以下、本願が開示するマルチアンテナ通信装置及び歪み補償方法の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る通信システムの一例を示す図である。図1に示す通信システムにおいては、BBU(BaseBand Unit)10に複数のRRH(Remote Radio Head)100が接続されており、RRH100とUE(User Equipment)20とが無線通信する。
BBU10は、信号に対するベースバンド処理を実行する装置であり、例えば情報を符号化して送信ベースバンド信号を生成しRRH100へ送信したり、RRH100から受信した受信ベースバンド信号を復号したりする。
RRH100は、BBU10と有線接続され、BBU10が生成した送信ベースバンド信号に無線送信処理を施したり、UE20からの受信信号に無線受信処理を施して受信ベースバンド信号を生成しBBU10へ送信したりする。また、RRH100は、複数のアンテナ素子を有するマルチアンテナ通信装置であり、UE20との無線通信に際しては、複数のアンテナ素子それぞれにおいて位相シフトを施し、ビームフォーミングを行う。
図1においては、1つのUE20を図示しているが、RRH100は、複数のサブアレイを有し、複数のUE20に対してそれぞれビームを形成する。すなわち、RRH100が備える複数のアンテナ素子は、複数のサブアレイにグループ分けされており、それぞれのサブアレイに属するアンテナ素子によって異なる方向を向くビームが形成される。
さらに、RRH100は、アンテナ素子ごとに設けられた電力増幅器において発生する非線形歪みを補償するデジタルプリディストーションを実行する。デジタルプリディストーションにおいては、送信信号に歪み補償係数が乗算されるが、歪み補償係数の更新は、すべてのサブアレイに属するアンテナ素子からのフィードバック信号を合成して得られる合成フィードバック信号に基づいて実行される。RRH100の構成及び動作については、後に詳述する。
なお、BBU10及びRRH100は、それぞれCU(Centralized Unit)及びDU(Distributed Unit)と呼ばれることもあり、CU及びDUの組み合わせが基地局装置として機能する。この場合、CUとしてのBBU10は、コアネットワークに接続されても良い。また、CUとしてのBBU10は、さらにコントロールプレーンの処理を実行する装置とユーザプレーンの処理を実行する装置とに分割されても良い。
UE20は、例えば携帯電話機やスマートフォンなどのユーザ端末装置であり、RRH100との間で無線通信する。
図2は、実施の形態1に係るRRH100の構成を示すブロック図である。図2に示すRRH100は、通信インタフェース部(以下「通信I/F部」と略記する)110、プロセッサ120、メモリ130、D/A変換部140a、140b、フェーズシフタ150a、150b、合成部160及びA/D変換部170を有する。なお、図2は、2つのサブアレイ(以下「サブアレイA」及び「サブアレイB」という)を有するRRH100の構成を示すが、RRH100が有するサブアレイの数は3つ以上であっても良い。また、図2においては、UE20へ信号を送信する処理に関連する処理部を図示しており、UE20から信号を受信する処理に関連する処理部の図示を省略している。
通信I/F部110は、BBU10と有線接続されるインタフェースであり、BBU10との間でベースバンド信号を送受信する。具体的には、通信I/F部110は、BBU10から送信された送信ベースバンド信号を受信し、受信ベースバンド信号をBBU10へ送信する。
プロセッサ120は、例えばCPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はDSP(Digital Signal Processor)などを備え、RRH100の全体を統括制御する。具体的には、プロセッサ120は、ルックアップテーブル(LookUp Table:以下「LUT」と略記する)121a、121b、歪み補償部122a、122b、順特性算出部123及び逆数算出部124a、124bを有する。
LUT121a、121bは、サブアレイA及びサブアレイBに対応して設けられ、それぞれのサブアレイにおいて用いられる歪み補償係数を記憶する。すなわち、LUT121aは、サブアレイAに属するアンテナ素子に設けられた電力増幅器において発生する非線形歪みを補償する歪み補償係数を記憶し、LUT121bは、サブアレイBに属するアンテナ素子に設けられた電力増幅器において発生する非線形歪みを補償する歪み補償係数を記憶する。これらの歪み補償係数は、アンテナ素子に設けられた個々の電力増幅器において発生する非線形歪みがサブアレイごとに合成されて得られる歪みの逆特性の歪みである。
また、LUT121a、121bにおいては、それぞれのサブアレイのベースバンド信号の電力に対応付けて歪み補償係数が記憶されており、LUT121a、121bにベースバンド信号が入力されると、ベースバンド信号の電力に対応する歪み補償係数が歪み補償部122a、122bへ出力される。
歪み補償部122a、122bは、サブアレイA及びサブアレイBに対応して設けられ、それぞれのサブアレイのベースバンド信号を歪み補償してプリディストーション信号を生成する。具体的には、歪み補償部122aは、サブアレイAのベースバンド信号にLUT121aから出力された歪み補償係数を乗算し、サブアレイAのプリディストーション信号を生成する。また、歪み補償部122bは、サブアレイBのベースバンド信号にLUT121bから出力された歪み補償係数を乗算し、サブアレイBのプリディストーション信号を生成する。歪み補償部122a、122bは、プリディストーション信号をそれぞれ対応するD/A変換部140a、140bへ出力するとともに、順特性算出部123へ出力する。
順特性算出部123は、電力増幅器によって信号が増幅される際に発生する非線形歪みと同等の順特性をサブアレイごとに算出する。すなわち、順特性算出部123は、個々の電力増幅器において発生する非線形歪みがサブアレイごとに合成されて得られる歪みと同等の順特性を算出する。このとき、順特性算出部123は、サブアレイごとのプリディストーション信号に順特性の歪みを乗算してサブアレイごとの送信信号レプリカを生成した後、各サブアレイの送信信号レプリカを合成し、合成レプリカを生成する。そして、順特性算出部123は、すべてのサブアレイに属するアンテナ素子からのフィードバック信号を合成して得られる合成フィードバック信号と合成レプリカとの誤差が小さくなるようにプリディストーション信号に乗算される順特性を更新する。順特性算出部123は、更新される順特性を定期的に逆数算出部124a、124bへ出力する。なお、順特性算出部123の具体的な構成については、後に詳述する。
逆数算出部124a、124bは、順特性算出部123から定期的に出力されるサブアレイごとの順特性の逆数を算出する。そして、逆数算出部124a、124bは、算出した逆数をそれぞれのサブアレイの歪み補償係数として、LUT121a、121bに記憶させる。
メモリ130は、例えばRAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)などを備え、プロセッサ120によって処理が実行される際に、種々の情報を記憶する。
D/A変換部140a、140bは、プロセッサ120によって歪み補償されたプリディストーション信号をD/A変換する。D/A変換により得られたアナログの信号は、アップコンバータによってアップコンバートされ、無線周波数の送信信号となる。
フェーズシフタ150a、150bは、サブアレイごとの送信信号をそれぞれアンテナ素子数分だけ分波し、それぞれのアンテナ素子の信号の位相をシフトさせる。これにより、フェーズシフタ150aは、サブアレイAの送信ビームを形成し、フェーズシフタ150bは、サブアレイBの送信ビームを形成する。フェーズシフタ150a、150bによって位相がシフトされた信号は、それぞれアンテナ素子ごとの電力増幅器によって増幅され、アンテナ素子から送信される。電力増幅器による増幅の際には非線形歪みが発生するが、本実施の形態においては、歪み補償部122a、122bによって歪み補償が実行されているため、サブアレイごとの信号が各アンテナ素子から送信されて無線空間で合成されると、合成された信号に含まれる非線形歪み成分は低減される。
合成部160は、各アンテナ素子の電力増幅器によって増幅された信号を合成してプロセッサ120へフィードバックする。具体的には、合成部160は、すべてのサブアレイに属するアンテナ素子の電力増幅器から出力された信号をフィードバックさせ、これらのフィードバック信号を合成して合成フィードバック信号(以下「合成FB信号」と略記する)を生成する。すなわち、合成部160は、サブアレイとは無関係にすべてのアンテナ素子の電力増幅器から出力された信号を合成することにより、合成FB信号を生成する。合成FB信号は、ダウンコンバータによってダウンコンバートされ、ベースバンド周波数の合成FB信号となる。
A/D変換部170は、合成FB信号をA/D変換する。合成FB信号は、プロセッサ120の順特性算出部123へ出力される。アンテナ素子ごとの電力増幅器からA/D変換部170までのフィードバック経路においては、合成部160がサブアレイとは無関係にすべてのアンテナ素子のフィードバック信号を合成し、以後は合成FB信号がフィードバックされる。このため、サブアレイの数が複数であってもダウンコンバータ及びA/D変換部170は1つずつで済み、フィードバック系の回路規模は最小限に抑制される。また、フィードバック系のアナログ回路が削減される一方で、順特性算出部123及び逆数算出部124a、124bによるデジタル処理が増加するが、デジタル処理の増加量は無視できるほど小さい。
図3は、順特性算出部123の構成を示すブロック図である。図3に示す順特性算出部123は、位相シフト部201a、201b、合成部202a、202b、順特性ルックアップテーブル(以下「順特性LUT」と略記する)203a、203b、乗算部204a、204b、加算部205、誤差算出部206及び係数更新部207を有する。
位相シフト部201a、201bは、歪み補償後のプリディストーション信号(図中「PD信号」と示す)の位相を各サブアレイのフェーズシフタ150a、150bと同じようにシフトする。すなわち、位相シフト部201aは、歪み補償部122aから出力されるプリディストーション信号をサブアレイAに属するアンテナ素子数の信号に分波し、各信号に対してフェーズシフタ150aと同じ位相を付与する(位相をフェーズシフタ150aと同様にシフトする)。また、位相シフト部201bは、歪み補償部122bから出力されるプリディストーション信号をサブアレイBに属するアンテナ素子数の信号に分波し、各信号の位相をフェーズシフタ150bと同様にシフトする。
合成部202a、202bは、それぞれ位相シフト部201a、201bから出力される信号を合成する。
順特性LUT203a、203bは、それぞれのサブアレイに属する複数の電力増幅器を1つの電力増幅器と見なす場合の順特性を記憶する。すなわち、順特性LUT203aは、サブアレイAに属するアンテナ素子に設けられた電力増幅器すべてを1つの電力増幅器と見なし、この電力増幅器によって信号が増幅される場合に発生する非線形歪みに対応する順特性を記憶する。また、順特性LUT203bは、サブアレイBに属するアンテナ素子に設けられた電力増幅器すべてを1つの電力増幅器と見なし、この電力増幅器によって信号が増幅される場合に発生する非線形歪みに対応する順特性を記憶する。
また、順特性LUT203a、203bにおいては、それぞれのサブアレイのベースバンド信号の電力に対応付けて順特性が記憶されており、順特性LUT203a、203bにベースバンド信号が入力されると、ベースバンド信号の電力に対応する順特性が乗算部204a、204bへ出力される。さらに、順特性LUT203a、203bは、電力ごとの順特性を定期的に逆数算出部124a、124bへ出力する。
乗算部204a、204bは、それぞれのサブアレイのプリディストーション信号に順特性を乗算して、サブアレイごとの送信信号レプリカを生成する。具体的には、乗算部204aは、位相シフト部201aによって位相がシフトされたサブアレイAのプリディストーション信号に順特性LUT203aから出力された順特性を乗算し、サブアレイAの送信信号レプリカを生成する。また、乗算部204bは、位相シフト部201bによって位相がシフトされたサブアレイBのプリディストーション信号に順特性LUT203bから出力された順特性を乗算し、サブアレイBの送信信号レプリカを生成する。
加算部205は、サブアレイごとの送信信号レプリカを合成する。そして、加算部205は、送信信号レプリカを合成して得られた合成レプリカを誤差算出部206へ出力する。
誤差算出部206は、合成レプリカとA/D変換部170から出力される合成FB信号との誤差を算出し、算出結果を誤差信号として係数更新部207へ出力する。合成レプリカはサブアレイごとの送信信号レプリカを合成したものであり、合成FB信号はすべてのアンテナ素子からの送信信号を合成したものであるため、順特性LUT203a、203bに記憶された順特性が各アンテナ素子の電力増幅器の順特性を完全に再現していれば、合成レプリカと合成FB信号の誤差は0になる。
係数更新部207は、誤差算出部206から出力される誤差信号に基づいて、順特性LUT203a、203bに記憶された順特性を更新する。具体的には、係数更新部207は、例えば最小平均二乗(LMS:Least Mean Square)アルゴリズムを用いて、誤差信号を最小にする順特性を算出する。そして、係数更新部207は、算出した順特性を順特性LUT203a、203bに記憶させる。上述したように、順特性LUT203a、203bに記憶された順特性が各アンテナ素子の電力増幅器の順特性を完全に再現していれば、合成レプリカと合成FB信号の誤差は0になるため、誤差信号を最小にすることにより、正確な順特性を算出することができる。
次いで、上記のように構成されたRRH100における歪み補償方法について、図4に示すフロー図を参照しながら説明する。
BBU10から送信されたベースバンド信号は、通信I/F部110によって受信され、プロセッサ120へ入力される。そして、サブアレイA及びサブアレイBそれぞれのベースバンド信号は、歪み補償部122a、122bによって歪み補償され、得られたプリディストーション信号がD/A変換部140a、140bへ出力される。
なお、以下においては、サブアレイごとのベースバンド信号をベースバンド信号x1、x2とし、サブアレイごとのプリディストーション信号をプリディストーション信号u1、u2とする。LUT121a、121bから出力される、ベースバンド信号x1、x2の電力i
1、i
2に対応する歪み補償係数をそれぞれLUT
1,inv(i
1)、LUT
2,inv(i
2)とすれば、ベースバンド信号x1、x2とプリディストーション信号u1、u2との関係は下記の式(1)のように表すことができる。
各サブアレイのベースバンド信号x1、x2及びプリディストーション信号u1、u2は、順特性算出部123へも出力され、後述する順特性の算出に用いられる。
サブアレイごとのプリディストーション信号u1、u2は、D/A変換部140a、140bによってD/A変換され、アップコンバートされた後、フェーズシフタ150a、150bによる位相のシフトが施される。これにより、サブアレイごとのビームが形成され、各アンテナ素子の送信信号は、電力増幅器によって増幅されて送信される(ステップS101)。各アンテナ素子の電力増幅器においては非線形歪みが発生するが、歪み補償部122a、122bによってサブアレイごとの歪み補償が実行されているため、サブアレイごとの送信信号が各アンテナ素子から送信されて無線空間で合成されると、合成された信号に含まれる非線形歪み成分は低減される。
各アンテナ素子から送信される送信信号は、合成部160によってフィードバックされ、サブアレイに関わらずにすべてのアンテナ素子の送信信号が合成されることにより、合成FB信号が生成される(ステップS102)。合成FB信号は、ダウンコンバートされ、A/D変換部170によってA/D変換される。このように、すべてのアンテナ素子の送信信号が合成されて合成FB信号が生成され、合成FB信号に対するダウンコンバート及びA/D変換が実行されるため、複数のサブアレイに対して共通のダウンコンバータ及びA/D変換部170が1つずつあれば良い。結果として、フィードバック系のアナログ回路の回路規模増大を抑制することができる。
A/D変換された合成FB信号は、プロセッサ120の順特性算出部123へ出力される。一方、歪み補償部122a、122bから出力されたプリディストーション信号u1、u2には、順特性算出部123の位相シフト部201a、201bによって、フェーズシフタ150a、150bと同様の位相シフトが施される(ステップS103)。そして、位相シフトされたサブアレイごとのプリディストーション信号u1、u2には、乗算部204a、204bによって、ベースバンド信号の電力に対応する順特性が乗算され、サブアレイごとの送信信号レプリカが生成される(ステップS104)。すなわち、サブアレイごとのベースバンド信号x1、x2の電力i
1、i
2に対応する順特性LUT
1(i
1)、LUT
2(i
2)が順特性LUT203a、203bから乗算部204a、204bへ出力され、サブアレイごとのプリディストーション信号u1、u2に乗算される。したがって、サブアレイごとの送信信号レプリカr1、r2は、下記の式(2)によって表される。
ただし、式(2)において、Nはサブアレイに属するアンテナ素子の数、jは虚数単位、φ1,k、φ2,kはサブアレイ内のk番目のアンテナ素子の送信信号の位相シフトを示す。
サブアレイごとの送信信号レプリカr1、r2は、加算部205によって合成され(ステップS105)、得られた合成レプリカy^と合成FB信号yとの誤差信号eが誤差算出部206によって算出される(ステップS106)。すなわち、誤差算出部206によって、下記の式(3)の演算が実行される。
誤差信号eは、係数更新部207へ出力され、係数更新部207によって誤差信号eを小さくする順特性LUT
1(i
1)、LUT
2(i
2)が算出される(ステップS107)。具体的には、例えばLMSアルゴリズムが用いられて、下記の式(4)により順特性LUT
1(i
1)、LUT
2(i
2)が算出される。
ただし、式(4)において、μ1、μ2はLMSアルゴリズムのステップサイズパラメータを示し、u1*、u2*はそれぞれu1、u2の複素共役を示す。順特性LUT1(i1)、LUT2(i2)の算出は、上式(4)のようにサブアレイごとに独立して実行される。これは、通常、サブアレイA及びサブアレイBの送信信号x1、x2の相互相関が低く、送信信号x1、x2が互いに直交すると見なすことができるためである。
このようにして誤差信号eを小さくする順特性LUT1(i1)、LUT2(i2)が算出されると、これらの順特性LUT1(i1)、LUT2(i2)がそれぞれ順特性LUT203a、203bに記憶される。これにより、順特性LUT203a、203bの更新が実行される。順特性LUT203a、203bの更新は、各アンテナ素子から信号が送信される間に繰り返して実行され、順特性LUT203a、203bに記憶された順特性が定期的に逆数算出部124a、124bへ出力される。
そして、逆数算出部124a、124bによって、順特性の逆数が算出され(ステップS108)、算出された逆数が歪み補償係数としてLUT121a、121bに記憶される。すなわち、歪み補償係数LUT
1,inv(i
1)、LUT
2,inv(i
2)が下記の式(5)によって更新される。
そして、以降の送信信号x1、x2は、更新された歪み補償係数を用いて歪み補償される(ステップS109)。したがって、電力増幅器の順特性との誤差が小さい順特性の逆数が歪み補償係数として用いられるため、正確な歪み補償処理が可能となる。
以上のように、本実施の形態によれば、サブアレイごとに一括して歪み補償処理を施す場合に、サブアレイに関わらずすべてのアンテナ素子の送信信号を合成して合成FB信号を生成し、合成FB信号をフィードバックしてサブアレイごとの電力増幅器の順特性を推定する。そして、推定された順特性の逆数を算出し、算出された逆数をサブアレイごとの歪み補償係数として用いる。このため、歪み補償係数の更新のためのフィードバック系において、合成FB信号に対する1組のアナログ回路を設ければ良いため、フィードバック系の回路規模の増大を抑制することができる。
(実施の形態2)
実施の形態2の特徴は、サブアレイごとのビームの方向に応じて、順特性を更新する際の変動幅を変更する点である。
上記実施の形態1においては、各アンテナ素子の電力増幅器から出力された送信信号を単純に合成するため、合成FB信号は、各サブアレイから0度方向へ放射される信号を合成したものと等価である。なお、放射方向の角度は、図5に示すように、アンテナ素子の配列方向に対して垂直な方向を基準とする。このとき、サブアレイごとにビーム方向が異なるため、ビーム方向によって0度方向のパワーが異なり、サブアレイ間で合成FB信号に含まれる信号のレベル(電力又は振幅)が異なる。
このため、合成FB信号に含まれるレベルが小さい信号については、誤差信号に占める誤差の割合が相対的に小さくなり、係数更新部207による順特性の更新時に収束性が悪くなることがある。そこで、実施の形態2においては、サブアレイごとのビーム方向が異なる場合でも、収束性を改善する方法について説明する。なお、実施の形態2に係る通信システムの構成は実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。
まず、0度方向とビーム方向の振幅比について説明する。図5に示すサブアレイにおいて、アンテナ素子間隔をλ/2(λは波長を表す)、ビーム方向をθ0とする。各フェーズシフタの位相φnは下記の式(6)で表される。
φn=-π・n・sinθ0 ・・・(6)
また、各アンテナ素子の電力増幅器を線形かつゲイン0dBで近似すると、0度方向のアレイファクタv(0)は下記の式(7)で表され、電力増幅器から出力された送信信号の単純な合成となることがわかる。
一方、ビーム方向θ
0のアレイファクタv(θ
0)は下記の式(8)で表される。
以上より、0度方向とビーム方向θ
0の振幅比Rは、下記の式(9)によって算出することができる。
実施の形態2においては、上記のように算出される振幅比Rを用いて、サブアレイごとに順特性を更新する際の変動幅を変更する。具体的には、例えば図2に示したRRH100の構成において、順特性算出部123を図6のようにしても良い。図6は、順特性算出部123の構成を示すブロック図である。図6において、図3と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。
振幅比算出部251は、サブアレイごとのビーム方向に関するビーム方向情報を取得し、取得したビーム方向に基づいて上式(9)の振幅比Rを算出する。
係数更新部252は、誤差算出部206から出力される誤差信号に基づいて、順特性LUT203a、203bに記憶された順特性を更新する。具体的には、係数更新部252は、LMSアルゴリズムを用いて、誤差信号を最小にする順特性を算出する。このとき、係数更新部252は、振幅比Rに基づいて、LMSアルゴリズムのステップサイズパラメータを調整する。また、係数更新部252は、振幅比Rが0となるサブアレイに関しては、順特性の更新を実行しなくても良い。
このように、LMSアルゴリズムのステップサイズパラメータを振幅比Rに応じて調整することにより、サブアレイのビーム方向に応じて順特性を更新する際の変動幅が適切に増減され、収束性を改善することができる。
また、LMSアルゴリズムのステップサイズパラメータを調整する代わりに、フィードバック信号のゲインを調整することも可能である。図7は、実施の形態2に係るRRH100の構成を示すブロック図である。図7において、図2と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。
合成部260a、260bは、サブアレイごとの電力増幅器によって増幅された信号を合成する。具体的には、合成部260aは、サブアレイAに属するアンテナ素子の電力増幅器から出力された信号を合成し、合成部260bは、サブアレイBに属するアンテナ素子の電力増幅器から出力された信号を合成する。
ゲイン調整部270a、270bは、上式(9)の振幅比Rに基づいて、サブアレイごとの合成信号のゲインを調整する。
合成部280は、ゲイン調整部270a、270bによってゲインが調整されたサブアレイごとの合成信号を合成し、合成FB信号を生成する。
このように、サブアレイごとの合成信号のゲインを振幅比Rに応じて調整することにより、サブアレイ間で合成FB信号に含まれる信号のレベル(電力又は振幅)が等しくなり、収束性を改善することができる。また、サブアレイごとの合成信号をさらに合成して合成FB信号を生成するため、サブアレイの数が複数であってもダウンコンバータ及びA/D変換部170は1つずつで済み、フィードバック系の回路規模は最小限に抑制される。
以上のように、本実施の形態によれば、サブアレイごとにビーム方向と0度方向の振幅比を算出し、振幅比に基づいて順特性を更新する際の変動幅を調整する。このため、各サブアレイのビーム方向が異なっていても、各サブアレイに関する順特性の更新が適切に実行され、収束性を改善することができる。
(実施の形態3)
実施の形態3の特徴は、電力増幅器から出力される信号にフェーズシフタによる位相シフトの逆位相を付与する点である。
実施の形態3に係る通信システムの構成は実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。
図8は、実施の形態3に係るRRH100の構成を示すブロック図である。図8において、図2と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図8に示すRRH100は、図2に示すRRH100の順特性算出部123及び合成部160を順特性算出部301及び合成部320に代え、逆位相付与部310a、310bを追加した構成を採る。
順特性算出部301は、電力増幅器によって信号が増幅される際に発生する非線形歪みと同等の順特性をサブアレイごとに算出する。すなわち、順特性算出部301は、個々の電力増幅器において発生する非線形歪みがサブアレイごとに合成されて得られる歪みと同等の順特性を算出する。このとき、順特性算出部301は、サブアレイごとのプリディストーション信号に順特性の歪みを乗算してサブアレイごとの送信信号レプリカを生成した後、各サブアレイの送信信号レプリカを合成し、合成レプリカを生成する。そして、順特性算出部301は、すべてのサブアレイに属するアンテナ素子からのフィードバック信号を合成して得られる合成FB信号と合成レプリカとの誤差が小さくなるようにプリディストーション信号に乗算される順特性を更新する。順特性算出部301は、更新される順特性を定期的に逆数算出部124a、124bへ出力する。なお、順特性算出部301の具体的な構成については、後に詳述する。
逆位相付与部310a、310bは、各アンテナ素子の電力増幅器から出力される信号に対して、対応するフェーズシフタ150a、150bにおける位相シフトの逆位相を付与する。すなわち、逆位相付与部310a、310bは、それぞれの電力増幅器から出力される信号の位相を、フェーズシフタ150a、150bへ入力される前の信号の位相に戻す。
合成部320は、逆位相付与部310a、310bによって逆位相が付与された各アンテナ素子からのフィードバック信号を合成し、合成FB信号を生成する。すなわち、合成部320は、フィードバック信号の位相がもとに戻された後、サブアレイとは無関係にすべてのアンテナ素子からのフィードバック信号を合成することにより、合成FB信号を生成する。
図9は、順特性算出部301の構成を示すブロック図である。図9において、図3と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図9に示す順特性算出部301は、図3に示す順特性算出部123の位相シフト部201a、201bを削除し、乗算部204a、204bを乗算部311a、311bに代えた構成を採る。
乗算部311a、311bは、それぞれのサブアレイのプリディストーション信号に順特性を乗算して、サブアレイごとの送信信号レプリカを生成する。具体的には、乗算部311aは、サブアレイAのプリディストーション信号に順特性LUT203aから出力された順特性を乗算し、サブアレイAの送信信号レプリカを生成する。また、乗算部311bは、サブアレイBのプリディストーション信号に順特性LUT203bから出力された順特性を乗算し、サブアレイBの送信信号レプリカを生成する。
実施の形態3においては、逆位相付与部310a、310bによって、フィードバック信号の位相がフェーズシフタ150a、150bによる位相シフト前の位相に戻っている。このため、順特性算出部301は、位相のシフトがない合成レプリカと合成FB信号の誤差を算出し、順特性を算出する。
次いで、上記のように構成されたRRH100における歪み補償方法について、図10に示すフロー図を参照しながら説明する。図10において、図4と同じ部分には同じ符号を付し、その詳しい説明を省略する。
BBU10から送信されたベースバンド信号は、通信I/F部110によって受信され、プロセッサ120へ入力される。そして、サブアレイA及びサブアレイBそれぞれのベースバンド信号は、歪み補償部122a、122bによって歪み補償され、得られたプリディストーション信号がD/A変換部140a、140bへ出力される。各サブアレイのベースバンド信号及びプリディストーション信号は、順特性算出部301へも出力され、後述する順特性の算出に用いられる。
サブアレイごとのプリディストーション信号は、D/A変換部140a、140bによってD/A変換され、アップコンバートされた後、フェーズシフタ150a、150bによる位相のシフトが施される。これにより、サブアレイごとのビームが形成され、各アンテナ素子の送信信号は、電力増幅器によって増幅されて送信される(ステップS101)。各アンテナ素子の電力増幅器においては非線形歪みが発生するが、歪み補償部122a、122bによってサブアレイごとの歪み補償が実行されているため、サブアレイごとの送信信号が各アンテナ素子から送信されて無線空間で合成されると、合成された信号に含まれる非線形歪み成分は低減される。
各アンテナ素子から送信される送信信号は、逆位相付与部310a、310bへフィードバックされ、これらのフィードバック信号にフェーズシフタ150a、150bにおける位相シフトの逆位相が付与される(ステップS201)。すなわち、アンテナ素子ごとに、対応するフェーズシフタ150a、150bにおける位相シフトの逆位相が逆位相付与部310a、310bによって付与される。これにより、フィードバック信号の位相は、フェーズシフタ150a、150bにおける位相シフトの前の位相に戻る。
フィードバック信号に逆位相が付与されると、合成部320によって、サブアレイに関わらずにすべてのアンテナ素子からのフィードバック信号が合成されることにより、合成FB信号が生成される(ステップS202)。合成FB信号は、ダウンコンバートされ、A/D変換部170によってA/D変換される。このように、すべてのアンテナ素子のフィードバック信号が合成されて合成FB信号が生成され、合成FB信号に対するダウンコンバート及びA/D変換が実行されるため、複数のサブアレイに対して共通のダウンコンバータ及びA/D変換部170が1つずつあれば良い。結果として、フィードバック系のアナログ回路の回路規模増大を抑制することができる。
A/D変換された合成FB信号は、プロセッサ120の順特性算出部301へ出力される。一方、歪み補償部122a、122bから出力されたプリディストーション信号には、乗算部311a、311bによって、ベースバンド信号の電力に対応する順特性が乗算され、サブアレイごとの送信信号レプリカが生成される(ステップS104)。サブアレイごとの送信信号レプリカは、加算部205によって合成され(ステップS105)、得られた合成レプリカと合成FB信号との誤差信号が誤差算出部206によって算出される(ステップS106)。誤差信号は、係数更新部207へ出力され、係数更新部207によって例えばLMSアルゴリズムが用いられることにより、誤差信号を小さくする順特性が算出される(ステップS107)。
誤差信号を小さくする順特性が算出されると、これらの順特性がそれぞれ順特性LUT203a、203bに記憶される。これにより、順特性LUT203a、203bの更新が実行される。順特性LUT203a、203bの更新は、各アンテナ素子から信号が送信される間に繰り返して実行され、順特性LUT203a、203bに記憶された順特性が定期的に逆数算出部124a、124bへ出力される。
そして、逆数算出部124a、124bによって、順特性の逆数が算出され(ステップS108)、算出された逆数が歪み補償係数としてLUT121a、121bに記憶される。そして、以降の送信信号は、更新された歪み補償係数を用いて歪み補償される(ステップS109)。したがって、電力増幅器の順特性との誤差が小さい順特性の逆数が歪み補償係数として用いられるため、正確な歪み補償処理が可能となる。
以上のように、本実施の形態によれば、サブアレイごとに一括して歪み補償処理を施す場合に、各アンテナ素子の信号に位相シフトの逆位相を付与した後、サブアレイに関わらずすべてのアンテナ素子の送信信号を合成して合成FB信号を生成し、合成FB信号をフィードバックしてサブアレイごとの電力増幅器の順特性を推定する。そして、推定された順特性の逆数を算出し、算出された逆数をサブアレイごとの歪み補償係数として用いる。このため、歪み補償係数の更新のためのフィードバック系において、合成FB信号に対する1組のアナログ回路を設ければ良いため、フィードバック系の回路規模の増大を抑制することができる。
(実施の形態4)
実施の形態4の特徴は、電力増幅器において発生する瞬時の非線形歪みのみではなく、メモリ効果による歪みも補償する点である。
実施の形態4に係る通信システムの構成は実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。また、実施の形態4に係るRRHの構成は、実施の形態1と同様であるが、プロセッサ120の構成が実施の形態1とは異なる。
図11は、実施の形態4に係るプロセッサ120の構成を示すブロック図である。図11において、図2と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図11に示すプロセッサ120は、図2に示すプロセッサ120にメモリ効果逆特性付与部401a、401b及びメモリ効果逆特性算出部403a、403bを追加し、順特性算出部123を順特性算出部402に代えた構成を採る。
メモリ効果逆特性付与部401a、401bは、サブアレイA及びサブアレイBに対応して設けられ、それぞれのサブアレイのプリディストーション信号に、電力増幅器のメモリ効果に起因する歪みの逆特性を付与する。具体的には、メモリ効果逆特性付与部401a、401bは、アンテナ素子に設けられた個々の電力増幅器のメモリ効果に起因する歪みがサブアレイごとに合成されて得られる歪みの逆特性を、サブアレイごとのプリディストーション信号に付与する。なお、ここでは、メモリ効果に起因する歪みの後に非線形歪みが発生する電力増幅器のモデル(Wienerモデル)を前提としているため、図11においては、歪み補償部122a、122bの後段にメモリ効果逆特性付与部401a、401bが配置される。
順特性算出部402は、電力増幅器によって信号が増幅される際に発生する非線形歪みと同等の順特性をサブアレイごとに算出する。すなわち、順特性算出部402は、個々の電力増幅器において発生する非線形歪みがサブアレイごとに合成されて得られる歪みと同等の順特性を算出する。また、順特性算出部402は、電力増幅器によって信号が増幅される際にメモリ効果に起因して発生する歪みをサブアレイごとに推定する。すなわち、順特性算出部402は、個々の電力増幅器のメモリ効果がサブアレイごとに合成されて得られる歪みを推定する。
このとき、順特性算出部402は、サブアレイごとのプリディストーション信号にメモリ効果に起因する歪み及び順特性の歪みを付与してサブアレイごとの送信信号レプリカを生成した後、各サブアレイの送信信号レプリカを合成し、合成レプリカを生成する。そして、順特性算出部402は、すべてのサブアレイに属するアンテナ素子からのフィードバック信号を合成して得られる合成FB信号と合成レプリカとの誤差が小さくなるようにプリディストーション信号に付与されるメモリ効果及び順特性を更新する。順特性算出部402は、更新されるメモリ効果を定期的にメモリ効果逆特性算出部403a、403bへ出力するとともに、更新される順特性を定期的に逆数算出部124a、124bへ出力する。
メモリ効果逆特性算出部403a、403bは、定期的に順特性算出部402から出力されるサブアレイごとのメモリ効果を取得し、取得したメモリ効果を逆特性に変換することにより、プリディストーション信号に付与される逆特性を算出する。そして、メモリ効果逆特性算出部403a、403bは、算出したメモリ効果の逆特性をメモリ効果逆特性付与部401a、401bへ出力する。
図12は、順特性算出部402の構成を示すブロック図である。図12において、図3と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図12に示す順特性算出部402は、図3に示す順特性算出部123にメモリ効果付与部451a、451b及びメモリ効果更新部452を追加した構成を採る。
メモリ効果付与部451a、451bは、それぞれのサブアレイのプリディストーション信号にサブアレイごとの電力増幅器のメモリ効果に起因して発生する歪みを付与する。具体的には、メモリ効果付与部451aは、位相シフト部201aによって位相がシフトされたサブアレイAのプリディストーション信号に、サブアレイAにおけるメモリ効果を付与し、メモリ効果付与部451bは、位相シフト部201bによって位相がシフトされたサブアレイBのプリディストーション信号に、サブアレイBにおけるメモリ効果を付与する。また、メモリ効果付与部451a、451bは、プリディストーション信号に付与するメモリ効果を定期的にメモリ効果逆特性算出部403a、403bへ出力する。
メモリ効果更新部452は、誤差算出部206から出力される誤差信号に基づいて、メモリ効果付与部451a、451bがプリディストーション信号に付与するメモリ効果を更新する。具体的には、メモリ効果更新部452は、例えばLMSアルゴリズムを用いて、誤差信号を最小にするサブアレイごとのメモリ効果を算出する。そして、メモリ効果更新部452は、算出したメモリ効果をメモリ効果付与部451a、451bへ出力する。
実施の形態4においては、電力増幅器の瞬時の非線形歪みのみではなく、メモリ効果に起因する歪みを推定し、メモリ効果の逆特性をあらかじめ送信信号に付与することにより、電力増幅器のメモリ効果に起因する歪みも補償する。メモリ効果の逆特性は、順特性算出部402において順方向でのメモリ効果が推定された後、このメモリ効果がメモリ効果逆特性付与部401a、401bによって逆特性に変換されることにより得られる。
ところで、電力増幅器のメモリ効果に関しては、図13に示すように3つのモデル、すなわち(a)Wienerモデル、(b)Hammersteinモデル及び(c)Wiener-Hammersteinモデル、がある。Wienerモデルは、メモリ効果に起因する歪みの後に非線形歪みが発生するモデルであり、Hammersteinモデルは、非線形歪みの後にメモリ効果に起因する歪みが発生するモデルであり、Wiener-Hammersteinモデルは、WienerモデルとHammersteinモデルを組み合わせたモデルである。
上記の説明では電力増幅器のモデルとしてWienerモデルを前提としているため、図11においては、歪み補償部122a、122bの後段にメモリ効果逆特性付与部401a、401bが配置され、図12においては、メモリ効果付与部451a、451bの後段に乗算部204a、204bが配置される。つまり、順特性算出部402では、電力増幅器のモデルと同じ順序で、メモリ効果を付与するメモリ効果付与部451a、451bと非線形歪みを付与する乗算部204a、204bとが配置される。また、歪みを補償するために逆特性を付与する際には、電力増幅器のモデルの逆の順序で、非線形歪みの逆特性を付与する歪み補償部122a、122bとメモリ効果の逆特性を付与するメモリ効果逆特性付与部401a、401bとが配置される。
したがって、電力増幅器のモデルとしてHammersteinモデルを前提とする場合には、歪み補償部122a、122bとメモリ効果逆特性付与部401a、401bの位置関係及びメモリ効果付与部451a、451bと乗算部204a、204bの位置関係は前後が逆になる。また、電力増幅器のモデルとしてWiener-Hammersteinモデルを前提とする場合には、メモリ効果逆特性付与部及びメモリ効果付与部が追加される。そして、メモリ効果及び非線形歪みに対応する各処理部は、逆特性が付与されるプロセッサ120においてはモデルの逆方向に並び、順特性を推定する順特性算出部402においてはモデルと同様に順方向に並ぶ。
以上のように、本実施の形態によれば、電力増幅器において発生する瞬時の非線形歪みのみではなく、メモリ効果に起因して発生する歪みを推定し、メモリ効果の逆特性をあらかじめ送信信号に付与する。このため、メモリ効果の影響を受ける電力増幅器が用いられる場合でも、精度良く送信信号の歪み補償をすることができる。
(実施の形態5)
実施の形態5の特徴は、MIMO(Multi Input Multi Output)を実施するRRHにおいて、フィードバック系の回路規模の増大を抑制する点である。
実施の形態5に係る通信システムの構成は実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。ただし、実施の形態5においては、RRH100は、ビームフォーミングを行うのではなく、複数のアンテナ素子から異なる送信信号を同一周波数で同時に送信するMIMOを実施する。このようなRRH100も複数のアンテナ素子を備えるマルチアンテナ通信装置である。
図14は、実施の形態5に係るRRH100の構成を示すブロック図である。図14において、図2と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図14に示すRRH100は、図2に示すRRH100からフェーズシフタ150a、150bを削除し、順特性算出部123及び合成部160を順特性算出部501及び合成部510に代えた構成を採る。
順特性算出部501は、電力増幅器によって信号が増幅される際に発生する非線形歪みと同等の順特性をアンテナ素子ごとに算出する。このとき、順特性算出部501は、アンテナ素子ごとのプリディストーション信号に順特性の歪みを乗算してアンテナ素子ごとの送信信号レプリカを生成した後、各アンテナ素子の送信信号レプリカを合成し、合成レプリカを生成する。そして、順特性算出部501は、すべてのアンテナ素子からのフィードバック信号を合成して得られる合成FB信号と合成レプリカとの誤差が小さくなるようにプリディストーション信号に乗算される順特性を更新する。順特性算出部501は、更新される順特性を定期的に逆数算出部124a、124bへ出力する。
このような順特性算出部501の構成は、例えば図9に示した順特性算出部301と同様である。順特性算出部301にはサブアレイごとのベースバンド信号及びプリディストーション信号が入力されるのに対し、順特性算出部501にはアンテナ素子ごとのベースバンド信号及びプリディストーション信号が入力される。
合成部510は、各アンテナ素子の電力増幅器によって増幅された信号を合成してプロセッサ120へフィードバックする。具体的には、合成部510は、すべてのアンテナ素子の電力増幅器から出力された信号をフィードバックさせ、これらのフィードバック信号を合成して合成FBを生成する。合成FB信号は、ダウンコンバータによってダウンコンバートされ、ベースバンド周波数の合成FB信号となる。
実施の形態5においては、ビームフォーミングが行われることがないものの、MIMOが実施されるため、RRH100は複数のアンテナ素子を備える。そして、複数のアンテナ素子それぞれの送信信号について、歪み補償部122a、122bによる歪み補償が実行される。このため、歪み補償係数を更新するためのフィードバック系の回路が設けられる。
このとき、アンテナ素子ごとの電力増幅器からA/D変換部170までのフィードバック経路においては、合成部510がすべてのアンテナ素子のフィードバック信号を合成し、以後は合成FB信号がフィードバックされる。このため、アンテナ素子の本数に関わらずダウンコンバータ及びA/D変換部170は1つずつで済み、フィードバック系の回路規模は最小限に抑制される。
以上のように、本実施の形態によれば、複数のアンテナ素子によるMIMOが実施される場合に、すべてのアンテナ素子の送信信号を合成して合成FB信号を生成し、合成FB信号をフィードバックしてアンテナ素子ごとの電力増幅器の順特性を推定する。そして、推定された順特性の逆数を算出し、算出された逆数をアンテナ素子ごとの歪み補償係数として用いる。このため、歪み補償係数の更新のためのフィードバック系において、合成FB信号に対する1組のアナログ回路を設ければ良いため、フィードバック系の回路規模の増大を抑制することができる。
(実施の形態6)
実施の形態6の特徴は、LUTに記憶された歪み補償係数を用いるLUT型の歪み補償ではなく、級数を用いる級数型の歪み補償を実行する点である。
実施の形態6に係る通信システムの構成は実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。
図15は、実施の形態6に係るRRH100の構成を示すブロック図である。図15において、図2と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図15に示すRRH100は、図2に示すRRH100のLUT121a、121b、歪み補償部122a、122b、順特性算出部123及び逆数算出部124a、124bに代えて、級数型歪み補償部601a、601b、順特性算出部602及び逆関数算出部603a、603bを有する。
級数型歪み補償部601a、601bは、サブアレイA及びサブアレイBに対応して設けられ、それぞれのサブアレイのベースバンド信号を歪み補償してプリディストーション信号を生成する。具体的には、級数型歪み補償部601aは、サブアレイAのベースバンド信号に対して多項式を用いた演算を実行し、サブアレイAのプリディストーション信号を生成する。また、級数型歪み補償部601bは、サブアレイBのベースバンド信号に対して多項式を用いた演算を実行し、サブアレイBのプリディストーション信号を生成する。級数型歪み補償部601a、601bが用いる多項式は、サブアレイごとの電力増幅器において発生する非線形歪みの逆特性をベースバンド信号に付与する級数である。級数型歪み補償部601a、601bは、プリディストーション信号をそれぞれ対応するD/A変換部140a、140bへ出力するとともに、順特性算出部602へ出力する。
順特性算出部602は、電力増幅器によって信号が増幅される際に発生する非線形歪みと同等の順特性をサブアレイごとに算出する。すなわち、順特性算出部602は、個々の電力増幅器において発生する非線形歪みがサブアレイごとに合成されて得られる歪みと同等の順特性を算出する。このとき、順特性算出部602は、サブアレイごとのプリディストーション信号に級数を用いて順特性を付与し、サブアレイごとの送信信号レプリカを生成した後、各サブアレイの送信信号レプリカを合成し、合成レプリカを生成する。そして、順特性算出部602は、すべてのサブアレイに属するアンテナ素子からのフィードバック信号を合成して得られる合成FB信号と合成レプリカとの誤差が小さくなるように級数を更新する。順特性算出部602は、更新される級数を定期的に逆関数算出部603a、603bへ出力する。なお、順特性算出部602の具体的な構成については、後に詳述する。
逆関数算出部603a、603bは、順特性算出部602から定期的に出力されるサブアレイごとの級数の逆関数を算出する。そして、逆関数算出部603a、603bは、算出した逆関数をそれぞれのサブアレイの歪み補償に用いられる多項式として、級数型歪み補償部601a、601bへ出力する。
図16は、順特性算出部602の構成を示すブロック図である。図16において、図3と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図16に示す順特性算出部602は、図3に示す順特性算出部123の順特性LUT203a、203b、乗算部204a、204b及び係数更新部207に代えて、順特性付与部651a、651b及び級数更新部652を有する。
順特性付与部651a、651bは、それぞれのサブアレイのプリディストーション信号に対して多項式を用いた演算を実行して、サブアレイごとの送信信号レプリカを生成する。具体的には、順特性付与部651aは、位相シフト部201aによって位相がシフトされたサブアレイAのプリディストーション信号に、サブアレイAに属する電力増幅器の歪み特性に対応する級数を用いて順特性を付与し、サブアレイAの送信信号レプリカを生成する。また、順特性付与部651bは、位相シフト部201bによって位相がシフトされたサブアレイBのプリディストーション信号に、サブアレイBに属する電力増幅器の歪み特性に対応する級数を用いて順特性を付与し、サブアレイBの送信信号レプリカを生成する。
級数更新部652は、誤差算出部206から出力される誤差信号に基づいて、順特性付与部651a、651bが用いる級数を更新する。具体的には、級数更新部652は、例えばLMSアルゴリズムを用いて、誤差信号を最小にする級数の係数を算出する。そして、級数更新部652は、係数が更新された級数を順特性付与部651a、651bへ出力する。順特性付与部651a、651bが順特性の付与に用いる級数が各アンテナ素子の電力増幅器の歪み特性を完全に再現していれば、合成レプリカと合成FB信号の誤差は0になるため、誤差信号を最小にすることにより、順特性付与部651a、651bが用いる級数の精度を高めることができる。
実施の形態6においては、LUTから読み出される歪み補償係数によるLUT型歪み補償ではなく、級数を用いた演算による級数型歪み補償が実行される。級数型歪み補償では、級数を用いた演算により歪み補償が実行されるため、順特性算出部602は、電力増幅器の歪み特性に対応する級数をサブアレイごとに推定し、級数型歪み補償部601a、601bは、順特性算出部602が推定した級数の逆関数を歪み補償のための級数として用いる。このように級数型歪み補償が実行される場合も、合成部160がすべてのアンテナ素子の送信信号を合成して合成FB信号を生成し、合成FB信号に対するダウンコンバート及びA/D変換が実行されるため、複数のサブアレイに対して共通のダウンコンバータ及びA/D変換部170が1つずつあれば良い。結果として、フィードバック系のアナログ回路の回路規模増大を抑制することができる。
以上のように、本実施の形態によれば、サブアレイごとに一括して級数を用いた歪み補償処理を施す場合に、サブアレイに関わらずすべてのアンテナ素子の送信信号を合成して合成FB信号を生成し、合成FB信号をフィードバックしてサブアレイごとの電力増幅器の歪み特性に対応する級数を推定する。そして、推定された級数の逆関数を算出し、算出された逆関数をサブアレイごとの歪み補償のための級数として用いる。このため、級数の更新のためのフィードバック系において、合成FB信号に対する1組のアナログ回路を設ければ良いため、フィードバック系の回路規模の増大を抑制することができる。
なお、上記各実施の形態においては、順特性及び級数の係数の算出がサブアレイごと又はアンテナ素子ごとに独立して実行されるものとした。これは、サブアレイごと又はアンテナ素子ごとの送信信号の相互相関が低く、複数の送信信号が互いに直交すると見なすことができるためである。しかし、一般に送信信号のヘッダ部分では、サブアレイ間又はアンテナ素子間で相互相関が高くなることがある。そこで、例えば図17に示すように、送信信号x1、x2のヘッダ部分においては、順特性又は級数の係数の更新を停止し、送信信号x1、x2のデータ部分において、順特性又は級数の係数の更新が実行されるようにしても良い。こうすることにより、より相互相関が低いデータ部分を用いて順特性又は級数の係数の更新が実行されるため、収束性が向上する。
また、上記各実施の形態は、適宜組み合わせて実施することができる。すなわち、例えば実施の形態2と実施の形態4を組み合わせて、メモリ効果に起因する歪みを補償する場合に、振幅比に基づいて更新の変動幅を変更しても良い。実施の形態を組み合わせる際には、3以上の実施の形態を組み合わせることも可能である。例えば、実施の形態4~6を組み合わせて、MIMOが実施される場合に、アンテナ素子ごとに級数型歪み補償を実行するとともに、メモリ効果に起因する歪みを補償しても良い。このような場合でも、級数の係数を更新するためのフィードバック系において、複数のアンテナ素子からのフィードバック信号を合成した合成FB信号がフィードバックされるため、アナログ回路が最小限で済み、回路規模の増大を抑制することができる。