥粒と水とパッド表面保護剤とを含む研磨液を用いて行われる。以下、上記研磨液の組成について、より具体的に説明する。
<砥粒>
砥粒は、研磨対象物の表面を機械的に研磨する働きをする。砥粒の材質や性状は特に制限されず、研磨の目的や態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子(ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。)、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。このような砥粒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記砥粒としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。ここに開示される技術は、例えば、上記砥粒が実質的にシリカ粒子からなる態様で好ましく実施され得る。ここで「実質的に」とは、砥粒を構成する粒子の95重量%以上(好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上であり、100重量%であってもよい。)がシリカ粒子であることをいう。
シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。シリカ粒子は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。研磨後において表面品位に優れた研磨面が得られやすいことから、コロイダルシリカの使用が特に好ましい。コロイダルシリカとしては、例えば、イオン交換法により水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカや、アルコキシド法コロイダルシリカ(アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されたコロイダルシリカ)を好ましく採用することができる。コロイダルシリカは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
砥粒構成材料(例えば、シリカ粒子を構成するシリカ)の真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。シリカの真比重の上限は特に限定されないが、典型的には2.3以下、例えば2.2以下である。砥粒(例えばシリカ粒子)の真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。
砥粒(典型的にはシリカ粒子)のBET径は特に限定されないが、研磨効率等の観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上である。より高い研磨効果(例えば、ヘイズの低減、欠陥の除去等の効果)を得る観点から、上記BET径は、15nm以上が好ましく、20nm以上(例えば20nm超)がより好ましい。また、スクラッチ防止等の観点から、砥粒のBET径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは40nm以下である。ここに開示される技術は、より高品位の表面(例えば、より低ヘイズの表面)が得られやすいこと等から、研磨後に高品位の表面が求められる研磨に適用されることが好ましい。かかる研磨に用いる砥粒としては、BET径が35nm以下(典型的には35nm未満、より好ましくは32nm以下、例えば30nm未満)の砥粒が好ましい。
なお、本明細書においてBET径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、BET径(nm)=6000/(真密度(g/cm3)×BET値(m2/g))の式により算出される粒子径をいう。例えばシリカ粒子の場合、BET径(nm)=2727/BET値(m2/g)によりBET径を算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす粒子の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。例えば、粒子の多くがピーナッツ形状または繭型形状をした砥粒を好ましく採用し得る。
特に限定するものではないが、砥粒の長径/短径比の平均値(平均アスペクト比)は、原理的に1.0以上であり、好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上である。平均アスペクト比の増大によって、より高い研磨能率が実現され得る。また、砥粒の平均アスペクト比は、スクラッチ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
砥粒の形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数(例えば200個)のシリカ粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
研磨液における砥粒の含有量は特に制限されないが、典型的には0.01重量%以上であり、0.05重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.10重量%以上、例えば0.15重量%以上である。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨速度が実現され得る。砥粒の分散安定性の観点から、通常、上記含有量は、10重量%以下が適当であり、好ましくは7重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下、例えば1重量%以下であり、0.7重量%以下であってもよい。好ましい一態様において、上記含有量は、0.5重量%以下であってもよく、0.2重量%以下であってもよい。
<水>
水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、研磨液に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。
<パッド表面保護剤>
ここに開示される研磨方法に用いられる研磨液は、パッド表面保護剤を含む。パッド表面保護剤は、パッドの表面に適度に吸着することで、研磨パッドとシリコンウェーハとの過度な接触を抑制し、研磨後の表面におけるヘイズの低減に寄与し得る。
上記パッド表面保護剤としては、疎水性領域と親水性領域とを有する化合物が用いられる。このような構造を有するパッド表面保護剤は、疎水性領域を有することにより研磨パッドへの吸着性がよく、かつ親水性領域を有することにより研磨液への溶解性のよいものとなり得る。ここで、疎水性領域と親水性領域とを有する化合物とは、該化合物全体の構造のなかで、相対的に疎水性領域の高い領域と、相対的に親水性の領域とが偏在していることをいう。したがって、一種類の繰返し単位からなるポリマー(ホモポリマー)や、二種類以上の繰返し単位がランダムに配列しているポリマー(ランダムコポリマー)は、ここでいう疎水性領域と親水性領域とを有する化合物の概念から除かれる。一分子のパッド表面保護剤の有する疎水性領域の数は、1つでもよく、2つ以上でもよい。また、一分子のパッド表面保護剤の有する親水性領域の数は、1つでもよく、2つ以上でもよい。いくつかの態様において、一分子中に1つの疎水性領域と1つの親水性領域とを有する化合物を、パッド保護剤として好ましく採用し得る。
上記パッド表面保護剤は、さらに、研磨パッドに対する吸着率が1.5%以上であることによって特徴付けられる。以下において、「研磨パッドに対する吸着率」を「パッド吸着率」と表記することがある。パッド吸着率は、以下のパッド吸着率測定方法により測定される。後述の実施例においても同様の測定方法が用いられる。
(パッド吸着率測定方法)
(A1) 洗浄、乾燥させた2枚の研磨パッドを、パッド表面が外側を向くようにして相互に貼り合わせる。このようにして貼り合わせた研磨パッドを、30mm×30mmの正方形状に切り出して研磨パッド片P1を作製する。
(A2) 測定対象化合物、アンモニア水(濃度29%)および脱イオン水を混合して、上記測定対象化合物を0.1重量%の濃度で含み、pHが10である水溶液を調製し、これを試験液L1とする。試験液L1に含まれる全有機炭素(TOC)を、島津製作所社製の全有機体炭素計(燃焼触媒酸化方式、型式「TOC-LCPH」)を用いて測定し、これを試験液L1に含まれる測定対象化合物の濃度W1(ppm)とする。
(A3) 30gの試験液L1を適当な大きさの容器に入れ、液温を25℃に調整する。この容器内の試験液L1に、研磨パッド片P1を3枚浸漬し、浸漬開始から600秒間静置した後、試験液L1から研磨パッド片P1を取り出す。
(A4) 研磨パッド片P1を取り出した後の試験液L1のTOCを上記(A2)と同様にして測定し、これを研磨パッド片P1浸漬後の試験液L1に含まれる測定対象化合物の濃度W2(ppm)とする。
(A5) 上記測定により得られたW1およびW2に基づいて、次式:パッド吸着率(%)=((全化合物濃度W1-浸漬後化合物濃度W2)/全化合物濃度W1)×100;によりパッド吸着率を算出する。
このようなパッド表面保護剤を含む研磨液によると、該パッド表面保護剤が研磨パッド表面に吸着してこれを保護することにより、研磨パッドとシリコンウェーハとの過度な接触が抑制され、研磨後の表面においてより低いヘイズを実現することができる。パッド吸着率が所定値以上のパッド表面保護剤によると、研磨液中に含まれるパッド表面保護剤を有効に利用してパッド表面の保護効果を効率よく発揮することができる。かかる観点から、いくつかの態様において、パッド表面保護剤のパッド吸着率は、2.0%以上であることが好ましく、2.2%以上であることがより好ましく、2.5%以上であることがさらに好ましく、2.8%以上でもよく、3.0%以上でもよい。パッド吸着率の上限値は特に限定されないが、該パッド表面保護剤による研磨作用(加工力、研磨レート等)の過度の低下を抑制する観点から、通常は10%以下であることが好ましい。いくつかの態様において、パッド表面保護剤としては、パッド吸着率が7%以下、5%以下または4%以下であるものを用いることができる。
上述のパッド吸着率測定方法は、ここに開示される研磨方法に使用する研磨パッドを用いて行われる。また、上記測定方法またはその代替法として、フジボウ愛媛社製のPOLYPAS27NX(湿式製膜法による軟質発泡ポリウレタン層を有するスウェードパッド)を用いてパッド吸着率を求めることができる。すなわち、この研磨パッドを用いて得られるパッド吸着率を、上記測定方法により得られるパッド吸着率の値またはその代用値として用いることができる。特に、ここに開示される研磨方法をシリコンウェーハの仕上げ研磨に適用する場合には、一般にシリコンウェーハの仕上げ研磨においては軟質発泡ポリウレタン層を有するスウェードパッドが用いられることから、代表的なスウェードパッドであるPOLYPAS27NXを用いて得られるパッド吸着率を実用上十分な代用値として採用することができる。かかるパッド吸着率がここに開示されるいずれかの条件を満たすパッド表面保護剤を用いて好適な結果を得ることができる。
パッド表面保護剤の重量平均分子量Mwpは、特に制限されない。研磨パッドに対する迅速吸着性や洗浄性等の観点から、通常、パッド表面保護剤のMwpは、9000以下であることが有利であり、7000以下であることが好ましく、5000以下であることがより好ましく、3000以下、2000以下または1000以下でもよい。また、良好なパッド保護効果、延いてはヘイズの低減効果を発揮しやすくする観点から、パッド表面保護剤のMwpは、通常、150以上であることが有利であり、200以上であることが好ましく、250以上であることがより好ましい。パッド表面保護剤のMwpは、該パッド表面保護剤の化学式に基づいて求められる。化学式が不明な場合には、代用として、GPCにより求められる値(水系、ポリエチレングリコール換算)またはメーカー等による公称値(カタログ値)を、パッド表面保護剤のMwpとして用いることができる。
ここに開示される技術におけるパッド表面保護剤としては、親水性領域と疎水性領域とを有する化合物のなかから、上述したいずれかのパッド吸着率を満たすものを適宜選択して用いることができる。パッド表面保護剤としては、上述したいずれかの重量平均分子量Mwpの上限および/または下限を満たすものを選択することが好ましい。
上記パッド表面保護剤は、分子内に親水性領域と疎水性領域とを有し、好ましくは比較的Mwpの小さい化合物であることから、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤が、その選択肢となり得る。
ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン型化合物(例えば、ポリオキシアルキレン誘導体またはポリオキシアルキレン付加物);複数種のアルキレンオキサイドのブロック共重合体(例えば、ジブロック型共重合体やトリブロック型共重合体);等が挙げられる。
より具体的には、ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジオレイン酸エステル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルチミン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の、オキシアルキレン誘導体;エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体、例えば、PEO(ポリエチレンオキサイド)-PPO(ポリプロピレンオキサイド)-PEO型トリブロック体、PPO-PEO-PPO型のトリブロック共重合体;等が挙げられる。
アニオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン誘導体、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンスルホコハク酸等の、ポリオキシエチレン誘導体;硫酸エステル類、例えばアルキル硫酸エステル、アルキルエーテル硫酸エステル、高級アルコール硫酸エステル等;スルホン酸類、例えばα-オレフィンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸等;アルキル硫酸類;アルキルリン酸エステル類;アルキルスルホコハク酸類;上述したいずれかの化合物の塩;等が例示される。
カチオン性界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、アルキルアミン塩、アミンオキサイド、第四級アンモニウム塩、三級アミドアミン型界面活性剤、等に分類することができる。カチオン性界面活性剤の具体例としては、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート、ラウリルジメチルアミンオキサイド、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
両性界面活性剤の具体例には、アルキルベタイン系、アルキルアミンオキサイド系等が含まれる。両性界面活性剤の具体例としては、ココベタイン、ラウラミドプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン、ラウロアンホ酢酸ナトリウム、ココアンホ酢酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリルベタイン(ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン)等が挙げられる。
ここに開示される技術における研磨液は、上記パッド表面保護剤として、ノニオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤からなる群から選択される一種または二種以上の化合物を含み得る。いくつかの態様において、パッド表面保護剤の好ましい選択肢として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型化合物が挙げられる。なかでもポリオキシエチレンアルキルエーテル型化合物が好ましい。ここで、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型化合物とは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル構造を含む化合物をいい、ポリオキシエチレンアルキルエーテルと、ポリオキシエチレンアルキルエーテル誘導体とを包含する概念である。ポリオキシエチレンアルキルエーテル誘導体は、ノニオン性またはアニオン性であり得る。ポリオキシエチレンアルキルエーテル誘導体の一例として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルおよびその塩が挙げられる。上記塩は、例えばナトリウム塩、アンモニウム塩等であり得る。
パッド表面保護剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル型化合物を用いる場合、そのアルキルエーテル部分の炭素原子数nは、特に限定されない。良好なヘイズ低減効果を得やすくする観点から、上記炭素原子数nは、4以上であることが好ましく、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上である。また、上記炭素原子数nは、12以下であることが好ましく、より好ましくは11以下、さらに好ましくは10以下である。例えば、上記炭素原子数nが8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを好ましく採用し得る。炭素原子数8のアルキル基は、直鎖構造でもよく、分岐鎖構造でもよい。
パッド表面保護剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル型化合物を用いる場合、そのエチレンオキサイド(EO)付加モル数mは、特に限定されない。ここに開示される好ましいパッド吸着率を得やすくする観点から、上記EO付加モル数mは、4以上であることが好ましく、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上である。また、上記EO付加モル数mは、20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下である。いくつかの態様において、EO付加モル数mが9以下、8以下または7以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル型化合物を、パッド表面保護剤として好ましく採用し得る。例えば、EO付加モル数mが6であるポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。
いくつかの態様において、上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル型化合物は、上記EO付加モル数mに対する上記アルキルエーテル部分の炭素原子数nの比、すなわち(n/m)が、0.5以上を満たすことが好ましく、1.0以上を満たすことがより好ましく、1.1以上を満たすことがさらに好ましく、1.2以上を満たすことが特に好ましい。また(n/m)が3.0以下を満たすことが好ましく、2.0以下を満たすことがより好ましく、1.8以下を満たすことがさらに好ましく、1.5以下を満たすことが特に好ましい。(n/m)が上記範囲にあるポリオキシエチレンアルキルエーテル型化合物によると、該化合物を含む研磨液による研磨後において、パッド表面の保護によるヘイズ低減効果と、研磨後のシリコンウェーハの良好な濡れ性とが好適に両立する傾向にある。
研磨液におけるパッド表面保護剤の濃度(2種以上のパッド表面保護剤を含有する研磨液では、それらの合計濃度)は特に制限されず、例えば0.05ppm以上とすることができる。ヘイズ低減等の観点から、好ましい濃度は0.1ppm以上であり、より好ましくは0.5ppm以上、例えば0.8ppm以上であり、1ppm以上でもよく、5ppm以上でもよい。また、研磨速度等の観点から、研磨液におけるパッド表面保護剤の濃度は、通常、150ppm以下とすることが好ましく、50ppm以下とすることがより好ましく、30ppm以下とすることがさらに好ましく、25ppm以下であってもよく、15ppm以下であってもよい。
いくつかの態様において、研磨液におけるパッド表面保護剤の濃度は、該パッド表面保護剤の重量平均分子量Mwpと該パッド表面保護剤の濃度Cp[重量%]とが所定の関係を満たすように設定することができる。上記研磨液は、例えば、上記パッド表面保護剤のMwpと該パッド表面保護剤の濃度Cp[重量%]との積、すなわちMwp×Cpの値が0.10以上1.0以下となる濃度で上記パッド表面保護剤を含むことが好ましい。パッド表面保護剤をこのような濃度で含む研磨液によると、パッド表面保護剤の作用によるヘイズ低減効果を好適に発揮させることができ、かつ該効果と上記研磨液に期待される他の性能(例えば、研磨後の表面の良好な濡れ性)とが好適に両立する傾向にある。いくつかの態様において、Mwp×Cpは、例えば0.15以上であってよく、0.2以上でもよく、0.3以上でもよく、0.35以上でもよく、0.45以上でもよい。また、いくつかの態様において、Mwp×Cpは、例えば0.80以下であってよく、0.60以下でもよい。
<水溶性高分子>
ここに開示される研磨方法に用いられる研磨液は、任意成分として水溶性高分子を含有し得る。上記水溶性高分子は、典型的には、重量平均分子量(Mw)が5000超の化合物である。例えば、Mwが7000超または9000超である一種または二種以上の水溶性高分子を含む研磨液を好ましく採用し得る。水溶性高分子は、研磨中におけるシリコンウェーハの保護性の向上や、研磨後のシリコンウェーハの濡れ性向上に役立ち得る。これにより、より表面品位の高いシリコンウェーハ表面が実現され得る。
水溶性高分子の種類は特に制限されず、シリコンウェーハの研磨の分野において公知の水溶性高分子のなかから適宜選択することができる。上記水溶性高分子は、分子中に、カチオン性基、アニオン性基およびノニオン性基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するものであり得る。上記水溶性高分子は、例えば、分子中に水酸基、カルボキシ基、スルホ基、第1級アミド構造、複素環構造、ビニル構造等を有するものであり得る。凝集物の低減や洗浄性向上等の観点から、上記水溶性高分子としてノニオン性のポリマーを好ましく採用し得る。
ここに開示される技術において好ましく採用し得る高分子化合物として、ポリビニルアルコール系ポリマー、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー等が例示される。
ポリビニルアルコール系ポリマーとしては、その繰返し単位としてビニルアルコール単位を含む水溶性有機物(典型的には水溶性高分子)が用いられる。ここで、ビニルアルコール単位(以下「VA単位」ともいう。)とは、次の化学式:-CH2-CH(OH)-;により表される構造部分である。VA単位は、例えば、酢酸ビニルがビニル重合した構造の繰返し単位(-CH2-CH(OCOCH3)-)を加水分解(けん化)することにより生成し得る。
ポリビニルアルコール系ポリマーは、繰返し単位としてVA単位のみを含んでいてもよく、VA単位に加えてVA単位以外の繰返し単位(以下「非VA単位」ともいう。)を含んでいてもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーが非VA単位を含む態様において、該非VA単位は、オキシアルキレン基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、水酸基、アミド基、イミド基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つの構造を有する繰返し単位であり得る。ポリビニルアルコール系ポリマーは、VA単位と非VA単位とを含むランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーは、非VA単位として、一種類の非VA単位のみを含んでもよく、二種類以上の非VA単位を含んでもよい。
ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、例えば5%以上であってよく、10%以上でもよく、20%以上でもよく、30%以上でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記VA単位のモル数の割合は、50%以上であってよく、65%以上でもよく、75%以上でもよく、80%以上でもよく、90%以上(例えば95%以上、または98%以上)でもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位の実質的に100%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100%」とは、少なくとも意図的にはポリビニルアルコール系ポリマーに非VA単位を含有させないことをいう。他のいくつかの態様において、ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、例えば95%以下であってよく、90%以下でもよく、80%以下でもよく、70%以下でもよい。
ポリビニルアルコール系ポリマーにおけるVA単位の含有量(重量基準の含有量)は、例えば5重量%以上であってよく、10重量%以上でもよく、20重量%以上でもよく、30重量%以上でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記VA単位の含有量は、50重量%以上(例えば50重量%超)であってよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上(例えば90重量%以上、または95重量%以上、または98重量%以上)でもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位の実質的に100重量%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100重量%」とは、少なくとも意図的にはポリビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位として非VA単位を含有させないことをいう。他のいくつかの態様において、ポリビニルアルコール系ポリマーにおけるVA単位の含有量は、例えば95重量%以下であってよく、90重量%以下でもよく、80重量%以下でもよく、70重量%以下でもよい。
ポリビニルアルコール系ポリマーは、VA単位の含有量の異なる複数のポリマー鎖を同一分子内に含んでいてもよい。ここでポリマー鎖とは、一分子のポリマーの一部を構成する部分(セグメント)を指す。例えば、ポリビニルアルコール系ポリマーは、VA単位の含有量が50重量%より多いポリマー鎖Aと、VA単位の含有量が50重量%より少ない(すなわち、非VA単位の含有量が50重量%より多い)ポリマー鎖Bとを、同一分子内に含んでいてもよい。
ポリマー鎖Aは、繰返し単位としてVA単位のみを含んでいてもよく、VA単位に加えて非VA単位を含んでいてもよい。ポリマー鎖AにおけるVA単位の含有量は、60重量%以上でもよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上でもよく、90重量%以上でもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖AにおけるVA単位の含有量は、95重量%以上でもよく、98重量%以上でもよい。ポリマー鎖Aを構成する繰返し単位の実質的に100重量%がVA単位であってもよい。
ポリマー鎖Bは、繰返し単位として非VA単位のみを含んでいてもよく、非VA単位に加えてVA単位を含んでいてもよい。ポリマー鎖Bにおける非VA単位の含有量は、60重量%以上でもよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上でもよく、90重量%以上でもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖Bにおける非VA単位の含有量は、95重量%以上でもよく、98重量%以上でもよい。ポリマー鎖Bを構成する繰返し単位の実質的に100重量%が非VA単位であってもよい。
ポリマー鎖Aとポリマー鎖Bとを同一分子中に含むポリビニルアルコール系ポリマーの例として、これらのポリマー鎖を含むブロック共重合体やグラフト共重合体が挙げられる。上記グラフト共重合体は、ポリマー鎖A(主鎖)にポリマー鎖B(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよく、ポリマー鎖B(主鎖)にポリマー鎖A(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよい。一態様において、ポリマー鎖Aにポリマー鎖Bがグラフトした構造のポリビニルアルコール系ポリマーを用いることができる。
ポリマー鎖Bの例としては、N-ビニル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖や、N-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖が挙げられる。なお、本明細書において主繰返し単位とは、特記しない場合、50重量%を超えて含まれる繰返し単位をいう。
ポリマー鎖Bの一好適例として、N-ビニル型のモノマーを主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわちN-ビニル系ポリマー鎖が挙げられる。N-ビニル系ポリマー鎖におけるN-ビニル型モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bの実質的に全部がN-ビニル型モノマーに由来する繰返し単位であってもよい。
N-ビニル型のモノマーの例には、窒素を含有する複素環(例えばラクタム環)を有するモノマーおよびN-ビニル鎖状アミドが含まれる。N-ビニルラクタム型モノマーの具体例としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。N-ビニル鎖状アミドの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられる。ポリマー鎖Bは、例えば、その繰返し単位の50重量%超(例えば70重量%以上、または85重量%以上、または95重量%以上)がN-ビニルピロリドン単位であるN-ビニル系ポリマー鎖であり得る。ポリマー鎖Bを構成する繰返し単位の実質的に全部がN-ビニルピロリドン単位であってもよい。
ポリマー鎖Bの他の例として、N-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわち、N-(メタ)アクリロイル系ポリマー鎖が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル系ポリマー鎖におけるN-(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bの実質的に全部がN-(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位であってもよい。
N-(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。
ポリマー鎖Bの他の例として、オキシアルキレン単位を主繰返し単位として含むポリマー鎖、すなわちオキシアルキレン系ポリマー鎖が挙げられる。オキシアルキレン系ポリマー鎖におけるオキシアルキレン単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bに含まれる繰返し単位の実質的に全部がオキシアルキレン単位であってもよい。
オキシアルキレン単位の例としては、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシブチレン単位等が挙げられる。このようなオキシアルキレン単位は、それぞれ、対応するアルキレンオキサイドに由来する繰返し単位であり得る。オキシアルキレン系ポリマー鎖に含まれるオキシアルキレン単位は、一種類であってもよく、二種類以上であってもよい。例えば、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とを組合せで含むオキシアルキレン系ポリマー鎖であってもよい。二種類以上のオキシアルキレン単位を含むオキシアルキレン系ポリマー鎖において、それらのオキシアルキレン単位は、対応するアルキレンオキサイドのランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。
ポリマー鎖Bの他の例として、アルキルビニルエーテル単位、ポリビニルアルコールとアルデヒドとをアセタール化して得られた構成単位等を主繰返し単位として含むポリマー鎖が挙げられる。これらのなかでも、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテル単位(アルキルビニルエーテル単位)、炭素原子数1以上7以下のモノカルボン酸に由来するビニルエステル単位(モノカルボン酸ビニルエステル単位)、および、ポリビニルアルコールと炭素原子数1以上7以下のアルキル基を有するアルデヒドとをアセタール化して得られた構成単位からなる群から選択されると好ましい。
炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテル単位の例としては、プロピルビニルエーテル単位、ブチルビニルエーテル単位、2-エチルヘキシルビニルエーテル単位等が挙げられる。炭素原子数1以上7以下のモノカルボン酸に由来するビニルエステル単位の例としては、プロパン酸ビニル単位、ブタン酸ビニル単位、ペンタン酸ビニル単位、ヘキサン酸ビニル単位等が挙げられる。
ここに開示される研磨用組成物に使用されるポリビニルアルコール(PVA)系ポリマーは、変性されていないPVA(非変性PVA、例えば、けん化度が95%以上または98%以上であるポリビニルアルコール)であってもよく、VA単位および非VA単位を含むPVAである変性PVAであってもよい。非変性PVAと変性PVAとを組み合わせて用いてもよい。変性PVAの含有量は、ポリビニルアルコール系ポリマー全量に対して、例えば50重量%未満であることが好ましく、より好ましくは30重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以下であり、5重量%以下であってもよく、1重量%以下であってもよい。ここに開示される研磨用組成物のいくつかの態様において、ポリビニルアルコール系ポリマーとしては、非変性PVAのみを含むポリビニルアルコール(PVA)を好ましく採用し得る。
オキシアルキレン単位を含むポリマーは、炭素原子数2~6のオキシアルキレン単位(典型的には-CnH2nO-で表される構造単位。ここでnは2~6の整数である。)の1種または2種以上を含むポリマーであり得る。上記オキシアルキレン単位の炭素原子数が2~3であるポリマーが好ましい。そのようなポリマーの例として、ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック共重合体、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合体等が挙げられる。
窒素原子を含有するポリマーの非限定的な例には、N-ビニルラクタムやN-ビニル鎖状アミド等のようなN-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー;イミン誘導体;N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー;等が含まれる。
N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマーの例には、窒素を含有する複素環を有するモノマーに由来する繰返し単位を含むポリマーが含まれる。窒素を含有する複素環の一例として、ラクタム環が挙げられる。かかる繰返し単位を含むポリマーの例には、N-ビニルラクタム型モノマーの単独重合体および共重合体や、N-ビニル鎖状アミドの単独重合体および共重合体等が含まれる。上記N-ビニルラクタム型モノマー共重合体は、例えば、N-ビニルラクタム型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体であり得る。上記N-ビニル鎖状アミドの共重合体は、例えば、N-ビニル鎖状アミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体であり得る。
N-ビニルラクタム型モノマーの具体例としては、N-ビニルピロリドン(VP)、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム(VC)、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。N-ビニルラクタム型のモノマー単位を含むポリマーの具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカプロラクタム等が挙げられる。N-ビニル鎖状アミドの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられる。
N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマーの例には、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの単独重合体および共重合体が含まれる。N-(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。上記N-(メタ)アクリロイル型モノマーの共重合体は、例えば、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体であり得る。
N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N-イソプロピルアクリルアミドの単独重合体およびN-イソプロピルアクリルアミドの共重合体が挙げられる。上記N-イソプロピルアクリルアミドの共重合体は、例えば、N-イソプロピルアクリルアミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体であり得る。
N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N-アクリロイルモルホリンの単独重合体およびN-アクリロイルモルホリンの共重合体が挙げられる。上記N-アクリロイルモルホリンの共重合体は、例えば、N-アクリロイルモルホリンの共重合割合が50重量%を超える共重合体であり得る。
水溶性高分子の他の例として、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;アルファ化デンプン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、シクロデキストリン等のデンプン誘導体;等が挙げられる。
水溶性高分子の分子量は特に限定されない。例えば、Mwが200×104以下の水溶性高分子を用いることができる。凝集物の発生を防止する観点から、通常は、Mwが150×104以下の水溶性高分子が好ましく、より好ましくは100×104以下、さらに好ましくは50×104以下である。一方、一般に水溶性高分子のMwが大きくなると研磨後の表面の濡れ性が高くなる傾向にある。かかる観点から、いくつかの態様において、Mwが1×104以上の水溶性高分子を好ましく採用し得る。
なお、本明細書において、水溶性高分子のMwとしては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)を採用することができる。GPC測定装置としては、東ソー株式会社製の機種名「HLC-8320GPC」を用いるとよい。測定条件は以下のとおりとするとよい。後述の実施例についても同様の方法が採用される。
[GPC測定条件]
サンプル濃度:0.1重量%
カラム:TSKgel GMPWXL
検出器:示差屈折計
溶離液:100mM 硝酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=10~8/0~2
流速:1.0mL/分
測定温度:40℃
サンプル注入量:200μL
研磨液における水溶性高分子の含有量(2種以上の水溶性高分子を使用する場合は、それらの合計含有量)は特に制限されず、例えば0.0001重量%以上とすることができ、好ましくは0.001重量%以上であり、より好ましくは0.005重量%以上である。また、研磨液における分散剤の濃度は、通常、0.1重量%以下とすることが好ましく、0.05重量%以下とすることがより好ましく、0.02重量%以下であってもよく、0.01重量%以下であってもよい。
いくつかの態様において、研磨液には、シリカに対する吸着率(以下、「シリカ吸着率」ともいう。)が50%以下である水溶性高分子Qwを含有させることができる。シリカ吸着率が小さい水溶性高分子は、シリカ粒子等の砥粒に対してあまり吸着しないことから、相対的に、研磨対象物であるシリコンウェーハの表面によく吸着する傾向がある。パッド表面保護剤に加えて水溶性高分子Qwを含む研磨液によると、研磨中においてシリコンウェーハの表面がより高度に保護され、研磨後において低ヘイズの表面が実現され得る。また、水溶性高分子Qwを用いることにより、研磨後のシリコンウェーハの濡れ性を向上させ得る。水溶性高分子Qwをシリコンウェーハ表面により効率よく作用させる観点から、水溶性高分子Qwのシリカ吸着率は、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下であり、5%以下でもよい。
本明細書において、水溶性高分子のシリカ吸着率は、以下のシリカ吸着率測定方法により求められる。後述の実施例においても同様の測定方法が用いられる。
(シリカ吸着率測定方法)
(B1) コロイダルシリカ(BET径25nm)、アンモニア水(濃度29重量%)、測定対象水溶性高分子および脱イオン水を混合して、コロイダルシリカを0.083重量%、測定対象水溶性高分子を0.004重量%、アンモニア(NH3)を0.005重量%の濃度で含み、残部が水からなる試験液L2を調製する。
(B2) 試験液L2のTOCを島津製作所社製の全有機体炭素計(燃焼触媒酸化方式、型式「TOC-LCPH」)を用いて測定し、これを全ポリマー濃度A(ppm)とする。
(B3) 試験液L2を高速冷却遠心機(ベックマン・コールター社製、装置名「Avanti HP-301」、ロータ名「JA-30.50」)を使用して、温度25℃、回転数23000rpmで30分間遠心分離し、上澄みL3を取り出す。この上澄みL3のTOCを上記(B2)と同様に測定し、これをフリーポリマー濃度B(ppm)とする。
(B4) 上記の測定により得られたAおよびBに基づいて、次式:シリカ吸着率(%)=((全ポリマー濃度A-フリーポリマー濃度B)/全ポリマー濃度A)×100;によりシリカ吸着率を算出する。
水溶性高分子Qwとしては、例えば、上述した水溶性高分子のなかから、所望のシリカ吸着率を満たすものを適宜選択して用いることができる。いくつかの態様において、水溶性高分子QwとしてPVA、変性PVA等を好ましく採用し得る。
水溶性高分子QwのMwは、例えば2000以上であってよく、5000以上であってよく、通常は1×104以上であることが好ましい。いくつかの態様において、水溶性高分子QwのMwは、1.5×104以上でもよく、2×104以上でもよい。水溶性高分子Qw(例えばPVA)のMwの増大につれて、研磨後の表面の濡れ性が高まる傾向にある。また、水溶性高分子QwのMwが高くなると、水溶性高分子Qwによるシリコンウェーハ表面の保護の緻密さは低下傾向となるため、パッド表面保護剤を用いてシリコンウェーハ表面を研磨パッドとの過度な接触から保護する意義は大きくなる。かかる観点から、ここに開示される技術のいくつかの態様において、研磨液に含有させる水溶性高分子Qwとしては、Mwが3×104以上、5×104以上または6×104以上であるものを好ましく使用し得る。
水溶性高分子QwのMwの上限は特に制限されない。研磨後のシリコンウェーハの洗浄性の観点から、水溶性高分子QwのMwは、通常、100×104以下であることが有利であり、55×104以下でもよく、30×104以下でもよく、20×104以下または15×104以下でもよい。いくつかの態様において、水溶性高分子QwのMwは、10×104以下でもよく、8×104以下でもよい。
いくつかの態様において、研磨液には、シリカ吸着率が60%より高い水溶性高分子Qaを含有させることができる。水溶性高分子Qaを含む研磨液によると、該水溶性高分子Qaがシリカ粒子等の砥粒に吸着することにより、上記砥粒とシリコンウェーハとの接触を和らげることができる。したがって、研磨液に水溶性高分子Qaを含有させることは、ヘイズの低減や表面欠陥の低減に役立ち得る。研磨液中に含まれる水溶性高分子Qaの砥粒保護への利用効率を高める観点から、水溶性高分子Qaのシリカ吸着率は、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上であり、75%以上でもよい。水溶性高分子Qaのシリカ吸着率の上限は、原理的に100%である。
水溶性高分子Qaとしては、例えば、上述した水溶性高分子のなかから、所望のシリカ吸着率を満たすものを適宜選択して用いることができる。例えば、シリカ吸着率60%以上を満たす水溶性高分子Qaの一好適例として、N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマーであるN-ビニルラクタム型モノマーの単独重合体および共重合体(例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール)、N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマーであるN-アルキル(メタ)アクリルアミドの単独重合体および共重合体(例えば、ポリアクリロイルモルホリン(PACMO)、ポリイソプロピルアクリルアミド))、N-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミドの単独重合体および共重合体(例えば、ポリヒドロキシエチルアクリルアミド、N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの単独重合体および共重合体(例えば、ポリアクリロイルモルホリン)、等が挙げられる。
水溶性高分子QaのMwは、例えば2000以上であってよく、5000以上であってよく、通常は1×104以上であることが好ましい。いくつかの態様において、水溶性高分子QaのMwは、1.5×104以上でもよく、2×104以上でもよい。ここに開示される技術のいくつかの態様において、研磨液に含有させる水溶性高分子Qaとしては、Mwが3×104以上、5×104以上または6×104以上であるものを好ましく使用し得る。
水溶性高分子QaのMwの上限は特に制限されない。水溶性高分子QaのMwは、通常、200×104以下であることが有利であり、150×104以下でもよく、100×104以下でもよく、80×104以下または75×104以下でもよい。いくつかの態様において、水溶性高分子QaのMwは、50×104以下でもよく、40×104以下でもよい。
水溶性高分子Qwを含む研磨液において、該研磨液に含まれる水溶性高分子全体のうち水溶性高分子Qwの占める割合は、特に限定されない。上記割合は、例えば5重量%以上であってよく、水溶性高分子Qwの使用効果を高める観点から、通常は15重量%以上であることが好ましく、35重量%以上でもよく、50重量%以上でもよい。いくつかの態様において、上記割合は、75重量%以上でもよく、85重量%以上でもよく、100重量%でもよい。あるいは、他の性能とのバランスを考慮して、上記水溶性高分子Qwの割合は、95重量%以下でもよく、90重量%以下でもよく、75重量%以下でもよく、60重量%以下でもよい。
水溶性高分子Qaを含む研磨液において、該研磨液に含まれる水溶性高分子全体のうち水溶性高分子Qaの占める割合は、特に限定されない。上記割合は、例えば5重量%以上であってよく、水溶性高分子Qaの使用効果を高める観点から、通常は15重量%以上であることが好ましく、25重量%以上でもよく、40重量%以上でもよい。いくつかの態様において、上記割合は、75重量%以上でもよく、85重量%以上でもよく、100重量%でもよい。あるいは、他の性能とのバランスを考慮して、上記水溶性高分子Qaの割合は、95重量%以下でもよく、90重量%以下でもよく、70重量%以下でもよく、50重量%以下でもよい。
ここに開示される技術における研磨液の好ましい一態様として、パッド表面保護剤、水溶性高分子Qwおよび水溶性高分子Qaとして、それぞれ一種類の化合物を含む研磨液が挙げられる。かかる構成の研磨液によると、パッド表面保護剤、水溶性高分子Qwおよび水溶性高分子Qaの作用によって研磨パッド、シリコンウェーハおよび砥粒を効果的に保護することによって研磨後の表面品を効果的に高め、かつ研磨液の組成を単純化することができる。
<塩基性化合物>
ここに開示される研磨方法に用いられる研磨液は、任意成分として、pH調整等の目的で塩基性化合物を含有し得る。本明細書において塩基性化合物とは、水に溶解して水溶液のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物としては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩等を用いることができる。窒素を含む塩基性化合物の例としては、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物、アンモニア、アミン(好ましくは水溶性アミン)等が挙げられる。このような塩基性化合物は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。第四級ホスホニウム化合物の具体例としては、水酸化テトラメチルホスホニウム、水酸化テトラエチルホスホニウム等の水酸化第四級ホスホニウムが挙げられる。
第四級アンモニウム化合物としては、テトラアルキルアンモニウム塩、ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩(典型的には強塩基)を好ましく用いることができる。かかる第四級アンモニウム塩におけるアニオン成分は、例えば、OH-、F-、Cl-、Br-、I-、ClO4
-、BH4
-等であり得る。なかでも好ましい例として、アニオンがOH-である第四級アンモニウム塩、すなわち水酸化第四級アンモニウムが挙げられる。水酸化第四級アンモニウムの具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウムおよび水酸化テトラヘキシルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム;水酸化2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム(コリンともいう。)等の水酸化ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム;等が挙げられる。
これらの塩基性化合物のうち、例えば、アルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウムおよびアンモニアから選択される少なくとも一種の塩基性化合物を好ましく使用し得る。なかでも水酸化テトラアルキルアンモニウム(例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム)およびアンモニアがより好ましく、アンモニアが特に好ましい。
研磨液における塩基性化合物の濃度は特に制限されない。研磨速度向上等の観点から、通常は、上記濃度を研磨液の0.001重量%以上とすることが好ましく、0.003重量%以上とすることがより好ましく、0.005重量%以上とすることがさらに好ましい。また、ヘイズ低減等の観点から、上記濃度は、0.3重量%未満とすることが適当であり、0.1重量%未満とすることが好ましく、0.05重量%未満とすることがより好ましく、0.03重量%未満とすることがさらに好ましい。
その他、上記研磨液は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、キレート剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等の、研磨スラリー(典型的には、シリコンウェーハのポリシング工程に用いられる研磨スラリー)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。また、上記研磨液は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、パッド表面保護剤以外の他の界面活性剤をさらに含有してもよい。ここに開示される技術は、パッド表面保護剤以外の他の界面活性剤を実質的に含まない研磨液を用いて好ましく実施することができる。
上記研磨液は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。研磨液中に酸化剤が含まれていると、当該研磨液が供給されることでシリコンウェーハの表面が酸化されて酸化膜が生じ、これにより研磨レートが低下してしまうことがあり得るためである。ここで、研磨液が酸化剤を実質的に含有しないとは、少なくとも意図的には酸化剤を配合しないことをいい、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれることは許容され得る。上記微量とは、研磨液における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下(好ましくは0.0001モル/L以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下)であることをいう。好ましい一態様に係る研磨液は、酸化剤を含有しない。ここに開示される技術は、例えば、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムおよびジクロロイソシアヌル酸ナトリウムをいずれも含有しない研磨液を用いて好ましく実施され得る。
<pH>
研磨液のpHは、典型的には8.0以上であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.3以上、例えば9.5以上である。研磨液のpHが高くなると、研磨能率が向上する傾向にある。一方、砥粒(例えばシリカ粒子)の溶解を防いで機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、研磨液のpHは、12.0以下であることが適当であり、11.0以下であることが好ましく、10.8以下であることがより好ましく、10.5以下であることがさらに好ましい。
pHは、pHメーター(例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
ここに開示される研磨方法は、シリコンウェーハのポリシングに好ましく適用することができる。研磨対象物であるシリコンウェーハには、ここに開示される研磨方法を適用して行われるポリシングの前に、ラッピングやエッチング等の、ポリシング工程より上流の工程においてシリコンウェーハに適用され得る一般的な処理が施されていてもよい。
ここに開示される研磨方法は、例えば、上流の工程によって表面粗さ0.1nm~100nmの表面状態に調製されたシリコンウェーハのポリシングにおいて好ましく用いられ得る。シリコンウェーハの表面粗さRaは、例えば、Schmitt Measurement System Inc.社製のレーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」を用いて測定することができる。ファイナルポリシング(仕上げ研磨)またはその直前のポリシングでの使用が効果的であり、ファイナルポリシングにおける使用が特に好ましい。ここで、ファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程(すなわち、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程)を指す。
ここに開示される研磨方法に用いられる研磨液は、研磨対象物(ここではシリコンウェーハ)に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態であり、研磨液の原液としても把握され得る。)であってもよい。したがって、この明細書により、ここに開示されるいずれかの研磨方法に用いられる研磨液またはその濃縮液である研磨用組成物が提供される。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は特に限定されず、例えば、体積換算で2倍~100倍程度とすることができ、通常は5倍~50倍程度(例えば10倍~40倍程度)が適当である。このような濃縮液は、所望のタイミングで希釈して研磨液(ワーキングスラリー)を調製し、該研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、例えば、上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。
研磨後の研磨対象物は、典型的には洗浄される。洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、例えば、半導体等の分野において一般的なSC-1洗浄液(水酸化アンモニウム(NH4OH)と過酸化水素(H2O2)と水(H2O)との混合液)、SC-2洗浄液(HClとH2O2とH2Oとの混合液)等を用いることができる。洗浄液の温度は、例えば室温(典型的には約15℃~25℃)以上、約90℃程度までの範囲とすることができる。洗浄効果を向上させる観点から、50℃~85℃程度の洗浄液を好ましく使用し得る。
<研磨用組成物>
また、この明細書によると、シリコンウェーハの研磨に用いるための研磨用組成物であって、砥粒と水とパッド表面保護剤とを含み、上記パッド表面保護剤が疎水性領域と親水性領域とを有しスウェードパッドに対する吸着率が1.5%以上の化合物である研磨用組成物が提供される。ここで、パッド表面保護剤のスウェードパッドに対する吸着率は、研磨パッドとしてフジボウ愛媛社製のPOLYPAS27NX(湿式製膜法による軟質発泡ポリウレタン層を有するスウェードパッド)を使用して、上述したパッド吸着率測定方法を適用することにより求められる。このような組成の研磨用組成物は、シリコンウェーハの研磨(好ましくは仕上げ研磨)に用いられて、研磨後においてヘイズの低い表面を実現することができる。
上記研磨用組成物は、該研磨用組成物を含む研磨液の形態で研磨対象物(ここではシリコンウェーハ)に供給されて、その研磨対象物の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を希釈(典型的には、水により希釈)して調製されたものであり得る。あるいは、該研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液(すなわち、研磨液の原液)との双方が包含される。ここに開示される研磨用組成物を含む研磨液の他の例として、該組成物のpHを調整してなる研磨液が挙げられる。ここに開示される研磨用組成物は、そのまま、または該組成物に希釈やpH調整等の適当な処理を施して、上述したいずれかの研磨方法における研磨液として好ましく用いられ得る。
上記研磨用組成物は、ここに開示されるいずれかの研磨方法に用いられる研磨液またはその濃縮液であり得る。したがって、該研磨用組成物の必須成分である砥粒、水およびパッド表面保護剤や、任意成分である水溶性高分子(例えば、水溶性高分子Qw、水溶性高分子Qa)、塩基性化合物、その他の添加剤は、上述したものから適宜採用することができる。上記研磨用組成物のpHは、上述した範囲から適宜選択することができる。
研磨用組成物は、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、研磨用組成物の構成成分のうち少なくとも砥粒を含むパートAと、残りの成分の少なくとも一部を含むパートBとを混合し、これらを必要に応じて適切なタイミングで混合および希釈することにより研磨液が調製されるように構成されていてもよい。
研磨用組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物を構成する各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物の研磨に使用することができる。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨対象物(ここではシリコンウェーハ)を研磨する方法の好適な一態様につき説明する。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に濃度調整(例えば希釈)、pH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。
次いで、その研磨液を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、シリコンウェーハの仕上げ研磨を行う場合、典型的には、ラッピング工程を経たシリコンウェーハを一般的な研磨装置にセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記シリコンウェーハの研磨対象面に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、シリコンウェーハの研磨対象面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。その後、典型的には研磨対象物を上述のように洗浄する。
以上の説明および後述する具体例から理解されるように、この明細書により開示される事項には、少なくとも以下のものが含まれる。
(1) シリコンウェーハを研磨(ポリシング)する方法であって:
研磨パッドを備える研磨装置を用意する工程;
砥粒と水とパッド表面保護剤とを含む研磨液を用意する工程、ここで、上記パッド表面保護剤は、疎水性領域と親水性領域とを有しており、上記研磨パッドに対する吸着率が1.5%以上の化合物である;および、
上記研磨パッドと上記シリコンウェーハとの間に上記研磨液を供給して該シリコンウェーハを研磨する工程;
を含む、研磨方法。
(2) 上記パッド表面保護剤の重量平均分子量Mwpが250以上5000以下である、上記(1)に記載の研磨方法。
(3) 上記研磨液は、上記パッド表面保護剤の重量平均分子量Mwpと該パッド表面保護剤の濃度Cp[重量%]との積の数値が0.10以上1.0以下となる濃度で上記パッド表面保護剤を含む、上記(1)または(2)に記載の研磨方法。
(4) 上記砥粒のBET径は32nm以下である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の研磨方法。
(5) 上記砥粒はシリカ粒子を含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載の研磨方法。
(6) 上記研磨液は、シリカに対する吸着率が50%以下である水溶性高分子Qwをさらに含む、上記(1)~(5)のいずれかに記載の研磨方法。
(7) 上記水溶性高分子Qwはポリビニルアルコールである、上記(6)に記載の研磨方法。
(8) 上記研磨液は、シリカに対する吸着率が60%以上である水溶性高分子Qaをさらに含む、上記(1)~(7)のいずれかに記載の研磨方法。
(9) 上記水溶性高分子Qaはポリアクリロイルモルホリンである、上記(8)に記載の研磨方法。
(10) 上記パッド表面保護剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型化合物である、上記(1)~(9)のいずれかに記載の研磨方法。
(11) 上記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型化合物はポリオキシエチレンアルキルエーテル型化合物である、上記(10)に記載の研磨方法。
(12) 上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル型化合物は、エチレンオキサイド付加モル数mに対するアルキルエーテル部分の炭素原子数nの比である(n/m)が、0.5以上かつ3.0以下を満たす、上記(11)に記載の研磨方法。
(13) 上記研磨パッドはスウェードパッドである、上記(1)~(12)のいずれかに記載の研磨方法。
(14) 上記研磨する工程は、上記シリコンウェーハの仕上げ研磨工程である、上記(1)~(13)のいずれかに記載の研磨方法。
(15) 上記(1)~(14)のいずれかに記載の研磨方法に用いられる上記研磨液またはその濃縮液である、研磨用組成物。
(16) 研磨パッドを用いてシリコンウェーハを研磨(ポリシング)するための研磨用組成物であって、
砥粒と水とパッド表面保護剤とを含み、
上記パッド表面保護剤は、疎水性領域と親水性領域とを有し、上記研磨パッドに対する吸着率が1.5%以上の化合物である、研磨用組成物。
(17) 研磨パッドを用いてシリコンウェーハを研磨(ポリシング)するための研磨用組成物であって、
砥粒と水とパッド表面保護剤とを含み、
上記パッド表面保護剤は、疎水性領域と親水性領域とを有し、スウェードパッドに対する吸着率が1.5%以上の化合物である、研磨用組成物。
(18) 上記パッド表面保護剤の重量平均分子量Mwpが250以上5000以下である、上記(16)または(17)に記載の研磨用組成物。
(19) 上記研磨用組成物は、上記パッド表面保護剤の重量平均分子量Mwpと該パッド表面保護剤の濃度Cp[重量%]との積の数値が0.10以上1.0以下となる濃度で上記パッド表面保護剤を含む、上記(16)~(18)のいずれかに記載の研磨用組成物。
(20) 上記砥粒のBET径は32nm以下である、上記(16)~(19)のいずれかに記載の研磨用組成物。
(21) 上記砥粒はシリカ粒子を含む、上記(16)~(19)のいずれかに記載の研磨用組成物。
(22) 上記研磨液は、シリカに対する吸着率が50%以下である水溶性高分子Qwをさらに含む、上記(16)~(21)のいずれかに記載の研磨用組成物。
(23) 上記水溶性高分子Qwはポリビニルアルコールである、上記(22)に記載の研磨用組成物。
(24) 上記研磨液は、シリカに対する吸着率が60%以上である水溶性高分子Qaをさらに含む、上記(16)~(23)のいずれかに記載の研磨用組成物。
(25) 上記水溶性高分子Qaはポリアクリロイルモルホリンである、上記(24)に記載の研磨用組成物。
(26) 上記パッド表面保護剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型化合物である、上記(16)~(25)のいずれかに記載の研磨用組成物。
(27) 上記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型化合物はポリオキシエチレンアルキルエーテル型化合物である、上記(25)に記載の研磨用組成物。
(28) 上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル型化合物は、エチレンオキサイド付加モル数mに対するアルキルエーテル部分の炭素原子数nの比である(n/m)が、0.5以上かつ3.0以下を満たす、上記(27)に記載の研磨用組成物。
(29) シリコンウェーハの仕上げ研磨に用いられる、上記(16)~(28)のいずれかに記載の研磨用組成物。
(30) 上記研磨液として、上記(16)~(29)のいずれかの研磨用組成物または該組成物を用いて調製された研磨液を使用する、上記(1)~(14)のいずれかに記載の研磨方法。
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
以下の実施例において使用した界面活性剤および水溶性高分子は、次のとおりである。
C8-EO6:エチレンオキサイド付加モル数6のポリオキシエチレンオクチルエーテル
C10-EO10:エチレンオキサイド付加モル数10のポリオキシエチレンデシルエーテル
C12-EO18-SO3NH4:エチレンオキサイド付加モル数18のポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル塩
EO5:エチレンオキサイドの5量体
PEO-PPO-PEO:Mwが9000のPEO-PPO-PEO型トリブロック体
PVA:Mwが7×104、けん化度が98%以上のポリビニルアルコール
PACMO:Mwが39×104のポリアクリロイルモルホリン
<前段研磨工程>
次に、以下の実施例に適用した前段研磨工程の内容を示す。
(前段研磨工程)
砥粒0.9%および塩基性化合物0.1%を含み、残部が水からなる前段研磨用組成物を調製した。砥粒としては、BET径35nmのコロイダルシリカを使用した。塩基性化合物としては水酸化カリウム(KOH)を使用した。
この前段研磨用組成物をそのまま研磨液(ワーキングスラリー)として使用して、研磨対象物としてのシリコンウェーハを下記の前段研磨条件で研磨した。シリコンウェーハとしては、ラッピングおよびエッチングを終えた直径300mmの市販シリコン単結晶ウェーハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:1Ω・cm以上100Ω・cm未満、COPフリー)を使用した。
[前段研磨条件]
研磨装置:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨荷重:20kPa
定盤回転数:20rpm
キャリア回転数:20rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛社製、製品名「FP55」
研磨液供給レート:1リットル/分
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:2分
<研磨用組成物の調製と仕上げ研磨>
(例1)
砥粒と、パッド表面保護剤と、水溶性高分子と、塩基性化合物とを含み、残部が水からなる研磨用組成物を調製し、例1に係る研磨用組成物とした。砥粒としては、BET径25nmのコロイダルシリカを使用した。パッド表面保護剤としては、C8-EO6を使用した。水溶性高分子としては、PVAと、PACMOを使用した。塩基性化合物としてはアンモニアを使用した。例1に係る研磨用組成物における各成分の濃度は、砥粒が0.170%、C8-EO6が0.0013%、PVAが0.005%、PACMOが0.004%、NH3が0.011%であった。この研磨用組成物のpHは10.2であった。なお、上記C8-EO6の濃度Cpおよび化学式に基づくMwpから求められるCp×Mwpの値は0.51である。
(例2,3,5,6)
例1で使用したパッド表面保護剤の種類および濃度を、それぞれ表1に示す材料および濃度に変更したこと以外は、例1と同様の方法で各例に係る研磨用組成物を調製した。なお、例2の研磨用組成物のCp×Mwpの値は0.24、例3の研磨用組成物のCp×Mwpの値は0.32である。
(例4)
パッド表面保護剤を使用しないこと以外は、例1と同様の方法で例4の研磨用組成物を調製した。
例1~6に係る研磨用組成物をそのまま研磨液(ワーキングスラリー)として使用して、上記前段研磨工程を終えたシリコンウェーハを、下記の仕上げ研磨条件で研磨した。
[仕上げ研磨条件]
研磨装置:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨荷重:15kPa
定盤回転数:30rpm
キャリア回転数:30rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛社製の研磨パッド、商品名「POLYPAS27NX」
研磨液供給レート:2リットル/分
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:2分
研磨後のシリコンウェーハを研磨装置から取り外し、NH4OH(29%):H2O2(31%):脱イオン水(DIW)=2:5.3:48(体積比)の洗浄液を用いて洗浄した(SC-1洗浄)。より具体的には、周波数720kHzの超音波発振器を取り付けた洗浄槽を用意し、洗浄槽に上記洗浄液を収容して70℃に保持し、研磨後のシリコンウェーハを洗浄槽に6分浸漬し、その後超純水によるリンスを行った。この工程を2回繰り返した後、シリコンウェーハを乾燥させた。
<ヘイズの評価>
上記の各例により得られたシリコンウェーハの表面(研磨面)のヘイズを、ウェーハ検査装置(ケーエルエー・テンコール社製、商品名「SURFSCAN SP2 xp」)を用いて測定し、例4の結果を100%としたときの相対ヘイズ比(%)を算出した。相対ヘイズ比の値が小さいほど、ヘイズが改善されたことを示す。得られた結果を表1の該当欄に示す。
表1に示されるように、パッド表面保護剤としてパッド吸着率が1.5%以上である界面活性剤を含む研磨用組成物を用いた例1~例3によると、パッド表面保護剤を含まない研磨用組成物を用いた例4と比較して、研磨後の表面のヘイズが顕著に低減した。例1、2では特に良好なヘイズ低減効果が得られた。また、上記仕上げ研磨を終えた直後のシリコンウェーハについて、シリコンウェーハ外周部からの撥水距離を目視で観察することにより研磨後の表面の濡れ性を評価したところ、例3に比べて例1、2では撥水距離が短く、より良好な濡れ性を示した。特に、例1では撥水距離がゼロであり、研磨後の表面の濡れ性に優れることが確認された。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。