以下、添付図面を参照して、本願の開示するレーダ装置および物標検出方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
また、以下では、本実施形態に係る物標検出方法の概要について図1A~図1Dを用いて説明した後に、本実施形態に係る物標検出方法を適用したレーダ装置1について、図2~図8を用いて説明することとする。また、以下では、レーダ装置1がFCM方式であるものとする。また、以下では、異なる連続信号が標本化によって区別できなくなることで生じるいわゆるエイリアシングを「折り返しゴースト」と記載する場合がある。
まず、本実施形態に係る物標検出方法の概要について図1A~図1Dを用いて説明する。図1A~図1Dは、本実施形態に係る物標検出方法の概要説明図(その1)~(その4)である。
FCM方式では、チャープ波の変調周波数を低くした場合、距離検出においての最大検知距離を長くすることができる。反面、距離分解能については、変調周波数が高い場合に比して低く(荒く)なる。これは、チャープ波の変調周波数が低い場合、送信波と反射波との差分波であるビート信号の周波数が低くなるため、レーダ装置1の処理可能な周波数領域の低い周波数ビンにピークが現れることで最大検知距離に対応する有限の周波数領域を広くとることができるものの、かかる周波数領域に対して現れるピークの間隔は荒くなるためである。かかる距離分解能が低い場合、FFT処理によって導出される周波数スペクトルにおいては、波形が、距離に対して広がりをもつことがある。
具体的に、図1Aに示すような状況を考える。図1Aに示すように、連続する鉄柱PLによって形成された道路横の壁があるものとする。そして、車両正面には、たとえば段ボール箱などの落下物、すなわち動かない静止物があるものとする。この静止物は自車線上にある障害物と言える。
このような状況を走行中、距離分解能が低い変調周波数のチャープ波を用いて物標検出を行うと、図1Bに示すように、FFT処理結果である周波数スペクトルにおいては、波形が距離に対して広がりをもつ、言い方を換えれば、黒丸で示す各標本点は距離分解能が高い場合に比べて間隔が広くなることとなる。
そのうえで、道路横で連続する鉄柱PLは、車両正面の静止物が段ボール箱などであればかかる静止物に比べて反射レベルが明らかに高いと考えられるので、図1Aで想定した状況では、図1Bに示すように、波形はピークの抽出されにくいなだらかな形状となり、かつ、かかる波形に車両正面の静止物に対応するピークは埋もれてしまう。したがって、かかる状況下では、車両正面の静止物を検出できないおそれがある。
なお、FCM方式では、チャープ波の変調周波数を高くした場合、距離検出においての距離分解能を高く(細かく)することができる。反面、最大検知距離については、変調周波数が低い場合に比して短くなる。これは、チャープ波の変調周波数が高い場合、ビート信号の周波数が高くなるため、レーダ装置1の処理可能な周波数領域の高い周波数ビンにピークが現れることで最大検知距離に対応する有限の周波数領域は狭くなるものの、かかる周波数領域に対して現れるピークの間隔は細かくなるためである。すなわち、変調周波数が低い場合と高い場合とでは、距離分解能および最大検知距離の特性はトレードオフの関係となる。
また、FCM方式では、距離検出に関してだけでなく、速度検出において、チャープ波とチャープ波との間の時間に対応する空走時間を長くすることで速度分解能を高くし、短くすることで速度分解能を低くすることができる。反面、空走時間を長くすると最大検知速度は小さくなり、空走時間を短くすると最大検知速度は大きくなる。これは、空走時間が長くなるとチャープ波のチャープ数が減少して、相対速度のサンプリングポイント数も減少するため、サンプリング周波数が低くなり、高周波が見えないために最大検知速度が小さくなるものの、最大検知速度に対応する有限の周波数領域に対するサンプリングの間隔は細かくなるためである。空走時間が短くなる場合はこの逆となる。すなわち、空走時間が長い場合と短い場合とでは、速度分解能および最大検知速度の特性はトレードオフの関係となる。
そこで、かかる点を利用し、本実施形態に係る物標検出方法では、変調周波数の低いチャープ波と高いチャープ波をそれぞれ射ち分けて、それぞれについての周波数解析を行い、その結果に基づいて相互の物標検出における特性の短所を補い合うこととした。
具体的に説明する。まず、本実施形態に係る物標検出方法では、図1Cに示すように、「第1変調」方式(以下、単に「第1変調」と言う)で変調したチャープ波と、「第2変調」方式(以下、単に「第2変調」と言う)で変調したチャープ波とを連続して射ち分けることとした。第1変調と第2変調とでは少なくとも変調周波数および空走時間が異なり、たとえば第1変調の変調周波数Δf1は、第2変調の変調周波数Δf2よりも小さい。また、第1変調の空走時間i1は、第2変調の空走時間i2よりも短い。
このように変調周波数を異ならせた場合、それぞれのチャープ波に基づく物標検出における特性は、図1Cに示すように、第1変調では速度分解能が「低」くなり、最大検知速度が「大」きくなり、距離分解能が「低」くなり、最大検知距離が「長」くなる。一方、第2変調では速度分解能が「高」くなり、最大検知速度が「小」さくなり、距離分解能が「高」くなり、最大検知距離が「短」くなる。
したがって、距離に関しては、第1変調では、速度分解能および距離分解能が低いことが短所となる。反面、最大検知速度が大きいこと、および、最大検知距離が長いことは長所である。また、第2変調では、最大検知速度が小さいこと、および、最大検知距離が短いことが短所となり、その反面、速度分解能および距離分解能が高いことは長所である。
このように第1変調および第2変調の間では、速度分解能および距離分解能と、最大検知速度および最大検知距離とがトレードオフの関係にあることから、たとえば第1変調では検出しづらい物標を、第2変調に基づく検出結果に基づいて推定することができる。具体的には、第1変調では埋もれている可能性のあるピークを第2変調のピークにより推定することができる。その一方で、第2変調では最大検知速度が小さいことから本来の速度とは異なるものとして検出され得る「速度の折り返しゴースト」を、最大検知速度が大きく速度の折り返しの起こりにくい第1変調のピークに基づいてゴーストか否か判定し、正確な速度の導出を可能とすることができる。また、第2変調ではたとえば最大検知距離が短いことから本来の距離とは異なるものとして検出され得る「距離の折り返しゴースト」を、最大検知距離が大きく距離の折り返しの起こりにくい第1変調のピークに基づいてゴーストか否か判定し、正確な距離の導出を可能とすることができる。
より具体的には、図1Dに示すように、本実施形態に係る物標検出方法では、第1変調に基づく周波数スペクトルと、第2変調に基づく周波数スペクトルとを照らし合わせ、周波数スペクトルそれぞれにおいて抽出されたピークの対応関係を探索する。そして、たとえば第1変調および第2変調間で距離および速度の近いピーク、すなわち対応関係を有すると推定されるピークを導出する。そして、導出された「異なる変調方式間のピークを相互利用」することによって、第1変調および第2変調それぞれの短所を補い合う。言い換えれば、異なる変調方式間で検出結果を相互補完する。
たとえば図1Dに示すように、第1変調側ではピークP11,P12,P13が抽出され、第2変調側ではピークP21a,P21b,P22,P23が抽出されていたものとする。本実施形態に係る物標検出方法ではまず、これらピークから、距離および速度の近い、言い換えれば所定の距離範囲および所定の速度範囲にあり、対応関係を有すると推定されるピークを導出する。たとえば、図1Dでは、その導出結果として、ピークP11,P21a,P21bと、ピークP12,P22と、ピークP13,P23とにそれぞれ対応関係があると推定された例を示している。図1Dでは距離側から見た場合を示しているが、各ピークは距離および速度の2次元空間上で抽出される。この点については、図3B~図3Dなどを用いた説明で後述する。
なお、距離および速度の分解能が低い第1変調のピーク(たとえばピークP11)の近傍には、分解能が高い第2変調ではピークが複数(たとえばピークP21a,P21b)検出される場合があり、これらピークP21a,P21bが速度および距離のいずれでも折り返しがない、すなわち実体と判定されれば、たとえば一方は前述の鉄柱PLとして検出され、他方は前述の障害物として検出される。すなわち、この場合は、第1変調側の分解能が低いと言う短所を、第2変調側の分解能が高いと言う長所で補う形となる。したがって、本実施形態に係る物標検出方法によれば、物標の検出精度を向上させることができる。
また、既に述べたが、第2変調側では最大検知速度が小さいこと、または、最大検知距離が短いことから起こり得る、速度または距離の折り返しゴーストか実体かを判別しにくいようなケースについては、対応する第1変調側のピークに基づいてこれを判定することにより、判別することができる。すなわち、この場合は、第2変調側の最大検知速度が小さいおよび最大検知距離が短いと言う短所を、第1変調側の最大検知速度が大きいおよび最大検知距離が長いと言う長所で補う形となる。なお、速度および距離の折り返しの具体的な判定方法については、図5A~図6を用いた説明で詳しく述べる。
また、変調周波数を異ならせるだけでなく、たとえば第1変調と第2変調とで角度分解能が異なるように、広角ビームおよび狭角ビームを射ち分けてもよい。かかる場合は、送信範囲が狭いことから起こり得る、角度の折り返しゴーストか実体かを判別しにくいようなケースも、第1変調側と第2変調側の相互補完により判別が可能となる。かかる場合については、その他の実施形態として、図8を用いた説明で後述する。
また、本実施形態に係る物標検出方法では、第1変調に基づく周波数スペクトルと、第2変調に基づく周波数スペクトルとを照らし合わせる際に、第1変調による第1変調波と第2変調による第2変調波との間には第2変調波の変調時間などに基づく時間差があるので、これを補正する処理を行う。これにより、物標の検出精度を高めるのに資することができる。この点については、図4A~4Cを用いた説明で後述する。
以下、上述した物標検出方法を適用したレーダ装置1について、さらに具体的に説明する。
図2は、本実施形態に係るレーダ装置1のブロック図である。なお、図2では、本実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素のみを機能ブロックで表しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
換言すれば、図2に図示される各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。例えば、各機能ブロックの分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
図2に示すように、レーダ装置1は、送信部10と、受信部20と、処理部30とを備え、自車両の挙動を制御する車両制御装置2と接続される。
かかる車両制御装置2は、レーダ装置1による物標の検出結果に基づいて、PCS(Pre-crash Safety System)やAEB(Advanced Emergency Braking System)などの車両制御を行う。なお、レーダ装置1は、車載レーダ装置以外の各種用途(たとえば、飛行機や船舶の監視など)に用いられてもよい。
送信部10は、信号生成部11と、発振器12と、スイッチ13と、送信アンテナ14とを備える。信号生成部11はノコギリ波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発振器12に供給する。なお、信号生成部11は、後述する送受信制御部31の制御に基づき、第1変調波の送信タイミングでは第1変調による変調信号を生成する。また、第2変調波の送信タイミングでは第2変調による変調信号を生成する。
発振器12は、信号生成部11で生成された変調信号に基づいて、時間の経過に従って周波数が増加するチャープ信号である送信信号を所定期間Tc(以下、チャープ期間Tcと記載する)ごとに生成して、スイッチ13へ供給する。
スイッチ13は、送受信制御部31の制御を受けて動作し、第1変調波の送信タイミングでは送信アンテナ14の一方との接続をオン状態として、送信信号をかかる一方の送信アンテナ14へ出力する。
また、スイッチ13は同様に、第2変調波の送信タイミングでは送信アンテナ14の他方との接続をオン状態として、送信信号をかかる他方の送信アンテナ14へ出力する。なお、図2に示すように、発振器12によって生成された送信信号は、後述するミキサ22に対しても分配される。
送信アンテナ14は、発振器12からスイッチ13を経由した送信信号を送信波へ変換し、かかる送信波を自車両の外部へ出力する。送信アンテナ14が出力する送信波は、チャープ期間Tcごとに、時間の経過に従って周波数が増加または減少するチャープ波である。送信アンテナ14から自車両の外部、たとえば前方へ送信された送信波は、他の車両などの物標で反射されて反射波となる。
受信部20は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ21と、複数のミキサ22と、複数のA/D変換部23とを備える。ミキサ22およびA/D変換部23は、受信アンテナ21ごとに設けられる。
各受信アンテナ21は、物標からの反射波を受信波として受信し、かかる受信波を受信信号へ変換してミキサ22へ出力する。なお、図2に示す受信アンテナ21の数は4つであるが、3つ以下または5つ以上であってもよい。
受信アンテナ21から出力された受信信号は、図示略の増幅器(たとえば、ローノイズアンプ)で増幅された後にミキサ22へ入力される。ミキサ22は、送信部10から分配された送信信号と、受信アンテナ21から入力される受信信号との一部をミキシングし不要な信号成分を除去してビート信号を生成し、A/D変換部23へ出力する。
ビート信号は、送信波と反射波との差分波であって、送信信号の周波数(以下、「送信周波数」と記載する)と受信信号の周波数(以下、「受信周波数」と記載する)との差となるビート周波数を有する。ミキサ22で生成されたビート信号は、A/D変換部23でデジタル信号に変換された後に、処理部30へ出力される。
処理部30は、送受信制御部31と、信号処理部32と、記憶部33とを備える。信号処理部32は、周波数解析部32aと、ピーク抽出部32bと、距離・相対速度演算部32cと、導出部32dと、角度推定部32eと、追従処理部32fとを備える。
記憶部33は、履歴データ33aを記憶する。履歴データ33aは、信号処理部32が周期的に実行する物標の検出に係る一連の信号処理における処理データの履歴である。したがって、前回周期までにピークとして抽出され、物標として判定された各物標データの距離や相対速度などの前回値を含む。
処理部30は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、記憶部33に対応するROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、レジスタ、その他の入出力ポート等を含むマイクロコンピュータであり、レーダ装置1全体を制御する。
かかるマイクロコンピュータのCPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、送受信制御部31、信号処理部32として機能する。なお、送受信制御部31、信号処理部32は全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成することもできる。
送受信制御部31は、送信部10の信号生成部11を制御し、信号生成部11からノコギリ状に電圧が変化する変調信号を発振器12へ出力させる。これにより、時間の経過に従って周波数が変化する送信信号が発振器12から送信アンテナ14へ出力される。
なお、送受信制御部31は、第1変調波および第2変調波の送信タイミングも制御しており、第1変調波の送信タイミングでは、信号生成部11に第1変調による変調信号を生成させる。また、同じく第1変調波の送信タイミングでは、スイッチ13に、第1変調波を送信する側の送信アンテナ14との接続をオン状態とさせる。
また、送受信制御部31は、第2変調波の送信タイミングでは、信号生成部11に第2変調による変調信号を生成させる。また、同じく第2変調波の送信タイミングでは、スイッチ13に、第2変調波を送信する側の送信アンテナ14との接続をオン状態とさせる。
送受信制御部31は、かかる第1変調波および第2変調波の送信タイミングが交互に所定の周期で切り替わるように制御を行う。また、送受信制御部31は、あわせて受信部20を制御する。信号処理部32は、一連の信号処理をレーダ装置1のスキャンごとに周期的に実行する。
周波数解析部32aは、各A/D変換部23から入力されるビート信号に基づいて2次元FFT処理を行い、結果をピーク抽出部32bへ出力する。ピーク抽出部32bは、周波数解析部32aによる2次元FFT処理の結果からピークを抽出し、抽出結果を距離・相対速度演算部32cへ出力する。
ここで、説明を分かりやすくするために、信号処理部32の前段処理から信号処理部32におけるピーク抽出処理までの処理の流れを図3A~図3Dを用いて説明しておく。
図3Aおよび図3Bは、信号処理部32の前段処理から信号処理部32におけるピーク抽出処理までの処理説明図(その1)および(その2)である。また、図3Cおよび図3Dは、ピーク抽出処理の処理説明図(その1)および(その2)である。なお、図3Aは、2つの太い下向きの白色矢印で3つの領域に区切られているが、これら領域を上から順に、上段、中段、下段と記載する。
まず、送信部10による送信処理、および、受信部20による受信処理により、ビート信号が生成される点については既に述べた。これにより、図3Aの上段に示すように、送信周波数fSTと受信周波数fSRとの差となるビート周波数fSB(=fST-fSR)を有するビート信号が、チャープ波ごとに生成される。なお、ここでは、1回目のチャープ波によって得られるビート信号を「B1」とし、2回目のチャープ波によって得られるビート信号を「B2」とし、p回目のチャープ波によって得られるビート信号を「Bp」としている。
また、図3Aの上段に示す例では、送信周波数fSTは、チャープ波ごとに、基準周波数f0から時間に伴って傾きθ(=(f1-f0)/Tm)で増加し、最大周波数f1に達すると基準周波数f0に短時間で戻るノコギリ波状である。また、チャープ波の変調周波数Δfは、Δf=f1―f0で表すことができる。
なお、図示していないが、送信周波数fSTは、チャープ波ごとに、基準周波数f0から最大周波数f1へ短時間で到達し、かかる最大周波数f1から時間に伴って傾きθ(=(f1-f0)/Tm)で減少し、基準周波数f0に達するノコギリ波状であってもよい。
このように生成され、入力される各ビート信号に対し、周波数解析部32aは、まず「1回目のFFT処理」を行う。上述したように、送信信号に基づく送信波は、送信アンテナ14から送信され、かかる送信波が物標で反射して反射波となり、かかる反射波が受信波として受信アンテナ21で受信されて受信信号として出力される。送信波が送信アンテナ14から送信されてから受信信号が出力されるまでの期間は、物標とレーダ装置1との間の距離に比例して増減し、ビート信号の周波数であるビート周波数fSBは、物標とレーダ装置1との間の距離に比例する。
そのため、ビート信号に対して1回目のFFT処理を行って生成したビート信号の周波数スペクトルには、物標との距離に対応する周波数ビン(以下、距離ビンfrと記載する場合がある)にピークが出現する。したがって、かかるピークが存在する距離ビンfrを特定することで、物標との距離を検出することができる。
ところで、物標とレーダ装置1との間の相対速度がゼロである場合、受信信号にドップラー成分は生じず、各チャープ波に対応する受信信号間で位相は同じであるため、各ビート信号の位相も同じである。一方、物標とレーダ装置1との間の相対速度がゼロでない場合、受信信号にドップラー成分が生じ、各チャープ波に対応する受信信号間で位相が異なるため、時間的に連続するビート信号間にドップラー周波数に応じた位相の変化が現われる。
図3Aの中段には、時間的に連続するビート信号(B1~B8)の1回目のFFT処理結果とビート信号間のピークの位相変化の一例を示している。かかる例では、同一の距離ビンfr10にピークがあり、かかるピークの位相が変化していることを示している。
このように、物標とレーダ装置1との間の相対速度がゼロでない場合、ビート信号間において同じ物標のピークにドップラー周波数に応じた位相の変化が現われる。そこで、各ビート信号の1回目のFFT処理により得られる周波数スペクトルを時系列に並べて、図3Aの下段に示すように「2回目のFFT処理」を行うことで、ドップラー周波数に対する周波数ビンにピークが出現する周波数スペクトルを得ることができる。かかるピークが出現した周波数ビン、すなわち速度ビンを検出することで、物標との相対速度を検出することができる。
2次元FFT処理の結果例を図3Bに示す。FCM方式では、かかる2次元FFT処理の結果において、所定の閾値以上のパワー値を示すピークが存在する距離ビンおよび速度ビンの組み合わせが、ピークが存在する距離ビンおよび速度ビンの組み合わせとして特定される。そして、かかるピークが存在するとして特定された距離ビンおよび速度ビンの組み合わせに基づいて、物標との距離および相対速度が導出されることとなる。
ピーク抽出部32bは、このような2次元FFT処理の結果を周波数解析部32aから取得し、かかる2次元FFT処理の結果に基づいて、ピークが存在する距離ビンおよび速度ビンを特定する。
ピーク抽出部32bは、距離ビンおよび速度ビンの組み合わせごとのパワー値であるm×n個のF(fr、fv)のうち、所定の閾値以上であり、かつ、周囲のF(fr、fv)よりも大きい値を有する距離ビンおよび速度ビンを、ピークが存在する距離ビンおよび速度ビンとすることができる。たとえば、図3Cでは、F(5、5)が所定の閾値以上であり、隣接する4点のF(4、5)、F(5、4)、F(5、6)、F(6、5)よりも大きい値を有するならば、距離ビンfr5および速度ビンfv5の組み合わせがピーク位置Prvと特定される。
図3Dには、2次元FFT処理の結果を距離ビン側または速度ビン側からみた場合を模式的に示している。ピーク抽出部32bは、特定したピーク位置Prvに対して、図3Dに示すように、放物線近似でピークの頂点を推定し、ピークを抽出する。
図2の説明に戻り、つづいて距離・相対速度演算部32cについて説明する。距離・相対速度演算部32cは、ピーク抽出部32bによってピークが存在するとして特定されたピーク位置Prvに対応する距離ビンおよび速度ビンの組み合わせに基づいて、物標との距離および相対速度を導出する。また、距離・相対速度演算部32cは、ピーク位置Prv、導出した物標との距離および相対速度を、導出部32dへ出力する。
導出部32dは、距離・相対速度演算部32cから入力されたピーク位置Prv、距離および相対速度に基づき、導出処理を行う。導出処理では、対応する第1変調のピークおよび第2変調のピークの探索が行われる。また、かかる探索により、対応関係を有すると推定される第1変調および第2変調のピークの組み合わせを導出し、かかる組み合わせにつき、第1変調のピークに基づいて第2変調のピークの折り返し可能性を判定する。また、かかる判定結果に基づき、折り返しなしの第2変調のピークと、これに対応する第1変調のピークの対応関係を確定する。また、導出部32dは、導出処理の結果を角度推定部32eへ出力する。
より具体的に、図4A~図6を用いて説明する。図4A~図4Cは、導出処理における時間差補正処理の処理説明図(その1)~(その3)である。また、図5A~図5Gは、導出処理における対応関係判定処理の処理説明図(その1)~(その7)である。また、図6は、距離の折り返しゴーストの判定処理の処理説明図である。
まず、導出処理では、対応関係判定処理に先立って、時間差補正処理が行われる。これは、既に概略は述べたが、対応関係の判定のために、第1変調の周波数スペクトルと第2変調の周波数スペクトルとを照らし合わせるのに際して、第1変調波と第2変調波との間には第2変調波の変調時間などに基づく時間差があるので、かかる時間差を補正するものである。
まず、前提として、第1変調波の方が第2変調波よりも先に送信されたものとする。かかる場合に、図4Aに示すように、たとえば第2変調のピークP22が静止物または接近物相当の物標に対応していた場合、かかる物標は時間の経過とともに、レーダ装置1に対して近づいてくるはずである。
したがって、かかる場合には、導出部32dは、たとえばピークP22をレーダ装置1から遠ざける側へ補正する。ピークP22が静止物または接近物相当の物標に対応するか否か、および、補正量などは、履歴データ33aに含まれる物標データの前回値や前述の時間差などに基づいて判定することができる。すなわち、履歴データ33aには、前回処理までの物標の種別、かかる物標それぞれの位置(距離)や相対速度が含まれて、これらは既知であり、第1変調および第2変調の時間差で周波数がどれくらいずれるかを導出することができる。
同様の考え方で、図4Bに示すように、たとえば第2変調のピークP22が離反物相当の物標に対応していた場合、かかる物標は時間の経過とともに、レーダ装置1から遠ざかるはずである。したがって、かかる場合には、導出部32dは、たとえばピークP22をレーダ装置1へ近づける側へ補正する。
また、図4Cに示すように、自車両に対して相対速度が0の物標については、時間が経過してもレーダ装置1との距離は変化しないので、導出部32dは、時間差に関しては補正なしとする。
このような時間差補正処理を経た後、導出部32dは、第1変調の周波数スペクトルと第2変調の周波数スペクトルとを照らし合わせ、対応する第1変調のピークおよび第2変調のピークを探索する。
具体的には、図5Aに示すように、導出部32dは、距離ビンおよび速度ビンの2次元空間上においてまず「第1変調および第2変調間で対応するピークを探索」する。ここでは、前述の第1変調のピークP11および第2変調のピークP21a,P21bの組み合わせを例に挙げる。
図5Aに示すように、導出部32dは、第1変調および第2変調間で対応するピークを探索し、たとえばピークP11と、かかるピークP11から所定の距離範囲(一例として、±1m)および所定の速度範囲(一例として、±1km/h)にあるピークP21a,P21bとの組み合わせを、対応関係を有するとして推定する。
ただし、前述のように第2変調は最大検知速度が小さいため、ピークP21a,P21bは、最大検知速度を超える物標から折り返された速度の折り返しゴーストである可能性があるが、図5Aに示すように、「第2変調だけでは、速度の折り返しゴーストか否か判別不可」である。
そこで、導出部32dは、図5Bに示すように、たとえばピークP21aを速度の折り返しゴーストと仮定した場合に、ピークP21aと同じ距離ビン上において、折り返し元となる候補、言い換えれば「実体候補を導出」する。実体候補は、演算上求めることができ、たとえばピークP21aの相対速度が「-40km/h」だったとした場合、実体候補は、「±0km/h」および「+20km/h」となる。
そして、導出部32dは、図5Cに示すように、導出した実体候補に対し、「第1変調側で対応するピークの存否を判定」する。具体的には、図5Cに示すように、第1変調のピークP11と同じ距離ビン上で、図5Bで導出したピークP21aの実体候補に対応する領域に第1変調の他のピークが存在するか否かを判定する。
ここで、図5Dに示すように、「いずれにも存在しない」場合、導出部32dは、折り返しにくい第1変調においても実体は検出されていないとして、ピークP21aは「折り返しなしと判定」する。すなわち、ピークP21aは、第2変調で検出された有効な物標データとして取り扱われ、たとえば後段処理の角度推定処理を実行する角度推定部32eへ出力されることとなる。
一方、図5Eに示すように、「少なくともいずれかに存在」する場合、導出部32dは、折り返しにくい第1変調においても実体が検出されているとして、ピークP21aは「折り返しの可能性ありと判定」される。そして、確度の低い物標データとして取り扱われ、たとえば今回のスキャン分の処理では、後段の角度推定部32eへは出力されない。
なお、このように第2変調のピークで折り返しの可能性ありと判定されたピーク(たとえばピークP21a)は、実際に折り返しであれば、第1変調のピークP11とは相対速度が異なるため、図5Fに示すように、ピークP11に対し、「時間の経過とともに距離が離れる」こととなる。したがって、かかる「時間の経過とともに距離が離れる」場合に、ピークP21aは「折り返しありと確定」することができる。
ピークP21bについても、図5Gに示すように、導出部32dは、たとえばピークP21bを速度の折り返しゴーストと仮定した場合に、ピークP21bと同じ距離ビン上において「実体候補を導出」する。そのうえで、導出部32dは、導出した実体候補に対し、「第1変調側で対応するピークの存否を判定」する。
後は、図5D~図5Fに示したピーク21aの場合と同様の判定を行い、「折り返しの可能性あり」と判定され、または時間の経過とともに「折り返しあり」と確定されれば、無効な物標データとして取り扱われる。
また、導出部32dは、第2変調のピークP21a,P21bのいずれも「折り返しなし」であれば、第1変調のピークP11は第2変調のピークP21a,P21bのいずれとも対応関係を有すると判定する。そして、これらは有効な物標データとして取り扱われ、後段の角度推定処理を経て推定される角度などに基づいてたとえばピークP21aは鉄柱PLであり、ピークP21bは障害物であると判定される。
また、これまでは速度の折り返しゴーストの判定処理について説明してきたが、距離の折り返しゴーストについても同様の判定処理を適用できる。すなわち、図6に示すように、第1変調の最大検知距離は長く、第2変調の最大検知距離は短いが、第2変調の最大検知距離を超える位置に静止物FOがある場合、第2変調側では、距離の折り返しゴーストGのピークが抽出される場合がある。この場合、上述した速度の折り返しゴーストと同様、図6に示すように、「第2変調だけでは、実体か距離の折り返しゴーストGか判別不可」である。
しかしながら、速度の折り返しゴーストの場合と同様に、「第1変調側で対応するピークの存否に基づいて判定」することで、第2変調のピークの折り返しの可能性を判定することができる。具体的には、前述のピークP11,ピーク21a,21bの対応関係が推定された後、ピーク21a,21bをそれぞれ距離の折り返しゴーストGと仮定した場合の実体候補をそれぞれ導出し、かかる実体候補に対応する距離に第1変調の他のピークが存在するならば、ピーク21a,21bは距離の折り返しゴーストGの可能性ありと判定されることとなる。一方、実体候補に対応する距離に第1変調の他のピークが存在しなければ、ピーク21a,21bは折り返しなしの実体であると判定でき、その正確な距離も導出可能となる。したがって、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、物標の検出精度を向上させることができる。
図2の説明に戻り、つづいて角度推定部32eについて説明する。角度推定部32eは、所定の方位演算処理により、導出部32dで折り返しなしの有効な物標データとして判定されたピークそれぞれに対応する反射波の到来角度、すなわち物標の存在する角度を推定する。
所定の方位演算処理には、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、DBF(Digital Beam Forming)、または、MUSIC(Multiple Signal Classification)などの公知の到来方向推定手法を用いて行うことができる。また、角度推定部32eは、推定した物標それぞれの角度、物標との距離および相対速度などを含む、最新のスキャンに基づく今回処理の瞬時値を、追従処理部32fへ出力する。
追従処理部32fは、角度推定部32eからの瞬時値に対し、ベイズ確率論方式などを用いて時系列フィルタリングを施し、フィルタ値としての物標データを生成する。各スキャンごとのかかる物標データにより、物標を追従(トラッキング)することが可能となる。追従処理部32fは、生成した物標データを車両制御装置2へ出力する。
次に、本実施形態に係るレーダ装置1が実行する処理手順について、図7Aおよび図7Bを用いて説明する。図7Aは、実施形態に係るレーダ装置1が実行する処理手順を示すフローチャートである。また、図7Bは、導出処理の処理手順を示すフローチャートである。
なお、ここでは、レーダ装置1のスキャン周期ごとに繰り返し実行される一連の信号処理の、スキャン1回分に対応する処理手順を示している。ここに言うスキャン1回分は、第1変調波および第2変調波を連続的に1回ずつ送信した場合に対応する。
図7Aに示すように、まず送信部10が、第1変調波および第2変調波を送信する(ステップS101)。このとき、送受信制御部31は、スイッチ13を制御して送信アンテナ14を切り替えさせつつ、第1変調波および第2変調波を1回ずつ連続的に送信させる。そして、受信部20が、反射波を受信する(ステップS102)。
そして、周波数解析部32aが、周波数解析処理を実行する(ステップS103)。これにより、2次元FFT処理の結果として、第1変調の周波数スペクトルおよび第2変調の周波数スペクトルが得られる。つづいて、ピーク抽出部32bが、ピーク抽出処理を実行する(ステップS104)。
そして、距離・相対速度演算部32cが、距離・相対速度演算処理を実行し(ステップS105)、つづいて導出部32dが、導出処理を実行する(ステップS106)。ここで、図7Bに示すように、導出処理では、導出部32dが、まず第1変調波および第2変調波の時間差を補正する(ステップS201)。
つづいて、導出部32dは、第1変調および第2変調間で距離および速度の近いピークを探索する(ステップS202)。そして、導出部32dは、探索の結果、対応関係を有すると推定される第1変調および第2変調のピークの組み合わせを導出し、かかる組み合わせにつき、第2変調のピークの折り返し可能性を第1変調のピークに基づいて判定する(ステップS203)。なお、ステップ203の折り返しは、速度の折り返しおよび距離の折り返しを含む。
そして、導出部32dは、折り返しなしの第2変調のピークと第1変調のピークの対応関係を確定し(ステップS204)、処理を終了する。
図7Aに戻る。ステップS106の後、角度推定部32eが、角度推定処理を実行する(ステップS107)。そして、追従処理部32fが、角度推定処理までの処理結果に基づいて追従処理を実行し(ステップS108)、スキャン1回分に対応する処理が終了する。
上述してきたように、本実施形態に係るレーダ装置1は、送信部10と、受信部20と、周波数解析部32a(「解析部」の一例に相当)と、導出部32dとを備える。送信部10は、チャープ波を変調周波数および空走時間の異なる複数の方式で切り替えつつ送信する。受信部20は、物標による上記チャープ波の反射波を受信する。周波数解析部32aは、受信部20によって受信された反射波に基づいて生成されるビート信号を上記方式ごとで周波数解析する。導出部32dは、周波数解析部32aによって導出される上記方式ごとの周波数スペクトルそれぞれにおいて抽出されたピークの対応関係を探索し、対応関係を有すると推定されるピークを導出する。
したがって、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、物標の検出精度を向上させることができる。
また、上記方式は、第1方式(第1変調方式)と、かかる第1方式よりも高い変調周波数かつ長い空走時間でチャープ波を送信する第2方式(第2変調方式)であって、導出部32dは、第1方式の周波数スペクトルおよび第2方式の周波数スペクトル間で、所定の距離範囲内かつ所定の速度範囲内にあるピークにつき、対応関係を有すると推定する。
したがって、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、距離および速度の分解能が低いがためにピークが埋もれやすい第1方式の周波数スペクトルのピークに対し、所定の距離範囲内かつ所定の速度範囲内にある、距離および速度の分解能が高い第2方式の周波数スペクトルのピークを、対応関係があると推定することができるので、物標検出につき、方式の違いによる短所を補い合った確度の高い判定を行うことが可能となる。
また、導出部32dは、対応関係を有すると推定されるピークにつき、第2方式によるピークが速度または距離の折り返しゴーストである可能性を、第1方式によるピークに基づいて判定する。
したがって、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、第2方式では最大検知速度が小さくまたは最大検知距離が短いがため検出され得る折り返しゴーストにつき、その可能性を判定することが可能となる。
また、導出部32dは、第2方式によるピークが折り返しゴーストであると仮定した場合に、かかる折り返しゴーストに対応する実体の候補を導出し、この実体の候補に対応する周波数スペクトル上の領域に第1方式による他のピークが存在するならば、上記第2方式によるピークが折り返しゴーストの可能性があると判定する。
したがって、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、最大検知速度が大きく、最大検知距離も長い第1方式のピークに基づいて正確に折り返しゴーストの可能性を判定することができる。
また、導出部32dは、速度の折り返しゴーストの可能性があると判定された第2方式のピークが時間の経過とともに第1方式のピークから距離が離れるならば、かかる第2方式のピークは折り返しゴーストであると確定する。
したがって、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、速度の折り返しゴーストを無効な物標データとして破棄することができるので、折り返しゴーストでない有効な物標データに基づいて物標の正確な速度を導出することが可能となる。
また、レーダ装置1は、角度推定部32eをさらに備える。角度推定部32eは、折り返しゴーストの可能性があるピークを含まない、上記対応関係を有するピークそれぞれに対応する反射波の到来角度を所定の方位演算処理によって推定する。
したがって、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、折り返しゴーストの可能性がある確度の低いピークについては到来角度を推定せず、確度の高いピークについて到来角度を推定し、有効な物標データとして取り扱うので、精度の高い物標判定を行うことが可能となる。
また、導出部32dは、上記方式のうちチャープ波が時間的に後で送信された側の変調時間に基づき、周波数スペクトル間の時間差を補正する。
したがって、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、時間差による誤差を解消した精度の高いピークの対応関係の探索を行うことが可能となる。
ところで、これまでは、第1変調波および第2変調波で変調周波数および空走時間を異ならせる場合について説明してきたが、さらに角度分解能を異ならせてもよい。
(その他の実施形態)
かかる場合をその他の実施形態として図8を用いて説明する。図8は、その他の実施形態に係るレーダ装置1が実行する角度の折り返しゴーストGに対する判定処理の処理説明図である。
なお、その他の実施形態に係るレーダ装置1のブロック図は図2と同様であるので省略する。ただし、その他の実施形態に係るレーダ装置1では、送信アンテナ14の一方と他方では角度分解能が異なる。
送信アンテナ14の一方は、最大検知距離が長く、最大検知角度が狭い(角度分解能の高い)狭角ビームが送信されるように設けられる。送信アンテナ14の他方は、最大検知距離が短く、最大検知角度が広い(角度分解能の低い)広角ビームが送信されるように設けられる。
そして、たとえば狭角ビーム側の送信アンテナ14には、第1変調波が割り当てられる。また、たとえば広角ビーム側の送信アンテナ14には、第2変調波が割り当てられる。
したがって、かかる場合の第1変調波および第2変調波の送信範囲の関係を、図1Aの状況に当てはめて模式的に示せば、図8のようになる。その他の実施形態に係るレーダ装置1では、このように角度分解能を異ならせて送出した第1変調波および第2変調波に基づき、上述してきた実施形態と同様に、第1変調のピークおよび第2変調のピークで対応関係を有すると推定されるピークの組み合わせに基づき、第1変調および第2変調間のピークを相互利用することとなる。
ただし、図8に示すように、この場合だと第1変調波は狭角ビームとして送出されるので、その最大検知角度を超えた位置に物標が存在すれば、角度の折り返しゴーストGが第1変調のピークとして現れる可能性がある。その場合、図8に示すように、「第1変調だけでは、実体か角度の折り返しゴーストGか判別不可」である。
しかしながら、対応関係を有すると推定される第2変調のピークがあり、その角度が車両正面側でなく、たとえば鉄柱PLの方向の角度を示すものであれば、第1変調側に現れたピークは角度の折り返しゴーストGであると判定することができる。すなわち、図8に示すように、「第2変調側で対応するピークの角度に基づいて判定」することができる。
このように、その他の実施形態に係るレーダ装置1では、送信部10が、第1変調よりも第2変調の方が最大検知角度が広くなるようにビームパターンを異ならせてチャープ波を送信し、導出部32dは、第2変調のピークの到来角度によって、第1変調のピークが角度の折り返しゴーストGであるか否かを判定する。
したがって、その他の実施形態に係るレーダ装置1によれば、角度の折り返しゴーストGの存否を判定することができる。なお、説明したのとは逆に、第2変調波を狭角ビームで、第1変調波を広角ビームで送出するようにしてもよい。
また、上述した各実施形態では、送信波の変調方式を第1変調および第2変調の2種別としたが、少なくとも変調周波数および空走時間が異なればよく、3種別以上であってもよい。
したがって、送信アンテナ14も2本に限らず、3本以上であってもよい。また、各変調波に各1本の送信アンテナ14を割り当てるのではなく、1本のみの送信アンテナ14ですべての変調波を送出してもよい。
また、上述した各実施形態では、第1変調波、第2変調波の順で送信する場合を例に挙げたが、逆の順序であってもよい。また、上述した各実施形態では、第1変調波および第2変調波のいずれも複数のチャープ波のまとまりである場合を例に挙げたが、第1変調波のチャープ波および第2変調波のチャープ波を1つずつ交互に送信してもよい。
また、レーダ装置1により検出される静止物の物標数が所定数以上(たとえば、20個以上)である場合、第1変調波におけるチャープの変調周波数よりも第2変調波におけるチャープの変調周波数を2倍以上とし、かつ、第1変調波におけるチャープの空走時間よりも第2変調波におけるチャープの空走時間を2倍以上とすることが好ましい。これにより、物標の正確な距離と相対速度を、折り返しの影響が少ない状態で導出することができる。
また、上述した実施形態では、レーダ装置1は車両に設けられることとしたが、無論、車両以外の移動体、たとえば船舶や航空機等に設けられてもよい。
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。