JP7091895B2 - 熱可塑性樹脂組成物及びその成形品 - Google Patents
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しかし、ガラス強化ポリカーボネート樹脂組成物は、ガラスとポリカーボネート樹脂との屈折率の差に起因して透明性が大きく低下するという欠点がある。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)と、テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂成分と、ガラス充填剤(C)と、エステル化合物(D)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)を25~65質量部、ポリエステル樹脂(B)を75~35質量部含み、該熱可塑性樹脂成分100質量部に対してガラス充填剤(C)を10~45質量部、エステル化合物(D)を0.5~2.2質量部含むことを特徴とする。
本発明の熱可塑性樹脂組成物では、テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)をポリカーボネート樹脂(A)に対して所定の割合で混合して用いることにより、樹脂マトリクスの屈折率をガラスの屈折率に近づけることができ、樹脂マトリクスの屈折率とガラス充填剤(C)の屈折率の差に起因する透明性の低下の問題を軽減することができる。
即ち、ポリカーボネート樹脂(A)は、ガラスよりも屈折率が大きく、ポリカーボネート樹脂(A)にガラス充填剤(C)を充填したガラス強化ポリカーボネート樹脂組成物では、この屈折率差に起因して透明性が大きく低下するが、このようなポリカーボネート樹脂(A)に対して、屈折率の小さいポリエステル樹脂(B)を所定の割合で配合することにより、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)で形成される樹脂マトリクスの屈折率を、用いるガラス充填剤(C)の屈折率に近づけることができ、透明性を顕著に改善することができる。
加えて、エステル化合物(D)を所定の割合で配合することにより、このエステル化合物(D)が成形時に成形品の表面に浮き出ることによっても透明性が改善される。即ち、エステル化合物(D)は、離型剤として機能するものであり、成形品表面に浮き出て離型性を高めるものであるが、本発明では、このようなエステル化合物(D)を離型剤としての配合量よりも若干多めに配合することで、離型性のみならず透明性の改善効果を発揮させることができる。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)としては、透明性、耐衝撃性、耐熱性等の面から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。また、溶融法を用いた場合には、末端基のOH基量を調整した芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することができる。
本発明で用いるポリエステル樹脂(B)は、テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール(以下「CHDM」と称す場合がある。)残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール(以下「TMCD」と称す場合がある。)残基を含む非晶性ポリエステル樹脂(B)である。
ここで、「残基」とは、ポリエステル樹脂の製造原料として用いられる化合物に由来して、ポリエステル樹脂中に取り込まれる構造部分をさす。
即ち、ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分(ジカルボン酸或いはその誘導体)とジオールとをエステル化反応又はエステル化交換反応して得られるものであるが、本発明で用いるポリエステル樹脂(B)は、ジカルボン酸成分として少なくともテレフタル酸成分(テレフタル酸或いはその誘導体)を用い、ジオールとして少なくともCHDMとTMCDを用いて製造されたものである。
なお、CHDMはシス、トランス、或いはこれらの混合物のいずれであってもよく、また、TMCDについてもシス、トランス、或いはこれらの混合物でのいずれあってもよい。
また、CHDM残基とTMCD残基の合計100モル%に占めるCHDM残基の割合が10~90モル%で、TMCD残基の割合が90~10モル%であることが好ましく、CHDM残基の割合が20~85モル%でTMCD残基の割合が15~80モル%であることがより好ましく、CHDM残基の割合が30~80モル%でTMCD残基の割合が20~70モル%であることが特に好ましい。全ジオール残基に占めるCHDM残基またはTMCD残基の比率が100モル%に近づくと、ポリエステル樹脂(B)が結晶性となり、透明性が低下するため好ましくない。CHDM残基とTMCD残基とを上記割合で含むことで、透明性、耐熱性を向上させることができるため好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを、これらの合計100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)を25~65質量部、ポリエステル樹脂(B)を75~35質量部含む。この範囲よりもポリカーボネート樹脂(A)が多く、ポリエステル樹脂(B)が少なくても、逆にポリエステル樹脂(B)が多く、ポリカーボネート樹脂(A)が少なくても、樹脂マトリクスの屈折率をガラス充填剤(C)の屈折率に近づけることができず、透明性に優れた成形品を得ることができない。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、熱可塑性樹脂成分として、上記のポリカーボネート樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)以外の他の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物が含有し得る他の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、更にはポリカーボネート樹脂(A)以外のポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(B)以外のポリエステル樹脂や熱可塑性エラストマーなどが挙げられるが、これらの他の熱可塑性樹脂の含有割合は、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを併用することによる本発明の効果、即ち透明性の改善効果を有効に得る上で、ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)と他の熱可塑性樹脂との合計である全熱可塑性樹脂成分100質量部中に10質量部以下、特に5質量部以下であることが好ましい。
本発明で用いるガラス充填剤(C)の形態には特に制限はなく、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ガラスビーズなど様々な形態のものを用いることができ、これらの1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、透明性と補強効果の観点からガラス繊維又はガラスフレークを用いることが好ましく、ガラス繊維を用いることが特に好ましい。
なお、ガラス充填剤(C)のガラス組成には特に制限はないが、好ましくは無アルカリガラス(Eガラス)である。
ここで、ガラス繊維の断面形状は、繊維の長さ方向に直交する断面の長径をD2、短径をD1とするときの長径/短径比(D2/D1)で示される扁平率で表すことができ、本発明で用いるガラス繊維の扁平率はその平均値で1.5~8であることが好ましく、3~8であることがより好ましい。
エステル化合物(D)としては、脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのエステル化物が好適に用いられる。
(1) 炭素数10~22、好ましくは16~22の脂肪族飽和モノカルボン酸と炭素数10~22、特に炭素数16~22の1価脂肪族飽和アルコールとのエステル化合物
(2) 炭素数10~22、好ましくは炭素数16~22の脂肪族飽和モノカルボン酸と、炭素数2~12の多価アルコールのフルエステル化合物
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、リン系熱安定剤等の安定剤(E)、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染顔料、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、摺動性改質剤、耐衝撃性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、難燃剤、滴下防止剤などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物に好適な添加剤の一例について具体的に説明する。
安定剤(E)としては、以下のリン系熱安定剤や、フェノール系酸化防止剤、有機リン酸エステル化合物等が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、リン系熱安定剤を含有していてもよい。リン系熱安定剤は一般的に、樹脂成分を溶融混練する際、高温下での滞留安定性や樹脂成形品使用時の耐熱安定性の向上に有効である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物はフェノール系酸化防止剤を含有していてもよく、フェノール系酸化防止剤を含有することで、色相劣化や、熱滞留時の機械物性の低下を抑制することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱安定性の向上のために下記一般式(1)で表される有機リン酸エステル化合物を含有していてもよい。
(RO)nP(O)(OH)3-n …(1)
(式中、Rは総炭素数が2~25の、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、nは1又は2を表す。但しnが2の場合に2つのRは同一であってもよく、相互に異なっていてもよい。)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、紫外線吸収剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤を含有することで、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐候性を向上させることができ、耐候性の向上で透明性の低下を防止することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、所望によって帯電防止剤を含有していてもよい。帯電防止剤は特に限定されないが、好ましくは下記一般式(2)で表されるスルホン酸ホスホニウム塩が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造するための混練条件については、熱可塑性樹脂組成物に用いる各成分の種類や配合割合により異なり、一概に言えないが、ガラス充填剤(C)として特にガラス繊維を用いる場合は、これを他の成分とは別に溶融混練することが好ましい。特に、ガラス繊維は、押出機を用いて溶融混練する際にサイドフィード法を用いてポリカーボネート樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)等他の成分が十分に溶融混練された溶融混練物に対して押出機の途中から供給して溶融混練することが、溶融混練時のガラス繊維の切断や折曲を防止してガラス繊維の形状を維持することができ好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形品を製造する方法は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂について一般に採用されている成形法、すなわち一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、多色射出成形法、ガスアシスト射出成形法、断熱金型を用いた成形法、急速加熱冷却金型を用いた成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などを採用することができる。また、各種射出成形法においてはホットランナー方式を用いた成形法を選択することもできる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物及びその成形品は、ガラス充填剤(C)を配合したことによる優れた寸法安定性、剛性(曲げ強度)、耐熱性等の各種特性を得た上で、透明性に優れたものとすることができるため、カメラ、OA機器、通信機器、精密機器、電気電子部品、自動車部品、一般機械部品等、各種の製品に好適に用いることができる。中でも、透明性が重視されるカメラ、OA機器、電気・電子部品、自動車部品として好適である。
[熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造]
上記表1に記したガラス充填剤(C)以外の各成分を、後記表2~5に記した割合(質量部)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた東芝機械社製二軸押出機(TEM26SX)に上流のフィーダーより供給し、さらにガラス充填剤(C)をバレルの途中より供給して(押出機の上流(ホッパー部位)から、バレル長さLの3/5の下流位置)、回転数250rpm、吐出量25kg/時間、バレル温度280℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
上述の製造方法で得られたペレットを100℃で5時間乾燥させた後、住友重機械工業社製射出成形機(SE50DUZ型)を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度100℃の条件で射出成形し、長さ50mm、幅40mm、厚さ2mmの平板を成形した。なお金型として、固定側キャビティ及び可動側キャビティを構成する入れ子の材質がSUS420J2である金型を使用した。
日本電色工業社製ヘーズメーターNDH4000を用い、上述の方法で得られた平板のヘイズを測定した。ヘイズが小さい程透明性が優れることを意味している。
ヘイズの測定結果を表2~5に示す。
ポリエステル樹脂(B)の配合量が本発明の範囲を超えて多過ぎる比較例2でも、少な過ぎる比較例1でも、樹脂マトリクスの屈折率をガラス充填剤(C)の屈折率に近づけることができず、それぞれガラス充填剤(C)及びエステル化合物(D)を同配合した実施例に比べて透明性が悪い。
また、エステル化合物(D)を配合していない比較例3,12,16や、エステル化合物(D)の配合量が少な過ぎる比較例4,5,7,8,10,11,13,14,17では、エステル化合物(D)による透明性の改善効果が得られず、それぞれポリカーボネート樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)、ガラス充填剤(C)を同配合とした実施例に比べて透明性が悪い。逆に、エステル化合物(D)の配合量が多過ぎる比較例6,9,15,18でも、それぞれポリカーボネート樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)、ガラス充填剤(C)を同配合した実施例に比べて透明性が悪い。
これに対して、ポリカーボネート樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)、ガラス充填剤(C)、エステル化合物(D)を本発明の範囲内で配合した実施例では、透明性が改善されている。
また、いずれの実施例からも、ガラス充填剤(C)として扁平断面ガラス繊維を用いると、円形断面のガラス繊維を用いた場合よりも透明性が改善されることが分かる。
Claims (4)
- ポリカーボネート樹脂(A)と、テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂成分と、ガラス充填剤(C)と、エステル化合物(D)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
エステル化合物(D)が、炭素数10~22の脂肪族カルボン酸と炭素数22以下の脂肪族アルコールのエステル化合物であり、
ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)を25~65質量部、ポリエステル樹脂(B)を75~35質量部含み、該熱可塑性樹脂成分100質量部に対してガラス充填剤(C)を10~45質量部、エステル化合物(D)を0.5~2.2質量部含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。 - エステル化合物(D)が、炭素数16~22の脂肪族飽和モノカルボン酸と炭素数16~22の1価脂肪族飽和アルコールとのエステル化合物、及び/又は、炭素数16~22の脂肪族飽和モノカルボン酸と、炭素数2~12の多価アルコールとのフルエステル化合物であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- ガラス充填剤(C)が扁平率1.5~8の断面形状を持つガラス繊維であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 請求項1ないし3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
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