JP7101367B2 - シナプス形成剤 - Google Patents

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Description

[関連出願]
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2016-091286号(2016年4月28日出願)及び特願2016-091300号(2016年4月28日出願)の明細書に記載された内容を包含する。
[技術分野]
本発明は、間葉系幹細胞を含むシナプス形成剤及び脳可塑性促進剤に関する。より詳細には、患者自身の骨髄又は血液から調製されたCD24陰性の間葉系幹細胞を含むシナプス形成剤及び脳可塑性促進剤に関する。
間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)には脳(実質及び血管)の保護作用があることが知られている。脳梗塞後のMSC投与は、梗塞体積を減らし、行動機能を改善することが、実験的梗塞モデルを用いて確認されている(非特許文献1~3、特許文献1)。また、MSCの静脈投与による脳梗塞患者の治療も多数実施され、運動機能や損傷部位の改善が報告されている(非特許文献4、特許文献2)。
一方、脊髄損傷患者についても、MSCの静脈投与により、機能回復、及び軸索再生の促進、損傷部位の低減が認められている。MSCの効果は、これまで急性期の脊髄損傷患者においては多数報告されているが、慢性期の患者に対する研究は限られており、その効果は十分確認されていない。
MSCの治療メカニズムについては、多数の作用機序が推測されており、これらは神経栄養因子による神経栄養・保護作用、血管新生作用(脳血流の回復)、神経再生の3つに分類される。神経栄養・保護作用は、神経栄養因子であるBDNF(Brain Derived Neurotrophic Factor)やGDNF(Glial Derived Neurotrophic Factor)等の液性因子を介して発揮されることが予測される。血管新生作用には、2つのメカニズムが考えられ、一つは病巣部に集積したMSCが血管新生因子等を分泌し血管新生を誘導することであり、もう一つは投与されたMSC自身が血管内皮に分化して新たな血管を形成することである。神経再生作用も、2つのメカニズムが考えられ、一つは病巣部に集積したMSCが内因性の神経形成を促進することであり、もう一つは投与されたMSC自身が神経細胞・グリア細胞へと分化することである。
しかしながら、上記の作用機序はいずれも観察された現象からの推測にすぎず、MSCの静脈投与によって脳梗塞や脊髄損傷が治療されるメカニズムは実証されていない。
WO2002/000849号 WO2009/034708号
Iihoshi S.et al.,Brain Res.2004;1007:1-9. Nomura T.et al.,Neuroscience.2005;136:161-169. Honma T.et al.,Exp.Neurol.2006;199:56-66. Honmou O.et al.,Brain.2011;134:1790-1807.
本発明の課題は、間葉系幹細胞(MSC)の治療メカニズムを解明し、その臨床応用に向けた理論的根拠を構築することで、従来治療が困難と考えられていた難治性神経疾患に対する新たな治療方法を提供することにある。
発明者らは、静脈投与されたMSCが海馬に到達し、神経細胞へと分化し、シナプスを形成することを実証した。また、脳梗塞モデルにおいて、MSC投与により梗塞領域の運動感覚野のみならず対側の運動感覚野も賦活化されることを実証した。さらに、血管性認知症モデルラットにおいて、MSC投与により認知機能が改善することを実証した。
すなわち、本発明は以下の(1)~(14)に関する。
(1)ヒト骨髄又は血液に由来するCD24陰性の間葉系幹細胞を含む、シナプス形成剤。
(2)細胞が、CD73、CD90、CD105、及びCD200から選ばれる少なくとも1以上が陽性、及び/又はCD19、CD34、CD45、CD74、CD79α、及びHLA-DRから選ばれる少なくとも1以上が陰性である、上記(1)に記載のシナプス形成剤。
(3)ヒト骨髄又は血液が、シナプス形成剤の投与を受ける患者の骨髄又は血液である、上記(1)又は(2)に記載のシナプス形成剤。
(4)細胞がヒト血清を含む培地中で増殖、富化されたものである、上記(1)~(3)のいずれかに記載のシナプス形成剤。
(5)ヒト血清が、シナプス形成剤の投与を受ける患者の自己血清である、上記(4)に記載のシナプス形成剤。
(6)静脈内投与製剤、腰椎穿刺投与製剤、脳内投与製剤、脳室内投与製剤、局所投与製剤、または動脈内投与製剤である、上記(1)~(5)のいずれかに記載のシナプス形成剤。
(7)静脈内投与製剤である、上記(1)~(6)のいずれかに記載のシナプス形成剤。
(8)認知症、慢性期の脳梗塞、慢性期の脊髄損傷、又は精神疾患の患者に投与される、上記(1)~(7)のいずれかに記載のシナプス形成剤。
(9)脳の可塑性を促進させる、上記(1)~(8)のいずれかに記載のシナプス形成剤。
(10)抗凝固剤が、ヘパリン、ヘパリン誘導体またはその塩である、上記(1)~(9)のいずれかに記載のシナプス形成剤。
(11)細胞が、抗凝固剤を含まない、あるいは抗凝固剤が0.02U/mL未満である培地中で増殖、富化されたものである、上記(9)に記載のシナプス形成剤。
(12)ヒト骨髄又は血液が、採取時に添加される抗凝固剤の量を該骨髄又は血液の容積に対して0.2U/mL未満として調製されたものである、上記(10)又は(11)に記載のシナプス形成剤。
(13)ヒト骨髄又は血液に由来するCD24陰性の間葉系幹細胞を含む、脳可塑性促進剤。
(14)複数回投与される、上記(1)~(12)のいずれかに記載のシナプス形成剤、又は(13)に記載の脳可塑性促進剤。
本発明により、静脈投与されたMSCが、シナプスを形成し、神経回路を再建するとともに、脳の可塑性を促進させることにより、脳梗塞や血管性認知症等の神経疾患を改善させることが実証された。本発明により、従来治療困難と考えられてきた、認知症(血管性認知症、アルツハイマー型認知症)や、慢性期脳梗塞及び慢性期脊髄損傷などの難治性神経疾患、精神疾患において、MSC投与が有用であり、その作用は、運動機能のみならず、記憶障害などの高次機能をも回復させることが示される。
図1は、MSCを投与した脳梗塞モデルラットにおけるシナプス形成(左)と可塑性の促進(右:fMRI像)を示す。左:投与したGFP-MSCは海馬に到達し、ニューロンに分化して神経突起を伸ばしてシナプスを形成している。右:MSCを投与してから1~2週間後。白色が梗塞部位。梗塞領域の運動感覚野に加えて、対側の運動感覚野も賦活化されている。 図2は、脳梗塞モデルラットのDTIを示す。コントロールでは脳梗塞によりアクティブな神経が減っているが(左)、MSCを投与群では可塑性が促進され、運動感覚野ばかりでなく、その周囲の皮質まで(正常の範囲を超えて)代償する領域が広がり、運動線維も増えている(右)。 図3は、脳梗塞モデルラットのDTIを示す。(上)健側の可塑性:健側皮質ROI-健側内包ROI、(中)患側皮質→健側:患側皮質ROI-健側外包ROI、(下)左右のネットワーク:患側皮質ROI-健側皮質ROI。 図4は、血管性認知症モデルラットにおけるMSCの効果を示す。認知機能を見る3つのテスト(A:water maze test、B:novel object recognition test、C:novel object placement test))のいずれにおいても、MSC投与群はコントロール群よりも認知機能の改善を示した。 図5は、エバンスブルーによる血液脳関門の評価を示す。コントロールでは、正常脳では血管内にとどまるはずのEvans Blue(赤色)が、血管から外の組織に染み出しているが(左)、MSC投与では改善している(右)。 図6は、血液脳関門における、MSC投与による周皮細胞及び内皮細胞の増加を示す。(左)PDGFRβ(周皮細胞マーカー)、RECA-1(内皮細胞マーカー)の発現を示す。(右)A:周皮細胞カバー率、B:周皮細胞陽性血管の長さ、C:血管内皮の長さ。 図7は、MRIT2による側脳室の体積の評価を示す。A:梗塞前(Pre)、Week1、Week3、Week5における強調画像(左:コントロール、右:MSC投与)。B:梗塞前、Week1~Week5の側脳室体積。 図8は、脳皮質及び脳梁の厚さを示す。(左)強調画像とニッスル染色像(上から、コントロール、MSC投与、シャム(無処置))。(右)上:脳梁の厚さ、下:脳皮質の厚さ(左からコントロール、MSC投与、シャム(無処置))。 図9は、海馬の神経細胞数を示す。MSC投与により、海馬の神経細胞数も改善している。CA1(ビヒクル 8.95±0.38x10、MSC 15.53±4.18x10、無処置 20.04±4.81x10)、CA3(ビヒクル 8.61±1.31x10、MSC 10.85±4.86x10、無処置 16.68±5.8x10)、DG(ビヒクル 14.89±2.07x10、MSC 19.01±0.96x10、無処置 27.61±9.10x10)、Total(ビヒクル 32.47±1.14x10、MSC 45.41±10.00x10、無処置 64.33±15.49x10 図10は、慢性期脳梗塞患者におけるMSC投与による効果を示す。A:高次機能の改善を示す(◆:失語指数、■:処理速度)。B、C:mRSの改善を示す。D:FUGL MEYERスコアの改善を示す。 図11は、MSC移植にリハビリテーションを併用した効果を示す。A:ビヒクル投与、B:ビヒクル投与+運動(リハビリ)、C:MSC、D:MSC投与+運動、E:Day1、Day14、Day35における高信号領域容積、グラフは左から順にA-D。 図12は、MSC移植にリハビリテーションを併用した効果を示す。A:シェーマ、B:移植細胞(緑)が集積している像、C:シナプスの免疫染色、D:シナプス密度(グラフ左から、無処置、ビヒクル投与、ビヒクル投与+運動、MSC投与、MSC投与+運動)。 図13は、MSC移植にリハビリテーションを併用した効果を示す。A:測定部位の脳梁、B:脳梁の厚さ(グラフ左から、ビヒクル投与、ビヒクル投与+運動、MSC投与、MSC投与+運動)。 図14は、MSC移植にリハビリテーションを併用した効果を示す。Day1、Day14、Day35におけるLimb Placement Testの結果(グラフ左から、ビヒクル投与、ビヒクル投与+運動、MSC投与、MSC投与+運動)。 図15は、MSC移植にリハビリテーションを併用したときの、行動学的指標と治療効果の関係を示す。A:行動学的指標(Limb Placement Test)とシナプスの密度には正の相関がある。B:行動学的指標(Limb Placement Test)と脳梁の厚さには正の相関がある。 図16は、脳の可塑性に対する、MSC移植とリハビリテーションの併用効果を示す。皮質におけるシナプトフィジン(Synaptophysin)の発現量(左)とPSD-95の発現量(右)。グラフは、左からコントロール、運動、MSC投与、MSC投与+運動。梗塞をおこしていない(健常な)側の皮質においても、プレシナプス(左)およびポストシナプス(右)の効果がある。 図17は、脳の可塑性に対する、MSC移植とリハビリテーションの併用効果を示す。線条体におけるシナプトフィジン(Synaptophysin)の発現量(左)とPSD-95の発現量(右)。グラフは、左からコントロール、運動、MSC投与、MSC投与+運動。梗塞をおこしていない(健常な)側の皮質においても、プレシナプス(左)およびポストシナプス(右)の効果がある。 図18は、慢性脊髄損傷ラットの行動評価を示す(▲:ビヒクル、●:MSC)。 図19は、慢性脊髄損傷ラットにおける投与したGFP-MSCの局在を示す。約8.6%が損傷部位に局在している。 図20は、慢性脊髄損傷ラットにおけるエバンスブルーによる解析結果を示す。A:エバンスブルーによる評価結果、B:左から、血管内皮の長さ、周皮細胞陽性血管の長さ、周皮細胞カバー率。 図21は、慢性脊髄損傷ラットにおける抗P0抗体を用いた解析結果を示す。A:再有髄化した軸索、B、C:電子顕微鏡像、D:抗P0抗体による免疫染色像。 図22は、慢性脊髄損傷ラットにおける免疫染色結果を示す。A:脊髄後索の皮質脊髄路のウサギ抗プロテインキナーゼC-γによる免疫染色結果、B:錐体外路の5-HT免疫染色結果。 図23は、慢性脊髄損傷ラットにおける神経線維束DTI解析結果を示す。 図24は、慢性期脳梗塞モデルラットにおけるMSC投与による運動機能の改善を示す。
[シナプス形成剤]
本発明の「シナプス形成剤」は、ヒト骨髄又は血液に由来するCD24陰性の間葉系幹細胞(MSC)を含む細胞製剤であり、投与されたMSCが患部に到達し、神経細胞に分化し、シナプスを形成することで、神経回路を再建する効果を有する医薬である。後述するように、本発明のシナプス形成剤は、脳可塑性を促進する効果も有する。
神経細胞は、細胞核を有する細胞体から樹状突起と軸索が伸びた構造を有し、樹状突起が他の細胞からの信号を受け、軸索が他の細胞に信号を発する。シナプスは、神経細胞の軸索末端と他の神経細胞の樹状突起の間に存在する微小な間隙であり、神経細胞のシグナル伝達接合部として重要な役割を持つ。「シナプス形成」は、神経細胞から伸びた軸索が、神経結合を成立させる標的細胞付近まで適切に伸長し、標的に到達して、軸索末端と標的細胞との間にシナプスを形成させる過程であり、正しい神経回路形成の重要なプロセスである。
[脳可塑性促進剤]
本発明は、ヒト骨髄又は血液に由来するCD24陰性の間葉系幹細胞(MSC)を含む脳可塑性促進剤も提供する。
神経細胞や脳回路が環境や必要に応じて最適の処理システムを作り上げる現象を「脳の可塑性」と言う。本発明に係るMSCは、損傷を受けていない部位が、損傷部位の機能を代償するように、通常範囲を超えて機能する「脳可塑性」を促進する機能も有する。すなわち、静脈投与されたMSCは、シナプス形成による神経回路の再建を促進するとともに、脳の可塑性を促進することで、認知症、脳梗塞、脊髄損傷、及びパーキンソン病等の神経変性疾患において治療効果を発揮する。
[間葉系幹細胞]
本発明で使用される「間葉系幹細胞」とは、間葉系組織の間質細胞の中に微量に存在する多分化能および自己複製能を有する幹細胞であり、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などの結合組織細胞に分化するだけでなく、神経細胞や心筋細胞への分化能を有することが知られている。
間葉系幹細胞のソースとしては、骨髄、末梢血、臍帯血、胎児胚、脳などがあるが、本発明においてはヒト骨髄又は血液由来の間葉系幹細胞(骨髄間葉系幹細胞)、とくにヒト骨髄間葉系幹細胞が好ましい。骨髄間葉系幹細胞は、1)顕著な効果が期待できる、2)副作用の危険性が低い、3)充分なドナー細胞の供給が期待できる、4)非侵襲的な治療であり自家移植が可能であるので、5)感染症のリスクが低い、6)免疫拒絶反応の心配がない、7)倫理的問題がない、8)社会的に受け入れられやすい、9)一般的な医療として広く定着しやすいなどの利点がある。さらに、骨髄移植療法は既に臨床の現場で用いられている治療であり、安全性も確認されている。また、骨髄由来の幹細胞は遊走性が高く、局所への移植ばかりか、静脈内投与によっても目的の損傷組織へ到達し、治療効果が期待できる。
細胞はES細胞や誘導多能性幹細胞(iPS細胞等)から分化誘導した細胞であっても、株化された細胞であっても、生体から単離・増殖させた細胞であってもよい。細胞は、他家細胞由来でも自家細胞由来であってもよいが、自家細胞由来(患者自身の細胞に由来する)間葉系幹細胞が好ましい。
本発明で使用される間葉系幹細胞は、分化マーカーであるCD24陰性であり、未分化状態を維持した細胞である。そのため、増殖率および生体内導入後の生存率が高いという特徴を有する。発明者らは、こうした未分化な間葉系幹細胞の取得方法も開発しており、その詳細はWO2009/002503号に記載されている。
CD24のほか、本発明で使用される間葉系幹細胞は、CD73、CD90、CD105、及びCD200から選ばれる少なくとも1以上が陽性、及び/又はCD19、CD34、CD45、CD74、CD79α、及びHLA-DRから選ばれる少なくとも1以上が陰性であることで特徴づけられる。好ましくは、本発明で使用される間葉系幹細胞は、CD73、CD90、CD105、及びCD200の2以上が陽性であり、CD19、CD34、CD45、CD74、CD79α、及びHLA-DRの4以上が陰性であることで特徴づけられる。より好ましくは本発明で使用される間葉系幹細胞は、CD73、CD90、CD105、及びCD200が陽性であり、CD19、CD34、CD45、CD74、CD79α、及びHLA-DRが陰性であることで特徴づけられる。
発明者らが開発した前記方法では、骨髄液等から抗凝固剤(ヘパリン等)と実質的に接触しない条件で分離した細胞を、ヒト血清(好ましくは、自家血清)を含み、かつ、抗凝固剤(ヘパリン等)を含まないかあるいは極めて低濃度で含む培地を用いて増殖させる。なお、「抗凝固剤を含まないかあるいは極めて低濃度で含む」とは、抗凝固剤として有効量の抗凝固剤を含まないことを意味する。具体的には、例えばヘパリンやその誘導体であれば、通常抗凝固剤としての有効量は約20-40U/mL程度であるが、発明者が開発した方法では、あらかじめ試料採取のための採血管に加える量を最小限とすることで、生体から採取された試料中の量は5U/mL未満、好ましくは2U/mL未満、さらに好ましくは0.2U/mL未満となり、細胞を培養する際に培地中に存在する量は、培地の容積に対して0.5U/mL未満、好ましくは0.2U/mL未満、さらに好ましくは0.02U/mL未満となる(WO2009/034708号参照)。
培地における細胞の密度は、細胞の性質および分化の方向性に影響を与える。間葉系幹細胞の場合、培地中の細胞密度が8,500個/cmを超えると、細胞の性質が変化してしまうため、最大でも8,500個/cm以下で継代培養させることが好ましく、より好ましくは、5,500個/cm以上になった時点で継代培養させる。
発明者らが開発した前記方法ではヒト血清含有培地を使用するため、血清ドナーの負担を考慮して、培地交換はなるべく少ない回数であることが望ましく、例えば、少なくとも週1回、より好ましくは週1~2回の培地交換を行う。
培養は、細胞の総数が10個以上になるまで継代培養を繰り返し行う。必要とされる細胞数は、使用目的に応じて変化し得るが、例えば、脳梗塞の治療のための移植に必要とされる間葉系幹細胞の数は、10個以上と考えられている。発明者らが開発した方法によれば、12日間程度で107個の間葉系幹細胞を得ることができる。
増殖したMSCは、必要に応じて、使用されるまで凍結保存などの手法で(例えば、-152℃のディープフリーザーにて)保存してもよい。凍結保存には、血清(好ましくはヒト血清、より好ましくは自家血清)、デキストラン、DMSOを含む培地(RPMI等の哺乳動物細胞用の培地)を凍結保存液として使用する。例えば、通常の濾過滅菌したRPMI20.5mLと、患者から採取した自己血清20.5mL、デキストラン5mL、DMSO 5mLを含む凍結保存液に細胞を懸濁して-150℃で凍結保存することができる。例えば、DMSOとしては、ニプロ株式会社製のクライオザーブ、デキストランは大塚製薬製の低分子デキストランL注を使用できるが、これらに限定されない。
[細胞医薬(細胞製剤)]
本発明のシナプス形成剤及び脳可塑性促進剤に含まれるMSCの細胞数は多い程好ましいが、対象への投与時期や、培養に要する時間を勘案すると、効果を示す最小量であることが実用的である。したがって、本発明のシナプス形成剤及び脳可塑性促進剤の好ましい態様において、間葉系幹細胞の細胞数は、10個以上、好ましくは5×10個以上、より好ましくは10個以上、さらに好ましくは5×10個以上である。投与回数は1回に限られず、2回以上投与されてもよい。
本発明のシナプス形成剤及び脳可塑性促進剤は、好ましくは非経口投与製剤、より好ましくは非経口全身投与製剤、特に静脈内投与製剤である。非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤等の注射剤や移植片などが挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であり、例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、培地(とくに、RPMI等の哺乳動物細胞の培養に用いられる培地)、PBSなどの生理緩衝液、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤等を適宜組み合わせて、適切な単位投与形態に製剤化される。
注射用の水溶液としては、例えば、生理食塩水、培地、PBSなどの生理緩衝液、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等が挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールや非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80、HCO-50等と併用してもよい。
本発明のシナプス形成剤及び脳可塑性促進剤は、海馬等の病変部におけるシナプス形成と可塑性促進効果により、認知症、慢性期の脳梗塞、慢性期の脊髄損傷、神経変性疾患の治療に有用である。
[認知症の治療]
発明者らは、脳卒中易発性高血圧自然発症ラットにおいて、MSCの静脈投与により認知機能が改善され、血管性認知症がMSCにより治療できることを実証した。
血管性認知症では高血圧によって血液脳関門の破綻を生じ、ラクナ梗塞、脳白質病変、微小出血を生じることで、認知機能の低下(認知症)を発症する。アルツハイマー型認知症においても、脳血液関門の破綻が観察され、血管性認知症でもβアミロイドの沈着が見られる。一方、βアミロイドが蓄積してもアルツハイマー型認知症を発症するとは限らない。このように、アルツハイマー型認知症と血管性認知症は病態が似ており、両者の境界は明確ではない。よって、アルツハイマー型認知症においても、MSCによる認知機能の改善が期待できる。
[慢性期脳梗塞の治療]
脳梗塞は、脳動脈の閉塞または狭窄のために脳虚血を来たし、脳組織が壊死またはこれに近い状態になる病態を言う。MSCには脳(実質及び血管)の保護作用があり、急性期や亜急性期の脳梗塞においては、MSCの静脈投与は、梗塞体積を減らし、行動機能を改善する。
壊死した細胞や損傷を受けた神経線維は慢性期になると元には戻らない。そのため、慢性期の脳梗塞においては、再発の防止とともに、壊死した細胞の周辺に存在する、死滅していない細胞や、機能停止している細胞を回復させ、病状を軽減することが治療の中心と考えられてきた。しかし、本発明のシナプス形成剤や脳可塑性促進剤によれば、神経回路の再建と正常組織による代償を促進させることで、慢性期の脳梗塞においても、運動機能や脳機能の回復が可能になる。
[慢性期脊髄損傷の治療]
脊髄を含む中枢神経系は末梢神経と異なり、一度損傷すると修復・再生されることはない。とくに、瘢痕化の進んだ慢性期脊髄損傷に対する治療は難しく、ES細胞を用いた臨床試験も試みられたが成功に至っていない。しかし、本発明のシナプス形成剤や脳可塑性促進剤によれば、神経回路の再建と正常組織による代償を促進させることで、慢性期の脳梗塞においても、運動機能や神経機能の回復が可能になる。
[神経変性疾患の治療]
本発明のシナプス形成剤及び脳可塑性促進剤は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、進行性核上性麻痺(PSP)、ハンチントン病、多系統萎縮症(MSA)、黒質線状体変性症(SND)、シャイ・ドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)、脊髄小脳変性症(SCD)等の神経変性疾患にも有用である。
[精神疾患の治療]
上記した疾患のほか、本発明のシナプス形成剤及び脳可塑性促進剤は、統合失調症、躁うつ病、人格障害、気分障害、心理発達障害、ストレス関連障害、自閉症、学習障害、行動・情緒障害、精神遅滞、睡眠障害、摂食障害、同一性障害、解離性障害、適応障害、アルコール性障害、依存症、等の精神疾患にも有用である。
[高次機能]
本発明のシナプス形成剤及び脳可塑性促進剤は、運動機能や単純な認知機能の改善に加えて、注意障害、記憶障害、失語症、失念、失行、遂行機能、情緒障害等の高次機能を改善することもできる。
[リハビリテーション]
本発明のシナプス形成剤及び脳可塑性促進剤による治療は、リハビリテーションと併用することにより、各段にその効果が顕著に向上する。脳梗塞や脊髄損傷患者において、リハビリテーションが可塑性を向上させることは公知である。しかしながら、本発明のシナプス形成剤及び脳可塑性促進剤による治療に、リハビリテーションを併用することにより、両者の有する可塑性促進機能は相乗的に向上する。
このように、本発明のシナプス形成剤及び脳可塑性促進剤は、損傷部位の組織修復とともにシナプス形成による神経回路の再建と可塑性の促進により、従来治療が困難と考えられていた認知症、慢性期脳梗塞、慢性期脊髄損傷、神経変性疾患等の治療を可能にする。
以下、実施例により本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1.脳梗塞ラットにおけるシナプス形成と可塑性促進
1.材料・方法
(1)ラット骨髄由来間葉系幹細胞の調製
実験は札幌医科大学の動物実験管理規定にしたがって実施した。既報に従い、成熟SDラットの大腿骨から得た骨髄をダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)で25mlに希釈し、加熱不活化した10% FBS、2mM l-グルタミン、100U/ml ペニシリン、0.1mg/ml ストレプトマイシンを添加し、5%CO雰囲気下37℃で3日間インキュベートした(Kim S.et al.,Brain Res.2006;1123:27-33.Ukai R.et al.,J.Neurotrauma.2007;24:508-520.)。コンフルエントになるまで培養し、接着細胞をトリプシン-EDTAで剥離し、1×10cells/mlの密度で3回継代培養して間葉系幹細胞(MSC)を得た。
(2)脳梗塞モデル
脳梗塞モデルとして、ラット一過性中大脳動脈閉塞(tMCAO)モデルを使用した。既報にしたがい、成熟雌性SDラット(200-250g)をケタミン(75mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)で麻酔し、20.0-22.0mmの塞栓糸(MONOSOF)を外頸動脈から挿入して、一過性中大脳動脈閉塞を誘導した(Honma T.et al.,Exp.Neurol.2006;199:56-66.Sasaki M.et al.,Methods Mol.Biol.2009;549:187-195.)。
(3)免疫組織化学
閉塞誘導後8週目のラットに、GFPでラベルしたMSC(各1.0 x 10cells)を含むDMEM1mlを静脈投与した。GFP-MSC投与6週目にケタミン(75mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)で麻酔を行い、リン酸緩衝液(PBS)200ml、4%PFAにて、潅流を行い、脳組織を摘出した。脳組織は4%PFAに4時間浸透させた後に、スクロース30%を含むPBSに24時間浸透させた。その後、凍結組織切片作製用包埋剤(Tissue-Tek,Torrance,CA)に浸漬後、使用まで-80℃で保存した。50μmの冠状断面を切り出し、DAPIで染色後、VECTASHIELD(Vector Laboratories,Burlingame,CA)で封入し、共焦点顕微鏡によりEx/Em(405;561:LSM780 ELYRA S.1 system)観察した。
(4)fMRI(functional magnetic resonance imaging)
ラットにMSC(各1.0 x 10cells)を含むDMEM 1mlを静脈投与した。また、サイクロスポリンA(10mg/kg)を毎日腹腔内投与した。MSC投与42日後、麻酔下でfMRIを測定した。fMRIは、ラットの左上肢に電気刺激針を留置し、Electric Pulse Generator:Master-8(A.M.P.I.)を用いて電気刺激を発生させることで(1mA,pulse;3 times/sec)、T2強調画像にて右体性皮質感覚野における信号の変化を解析した。
(5)DTI(拡散テンソル画像)解析
脳梗塞発症42日後に灌流固定し、固定脳を2週間以上4%PFAに浸した。2週間後、固定脳を遠沈管に入れ、フルオリナート(フッ素系不活性液体)で満たし、MRI撮像用の検体とした。
動物用MRI:
・空間分解能;200μm x 200μm(マトリクス数;256x256)
・スライス厚;350μm
・FOV(断面内);25.6mm x 25.6mm,FOV(吻尾方向);15.4mm
・スライス枚数;44枚
・シーケンス;Stejskal-Tanner spin-echo diffusion sequence
・diffusion sensitizing gradient軸数;6軸,vectors;[1,0,1],[-1,0,1],[0,1,1],[0,1,-1],[1,1,0],[1,-1,0]
・b-value;809sec/mm(δ=8.5msec,Δ=12.5msec)
・TR/TE;5000/30ms
・No.of Averages;10
・撮像時間;12時間38分45秒
tractgraphy analysis:
・解析ソフト:Diffusion Toolkit(tensor画像計算),TrackVis(tract描画),いずれもhttp://trackvis.orgから無償ダウンロード
・解析方法:解剖学的指標として、b=0画像(T2強調像)を参照し、左右の皮質、外包、内包、合計6つのROIを描いた。次いで、10パターンの神経線維ネットワークを想定し任意のROIの組み合わせによって、tractographyを描画することで、神経ネットワークの解析を行った。
2.結果
DAPI染色像から、静脈投与したGFP-MSCは海馬に到達し、ニューロンに分化して神経突起を伸ばしてシナプスを形成することが確認された(図1左)。
fMRI解析の結果、MSC投与により、梗塞領域の運動感覚野ばかりでなく、対側の運動感覚野も賦活化されていること(梗塞部位及び対側部位の可塑性の促進)が確認された(図1右)。つまり、MSCの投与により、普段使われない左右の脳の神経ネットワークが活発化することが確認された。このことは、脳梗塞の慢性期や、高次機能障害においてもMSC投与の効果が得られることを示唆する。
DTI解析の結果、コントロール(ビヒクル投与)では脳梗塞によりアクティブな神経が減っているが(図2左)、MSC投与群では可塑性が促進され、運動感覚野ばかりでなく、その周囲の皮質まで(正常の範囲を超えて)代償する領域が広がり、運動線維も増えることが確認された(図2右)。また、コントロールに比べ、MSC投与群では、健常側の脳の可塑性が促進し、運動線維が増え(図3上、中)、左右の神経ネットワークも増加していることが確認された(図3下)。
これらのことから、MSC投与により、病巣およびその周囲組織の再生や可塑性を亢進させるばかりでなく、反対側の脳を含む、中枢神経系全体の再生や可塑性を亢進させることが判明した。このため運動機能の回復など比較的単純な機能回復ばかりでなく、脳高次機能(失語症を含む)の回復といった高度で複雑な神経機能の回復を誘導することが可能となった。
実施例2.血管性認知症ラットにおける治療効果
脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP(Stroke-prone spontaneously hypertensive rat))は、高血圧によってBBB(血液脳関門)の破綻を生じ、ラクナ梗塞等を生じることにより認知症を発症する。そこで、SHRSPラットを血管性認知症モデルとして、MSC投与の認知症に対する効果を3つの方法:MWM(水迷路試験)、NOR(新規対象認識試験)、NOP(新規対象位置試験)、により検証した。NOR、NOPは移植前1週間、移植後1週間、4週間目に行い、MWMは移植後5週目に行った。
1.材料・方法
(1)血管性認知症モデルラット(SHRSPラット)
SHRSPラットは、星野試験動物飼育所より購入した。このラットは、毎世代脳卒中で死亡した親からの仔を選抜・交配して確立された脳卒中易発性高血圧自然発症ラットで、高血圧によって血液脳関門の破綻を生じ、ラクナ梗塞等を生じることで認知症を発症する血管性認知症モデルラットである。本実施例では、16~20週の時点で、脳梗塞、または、脳出血を起こしていたラットを対象とし、治療前評価を行った後に、MSC投与群とビヒクル(DMEM)投与群の2群に分け、以下の検査を行った。
(2)Morris water maze test(MWM)
MWMは、水温24℃の白濁させた不透明水で、直径1.3mの円形のプールを深さ30cmでみたし、水面直下にゴールとなるプラットフォームを置きプールの端からラットを入れてゴールに到達するまでの時間(Latency to reach the platform[LRP])を測定した。
測定はビデオトラッキングにて実施し(Anymaze tracking software(Stoelting Co.;Wood Dale,IL,USA)、移植後5週目に連続6日間で行った。1日目は、1分間4サイクルの装置順化を行い、2日目から、連続5日間でLRPを測定した。1日4サイクルの測定を行い、平均値を測定値とした。
(3)Novel Object Recognition(NOR)
課題実施の前に、1被験体あたり、1日15分間の装置順化を3日間行った。4日目にNORを行った。
NORは(1)見本期(2)遅延期(3)テスト期から構成された。見本期では2つの同一物体をいずれもオープンフィールドの2つの壁から10cmの位置に設置し、被験体に自由に探索させた。見本期が終了すると、被験体をホームケージに戻した。5分後に再びオープンフィールドに戻し、テスト期へ移行した。テスト期では、一方では、見本期で用いた物を用いて(Familiar object:物体F)、もう一方を新たな物体(Novel object:物体N)を設置した。行動指標として、被験体が鼻を物体から2cm以内に近づける行動を物体探索行動と定義した。
テスト期における物体探索時間を用いて、物体N対する探索時間を2つの物体に対する総探索時間で割り、%に換算した値(N/N+F)で評価した。
(4)Novel Object Placement(NOP)
NOPは5日目に施行した。NORと同様に3期から構成された。テスト期において、見本期と同じ物を使用したが、一方は見本期と同じ場所に(Familiar object:物体F)、もう一方は異なる場所に設置した(Novel object:物体N)。
NOR同様に、テスト期における物体探索時間を用いて、物体Nに対する探索時間を2つの物体に対する総探索時間で割り、%に換算した値(N/N+F)で評価した。
(5)エバンスブルー染色(血液脳関門の評価)
介入後1週間後のモデルラットに対して、ケタミン(75mg/kg)とキシラジン(10mg/kg)にて麻酔を行い、大腿静脈より、FITC-lectin(1.6mg/kg,Sigma, Taufkirchen, Germany)とエバンスブルー(EvB)(EvB4% in saline,4mL/kg,Sigma)を投与した。
投与直後にSacrificeし、リン酸緩衝液(PBS)200mlにて、潅流を行い、脳組織を摘出した。イソペンタンによりshock frozenを行い、使用するまで-80度で保存した。標本作製の際は、30μmの冠状断でスライスし、4%PFAにて後固定を行った。LSM780共焦点レーザー顕微鏡(Laser:Argon 488 for FITC-lectin,561 for EvB;Objective:Plan-Apochromat 10x/0.45 M27,Zeiss,Jena,Germany)により、ブレグマより後方1.60~6.80mmの部位を観察した。
(6)血管周皮細胞及び内皮細胞数
移植後6週目にケタミン(75mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)で麻酔を行い、リン酸緩衝液(PBS)200ml、4%PFAにて、潅流を行い、脳組織を摘出した。脳組織は4%PFAに4時間浸透させた後に、スクロース15%、30%に24時間浸透させた。その後凍結組織切片作製用包埋剤(Tissue-Tek,Torrance,CA)に浸漬後、イソペンタンにて急速冷凍を行い、-80度にて保存した。
切片標本は、冠状断で30μmにスライスし、海馬全体を含むように、ブレグマより後方1.60~6.80mmの部位を観察した。標本は10%ヤギ血清にて30分間のブロッキングを行い、5%ヤギ血清に溶解した一次抗体で4℃の冷蔵庫で一晩保存した。翌日にPBSで洗浄したのち、5%ヤギ血清に溶解した二次抗体にて2時間室温にて反応させた。周皮細胞に対する抗体は、抗PDGFRβ抗体、血管内皮に対する抗体は、抗RECA抗体を使用した。
観察は、LSM780共焦点顕微鏡(Laser:Argon 488,561;Objective:Plan-Apochromat 10x/0.45 M27,Zeiss,Jena,Germany)を用いて実施した。
定量的な測定を行うために、RECA陽性血管長を血管内皮の長さ、PDGFRβ陽性血管を周皮細胞陽性血管の長さとした。測定はImage Jを用いて行った。各々の長さを測定し、周皮細胞カバー率として、周皮細胞陽性血管の長さを血管内皮の長さで割り、%に換算した値を評価した。
(7)MRIT2強調画像(側脳室体積の評価)
ケタミン(75mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)で麻酔し、コイル内に頭部を固定し、撮影をおこなった。側脳室体積の経時的変化を追うために介入前、介入後1週間目、3週間目、4週間目にMRI撮影を行った。MRI撮影は、既報にしたがい、7-Teslar、18cmボア径の縦型超伝導磁石(Oxford Magnet Technologies)を備えたNMRスペクトロメーターUNITY-INOVA(Oxford Instruments)を用いて行った(Honma T.et al.,Exp.Neurol.2006;199:56-66.,Komatsu K.et al.,Brain Res.2010;1334:84-92.)。
T2強調画像にて画像を取得した。また、側脳室の体積は、T2強調画像より得られた連続画像から、画像処理ソフト(Scion Image,Version Beta 4.0.2,Scion Corporation)を用いて測定した(Neumann-Haefelin et al.,2000)。
(8)脳皮質及び脳梁の厚さ
大脳皮質と脳梁の厚さを検証するために、Nissl染色の標本を用いて測定を行った。移植後6週目にケタミン(75mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)で麻酔を行い、リン酸緩衝液(PBS)200ml、4%PFAにて、潅流を行い、脳組織を摘出した。
4%PFAに4時間浸透させたのちに、スクロース15%、30%に24時間浸透させた。その後、凍結組織切片作製用包埋剤(Tissue-Tek,Torrance,CA)に浸漬後、イソペンタンにて急速冷凍を行い、-80度にて保存した。
標本は30μmの冠状断でカットし、Nissl染色を施行した。ブレグマより後方3.3mmのスライスでM1~S1領域の大脳皮質、脳梁の厚さを偏光顕微鏡オリンパスBX51(4x objective)、Stereo Investigator software(MicroBrightField)を用いて、それぞれ3箇所を計測し、平均値を測定値とした。
(9)海馬の神経細胞数
海馬の神経細胞数を検証するために、Nissl染色の標本を用いて測定を行った。移植後6週目にケタミン(75mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)にて麻酔を行い、ン酸緩衝液(PBS)200ml、4%PFAにて、潅流を行い、脳組織を摘出した。
4%PFAに4時間浸透させたのちに、スクロース15%、30%に24時間浸透させた。その後凍結組織切片作製用包埋剤(Tissue-Tek,Torrance,CA)に浸漬後、イソペンタンにて急速冷凍を行い、-80℃にて保存した。
標本は30μmの冠状断でカットし、Nissl染色を行った。偏光顕微鏡オリンパスBX51、StereoInvestigator software(MicroBrightField)を用いて海馬全体の神経細胞数を測定した。
2.結果
認知機能を見る3つのテストのいずれにおいても、MSC投与によってモデルマウスの認知機能が改善することが示された(図4)。
エバンスブルー染色の結果、コントロール(ビヒクル)群では、正常脳においては血管内にとどまるはずのエバンスブルー(赤色)が、血管から外の組織に染み出し、血液脳関門が破壊していることが確認されたが(図5左)、MSC投与群では改善していることが確認された(図5右)。
血液脳関門は、内皮細胞、周皮細胞、アストロサイトで構成される。免疫染色の結果、MSC投与によって、血液脳関門における内皮細胞、周皮細胞数や長さが増加することが確認された(図6)。とくに、血液脳関門の機能維持に重要な内皮細胞を周皮細胞がカバーしている率(pericyte coverage rate)の改善が確認された。
T2強調画像による側脳室体積測定の結果、コントロール(ビヒクル)群では認知症の進行を意味する脳の萎縮が進んでいる(図7A:特にビヒクル画像の左下:白く見えるのが水で脳室が拡大しているのがわかる。これに対し、MSC投与群では脳の萎縮がコントロール群に比較して劇的に改善している(図7A:MSC画像の左下)。数値化すると、MSC投与の効果がより明らかである(図7B)。
また、MSC投与群では脳皮質や脳梁の厚さも改善し(図8)、海馬の細胞数も改善していることが確認された(図9)。
以上のように、MSC投与により、認知症の原因に対する治療と、脳神経細胞の再生の治療が、同時に行われるため、高い治療効果が見られた。
実施例3.慢性期脳梗塞患者における治療効果
慢性期脳梗塞患者に、MSCを静脈投与し高次機能レベルの改善を評価した。
1.方法
脳梗塞患者の腸骨から局所麻酔下で骨髄液を採取した。細胞調製施設(CPC)にて骨髄液から目的の細胞を分離し、約2週間で約1万倍に培養した。GMP管理下で約1x10個の細胞を約40mlのバッグに封入し細胞製剤を製造した。この細胞製剤を30分~1時間かけて静脈内投与により移植した。
前半150日はプラセボを投与し(治験I)、150日目にMSC投与を行い、250日目まで高次機能を評価した(治験II)。
(1)失語指数
発症後40日目(転院時)、発症後76日目、発症後141日目(細胞投与前)、発症後187日目(細胞投与後34日)、発症後250日目(細胞投与後97日)において、WAB失語症検査を実施した。この検査は、自発話、話し言葉の理解、復唱、呼称、読み、書字、行為、構成の8つの主項目の下に38の検査項目があり、失語の分類とともに、失語症の重症度を表す失語指数が算定できる。
(2)処理速度
発症後40日目(転院時)、発症後141日目(細胞投与前)、発症後250日目(細胞投与後97日)において、WAIS-III検査を行い、処理速度を算定した。
(3)運動機能
患者の運動機能をmRS及びFUGL MEYERスコアにより評価した。150日を超えたところで(慢性期、治験II)、MSCを投与した。
2.結果
前半(治験I)ではプラセボ投与のため低いレベルで安定化していた。しかし150日を超えたところで治験IIに移行し、MSCの投与を受けたところ、失語指数、処理速度のいずれについても顕著な改善が見られた(図10A、表1)。
Figure 0007101367000001
すべての患者でmRS1段階以上(主要評価項目)の改善が見られ、75%の患者においてmRS2段階(副次評価項目)の改善が見られ(図10B)、MSCの投与により、機能の顕著な改善が見られることが確認された(図10C)。
FUGL MEYERスコアは、前半(治験I)ではプラセボ投与のため低いレベルで安定化していたが、後半(治験II)ではMSCの投与により、機能の顕著な改善が見られた。このように、運動機能についても顕著な改善がみられた(図10D)。
実施例4.リハビリテーションとの併用効果
1.材料・方法
(1)ラット骨髄由来間葉系幹細胞の調製
実施例1の記載に従い、成熟SDラットの大腿骨から得た骨髄をダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)で25mlに希釈し、加熱不活化した10% FBS、2mM l-グルタミン、100U/ml ペニシリン、0.1mg/ml ストレプトマイシンを添加し、5%CO雰囲気下37℃で3日間インキュベートした(前掲)。コンフルエントになるまで培養し、接着細胞をトリプシン-EDTAで剥離し、1×10cells/mlの密度で3回継代培養して間葉系幹細胞(MSC)を得た。
(2)脳梗塞モデル
脳梗塞モデルとして、ラット一過性中大脳動脈閉塞(tMCAO)モデルを使用した。既報にしたがい、成熟雌性SDラット(200-250g)をケタミン(75mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)で麻酔し、20.0-22.0mmの塞栓糸(MONOSOF)を外頸動脈から挿入して、一過性中大脳動脈閉塞を誘導した(前掲)。
一過性中大脳動脈閉塞誘導60分後に、DWI-MRIを撮影して初期梗塞体積を評価した。初期梗塞体積が基準(300±60mm)に満たない動物は実験から除外し、以下のとおりラットを無作為に4群に分けた。
グループ1(培地;n=10)
グループ2(培地+運動(リハビリ);n=10)
グループ3(MSC;n=10)
グループ4(MSC+運動;n=10)
すべてのラットに毎日シクロスポリンA(10mg/kg)を腹腔内投与した。静脈投与はすべて左大腿静脈から行った。
(3)リハビリテーション
脳梗塞誘導後、トレッドミル上を毎日20分間走らせた。運動は動脈閉塞1日後に開始し、最初の1週間は傾斜0°で3m/min、その後組織学的評価まで毎週3m/minスピードを増加させた。
(4)MRI及び梗塞体積の測定
ラットをケタミン(75mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)で麻酔し、MRI撮影を行った。MRI撮影は、既報にしたがい、7-Teslar、18cmボア径の縦型超伝導磁石(Oxford Magnet Technologies)を備えたNMRスペクトロメーターUNITY-INOVA(Oxford Instruments)を用いて行った(前掲)。
T2WI-MRIは閉塞後1、14、35日に測定した。虚血病変領域はScion Image,Version Beta 4.0.2(Scion Corporation)を用いてMRI画像から計算した。病変体積(mm)は大脳から集めた連続画像の高信号領域を解析して決定した。各スライスについて、T2WI-MRIにおいてシグナル強度が反対側の脳の損傷に比べて1.25倍高い高度損傷部位を梗塞病変領域とし、スライス厚(1mm)を考慮して梗塞体積を計算した。脳出血の存在はT2WI-MRIが低信号領域にあるときに計測した。初期梗塞体積が基準に満たない動物は実験から除外した。
(5)シナプス密度(神経細胞数)の測定
神経細胞数を検証するために、実施例2の(9)に記載にしたがい、Nissl染色の標本を用いて神経細胞数(シナプス密度)の測定を行った。
(6)脳梁の厚さの測定
脳梁の厚さを検証するために、実施例2の(8)に記載にしたがい、Nissl染色の標本を用いて測定を行った。
(7)行動学的指標(Limb Placement Test)
ラットの以下の6項目により四肢機能を評価した。
・テスト1から4はラットを把持し、テスト5と6はラットを台の上に置いて評価した。
・前足は6項目すべて、後ろ足はテスト4と6の2項目で評価した。
・各項目、全く接地しない状態の0から完全に接地する2の4段階で評価した。
(1は遅れた不完全な接地)。
・合計点の最低が0、最高が16となる。
[テスト1 前足]
ラットをテーブルに向かってゆっくりと今にも降りそうな状態で近づける。テーブルの10cm上に近づくと、正常なラットは両前足をテーブルに伸ばしてつける。
[テスト2 前足]
ラットの両前足がテーブルの端に触れた状態で、鼻やヒゲがテーブルに触れるのを妨げるために顎を支えながら、ラットの頭を45度上に傾ける。脳卒中ラットは障害半球の反対側の前足をテーブルに設置させておくことが不可能。
[テスト3 前足]
テーブルの端に移動したときのラットの前足の接地を観察。正常なラットはテーブルの上に両前足を接地する。
[テスト4 前足・後ろ足]
ラットを側方からテーブルの端に移動したときの、前足・後ろ足の設置を観察。
[テスト5 前足]
ラットをテーブルの上において、テーブルの端に後からゆっくり押す。正常なラットはテーブルの端を掴む、障害ラットは障害半球の反対側の前足がテーブルから落ちる。
[テスト6 前足・後ろ足]
ラットをテーブルの上において、テーブルの端に側方から障害半球の反対側四肢側へゆっくり押す。
(8)組織学的評価
移植後6週目にケタミン(75mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)で麻酔を行い、リン酸緩衝液(PBS)200ml、4%PFAにて、潅流を行い、脳組織を摘出した。脳組織は4%PFAに4時間浸透させた後に、スクロース15%、30%に24時間浸透させた。その後凍結組織切片作製用包埋剤(Tissue-Tek,Torrance,CA)に浸漬後、イソペンタンにて急速冷凍を行い、-80度にて保存した。脳組織から、皮質及び線条体標本を切り出し、抗シナプトフィジン(Synaptophysin)抗体及び抗PSD-95抗体を用いて、シナプトフィジンとPSD-95の発現量を測定した。
2.結果
MRI測定の結果、MSC投与のみ、もしくはMSC投与にリハビリテーションを併用することにより、高信号領域が減少することが確認された(図11)。また、MSC投与のみ、もしくはMSC投与にリハビリテーションを併用することにより、シナプス数(密度)は増加し(図12)、脳梁の厚さも増加することが確認された(図13)。
行動学的指標(感覚運動能)も、MSC投与のみ、もしくはMSC移植にリハビリテーションを併用することで有意に増加することが確認された(図14)。さらに、行動学的指標とシナプスの密度、行動学的指標と脳梁の厚さには、それぞれ正の相関があることも確認された(図15)。
組織学的評価の結果、梗塞をおこしていない健常側の皮質においても、プレシナプス(左)およびポストシナプス(右)を増加させる効果があることが確認された(図16)。また、健常側の線条体においても、同様にプレシナプス(左)およびポストシナプス(右)を増加させる効果があることが確認された(図17)。
3.考察
以上の結果から、MSC投与のみならず、リハビリテーションを併用することにより、脳可塑性が相乗的に向上することが確認された。
実施例5.慢性期脊髄損傷モデルにおける治療効果
1.材料・方法
(1)ラット慢性期脊髄損傷モデル
慢性期脊髄損傷モデルとして、既報にしたがい、成熟雄性SDラット(250-300g)をケタミン(90mg/kg)及びキシラジン(4mg/kg)で麻酔し、T9-T10レベルの脊髄を、椎弓切除により露出し、脊髄損傷作製装置(Infinite Horizon Impactor、60-kilodyne)を用いて圧迫挫滅し、脊髄損傷モデルを作製した(Matsushita et al.,2015)。
(2)GFP-MSCの分布
脊髄損傷誘導後10週のラットに、GFPでラベルしたMSC(各1.0 x 10cells)を含むDMEM1mlを静脈投与した。GFP-MSC投与1後にケタミン(75mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)で麻酔を行い、リン酸緩衝液(PBS)200ml、4%PFAにて、潅流を行い、脊髄を摘出し、DAPIで染色後、VECTASHIELD(Vector Laboratories,Burlingame,CA)で封入し、共焦点顕微鏡によりEx/Em(405;561:LSM780 ELYRA S.1 system)観察した。
(3)BSCB(血液脊髄関門)の評価
脊髄損傷誘導後10週後に、MSC(各1.0 x 10cells)を含むDMEM1mlを静脈投与した。移植一週間後、エバンスブルーをラットの大腿骨血管から投与し、6時間後にケタミン(75mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)で麻酔を行い、リン酸緩衝液(PBS)200ml、4%PFAにて、潅流を行い、脊髄を摘出した。脊髄標本を顕微鏡下で観察し、BSCB(血液脊髄関門)の状態を評価した。
(4)組織学的評価
脊髄損傷20週後の脊髄標本は10%ヤギ血清にて30分間のブロッキングを行い、5%ヤギ血清に溶解した一次抗体で4℃の冷蔵庫で一晩保存した。翌日にPBSで洗浄したのち、5%ヤギ血清に溶解した二次抗体にて2時間室温にて反応させた。周皮細胞に対する抗体は、抗PDGFRβ抗体、血管内皮に対する抗体は、抗RECA抗体を使用した。
観察は、LSM780共焦点顕微鏡(Laser:Argon 488,561;Objective:Plan-Apochromat 10x/0.45 M27,Zeiss,Jena,Germany)を用いて実施した。
定量的な測定を行うために、RECA陽性血管長を血管内皮の長さ、PDGFRβ陽性血管を周皮細胞陽性血管の長さとした。測定はImage Jを用いて行った。各々の長さを測定し、周皮細胞カバー率として、周皮細胞陽性血管の長さを血管内皮の長さで割り、%に換算した値を評価した。
(5)DTI(拡散テンソル画像)解析
脊髄損傷20週後にラット灌流固定し、2週間以上4%PFAに浸した。2週間後、固定脊髄を遠沈管に入れ、フルオリナート(フッ素系不活性液体)で満たし、MRI撮像用の検体とした。
MRI撮影は、既報にしたがい、7-Teslar、18cmボア径の縦型超伝導磁石(Oxford Magnet Technologies)を備えたNMRスペクトロメーターUNITY-INOVA(Oxford Instruments)を用いて行った(前掲)。
2.結果
行動評価により、MSC投与を受けたラットはコントロールに比べて顕著な改善が認められた(図18)。投与したMSCの約8.6%が損傷部位に局在していることが確認された(図19)。
エバンスブルーを用いた評価により、MSC投与群ではBSCB透過性が減少していることが確認された(図20A)。
抗PDGFRβ抗体、抗RECA抗体を用いた解析により、MSC投与により血管内皮細胞数と周細胞数や長さの増加が確認され、さらに、周細胞が血管内皮細胞をカバーする率も上昇していることから、BSCBの顕著な回復が細胞レベルでも認められた(図20B)。
抗P0抗体を用いた免疫学的解析、および電子顕微鏡による解析により、MSC投与により、大きな核や基底膜を特徴とする末梢神経型の髄鞘(シュワン細胞)を持つ、再有髄化した軸索を認めた。また、脊髄損傷部をトルイジンブルーで染色し、再有髄化した軸索の数を評価した結果、MSC群ではVehicle群よりも有意に多数の再有髄化した軸索を認めた。従って、MSCの移植により再有髄化が生じていることが示された(図21)。
脊髄後索の皮質脊髄路(錐体路)をウサギ抗プロテインキナーゼC-γ(PKC-γ)で免疫染色した結果では、MSC群がVehicle群よりも軸索の再生が認められた(図22A)。また、脊髄前角のセロトニン線維(錐体外路)を5-HT免疫染色をした結果、同様に、MSC群がVehicle群よりも軸索の再生が認められた(図22B)。従って、MSCの投与により、錐体路、および錐体外路の、軸索再生ならびにSproutingが生じていると考えられる。
DTIを用いた神経線維束の解析を行った結果(図23)、脊髄神経線維束数は、損傷部位で少なくなっているものの、MSC群はVehicle群よりも有意に高値であった。したがって、MSCの投与により脊髄神経線維が増加していることが示された。
これらのことから、脊髄損傷の慢性期においても、様々なメカニズムで治療効果が発揮されることが判明した。
実施例6.慢性期脳梗塞モデルにおける治療効果
1.材料・方法
9週のSDラットにナイロン糸を用いて中大脳動脈永久閉塞(MCAO)を行った。200mm以上の脳梗塞体積の個体のみMCAO後8週が経過した慢性期に移植を行った。
MSC群:MCAOの8週後のSDラットのMSC、P2 1.0×10個を1ml中に含むDMEMを大腿静脈より投与した。
DMEM群:1mlのDMEMを大腿静脈より投与した。
投与翌日よりリハビリテーションを行い、シクロスポリン投与(10mg/kg)を移植1週間は連日、その後は隔日投与を行った。全例移植翌日から毎日リハビリテーション(トレッドミル 角度0度、速度8~12m/分、20分)を行った。毎週トレッドミル(角度20度)にて運動評価を行った。
2.結果
図24に示すとおり、MSC群では運動機能の改善を認めたが、DMEM群では変化は認められなかった。このことから、脳梗塞慢性期にMSCを投与すると運動機能の改善が見られることが確認された。これはMSC投与により、再生および可塑性が亢進したためと考えられる。
本発明は、シナプス形成による神経経路の再建と脳可塑性促進を可能にし、従来治療が困難と考えられていた認知症、慢性期脳梗塞、慢性期脊髄損傷、精神疾患等の治療に利用できる。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。

Claims (11)

  1. ヒト骨髄又は血液に由来するCD24陰性の間葉系幹細胞を含む、脳可塑性促進剤であって、慢性期の脳梗塞、又は慢性期の脊髄損傷の患者に投与される、脳可塑性促進剤。
  2. 細胞が、CD73、CD90、CD105、及びCD200から選ばれる少なくとも1以上が陽性、及び/又はCD19、CD34、CD45、CD74、CD79α、及びHLA-DRから選ばれる少なくとも1以上が陰性である、請求項1に記載の脳可塑性促進剤。
  3. ヒト骨髄又は血液が、脳可塑性促進剤の投与を受ける患者の骨髄又は血液である、請求項1又は2に記載の脳可塑性促進剤。
  4. 細胞がヒト血清を含む培地中で増殖、富化されたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の脳可塑性促進剤。
  5. ヒト血清が、脳可塑性促進剤の投与を受ける患者の自己血清である、請求項4に記載の脳可塑性促進剤。
  6. 静脈内投与製剤、腰椎穿刺投与製剤、脳内投与製剤、脳室内投与製剤、局所投与製剤、または動脈内投与製剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の脳可塑性促進剤。
  7. 静脈内投与製剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の脳可塑性促進剤。
  8. 慢性期の脳梗塞 、又は慢性期の脊髄損傷における高次機能障害を改善させる、請求項1~7のいずれか1項に記載の脳可塑性促進剤。
  9. 細胞が、抗凝固剤を含まない、あるいは抗凝固剤が0.02U/mL未満である培地中で増殖、富化されたものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の脳可塑性促進剤。
  10. ヒト骨髄又は血液が、採取時に添加される抗凝固剤の量を該骨髄又は血液の容積に対して0.2U/mL未満として調製されたものである、請求項に記載の脳可塑性促進剤。
  11. 抗凝固剤が、ヘパリン、ヘパリン誘導体またはその塩である、請求項9又は10に記載の脳可塑性促進剤。
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